説明

ハニカム構造体の製造方法

【課題】生産効率を向上させることが可能なハニカム構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミック原料を含有する成形原料を成形してハニカム成形体を作製し、これを乾燥させてハニカム乾燥体を作製し、ハニカム乾燥体の所定のセルに、セラミック原料を含有する下流層形成用スラリーを充填し、その後、下流層形成用スラリーを排出することにより、所定のセルの内壁面に下流層形成用スラリーを塗膜し、その後、乾燥させて、所定のセルの内壁面に下流層形成用膜が配設された塗膜ハニカム乾燥体を作製し、塗膜ハニカム乾燥体の、所定のセルの一方の開口端部と、残余のセルの他方の開口端部とに目封止部を形成し、その後、目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体を焼成して、所定のセルの内壁面に平均細孔径が隔壁の平均細孔径より小さい多孔質の下流層が配設されるとともに、目封止部が形成されたハニカム構造体を作製するハニカム構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体の製造方法に関し、更に詳しくは、生産効率を向上させることが可能なハニカム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関、又は各種燃焼装置(以下、「内燃機関等」ということがある)から排出される排ガスにはスート(黒鉛)を主体とする粒子状物質が多量に含まれている。この粒子状物質がそのまま大気中に放出されると環境汚染を引き起こすため、内燃機関等からの排ガス流路には、粒子状物質を捕集するためのフィルタが搭載されることがある。
【0003】
このような目的で使用されるフィルタとしては、例えば、図12に示されるように、流体の流路なるセル101を区画形成するセラミックス製の多孔質の隔壁102を有し、一方の端部Xが開口され且つ他方の端部Yが目封止部103により目封止された所定のセル(流入セル)101aと、一方の端部Xが目封止部103により目封止され他方の端部Yが開口された残余のセル(流出セル)101bと、が交互に配設されてなるハニカム構造体(ハニカムフィルタ)110が挙げられる。このようなハニカムフィルタでは、所定のセル101aの開口端部から流入した粒子状物質を含有する排ガス(排ガスG)を、隔壁102により効果的に浄化(粒子状物質を除去)して、残余のセル101bの開口端部から粒子状物質が除去された排ガス(浄化ガス)Gとして排出させる(流出させる)ことが可能である。図12は、従来のハニカム構造体の、中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【0004】
さらに、近年においては、粒子状物質の酸化(燃焼)を促進するための酸化触媒を備えたハニカムフィルタが使用されている(以下、「触媒担持フィルタ」ということがある)。このような触媒担持フィルタでは、隔壁によって捕集された排ガス中の粒子状物質の酸化(燃焼)が促進されることによって、ハニカムフィルタの浄化性能の低下を抑制しながら排ガス中の粒子状物質を効率的に捕集し続けることが可能となる。
【0005】
触媒担持フィルタは、隔壁に担持された触媒によって、捕集された粒子状物質を酸化除去するものであるが、隔壁の細孔内に触媒を担持して効率的に粒子状物質の捕集及び酸化除去を行うため、隔壁の細孔の、流入セル側の平均開口径を、流出セル側の平均開口径よりも大きくした排気浄化装置が提案されている(特許文献1参照)。このような排気浄化装置によれば、隔壁の細孔の流入セル側の平均開口径が大きいため、排ガス中に含まれる粒子状物質が、隔壁の流入セル側の表面のみならず、隔壁の細孔の内部まで容易に侵入することができ、更に、隔壁の細孔の流出セル側の平均開口径が小さいため、粒子状物質が流出セル側に漏洩することがないとされている。そして、これにより、排ガス中に含まれる粒子状物質を効率よく捕集できるとともに、粒子状物質と隔壁の細孔内に担持された酸化触媒との接触度合いが向上し、粒子状物質の酸化(燃焼)を十分に促進することができるとされている。
【0006】
上記の排気浄化装置では、隔壁の細孔が、隔壁の厚み方向の中央から隔壁の両表面に向かって細孔径が徐々に小さくなる樽型空間となっていることを前提とし、その隔壁の一方の表面を表面改質剤によって所定の深さだけ除去することにより、排ガス流入セルに面する隔壁の細孔の平均開口径が、排ガス(浄化ガス)流出セルに面する隔壁の細孔の平均開口径よりも大きくなるようにしている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されるように、例えば、多孔質セラミックからなる隔壁の細孔は、焼結によって相互に結合した骨材粒子間の空隙によって形成されるものであるため、流出セル側の平均開口径が小さいとはいえ、粒子状物質の捕集が不十分であり、特に捕集開始直後に多くの粒子上物質が流出セル側から漏洩するという問題があった。
【0008】
これに対し、フィルタ体(隔壁)のガス出口側表面に、フィルタ体より細孔径の小さな膜(出口側の膜)を配設し、フィルタ体のガス入口側表面から細孔内に流入した粒子状物質(スート)を、出口側の膜により塞き止めることによりフィルタ体の細孔内に堆積させ、スートと触媒との接触率を上げることでスートの燃焼速度を向上させようとするフィルタ装置が提案されている(特許文献2参照)。このフィルタ装置によれば、隔壁の細孔全体に粒子状物質を堆積させるだけでなく、隔壁の下流部(ガス出口側)で確実に粒子状物質の捕集ができるため、粒子上物質が流出セル側から漏洩するという問題は解消することが可能と考えられる。
【特許文献1】特開2002−309921号公報
【特許文献2】特表2002−519186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2では、出口側の膜は、フィルタ体を形成する成形体を焼結させた後に、膜形成スラリーをフィルタ体のガス出口側表面に塗布して、1100〜1500℃の熱処理を行い、再度焼結することにより形成している。すなわち、出口側の膜を形成するときの熱処理は、フィルタ体を得るための熱処理(焼結)とは別に行っている。このように、フィルタ体の焼結と、出口側の膜の形成との、2度の熱処理を必要とするため、その生産効率が低下するという問題があった。また、出口側の膜の原料には、アルミナ繊維やアルミナ/SiCからなる粒状物質が用いられているのに対し、フィルタ体の原料には、SiC、Si、SiONC、アルミナ、コーディライト、ムライト、スポージュメン、ナシコン構造族の一員のようなセラミック粉末が用いられている。そのため、このようなフィルタ装置では、スートを堆積させる部分であるのフィルタ体と、フィルタ体の下流に存在する出口側の膜との構成材料が異なるため、堆積したスートを燃焼させる際に熱膨張のミスマッチを引き起こし、出口側の膜が破損し、その後の捕集性能が著しく低下するという問題があった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、隔壁と、隔壁の表面に配設された下流層とを同時に焼成することにより、生産効率を向上させることが可能なハニカム構造体の製造方法を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によって以下のハニカム構造体の製造方法が提供される。
【0012】
[1] セラミック原料を含有する成形原料を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたハニカム成形体を作製し、前記ハニカム成形体を乾燥させてハニカム乾燥体を作製し、前記ハニカム乾燥体の所定の前記セルに、セラミック原料を含有する下流層形成用スラリーを充填し、その後、前記下流層形成用スラリーを排出することにより、前記所定のセルの内壁面に下流層形成用スラリーを塗膜し、その後、乾燥させて、前記所定のセルの内壁面に下流層形成用膜が配設された塗膜ハニカム乾燥体を作製し、前記塗膜ハニカム乾燥体の、前記所定のセルの一方の開口端部と、残余のセルの他方の開口端部とに目封止部を形成し、その後、目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体を焼成して、前記所定のセルの内壁面に平均細孔径が前記隔壁の平均細孔径より小さい多孔質の下流層が配設されるとともに、目封止部が形成されたハニカム構造体を作製するハニカム構造体の製造方法。
【0013】
