説明

ハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物及び難燃性接着剤組成物、並びにその接着剤組成物を用いたフレキシブル銅張積層板、カバーレイ、接着剤フィルム及びプリント配線板

【課題】ハロゲンを含まずに良好な難燃性を示す(ハロゲンフリー)とともに、高温プレス時におけるブリーディングの発生を防ぐことができ、さらに半田耐熱性に優れたエポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、及び(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体を必須成分とするハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物及び難燃性接着剤組成物、並びにその接着剤組成物を用いたフレキシブル銅張積層板、カバーレイ、接着剤フィルム及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な環境問題、人体に対する安全性についての関心の高まりに伴い、電気・電子機器は、単に燃えにくいだけでなく、有害ガス、発煙等の発生が少ないことが要望されている。従来、電気・電子機器の配線に使用されるフレキシブルプリント配線板には、難燃剤として臭素化エポキシ樹脂が一般に使用されているが、臭素化エポキシ樹脂は燃焼時に有害な臭化水素ガスを発生するとともに、ブロモ化ダイオキシン及びフラン類を発生する可能性があるため、その使用が抑制されつつある。
【0003】
そこで、臭素化エポキシ樹脂の代替品として、リン酸エステルアミド型難燃剤を使用することが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、リン酸エステルアミド型難燃剤は、その構造中にリン酸エステル結合を含むために安定性が十分でなく、硬化組成物の耐湿性を低下させる等の問題があった。
【0004】
また、構造的に安定なフェノキシシクロホスファゼン化合物を難燃剤として使用した接着剤組成物が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、フェノキシシクロホスファゼン化合物が脂溶性が強い化合物であるのに対して、エポキシ樹脂中の環境は親水性であるため、エポキシ樹脂と硬化剤との組み合わせによってはエポキシ樹脂の中にとどまることが困難となり、高温プレス処理によりフェノキシシクロホスファゼン化合物がブリーディングする等の問題があった。ホスファゼン化合物とリン含有エポキシ樹脂との組み合わせによりブリーディングが改善されるとの報告があるが(特許文献3参照)、その改善効果は未だ不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−15595号公報
【特許文献2】特開2001−19930号公報
【特許文献3】特開2005−2294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ハロゲンを含まずに良好な難燃性を示す(ハロゲンフリー)とともに、高温プレス時におけるブリーディングの発生を防ぐことができ、さらに半田耐熱性に優れたエポキシ樹脂組成物及び接着剤組成物を提供することにある。
【0007】
さらに、本発明は、そのような接着剤組成物を用いたフレキシブル銅張積層板、カバーレイ及び接着剤フィルム並びにこれらを用いて製造されたプリント配線板を提供することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シクロホスファゼン化合物、ポリエポキシド化合物、エポキシ用硬化剤、及びエポキシ用硬化促進剤を含む組成物にスチレン−無水マレイン酸系共重合体を配合することによって上記課題を解決できることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
本発明は、下記項1〜18に示すハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物、難燃性接着剤組成物、この接着剤組成物を用いたフレキシブル銅張積層板、カバーレイ及び接着剤フィルム並びにこれらを用いて製造されたプリント配線板を提供する。
【0010】
項1.(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、及び(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体を必須成分とするハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物。
【0011】
項2.前記(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、及び(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体が本質的にノンハロゲン化合物であって、その不純物ハロゲンの含有量が、前記化合物のそれぞれにおいて0.1重量%以下である項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0012】
項3.(F)合成ゴムをさらに含む、項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0013】
項4.(G)無機充填剤をさらに含む、項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【0014】
項5.(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体、(F)合成ゴム、及び(G)無機充填剤を含有するハロゲンフリーの難燃性接着剤組成物。
