説明

ハブユニット軸受

【課題】温度上昇時の予圧変化抑制が可能なハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】内方転動体軌道面16a,16b及び外方転動体軌道面28a,28bとアンギュラコンタクトで接触するとともに、外方転動体軌道面28a,28bと内方転動体軌道面16a,16bとの間に形成された二列の転動体軌道路内へ転動自在に装填される複数の転動体8を備え、隣り合う軌道部材6a,6b同士は、転動体8と転動体軌道路の幅方向に沿った方向で接触する部分が転動体軌道路の幅方向に沿った方向で近接し、外方環状部材4は、隣り合う軌道部材6a,6b間において内方環状部材2の外径面へ向けて突出し、且つ隣り合う軌道部材6a,6bと接触する外方部材側凸部26を有し、外方環状部材4の材料は、軌道部材6a,6bの材料よりも線膨張係数が大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等が備えるハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等が備えるハブユニット軸受、すなわち、車輪側部材へ取り付ける車輪側フランジと車体側部材へ取り付ける車体側フランジとを一体化させた軸受としては、例えば、特許文献1及び2に記載されているものがある。
ここで、車輪側部材及び車体側部材は、フランジの取り付け対象とする被取り付け部材となる。なお、車輪側部材は、例えば、ブレーキディスクである。また、車体側部材は、例えば、サブフレームに連結するナックルである。
特許文献1に記載されているハブユニット軸受は、車体側フランジを設けた外輪と転動体との間に、鋼製の軌道部材を圧入したものである。また、外輪をアルミ製とすることにより、ハブユニット軸受を軽量化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006‐153051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているハブユニット軸受では、軌道部材を鋼製とし、外輪をアルミ製としているため、軌道部材の線膨張係数と外輪の線膨張係数が異なっている。また、軌道部材と外輪との位置関係や形状は、両者の線膨張係数の違いを考慮して設定されてはいない。
【0005】
このため、特許文献1に記載されているハブユニット軸受では、ブレーキディスクからの輻射・伝導熱による加熱と、回転に伴う軸受自体の発熱等に起因して、ハブユニット軸受の温度が上昇し、軌道部材及び外輪の温度が上昇すると、両者の線膨張係数の違いにより、両者の変形量が異なるため、温度上昇時におけるハブユニット軸受の予圧変化が大きい。これにより、ハブユニット軸受の剛性、寿命、トルクが悪化するという問題が生じる。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、温度上昇時の予圧変化を抑制することが可能なハブユニット軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、外径面に複数列の内方転動体軌道面を有する内方環状部材と、
内径面が前記内方環状部材の外径面と対向する外方環状部材と、
前記外方環状部材の内径面との間に締め代を有する状態で前記内方環状部材と外方環状部材との間に配置され、且つ前記複数列の内方転動体軌道面と対向する外方転動体軌道面をそれぞれ有する複数個の環状の軌道部材と、
前記外方転動体軌道面と前記内方転動体軌道面との間に形成された複数列の転動体軌道路内へ転動自在に装填され、且つ前記外方転動体軌道面及び前記内方転動体軌道面とアンギュラコンタクトで接触する複数の転動体と、を備え、
前記複数個の軌道部材のうち少なくとも二つの隣り合う軌道部材同士は、前記転動体と前記転動体軌道路の幅方向に沿った方向で接触する部分が転動体軌道路の幅方向に沿った方向で近接し、
前記外方環状部材は、前記隣り合う軌道部材間において前記内方環状部材の外径面へ向けて突出し、且つ前記転動体軌道路の幅方向に沿った方向で前記隣り合う軌道部材と接触する外方部材側凸部を有し、
前記外方環状部材の材料は、前記軌道部材の材料よりも線膨張係数が大きい材料であることを特徴とするハブユニット軸受である。
【0007】
本発明によると、複列アンギュラ構造の転動体軌道路を備えるハブユニット軸受において、外方環状部材が、隣り合う軌道部材間において内方環状部材の外径面へ向けて突出し、且つ転動体軌道路の幅方向に沿った方向で隣り合う軌道部材と接触する外方部材側凸部を有している。これに加え、外方環状部材の材料として、軌道部材の材料よりも線膨張係数が大きい材料を用いている。
【0008】
このため、ハブユニット軸受の温度上昇時には、外方部材側凸部を含む外方環状部材の膨張量が、軌道部材の膨張量よりも大きくなる。これにより、軌道部材と外方環状部材の内径面との締め代が減少して、ハブユニット軸受に発生する、転動体軌道路の径方向への予圧が減少する。これに加え、外方部材側凸部による軌道部材の押圧度合いが増加して、ハブユニット軸受に発生する、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧が増加する。
【0009】
また、外方環状部材を軌道部材よりも線膨張係数が大きい材料で形成、例えば、軌道部材の材料を鋼とし、さらに、アルミのように、線膨張係数が鋼よりも大きく、比重も小さい材料を外方環状部材の材料とすることにより、ハブユニット軸受の温度上昇時における、転動体軌道路の径方向への予圧の減少と、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧の増加を、効果的に発生させることが可能となる。
【0010】
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に従属する発明であって、前記外方環状部材の材料及び前記軌道部材の材料を、予め設定した第一温度の環境下で前記外方環状部材と前記軌道部材との間に締め代が発生して外方環状部材の内径面が軌道部材の外径面を押圧し、且つ前記第一温度よりも高い温度である予め設定した第二温度の環境下で前記外方環状部材と前記軌道部材との間に隙間が発生する材料としたことを特徴とするものである。
【0011】
本発明によると、予め設定した第一温度の環境下では、外方環状部材と軌道部材との間に締め代が発生して、外方環状部材の内径面が軌道部材の外径面を押圧する。また、第一温度よりも高い温度である予め設定した第二温度の環境下では、外方環状部材と軌道部材との間に隙間が発生する。
このため、第一温度の環境下からハブユニット軸受の温度が上昇して第二温度の環境下となると、外方環状部材と軌道部材との間に隙間が発生して、外方環状部材の内径面が軌道部材の外径面を押圧していない状態となり、ハブユニット軸受の温度が上昇しても、ハブユニット軸受に発生する、転動体軌道路の径方向への予圧が減少しなくなる。
【0012】
