説明

ハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法

【課題】有機半導体等の電子材料の合成原料として利用が可能なハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法であり、特定のハロゲン化アントラキノン誘導体を、水素化置換アルミニウム化合物、水素化置換スズ化合物、ケイ素化合物らなる群より選ばれる還元剤を用いた還元及び脱水により、ハロゲン化アントラセンを合成することを特徴とする下記の一般式で示されるハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法。


(式中、置換基Xは、ハロゲン原子を表し、Xは水素原子、ハロゲン原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハロゲン化アントラセン誘導体の新規な製造方法に関する。本発明の製造方法で得られるハロゲン化アントラセン誘導体は有機トランジスタの半導体材料に用いられるペンタセン等のアセン類の中間体として有用なものである。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コスト、及びフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されるようになった。有機薄膜トランジスタは有機半導体活性相、基板、絶縁相、電極等数種類の材料から構成されるが、中でも電荷のキャリアー移動を担う有機半導体活性相は該デバイスの中心的な役割を有している。この有機半導体活性相を構成する有機材料のキャリアー移動能により半導体デバイス性能が左右される。
【0003】
ペンタセン等の棒状構造のアセン類はアモルファスシリコン並みの高いキャリアー移動度を有し、優れた半導体デバイス特性を発現することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。棒状構造のアセン類を製造する場合の原料として、2,3−ジブロモアントラセンが用いられている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、2,3−ジブロモアントラセンはその合成に多工程を要し、低収率であり、未置換体のみしか合成することができないという問題があった(例えば、非特許文献2、3参照)。
【0004】
一方、キノン誘導体を水素化アルミニウムリチウムや水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元し、次いで脱水することでアセン類を合成する方法が報告されている(例えば、非特許文献4、5参照)。しかし、これらの方法では臭素やヨウ素等の脱離しやすい置換基を有するキノン誘導体を還元する際に、置換基が脱離することにより十分な選択率及び収率が得られないという問題があった。
【0005】
【非特許文献1】「ジャーナル オブ アプライド フィジックス」、(米国)、2002年、92巻、5259−5263頁
【非特許文献2】「オルガニック レターズ」、(米国)、2000年、2巻、85−87頁
【非特許文献3】「シンセシス」、1988年、628−630頁
【非特許文献4】「テトラヘドロン レターズ」、(米国)、2004年、45巻、7287−7289頁
【非特許文献5】「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー」、(米国)、1974年、39巻、770−774頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術が有する問題点に鑑み、新規なハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法を提供することを目的とする。特に、本発明は脱ハロゲン反応を抑えながらハロゲン化アントラキノン誘導体を温和な条件で還元及び脱水し、ハロゲン原子やアルキル基等の置換基を特定の位置に有することが可能なハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法の提供を目的とし、さらに塗布法による半導体活性相の形成が可能な有機半導体相構成材料の原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、新規な特定のハロゲン化アントラセン誘導体を製造する特定の方法を見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法であり、下記一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体を還元及び脱水させ、ハロゲン化アントラセンを合成することを特徴とする一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法に関するものである。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、置換基Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表し、Xは水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表しR〜Rは同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜30のアリール基、炭素数2〜20のアルキニル基、又は炭素数2〜30のアルケニル基を示す。なお、R〜Rの内、任意の二以上のものは互いに結合することができる。)
【0011】
【化2】

【0012】
(ここで、置換基X〜X及びR〜Rは一般式(1)で示される置換基と同意義を示す。)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体は一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体を水素化置換アルミニウム化合物、水素化置換スズ化合物、ケイ素化合物らなる群より選ばれる還元剤を用いた還元及び脱水から成る操作を2〜4回繰り返すことで製造することができる。
【0014】
一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体の還元に用いる還元剤は、水素化置換アルミニウム化合物、水素化置換スズ化合物、ケイ素化合物らなる群より選ばれる還元剤であり、水素化アルミニウムリチウム等の水素化無置換アルミニウム化合物及び水素化ホウ素ナトリウム等の水素化無置換ホウ素化合物では、ハロゲンの脱離が起こり、ハロゲン化アントラセン誘導体が得られない。
【0015】
該還元剤としては、ハロゲンを脱離することなくカルボニル基を選択的にヒドロキシル基に還元できるものであれば良い。その具体例として、例えば、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリ−t−ブトキシアルミニウムリチウム、水素化トリエトキシアルミニウムナトリウム等の水素化置換アルミニウム化合物;水素化トリフェニルスズ、水素化トリ−n−ブチルスズ、水素化ジフェニルスズ、水素化ジ−n−ブチルスズ、水素化トリエチルスズ、水素化トリメチルスズ等の水素化置換スズ化合物;トリクロロシラン、トリエチルシラン、トリメチルシラン、ジフェニルシラン、フェニルシラン、ポリメチルヒドロシロキサン等のケイ素化合物等を挙げることができ、好ましくは脱ハロゲン反応を抑制する観点から水素化置換アルミニウム化合物であり、特に好ましくは水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化トリ−t−ブチルアルミニウムリチウムであり、さらに好ましくは水素化ジイソブチルアルミニウムである。これらの還元剤は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。また、該水素化金属化合物に塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化鉄(III)、塩化スズ(IV)、3フッ化ホウ素エーテル錯体などのルイス酸を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体の還元は、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶剤に特に限定はなく、例えばテトラヒドロフラン(以後、THFと略す)、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、2−プロパノール等を挙げることができ、好ましくはTHFである。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。
【0017】
係る還元において、用いる還元剤の量は一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体1当量に対し、2.0〜8.4当量が好ましく、特に好ましくは2.0〜4.2当量である。還元の温度は−20〜100℃が好ましく、特に好ましくは0〜50℃である。反応時間は1〜24時間が好ましく、特に好ましくは1〜10時間である。
【0018】
かくして得られた、下記一般式(3)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン誘導体を酸化合物により脱水する。
【0019】
【化3】

【0020】
(ここで、置換基X〜X及びR〜Rは一般式(1)で示される置換基と同意義を示す。)
一般式(3)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン誘導体の脱水に用いる酸化合物は特に限定はなく、ヒドロキシル基を選択的に脱水できるものであれば良い。酸化合物の具体例として、例えば塩酸、硫酸、発煙硫酸、リン酸、硝酸、トルエンスルホン酸、フッ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、塩化アンモニウム等のプロトン酸;塩化アルミニウム、3フッ化ホウ素エーテル錯体等のルイス酸等を挙げることができ、好ましくは塩酸である。また、該酸化合物は任意の濃度の水溶液、例えば塩酸水溶液として用いることもできる。
【0021】
一般式(3)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン誘導体の脱水は、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶剤に特に限定はなく、例えば水、THF、ジエチルエーテル、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等を挙げることができ、好ましくはTHFである。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。係る脱水の温度は0〜160℃が好ましく、特に好ましくは0〜90℃である。反応時間は1〜48時間が好ましく、特に好ましくは1〜16時間である。
【0022】
かくして得られた下記一般式(4)で示されるアントロン誘導体は、同様の方法で還元することができ、下記一般式(5)で示されるヒドロキシ化合物に転化された後、さらに脱水させることでハロゲン化アントラセン誘導体に誘導される。
【0023】
【化4】