[2] セラミック原料を含有する成形原料を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたハニカム成形体を作製し、前記ハニカム成形体を乾燥させてハニカム乾燥体を作製し、前記ハニカム乾燥体の、所定の前記セルの一方の開口端部と、残余のセルの他方の開口端部とに目封止部を形成し、前記目封止部を形成したハニカム乾燥体の前記所定のセルに、セラミック原料を含有する下流層形成用スラリーを充填し、その後、前記下流層形成用スラリーを排出して、前記所定のセルの内壁面に下流層形成用スラリーを塗膜し、その後、乾燥させて、前記所定のセルの内壁面に下流層形成用膜が配設された塗膜ハニカム乾燥体を作製し、その後、目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体を焼成して、前記所定のセルの内壁面に平均細孔径が前記隔壁の平均細孔径より小さい多孔質の下流層が配設されるとともに、目封止部が形成されたハニカム構造体を作製するハニカム構造体の製造方法。
【0014】
[3] 前記ハニカム成形体の成形原料に含有されるセラミック原料と、前記下流層形成用スラリーに含有されるセラミック原料とが、同じセラミック原料である[1]又は[2]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0015】
[4] 前記セラミック原料が、炭化珪素粒子及び金属珪素を含有する[3]に記載のハニカム構造体の製造方法。
【0016】
[5] 前記目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体を、1400〜1800℃の温度範囲で焼成する[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0017】
[6] 前記目封止部が形成されたハニカム構造体の、下流層の平均細孔径が1〜15μmであり、隔壁の平均細孔径が35〜80μmである[1]〜[5]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【0018】
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法により作製されたハニカム構造体。
【0019】
[8] 触媒が担持された[7]に記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0020】
本発明のハニカム構造体の製造方法によれば、未焼成のハニカム成形体(ハニカム乾燥体又は目封止を形成したハニカム乾燥体)に下流層成形用スラリーを塗膜して下流層成形用膜を形成し、その後、未焼成のハニカム成形体(隔壁)と、隔壁に塗膜された下流層成形用膜とを同時に焼成するため、焼成の回数を一回にすることができ、生産効率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0022】
(1)ハニカム構造体の製造方法:
(1−1)ハニカム成形体の作製;
本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態は、まず、セラミック原料を含有する成形原料を成形して、図1及び図2に示すような、流体の流路となる複数のセル1を区画形成する多孔質の隔壁2を備えたハニカム成形体10を作製する。図1は、本発明のハニカム構造体の製造方法において、中間段階で得られるハニカム成形体を模式的に示した斜視図である。図2は、本発明のハニカム構造体の製造方法において、中間段階で得られるハニカム成形体を示す、中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【0023】
成形原料に含有されるセラミック原料としては、炭化珪素粒子(骨材粒子)、又は珪素及び炭化珪素粒子(骨材粒子)が好ましい。これにより、得られるハニカム構造体が、強度及び耐熱性に優れたものとなる。尚、珪素及び炭化珪素粒子をセラミック原料として使用した場合には、炭化珪素粒子を骨材とし、珪素を結合材として形成された珪素−炭化珪素系複合材料により、ハニカム構造体の隔壁(隔壁の上流層)が形成されることになる。セラミック原料(骨材粒子)の平均粒子径は、10〜80μmであることが好ましく、30〜60μmであることが更に好ましい。平均粒子径は、レーザー回折粒度測定器を用いて測定した値である。
【0024】
成形原料は、セラミック原料に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、造孔材、界面活性剤等を混合して形成することが好ましい。
【0025】
分散媒としては、水が好ましい。分散媒の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、10〜30質量部が好ましい。
【0026】
有機バインダとしては、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。有機バインダの含有量は、セラミック原料100質量部に対して、3〜15質量部が好ましい。
【0027】
無機バインダとしては、層状粘土化合物、コロイダルシリカ等を挙げることができる。無機バインダの含有量は、セラミック原料100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。
【0028】
造孔材としては、グラファイト、澱粉、合成樹脂等を挙げることができる。造孔材の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、5〜30質量部が好ましい。造孔材の平均粒子径は、10〜80μmであることが好ましく、30〜50μmであることが更に好ましい。
【0029】
界面活性剤としては、エチレングリコール、脂肪酸石鹸等を挙げることができる。界面活性剤の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましい。
【0030】
使用するセラミック原料(骨材粒子)の粒子径及び配合量、並びに添加する造孔材の粒子径及び配合量を調整することにより、所望の気孔率、平均細孔径のハニカム構造を得ることができる。
【0031】
成形原料を成形する際には、まず成形原料を混練して坏土とし、得られた坏土をハニカム形状に成形することが好ましい。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の従来公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0032】
(1−2)ハニカム乾燥体の作製;
次に、ハニカム成形体を乾燥させてハニカム乾燥体を作製する。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができ、中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組合せて行うことが好ましい。また、乾燥条件としては、乾燥温度80〜150℃、乾燥時間10分〜1時間とすることが好ましい。
【0033】
(1−3)塗膜ハニカム乾燥体の作製;
ハニカム乾燥体の所定のセルに、セラミック原料を含有する下流層形成用スラリーを充填し、その後、下流層形成用スラリーを排出することにより、所定のセル(排ガス流出側のセル)の内壁面に下流層形成用スラリーを塗膜し、その後、乾燥させて、図3に示すような、所定のセル1aの内壁面3に下流層形成用膜4が配設(塗膜)された塗膜ハニカム乾燥体20を作製する。ここで、所定のセル1aと残余のセル(排ガス流入側のセル)1bとが交互に並ぶように、所定のセルの配置を決定することが好ましい。「残余のセル」とは、「所定のセル」以外のセルである。また、「下流層形成用スラリーを排出する」とは、セル内に充填された下流層形成用スラリーのなかで、セルの内壁面に塗膜される下流層形成用スラリーを除いた(残した)、過剰の下流層形成用スラリーを排出することを意味する。図3は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態において、中間段階で得られる塗膜ハニカム乾燥体を示す、中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【0034】
