説明

ハブユニットの評価装置およびハブユニットの評価方法

【課題】ハブユニットの損傷の種類を簡単に判別できるハブユニットの評価装置およびハブユニットの評価方法を提供する。
【解決手段】このハブユニットの評価装置は、信号処理部23が、ハブユニットにマグネットで固定された加速度センサ1の出力信号を、AD変換部24,包絡線検波部25を経てFFT部26で周波数分析した結果を表す周波数分析信号を出力する。そして、評価出力部28は、周波数分析信号から得られた特定周波数の信号強度およびオーバーオール値に基づいて、ハブユニットの損傷状態を評価して表示部27に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハブユニットの損傷の有無,損傷の種類を評価するハブユニットの評価装置およびハブユニットの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハブユニットの固定輪に取り付けたストレインゲージの出力に基づく出力振動の平均値が基準値から変化した量を所定値と比較することにより異常を検出するハブユニットの異常検出装置が提案されている(特許文献1(特開平11−248524号公報))。
【0003】
しかし、上記ハブユニットの異常検出装置は、軸受への過負荷や軸受の劣化による温度上昇を検出できるものの、ハブユニットの損傷の種類を簡便に判別できるものではなかった。
【0004】
一方、ハブユニットの損傷の種類をより簡便に判別可能とすることが求められている。
【特許文献1】特開平11−248524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明の課題は、ハブユニットの損傷の種類をより簡便に判別できるハブユニットの評価装置およびハブユニットの評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、この発明のハブユニットの評価装置は、車両のハブユニットの固定側部材に磁力で固定される磁力取付部とこの磁力取付部に固定された加速度センサ本体とを有する加速度センサと、
上記加速度センサから入力される信号を包絡線検波する包絡線検波部と上記包絡線検波部から入力される信号を周波数分析して特定周波数の信号強度とオーバーオール値とを含む周波数分析信号を生成する周波数分析部とを有する信号処理部と、
上記信号処理部から入力された上記周波数分析信号を出力する出力部と、
上記車両の従動輪を回転させる従動輪駆動部とを備えることを特徴としている。
【0007】
この発明のハブユニットの評価装置によれば、上記信号処理部は、ハブユニットに磁力取付部で固定された加速度センサの出力信号を、包絡線検波を経て周波数分析した結果を表す特定周波数の信号強度およびオーバーオール値を含む周波数分析信号を上記出力部に入力する。そして、上記出力部は、上記周波数分析信号に含まれる特定周波数の信号強度およびオーバーオール値を表示等で出力する。
【0008】
したがって、この発明によれば、加速度センサの出力信号を周波数分析すると共に、この周波数分析による周波数分析信号の特定周波数の信号強度とオーバーオール値でもって、ハブユニットの損傷の種類を判別できる。また、加速度センサ本体を磁力取付部でもって、ハブユニットの固定側部材に対して簡単に着脱できる。また、従動輪駆動部によって従動輪を回転させることで、従動輪のハブユニットの回転側部材を回転させて、上記ハブユニットの評価試験を実施できる。一方、駆動輪のハブユニットの評価試験を行う場合は、エンジン等の動力源によって駆動輪を回転させることで、上記ハブユニットの評価試験を実施できる。
【0009】
また、一実施形態のハブユニットの評価方法は、車両の車輪を回転させ、上記車両のハブユニットの固定側部材に、加速度センサを上記加速度センサの磁力取付部による磁力で固定し、
上記加速度センサが出力する信号を包絡線検波してから周波数分析して、特定周波数の信号強度とオーバーオール値とを含む周波数分析信号を求め、
上記周波数分析信号の特定周波数の信号強度とオーバーオール値に基づいて、上記ハブユニットの損傷状態を評価する。
【0010】
この実施形態のハブユニットの評価方法によれば、上記ハブユニットに磁力取付部で固定された加速度センサの出力信号を、包絡線検波を経て周波数分析する。そして、この周波数分析結果を表す周波数分析信号から得られた特定周波数の信号強度およびオーバーオール値に基づいて、上記ハブユニットの損傷状態を評価する。これにより、ハブユニットの損傷の有無,損傷の種類を簡便に判別できる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、加速度センサの出力信号を周波数分析すると共に、この周波数分析による周波数分析信号の特定周波数の信号強度とオーバーオール値でもって、ハブユニットの損傷の有無,損傷の種類を簡便に判別できる。また、加速度センサ本体を磁力取付部でもって、ハブユニットの固定側部材に対して簡単に着脱できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0013】
図1に、この発明のハブユニットの評価装置の実施形態が備える加速度センサ1およびこの加速度センサ1が取り付けられるハブユニット2を示す。図1に示すように、ハブユニット2は、回転側部材である軸部材3と固定側部材である外輪5と、この外輪5の軌道面6,7と軸部材3の軌道面8,9との間に配置された複列の玉11,12および玉11,12を保持する保持器13,14を有する。なお、上記軸部材3の軌道面9は、軸部材3が有する内輪3Aに形成されている。
