説明

ハロリン酸塩蛍光体、それを用いた発光装置及び照明装置

【課題】本発明は、青色(青緑色)蛍光体であって、490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有し、かつ、LED作動中に到達する温度領域において発光輝度が高い蛍光体を提供するものである。また、発光ピーク波長が535nm以上である高輝度の緑色蛍光体を用いた白色発光装置の、鮮やかな青色の再現性が改善された白色発光装置を提供するものである。
【解決手段】下記一般式[1’]の化学組成を有することを特徴とする蛍光体は490nm付近の波長領域に十分な発光強度を有し、該蛍光体を用いた白色発光装置は、鮮やかな青色の再現性が改善される。
(Sr,Ca)aBabEux(PO4cd [1’]
(上記一般式[1]において、XはClである。また、c、d及びxは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1、0.3≦x≦1.2を満足する数である。さらに、a及びbは、a+b=5−xかつ0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロリン酸塩蛍光体、特に、青色(青緑色)蛍光体であって、490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有し、かつ、LED作動中に到達する温度領域において発光輝度が高い蛍光体に関する。また、半導体発光素子が放出する光を蛍光体で波長変換することにより白色光を発生させる、蛍光体変換型の白色発光装置に関し、とりわけ、照明用途に適した白色発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2価のEu2+で付活されたハロリン酸塩蛍光体は一般に、254nmの水銀蒸気共鳴線励起の蛍光灯用の蛍光体として有用であり、特に数種類の蛍光体を混合して用いる蛍光灯において青〜青緑色発光成分として広範囲にわたって使用されていた。
一方で近年、LEDやLDの発光色を蛍光体で色変換させた発光装置が数多く提案されており、例えば特開2004−253747号公報(特許文献1)においては、LEDからの350−415nm領域の光の照射を受けて青色光を発光する蛍光体として(Sr,Ba,Ca)5(PO43Cl:Eu2+が挙げられており、特に、付活剤であるEuの含有割合が高いと400nm付近の光の励起によって大きな発光強度が得られることが開示されている。
【0003】
また、上述のような、LEDの発光色を蛍光体で色変換させた白色の発光装置を、液晶表示装置等におけるバックライトの光源として用いることについても数多くの検討がなされている。例えば国際公開第2009/141982号パンフレット(特許文献2)公報においては、LEDからの330−410nm領域の光の照射を受けて青色光を発光する青色蛍光体として、前記ハロリン酸塩蛍光体である(Sr1-x-y-zBaxCayEuz5(PO43Clが挙げられており、そのx及びyの値を所定の範囲内で小さくすることで、青色蛍光体粉末からの光のスペクトル幅を狭くし、バックライト用途に適するようにすることが記載されている。
【0004】
一方近年になって、特開2006−008721号公報(特許文献3)に記載されたCaAlSiN3:Eu(以下、「CASN蛍光体」と略称することがある。)、特開2008−7751号公報(特許文献4)に記載された(Sr,Ca)AlSiN3:Eu(以下、「SCASN蛍光体」と略称することがある。)、特開2007−231245号公報(特許文献5)に記載されたCa1-xAl1-xSi1+x3-xx:Eu(以下、「CASON蛍光体」と略称することがある。)などの、窒化物又は酸窒化物骨格を備えた高輝度かつ耐久性の良好な赤色蛍光体が開発された。
【0005】
このように、赤色蛍光体の高輝度化が達成されたことによって、青色蛍光体や緑色蛍光体の特性が白色発光装置の性能に及ぼす影響が相対的に強まることとなった。特に、視感度の高い波長域の光を放出する緑色蛍光体の輝度や安定性は、白色発光装置の輝度や安定性に直接的な影響を与える。
【0006】
現在のところ最も輝度の高い緑色蛍光体は、国際公開第2007−091687号公報(特許文献6)などに記載された、(Ba,Ca,Sr,Mg)2SiO4:Euで表されるEu付活アルカリ土類シリケート系蛍光体である。特に、該特許文献に開示されているように、該蛍光体の中でも発光バンドの幅が比較的狭く(半値幅70nm未満)、かつ、発光ピーク波長を520〜530nmの範囲に有するものは、極めて高い発光効率を有する。しかし、Eu付活アルカリ土類シリケート系蛍光体は、温度特性や耐久性が必ずしも良好とはいえない。そのため、特開2005−255895号公報(特許文献7)などに記載されたSi6-zAlz8-zz:Eu(以下、「β−SiAlON蛍光体」と略称することがある。)や、国際公開第2007−088966号パンフレット(特許文献8)などに記載されたM3Si6122:Eu(但し、Mはアルカリ土類金属元素。以下、「BSON蛍光体」と略称することがある。)といった、酸窒化物骨格を供えた緑色蛍光体が、安定性に優れた緑色蛍光体として注目を集めている。
【0007】
青色蛍光体に関しては、上記引用文献1に開示されたSr5(PO43Cl:Eu2+や、特開2004−266201号公報(特許文献9)に開示されたBaMgAl1017:Eu(以下、「BAM蛍光体」と略称することがある。)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−253747号公報
【特許文献2】国際公開第2009/141982号パンフレット
【特許文献3】特開2006−008721号公報
【特許文献4】特開2008−007751号公報
【特許文献5】特開2007−231245号公報
【特許文献6】国際公開第2007/091687号パンフレット
【特許文献7】特開2005−255895号公報
【特許文献8】国際公開第2007/088966号パンフレット
【特許文献9】特開2004−266201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者がLED用の青色蛍光体である、ハロリン酸塩蛍光体Sr4.5Eu0.5(PO43Cl(以下、「SCA蛍光体」と略称することがある。)の発光スペクトルについて検討を行なったところ、その発光ピークの半値幅の値が小さく、かつ、490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有していないことから、発光輝度が低いことがわかった(図1参照)。
【0010】
そのため、近紫外LED等の第1の発光体に対し、第2の発光体としてSCA蛍光体を含有するものを組み合わせて発光装置とした場合に、その発光装置の発光スペクトルにおいて490nm付近の波長領域に大きな谷部ができてしまい、その谷部の発光強度が不充分であることから、演色性が劣り、かつ発光輝度の低い発光装置となってしまうという課題があった。
【0011】
さらに、SCA蛍光体の発光輝度の温度特性について検討を行なったところ、LED作動中に到達する温度領域である100℃において、輝度が非常に低いことがわかった。
そのため、近紫外LED等の第1の発光体に対し、第2の発光体としてSCA蛍光体を含有するものを組み合わせて発光装置とした場合に、長時間使用によって装置の温度が上昇した場合において、発光輝度が低く、演色性の低い発光装置となってしまうといった第1の課題があった。
【0012】
一方で、前述のβ−SiAlON蛍光体、BSON蛍光体などのEu付活酸窒化物系の緑色蛍光体は、Eu付活アルカリ土類シリケート系のものと比べて、耐久性では優れているものの、輝度の点では未だ及ばないのが実情である。そのようなEu付活酸窒化物系の緑色蛍光体の高輝度化の一手段として、発光ピーク波長を535nm以上とすることにより、視感度の高い波長域(555nm付近)における発光強度を高くすることが考えられる。
【0013】
本発明者等は、上記手段により高輝度化を図った酸窒化物系の緑色蛍光体として、発光ピーク波長を540nmに有するβ−SiAlON蛍光体(市販品)を緑色蛍光体に用いて、白色LEDを試作した。励起光源には発光ピーク波長406nmのInGaN系近紫外LEDを、青色蛍光体にはBAM蛍光体を、また、赤色蛍光体にはCASON蛍光体を用いた。しかし、得られた白色LEDの演色性を測定したところ、平均演色評価数Raは90を超える良好な値となったが、鮮やかな青色の再現性の指針である特殊演色評価数R12が約80となり、高演色照明を目的とした場合には満足できる値ではなかった。
【0014】
従って、発光ピーク波長が535nm以上である高輝度の緑色蛍光体を用いた白色発光装置を高演色照明として好適に使用できるものとするには、鮮やかな青色の再現性を改善する必要があるという第2の課題があった。
【0015】
本発明の第1の側面は上記第1の課題を解決するためのものであり、青色(青緑色)蛍光体であって、490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有し、かつ、LED作動中に到達する温度領域において発光輝度が高い蛍光体を提供することを第1の目的とする。
【0016】
また、本発明の第2の側面は上記第2の課題を解決するためのものであり、発光ピーク波長が535nm以上である高輝度の緑色蛍光体を用いた白色発光装置であって、鮮やかな青色の再現性が改善された白色発光装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、前記第1の課題を解決すべく鋭意検討した結果、350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体とを有する発光装置の前記第2の発光体に含有されて用いる蛍光体であって、下記一般式[1’]の化学組成を有し、かつ、発光ピーク波長における強度に対する波長490nmにおける強度の比が一定の値を有するものとすることで、490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有し、かつ、LED作動中に到達する温度領域において発光輝度が高い蛍光体を得ることができることを見出し本発明に到達した。
【0018】
SraBabEux(PO4cd [1’]
(上記一般式[1’]において、XはClである。また、c、d及びxは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1、0.3≦x≦1.2を満足する数である。さらに、a及びbは、a+b=5−xかつ0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する。)
ここで、a、b、x、c及びdは、それぞれ順に、Sr元素のモル比、Ba元素のモル比、Eu元素のモル比、PO4基のモル比、アニオン基Xのモル比を表す。例えば、Eu0.5Sr3.825Ba0.675(PO43Clなる組成の場合、a=3.825、b=0.675、x=0.5、c=3、d=1であるので、前記[1]式の範疇に入る。
【0019】
また、本発明者等は、前記第2の課題を解決すべく鋭意検討した結果、発光ピーク波長が535nm以上である高輝度緑色蛍光体と共に用いる青色蛍光体として、490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有するハロリン酸塩蛍光体を用いることにより、鮮やかな青色の再現性に優れた白色発光装置が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0020】
従って本発明の第1の態様は、次の(1)〜(6)をその要旨とする。
(1)350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体とを有する発光装置の前記第2の発光体に含有されて用いる蛍光体であって、
下記一般式[1’]の化学組成を有し、かつ、
波長410nmの光で励起した前記蛍光体の発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(ピーク)、波長490nmにおける強度をI(490nm)としたときに、I(490nm)/I(ピーク)の値が下記式[2]を満たすことを特徴とする蛍光体。
SraBabEux(PO4cd [1’]
(上記一般式[1’]において、XはClである。また、c、d及びxは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1、0.3≦x≦1.2を満足する数である。さらに、a及びbは、a+b=5−xかつ0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する。)
0.2≦I(490nm)/I(ピーク) [2]
(2)温度100℃において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(100℃)、室温において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(室温)としたときに、I(100℃)/I(室温)の値が、下記式[4]を満たすことを特徴とする、(1)に記載の蛍光体。
0.68≦I(100℃)/I(室温) [4]
(3)350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体とを有する発光装置において、第2の発光体が第1の蛍光体として(1)又は(2)に記載の蛍光体を含有することを特徴とする発光装置。
(4)該第2の発光体が第2の蛍光体を更に有し、該第2の蛍光体は、該第1の蛍光体とは発光ピーク波長の異なる少なくとも1種の蛍光体を含有することを特徴とする、(3)に記載の発光装置。
(5)発光装置が発する光が、第1の発光体からの光と第2の発光体からの光を混合した光であって、かつ、白色であることを特徴とする(3)又は(4)に記載の発光装置。
(6)(3)〜(5)のいずれか1つに記載の発光装置を有することを特徴とする照明装置。
【0021】
また、本発明の第2の態様は、次の(7)〜(14)をその要旨とする。
(7)近紫外波長域の光を放出する半導体発光素子と、蛍光体とを備え、該半導体発光素子が放出する光を該蛍光体で波長変換することにより白色光を発生させる、蛍光体変換型の白色発光装置において、
上記蛍光体が、下記一般式[1]の化学組成を有する青色蛍光体と、発光ピーク波長が535nm以上である緑色蛍光体と、Eu付活窒化物蛍光体及びEu付活酸窒化物蛍光体から選ばれる少なくとも一種の赤色蛍光体とを含むことを特徴とする白色発光装置。
(Sr,Ca)aBabEux(PO4cd [1]