下流層形成用スラリーは、セラミック原料と水とを混合して形成することが好ましい。下流層形成用スラリーに含有されるセラミック原料は、ハニカム成形体の成形原料に含有されるセラミック原料と同じセラミック原料であることが好ましい。これにより、焼成時の膨張率を、ハニカム構造体(隔壁)と同じにすることができるため、焼成時の欠陥の発生を防止することができ、得られるハニカム構造体の耐久性を向上させることができる。また、堆積した粒子状物質を燃焼させる際に、熱膨張率の違いにより、排ガス流出側のセルに面する下流層が破損し、その後の捕集性能が著しく低下するという問題に対しても、粒子状物質の燃焼時の下流層の破損を防止でき、優れた捕集性能を維持することが可能となる。セラミック原料の平均粒子径は、3〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることが更に好ましい。このように下流層形成用スラリーの平均粒子径を小さくすることにより、下流層の平均細孔径を、隔壁の平均細孔径より小さくすることが可能となる。また、水の含有量は、下流層形成用スラリー全体に対して、30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることが更に好ましい。30質量%より少ないとスラリー濃度が高く、流動性が低下し、セル内に充填し難くなることがある。80質量%より多いと、スラリー濃度が薄く、セルの内壁面に所望の厚さの下流層を形成し難くなることがある。
【0035】
下流層形成用スラリーには、更に必要に応じて、有機バインダ、無機バインダ、造孔材、界面活性剤等を混合することが好ましい。
【0036】
有機バインダとしては、ヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。有機バインダの含有量は、セラミック原料100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。
【0037】
無機バインダとしては、層状粘土化合物、コロイダルシリカ等を挙げることができる。無機バインダの含有量は、セラミック原料100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。
【0038】
造孔材としては、グラファイト、澱粉、合成樹脂等を挙げることができる。造孔材の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましい。造孔材の平均粒子径は、1〜15μmであることが好ましく、3〜10μmであることが更に好ましい。造孔剤の平均粒子径は、セラミック原料の平均粒子径の測定に用いた方法と同じ方法で測定した値である。
【0039】
界面活性剤としては、エチレングリコール、脂肪酸石鹸等を挙げることができる。界面活性剤の含有量は、セラミック原料100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましい。
【0040】
使用するセラミック原料の粒子径及び配合量、並びに添加する造孔材の粒子径及び配合量を調整することにより、所望の気孔率、平均細孔径の下流層を得ることができる。
【0041】
下流層形成用スラリーを、ハニカム乾燥体の所定のセルに充填する方法としては、セル径より小さい径(外径)のスラリー供給管を用いて、下流層を形成する所定のセルの開口端部から、下流層形成用スラリーを供給して、所定のセル内全体に下流層形成用スラリーを充填する方法が挙げられる。また、下流層を形成しない残余のセルの片側の開口端部をマスクにより塞いだ後、マスクを施した側のハニカム乾燥体の端面全体に下流層形成用スラリーを供給することにより、マスクにより覆われていない所定のセルの開口端部から下流層形成用スラリーを流入させる方法が挙げられる。マスクには粘着性フィルムを貼着し、その粘着性フィルムを部分的に孔開けする方法等を用いることが好ましい。また、ハニカム乾燥体の端面全体に下流層形成用スラリーを供給する方法としては、ハニカム乾燥体を下流層形成用スラリー中に浸漬する方法、下流層形成用スラリーをハニカム乾燥体の端面からかけ流す方法等を挙げることができる。
【0042】
所定のセルに充填した下流層形成用スラリーを排出する際には、静置し自重により過剰の下流層形成用スラリーを排出したり、エアーブロー等により過剰な下流層形成用スラリーを排出することが好ましい。
【0043】
所定のセルの内壁面に下流層形成用スラリーが塗膜された(付着した)ハニカム乾燥体を乾燥させて、塗膜ハニカム乾燥体を得る方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。また、乾燥条件としては、80〜150℃、10分〜1時間とすることが好ましい。
【0044】
(1−4)目封止部の形成;
次に、図4に示すように、得られた塗膜ハニカム乾燥体20の、所定のセル1aの一方の開口端部6aと、所定のセル1aと交互に並ぶ残余のセル1bの他方の開口端部6bとに目封止部5を形成して、目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体30を得る。図4は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態において、中間段階で得られる塗膜ハニカム乾燥体を示す、中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【0045】
目封止部の形成方法としては、得られた塗膜ハニカム乾燥体20の一方の端面7aにおいて、残余のセル1b(残余のセルの開口端部)にマスクを施し、その一方の端面7aを、目封止部材が貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていない所定のセル1aに目封止部材を挿入し、目封止部5を形成する。そして、塗膜ハニカム乾燥体20の他方の端面7bにおいて、一方の端面7aにおいてマスクを施さなかった所定のセル1a(所定のセルの開口端部)にマスクを施し、その他方の端面7bを、目封止部材が貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていない残余のセル1bに目封止部材を挿入して、目封止部5を形成する。所定のセル1aと残余のセル1bとが交互に並ぶため、塗膜ハニカム乾燥体20の両端面において、目封止部5と、目封止部が形成されていないセルの開口端部とにより、市松模様が形成される。
【0046】
各セルの開口端部にマスクを施す方法は、特に限定されないが、例えば、ハニカム構造体の端面全体に粘着性フィルムを貼着し、その粘着性フィルムを部分的に孔開けする方法等が挙げられる。より具体的には、ハニカム構造体の端面全体に粘着性フィルムを貼着した後に、目封止部を形成しようとするセルに相当する部分のみをレーザーにより孔を開ける方法等を好適に用いることができる。粘着性フィルムとしては、ポリエステル、ポリエチレン、熱硬化性樹脂等の樹脂からなるフィルムの一方の表面に粘着剤が塗布されたもの等を好適に用いることができる。
【0047】
なお、目封止部材としては、ハニカム成形体を形成する材料と同じ材料を用いることが好ましい。これにより、焼成時の膨張率を、ハニカム構造体と同じにすることができるため、焼成時の欠陥の発生を防止することができ、得られるハニカム構造体の耐久性を向上させることができる。
【0048】
(1−5)ハニカム構造体の作製;
(1−5−1)焼成;
次に、目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体を焼成して、所定のセルの内壁面に、平均細孔径が隔壁の平均細孔径より小さい多孔質の下流層が配設されるとともに、目封止部が形成されたハニカム構造体を作製する。
【0049】
目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体を焼成する前に、乾燥及び仮焼を行うことが好ましい。乾燥条件としては、80〜150℃、5分〜2時間とすることが好ましい。
【0050】
仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、目封止部が形成されたハニカム乾燥体中の有機物(有機バインダ、分散剤、造孔材等)を除去することができればよい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0051】
次に、目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体を焼成(本焼成)して、目封止部が形成されたハニカム構造体を作製する。この「本焼成」とは、仮焼した成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するための操作を意味する。焼成条件(温度・時間)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、SiC粉末及び金属珪素粉末を80:20の質量割合で混合した珪素−炭化珪素複合材料の場合、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気中で、1400〜1800℃の温度範囲で焼成を行えばよい。焼成温度を1400℃以上とすることにより、金属珪素粉末を軟化させることができるため、炭化珪素粒子同士を、金属珪素を介して結合させることが可能となる。焼成温度が1800℃を越えると、金属珪素の蒸発が進むため、炭化珪素粒子同士を、金属珪素を介して結合させることが困難になることがある。