【0024】
(ここで、置換基X〜X及びR〜Rは一般式(1)で示される置換基と同意義を示す。)
【0025】
【化5】

【0026】
(ここで、置換基X〜X及びR〜Rは一般式(1)で示される置換基と同意義を示す。)
なお、本発明の製造方法においては、前述の還元と脱水からなる操作を2回以上繰り返しても差し支えない。また、一般式(3)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン誘導体を、次亜リン酸ナトリウム/ヨウ化ナトリウム/酢酸あるいは2塩化スズ/塩酸水溶液で還元処理し、一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体へ変換させることもできる。
【0027】
かくして得られた、本発明の一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体は、さらに精製することができる。精製する方法は特に限定はなく、例えばカラムクロマトグラフィー、再結晶化、あるいは昇華による方法を挙げることができる。
【0028】
本発明の原料化合物である一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体は例えば「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー」(米国)、1994年、59巻、5038−5047頁あるいは「ベリヒテ」(独国)、1933年、66B巻、1876−1891頁に従って製造することができる。
【0029】
本発明の一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体は下記一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体と下記一般式(7)で示されるベンゼン誘導体とを塩化アルミニウム存在下に下記一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体を製造し、次いで環化させる、または下記一般式(9)で示されるハロベンゼン誘導体をリチウム化合物でリチオ化し、一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体と反応させることで下記一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体を製造し、次いで環化させることで製造することができる。
【0030】
【化6】

