説明

ハニカム構造体

【課題】容器への収納をより容易にしたハニカム構造体を提供する。
【解決手段】複数の貫通孔170aを隔てる隔壁170cを有するハニカム状の柱状体170と、貫通孔170aの一端を塞ぐ封口部170bと、柱状体170の側面を覆うスキン層170dとを備え、複数の貫通孔170aのうち一部の貫通孔170aは、柱状体170の第1端面において封口部170bで塞がれ第2端面において開き、他の貫通孔170aは第2端面において封口部170bで塞がれ第1端面において開いているハニカム構造体200において、第1端面近傍において、スキン層170dの外周径が第1端面に至るにつれて小さくなる縮径部110であり、第1端面のスキン層170dの外周径が、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの外周径よりも小さい。このため、容器300への収納をより容易に行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関し、特に容器に収容されて使用されるハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンなどの内燃機関から排出される排ガスに含まれるカーボン粒子等の微細粒子を捕集するためのセラミックスフィルター(DPF:Diesel Particulate Filter)として、多孔質のセラミックスからなるハニカム構造体が用いられている。DPFのような用途においては、ハニカム構造体を容器に収容して使用する場合が多い。そのため、例えば特許文献1では、ハニカム構造体の外周壁の外周面に凹凸部を設けることにより、ハニカム構造体を容器に収容した場合に、ハニカム構造体が破損しにくく、かつずれが生じないようにしたハニカム構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−125182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の技術においても、単にハニカム構造体の外周壁の外周面に凹凸部を設けただけでは、ハニカム構造体の容器への収納に手間がかかり、改善が望まれている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、容器への収納をより容易にしたハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、互いに略平行な複数の貫通孔が形成され、複数の貫通孔を隔てる隔壁を有するハニカム状の柱状体と、貫通孔の一方の端部を塞ぐ封口部と、柱状体の側面を覆うスキン層とを備え、複数の貫通孔のうち一部の貫通孔は、貫通孔に略直交する柱状体の第1端面及び第2端面のうち第1端面において封口部で塞がれ、第2端面において開き、他の貫通孔は、第2端面において封口部で塞がれ、第1端面において開いており、第1端面近傍において、スキン層の外周径が第1端面に至るにつれて小さくなり、第1端面のスキン層の外周径が、柱状体の側面の中央部のスキン層の外周径よりも小さい、ハニカム構造体である。
【0007】
この構成によれば、互いに略平行な複数の貫通孔が形成され、複数の貫通孔を隔てる隔壁を有するハニカム状の柱状体と、貫通孔の一方の端部を塞ぐ封口部と、柱状体の側面を覆うスキン層とを備え、複数の貫通孔のうち一部の貫通孔は、貫通孔に略直交する柱状体の第1端面及び第2端面のうち第1端面において封口部で塞がれ、第2端面において開き、他の貫通孔は、第2端面において封口部で塞がれ、第1端面において開いているハニカム構造体において、第1端面近傍において、スキン層の外周径が第1端面に至るにつれて小さくなり、第1端面のスキン層の外周径が、柱状体の側面の中央部のスキン層の外周径よりも小さい。このため、容器への収納をより容易に行なうことができる。
【0008】
この場合、第1端面のスキン層の外周径をA0、柱状体の側面の中央部のスキン層の外周径をBとしたときに、A0及びBは下式(1)を満たすことが好適である。
|B−A0|/B>0.001 (1)
【0009】
この構成によれば、第1端面のスキン層の外周径をA0、柱状体の側面の中央部のスキン層の外周径をBとしたときに、A0及びBは、|B−A0|/B>0.001を満たす。このように、第1端面のスキン層の外周径A0が、柱状体の側面の中央部のスキン層の外周径Bよりもわずかに小さくされていることにより、容器への収納をより容易に行なうことができ、且つ容器とハニカム構造体との間隙を小さくすることができ、シール性が向上する。
【0010】
また、第1端面近傍においてスキン層の外周径が第1端面に至るにつれて小さくなる領域は、第1端面から封口部が存在する長さの3倍以上の範囲であることが好適である。
【0011】
この構成によれば、第1端面近傍においてスキン層の外周径が第1端面に至るにつれて小さくなる領域は、第1端面から封口部が存在する長さの3倍以上の範囲である。そのため、封口部に負担をかけずに容器への収納をより容易に行なうことができる。
【0012】
また、柱状体の側面において、第1端面から第2端面に到るまでの間に、スキン層の外周径が変化しない領域を有することが好適である。
【0013】
この構成によれば、柱状体の側面において、第1端面から第2端面に到るまでの間に、スキン層の外周径が変化しない領域を有する。このため、容器とハニカム構造体との間隙を小さくすることができ、シール性が向上する。
【0014】
また、第2端面近傍において、スキン層の外周径が第2端面に至るにつれて大きくなり、第2端面のスキン層の外周径が、柱状体の側面の中央部のスキン層の外周径よりも大きいことが好適である。
【0015】
この構成によれば、第2端面近傍において、スキン層の外周径が第2端面に至るにつれて大きくなり、第2端面のスキン層の外周径が、柱状体の側面の中央部のスキン層の外周径よりも大きい。これにより、第2端面が容器のガス流入側になるようにハニカム構造体を容器内に設置することにより、容器とハニカム構造体の間隙を小さくすることができ、シール性が向上する。
【0016】
この場合、第2端面のスキン層の外周径をA1、柱状体の側面の中央部のスキン層の外周径をBとしたときに、A1及びBは下式(2)を満たすことが好適である。
|B−A1|/B>0.001 (2)
【0017】
この構成によれば、第2端面のスキン層の外周径をA1、柱状体の側面の中央部のスキン層の外周径をBとしたときに、A1及びBは、|B−A1|/B>0.001を満たす。このように、第2端面のスキン層の外周径A1が、柱状体の側面の中央部のスキン層の外周径Bよりもわずかに大きくされていることにより、容器への収納をより容易に行なうことができ、且つ容器とハニカム構造体との間隙を小さくすることができ、シール性が向上する。
【0018】
また、柱状体、封口部及びスキン層は多孔質のセラミックスから構成されていることが好適である。
