説明

ハニカム構造体及びハニカムフィルタ

【課題】温度変化に伴う体積変化が小さいハニカム構造体を提供する。
【解決手段】ハニカム構造体100は、多孔質の隔壁120により仕切られた互いに平行な複数の貫通孔110を有し、隔壁120が、アルミニウムと、チタンと、ケイ素と、カルシウムと、銅、ニッケル及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素と、を含有する酸化物を含み、当該酸化物の少なくとも一部がチタン酸アルミニウムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及びハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ハニカム構造体は、被捕集物を含む流体から当該被捕集物を除去するハニカムフィルタを得るために用いられている。ハニカムフィルタとしては、例えば、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関から排気される排気ガスを浄化するための排ガスフィルタが挙げられる。このようなハニカムフィルタを得るためのハニカム構造体は、例えば、多孔質の隔壁により仕切られた互いに平行な複数の貫通孔を有している(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−270755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のハニカム構造体では、ハニカム構造体を急熱・急冷することにより生じる体積変化によってハニカム構造体が破損する場合がある。このようにハニカム構造体が破損すると、当該ハニカム構造体を用いて得られたハニカムフィルタのフィルタ特性が劣化し得る。そのため、従来のハニカム構造体に対しては、温度変化に伴う体積変化が小さいことが求められている。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、温度変化に伴う体積変化が小さいハニカム構造体、及び、当該ハニカム構造体を備えるハニカムフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ハニカム構造体における隔壁の構成材料として、高温耐熱性(耐高温分解性)に優れるチタン酸アルミニウムに着目した。そして、本発明者は、チタン酸アルミニウムを含有する隔壁を有するハニカム構造体について鋭意検討した結果、このようなハニカム構造体を昇温及び降温させた場合において、隔壁の熱膨張率が昇温時と降温時において大きく異なる傾向があり、昇温後の降温時において特に温度変化に伴う体積変化が大きくなり易いことを見出した。また、本発明者の知見によれば、チタン酸アルミニウムを含有する隔壁を有するハニカム構造体を昇温又は降温させた場合において、ハニカム構造体における中心部の温度と外周部の温度とが互いに異なり易く、ハニカム構造体内に温度差が生じる傾向がある。このようなハニカム構造体において上記のとおり温度変化に伴う体積変化が大きいと、ハニカム構造体を昇温及び降温させた場合に、ハニカム構造体の中心部と外周部とにおいて体積変化の程度が異なり易くなるため、クラックが生じる等してハニカム構造体が破損し易くなると推測される。
【0007】
これに対し、本発明者は、隔壁がアルミニウムと、チタンと、ケイ素と、カルシウムと、銅、ニッケル及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素と、を含有する酸化物を含み、当該酸化物の少なくとも一部がチタン酸アルミニウムであることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明に係るハニカム構造体は、多孔質の隔壁により仕切られた互いに平行な複数の貫通孔を有し、隔壁が、アルミニウムと、チタンと、ケイ素と、カルシウムと、銅、ニッケル及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素と、を含有する酸化物を含み、当該酸化物の少なくとも一部がチタン酸アルミニウムである。
【0009】
本発明に係るハニカム構造体では、チタン酸アルミニウムを含有する隔壁において、隔壁に含まれる酸化物が、アルミニウムと、チタンと、ケイ素と、カルシウムと、銅、ニッケル及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素と、を含有することにより、温度変化に伴うハニカム構造体の体積変化を小さくすることができる。このようなハニカム構造体では、ハニカム構造体を急熱・急冷することにより生じる体積変化によってハニカム構造体が破損することを抑制可能であり、フィルタ特性が劣化することを抑制することができる。
【0010】
上記のとおり温度変化に伴うハニカム構造体の体積変化を小さくすることができる要因について、本発明者は以下のとおり推測している。但し、要因は下記に限られるものではない。すなわち、チタン酸アルミニウムを含有する隔壁の熱膨張率が昇温時と降温時において大きく異なる傾向がある要因は、昇温時においては、チタン酸アルミニウム粒子の膨張に伴い、チタン酸アルミニウム粒子間のマイクロクラックが収縮し、降温時においては、チタン酸アルミニウム粒子の収縮に伴い、マイクロクラックが膨張することに関係していると推測される。具体的には、昇温時に収縮したマイクロクラックは、昇温過程から降温過程に推移して直ちに膨張するものではなく、昇温時及び降温時の同一温度におけるチタン酸アルミニウム粒子及びマイクロクラックの状態は互いに同一の状態ではないと推測される。このような状態の相違に基づき、熱膨張率が昇温時と降温時において大きく異なると推測される。
【0011】
これに対し、本願発明では、降温時において温度変化に伴う体積変化が小さくなるようにチタン酸アルミニウム粒子及びマイクロクラックの状態にCaが寄与すると共に、Caに加えてケイ素及び上記特定の金属元素が存在することで、このような降温時の効果が充分に得られ易くなるものと推測される。また、上記特定の金属元素を用いることにより、昇温時の熱膨張率が低減される効果も得られると推測される。
【0012】
本発明に係るハニカム構造体において、上記酸化物は、上記金属元素として銅を含有することが好ましい。この場合、温度変化に伴うハニカム構造体の体積変化を小さくし易くなる。
【0013】
酸化物に換算した上記金属元素の含有量の割合は、Alに換算したアルミニウムの含有量に対してモル比で0.01〜0.25であることが好ましい。この場合、温度変化に伴うハニカム構造体の体積変化を小さくし易くなる。