【0031】
(ここで、置換基X〜X及びR〜Rは一般式(1)で示される置換基と同意義を示す。)
【0032】
【化7】

【0033】
(ここで、置換基R〜Rは一般式(1)で示される置換基と同意義を示す。)
【0034】
【化8】

【0035】
(ここで、置換基X〜X及びR〜Rは一般式(1)で示される置換基と同意義を示す。)
【0036】
【化9】

【0037】
(ここで、置換基Xは臭素原子、ヨウ素原子を示し、R〜Rは一般式(1)で示される置換基と同意義を示す。)
一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体における置換基X〜Xは好ましくは水素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のアルキル基であり、置換基R〜Rは、好ましくは水素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のアルキル基である。そして、具体的な一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体としては、例えば無水フタル酸、4−ブロモ無水フタル酸、4−ヨード無水フタル酸、4,5−ジブロモ無水フタル酸、4,5−ジヨード無水フタル酸、4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸、4,5−ジメチル無水フタル酸、4,5−トリフルオロメチル無水フタル酸、3,6−ジフルオロ−4,5−ジブロモ無水フタル酸、3,6−ジフルオロ−4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸、3,6−ジメチル−4,5−ジブロモ無水フタル酸、3,6−ジメチル−4,5−ジブロモ無水フタル酸、3,6−ジフェニル−4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸、3,6−ジフェニル−4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸等が挙げられ、好ましくは無水フタル酸、4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸である。
【0038】
一般式(7)で示されるベンゼン誘導体における置換基R〜Rは、好ましくは水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜30のアリール基、炭素数2〜30のアルケニル基である。そして、具体的な一般式(7)で示されるベンゼン誘導体としては、例えば1,2−ジフルオロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,2−ジブロモベンゼン、1,2−ジヨードベンゼン、1−ブロモ−2−フルオロベンゼン、1−ブロモ−2−ヨードベンゼン、1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン、1,2−ジブロモ−3,6−ジフルオロベンゼン、1,2−ジメチルベンゼン、1,2−ジヘキシルベンゼン、1,2−ジドデシルベンゼン、1,2−ジフェニルベンゼン、1,2−ジ(p−トリフルオロメチルフェニル)ベンゼン、ジ(パーフルオロヘキシル)ベンゼン、ジ(パーフルオロドデシル)ベンゼン、1,2−ジピリジニルベンゼン、1,2−ジ(2−チエニル)ベンゼン、1,2−ジ{5−(n−ヘキシル)2−チエニル}ベンゼン、1,2−ジビフェニルベンゼン等が挙げられ、好ましくは1,2−ジブロモベンゼン、1,2−ジヘキシルベンゼン、1,2−ジドデシルベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジフェビルベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジ(ドデシン−1−イル)ベンゼンである。
【0039】
一般式(9)で示されるハロベンゼン誘導体における置換基Xは臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくは臭素原子であり、置換基R〜Rは、好ましくは水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜30のアリール基、炭素数2〜30のアルケニル基である。そして、具体的な一般式(9)で示されるベンゼン誘導体としては、例えば1−ブロモ−3,4−ジフルオロベンゼン、1−ブロモ−2,3,4,5−テトラフルオロベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジフェニルベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジメチルベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジヘキシルベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジドデシルベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジ(ヘキシン−1−イル)ベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジ(ドデシン−1−イル)ベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジ(p−トリフルオロメチルフェニル)ベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジ(パーフルオロヘキシル)ベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジ(パーフルオロドデシル)ベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジピリジニルベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジ(2−チエニル)ベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジ{5−(n−ヘキシル)2−チエニル}ベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジビフェニルベンゼン等が挙げられ、好ましくは1−ブロモ−3,4−ジフェニルベンゼン、1−ブロモ−3,4−ジ(ドデシン−1−イル)ベンゼンである。
【0040】
一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体と一般式(7)で示されるベンゼン誘導体とを塩化アルミニウム存在下に一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体を製造する工程(第1A工程)について述べる。
【0041】
第1A工程では、好ましくは塩化アルミニウムに一般式(7)で示されるベンゼン誘導体を加え、一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体を添加し、反応させることで一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体を製造する。
【0042】
この第1A工程は、一般式(7)で示されるベンゼン誘導体を溶媒を兼ねて実施することができるが、溶媒中で実施することが好ましい。用いる溶媒に特に限定はなく、例えば二硫化炭素、塩化メチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン等を挙げることができ、好ましくはテトラクロロエタンである。
【0043】
一般式(7)で示されるベンゼン誘導体の使用量は一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体1当量に対して1〜20当量が好ましく、特に好ましくは1〜8当量である。塩化アルミニウムの使用量は無水フタル酸誘導体1当量に対して1〜8当量が好ましく、特に好ましくは1.5〜3当量である。反応温度は0〜200℃が好ましく、特に好ましくは20〜180℃である。反応時間は20分〜16時間が好ましく、特に好ましくは30分〜4時間である。反応終了後、反応液を希塩酸または希硫酸に投入し、加温して塩化アルミニウムとの錯体を分解すると目的物である一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体が析出する。この一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体は中間体としてこのままでも十分使用可能であるが、アルカリ水溶液に抽出し、トルエン等の有機溶媒で洗浄後、希硫酸や希塩酸等で酸析し、濾取水洗乾燥して得ることも良い。
【0044】
一般式(9)で示されるハロベンゼン誘導体をリチウム化合物でリチオ化し、一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体と反応させることで一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体を製造する工程(第1B工程)について述べる。
【0045】
第1B工程で用いるリチウム化合物は特に限定はなく、一般式(9)で示されるハロベンゼン誘導体を選択的にリチオ化できるものであれば良い。具体例として、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウム、p−フルオロフェニルリチウム、m−フルオロフェニルリチウム、o−フルオロフェニルリチウム、p−クロロフェニルリチウム、3,5−ジフルオロフェニルリチウム、p−(トリフルオロメチル)フェニルリチウム、1,1’−ビフェニル−4−リチウム、1−ナフチルリチウム等を挙げることができ、好ましくはn−ブチルリチウムである。
