説明

ハニカム触媒担体

【課題】ハニカム触媒担体が早期に暖められ、ハニカム触媒担体に担持された触媒の温度をより早く上昇させることができるハニカム触媒担体を提供する。
【解決手段】コージェライト又はアルミニウムチタネートを主成分とする多孔質体からなり、流体の流路となる複数のセル2を区画形成する隔壁1を備え、隔壁1の気孔率が0.5%以上、10%以下であるハニカム触媒担体100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム触媒担体に関する。更に詳しくは、排ガス浄化用の触媒を担持するための触媒担体として好適に用いることができるハニカム触媒担体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用、建設機械用、及び産業用定置エンジン、並びに燃焼機器等から排出される排ガスに含まれる、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)等の被浄化成分を浄化するために、触媒担体上に浄化用の触媒を担持した排ガス浄化装置が提案されている。このような排ガス浄化装置用の触媒担体としては、例えば、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたハニカム触媒担体(ハニカム構造体)が用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。浄化用の触媒は、ハニカム触媒担体の隔壁の表面や、多孔質の細孔(以下、「気孔」ともいう)の内部に担持されている。
【0003】
排ガスに含まれるHC、CO、及びNOの浄化には、三元触媒による浄化が有効であり、このような三元触媒が排ガスの浄化に広く用いられている。三元触媒等が有効に作用するためには、ある程度の高温度が必要である。このため、ハニカム触媒担体に担持した触媒の温度を如何にして早く昇温させるかが、排ガスの浄化において重要とされている。例えば、エンジンの始動時等の運転初期時において、ハニカム触媒担体に担持された三元触媒が、当該三元触媒が有効に作用する温度まで暖められる前においては、排ガス中のHCやCOが十分に浄化されずに外部に排出されてしまうことがある。
【0004】
このようなことから、従来、ハニカム触媒担体の隔壁の厚さを薄くしたり、ハニカム触媒担体の気孔率を高めたりすることにより、ハニカム触媒担体の熱容量を低減する対策が採られている。これにより、車両のエンジンから排出される排ガス(換言すれば、燃焼ガス)によって、ハニカム触媒担体が早期に暖められ、ハニカム触媒担体に担持された触媒の温度をより早く上昇させることができる。従って、エンジンの運転初期においても、高い浄化作用を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−242133号公報
【特許文献2】特許第4246475号公報
【特許文献3】国際公開第2001/060514号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ハニカム触媒担体の隔壁を薄くすると、ハニカム触媒担体の構造強度が低下してしまうという問題があった。ハニカム触媒担体を排ガス浄化装置に用いる場合には、ハニカム触媒担体が金属製の缶体内に保持材(マット)を介して挿入保持した状態で配置される。この際、ハニカム触媒担体に加えられる圧縮面圧により、ハニカム触媒担体が破損してしまうことがある。また、ハニカム触媒担体の隔壁の厚さを薄くすると、浄化対象である排ガス中に、排気マニホルドの酸化スケールや溶接ピットがはがれ落ちて混入した場合に、ハニカム触媒担体の入口端面に酸化スケール等が衝突し、ハニカム触媒担体がエロージョンによって侵食されてしまうこともある。
【0007】
また、ハニカム触媒担体の気孔率を高くした場合には、ハニカム触媒担体が乾燥した状態においては、ハニカム触媒担体の熱容量が低下する分、ハニカム触媒担体に担持された触媒の温度は早く上昇する。但し、エンジンの高負荷運転後に、そのエンジンを停止したり、低負荷(アイドル)運転状態にしたりして一定の時間が経過すると、エンジン及び排気系の温度が低下する段階で、排ガス中の水分が凝集(凝縮)して、ハニカム触媒担体の隔壁の気孔内に上記水分が溜まってしまう。このような状態になると、次の運転時に、気孔内に溜まった水分の熱容量(潜熱、顕熱)が、ハニカム触媒担体の温度上昇を妨げることになる。
【0008】
即ち、従来においては、ハニカム触媒担体の熱容量を低減しさえすれば、ハニカム触媒担体に担持させた触媒の温度を早く上昇させることができると考えられていたが、上述したような排ガス中の水分が凝集した水分(以下、「凝集水」ともいう)が、ハニカム触媒担体及びハニカム触媒担体に担持させた触媒の温度上昇を大きく阻害していることが判明した。
