説明

ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類の検出方法

【課題】ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類を特異的にかつ迅速に検出しうる方法、及びそれに用いる検出用DNA、検出用オリゴヌクレオチドを提供する。
【解決手段】特定の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列で表される核酸を用いてハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の同定を行うことを特徴とするハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及びクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法、及びそれに用いる検出用DNA、検出用オリゴヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性の菌類(真菌類)は自然界に広く分布し、野菜、果物等の農作物で繁殖し、これらの農作物を原材料とした飲食品を汚染する。しかも、耐熱性の菌類は通常の他の菌類に比べて高い耐熱性を有する。例えば酸性飲料の加熱殺菌処理を行ったとしても耐熱性菌類が生存、増殖し、カビの発生原因となることがある。このため、耐熱性菌類は重大な事故を引き起こす重要危害菌として警戒されている。
【0003】
加熱殺菌処理後の飲食品からも検出されることがある汚染事故の原因菌の主な耐熱性菌類の1つとして、ハミゲラ(Hamigera)属に属する耐熱性菌類が知られている。飲食品及びこれらの原材料中の耐熱性菌類による事故防止のためには、ハミゲラ属に属する耐熱性菌類の検出が重要である。
【0004】
一方、従来の耐熱性の菌類を検出する方法としては、検体をPDA培地等で培養して検出する方法がある。しかし、この方法ではコロニーが確認されるまでに約7日間を要する。しかも、菌種の同定は、菌の特徴的な器官の形態に基づいて行うので、形態学的な特徴が認められるまでさらに約7日間の培養を必要としている。したがって、この方法によると、耐熱性菌類の検出に約14日間もの時間を要する。このように耐熱性菌類の検出に長期間を要することは飲食品の衛生管理、原材料の鮮度確保、流通上の制約など観点から、必ずしも満足できるものではない。そのため、より迅速な耐熱性菌類の検出方法の確立が求められている。
また、クラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類は住環境や食品工場に広く分布する黒色カビであり、分生子が空気中に飛散することが知られている。クラドスポリウム属に属する菌類の菌体が加熱殺菌後の食品に接触すると増殖し腐敗事故を引き起こす。従って、クラドスポリウム属に属する菌類の迅速な検出方法の確立も求められている。
【0005】
菌類の迅速な検出方法としては、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を利用した検出方法が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかし、これらの方法では特定の耐熱性菌類を特異的にかつ迅速に検出することが困難であるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平11−505728号公報
【特許文献2】特開2006−61152号公報
【特許文献3】特開2006−304763号公報
【特許文献4】特開2007−174903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、飲食品の汚染事故の主な原因菌に挙げられるハミゲラ属に属する菌類、及びクラドスポリウム属に属する菌類を特異的にかつ迅速に検出しうる方法を提供することを課題とする。また、本発明は該検出方法に用いる検出用DNA及び検出用オリゴヌクレオチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のように耐熱性菌類の検出を困難にしている一因として、従来の公知のプライマーを用いたPCR法では擬陽性や擬陰性の結果が出ることが挙げられる。
本発明者等は、この問題を克服し特定の耐熱性菌類を特異的に検出・識別しうる新たなDNA領域を探索すべく、鋭意検討を行った。その結果、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子中に、他の菌類のものとは明確に区別しうる、特異的な塩基配列を有する領域(以下、「可変領域」ともいう)が存在することを見出した。また、この可変領域をターゲットとすることで、上記ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類を特異的かつ迅速に検出・識別できることを見出した。本発明はこの知見に基づき完成するに至った。
【0009】
本発明は、下記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸を用いてハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の同定を行うことを特徴とするハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法に関するものである。
(g)配列番号5に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
(h)配列番号6に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
【0010】
また、本発明は、ハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出に用いるための、前記(g)又は(h)の塩基配列で表されるDNAに関するものである。
また、本発明は、前記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、ハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類を特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得るハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出用オリゴヌクレオチドに関するものである。
【0011】
また、本発明は、下記の(a)及び(b)で示されたハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及びクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド対に関するものである。
(a)配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
また、本発明は、下記の(c)及び(d)で示されたハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド対に関するものである。
(c)配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
また、本発明は、下記の(e)及び(f)で示されたハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド対に関するものである。
(e)配列番号7に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f)配列番号8に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
また、本発明は、前述したオリゴヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド対を含むハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類検出用のキットに関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、飲食品の汚染事故の主な原因菌に挙げられるハミゲラ属に属する菌類、及びクラドスポリウム属に属する菌類を特異的にかつ迅速に検出できるDNA及びオリゴヌクレオチドを提供することができる。さらに、本発明によれば、前記DNA及びオリゴヌクレオチドを用いたハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ハミゲラ アベラネア及びクラドスポリウム クラドスポロイデスのβ−チューブリン遺伝子の塩基配列を示す図である。
【図2】実施例1における電気泳動図である。
【図3】実施例2における、本発明の(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドを用いたPCR産物の電気泳動図である。
【図4】実施例2における、本発明の(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドを用いたPCR産物の電気泳動図である。
【図5】実施例3における、ハミゲラ ストリアータの各菌株を用いた電気泳動図である。
【図6】実施例4における、ハミゲラ アベラネアの各菌株を用いた電気泳動図である。
【図7】実施例5における電気泳動図である。
【図8】実施例5における電気泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ハミゲラ属(Hamigera)に属する菌類又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列、すなわちハミゲラ属に属する菌類又はクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子領域中におけるハミゲラ属及び/又はクラドスポリウム属に特異的な領域又は種特異的領域(可変領域)の塩基配列で表される核酸を用いてハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の同定を行い、ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類を特異的に識別・検出する方法である。
本発明における「ハミゲラ属に属する菌類」とは、マユハキタケ科(Trichocomaceae)に属する不整子嚢菌類を意味する。ハミゲラ属に属する菌類は、75℃、30分間の加熱処理後であっても生存可能な子のう胞子を形成する。ハミゲラ属に属する菌類の例として、ハミゲラ アベラネア(Hamigera avellanea)、ハミゲラ ストリアータ(Hamigera striata)が挙げられる。また、「クラドスポリウム属に属する菌類」は糸状不完全菌類であり、耐熱性の高い子のう胞子を形成しない。また、住環境や食品工場などに広く分布し、メラニン色素を合成するため、黒色汚れの原因菌である。クラドスポリウム属に属する菌類の例として、クラドスポリウム クラドスポロイデス(Cladosporium cladosporioides)、クラドスポリウム スファエロスファーマム(Cladosporium sphaerospermum)が挙げられる。
【0015】
「β−チューブリン」とは微小管を構成する蛋白質であり、「β−チューブリン遺伝子」とは、β−チューブリンをコードする遺伝子である。また、本発明において、「可変領域」とは、β-チューブリン遺伝子中で塩基変異が蓄積しやすい領域であり、この領域の塩基配列は真菌の属間で大きく異なる。ハミゲラ属のβ-チューブリン遺伝子の可変領域はハミゲラ属固有の塩基配列であるため、他の通常の菌類のものとは明確に区別しうるものである。
【0016】
本発明の検出方法は、下記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸、すなわちハミゲラ属に属する菌類又はクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子中の特定領域(可変領域)の塩基配列に対応する核酸を用いることを特徴とする。