【0046】
第1B工程では、好ましくはリチウム化合物に一般式(9)で示されるハロベンゼン誘導体を加え、一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体を添加し、反応させることで一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体を製造する。
【0047】
この第1B工程は、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶剤に特に限定はなく、例えばTHF、ジエチルエーテル、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等を挙げることができ、好ましくはTHFである。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。用いるリチウム化合物の量は一般式(9)で示されるハロベンゼン誘導体1当量に対し、0.5〜8当量が好ましく、特に好ましくは0.8〜3当量である。リチオ化反応の反応温度は−100〜200℃が好ましく、特に好ましくは−90〜0℃である。リチオ化反応の反応時間は0.5〜120分が好ましく、特に好ましくは1〜30分である。
【0048】
一般式(9)で示されるハロベンゼン誘導体の使用量は一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体1当量に対して1〜3当量が好ましく、特に好ましくは1〜2当量である。一般式(9)で示されるハロベンゼン誘導体をリチオ化した後、一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体との反応の反応温度は−90〜80℃が好ましく、特に好ましくは−80〜50℃である。反応時間は1分〜36時間が好ましく、特に好ましくは3分〜12時間である。反応終了後、反応液に水または希塩酸を投入すると目的物である一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体が析出する。この一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体は中間体としてこのままでも十分使用可能であるが、アルカリ水溶液に抽出し、トルエン等の有機溶媒で洗浄後、希硫酸や希塩酸等で酸析し、濾取水洗乾燥して得ることも良い。
【0049】
第1A工程または第1B工程で製造した一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体を、第2工程で環化して一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体を製造する。
【0050】
この第2工程は通常、一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体を硫酸、発煙硫酸、活性白土、超強酸性化合物等の存在下に脱水環化することにより達成される。特に、硫酸または発煙硫酸の存在下に加熱する方法によるのが好ましい。発煙硫酸の場合、SOの濃度は2〜30%が好ましく、特に好ましくは5〜25%である。硫酸の使用量は、一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体100重量部に対し2〜10重量部が好ましく、特に好ましくは4〜6重量部である。反応時間は0.5〜10時間が好ましく、特に好ましくは1〜3時間である。反応温度は70〜110℃が好ましく、特に好ましくは80〜110℃である。反応終了後、反応液を冷却、水に投入すると一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体が沈殿として得られる。沈殿を濾取、水洗、希アルカリ洗、水洗、乾燥して得られたもの、あるいは沈殿を有機溶剤で抽出し、抽出液を湯洗、希アルカリ洗、湯洗、濃縮して得られたものはこのままでも十分高純度であるが、更に蒸留による精製、あるいは再結晶等の精製を行っても良い。
【0051】
本発明の製造方法で得られる一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体の置換基について述べる。
【0052】
置換基X〜Xについて、置換基Xは好ましくは臭素、ヨウ素原子であり、特に好ましくはヨウ素原子であり、置換基Xは好ましくは臭素、ヨウ素原子であり、特に好ましくは臭素原子であり、更に好ましくはX〜Xの一方がヨウ素原子であり、もう一方が臭素原子である。
【0053】
置換基R〜Rにおける、炭素数1〜20のアルキル基は特に限定はなく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基;トリフルオロメチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロオクタデシル基等のパーフルオロアルキル基;トリフルオロエチル基、ペンタデカフルオロオクチル基、オクタデカフルオロデシル基、2−エチルパーフルオロヘキシル基等の一部の水素がフッ素に置換されたハロゲン化アルキル基等を挙げることができ、好ましくは炭素数5〜20のアルキル基であり、特に好ましくはヘキシル基、ドデシル基、オクタデシル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロオクタデシル基であり、さらに好ましくはドデシル基、パーフルオロドデシル基である。
【0054】
置換基R〜Rにおける、炭素数4〜30のアリール基は特に限定はなく、例えばフェニル基、p−トリル基、(p−オクチル)フェニル基、(p−ドデシル)フェニル基)、(p−オクタデシル)フェニル基、p−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、p−(トリフルオロメチル)フェニル基、p−(パーフルオロドデシル)フェニル基、ピリジニル基、テトラフルオロピリジニル基、2−チエニル基、5−(n−ヘキシル)−2−チエニル基、2,2’−ビチエニル−5−基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、ビピリジニル基等を挙げることができ、好ましくはフェニル基である。
【0055】
置換基R〜Rにおける、炭素数2〜20のアルキニル基は特に限定はなく、例えばエチニル基、メチルエチニル基、イソプロピルエチニル基、t−ブチルエチニル基、(オクチル)エチニル基、(ドデシル)エチニル基、トリフルオロメチルエチニル基、フェニルエチニル基、{4−(オクチル)フェニル}エチニル基、{3−(オクチル)フェニル}エチニル基、ナフチルエチニル基、アントラセニルエチニル基、ビフェニルエチニル基、ターフェニルエチニル基、ベンジルエチニル基、ビフェニレノエチニル基、パーフルオロフェニルエチニル基、{p−(トリフルオロメチル)フェニル}エチニル基、(パーフルオロオクチル)エチニル基、(パーフルオロドデシル)エチニル基、{4−(パーフルオロオクチル)フェニル}エチニル基、{3−(パーフルオロオクチル)フェニル}エチニル基等を挙げることができ、好ましくはドデシルエチニル基である。
【0056】
置換基R〜Rにおける、炭素数2〜30のアルケニル基は特に限定はなく、例えばエテニル基、メチルエテニル基、イソプロピルエテニル基、t−ブチルエテニル基、(オクチル)エテニル基、(ドデシル)エテニル基、トリフルオロメチルエテニル基、フェニルエテニル基、{4−(オクチル)フェニル}エテニル基、{3−(オクチル)フェニル}エテニル基、ナフチルエテニル基、アントラセニルエテニル基、ビフェニルエテニル基、ターフェニルエテニル基、ベンジルエテニル基、ビフェニレノエテニル基、パーフルオロフェニルエテニル基、{p−(トリフルオロメチル)フェニル}エテニル基、(パーフルオロオクチル)エテニル基、(パーフルオロドデシル)エテニル基、{4−(パーフルオロオクチル)フェニル}エテニル基、{3−(パーフルオロオクチル)フェニル}エテニル基、ビフェニレノエテニル基、フェニル(メチル)エテニル基、(トリメチルシリル)エテニル基、(トリエチルシリル)エテニル基、(トリイソプロピルシリル)エテニル基等を挙げることができる。なお、該炭素数2〜30のアルケニル基はトランス体及びシス体が存在する場合は、トランス体及びシス体の何れであってもよく、またそれらの任意の割合の混合物であってもよい。
【0057】
なお、置換基R〜Rの内、任意の二以上のものが互いに結合した場合、その結合は特に限定はなく、例えばベンゼン環、ヘキシルベンゼン環、ジドデシルベンゼン環、パーフルオロベンゼン環、トリフルオロメチルベンゼン環、(パーフルオロジドデシル)ベンゼン環等の置換基を有してもよいベンゼン環;フラン環、チオフェン環、2−ジドデシルチオフェン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、ベンゾピロール環等の芳香族複素環を挙げることができ、好ましくは置換基を有していても良いベンゼン環である。結合する位置は好ましくはRとRである。
【0058】
これらの中でも置換基R〜Rとしては、特に好ましくは、置換基R〜R及びRは水素原子であり、置換基R及びRは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基である。
【0059】
本発明の製造方法で製造される一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体は特に限定はなく、例えば以下の化合物を挙げることができ、
【0060】
【化10】