【0009】
特許文献3には、気孔率が20%以下であり、かつ、担体隔壁の平均表面粗さRaが0.5μm以上であるセラミックスハニカム触媒担体が提案されている。特許文献3に記載されたセラミックスハニカム触媒担体は、その構造強度を高く維持するためになされたものであり、実質的な気孔率は、10%超から20%以下となっている。上述した凝集水によってハニカム触媒担体の温度上昇を妨げる問題は、気孔率が高いハニカム触媒担体において特に顕著に発生するものであるが、特許文献3に記載された「10%超から20%以下」の気孔率であっても、隔壁の気孔内に凝集水が溜まり、その凝集水の熱容量(潜熱、顕熱)が、ハニカム触媒担体の温度上昇を妨げてしまうこととなる。
【0010】
また、寒冷な環境下では、排ガス中の水分の凝集が特に著しく、多量の凝集水がハニカム触媒担体の気孔内に溜まることとなる。このため、エンジン始動時には、ハニカム触媒担体の温度を上昇させて、触媒の活性温度まで早期に達することが触媒活性の観点からは必要であるにもかかわらず、凝集水の蒸発潜熱に多量の熱が使用されてしまい、なかなかハニカム触媒担体の温度が上昇せず、エンジンの始動直後において、HC及びCOの浄化率が十分に行えないという問題があった。
【0011】
更に、上述した寒冷な環境下では、多量の凝集水がハニカム触媒担体の気孔内に溜まった状態で、そのハニカム触媒担体が長期間放置されると、気孔内に溜まった凝集水が凍結して膨張し、ハニカム触媒担体が破損してしまうことがあった。このように、寒冷な環境下では、凝集水がハニカム触媒担体の温度上昇を妨げてしまうという問題に加えて、凝集水の凍結膨張によるハニカム触媒担体の破損が深刻な問題となっており、凝集水が溜まり難いハニカム触媒担体の開発が早急に求められている。
【0012】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、ハニカム触媒担体が早期に暖められ、ハニカム触媒担体に担持された触媒の温度をより早く上昇させることができるハニカム触媒担体を提供する。特に、排ガス中の水分が凝集した凝集水が、隔壁の気孔内に溜まり難く、ハニカム触媒担体に伝えられた熱量が上記凝集水に奪われ難いハニカム触媒担体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下に示す、ハニカム触媒担体が提供される。
【0014】
[1] コージェライト又はアルミニウムチタネートを主成分とする多孔質体からなり、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を備え、前記隔壁の気孔率が0.5%以上、10%以下であるハニカム触媒担体。
【0015】
[2] セル密度が15セル/cm以上、150セル/cm以下であり、前記隔壁の厚さが25μm以上、100μm以下であり、前記セルの延びる方向に垂直な断面における開口率が90%以上、95%以下である前記[1]に記載のハニカム触媒担体。
【0016】
[3] 前記隔壁の、前記セルの延びる方向における熱膨張係数の200〜800℃における平均値が、1×10−6/K以下である前記[1]又は[2]に記載のハニカム触媒担体。
【発明の効果】
【0017】
本発明のハニカム触媒担体は、コージェライト又はアルミニウムチタネートを主成分とする多孔質体からなり、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を備え、隔壁の気孔率が0.5%以上、10%以下であるハニカム触媒担体である。このように、本発明のハニカム触媒担体は、従来のハニカム触媒担体と比較して、隔壁の気孔率が極端に低いものである。本発明のハニカム触媒担体によれば、排ガスの熱によりハニカム触媒担体が早期に暖められ、ハニカム触媒担体に担持された触媒の温度をより早く上昇させることができる。即ち、隔壁の気孔率が極端に低いため、排ガス中の水分が凝集した凝集水(例えば、排ガスが冷却された際に生じる凝集水)が、隔壁の気孔内に溜まり難く、凝集水により熱量(熱エネルギー)が奪われ難い。従って、ハニカム触媒担体に伝わった熱量が、ハニカム触媒担体及びハニカム触媒担体に担持された触媒の加熱に有効に利用され、ハニカム触媒担体が早期に暖められることとなる。
【0018】
また、本発明のハニカム触媒担体は、隔壁の気孔内に凝集水が溜まり難いものであるため、寒冷な環境下における、凝集水の凍結膨張による破損が有効に防止されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のハニカム触媒担体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0021】
(1)ハニカム触媒担体:
図1に示すように、本発明の一の実施形態のハニカム触媒担体100は、コージェライト又はアルミニウムチタネートを主成分とする多孔質体からなり、流体の流路となる複数のセル2を区画形成する隔壁1を備えたものである。図1においては、一方の端面11から他方の端面12まで延びる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1と、最外周に位置する外周壁3とを備えた筒状のハニカム触媒担体100の例を示す。ここで、図1は、本発明のハニカム触媒担体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【0022】
そして、本実施形態のハニカム触媒担体100においては、隔壁1の気孔率が0.5%以上、10%以下である。このように、本実施形態のハニカム触媒担体100は、従来のハニカム触媒担体と比較して、隔壁1の気孔率が極端に低いものである。本実施形態のハニカム触媒担体100によれば、排ガスの熱によりハニカム触媒担体100が早期に暖められ、ハニカム触媒担体100に担持された触媒(図示せず)の温度をより早く上昇させることができる。即ち、隔壁1の気孔率が極端に低いため、排ガス中の水分が凝集した凝集水(例えば、排ガスが冷却された際に生じる凝集水)が、隔壁1の気孔内に溜まり難く、凝集水により熱量(熱エネルギー)が奪われ難い。従って、ハニカム触媒担体100に伝わった熱量が、ハニカム触媒担体100及びハニカム触媒担体100に担持された触媒の加熱に有効に利用され、ハニカム触媒担体100が早期に暖められることとなる。これにより、ハニカム触媒担体100に担持された触媒が、活性温度に早く到達するため、排ガスに含まれる、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)に対する浄化性能を良好に向上させることができる。
【0023】
また、本実施形態のハニカム触媒担体100は、隔壁1の気孔内に凝集水が溜まり難いものであるため、寒冷な環境下における、凝集水の凍結膨張による破損が有効に防止されたものである。
【0024】
例えば、従来のハニカム触媒担体のように、隔壁の気孔率が10%超であると、排ガス中の水分が凝集した凝集水が、隔壁の気孔内に溜まり易く、その凝集水の熱容量(潜熱、顕熱)により熱エネルギーが奪われ、ハニカム触媒担体の温度上昇を妨げることになる。特に、寒冷な環境下では、排ガス中の水分の凝縮が著しく、多量の凝集水がハニカム触媒担体の気孔内に溜まってしまう。隔壁の気孔率が0.5%未満であると、隔壁のヤング率が高くなりすぎて、ハニカム触媒担体100の耐熱衝撃性が低下してしまう。
【0025】
更に、コージェライト又はアルミニウムチタネートを主成分とする多孔質体からなり、気孔率が0.5%以上、10%以下の隔壁1とすることで、ハニカム触媒担体100の隔壁1を薄くしても、ハニカム触媒担体100の構造強度を高く維持することができ、ハニカム触媒担体100を金属製の缶体内に挿入保持(以下、「キャニング」ともいう)した際の破損を有効に防止することができる。また、上述したように、隔壁の構造強度を高く維持することができるため、浄化対象である排ガス中に、例えば、排気マニホルドの酸化スケールや溶接ピット等の異物が混入しても、エロージョンによってハニカム触媒担体が侵食されるのを有効に防止することができる。
【0026】
本明細書において、「主成分」とは、その構成材料中に含まれる成分が90質量%以上の成分のことを意味する。このように、ハニカム触媒担体100の隔壁1は、コージェライト又はアルミニウムチタネートを90質量%以上含む多孔質体からなるものである。なお、本実施形態のハニカム触媒担体100の隔壁1は、コージェライト又はアルミニウムチタネートを95質量%以上含む多孔質体からなるものであることが更に好ましく、98質量%以上含む多孔質体からなるものであることが特に好ましい。
【0027】
コージェライト又はアルミニウムチタネートを主成分とすることにより、ハニカム触媒担体の熱膨張を小さくし、耐熱衝撃性を向上させることができる。主成分以外の成分としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ガラス等を挙げることができる。
【0028】
隔壁の気孔率の下限値は0.5%以上であるが、隔壁の気孔率が1%以上であることが好ましく、2%以上であることが更に好ましい。隔壁の気孔率の上限値は10%以下であるが、隔壁の気孔率が8%以下であることが好ましく、5%以下であることが更に好ましい。このように構成することによって、耐熱衝撃性の低下を抑制しつつ、気孔内に凝集水がより溜まり難いハニカム触媒担体とすることができる。
【0029】