【0014】
CaOに換算したカルシウムの含有量の割合は、Alに換算したアルミニウムの含有量に対してモル比で0.01〜0.1であることが好ましい。この場合、温度変化に伴うハニカム構造体の体積変化を小さくし易くなる。
【0015】
SiOに換算したケイ素の含有量の割合は、Alに換算したアルミニウムの含有量に対してモル比で0.01〜0.8であることが好ましい。この場合、温度変化に伴うハニカム構造体の体積変化を小さくし易くなる。
【0016】
本発明に係るハニカムフィルタは、上記ハニカム構造体と、上記複数の貫通孔のうちの一部の一端及び上記複数の貫通孔のうちの残部の他端を封口する封口部と、を備える。本発明に係るハニカムフィルタでは、上記特定の成分を含有する隔壁をハニカム構造体が有していることにより、温度変化に伴うハニカム構造体の体積変化を小さくすることができる。このようなハニカムフィルタでは、ハニカムフィルタを急熱・急冷することにより生じる体積変化によってハニカム構造体が破損することや、フィルタ特性が劣化することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、温度変化に伴うハニカム構造体の体積変化を小さくすることができる。そのため、本発明では、ハニカム構造体、及び当該ハニカム構造体を備えるハニカムフィルタを急熱・急冷することにより生じる体積変化によって、ハニカム構造体が破損することを抑制することができる。これにより、本発明では、ハニカム構造体のフィルタ特性や、当該ハニカム構造体を用いて得られたハニカムフィルタのフィルタ特性が劣化することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るハニカムフィルタを示す斜視図である。
【図2】図2は、図1のII−II矢視図である。
【図3】図3は、熱膨張特性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本実施形態に係るハニカムフィルタを示す斜視図であり、図2は、図1のII−II矢視図である。ハニカムフィルタ1は、ハニカム構造体100と、封口部130とを備えている。
【0021】
ハニカム構造体100は、図1,2に示すように、互いに平行に配置された複数の貫通孔110を有する円柱体である。複数の貫通孔110のそれぞれは、ハニカム構造体100の中心軸に平行に伸びる隔壁120により仕切られている。貫通孔110は、貫通孔110のうちの一部を構成する貫通孔(第1の貫通孔)110aと、貫通孔110のうちの残部を構成する貫通孔(第2の貫通孔)110bとを有している。
【0022】
貫通孔110aにおけるハニカム構造体100の一端側の端部は、ハニカム構造体100の一端面100aにおいてガス流入口として開口しており、貫通孔110aにおけるハニカム構造体100の他端側の端部は、ハニカム構造体100の他端面100bにおいて封口部130により封口されている。一方、貫通孔110bにおけるハニカム構造体100の一端側の端部は、一端面100aにおいて封口部130により封口されており、貫通孔110bにおけるハニカム構造体100の他端側の端部は、他端面100bにおいてガス流出口として開口している。
【0023】
貫通孔110bは、貫通孔110aに隣接している。ハニカム構造体100では、貫通孔110aと貫通孔110bとが交互に配置されて格子構造が形成されている。貫通孔110a,110bは、ハニカム構造体100の両端面に垂直であり、端面から見て正方形配置、すなわち、貫通孔110a,110bの中心軸が、正方形の頂点にそれぞれ位置するように配置されている。貫通孔110a,110bにおける当該貫通孔の軸方向(長手方向)に垂直な断面は、例えば正方形状である。
【0024】
貫通孔110a,110bの長手方向におけるハニカム構造体100の長さは、例えば30〜300mmである。ハニカム構造体100が円柱体である場合、ハニカム構造体100の外径(直径)は、例えば10〜300mmである。また、貫通孔110a,110bの軸方向に垂直な断面の内径(正方形の一辺の長さ)は、例えば0.5〜1.2mmである。隔壁120の平均厚み(セル壁厚)は、例えば0.1〜0.5mmである。
【0025】
なお、ハニカムフィルタの形状は必ずしも上述した形状に限定されるものではない。例えば、ハニカムフィルタにおける貫通孔の軸方向に垂直な当該貫通孔の断面は、正方形状等の矩形状であることに限定されず、三角形状、六角形状、八角形状、円形状、楕円形状等であってもよい。また、貫通孔には、径の異なるものが混在していてもよく、断面形状の異なるものが混在していてもよい。また、貫通孔の配置は特に限定されるものではなく、貫通孔の中心軸の配置は、正三角形の頂点に配置される正三角形配置、千鳥配置等であってもよい。さらに、ハニカムフィルタは円柱体であることに限られず、楕円柱、三角柱、四角柱、六角柱、八角柱等であってもよい。
【0026】
ハニカム構造体100において隔壁120は、多孔質であり、例えば多孔質セラミックス焼結体を含んでいる。隔壁120は、流体(例えば、すす等の微粒子を含む排ガス)が透過できるような構造を有している。具体的には、流体が通過し得る多数の連通孔(流通経路)が隔壁120内に形成されている。隔壁120の気孔率(開気孔率)は、例えば30〜60体積%である。隔壁120の気孔径(細孔直径)は、例えば5〜30μmである。隔壁120の気孔率及び気孔径は、原料の粒子径、孔形成剤の添加量、孔形成剤の種類、焼成条件により調整可能であり、水銀圧入法により測定することができる。
【0027】
隔壁120は、酸化物を含有している。当該酸化物は、アルミニウム(アルミニウム元素)と、チタン(チタン元素)と、ケイ素(ケイ素元素)と、カルシウム(カルシウム元素)と、銅、ニッケル及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素とを必須成分として含有しており、マグネシウム(マグネシウム元素)を任意成分として含有していてもよい。上記金属元素としては、銅が好ましい。隔壁120は、上記金属元素の1種を単独で含有していてもよく、上記金属元素の2種以上を併用して含有していてもよい。
【0028】
隔壁120に含有される酸化物の少なくとも一部は、チタン酸アルミニウムである。当該チタン酸アルミニウムは、隔壁120の必須成分であるアルミニウム及びチタンを与える。また、チタン酸アルミニウムは、チタン酸アルミニウムマグネシウム(マグネシウムを含有するチタン酸アルミニウム)であってもよく、チタン酸アルミニウムマグネシウムは、隔壁120の必須成分であるアルミニウム及びチタンと、任意成分であるマグネシウムとを与える。