【0015】
項6.前記(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体及び(F)合成ゴムが本質的にノンハロゲン化合物であって、その不純物ハロゲンの含有量が、前記化合物のそれぞれにおいて0.1重量%以下である項5に記載の接着剤組成物。
【0016】
項7.前記(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体における無水マレイン酸の含有割合が0.1〜50重量%である項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【0017】
項8.前記(A)シクロホスファゼン化合物が、下記一般式(1):
【0018】
【化1】

【0019】
[式中、nは3〜25の整数を示す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルコキシ基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドキシル基、ホルミル基、又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルコキシカルボニル基を示す。]
で表されるフェノキシシクロホスファゼン化合物を、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基及び一般式(2):
【0020】
【化2】

【0021】
[式中、Aは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を示す。mは0又は1を示す。]
で表されるビスフェニレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋基により架橋した化合物であって、
(a)該架橋基が前記フェノキシシクロホスファゼン化合物におけるフェノキシ基からフェニル基が脱離した2個の酸素原子間に介在し、
(b)架橋された化合物における架橋基のフェニル基の含有割合が、前記フェノキシシクロホスファゼン化合物中の全フェニル基の総数を基準として50〜99.9%であり、かつ
(c)分子内にフリーの水酸基を有しない、
架橋フェノキシシクロホスファゼン化合物である項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【0022】
項9.前記(B)ポリエポキシド化合物が、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂である項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【0023】
項10.前記(C)エポキシ用硬化剤が、ジシアンジアミド化合物、ノボラック型フェノール樹脂、アミノ変性ノボラック型フェノール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、有機酸ヒドラジッド、ジアミノマレオニトリル化合物、メラミン化合物、アミンイミド、ポリアミン塩、モレキュラーシーブ、アミン化合物、酸無水物、ポリアミド及びイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種である項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【0024】
項11.前記(D)エポキシ用硬化促進剤が、第三アミン、イミダゾール及び芳香族アミントリフェニルホスフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種である項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【0025】
項12.前記(F)合成ゴムが、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンメチルアクリレートアクリロニトリルゴム、ブタジエンゴム、カルボキシル含有アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム及びポリビニルブチラールからなる群から選ばれる少なくとも1種である項3〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【0026】
項13.項5〜12のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いてポリイミドフィルムの少なくとも片面に銅箔を貼り合わせてなる、フレキシブル銅張積層板。
【0027】
項14.項5〜12のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いてポリイミドフィルムの表面に樹脂層を形成してなる、カバーレイ。
【0028】
項15.項5〜12のいずれか1項に記載の接着剤組成物をフィルム状に形成してなる、接着剤フィルム。
【0029】
項16.項5〜12のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いてポリイミドフィルムの少なくとも片面に銅箔を貼り合わせた後、回路を形成してなる、フレキシブルプリント配線板。
【0030】
項17.項16に記載のフレキシブルプリント配線板上に項14に記載のカバーレイを貼り合わせてなる、フレキシブルプリント配線板。
【0031】