(上記一般式[1]において、XはClである。また、c、d及びxは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1、0.3≦x≦1.2を満足する数である。さらに、a及びbは、a+b=5−xかつ0.05≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する。)
ここで、a、b、x、c及びdは、それぞれ順に、Sr元素のモル比、Ba元素のモル比、Eu元素のモル比、PO4基のモル比、アニオン基Xのモル比を表す。例えば、Eu0.5Sr3.825Ba0.675(PO43Clなる組成の場合、a=3.825、b=0.675、x=0.5、c=3、d=1であるので、前記[1]式の範疇に入る。
(8)上記緑色蛍光体は発光ピーク波長を535〜545nmの範囲に有するとともに発光ピークの半値幅が55〜70nmであり、上記青色蛍光体は発光ピーク波長を450〜460nmの範囲内に有するとともに、波長410nmの光で励起した上記青色蛍光体の発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(ピーク)、波長490nmにおける強度をI(490nm)としたときに、I(490nm)/I(ピーク)の値が0.55〜0.65である、上記(7)記載の白色発光装置。
(9)上記緑色蛍光体は発光ピーク波長を535〜545nmの範囲に有するとともに発光ピークの半値幅が55〜70nmであり、上記青色蛍光体は蛍光体を構成する元素中の金属元素が実質的にSr、Eu及びBaのみであるとともに、上記一般式[1]におけるb/(a+b)の値が0.15〜0.20である、上記(7)または(8)に記載の白色発光装置
(10)上記緑色蛍光体がEu付活酸窒化物蛍光体を含む、上記(7)〜(9)のいずれかに記載の白色発光装置。
(11)上記赤色蛍光体がCASON蛍光体を含む、上記(7)〜(10)のいずれかに記載の白色発光装置。
(12)平均演色評価数Raと特殊演色評価数R12の両方が90以上である、上記(7)〜(11)のいずれかに記載の白色発光装置。
(13)上記緑色蛍光体がEu付活酸窒化物蛍光体であり、上記青色蛍光体を構成する元素中の金属元素が実質的にSr、Eu及びBaのみであり、かつ、上記式[1]におけるb/(a+b)の値が0.16以上0.6以下である、上記(7)に記載の白色発光装置。
(14)上記式[1]におけるxの値が0.3以上0.65未満である、上記(13)に記載の白色発光装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1の態様によれば、青色(青緑色)蛍光体であって490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有し、かつ、LED作動中に到達する温度領域において発光輝度が高い蛍光体を提供することができる。
また、本発明の第2の態様によれば、発光ピーク波長が535nm以上である高輝度の緑色蛍光体を用いた、鮮やかな青色の再現性に優れた白色発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実験例1の蛍光体及び比較例1の蛍光体(SCA蛍光体)の、発光スペクトルである。
【図2】実験例3、実験例7〜12、及び比較実験例5の蛍光体の、80℃、100℃、及び130℃における発光輝度を示すグラフである。
【図3】実験例15に係る白色LEDの発光スペクトルである。
【図4】比較実験例8に係る白色LEDの発光スペクトルである。
【図5】実験例16に係る白色LEDの発光スペクトルである。
【図6】実験例17に係る白色LEDの発光スペクトルである。
【図7】実験例18に係る白色LEDの発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について実施形態や例示物を示して説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。さらに、本明細書における色目と色度座標との関係は、すべてJIS規格(JISZ8110)に基づくものである。
【0025】
また、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Ba,Sr,Ca)Al24:Eu」という組成式は、「BaAl24:Eu」と、「SrAl24:Eu」と、「CaAl24:Eu」と、「Ba1-xSrxAl24:Eu」と、「Ba1-xCaxAl24:Eu」と、「Sr1-xCaxAl24:Eu」と、「Ba1-x-ySrxCayAl24:Eu」とを全て包括的に示しているものとする(但し、上記式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1である)。
なお、本明細書における蛍光体とは、その一部に少なくとも結晶構造を有するものを言う。
【0026】
また、本明細書中で蛍光体の発光ピークの半値幅に言及するとき、その半値幅とは、発光スペクトルにおける発光ピークの半値全幅(full width at half maximum)を意味する。
【0027】
〔1.ハロリン酸塩蛍光体〕
本発明の第1の態様は蛍光体である(以下、「第1の側面に係る蛍光体」と略称することがある)。第1の側面に係る蛍光体は、350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体とを有する発光装置の前記第2の発光体に含有されて用いる蛍光体であって、下記一般式[1]の化学組成を有することを特徴とする。
(Sr,Ca)aBabEux(PO4cd [1]
(上記一般式[1]において、XはClである。また、c、d及びxは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1、0.3≦x≦1.2を満足する数である。さらに、a及びbは、a+b=5−xかつ0.05≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する。)
なお、該蛍光体は、本発明の効果を損なわない程度に、上述以外の元素を含有していてもよい。
また、該蛍光体には、性能を損なわない範囲で他の成分、例えば、光散乱物質等を含んでいてもよい。
【0028】
以下、一般式[1]の蛍光体について説明する。式[1]において、発光特性、温度特性等の面から、該蛍光体はSr元素とCa元素とBa元素を特定量含有するものとなっており、具体的には、Sr元素及びCa元素のモル比aとBa元素のモル比bが、a+b=5−x、並びに、b/(a+b)の値が0.05以上及び0.6以下の条件を満足するものとなっている。b/(a+b)の値は、0.1以上とすることが好ましく、0.12以上とすることが更に好ましく、0.2以上とすることが特に好ましく、0.28以上とすることが最も好ましい。特に、0.16以上であると、発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅が急に大きくなり、有利である。また、b/(a+b)の値は、0.55以下とすることが好ましく、0.5以下とすることが更に好ましく、0.4以下とすることが最も好ましい。b/(a+b)の値が小さすぎる場合には輝度の値が低くなり、大きすぎる場合には、該蛍光体と、緑色蛍光体及び赤色蛍光体とを組み合わせて白色発光装置としたときに、該蛍光体と緑色蛍光体の発光スペクトルが重なりすぎて、高い発光効率が得られなくなる傾向がある。
Sr元素の含有量に対するCa元素の含有量としては、5mol%以上であることが好ましく、10mol%以上であることが更に好ましい。
【0029】
第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体は、一般式[1]で示されるように、Sr元素及びCa元素のうちどちらか一種の元素を含有していてもよく、Sr元素及びCa元素の両方の元素を含有していてもよい。発光スペクトルの波長490nmにおける発光強度を高めるため、または、高温における輝度維持率を高めるためには、Sr元素及びCa元素のうち、Sr元素だけを含有する下記一般式[1’]の化学組成であることが好ましい。
SraBabEux(PO4cd [1’]
(上記一般式[1’]において、XはClである。また、c、d及びxは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1、0.3≦x≦1.0を満足する数である。さらに、a及びbは、a+b=5−xかつ0.05≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する。)
【0030】
式[1]又は[1’]において、Sr元素の一部は、Eu元素、Sr元素、Ca元素及びBa元素以外の金属元素で置換されていてもよい。該金属元素としては、Mg元素、Zn元素およびMn元素などが挙げられ、中でもMg元素であることが輝度の点から最も好ましい。置換量としては、Sr元素に対して5mol%以上とすることが好ましく、10mol%以上とすることが更に好ましい。置換量が小さすぎる場合にはLED作動中の温度における輝度が充分高くない場合がある。
【0031】
前記金属元素として上記以外の金属元素を含有させる場合、その金属元素に特に制約はないが、Sr元素と同じ価数、即ち2価の金属元素を含有させると、結晶成長助長となる場合があるため、望ましい。また、使用しうる元素のイオン半径幅が広がり、結晶がつくりやすくなる可能性があるという点で、1価、3価、4価、5価、又は6価等の金属元素を少量導入しても良い。一つの例を挙げると、蛍光体中のSr2+一部を等モルのNa+とLa3+で電荷補償効果を保持しながら置換することができる。増感剤となりうる金属元素を少量置換してもよい。
【0032】
前記一般式[1]又は[1’]中のアニオン基XはCl元素である。ただし、Xの一部は、本発明の効果を阻害しない範囲において、Cl元素以外のアニオン基で置換されていてもよいことは当業者であれば理解できる。アニオン基Xの一部が、Cl元素以外のアニオン基で置換されている場合、Cl元素以外のアニオン基の量は50mol%以下であることが好ましく、30mol%以下であることが更に好ましく、10mol%以下であることが特に好ましく、5mol%以下であることが最も好ましい。
前記一般式[1]又は[1’]中のEuのモル比xについては、LED作動中に到達する温度における輝度等の面から、通常x≧0.3、好ましくはx≧0.35、より好ましくはx≧0.4、更に好ましくはx≧0.45、特に、x≧0.5とするのが最も好ましい。発光中心Euのモル比xが小さすぎると、発光強度が小さくなる傾向があるが、あまりにxの値が大きいと、濃度消光と呼ばれる現象により、発光輝度が減少する傾向があるので、通常はx≦1.2、好ましくはx≦1.0、より好ましくはx≦0.9、特に好ましくはx≦0.8、更に好ましくはx≦0.7、また更に好ましくはx≦0.65、最も好ましくはx≦0.55とする。
【0033】
付活剤であるEuは、第1の側面に係る蛍光体中において、少なくともその一部が2価のカチオンとして存在することになる。この際、付活剤Euは2価及び3価の価数を取りうるが、2価のカチオンの存在割合が高い方が好ましい。具体的には、全Eu量に対するEu2+の割合は、通常80mol%以上、好ましくは85mol%以上、より好ましくは90mol%以上、特に好ましくは95mol%以上、最も好ましくは100mol%である。
【0034】
また、付活剤であるEuは、他の付活剤としてCe、Tb、Sb、Pr、Er及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属元素で置換されていてもよい。上記の金属元素のうち、1種類のみを用いて置換してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用して置換してもよい。
前記一般式[1]又は[1’]において、cおよびdは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1を満足するが、cについては、好ましくは2.8≦c≦3.2、さらに好ましくは2.9≦c≦3.1であり、dについては、好ましくは0.93≦d≦1.07、さらに好ましくは0.95≦d≦1.05とする。
【0035】
〔2.ハロリン酸塩蛍光体の物性〕
〔2−1.ハロリン酸塩蛍光体の形態〕
第1の側面に係る蛍光体は、通常、微粒子の形態を有している。具体的には、第1の側面に係る蛍光体は体積メジアン径D50が、通常、50μm以下、好ましくは30μm以下、通常2μm以上、好ましくは5μm以上の微粒子である。体積メジアン径D50が大きすぎると、例えば後述する封止材料として用いる樹脂中への分散性が悪くなる傾向があり、小さすぎると低輝度となる傾向がある。
体積メジアン径D50は、例えば、レーザー回折・散乱法により粒度分布を測定して得られる、体積基準粒度分布曲線から求められる値である。メジアン径D50は、この体積基準粒度分布曲線において、積算値が50%のときの粒径値を意味する。
【0036】
〔2−2.ハロリン酸塩蛍光体の発光色〕
第1の側面に係る蛍光体は、通常は青色〜青緑色に発光する。即ち、第1の側面に係る蛍光体は、通常は青色〜青緑色蛍光体となる。
第1の側面に係る蛍光体の蛍光の色度座標は、通常、(x,y)=(0.10,0.06)、(0.10,0.36)、(0.20,0.06)及び(0.20,0.36)で囲まれる領域内の座標となり、好ましくは、(x,y)=(0.13,0.09)、(0.13,0.30)、(0.18,0.09)及び(0.18,0.30)で囲まれる領域内の座標となり、より好ましくは、(x,y)=(0.13,0.09)、(0.13,0.26)、(0.18,0.09)及び(0.18,0.26)で囲まれる領域内となる。よって、第1の側面に係る蛍光体の蛍光の色度座標においては、色度座標xは、通常0.10以上、好ましくは0.13以上であり、通常0.20以下、好ましくは0.18以下である。一方、色度座標yは、通常0.06以上、好ましくは0.09以上、また、通常0.36以下、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.26以下である。
【0037】
なお、蛍光の色度座標は、後述する発光スペクトルから算出することができる。さらに、上記の色度座標x,yの値は、波長410nmの光で励起したときの発光色のCIE標準座標系における色度座標の値を表わす。
【0038】
〔2−3.ハロリン酸塩蛍光体の発光特性〕
第1の側面に係る蛍光体が発する蛍光のスペクトル(発光スペクトル)は、青色〜青緑色蛍光体としての用途に鑑みれば、波長410nmの光で励起した場合のその発光スペクトルの発光ピーク波長が、通常440nm以上、好ましくは450nm以上、さらに好ましくは445nm以上、より好ましくは460nm以上であり、また、通常490nm未満、好ましくは480nm以下、より好ましくは475nm以下の範囲にあるものである。
【0039】