(g)配列番号5に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
(h)配列番号6に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
発明者らは、ハミゲラ属に属する菌類、クラドスポリウム属に属する菌類及びハミゲラ属に属する菌類に近縁な菌類から種々のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列を同定し、ハミゲラ属と近縁な属とハミゲラ属との間、ハミゲラ属内、及びクラドスポリウム属内での遺伝的距離の解析を行った。さらに、決定した各種のβチューブリン遺伝子配列の相同性解析をおこなった。その結果、当該配列中にハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に固有の塩基配列を有する可変領域を見出した。この可変領域において、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類は固有の塩基配列を有しているため、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類を識別・同定することが可能となる。本発明は、この可変領域及び可変領域に由来する核酸、オリゴヌクレオチドをターゲットとしたものである。
【0017】
本発明の検出方法に用いる前記(g)の塩基配列は、ハミゲラ属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列に対応する。また、本発明の検出方法に用いる前記(h)の塩基配列は、クラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列に対応する。
【0018】
配列番号5に記載の塩基配列及びその相補配列は、ハミゲラ アベラネアから単離、同定されたβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列である。当該配列はハミゲラ属に属する菌類に特異的であり、被検体がこの塩基配列を有しているか否かを確認することで、ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類を特異的に識別・同定することが可能である。また、配列番号5に記載の塩基配列若しくはその相補配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列で表される核酸を用いても、同様にハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類を特異的に識別・同定することが可能である。これらの塩基配列で表される核酸は、特にハミゲラ アベラネア、ハミゲラ ストリアータ及びクラドスポリウム クラドスポロイデスを検出するために好適に用いられる。
配列番号6に記載の塩基配列及びその相補配列は、クラドスポリウム クラドスポロイデスから単離、同定されたβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列である。当該配列はクラドスポリウム属に属する菌類に特異的であり、被検体がこの塩基配列を有しているか否かを確認することで、クラドスポリウム属に属する菌類を特異的に識別・同定することが可能である。また、配列番号6に記載の塩基配列若しくはその相補配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列で表される核酸を用いても、同様にクラドスポリウム属に属する菌類を特異的に識別・同定することが可能である。これらの塩基配列で表される核酸は、特にクラドスポリウム クラドスポロイデスを検出するために好適に用いられる。
以下、前記(g)及び(h)の塩基配列を「本発明の可変領域の塩基配列」ともいう。
【0019】
上記本発明の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類を同定する方法として特に制限はなく、シークエンシング法、ハイブリダイゼンション法、PCR法など通常用いられる遺伝子工学的手法で行うことができる。
【0020】
本発明の検出方法において、前記本発明の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の同定を行うには、被検体のβ−チューブリン遺伝子領域の塩基配列を決定し、該領域の塩基配列中に前記(g)又は(h)の塩基配列が含まれるか否かを確認することが好ましい。すなわち、本発明の検出方法は、被検体の有するβ−チューブリン遺伝子の塩基配列を解析・決定し、決定した塩基配列と本発明の前記(g)又は(h)に記載のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列とを比較し、その一致又は相違に基づいてハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の同定を行うものである。
塩基配列を解析・決定する方法としては特に限定されず、通常行われているRNA又はDNAシークエンシングの手法を用いることができる。
具体的には、マクサム−ギルバート法、サンガー法等の電気泳動法、質量分析法、ハイブリダイゼーション法等が挙げられる。サンガー法においては、放射線標識法、蛍光標識法等により、プライマー又は、ターミネーターを標識する方法が挙げられる。
【0021】
本発明においては、上記本発明の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出・同定を行うために、前記本発明の可変領域の塩基配列、すなわち前記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、かつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類を特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得る検出用オリゴヌクレオチドを用いることができる。
本発明の検出用オリゴヌクレオチドは、ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できるものであればよい。すなわち、ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出のための核酸プライマーや核酸プローブとして使用できるものや、ストリンジェントな条件でハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドであれば良い。なお、ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えば後述の条件が挙げられる。
【0022】
本発明の上記検出用オリゴヌクレオチドとしては、前記本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の塩基配列から選択される領域であって、(1)ハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む、(2)オリゴヌクレオチドのGC含量がおよそ30%〜80%となる、(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い、(4)オリゴヌクレオチドのTm値(融解温度:melting temperature)がおよそ55℃〜65℃となる、の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドが好ましい。
上記(1)において「ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域」とは、前記本発明のβ−チューブリン遺伝子の可変領域の中でも、異なる属間での塩基配列の保存性が特に低く(すなわち、ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の特異性が特に高く)、10塩基前後にわたってハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類に固有の塩基配列が連続して現れる領域を意味する。
また、上記(3)において「オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い」とは、プライマーの塩基配列からプライマー同士が結合しないことが予想されることを言う。
本発明の検出用オリゴヌクレオチドの塩基数としては、特に限定されないが、13塩基〜30塩基であることが好ましく、18塩基〜23塩基であることがより好ましい。ハイブリダイズ時のオリゴヌクレオチドのTm値は、55℃〜65℃の範囲内であることが好ましく、59℃〜62℃の範囲内であることがより好ましい。オリゴヌクレオチドのGC含量は、30%〜80%が好ましく、45%〜65%がより好ましく、55%前後であることが最も好ましい。
【0023】
本発明のハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチドとしては、下記の(a)〜(f)のオリゴヌクレオチドがより好ましい。
(a)配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(e)配列番号7に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f)配列番号8に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【0024】
なかでも、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチドとしては、前記(a)又は(b)のオリゴヌクレオチドが好ましく用いられる。
また、ハミゲラ属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチドとしては、前記(c)〜(f)のいずれかのオリゴヌクレオチドが好ましく用いられる。
【0025】
すなわち、本発明の上記検出用オリゴヌクレオチドとしては、配列番号1〜4又は7〜8のいずれかに記載の塩基配列若しくはその相補配列で表されるオリゴヌクレオチド、配列番号1〜4又は7〜8のいずれかに記載の塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有する塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドであって、ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できるものが好ましい。ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列とは、配列番号1〜4又は7〜8のいずれかに記載の塩基配列に対して70%以上の相同性を有し、ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出のための核酸プライマーや核酸プローブとしてハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できるものや、ストリンジェントな条件でハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズ可能な塩基配列であれば良い。なお、ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5% SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。また、相同性が75%以上であることがさらに好ましく、相同性が80%以上であることがさらに好ましく、相同性が85%以上であることがさらに好ましく、相同性が90%以上であることがよりさらに好ましく、相同性が95%以上ありハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できるものであることが特に好ましい。