項18.項16又は17に記載のフレキシブルプリント配線板と補強板とを、項15に記載の接着剤フィルムを介して貼り合わせてなる、プリント配線板。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高温プレス時におけるブリーディングの発生を防止することができるハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物を提供することができる。また本発明によれば、半田耐熱性、耐湿性等に優れたフレキシブル銅張積層板、カバーレイ及び接着剤フィルムの製造に適したハロゲンフリーの難燃性接着剤組成物が提供される。これらのフレキシブル銅張積層板、カバーレイ及び接着剤フィルムを用いれば、良好な環境特性を付与し、かつ種々の特性に優れたプリント配線板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0034】
本発明のハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物は、(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、及び(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体を必須成分とするものである。
【0035】
(A)シクロホスファゼン化合物としては、この分野で公知のものを広く使用することができ、それらの中でも、耐熱性、耐湿性、難燃性、耐薬品性等の観点から、シクロホスファゼンオリゴマーが好適である。シクロホスファゼンオリゴマーには、下記一般式(1):
【0036】
【化3】

【0037】
[式中、nは3〜25の整数を示す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルコキシ基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドキシル基、ホルミル基、又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルコキシカルボニル基を示す。]
で表されるフェノキシシクロホスファゼン化合物又は架橋された上記フェノキシシクロホスファゼン化合物が含まれる。
【0038】
架橋フェノキシシクロホスファゼン化合物として、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基及び一般式(2):
【0039】
【化4】

【0040】
[式中、Aは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を示す。mは0又は1を示す。]
で表されるビスフェニレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋基により架橋され、(a)該架橋基がホスファゼン化合物におけるフェノキシ基からフェニル基が脱離した2個の酸素原子間に介在し、(b)架橋された化合物における架橋基のフェニル基の含有割合が前記フェノキシシクロホスファゼン化合物中の全フェニル基の総数を基準にして50〜99.9%であり、かつ(c)分子内にフリーの水酸基を有しない、フェノキシシクロホスファゼン化合物が挙げられる。
【0041】
シクロホスファゼンオリゴマーとして、非架橋フェノキシシクロホスファゼン化合物及び架橋フェノキシシクロホスファゼン化合物のいずれを用いてもよい。
【0042】
(B)ポリエポキシド化合物としては、この分野で公知のものを広く使用することができ、例えば、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂が好適である。これには、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が含まれ、これらの樹脂は1種単独で又は2種以上混合して使用することができる。また、このエポキシ樹脂には、グリシジルエーテル系の変性エポキシ樹脂も含まれる。グリシジルエーテル系の変性エポキシ樹脂として、例えば、BT樹脂等を使用することができる。
【0043】
(C)エポキシ用硬化剤としては、この分野で公知のものを広く使用することができ、例えば、ジシアンジアミド(DICY)化合物、ノボラック型フェノール樹脂、アミノ変性ノボラック型フェノール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、有機酸ヒドラジッド、ジアミノマレオニトリル化合物、メラミン化合物、アミンイミド、ポリアミン塩、モレキュラーシーブ、アミン化合物、酸無水物、ポリアミド及びイミダゾールのうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0044】
(D)エポキシ用硬化促進剤としては、通常のエポキシ樹脂用硬化促進剤として用いられる第三アミン、イミダゾール、芳香族アミン及びトリフェニルホスフィンのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0045】
本発明は、上記(A)〜(D)の化合物に加えて、(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体を含有していることを特徴としている。
【0046】
(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体とは、単量体として少なくともスチレン及び無水マレイン酸が含む共重合体のことを意味する。スチレン−無水マレイン酸系共重合体として、スチレンと無水マレイン酸との2元共重合体(スチレン−無水マレイン酸共重合体)、スチレンと無水マレイン酸と他の単量体との3元共重合体等を挙げることができる。他の単量体として、メタクリル酸エステル類、アクリル酸エステル類等を使用することができる。スチレン−無水マレイン酸系共重合体として、スチレン−無水マレイン酸共重合体が好ましく用いられる。