また、第1の側面に係る蛍光体は、波長410nmの光で励起した場合の発光ピークの半値幅(full width at half maximum;以下これを「FWHM」ということがある。)が、通常35nm以上、好ましくは40nm以上、より好ましくは50nm以上、特に好ましくは70nm以上である。このように半値幅が広いことにより、LED等の第1の発光体に対し、第2の発光体として該蛍光体を含有するものを組み合わせて発光装置とした場合に、発光装置の輝度を良好にすることができる。なお、発光ピークの半値幅の上限に制限は無いが、通常90nm以下である。
【0040】
一方、第1の側面に係る蛍光体は、波長410nmの光で励起した場合の発光スペクトルにおいて、通常、490nm付近の波長領域に充分な発光強度を有する。具体的には、発光ピーク波長における強度をI(ピーク)、波長490nmにおける強度をI(490nm)とすると、I(490nm)/I(ピーク)の値が下記式[2]を満たす。ここで、発光ピーク波長における強度とは、発光ピークのピークトップが存在する波長における発光強度を意味する。
0.2≦I(490nm)/I(ピーク) [2]
上記の式[2]の左辺の値は0.2であるが、好ましくは0.3であり、より好ましくは0.4、特に好ましくは0.5、最も好ましくは0.8である。即ち、I(490nm)/I(ピーク)の値が、0.2以上が好ましく、0.3以上が更に好ましく、0.4以上がより好ましく、0.5以上が特に好ましく、0.8以上が最も好ましい。
【0041】
I(490nm)/I(ピーク)の値は、発光スペクトルの形状を特徴付ける値であり、該値が大きいほど490nmにおける発光強度の値が大きいことを表す。したがって、I(490nm)/I(ピーク)の値が上記範囲を下回ると、490nm付近の波長領域における発光強度の値が小さいことにより、LED等の第1の発光体に対し、第2の発光体として該蛍光体を含有するものを組み合わせて発光装置とした場合に、その発光装置の発光スペクトルにおいて、490nm付近の波長領域に大きな谷部ができてしまう場合があり、その谷部の発光が欠損することにより、輝度が劣る発光装置となってしまう可能性がある。
【0042】
発光スペクトルの測定は、室温、例えば25℃において、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)を用いて行なうことができる。
【0043】
より具体的には、励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長410nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射する。励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピュータによる感度補正等の信号処理を経て発光スペクトルを得る。なお、測定時には、受光側分光器のスリット幅を1nmに設定して測定を行なう。
【0044】
〔2−4.ハロリン酸塩蛍光体の輝度〕
第1の側面に係る蛍光体は、通常、室温における発光輝度が高いものとなっている。なお、本明細書における輝度とは、各波長における視感度×発光強度の値を、全波長領域で積分したものを指す。
第1の側面に係る蛍光体は、本発明の蛍光体と同様の方法で製造した、SCA蛍光体[Eu0.5Sr4.5(PO43Cl]の輝度に対する相対輝度の割合が、通常130%以上、好ましくは160%以上、さらに好ましくは210%以上、より好ましくは300%以上である。後述する青色蛍光体(I)の場合には、一般式[1]又は[1’]におけるb/(a+b)の値を0.16以上としたものは、発光スペクトルのピーク形状の非対称性が大きくなり、ピーク波長の短波長側に比べて長波長側が顕著にブロード化するので、輝度が極めて高くなる。
【0045】
〔2−5.ハロリン酸塩蛍光体の励起特性〕
第1の側面に係る蛍光体を励起する光の波長(励起波長)は第1の側面に係る蛍光体の組成などに応じて様々であるが、励起波長は、通常350nm以上、好ましくは380nm以上、より好ましくは405nm以上、また、通常430nm以下、好ましくは420nm以下、より好ましくは415nm以下である。
【0046】
〔2−6.ハロリン酸塩蛍光体の発光ピーク波長における強度の温度特性〕
第1の側面に係る蛍光体は、同様の方法で製造したSCA蛍光体[Eu0.5Sr4.5(PO43Cl]と比較して、通常は温度特性にも優れる。具体的には、該蛍光体を室温(約20℃)において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(室温)、温度80℃において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(80℃)とすると、I(80℃)/I(室温)の値が、下記式[3]を満たすことが好ましい。
0.75≦I(80℃)/I(室温) [3]
上記の式[3]の左辺の値は通常0.75であるが、好ましくは0.80であり、より好ましくは0.85、特に好ましくは0.87、また、1に近くなるほど好ましい。即ち、I(80℃)/I(室温)の値が、0.75以上が好ましく、0.80以上が更に好ましく、0.85以上がより好ましく、0.87以上が特に好ましく、1に近いほど好ましい。また、I(80℃)/I(室温)の上限値は、通常、1である。
【0047】
また、温度100℃において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(100℃)とすると、I(100℃)/I(室温)の値が、下記式[4]を満たすことが好ましい。
0.68≦I(100℃)/I(室温) [4]
上記式[4]の左辺の値は0.68であるが、好ましくは0.70であり、より好ましくは0.72であり、特に好ましくは0.80であり、最も好ましくは0.83であり、また、1に近いほど好ましい。即ち、I(100℃)/I(室温)の値が、0.68以上が好ましく、0.70以上が更に好ましく、0.72以上がより好ましく、0.80が特に好ましく、0.83が最も好ましく、1に近いほど好ましい。また、(100℃)/I(室温)の上限値は、通常、1である。
【0048】
特に、後述する青色蛍光体(I)において、構成元素中の金属元素が実質的にSr、Eu及びBaのみであり、かつ、一般式[1]におけるb/(a+b)の値が0.16以上であるものは、式[3]及び[4]を満たすものとなり得る。(「構成元素中の金属元素が実質的にSr、Eu及びBaのみである」とは、当該蛍光体がSr、Eu及びBa以外の金属元素を一切含まないことを意味するものではなく、製造工程等において混入が避けられない金属元素の含有は許容される。例えば、蛍光体の原材料に不可避不純物として含まれる金属元素や、焼成工程で用いる容器(坩堝)に含まれ、焼成中に該容器から蛍光体に侵入する金属元素である。)
【0049】
さらに、高出力LEDの作動中の典型的な温度である130℃において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(130℃)とすると、I(130℃)/I(室温)の値が、下記式[5]を満たすことが好ましい。
0.60≦I(130℃)/I(室温) [5]
上記式[5]の左辺の値は0.60であるが、好ましくは0.67であり、より好ましくは0.70であり、また、1に近いほど好ましい。即ち、I(130℃)/I(室温)の値が、0.60以上が好ましく、0.65以上が更に好ましく、0.70以上がより好ましく、1に近いほど好ましい。また、I(130℃)/I(室温)の上限値は、通常、1である。
【0050】
なお、上記温度特性を測定する場合は、例えば、輝度測定装置として色彩輝度計BM5A、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構、及び、光源として150Wキセノンランプを備える装置とを備えたMCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置(大塚電子製)を用いて、以下のように測定することができる。ステージに蛍光体サンプルを入れたセルを載せ、温度を20℃、25℃、50℃、75℃、100℃、125℃、150℃、175℃と段階的に変化させ、蛍光体の表面温度を確認し、次いで、光源から回折格子で分光して取り出した波長410nmの光で蛍光体を励起して、輝度値及び発光スペクトルを測定する。測定された発光スペクトルから発光ピーク強度を求める。ここで、蛍光体の励起光照射側の表面温度の測定値は、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いる。
【0051】
このような良好な温度特性を有する第1の側面に係る青色蛍光体を、温度特性の良好なEu付活酸窒化物系の緑色蛍光体、及び、温度特性の良好なEu付活窒化物系又はEu付活酸窒化物系の赤色蛍光体と共に用いて、後述する第2の側面に係る白色発光装置を製造することにより、温度特性に優れた白色発光装置を提供することが可能となる。
【0052】
第1の側面に係る青色蛍光体において、上記一般式[1]におけるb/(a+b)の値が0.1以下であるもの、及び、xの値が0.95以上であるもの、また、Ca元素を実質的に含有するものは、温度特性が低下する傾向がある。なお、80℃乃至100℃という温度は、第2の側面に係る白色発光装置の動作時に想定される青色蛍光体の温度である。一般照明用途の白色発光装置では、チップサイズ1mm角の励起用LEDに500mA以上の大電流が印加される場合があり、このとき蛍光体の温度は100℃に達することが有り得る。
【0053】
〔2−7.ハロリン酸塩蛍光体の発光輝度の温度特性〕
第1の側面に係る蛍光体は、LED作動中に到達する温度である80℃において、通常、第1の側面に係る蛍光体と同様の方法で製造した、SCA蛍光体[Eu0.5Sr4.5(PO43Cl]の輝度に対する相対輝度の割合が、通常150%以上、好ましくは180%以上、さらに好ましくは250%以上、より好ましくは300%以上であり、特に好ましくは400%以上である。
【0054】
さらに、本発明の蛍光体は、LED作動中に到達する温度である100℃において、通常、本発明の蛍光体と同様の方法で製造した、SCA蛍光体であるEu0.5Sr4.5(PO43Cl蛍光体の輝度に対する相対輝度の割合が、通常150%以上、好ましくは173%以上、さらに好ましくは250%以上、より好ましくは300%以上であり、特に好ましくは400%以上である。特に、構成元素中の金属元素が実質的にSr、Eu及びBaのみであり、かつ、一般式[1]におけるb/(a+b)の値が0.16以上であるものは、SCA蛍光体の室温における輝度に対する相対輝度の割合が、80℃において300%以上、100℃において250%以上となり得る。
【0055】
また、第1の側面に係る蛍光体は、LEDパワーチップの作動中の典型的な温度である130℃において、通常、第1の側面に係る蛍光体と同様の方法で製造した、SCA蛍光体[Eu0.5Sr4.5(PO43Cl]の輝度に対する相対輝度の割合が、通常150%以上、好ましくは155%以上、さらに好ましくは250%以上、より好ましくは300%以上であり、特に好ましくは400%以上である。
【0056】
〔3.ハロリン酸塩蛍光体の製造方法〕
第1の側面に係る蛍光体の製造方法に特段の制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の方法で製造することが出来る。ただし、以下に説明する製造方法(以下、「本発明の製造方法」ということがある)によって式[1]で表わされる蛍光体を製造すれば、当該蛍光体は通常は上述した特性を備えることができる。
【0057】
本発明の製造方法において、本発明の蛍光体は、式[1]で示される組成となるように調製した蛍光体原料の混合物を焼成することにより製造できる。蛍光体原料としては通常は金属化合物を用いる。すなわち、原料となる金属化合物を所定の組成となるように秤量し、混合した後に焼成することにより製造することができる。例えば、上記式[1]で表わされる蛍光体を製造する場合、Srの原料(以下適宜「Sr源」という)、Baの原料(以下適宜「Ba源」という)、Euの原料(以下適宜「Eu源」という)、PO4の原料(以下適宜「PO4源」という)、及び、Xの原料(以下適宜「X源」という)から必要な組み合わせを混合し(混合工程)、得られた混合物を焼成する(焼成工程)ことにより製造することができる。
【0058】
〔3−1.蛍光体原料〕
第1の側面に係る蛍光体の製造に使用される蛍光体原料(即ち、Sr源、Ba源、Eu源、PO4源、及び、X源)としては、例えば、Sr、Ba、Eu、PO4、及び、Xの各元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物及びそれらの水和物等が挙げられる。これらの化合物の中から、複合酸窒化物への反応性や、焼成時におけるNOx、SOx等の発生量の低さ等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0059】
(Sr源)
上記Sr源の具体例は、以下の通りである。
Srの原料(以下適宜「Sr源」という)の具体例としては、SrO等の酸化物、Sr(OH)2・8H2O等の水酸化物、SrCO3等の炭酸塩、Sr(NO32・4H2O等の硝酸塩、SrSO4等の硫酸塩、Sr(OCO)2・H2O、Sr(C24)・H2O等の蓚酸塩、Sr(OCOCH32・0.5H2O等のカルボン酸塩、SrCl2、SrCl2・6H2O等のハロゲン化物、Sr32、SrNH等の窒化物等が挙げられる。中でも、SrCO3が好ましい。空気中の安定性が良く、また、加熱により容易に分解し、目的外の元素が残留しにくく、さらに、高純度の原料を入手しやすいからである。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0060】
(Ba源)
上記Ba源の具体例は、以下の通りである。
Baの原料(以下適宜「Ba源」という)の具体例としては、BaO等の酸化物、Ba(OH)2・8H2O等の水酸化物、BaCO3等の炭酸塩、Ba(NO32等の硝酸塩、BaSO4等の硫酸塩、Ba(OCO)2・H2O、Ba(OCOCH32等のカルボン酸塩、BaCl2、BaCl2・6H2O等のハロゲン化物、Ba32、BaNH等の窒化物等が挙げられる。このうち好ましくは、炭酸塩、酸化物等が使用できる。ただし、酸化物は空気中の水分と反応しやすいため、取扱の点から炭酸塩がより好ましい。中でも、BaCO3が好ましい。空気中の安定性が良く、また、加熱により容易に分解するため、目的外の元素が残留しにくく、さらに、高純度の原料を入手しやすいからである。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0061】
(Mg源、Ca源、Zn源およびMn源)
Srの一部を置換していてもよいMg、Ca、ZnおよびMnの原料(以下適宜「Mg源、Ca源、Zn源およびMn源」という)の具体例をそれぞれ分けて列挙すると、以下の通りである。