ハニカム触媒担体のセル密度、隔壁の厚さ、及びセルの延びる方向に垂直な断面における開口率については特に制限はない。本実施形態のハニカム触媒担体においては、セル密度が15セル/cm以上、150セル/cm以下であることが好ましい。また、隔壁の厚さ(以下、「隔壁厚さ」ともいう)が25μm以上、100μm以下であることが好ましい。また、セルの延びる方向に垂直な断面における開口率が90%以上、95%以下であることが好ましい。
【0030】
セル密度を15セル/cm以上、150セル/cm以下とすることにより、隔壁と排ガスとの接触面積を有効に確保することができ、ハニカム触媒担体が暖められ易くなる。例えば、セル密度が15セル/cm未満であると、隔壁と排ガスとの接触面積が少なくなり、エンジンの始動時にハニカム触媒担体が暖まり難くなることがある。一方、セル密度が150セル/cm超であると、ハニカム触媒担体の質量が増加して、ハニカム触媒担体の昇温性が悪くなることがある。また、ハニカム触媒担体の圧損も増加することがある。
【0031】
隔壁厚さを、25μm以上、100μm以下とすることにより、ハニカム触媒担体が暖められ易くなる。なお、ハニカム触媒担体を早期に暖めるという観点からは、隔壁厚さがより薄いことが好ましいが、隔壁厚さが25μm未満であると、隔壁に微細な欠陥が形成されている場合に、ハニカム触媒担体の製品毎に強度のばらつきが生じてしまうことがある。即ち、隔壁の厚さが厚い場合においては、上述したような微細な欠陥による強度への影響が、隔壁全体の強度からすれば無視できる程度に小さいものであっても、隔壁の厚さが薄い場合には、強度への影響が大きくなってしまう。このため、隔壁の厚さが厚いハニカム触媒担体において許容されていた欠陥や、不可避的に存在する欠陥等が、無視できなくなってしまうことがある。
【0032】
「隔壁の厚さ」とは、ハニカム触媒担体100をセル2の延びる方向に垂直に切断した断面における、隣接する二つのセル2を区画する壁(隔壁)の厚さのことを意味する。「隔壁の厚さ」は、例えば、画像解析装置(ニコン社製、商品名「NEXIV、VMR−1515」)によって測定することができる。
【0033】
また、ハニカム触媒担体のセルの延びる方向に垂直な断面における開口率を90%以上、95%以下とすることにより、圧損及び熱容量を低く抑えつつ、強度を維持できる。これにより、圧損を低くし、更に初期温度上昇が早く、且つ十分な強度を確保することが可能となる。例えば、開口率が90%未満であると、圧損が過大となりエンジン出力が低下する上、熱容量が過大となるため初期温度上昇に時間がかかり、その間の浄化性能が悪くなることがある。一方、開口率が95%超であると、強度不足により、キャニング時に破損することがある。ハニカム触媒担体のセルの延びる方向に垂直な断面における開口率が91%以上であることが更に好ましく、92%以上であることが特に好ましい。また、上記開口率が94%以下であることが更に好ましい。
【0034】
また、隔壁のセルの延びる方向における熱膨張係数の200〜800℃における平均値が、1×10−6/K以下であることが好ましい。このように構成することによって、耐熱衝撃性に優れたハニカム触媒担体とすることができる。例えば、上記熱膨張係数の平均値が、1×10−6/Kを超えると、熱応力が大きくなり、耐熱衝撃性が低下してしまうことがある。本実施形態のハニカム触媒担体においては、隔壁のセルの延びる方向における熱膨張係数の200〜800℃における平均値が、0.8×10−6/K以下であることが更に好ましく、0.6×10−6/K以下であることが特に好ましい。
【0035】
本実施形態のハニカム触媒担体の形状は、特に限定されないが、円筒形状、端面が楕円形の筒形状、端面が「正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、八角形等」の多角形の柱形状等が好ましい。図1においては、ハニカム触媒担体100が円筒形状の例を示す。また、図1に示すハニカム触媒担体100は、外周壁3を有するものであるが、外周壁3を有していないものであってもよい。外周壁3は、ハニカム触媒担体100を作製する過程において、ハニカム成形体を押出成形する際に、隔壁1とともに形成されたものであってもよい。また、押出成形時には外周壁を形成しなくともよい。例えば、セル2を区画形成する隔壁1の外周部分に、セラミック材料を塗工して外周壁3を形成することもできる。
【0036】
本実施形態のハニカム触媒担体100におけるセル形状(ハニカム触媒担体の中心軸方向(セルの延びる方向)に直交する断面におけるセルの形状)としては、特に制限はなく、例えば、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、或いはこれらの組合せを挙げることができる。四角形の中でも、正方形、長方形が好ましい。
【0037】
本実施形態のハニカム触媒担体は、ハニカム触媒担体の隔壁に触媒を担持させて、触媒担持体として利用されるものである。