【0047】
スチレン−無水マレイン酸系共重合体として、スチレン−無水マレイン酸系共重合体における無水マレイン酸の含有割合が0.1〜50重量%のものを使用することができ、さらに2.5〜30重量%の割合で無水マレイン酸を含むものが好ましい。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、例えば、(B)成分のビスフェノールA型エポキシ樹脂等は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとをアルカリの存在下で反応させて製造されるために、その反応残渣、反応副生成物としての不純物ハロゲンが残存する。ハロゲンフリーの本発明において使用される(A)〜(E)成分はそれぞれ、不純物ハロゲンの含有量が0.1重量%以下のものであることが好ましい。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物における各成分の配合割合は、(A)シクロホスファゼン化合物10重量部に対して、(B)ポリエポキシド化合物10〜95重量部程度、(C)エポキシ用硬化剤5〜95重量部程度、(D)硬化促進剤0.01〜20重量部程度、及び(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体5〜20重量部程度である。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記(A)〜(E)の成分を必須成分とするが、(F)合成ゴムをさらに含むことができる。
【0051】
(F)合成ゴムとしては、この分野で公知のものを広く使用することができ、例えば、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンメチルアクリレートアクリロニトリルゴム、ブタジエンゴム、カルボキシル含有アクリロニトリルブタジエンゴム、ビニル含有アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリビニルブチラール等のハロゲンを含まないゴムのうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0052】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(G)無機充填剤をさらに含むことができる。
【0053】
(G)無機充填剤は、難燃性等の補助添加剤として使用される無機充填剤であり、樹脂組成物としての諸特性を阻害しない範囲で使用することが可能である。これらの無機充填剤としては、タルク、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上混合して使用することができる。
【0054】
上記(A)〜(G)成分を含有するエポキシ樹脂組成物は、接着剤として使用することができる。すなわち、本発明は、(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体、(F)合成ゴム、及び(G)無機充填剤を含有するハロゲンフリーの難燃性接着剤組成物を提供する。
【0055】
本発明の接着剤組成物の(A)〜(G)成分には、上記のエポキシ樹脂組成物と同様のものを使用することができる。
【0056】
本発明の接着剤組成物においても、例えば、(B)成分のビスフェノールA型エポキシ樹脂等は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとをアルカリの存在下で反応させて製造されるために、その反応残渣、反応副生成物としての不純物ハロゲンが残存する。ハロゲンフリーの本発明において使用される(A)〜(F)成分はそれぞれ、不純物ハロゲンの含有量が0.1重量%以下のものであることが好ましい。
【0057】
本発明の接着剤組成物における各成分の配合割合は、(A)シクロホスファゼン化合物10重量部に対して、(B)ポリエポキシド化合物10〜95重量部程度、(C)エポキシ用硬化剤5〜95重量部程度、(D)硬化促進剤0.01〜20重量部程度、(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体5〜20重量部程度、(F)合成ゴム1〜50重量部程度、及び(G)の無機充填剤10〜100重量部程度である。
【0058】
本発明の接着剤組成物は、本発明の目的に反しない限度において、さらに顔料、劣化防止剤等を適宜配合することができる。
【0059】
以上述べた本発明の接着剤組成物は、これをメチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド等の好適な有機溶剤で希釈してワニスとなし、これをポリイミドフィルム上に乾燥後の厚みが1〜100μmとなるように塗布し、熱ロールで銅箔を片面又は両面に貼り合わせた後、加熱硬化するという通常の方法によりフレキシブル銅張積層板を製造することができる。
【0060】
また、本発明の接着剤組成物は、これをジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン等の好適な有機溶剤で希釈してワニスとなし、これをポリイミドフィルム上に乾燥後の厚みが1〜100μmとなるように塗布し、加熱乾燥するという通常の方法によりカバーレイを製造することができる。
【0061】
また、本発明の接着剤組成物は、これをジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン等の好適な有機溶剤で希釈してワニスとなし、キャリアフィルム上に乾燥後の厚みが1〜100μmとなるように塗布し、加熱乾燥して剥離するという通常の方法により接着剤フィルムを製造することができる。