【0019】
この構成によれば、柱状体、封口部及びスキン層は多孔質のセラミックスから構成されている。このため、DPFとして良好な特性を持つものとできる。
【0020】
この場合、柱状体、封口部及びスキン層は、マグネシウム及びケイ素を含む多孔質のチタン酸アルミニウムから構成されていることが好適である。
【0021】
この構成よれば、柱状体、封口部及びスキン層は、マグネシウム及びケイ素を含む多孔質のチタン酸アルミニウムから構成されている。チタン酸アルミニウムマグネシウム焼結体からなるDPFは、SiC、コージェライト又はチタン酸アルミニウム単体からなるDPFに比べて、熱膨張係数が極めて小さく、融点が高く、再生時の耐熱衝撃性に優れ、煤の限界堆積量が大きい点において優れているため、DPFとしてさらに良好な特性を持つものとできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のハニカム構造体によれば、容器への収納をより容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るグリーン成形体の斜視図であり、(b)は、(a)の柱状体の第一端面の正面図である。
【図2】(a)は、(a)及び(b)に示すグリーン成形体を本実施形態の手法により焼成することにより形成したハニカム構造体の斜視図であり、(b)は、(a)のハニカム構造体の第一端面の正面図である。
【図3】ハニカム構造体が容器に収納される際における本実施形態のハニカム構造体の縮径部の作用を示す図である。
【図4】ハニカム構造体が容器に収納される際における本実施形態のハニカム構造体の縮径部及び拡径部の作用を示す図である。
【図5】実施例のハニカム構造体の高さに対する平均直径を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、上下左右の位置関係は図面に示す通りであるが、寸法の比率は図面に示すものに限定されない。
【0025】
<グリーン成形体>
図2(a),2(b)に示す本実施形態のハニカム構造体200は、図1(a)及び1(b)に示すグリーン成形体100を本実施形態の手法により焼成することにより得られる。なお、グリーン成形体とは、焼成される前の生の成形体を意味する。
【0026】
グリーン成形体100は、ハニカム構造を有する柱状体(円柱体)70を備える。柱状体70は、その中心軸に平行であり、互いに直交する複数の隔壁70cを有する。つまり、柱状体70は、その中心軸方向に垂直な断面において格子構造を有する。換言すれば、柱状体70には、同一方向(中心軸方向)に延びる多数の貫通孔70a(流路)が形成されており、隔壁70cが各貫通孔70aを隔てる。各貫通孔70aは柱状体70の両端面に垂直である。なお、柱状体70が有する複数の隔壁70cが互いになす角は特に限定されず、図1(b)のように90°であってもよく、120°であってもよい。柱状体70は、柱状体70の側面を覆うスキン層70dを有する。グリーン成形体100の時点では、スキン層70dの平均の外周径は、柱状体70の一方の端面から他方の端面に到るまで略同一の直径とされている。
【0027】
複数の貫通孔70aのうち一部の貫通孔は、貫通孔に直交する第一端面において封口材70bで塞がれている。第1一端面では、封口材70bで塞がれた貫通孔70aの端部と開いた貫通孔70aの端部とが、格子状に交互に配置されている。第一端面において封口材70bで塞がれた貫通孔70aは、第一端面と反対側の第二端面において開いている。第一端面において開いている貫通孔70aは、第二端面において封口材70bで塞がれている(図示省略)。よって、第二端面においても、封口材70bで塞がれた貫通孔70aの端部と開いた貫通孔70aの端部とが、格子状に交互に配置されている。このように、複数の貫通孔70aは、第一端面又は第二端面のいずれか一方の面において封口材70bで塞がれている。
【0028】
(柱状体)
柱状体70は、無機化合物粉末、造孔剤、有機バインダ及び溶媒等を混練機等により混合して調製した原料混合物を成形することにより得られる。無機化合物粉末は、チタン酸アルミニウム系セラミックスの原料粉末を含む。なお、セラミックスの原料粉末とは、焼成によりセラミックスになるものである。チタン酸アルミニウム系セラミックスの原料粉末とは、例えば、チタン源粉末及びアルミニウム源粉末である。無機化合物粉末は、更にマグネシウム源粉末及びケイ素源粉末を含んでもよい。原料混合物は、チタン酸アルミニウム系セラミックスそのものを含んでもよい。これにより、焼結に伴う柱状体70の収縮率が低減される。なお、チタン酸アルミニウム系セラミックスとは、例えば、チタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウムである。
【0029】
[アルミニウム源]
アルミニウム源は、チタン酸アルミニウム焼結体を構成するアルミニウム成分となる化合物である。アルミニウム源としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)が挙げられる。アルミナの結晶型としては、γ型、δ型、θ型、α型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。なかでも、α型のアルミナが好ましく用いられる。
【0030】
アルミニウム源は、単独で空気中で焼成することによりアルミナに導かれる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。
【0031】
アルミニウム塩は、無機酸との無機塩であってもよいし、有機酸との有機塩であってもよい。具体的なアルミニウム無機塩としては、例えば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム硝酸塩、炭酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、例えば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0032】
アルミニウムアルコキシドとして具体的には、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0033】
水酸化アルミニウムの結晶型としては、例えば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、例えば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどのような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物も挙げられる。
【0034】