また、本発明の検出用オリゴヌクレオチドには、ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できるものであれば、配列番号1〜4又は7〜8のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドに対し、塩基の欠失、挿入あるいは置換といった変異や、修飾が施されたオリゴヌクレオチドも包含される。また、配列番号1〜4又は7〜8のいずれかに記載の塩基配列に対し、塩基の欠失、挿入あるいは置換といった変異や、修飾が施された塩基配列からなオリゴヌクレオチドには、ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出のための核酸プライマーや核酸プローブとしてハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できるものや、ストリンジェントな条件でハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズ可能な塩基配列も包含される。なお、ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えばMolecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載の方法が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M 塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。そのような塩基の欠失、挿入あるいは置換といった変異や、修飾されたオリゴヌクレオチドとしては、配列番号1〜4又は7〜8のいずれかに記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドにおいて1又は数個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1〜3個、よりさらに好ましくは1〜2個、特に好ましくは1個の塩基の欠失、挿入あるいは置換といった変異や、修飾されたオリゴヌクレオチドも包含される。また、配列番号1〜4又は7〜8のいずれかに記載の塩基配列に、適当な塩基配列を付加してもよい。塩基配列の相同性については、Lipman−Pearson法(Science,227,1435,1985)等によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(ソフトウェア開発製)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、パラメーターであるUnit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出することができる。
【0026】
前記(a)、(b)及び(c)で示されたオリゴヌクレオチドは、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の可変領域と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドである。したがって、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、前記ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類を特異的、迅速かつ簡便に検出することができる。
また、前記(d)、(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチドは、ハミゲラ属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の可変領域と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドである。したがって、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、前記ハミゲラ属に属する菌類を特異的、迅速かつ簡便に検出することができる。
【0027】
配列番号1〜3に記載の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドは、β−チューブリン遺伝子領域に存在し、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類に特異的な塩基配列、すなわち可変領域の一部分に相補的なオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類のDNA及びRNAの一部分に特異的にハイブリダイズすることができる。また、配列番号4及び配列番号7〜8に記載の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドは、β−チューブリン遺伝子領域に存在し、ハミゲラ属に属する菌類に特異的な塩基配列、すなわち可変領域に相補的なオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、ハミゲラ属に属する菌類のDNA及びRNAの一部分に特異的にハイブリダイズすることができる。
【0028】
ハミゲラ属及びクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の可変領域をハミゲラ アベラネアを例として詳細に説明する。上述のように、ハミゲラ アベラネアのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列は配列番号5で示される。また、クラドスポリウム クラドスポロイデスのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列は配列番号6で示される。配列番号5に記載の塩基配列のうち、ハミゲラ属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の350位から480位までの領域はハミゲラ属及びクラドスポリウム属と他の真菌の属間で塩基配列の保存性が特に低く、ハミゲラ属及びクラドスポリウム属固有の塩基配列を有することを本発明者らが見い出した。また、配列番号5に記載の塩基配列のうち、ハミゲラ属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列の180位から200位までの領域はハミゲラ属とクラドスポリウム属では配列が大きく異なり、ハミゲラ属固有の塩基配列を有することを本発明者らが見出した。
前記(a)及び(b)で示されたオリゴヌクレオチドは、配列番号5に記載の塩基配列のうち、それぞれ358位から377位まで、440位から459位までの領域に対応する。また、図1に示すように、ハミゲラ アベラネアのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列の358位から377位まで及び440位から459位までの領域と相同性の高い領域がクラドスポリウム クラドスポロイデスのβ−チューブリン遺伝子にも存在する。
前記(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチドは、配列番号5に記載の塩基配列のうち、それぞれ2位から22位まで、181位から200位までの領域に対応する。また、前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチドは、配列番号5に記載の塩基配列のうち、それぞれ172位から191位まで、397位から416位までの領域に対応する。また、ハミゲラ アベラネアのβ−チューブリン遺伝子の部分塩基配列の2位から22位までの領域と相同性の高い領域がクラドスポリウム クラドスポロイデスのβ−チューブリン遺伝子にも存在する。したがって、前記(a)、(b)、及び(c)で示されたオリゴヌクレオチドをハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズさせることによって、ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類を特異的に検出することができる。また、前記(d)、(e)、及び(f)で示されたオリゴヌクレオチドをハミゲラ属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子にハイブリダイズさせることによって、ハミゲラ属に属する菌類を特異的に検出することができる。
【0029】
本発明の検出方法においては、上記(a)〜(f)の検出用オリゴヌクレオチドの内、下記の(a1)〜(f1)のオリゴヌクレオチドが好ましく、配列番号1〜4及び7〜8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを用いるのがより好ましい。
(a1)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b1)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(c1)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d1)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(e1)配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f1)配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【0030】
本発明のハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド対は、前記(a)のオリゴヌクレオチドと前記(b)のオリゴヌクレオチドとからなるオリゴヌクレオチド対である。前記(a)及び(b)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いることで、ハミゲラ アベラネア、ハミゲラ ストリアータ及びクラドスポリウム クラドスポロイデスを特異的に検出することができる。
また、本発明のハミゲラ属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド対は、前記(c)のオリゴヌクレオチドと前記(d)のオリゴヌクレオチドとからなるオリゴヌクレオチド対、又は前記(e)のオリゴヌクレオチドと前記(f)のオリゴヌクレオチドとからなるオリゴヌクレオチド対である。前記(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチド対又は前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いることで、ハミゲラ アベラネア、ハミゲラ ストリアータを特異的に検出することができる。
【0031】
本発明の検出方法においては、上記検出用オリゴヌクレオチド対のなかでも、前記(a1)のオリゴヌクレオチドと前記(b1)のオリゴヌクレオチドとからなるオリゴヌクレオチド対、前記(c1)のオリゴヌクレオチドと前記(d1)のオリゴヌクレオチドとからなるオリゴヌクレオチド対、又は前記(e1)のオリゴヌクレオチドと前記(f1)のオリゴヌクレオチドとからなるオリゴヌクレオチド対を用いることが好ましく、配列番号1及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対、配列番号3及び配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対、配列番号7及び配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対を用いることがより好ましい。
【0032】
後述するように、本発明の検出方法において、上記本発明の検出用オリゴヌクレオチドは核酸プローブ又は核酸プライマーとして好適に用いることができる。
上記検出用オリゴヌクレオチドの結合様式は、天然の核酸に存在するホスホジエステル結合だけでなく、例えばホスホロアミデート結合、ホスホロチオエート結合等であってもよい。
【0033】
本発明の検出用オリゴヌクレオチドは、例えばDNA自動合成機等を用いた化学合成等の通常の合成方法により調製することができる。また、ハミゲラ属に属する菌類又はクラドスポリウム属に属する菌類の遺伝子から制限酵素等を用いて直接切り出したり、また遺伝子をクローニングして単離精製した後、制限酵素などを用いて切り出して調製することも可能である。操作の容易さ、大量かつ安価に一定品質のオリゴヌクレオチドを得られる点から化学合成により調製するのが好ましい。