【0062】
また、該フレキシブル銅張積層板に回路を形成し、必要であれば穴あけスルーホールメッキを施し、ついで所定箇所に穴をあけた該カバーレイを重ねて加熱加圧成形するという通常の方法でフレキシブルプリント配線板を製造することができる。更にこのフレキシブルプリント配線板に該接着剤フィルムを介して補強板を重ね合わせ、加熱加圧成形するという通常の方法で補強板付きフレキシブルプリント配線板を製造することができる。
【0063】
また、多層プリント配線板は、該フレキシブルプリント配線板に該接着剤フィルムを介して該フレキシブル銅張積層板又はハロゲンを含まないガラスエポキシ銅張積層板等を重ね合わせ、加熱加圧成形し、スルーホールを形成し、スルーホールメッキを行った後、所定の回路を形成するという通常の方法により製造することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において「部」とは「重量部」を意味する。
【0065】
実施例1
カルボキシル含有アクリロニトリルブタジエンゴムのニポール1072(商品名)(日本ゼオン社製)10部、EOCN−1020−65(商品名)(日本化薬製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:200)20部、DDS(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン)(アミン当量:62.1)6.2部、架橋フェノキシシクロホスファゼンオリゴマー(大塚化学製、SPB−100、粉末状ホスファゼン)10部、スチレン−無水マレイン酸共重合体(NOVA Chemical社製、DYLARK D332)10部、水酸化アルミニウム16部及びトリフェニルホスフィン0.1部からなる混合物に溶媒としてメチルエチルケトンを加えて固形分34重量%の接着剤を調製した。
【0066】
一方、ポリイミドフィルム(商品名:アピカルNPI、鐘淵化学製、厚さ:12.5μm)の片面に、圧力:13.3Pa、アルゴン流量:1.0L/分、印加電圧:2kV、周波数:110kHz、電力:30kW、処理スピード:10m/分の条件で低温プラズマ処理を行った。次いで、アプリケータで、上記実施例1で得られた接着剤を乾燥後の厚みが25μmとなるようにポリイミドフィルム表面に塗布し、150℃で10分間、送風オーブン内で乾燥することにより接着剤組成物を半硬化状態とし、実施例1のカバーレイフィルム(厚み:37.5μm)を得た。
【0067】
実施例2
カルボキシル含有アクリロニトリルブタジエンゴムのニポール1072(商品名)(日本ゼオン社製)10部、EOCN−1020−65(商品名)(日本化薬製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:200)20部、DDS(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン)(アミン当量:62.1)6.2部、フェノキシ メトキシフェノキシシクロホスファゼンオリゴマー(大塚化学製、SPM−100、液状ホスファゼン)11部、スチレン−無水マレイン酸共重合体(NOVA Chemical社、DYLARK D332)10部、水酸化アルミニウム16部及びトリフェニルホスフィン0.1部からなる混合物に溶媒としてメチルエチルケトンを加えて固形分34重量%の接着剤を調製した。この接着剤を用いて実施例1と同様にして実施例2のカバーレイフィルムを作成した。
【0068】
実施例3
カルボキシル含有アクリロニトリルブタジエンゴムのニポール1072(日本ゼオン社製商品名)10部、EOCN−1020−65(商品名)(日本化薬製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:200)20部、DDS(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン)(アミン当量:62.1)6.2部、フェノキシ トリルオキシシクロホスファゼンオリゴマー(大塚化学製、SPB−100 L、液状ホスファゼン)11部、スチレン−無水マレイン酸共重合体(NOVA Chemical社、DYLARK D332)10部、水酸化アルミニウム16部及びトリフェニルホスフィン0.1部からなる混合物に溶媒としてメチルエチルケトンを加えて固形分34重量%の接着剤を調製した。この接着剤を用いて実施例1と同様にして実施例3のカバーレイフィルムを作成した。
【0069】
実施例4
EOCN−1020−65(商品名)(日本化薬製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:200)20部、DDS(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン)(アミン当量:62.1)6.2部、架橋フェノキシシクロホスファゼンオリゴマー(大塚化学製、SPB−100、粉末状ホスファゼン)10部、スチレン−無水マレイン酸共重合体(NOVA Chemical社製、DYLARK D332)10部、及びトリフェニルホスフィン0.1部からなる混合物に溶媒としてメチルエチルケトンを加えて固形分50重量%のワニスを調製した。
【0070】
評価サンプルとして積層板を製造した。具体的には、ガラスクロス(単位当り重量:107g・m、厚み:0.1mm)に上記の含浸用ワニスを含浸、乾燥させることによって、プレプリグ(樹脂量40質量%)を製造した。このプレプリグを8枚重ね、更にこの表裏に厚みが18μmの銅箔を重ね、これを温度:200℃、圧力:3MPa、時間:120分間の硬化条件で加熱、加圧して積層成形することにより両面銅張積層板を得た。
