説明

ハロゲン電球

【課題】
定格電力約50Wの省エネ型ハロゲン電球において、従来の60Wのハロゲン電球と同等以上の耐衝撃性を有するとともに、60W相当の光度が得られるようにする。
【解決手段】
タングステン素線を螺旋状に巻いてコイル状に形成した一次コイルをさらに螺旋状に巻いて二次コイルを形成した二重巻きコイルからなるフィラメント(4)を備え、一次コイルの外径をd(mm)、二次コイルのコイル長をL(mm)、外径をD(mm)、ピッチ距離をP(mm)、P/d×100で定義されるコイルピッチY(%)としたときに、式1〜式3の関係を満たすようにする。
8.05≦L≦9.15………(式1)
1.21≦D≦1.51………(式2)
189D−70.69≦Y≦217.67D−81.377………(式3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン素線を螺旋状に巻いてコイル状に形成した一次コイルをさらに螺旋状に巻いて二次コイルが形成された二重巻きコイルからなるフィラメントを備えたハロゲン電球に関し、商業ディスプレイなどに使用される60Wタイプと同程度の明るさを有する定格電力約50Wの省エネ型ハロゲン電球に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン電球は、バルブ内に封入する窒素やアルゴン等の不活性ガスに、ヨウ素、臭素などのハロゲンガスを微量添加したものである。
点灯時には、白熱したタングステンフィラメントから昇華するタングステンが、ハロゲンと反応してハロゲン化タングステンとなり、再び高温のフィラメントに戻るハロゲンサイクルを生じる。
これにより、長寿命を図ると共に、蒸発したタングステンがバルブ内面に付着しないため、バルブ黒化による明るさの低下もなく、寿命末期まで一定の明るさを維持することができる。
【0003】
図5には、そのようなハロゲン電球1の一般構成を示す説明図であって、バルブ2の片端が加熱圧着されて封止部3が形成され、当該封止部3には、フィラメント4の両端を支持すると共に当該フィラメント4に給電する一対の内部リード5A,5Bと、外部から電力の供給を受ける一対の外部リード6A,6Bを溶接する一対のモリブデン箔7A、7Bが封止されている。
【0004】
内部リード5A,5Bは、円柱状のガラスビーズ8に貫通されて、一方の内部リード5Aはバルブ2の先端側まで延設される支柱を兼用し、バルブ2の光軸方向に沿って配されたフィラメント4の先端側4aを支持すると共に、他方の内部リード5Bがフィラメント4の基端側4bを支持している。
【0005】
また、両端を前記内部リード5A,5Bに支持されるフィラメント4は、タングステン素線を螺旋状に巻いてコイル状に形成した一次コイルをさらに螺旋状に巻いて二次コイルが形成された二重巻きコイルからなる。
そして、外力により、フィラメント4が撓んだり振動したりしないように、その中間部4cが、ガラスビーズ8に取り付けられたアンカー9の先端のフック9aに引っ掛けられて支持されている。
そして、図6に示すように、例えばエジソンベースの口金10が形成された反射鏡11に取り付けられて使用される。
【0006】
図7はこの種のハロゲン電球1を使用した店舗用のスポットライト12を示し、ダウントランスが内蔵されたスライドベース13に、照明方向調整支柱14が取り付けられ、その先端に、反射鏡付きハロゲン電球1を内蔵した照明ヘッド15が左右回動可能に、且つ、上下傾動可能に取り付けられている。
そして、店舗では、このスポットライト12を天井16に設けた配線ダクト17に設置し、店舗内の商品配置やディスプレイのレイアウトに応じて最適な照明効果が得られるように、配線ダクト17に沿ってスライドベース13をスライドさせて位置決めを行い、照明ヘッド15を左右回動させ、あるいは、上下に傾動させて照射方向を調節して使用している。
【0007】
ところで、近年、省エネの要請により、例えば、定格電力が60Wのハロゲン電球を使用している場合に、定格電力50Wで、60Wランプ相当の明るさが得られる低電力タイプのハロゲン電球が望まれている。
この要望にこたえるべく、出願人が、省エネタイプのハロゲン電球を試作して点灯試験を行ったところ、60W相当の明るさが得られる省エネ型の50Wランプは、全体的な傾向としてフィラメントの溶断事故が発生し易く、ランプ寿命が短くなるという問題を生じた。
【0008】
そして、発明者らが研究を重ねた結果、フィラメントの溶断を起こすのは、点灯した状態で隣接する二次コイル同士が接触する程度にフィラメントの変形を生じることが原因であることが判明した。
【0009】