【0034】
本発明の検出方法において、前記本発明の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の同定を行うには、前記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする検出用オリゴヌクレオチドを標識化し、得られた検出用オリゴヌクレオチドを検査対象物より抽出した核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせ、ハイブリダイズした検出用オリゴヌクレオチドの標識を測定することが好ましい。この場合、前記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする検出用オリゴヌクレオチドとしては、上述した本発明の検出用オリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド対を用いることができ、好ましい範囲も同様である。
【0035】
本発明の検出用オリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド対は、核酸プローブとして用いることができる。核酸プローブは、前記オリゴヌクレオチドを標識物によって標識化することで調製することができる。前記標識物としては特に制限されず、放射性物質や酵素、蛍光物質、発光物質、抗原、ハプテン、酵素基質、不溶性担体などの通常の標識物を用いることができる。標識方法は、末端標識でも、配列の途中に標識してもよく、また、糖、リン酸基、塩基部分への標識であってもよい。上記核酸プローブはハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の可変領域と特異的にハイブリダイズするので、被検体中のハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類を迅速かつ簡便に検出することができる。かかる標識の検出手段としては、例えば核酸プローブが放射性同位元素で標識されている場合にはオートラジオグラフィー等、蛍光物質で標識されている場合には蛍光顕微鏡等、化学発光物質で標識されている場合には感光フィルムを用いた解析やCCDカメラを用いたデジタル解析等が挙げられる。
このようにして標識化された本発明の検出用オリゴヌクレオチドを、通常の方法により検査対象物から抽出された核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせた後、ハイブリダイズした検出用オリゴヌクレオチドの標識を測定することでハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類を検出することができる。ここで、ストリンジェントな条件としては、前述した条件を挙げることができる。また、核酸とハイブリダイズした核酸プローブの標識を測定する方法としては、通常の方法(FISH法、ドットブロット法、サザンブロット法、ノーザンブロット法等)を用いることができる。
【0036】
また、本発明の検出用オリゴヌクレオチドは、固相担体に結合させて捕捉プローブとして用いることもできる。この場合、捕捉プローブと、標識核酸プローブの組み合わせでサンドイッチアッセイを行うこともできるし、標的核酸を標識して捕捉することもできる。
【0037】
本発明の検出方法において、前記本発明の可変領域の塩基配列で表される核酸を用いてハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の同定を行うには、前記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸中の一部又は全部の領域からなる核酸を遺伝子増幅し、増幅産物の有無を確認することも好ましい態様である。この場合、本発明の検出用オリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチド対を、核酸プライマー及び核酸プライマー対としても用いることができ、好ましい範囲も同様である。
なかでも、前記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸中の領域であって、(1)ハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む、(2)オリゴヌクレオチドのGC含量がおよそ30%〜80%となる、(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い、(4)オリゴヌクレオチドのTm値がおよそ55℃〜65℃となる、の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いることが好ましい。さらに、前記(a)〜(f)のいずれかの検出用オリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いることが好ましく、前記(a1)〜(f1)のいずれかの検出用オリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いることがより好ましく、配列番号1〜4及び7〜8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いるのがさらに好ましい。また、前記(a)及び(b)で示されたオリゴヌクレオチド対、前記(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチド対、又は前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を核酸プライマー対として用いることが好ましく、前記(a1)及び(b1)で示されたオリゴヌクレオチド対、前記(c1)及び(d1)で示されたオリゴヌクレオチド対、又は前記(e1)及び(f1)で示されたオリゴヌクレオチド対を核酸プライマー対として用いることがより好ましく、配列番号1及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対、配列番号3及び配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対、又は配列番号7及び配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対を用いるのがさらに好ましい。
特に、検出感度の点からは、前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を核酸プライマー対として用いるのが好ましく、前記(e1)及び(f1)で示されたオリゴヌクレオチド対を核酸プライマー対として用いるのがより好ましく、配列番号7及び配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対を核酸プライマー対として用いることがさらに好ましい。
本発明の核酸プライマーは、前記オリゴヌクレオチドをそのまま核酸プライマーとして用いることもできるし、前記オリゴヌクレオチドを標識物で標識化して核酸プライマーとして用いることができる。標識物及び標識方法の例としては、核酸プローブの場合と同様のものが挙げられる。
【0038】
本発明において、遺伝子増幅処理はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により行うことが好ましい。PCR反応の条件は、目的のDNA断片を検出可能な程度に増幅することができれば特に制限されない。PCRの反応条件の好ましい一例としては、例えば、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応を95〜98℃で10〜60秒間行い、プライマー対を1本鎖DNAにハイブリダイズさせるアニーリング反応を約59〜63℃で約60秒間行い、DNAポリメラーゼを作用させる伸長反応を約72℃で約60秒間行い、これらを1サイクルとしたものを約30〜35サイクル行う。
【0039】
本発明において、遺伝子断片の増幅の確認は通常の方法で行うことができる。例えば増幅反応時に放射性物質などの標識の結合したヌクレオチドを取り込ませる方法、PCR反応産物について電気泳動を行い増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法、PCR反応産物の塩基配列を解読する方法、増幅したDNA2本鎖の間に蛍光物質を入り込ませ発光させる方法等が挙げられるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。本発明においては、遺伝子増幅処理後に電気泳動を行い、増幅した遺伝子の大きさに対応するバンドの有無を確認する方法が好ましい。
遺伝子増幅の確認について、前記(a)及び(b)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた場合、配列番号5に記載の塩基配列において、358位から459位までの塩基数は約100塩基である。したがって、被検体にハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類が含まれる場合、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチド対をプライマーセットとして使用してPCR反応を行い、得られたPCR反応産物について電気泳動を行うと、これらの菌類に特異的な約100bpのDNA断片の増幅が認められる。この操作を行うことにより、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類を検出することができる。
【0040】
前記(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチド対は、図1に示すように、配列番号5における2位から21位まで及び180位から200位までの領域に対応する。また、前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対は、配列番号5に記載の塩基配列のうち、それぞれ172位から191位まで、397位から416位までの領域に対応する。そのため、ハミゲラ属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子の可変領域とハイブリダイズすることができる。前記(c)で示されたオリゴヌクレオチドとクラドスポリウム クラドスポロイデスのβチューブリン遺伝子の高相同性部位との相同率は90%であり、ハミゲラ属及びクラドスポリウム クラドスポロイデスの両方とハイブリダイズすることができるが、前記(d)で示されたオリゴヌクレオチドとクラドスポリウム クラドスポロイデスのβチューブリン遺伝子の高相同性部位との相同率は45%であり、クラドスポリウム クラドスポロイデスとハイブリダイズすることができない。従って(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いたPCR反応では、ハミゲラ属では遺伝子増幅反応が進行するが、クラドスポリウム クラドスポロイデスでは遺伝子増幅反応が起こらない。前記(e)で示されたオリゴヌクレオチドとクラドスポリウム クラドスポロイデスのβチューブリン遺伝子の高相同性部位との相同率は70%であるが、塩基配列の異なる部位は(e)で示されたオリゴヌクレオチドの3’末端に連続して存在するため、(e)で示されたオリゴヌクレオチドとクラドスポリウム クラドスポロイデスのDNAを用いて遺伝子の伸長反応を行った場合、DNAの伸長が起こらないと予想される。前記(f)で示されたオリゴヌクレオチドとクラドスポリウム クラドスポロイデスのβチューブリン遺伝子の高相同性部位との相同率は65%であるが、塩基配列の異なる部位が伸長方向に集中しているため、(f)で示されたオリゴヌクレオチドとクラドスポリウム クラドスポロイデスのDNAを用いて遺伝子の伸長反応を行った場合、DNAの伸長が起こらないと予想される。従って、(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いたPCR反応では、ハミゲラ属では遺伝子増幅反応が進行するが、クラドスポリウム クラドスポロイデスでは遺伝子増幅反応が起こらない。したがって、上記方法により陽性反応を示した試料について、前記(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチド対及び/又は前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いることにより当該試料に含まれる菌種がハミゲラ属かクラドスポリウム属であるかを識別することができる。このうち前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いるのが好ましい。本発明の検出方法において、前記(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチド対及び/又は前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いる場合の操作方法などは、前記(a)及び(b)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いる場合と同様である。