【0071】
比較例1
カルボキシル含有アクリロニトリルブタジエンゴムのニポール1072(商品名)(日本ゼオン社製10部、EOCN−1020−65(商品名)(日本化薬製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:200)20部、DDS(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン)(アミン当量:62.1)6.7部、架橋フェノキシシクロホスファゼンオリゴマー(大塚化学製、SPB−100、粉末状ホスファゼン)10部、水酸化アルミニウム16部及びトリフェニルホスフィン0.1部からなる混合物に溶媒としてメチルエチルケトンを加えて固形分34重量%の接着剤を調製した。この接着剤を用いて実施例1と同様にして比較例1のカバーレイフィルムを作成した。
【0072】
このようにして作成した実施例1〜3及び比較例1のカバーレイフィルム、及びカバーレイフィルムを使用した積層体又は配線板の特性について、下記の測定方法に従って測定した。その結果を表1に示す。なお、積層体及び配線板の製造方法は、下記の測定方法において述べる。
【0073】
<測定方法>
1.剥離特性
JIS−C6481に準拠して測定を行った。
【0074】
35μm厚の電解銅箔の光沢面と、上記実施例1〜3及び比較例1で得られた各カバーレイフィルムの接着剤面とを、プレス装置により、温度:160℃、圧力:50kg/cm、時間:40分の条件で圧着して、積層体を得、この積層体を切断して、試験片(1cm×15cm、厚み:72μm)とした。
【0075】
この試験片のポリイミドフィルム側を引張試験機に固定し、25℃において、銅箔を引張り方向が、銅箔面に垂直となるように50mm/分の速度で引き剥がした。このときの剥離力(N/cm)を測定した。実施例4の両面銅張積層板についても、この試験片と同様にして剥離力を測定した。
【0076】
2.半田耐熱性
JIS−C6481に準拠して測定を行った。
【0077】
上記1で作成した積層体及び実施例4の両面銅張積層板を25mm角に切断し、試験片とした。この試験片をフロー半田上に30秒間浮かべて、膨れ、剥れ等を生じない温度の最高値(℃)を測定した。
【0078】
3.マイグレーション性
マイグレーション性について以下のようにして評価を行った。
【0079】
フレキシブル銅張積層板(商品名:RAS32S57、信越化学工業製)に70μmピッチの回路を印刷した基板に対し、実施例1〜3及び比較例1で得られた各カバーレイフィルムをプレス装置(温度:160℃、圧力:50kg/cm、時間:40分)を用いて圧着することにより、フレキシブル印刷配線板を得た。このフレキシブル印刷配線板上の回路間に、温度135℃、湿度85%の環境下において、100Vの電圧を印加した。1,000時間経過後に、導体間に短絡が発生せず、デンドライトの成長が認められなかった場合を「○」と評価した。一方、導体間に短絡が発生し、デンドライトの成長が認められた場合を「×」と評価した。なお、実施例4の両面銅張積層板については、この試験を行わなかった。
【0080】
4.難燃性
実施例1〜3及び比較例1で得られた各カバーレイフィルム及び実施例4の両面銅張積層板について、UL94VTM−0規格に準拠して、難燃性グレードを測定した。UL94VTM−0規格を満足する難燃性を示した場合を「○」と評価し、前記カバーレイフィルムが燃焼した場合を「×」と評価した。
【0081】
5.ホスファゼン化合物のブリーディング
上記1における積層体の製造工程において、プレス条件を温度:180℃、圧力:50kg/cm、時間:10分(高温プレス条件)とした以外は同様にして、実施例1〜3及び比較例1の積層体を得た。プレス後におけるカバーレイフィルムの接着剤層からのブリーディングの有無を目視にて評価した。実施例4については、温度:200℃、圧力:3MPa、時間:120分間の硬化条件で加熱、加圧して積層成形を行って得られた積層板についてブリーディングの有無を目視にて評価した。ブリーディングが認められた場合を「×」と評価し、ブリーディングが認められなかった場合を「○」と評価した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1の結果から、実施例1〜3の積層体及び実施例4の積層板はスチレン−無水マレイン酸系共重合体を含んでいるので、スチレン−無水マレイン酸系共重合体を含まない比較例1の積層体よりも半田耐熱性が優れていることがわかる。また、実施例1〜3の積層体及び実施例4の積層板は、ブリーディングを生じなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、及び(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体を必須成分とするハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、及び(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体が本質的にノンハロゲン化合物であって、その不純物ハロゲンの含有量が、前記化合物のそれぞれにおいて0.1重量%以下である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
(F)合成ゴムをさらに含む、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
(G)無機充填剤をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体、(F)合成ゴム、及び(G)無機充填剤を含有するハロゲンフリーの難燃性接着剤組成物。