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に従属する発明であって、前記軌道部材と前記外方部材側凸部との間に、前記外方環状部材よりも線膨張係数が大きい材料で形成されている膨張調整間座部材を配置したことを特徴とするものである。
本発明によると、軌道部材と外方部材側凸部との間に、外方環状部材よりも線膨張係数が大きい材料で形成されている膨張調整間座部材を配置している。すなわち、軌道部材と外方部材側凸部との間には、軌道部材及び外方部材側凸部と接触する状態で、膨張調整間座部材が挿入されている。
【0013】
このため、ハブユニット軸受の温度上昇時に、膨張調整間座部材の膨張量が、外方部材側凸部を含む外方環状部材の膨張量よりも大きくなる。これにより、膨張調整間座部材による外方部材側凸部及び軌道部材の押圧度合いが増加して、ハブユニット軸受に発生する、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧が増加する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複列アンギュラ構造の転動体軌道路を備えるハブユニット軸受において、温度上昇時に、ハブユニット軸受に発生する、転動体軌道路の径方向への予圧を減少させるとともに、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧を増加させることが可能となる。これに加え、外方環状部材の材料を、軌道部材の材料よりも線膨張係数が大きい材料とする。
このため、温度上昇時において、転動体軌道路の径方向への予圧変化と転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧変化とを相殺して、接触角方向の予圧変化を抑制することが可能なハブユニット軸受を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一実施形態のハブユニット軸受の構成を示す断面図である。
【図2】ハブユニット軸受の使用環境温度と、使用環境温度の変化に伴う、転動体軌道路の径方向への予圧の変化量との関係を示す図である。
【図3】ハブユニット軸受の使用環境温度と、使用環境温度の変化に伴う、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧の変化量との関係を示す図である。
【図4】ハブユニット軸受の使用環境温度と、使用環境温度の変化に伴う接触角方向の予圧の変化量との関係を示す図である。
【図5】本発明の第二実施形態のハブユニット軸受の構成を示す断面図である。
【図6】ハブユニット軸受の使用環境温度と、使用環境温度の変化に伴う接触角方向の予圧の変化量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
まず、図1を用いて、ハブユニット軸受の構成を説明する。
図1は、本実施形態のハブユニット軸受1の構成を示す断面図である。
図1中に示すように、ハブユニット軸受1は、内方環状部材2と、外方環状部材4と、二つの軌道部材6a,6bと、複数の転動体8を備えている。なお、本実施形態のハブユニット軸受1は、車両が備え、車輪側部材を取り付ける車輪側フランジと、車体側部材へ取り付ける車体側フランジとを一体化させた軸受である。本実施形態では、一例として、車輪側部材を、ブレーキディスク及びホイール(図示せず)とし、車体側部材を、サブフレーム(図示せず)に連結するナックル(図示せず)とする。
【0017】
内方環状部材2は、ハブ10と、内方フランジ12と、内方軌道面形成部材14を備えている。
ハブ10は、円環状に形成されており、その外径面に、内方転動体軌道面16aを有している。
なお、本実施形態では、ハブ10を、鋼(軸受鋼等)を用いて形成した場合を説明する。
内方転動体軌道面16aは、内方環状部材2の外径面において、内方環状部材2の周方向全体に亘って形成されている。
内方フランジ12は、ハブ10の外径面において、ハブ10と一体に形成してあり、内方環状部材2の車輪(図示せず)側の端部に配置されている。
ここで、内方フランジ12は、ブレーキディスク及びホイールを取り付けるフランジである。また、ブレーキディスクは、内方環状部材2の取り付け対象とする被取り付け部材とする。
【0018】
また、内方フランジ12には、締結部材18を挿通させる内方締結部材挿通孔20が形成されている。内方締結部材挿通孔20は、内方フランジ12を貫通させて形成する。
内方軌道面形成部材14は、円環状に形成されており、内方環状部材2の車体(図示せず)側に取り付けられている。
また、内方軌道面形成部材14は、その外径面に、内方転動体軌道面16bを有している。
【0019】
内方転動体軌道面16bは、内方軌道面形成部材14の外径面において、内方軌道面形成部材14の周方向全体に亘って形成されている。
したがって、内方環状部材2は、内方軌道面形成部材14を取り付けた状態で、二列(複数列)の内方転動体軌道面16a,16bを有することとなる。
外方環状部材4は、鋳造または鍛造により、円環状に形成されており、その内径面が、内方環状部材2の外径面と対向している。
【0020】
また、外方環状部材4の外径面には、ナックルへ取り付ける、外方フランジ22が形成されている。
ここで、ナックルは、外方環状部材4の取り付け対象とする被取り付け部材である。なお、外方環状部材4の外径面には、四箇所の外方フランジ22を形成する。なお、本実施形態では、ナックルと外方環状部材4を別体とするが、これに限定するものではなく、ナックルと外方環状部材4を一体に形成してもよい。
【0021】
外方フランジ22には、内方フランジ12と同様、締結部材を挿通させる外方締結部材挿通孔24を形成する。外方締結部材挿通孔24は、外方フランジ22を貫通させて形成する。
また、外方フランジ22は、外方環状部材4のうち、外方フランジ22を形成する部分の外径が、その他の部分よりも大径となるように形成する。すなわち、外方フランジ22は、外方環状部材4のその他の部分よりも突出する。
【0022】
また、外方環状部材4の内径面には、内方環状部材2の外径面へ向けて径方向内方に突出する外方部材側凸部26を有している。なお、外方部材側凸部26の突出量は、外方部材側凸部26と内方環状部材2の外径面との間に、内方環状部材2の周方向全体に亘って隙間が形成される値に設定されている。
外方部材側凸部26は、外方環状部材4の内径面において、外方環状部材4の周方向全体に亘って形成されている。
【0023】
二つの軌道部材6a,6bは、環状に形成されており、外方環状部材4の内径面との間に締め代を有する状態で、内方環状部材2と外方環状部材4との間に配置されている。すなわち、二つの軌道部材6a,6bは、外方環状部材4の内径面側へ圧入されている。
ここで、外方環状部材4を鋳造により形成する場合は、軌道部材6a,6bを外方環状部材4の内径面側へ圧入せずに、外方環状部材4の内径面側へ軌道部材6a,6bを鋳込むことにより、軌道部材6a,6bを、外方環状部材4の内径面との間に締め代を有する状態で、内方環状部材2と外方環状部材4との間に配置してもよい。