アルミニウム源としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記のなかでも、アルミニウム源としては、アルミナが好ましく用いられ、より好ましくは、α型のアルミナである。なお、アルミニウム源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0035】
アルミニウム源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される体積基準の累積百分率50%に相当するアルミニウム源粉末の粒子径は20〜60μmの範囲内であればよい。なお、この粒子径は、D50又は平均粒子径とも呼ばれる。焼成時の収縮率低減の観点からは、D50が30〜60μmの範囲内であるアルミニウム源粉末を用いることが好ましい。
【0036】
原料混合物にはアルミナゾルや後述のシリカゾルを添加することができる。このように、アルミナゾル、シリカゾル等を添加することにより、原料混合物中の微小な粒子同士を吸着させ、グリーン成形体中の粒子径0.1μm以下の粒子の量を、無機化合物粉末(固形分)の100重量部に対して1〜5重量部とすることができ、これにより500℃における脱脂後の成形体の強度を例えば0.2kgf以上とすることができる。
【0037】
アルミナゾルとは、微粒子状のアルミナを分散質とし、液体を分散媒とするコロイドである。アルミナゾルは、単独でアルミニウム源とすることもできるが、他のアルミニウム源と共に併用されることが好ましい。アルミナゾルの分散媒は、例えば、混合時や仮焼時に蒸発等により除去される。
【0038】
アルミナゾルの分散媒としては、水溶液や各種有機溶媒、例えば、塩酸水溶液、酢酸水溶液、硝酸水溶液、アルコール、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。アルミナゾルとしては、平均粒子径が1〜100nmのコロイド状アルミナゾルが好適に用いられる。このような平均粒子径を有するアルミナゾルを用いることにより、原料混合物中の粒子同士を吸着させられるといった利点がある。また、アルミナゾルの市販品としては、例えば、日産化学工業社製「アルミナゾル100」、「アルミナゾル200」、「アルミナゾル520」、シーアイ化成製「NanoTekAl」等が挙げられる。このうち、日産化学工業社製「アルミナゾル200」を用いることが好ましい。
【0039】
アルミナゾルは、無機化合物粉末(固形分)の100重量部に対して固形分で0〜10重量部、好ましくは0〜5重量部用いることができる。アルミナゾルは、2種以上混合して用いてもよい。
【0040】
[チタン源]
チタン源は、チタン酸アルミニウム焼結体を構成するチタン成分となる化合物であり、かかる化合物としては、例えば酸化チタンが挙げられる。酸化チタンとしては、例えば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられ、なかでも酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)の結晶型としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。より好ましくは、アナターゼ型、ルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0041】
チタン源は、単独で空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えば、チタン塩、チタンアルコキシド、水酸化チタン、窒化チタン、硫化チタン、チタン金属などが挙げられる。
【0042】
チタン塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタンアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、および、これらのキレート化物などが挙げられる。
【0043】
チタン源としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記のなかでも、チタン源としては、酸化チタンが好ましく用いられ、より好ましくは、酸化チタン(IV)である。なお、チタン源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0045】
チタン源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%に相当するチタン源粉末の粒子径(D50)は0.5〜25μmの範囲内であればよい。十分に低い焼成収縮率の達成のためには、チタン源粉末のD50が1〜20μmの範囲内であることが好ましい。なお、チタン源粉末は、バイモーダルな粒径分布を示すことがあるが、このようなバイモーダルな粒径分布を示すチタン源粉末を用いる場合においては、レーザー回折法により測定される粒径分布における、粒径が大きい方のピークの粒径が20〜50μmの範囲内であることが好ましい。
【0046】
レーザー回折法により測定されるチタン源粉末のモード径は、特に限定されないが、0.3〜60μmの範囲内であればよい。
【0047】
[マグネシウム源]
原料混合物は、マグネシウム源を含有していてもよい。マグネシウム源を含むグリーン成形体100から製造されたハニカム構造体200は、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶の焼結体である。
【0048】
マグネシウム源としては、マグネシア(酸化マグネシウム)のほか、単独で空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる化合物が挙げられる。後者の例としては、例えば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。
【0049】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0050】
マグネシウムアルコキシドとして具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。なお、マグネシウム源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0051】
マグネシウム源として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物を用いることもできる。このような化合物としては、例えば、マグネシアスピネル(MgAl)が挙げられる。
【0052】
マグネシウム源として、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。マグネシウム源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される体積基準の累積百分率50%に相当するマグネシウム源粉末の粒子径(D50)は0.5〜30μmの範囲内であればよい。焼成時の収縮率低減の観点からは、D50が3〜20μmの範囲内であるマグネシウム源粉末を用いることが好ましい。