Mgの原料(以下適宜「Mg源」という)の具体例としては、MgO等の酸化物、Mg(OH)2等の水酸化物、塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO3・Mg(OH2)・nH2O)等の炭酸塩、Mg(NO32・6H2O等の硝酸塩、MgSO4等の硫酸塩、Mg(OCO)2・H2O、Mg(OCOCH32・4H2O等のカルボン酸塩、MgCl2等のハロゲン化物、Mg32等の窒化物、MgNH等の窒化物等が挙げられる。中でも、MgOや塩基性炭酸マグネシウムが好ましい。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0062】
Caの原料(以下適宜「Ca源」という)の具体例としては、CaO等の酸化物、Ca(OH)2等の水酸化物、CaCO3等の炭酸塩、Ca(NO32・4H2O等の硝酸塩、CaSO4・2H2O等の硫酸塩、Ca(OCO)2・H2O、Ca(OCOCH32・H2O等のカルボン酸塩、CaCl2等のハロゲン化物、Ca32等の窒化物、CaNH等が挙げられる。中でも、CaCO3、CaCl2等が好ましい。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0063】
Znの原料(以下適宜「Zn源」という)の具体例としては、ZnO等の酸化物、ZnF2、ZnCl2等のハロゲン化物、Zn(OH)2等の水酸化物、Zn32、ZnNH等の窒化物、ZnCO3等の炭酸塩、Zn(NO32・6H2O等の硝酸塩、Zn(OCO)2、Zn(OCOCH32等のカルボン酸塩、ZnSO4等の硫酸塩等の亜鉛化合物(但し、水和物であってもよい)が挙げられる。中でも、粒子成長を促進させる効果が高いという観点からZnF2・4H2O(但し、無水物であってもよい)等が好ましい。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0064】
Mnの原料(以下適宜「Mn源」という)の具体例としては、MnO2、Mn23、Mn34、MnO等の酸化物、Mn(OH)2等の水酸化物、MnOOH等の過酸化物、MnCO3等の炭酸塩、Mn(NO32等の硝酸塩、Mn(OCOCH32・2H2O、Mn(OCOCH33・nH2O等のカルボン酸塩、MnCl2・4H2O等のハロゲン化物等がそれぞれ挙げられる。このうち好ましくは、炭酸塩、酸化物等が使用できる。ただし、酸化物は空気中の水分と反応しやすいため、取扱の点から炭酸塩がより好ましい。中でも、MnCO3が好ましい。空気中の安定性が良く、また、加熱により容易に分解するため、目的外の元素が残留しにくく、さらに、高純度の原料を入手しやすいからである。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用してもよい。
【0065】
(PO4源)
上記PO4源の具体例は、以下の通りである。
PO4の原料(以下適宜「PO4源」という)の具体例としては、元素Sr、Ba、NH4等のリン酸水素塩、リン酸塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、P25等の酸化物、PX3、PX5、Sr2PO4X、Ba2PO4X、リン酸、メタリン酸、ピロリン酸等が挙げられる。
【0066】
(X源)
上記X源の具体例は、以下の通りである。
Xの原料(以下適宜「X源」という)の具体例としては、SrX、BaX、NH4X、HX、Sr2PO4X、Ba2PO4X等が挙げられ、これらの中から、化学組成、反応性、及び、焼成時におけるNOx、SOx等の非発生性等を考慮して選択される。
【0067】
(Eu源)
上記Eu源の具体例は、以下の通りである。
Euの原料(以下適宜「Eu源」という)の具体例としては、Eu23等の酸化物、Eu2(SO43等の硫酸塩、Eu2(C243・10H2O等の蓚酸塩、EuCl2、EuCl3、EuCl3・6H2O等のハロゲン化物、Eu(OCOCH33・4H2O等のカルボン酸、Eu2(OCO)3・6H2O、Eu(NO33・6H2O等の硝酸塩、EuN、EuNH等の窒化物等が挙げられる。中でもEu23、EuCl3等が好ましく、特に好ましくはEu23である。
【0068】
なお、上述したSr源、Ba源、Mg源、Ca源、Zn源、Mn源、PO4源、X源、及び、Eu源は、それぞれ、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0069】
〔3−2.蛍光体の製造方法:混合工程〕
式[1]の化学組成で示される蛍光体が得られるように、各蛍光体原料を所定の比率で秤量し、ボールミル等を用いて十分混合して原料混合物を得る(混合工程)。
上記混合手法としては、特に限定はされないが、具体的には、下記(A)及び(B)の手法が挙げられる。
(A)例えばハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機、又は、乳鉢と乳棒等を用いる粉砕と、例えばリボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機、又は、乳鉢と乳棒を用いる混合とを組み合わせ、前述の蛍光体原料を粉砕混合する乾式混合法。
(B)前述の蛍光体原料に水等の溶媒又は分散媒を加え、例えば粉砕機、乳鉢と乳棒、又は蒸発皿と撹拌棒等を用いて混合し、溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
蛍光体原料の混合は、上記湿式混合法又は乾式混合法のいずれでも良いが、水又はエタノールを用いた湿式混合法がより好ましい。
【0070】
〔3−3.蛍光体の製造方法:焼成工程〕
調製した原料混合物を、加熱処理して焼成することにより、本発明の蛍光体を製造することができる。
焼成の際の具体的な操作手順に制限は無いが、通常は混合工程で得られた原料の混合物を、アルミナ製焼成容器に充填し、当該焼成容器内で焼成を行う。なお、焼成容器としては、アルミナ製坩堝に限定されず、各蛍光体原料と反応性の低い材料からなる坩堝又はトレイ等の耐熱容器等を用いることができる。焼成容器の素材の具体例としては、アルミナの他に、石英、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素、マグネシウム、ムライト等のセラミックス、カーボン(グラファイト)等が挙げられる。ここで、石英製の耐熱容器は、比較的低温、すなわち、1200℃以下での熱処理に使用することができ、好ましい使用温度範囲は1000℃以下である。
【0071】
焼成における焼成雰囲気としては、発光中心イオンの元素が発光に寄与するイオン状態(価数)を得るために必要な雰囲気が選択される。本発明の蛍光体が得られる限り任意であるが、通常は還元雰囲気である。蛍光体中に含まれる付活元素の価数としては、発光強度の点から、2価のものが多い方が好ましい。還元雰囲気下において焼成すると、蛍光体原料中ではEu3+であったEuが、Eu2+に還元されるので好ましい。
【0072】
還元雰囲気とするために用いるガス(以下、「還元ガス」と称す)の具体例としては、水素、一酸化炭素等が使用できる。これらのガスを単独で用いることもできるが、通常、不活性ガスと混合して使用する。不活性ガスとしては窒素、アルゴンなどが使用できるが、実用上の見地から水素含有窒素ガスが好ましい。
不活性ガスと還元性ガスとの混在環境下とする場合、ガスの全量に対する還元性ガスの割合(モル比)が、通常0.5%以上、好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上である。この範囲を下回ると、焼成によって焼成物が充分に還元されない可能性がある。
【0073】
また、還元性ガス及び不活性ガスは1種類のみを用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
なお、大気、酸素等の酸化雰囲気下も条件さえ選べば可能である。
焼成温度(最高到達温度)は、通常700℃以上、好ましくは900℃以上、また、通常1500℃以下、好ましくは1350℃以下である。焼成温度がこの範囲を下回ると、蛍光体原料として用いる炭酸塩などが酸化分解されない場合がある。また、焼成温度がこの範囲を上回ると、蛍光体粒子同士が融着し、粗大粒子となる場合がある。
【0074】
また、昇温速度は、通常1℃/分以上、また、通常40℃/分以下である。昇温速度がこの範囲を下回ると、焼成時間が長くなる可能性がある。また、昇温速度がこの範囲を上回ると、焼成装置、容器等が破損する場合がある。降温速度は、通常1℃/分以上、また、通常100℃/分以下である。降温速度がこの範囲を下回ると、工業的に効率が悪い。また、降温速度がこの範囲を上回ると、炉への悪影響が発生する。
【0075】
焼成時間は、焼成時の温度や圧力等によっても異なるが、通常1時間以上、また、通常24時間以下である。
焼成時の圧力は、焼成温度等によっても異なるため特に限定されないが、通常0.04MPa以上、また、通常0.1MPa以下である。このうち、工業的には大気圧程度がコスト及び手間の点で簡便であり好ましい。
【0076】
上述の焼成工程を経た焼成物は、後述の後処理等を行なうことで、本発明の蛍光体を得ることができる。
なお、特開2009−30042号公報の段落[0133]〜[0149]の記載のように、2回以上の焼成工程(1次焼成、2次焼成など)を行なう、多段階焼成を経て製造してもよい。例えば、1次焼成を酸化雰囲気中で行い、2次焼成を還元雰囲気中で行うといった、焼成工程を複数回繰り返すことで、焼成物が成長し、粒子径が大きく、発光効率が高い蛍光体を得ることができる。
また、上述の焼成工程において、通常、反応系にフラックスを共存させることで、良好な単粒子を成長させることができる。なお、2回以上の焼成工程を行なう、多段階焼成を経て製造する場合は、フラックスの添加効果は2段目以降で良好に得られる。
【0077】
〔3−4.蛍光体の製造方法:後処理〕
本発明の製造方法においては、上述した工程以外にも、必要に応じてその他の工程を行ってもよい。例えば、上述の焼成工程後、必要に応じて粉砕工程、洗浄工程、分級工程、表面処理工程、乾燥工程などを行なってもよい。
【0078】
〔4.ハロリン酸塩蛍光体含有組成物〕
第1の側面に係る蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、通常、透光性材料中に分散させた形態、即ち、蛍光体含有組成物の形態で用いる。
本発明の蛍光体含有組成物に使用可能な透光性材料としては、本発明の蛍光体を好適に分散させると共に、好ましくない反応等を生じないものであれば、任意のものを目的等に応じて選択することができる。透光性材料の例としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0079】
これらの透光性材料は1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なお、上記の透光性材料に有機溶媒を含有させることもできる。
蛍光体含有組成物は、本発明の蛍光体及び透光性材料に加え、その用途等に応じて、その他の任意の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、拡散剤、増粘剤、増量剤、干渉剤等が挙げられる。具体的には、アエロジル等のシリカ系微粉、アルミナ等が挙げられる。なお、これらその他の成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0080】
〔5.ハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置〕
次に、第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置について説明する。
第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置は、350−430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体とを有する発光装置において、第2の発光体は第1の蛍光体として第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体を含有している。
【0081】
〔5−1.第1の発光体〕
第1の発光体は、波長350〜430nmの光を発生する。好ましくは400nm以上、更に好ましくは405nm以上、より好ましくは407nm以上、また、好ましくは425nm以下、更に好ましくは415nm以下、より好ましくは413nm以下の範囲に、ピーク波長を有する光を発生する。特に、発光効率が高いことから、407nm以上の範囲にピーク波長を有するGaN系LEDを用いることが好ましい。
【0082】
この第1の発光体としては、一般的には半導体発光素子が用いられ、具体的には発光ダイオード(LED)や半導体レーザーダイオード(semiconductor laser diode;以下これを「LD」と略称することがある。)等が使用できる。
中でも、第1の発光体としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系LEDやLDが好ましい。GaN系LEDにおいては、それらの中でInXGaYN発光層を有するものが、発光強度が非常に強いので特に好ましい。なお、特開平6−260681に記載されているように、InXGaYN発光層を有するLEDにおいて、Xの値を大きくすることでLEDの発光ピーク波長を長波長側に波長シフトすることができる。GaN系LDにおいては、InXGaYN層とGaN層の多重量子井戸構造のものが、発光強度が非常に強いので特に好ましい。
【0083】
なお、上記においてX+Yの値は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましい。
GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極、および基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlXGaYN層、GaN層、またはInXGaYN層などでサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高く、好ましく、さらにヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率がさらに高く、より好ましい。
【0084】
これらLEDやLDは、公知のものが利用できる。
また、第1の側面に係る蛍光体は、上記〔2−6.ハロリン酸塩蛍光体の発光ピーク強度の温度特性〕の項や〔2−7.ハロリン酸塩蛍光体の発光輝度の温度特性〕の項のように、通常、温度特性にも優れるので、第1の発光体として高出力動作が可能で、作動時に130℃付近まで温度が上昇する高出力LED、例えばラージチップなどを用いて発光装置とした場合でも、通電時の発熱によっても色ずれや発光強度の低下などといった問題が起こりにくいため好ましい。
