ハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質の選択的検出用化学センサー及びこれらの選択的検出法
【課題】 ハロゲン化炭化水素及びカビ臭物質(汚染物質)用化学センサーとして使用できるシクロデキストリン誘導体(CD)、及び、当該CD誘導体で汚染物質を選択的に検出する方法の提供。
【解決手段】 汚染物質含有水を一定のpHにし、センサーとして次の(I)〜(V)からなるCD誘導体を添加して紫外線を照射し、特定の波長での蛍光強度を測定し汚染を検出・特定する。使用するCD誘導体は、(I)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βCD、(II)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βCD、(III)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−γCD、(IV)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−γCD、(V)3−デオキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−αCDである。
【解決手段】 汚染物質含有水を一定のpHにし、センサーとして次の(I)〜(V)からなるCD誘導体を添加して紫外線を照射し、特定の波長での蛍光強度を測定し汚染を検出・特定する。使用するCD誘導体は、(I)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βCD、(II)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βCD、(III)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−γCD、(IV)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−γCD、(V)3−デオキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−αCDである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化炭化水素及びカビ臭物質の検出用化学センサーとして好適に使用し得る、新規シクロデキストリン誘導体に関し、また、これにより、ハロメタン等ハロゲン化炭化水素やカビ臭物質等の汚染物質を選択的に検出する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、食の安全を脅かす事件が頻発し、異臭等がする食品を食した消費者が体調の不良を訴え、病院に担ぎこまれて手当を受ける事件が、マスコミによりしばしば報道されており、消費者の食品の安全性に対する関心、心配、また要求はかってないほどに高まっている。
【0003】
さらにまた、人間にとって、最も基礎的な食品であり、生命を維持するのに死活的に重要な水(飲料水)に対する消費者のニーズは高く、安全な水であることはもちろん、美味しい水を飲みたい、という要求は極めて高くなっている。国産ものばかりでなく、高価な輸入ブランドのミネラルウォータの市場が年々拡大しているのは、このことを意味している一つの証左と言える。
【0004】
しかして、この飲料水を各家庭に毎日供給する水道システムにおいては、日本全国の各自治体に設けられている浄水場が重要な役割を有している。
浄水場は、地下水、河川より原水を取入れこれを処理して水道水として各家庭に供給しているが、その品質を維持することは、近年必ずしも容易では無くなっている。一つは、処理不十分な汚染物質を含む工場排水が河川に流入する機会の増加していることや、また、工場内の敷地から有毒な化学物質が地中に滲出し、地下水脈に混入し、地下水を汚染する機会も増えているためである。
【0005】
各浄水場は、常時取り入れた原水や浄水の水質をモニターしており、もし汚染物質が検出された場合は、取水を停止するか、あるいは薬剤添加や活性炭投与等の手段によりそれらを除去するという安全管理体制をとっている。
【0006】
しかしながら、問題となっているハロメタン等ハロゲン化炭化水素(以下、ハロメタン等という場合がある。)やカビ臭物質等の分析は、現在、ガスクロマトグラフ−マススペクトル(ガスマス)法により行っているが、一つの検水につき1時間も要している。また、ハロメタン等とカビ臭物質の分析条件が異なっているため、一台のガスマスで同時に分析することが不可能である。さらに、ガスマスは高価である上に、メンテナンスコストも高いので、各浄水場に設置することは実際的ではなく、分析センターに設置し、幾つかの浄水場から送られた検水をまとめて分析する方法をとっている。
【0007】
従って、検水のサンプリングから分析及びその分析結果に基づく処置との間に大きな時間遅れを伴ってしまうので、水道水を配給する前に異常を検出することが事実上できないため、浄水場では常に必要以上に吸着剤(活性炭等)を投与しており、過剰なコストがかかっている。このように、水道事業においては、ハロメタン等及びカビ臭物質の汚染を迅速に検出できる分析法が大いに必要とされている。
【0008】
これに対し、本出願人らは、先に、シクロデキストリンの一級水酸基側に蛍光色素を結合させた誘導体が、汚染物質の分子を包接した後にすぐ当該汚染物質に応じた蛍光を発することを見出した。また、これらの誘導体を利用することによって、当該汚染物質を短時間で分析できる可能性を見出した(特許文献1−3を参照)。しかしながら、ハロメタンとカビ臭物質が同時汚染した場合及びハロメタン同士が同時汚染した場合、完全な特定に至ってない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−80207号公報(特許請求の範囲、〔0004〕〜〔0022〕)
【特許文献2】特開2001−131204公報(特許請求の範囲、〔0008〕〜〔0056〕)
【特許文献3】特開2005−290066公報(特許請求の範囲、〔0050〕〜〔0074〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ハロゲン化炭化水素及びカビ臭物質を高感度で選択的に検出できる化学センサーとして好適に使用し得る二級水酸基側にナフトール単位を導入した新規シクロデキストリン誘導体を提供し、また、これにより、ハロメタン等やカビ臭物質等の汚染物質を迅速かつ選択的に検出する方法を提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、当該分子センサーを使用することにより浄水場等における原水の監視機能の向上、充実、浄化工程の管理、さらにはこのような原水の監視機能の強化により迅速な処置を行うこと等を可能にする飲料水提供システムにおけるモニタリングデバイスを提案することであり、及び家庭用浄水器に適用した場合はそのカートリッジの交換時期が検知できるデバイスを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、シクロデキストリン(以下「CD」ということがある。)誘導体のセンサーとしての感度と選択性を向上させる目的で、空洞サイズの異なるCDの二級水酸基側に、蛍光性単位としてナフトールの導入について検討し、また、ナフトール単位に含まれる水酸基の解離状態とセンシング特性の調節(変化)についても検討を重ねた結果、当該構造を有する二級水酸基側にナフトール修飾したCDが水中に存在するハロメタンとカビ臭物質、またはハロメタン同士を選択的に認識し得ることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
〔1〕本発明によれば、以下の微量の溶存ハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質を汚染物質として含む水より、当該汚染物質を選択的に検出する方法が提供される。すなわち、
水中に含まれる微量の汚染物質であるハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質を選択的に検出する方法であって、
1.センサーとして下記の(I)〜(V)からなるシクロデキストリン誘導体のグループを準備する工程、
(I)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(II)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(III)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(IV)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(V)3−デオキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−αシクロデキストリン
2.当該汚染物質含有水をpH緩衝剤により一定のpHに調整し、検水iを得る工程、
3.当該検水iに(I)〜(V)の少なくとも一種を添加し、検水iiを得る工程、及び
4.当該検水iiに紫外線を照射して当該汚染物質に応じた蛍光を発生させる工程、
を含む汚染物質の検出方法、が提供される。
【0014】
〔2〕また、本発明によれば、〔1〕に記載の(I)〜(V)からなるシクロデキストリン誘導体の少なくとも一種からなる水中のハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質の検出用化学センサーが提供される。
【0015】
〔3〕また、本発明によれば、化学センサーに好適に使用し得る、〔1〕に記載の(I)〜(V)から選択される少なくとも一種であるシクロデキストリン誘導体が提供される。
【発明の効果】
【0016】
以下に詳述するように、本発明によれば、ハロゲン化炭化水素及びカビ臭物質用化学センサーとして好適に使用できる、二級水酸基側にナフトール単位を導入した新規CD誘導体が提供され、当該新規なCD誘導体を化学センサーとして使用することにより、ハロメタン等やカビ臭物質等を汚染物質として含有する水から、これらを迅速かつ選択的に検出する方法を提供できる。特に、当該CD誘導体のグループを使用することにより、分析のハイスループット化ができ、浄水場等における水質監視機能の向上、充実、水浄化工程の管理、モニタリングシステムの確立などに役立つことが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】CD(I)にジクロロメタンを添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図2】CD(I)にクロロホルムを添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図3】CD(I)に四塩化炭素を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図4】CD(I)に2−メチルイソボルネオールを添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図5】CD(I)にジェオスミンを添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図6】CD(II)に四塩化炭素を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図7】CD(III)に2−メチルイソボルネオールを添加した場合のpH6.5での蛍光スペクトルである。
【図8】CD(III)にジェオスミンを添加した場合のpH6.5での蛍光スペクトルである。
【図9】CD(V)にジクロロメタンを添加した場合のpH9.7での蛍光スペクトルである。