【0053】
グリーン成形体中におけるMgO(マグネシア)換算でのマグネシウム源のモル量は、Al(アルミナ)換算でのアルミニウム源とTiO(チタニア)換算でのチタン源との合計モル量に対して、0.03〜0.15であることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.12である。マグネシウム源の含有量をこの範囲内に調整することにより、耐熱性がより向上された、大きい細孔径および開気孔率を有するチタン酸アルミニウム焼結体を比較的容易に得ることができる。
【0054】
[ケイ素源]
原料混合物は、ケイ素源をさらに含有していてもよい。ケイ素源は、シリコン成分となってチタン酸アルミニウム焼結体に含まれる化合物である。ケイ素源の併用により、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム焼結体を得ることが可能となる。ケイ素源としては、例えば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などの酸化ケイ素(シリカ)が挙げられる。
【0055】
ケイ素源は、単独で空気中で焼成することによりシリカに導かれる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ガラスフリットなどが挙げられる。なかでも、長石、ガラスフリットなどが好ましく用いられ、工業的に入手が容易であり、組成が安定している点で、ガラスフリットなどがより好ましく用いられる。なお、ガラスフリットとは、ガラスを粉砕して得られるフレークまたは粉末状のガラスをいう。ケイ素源として、長石とガラスフリットとの混合物からなる粉末を用いることもできる。
【0056】
ケイ素源がガラスフリットである場合、得られるチタン酸アルミニウム焼結体の耐熱分解性をより向上させるという観点から、屈伏点が700℃以上のものを用いることが好ましい。ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analysis)を用いて、低温からガラスフリットの膨張を測定し、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0057】
ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸(SiO)を主成分(全成分中50重量%以上)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ(Al)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化カルシウム(CaO)、マグネシア(MgO)等を含んでいてもよい。このようなガラスは、例えば、アルミノシリケートガラスである。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrOを含有していてもよい。
【0058】
ケイ素源として、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
ケイ素源粉末の粒径は、特に限定されない。例えば、レーザー回折法により測定される体積基準の累積百分率50%に相当するケイ素源の粒子径(D50)は0.5〜30μmの範囲内であればよい。グリーン成形体の比重をより向上させ、機械的強度のより高い焼成体を得るためには、ケイ素源のD50が1〜20μmの範囲内であることが好ましい。
【0060】
原料混合物がケイ素源を含む場合、原料混合物中におけるケイ素源の含有量は、Al(アルミナ)換算でのアルミニウム源とTiO(チタニア)換算でのチタン源との合計量100重量部に対して、SiO(シリカ)換算で、通常0.1重量部〜10重量部であり、好ましくは5重量部以下である。また、原料混合物中におけるケイ素源の含有量は、原料混合物中に含まれる無機化合物源中、2重量%以上5重量%以下とすることがより好ましい。ケイ素源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0061】
マグネシアスピネル(MgAl)などの複合酸化物のように、チタン、アルミニウム、ケイ素およびマグネシウムのうち、2つ以上の金属元素を成分とする化合物を原料として用いることができる。
【0062】
原料混合物中の無機化合物粉末100重量部における粒子径0.1μm以下の粒子の含有量を1〜5重量部とする場合、上述のように、原料混合物にアルミナゾルおよび/またはシリカゾルを添加して混合することが好ましい。シリカゾルとは、微粒子状のシリカを分散質とし、液体を分散媒とするコロイドである。シリカゾルは、単独でケイ素源とすることもできるが、他のシリカ源と共に併用されることが好ましい。シリカナゾルの分散媒は、例えば、混合時や仮焼時に蒸発等により除去される。
【0063】
シリカゾルの分散媒としては、水溶液や各種有機溶媒、例えば、アンモニア水溶液、アルコール、キシレン、トルエン、トリグリセリドなどが挙げられる。シリカゾルとしては、平均粒子径が1〜100nmのコロイド状シリカゾルが好適に用いられる。このような平均粒子径を有するシリカゾルを用いることにより、原料混合物中の粒子同士を吸着させ、焼成時に融解し結合させることができるといった利点がある。
【0064】
シリカゾルの市販品としては、例えば、日産化学工業社製「スノーテックス20、30、40、50、N、O、S、C、20L、OL、XS、XL、YL、ZL、QAS−40、LSS−35、LSS−45」、旭電化社製「アデライトAT−20、AT−30、AT−40、AT−50、AT−20N、AT−20A、AT−30A、AT−20Q、AT−300、AT−300Q」、触媒化成工業社製「Cataloid S−20L、S−20H、S−30L、S−30H、SI−30、SI−40、SI−50、SI−350、SI−500、SI−45P、SI−80P、SN、SA、SC−30」、デュポン社製「ルドックスHS−40、HS−30、LS、SM−30、TM、AS、AM」等が挙げられる。このうち、中性域でコロイド状態が安定な「スノーテックスC」を用いることが好ましい。
【0065】
原料混合物におけるシリカゾルの含有量は、無機化合物粉末(固形分)の100重量部に対して固形分で0〜10重量部、好ましくは0〜5重量部であればよい。2種以上のシリカゾルを混合して用いてもよい。
【0066】
[有機バインダ]
有機バインダとしては、水溶性の有機バインダが好ましい。水溶性の有機バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩などの塩などが挙げられる。
【0067】