【0041】
本発明の検出方法において、前記(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチド対又は前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を核酸プライマーとして用いて遺伝子増幅処理を行い、遺伝子の増幅を確認することにより菌種を特定することも好ましい。遺伝子増幅処理はPCR反応により行うことが好ましい。PCR反応の条件は、目的のDNA断片を検出可能な程度に増幅することができれば特に制限されない。PCRの反応条件の好ましい一例としては、例えば、2本鎖DNAを1本鎖にする熱変性反応を95〜98℃で10〜60秒間行い、プライマー対を1本鎖DANにハイブリダイズさせるアニーリング反応を約59℃で約60秒間行い、DNAポリメラーゼを作用させる伸長反応を約72℃で約60秒間行い、これらを1サイクルとしたものを約30〜35サイクル行う。遺伝子増幅の確認について、前記(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた場合、配列番号5に記載の塩基配列において、2位から200位までの塩基数は約200塩基である。また、前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた場合、配列番号5に記載の塩基配列において、172位から416位までの塩基数は245塩基である。したがって、被検体にハミゲラ属に属する菌類が含まれる場合、前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド対又は前記(e)及び(f)のオリゴヌクレオチド対をプライマーセットとして使用してPCR反応を行い、得られたPCR反応産物について電気泳動を行うと、この菌類に特異的な約200bp又は約240bpのDNA断片の増幅が認められる。この操作を行うことにより、被検体に含まれる菌種がハミゲラ属であるかを確認することができる。
【0042】
本発明の検出方法においては、上述の(a)及び(b)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法と、(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法とを組合わせて用いることも好ましい態様である。また、上述の(a)及び(b)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法と、(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法とを組合わせて用いることも好ましい態様である。(a)及び(b)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法はハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類を、(c)及び(d)で示されたオリゴヌクレオチド対又は(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法はハミゲラ属に属する菌類をそれぞれ検出することができるため、これらの方法を組合わせることにより被検体から検出された菌類がハミゲラ属かクラドスポリウム属であるかを識別することができる。ハミゲラ属に属する菌類はマイコトキシン(カビ毒)を生産しないので、両属の検出によりマイコトキシンのリスク予測が可能となる。また、両属は耐熱性が異なるため、属の違いを検出することにより、菌体の混入が加熱前なのか否かの予想を立てることができるため、殺菌工程の見直しや容器の機密性の確認など原因解明に生かすことが出来る。なかでも、前記(a1)及び(b1)のオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法と、前記(c1)及び(d1)のオリゴヌクレオチド対又は前記(e1)及び(f1)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法とを組合わせて用いることがより好ましく、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法と、配列番号3及び4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対又は配列番号7及び8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法とを組合わせて用いることがさらに好ましい。
特に、検出感度の点からは、前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法と、前記(e)及び(f)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法とを組合わせて用いることが好ましく、前記(a1)及び(b1)のオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法と、前記(e1)及び(f1)で示されたオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法とを組合わせて用いることがより好ましく、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法と、配列番号7及び8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド対を用いた検出方法とを組合わせて用いることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の耐熱性菌類の検出方法において、被検体としては特に制限はなく、飲食品自体、飲食品の原材料、単離菌体、培養菌体等を用いることができる。
被検体からDNAを調製する方法としては、耐熱性菌類の検出を行うのに十分な精製度及び量のDNAが得られるのであれば特に制限されず、通常の方法や市販の調製用キットを用いることができる。また、被検体中のRNAを逆転写して得られるDNAを用いることもできる。
【0044】
本発明のハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類の検出方法によれば、被検体の調製工程から菌類の検出工程までを約5〜12時間という短時間で行うことが可能である。
【0045】
本発明のハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類検出用キットは、前記本発明の検出用オリゴヌクレオチドを核酸プローブ又は核酸プライマーとして含有するものである。このキットは、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属の検出方法に用いることができる。本発明のキットは、前記核酸プローブ又は核酸プライマーの他に、目的に応じ、標識検出物質、緩衝液、核酸合成酵素(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素等)、酵素基質(dNTP,rNTP等)等、菌類の検出に通常用いられる物質を含有する。本発明のキットには、本発明の検出用オリゴヌクレオチドによって検出反応が可能であることを確認するための陽性対照(ポジティブコントロール)を含んでいてもよい。陽性対照としては、例えば、本発明の検出用オリゴヌクレオチドにより増幅される領域を含んだDNAが挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
実施例1
1.βチューブリン部分長の塩基配列決定
下記の方法によりハミゲラ アベラネア及びクラドスポリウム クラドスポロイデスのβ−チューブリン遺伝子の塩基配列を決定した。ポテトデキストロース寒天斜面培地にてハミゲラ アベラネアは30℃、クラドスポリウム クラドスポロイデスは25℃で7日間、暗所培養した。菌体からGenとるくんTM(タカラバイオ(株)社製)を使用し、DNAを抽出した。目的とする部位のPCR増幅は、PuRe TaqTM Ready-To-Go PCR Beads(GE Health Care UK LTD製)を用いて、プライマーとしてBt2a(5’-GGTAACCAAATCGGTGCTGCTTTC-3’:配列番号9)、Bt2b(5’-ACCCTCAGTGTAGTGACCCTTGGC-3’:配列番号10)(Glass and Donaldson,Appl Environ Microbiol 61:1323−1330,1995)を使用した。増幅条件は、βチューブリン部分長は変性温度95℃、アニーリング温度59℃、伸長温度72℃、35サイクルで実施した。PCR産物は、Auto SegTM G−50(Amersham Pharmacia Biotech社製)を使用し精製した。PCR産物は、BigDye terminator Ver. 1.1(商品名:Applied Biosystems社製)を使用してラベル化し、ABI PRISM 3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製)で電気泳動を実施した。電気泳動時の蛍光シグナルからの塩基配列の決定には、ソフトウエアー“ATGC Ver.4”(Genetyx社製)を使用した。
シークエンシング法により決定したハミゲラ アベラネア及びクラドスポリウム クラドスポロイデスのβ−チューブリン遺伝子の塩基配列情報及び、各種菌類の公知のβ−チューブリン遺伝子の塩基配列情報をもとに、DNA解析ソフトウエア(商品名:DNAsis pro、日立ソフトウエア社製)を用いてアライメント解析を行い、ハミゲラ属に属するハミゲラ アベラネア及びクラドスポリウム クラドスポロイデスに特異的な塩基配列を含有するβ−チューブリン遺伝子の中の特定領域(配列番号5及び6)を決定した。
【0048】
2.ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類の検出
(1)プライマーの設計
上記で得られたハミゲラ アベラネア及びクラドスポリウム クラドスポロイデスに特異的な塩基配列領域のうち、3’末端側で両菌の保存性が特に高い領域から、1)属固有の塩基配列が数塩基前後存在している、2)GC含量が概ね30%〜80%となる、3)自己アニールの可能性が低い、4)Tm値が概ね55〜65℃程度となる、の4つの条件を満たす部分領域の検討を行った。この塩基配列を基にして5組のプライマー対を設計し、各種菌体から抽出したDNAを鋳型として用いてPCR反応によるハミゲラ属とクラドスポリウム クラドスポロイデスの一括検出の有効性を検討した。すなわち、ハミゲラ属及びクラドスポリウム クラドスポロイデスのDNAを鋳型とした反応では設計したプライマー対から予想されるサイズにDNA増幅反応が認められ、その他のカビのゲノムDNAを鋳型とした反応では増幅産物が認められないことの検討を行った。その結果、1対のプライマー対でハミゲラ アベラネア及びクラドスポリウム クラドスポロイデスで特異的にDNA増幅が認められ、その他のカビのゲノムDNAを鋳型とした反応では増幅産物が認められなかった。この結果より、ハミゲラ属とクラドスポリウム クラドスポロイデスの一括検出が可能であることを確認した。有効性が確認できたプライマー対は、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー対である。なお、使用したプライマーはシグマ アルドリッチ ジャパン社に合成依頼し(脱塩精製品、0.02μmolスケール)、購入した。