【0052】
(1−5−2)触媒の担持;
本発明のハニカム構造体の一実施形態においては、ハニカム構造体に触媒を担持することが好ましい。以下に示すように、隔壁2には粒子状物質除去触媒(酸化触媒)を担持し、下流層11(図5参照)には排ガス浄化触媒を担持することが好ましい。以下、隔壁2を「隔壁の上流層2」ということがあり、下流層11を「隔壁の下流層11」ということがある。
【0053】
隔壁の上流層は、触媒を担持あるいはコートするのに十分大きな細孔径を有しているので、粒子状物質を捕集し、堆積させる領域(隔壁の上流層全体)に触媒を担持することができる。従って、粒子状物質除去触媒(酸化触媒)と粒子状物質とを効率的に接触させて、捕集した粒子状物質の酸化処理を迅速に行うことができる。粒子状物質除去触媒の担持量は、15〜180g/リットルが好ましい。
【0054】
酸化触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属が好適に用いられる。貴金属の他に、他の触媒や浄化材が、さらに担持されていてもよい。例えば、NO吸蔵触媒、三元触媒、助触媒、HC(炭化水素)吸着材等が担持されていてもよい。NO吸蔵触媒としては、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属、Ca、Ba、Sr等のアルカリ土類金属等を挙げることができる。助触媒としては、セリウム(Ce)の酸化物、ジルコニウム(Zr)の酸化物、これらの混合物、複合酸化物等を挙げることができる。
【0055】
たとえば、酸化触媒にはCeの他に少なくとも1種の希土類金属、アルカリ土類金属、または遷移金属を添加した希土類複合酸化物を含んでもよい。希土類金属としては、たとえば、Sm,Gd,Nd,Y,Zr,Ca,La、Pr等を挙げることができる。
【0056】
触媒成分の担持方法は特に限定されないが、例えば、ハニカム構造体の隔壁の上流層に対して、触媒成分を含む触媒液をウォッシュコートした後、高温で熱処理して焼き付ける方法等が挙げられる。また、例えば、ディッピング法や吸引法等の従来公知のセラミック膜形成方法を利用して、セラミックスラリーをハニカム構造の隔壁の上流層表面や、隔壁の上流層内部に付着させ、乾燥、熱処理する方法等により、隔壁の上流層を構成する粒子の表面や隔壁の上流層の細孔内に触媒層を形成することができる。担持する触媒量やその形状は、触媒液の濃度やコートする時間等を制御することにより所望の値に調整することができる。
【0057】
なお、触媒成分を高分散状態で担持させるため、予めアルミナのような比表面積の大きな耐熱性無機酸化物に一旦担持させた後、ハニカム構造体の隔壁の上流層に担持させることが好ましい。
【0058】
隔壁の下流層は、隔壁の上流層より平均細孔径が小さいため、粒子状物質を確実に捕集することが可能である。つまり、隔壁の上流層の細孔内に流入した粒子状物質は、平均細孔径の小さな隔壁の下流層内には流入することができず、粒子状物質が、隔壁の下流層を透過して所定のセル側に抜けてしまうことを抑制することができる。そして、隔壁の上流層の細孔内に流入した粒子状物質は、隔壁の下流層に塞き止められる状態となって、隔壁の上流層の細孔内に堆積する。このため、隔壁の下流層に担持する、粒子状物質を酸化するための触媒量を削減することができる。酸化触媒の量を少なくすることができるので、その代わりに、隔壁の下流層に、排ガス中に含まれる未燃ガスを浄化するための「排ガス浄化触媒」を担持することができる。
【0059】
ここで、本実施形態において、「排ガス浄化触媒」というときは、排ガスを浄化する効果を有する触媒成分を意味し、排ガス中に含まれる窒素酸化物、炭化水素、或いは一酸化炭素といった有害成分の浄化を促進するための触媒の全てが含まれる。例えば、窒素酸化物を酸化するための酸化触媒、窒素酸化物の酸化と炭化水素や一酸化炭素の還元を同時に行う三元触媒の他、窒素酸化物(NO)吸蔵触媒も含まれる。排ガス浄化触媒の担持量は、15〜180g/リットルが好ましい。
【0060】
この排ガス浄化触媒として用いられる酸化触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等の貴金属が好適に用いられる。
【0061】
なお、酸化触媒が排ガス浄化触媒として担持される場合には、他の触媒や浄化材が、さらに担持されてもよい。例えば、NO吸蔵触媒、三元触媒、助触媒、HC(炭化水素)吸着材等が担持されていてもよい。NO吸蔵触媒としては、Li、Na、K、Cs等のアルカリ金属、Ca、Ba、Sr等のアルカリ土類金属等を挙げることができる。助触媒としては、セリウム(Ce)の酸化物、ジルコニウム(Zr)の酸化物、これらの混合物、複合酸化物等を挙げることができる。
【0062】
酸化触媒の総量は、15〜180g/リットル(ハニカム構造体)であることが好ましく、15〜50g/リットルであることが更に好ましい。15g/リットルより少ないと、再生効率が低減し、触媒量も十分ではなくなり、ガスエミッションも100%に到達しないおそれがある。また、180g/リットルより多いと、触媒が隔壁の上流層の細孔を閉塞し、スート付圧損の弊害が生じやすくなることがある。スート付圧損が大きくなると、実走行において、車両加速時の出力が低下するため、実用性に乏しくなることがある。したがって、酸化触媒の総量の範囲を、「15〜180g/リットル」にすることにより、コスト負担が増大することを防止でき、フィルタ全体の強度低下(再生時のクラック等)を招くおそれもなく、担持した触媒が十分に機能し、触媒担持フィルタ全体として再生効率を向上させることができる。
【0063】
触媒成分の担持方法は特に限定されないが、例えば、ハニカム構造体の隔壁の下流層に対して、触媒成分を含む触媒液をウォッシュコートした後、高温で熱処理して焼き付ける方法等が挙げられる。また、例えば、ディッピング法や吸引法等の従来公知のセラミック膜形成方法を利用して、セラミックスラリーをハニカム構造の隔壁の下流層表面や下流層内部に付着させ、乾燥、熱処理する方法等により、隔壁の下流層を構成する粒子の表面や隔壁の下流層の細孔内に触媒層を形成することができる。担持する触媒量やその形状は、触媒液の濃度やコートする時間等を制御することにより所望の値に調整することができる。
【0064】
なお、触媒成分を高分散状態で担持させるため、予めアルミナのような比表面積の大きな耐熱性無機酸化物に一旦担持させた後、ハニカム構造体の隔壁等に担持させることが好ましい。
【0065】
(1−6)本発明のハニカム構造体の製造方法の他の態様
上記本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態においては、ハニカム乾燥体に下流層形成用膜を配設して塗膜ハニカム乾燥体を形成した後に目封止部を形成しているが、本発明のハニカム構造体の他の態様として、ハニカム乾燥体に目封止部を形成した後に、目封止を形成したハニカム乾燥体に下流層形成用膜を配設して塗膜ハニカム乾燥体を形成してもよい。この場合、上記のように、ハニカム乾燥体に目封止部を成形した後に、下流層を形成する所定のセルの開口端部から下流層形成用スラリーを供給することが好ましい。また、所定のセルの開口端部から、セル径より小さい径(外径)のスラリー供給管を用いて、下流層形成用スラリーを供給してもよい。ハニカム乾燥体に目封止部を形成した後に、下流層形成用膜を配設して塗膜ハニカム乾燥体を形成する場合においても、ハニカム乾燥体の作製方法、目封止部の形成方法、下流層形成用膜の配設方法、及び触媒の担持方法は、上記本実施形態のハニカム構造体の製造方法におけるハニカム乾燥体の作製方法、目封止部の形成方法、下流層形成用膜の配設方法、及び触媒の担持方法と同様とすることが好ましい。
【0066】