【0038】
本実施形態のハニカム触媒担体に担持させる触媒の種類については特に制限はない。例えば、三元触媒、NO選択還元用SCR触媒、酸化触媒、NO吸蔵触媒などを挙げることができる。特に、本実施形態のハニカム触媒担体は、ハニカム触媒担体に担持した触媒の温度をより早く昇温させることができるものであるため、三元触媒を担持させた場合に、エンジンの運転初期においても、炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)を有効に浄化することができ、高い浄化作用を得ることができる。
【0039】
三元触媒とは、主に炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)を浄化する触媒のことをいう。例えば、三元触媒として、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)を含む触媒を挙げることができる。この三元触媒により、炭化水素は水と二酸化炭素に、一酸化炭素は二酸化炭素に、窒素酸化物は窒素に、それぞれ酸化又は還元によって浄化される。
【0040】
NO選択還元用SCR触媒としては、金属置換ゼオライト、バナジウム、チタニア、酸化タングステン、銀、及びアルミナからなる群より選択される少なくとも1種を含有するものを挙げることができる。また、NO吸蔵触媒としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属等を挙げることができる。アルカリ金属としては、K、Na、Li等を挙げることができる。アルカリ土類金属としては、Caなどを挙げることができる。酸化触媒には、貴金属が含有される。この貴金属としては、Pt、Rh、及びPdからなる群より選択される1種以上が好ましい。
【0041】
(2)ハニカム触媒担体の製造方法:
次に、本実施形態のハニカム触媒担体の製造方法について説明する。本実施形態のハニカム触媒担体の製造方法としては、セラミック原料を含有する成形原料を混合し混練して坏土を得る坏土調製工程と、得られた坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得る成形工程と、得られたハニカム成形体を乾燥し、焼成して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたハニカム触媒担体を得る焼成工程とを備えた製造方法を挙げることができる。
【0042】
隔壁の気孔率の調整は、セラミック原料を含有する成形原料の成分と、各成形原料の粒子径により行うことができる。また、ハニカム成形体を乾燥して焼成する際の、焼成温度により、隔壁の気孔率を調整することもできる。
【0043】
(2−1)坏土調製工程:
まず、本実施形態のハニカム触媒担体を製造する際には、セラミック原料を含有する成形原料を混合し混練して坏土を得る(坏土調製工程)。セラミック原料としては、コージェライト化原料、又はアルミニウムチタネートを用いることが好ましい。なお、コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミック原料であって、焼成されてコージェライトになるものである。
【0044】
各成形原料を構成する粒子(以下、「原料粒子」ともいう)として、その粒子径が比較的小さい粒子を用いることが好ましい。具体的な粒子径の大きさは、成形原料の種類により異なるが、例えば、平均粒子径が0.2〜10μmであることが好ましく、0.3〜8μmであることが更に好ましい。このような平均粒子径の原料粒子を用いることにより、ハニカム成形体が緻密に締まったものとなり、得られるハニカム触媒担体の気孔率を低くすることができる。
【0045】
また、成形原料は、上記セラミック原料に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、界面活性剤、造孔材等を更に混合して調製することが好ましい。各原料の組成比は、特に限定されず、作製しようとするハニカム触媒担体の構造、材質等に合わせた組成比とすることが好ましい。
【0046】
分散媒としては、水を用いることができる。分散媒の添加量は、セラミック原料100質量部に対して、10〜30質量部であることが好ましい。
【0047】
有機バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、又はこれらを組み合わせたものとすることが好ましい。また、有機バインダの添加量は、セラミック原料100質量部に対して、3〜8質量部が好ましい。
【0048】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の添加量は、セラミック原料100質量部に対して、0.2〜0.5質量部が好ましい。