フィラメント4の変形は、例えば、点灯させた状態でスポットライト12を配線ダクト17に沿ってスライドさせるときに配線ダクト17とのガタでノッキングを起こしたり、照明ヘッド15の照射方向を調整するときに照明ヘッド15がスムースに動かずに回転方向にノッキングを起こしたり、玉切れした反射鏡付きランプを交換するときに、電源を切らずに、新しいランプを回しながらソケットに装着している途中で接点が接触して点灯されたときに、ソケットとのガタツキや手で急旋回させることに起因してフィラメントに外力が作用したときに、その慣性力により生ずるものと考えられる。
【0010】
図8はフィラメント4の変形の様子を示す説明図であって、図8(a)に示すように、光軸Xに対して横方向Aに慣性力が作用したときは、アンカー9のフック9aに引っ掛けられている中間部4cが拘束されたままフィラメント4が撓むように変形するため、その中間部4cで二次コイルが接触しやすい。
また、図8(b)に示すように、光軸Xに対して縦方向に外力が作用して、コイル状のフィラメント4がばね変形した場合に、例えば上向き(B方向)に縦波が伝播すると、やはりアンカー9のフック9aに引っ掛けられている中間部4cや、コイル先端側4dに変形が集中して二次コイルが接触しやすい。
【0011】
そして、このようにフィラメント4の二次コイル同士が接触した場合、非点灯状態であればコイルが離れて元に戻るため問題は生じないが、点灯状態ではフィラメント4が白熱して2400〜2700℃に達しており、この状態で二次コイル同士が接触すると接触部分が溶接されて短絡するためフィラメント4の抵抗が低下し、その結果、過電圧が印加されて過電流が流れることとなるため、フィラメント4が溶断されやすくなり、ランプ寿命が短縮されるという問題を生じた。
【0012】
このような問題は、従来の60Wのハロゲン電球では生じなかったため、発明者は従来の60Wのランプと、省エネタイプの50Wハロゲン電球とを比較するため、衝撃実験を行った。
図9は、このとき使用した衝撃試験機を示す説明図である。
衝撃試験機21は、ベース22に立てられた支柱23に摺動自在に配されて重力落下する落下テーブル24に、反射鏡付きのハロゲン電球1を下向きに装着するソケット25と、衝撃を測定する加速度センサ26が固定されている。
実験は、ソケット25に装着したハロゲン電球1を点灯させた状態で高さHから落下テーブル24を落下させ、その高さHを徐々に上げてランプ1に与える衝撃を強くしていく。
【0013】
このとき、点灯回路に電流計を接続し(図示せず)、ハロゲン電球1に流れる電流をモニタしながら、衝撃を加えた時の電流値の変化を計測する。
衝撃がフィラメントコイルに加わり、そのフィラメント4が短絡すると、ランプ1に流れる電流値が高くなるので、その電流変化の有無にて短絡したか否かの判断をする。
そして、落下した瞬間に電流が上昇したときの加速度(衝撃)をそのランプ1の耐衝撃力とする。
【0014】
この実験の結果、従来の60Wランプの耐衝撃力の平均値が29Gであったのに対し、省エネ型の50Wランプの耐衝撃力が26Gであった。
したがって、その分、耐衝撃性に劣ることが判明した。
【0015】
このため、省エネ型ランプでも対衝撃性を向上させるため、フィラメント4の二重巻きコイル部のコイル長及びコイル外径の寸法を規定したハロゲン電球が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、本発明者が特許文献1に従ってハロゲン電球を試作したところ、所定の効果が得られるものもあれば、得られないものもあった。
すなわち、50Wの省エネ型ランプでも従来の60Wランプの平均光度(狭角:5900cd、中角:3200cd、広角:1500cd)が得られるものの耐衝撃性が劣っていたり、従来の60Wランプの平均耐衝撃力29Gはクリアしているものの必要な光度が得られないとうものもあった。
さらに実験を重ねた結果、その原因はコイルピッチにあり、耐衝撃性は二次コイルのコイルピッチに依存し、しかも、そのコイルピッチは単に所定の数値範囲内にあれば足りるものではなく、コイル外径に依存することが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009−252680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで本発明は、従来の60Wのハロゲン電球と同等以上の耐衝撃性を有するとともに、60W相当の光度が得られる省エネ型の50Wのハロゲン電球を提供することを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この課題を解決するために、本発明は、タングステン素線を螺旋状に巻いてコイル状に形成した一次コイルをさらに螺旋状に巻いて二次コイルが形成された二重巻きコイルからなるフィラメントを備えた定格電力約50Wのハロゲン電球において、