【図10】CD(I)のpH6.5の水溶液にハロメタンの添加に伴う455nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図11】CD(I)のpH9.7の水溶液にハロメタンの添加に伴う455nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図12】CD(II)のpH9.7の水溶液に四塩化炭素の添加に伴う500nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図13】CD(III)のpH6.5の水溶液にカビ臭物質の添加に伴う505nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図14】CD(IV)のpH6.5の水溶液にカビ臭物質の添加に伴う520nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図15】CD(V)のpH9.7の水溶液にジクロロメタンの添加に伴う435nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図16】本発明のCD(I)〜CD(V)による系統的な検出フローの概略図である。
【図17】本発明の方法を実施するユニットを組み込んだ水質監視システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
(新規CD誘導体)
本発明においては、二級水酸基側にナフトール単位を導入した新規CD誘導体をハロゲン化炭化水素やカビ臭物質等の汚染物質の検出用化学センサーとして使用することを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明においては、当該化学センサーとして、以下の(I)〜(V)からなるCD誘導体のグループを使用するものであり、これらは、
(I) 3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(II)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(III)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(IV)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(V)3−デオキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−αシクロデキストリンの5種類である。
念のため、上記(I)〜(V)を構造式として示すと以下のとおりである。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
【化5】
【0025】
これら(I)〜(V)は、αCD(D−グルコース数=6、空洞内径=0.5nm)、βCD(D−グルコース数=7、空洞内径=0.7nm)、γCD(D−グルコース数=8、空洞内径=0.9nm)の二級水酸基側(すなわち、広い開口側)に、特定の蛍光性物質であるナフトールを導入した蛍光性を有するものであることを特徴とする新規化合物である。
【0026】
この二級水酸基側にナフトール修飾したCD誘導体は、後記詳述するように、本発明者らが特許文献2において、先に提案した先行センサーである、一級水酸基側にナフトール修飾したCD誘導体(位置異性体)より、ストックシフトが10〜20nm長く、水に存在するハロメタン等のハロゲン化炭化水素とカビ臭物質に対して、異なる蛍光挙動を示し、高選択性及び高感度を有することを特徴としている。
【0027】
(当該CD誘導体の合成)
本発明における(I)〜(V)は、〔化6〕に示す合成スキームによって合成することができる。
【0028】
【化6】
【0029】
以下、この合成スキームに従って説明する。
((I)の合成)
1.3−アミノβCD0.5gをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)10mLに溶解し、6−オキシ−2−ナフトエ酸0.09g、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)0.12g及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)0.07gを加え、0℃で2時間反応させた後、室温で24時間反応させた。(なお、出発物質の3−アミノβCDは試薬として市販されており、容易に入手可能である。(以下の3−アミノCDについても同様。))
2.反応終了後、当該反応液にアセトンを加えて再沈し、沈殿物を回収・乾燥し、粗生成物を得た。その後逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した(カラム:C18;移動相:メタノール/H2O(4−45%)、検出波長:300nm、流速:3mL/分))。このようにして、精製物として、(I)の黄色の固体0.4gを得た。
【0030】
((II)の合成)
6−オキシ−2−ナフトエ酸0.09gを3−オキシ−2−ナフトエ酸0.09gに替えた以外、(I)の合成と同様にして反応及び精製を行い、(II)の白色の個体0.4gを得た。
【0031】
((III)の合成)
1.3−アミノγCD0.5gをDMF10mLに溶解し、3−オキシ−2−ナフトエ酸0.08g、DCC0.15g及びHOBt0.08gを加え、0℃で2時間反応させた後、室温で50時間反応させた。
2.反応終了後、(I)の合成と同様にして精製を行い、(III)の薄茶色の固体0.6gを得た。
【0032】
((IV)の合成)
3−オキシ−2−ナフトエ酸0.08gを6−オキシ−1−ナフトエ酸0.08gに替えた以外、(III)の合成と同様にして反応及び精製を行い、(IV)の黄色の個体0.4gを得た。
【0033】
((V)の合成)
1.3−アミノαCD0.5gをDMF10mLに溶解し、2−オキシ−1−ナフトエ酸0.11g、DCC0.14g及びHOBt0.1gを加え、0℃で2時間反応させた後、室温で50時間反応させた。
2.反応終了後、(I)の合成と同様にして精製を行い、(V)の白色の固体0.12gを得た。
【0034】
((I)〜(V)の確認方法)
(a)TLC
メルク社のTLCプレート(シリカゲル60F254層厚0.25mm)と展開溶媒(1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3)を用いて行った。
【0035】
蛍光色素であるナフトール単位は、展開したTLCプレートにUVランプの光を当て、発光(蛍光)スポットを肉眼で確認した。シクロデキストリン部分は、アニス試薬(10%濃硫酸エタノール溶液:アニスアルデヒドエタノール溶液=1:1)をプレートに吹き付け、ヒートガンで加熱して、紫色のスポットにより確認した。(I)〜(V)はそれぞれ一つのスポットで、発光と紫色の両方を確認できるものである。スポットの移動距離を展開溶媒の移動距離で割ったものをRf値とした。
【0036】
(b)MS
島津製作所製のMALDI III−TOF質量分析器により行った。
【0037】
(c)1H−NMR
VarianVXR−500S FT−NMRにより行った。
合成したCD誘導体(I)〜(V)の物性値を表1にまとめて示す。
【0038】
【表1】
【0039】
(対象汚染物質)
本発明においては、すでに述べたように、浄水場における水質の管理上特に問題となる水中に溶存する微量なハロメタン等及びカビ臭物質を対象としている。
ハロメタン等としては、下記に示すジクロロメタン(1)、クロロホルム(2)、四塩化炭素(3)等が挙げられる。
【0040】
このうち、ジクロロメタンと四塩化炭素は、主にメッキ工業などの排水に含有され、地下水の汚染や浄水場に取り入れられる原水の汚染に関与するものである。
また、クロロホルムは、フミン質を含む原水を浄化する過程で、殺菌用に塩素を投与する際に生成される代表的な副産物である。
なお、ハロメタンは、発ガン性があるかもしれない物質(国際ガン研究機関)であるため、水道水(飲料水)の水質基準項目に定められ、厳しく制限されているものである。
【0041】
【化7】
【0042】
【化8】
【0043】
【化9】
【0044】
また、水道の異臭味の原因物質であるカビ臭物質として、下記のような、2−メチルイソボルネオール(4)と、ジェオスミン(5)が挙げられる。これらの物質は、不快な味を付けるため、飲料水の水質基準項目にも定められ、厳しく制限されているものである。
【0045】
【化10】
【0046】
【化11】
【0047】
(CD誘導体の蛍光スペクトルの測定)
本発明においては、汚染物質含有水をpH緩衝剤により一定のpHに調整し、検水iを得るものであるが、好ましくは、測定pH領域としては、ナフトールの水酸基が非解離状態の領域と、解離状態の領域との二つの領域に調整して検水iとすることが望ましい。非解離状態領域としては、pH範囲が好ましくは4〜7、より好ましくは5〜7、最も好ましくは6.5であり、解離状態領域としては、pH範囲が好ましくは7.5〜11、より好ましくは8〜10、最も好ましくは9.7である。以下、CD誘導体の蛍光スペクトルの測定は、この最も好ましいpHにおいて実施する。
【0048】
すなわち、本発明におけるCD誘導体は、これを、最も好ましいpH6.5とpH9.7の緩衝液に溶解し、紫外線を照射すると特有の蛍光を発する。また、当該CD誘導体の水溶液に、例えば(1)〜(5)で表わされる汚染物質を種々の濃度で添加した場合、各pHにおいて蛍光挙動が異なる。この変化のデータに基づいて、CD(I)〜CD(V)の汚染物質のセンシング特性を把握することができる。すなわち、後記実施例に示すように、このデータを基本として、水に溶存する汚染物質の特定及びそれぞれの濃度を求めることができる。
【0049】
CD誘導体(I)〜(V)(以下、それぞれをCD(I)、CD(II)、・・・という。)の各pHにおける汚染物質非存在時と存在時の蛍光スペクトルの測定結果を、以下に挙げる。なお、各CD誘導体は、1×10-4MとなるようにpH6.5の緩衝液(クエン酸−ホウ酸−リン酸三ナトリウム)またはpH9.7の緩衝液(炭酸ナトリウム−炭酸水素ナトリウム)に溶解し、25℃下で測定した。
【0050】
1.CD(I)にジクロロメタン(1)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(I)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジクロロメタン(CH2Cl2)を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は306nmとした。結果を図1(a)に示す。
(イ)CD(I)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジクロロメタンを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は315nmとした。結果を図1(b)に示す。
【0051】
図1(a)〜(b)より、ジクロロメタン濃度の増加とともにCD(I)の蛍光強度はpH6.5下で顕著に増大するのに対して、pH9.7下では全く変化しないというパターンを示すことがわかる。
【0052】
2.CD(I)にクロロホルム(2)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(I)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにクロロホルム(CHCl3)を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は301nmとした。結果を図2(a)に示す。
(イ)CD(I)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにクロロホルムを添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は315nmとした。結果を図2(b)に示す。
【0053】
図2(a)〜(b)より、クロロホルム濃度の増加とともにCD(I)の蛍光強度はpH6.5下で増大するのに対して、pH9.7下では逆に大幅に減少するという特異なパターンを示すことがわかる。