【0049】
(2)検体の調製
設計したプライマーの有効性の評価に用いる真菌類、すなわちハミゲラ属とその他の耐熱性カビ及び一般カビとしては、表1に記載の菌を使用した。これらの菌類は千葉大学医学部真菌医学研究センターが保管し、IFMナンバーやTナンバーなどにより管理されているものを入手し、使用した。
各菌体を至適条件下で培養した。培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いて指摘温度、すなわち一般カビは25℃、耐熱性カビは30℃で7日間培養した。
【0050】
【表1】

【0051】
(3)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収した。
ゲノムDNA調製用キット(アプライドバイオシステムズ社製PrepMan ultra(商品名))を用いて、回収した菌体からゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。
【0052】
(4)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μl、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μl、無菌蒸留水10μlを混合し、配列番号1に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μl及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μlを加え、25μlのPCR反応液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)98℃、10秒間の熱変性反応、(ii)63℃、1分間のアニーリング反応、及び(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを30サイクル行った。
【0053】
(5)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から10μlを分取し、2%アガロースゲルで電気泳動を行い、SYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、増幅されたDNA断片の有無を確認した。アガロースゲルの電気泳動図を図2に示す。図中の番号は表1記載の対応する試料番号の試料から抽出したDNAを用いて反応を行ったサンプルであることを示している。
その結果、ハミゲラ属に属する菌類のゲノムDNAを含む試料(1レーン)では、100bp程度の遺伝子断片の増幅が確認された。一方、ハミゲラ属に属する菌類のゲノムDNAを含まない試料では、遺伝子断片の増幅は確認されなかった。以上の結果から、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、ハミゲラ属に属する菌類を特異的に検出することができる。
【0054】
実施例2
(2−1) ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類の検出
(a)プライマー
実施例1で設計した、配列番号1及び2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを使用した。
【0055】
(b)検体の調製
ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類としては、表2に記載のハミゲラ アベラネア(Hamigera avellanea)及びクラドスポリウム クラドスポリオイデス(Cladosporium cladosporioides)を使用した。前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドのハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子に対する特異性を示すために、表2に示すその他の菌類も使用した。これらの菌類は千葉大学医学部真菌医学研究センターが保管し、IFMナンバーやTナンバーなどにより管理されているものを入手し、使用した。なお、ポジティブコントロールとして、Hamigera avellanea(菌株名:T34)を鋳型DNAとして用いた。
各菌体を至適条件下で培養した。培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いて至適温度、すなわち一般カビは25℃、耐熱性カビ及びアスペルギルス フミガタスは30℃で7日間培養した。
【0056】
【表2】

【0057】
(c)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収した。
ゲノムDNA調製用キット(商品名 PrepMan ultra、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、回収した菌体からゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。
【0058】
(d)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μl、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μl、無菌蒸留水10μlを混合し、配列番号1に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μl及び配列番号2に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μlを加え、25μlのPCR反応液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)97℃、10秒間の熱変性反応、(ii)63℃、1分間のアニーリング反応、及び(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを30サイクル行った。
【0059】
(e)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から2μlを分取し、2%アガロースゲルで電気泳動を行い、SYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、増幅されたDNA断片の有無を確認した。アガロースゲルの電気泳動図を図3に示す。図中の番号は表2記載の対応する試料番号の試料から抽出したDNAを用いて反応を行ったサンプルであることを示している。
その結果、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類のゲノムDNAを含む試料では、100bp程度の遺伝子断片の増幅が確認された。一方、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類のいずれのゲノムDNAを含まない試料では、遺伝子断片の増幅は確認されなかった。以上の結果から、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、ハミゲラ属に属する菌類及びクラドスポリウム属に属する菌類を特異的に検出することができる。
【0060】
(2−2) ハミゲラ属に属する菌類とクラドスポリウム属に属する菌類の識別
(a)プライマーの設計
配列番号5及び6記載のハミゲラ アベラネア及びクラドスポリウム クラドスポロイデスを含めたその他のカビのβ‐チューブリン塩基配列領域のアライメント解析(DNAsis Pro)を行い、有意な塩基配差の存在する部位を特定した。その部位の中で、3’末端側でハミゲラ アベラネアの特異性が特に高い領域から、1)属固有の塩基配列が数塩基前後存在している、2)GC含量が概ね30%〜80%となる、3)自己アニールの可能性が低い、4)Tm値が概ね55〜65℃程度となる、の4つの条件を満たす部分領域の検討を行った。この塩基配列を基にして7組のプライマー対を設計し、各種菌体から抽出したDNAを鋳型として用いてPCR反応によるハミゲラ属とクラドスポリウム クラドスポロイデスの識別法の有効性を検討した。すなわち、ハミゲラ属のDNAを鋳型とした反応では設計したプライマー対から予想されるサイズにDNA増幅反応が認められ、その他のカビDNAを鋳型とした反応では増幅産物が認められないことの検討を行った。その結果、2対のプライマー対でハミゲラ アベラネアを含むハミゲラ属で特異的にDNA増幅が認められ、その他のカビのゲノムDNAを鋳型とした反応では増幅産物が認めらかった。この結果より、ハミゲラ属とクラドスポリウム クラドスポロイデスの識別が可能であることを確認した。有効性が確認できたプライマー対は、配列番号3及び4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー対及び配列番号7及び8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー対である。なお、使用したプライマーはシグマ アルドリッチ ジャパン社に合成依頼し(脱塩精製品、0.02μmolスケール)、購入した。
【0061】
(b)検体の調製
設計したプライマーの有効性の評価に用いる真菌類、すなわちハミゲラ属とその他の耐熱性カビ及び一般カビとしては、表3に記載の菌を使用した。これらの菌類は千葉大学医学部真菌医学研究センターが保管し、IFMナンバーなどにより管理されているものを入手し、使用した。
各菌体を至適条件下で培養した。培養条件についてはポテトデキストロース培地(商品名:パールコア ポテトデキストロース寒天培地、栄研化学株式会社製)を用いて至適温度、すなわち一般カビは25℃、耐熱性カビは30℃で7日間培養した。
【0062】
【表3】

【0063】
(c)ゲノムDNAの調製
各菌体を寒天培地から白金耳を用いて回収した。
ゲノムDNA調製用キット(商品名 PrepMan ultra、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて、回収した菌体からゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。
【0064】
(d)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したハミゲラ アベラネア及びクラドスポリウム クラドスポロイデスのゲノムDNA溶液1μl、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μl、無菌蒸留水10μlを混合し、配列番号3に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μl及び配列番号4に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μlを加え、25μlのPCR反応液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)97℃、10秒間の熱変性反応、(ii)60℃、1分間のアニーリング反応、及び(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを30サイクル行った。
【0065】
(e)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から2μlを分取し、2%アガロースゲルで電気泳動を行い、SYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、増幅されたDNA断片の有無を確認した。アガロースゲルの電気泳動図を図4に示す。図中の番号は表3記載の対応する試料番号の試料から抽出したDNAを用いて反応を行ったサンプルであることを示している。