(2)ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態により得られた、本発明のハニカム構造体の一実施形態は、図5,6に示されるように、流体の流路となる複数のセル1を区画形成する多孔質の隔壁2を備え、所定のセル1aの内壁面3に平均細孔径が隔壁2の平均細孔径より小さい多孔質の下流層11が配設されるとともに、所定のセル1aの一方の開口端部6aと、所定のセル1aと交互に並ぶ残余のセル1bの他方の開口端部6bとに目封止部5が配設されたハニカム構造体40である。すなわち、ハニカム構造体40は、隔壁2により形成されたハニカム形状の多孔質基材に下流層11及び目封止部5が配設された構造である。図5は、本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態により得られたハニカム構造体40の、中心軸に平行な断面を示す模式図である。図6は、図5の領域Pを拡大した模式図である。ハニカム構造体40を用いて排ガスを浄化するときは、一方の端面7a側の残余のセル1bの開口端部から排ガスGが流入し、排ガスGが、隔壁2及び下流層11を透過(細孔を通過)して、所定のセル1a内に流入し、隔壁2及び下流層11により浄化された排ガス(浄化ガス)Gが、他方の端面7b側の所定のセル1aの開口端部から排出される。従って、残余のセル1bが、排ガスの流入側のセルになり、所定のセル1aが、排ガスの流出側のセルになる。
【0067】
(2−1)隔壁の上流層;
「隔壁の上流層2」は、粒子状物質堆積層として機能し、粒子状物質の酸化を促進するための酸化触媒が担持又はコート可能な複数の細孔を有する構造である。「隔壁の上流層2」の平均細孔径は、35〜80μmであることが好ましく、35〜60μmであることが更に好ましい。このような細孔径範囲にすることで、「隔壁の上流層2」全体に担持される粒子状物質除去触媒と粒子状物質とが局所的な接触に留まらず、全体的に接触することが可能になる。すなわち、「隔壁の上流層2」の表層だけでなく粒子状物質除去触媒全体と粒子状物質とを接触させることにより、粒子状物質を酸化除去する際に、短時間で除去できるため燃費のロスを最小限にすることができる。また「隔壁の上流層2」の表層のみが、局所的に高温になることを防ぐことが可能になり、更に、粒子状物質の酸化除去が不十分であることによる圧力損失の増大を防止することが可能になる。「隔壁の上流層2」の平均細孔径が、35μmより小さいと、粒子状物質が隔壁の上流層の細孔上部(ガスの流入側入口又は入口付近)で、いわば中蓋となって目詰まりし易くなり、酸化触媒との接触がしづらくなる。80μmより大きいと、粒子状物質除去触媒を担持させ難くなり、或いは、仮に粒子状物質除去触媒を担持できたとしても、粒子状物質が粒子状物質除去触媒と接触せずに隔壁の下流層にそのまま流入し、隔壁の下流層を目詰まりさせ、圧力損失が増大しやすくなることがある。平均細孔径は、隔壁の下流層を研削除去した後、水銀ポロシメータを用いて測定した値である。
【0068】
また、「隔壁の上流層2」の気孔率は40〜90%であることが好ましく、50〜80%であることが更に好ましい。「隔壁の上流層2」の気孔率が、40%未満であると、粒子状物質を捕集したときに、細孔の容積に対する、堆積した粒子状物質の体積の割合が大きくなるため、フィルタの再生作業が困難になることがあり、更に、圧力損失が大きくなることがある。また90%を超えると、隔壁としての強度が不足することがあり、これにより、ハニカム構造体の強度が低下し、キャニングが困難となることがある。気孔率は、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて隔壁の断面の画像を撮影し、空間/固体面積比より算出した値である。
【0069】
(2−2)隔壁の下流層;
「隔壁の下流層11」は、ハニカム形状の多孔質基材を構成する「隔壁の上流層2」の所定のセル1a(排ガス流出側のセル)側に配設された層であり、粒子状物質を捕集するために「隔壁の上流層2」に比べて平均細孔径を小さく形成した領域をいう。このように、「隔壁の上流層2」に比べて「隔壁の下流層11」の平均細孔径を小さく形成することにより、「隔壁の上流層2」の細孔を通過できる粒子状物質も、「隔壁の下流層11」は通過できないため、粒子状物質を「隔壁の下流層11」で確実に捕集することが可能になる。これにより、排ガス流出側のセル(所定のセル1a)に粒子状物質が流出することを防止することができる。
【0070】
なお、ハニカム構造体40を構成する隔壁は、「隔壁の上流層」及び「隔壁の下流層」の2層構造からなるものであることが好ましいが、「隔壁の上流層」と「隔壁の下流層」との間に、平均細孔径の異なる中間層を備えた3層以上の構造であってもよい。
【0071】
「隔壁の下流層11」の平均細孔径は、1〜15μmであることが好ましく、3〜10μmであることが更に好ましい。平均細孔径が1μm未満であると、透過抵抗が大きくなることがあり、15μmより大きいと、捕集性能が低下し、粒子状物質が排ガス流出側のセル(所定のセル1a)に流出し易くなることがあり、PMエミッションが欧州規制のユーロ5規制値をオーバーし易くなることがある。平均細孔径は、水銀ポロシメータを用いて後述の方法(実施例における、(下流層の平均細孔径)の測定方法)で測定した値である。
【0072】
「隔壁の上流層2」の気孔率は20〜80%であることが好ましく、30〜60%であることが更に好ましい。気孔率が20%より小さいと、ガスが透過するときの圧力損失が大きくなることがあり、80%より大きいと、「隔壁の上流層2」が脆くなったり粒子状物質の捕集が不十分となることがある。「隔壁の上流層2」の気孔率は、圧力損失と捕集性能の観点から、層の厚みも考慮し適宜選択すれば良い。気孔率は、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて隔壁の断面の画像を撮影し、空間/固体面積比より算出した値である。
【0073】
(2−3)セルの構造等;
図5に示すハニカム構造体40の全体形状は、円筒形状であるが、本発明のハニカム構造体の製造方法により得られた本発明のハニカム構造体の全体形状は、これに限定されるものではなく、円筒状、四角柱状、三角柱状等の形状を挙げることができる。
【0074】
本発明のハニカム構造体において、セルの断面(柱(筒)状体の中心軸方向に垂直な断面)の形状としては、特に制限はないが、三角形、四角形、及び六角形等の多角形、八角形と四角形の組み合わせ、円形、楕円形、又はレーシングトラック形、若しくはそれらが一部変形した形状等を挙げることができる。作製容易という観点から、セルの断面の形状は、三角形、四角形、六角形、あるいは八角形と四角形との組み合わせが好ましい。八角形と四角形とを組み合わせた場合、八角形のセルを流体入口側にすることによって、流体入口側の表面積を多くすることが可能となり、捕集する粒子状物質の量を多くすることが出来る。
【0075】
本発明のハニカム構造体において、セル密度は、15個/cm以上、65個/cm未満であることが好ましく、且つ、隔壁の厚さは、200μm以上、1000μm未満であることが好ましい。粒子状物質堆積時の圧力損失は、濾過面積が大きいほど低減されるから、セル密度は大きい方が、粒子状物質堆積時の圧力損失は低下する。一方、初期の圧力損失は、セルの水力直径を小さくすることによって増加する。よって、粒子状物質堆積時の圧力損失低減の観点からはセル密度は大きい方が良いが、初期圧力損失低減の観点からはセル密度を小さくした方が良い。隔壁の厚さは、厚くすれば捕集効率が向上するが、初期の圧力損失は増加する。初期の圧力損失、粒子状物質堆積時の圧力損失、及び捕集効率のトレードオフを考慮して、全てを満足するセル密度及び隔壁の厚さの範囲が、上述した範囲である。また、上述のセル密度及び隔壁厚さの範囲であれば、ハニカム成形体を成形、乾燥して隔壁の上流層を形成した後に、セラミック材料含む下流層形成用スラリーを隔壁にコートして隔壁の下流層を形成し、その後、焼成してハニカム構造体を作製することも可能である。
【0076】
ハニカム構造体40を用いて排ガスを浄化する際には、図5に示すように、排ガス流入側端面(一方の端面7a)に向かって開口する残余のセル1bから排ガスGを流入させ、排ガスGを隔壁2及び下流層11を通過させ、排ガスGが隔壁2及び下流層11を通過する際に排ガスG中の粒子状物質が隔壁2及び下流層11に捕集され、粒子状物質が除去された排ガス(浄化ガス)Gが、排ガス流出側端面(他方の端面7b)に向かって開口する排ガス流出側のセル(所定のセル1a)から流出する。
【0077】
ハニカム構造体40は、「隔壁の上流層2」及び「隔壁の下流層11」に触媒が担持されていることが好ましい。担持される触媒の種類及び量は、上記本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態において担持した触媒の、好ましい種類及び量と同じであることが好ましい。
【0078】
(2−4)粒子状物質を捕集したときの状態;