有機バインダの量は、無機化合物粉末の100重量部に対して、通常20重量部以下であり、好ましくは15重量部以下、さらに好ましくは6重量部である。また、有機バインダの下限量は、通常0.1重量部、好ましくは3重量部である。
【0068】
[溶媒]
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類、および水などの極性溶媒を用いることができる。なかでも、水が好ましく、不純物が少ない点で、より好ましくはイオン交換水が用いられる。溶媒の使用量は、無機化合物粉末の100重量部に対して、通常、10重量部〜100重量部、好ましくは20重量部〜80重量部である。なお、溶媒として非極性溶媒を用いてもよい。
【0069】
[その他の添加物]
原料混合物は、有機バインダ以外の有機添加物を含むことができる。その他の有機添加物とは、例えば、造孔剤、潤滑剤および可塑剤、分散剤である。
【0070】
造孔剤としては、グラファイト等の炭素材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類、でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物材料、氷、及びドライアイス等などが挙げられる。造孔剤の添加量は、無機化合物粉末の100重量部に対して、通常、0〜40重量部であり、好ましくは0〜25重量部である。造孔剤はグリーン成形体の焼成時に消失する。したがって、チタン酸アルミニウム焼結体では、造孔剤が存在していた箇所に微細孔が形成される。
【0071】
潤滑剤及び可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類、カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸、ステアリン酸Al等のステアリン酸金属塩などが挙げられる。潤滑剤及び可塑剤の添加量は、無機化合物粉末の100重量部に対して、通常、0〜10重量部であり、好ましくは1〜5重量部である。
【0072】
分散剤としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸等の有機酸、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の界面活性剤などが挙げられる。分散剤の添加量は、無機化合物粉末の100重量部に対して、通常、0〜20重量部であり、好ましくは2〜8重量部である。
【0073】
(封口材)
封口材70bは、チタン酸アルミニウム系セラミックスを含む。セラミックスとは、例えば、チタン酸アルミニウム系セラミックスの粉末又は粒子である。また、封口材70bは、柱状体70と同様に、上記の造孔剤、有機バインダ及び溶媒等を含有する。これらの成分を所定の比率で混合することにより、ペースト状の封口材70bが得られる。なお、ハニカム構造体の製造過程で得られるセラミックスの屑やハニカム構造体の破損品等を粉砕して得たセラミックスの粉末を、封口材70b用のセラミックス粉末として再利用しても良い。これにより、ハニカム構造体の原料コストが削減される。封口材70bは、チタン酸アルミニウム系セラミックスの原料粉末(無機化合物粉末)を含んでもよく、含まなくてもよい。焼結に伴う封口材70bの収縮率を低減するためには、封口材70bがセラミックス粉末を含有し、セラミックスの原料粉末を含有しないことが好ましい。セラミックス粉末の平均粒径は、特に限定されないが、5〜50μm程度であればよい。
【0074】
なお、封口材70bの固液分離を防止するためには、封口材70bを粘調な液状とすることが好ましい。そのためには、封口材70bが含有するセラミックス粉末の質量と造孔剤の質量との合計を100質量部とするとき、封口材70b中のバインダの質量を0.3〜3質量部、潤滑剤の質量を3〜20質量部とし、封口材70bの粘度を20〜200Pa・sとすることが好ましい。
【0075】
<ハニカム構造体>
上記のグリーン成形体100を以下に示す本実施形態の手法により焼成することにより、柱状体70及び封口部70bが含むセラミックス粉末やセラミックスの原料粉末が焼結する。図2(a)(b)に示すように、焼成後のハニカム構造体200は、柱状体170の側面を覆うスキン層170dの第1端面近傍において、スキン層170dの平均外周径が第1端面に至るにつれて小さくなる縮径部110を有している。第1端面のスキン層170dの平均外周径は、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの平均外周径よりも小さくされている。この第1端面のスキン層170dの平均外周径をA0、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの平均外周径をBとしたときに、A0及びBは下式(1)を満たす。すなわち、第1端面の平均外周径は、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの平均外周径よりもわずかに小さくされている。
|B−A0|/B>0.001 (1)
【0076】
第1端面近傍においてスキン層170dの平均外周径が第1端面に至るにつれて小さくなる縮径部110の領域は、第1端面から封口部170bが存在する長さの3倍以上の範囲である。
【0077】
一方、焼成後のハニカム構造体200は、第2端面近傍において、スキン層170dの平均外周径が第2端面に至るにつれて大きくなる拡径部120を有している。第2端面のスキン層170dの平均外周径は、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの平均外周径よりも大きくされている。第2端面のスキン層170dの平均外周径をA1、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの平均外周径をBとしたときに、A1及びBは下式(2)を満たす。すなわち、第2端面の平均外周径は、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの平均外周径よりもわずかに大きくされている。
|B−A1|/B>0.001 (2)
【0078】
第2端面近傍においてスキン層170dの平均外周径が第2端面に至るにつれて大きくなる拡径部120の領域は、第2端面から封口部170bが存在する長さの3倍以上の範囲である。また、柱状体170の側面において、縮径部110及び拡径部120を除いた第1端面から第2端面に到るまでの間に、スキン層170の平均外周径は略同一の直径とされている。
【0079】