【0061】
【化11】

【0062】
【化12】

【0063】
【化13】

【0064】
特に好ましくは、
【0065】
【化14】

【0066】
である。
【0067】
本発明の製造方法で製造することのできる一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体は、電子ペーパー及び有機EL等のフレキシブルディスプレイ、あるいはICタグ用のトランジスタの有機半導体材料に用いられるアセン類の原料として、さらに有機半導体レーザー材料の原料として利用することができる。
【発明の効果】
【0068】
本発明は一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体を室温付近の温和な条件で製造する新規な方法を提供する。さらに、本発明によりアルキル基等の置換基を有するハロゲン化アントラセン誘導体を提供できる。
【0069】
本発明の製造方法で得られるハロゲン化アントラセン誘導体は、塗布法の適用が可能であり且つ剛直棒状分子を有するため優れた半導体デバイス特性を有する有機半導体材料として期待される溶解性の高いアセン誘導体の原料として利用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0071】
生成物の同定にはH NMRスペクトル及びマススペクトルを用いた。なお、H NMRスペクトルは日本電子製JEOL GSX−270WB(270MHz)を用いて、マススペクトル(MS)は日本電子製JEOL JMS−700を用いて、試料を直接導入し、電子衝突(EI)法(70エレクトロンボルト)を用いて測定した。
【0072】
反応における溶媒は市販の脱水溶媒をそのまま用いた。
【0073】
合成例1(3’,4’−ジブロモベンゾフェノンカルボン酸の合成)(一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体の合成)
3’,4’−ジブロモベンゾフェノンカルボン酸は「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイティ」(米国)、2001年、123巻、2530−2536頁に従い以下の様に合成した。
【0074】
無水フタル酸2.24g(15.1mmol)を窒素ガスで置換した100mlのシュレンク管に入れた。次いで1,2−ジブロモベンゼン(関東化学製)6ml及び塩化アルミニウム4.4g(33.0mmol)を加え、150℃で1時間反応を行った。2M塩酸水溶液、トルエンを添加して分相し、有機相に2M水酸化ナトリウム水溶液を加えて分相した。水相に6M塩酸を加えて酸性にし、エーテルで抽出した。有機相を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し3’,4’−ジブロモベンゾフェノンカルボン酸5.2gを得た(収率90%)。
【0075】
合成例2(2,3−ジブロモアントラキノンの合成)(一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体の合成)
2,3−ジブロモアントラキノンは「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイティ」(米国)、2001年、123巻、2530−2536頁に従い以下の様に合成した。
【0076】
合成例1で得られた3’,4’−ジブロモベンゾフェノンカルボン酸5.2g(13.6mmol)を濃硫酸20mlに溶かし、125℃で2時間反応した(環化反応)。反応混合物を氷に注ぎ入れ、析出した固体をろ過して水で洗浄した。乾燥後、シリカゲルクロマトグラフィーで精製し(溶媒、塩化メチレン/ヘキサン=2/1)、2,3−ジブロモアントラキノンの黄色粉末を1.38g得た。(収率25%)。
融点:279−281℃。
H NMR(CDCl,22℃):δ=8.53(s,2H),8.32(dd,J=5.9Hz,3.3Hz,2H),7.84(dd,J=5.9Hz,3.3Hz,2H).
MS m/z: 366(M,100%),286(M−Br,4%),206(M−2Br,58%),103(M−2Br/2,13%).
H NMRスペクトルを図1に示した。
【0077】
合成例3(4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸の合成)(一般式(6)で示される無水フタル酸誘導体の合成)
4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸は「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー」(米国)、1951年、16巻、1577−1581頁を参考に、以下の様に合成した。
【0078】
4−ブロモフタルイミド(東京化成工業製)13.3g(58.9mmol)を窒素ガスで置換した100mlの二口ナスフラスコに入れた。次いでヨウ素7.78g(30.6mmol)及び10%発煙硫酸(ヨツハタ化学工業製)50mlを加え、90℃で23時間反応を行った。
【0079】
反応混合物を室温に冷やして氷に注ぎ入れた後、ガラスフィルターでろ過し、黄色固体17.1gを得た。得られた固体を濃硫酸47mlに溶解させ、130℃で5時間反応を行った。反応混合物を氷冷後、氷水を加えて析出した固体をろ過し、フタル酸誘導体の固体18.5gを得た。次に水酸化ナトリウム4.8gを水24mlに溶かした水溶液に得られた固体を室温で溶かした。この塩基性水溶液に酢酸を加えpHを3〜4に中和し、析出するフタル酸誘導体のモノナトリウム塩の白色沈殿をろ過した。得られた白色固体を水に懸濁させ、濃塩酸でpHを1以下にし、再びフタル酸誘導体として白色固体7.75gを得た。この固体をトルエン70mlに溶かし、無水酢酸13ml(138mmol)を加え、105℃で4時間反応を行った。反応液を減圧濃縮して白色固体7.0gを得た。この固体を加熱トルエンで再結晶し、目的の4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸を6.79g(19.2mmol)を得た。(収率32.7%)。
H NMR(CDCl,22℃):δ=8.51(s,1H),8.23(s,1H)。
MS m/z: 353(M,100%),309(M−CO,18%),282(M−C,10%),155(M−CI,16%),74(M−CIBr,32%)。
H NMRスペクトルを図2に示した。
【0080】
合成例4(1,2―ジドデシルベンゼンの合成)(一般式(7)で示されるベンゼン誘導体の合成)
1,2―ジドデシルベンゼンは「日本化学会誌」1989年、6巻、983−987頁に従い以下の様に合成した。
【0081】
1,2−ジクロロベンゼン2.22g(15.1mmol)、ジクロロ〔1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン〕ニッケル(東京化成工業製)131mg(0.24mmol)、ジエチルエーテル11.5mlの混合液にドデシルマグネシウムブロミド(シグマ−アルドリッチ製、1.0mol/lジエチルエーテル溶液)45ml(45.0mmol)を窒素雰囲気中0℃で滴下した。35℃で20時間反応を行い、反応混合物を0℃に冷やして希塩酸を加え、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水の順に洗浄し、塩化カルシウムで乾燥させた。得られた液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)及び減圧蒸留で精製し、目的の1,2―ジドデシルベンゼンを5.56g(13.4mmol)を得た。(収率88.5%)。
H NMR(CDCl,22℃):δ=7.11(m,4H),2.59(t,J=7.8Hz,4H),1.55(m,4H),1.26(m,36H),0.88(t,J=6.8Hz,6H)。
MS m/z: 414(M,100%),260(M−C1123,71%),106(M−C2246,98%)。
H NMRスペクトルを図3に示した。
【0082】
合成例5(3’,4’−ジドデシル−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸)(一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体の合成)
3’,4’−ジドデシル−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸は「ベリヒテ」(独国)、1933年、66B巻、1876−1891頁を参考に以下の様に合成した。
【0083】
合成例3で得られた4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸6.79g(19.2mmol)、合成例2で得られた1,2−ジドデシルベンゼン7.97g(19.2mmol)、テトラクロロエタン12.0mlの混合液に塩化アルミニウム5.78g(43.4mmol)を加え、室温で3時間反応を行った。水を加えてクエンチし、さらに水洗浄を行い、テトラクロロエタンを減圧留去することで、3’,4’−ジドデシル−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び3’,4’−ジドデシル−5−ブロモ−4−ヨードベンゾフェノンカルボン酸の混合物14.6g得た(収率99%)。
【0084】
合成例6(6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラキノンの合成)(一般式(2)で示されるアントラキノン誘導体の合成)
合成例5で得られた3’,4’−ジドデシル−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び3’,4’−ジドデシル−5−ブロモ−4−ヨードベンゾフェノンカルボン酸の混合物10.0g(13.0mmol)を濃硫酸77mlに溶かし、80℃で1時間反応した。反応混合物を氷に注ぎ入れ、析出した固体をろ過して水で洗浄した。乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル,10:1)及びヘプタンからの再結晶で精製し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラキノンの黄色粉末を5.98g(7.97mmol)得た。(収率61.2%)。
H NMR(CDCl,22℃):δ=8.73(s,1H),8.45(s,1H),8.05(s,2H),2.75(m,4H),1.62(m,4H),1.26(m,36H),0.88(m,6H)。
MS m/z: 750(M,100%),440(M−C2246,8%),313(M−C2246I,2%),233(M−C2246IBr,1%)。
H NMRスペクトルを図4に示した。
【0085】
合成例7(1−ブロモ−3,4−ジヨードベンゼンの合成)
1,2−ジヨードベンゼン(東京化成工業製)3.08g(9.32mmol)に窒素雰囲気中、塩化メチレン20ml、鉄粉67mg(1.20mmol)、ヨウ素10mg(0.04mmol)を加えた。混合液を0℃に冷却し、臭素0.48ml(9.37mmol)を加えて1.5時間反応させた。反応混合液に3mol/l水酸化ナトリウム水溶液と3mol/l硫酸水素ナトリウム水溶液を加えて塩基性にし、塩化メチレンで抽出して有機層を水で洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥し、塩化メチレンを減圧留去して黄色液体を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で無機物及び着色成分を除き、THFとメタノールの混合溶媒から再結晶して目的の1−ブロモ−3,4−ジヨードベンゼン2.67g(6.53mmol)を得た。(収率70.1%)。
【0086】
合成例8(1−ブロモ−3,4−ジフェニルベンゼンの合成)(一般式(9)で示されるハロベンゼン誘導体の合成)