【0024】
一方、外方環状部材4を鍛造により形成する場合は、外方環状部材4に嵌め合い部(図示せず)を機械加工で形成した後、この嵌め合い部に軌道部材6a,6bを圧入することにより、軌道部材6a,6bを、外方環状部材4の内径面との間に締め代を有する状態で、内方環状部材2と外方環状部材4との間に配置してもよい。
軌道部材6aは、その内径面に、内方転動体軌道面16aと対向する外方転動体軌道面28aを有している。
【0025】
外方転動体軌道面28aは、軌道部材6aの内径面において、軌道部材6aの周方向全体に亘って形成されている。
軌道部材6bは、軌道部材6aよりも車体側に配置されており、その内径面に、内方転動体軌道面16bと対向する外方転動体軌道面28bを有している。
外方転動体軌道面28bは、軌道部材6bの内径面において、軌道部材6bの周方向全体に亘って形成されている。
したがって、二つの軌道部材6a,6bは、外方環状部材4の内径面との間に締め代を有する状態で、内方環状部材2と外方環状部材4との間に配置されているとともに、二列の内方転動体軌道面16a,16bと対向する外方転動体軌道面28a,28bを、それぞれ有している。
【0026】
また、軌道部材6aと軌道部材6bは、それぞれ、二列の外方転動体軌道面28a,28bと二列の内方転動体軌道面16a,16bとの間に形成された転動体軌道路の幅方向に沿った方向で、外方部材側凸部26と接触している。すなわち、外方部材側凸部26は、軌道部材6aと軌道部材6bにより、転動体軌道路の幅方向に沿った方向から挟み込まれた状態となっている。なお、図1中では、内方環状部材2及び転動体軌道路の径方向を、双方向矢印で「径方向」と示し、転動体軌道路の幅方向に沿った方向を、双方向矢印で「軸方向」と示している。
【0027】
なお、軌道部材6a,6bは、外方環状部材4の内径面側へ圧入する前に、外方転動体軌道面28の研磨・超仕上げを行ってもよい。しかしながら、好適には、軌道部材6a,6bに熱処理を施した後、軌道部材6a,6bを外方環状部材4の内径面側へ圧入して一体化させた状態で、研磨・超仕上げ等の精度加工を行う。これは、外方環状部材4の内径面側へ圧入する前に外方転動体軌道面28a,28bの研磨・超仕上げを行う場合と比較して、組み立て時の精度を向上させることが可能となるためである。
【0028】
各転動体8は、例えば、鋼球(ボール)によって形成されており、それぞれ、外方転動体軌道面28a及び内方転動体軌道面16aと、外方転動体軌道面28b及び内方転動体軌道面16bと、アンギュラコンタクトで接触する状態で、転動体軌道路内へ転動自在に装填されている。
また、軌道部材6a,6b、すなわち、二つの隣り合う軌道部材6a,6b同士は、転動体8と転動体軌道路の幅方向に沿った方向で接触する部分(内方環状部材2の外径面へ向けて突出する部分)が、転動体軌道路の幅方向に沿った方向で近接している。
【0029】
したがって、本実施形態のハブユニット軸受1は、外方部材側凸部26を間に挟んで二列の転動体軌道路が背面同士で組み合わせられた複列アンギュラ玉軸受(背面組合せ[DB]アンギュラ玉軸受)を形成している。
また、外方部材側凸部26は、隣り合う軌道部材6a,6b間において、内方環状部材2の外径面へ向けて突出するとともに、転動体軌道路の幅方向に沿った方向で、軌道部材6a,6bと接触している。
また、外方環状部材4及び内方環状部材2の周方向に沿って隣り合う転動体8の間には、それぞれ、転動体保持器30を配置する。
また、特に図示しないが、外方環状部材4と内方環状部材2との間には、転動体8及び転動体保持器30とともに、グリース等の潤滑剤を配置する。
【0030】
(外方環状部材4の材料と、軌道部材6a,6bの材料)
以下、図1を参照しつつ、図2を用いて、外方環状部材4を形成する材料と、軌道部材6a,6bを形成する材料について説明する。
外方環状部材4の材料は、軌道部材6a,6bの材料よりも、線膨張係数が大きい材料である。
ここで、線膨張係数(線膨張率とも言う)とは、温度をセ氏1[℃]上げたときの、物質の長さの増加量と元の長さとの比である。
【0031】
本実施形態では、一例として、外方環状部材4を、アルミ合金を材料として形成した場合について説明する。
これに伴い、本実施形態では、軌道部材6a,6bを、アルミ合金よりも線膨張係数が小さい材料である、鋼(軸受鋼等)を用いて形成した場合を説明する。
また、外方環状部材4の材料及び軌道部材6a,6bの材料は、予め設定した第一温度の環境下で、外方環状部材4と軌道部材6との間に締め代が発生して、外方環状部材4の内径面が軌道部材6a,6bの外径面を押圧する材料とする。
これに加え、外方環状部材4の材料及び軌道部材6a,6bの材料は、第一温度よりも高い温度である予め設定した第二温度の環境下で、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に隙間が発生する材料とする。
【0032】
本実施形態では、一例として、第一温度を20[℃](常温)とする。
また、本実施形態では、一例として、第二温度を、図2中に示すように、軌道部材6a,6bを外方環状部材4の内径面側へ圧入した状態で発生した、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に締め代(以降の説明では、「初期の圧入締め代」と記載する場合がある)に応じた値(約50[℃]、約85[℃]、約125[℃])に設定する。なお、図2は、ハブユニット軸受1の使用環境温度と、使用環境温度の変化に伴う、転動体軌道路の径方向への予圧の変化量との関係を示す図である。また、図2中では、横軸に、ハブユニット軸受1の使用環境温度(図中では、「温度[℃]」と記載する)を示し、縦軸に、使用環境温度の変化に伴う、転動体軌道路の径方向への予圧の変化量(図中では、「予圧変化量」と記載する)を示す。
【0033】
なお、予圧の算出方法としては、FEM(有限要素法:Finite Element Method)や、一般的な嵌め合い計算を用いることが可能である。また、予圧の算出に用いるパラメータとしては、温度、外方環状部材4の外径・内径・弾性率・線膨張係数や、軌道部材6a,6bの外径・内径・弾性率・線膨張係数、初期の圧入締め代、外方部材側凸部26の長さ・線膨張係数等を用いることが可能である。
【0034】
図2中に示すように、ハブユニット軸受1は、温度上昇に伴って転動体軌道路の径方向への予圧が減少する。そして、第一温度以下の環境下では、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に発生する締め代が「0」よりも大きくなり、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間にマイナス隙間が発生した状態となる。すなわち、第一温度以下の環境下では、ハブユニット軸受1において、内方環状部材2の径方向への予圧(図2中では、破線で示す)が「±0」以上となる。
【0035】