その結果、ハミゲラ属に属する菌類に属する菌類のゲノムDNAを含む試料(試料番号1〜3)では、200bp程度の遺伝子断片の増幅が確認された。一方、クラドスポリウム属に属する菌類のゲノムDNAを含む試料(試料番号17)及びその他のハミゲラ属に属する菌類のゲノムDNAを含まない試料では、遺伝子断片の増幅は確認されなかった。以上の結果から、本発明の(c)及び(d)のオリゴヌクレオチドを用いることによって、試料に含まれる菌類がハミゲラ属に属する菌類であるかクラドスポリウム属に属する菌類であるかを識別することができる。
【0066】
実施例3
(a)プライマー
実施例2で設計した、配列番号3,4,7,8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを使用した。
【0067】
(b)検体の調製
前記(c)〜(f)のオリゴヌクレオチドのハミゲラ属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子に対する特異性を確認するために、ハミゲラ属に属する菌類として、図5に示すハミゲラ ストリアータ(Hamigera striata)の各菌株を使用した。
各菌体を実施例1と同様に培養した。
【0068】
(c)ゲノムDNAの調製
実施例1と同様の方法で、ゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。
【0069】
(d)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μl、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μl、無菌蒸留水10μlを混合し、配列番号3に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μl及び配列番号4に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μlを加え、25μlのPCR反応液を調製した。同様に、プライマーを配列番号7に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μl及び配列番号8に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μlに変更した以外は上記と同様にしてPCR反応溶液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)95℃、1分間の熱変性反応、(ii)61〜59℃、1分間のアニーリング反応、及び(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを35サイクル行った。
【0070】
(e)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から4μlを分取し、2%アガロースゲルで電気泳動を行い、SYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、増幅されたDNA断片の有無を確認した。アガロースゲルの電気泳動図を図5に示す。
その結果、配列番号3及び4に記載の塩基配列で表されるプライマーを用いた反応系及び配列番号7及び8に記載の塩基配列で表されるプライマーを用いた反応系のいずれにおいても、使用したハミゲラ ストリアータの全ての菌株において、特異的な増幅DNA断片が確認された(9〜16レーン)。また、配列番号7及び8に記載の塩基配列で表されるプライマーを用いた反応系の方が、検出されたバンドがより鮮明であった(9〜12レーン)。したがって、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、菌株の種類に左右されることなくハミゲラ属に属する菌類を高い精度で特異的に検出することができることがわかる。
【0071】
実施例4
(a)プライマー
実施例2で設計した、配列番号3,4,7,8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを使用した。
【0072】
(b)検体の調製
前記(c)〜(f)のオリゴヌクレオチドのハミゲラ属に属する菌類のβ−チューブリン遺伝子に対する特異性を確認するために、ハミゲラ属に属する菌類として、図6に示すハミゲラ アベラネア(Hamigera avellanea)の各菌株を使用した。
各菌体を実施例1と同様に培養した。
【0073】
(c)ゲノムDNAの調製
実施例1と同様の方法で、ゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。
【0074】
(d)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μl、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μl、無菌蒸留水10μlを混合し、配列番号3に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μl及び配列番号4に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μlを加え、25μlのPCR反応液を調製した。同様に、プライマーを配列番号7に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μl及び配列番号8に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μlに変更した以外は上記と同様にしてPCR反応溶液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)95℃、1分間の熱変性反応、(ii)59℃、1分間のアニーリング反応、及び(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを35サイクル行った。
【0075】
(e)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から2μlを分取し、2%アガロースゲルで電気泳動を行い、SYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、増幅されたDNA断片の有無を確認した。アガロースゲルの電気泳動図を図6に示す。
その結果、配列番号3及び4に記載の塩基配列で表されるプライマーを用いた反応系及び配列番号7及び8に記載の塩基配列で表されるプライマーを用いた反応系のいずれにおいても、使用したハミゲラ アベラネアの全ての菌株において、特異的な増幅DNA断片が確認された(各1〜8レーン)。したがって、本発明のオリゴヌクレオチドを用いることによって、菌株の種類に左右されることなくハミゲラ属に属する菌類を高い精度で特異的に検出することができることがわかる。
【0076】
実施例5
(a)プライマー
実施例2で設計した、配列番号3,4,7,8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーを使用した。
【0077】
(b)検体の調製
前記(c)〜(f)のオリゴヌクレオチドのハミゲラ属に対する特異性を確認するために、耐熱性菌類の1種であってハミゲラ属に近縁なビソクラミス属に属する菌類として、図7及び図8に示すビソクラミス ニベア及びビソクラミス フルバの各菌株を使用した。なお、これらの菌類は独立行政法人製品製品評価技術基盤機構によりNBRC番号で管理されているもの及びThe Centraalbureau voor SchimmelculturesによりCBS番号で管理されているもの等を入手し、使用した。
各菌体を実施例1と同様に培養した。
【0078】
(c)ゲノムDNAの調製
実施例1と同様の方法で、ゲノムDNA溶液を調製した。DNA溶液の濃度は50ng/μlに調製した。
【0079】
(d)PCR反応
DNAテンプレートとして、上記で調製したゲノムDNA溶液1μl、Pre Mix Taq(商品名、タカラバイオ社製)13μl、無菌蒸留水10μlを混合し、配列番号3或に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μl及び配列番号4に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μlを加え、25μlのPCR反応液を調製した。同様に、プライマーを配列番号7に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μl及び配列番号8に記載の塩基配列で表されるプライマー(20pmol/μl)0.5μlに変更した以外は上記と同様にしてPCR反応溶液を調製した。
PCR反応液について、自動遺伝子増幅装置サーマルサイクラーDICE(タカラバイオ)を用いて遺伝子増幅処理を行った。PCR反応条件は、(i)95℃、1分間の熱変性反応、(ii)59℃、1分間のアニーリング反応、及び(iii)72℃、1分間の伸長反応を1サイクルとしたものを35サイクル行った。
【0080】
(e)増幅した遺伝子断片の確認
PCR反応後、PCR反応液から2μlを分取し、2%アガロースゲルで電気泳動を行い、SYBR Safe DNA gel stain in 1×TAE(インビトロジェン)でDNAを染色後、増幅されたDNA断片の有無を確認した。アガロースゲルの電気泳動図を図7及び図8に示す。
その結果、配列番号3及び4に記載の塩基配列で表されるプライマーを用いた反応系ではポジティブコントロールのハミゲラ アベラネア以外にもビソクラミス フルバの一部の菌株NBRC31877株及びNBRC31878株(レーン9、10)で200bpのサイズに遺伝子増幅が認められたものの、他のビソクラミス属に属する菌類に関しては遺伝子増幅が認められなかった。なお、NBRC31877株及び31878株で遺伝子増幅が認められた理由は、これらの株が他の株と比較して遺伝学的にハミゲラ属に近縁であるためと推測される。
一方、配列番号7及び8に記載の塩基配列で表されるプライマーを用いた反応系では、ビソクラミス フルバNBRC31877株及びNBRC31878株では遺伝子増幅が認められなかった。したがって、配列番号7及び8に記載のオリゴヌクレオチドを用いることによって、ビソクラミス属に属する菌類を検出せずハミゲラ属に属する菌類のみを高い精度で特異的に検出することができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸を用いてハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の同定を行うことを特徴とするハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法。
(g)配列番号5に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
(h)配列番号6に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
【請求項2】
同定を行うために、被検菌のβ‐チューブリン遺伝子領域の塩基配列を決定し、該領域の塩基配列中に前記(g)又は(h)の塩基配列が含まれるか否かを確認することを特徴とする請求項1記載のハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法。
【請求項3】
同定を行うために、前記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする検出用オリゴヌクレオチドを標識化し、得られた検出用オリゴヌクレオチドを検査対象物より抽出した核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせ、ハイブリダイズした検出用オリゴヌクレオチドの標識を測定することを特徴とする請求項1記載のハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法。
【請求項4】