図7を参照しながら、「隔壁の上流層2」と「隔壁の下流層11」とが協同しながら、排ガスの浄化処理が行われる様子を更に具体的に説明する。図7に示すように、排ガスGは、排ガス流入側のセル(残余のセル)内に入った後、「隔壁の上流層2」の表面から隔壁内部に流入し、「隔壁の下流層11」を透過して排ガス流出側のセル(所定のセル)内に排ガス(浄化ガス)Gとして流出する。このとき、排ガスG中に含有される粒子状物質31は、「隔壁の上流層2」内に捕集される。「隔壁の上流層2」の表面及び細孔内には、粒子状物質酸化触媒32がコートされている。図7においては、「隔壁の上流層2」を構成する骨材粒子33の表面に粒子状物質酸化触媒32がコートされている。図7の、左側に示した図は、本発明のハニカム構造体の製造方法により得られた本発明のハニカム構造体の、「隔壁の上流層2」及び「隔壁の下流層11」の厚さ方向に平行な断面を示す模式図であり、右側に示したグラフは、「隔壁の上流層2」及び「隔壁の下流層11」の厚さ方向の各位置における粒子状物質の堆積量(存在量)を模式的に示したグラフである。このグラフにおいて、x軸(横軸)は粒子状物質堆積量を示し、y軸(縦軸)は厚さ方向における位置(位置)を示す。このように、本発明のハニカム構造体は、「隔壁の上流層2」の厚さ方向において全体的に粒子状物質が捕集されている(存在している)ため、「隔壁の上流層2」の全体において粒子状物質と粒子状物質酸化触媒とが接触し、粒子状物質を効率的に酸化処理することができる。
【0079】
(3)接合型ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体を複数本作製し、得られた複数本のハニカム構造体(ハニカムセグメント21)を接合材22を用いて接合し、外周面を所望形状に切削加工して、図8に示すような、接合型のハニカム構造体(接合型ハニカム構造体)50を作製してもよい。ハニカムセグメントは四角柱状であることが好ましい。ハニカムセグメントを接合する際には、ハニカムセグメントの外周面に接合材を塗布し、ハニカムセグメントを互いに組み付けて圧着した後に、加熱乾燥することが好ましい。ハニカムセグメントを接合して得られたハニカムセグメント接合体は全体形状が四角柱状であるため、図8に示すような、全体形状が円筒状の接合型ハニカム構造体を得るためには、外周面を切削加工することが好ましい。そして、外周面を切削加工した後の外周面に、コーティング材23を塗布し、その後700℃程度で、2時間程度熱処理して接合型ハニカム構造体を得ることができる。図8は、本発明のハニカム構造体の製造方法により製造されたハニカム構造体を接合して得られた接合型ハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【0080】
接合材22の材料としては、無機繊維、無機バインダ、有機バインダ、及び無機粒子から構成されてなるものを好適例として挙げることが出来る。無機繊維としては、例えば、アルミノシリケート、マグネシウムシリケート及びアルミナ等の酸化物繊維、その他の繊維(例えば、SiC繊維)等を挙げることが出来る。無機バインダとしては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル、粘土等を挙げることが出来る。有機バインダとしては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルローズ、メチルセルロース等を挙げることが出来る。無機粒子としては、例えば、炭化珪素、窒化珪素、コージェライト、アルミナ、ムライト等のセラミックスを挙げることが出来る。
【0081】
コーティング材23は、無機繊維、無機バインダ、有機バインダ、及び無機粒子から構成されてなるものを好適例として挙げることが出来る。接合材22と同じものを用いても良いし、コーティング性を考慮し、その組成や水比を調整しても良い。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
ハニカム成形体の作製:
原料として、SiC粉80質量%及び金属Si粉20質量%の混合粉末を使用し、これに有機バインダとしてヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、造孔材として澱粉とアクリル酸系高分子樹脂、さらに界面活性剤及び水を添加して、可塑性の坏土を作製した。得られた坏土を押出成形機にて押出成形し、マイクロ波及び熱風で乾燥させ、隔壁の厚さが450μm、セル密度が約31セル/cm(200セル/平方インチ)、断面が一辺35mmの正四角形、長さが178mmのハニカム成形体を得た。各原料の粒子径、添加量は、得られる隔壁の上流層の気孔率及び平均細孔径が、後述の値となるように調整した。
【0084】
下流層の形成:
SiC粉80質量%及び金属Si粉20質量%の混合粉末に、有機バインダ、造孔材、界面活性剤及び水を添加して、下流層形成用スラリーを作製した。各原料の粒子径、添加量は、得られる隔壁の下流層の気孔率及び平均細孔径が、後述の値となるように調整した。所定のセルの一方の開口端部から、調製した下流層形成用スラリーを流し込んで、所定のセルに下流層形成用スラリーを充填し、過剰なスラリーを除去して、下流層形成用スラリーを所定のセルの内壁面に塗膜した状態を形成した後、乾燥を行い、塗膜ハニカム乾燥体を作製した。尚、所定のセルと残余のセルとが、交互に並ぶようにした。
【0085】
目封止部の形成:
塗膜ハニカム乾燥体のセルの両端面に、目封止部とセル開口部とにより市松模様が形成されるように目封止部を配設した。目封止部は、ハニカム成形体を形成した材料と同じ材料で形成した。目封止部を形成する方法は以下の通りとした。得られた塗膜ハニカム乾燥体の一方の端面において、残余のセル(残余のセルの開口端部)にマスクを施し、その一方の端面を、目封止部材が貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていない所定のセルに目封止部材を挿入し、目封止部を形成した。そして、塗膜ハニカム乾燥体の他方の端面において、一方の端面においてマスクを施さなかった所定のセル(所定のセルの開口端部)にマスクを施し、その他方の端面を、目封止部材が貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていない残余のセルに目封止部材を挿入して、目封止部5を形成した。
【0086】
焼成:
酸化雰囲気において550℃で3時間、脱脂のための仮焼をした。さらに、アルゴン不活性雰囲気で1450℃の焼成温度にて2時間焼成し、SiC結晶粒子をSiで結合させて、ハニカム構造体(焼結体)を得た。得られたハニカム構造体は、所定のセルの内壁面に、平均細孔径が隔壁の平均細孔径より小さい多孔質の下流層が配設されるとともに、目封止部が形成されたハニカム構造体である。上記方法により、合計16個のハニカム構造体を作製した。
【0087】
接合型ハニカム構造体の作製:
無機粒子としてSiC粉末、酸化物繊維としてアルミノシリケート質繊維、コロイド状酸化物としてシリカゾル水溶液及び粘土を、それぞれ混合し、更に水を加えてミキサーにより30分間混合し、接合材層用スラリーを得た。そして、得られた16個のハニカム構造体(ハニカムセグメント)について、ハニカムセグメントの外周壁に、接合材層用スラリーを、厚さ約1mmとなるように塗布して接合材層を形成し、その上に別のハニカムセグメントを載置するという工程を繰り返し、4×4に組み合わされた16個のハニカムセグメントからなる積層体を作製した。そして、その積層体に対し、外部より圧力を加えて、全体を接合させた後、120℃で2時間乾燥させることによって、接合材層を介して16個のハニカムセグメントが接合されたハニカムセグメント接合体を得た。そして、そのハニカムセグメント接合体を、外形が円筒状になるように加工した後、外周コート用スラリーを塗布し、700℃、2時間、乾燥させて、硬化させることによって、φ144mm×178mmの接合型ハニカム構造体を得た。外周コート用スラリーは、接合材層用スラリーと同じものを用いた。
【0088】
SEM(走査電子顕微鏡)写真:
得られた接合型ハニカム構造体について、SEM写真を撮った。結果を図9に示す。図9において、白色(薄い灰色)部分が金属珪素44、灰色(濃い灰色)部分が炭化珪素粒子43、黒色部分が気孔45である。図9より、「隔壁の上流層41」の一方の表面に、「隔壁の上流層41」より細孔径の小さな「隔壁の下流層42」が形成されていることがわかる。図9は、実施例1の接合型ハニカム構造体の隔壁(隔壁の上流層及び隔壁の下流層)の、厚さ方向に平行な断面のSEM写真である。
【0089】
また、得られた接合型ハニカム構造体について、以下の方法により、隔壁の上流層(単に「上流層」ということがある。)及び隔壁の下流層の、気孔率、厚さ、平均細孔径を測定した。結果を表1に示す。表1において、「細孔径」は「平均細孔径」を示す。
【0090】
(上流層の気孔率)