また、初期の圧入締め代が小さい場合(図中では、「締め代 小」と示す)、ハブユニット軸受1の温度が上昇して、使用環境温度が約50[℃]の環境下となると、締め代が「0」(図中では、「締め代がゼロになるポイント」と記載する)となる。これにより、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に発生する締め代が「0」よりも大きくなり、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に隙間が発生した状態となる。
【0036】
そして、初期の圧入締め代が小さい場合、使用環境温度が約50[℃]以下では、軌道部材6a,6bの膨張量が内方環状部材2の膨張量よりも大きいため、温度上昇に伴って転動体軌道路の径方向への予圧が減少するが、使用環境温度が約50[℃]を超えると、軌道部材6a,6bの膨張量が内方環状部材2の膨張量と等しくなり、転動体軌道路の径方向への予圧の減少が停止して、転動体軌道路の径方向への予圧が変化しない状態となる。
【0037】
また、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 小」の場合よりも大きい場合(図中では、「締め代 中」と示す)、ハブユニット軸受1の温度が上昇して、使用環境温度が約85[℃]の環境下となると、締め代が「0」となる。これにより、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に発生する締め代が「0」よりも大きくなり、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に隙間が発生した状態となる。
【0038】
すなわち、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 小」の場合よりも大きい場合、使用環境温度が約85[℃]以下では、軌道部材6a,6bの膨張量が内方環状部材2の膨張量よりも大きいため、温度上昇に伴って転動体軌道路の径方向への予圧が減少するが、使用環境温度が約85[℃]を超えると、軌道部材6a,6bの膨張量が内方環状部材2の膨張量と等しくなり、転動体軌道路の径方向への予圧の減少が停止して、転動体軌道路の径方向への予圧が変化しない状態となる。
【0039】
また、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 中」の場合よりも大きい場合(図中では、「締め代 大」と示す)、ハブユニット軸受1の温度が上昇して、使用環境温度が約125[℃]の環境下となると、締め代が「0」となる。これにより、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に発生する締め代が「0」よりも大きくなり、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に隙間が発生した状態となる。
【0040】
すなわち、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 中」の場合よりも大きい場合、使用環境温度が約125[℃]以下では、軌道部材6a,6bの膨張量が内方環状部材2の膨張量よりも大きいため、温度上昇に伴って転動体軌道路の径方向への予圧が減少するが、使用環境温度が約125[℃]を超えると、軌道部材6a,6bの膨張量が内方環状部材2の膨張量と等しくなり、転動体軌道路の径方向への予圧の減少が停止して、転動体軌道路の径方向への予圧が変化しない状態となる。
【0041】
以上により、第二温度は、軌道部材6a,6bを外方環状部材4の内径面側へ圧入した状態で発生した、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間の締め代が大きいほど高い温度となる。
したがって、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 小」の場合、すなわち、初期の圧入締め代が小さい場合は、比較的低温(約50[℃])の環境下において、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に発生する締め代が「0」よりも大きくなり、ハブユニット軸受1が高温となっても、転動体軌道路の径方向への予圧が変化しない状態となる。
【0042】
一方、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 中」や「締め代 大」の場合、すなわち、初期の圧入締め代が大きい場合は、ハブユニット軸受1が高温となっても、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に発生する締め代が「0」よりも大きくならず、比較的高温(約85[℃]、約125[℃])まで、転動体軌道路の径方向への予圧が減少する状態となる。
【0043】
(作用)
次に、図1及び図2を参照しつつ、図3及び図4を用いて、ハブユニット軸受1の作用について説明する。
ハブユニット軸受1の使用時等には、ブレーキディスクからの輻射・伝導熱による加熱と、ハブユニット軸受1の構成部材、すなわち、内方環状部材2、外方環状部材4、軌道部材6a,6b、転動体8の発熱により、ハブユニット軸受1の温度が上昇する。
なお、ハブユニット軸受1を使用する温度は、一般的に、−40[℃]から120[℃]の範囲内である。
【0044】
ここで、本実施形態のハブユニット軸受1では、外方環状部材4の材料を、軌道部材6a,6bの材料よりも線膨張係数が大きい材料としている。これに加え、外方環状部材4が、隣り合う軌道部材6a,6b間において内方環状部材2の外径面へ向けて突出し、且つ転動体軌道路の幅方向に沿った方向で隣り合う軌道部材6a,6bと接触する外方部材側凸部26を有している。
【0045】
このため、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、外方部材側凸部26を含む外方環状部材4の膨張量が、軌道部材6a,6bの膨張量よりも大きくなる。
また、本実施形態のハブユニット軸受1では、第一温度(20[℃])の環境下では、外方環状部材4と軌道部材6との間に締め代が発生して、外方環状部材4の内径面が軌道部材6a,6bの外径面を押圧する。
【0046】
一方、ハブユニット軸受1の温度が上昇して、第二温度(約50、85、125[℃])の環境下となると、外方環状部材4への圧入時に縮径した軌道部材6a,6bが拡径して、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に隙間が発生する。
これにより、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、外方環状部材4の内径面による軌道部材6a,6bの外径面の押圧度合いが減少して、ハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の径方向への予圧が減少する(図2参照)。