同定を行うために、前記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸中の一部又は全部の領域からなる核酸を遺伝子増幅し、増幅産物の有無を確認することを特徴とする請求項1記載のハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法。
【請求項5】
前記増幅反応をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって行うことを特徴とする請求項4記載のハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法。
【請求項6】
前記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸中の領域であって、下記の(1)〜(4)の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを、核酸プライマーとして用いて遺伝子増幅反応を行うことを特徴とする請求項5記載の検出方法。
(1)ハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む
(2)オリゴヌクレオチドのGC含量が30%〜80%となる
(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い
(4)オリゴヌクレオチドのTm値が55℃〜65℃となる
【請求項7】
下記(a)〜(f)のオリゴヌクレオチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を検出用オリゴヌクレオチドとして用いることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項記載のハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法。
(a)配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(e)配列番号7に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f)配列番号8に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項8】
前記検出用オリゴヌクレオチドを核酸プローブ又は核酸プライマーとして用いることを特徴とする請求項7記載のハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法。
【請求項9】
前記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマー対として用いることを特徴とする請求項7記載のハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及びクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法。
【請求項10】
前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド並びに/又は前記(e)及び(f)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマー対として用いることを特徴とする請求項7記載のハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類の検出方法。
【請求項11】
前記検出方法において、前記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド並びに/又は前記(e)及び(f)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマー対として用いて菌種を検出する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項9記載の検出方法。
【請求項12】
下記(a’)及び(b’)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いることを特徴とする、ハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及びクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出方法。
(a’)配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b’)配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項13】
下記(c’)及び(d’)のオリゴヌクレオチド並びに/又は下記(e’)及び(f’)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いることを特徴とする、ハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類の検出方法。
(c’)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d’)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(e’)配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f’)配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項14】
前記検出方法において、下記(c’)及び(d’)のオリゴヌクレオチド並びに/又は下記(e’)及び(f’)のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いて菌種を検出する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項12に記載の検出方法。
(c’)配列番号3に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d’)配列番号4に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(e’)配列番号7に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f’)配列番号8に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項15】
ハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出に用いるための、下記(g)又は(h)の塩基配列で表されるDNA。
(g)配列番号5に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
(h)配列番号6に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
【請求項16】
下記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸にハイブリダイズすることができ、ハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類を特異的に検出するための核酸プローブ又は核酸プライマーとして機能し得るハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出用オリゴヌクレオチド。
(g)配列番号5に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
(h)配列番号6に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されておりかつハミゲラ属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム属に属する菌類の検出に使用できる塩基配列
【請求項17】
前記検出用オリゴヌクレオチドが、前記(g)又は(h)の塩基配列で表される核酸中の領域であって、下記の(1)〜(4)の4つの条件を満たす領域にハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項16記載のハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド。
(1)ハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium属に属する菌類に固有の遺伝子の塩基配列が10塩基前後連続して現れる領域を含む
(2)オリゴヌクレオチドのGC含量が30%〜80%となる
(3)オリゴヌクレオチドの自己アニールの可能性が低い
(4)オリゴヌクレオチドのTm値が55℃〜65℃となる
【請求項18】
前記検出用オリゴヌクレオチドが、配列番号1〜4又は7〜8のいずれかに記載の塩基配列若しくはその相補配列で表されるオリゴヌクレオチド、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ核酸プローブ又は核酸プライマーとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項16又は17記載のハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類の検出用オリゴヌクレオチド。
【請求項19】
下記の(a)及び(b)で示されたハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及びクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド対。
(a)配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項20】
下記の(c)及び(d)又は下記の(e)及び(f)で示されたハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類検出用オリゴヌクレオチド対。
(c)配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(e)配列番号7に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f)配列番号8に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
【請求項21】
下記(a)及び(b)のオリゴヌクレオチド対、下記(c)及び(d)のオリゴヌクレオチド、及び下記(e)及び(f)のオリゴヌクレオチド対からなる群より選ばれる少なくとも1つを核酸プライマー対として含むハミゲラ(Hamigera)属に属する菌類及び/又はクラドスポリウム(Cladosporium)属に属する菌類検出用キット。
(a)配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(b)配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(c)配列番号3に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(d)配列番号4に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(e)配列番号7に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド
(f)配列番号8に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列に対して70%以上の相同性を有しかつ検出用オリゴヌクレオチドとして使用できる塩基配列で表されるオリゴヌクレオチド

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−4877(P2010−4877A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129476(P2009−129476)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】