封口材70bは隔壁70cと焼結し、一体化して、封口部170bを形成する。その結果、図2(a)及び2(b)に示すように、多孔質のチタン酸アルミニウム系セラミックスからなるハニカム構造体200(多セル型セラミックモノリス)が得られる。ハニカム構造体200は、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウム(AlTiO)又はチタン酸アルミニウムマグネシウム(Al2(1−x)MgTi(1+x))の結晶パターンのほか、アルミナ、チタニアなどの結晶パターンを含んでいてもよい。ハニカム構造体200はケイ素を含有してもよい。ハニカム構造体200はグリーン成形体100と同様の構造を有し、DPFに好適である。
【0080】
特に、チタン酸アルミニウムマグネシウム焼結体からなるDPFは、SiC、コージェライト又はチタン酸アルミニウム単体からなるDPFに比べて、熱膨張係数が極めて小さく、融点が高く、再生時の耐熱衝撃性に優れ、煤の限界堆積量が大きい点において優れている。DPF用のハニカム構造体200の隔壁表面に、アルミナ等の担体に担持された白金系金属触媒や、セリア又はジルコニア等の助触媒を付着させてもよい。
【0081】
チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるアルミニウムの含有率は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム換算で40〜60モル%である。チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるチタンの含有率は、特に限定されないが、例えば、酸化チタン換算で35〜55モル%である。チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるマグネシウムの含有率は酸化マグネシウム換算で1〜5質量%であることが好ましい。チタン酸アルミニウム系セラミックスにおけるケイ素の含有率は酸化ケイ素換算で2〜5質量%であることが好ましい。なお、チタン酸アルミニウム系セラミックスの組成は、原料混合物の組成により適宜調整すればよい。チタン酸アルミニウム系セラミックスは、上記の成分以外に、原料に由来する成分又は製造工程において不可避的に仕掛品に混入する微量の成分を含有し得る。
【0082】
貫通孔70aの長手方向に垂直な断面の内径(正方形の一辺の長さ)は特に限定されないが、例えば0.8〜2.5mmである。貫通孔70aが延びる方向におけるハニカム構造体200の長さは特に限定されないが、例えば40〜350mmである。また、ハニカム構造体200の外径も特に限定されないが、例えば10〜320mmである。貫通孔70aが延びる方向における封口部170bの長さは特に限定されないが、例えば1〜20mmである。ハニカム構造体200の端面に開いている貫通孔70aの数(セル密度)は特に限定されないが、例えば150〜450cpsiである。cpsiとの単位は「/inch」を意味し、「/(0.0254m)」に等しい。貫通孔70aの隔壁の厚さは特に限定されないが、例えば0.15〜0.76mmである。ハニカム構造体200の有効気孔率は30〜60体積%程度である。ハニカム構造体200に形成された細孔の平均直径は1〜20μm程度である。細孔径分布(D90−D10)/D50は0.5未満程度である。なお、D10、D50、D90は、全細孔容積のうち累積細孔容積が各々10%、50%、90%になるときの細孔直径である。
【0083】
<ハニカム構造体の製造方法>
(原料混合物の調製工程及び成形工程)
【0084】
柱状体70を形成するために、無機化合物粉末、造孔剤、有機バインダ及び溶媒等を混練機等により混合して原料混合物を調製する。格子状の開口を有するダイを備える押出成形機を用いて、原料混合物を成形することにより、柱状体70を形成する。なお、押出成形前の原料混合物を混練してもよい。
【0085】
(封口材の調製工程)
セラミックス粉末を含有させ、成分の配合比を調整すること以外は、柱状体70用の原料混合物と同様の方法で、封口材70bを調製する。
【0086】
(封口工程)
封口工程では、柱状体70において複数の貫通孔70aが開いている第一端面に第一マスクを貼り付ける。第一マスクでは、貫通孔70aと略同様の寸法を有する複数のマスク部と開口部とが千鳥状に配置されている。各貫通孔70aと各マスク部及び開口部とが重なるように、柱状体70の第一端面に第一マスクを貼り付ける。また、柱状体70において第一端面とは反対側の第二端面に、第二マスクを貼り付ける。第二マスクが有する開口部とマスク部の配置関係は第一マスクとは真逆である。したがって、第一端面側で第一マスクのマスク部に塞がれた貫通孔70aは、第二端面側で第二マスクの開口部と重なる。第二端面側で第二マスクのマスク部に塞がれた貫通孔70aは、第一端面側で第一マスクの開口部と重なる。したがって、柱状体70に形成された複数の貫通孔70aのいずれも、第一端面又は第二端面のいずれか一方において開き、他方においてマスク部で塞がれる。
【0087】
第一端面に対する封口工程では、第一マスクの開口部と重なる各貫通孔70aの端部内に上記の封口材70bを導入する。なお、貫通孔70aに封口材を導入した後、柱状体70全体を振動器により振動させてもよい。これにより、貫通孔70aの端部の隙間に隈なく封口材70bが充填され易くなる。
【0088】
以上の第一端面に対する封口工程後、第一端面に対する封口工程と同様に、第二マスクが貼られた第二端面に対する封口工程を実施する。両端面に封口工程を施した後に、各端面から各マスクを剥がす。これにより、図1(a),1(b)に示すグリーン成形体100が完成する。
【0089】
(焼成工程)
以上の押出成形、乾燥、切断及び封口を施したグリーン成形体100をガス炉内の棚板の上に、グリーン成形体100の1つの端面(第2端面)が棚板側になり、他の端面(第2端面)がガス流の下流側(ガス炉のガス流に依存するが、例えば、ガス炉の上方側)になるように置き、第2端面の焼成温度よりも、第1端面の焼成温度が高い条件下で焼成する。
【0090】
この場合の温度制御は、(1)邪魔板を使ったガス流の調節、(2)バーナーの追加及びその設置位置の変更、(3)炉内の形状変更により行なうことができる。通常は、焼成温度シミュレーションにて、グリーン成形体100の第2端面の焼成温度よりも、第1端面の焼成温度が高くなる条件を選択することができる。また、(1)邪魔板を使ったガス流の調節、(2)バーナーの追加及びその設置位置の変更、又は(3)炉内の形状変更を行なった後に、焼成試験を行なうことにより、グリーン成形体100の第2端面の焼成温度よりも、第1端面の焼成温度が高くなる条件を選択することができる。
【0091】
この場合、上記のようにして焼成温度を調整した炉内で、グリーン成形体100を仮焼き(脱脂)し、且つ焼成することにより、図2(a),2(b)に示すハニカム構造体200を得ることができる。仮焼き(脱脂)は、グリーン成形体100中の有機バインダや、必要に応じて配合される有機添加物を、焼失、分解等により除去するための工程である。典型的な仮焼き工程は、焼成工程の初期段階、すなわちグリーン成形体100が焼成温度に至るまでの昇温段階(例えば、300〜900℃の温度範囲)に相当する。仮焼(脱脂)工程おいては、昇温速度を極力おさえることが好ましい。