SEMを用いて接合型ハニカム構造体の隔壁の断面の画像を撮り、隔壁の出口側(隔壁の厚さ方向において、排ガスが流出する側)表面から充分に離れた位置(隔壁の入口側(隔壁の厚さ方向において、排ガスが流入する側)表面から中央部までの範囲)において、正方形20視野(正方形の一辺は隔壁の厚さの1/1000)のそれぞれの空間/固体面積比を測定し、測定結果を平均して、上流層の気孔率とした。
【0091】
(下流層の気孔率)
SEMを用いて接合型ハニカム構造体の隔壁の断面の画像を撮り、隔壁の出口側表面に近い領域から、隔壁表面に平行に分割した各領域(各領域の厚さは隔壁の厚さの1/50)における正方形20視野(正方形の一辺は隔壁の厚さの1/1000)のそれぞれの空間/固体面積比を測定し、各領域毎に、得られた空間/固体面積比を平均する。そして、最も隔壁の出口表面に近い一の領域を除いた、出口側表面に近い三つの領域について、各領域における「空間/固体面積比の平均値」を平均して(三つの領域の平均値をとって)、得られた平均値を下流層の気孔率とした。
【0092】
(上流層の厚さ)
SEMを用いて、接合型ハニカム構造体の隔壁の断面の画像を撮り、画像を通して測定した。
【0093】
(下流層の厚さ)
SEMを用いて、接合型ハニカム構造体の隔壁の断面の画像を撮り、隔壁厚さの半分の厚さの領域(隔壁の出口側表面から中央部までの範囲)につき、厚さ方向に1000に分割し、分割した各領域における正方形内の気孔率を、隔壁の出口側表面に近い領域から、画像上の空間/固体面積比として測定していき、出口側表面からの距離に対して、距離毎に、20視野の平均値をプロットした(図10)。そして、下流層の気孔率xと上流層の気孔率yとの算術平均z((x+y)/2)が形成する直線と、上記気孔率のプロットを結んだ線とが交差する位置における表面からの距離(換言すれば、上記プロットを結ぶ線上において上記算術平均の気孔率に相当する出口側表面からの距離)を、隔壁の下流層の厚さwとした。図10は、隔壁の出口側表面からの距離(厚さ方向の距離)と、当該距離の位置における気孔率との関係を示したグラフである。
【0094】
(上流層の平均細孔径)
接合型ハニカム構造体から隔壁を切り出し、隔壁の下流層を研削により除去し、残りの部分について平均細孔径を測定し、これを隔壁上流層の平均細孔径とした。平均細孔径は、水銀ポロシメータを用いて行った。
【0095】
(下流層の平均細孔径)
接合型ハニカム構造体から隔壁を切り出し、その隔壁の細孔分布を水銀ポロシメータを用いて測定した。その後、隔壁から隔壁の下流層を研削により除去し、残った部分(隔壁の上流層に相当)の細孔分布を測定した。隔壁全体の細孔分布51と、隔壁から隔壁の下流層を除去した部分(隔壁の上流層に相当)の細孔分布(隔壁の上流層の細孔分布52)との差を、隔壁の下流層の細孔分布53とみなして、その細孔分布においてピークを形成する細孔径を、隔壁の下流層の平均細孔径54とした(図11参照)。図11は、隔壁全体(隔壁の上流層と、隔壁の下流層とを合わせた隔壁全体)の細孔分布、隔壁の上流層の細孔分布、隔壁の下流層の細孔分布、及び隔壁の下流層の平均細孔径を示すグラフである。
【0096】
触媒の担持:
得られた接合型ハニカム構造体に触媒を担持した。触媒スラリーは、Ptを担持したγ−Al触媒とCeO粉末(助触媒)にAlゾルと水分を添加して調製した。次いで、触媒スラリーを、ウォッシュコートにより、白金成分が接合型ハニカム構造体に対し1.06g/L、全成分が30g/Lとなるよう接合型ハニカム構造体に担持させた。触媒担持方法は、接合型ハニカム構造体の排ガス流入側の端面から触媒スラリーをセル(排ガス流入側のセル)内に流入させることにより担持した。流入側端面から触媒スラリーをセル内に流入させて触媒をコートすることにより、平均細孔径の大きな「隔壁の上流層」に多くの触媒が担持できる。そして、乾燥後、600℃で熱処理を行うことにより、触媒担持接合型ハニカム構造体を得た。得られた触媒担持接合型ハニカム構造体について、以下に示す方法で、再生効率試験、スート付圧損、及びPMエミッションの評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0097】
[1]再生効率試験:
2.0L(リットル)のディーゼルエンジンに触媒担持接合型ハニカム構造体を搭載し、2000rpm×50Nm一定状態で、触媒担持接合型ハニカム構造体に8g/リットル(g/L)の粒子状物質(PM)を堆積させる。触媒担持接合型ハニカム構造体を取り外し、触媒担持接合型ハニカム構造体に堆積している粒子状物質(PM)の質量を測定する。質量測定後、粒子状物質の堆積した触媒担持接合型ハニカム構造体を再度取り付け、ポストインジェクションにより排気ガス温度を上昇させ、触媒担持接合型ハニカム構造体の入口ガス温度を650℃で10分間保持する。ポストインジェクションをやめて触媒担持接合型ハニカム構造体を取り外し、触媒担持接合型ハニカム構造体に堆積している粒子状物質(PM)の質量を測定する。堆積した粒子状物質の質量に対して、試験により燃焼した粒子状物質の質量の割合を、粒子状物質(PM)がどれだけ燃焼したかを示す再生効率とした。
【0098】
[2]スート付圧損:
触媒担持接合型ハニカム構造体に8g/リットル(g/L)の粒子状物質(PM)を堆積させる際に、触媒担持接合型ハニカム構造体の、ガスの入口部分の圧力と、ガスの出口部分の圧力とを測定し、その差をとって圧力損失(スート付圧損)とする。粒子状物質(PM)が0.1g/L堆積した時と、粒子状物質(PM)を6g/L堆積した時の圧力損失(スート付圧損)を測定する。粒子状物質(PM)を0.1g/L堆積した時の圧力損失を初期圧損とする。
【0099】
[3]PMエミッション:
DPFを2.0Lディーゼルエンジン搭載車両に取り付け、欧州規制モードに従いエミッション試験を実施する。PMエミッションを測定し、触媒担持接合型ハニカム構造体の捕集性能を評価した。
【0100】
【表1】

【0101】
(比較例1)
隔壁の下流層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして触媒担持接合型ハニカム構造体を作製した。以下の方法で、平均細孔径及び気孔率を測定した。また、上記方法で、再生効率試験、スート付圧損、及びPMエミッションの評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(気孔率)
水銀ポロシメータ(micromeritics社製、AutoPore III)を使用して測定する。
【0103】
(平均細孔径)
水銀ポロシメータ(micromeritics社製、AutoPore III)を使用して測定する。
【0104】
(比較例2)
ハニカム成形体に目封止部を形成して、焼成した後に、下流層を形成し、再度焼成した以外は、実施例1と同様にしてハニカム構造体を作製した。比較例2のハニカム構造体の製造方法では、焼成を2度行ったため、生産効率が、25%程度低下した。なお、生産効率は、製造コストベースで算出したものである。
【0105】
考察1:
実施例1の触媒担持接合型ハニカム構造体は、隔壁の排ガス出口側(隔壁の厚さ方向において、排ガスが隔壁を透過するときの出口側)の面に、厚さ40μm、気孔率40%、平均細孔径5μmの下流層が形成されていた。また、図9より、下流層42は、上流層41の細孔内には侵入せず、上流層41の表面に層状に形成されていることがわかる。これは、焼成前のハニカム成形体は、造孔材等の有機物が隔壁(上流層)内に存在するため、下流層形成用スラリーを焼成前のハニカム成形体の隔壁表面に塗膜したときに、下流層形成用スラリーが、ハニカム成形体の隔壁の内部に入り込むことがないためである。
【0106】
考察2:
実施例1及び比較例1の再生効率は、いずれも55%程度であり、両者に大きな差は認められなかった。これは、実施例1及び比較例1の触媒担持接合型ハニカム構造体が、いずれも、隔壁の細孔径を大きくし、その細孔内に触媒を担持しているため、触媒と、捕集される粒子状物質との接触効率が向上し、燃焼速度を促進させることができるためと考えられる。
【0107】
考察3:
スート付圧損の測定において、実施例1の触媒担持接合型ハニカム構造体では、隔壁に気孔率40%、平均細孔径5μmの下流層を付与したため、ガス透過時の抵抗が増加し、比較例1の触媒担持接合型ハニカム構造体に対して、初期圧損が若干高い値であった。粒子状物質を6g/L堆積させるとき(粒子状物質を充分捕集させるとき)の圧力損失(スート付圧損)については、実施例1の触媒担持接合型ハニカム構造体と、比較例1の触媒担持接合型ハニカム構造体とは、初期圧損の差が維持された状態で同程度のスート付圧損の上昇を示しており、いずれも粒子状物質の堆積による過度な圧損上昇は見られなかった。このように、実施例1の触媒担持接合型ハニカム構造体についても過度な圧損上昇が認められなかったのは、凝集した粒子状物質が上流層と下流層の界面にブリッジ状に堆積し、下流層の内部(細孔内)への粒子状物質の侵入が抑制され、下流層の細孔内に粒子状物質の堆積が起きにくいために、圧損上昇が抑制されたことによると考えられる。