【0049】
成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0050】
(2−2)成形工程:
次に、得られた坏土をハニカム形状に成形してハニカム成形体を得る(成形工程)。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形してハニカム成形体を形成する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0051】
ハニカム成形体の形状は、特に限定されず、円筒形状、端面が楕円形の筒形状、端面が「正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、八角形等」の多角形の筒形状(柱形状)等が好ましい。
【0052】
(2−3)焼成工程:
次に、得られたハニカム成形体を乾燥し、焼成して、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたハニカム触媒担体を得る(焼成工程)。このようにして、隔壁の気孔率が0.5%以上、10%以下であるハニカム触媒担体を得ることができる。
【0053】
乾燥方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができ、なかでも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組み合わせて行うことが好ましい。
【0054】
ハニカム成形体を焼成(本焼成)する前には、このハニカム成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、ハニカム成形体中の有機物(有機バインダ、界面活性剤、造孔材等)の少なくとも一部を除去することができればよい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度であるので、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、10〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0055】
ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、仮焼した成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われる。焼成条件(温度、時間、雰囲気)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1350〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、3〜10時間が好ましい。仮焼、本焼成を行う装置は、特に限定されないが、電気炉、ガス炉等を用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明のハニカム触媒担体を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
実施例1においては、まず、セラミック原料としてコージェライト化原料を用い、コージェライト化原料100質量部に対して、分散媒を35質量部、有機バインダを6質量部、分散剤を0.5質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、平均粒子径が3μmのタルクを38.9質量部、平均粒子径が1μmのカオリンを40.7質量部、平均粒子径が0.3μmのアルミナを5.9質量部、及び平均粒子径が0.5μmのベーマイトを11.5質量部、用いた。平均粒子径は、各原料の粒子の分布におけるメジアン径(d50)のことである。
【0058】
分散媒としては、水を用いた。有機バインダとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた。分散剤としては、エチレングリコールを用いた。
【0059】
次に、得られた坏土を、ハニカム成形体を成形するための金型を用いて押出成形し、セル形状が四角形で、全体形状が円柱形(円筒形)のハニカム成形体を得た。そして、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。その後、ハニカム成形体を熱風乾燥機で乾燥し、更に、1445℃で、5時間、焼成することによって、ハニカム触媒担体(即ち、焼成体)を得た。
【0060】