【0092】
グリーン成形体100の焼成温度は、通常、1300℃以上、好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、通常、1650℃以下、好ましくは1550℃以下である。この温度範囲でグリーン成形体100を加熱することにより、グリーン成形体100中の無機化合物粉末やセラミックス粉末が確実に焼結する。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。
【0093】
焼成は通常、大気中で行なわれるが、用いる原料粉末、すなわちアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0094】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0095】
焼成に要する時間は、グリーン成形体100がチタン酸アルミニウム系結晶に遷移するのに十分な時間であればよく、グリーン成形体100の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分〜24時間である。
【0096】
なお、グリーン成形体100の仮焼きと焼成を個別に行ってもよく、連続して行ってもよい。仮焼き工程では、有機バインダその他の有機添加物の熱分解温度以上であり無機化合物粉末の焼結温度よりも低い温度でグリーン成形体100を加熱すればよい。焼成工程では、仮焼き工程後のグリーン成形体100を無機化合物粉末の焼結温度以上の温度で加熱すればよい。
【0097】
<ハニカム構造体の作用>
図3に示すように、本実施形態のハニカム構造体200は、第1端面に縮径部110が形成されている。この縮径部110は、第1端面に到るにつれて平均外周径が小さくなり、柱状体170の中央部のスキン層170dの平均外周径よりもわずかに小さな平均外周径とされている。そのため、容器300への収納が容易となる。
【0098】
特に本実施形態によれば、第1端面のスキン層170dの外周径をA0、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの外周径をBとしたときに、A0及びBは、|B−A0|/B>0.001を満たす。このように、第1端面のスキン層170dの外周径A0が、柱状体170の側面の中央部のスキン層の外周径Bよりもわずかに小さくされていることにより、容器300への収納をより容易に行なうことができ、且つ容器300とハニカム構造体200との間隙を小さくすることができ、シール性が向上する。
【0099】
また、本実施形態によれば、第1端面近傍においてスキン層170dの外周径が第1端面に至るにつれて小さくなる縮径部110の領域は、第1端面から封口部170bが存在する長さの3倍以上の範囲である。そのため、封口部170bに負担をかけずに容器への収納をより容易に行なうことができる。
【0100】
また、本実施形態によれば、柱状体170の側面において、縮径部110及び拡径部120を除く第1端面から第2端面に到るまでの間に、スキン層170dの外周径は略一定の直径で変化しない。このため、容器300とハニカム構造体200との間隙を小さくすることができ、シール性が向上する。
【0101】
さらに図4に示すように、本実施形態によれば、第2端面近傍において、スキン層170dの外周径が第2端面に至るにつれて大きくなる拡径部120を有する。また、第2端面のスキン層170dの外周径は、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの外周径よりも大きい。これにより、第2端面が容器300のガス流入側になるようにハニカム構造体200を容器300内に設置することにより、容器300とハニカム構造体200の間隙を小さくすることができ、シール性が向上する。
【0102】
特に、本実施形態では、第2端面のスキン層170dの外周径をA1、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの外周径をBとしたときに、A1及びBは、|B−A1|/B>0.001を満たす。このように、第2端面のスキン層170dの外周径A1が、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの外周径Bよりもわずかに大きくされていることにより、容器300への収納をより容易に行なうことができ、且つ容器300とハニカム構造体200との間隙を小さくすることができ、シール性が向上する。
【0103】
また、本実施形態によれば、柱状体170、封口部170b及びスキン層170dは多孔質のセラミックスから構成されており、マグネシウム及びケイ素を含む多孔質のチタン酸アルミニウムから構成されている。チタン酸アルミニウムマグネシウム焼結体からなるDPFは、SiC、コージェライト又はチタン酸アルミニウム単体からなるDPFに比べて、熱膨張係数が極めて小さく、融点が高く、再生時の耐熱衝撃性に優れ、煤の限界堆積量が大きい点において優れているため、DPFとしてさらに良好な特性を持つものとできる。
【0104】
以上、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0105】
例えば、柱状体70や封口材70bは、チタン酸アルミニウム系セラミックスの代わりにコージェライト系セラミックスやシリコンカーバイド等のセラミックスを含んでもよい。また柱状体70や封口材70bは、これらセラミックスの原料粉末を含んでもよい。コージェライト系セラミックスの原料粉末としては、上述したアルミニウム源粉末、シリカ源粉末及びマグネシウム源粉末を用いればよい。ハニカム構造体200の形状は円柱に限定されず、用途に応じて任意の形状をとることができる。例えば、ハニカム構造体200の形状が、多角柱や楕円柱等であってもよい。
【0106】
ハニカム構造体の用途はDPFに限定されない。ハニカム構造体は、ガソリンエンジンなどの内燃機関の排気ガス浄化に用いられる排ガスフィルター又は触媒担体、ビールなどの飲食物の濾過に用いる濾過フィルター、石油精製時に生じるガス成分(例えば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素等)を選択的に透過させるための選択透過フィルターなどのセラミックスフィルターなどに好適に適用することができる。なかでも、セラミックスフィルターなどとして用いる場合、チタン酸アルミニウム系セラミックスは、高い細孔容積および開気孔率を有することから、良好なフィルター性能を長期にわたって維持することができる。
【実施例1】
【0107】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0108】