【0029】
隔壁120は、例えば、主にチタン酸アルミニウム系結晶からなる多孔性セラミックスから形成されている。「主にチタン酸アルミニウム系結晶からなる」とは、セラミックス焼成体を構成する主結晶相がチタン酸アルミニウム系結晶相であることを意味し、チタン酸アルミニウム系結晶相は、例えば、チタン酸アルミニウム結晶相、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶相等であってもよい。
【0030】
隔壁120を構成するセラミックスにおけるチタン酸アルミニウムの含有量は、セラミックス全体を基準として50〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましい。隔壁120において、Al23に換算したアルミニウムと、TiO2に換算したチタンとのモル比(アルミニウム:チタン)は、35:65〜45:55が好ましく、40:60〜45:55がより好ましい。
【0031】
チタン酸アルミニウムがマグネシウムを含有する場合、チタン酸アルミニウムマグネシウムの組成式は、例えばAl2(1−x)MgTi(1+x)であり、xの値は、0.03以上が好ましく、0.03〜0.20がより好ましく、0.03〜0.18が更に好ましい。隔壁120は、原料由来の微量成分又は製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0032】
隔壁120において、SiOに換算したケイ素の含有量の割合は、Alに換算したアルミニウムの含有量に対してモル比で0.01以上が好ましい。SiOに換算したケイ素の含有量の割合は、Alに換算したアルミニウムの含有量に対してモル比で0.8以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。ケイ素の含有量及びアルミニウムの含有量は、例えば、原料物質の仕込み量から算出することや、蛍光X線分析法(XRF)を用いた測定により得ることができる。
【0033】
隔壁120は、ケイ素源粉末由来のガラス相を含んでいてもよい。ガラス相は、SiOが主要成分である非晶質相を指し、隔壁120に含有される酸化物の一部を構成することができる。ガラス相は、隔壁120の必須成分であるケイ素を含有しており、隔壁120の必須成分であるカルシウムを含有していてもよい。ガラス相の含有量は、4質量%以下であることが好ましい。ガラス相の含有量が4質量%以下であることにより、パティキュレートフィルタ等のセラミックスフィルタに要求される細孔特性を充足するチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体が得られ易くなる。ガラス相の含有量は、2質量%以上であることが好ましい。
【0034】
隔壁120において、CaOに換算したカルシウムの含有量の割合は、Alに換算したアルミニウムの含有量に対してモル比で0.01以上が好ましい。CaOに換算したカルシウムの含有量の割合は、Alに換算したアルミニウムの含有量に対してモル比で0.1以下が好ましい。カルシウムの含有量は、例えば、原料物質の仕込み量から算出することや、蛍光X線分析法(XRF)を用いた測定により得ることができる。
【0035】
隔壁120の必須成分である上記金属元素(銅、ニッケル、クロム)は、チタン酸アルミニウム系結晶相やガラス相に含まれていてもよく、その他の相を構成していてもよい。隔壁120において、酸化物に換算した上記金属元素の含有量の割合は、Alに換算したアルミニウムの含有量に対してモル比で0.01以上が好ましい。酸化物に換算した上記金属元素の含有量の割合は、Alに換算したアルミニウムの含有量に対してモル比で0.25以下が好ましい。上記含有量における金属元素の酸化物とは、銅の場合はCuOであり、ニッケルの場合はNiOであり、クロムの場合はCrである。隔壁120が上記金属元素の2種以上を含有している場合、金属元素のそれぞれの含有量が上記範囲であることが好ましい。上記金属元素の含有量は、例えば、原料物質の仕込み量から算出することや、蛍光X線分析法(XRF)を用いた測定により得ることができる。
【0036】
隔壁120は、チタン酸アルミニウム系結晶相やガラス相以外の相(結晶相)を含んでいてもよい。このようなチタン酸アルミニウム系結晶相以外の相としては、セラミックス焼成体の作製に用いる原料由来の相等を挙げることができる。原料由来の相は、例えば、ハニカムフィルタの製造に際してチタン酸アルミニウム系結晶相を形成することなく残存したアルミニウム源粉末、チタン源粉末、マグネシウム源粉末等に由来する相であり、アルミナ、チタニア、マグネシア等の相が挙げられる。また、原料由来の相は、カルシウム源粉末、上記金属元素の粉末に由来する相であってもよく、例えば、カルシアや、銅、ニッケル又はクロムの酸化物等の相であってもよい。隔壁120を形成する結晶相は、X線回折スペクトルにより確認することができる。
【0037】
ハニカムフィルタ1は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関からの排ガス中に含まれるすす等の被捕集物を捕集するパティキュレートフィルタとして適する。例えば、ハニカムフィルタ1では、図2に示すように、一端面100aから貫通孔110aに供給されたガスGが隔壁120内の連通孔を通過して隣の貫通孔110bに到達し、他端面100bから排出される。このとき、ガスG中の被捕集物が隔壁120の表面や連通孔内に捕集されてガスGから除去されることにより、ハニカムフィルタ1はフィルタとして機能する。
【0038】
また、ハニカム構造体100は、上述のパティキュレートフィルタを得るために用いられるだけでなく、ビール等の飲食物の濾過に用いる濾過フィルタ;石油精製時に生じるガス成分(例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素)を選択的に透過させるための選択透過フィルタ;触媒担体などに用いられる。
【0039】
<ハニカムフィルタの製造方法>
次に、ハニカムフィルタ1の製造方法について説明する。上記ハニカムフィルタ1の製造方法は、例えば、(a)セラミックス粉末や添加剤を含む原料混合物を調製する原料調製工程と、(b)原料混合物を成形して、貫通孔を有する成形体を得る成形工程と、(c)成形体を焼成する焼成工程と、を備え、(d)成形工程と焼成工程の間、又は、焼成工程の後に、各貫通孔の一端を封口する封口工程を更に備える。ハニカム構造体100のみを得る場合には、成形工程において得られた成形体の貫通孔を封口することなく当該成形体を焼成すればよい。