前記フィラメントは、二次コイルのコイル長L及び二次コイルの外径Dが式1及び2の範囲にあり、一次コイルの外径をd(mm)、二次コイルのピッチ距離をP(mm)としたときに、P/d×100で定義される二次コイルのコイルピッチY(%)が、二次コイルの外径D(mm)に対し式3の関係にあることを特徴とする。
8.05≦L≦9.15………(式1)
1.21≦D≦1.51………(式2)
189D−70.69≦Y≦217.67D−81.377………(式3)
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る50Wの省エネ型ハロゲン電球によれば、衝撃試験において、従来の60Wランプの平均29Gより高い平均33Gの耐衝撃力が得られた。
また、実際の点灯試験において、通常の点灯状態でランプを動かすときに生じ得るノッキングや外力によっては、フィラメントの短絡に起因して溶断事故を生ずることがなかった。
さらに、光度を比較しても、従来の60Wと同等の光度が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るハロゲン電球に用いるフィラメントの寸法図。
【図2】フィラメントの二次コイルのコイル外径とコイルピッチの関係を示すグラフ。
【図3】良品データを示す一覧表。
【図4】不良品データを示す比較例。
【図5】ハロゲン電球の一般的構成を示す説明図。
【図6】反射鏡付きハロゲン電球を示す説明図。
【図7】ハロゲン電球の使用状態を示す説明図。
【図8】フィラメントの挙動を示す説明図。
【図9】衝撃試験機を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本例では、定格電力約50Wの省エネ型ハロゲン電球において、従来の60Wのハロゲン電球と同等以上の耐衝撃性を有するとともに、60W相当の光度が得られるようにするという目的を達成するために、タングステン素線を螺旋状に巻いてコイル状に形成した一次コイルをさらに螺旋状に巻いて二次コイルが形成された二重巻きコイルからなるフィラメントを備え、前記フィラメントは、二次コイルのコイル長L及び二次コイルの外径Dが式1及び2を満たし、一次コイルの外径をd(mm)、二次コイルのピッチ距離をP(mm)としたときに、P/d×100で定義される二次コイルのコイルピッチY(%)が、二次コイルの外径D(mm)に対し式3の関係にある。
8.05≦L≦9.15………(式1)
1.21≦D≦1.51………(式2)
189D−70.69≦Y≦217.67D−81.377………(式3)
【実施例1】
【0022】
本発明に係るハロゲン電球1の構成は、図5に示す通りであるので、共通部分は同一符号を付してその詳細説明は省約する。
ハロゲン電球1は、定格電圧110V、定格電力約50Wに設計されている。ここで、定格電力約50Wとは、46W〜54Wの範囲であればよい。
そして、このハロゲン電球1のフィラメント4は、タングステン素線を螺旋状に巻いてコイル状に形成した一次コイルをさらに螺旋状に巻いて二次コイルが形成された二重巻きコイルからなる。
【0023】
図1は本発明のハロゲン電球1に使用するフィラメント4を示し、その素線の線径t(mm)及び素線長l(mm)が、
0.040≦t≦0.047
363≦l≦467
である。そして、この素線を、巻回して形成される一次コイルは、コイル外径d(mm)が、
0.27≦d≦0.514
を満たすように形成され、さらに、一次コイルの隣接するコイルピッチ距離をp(mm)としたときに、y=p/t×100で定義される一次コイルのコイルピッチy(%)が、
160≦y≦220
を満たすように形成されている。つまり、素線径tに対して素線間に0.6〜1.2倍の隙間が形成されていることになる。
【0024】
このように形成された一次コイルをさらに巻回して形成される二次コイルは、コイル長をL(mm)及びコイル外径D(mm)が、
8.05≦L≦9.15………(式1)
1.21≦D≦1.51………(式2)
を満たすように形成され、さらに、Y=P/d×100で定義される二次コイルのコイルピッチY(%)と二次コイルのコイル外径Dが、
189D−70.69≦Y≦217.67D−81.377………(式3)
の関係を満たすように形成されている。
【0025】
ここで、二次コイルのコイル外径Dを1.21(mm)より小さくするとフィラメント4の剛性は向上するが、コイル長Lをこの範囲に抑えようとすると、隣接するピッチ間が短くなるためわずかな変形量で二次コイル同士が短絡しやすくなり、結果的に耐衝撃性に劣る。
二次コイルのコイル外径Dを1.51(mm)より大きくすると隣接するピッチ間が大きくなるが、フィラメント4の剛性が低下するため、変形量が大きくなり、結果的に剛性が低下して、やはり二次コイル同士が短絡しやすくなる。さらに、短絡しない場合でも、ピッチ間が大きくなることにより放熱量が増大し、点灯時にフィラメント温度が上がらず、所望の光度を得ることができない。