【0047】
また、外方部材側凸部26は、軌道部材6aと軌道部材6bにより、転動体軌道路の幅方向に沿った方向から挟み込まれており、外方部材側凸部26を含む外方環状部材4の材料を、ハブ10の材料(鋼)よりも線膨張係数が大きい材料(アルミ合金)としている。このため、ハブユニット軸受1の温度が上昇すると、外方部材側凸部26の膨張量が、内方環状部材2(ハブ10)のうち外方部材側凸部26と内方環状部材2の径方向で対向する部分の膨張量よりも大きくなり、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への、軌道部材6a,6bの押圧度合いが増加する。
【0048】
これにより、図3中に示すように、ハブユニット軸受1の温度が上昇するにつれて、ハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧が増加する。
なお、図3は、ハブユニット軸受1の使用環境温度と、使用環境温度の変化に伴う、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧の変化量との関係を示す図である。また、図3中では、横軸に、ハブユニット軸受1の使用環境温度(図中では、「温度[℃]」と記載する)を示し、縦軸に、使用環境温度の変化に伴う、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧の変化量(図中では、「予圧変化量」と記載する)を示す。また、図3中では、ハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧を、破線で示している。
【0049】
したがって、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、ハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の径方向への予圧が減少するとともに、ハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧が増加する。
また、本実施形態では、図2及び図3中に示すように、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴ってハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の径方向への予圧の減少度合い(図2中における破線の傾斜度合い)よりも、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧の増加度合い(図3中における破線の傾斜度合い)が小さい。これは、例えば、外方部材側凸部26の形状等を調節することにより設定する。
【0050】
このため、図4中に示すように、初期の圧入締め代が小さい場合(図中では、「締め代 小」と示す)、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、使用環境温度が約50[℃]以下では、ハブユニット軸受1の温度上昇時にハブユニット軸受1に発生する予圧の変化度合いが、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴って予圧が減少する変化度合いとなる。
そして、初期の圧入締め代が小さい場合、使用環境温度が約50[℃]を超えると、ハブユニット軸受1の温度上昇時にハブユニット軸受1に発生する予圧の変化度合いが、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴って予圧が増加する変化度合いとなる。
【0051】
また、図4中に示すように、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 小」の場合よりも大きい場合(図中では、「締め代 中」と示す)、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、使用環境温度が約85[℃]以下では、ハブユニット軸受1の温度上昇時にハブユニット軸受1に発生する予圧の変化度合いが、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴って予圧が減少する変化度合いとなる。
【0052】
そして、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 小」の場合よりも大きい場合、使用環境温度が約85[℃]を超えると、ハブユニット軸受1の温度上昇時にハブユニット軸受1に発生する予圧の変化度合いが、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴って予圧が増加する変化度合いとなる。
また、図4中に示すように、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 中」の場合よりも大きい場合(図中では、「締め代 大」と示す)、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、使用環境温度が約125[℃]以下では、ハブユニット軸受1の温度上昇時にハブユニット軸受1に発生する予圧の変化度合いが、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴って予圧が減少する変化度合いとなる。
【0053】
そして、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 中」の場合よりも大きい場合、使用環境温度が約125[℃]を超えると、ハブユニット軸受1の温度上昇時にハブユニット軸受1に発生する予圧の変化度合いが、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴って予圧が増加する変化度合いとなる。
なお、図4は、ハブユニット軸受1の使用環境温度と、使用環境温度の変化に伴う接触角方向の予圧の変化量との関係を示す図である。また、図4中では、横軸に、ハブユニット軸受1の使用環境温度(図中では、「温度[℃]」と記載する)を示し、縦軸に、使用環境温度の変化に伴う接触角方向の予圧の変化量(図中では、「予圧変化量」と記載する)を示す。
【0054】
ここで、図4中に示す、ハブユニット軸受1の温度上昇時にハブユニット軸受1に発生する、接触角方向の予圧の変化度合いとは、転動体軌道路の径方向への予圧の予圧の変化度合いと、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への変化度合いとを合成した値である。
また、接触角方向とは、例えば、外方転動体軌道面28aが軌道部材6aの中心軸に対して傾斜している角度と、外方転動体軌道面28bが軌道部材6bの中心軸に対して傾斜している角度である。
【0055】