【0054】
3.CD(I)に四塩化炭素(3)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(I)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに四塩化炭素(CCl4)を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は299nmとした。結果を図3(a)に示す。
(イ)CD(I)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに四塩化炭素を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は320nmとした。結果を図3(b)に示す。
【0055】
図3(a)〜(b)より、四塩化炭素濃度の増加とともにCD(I)の蛍光強度は、どちらのpHにおいても減少するというパターンを示すことがわかる。また、pH9.7下で減少がより顕著であることもわかる。
【0056】
4.CD(I)に2−メチルイソボルネオール(4)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(I)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに2−メチルイソボルネオール(2−MIB)を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は299nmとした。結果を図4(a)に示す。
(イ)CD(I)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに2−メチルイソボルネオールを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は315nmとした。結果を図4(b)に示す。
【0057】
図4(a)〜(b)より、カビ臭物質である2−メチルイソボルネオール濃度の増加とともにCD(I)の蛍光強度はpH6.5下で僅かな増大が見られるものの、pH9.7下ではほとんど変化しないことがわかる。
従って、2−メチルイソボルネオールは、CD(I)による当該ハロメタン等の検出に影響を与えないと予想される。
【0058】
5.CD(I)にジェオスミン(5)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(I)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジェオスミン(Geo)を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は285nmとした。結果を図5(a)に示す。
(イ)CD(I)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジェオスミンを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は315nmとした。結果を図5(b)に示す。
【0059】
図5(a)〜(b)より、2−MIBと同様に、ジェオスミン濃度の増加とともにCD(I)の蛍光強度はpH6.5下で僅かな増大が見られるものの、pH9.7下ではほとんど変化しないことがわかる。
この結果によって、ジェオスミンも、CD(I)による当該ハロメタン等の検出に影響を与えないと予想される。
すなわち、CD(I)の特徴は、カビ臭物質の影響を受けず、pHの変化によって当該ハロメタンの種類を見分けられることである。
このようにして、CD(I)は、カビ臭物質が混在する場合に、単独で当該ハロメタン等の検出用センサーとして利用できる。
【0060】
6.CD(II)に四塩化炭素(3)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(II)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに四塩化炭素を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は337nmとした。結果を図6(a)に示す。
(イ)CD(II)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに四塩化炭素を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は372nmとした。結果を図6(b)に示す。
【0061】
図6(a)〜(b)より、四塩化炭素濃度の増加とともに、CD(II)の蛍光強度はどちらのpHにおいても顕著に減少することがわかる。
CD(II)の特徴は、pH9.7で四塩化炭素のみを検出できることである。
従って、CD(II)により、ジクロロメタン、クロロホルム及びカビ臭物質が混在する場合に、四塩化炭素を選択的に検出用センサーとして利用できる。
なお、四塩化炭素以外の汚染物質を添加したところ、蛍光スペクトルの変化はほとんど見られなかったため記載を省略した(以下同じ。)。
【0062】
7.CD(III)に2−メチルイソボルネオール(4)又はジェオスミン(5)を添加した場合のpH6.5における蛍光スペクトル
(ア)CD(III)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに2−メチルイソボルネオールを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は348nmとした。結果を図7に示す。
(イ)CD(III)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジェオスミンを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は348nmとした。結果を図8に示す。
【0063】
図7〜8より、2−メチルイソボルネオール濃度又はジェオスミン濃度の増加とともに、CD(III)の蛍光強度はpH6.5下で増大するが、ジェオスミンの場合、より著しく増大することがわかる。
CD(III)の特徴は、pH6.5でジクロロメタン、クロロホルム及び四塩化炭素にほとんど反応せず、カビ臭物質、特に、ジェオスミンに感度良く反応することである。
従って、CD(III)は、当該ハロメタンが混在する場合でも、当該カビ臭物質、特にジェオスミンの検出用センサーとして利用できる。
【0064】
8.CD(IV)に2−メチルイソボルネオール(4)又はジェオスミン(5)を添加した場合のpH6.5における蛍光スペクトル
(ア)CD(IV)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに2−メチルイソボルネオールを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は320nmとした。
そのスペクトルは、CD(III)の結果を示す図7に比べ、蛍光強度が弱いものの、類似していたため記載を省略した。
(イ)CD(IV)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジェオスミンを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は315nmとした。
そのスペクトルは、CD(III)の結果を示す図8に比べ、蛍光強度が弱いものの、類似していたため記載を省略した。
【0065】
9.CD(V)にジクロロメタン(1)を添加した場合のpH9.7における蛍光スペクトル
CD(V)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジクロロメタンを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は299nmとした。結果を図9に示す。
【0066】
図9より、ジクロロメタン濃度の増加とともにCD(V)の蛍光強度はpH9.7下で顕著に増大することがわかる。
CD(V)の特徴は、pH9.7でジクロロメタンのみを検出できることである。
従って、CD(V)は、他の汚染物質が混在する場合でも、ジクロロメタンの選択的に検出用センサーとして利用できる。
【0067】
以上1.〜9.をふまえれば、本発明によって、水中に含まれる微量の汚染物質であるハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質を選択的に検出する一般的な方法が提供されることが理解される。すなわち、当該方法は、
まず、センサーとしてCD(I)〜CD(V)からなるシクロデキストリン誘導体のグループを準備する工程を行い、
つぎに、当該汚染物質含有水を、pH緩衝剤により、例えば上記したようなpH6.5や9.7のような特定のpHに調整することにより、検水iを得る工程を行い、
さらに当該検水iに、CD(I)〜CD(V)の少なくとも一種を添加することにより、検水iiを得る工程を行い、さらに
当該検水iiに、紫外線を照射して当該汚染物質に応じた特有の蛍光を発生させる工程、を含む汚染物質の検出方法である。
【0068】
このようにして、CD(I)〜CD(V)の水溶液に、ハロメタン等汚染物質を添加した場合、上記1.〜9.で詳述したように、pH6.5や9.7等の各pHにおいて、蛍光挙動が異なるので、このデータに基づいて、CD(I)〜CD(V)の汚染物質のセンシング特性を把握することができるのである。すなわち、後記実施例に示すように、このデータを基本として、水に溶存する汚染物質の特定及びそれぞれの濃度を求めることができる。
【0069】
なお、念のため、その他の下記一般式で表されるCD誘導体は、上記したCD(I)〜CD(V)に次いで、汚染物質に対してはある程度の検出能を持つものであることを本発明者は見いだしており、化学センサーとしての候補化合物になりうるものと考えている。
【0070】
【化12】
【0071】
(作用及び考察)
本発明において、CD(I)〜CD(V)を化学センサーとして使用することにより、以上のような汚染物質を選択的に分析するという効果を奏することができるのは、以下の理由にあると推測される。すなわち、
ひとつは、CDの二級水酸基の一つがアミノ化されることにより、対称性の空洞に歪みが生じ、中へ取り込む汚染物質に対して形状要求が厳しくなり、選択性の高いCD誘導体が導出(創出)されたものと思われる。
【0072】
また、二つめは、CD空洞サイズの違いにより汚染物質にメッシュ違いの分子篩を掛けることができ、それぞれのターゲット汚染物質に対して形状だけではなく、サイズも絞っており、高選択性かつ高感度のCD誘導体が導出されたと思われる。
【0073】
三つめは、pHを調整することによって、ナフトールの解離状態を変化させ、ナフタレン環とCD空洞の自己包接状態をより有利に調整ができるので、なお一層の高感度が実現できたものと考えられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕(CD(I))
CD(I)を1×10-4MとなるようにpH6.5の緩衝液に溶解し、これに各種ハロメタンを種々の濃度で添加し、455nmでの蛍光強度を測定した。
結果を図10に示す。図において、縦軸の蛍光強度差ΔIは、I−I0を表す。I0は汚染物質非存在(無添加)時の455nmにおける蛍光強度であり、Iは汚染物質存在(添加)時の同波長における蛍光強度である。ΔIが正数の場合は、汚染物質の濃度の増加に伴い蛍光強度が増加することを意味し、ΔIが負数の場合は、逆に汚染物質の濃度の増加に伴い蛍光強度が減少することを意味する。このようにして、このデータを基本として、水に溶存する汚染物質の特定及びそれぞれの濃度を求めることができる。
【0075】
図10は、pH6.5下でCD(I)の蛍光強度差ΔIが、ハロメタンの濃度と高い相関を保ちながら、ジクロロメタンの添加により急激に増加すること、クロロホルムの添加により緩やかに増加すること、および四塩化炭素の添加により緩やかに減少することを、それぞれ示している。その検出感度は、先行センサーと比較して、ジクロロメタンに対して約40倍、クロロホルムに対して約12倍、四塩化炭素に対して約4倍高くなっている。