【0040】
[工程(a):原料調製工程]
工程(a)では、セラミックス粉末と添加剤とを混合した後に混練して原料混合物を調製する。添加剤としては、例えば孔形成剤(造孔剤)、バインダ、可塑剤、分散剤、溶媒が挙げられる。
【0041】
セラミックス粉末は、アルミニウムと、チタンと、ケイ素と、カルシウムと、銅、ニッケル及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素と、を少なくとも含む粉末である。セラミックス粉末は、例えば、アルミニウム源粉末、チタン源粉末、ケイ素源粉末、カルシウム源粉末、及び、上記特定の金属元素を含む粉末を適宜混合して得ることができる。セラミックス粉末は、マグネシウム源粉末を更に含んでいてもよい。
【0042】
(アルミニウム源粉末)
アルミニウム源粉末は、隔壁を構成する酸化物のアルミニウム成分となる化合物の粉末である。アルミニウム源粉末としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)の粉末が挙げられる。アルミナの結晶型としては、γ型、δ型、θ型、α型等が挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アルミナの結晶型は、α型が好ましい。
【0043】
アルミニウム源粉末は、単独で空気中で焼成することによりアルミナに導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、例えばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウム等が挙げられる。
【0044】
水酸化アルミニウムの結晶型としては、例えば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型等が挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、例えば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド等のような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物が挙げられる。
【0045】
アルミニウム塩は、無機酸とのアルミニウム無機塩であってもよく、有機酸とのアルミニウム有機塩であってもよい。アルミニウム無機塩としては、例えば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウム等のアルミニウム硝酸塩;炭酸アンモニウムアルミニウム等のアルミニウム炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、例えば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0046】
アルミニウムアルコキシドとしては、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシド等が挙げられる。
【0047】
アルミニウム源粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。アルミニウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0048】
アルミニウム源粉末において、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒径(中心粒径、D50)は、好ましくは20〜60μmである。アルミニウム源粉末のD50をこの範囲内に調整することにより、優れた多孔性を示すチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体が得られると共に、焼成収縮率をより効果的に低減させることができる。アルミニウム源粉末のD50は、より好ましくは25〜60μmである。
【0049】
(チタン源粉末)
チタン源粉末は、隔壁を構成する酸化物のチタン成分となる化合物の粉末であり、例えば酸化チタンの粉末である。酸化チタンは、例えば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)であり、好ましくは酸化チタン(IV)である。酸化チタン(IV)の結晶型は、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型である。酸化チタンは不定形(アモルファス)であってもよい。酸化チタンは、より好ましくはアナターゼ型やルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0050】
チタン源粉末は、単独で空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる化合物の粉末であってもよく、例えば、チタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、チタン金属である。
【0051】
チタニウム塩は、例えば、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)である。チタニウムアルコキシドは、例えば、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、及び、これらのキレート化物である。
【0052】
チタン源粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。チタン源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0053】
チタン源粉末において、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒径(D50)は、好ましくは0.1〜25μmである。チタン源粉末のD50は、充分に低い焼成収縮率を達成するため、より好ましくは0.1〜20μmである。
【0054】
(マグネシウム源粉末)