また、接触角方向の予圧は、内方転動体軌道面16a,16bと、外方転動体軌道面28a,28bが、転動体8に加える圧力であり、内方転動体軌道面16aと外方転動体軌道面28aとの間の相対的な距離の変化と、内方転動体軌道面16bと外方転動体軌道面28bとの間の相対的な距離の変化に応じた値である。
また、図4中には、図2中と同様、締め代が「0」となる温度を、「締め代がゼロになるポイント」と記載している。
したがって、図4中に示すように、初期の圧入締め代を小さく設定すると、比較的低温(約50[℃])の環境下において、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に発生する締め代を「0」よりも大きくすることにより、ハブユニット軸受1の予圧変化を抑制することが可能となる。
【0056】
(第一実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を列挙する。
(1)本実施形態のハブユニット軸受1では、複列アンギュラ構造の転動体軌道路を備えるハブユニット軸受1において、外方環状部材4が、隣り合う軌道部材6a,6b間において内方環状部材2の外径面へ向けて突出し、且つ転動体軌道路の幅方向に沿った方向で隣り合う軌道部材6a,6bと接触する外方部材側凸部26を有している。これに加え、外方環状部材4の材料として、軌道部材6a,6bの材料よりも線膨張係数が大きい材料を用いている。
【0057】
このため、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、外方部材側凸部26を含む外方環状部材4の膨張量が、軌道部材6a,6bの膨張量よりも大きくなる。
これにより、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、軌道部材6a,6bと外方環状部材4の内径面との締め代が減少して、ハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の径方向への予圧が減少する。これに加え、外方部材側凸部26による軌道部材6a,6bの押圧度合いが増加して、ハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧が増加する。
【0058】
このため、ハブユニット軸受1の温度上昇時において、転動体軌道路の径方向への予圧変化と転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧変化とを相殺することが可能となり、接触角方向の予圧変化を抑制することが可能となる。
また、外方環状部材4を軌道部材6a,6bよりも線膨張係数が大きい材料で形成することにより、ハブユニット軸受1の温度上昇時における、転動体軌道路の径方向への予圧の減少と、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧の増加を、効果的に発生させることが可能となる。
その結果、温度上昇時の予圧変化を抑制することが可能な、ハブユニット軸受1を提供することが可能となる。
【0059】
(2)本実施形態のハブユニット軸受1では、予め設定した第一温度の環境下では、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に締め代が発生して、外方環状部材4の内径面が軌道部材6a,6bの外径面を押圧する。また、第一温度よりも高い温度である予め設定した第二温度の環境下では、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に隙間が発生する。
【0060】
このため、第一温度の環境下からハブユニット軸受1の温度が上昇して第二温度の環境下となると、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に隙間が発生して、外方環状部材4の内径面が軌道部材6a,6bの外径面を押圧していない状態となり、ハブユニット軸受1の温度が上昇しても、ハブユニット軸受1に発生する、内方環状部材2の径方向への予圧が減少しなくなる。
【0061】
その結果、第一温度の環境下において、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に締め代が発生するため、外方環状部材4の内径面側へ軌道部材6a,6bを圧入した後に行う処理である、機械加工の位置決めを行うことが可能となる。これは、第一温度の環境下において、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間の締め代が「0」以下となり、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に隙間が発生すると、ハブユニット軸受1の製造時に、機械加工の位置決めを行うことが不可能となるためである。
【0062】
(3)本実施形態のハブユニット軸受1では、外方環状部材4の材料を、軌道部材6a,6bの材料よりも線膨張係数が大きい材料として、軌道部材6a,6bよりも体積が大きい部材である外方環状部材4を、軌道部材6a,6bよりも比重が小さい材料で形成している。
その結果、例えば、軌道部材6a,6bよりも体積が大きい部材である外方環状部材4を、軌道部材6a,6bよりも比重が大きい材料で形成した場合と比較して、ハブユニット軸受1を軽量化することが可能となる。
【0063】
(変形例)
以下、本実施形態の変形例を列挙する。
(1)本実施形態のハブユニット軸受1では、外方環状部材4の材料をアルミ合金とし、軌道部材6a,6bの材料を、アルミ合金よりも線膨張係数が小さい材料である、鋼(軸受鋼等)としたが、外方環状部材4の材料と軌道部材6a,6bの材料は、これに限定するものではない。要は、外方環状部材4の材料を、軌道部材6a,6bの材料よりも線膨張係数が大きい材料とすればよい。特に、軌道部材6a,6bの線膨張係数と外方環状部材4の線膨張係数との比が0.8以下(軌道部材6a,6bの材料/外方環状部材4の材料)であれば、温度上昇時の予圧変化を抑制するために好適である。
【0064】
(2)本実施形態では、転動体8をボールとして、ハブユニット軸受1をアンギュラ玉軸受としたが、これに限定するものではなく、転動体8を円錐ころとしてもよい。この場合、ハブユニット軸受1を、円錐ころ軸受とする。
(3)本実施形態では、ハブユニット軸受1の構成を、転動体保持器30を備える構成としたが、これに限定するものではなく、ハブユニット軸受1の構成を、転動体保持器30を備えていない構成としてもよい。
【0065】
(4)本実施形態では、内方環状部材2の取り付け対象を、回転する部材であるブレーキディスク(車輪側部材)とし、外方環状部材4の取り付け対象を、ナックル(車体側部材)としたが、これに限定するものではなく、内方環状部材2の取り付け対象をナックルとし、外方環状部材4の取り付け対象をブレーキディスクとしてもよい。
【0066】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