【0085】
ラージチップとしては例えば、外周形状が正方形の場合、一辺の長さが通常500μm以上、好ましくは700μm以上、より好ましくは900μm以上、また、通常5mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下のものが挙げられる。
【0086】
〔5−2.第2の発光体〕
第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置における第2の発光体は、上述した第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する発光体であり、第1の蛍光体を含有するとともに、その用途等に応じて適宜、第2の蛍光体を含有する。また、例えば、第2の発光体は、第1及び/又は第2の蛍光体を後述の封止材料中に分散させて構成される。
【0087】
〔5−2−1.第1の蛍光体〕
第1の側面に係るのハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置において、第2の発光体は、上記の第1の側面に係る蛍光体を含有するものであり、第1の蛍光体として、少なくとも、1種以上の第1の側面に係る蛍光体を含有する。また、第1の蛍光体としては、第1の側面に係る蛍光体以外にも、第1の側面に係る蛍光体と同色の蛍光を発する蛍光体(以下これを「同色併用蛍光体」ということがある。)を同時に用いても良い。通常、第1の側面に係る蛍光体は青〜青緑色蛍光体であるので、第1の蛍光体として、第1の側面に係る蛍光体と共に他種の青色〜青緑色(同色併用蛍光体)を併用することができる。同色併用蛍光体としては、例えば、BaMgAl1017:Eu、Sr5(PO43Cl:Eu等が挙げられる。
【0088】
〔5−2−2.第2の蛍光体〕
第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置における第2の発光体は、その用途に応じて、上述の第1の蛍光体以外にも蛍光体(即ち、第2の蛍光体)を含有していてもよい。この第2の蛍光体は、第1の蛍光体とは発光波長が異なる蛍光体である。通常、これらの第2の蛍光体は、第2の発光体の発光の色調を調節するために使用されるため、第2の蛍光体としては第1の蛍光体とは異なる色の蛍光を発する蛍光体を使用することが多い。
【0089】
上記のように、通常は第1の蛍光体として第1の側面に係る蛍光体を使用するので、第2の蛍光体としては、例えば、510nm以上550nm以下の波長範囲に発光ピークを有する蛍光体(以下これを「緑色蛍光体」ということがある。)、580nm以上680nm以下の波長範囲に発光ピークを有する蛍光体(以下これを「赤色蛍光体」ということがある。)等の蛍光体を用いることが好ましい。また、黄色蛍光体を用いることもできる。
【0090】
なお、第2の蛍光体としては、1種類の蛍光体を単独で使用してもよく、2種以上の蛍光体を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、第1の蛍光体と第2の蛍光体との比率も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。したがって、第2の蛍光体の使用量、並びに、第2の蛍光体として用いる蛍光体の組み合わせ及びその比率などは、発光装置の用途などに応じて任意に設定すればよい。
【0091】
次に、第2の蛍光体について、さらに具体的に説明する。
〔5−2−2−1.緑色蛍光体〕
第2の蛍光体として緑色蛍光体を用いる場合、その発光ピーク波長は、通常500nmより大きく、中でも510nm以上、さらには515nm以上であることが好ましく、また、通常550nm以下、中でも540nm以下、さらには535nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長が短過ぎると青味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると黄味を帯びる傾向があり、何れも緑色光としての特性が低下する可能性がある。
【0092】
緑色蛍光体の発光ピークの半値幅は、通常40nm〜80nmの範囲である。また、外部量子効率は、通常60%以上、好ましくは70%以上であり、重量メジアン径は、通常1μm以上、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10mμ以上であり、通常30μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。
このような緑色蛍光体として、例えば、国際公開WO2007−091687号公報に記載されている(Ba,Ca,Sr,Mg)2SiO4:Eu(以下、「BSS蛍光体」と略称することがある。)で表されるEu付活アルカリ土類シリケート系蛍光体等が挙げられる。
【0093】
また、そのほか、緑色蛍光体としては、例えば、特許第3921545号公報に記載されているSi6-zAlz8-zz:Eu(但し、0<z≦4.2である。以下、「β−SiAlON蛍光体」と略称することがある。)等のEu付活酸窒化物蛍光体や、国際公開WO2007−088966号公報に記載されているM3Si6122:Eu(但し、Mはアルカリ土類金属元素を表す。以下、「BSON蛍光体」と略称することがある。)等のEu付活酸窒化物蛍光体や、特開2008−274254号公報に記載されているBaMgAl1017:Eu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体(以下、「GBAM蛍光体」と略称することがある。)を用いることも可能である。
【0094】
その他の緑色蛍光体としては、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si222:Eu等のEu付活アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体、Sr4Al1425:Eu、(Ba,Sr,Ca)Al24:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(Sr,Ba)Al2Si28:Eu、(Ba,Mg)2SiO4:Eu、(Ba,Sr,Ca)2(Mg,Zn)Si27:Eu、(Ba,Ca,Sr,Mg)9(Sc,Y,Lu,Gd)2(Si,Ge)624:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、Y2SiO5:Ce,Tb等のCe,Tb付活珪酸塩蛍光体、Sr227−Sr225:Eu等のEu付活硼酸リン酸塩蛍光体、Sr2Si38−2SrCl2:Eu等のEu付活ハロ珪酸塩蛍光体、Zn2SiO4:Mn等のMn付活珪酸塩蛍光体、CeMgAl1119:Tb、Y3Al512:Tb等のTb付活アルミン酸塩蛍光体、Ca28(SiO462:Tb、La3Ga5SiO14:Tb等のTb付活珪酸塩蛍光体、(Sr,Ba,Ca)Ga24:Eu,Tb,Sm等のEu,Tb,Sm付活チオガレート蛍光体、Y3(Al,Ga)512:Ce、(Y,Ga,Tb,La,Sm,Pr,Lu)3(Al,Ga)512:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、Ca3Sc2Si312:Ce、Ca3(Sc,Mg,Na,Li)2Si312:Ce等のCe付活珪酸塩蛍光体、CaSc24:Ce等のCe付活酸化物蛍光体、Eu付活βサイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体、SrAl24:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(La,Gd,Y)22S:Tb等のTb付活酸硫化物蛍光体、LaPO4:Ce,Tb等のCe,Tb付活リン酸塩蛍光体、ZnS:Cu,Al、ZnS:Cu,Au,Al等の硫化物蛍光体、(Y,Ga,Lu,Sc,La)BO3:Ce,Tb、Na2Gd227:Ce,Tb、(Ba,Sr)2(Ca,Mg,Zn)B26:K,Ce,Tb等のCe,Tb付活硼酸塩蛍光体、Ca8Mg(SiO44Cl2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロ珪酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba)(Al,Ga,In)24:Eu等のEu付活チオアルミネート蛍光体やチオガレート蛍光体、(Ca,Sr)8(Mg,Zn)(SiO44Cl2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロ珪酸塩蛍光体、M3Si694:Eu等のEu付活酸窒化物蛍光体等を用いることもできる。
【0095】
また、国際公開WO2009−072043号公報に記載されているSr5Al5Si21235:Euや、国際公開WO2007−105631号公報に記載されているSr3Si13Al3212:Euを用いることもできる。
以上の中でも、緑色蛍光体としては、BSS蛍光体、β−SiAlON蛍光体、BSON蛍光体が好ましい。
以上に例示した緑色蛍光体は、何れか一種のみを使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0096】
〔5−2−2−2.赤色蛍光体〕
第2の蛍光体として赤色蛍光体を用いる場合、その発光ピーク波長は、通常565nm以上、好ましくは575nm以上、より好ましくは580nm以上、また、通常780nm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは680nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0097】
赤色蛍光体の発光ピークの半値幅は、通常1nm〜100nmの範囲である。また、外部量子効率は、通常60%以上、好ましくは70%以上であり、重量メジアン径は、通常1μm以上、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。
このような赤色蛍光体として、例えば、例えば、特開2006−008721号公報に記載されているCaAlSiN3:Eu、特開2008−7751号公報に記載されている(Sr,Ca)AlSiN3:Eu、特開2007−231245号公報に記載されているCa1-xAl1-xSi1+x3-xx:Eu等のEu付活酸化物、窒化物又は酸窒化物蛍光体等や、特開2008―38081号公報(Sr,Ba,Ca)3SiO5:Eu(以下、「SBS蛍光体」と略称することがある。)を用いることも可能である。
【0098】
そのほか、赤色蛍光体としては、(Mg,Ca,Sr,Ba)2Si58:Eu等のEu付活アルカリ土類シリコンナイトライド系蛍光体、(La,Y)22S:Eu等のEu付活酸硫化物蛍光体、(Y,La,Gd,Lu)22S:Eu等のEu付活希土類オキシカルコゲナイド系蛍光体、Y(V,P)O4:Eu、Y23:Eu等のEu付活酸化物蛍光体、(Ba,Mg)2SiO4:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Eu,Mn等のEu,Mn付活珪酸塩蛍光体、LiW28:Eu、LiW28:Eu,Sm、Eu229、Eu229:Nb、Eu229:Sm等のEu付活タングステン酸塩蛍光体、(Ca,Sr)S:Eu等のEu付活硫化物蛍光体、YAlO3:Eu等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、Ca28(SiO462:Eu、LiY9(SiO462:Eu等のEu付活珪酸塩蛍光体、(Y,Gd)3Al512:Ce、(Tb,Gd)3Al512:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、(Mg,Ca,Sr,Ba)2Si5(N,O)8:Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)Si(N,O)2:Eu、(Mg,Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O)3:Eu等のEu付活酸化物、窒化物又は酸窒化物蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、Ba3MgSi28:Eu,Mn、(Ba,Sr,Ca,Mg)3(Zn,Mg)Si28:Eu,Mn等のEu,Mn付活珪酸塩蛍光体、3.5MgO・0.5MgF2・GeO2:Mn等のMn付活ゲルマン酸塩蛍光体、Eu付活αサイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)23:Eu,Bi等のEu,Bi付活酸化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)22S:Eu,Bi等のEu,Bi付活酸硫化物蛍光体、(Gd,Y,Lu,La)VO4:Eu,Bi等のEu,Bi付活バナジン酸塩蛍光体、SrY24:Eu,Ce等のEu,Ce付活硫化物蛍光体、CaLa24:Ce等のCe付活硫化物蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgP27:Eu,Mn、(Sr,Ca,Ba,Mg,Zn)227:Eu,Mn等のEu,Mn付活リン酸塩蛍光体、(Y,Lu)2WO6:Eu,Mo等のEu,Mo付活タングステン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)xSiyz:Eu,Ce(但し、x、y、zは、1以上の整数を表わす。)等のEu,Ce付活窒化物蛍光体、(Ca,Sr,Ba,Mg)10(PO46(F,Cl,Br,OH):Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、((Y,Lu,Gd,Tb)1-x-yScxCey2(Ca,Mg)1-r(Mg,Zn)2+rSiz-qGeq12+δ等のCe付活珪酸塩蛍光体等を用いることもできる。
【0099】
また、国際公開WO2008−096300号公報に記載されているSrAlSi47や、米国特許7524437号公報に記載されているSr2Al2Si9214:Euを用いることもできる。
以上の中でも、赤色蛍光体としては、CASN蛍光体、SCASN蛍光体、CASON蛍光体、SBS蛍光体が好ましい。
以上に例示した赤色蛍光体は、何れか一種のみを使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0100】
〔5−3.第1の発光体、第1の蛍光体、第2の蛍光体の組み合わせ〕