セラミックス粉末は、マグネシウム源粉末を更に含有していてもよい。セラミックス粉末がマグネシウム源粉末を含む場合、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体は、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶を含む焼成体である。マグネシウム源粉末は、マグネシア(酸化マグネシウム)の粉末のほか、単独で空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる化合物の粉末である。このような化合物は、例えば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムである。
【0055】
マグネシウム塩は、例えば、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロりん酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムである。
【0056】
マグネシウムアルコキシドは、例えばマグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド等である。
【0057】
マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物の粉末を用いることができる。このような化合物は、例えば、マグネシアスピネル(MgAl24)である。
【0058】
マグネシウム源粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。マグネシウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0059】
マグネシウム源粉末において、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒径(D50)は、好ましくは0.5〜30μmである。マグネシウム源粉末のD50は、成形体の焼成収縮率を低減する観点から、より好ましくは3〜20μmである。
【0060】
(ケイ素源粉末)
ケイ素源粉末は、隔壁を構成する酸化物のシリコン成分となる化合物の粉末である。ケイ素源粉末を用いることにより、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体を得ることができる。ケイ素源粉末は、例えば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素等の酸化ケイ素(シリカ)の粉末である。
【0061】
ケイ素源粉末は、単独で空気中で焼成することによりシリカに導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物は、例えば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ガラスフリットであり、好ましくは長石、ガラスフリットであり、工業的に入手が容易であると共に組成が安定している点で、より好ましくはガラスフリットである。ガラスフリットは、ガラスを粉砕して得られるフレーク又は粉末状のガラスをいう。ケイ素源粉末として、長石とガラスフリットとの混合物からなる粉末を用いてもよい。
【0062】
ガラスフリットを用いる場合、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体の耐熱分解性をより向上させるという観点から、ガラスフリットの屈伏点は、600℃以上であることが好ましい。本明細書において、ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analysis)を用いて低温からガラスフリットの膨張を測定し、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0063】
ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸〔SiO2〕を主成分(全成分中50質量%以上)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ〔Al23〕、酸化ナトリウム〔Na2O〕、酸化カリウム〔K2O〕、酸化カルシウム〔CaO〕、マグネシア〔MgO〕等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrO2を含有していてもよい。
【0064】
ケイ素源粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。ケイ素源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0065】
ケイ素源粉末において、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒径(D50)は、好ましくは0.5〜30μmである。ケイ素源粉末のD50は、成形体の充填率をより向上させて機械的強度が更に高い焼成体を得るため、より好ましくは1〜20μmである。
【0066】
(カルシウム源粉末)
カルシウム源粉末は、隔壁を構成する酸化物のカルシウム成分となる化合物の粉末である。カルシウム源粉末としては、例えば、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム等が挙げられる。カルシウム源粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。カルシウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0067】
(銅粉末)
銅粉末は、隔壁を構成する酸化物の銅成分となる化合物の粉末である。銅粉末としては、例えば、金属銅、酸化銅、硝酸銅、硫酸銅等が挙げられる。銅粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。銅粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0068】
(ニッケル粉末)
ニッケル粉末は、隔壁を構成する酸化物のニッケル成分となる化合物の粉末である。ニッケル粉末としては、例えば、金属ニッケル、酸化ニッケル、硝酸ニッケル等が挙げられる。ニッケル粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。ニッケル粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0069】
(クロム粉末)