【0014】
上記ハブユニット2の固定側部材である外輪5はフランジ16を有し、このフランジ16に形成されたネジ孔16Aに螺合されたハブボルト15でもって外輪5のフランジ16がナックル36に締結されている。そして、このハブボルト15の頭部の平坦な上面17に磁力取付部としてのマグネット18が磁力で固定されている。このマグネット18には加速度センサ本体としての加速度ピックアップ20が固定されている。この加速度ピックアップ20とマグネット18とが加速度センサ1を構成している。なお、上記マグネット18を、外輪5を締結するハブボルト15の上面17に替えて、ナックル36または外輪5に直接固定してもよい。
【0015】
この加速度センサ1の信号線21は、図2に示す信号処理部23のAD変換部24に接続されている。この信号処理部23は、上記加速度センサ1から入力されるアナログ信号をAD変換するAD変換部24と、上記AD変換部から入力されるデジタル信号を包絡線検波する包絡線検波部25と上記包絡線検波部25から入力される包絡線検波信号を周波数分析する周波数分析部としてのFFT部(高速フーリエ変換部)26を有する。
【0016】
また、上記高速フーリエ変換部26には、出力部としての表示部27および評価出力部28が接続されている。この表示部27には、上記FFT部26から上記周波数分析結果を表す周波数分析信号が入力され、この周波数分析信号を表示する。この表示部27は、一例として液晶表示パネルで構成される。なお、表示部27に替えて、上記周波数分析信号を印刷するプリンタとしてもよい。
【0017】
一方、上記評価出力部28にも、上記FFT部26から上記周波数分析結果を表す周波数分析信号が入力される。この評価出力部28は、上記周波数分析信号から得られた特定周波数の信号強度およびオーバーオール値に基づいて、上記ハブユニット2の損傷状態を評価して出力する。
【0018】
ここで、図3に、上記FFT部26が出力する周波数分析信号の一例を示す。図3において、横軸は周波数(Hz)であり、縦軸は信号強度(dBVrms)である。また、図3において、実線で描かれた信号S1は、ハブユニット2が新品である場合に得られる周波数分析信号である。また、破線で描かれた信号S2は、ハブユニット2に錆びが発生した場合に得られる周波数分析信号である。また、点線で描かれた信号S3は、ハブユニット2に擬似圧痕(Fales Brinelling)が発生した場合に得られる周波数分析信号である。
【0019】
図3において、1Foは、軸部材3が所定回転数で回転したときに、玉11,12が外輪5の軌道面6,7を転動することにより外輪5が振動することに起因する基本周波数foでの信号S3の信号強度を示す。この擬似圧痕発生時の周波数分析信号S3における基本周波数foでの信号強度1Foは、図4にサンプル3で示すように、−21.7(dBVrms)である。このサンプル3は、ハブユニット2に擬似圧痕が発生した場合のサンプルである。
【0020】
また、図4において、サンプル2は、ハブユニット2に錆びが発生した場合のサンプルである。このサンプル2における信号強度−29.9(dBVrms)は、図3に示す信号S2の基本周波数foでの信号強度を示している。また、図4において、サンプル1は、ハブユニット2が新品である場合のサンプルである。このサンプル1における信号強度−34.7(dBVrms)は、図3に示す基本周波数foでの信号S1の信号強度を示している。
【0021】
また、図3に示す1Fiは、軸部材3が上記所定回転数で回転したときに、玉11,12が軸部材3の軌道面8,9を転動することにより軸部材3が振動することに起因する基本周波数fiでの信号S2の信号強度を示す。また、図3に示す2Foは、上記基本周波数foの2倍の周波数2foでの信号S3の信号強度を示す。また、図3に示す2Fiは、基本周波数fiの2倍の周波数2fiでの信号S2の信号強度を示す。
【0022】
したがって、評価出力部28は、FFT部26から入力される周波数分析信号において上記基本周波数foの信号強度が、所定の閾値(一例として、−25dBVrms)を超えたときに、外輪5の軌道面6,7に擬似圧痕が発生したと評価して、この評価を上記表示部27に出力する。また、上記評価出力部28は、上記周波数分析信号において、上記基本周波数fiの信号強度が、所定の閾値を超えたときに、軸部材3の軌道面8,9に擬似圧痕が発生したと評価して、この評価を上記表示部27に出力する。なお、この評価出力部28は、上記周波数分析信号における基本周波数fo,fiの信号強度に替えて基本周波数fo,fiの2倍の周波数2fo,2fiの信号強度に基づいて、外輪5,軸部材3の損傷状態を評価してもよい。また、上記評価出力部28は、上記周波数分析信号における基本周波数fo,fiの信号強度と上記2倍の周波数2fo,2fiの信号強度の両方の信号強度に基づいて、外輪5,軸部材3の損傷状態を評価してもよい。
【0023】
次に、図5は、ハブユニット2が新品のサンプル1での周波数分析信号S3のオーバーオール値が2.3(m/s)であること、および、ハブユニット2に錆びが発生したサンプル2での周波数分析信号S2のオーバーオール値が43.4(m/s)であることを示している。また、図5は、ハブユニット2に擬似圧痕が発生したサンプル3での周波数分析信号S3のオーバーオール値が6.0(m/s)であることを示している。図5を参照すれば分かるように、ハブユニット2に錆びが発生した場合には、周波数分析信号のオーバーオール値が最も大きくなっている。