第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置において、以上説明した第2の蛍光体(緑色蛍光体、赤色蛍光体)の使用の有無及びその種類は、発光装置の用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、第1の蛍光体が青色蛍光体である場合には、本発明の発光装置を青色に発光する発光装置として構成する場合には、第1の蛍光体のみを使用すればよく、第2の蛍光体の使用は通常は不要である。
【0101】
一方、所望の色の光が得られるように、第2の発光体が含有する蛍光体として、第1の蛍光体(青色蛍光体)と第2の蛍光体とを適切に組み合わせて発光装置を構成することもできる。例えば、第1の蛍光体として青色蛍光体(本発明の蛍光体等)を使用し、第2の蛍光体として緑色蛍光体及び赤色蛍光体を使用する。これにより、白色に発光する発光装置を構成することができ、特に昼白色や電球色に発光するように微調整することが可能である。
【0102】
特に、緑色蛍光体としてBSS蛍光体を、赤色蛍光体としてCASON蛍光体を用いることが好ましい。また、緑色蛍光体としてβ−SiAlON蛍光体を、赤色蛍光体としてCASON蛍光体を用いることが好ましい。さらに、緑色蛍光体としてβ−SiAlON蛍光体を、赤色蛍光体としてSBS蛍光体を用いることが好ましい。また、緑色蛍光体としてβ−SiAlON蛍光体を、赤色蛍光体としてSCASN蛍光体を用いることが好ましい。
【0103】
〔5−4.封止材料〕
第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置において、上記第1及び/又は第2の蛍光体は、通常、透光性材料に分散させて封止して用いられる。透光性材料の好適例として、LEDチップの保護に用いられる封止材料が挙げられる。封止材料としては、上記〔4.蛍光体含有組成物〕の項で記載したのと同様のものが挙げられるが、ピーク波長が350nm〜430nmの近紫外領域にある、LED等の第1の発光体を用いる場合、その発光に対して充分な透明性と耐久性のある樹脂が封止材料として好ましい。
【0104】
そこで、封止材料として、例えば、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂等が挙げられる。また、シロキサン結合を有する無機系材料やガラスを用いることもできる。
これらのうち、耐熱性、耐紫外線(UV)性等の点から、珪素含有化合物であるシリコーン樹脂や金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液またはこれらの組み合わせを固化した無機系材料、例えばシロキサン結合を有する無機系材料が好ましい。
【0105】
これらの封止材料は1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なお、上記の封止材料に有機溶媒を含有させることもできる。
封止材料には、その用途等に応じて、その他の任意の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、拡散剤、増粘剤、増量剤、干渉剤等が挙げられる。具体的には、アエロジル等のシリカ系微粉、アルミナ等が挙げられる。なお、これらその他の成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0106】
〔5−5.発光装置の構成(その他)〕
第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体を用いた発光装置は、上述の第1の発光体及び第2の発光体を備えていれば、そのほかの構成は特に制限されないが、通常は、適当なフレーム上に上述の第1の発光体及び第2の発光体を配置してなる。この際、第1の発光体の発光によって第2の発光体が励起されて(即ち、第1及び第2の蛍光体が励起されて)発光を生じ、且つ、この第1の発光体の発光及び/又は第2の発光体の発光が、外部に取り出されるように配置されることになる。この場合、第1の蛍光体と第2の蛍光体とは必ずしも同一の層中に混合されなくてもよく、例えば、第1の蛍光体を含有する層の上に第2の蛍光体を含有する層が積層する等、蛍光体の発色毎に別々の層に蛍光体を含有するようにしてもよい。
【0107】
第1の側面に係る発光装置では、上述の励起光源(第1の発光体)、蛍光体(第2の発光体)及びフレーム以外の部材を用いてもよい。その例としては、前述の封止材料が挙げられる。該封止材料は、発光装置において、蛍光体(第2の発光体)を分散させる目的以外にも、励起光源(第1の発光体)、蛍光体(第2の発光体)及びフレーム間を接着する目的で用いたりすることができる。
【0108】
〔5−6.発光装置の用途〕
第1の側面に係る発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用可能であるが、色再現範囲が広く、且つ、演色性も高いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
【0109】
〔5−7.照明装置〕
第1の側面に係る照明装置は、本発明の発光装置を備えるものである。
第1の側面に係る発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。
【0110】
〔5−8.画像表示装置〕
第1の側面に係る画像表示装置は、本発明の発光装置を備えるものである。
第1の側面に係る発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【0111】
〔6.白色発光装置〕
本発明の別の態様は、白色発光装置(以下、「第2の側面に係る白色発光装置」と略称することがある)である。第2の側面に係る白色発光装置は、近紫外波長域の光を放出する半導体発光素子と、蛍光体とを備え、該半導体発光素子が放出する光を該蛍光体で波長変換することにより白色光を発生させる、蛍光体変換型の白色発光装置であって、上記蛍光体が、下記一般式[1]の化学組成を有する青色蛍光体と、発光ピーク波長が535nm以上である緑色蛍光体と、Eu付活窒化物蛍光体及びEu付活酸窒化物蛍光体から選ばれる少なくとも一種の赤色蛍光体とを含むことを特徴としている。
(Sr,Ca)aBabEux(PO4cd [1]
(上記一般式[1]において、XはClである。また、c、d及びxは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1、0.3≦x≦1.2を満足する数である。さらに、a及びbは、a+b=5−xかつ0.05≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する。)
【0112】
第2の側面に係る白色発光装置は、半導体発光素子と蛍光体との光学的な結合の形態により限定されるものではなく、両者の間は単に透明な媒体(空気を含む)で充たされているだけであってもよいし、あるいは、レンズ、光ファイバ、導光板などの光学素子が両者の間に介在していてもよい。
【0113】
第2の側面に係る白色発光装置に含まれる蛍光体は、その形態によって限定されるものではなく、微粒子の形態を有しているものであってもよいし、蛍光体相を含有する発光セラミックの形態を有するものであってもよい。微粒子の形態を有している蛍光体は、高分子材料またはガラスからなる透明マトリックス中に分散させる、あるいは、適宜な部材の表面に電着などの方法で堆積させる等、常法に従って固定化された状態で、発光装置に組み込まれる。
【0114】
第2の側面に係る白色発光装置は、いわゆる白色LEDであり得る。最も一般的な白色LEDは、砲弾型、SMD型などのパッケージにLEDチップが実装され、そのLEDチップの表面を覆う封止樹脂中に微粒子の形態を有する蛍光体が添加された構造を有する。
以下に、第2の側面に係る白色発光装置の各部の構成を詳細に説明する。
【0115】
〔6−1.半導体発光素子〕
第2の側面に係る白色発光装置に用いられる半導体発光素子は、近紫外波長域の光、すなわち波長350〜430nmの範囲内の光を放出可能な発光ダイオード(LED)又はレーザダイオード(LD)であり、中でも、GaN、AlGaN、GaInN、AlGaInNなどのGaN系半導体を使用して発光構造を構成したGaN系のLEDやLDが好ましい。GaN系半導体以外では、ZnO系半導体で発光構造を構成したLEDやLDが好ましい。GaN系LEDにおいては、Inを含むGaN系半導体からなる発光部を有するもの、中でも、InGaN層を含む量子井戸構造を発光部に有するものが、発光強度が非常に強いので特に好ましい。GaN系LEDの発光ピーク波長は、好ましくは400nm以上、より好ましくは405nm以上、更に好ましくは407nm以上、また、好ましくは425nm以下、更に好ましくは420nm以下、より好ましくは415nm以下である。この発光ピーク波長が400nm未満であるとGaN系LEDの発光効率が低くなる傾向があり、425nmを超えると後述する青色蛍光体の励起効率が低下する傾向がある。
【0116】
〔6−2.青色蛍光体〕
第2の側面に係る白色発光装置は、青色蛍光体として、下記一般式[1]の化学組成を有するハロリン酸塩蛍光体(以下、「青色蛍光体(I)」と称する場合がある。)を用いることを特徴としている。
(Sr,Ca)aBabEux(PO4cd [1]
(上記一般式[1]において、XはClである。また、c、d及びxは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1、0.3≦x≦1.2を満足する数である。さらに、a及びbは、a+b=5−xかつ0.05≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する。)
ここで、a、b、x、c及びdは、それぞれ順に、Sr元素のモル比、Ba元素のモル比、Eu元素のモル比、PO4基のモル比、アニオン基Xのモル比を表す。例えば、Eu0.5Sr3.825Ba0.675(PO43Clなる組成の場合、a=3.825、b=0.675、x=0.5、c=3、d=1であるので、前記[1]式の範疇に入る。
なお、該蛍光体は、本発明の効果を損なわない程度に、上述以外の元素を含有していてもよい。
【0117】
第2の側面に係る白色発光装置に用いる青色蛍光体(I)における一般式[1]は、第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体と同一である。しかしながら、第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体を、第2の側面に係る白色発光装置に適用する場合、青色蛍光体(I)の好ましい範囲は、第1の側面に係るハロリン酸塩蛍光体単独としての好ましい範囲と異なる場合があり、以下相違点を中心に説明する。
青色蛍光体(I)は、式[1]が表しているように、該蛍光体はSr元素とCa元素とBa元素を特定量含有するものとなっており、具体的には、Sr元素とCa元素のモル比a及びBa元素のモル比bが、a+b=5−x、並びに、b/(a+b)の値が0.05以上0.6以下の条件を満足するものとなっている。b/(a+b)の値が大きくなるにつれ、発光スペクトルにおける発光ピークがブロード化し、特に、0.16以上で急にその半値幅が大きくなる。この発光ピークのブロード化は、主として発光ピーク波長より長波長側で生じるため、著しい輝度増加を伴うものとなる。この発光ピークのブロード化は、b/(a+b)の値が0.6以下、特に0.4以下の範囲内で飽和する傾向がある。
【0118】
b/(a+b)の値の下限を0.05としている理由は、この値が小さすぎる場合には、490nm付近の波長領域における青色蛍光体(I)の発光強度が十分高くならないために、本発明の目的を達成することが難しくなるからである。一方、この値に特に上限はないが、上記の通り、0.6以下、特に0.4以下の範囲内で発光ピークのブロード化が飽和する傾向があることから、通常は、0.6以下、好ましくは0.4以下の範囲内でこの値を適切に設定することにより、本発明の目的を好ましく達成することができる。
【0119】
青色蛍光体(I)の発光特性については、波長410nmの光で励起したときに青色蛍光体(I)が発する蛍光のスペクトル(発光スペクトル)は、発光ピーク波長が、通常440nm以上、好ましくは450nm以上であり、また、通常475nm以下、好ましくは460nm以下の範囲にあるものである。発光ピーク波長を450〜460nmの範囲内とすることによって、白色発光装置の演色性を特に高いものとすることができる。
【0120】
波長410nmの光で励起した発光スペクトルにおける、青色蛍光体(I)の発光ピークの半値幅は、上述の通り、式[1]におけるb/(a+b)の値に応じて変化する。換言すれば、このb/(a+b)をパラメータとして、該半値幅を制御することが可能である。青色蛍光体(I)を波長410nmの光で励起した場合の発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(ピーク)、波長490nmにおける発光強度をI(490nm)としたときの、I(490nm)/I(ピーク)の値もまた、b/(a+b)の値の変化に対して、上記の半値幅と類似した挙動を示す。ここで、発光ピーク波長における強度とは、発光ピークのピークトップが存在する波長における発光強度を意味する。
【0121】
第2の側面に係る白色発光装置では、後述するように、緑色蛍光体の発光スペクトルで不足する490nm付近の波長領域の成分を、青色蛍光体(I)からの発光によって補うことで、鮮やかな青色の再現性の低下を防止する。従って、青色蛍光体(I)のI(490nm)/I(ピーク)の値は、使用する緑色蛍光体の発光特性に応じて、式[1]のb/(a+b)値をパラメータとして適切に調整される。必要な場合には、式[1]のb/(a+b)値を0.16以上とすることにより、I(490nm)/I(ピーク)の値は0.5以上とすることができる(Ca元素を実質的に含有しない場合)。
【0122】
具体例を挙げれば、緑色蛍光体として、発光ピーク波長が535〜545nm、発光ピークの半値幅が55〜70nmであるEu付活酸窒化物系又はEu付活アルカリ土類シリケート系蛍光体を用いる場合には、青色蛍光体(I)の発光ピーク波長が450〜460nmの範囲内、I(490nm)/I(ピーク)の値が0.55〜0.65程度となるように、式[1]のb/(a+b)値を0.15〜0.20の範囲内で調節すればよい(Ca元素を実質的に含有しない場合)。
【0123】
〔6−3.緑色蛍光体〕
第2の側面に係る白色発光装置は、半導体発光素子が放出する近紫外光で励起されたとき、535nm以上の波長範囲に発光ピーク波長を有する緑色蛍光体を用いるものである。前述の通り、β−SiAlON蛍光体やBSON蛍光体といったEu付活酸窒化物系の緑色蛍光体において、発光ピーク波長を535nm以上とすることは高輝度化の有効な手段である。ただし、発光ピーク波長が560nmよりも長波長となると発光色が黄色となり、高演色の白色発光装置には適さないものとなる。白色発光装置の演色性が低下しないためには、緑色蛍光体の発光ピーク波長は好ましくは550nm以下、より好ましくは545nm以下である。