【0108】
考察4:
PMエミッションの結果より、実施例1の触媒担持接合型ハニカム構造体では、確実に粒子状物質を捕集していることがわかる。比較例1では細孔径が大きいため、多くの粒子状物質が、捕集されることなく隔壁を通過するため、PMエミッション値が大きくなったと考えられる。このように、実施例1の触媒担持接合型ハニカム構造体は、捕集される粒子状物質と触媒との接触効率を向上させて燃焼速度を促進させることができるとともに、規制値をクリアすることができ、実用化することが可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のハニカム構造体の製造方法は、ディーゼルエンジン、普通自動車用エンジン、トラックやバス等の大型自動車用エンジンをはじめとする内燃機関、各種燃焼装置から排出される排ガス中に含まれるパティキュレートを捕集し、或いは浄化するために好適に用いることができるハニカム構造体を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明のハニカム構造体の製造方法において、工程の中間段階で得られるハニカム成形体を模式的に示した斜視図である。
【図2】本発明のハニカム構造体の製造方法において、工程の中間段階で得られるハニカム成形体を示す、中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【図3】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態において、中間段階で得られる塗膜ハニカム乾燥体を示す、中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【図4】本発明のハニカム構造体の製造方法の一の実施形態において、中間段階で得られる塗膜ハニカム乾燥体を示す、中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【図5】本発明のハニカム構造体の製造方法の一実施形態により得られたハニカム構造体の、中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【図6】図5の領域Pを拡大した模式図である。
【図7】左側に示した図は、本発明のハニカム構造体の製造方法により得られた本発明のハニカム構造体の、「隔壁の上流層」及び「隔壁の下流層」の厚さ方向に平行な断面を示す模式図であり、右側に示したグラフは、「隔壁の上流層」及び「隔壁の下流層」の厚さ方向の各位置における粒子状物質の捕集量(存在量)を模式的に示したグラフである。
【図8】本発明のハニカム構造体の製造方法により製造されたハニカム構造体を、接合して得られた接合型ハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【図9】実施例1の接合型ハニカム構造体の隔壁(隔壁の上流層及び隔壁の下流層)の、厚さ方向に平行な断面のSEM写真である。
【図10】隔壁の出口側表面からの距離(厚さ方向の距離)と、当該距離の位置における気孔率との関係を示したグラフである。
【図11】隔壁全体の細孔分布、隔壁の上流層の細孔分布、隔壁の下流層の細孔分布、及び隔壁の下流層の平均細孔径を示すグラフである。
【図12】従来のハニカム構造体の、中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【符号の説明】
【0111】
1,101:セル、1a,101a:所定のセル、1b,101b:残余のセル、2,102:隔壁、3:所定のセルの内壁面、4:下流層形成用膜、5,103:目封止部、6a:所定のセルの一方の開口端部、6b:残余のセルの他方の開口端部、7a:一方の端面、7b:他方の端面、10:ハニカム成形体、11:下流層、20:塗膜ハニカム乾燥体、21:ハニカムセグメント、22:接合材、23:コーティング材、30:目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体、31:粒子状物質、32:粒子状物質酸化触媒、33:骨材粒子、40,110:ハニカム構造体、41:隔壁の上流層、42:隔壁の下流層、43:炭化珪素粒子、44:金属粒子、50:接合型ハニカム構造体、51:隔壁全体の細孔分布、52:隔壁の上流層の細孔分布、53:隔壁の下流層の細孔分布、54:隔壁の下流層の平均細孔径、P:領域、G:排ガス、G:浄化ガス、x:下流層の気孔率、y:上流層の気孔率、z:算術平均、w:隔壁の下流層の厚さ、X:一方の端部、Y:他方の端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック原料を含有する成形原料を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたハニカム成形体を作製し、
前記ハニカム成形体を乾燥させてハニカム乾燥体を作製し、
前記ハニカム乾燥体の所定の前記セルに、セラミック原料を含有する下流層形成用スラリーを充填し、その後、前記下流層形成用スラリーを排出することにより、前記所定のセルの内壁面に下流層形成用スラリーを塗膜し、その後、乾燥させて、前記所定のセルの内壁面に下流層形成用膜が配設された塗膜ハニカム乾燥体を作製し、
前記塗膜ハニカム乾燥体の、前記所定のセルの一方の開口端部と、残余のセルの他方の開口端部とに目封止部を形成し、
その後、目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体を焼成して、
前記所定のセルの内壁面に平均細孔径が前記隔壁の平均細孔径より小さい多孔質の下流層が配設されるとともに、目封止部が形成されたハニカム構造体を作製するハニカム構造体の製造方法。
【請求項2】
セラミック原料を含有する成形原料を成形して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたハニカム成形体を作製し、
前記ハニカム成形体を乾燥させてハニカム乾燥体を作製し、
前記ハニカム乾燥体の、所定の前記セルの一方の開口端部と、残余のセルの他方の開口端部とに目封止部を形成し、
前記目封止部を形成したハニカム乾燥体の前記所定のセルに、セラミック原料を含有する下流層形成用スラリーを充填し、その後、前記下流層形成用スラリーを排出して、前記所定のセルの内壁面に下流層形成用スラリーを塗膜し、その後、乾燥させて、前記所定のセルの内壁面に下流層形成用膜が配設された塗膜ハニカム乾燥体を作製し、
その後、目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体を焼成して、
前記所定のセルの内壁面に平均細孔径が前記隔壁の平均細孔径より小さい多孔質の下流層が配設されるとともに、目封止部が形成されたハニカム構造体を作製するハニカム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ハニカム成形体の成形原料に含有されるセラミック原料と、前記下流層形成用スラリーに含有されるセラミック原料とが、同じセラミック原料である請求項1又は2に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記セラミック原料が、炭化珪素粒子及び金属珪素を含有する請求項3に記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記目封止部が形成された塗膜ハニカム乾燥体を、1400〜1800℃の温度範囲で焼成する請求項1〜4のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記目封止部が形成されたハニカム構造体の、下流層の平均細孔径が1〜15μmであり、隔壁の平均細孔径が35〜80μmである請求項1〜5のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のハニカム構造体の製造方法により作製されたハニカム構造体。
【請求項8】
触媒が担持された請求項7に記載のハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−248070(P2009−248070A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103256(P2008−103256)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】