クロム粉末は、隔壁を構成する酸化物のクロム成分となる化合物の粉末である。クロム粉末としては、例えば、金属クロム、酸化クロム、硝酸クロム等が挙げられる。クロム粉末は、1種又は2種以上のいずれでもよい。クロム粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0070】
ハニカムフィルタの製造では、上記マグネシアスピネル(MgAl24)等の複合酸化物やガラスフリットのように、隔壁120の構成成分となる複数の元素が一の粉末に含まれていてもよい。この場合、これらの化合物は、それぞれの金属源化合物を混合した原料と同じであると考えることができる。このような考えに基づき、原料混合物中におけるアルミニウム源、チタニウム源、マグネシウム源、ケイ素源、カルシウム源、上記特定金属の金属源の含有量が調整される。
【0071】
原料混合物にはチタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウムが含まれていてもよく、例えば、原料混合物の構成成分としてチタン酸アルミニウムマグネシウムを使用する場合、チタン酸アルミニウムマグネシウムは、アルミニウム源、チタニウム源及びマグネシウム源を兼ね備えた原料混合物に相当する。
【0072】
チタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウムは、本製造方法により得られるハニカムフィルタから調製してもよい。例えば、本製造方法により得られたハニカムフィルタが破損した場合、破損したハニカムフィルタやその破片等を粉砕して使用することができる。粉砕して得られる粉末をチタン酸アルミニウムマグネシウム粉末とすることができる。
【0073】
(添加剤)
孔形成剤としては、焼成工程において成形体を脱脂・焼成する温度以下で消失する素材によって形成されたものを使用することができる。脱脂や焼成において、孔形成剤を含有する成形体が加熱されると、孔形成剤は燃焼等によって消滅する。これにより、孔形成剤が存在していた箇所に空間ができると共に、この空間同士の間に位置するセラミックス粉末が焼成の際に収縮することにより、流体を流すことができる連通孔を隔壁内に形成することができる。
【0074】
孔形成剤は、例えば、トウモロコシ澱粉、大麦澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、豆澱粉、米澱粉、エンドウ澱粉、サンゴヤシ澱粉、カンナ澱粉、ポテト澱粉(馬鈴薯デンプン)である。孔形成剤において、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒径(D50)は、例えば5〜50μmである。原料混合物が孔形成剤を含有する場合、孔形成剤の含有量は、例えば、セラミックス粉末100質量部に対して1〜25質量部である。
【0075】
バインダは、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロース等のセルロース類;ポリビニルアルコール等のアルコール類;リグニンスルホン酸塩等の塩;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックスである。原料混合物におけるバインダの含有量は、例えば、セラミックス粉末100質量部に対して20質量部以下である。
【0076】
可塑剤は、例えばグリセリン等のアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸;ステアリン酸Al等のステアリン酸金属塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(例えばポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル)である。原料混合物における可塑剤の含有量は、例えば、セラミックス粉末100質量部に対して0〜10質量部である。
【0077】
分散剤は、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸等の有機酸;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウムなどの界面活性剤である。原料混合物における分散剤の含有量は、例えば、セラミックス粉末100質量部に対して0〜20質量部である。
【0078】
溶媒は、例えば水であり、不純物が少ない点で、イオン交換水が好ましい。原料混合物が溶媒を含有する場合、溶媒の含有量は、例えば、セラミックス粉末100質量部に対して10〜100質量部である。
【0079】
[工程(b):成形工程]
工程(b)では、ハニカム構造を有する所定形状のセラミックス成形体を得る。工程(b)では、例えば、一軸押出機により原料混合物を混練しながらダイから押出す、いわゆる押出成形法を採用することができる。
【0080】
[工程(c):焼成工程]
工程(c)では、成形体の焼成前に、成形体中(原料混合物中)に含まれる孔形成剤等を除去するための脱脂(仮焼)が行われてもよい。脱脂は、酸素濃度0.1%以下の雰囲気下で行われる。
【0081】
本明細書において酸素濃度の単位として用いられる「%」は、「体積%」を意味する。脱脂工程(昇温時)の酸素濃度を0.1%以下の濃度に管理することにより、有機物の発熱が抑えられ、脱脂後の割れを抑制することができる。脱脂においては、脱脂が酸素濃度0.1%以下の雰囲気中で行われることにより、孔形成剤等の有機成分の一部が除去され、残部が炭化されてセラミック成形体中に残存することが好ましい。このように、セラミックス成形体中に微量のカーボンが残存することで、成形体の強度が向上し、セラミックス成形体の焼成工程への仕込みが容易になる。このような雰囲気としては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気や、一酸化炭素ガス、水素ガス等のような還元性ガス雰囲気、真空中等が挙げられる。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよく、炭と一緒に蒸し込んで酸素濃度を低減させてもよい。
【0082】
脱脂の最高温度は、好ましくは700〜1100℃であり、より好ましくは800〜1000℃である。脱脂の最高温度を従来の600〜700℃程度から、700〜1100℃に上昇させることで、粒成長によって、脱脂後のセラミックス成形体の強度が向上するため、セラミックス成形体の焼成への仕込みが容易になる。また、脱脂は、セラミックス成形体の割れを防止するために、最高温度に到達するまでの昇温速度を極力抑えることが好ましい。