合成例7で得られた1−ブロモ−3,4−ジヨードベンゼン2.15g(5.25mmol)にジヒドロキシフェニルボラン(和光純薬工業製)1.47g(12.1mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)458mg(0.40mmol)、炭酸ナトリウム3.34g(31.5mmol)、トルエン42ml、エタノール10.5ml、水13.3mlを加え、80℃で29時間反応させた。1M塩酸水溶液を加えて反応をクエンチし、トルエンで抽出した後、有機層を水洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製して目的の1−ブロモ−3,4−ジフェニルベンゼン1.46g(4.72mmol)を得た。(収率89.9%)。
【0087】
合成例9(3’,4’−ジフェニル−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸)(一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体の合成)
合成例8で得られた1−ブロモ−3,4−ジフェニルベンゼン1.46g(4.72mmol)を窒素ガスで置換した300mlのシュレンク管に入れた。次いでTHF28.3mlを加えて−78℃に冷却し、n−ブチルリチウム(関東化学製、1.59mol/l、ヘキサン溶液)3.0ml(4.77mmol)を加え、30分間反応させた。次いで合成例3で得られた4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸1.66g(4.72mmol)を加え、室温まで昇温した。水を加えてクエンチし、さらに水洗浄及び減圧乾燥を行い、3’,4’−ジフェニル−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸を2.6g得た(収率96%)。
【0088】
合成例10(6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジフェニルアントラキノンの合成)(一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体の合成)
合成例9で得られた3’,4’−ジフェニル−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸2.6g(4.5mmol)を濃硫酸26mlに溶かし、80℃で1時間反応した(環化反応)。反応混合物を氷に注ぎ入れ、析出した固体をろ過して水で洗浄した。乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/塩化メチレン,10:1)及びヘプタンからの再結晶で精製し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジフェニルアントラキノンの黄色粉末を298mg(0.53mmol)得た。(収率11.2%)。
【0089】
合成例11(1−ブロモ−3,4−ジ(ドデシン−1−イル)ベンゼンの合成)(一般式(9)で示されるハロベンゼン誘導体の合成)
合成例7で得られた1−ブロモ−3,4−ジヨードベンゼン1.84g(4.50mmol)を窒素置換した500mlシュレンクに入れ、ヨウ化銅90mg(0.47mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)272mg(0.24mmol)、乾燥THF59ml、トリエチルアミン2.29g(22.2mmol)、1−ドデシン1.57g(9.47mmol)を加えた。この反応混合物を室温で26時間反応させた。1M塩酸水溶液を加えて反応をクエンチし、トルエンで抽出した後、有機層を水洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジエチルエーテルとヘキサンの混合液)で精製して目的の1−ブロモ−3,4−ジ(ドデシン−1−イル)ベンゼン1.52g(3.14mmol)を得た。(収率69.8%)。
【0090】
合成例12(3’,4’−ジ(ドデシン−1−イル)−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸の合成)(一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体の合成)
合成例11で得られた1−ブロモ−3,4−ジ(ドデシン−1−イル)ベンゼン1.52g(3.14mmol)を窒素ガスで置換した300mlのシュレンク管に入れた。次いでTHF18.8mlを加えて−78℃に冷却し、n−ブチルリチウム(関東化学製、1.59mol/l、ヘキサン溶液)2.0ml(3.18mmol)を加え、30分間反応させた。次いで合成例3で得られた4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸1.10g(3.14mmol)を加え、室温まで昇温した。水を加えてクエンチし、さらに水洗浄及び減圧乾燥を行い、3’,4’−ジ(ドデシン−1−イル)−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸を2.3g(3.1mmol)得た(収率98%)。
【0091】
合成例13(6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジ(ドデシン−1−イル)アントラキノンの合成)(一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体の合成)
合成例12で得られた3’,4’−ジ(ドデシン−1−イル)−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸2.3g(3.1mmol)を濃硫酸17mlに溶かし、80℃で1時間反応した(環化反応)。反応混合物を氷に注ぎ入れ、析出した固体をろ過して水で洗浄した。乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/塩化メチレン,10:1)及びヘプタンからの再結晶で精製し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジ(ドデシン−1−イル)アントラキノンの黄色粉末を245mg(0.33mmol)得た。(収率11.2%)。
【0092】
合成例14(1−ドデシル−2−フルオロベンゼンの合成)(一般式(7)で示されるベンゼン誘導体の合成)
1−クロロ−2−フルオロベンゼン(東京化成工業製)1.31g(10.0mmol)、ジクロロ〔1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン〕ニッケル(東京化成工業製)43mg(0.08mmol)、ジエチルエーテル7.6mlの混合液にドデシルマグネシウムブロミド(シグマ−アルドリッチ製、1.0mol/lジエチルエーテル溶液)14.9ml(14.9mmol)を窒素雰囲気中0℃で滴下した。35℃で20時間反応を行い、反応混合物を0℃に冷やして希塩酸を加え、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル溶液を水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水の順に洗浄し、塩化カルシウムで乾燥させた。得られた液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)及び減圧蒸留で精製し、目的の1−ドデシル−2−フルオロベンゼンを1.23g(9.45mmol)を得た。(収率94.5%)。
【0093】
合成例15(3’−ドデシル−4’−フルオロ−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び3’−ドデシル−4’−フルオロ−5−ブロモ−4−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び4’−ドデシル−3’−フルオロ−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び4’−ドデシル−3’−フルオロ−5−ブロモ−4−ヨードベンゾフェノンカルボン酸の混合物の合成)(一般式(8)で示される2−ベンゾイル安息香酸誘導体の合成)
合成例3で得られた4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸3.34g(9.45mmol)、合成例14で得られた1−ドデシル−2−フルオロベンゼン1.23g(9.45mmol)、テトラクロロエタン6.0mlの混合液に塩化アルミニウム2.84g(21.4mmol)を加え、室温で3時間反応を行った。水を加えてクエンチし、さらに水洗浄を行い、テトラクロロエタンを減圧留去することで、3’−ドデシル−4’−フルオロ−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び3’−ドデシル−4’−フルオロ−5−ブロモ−4−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び4’−ドデシル−3’−フルオロ−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び4’−ドデシル−3’−フルオロ−5−ブロモ−4−ヨードベンゾフェノンカルボン酸の混合物4.55g得た(収率99%)。
【0094】
合成例16(2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントラキノンの合成)(一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体の合成)
合成例15で得られた3’−ドデシル−4’−フルオロ−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び3’−ドデシル−4’−フルオロ−5−ブロモ−4−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び4’−ドデシル−3’−フルオロ−4−ブロモ−5−ヨードベンゾフェノンカルボン酸及び4’−ドデシル−3’−フルオロ−5−ブロモ−4−ヨードベンゾフェノンカルボン酸の混合物4.55g(7.4mmol)を濃硫酸38mlに溶かし、80℃で1時間反応した。反応混合物を氷に注ぎ入れ、析出した固体をろ過して水で洗浄した。乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル,10:1)及びヘプタンからの再結晶で精製し、2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントラキノンの黄色粉末を1.26g(2.10mmol)得た。(収率22.2%)。
【0095】
実施例1(2,3−ジブロモアントラセンの合成)
合成例2で合成した2,3−ジブロモアントラキノン532mg(1.45mmol)を窒素ガスで置換した200mlのシュレンク管に入れた。次いでTHF22.2mlを加え、0℃に冷却し、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学製、0.99mol/l、ヘキサン溶液)6.10ml(4.16mmol)を加え、40℃で1.5時間還元反応を行った。得られた2,3−ジブロモ−9,10−ジヒドロキシ−9,10−ジヒドロアントラセン(一般式(3)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン誘導体)を含む反応混合物を室温まで冷却し、6M塩酸水溶液15mlを水冷しながら加えた。反応混合物を65℃で3時間脱水反応を行った。析出した固体をろ過し、水、ジクロロメタン、メタノール、ジエチルエーテルで洗浄して減圧乾燥し、2,3−ジブロモアントロン(一般式(4)で示されるアントロン誘導体)を主生成物として含む固体521mgを得た。その主生成物の構造式を以下に示す。
【0096】
【化15】