【0076】
〔実施例2〕(CD(I))
CD(I)を1×10-4MとなるようにpH9.7の緩衝液に溶解し、その他は実施例1と同じ条件で測定を行った。その結果を図11に示す。
図11は、pH9.7下でCD(I)の蛍光強度差ΔIが、ハロメタンの濃度と高い相関を保ちながら、pH6.5の場合(実施例1)とは異なった結果を示している。
【0077】
すなわち、ΔIは、ジクロロメタンの添加によりほとんど変化しないが、クロロホルムの添加により緩やかに減少し、四塩化炭素の添加により急激に減少することを示している。その検出感度は、先行センサーと比較して、クロロホルムに対して約12倍、四塩化炭素に対して約1.8倍高くなっている。
実施例1と実施例2は、当該ハロメタンが汚染した検水の場合、CD(I)のpHによるΔIの変化パターンを利用して、それぞれを特定し、感度良く検出できることを示唆している。
【0078】
〔実施例3〕(CD(II))
CD(II)を1×10-4MとなるようにpH9.7の緩衝液に溶解し、これに四塩化炭素を種々の濃度で添加し、500nmでの蛍光強度を測定した。結果を図12に示す。
【0079】
図12は、pH9.7下でCD(II)の蛍光強度差ΔIが四塩化炭素の濃度と高い相関を保ちながら、四塩化炭素のみの添加により減少することを示している。その検出感度は、先行センサーと比較してやや低いが、選択性が極めて高いという特徴を持っている。
実施例3は、他のハロメタンやカビ臭物質が混在している検水の場合、CD(II)を用いて四塩化炭素を選択的に検出できることを示唆している。
【0080】
〔実施例4〕(CD(III))
CD(III)を1×10-4MとなるようにpH6.5の緩衝液に溶解し、これにカビ臭物質を種々の濃度で添加し、505nmでの蛍光強度を測定した。結果を図13に示す。
【0081】
図13は、pH6.5下でCD(III)の蛍光強度差ΔIが2−メチルイソボルネオール濃度又はジェオスミン濃度と高い相関を保ちながら、各々の添加によりいずれも大幅に増加するが、特にジェオスミンの添加により増加が激しいことを示している。その検出感度は、先行センサーと比較して、2−メチルイソボルネオールに対して約1.4倍、ジェオスミンに対して約4.5倍高くなっている。
【0082】
〔実施例5〕(CD(IV))
CD(IV)を1×10-4MとなるようにpH6.5の緩衝液に溶解し、これに二種類のカビ臭物質を種々の濃度で添加し、520nmでの蛍光強度を測定した。結果を図14に示す。
【0083】
図14は、pH6.5下でCD(IV)の蛍光強度差ΔIが2−メチルイソボルネオール濃度又はジェオスミン濃度と高い相関を保ちながら、各々の添加によりいずれも増加するが、特にジェオスミンの添加により増加が激しいことを示している。その検出感度は、先行センサーと比較して、2−メチルイソボルネオールに対して低くなったが、ジェオスミンに対してはやや高くなっている。
実施例4と実施例5は、カビ臭物質、特にジェオスミンが汚染した検水の場合、CD(III)とCD(IV)を用いて検出できることを示唆している。
【0084】
〔実施例6〕(CD(V))
CD(V)を1×10-4MとなるようにpH9.7の緩衝液に溶解し、これにジクロロメタンを種々の濃度で添加し、435nmでの蛍光強度を測定した。結果を図15に示す。
【0085】
図15は、pH9.7下でCD(V)の蛍光強度差ΔIがジクロロメタン濃度と高い相関を保ちながら、ジクロロメタンの添加により増加することを示している。その検出感度は先行センサーと比較して約10倍高くなっている。
実施例6は、他の汚染物質が混在した検水の場合、CD(V)を用いてジクロロメタンを選択的に検出できることを示唆している。
【0086】
(本発明による汚染物質の検出・特定)
以上、実施例1〜実施例6の結果を総合すれば、CD(I)〜CD(V)を組み合わせてセンサーとして使用することにより、水中に溶存(混在)するハロメタン及びカビ臭物質からなる汚染物質の特定及びこれらを選択的に検出(定量)することができ、さらには水質監視システムを構成することができる。
【0087】
図16は、このシステムに含まれる系統的な検出フローの概略図を示すものである。以下、図に基づいて説明する。
検出の対象とする汚染物質としては、図の上部に示したように、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素からなるハロメタンと、2−メチルイソボルネオール、ジェオスミンからなるカビ臭物質を想定する。検水中には、少なくともこのうちの一種類が存在しており、場合によっては、当該五種類の汚染物質のすべてが混在している。
【0088】
なお、これらの汚染物質は、分子の大きさ及び形状の違いを分かり易くするため、CPKモデルで立体的に表示してある。ΔIが大きく変化する場合、汚染物質の分子サイズ(形状)とCD誘導体の空洞サイズ(形状)との適合性が高いと考えられる。
【0089】
(a)検水中にジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素が混在する場合は、CD(I)をメインの検出センサーとして使用する。
検水をpH6.5及びpH9.7にして、CD(I)を用いてΔIを測定し、当該ΔIの変化パターンに基づいて、当該三種類のハロメタンを特定することができる。
【0090】
すなわち、pH6.5とpH9.7の条件下で、CD(I)のΔIが、正とゼロのパターンが出た場合は、ジクロロメタン汚染と、正と負のパターンが出た場合は、クロロホルム汚染と、および、負と負のパターンが出た場合は、四塩化炭素汚染が発生していると、それぞれのハロメタンを特定し、判断することができる。
【0091】
(b)検水中にジクロロメタンまたは四塩化炭素のみが存在する場合及び(a)の検出精度を高めるためには、CD(V)とCD(II)をセンサーとして使用する。
検水をpH9.7にして、CD(V)とCD(II)を用いてΔIを測定する。CD(V)のΔIが正になった場合、ジクロロメタン汚染と、また、CD(II)のΔIが負になった場合、四塩化炭素汚染が発生していると、それぞれ判断できる。
【0092】
なお、βCD誘導体であるCD(I)、CD(II)及びαCD誘導体であるCD(V)にとって、カビ臭物質の分子サイズが大きいため、それらのβCDとαCDの空洞に入りにくいことは明確であり、混在してもハロメタンの検出に影響を与えないと考えられる。
【0093】
(c)検水中にカビ臭物質が存在する場合は、CD(III)を検出センサーとして使用する。
検水をpH6.5にして、CD(III)を用いてΔIを測定する。ΔIが正になった場合、カビ臭物質汚染が発生していると判断できる。
【0094】
(d)検水中にカビ臭物質と四塩化炭素が混在する場合は、CD(IV)をセンサーとして使用する。
検水をpH6.5にして、CD(IV)を用いてΔIを測定する。CD(IV)は四塩化炭素から受ける影響がCD(III)より小さいため、ΔIが正になった場合、より高い精度でカビ臭物質汚染が発生していると判断できる。
【0095】
CD(III)とCD(IV)に共通して言えることは、カビ臭物質のどちらか一方の割合が他方に比べて圧倒的に大きい場合は、同定だけでなく定量も可能であるということである。
なお、γCD誘導体であるCD(III)及びCD(IV)にとって、ハロメタンの分子サイズが小さいため、それらのγCDの空洞と相互作用が起きにくいことは明白であり、混在してもカビ臭物質の検出にほとんど影響を与えないと考えられる。
【0096】
(e)以上(a)〜(d)により、検水中の当該汚染物質の汚染が判断された場合、各汚染物質の濃度とΔIの相関を示す図10〜15を参照することにより、その濃度を容易に算出できる。
【0097】
(本発明の応用−水質監視システム)
図17は、本発明の方法を実施するユニットを組み込んだ水質監視システムの模式図を示すものである。
【0098】
(AA)は、蛍光発生検出ユニットであって、当該ユニットにおいて、測定対象の汚染物質を含む検水SとCD誘導体からなるセンサーA、B、C(数は限定しない)とを混合すると、蛍光が発生し汚染物質が検出される。
【0099】
(a)図においてセンサーA、B、C、・・・は、CD(I)、CD(II)、CD(III)、・・・を含む特定のpH(例えばpH6.5及びpH9.7)にした水溶液である。最初に、このセンサー溶液は専用のプレート(例えば96ウェルプレート(凹部を碁盤目に形成したプレート))のウェルに分注される。
【0100】
(b)次に、汚染物質を含む検水Sが、(a)のセンサー溶液が入っているウェルへ分注される。
【0101】
(c)分注された検水Sとセンサー溶液A、B、C、・・・は、ミキシングされた後、蛍光発生ユニット(AA)により測定される。
蛍光発生検出ユニット(AA)で得られたデータは、演算・表示ユニットである(BB)に出力され、処理されて、ΔIが算出される。その結果は、表示手段(CC)に示される。
【0102】
ここで、(ア)は三種類のハロメタンと二種類のカビ臭物質がそれぞれ溶存する検水の測定データ表示画面の一例である。また、(イ)のように、これを一目で把握し易いように、カラーで表示することもできる。この場合、それらの内容を直感的に把握し易いように、汚染度に応じた色で表示することができる。さらに、(BB)により警告音を同時に発するように構成することもできる。
【0103】
なお、この蛍光発生検出ユニット(AA)は、例えば各浄水場の運転管理室に設置して、そこでリアルタイムにサンプル分析を行い、その結果に基づく運転管理を行うことができるが、さらに好ましくは、その結果がリアルタイムに、公衆データ通信網やインターネット等を通じて、中央制御ユニット(DD)に送信され、遠方から水質監視やデータ解析などを行うことができることである。たとえば、異常が検出された場合は、中央制御ユニット(DD)では、スタッフが現場から離れても、当該浄水場に対し、速やかに適切な運転の指示を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、ハロゲン化炭化水素及びカビ臭物質用化学センサーとして好適に使用できる、二級水酸基側にナフトール単位を導入した新規CD誘導体が提供され、当該新規なCD誘導体を化学センサーとして使用することにより、ハロメタン等やカビ臭物質等を汚染物質として含有する水から、これらを高感度で、迅速かつ選択的に検出・特定する方法を提供できる。
【0105】
このようにしてこれらを化学センサーとして使用することにより、分析のハイスループット化ができ、浄水場等における水質監視機能の向上、充実、水浄化工程の管理、モニタリングシステムの確立などに役立つことが期待できる。また、家庭用浄水器に適用した場合のカートリッジの交換時期の検知、さらには安全な食品製造にも利用可能であるため、その産業上の利用可能性はきわめて大きい。
【符号の説明】
【0106】
AA 蛍光発生・検出ユニット
BB 演算・表示ユニット
CC 表示手段
DD 中央制御ユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化炭化水素及びカビ臭物質の検出用化学センサーとして好適に使用し得る、新規シクロデキストリン誘導体に関し、また、これにより、ハロメタン等ハロゲン化炭化水素やカビ臭物質等の汚染物質を選択的に検出する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、食の安全を脅かす事件が頻発し、異臭等がする食品を食した消費者が体調の不良を訴え、病院に担ぎこまれて手当を受ける事件が、マスコミによりしばしば報道されており、消費者の食品の安全性に対する関心、心配、また要求はかってないほどに高まっている。
【0003】
さらにまた、人間にとって、最も基礎的な食品であり、生命を維持するのに死活的に重要な水(飲料水)に対する消費者のニーズは高く、安全な水であることはもちろん、美味しい水を飲みたい、という要求は極めて高くなっている。国産ものばかりでなく、高価な輸入ブランドのミネラルウォータの市場が年々拡大しているのは、このことを意味している一つの証左と言える。