【0124】
Eu付活酸窒化物系の高輝度緑色蛍光体は、通常、発光ピークの半値幅が80nm以下であるが、この半値幅は75nm以下とすることが好ましく、70nm以下とすることがより好ましく、66nm以下とすることが好ましい。なぜなら、発光ピークの半値幅が広いほど、緑色蛍光体の発光スペクトルに含まれる黄色成分が多くなり、ひいては白色発光装置の演色性が低下するからである。その理由を簡単に説明すれば、緑色蛍光体の発光スペクトルが黄色蛍光体のそれに近づくほど、その緑色蛍光体を用いた白色発光装置の発光スペクトルは、青色光及び黄色光のみからなる白色光のスペクトルに近くならざるを得ないからである。このような白色光は、擬似白色光とも呼ばれ、光色は白色であるが、色再現性が劣悪であることはよく知られている通りである。また、Eu付活酸窒化物系の高輝度緑色蛍光体は、通常、発光ピークの半値幅が50nm以上であるが、この半値幅は53nm以上とすることが好ましく、55nm以上とすることがより好ましく、60nm以上とすることが特に好ましく、65nm以上とすることが最も好ましい。
【0125】
β−SiAlON蛍光体やBSON蛍光体といったEu付活酸窒化物系の緑色蛍光体は、発光スペクトルのピーク形状の対称性が高いために、発光ピーク波長を535nm以上とすると同時に、発光ピークの半値幅を80nm以下とした場合、波長490nm付近の波長領域における発光強度低下が著しくなる。本発明者等が見出したところによれば、このときに上記の青色蛍光体(I)を用いることによって、白色発光装置の鮮やかな青色の再現性が低下することが防止される。その理由は、波長490nm付近のスペクトルが、青色蛍光体(I)からの発光により補われるためであると考えられる。
【0126】
上記の説明から、緑色蛍光体にEu付活酸窒化物系の蛍光体を用いる場合に限らず、Eu付活アルカリ土類シリケート系の蛍光体を用いる場合においても、青色蛍光体(I)を利用することによって、鮮やかな青色の再現性が良好な白色発光装置を得ることが可能であることは、当業者であれば理解されよう。Eu付活アルカリ土類シリケート系蛍光体は、β―SiAlON蛍光体やBSON蛍光体と同様に、発光スペクトルのピーク形状の対称性が高いという性質を有している。
【0127】
〔6−4.赤色蛍光体〕
第2の側面に係る白色発光装置は、赤色蛍光体としてEu付活窒化物蛍光体又はEu付活酸窒化物蛍光体を用いるものである。Eu付活窒化物系赤色蛍光体の典型例は、前述のCASN蛍光体及びSCASN蛍光体であり、Eu付活酸窒化物系赤色蛍光体の典型例は、前述のCASON蛍光体である。これらの赤色蛍光体は、通常、620nm〜660nmの範囲にピーク波長を有するブロードな発光バンドを有しており、高演色の白色発光装置を製造するうえで欠かせない蛍光体といっても過言ではない。なお、本発明者等が見出しているところによれば、この種の赤色蛍光体を上述の緑色蛍光体と組み合わせる場合には、出力光(白色光)のスペクトル強度が波長580nm付近において高くなり過ぎないように各蛍光体の選択を行うことによって、白色発光装置の特殊演色評価数R9を高いものとすることができる。このR9は、鮮やかな赤色に関する演色性の評価指針である。
【0128】
[6−5.発光装置の構成]
第2の側面に係る白色発光装置は、上述の半導体発光素子及び蛍光体を備えていれば、そのほかの構成は特に制限されないが、通常は、適当なフレーム(リードフレームまたは回路基板)上に上述の半導体発光素子が固定され、その固定された発光素子の保護に用いる封止材料中に、微粒子の形態を有する上述の蛍光体が分散される。
【0129】
封止材料は、半導体発光素子及び蛍光体からの放射に対して充分な透明性と耐久性があり、かつ、各蛍光体を好適に分散させると共に、好ましくない反応等を生じない透光性材料であればよい。具体的には、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂等の樹脂や、無機ガラス等から選択することができる。耐熱性や耐光性等の点から最も好ましいのは、ケイ素含有化合物である。ケイ素含有化合物とは、分子中にケイ素原子を有する化合物をいい、例えば、ポリオルガノシロキサン等の有機材料(シリコーン系材料)、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料、及びホウケイ酸塩、ホスホケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等のガラス材料が挙げられる。中でも、透明性、接着性、ハンドリングの容易さ、機械的・熱的応力の緩和特性に優れる等の点から、シリコーン系材料が好ましい。シリコーン系材料とは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、例えば、縮合型、付加型、ゾルゲル型、光硬化型、などのシリコーン系材料を用いることができる。封止材料中には、蛍光体だけではなく、拡散剤、増粘剤、増量剤、干渉剤等、必要に応じて種々の添加物を混合することができる。
【0130】
一実施形態では、半導体発光素子を封止材料によって多層に覆ってもよく、その場合には、蛍光体を添加した層としない層とを設けることができる他、特定の蛍光体のみが添加された層であるとか、特定の蛍光体のみが添加されていない層など、種々の層を設けることができる。
【0131】
第2の側面に係る白色発光装置は、出力光の中に半導体発光素子が放出する光の一部を含んでいてもよい。この光は視感度を有さない紫外光であってもよいし、あるいは、白色光の一部を構成する可視光であってもよい。例えば、ピーク波長が425nm、半値幅が30nmという発光ピークを有する半導体発光素子を用いる場合、この半導体発光素子が放出する光には440nm以上の波長を有する青色光が含まれるが、この青色光が白色発光装置の出力光に含まれてもよい。
【0132】
第2の側面に係る白色発光装置において、半導体発光素子が放出する光を波長変換する蛍光体は、上記青色蛍光体(I)に該当する蛍光体を2種類以上含んでいてもよく、また、発明の作用効果を阻害しない限りにおいて、上記青色蛍光体(I)以外に、他の任意の青色蛍光体を含んでいてもよい。
【0133】
第2の側面に係る白色発光装置において、半導体発光素子が放出する光を波長変換する蛍光体は、発光ピーク波長が535nm以上である緑色蛍光体を2種類以上含んでいてもよく、また、発明の作用効果を阻害しない限りにおいて、かかる緑色蛍光体以外に、他の任意の緑色蛍光体を含んでいてもよい。
【0134】
第2の側面に係る白色発光装置において、半導体発光素子が放出する光を波長変換する蛍光体は、Eu付活窒化物蛍光体又はEu付活酸窒化物蛍光体に該当する赤色蛍光体を2種類以上含んでいてもよいし、また、発明の作用効果を阻害しない限りにおいて、かかる赤色蛍光体以外に、他の任意の赤色蛍光体を含んでいてもよい。
【0135】
第2の側面に係る白色発光装置において、半導体発光素子が放出する光を波長変換する蛍光体は、発明の作用効果を阻害しない限りにおいて、青色蛍光体、緑色蛍光体及び赤色蛍光体以外に、黄色蛍光体などの、青色、緑色及び赤色以外の発光色を有する任意の蛍光体を含んでいてもよい。
【実施例】
【0136】
以下、実験例、比較実験例を示して本発明について更に具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、実験例、比較実験例の蛍光体の発光特性等の測定は、次の方法で行った。
【0137】
[化学分析]
化学分析は、全量をアルカリ等に溶解させたものを用いて、蛍光X線法により測定を行なった。
【0138】
[発光スペクトル]
発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)を用いて測定した。励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長410nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射した。励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピュータによる感度補正等の信号処理を経て発光スペクトルを得た。なお、測定時には、受光側分光器のスリット幅を1nmに設定して測定を行なった。
【0139】
[色度座標]
x、y表色系(CIE 1931表色系)の色度座標は、上述の方法で得られた発光スペクトルの420nm〜800nmの波長領域のデータから、JIS Z8724に準じた方法で、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標xとyとして算出した。
【0140】
[温度特性]
温度特性の測定は、発光スペクトル測定装置としてMCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置(大塚電子製)、輝度測定装置として色彩輝度計、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ及び光源として150Wキセノンランプを備える装置を用いて、下記手順で行なった。
【0141】
ステージに蛍光体のサンプルを入れたセルを載せ、設定温度を約20℃、25℃、50℃、75℃、100℃、125℃、150℃、175℃と段階的に変化させ、蛍光体の表面温度を確認し、次いで、光源から回折格子で分光して取り出した波長410nmの光で蛍光体を励起して、輝度値及び発光スペクトルを測定した。測定された発光スペクトルから、発光ピーク強度を求めた。ここで、蛍光体の励起光照射側の表面温度の測定値としては、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いた。
【0142】
[蛍光体の製造、及び製造した蛍光体の発光特性]
実験例1
SrHPO4(白辰社製)、SrCO3(レアメタリック社製99.99+%)、BaCO3(レアメタリック社製99.99+%)、SrCl2・6H2O(和光純薬社製99.9%)、BaCl2・6H2O(和光純薬社製 特級)、およびEu23(レアメタリック社製 99.99%)を、そのモル比が3:0.55:0.45:1:0:0.25となるように、エタノールと共にめのう乳鉢中で粉砕、混合し、乾燥後、得られた粉砕混合物の4.0gをアルミナ製坩堝中で、4%の水素を含む窒素ガス流下1200℃で3時間加熱することにより焼成し、引き続いて、水洗浄、乾燥を行うことにより蛍光体Eu0.5Sr4.05Ba0.45(PO43Clを製造した。なお、仕込みのうち、SrCl2+BaCl20.5モル分はフラックスとして過剰仕込みとなっている。なお、表1には、化学分析により補正した組成式が示されている。
また、本実験例においては、原料化合物を混合するために、溶媒としてエタノールを用いた湿式混合法によって混合を行ったが、原料化合物の混合が充分に行えるのであればこの方法に限られるものではなく、溶媒として水を用いた湿式混合法によっても、乾式混合法によっても、同等の性能の蛍光体を得ることができる。
【0143】
表1に蛍光体の組成を、表2にGaN系発光ダイオードの主波長である410nmでこの蛍光体を励起したときの発光特性(半値幅、輝度等)を示す。
【0144】
【表1】

【0145】
【表2】

【0146】
比較実験例1
実験例1において、SrHPO4、SrCO3、BaCO3、SrCl2・6H2O、BaCl2・6H2O、Eu23の仕込みモル比を3:1:0:1:0:0.25と変えた他は、実験例1と同様に実験を行ったところ、表1の比較実験例1に示す、Baを含まない蛍光体(SCA蛍光体)を得た。その発光特性を表2に示す。実験例1は、比較実験例1に比較して、輝度が100に対し187、半値幅が31に対し36と高くなっていることがわかる。これは、Ba元素を含有させることで、発光ピークが長波長側にブロード化したためである。また、b/(a+b)の値が0.10である実験例1の蛍光体は、Ba元素を含有させることで発光ピークが長波長側にブロード化したために、Ba元素を含有しない比較実験例1のSCA蛍光体と比較すると、発光ピーク波長は殆ど変わらないが、I(490nm)/I(ピーク)の値は2倍以上となった(発光スペクトルを図1に示す)。
【0147】
実験例1の蛍光体は、比較実験例1のものと比較して輝度が87%も高いものとなっているため、SCA蛍光体に代えて実験例1の蛍光体を用いて、LED等の発光体と組み合わせて発光装置とした場合に、輝度が高く、演色性に優れた発光装置となると考えられる。
【0148】
実験例2〜5及び比較実験例2
実験例1において、SrCl2・6H2O/BaCl2・6H2Oモル比とSrCO3/BaCO3モル比が同一となるようにし、かつ、SrCl2+BaCl20.5モル分をフラックスとして過剰仕込みとなるように、SrHPO4、SrCO3、BaCO3、SrCl2・6H2O、BaCl2・6H2O、Eu23の仕込みモル比を変えたこと以外は、実験例1と同様に実験を行うことによって、表1の実験例2〜5及び比較実験例2に示す、b/(a+b)の値が0.05〜0.34である蛍光体を得た。表2にそれぞれの発光特性を示す。
【0149】
表1及び表2の、実験例1〜5、比較実験例1及び比較実験例2は、xを一定にして、b/(a+b)を変化させたものを、比較するものとなっている。なお、「短波長側の半値波長(nm)」とは、発光ピーク強度の半分の強度を有する波長のうち、短波長側の波長のことを指し、「長波長側の半値波長(nm)」とは、発光ピーク強度の半分の強度を有する波長のうち、長波長側の波長のことを指す。
【0150】
b/(a+b)の値を0.10〜0.34と変えた場合、半値幅が36〜82と比較実験例1の31より高く、輝度が187〜438と比較実験例1の100より高いことがわかる。特にBa含有量の増加に伴い、半値幅及び輝度の増大が見られた。
なお、比較実験例2のように、b/(a+b)の値が0.05と小さくなると、半値幅が32と比較実験例1の31よりわずかに高くなっているにとどまり、輝度も133と比較実験例1の100よりわずかに高くなっているにとどまっていることがわかる。また、I(490nm)/I(ピーク)の値が0.12と、比較実験例1の0.08よりわずかに高くなるにとどまった。
また、実験例1〜5より、b/(a+b)の値が増大するに従って、短波長側の半値波長よりも長波長側の半値波長の増加の割合が大きくなり、I(490nm)/I(ピーク)の値が増加するとともに、発光輝度が著しく増加していることがわかる。
【0151】
実験例6
実験例1において、SrHPO4、SrCO3、BaCO3、CaCO3(白辰社製)、SrCl2・6H2O、BaCl2・6H2O、Eu23の仕込みモル比を3:0.544:0.0056:0.45:0.5:0.5と仕込んだこと以外は、実験例1と同様に実験を行ったところ、表1の実験例6に示す、b/(a+b)の値が0.10で、Sr元素に対するCa元素置換量が11.1mol%の蛍光体を得た。その発光特性を表2に示す。