実施例1のハニカム触媒担体の隔壁の気孔率は0.5%であった。気孔率は、マイクロメリティクス社(Micrimeritics社)製の「オートポアIII 9420(商品名)」によって測定した値である。また、隔壁厚さは80μmであった。セル密度は15セル/cmであった。セルピッチは2852.0μmであった。また、ハニカム触媒担体のセルの延びる方向に垂直な断面における開口率は93.90%であった。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
また、実施例1のハニカム触媒担体のセルの延びる方向における熱膨張係数の200〜800℃における平均値は、0.9×10−6/Kであった。熱膨張係数は、理学社製の「2S−TMA(商品名)」を用いて測定した値である。結果を表2に示す。
【0063】
また、得られたハニカム触媒担体について、以下の方法で、「耐熱衝撃性の評価」及び「コールドスタートライトオフ時間の試験」を行った。また、それぞれの結果から各実施例のハニカム触媒担体についての「総合評価」を行った。結果を表2に示す。
【0064】
[耐熱衝撃性の評価]
ハニカム触媒担体に燃焼ガスと室温空気とを交互に流し、ハニカム触媒担体にクラックが生じるか否かを調べて、耐熱衝撃性の評価を行った。燃焼ガスと室温空気の流量は、それぞれ3Nm/minとした。燃焼ガスと室温空気の通気条件は、燃焼ガスを5分間流した後、室温空気を10分間流すことを10回繰り返すこととした。燃焼ガスの温度を上昇させていき、クラックが生じなかったもっとも高い温度を「耐熱衝撃温度」とした。また、「耐熱衝撃性の評価」における「評価」の欄は、耐熱衝撃温度が850℃以上の場合を、「OK(合格)」とし、耐熱衝撃温度が850℃未満の場合を、「NG(不合格)」とした。
【0065】
[コールドスタートライトオフ時間の試験]
端面の直径が106mm、セルの延びる方向の長さが114mmのハニカム触媒体に、三元触媒を担持し、ハニカム触媒担持体を作製した。三元触媒としては、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)を質量比で1:0.5:4(Pt:Rh:Pd)の比率で含み、アルミナ及びセリアを主成分とするものを用いた。三元触媒の担持量は、ハニカム触媒担体の容積1リットル当たり200gとした。また、上記貴金属(Pt、Rh、Pd)の三元触媒中の含有量は、ハニカム触媒担体に三元触媒を担持した際に、ハニカム触媒担体の容積1リットル当たり2gとなる量とした。
【0066】
作製したハニカム触媒担持体を、排気量2リッターのガソリンエンジン搭載車両の排気系に搭載した。米国規制(FTP)の規制運転モード(LA−4)を行って、上記車両を暖気した後、6時間以上の停止冷却時間をおいた後に、再スタートさせた。その際、ハニカム触媒担持体の入口側端面と、出口側端面とにおける炭化水素(HC)濃度を測定した。入口側端面の炭化水素濃度と、出口側端面の炭化水素濃度とから、炭化水素の浄化率を0.5秒間隔で算出し、再スタートから、浄化率が50%となるまでの時間をライトオフ時間(秒)とした。炭化水素の浄化率は、「{(入口側端面の炭化水素濃度−出口側端面の炭化水素濃度)/入口側端面の炭化水素濃度}×100」によって算出される値とする。また、「コールドスタートライトオフ時間の試験」における「評価」の欄は、15秒以下の場合を、「OK(合格)」とし、15秒を超えた場合を、「NG(不合格)」とした。
【0067】
[総合評価]
「耐熱衝撃性の評価」及び「コールドスタートライトオフ時間の試験」の各評価が、共に「OK(合格)」である場合に、総合評価結果を「OK(合格)」とした。少なくともいずれか一方の評価結果が「NG(不合格)」である場合には、総合評価結果を「NG(不合格)」とした。
【0068】
【表2】

【0069】
(実施例2〜19、比較例1〜10)
ハニカム触媒担体の、「気孔率(%)」、「隔壁厚さ(μm)」、「セル密度(セル/cm)」、「セルピッチ(μm)」、「開口率(%)」、及び「隔壁の材料」を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で、ハニカム触媒担体を作製した。作製したハニカム触媒担体について、実施例1と同様の方法で、「耐熱衝撃性の評価」及び「コールドスタートライトオフ時間の試験」を行った。また、それぞれの結果から各実施例のハニカム触媒担体についての「総合評価」を行った。結果を表2に示す。
【0070】
なお、実施例2においては、タルクの平均粒子径を5μmとし、それ以外の原料は実施例1と同じ原料を用いることによって、気孔率を5%に調整した。また、実施例3〜13、及び19においては、タルクの平均粒子径を5μm、アルミナの平均粒子径を0.5μmとし、それ以外の原料は実施例1と同じ原料を用いることにより、気孔率を8%に調整した。
【0071】