【0083】
脱脂は、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉、ガス燃焼炉等の通常の焼成に用いられるものと同様の炉を用いて行うことができる。脱脂は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、脱脂は静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0084】
脱脂に要する時間は、セラミックス成形体中に含まれる有機成分の一部が消失するのに充分な時間であればよく、好ましくは、セラミックス成形体中に含まれる有機成分の90〜99質量%が消失する時間である。具体的には、原料混合物の量、脱脂に用いる炉の形式、温度条件、雰囲気等により異なるが、最高温度でキープする時間は、通常1分〜10時間であり、好ましくは1〜7時間である。
【0085】
セラミックス成形体は、上記の脱脂後、焼成される。焼成温度は、通常1300℃以上であり、好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、通常1650℃以下であり、好ましくは1550℃以下である。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常1〜500℃/時間である。
【0086】
焼成は、酸素濃度1〜6%の雰囲気下で行われることが好ましい。酸素濃度を6%以下とすることによって脱脂で発生した残存炭化物の燃焼を抑制することができるため、焼成におけるセラミックス成形体の割れが生じにくくなる。また、適度な酸素が存在するため、最終的に得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス成形体の有機成分を完全に除去することができる。酸素濃度は、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体中に有機成分に由来する炭化物(すす)が残存しないことから、1%以上が好ましい。原料混合物における原料粉末の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガス等のような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成してもよい。
【0087】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉、ガス燃焼炉等の従来の装置を用いて行うことができる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、焼成は静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0088】
焼成時間は、セラミックス成形体がチタン酸アルミニウム系結晶に遷移するのに充分な時間であればよく、原料の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気等により異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0089】
[工程(d):封口工程]
工程(d)は、工程(b)と工程(c)の間、又は、工程(c)の後に行われる。工程(b)と工程(c)の間に工程(d)を行う場合、工程(b)において得られた未焼成のセラミックス成形体の各貫通孔の一方の端部を封口物で封口した後、工程(c)においてセラミックス成形体と共に封口物を焼成することにより、貫通孔の一方の端部を封口する封口部が得られる。工程(c)の後に工程(d)を行う場合、工程(c)において得られたセラミックス成形体の各貫通孔の一方の端部を封口物で封口した後、セラミックス成形体と共に封口物を焼成することにより、貫通孔の一方の端部を封口する封口部が得られる。封口物としては、上記セラミックス成形体を得るための原料混合物と同様の混合物を用いることができる。
【0090】
以上の工程によって、ハニカムフィルタを得ることができる。なお、ハニカムフィルタは、工程(b)における成形直後の成形体の形状をほぼ維持した形状を有するが、工程(b)、工程(c)又は工程(d)の後に研削加工等を行って、所望の形状に加工することもできる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0092】
<実施例1>
(ハニカム構造体の作製)
下記のアルミニウム源粉末、チタン源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末、チタン酸アルミニウムマグネシウム粉末、銅源粉末及び孔形成剤を混合して混合粉末を得た。なお、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)は、レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装社製「Microtrac HRA(X−100)」)を用いて測定した。
[混合粉末の成分]
(1)アルミニウム源粉末:37.5質量部
中心粒径(D50)が29μmの酸化アルミニウム粉末(α−アルミナ粉末)
(2)チタン源粉末:36.8質量部
D50が0.6μmの酸化チタン粉末(ルチル型結晶)
(3)マグネシウム源粉末:1.96質量部
D50が3.4μmの酸化マグネシウム粉末
(4)ケイ素源粉末:3.18質量部
D50が8.5μmのガラスフリット(屈伏点:824℃、Ca成分含有)
(5)銅源粉末:1.13質量部
D50が25μmの酸化銅(II)(和光純薬社製)
(6)孔形成剤:11.7質量部
D50が31μmの馬鈴薯デンプン粉末
(7)チタン酸アルミニウムマグネシウム粉末:8.83質量部
チタン酸アルミニウムマグネシウム粉末としては、チタン酸アルミニウム系セラミックス焼成体(多孔質焼成体)を粉砕して得られた粉末を使用した。
【0093】
混合粉末における各成分の仕込み組成は、アルミナ[Al]、チタニア[TiO]、マグネシア[MgO]及びシリカ[SiO]換算のモル比で、[Al]/[TiO]/[MgO]/[SiO]=35.1%/51.3%/9.6%/4.0%であった。また、アルミニウム源粉末、チタン源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末及びチタン酸アルミニウムマグネシウム粉末の合計量に対するケイ素源粉末の含有量は4.0質量%であった。