【0004】
しかして、この飲料水を各家庭に毎日供給する水道システムにおいては、日本全国の各自治体に設けられている浄水場が重要な役割を有している。
浄水場は、地下水、河川より原水を取入れこれを処理して水道水として各家庭に供給しているが、その品質を維持することは、近年必ずしも容易では無くなっている。一つは、処理不十分な汚染物質を含む工場排水が河川に流入する機会の増加していることや、また、工場内の敷地から有毒な化学物質が地中に滲出し、地下水脈に混入し、地下水を汚染する機会も増えているためである。
【0005】
各浄水場は、常時取り入れた原水や浄水の水質をモニターしており、もし汚染物質が検出された場合は、取水を停止するか、あるいは薬剤添加や活性炭投与等の手段によりそれらを除去するという安全管理体制をとっている。
【0006】
しかしながら、問題となっているハロメタン等ハロゲン化炭化水素(以下、ハロメタン等という場合がある。)やカビ臭物質等の分析は、現在、ガスクロマトグラフ−マススペクトル(ガスマス)法により行っているが、一つの検水につき1時間も要している。また、ハロメタン等とカビ臭物質の分析条件が異なっているため、一台のガスマスで同時に分析することが不可能である。さらに、ガスマスは高価である上に、メンテナンスコストも高いので、各浄水場に設置することは実際的ではなく、分析センターに設置し、幾つかの浄水場から送られた検水をまとめて分析する方法をとっている。
【0007】
従って、検水のサンプリングから分析及びその分析結果に基づく処置との間に大きな時間遅れを伴ってしまうので、水道水を配給する前に異常を検出することが事実上できないため、浄水場では常に必要以上に吸着剤(活性炭等)を投与しており、過剰なコストがかかっている。このように、水道事業においては、ハロメタン等及びカビ臭物質の汚染を迅速に検出できる分析法が大いに必要とされている。
【0008】
これに対し、本出願人らは、先に、シクロデキストリンの一級水酸基側に蛍光色素を結合させた誘導体が、汚染物質の分子を包接した後にすぐ当該汚染物質に応じた蛍光を発することを見出した。また、これらの誘導体を利用することによって、当該汚染物質を短時間で分析できる可能性を見出した(特許文献1−3を参照)。しかしながら、ハロメタンとカビ臭物質が同時汚染した場合及びハロメタン同士が同時汚染した場合、完全な特定に至ってない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−80207号公報(特許請求の範囲、〔0004〕〜〔0022〕)
【特許文献2】特開2001−131204公報(特許請求の範囲、〔0008〕〜〔0056〕)
【特許文献3】特開2005−290066公報(特許請求の範囲、〔0050〕〜〔0074〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ハロゲン化炭化水素及びカビ臭物質を高感度で選択的に検出できる化学センサーとして好適に使用し得る二級水酸基側にナフトール単位を導入した新規シクロデキストリン誘導体を提供し、また、これにより、ハロメタン等やカビ臭物質等の汚染物質を迅速かつ選択的に検出する方法を提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、当該分子センサーを使用することにより浄水場等における原水の監視機能の向上、充実、浄化工程の管理、さらにはこのような原水の監視機能の強化により迅速な処置を行うこと等を可能にする飲料水提供システムにおけるモニタリングデバイスを提案することであり、及び家庭用浄水器に適用した場合はそのカートリッジの交換時期が検知できるデバイスを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、シクロデキストリン(以下「CD」ということがある。)誘導体のセンサーとしての感度と選択性を向上させる目的で、空洞サイズの異なるCDの二級水酸基側に、蛍光性単位としてナフトールの導入について検討し、また、ナフトール単位に含まれる水酸基の解離状態とセンシング特性の調節(変化)についても検討を重ねた結果、当該構造を有する二級水酸基側にナフトール修飾したCDが水中に存在するハロメタンとカビ臭物質、またはハロメタン同士を選択的に認識し得ることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
〔1〕本発明によれば、以下の微量の溶存ハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質を汚染物質として含む水より、当該汚染物質を選択的に検出する方法が提供される。すなわち、
水中に含まれる微量の汚染物質であるハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質を選択的に検出する方法であって、
1.センサーとして下記の(I)〜(V)からなるシクロデキストリン誘導体のグループを準備する工程、
(I)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(II)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(III)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(IV)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(V)3−デオキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−αシクロデキストリン
2.当該汚染物質含有水をpH緩衝剤により一定のpHに調整し、検水iを得る工程、
3.当該検水iに(I)〜(V)の少なくとも一種を添加し、検水iiを得る工程、及び
4.当該検水iiに紫外線を照射して当該汚染物質に応じた蛍光を発生させる工程、
を含む汚染物質の検出方法、が提供される。
【0014】
〔2〕また、本発明によれば、〔1〕に記載の(I)〜(V)からなるシクロデキストリン誘導体の少なくとも一種からなる水中のハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質の検出用化学センサーが提供される。
【0015】
〔3〕また、本発明によれば、化学センサーに好適に使用し得る、〔1〕に記載の(I)〜(V)から選択される少なくとも一種であるシクロデキストリン誘導体が提供される。
【発明の効果】
【0016】
以下に詳述するように、本発明によれば、ハロゲン化炭化水素及びカビ臭物質用化学センサーとして好適に使用できる、二級水酸基側にナフトール単位を導入した新規CD誘導体が提供され、当該新規なCD誘導体を化学センサーとして使用することにより、ハロメタン等やカビ臭物質等を汚染物質として含有する水から、これらを迅速かつ選択的に検出する方法を提供できる。特に、当該CD誘導体のグループを使用することにより、分析のハイスループット化ができ、浄水場等における水質監視機能の向上、充実、水浄化工程の管理、モニタリングシステムの確立などに役立つことが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】CD(I)にジクロロメタンを添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図2】CD(I)にクロロホルムを添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図3】CD(I)に四塩化炭素を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図4】CD(I)に2−メチルイソボルネオールを添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図5】CD(I)にジェオスミンを添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図6】CD(II)に四塩化炭素を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトルである。
【図7】CD(III)に2−メチルイソボルネオールを添加した場合のpH6.5での蛍光スペクトルである。
【図8】CD(III)にジェオスミンを添加した場合のpH6.5での蛍光スペクトルである。
【図9】CD(V)にジクロロメタンを添加した場合のpH9.7での蛍光スペクトルである。
【図10】CD(I)のpH6.5の水溶液にハロメタンの添加に伴う455nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図11】CD(I)のpH9.7の水溶液にハロメタンの添加に伴う455nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図12】CD(II)のpH9.7の水溶液に四塩化炭素の添加に伴う500nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図13】CD(III)のpH6.5の水溶液にカビ臭物質の添加に伴う505nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図14】CD(IV)のpH6.5の水溶液にカビ臭物質の添加に伴う520nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図15】CD(V)のpH9.7の水溶液にジクロロメタンの添加に伴う435nmにおける蛍光強度の変化を示す図である。
【図16】本発明のCD(I)〜CD(V)による系統的な検出フローの概略図である。
【図17】本発明の方法を実施するユニットを組み込んだ水質監視システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
(新規CD誘導体)
本発明においては、二級水酸基側にナフトール単位を導入した新規CD誘導体をハロゲン化炭化水素やカビ臭物質等の汚染物質の検出用化学センサーとして使用することを特徴とする。
【0019】
すなわち、本発明においては、当該化学センサーとして、以下の(I)〜(V)からなるCD誘導体のグループを使用するものであり、これらは、
(I) 3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(II)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(III)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(IV)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(V)3−デオキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−αシクロデキストリンの5種類である。
念のため、上記(I)〜(V)を構造式として示すと以下のとおりである。
【0020】
【化1】
【0021】
【化2】
【0022】
【化3】
【0023】
【化4】
【0024】
【化5】
【0025】
これら(I)〜(V)は、αCD(D−グルコース数=6、空洞内径=0.5nm)、βCD(D−グルコース数=7、空洞内径=0.7nm)、γCD(D−グルコース数=8、空洞内径=0.9nm)の二級水酸基側(すなわち、広い開口側)に、特定の蛍光性物質であるナフトールを導入した蛍光性を有するものであることを特徴とする新規化合物である。
【0026】
この二級水酸基側にナフトール修飾したCD誘導体は、後記詳述するように、本発明者らが特許文献2において、先に提案した先行センサーである、一級水酸基側にナフトール修飾したCD誘導体(位置異性体)より、ストックシフトが10〜20nm長く、水に存在するハロメタン等のハロゲン化炭化水素とカビ臭物質に対して、異なる蛍光挙動を示し、高選択性及び高感度を有することを特徴としている。