【0097】
得られた2,3−ジブロモアントロンを主生成物として含む固体521mgにTHF22.2mlを加え、0℃に冷却し、水素化ジイソブチルアルミニウム6.10ml(4.16mmol)を加え、40℃で1.5時間還元反応を行った。次いで反応混合物を室温まで冷却し、6M塩酸水溶液15mlを水冷しながら加えた。反応混合物を65℃で3時間脱水反応を行った。析出した固体をろ過し、水、ジクロロメタン、メタノール、ジエチルエーテルで洗浄して減圧乾燥し、2,3−ジブロモアントラセンの黄色固体を得た334mg(1.01mmol)。(収率69.7%)。
融点:269−270℃。
H NMR(CDCl,22℃):δ=8.31(s,2H),8.29(s,2H),7.98(dd,J=6.6Hz,3.2Hz,2H),7.50(dd,J=6.6Hz,3.2Hz,2H)。
MS m/z: 336(M,100%),256(M−Br,4%),176(M−2Br,58%)。
H NMRスペクトルを図5に示した。生成物の構造式を以下に示す。
【0098】
【化16】

【0099】
還元剤として水素化置換アルミニウム化合物を用いたため、ハロゲンの脱離が起こらずハロゲン化アントラセンが得られた。
【0100】
実施例2(6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラセンの合成)
合成例6で合成した6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラキノン8.92g(11.9mmol)を窒素ガスで置換した1lのシュレンク管に入れた。次いでTHF140mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学製、0.99mol/l、トルエン溶液)31ml(30.7mmol)を加え、室温で1.5時間還元反応を行った。得られた6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシル−9,10−ジヒドロキシ−9,10−ジヒドロアントラセン(一般式(3)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン誘導体)を含む反応混合物に6M塩酸水溶液82mlを加え、65℃で3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントロン及び7−ブロモ−6−ヨード−2,3−ジドデシルアントロン(一般式(4)で示されるアントロン誘導体)を主生成物として含む固体8.84gを得た。その主生成物の構造式を以下に示す。
【0101】
【化17】

【0102】
得られた6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントロン及び7−ブロモ−6−ヨード−2,3−ジドデシルアントロンを主生成物として含む固体8.84gにTHF140mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム31ml(30.69mmol)を加え、室温で1.5時間還元反応を行った。次いで6M塩酸水溶液82mlを加え、3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラセンの黄色固体を7.11g(9.88mmol)得た。(収率83.0%)。
H NMR(CDCl,22℃):δ=8.55(s,1H),8.27(s,1H),8.16(s,1H),8.15(s,1H),7.72(s,2H),2.78(m,4H),1.71(m,4H),1.27(m,36H)0.88(m,6H)。
MS m/z: 720(M,100%),410(M−C2246,16%),283(M−C2246I,4%),203(M−C2246IBr,5%)。
H NMRスペクトルを図6に示した。生成物の構造式を以下に示す。
【0103】
【化18】

【0104】
還元剤として水素化置換アルミニウム化合物を用いたため、ハロゲンの脱離が起こらずハロゲン化アントラセンが得られた。
【0105】
実施例3(6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジフェニルアントラセンの合成)
合成例10で合成した6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジフェニルアントラキノン(一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体)243mg(0.43mmol)を窒素ガスで置換した50mlのシュレンク管に入れた。次いでTHF4.9mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学製、0.99mol/l、トルエン溶液)1.20ml(1.20mmol)を加え、室温で1.5時間還元反応を行った。得られた6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジフェニル−9,10−ジヒドロキシ−9,10−ジヒドロアントラセン(一般式(3)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン誘導体)を含む反応混合物に6M塩酸水溶液2.9mlを加え、65℃で3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジフェニルアントロン及び7−ブロモ−6−ヨード−2,3−ジフェニルアントロン(一般式(4)で示されるアントロン誘導体)を主生成物として含む固体248mgを得た。その主生成物の構造式を以下に示す。
【0106】
【化19】

【0107】
得られた6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジフェニルアントロン及び7−ブロモ−6−ヨード−2,3−ジフェニルアントロンを主生成物として含む固体248mgにTHF4.9mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム1.20ml(1.20mmol)を加え、室温で1.5時間還元反応を行った。次いで反応混合物に6M塩酸水溶液2.9mlを加え、3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジフェニルアントラセンの黄色固体を171mg(0.32mmol)得た。(収率74.4%)。
【0108】
生成物の構造式を以下に示す。
【0109】
【化20】

【0110】
還元剤として水素化置換アルミニウム化合物を用いたため、ハロゲンの脱離が起こらずハロゲン化アントラセンが得られた。
【0111】
実施例4(6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジ(ドデシン−1−イル)アントラセンの合成)
合成例13で合成した6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジ(ドデシン−1−イル)アントラキノン245mg(0.33mmol)を窒素ガスで置換した50mlのシュレンク管に入れた。次いでTHF3.8mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学製、0.99mol/l、トルエン溶液)0.70ml(0.70mmol)を加え、室温で1.5時間還元反応を行った。得られた6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジ(ドデシン−1−イル)−9,10−ジヒドロキシ−9,10−ジヒドロアントラセン(一般式(3)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン誘導体)を含む反応混合物に6M塩酸水溶液2.0mlを加え、65℃で3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジ(ドデシン−1−イル)アントロン及び7−ブロモ−6−ヨード−2,3−ジ(ドデシン−1−イル)アントロン(一般式(4)で示されるアントロン誘導体)を主生成物として含む個体251mgを得た。その主生成物の構造式を以下に示す。
【0112】
【化21】

【0113】
得られた6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジ(ドデシン−1−イル)アントロン及び7−ブロモ−6−ヨード−2,3−ジ(ドデシン−1−イル)アントロンを主生成物として含む固体251mgにTHF3.8mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム0.70ml(0.70mmol)を加え、室温で1.5時間還元反応を行った。次いで反応混合物に6M塩酸水溶液2.0mlを加え、3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジ(ドデシン−1−イル)アントラセンの黄色固体を178mg(0.24mmol)得た。(収率72.7%)。
【0114】
生成物の構造式を以下に示す。
【0115】
【化22】

【0116】
還元剤として水素化置換アルミニウム化合物を用いたため、ハロゲンの脱離が起こらずハロゲン化アントラセンが得られた。
【0117】
実施例5(2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントラセンの合成)
合成例16で合成した2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントラキノン1.26g(2.10mmol)を窒素ガスで置換した200mlのシュレンク管に入れた。次いでTHF24.0mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学製、0.99mol/l、トルエン溶液)5.20ml(5.11mmol)を加え、室温で1.5時間還元反応を行った。得られた2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロ−9,10−ジヒドロキシ−9,10−ジヒドロアントラセン(一般式(3)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン誘導体)を含む反応混合物に6M塩酸水溶液14.0mlを加え、65℃で3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥し、3−ブロモ−2−ヨード−7−ドデシル−6−フルオロアントロン及び2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントロン(一般式(4)で示されるアントロン誘導体)を主成分とする固体1.28gを得た。この主生成物の構造式を以下に示す。
【0118】
【化23】