【0094】
上記混合粉末100質量部に対して、メチルセルロース5.49質量部、ヒドロキシメチルセルロース2.35質量部、グリセリン0.40質量部及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル4.64質量部を加えた。さらに、水28.44質量部を加えた後、混練押出機を用いて混合物を押出成形して、長手方向に多数の貫通孔を有するハニカム形状のセラミックス成形体(形状:円柱状、貫通孔の断面形状:正方形状、成形体の直径:25mm、成形体の高さ:50mm、セル密度:300cpsi、セル壁厚:0.3mm)を得た。
【0095】
バインダを除去する仮焼(脱脂)工程を含む焼成を大気雰囲気下で成形体に対して行い、ハニカム形状の多孔質焼成体(ハニカム構造体、直径:25mm、長さ:50mm、セル密度:300cpsi、セル壁厚:0.3mm、貫通孔の断面内径(正方形の一辺の長さ):1.0mm)を得た。焼成時の最高温度は1500℃であり、最高温度における保持時間は5時間であった。多孔質焼成体は細孔構造を有しており、気孔径は26μm、開気孔率は41体積%であった。
【0096】
乳鉢を用いて多孔質焼成体を解砕した解砕品の組成は、アルミナ[Al]、チタニア[TiO]、マグネシア[MgO]及びシリカ[SiO]換算のモル比で[Al]/[TiO]/[MgO]/[SiO]=35.1%/51.3%/9.6%/4.0%であった。解砕品を構成するセラミックスにおけるチタン酸アルミニウムの含有量は、セラミックス全体を基準として90質量%であった。
【0097】
また、[CuO]換算の銅の含有量の割合は、アルミナ[Al]換算のアルミニウムの含有量に対してモル比で0.01であった。[CaO]換算のカルシウムの含有量の割合は、アルミナ[Al]換算のアルミニウムの含有量に対してモル比で0.01であった。SiO換算のケイ素の含有量の割合は、アルミナ[Al]換算のアルミニウムの含有量に対してモル比で0.02であった。
【0098】
粉末X線回折法により解砕品の回折スペクトルを測定した。解砕品は、チタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶ピークを示した。解砕品のチタン酸アルミニウム化率(AT化率)は100%であった。AT化率は、粉末X線回折スペクトルにおける2θ=27.4°の位置に現れるピーク(チタニア・ルチル相(110)面)の積分強度(I)と、2θ=33.7°の位置に現れるピーク(チタン酸アルミニウムマグネシウム相(230)面)の積分強度(IAT)とを用いて、下記式に基づき算出した。
AT化率(%)=IAT/(I+IAT)×100
【0099】
(熱膨張率測定)
長さ(貫通孔の長手方向)13mm、幅4mm、厚さ4mmの直方体形状の試験片を多孔質焼成体から切り出した。次いで、熱機械的分析装置(SIIテクノロジー(株)製、TMA6300)を用いて、室温(25℃)から1000℃まで600℃/hで昇温させた後に室温まで降温させた際の試験片の熱膨張率(TMA)を測定した。なお、熱膨張率としては、貫通孔の長手方向の熱膨張率を測定した。図3に測定結果を示す。
【0100】
次に、室温から1000℃までの温度範囲における最大熱膨張率(%)及び最小熱膨張率(%)の差を「熱膨張率差(ΔTMA)」として算出した。実施例1のΔTMAは0.28%であった。
【0101】
<比較例1>
(ハニカム構造体の作製)
混合粉末において銅源粉末を用いなかったことを除いて実施例1と同様の方法により多孔質焼成体(ハニカム構造体、直径:25mm、長さ:50mm、セル密度:300cpsi、セル壁厚:0.3mm、貫通孔の断面内径(正方形の一辺の長さ):1.0mm)を得た。多孔質焼成体は細孔構造を有しており、気孔径は19μm、開気孔率は43%であった。解砕品は、チタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶ピークを示した。解砕品のチタン酸アルミニウム化率(AT化率)は100%であった。
【0102】
(熱膨張率測定)
実施例1と同様の方法により、比較例1の多孔質焼成体から得られた試験片の熱膨張率を測定した。図3に測定結果を示す。比較例1のΔTMAは0.40%であった。
【符号の説明】
【0103】
1…ハニカムフィルタ、100…ハニカム構造体、110,110a,110b…貫通孔、120…隔壁、130…封口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の隔壁により仕切られた互いに平行な複数の貫通孔を有し、
前記隔壁が、アルミニウムと、チタンと、ケイ素と、カルシウムと、銅、ニッケル及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素と、を含有する酸化物を含み、
当該酸化物の少なくとも一部がチタン酸アルミニウムである、ハニカム構造体。
【請求項2】
前記酸化物が、前記金属元素として銅を含有する、請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
酸化物に換算した前記金属元素の含有量の割合が、Alに換算した前記アルミニウムの含有量に対してモル比で0.01〜0.25である、請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
CaOに換算した前記カルシウムの含有量の割合が、Alに換算した前記アルミニウムの含有量に対してモル比で0.01〜0.1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
SiOに換算した前記ケイ素の含有量の割合が、Alに換算した前記アルミニウムの含有量に対してモル比で0.01〜0.8である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のハニカム構造体と、
前記複数の貫通孔のうちの一部の一端及び前記複数の貫通孔のうちの残部の他端を封口する封口部と、を備える、ハニカムフィルタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−103188(P2013−103188A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249574(P2011−249574)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】