【0027】
(当該CD誘導体の合成)
本発明における(I)〜(V)は、〔化6〕に示す合成スキームによって合成することができる。
【0028】
【化6】
【0029】
以下、この合成スキームに従って説明する。
((I)の合成)
1.3−アミノβCD0.5gをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)10mLに溶解し、6−オキシ−2−ナフトエ酸0.09g、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)0.12g及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)0.07gを加え、0℃で2時間反応させた後、室温で24時間反応させた。(なお、出発物質の3−アミノβCDは試薬として市販されており、容易に入手可能である。(以下の3−アミノCDについても同様。))
2.反応終了後、当該反応液にアセトンを加えて再沈し、沈殿物を回収・乾燥し、粗生成物を得た。その後逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した(カラム:C18;移動相:メタノール/H2O(4−45%)、検出波長:300nm、流速:3mL/分))。このようにして、精製物として、(I)の黄色の固体0.4gを得た。
【0030】
((II)の合成)
6−オキシ−2−ナフトエ酸0.09gを3−オキシ−2−ナフトエ酸0.09gに替えた以外、(I)の合成と同様にして反応及び精製を行い、(II)の白色の個体0.4gを得た。
【0031】
((III)の合成)
1.3−アミノγCD0.5gをDMF10mLに溶解し、3−オキシ−2−ナフトエ酸0.08g、DCC0.15g及びHOBt0.08gを加え、0℃で2時間反応させた後、室温で50時間反応させた。
2.反応終了後、(I)の合成と同様にして精製を行い、(III)の薄茶色の固体0.6gを得た。
【0032】
((IV)の合成)
3−オキシ−2−ナフトエ酸0.08gを6−オキシ−1−ナフトエ酸0.08gに替えた以外、(III)の合成と同様にして反応及び精製を行い、(IV)の黄色の個体0.4gを得た。
【0033】
((V)の合成)
1.3−アミノαCD0.5gをDMF10mLに溶解し、2−オキシ−1−ナフトエ酸0.11g、DCC0.14g及びHOBt0.1gを加え、0℃で2時間反応させた後、室温で50時間反応させた。
2.反応終了後、(I)の合成と同様にして精製を行い、(V)の白色の固体0.12gを得た。
【0034】
((I)〜(V)の確認方法)
(a)TLC
メルク社のTLCプレート(シリカゲル60F254層厚0.25mm)と展開溶媒(1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3)を用いて行った。
【0035】
蛍光色素であるナフトール単位は、展開したTLCプレートにUVランプの光を当て、発光(蛍光)スポットを肉眼で確認した。シクロデキストリン部分は、アニス試薬(10%濃硫酸エタノール溶液:アニスアルデヒドエタノール溶液=1:1)をプレートに吹き付け、ヒートガンで加熱して、紫色のスポットにより確認した。(I)〜(V)はそれぞれ一つのスポットで、発光と紫色の両方を確認できるものである。スポットの移動距離を展開溶媒の移動距離で割ったものをRf値とした。
【0036】
(b)MS
島津製作所製のMALDI III−TOF質量分析器により行った。
【0037】
(c)1H−NMR
VarianVXR−500S FT−NMRにより行った。
合成したCD誘導体(I)〜(V)の物性値を表1にまとめて示す。
【0038】
【表1】
【0039】
(対象汚染物質)
本発明においては、すでに述べたように、浄水場における水質の管理上特に問題となる水中に溶存する微量なハロメタン等及びカビ臭物質を対象としている。
ハロメタン等としては、下記に示すジクロロメタン(1)、クロロホルム(2)、四塩化炭素(3)等が挙げられる。
【0040】
このうち、ジクロロメタンと四塩化炭素は、主にメッキ工業などの排水に含有され、地下水の汚染や浄水場に取り入れられる原水の汚染に関与するものである。
また、クロロホルムは、フミン質を含む原水を浄化する過程で、殺菌用に塩素を投与する際に生成される代表的な副産物である。
なお、ハロメタンは、発ガン性があるかもしれない物質(国際ガン研究機関)であるため、水道水(飲料水)の水質基準項目に定められ、厳しく制限されているものである。
【0041】
【化7】
【0042】
【化8】
【0043】
【化9】
【0044】
また、水道の異臭味の原因物質であるカビ臭物質として、下記のような、2−メチルイソボルネオール(4)と、ジェオスミン(5)が挙げられる。これらの物質は、不快な味を付けるため、飲料水の水質基準項目にも定められ、厳しく制限されているものである。
【0045】
【化10】
【0046】
【化11】
【0047】
(CD誘導体の蛍光スペクトルの測定)
本発明においては、汚染物質含有水をpH緩衝剤により一定のpHに調整し、検水iを得るものであるが、好ましくは、測定pH領域としては、ナフトールの水酸基が非解離状態の領域と、解離状態の領域との二つの領域に調整して検水iとすることが望ましい。非解離状態領域としては、pH範囲が好ましくは4〜7、より好ましくは5〜7、最も好ましくは6.5であり、解離状態領域としては、pH範囲が好ましくは7.5〜11、より好ましくは8〜10、最も好ましくは9.7である。以下、CD誘導体の蛍光スペクトルの測定は、この最も好ましいpHにおいて実施する。
【0048】
すなわち、本発明におけるCD誘導体は、これを、最も好ましいpH6.5とpH9.7の緩衝液に溶解し、紫外線を照射すると特有の蛍光を発する。また、当該CD誘導体の水溶液に、例えば(1)〜(5)で表わされる汚染物質を種々の濃度で添加した場合、各pHにおいて蛍光挙動が異なる。この変化のデータに基づいて、CD(I)〜CD(V)の汚染物質のセンシング特性を把握することができる。すなわち、後記実施例に示すように、このデータを基本として、水に溶存する汚染物質の特定及びそれぞれの濃度を求めることができる。
【0049】
CD誘導体(I)〜(V)(以下、それぞれをCD(I)、CD(II)、・・・という。)の各pHにおける汚染物質非存在時と存在時の蛍光スペクトルの測定結果を、以下に挙げる。なお、各CD誘導体は、1×10-4MとなるようにpH6.5の緩衝液(クエン酸−ホウ酸−リン酸三ナトリウム)またはpH9.7の緩衝液(炭酸ナトリウム−炭酸水素ナトリウム)に溶解し、25℃下で測定した。
【0050】
1.CD(I)にジクロロメタン(1)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(I)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジクロロメタン(CH2Cl2)を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は306nmとした。結果を図1(a)に示す。
(イ)CD(I)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジクロロメタンを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は315nmとした。結果を図1(b)に示す。
【0051】
図1(a)〜(b)より、ジクロロメタン濃度の増加とともにCD(I)の蛍光強度はpH6.5下で顕著に増大するのに対して、pH9.7下では全く変化しないというパターンを示すことがわかる。
【0052】
2.CD(I)にクロロホルム(2)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(I)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにクロロホルム(CHCl3)を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は301nmとした。結果を図2(a)に示す。
(イ)CD(I)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにクロロホルムを添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は315nmとした。結果を図2(b)に示す。
【0053】
図2(a)〜(b)より、クロロホルム濃度の増加とともにCD(I)の蛍光強度はpH6.5下で増大するのに対して、pH9.7下では逆に大幅に減少するという特異なパターンを示すことがわかる。
【0054】
3.CD(I)に四塩化炭素(3)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(I)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに四塩化炭素(CCl4)を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は299nmとした。結果を図3(a)に示す。
(イ)CD(I)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに四塩化炭素を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は320nmとした。結果を図3(b)に示す。
【0055】
図3(a)〜(b)より、四塩化炭素濃度の増加とともにCD(I)の蛍光強度は、どちらのpHにおいても減少するというパターンを示すことがわかる。また、pH9.7下で減少がより顕著であることもわかる。
【0056】
4.CD(I)に2−メチルイソボルネオール(4)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(I)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに2−メチルイソボルネオール(2−MIB)を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は299nmとした。結果を図4(a)に示す。
(イ)CD(I)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに2−メチルイソボルネオールを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は315nmとした。結果を図4(b)に示す。
【0057】
図4(a)〜(b)より、カビ臭物質である2−メチルイソボルネオール濃度の増加とともにCD(I)の蛍光強度はpH6.5下で僅かな増大が見られるものの、pH9.7下ではほとんど変化しないことがわかる。
従って、2−メチルイソボルネオールは、CD(I)による当該ハロメタン等の検出に影響を与えないと予想される。
【0058】
5.CD(I)にジェオスミン(5)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(I)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジェオスミン(Geo)を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は285nmとした。結果を図5(a)に示す。
(イ)CD(I)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジェオスミンを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は315nmとした。結果を図5(b)に示す。
【0059】
図5(a)〜(b)より、2−MIBと同様に、ジェオスミン濃度の増加とともにCD(I)の蛍光強度はpH6.5下で僅かな増大が見られるものの、pH9.7下ではほとんど変化しないことがわかる。