【0024】
したがって、上記評価出力部28は、FFT部26から入力される周波数分析信号のオーバーオール値が所定の閾値(一例として20(m/s))を超えたときに、ハブユニット2に錆びが発生したと評価して、この評価を上記表示部27に出力する。
【0025】
そして、上記評価出力部28は、上記FFT部26から入力される周波数分析信号のオーバーオール値が所定の閾値を下回っていると共に、上記周波数分析信号の基本周波数fi,foの信号強度が所定の閾値を下回っている場合に、ハブユニット2が新品あるいは新品並であると評価して、この評価を表示部27に出力する。
【0026】
また、この実施形態のハブユニットの評価装置は、図1に一点鎖線で示す従動輪駆動部31を有する。この従動輪駆動部31は、アダプタフランジ31Aおよびこのアダプタフランジ31Aを回転駆動するモータ(図示せず)を有する。そして、上記ハブユニット2が従動輪のハブユニットである場合は、車両をジャッキアップし、ホイールとブレーキディスクを取り外し、次に、図1に一点鎖線で示す従動輪駆動部31のアダプタフランジ31Aを軸部材3のフランジ3Bに摩擦接触させた状態で上記モータを駆動してアダプタフランジ31Aを回転させて軸部材3を回転させる。一方、上記ハブユニット2が駆動輪のハブユニットである場合は、この駆動輪をフリーローラーの上に載せて、車両のエンジンによってホイールを回転させる。
【0027】
そして、加速度センサ1をマグネット18でハブボルト15の平坦な上面17に磁力で固定し、加速度センサ1の出力信号を周波数分析して、上述したように、上記周波数分析結果を表す周波数分析信号から得られた特定周波数の信号強度およびオーバーオール値に基づいて、ハブユニット2の損傷状態を評価する。
【0028】
この実施形態によれば、ハブユニットに破損が発生しているか否かを定量的に判断できると共に、ハブユニットが車両に組み込まれた状態でハブユニットの故障診断が可能になるので、ディーラーでもハブユニットの故障診断が行えるようになる。
【0029】
尚、上記実施形態では、信号処理部23がAD変換部24を有したがAD変換部24を有さずに、加速度センサ1の出力信号を包絡線検波部25に直接入力してもよい。また、上記実施形態では、評価出力部28を備えたが、評価出力部28を備えずに表示部27に表示される図3に例示されるような周波数分析信号およびオーバーオール値からハブユニット2の損傷状態をユーザが直接判断してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明のハブユニットの評価装置の実施形態が有する加速度センサをハブユニットに取り付けた様子示す断面図である。
【図2】上記実施形態のブロック図である。
【図3】上記実施形態のFFT部が出力する周波数分析信号の一例を示す図である。
【図4】図3の周波数分析信号S1,S2,S3における基本周波数foでの信号強度を示す図である。
【図5】図3の周波数分析信号S1,S2,S3におけるオーバーオール値を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 加速度センサ
2 ハブユニット
3 軸部材
3A 内輪
5 外輪
6〜9 軌道面
11、12 玉
13、14 保持器
15 ハブボルト
16 フランジ
17 上面
18 マグネット
20 加速度ピックアップ
21 信号線
23 信号処理部
24 AD変換部
25 包絡線検波部
26 FFT部
27 表示部
28 評価出力部
31 従動輪駆動部
31A アダプタフランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のハブユニットの固定側部材に磁力で固定される磁力取付部とこの磁力取付部に固定された加速度センサ本体とを有する加速度センサと、
上記加速度センサから入力される信号を包絡線検波する包絡線検波部と上記包絡線検波部から入力される信号を周波数分析して特定周波数の信号強度とオーバーオール値とを含む周波数分析信号を生成する周波数分析部とを有する信号処理部と、
上記信号処理部から入力された上記周波数分析信号を出力する出力部と、
上記車両の従動輪を回転させる従動輪駆動部とを備えることを特徴とするハブユニットの評価装置。
【請求項2】
車両の車輪を回転させ、上記車両のハブユニットの固定側部材に、加速度センサを上記加速度センサの磁力取付部による磁力で固定し、
上記加速度センサが出力する信号を包絡線検波してから周波数分析して、特定周波数の信号強度とオーバーオール値とを含む周波数分析信号を求め、
上記周波数分析信号の特定周波数の信号強度とオーバーオール値に基づいて、上記ハブユニットの損傷状態を評価することを特徴とするハブユニットの評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−31100(P2009−31100A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194629(P2007−194629)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】