また、実施例14及び15においては、実施例3〜13と同様に調製された坏土を用い、焼成時間を実施例3〜13に対して10%増加することで、気孔率を10%に調整した。また、実施例16においては、実施例1と同様に調製された坏土を用い、焼成温度を実施例1に対して20%増加することで、気孔率を1%に調整した。
【0072】
また、実施例17においては、タルクの平均粒子径を5μm、ベーマイトの平均粒子径を0.8μmとし、それ以外の原料は実施例1と同じ原料を用いることによって、気孔率を2%に調整した。また、実施例18においては、タルクの平均粒子径を5μm、ベーマイトの平均粒子径を1μmとし、それ以外の原料は実施例1と同じ原料を用いることによって、気孔率を3%に調整した。
【0073】
また、比較例1及び3においては、タルクの平均粒子径を2μm、アルミナの平均粒子径を0.2μmとし、それ以外の原料は実施例1と同じ原料を用い、更に焼成時間を実施例1に対して10%増加することで、気孔率を0.3%に調整した。また、比較例2及び4においては、タルクの平均粒子径を8μm、アルミナの平均粒子径を1μmとし、それ以外の原料は実施例1と同じ原料を用いることによって、気孔率を22%に調整した。また、比較例5においては、比較例2及び4に対して焼成時間を20%減少することで、気孔率を27%に調整した。
【0074】
また、比較例6においては、タルクの平均粒子径を12μm、アルミナの平均粒子径を5μmとし、それ以外の原料は実施例1と同じ原料を用いることによって、気孔率を35%に調整した。また、比較例7及び8においては、比較例6に対して焼成温度を30%増加することで、気孔率を15%に調整した。また、比較例9においては、比較例6に対して焼成時間を10%増加することで、気孔率を19%に調整した。また、比較例10においては、実施例14に対して焼成時間を20%減少することで、気孔率を12%に調整した。
【0075】
表2に示すように、実施例1〜19のハニカム触媒担体は、全ての評価について良好な結果を得ることができた。特に、コールドスタートライトオフ時間の試験においては、排ガス中の水分が凝集した凝集水が、隔壁の気孔内に溜まり難く、凝集水によりハニカム触媒担体に伝えられた熱量が奪われ難いため、ハニカム触媒担体に伝わった熱量が、ハニカム触媒担体及びハニカム触媒担体に担持された触媒の加熱に有効に利用され、ハニカム触媒担体が早期に暖められたものと考えられる。
【0076】
一方、比較例1及び3のハニカム触媒担体は、耐熱衝撃温度が低く、耐熱衝撃性の評価の評価結果が「NG(不合格)」であった。これは、比較例1及び3においては、ハニカム触媒担体の気孔率が0.3%であるため、隔壁のヤング率が高くなりすぎて、耐熱衝撃性が低下したものと考えられる。また、その他の比較例においては、ハニカム触媒担体の気孔率が10%超であるため、コールドスタートライトオフ時間の試験のライトオフ時間が長く、評価結果が「NG(不合格)」であった。これは、ハニカム触媒担体の隔壁の気孔内に排ガス中の水分が凝集した凝集水が溜まり、ハニカム触媒担体に伝えられた熱量(熱エネルギー)が、凝集水の潜熱及び顕熱に利用されてしまったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のハニカム触媒担体は、排ガス浄化するための触媒を担持する触媒担体として利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1:隔壁、2:セル、3:外周壁、11:一方の端面、12:他方の端面、100:ハニカム触媒担体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コージェライト又はアルミニウムチタネートを主成分とする多孔質体からなり、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を備え、
前記隔壁の気孔率が0.5%以上、10%以下であるハニカム触媒担体。
【請求項2】
セル密度が15セル/cm以上、150セル/cm以下であり、前記隔壁の厚さが25μm以上、100μm以下であり、前記セルの延びる方向に垂直な断面における開口率が90%以上、95%以下である請求項1に記載のハニカム触媒担体。
【請求項3】
前記隔壁の、前記セルの延びる方向における熱膨張係数の200〜800℃における平均値が、1×10−6/K以下である請求項1又は2に記載のハニカム触媒担体。

【図1】
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【公開番号】特開2013−22573(P2013−22573A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162726(P2011−162726)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】