この結果によって、ジェオスミンも、CD(I)による当該ハロメタン等の検出に影響を与えないと予想される。
すなわち、CD(I)の特徴は、カビ臭物質の影響を受けず、pHの変化によって当該ハロメタンの種類を見分けられることである。
このようにして、CD(I)は、カビ臭物質が混在する場合に、単独で当該ハロメタン等の検出用センサーとして利用できる。
【0060】
6.CD(II)に四塩化炭素(3)を添加した場合の各pHでの蛍光スペクトル
(ア)CD(II)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに四塩化炭素を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は337nmとした。結果を図6(a)に示す。
(イ)CD(II)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに四塩化炭素を種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は372nmとした。結果を図6(b)に示す。
【0061】
図6(a)〜(b)より、四塩化炭素濃度の増加とともに、CD(II)の蛍光強度はどちらのpHにおいても顕著に減少することがわかる。
CD(II)の特徴は、pH9.7で四塩化炭素のみを検出できることである。
従って、CD(II)により、ジクロロメタン、クロロホルム及びカビ臭物質が混在する場合に、四塩化炭素を選択的に検出用センサーとして利用できる。
なお、四塩化炭素以外の汚染物質を添加したところ、蛍光スペクトルの変化はほとんど見られなかったため記載を省略した(以下同じ。)。
【0062】
7.CD(III)に2−メチルイソボルネオール(4)又はジェオスミン(5)を添加した場合のpH6.5における蛍光スペクトル
(ア)CD(III)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに2−メチルイソボルネオールを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は348nmとした。結果を図7に示す。
(イ)CD(III)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジェオスミンを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は348nmとした。結果を図8に示す。
【0063】
図7〜8より、2−メチルイソボルネオール濃度又はジェオスミン濃度の増加とともに、CD(III)の蛍光強度はpH6.5下で増大するが、ジェオスミンの場合、より著しく増大することがわかる。
CD(III)の特徴は、pH6.5でジクロロメタン、クロロホルム及び四塩化炭素にほとんど反応せず、カビ臭物質、特に、ジェオスミンに感度良く反応することである。
従って、CD(III)は、当該ハロメタンが混在する場合でも、当該カビ臭物質、特にジェオスミンの検出用センサーとして利用できる。
【0064】
8.CD(IV)に2−メチルイソボルネオール(4)又はジェオスミン(5)を添加した場合のpH6.5における蛍光スペクトル
(ア)CD(IV)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれに2−メチルイソボルネオールを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は320nmとした。
そのスペクトルは、CD(III)の結果を示す図7に比べ、蛍光強度が弱いものの、類似していたため記載を省略した。
(イ)CD(IV)のpH6.5とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジェオスミンを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は315nmとした。
そのスペクトルは、CD(III)の結果を示す図8に比べ、蛍光強度が弱いものの、類似していたため記載を省略した。
【0065】
9.CD(V)にジクロロメタン(1)を添加した場合のpH9.7における蛍光スペクトル
CD(V)のpH9.7とした水溶液の蛍光スペクトル、及びこれにジクロロメタンを種々の濃度で添加した場合の蛍光スペクトルを測定した。励起波長(λex)は299nmとした。結果を図9に示す。
【0066】
図9より、ジクロロメタン濃度の増加とともにCD(V)の蛍光強度はpH9.7下で顕著に増大することがわかる。
CD(V)の特徴は、pH9.7でジクロロメタンのみを検出できることである。
従って、CD(V)は、他の汚染物質が混在する場合でも、ジクロロメタンの選択的に検出用センサーとして利用できる。
【0067】
以上1.〜9.をふまえれば、本発明によって、水中に含まれる微量の汚染物質であるハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質を選択的に検出する一般的な方法が提供されることが理解される。すなわち、当該方法は、
まず、センサーとしてCD(I)〜CD(V)からなるシクロデキストリン誘導体のグループを準備する工程を行い、
つぎに、当該汚染物質含有水を、pH緩衝剤により、例えば上記したようなpH6.5や9.7のような特定のpHに調整することにより、検水iを得る工程を行い、
さらに当該検水iに、CD(I)〜CD(V)の少なくとも一種を添加することにより、検水iiを得る工程を行い、さらに
当該検水iiに、紫外線を照射して当該汚染物質に応じた特有の蛍光を発生させる工程、を含む汚染物質の検出方法である。
【0068】
このようにして、CD(I)〜CD(V)の水溶液に、ハロメタン等汚染物質を添加した場合、上記1.〜9.で詳述したように、pH6.5や9.7等の各pHにおいて、蛍光挙動が異なるので、このデータに基づいて、CD(I)〜CD(V)の汚染物質のセンシング特性を把握することができるのである。すなわち、後記実施例に示すように、このデータを基本として、水に溶存する汚染物質の特定及びそれぞれの濃度を求めることができる。
【0069】
なお、念のため、その他の下記一般式で表されるCD誘導体は、上記したCD(I)〜CD(V)に次いで、汚染物質に対してはある程度の検出能を持つものであることを本発明者は見いだしており、化学センサーとしての候補化合物になりうるものと考えている。
【0070】
【化12】
【0071】
(作用及び考察)
本発明において、CD(I)〜CD(V)を化学センサーとして使用することにより、以上のような汚染物質を選択的に分析するという効果を奏することができるのは、以下の理由にあると推測される。すなわち、
ひとつは、CDの二級水酸基の一つがアミノ化されることにより、対称性の空洞に歪みが生じ、中へ取り込む汚染物質に対して形状要求が厳しくなり、選択性の高いCD誘導体が導出(創出)されたものと思われる。
【0072】
また、二つめは、CD空洞サイズの違いにより汚染物質にメッシュ違いの分子篩を掛けることができ、それぞれのターゲット汚染物質に対して形状だけではなく、サイズも絞っており、高選択性かつ高感度のCD誘導体が導出されたと思われる。
【0073】
三つめは、pHを調整することによって、ナフトールの解離状態を変化させ、ナフタレン環とCD空洞の自己包接状態をより有利に調整ができるので、なお一層の高感度が実現できたものと考えられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕(CD(I))
CD(I)を1×10-4MとなるようにpH6.5の緩衝液に溶解し、これに各種ハロメタンを種々の濃度で添加し、455nmでの蛍光強度を測定した。
結果を図10に示す。図において、縦軸の蛍光強度差ΔIは、I−I0を表す。I0は汚染物質非存在(無添加)時の455nmにおける蛍光強度であり、Iは汚染物質存在(添加)時の同波長における蛍光強度である。ΔIが正数の場合は、汚染物質の濃度の増加に伴い蛍光強度が増加することを意味し、ΔIが負数の場合は、逆に汚染物質の濃度の増加に伴い蛍光強度が減少することを意味する。このようにして、このデータを基本として、水に溶存する汚染物質の特定及びそれぞれの濃度を求めることができる。
【0075】
図10は、pH6.5下でCD(I)の蛍光強度差ΔIが、ハロメタンの濃度と高い相関を保ちながら、ジクロロメタンの添加により急激に増加すること、クロロホルムの添加により緩やかに増加すること、および四塩化炭素の添加により緩やかに減少することを、それぞれ示している。その検出感度は、先行センサーと比較して、ジクロロメタンに対して約40倍、クロロホルムに対して約12倍、四塩化炭素に対して約4倍高くなっている。
【0076】
〔実施例2〕(CD(I))
CD(I)を1×10-4MとなるようにpH9.7の緩衝液に溶解し、その他は実施例1と同じ条件で測定を行った。その結果を図11に示す。
図11は、pH9.7下でCD(I)の蛍光強度差ΔIが、ハロメタンの濃度と高い相関を保ちながら、pH6.5の場合(実施例1)とは異なった結果を示している。
【0077】
すなわち、ΔIは、ジクロロメタンの添加によりほとんど変化しないが、クロロホルムの添加により緩やかに減少し、四塩化炭素の添加により急激に減少することを示している。その検出感度は、先行センサーと比較して、クロロホルムに対して約12倍、四塩化炭素に対して約1.8倍高くなっている。
実施例1と実施例2は、当該ハロメタンが汚染した検水の場合、CD(I)のpHによるΔIの変化パターンを利用して、それぞれを特定し、感度良く検出できることを示唆している。
【0078】
〔実施例3〕(CD(II))
CD(II)を1×10-4MとなるようにpH9.7の緩衝液に溶解し、これに四塩化炭素を種々の濃度で添加し、500nmでの蛍光強度を測定した。結果を図12に示す。
【0079】
図12は、pH9.7下でCD(II)の蛍光強度差ΔIが四塩化炭素の濃度と高い相関を保ちながら、四塩化炭素のみの添加により減少することを示している。その検出感度は、先行センサーと比較してやや低いが、選択性が極めて高いという特徴を持っている。
実施例3は、他のハロメタンやカビ臭物質が混在している検水の場合、CD(II)を用いて四塩化炭素を選択的に検出できることを示唆している。
【0080】
〔実施例4〕(CD(III))
CD(III)を1×10-4MとなるようにpH6.5の緩衝液に溶解し、これにカビ臭物質を種々の濃度で添加し、505nmでの蛍光強度を測定した。結果を図13に示す。
【0081】
図13は、pH6.5下でCD(III)の蛍光強度差ΔIが2−メチルイソボルネオール濃度又はジェオスミン濃度と高い相関を保ちながら、各々の添加によりいずれも大幅に増加するが、特にジェオスミンの添加により増加が激しいことを示している。その検出感度は、先行センサーと比較して、2−メチルイソボルネオールに対して約1.4倍、ジェオスミンに対して約4.5倍高くなっている。
【0082】
〔実施例5〕(CD(IV))
CD(IV)を1×10-4MとなるようにpH6.5の緩衝液に溶解し、これに二種類のカビ臭物質を種々の濃度で添加し、520nmでの蛍光強度を測定した。結果を図14に示す。
【0083】
図14は、pH6.5下でCD(IV)の蛍光強度差ΔIが2−メチルイソボルネオール濃度又はジェオスミン濃度と高い相関を保ちながら、各々の添加によりいずれも増加するが、特にジェオスミンの添加により増加が激しいことを示している。その検出感度は、先行センサーと比較して、2−メチルイソボルネオールに対して低くなったが、ジェオスミンに対してはやや高くなっている。
実施例4と実施例5は、カビ臭物質、特にジェオスミンが汚染した検水の場合、CD(III)とCD(IV)を用いて検出できることを示唆している。
【0084】
〔実施例6〕(CD(V))
CD(V)を1×10-4MとなるようにpH9.7の緩衝液に溶解し、これにジクロロメタンを種々の濃度で添加し、435nmでの蛍光強度を測定した。結果を図15に示す。
【0085】