【請求項6】
前記(A)シクロホスファゼン化合物、(B)ポリエポキシド化合物、(C)エポキシ用硬化剤、(D)エポキシ用硬化促進剤、(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体及び(F)合成ゴムが本質的にノンハロゲン化合物であって、その不純物ハロゲンの含有量が、前記化合物のそれぞれにおいて0.1重量%以下である請求項5に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記(E)スチレン−無水マレイン酸系共重合体における無水マレイン酸の含有割合が0.1〜50重量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記(A)シクロホスファゼン化合物が、下記一般式(1):
【化1】

[式中、nは3〜25の整数を示す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル基、炭素数1〜8の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルコキシ基、ニトリル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドキシル基、ホルミル基、又は炭素数1〜8の直鎖状若しくは分枝鎖状のアルコキシカルボニル基を示す。]
で表されるフェノキシシクロホスファゼン化合物を、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基及び一般式(2):
【化2】

[式中、Aは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を示す。mは0又は1を示す。]
で表されるビスフェニレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋基により架橋した化合物であって、
(a)該架橋基が前記フェノキシシクロホスファゼン化合物におけるフェノキシ基からフェニル基が脱離した2個の酸素原子間に介在し、
(b)架橋された化合物における架橋基のフェニル基の含有割合が、前記フェノキシシクロホスファゼン化合物中の全フェニル基の総数を基準として50〜99.9%であり、かつ
(c)分子内にフリーの水酸基を有しない、
架橋フェノキシシクロホスファゼン化合物である請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記(B)ポリエポキシド化合物が、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂である請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記(C)エポキシ用硬化剤が、ジシアンジアミド化合物、ノボラック型フェノール樹脂、アミノ変性ノボラック型フェノール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、有機酸ヒドラジッド、ジアミノマレオニトリル化合物、メラミン化合物、アミンイミド、ポリアミン塩、モレキュラーシーブ、アミン化合物、酸無水物、ポリアミド及びイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記(D)エポキシ用硬化促進剤が、第三アミン、イミダゾール及び芳香族アミントリフェニルホスフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記(F)合成ゴムが、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンメチルアクリレートアクリロニトリルゴム、ブタジエンゴム、カルボキシル含有アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム及びポリビニルブチラールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
請求項5〜12のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いてポリイミドフィルムの少なくとも片面に銅箔を貼り合わせてなる、フレキシブル銅張積層板。
【請求項14】
請求項5〜12のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いてポリイミドフィルムの表面に樹脂層を形成してなる、カバーレイ。
【請求項15】
請求項5〜12のいずれか1項に記載の接着剤組成物をフィルム状に形成してなる、接着剤フィルム。
【請求項16】
請求項5〜12のいずれか1項に記載の接着剤組成物を用いてポリイミドフィルムの少なくとも片面に銅箔を貼り合わせた後、回路を形成してなる、フレキシブルプリント配線板。
【請求項17】
請求項16に記載のフレキシブルプリント配線板上に請求項14に記載のカバーレイを貼り合わせてなる、フレキシブルプリント配線板。
【請求項18】
請求項16又は17に記載のフレキシブルプリント配線板と補強板とを、請求項15に記載の接着剤フィルムを介して貼り合わせてなる、プリント配線板。

【公開番号】特開2010−254757(P2010−254757A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103894(P2009−103894)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000206901)大塚化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】