まず、図1を参照しつつ、図5を用いて、本実施形態のハブユニット軸受の構成を説明する。なお、上述した第一実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。
図5は、本実施形態のハブユニット軸受1の構成を示す断面図である。
図5中に示すように、ハブユニット軸受1は、内方環状部材2と、外方環状部材4と、二つの軌道部材6a,6bと、複数の転動体8と、膨張調整間座部材32を備えている。なお、本実施形態のハブユニット軸受1は、膨張調整間座部材32を備えている点を除き、上述した第一実施形態と同様の構成であるため、以降の説明では、膨張調整間座部材32以外の構成に関する説明を省略する場合がある。
【0067】
膨張調整間座部材32は、例えば、樹脂等、外方環状部材4(アルミ合金を材料とする)よりも線膨張係数が大きい材料を用いて円環状に形成されており、軌道部材6bと外方部材側凸部34との間に配置されている。
また、膨張調整間座部材32は、軌道部材6bと外方部材側凸部34との間に配置された状態で、内方環状部材2と接触しない形状に形成されている。
【0068】
また、本実施形態のハブユニット軸受1では、上述した第一実施形態と異なり、外方環状部材4の材料及び軌道部材6a,6bの材料を、第二温度の環境下であっても、外方環状部材4と軌道部材6との間に締め代が発生する材料とする。
また、本実施形態のハブユニット軸受1では、外方部材側凸部34の形状が、上述した第一実施形態のハブユニット軸受1における外方部材側凸部26(図1参照)と異なっている。
【0069】
具体的には、外方部材側凸部34の、転動体軌道路の幅方向に沿った方向(図5中では、双方向矢印で「軸方向」と示す)の長さが、膨張調整間座部材32の、転動体軌道路の幅方向に沿った方向の長さ分、第一実施形態の外方部材側凸部26よりも短くなっている。
その他の構成は、上述した第一実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0070】
(作用)
次に、図1から図5を参照しつつ、図6を用いて、ハブユニット軸受1の作用について説明する。なお、上述した第一実施形態と同様の作用については、その説明を省略する場合がある。
ハブユニット軸受1の使用時等には、ブレーキディスクからの輻射・伝導熱による加熱と、ハブユニット軸受1の構成部材、すなわち、内方環状部材2、外方環状部材4、軌道部材6a,6b、転動体8の発熱により、ハブユニット軸受1の温度が上昇する。
ここで、本実施形態のハブユニット軸受1では、膨張調整間座部材32を、外方環状部材4よりも線膨張係数が大きい材料で形成している。
【0071】
このため、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、膨張調整間座部材32の膨張量が、外方部材側凸部34の膨張量よりも大きくなる。
また、本実施形態のハブユニット軸受1では、膨張調整間座部材32を、軌道部材6bと外方部材側凸部34との間に配置している。すなわち、軌道部材6bと外方部材側凸部34との間には、軌道部材6b及び外方部材側凸部34と接触する状態で、膨張調整間座部材32が挿入されている。
【0072】
これにより、ハブユニット軸受1の温度が上昇して、膨張調整間座部材32及び外方部材側凸部34が膨張すると、膨張調整間座部材32及び外方部材側凸部34による、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への、軌道部材6a,6bの押圧度合いが増加する。
また、本実施形態のハブユニット軸受1では、外方環状部材4の材料及び軌道部材6a,6bの材料を、第二温度の環境下であっても、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に締め代が発生する材料としている。
【0073】
したがって、本実施形態のハブユニット軸受1では、上述した第一実施形態と比較して、ハブユニット軸受1の温度が増加するにつれてハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧の増加度合い(図3参照)が大きくなる。
これにより、本実施形態のハブユニット軸受1では、上述した第一実施形態と異なり、ハブユニット軸受1の温度上昇時に、転動体軌道路の径方向への予圧が減少するとともに、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧が増加すると、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴ってハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の径方向への予圧の減少度合い(図2参照)と、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧の増加度合い(図3参照)が近似した値となる。
【0074】
以上により、本実施形態のハブユニット軸受1では、ハブユニット軸受1の温度上昇時において、図6中に示すように、ハブユニット軸受1の温度が上昇しても、第二温度までは、接触角方向の予圧が「±0」で変化しない。そして、ハブユニット軸受1の温度が第二温度を超えると、転動体軌道路の径方向への予圧の減少が停止するとともに、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧の増加が継続するため、第二温度からの温度上昇に伴い、接触角方向の予圧が増加する。
【0075】
具体的には、図6中に示すように、初期の圧入締め代が小さい場合(図中では、「締め代 小」と示す)、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、使用環境温度が約50[℃]以下では、ハブユニット軸受1の温度が上昇しても、接触角方向の予圧が「±0」で変化しない。
そして、初期の圧入締め代が小さい場合、使用環境温度が約50[℃]を超えると、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴い、接触角方向の予圧が増加する。
【0076】
また、図6中に示すように、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 小」の場合よりも大きい場合(図中では、「締め代 中」と示す)、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、使用環境温度が約85[℃]以下では、ハブユニット軸受1の温度が上昇しても、接触角方向の予圧が「±0」で変化しない。
そして、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 小」の場合よりも大きい場合、使用環境温度が約85[℃]を超えると、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴い、接触角方向の予圧が増加する。
【0077】