図15は、pH9.7下でCD(V)の蛍光強度差ΔIがジクロロメタン濃度と高い相関を保ちながら、ジクロロメタンの添加により増加することを示している。その検出感度は先行センサーと比較して約10倍高くなっている。
実施例6は、他の汚染物質が混在した検水の場合、CD(V)を用いてジクロロメタンを選択的に検出できることを示唆している。
【0086】
(本発明による汚染物質の検出・特定)
以上、実施例1〜実施例6の結果を総合すれば、CD(I)〜CD(V)を組み合わせてセンサーとして使用することにより、水中に溶存(混在)するハロメタン及びカビ臭物質からなる汚染物質の特定及びこれらを選択的に検出(定量)することができ、さらには水質監視システムを構成することができる。
【0087】
図16は、このシステムに含まれる系統的な検出フローの概略図を示すものである。以下、図に基づいて説明する。
検出の対象とする汚染物質としては、図の上部に示したように、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素からなるハロメタンと、2−メチルイソボルネオール、ジェオスミンからなるカビ臭物質を想定する。検水中には、少なくともこのうちの一種類が存在しており、場合によっては、当該五種類の汚染物質のすべてが混在している。
【0088】
なお、これらの汚染物質は、分子の大きさ及び形状の違いを分かり易くするため、CPKモデルで立体的に表示してある。ΔIが大きく変化する場合、汚染物質の分子サイズ(形状)とCD誘導体の空洞サイズ(形状)との適合性が高いと考えられる。
【0089】
(a)検水中にジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素が混在する場合は、CD(I)をメインの検出センサーとして使用する。
検水をpH6.5及びpH9.7にして、CD(I)を用いてΔIを測定し、当該ΔIの変化パターンに基づいて、当該三種類のハロメタンを特定することができる。
【0090】
すなわち、pH6.5とpH9.7の条件下で、CD(I)のΔIが、正とゼロのパターンが出た場合は、ジクロロメタン汚染と、正と負のパターンが出た場合は、クロロホルム汚染と、および、負と負のパターンが出た場合は、四塩化炭素汚染が発生していると、それぞれのハロメタンを特定し、判断することができる。
【0091】
(b)検水中にジクロロメタンまたは四塩化炭素のみが存在する場合及び(a)の検出精度を高めるためには、CD(V)とCD(II)をセンサーとして使用する。
検水をpH9.7にして、CD(V)とCD(II)を用いてΔIを測定する。CD(V)のΔIが正になった場合、ジクロロメタン汚染と、また、CD(II)のΔIが負になった場合、四塩化炭素汚染が発生していると、それぞれ判断できる。
【0092】
なお、βCD誘導体であるCD(I)、CD(II)及びαCD誘導体であるCD(V)にとって、カビ臭物質の分子サイズが大きいため、それらのβCDとαCDの空洞に入りにくいことは明確であり、混在してもハロメタンの検出に影響を与えないと考えられる。
【0093】
(c)検水中にカビ臭物質が存在する場合は、CD(III)を検出センサーとして使用する。
検水をpH6.5にして、CD(III)を用いてΔIを測定する。ΔIが正になった場合、カビ臭物質汚染が発生していると判断できる。
【0094】
(d)検水中にカビ臭物質と四塩化炭素が混在する場合は、CD(IV)をセンサーとして使用する。
検水をpH6.5にして、CD(IV)を用いてΔIを測定する。CD(IV)は四塩化炭素から受ける影響がCD(III)より小さいため、ΔIが正になった場合、より高い精度でカビ臭物質汚染が発生していると判断できる。
【0095】
CD(III)とCD(IV)に共通して言えることは、カビ臭物質のどちらか一方の割合が他方に比べて圧倒的に大きい場合は、同定だけでなく定量も可能であるということである。
なお、γCD誘導体であるCD(III)及びCD(IV)にとって、ハロメタンの分子サイズが小さいため、それらのγCDの空洞と相互作用が起きにくいことは明白であり、混在してもカビ臭物質の検出にほとんど影響を与えないと考えられる。
【0096】
(e)以上(a)〜(d)により、検水中の当該汚染物質の汚染が判断された場合、各汚染物質の濃度とΔIの相関を示す図10〜15を参照することにより、その濃度を容易に算出できる。
【0097】
(本発明の応用−水質監視システム)
図17は、本発明の方法を実施するユニットを組み込んだ水質監視システムの模式図を示すものである。
【0098】
(AA)は、蛍光発生検出ユニットであって、当該ユニットにおいて、測定対象の汚染物質を含む検水SとCD誘導体からなるセンサーA、B、C(数は限定しない)とを混合すると、蛍光が発生し汚染物質が検出される。
【0099】
(a)図においてセンサーA、B、C、・・・は、CD(I)、CD(II)、CD(III)、・・・を含む特定のpH(例えばpH6.5及びpH9.7)にした水溶液である。最初に、このセンサー溶液は専用のプレート(例えば96ウェルプレート(凹部を碁盤目に形成したプレート))のウェルに分注される。
【0100】
(b)次に、汚染物質を含む検水Sが、(a)のセンサー溶液が入っているウェルへ分注される。
【0101】
(c)分注された検水Sとセンサー溶液A、B、C、・・・は、ミキシングされた後、蛍光発生ユニット(AA)により測定される。
蛍光発生検出ユニット(AA)で得られたデータは、演算・表示ユニットである(BB)に出力され、処理されて、ΔIが算出される。その結果は、表示手段(CC)に示される。
【0102】
ここで、(ア)は三種類のハロメタンと二種類のカビ臭物質がそれぞれ溶存する検水の測定データ表示画面の一例である。また、(イ)のように、これを一目で把握し易いように、カラーで表示することもできる。この場合、それらの内容を直感的に把握し易いように、汚染度に応じた色で表示することができる。さらに、(BB)により警告音を同時に発するように構成することもできる。
【0103】
なお、この蛍光発生検出ユニット(AA)は、例えば各浄水場の運転管理室に設置して、そこでリアルタイムにサンプル分析を行い、その結果に基づく運転管理を行うことができるが、さらに好ましくは、その結果がリアルタイムに、公衆データ通信網やインターネット等を通じて、中央制御ユニット(DD)に送信され、遠方から水質監視やデータ解析などを行うことができることである。たとえば、異常が検出された場合は、中央制御ユニット(DD)では、スタッフが現場から離れても、当該浄水場に対し、速やかに適切な運転の指示を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、ハロゲン化炭化水素及びカビ臭物質用化学センサーとして好適に使用できる、二級水酸基側にナフトール単位を導入した新規CD誘導体が提供され、当該新規なCD誘導体を化学センサーとして使用することにより、ハロメタン等やカビ臭物質等を汚染物質として含有する水から、これらを高感度で、迅速かつ選択的に検出・特定する方法を提供できる。
【0105】
このようにしてこれらを化学センサーとして使用することにより、分析のハイスループット化ができ、浄水場等における水質監視機能の向上、充実、水浄化工程の管理、モニタリングシステムの確立などに役立つことが期待できる。また、家庭用浄水器に適用した場合のカートリッジの交換時期の検知、さらには安全な食品製造にも利用可能であるため、その産業上の利用可能性はきわめて大きい。
【符号の説明】
【0106】
AA 蛍光発生・検出ユニット
BB 演算・表示ユニット
CC 表示手段
DD 中央制御ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に含まれる微量の汚染物質であるハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質を選択的に検出する方法であって、
1.センサーとして下記の(I)〜(V)からなるシクロデキストリン誘導体のグループを準備する工程、
(I)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(II)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(III)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(IV)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(V)3−デオキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−αシクロデキストリン
2.当該汚染物質含有水をpH緩衝剤により一定のpHに調整し、験水iを得る工程、
3.当該検水iに(I)〜(V)の少なくとも一種を添加し、験水iiを得る工程、及び
4.当該検水iiに紫外線を照射して当該汚染物質に応じた蛍光を発生させる工程、
を含む汚染物質の検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の(I)〜(V)からなるシクロデキストリン誘導体の少なくとも一種からなる水中のハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質の検出用化学センサー。
【請求項3】
化学センサーに好適に使用し得る、請求項1に記載の(I)〜(V)から選択される少なくとも一種であるシクロデキストリン誘導体。
【請求項1】
水中に含まれる微量の汚染物質であるハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質を選択的に検出する方法であって、
1.センサーとして下記の(I)〜(V)からなるシクロデキストリン誘導体のグループを準備する工程、
(I)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(II)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−βシクロデキストリン
(III)3−デオキシ−3−(3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(IV)3−デオキシ−3−(6−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−γシクロデキストリン
(V)3−デオキシ−3−(2−ヒドロキシ−1−ナフトアミド)−αシクロデキストリン
2.当該汚染物質含有水をpH緩衝剤により一定のpHに調整し、験水iを得る工程、
3.当該検水iに(I)〜(V)の少なくとも一種を添加し、験水iiを得る工程、及び
4.当該検水iiに紫外線を照射して当該汚染物質に応じた蛍光を発生させる工程、
を含む汚染物質の検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の(I)〜(V)からなるシクロデキストリン誘導体の少なくとも一種からなる水中のハロゲン化炭化水素及び/又はカビ臭物質の検出用化学センサー。
【請求項3】
化学センサーに好適に使用し得る、請求項1に記載の(I)〜(V)から選択される少なくとも一種であるシクロデキストリン誘導体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−2270(P2011−2270A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143867(P2009−143867)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(592072377)日本ヘルス工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(592072377)日本ヘルス工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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