(実施例1)
柱状体を形成するために、チタン酸アルミニウムマグネシウムの原料粉末(Al,TiO,MgO)、アルミノシリケートガラス粉末、チタン酸アルミニウムマグネシウムとアルミナとアルミノシリケートガラスとの複合相をもつセラミックス粉末(仕込み時の組成式:41.4Al−49.9TiO−5.4MgO−3.3SiO、式中の数値はモル比を表す。)、有機バインダ、潤滑剤、造孔剤、可塑剤、分散剤及び水(溶媒)を含む原料混合物を調製した。原料混合物中の主な成分の含有量は下記の値に調整した。
【0109】
[原料混合物の成分]
Al:37.3質量部。
TiO:37.0質量部。
MgO:1.9質量部。
アルミノシリケートガラス粉末:3.0質量部
セラミックス粉末:8.8質量部。
造孔剤:馬鈴薯から得た平均粒径25μmの澱粉12.0質量部。
有機バインダ1:メチルセルロース(三星精密化学社製:MC−40H)5.5質量部。
有機バインダ2:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(三星精密化学社製:PMB−40H)2.4質量部。
【0110】
上記の原料混合物を混練して押出成形することにより、互いに略平行な複数の貫通孔70aが形成され、貫通孔70aを隔てる隔壁70cを有する柱状体70を作製した(図1(a),1(b)参照)。セラミックス粉末、造孔剤、有機バインダ、潤滑剤及び溶媒を混合して、実施例1の封口材70bを調製した。このセラミックス粉末は、チタン酸アルミニウムマグネシウムとアルミナとアルミノシリケートガラスとの複合相をもつ粉末(仕込み時の組成式:41.4Al−49.9TiO−5.4MgO−3.3SiO、式中の数値はモル比を表す。)であった。封口材70bを用いて柱状体70の第一端面の封口工程を実施した後、第二端面に対する封口工程を実施した。
【0111】
封口及び乾燥後のグリーン成形体100を第2端面の焼成温度より第1端面の焼成温度が5℃高い条件下で焼成し、図2に示すハニカム構造体200を製造した。焼成温度は、ガス炉内の棚板の上と、グリーン焼成体100の第1端面に、それぞれ共通熱履歴センサ(財団法人ファインセラミックスセンター製、商品名:リファサーモ)を置き測定した。
【0112】
図5に示すように、得られたハニカム構造体200は、スキン層170dの第1端面近傍にスキン層170dの平均外周径が第1端面に到るにつれて一様に減少する縮径部110が形成されていた。また、第1端面のスキン層の外周径は、柱状体170の中央部のスキン層170dの平均外周径よりも小さいものであった。縮径部110の範囲は、第1端面から封口部170bが存在する長さの5.3倍であった。第1端面のスキン層170dの外周径をA0、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの外周径をBとしたときに、A0及びBは、|B−A0|/B=0.004であった。
【0113】
また、第2端面近傍において、スキン層170dの外周径が第2端面に至るにつれて大きくなる拡径部120が形成されていた。第2端面のスキン層170dの外周径は、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの外周径よりも大きいものであった。第2端面のスキン層170dの外周径をA1、柱状体170の側面の中央部のスキン層170dの外周径をBとしたときに、A1及びBは、|B−A1|/B=0.007であった。
【符号の説明】
【0114】
70…焼成工程前の柱状体、70a…貫通孔、70b…封口材、70c…焼成工程前の隔壁、70d…スキン層、100…グリーン成形体、110…縮径部、120…拡径部、170…柱状体、170b…封口部(焼成工程後の封口材)、170c…隔壁、170d…スキン層、200…ハニカム構造体、300…容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに略平行な複数の貫通孔が形成され、複数の前記貫通孔を隔てる隔壁を有するハニカム状の柱状体と、
前記貫通孔の一方の端部を塞ぐ封口部と、
前記柱状体の側面を覆うスキン層と、
を備え、
複数の前記貫通孔のうち一部の前記貫通孔は、前記貫通孔に略直交する前記柱状体の第1端面及び第2端面のうち前記第1端面において前記封口部で塞がれ、前記第2端面において開き、
他の前記貫通孔は、前記第2端面において前記封口部で塞がれ、前記第1端面において開いており、
前記第1端面近傍において、前記スキン層の外周径が前記第1端面に至るにつれて小さくなり、
前記第1端面の前記スキン層の外周径が、前記柱状体の前記側面の中央部の前記スキン層の外周径よりも小さい、ハニカム構造体。
【請求項2】
前記第1端面の前記スキン層の外周径をA0、前記柱状体の前記側面の中央部の前記スキン層の外周径をBとしたときに、A0及びBは下式(1)を満たす、請求項1に記載のハニカム構造体。
|B−A0|/B>0.001 (1)
【請求項3】
前記第1端面近傍において前記スキン層の外周径が前記第1端面に至るにつれて小さくなる領域は、前記第1端面から前記封口部が存在する長さの3倍以上の範囲である、請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記柱状体の前記側面において、前記第1端面から前記第2端面に到るまでの間に、前記スキン層の外周径が変化しない領域を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記第2端面近傍において、前記スキン層の外周径が前記第2端面に至るにつれて大きくなり、
前記第2端面の前記スキン層の外周径が、前記柱状体の前記側面の中央部の前記スキン層の外周径よりも大きい、請求項1〜4のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記第2端面の前記スキン層の外周径をA1、前記柱状体の前記側面の中央部の前記スキン層の外周径をBとしたときに、A1及びBは下式(2)を満たす、請求項5に記載のハニカム構造体。
|B−A1|/B>0.001 (2)
【請求項7】
前記柱状体、前記封口部及び前記スキン層は多孔質のセラミックスから構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記柱状体、前記封口部及び前記スキン層は、マグネシウム及びケイ素を含む多孔質のチタン酸アルミニウムから構成されている、請求項7に記載のハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−219736(P2012−219736A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87284(P2011−87284)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】