また、図6中に示すように、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 中」の場合よりも大きい場合(図中では、「締め代 大」と示す)、ハブユニット軸受1の温度上昇時には、使用環境温度が約125[℃]以下では、ハブユニット軸受1の温度が上昇しても、接触角方向の予圧が「±0」で変化しない。
そして、初期の圧入締め代が、上述した「締め代 中」の場合よりも大きい場合、使用環境温度が約125[℃]を超えると、ハブユニット軸受1の温度上昇に伴い、接触角方向の予圧が増加する。
【0078】
したがって、図6中に示すように、初期の圧入締め代を、上述した「締め代 中」の場合よりも大きく設定すると、ハブユニット軸受1を使用する一般的な温度範囲の上限値である120[℃]よりも高い温度(約125[℃])に、ハブユニット軸受1の温度が上昇するまでは、接触角方向の予圧が「±0」で変化しないため、ハブユニット軸受1の予圧変化を抑制することが可能となる。
【0079】
すなわち、初期の圧入締め代を、上述した「締め代 中」の場合よりも大きく設定すると、ハブユニット軸受1を使用する一般的な温度範囲内において、接触角方向の予圧が「±0」で変化しないため、ハブユニット軸受1の温度上昇時における、接触角方向の予圧変化の抑制効果が大きい。
【0080】
なお、図6は、ハブユニット軸受1の使用環境温度と、使用環境温度の変化に伴う接触角方向の予圧の変化量との関係を示す図である。また、図6中では、横軸に、ハブユニット軸受1の使用環境温度(図中では、「温度[℃]」と記載する)を示し、縦軸に、使用環境温度の変化に伴う接触角方向の予圧の変化量(図中では、「予圧変化量」と記載する)を示す。
また、図6中には、図2中と同様、締め代が「0」となる温度を、「締め代がゼロになるポイント」と記載している。
【0081】
(第二実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を記載する。
(1)本実施形態のハブユニット軸受1では、軌道部材6bと外方部材側凸部34との間に、外方環状部材4よりも線膨張係数が大きい材料で形成されている膨張調整間座部材32を配置している。すなわち、軌道部材6bと外方部材側凸部34との間には、軌道部材6b及び外方部材側凸部34と接触する状態で、膨張調整間座部材32が挿入されている。
【0082】
このため、ハブユニット軸受1の温度上昇時に、膨張調整間座部材32の膨張量が、外方部材側凸部34を含む外方環状部材4の膨張量よりも大きくなる。これにより、膨張調整間座部材32による外方部材側凸部34及び軌道部材6bの押圧度合いが増加して、ハブユニット軸受1に発生する、転動体軌道路の幅方向に沿った方向への予圧が増加する。
その結果、上述した第一実施形態と比較して、温度上昇時の予圧変化を更に抑制することが可能となる。
【0083】
(変形例)
以下、本実施形態の変形例を列挙する。
(1)本実施形態のハブユニット軸受1では、外方環状部材4の材料及び軌道部材6a,6bの材料を、第二温度の環境下であっても、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に締め代が発生する材料としたが、これに限定するものではない。すなわち、外方環状部材4の材料及び軌道部材6a,6bの材料を、上述した第一実施形態と同様に、第一温度よりも高い温度である予め設定した第二温度の環境下で、外方環状部材4と軌道部材6a,6bとの間に隙間が発生する材料としてもよい。
【0084】
(2)本実施形態のハブユニット軸受1では、膨張調整間座部材32を、軌道部材6bと外方部材側凸部34との間に配置したが、これに限定するものではなく、膨張調整間座部材32を、軌道部材6aと外方部材側凸部34との間に配置してもよい。また、ハブユニット軸受1の構成を、二つの膨張調整間座部材32を備える構成とし、これら二つの膨張調整間座部材32を、それぞれ、軌道部材6bと外方部材側凸部34との間と、軌道部材6aと外方部材側凸部34との間に配置してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 ハブユニット軸受
2 内方環状部材
4 外方環状部材
6a,6b 軌道部材
8 転動体
10 ハブ
12 内方フランジ
14 内方軌道面形成部材
16a,16b 内方転動体軌道面
18 締結部材
20 内方締結部材挿通孔
22 外方フランジ
24 外方締結部材挿通孔
26 外方部材側凸部
28a,28b 外方転動体軌道面
30 転動体保持器
32 膨張調整間座部材
34 外方部材側凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径面に複数列の内方転動体軌道面を有する内方環状部材と、
内径面が前記内方環状部材の外径面と対向する外方環状部材と、
前記外方環状部材の内径面との間に締め代を有する状態で前記内方環状部材と外方環状部材との間に配置され、且つ前記複数列の内方転動体軌道面と対向する外方転動体軌道面をそれぞれ有する複数個の環状の軌道部材と、
前記外方転動体軌道面と前記内方転動体軌道面との間に形成された複数列の転動体軌道路内へ転動自在に装填され、且つ前記外方転動体軌道面及び前記内方転動体軌道面とアンギュラコンタクトで接触する複数の転動体と、を備え、
前記複数個の軌道部材のうち少なくとも二つの隣り合う軌道部材同士は、前記転動体と前記転動体軌道路の幅方向に沿った方向で接触する部分が転動体軌道路の幅方向に沿った方向で近接し、
前記外方環状部材は、前記隣り合う軌道部材間において前記内方環状部材の外径面へ向けて突出し、且つ前記転動体軌道路の幅方向に沿った方向で前記隣り合う軌道部材と接触する外方部材側凸部を有し、
前記外方環状部材の材料は、前記軌道部材の材料よりも線膨張係数が大きい材料であることを特徴とするハブユニット軸受。
【請求項2】
前記外方環状部材の材料及び前記軌道部材の材料を、予め設定した第一温度の環境下で前記外方環状部材と前記軌道部材との間に締め代が発生して外方環状部材の内径面が軌道部材の外径面を押圧し、且つ前記第一温度よりも高い温度である予め設定した第二温度の環境下で前記外方環状部材と前記軌道部材との間に隙間が発生する材料としたことを特徴とする請求項1に記載したハブユニット軸受。
【請求項3】
前記軌道部材と前記外方部材側凸部との間に、前記外方環状部材よりも線膨張係数が大きい材料で形成されている膨張調整間座部材を配置したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載したハブユニット軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−100877(P2013−100877A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245430(P2011−245430)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】