【0119】
得られた3−ブロモ−2−ヨード−7−ドデシル−6−フルオロアントロン及び2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントロンを主成分とする固体1.28gにTHF24.0mlを加え、水素化ジイソブチルアルミニウム5.20ml(5.11mmol)を加え、室温で1.5時間還元反応を行った。次いで6M塩酸水溶液14.0mlを加え、3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製し、2−ブロモ−3−ヨード−6−ドデシル−7−フルオロアントラセン及び2−ブロモ−3−ヨード−7−ドデシル−6−フルオロアントラセンの混合物の黄色固体を958mg(1.68mmol)得た。(収率80.1%)。
生成物の構造式を以下に示す。
【0120】
【化24】

【0121】
還元剤として水素化置換アルミニウム化合物を用いたため、ハロゲンの脱離が起こらずハロゲン化アントラセンが得られた。
【0122】
実施例6(6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラセンの合成)
合成例6で合成した6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラキノン1.16g(1.55mmol)を窒素ガスで置換した100mlのシュレンク管に入れた。次いでTHF18.2mlを加え、水素化トリ−t−ブトキシアルミニウムリチウム(東京化成工業製、1.1mol/l、THF溶液)3.6ml(3.96mmol)を加え、室温で1.5時間還元反応を行った。得られた6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシル−9,10−ジヒドロキシ−9,10−ジヒドロアントラセン(一般式(3)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン誘導体)を含む反応混合物に6M塩酸水溶液11mlを加え、65℃で3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントロン及び7−ブロモ−6−ヨード−2,3−ジドデシルアントロン(一般式(4)で示されるアントロン誘導体)を主生成物として含む固体1.17gを得た。
【0123】
得られた6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントロン及び7−ブロモ−6−ヨード−2,3−ジドデシルアントロンを主生成物として含む固体1.17gにTHF18.2mlを加え、水素化トリ−t−ブトキシアルミニウムリチウム(東京化成工業製、1.1mol/l、THF溶液)3.6ml(3.96mmol)を加え、室温で1.5時間還元反応を行った。次いで6M塩酸水溶液11mlを加え、3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラセンの黄色固体を851mg(1.18mmol)得た。(収率76.3%)。
【0124】
還元剤として水素化置換アルミニウム化合物を用いたため、ハロゲンの脱離が起こらずハロゲン化アントラセンが得られた。
【0125】
比較例1(水素化アルミニウムリチウムを用いた6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラセンの合成)
合成例6で合成した6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラキノン105mg(0.14mmol)を窒素ガスで置換した50mlのシュレンク管に入れた。次いでTHF4.0mlを加え、水素化アルミニウムリチウム(和光純薬工業製)13mg(0.34mmol)を加え、66℃で30分間還元反応を行った。反応混合物に6M塩酸水溶液2mlを加え、65℃で3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥し固体91mgを得た。この固体に4.0mlを加え、水素化アルミニウムリチウム(和光純薬工業製)13mg(0.34mmol)を加え、66℃で30分間還元反応を行った。反応混合物に6M塩酸水溶液2mlを加え、65℃で3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥し固体89mgを得た。生成物を分析したところ、ハロゲンが脱離したアントラセン誘導体が多量に生成しており、目的の6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラセンは得られなかった。
【0126】
還元剤として水素化無置換アルミニウム化合物である水素化アルミニウムリチウムを用いたため、ハロゲンの脱離が起こり、ハロゲン化アントラセンが得られなかった。
【0127】
比較例2(水素化ホウ素ナトリウムを用いた6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラセンの合成)
文献「ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー」、(米国)、1974年、39巻、770−774頁に従って水素化ホウ素ナトリウムによる6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラキノンの還元を実施した。
【0128】
合成例6で合成した6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラキノン105mg(0.14mmol)を窒素ガスで置換した50mlのシュレンク管に入れた。次いでメタノール4.0mlを加え5℃に冷却した。次いで水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業製)13mg(0.34mmol)を30分かけて加え、5℃で3時間還元反応を行った。反応混合物に6M塩酸水溶液2mlを加え、65℃で3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥し固体94mgを得た。この固体にイソプロパノール4.0mlを加え5℃に冷却した。次いで水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬工業製)13mg(0.34mmol)を30分かけて加え、5℃で3時間還元反応を行った。反応混合物に6M塩酸水溶液2mlを加え、65℃で3時間脱水反応を行った。反応混合物を室温まで冷やし、ジエチルエーテルで抽出した。エーテル溶液を飽和食塩水で洗浄して硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧乾燥した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン)で精製し、6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラセンの黄色固体を15mg(0.02mmol)得た。(収率15.0%)。その他の生成物にヨウ素及び/又は臭素のハロゲンが脱離した生成物(72mg)を確認した。
【0129】
還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いたため、ハロゲンの脱離が起こり、ハロゲン化アントラセンが得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】合成例2で合成した2,3−ジブロモアントラキノンのH NMRスペクトル
【図2】合成例3で合成した4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸のH NMRスペクトル
【図3】合成例4で合成した1,2−ジドデシルベンゼンのH NMRスペクトル
【図4】合成例6で合成した6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラキノンのH NMRスペクトル
【図5】実施例1で合成した2,3−ジブロモアントラセンのH NMRスペクトル
【図6】実施例2で合成した6−ブロモ−7−ヨード−2,3−ジドデシルアントラセンのH NMRスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法であり、下記一般式(2)で示されるハロゲン化アントラキノン誘導体を、水素化置換アルミニウム化合物、水素化置換スズ化合物、ケイ素化合物らなる群より選ばれる還元剤を用いた還元及び脱水により、ハロゲン化アントラセンを合成することを特徴とする一般式(1)で示されるハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法。
【化1】

(式中、置換基Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表し、Xは水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表しR〜Rは同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数4〜30のアリール基、炭素数2〜20のアルキニル基、又は炭素数2〜30のアルケニル基を示す。なお、R〜Rの内、任意の二以上のものは互いに結合することができる。)
【化2】

(ここで、置換基X〜X及びR〜Rは一般式(1)で示される置換基と同意義を示す。)
【請求項2】
還元剤が水素化置換アルミニウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法。
【請求項3】
還元剤、が水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化トリ−t−ブチルアルミニウムリチウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法。
【請求項4】
〜R及びRが水素原子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法。
【請求項5】
〜R及びRが水素原子、R及びRが水素原子、フッ素原子、炭素数1〜20のアルキル基からなる群より選ばれる基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法。
【請求項6】
〜Rが水素原子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法。
【請求項7】
及びXが臭素原子またはヨウ素原子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のハロゲン化アントラセン誘導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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