【0026】
また、コイルピッチYは大きければ、大きな変形量を許容できる反面、放熱量が大きくなるため光度を維持することができなくなり、小さければ大きな変形量を許容することができないものの放熱を抑えて高光度を維持することができる。
そして、適正なコイルピッチY(%)は二次コイルのコイル外径Dに依存し、コイル外径Dが小さければコイルピッチも相対的に小さくなり、コイル外径Dが大きくなればコイルピッチも相対的に大きくなる。
【0027】
そして具体的には、コイルピッチY<189D−70.69であるときは、二次コイルのコイル外径Dに比してコイルピッチYが小さすぎて、変形を許容することができず、コイルピッチY>217.67D−81.377であるときは、二次コイルのコイル外径Dに比してコイルピッチYが大きすぎて放熱量が多くなって光度低下を招く。
【0028】
以上の知見に基づき、効果を確認するために、各サイズのフィラメント4を用いて、その他の条件は一定にしたハロゲン電球1について、点灯試験及び衝撃試験を行い、その双方について所定の効果(耐衝撃力:29G以上、光度:狭角4425cd以上、中角2400cd以上、広角1125cd以上)が得られたものを良品と判断した。
【0029】
図2は、フィラメント4の二次コイルのコイル外径DとコイルピッチYの関係を示すグラフであって、グラフ中の枠線Fで囲まれた部分が、式2及び3の条件を満たす範囲である。
なお、図3及び図4はそのときに用いたフィラメント4のサイズを示す一覧表であり、図3のデータが良品と判断された本発明の実施例に係るもの、図4のデータが不良品と判断された比較例である。
【0030】
図2に示された枠線F中、D=1.21の縦線が式2の下限を示し、D=1.51の縦線が式2の上限を示す。また、Y=189D−70.69の一次直線が式3の下限を示し、Y=217.67D−81.377の一次直線が式3の上限を示す。
【0031】
そして、この図2のグラフ上に、図3及び図4のデータをプロットしていくと、図3のデータは、枠線F上及びその内部にプロットされ、図4のデータは枠線Fの外側にプロットされていることがわかる。
これより、60Wと同等の光度で点灯可能な50Wの省エネ型ハロゲン電球を製造する場合、そのフィラメント4の寸法を式1〜3を満たす範囲で設計すれば、光度低下もなく、耐衝撃性に優れたハロゲン電球1が得られる。
【0032】
さらに、良品と判断されたハロゲン電球1を配線ダクト17に装着して、点灯状態で移動させたり、照明ヘッドを上下左右に回転させて照射方向を調整したりしても、フィラメント4が溶断することがなかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、60Wタイプと同程度の光度を有する定格電力約50Wの省エネ型ハロゲン電球の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 ハロゲン電球
4 フィラメント
t 素線径
d 一次コイルの外径
D 二次コイルの外径
L 二次コイルのコイル長
Y 二次コイルのコイルピッチ
P 二次コイルのピッチ距離


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン素線を螺旋状に巻いてコイル状に形成した一次コイルをさらに螺旋状に巻いて二次コイルが形成された二重巻きコイルからなるフィラメントを備えた定格電力約50Wのハロゲン電球において、
前記フィラメントは、二次コイルのコイル長L及び二次コイルの外径Dが式1及び2の範囲にあり、一次コイルの外径をd(mm)、二次コイルのピッチ距離をP(mm)としたときに、P/d×100で定義される二次コイルのコイルピッチY(%)が、二次コイルの外径D(mm)に対し式3の関係にあることを特徴とするハロゲン電球。
8.05≦L≦9.15………(式1)
1.21≦D≦1.51………(式2)
189D−70.69≦Y≦217.67D−81.377………(式3)
【請求項2】
前記タングステン素線の線径が、0.04mm以上0.047mm以下である請求項1記載のハロゲン電球。
【請求項3】
前記一次コイルの外径dが、0.27mm以上0.514mm以下である請求項1又は2記載のハロゲン電球。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−186045(P2012−186045A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48784(P2011−48784)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)