【0152】
この場合、半値幅が57と比較実験例1の31より高く、輝度が291と比較例の100より高いことがわかる。これは、Ba元素とCa元素を含有させることで、発光スペクトルが発光波長側へのブロード化したためであると考えられる。特に、Ba元素だけでなくCa元素を含有させることで、更に発光が長波長化し、高輝度となると考えられる。また、I(490nm)/I(ピーク)の値が大きく、発光輝度も高いものとなった。これは、Ba元素だけではなく、Ca元素も発光スペクトルの長波長側へのブロード化に寄与したためであると考えられる。
【0153】
比較実験例3
実験例1において、SrHPO4、SrCO3、BaCO3、CaCO3、SrCl2・6H2O、BaCl2・6H2O、Eu23の仕込みモル比を3:0.1:0:0.9:1:0と仕込んだこと以外は、実験例1と同様に実験を行ったところ、表1の比較実験例3に示す、Baを含まず、Sr元素に対するCa元素置換量が20.0mol%である蛍光体を得た。その発光特性を表2に示す。
【0154】
但し、Baを含まず、Sr元素の20.0mol%をCa元素で置換した場合、半値幅が37と低く、輝度が188と低いことがわかる。これは、Ca元素を含有するが、Ba元素を含有しないことから、発光の充分なブロード化がおこらなかったからであると考えられる。また、I(490nm)/I(ピーク)の値は、実験例6の蛍光体と比較するとかなり小さく、実験例1の蛍光体と略同じであった。これは、Ca元素の添加による効果が、Ba元素を同時に添加しない場合には小さいものであることを示している。
【0155】
実験例7〜9及び比較実験例4
実験例1において、SrCl2・6H2O/BaCl2・6H2Oモル比を一定とし、かつ、SrCl2+BaCl20.5モル分をフラックスとして過剰仕込みとなるように、SrHPO4、SrCO3、BaCO3、SrCl2・6H2O、BaCl2・6H2O、Eu23の仕込みモル比を変えたこと以外は、実験例1と同様に実験を行うことによって、表1の実験例7〜9及び比較実験例4に示す、xが0.05〜0.65である蛍光体を得た。それぞれの発光特性を表2に示す。
【0156】
表1及び表2の、実験例7、3、8、9及び比較実験例4は、b/(a+b)を一定にして、xを変化させたものを、比較するものとなっている。xが0.45〜0.65の場合の半値幅は63〜66と、比較実験例1の31より顕著に高く、輝度は324〜342と比較実験例1の100に比べ顕著に高いことがわかる。特にEu含有量の増加に伴い、輝度の増大が見られた。これはEu含有量が増えることで、発光ピーク波長と半値幅が増加する傾向となるからであると考えられる。なお、比較実験例4のように、b/(a+b)の値が同じ0.16であるにもかかわらず、xの値が0.05と低い蛍光体の輝度は低かった。Eu含有量が少ない場合には、Ba元素を所定量含有していても、半値幅が非常に小さくなり、発光ピーク強度が小さくなるため、輝度が93と比較実験例1の100に比べて非常に低いものとなっており、比較実験例4の蛍光体を用いて発光装置にしても、低発光効率となると考えられる。
【0157】
[蛍光体の温度特性]
実験例1、3、5、6、7、9、及び比較実験例1、3、4の蛍光体の発光ピーク強度の温度依存性及び発光輝度の温度依存性を測定した結果を表3に示す。なお、発光ピーク強度の温度依存性については、各蛍光体の室温における値を100とした場合の相対値を示しており、発光輝度の温度依存性については、室温における比較実験例1の蛍光体の輝度の値を100とした場合の相対値を示している。
【0158】
表3に示すように、高温(80℃、100℃、130℃)での相対発光ピーク強度については、Ba元素を含む実験例1、3、5、6、7及び9の蛍光体の値が、いずれもBa元素を含まない比較実験例1及び3の蛍光体のそれを上回っていた。Baを含まない比較実験例1や3に比し、b/(a+b)の値が0.10〜0.34である蛍光体の、80℃、100℃、130℃の発光強度及び輝度は高いものとなっており、即ちLED作動中に到達してしまう80〜130℃の高温での発光強度維持率及び輝度が顕著に高いことがわかる。Baの置換効果が現れている。更に、Eu高濃度とすることにより、80℃、100℃、130℃での輝度が顕著に高くなることがわかり、高濃度Eu付活Sr−Ba系アパタイトが実用上極めて有効であることが見出された。Ba元素を含むとともに、Sr元素の一部がCa元素で置換された実験例6の蛍光体は、他のBa元素を含む蛍光体に比べて、高温における相対発光ピーク強度及び輝度の低下率が大きかった。また、Ba元素を含まず、Sr元素の一部がCa元素で置換された比較実験例3の蛍光体は、比較実験例1の蛍光体に次いで、高温における相対発光ピーク強度の低下が大きかった。
なお、Eu低濃度の比較実験例4は、比較実験例1同様に、80℃、100℃、130℃においても輝度が非常に低いものとなっており、比較実験例4の蛍光体を用いて発光装置にした場合、長時間使用によって装置の温度が上昇すると、低発光効率となると考えられる。
【0159】
一方、b/(a+b)の値が同じで、xの値が異なる実験例3、7及び9の各蛍光体を比較すると、高温での相対発光ピーク強度の低下の度合は略同じであったが、xの値が0.65である実験例9の蛍光体は、他の2つの蛍光体と比べて高温での輝度低下が大きかった。
【0160】
このように高温での発光強度維持率が高い蛍光体を、LED等の発光体と組み合わせて発光装置とすると、長時間使用によって装置の温度が上昇しても、装置からの発光の発光強度の変動を抑えることができ、色ずれの発生を抑制することができる。特に、ラージチップなどの高出力動作が可能なパワーデバイスと組み合わせて発光装置としても、通電時の発熱によっても色ずれや発光強度の低下などといった問題が起こりにくいと考えられる。
【0161】
【表3】

【0162】
[その他の蛍光体の製造、及び製造した蛍光体の発光特性、並びに温度特性]
実験例10、実験例11、実験例12、比較実験例5
実験例1において、SrCl2・6H2O/BaCl2・6H2Oモル比を一定とし、かつ、SrCl2+BaCl20.5モル分をフラックスとして過剰仕込みとなるように、SrHPO4、SrCO3、BaCO3、SrCl2・6H2O、BaCl2・6H2O、Eu23の仕込みモル比を変えたこと以外は、実験例1と同様に実験を行うことによって、表4の実験例10〜12、及び比較実験例5に示す、xが0.32、0.38、0.95、及び0.25である蛍光体を得た。それぞれの発光特性を表5に示す。
【0163】
【表4】

【0164】
【表5】

【0165】
また、実験例10〜12、及び比較実験例5の蛍光体の発光ピーク強度の温度依存性及び発光輝度の温度依存性を測定した結果を表6に示す。なお、発光ピーク強度の温度依存性については、各蛍光体の室温における値を100とした場合の相対値を示しており、発光輝度の温度依存性については、室温における比較実験例1の蛍光体の輝度の値を100とした場合の相対値を示している。
【0166】
【表6】

【0167】
実験例3、実験例7〜12、及び比較実験例5の蛍光体の、80℃、100℃、及び130℃における発光輝度の結果を図2にまとめて示す。図2にみられるとおり、LED作動中に到達する温度領域である80℃〜130℃においては、Euモル比xが約0.25の場合には相対輝度は極大値を示すものの比較的低めの値となっているのに対し、Euが非常に高濃度となっているxが約0.5の場合には相対輝度が極大値かつ最大値を示すことが見出された。
【0168】
実験例13、実験例14、比較実験例6、比較実験例7
実験例3の蛍光体又は比較実験例1のSCA蛍光体を用いて電球色の白色発光装置を作製し、温度特性を評価した。作製は、InGaN系の近紫外LEDチップ1個を3528SMD型PPA樹脂パッケージに実装し、青色蛍光体(実験例3の蛍光体又は比較実験例1のSCA蛍光体)、緑色蛍光体および赤色蛍光体を、シリコーン樹脂(特開2009−23922号公報に記載の実施例1に従って作製)中に分散させた蛍光体含有組成物を用いて封止した。緑色蛍光体にはBSS蛍光体(国際公開WO2007−09187号公報に記載の実施例1に従って作製)、赤色蛍光体にはCASON蛍光体(特開2007−231245号公報の実施例I−3にしたがって作製)を用いた。表7に、作製した各白色発光装置における近紫外LEDチップの発光ピーク波長、蛍光体の配合比、並びに、20mAの電流を印加したときの色度座標値及び温度特性を示す。なお、表7において蛍光体配合比は、蛍光体含有組成物に対する重量%である。
【0169】
【表7】

【0170】
表7にいう発光効率比は、25℃における発光効率(近紫外LEDチップへの投入電力当たりの光束)に対する80℃における発光効率の比率であり、励起源に用いた近紫外LEDチップの発光ピーク波長が411nmと406nmのいずれの場合においても、青色蛍光体に本発明の蛍光体(実験例3の蛍光体)を用いた白色発光装置(実験例13、実験例14)が、SCA蛍光体を用いた白色発光装置(比較実験例6、比較実験例7)を上回っていた。実験例13、実験例14の白色LEDは演色性にも優れており、平均演色性評価数(Ra)はそれぞれ95、97であった。
【0171】
実験例15
InGaN系近紫外LEDチップと、実験例3のハロリン酸塩蛍光体(青色蛍光体)と、β−SiAlON蛍光体(緑色蛍光体)と、CASON蛍光体(赤色蛍光体)とを用いて、昼白色の白色LEDを作製した。β−SiAlON蛍光体は、波長400nmの光で励起したときの発光ピーク波長が542nm、発光ピークの半値幅が56nmであるものを使用した。CASON蛍光体は、波長405nmの光で励起したときの発光ピーク波長が643nm、発光ピークの半値幅が116nmであるものを使用した。
【0172】
白色LEDの作製は、350μm角のLEDチップ1個を3528SMD型PPA樹脂パッケージに実装し、微粒子状の上記各蛍光体を分散させたシリコーン樹脂で封止することにより行った。使用した近紫外LEDチップの発光ピーク波長、シリコーン樹脂に添加した蛍光体の配合比、作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときのTcp(相関色温度)、色度座標値、平均演色評価数Raおよび特殊演色評価数R12を、表8に示す。また、作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときの発光スペクトルを図3に示す。なお、表8に示す蛍光体の配合比は、シリコーン樹脂と蛍光体との混合物に対する各蛍光体の重量比である。
【0173】
【表8】

【0174】
比較実験例8
青色蛍光体として、実験例3のハロリン酸塩蛍光体に代えてBAM蛍光体を用いたこと以外は実験例15と同様にして昼白色の白色LEDを作製した。BAM蛍光体は、波長400nmの光で励起したときの発光ピーク波長が455nm、発光ピークの半値幅が53nmであるものを使用した。使用した近紫外LEDチップの発光ピーク波長、シリコーン樹脂に添加した蛍光体の配合比、作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときのTcp(相関色温度)、色度座標値、平均演色評価数Raおよび特殊演色評価数R12を、表8に示す。また、作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときの発光スペクトルを図4に示す。
【0175】
なお、この比較実験例8で用いたBAM蛍光体は、波長400nmの光で励起したときの発光スペクトルにおける、短波長側の半値波長が434nm、長波長側の半値波長が487nmであり、発光ピーク強度に対する波長490nmにおける発光強度の比は0.45であった。
【0176】
実験例16
緑色蛍光体として、β−SiAlON蛍光体に代えてBSON蛍光体を用いたこと以外は実験例15と同様にして昼白色の白色LEDを作製した。BSON蛍光体は、波長405nmの光で励起したときの発光ピーク波長が535nm、発光ピークの半値幅が71nmであるものを使用した。使用した近紫外LEDチップの発光ピーク波長、シリコーン樹脂に添加した蛍光体の配合比、作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときのTcp(相関色温度)、色度座標値、平均演色評価数Raおよび特殊演色評価数R12を、表8に示す。また、作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときの発光スペクトルを図5に示す。
【0177】
実験例17
緑色蛍光体として、波長405nmの光で励起したときの発光ピーク波長が536nm、発光ピークの半値幅が72nmであるBSON蛍光体を用いたこと以外は実験例15と同様にして昼白色の白色LEDを作製した。使用した近紫外LEDチップの発光ピーク波長、シリコーン樹脂に添加した蛍光体の配合比、作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときのTcp(相関色温度)、色度座標値、平均演色評価数Raおよび特殊演色評価数R12を、表8に示す。また、作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときの発光スペクトルを図6に示す。
【0178】
実験例18
実験例16で用いたものと同じ青色蛍光体、緑色蛍光体及び赤色蛍光体を用いて、電球色の白色LEDを作製した。白色LEDの作製手順は実験例15と同様である。使用した近紫外LEDチップの発光ピーク波長、シリコーン樹脂に添加した蛍光体の配合比、作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときのTcp(相関色温度)、色度座標値、平均演色評価数Raおよび特殊演色評価数R12を、表8に示す。また、作製した白色LEDに20mAの電流を印加したときの発光スペクトルを図7に示す。
【0179】
表8に示すように、実験例15、16、17及び18に係る白色LEDは、いずれも平均演色評価数Raが95以上、かつ、特殊演色評価数R12が90よりも高いものとなった。一方、比較実験例8に係る白色LEDは、平均演色評価数Raが90より高くなったものの、特殊演色評価数R12は81であった。
【0180】
実験例15〜18では、ハロリン酸塩蛍光体(青色蛍光体)の一例としてb/(a+b)=0.16である実験例3の蛍光体を用いた。しかしながら、0.16でなければR12を90以上にできないものではなく、例えば0.05のものであればI(490nm)/I(ピーク)=0.12となっているため、通常、半値幅が60nm以上80nm以下、好ましくは65nm以上75nm以下でかつ発光ピーク波長が535nm以上の緑色蛍光体と組み合わせることで、R12を容易に90以上にすることができる。具体的には、発光ピーク波長が535nmかつ半値幅が71nmのBSON蛍光体などを組み合わせれば良い。この結果、I(490nm)/I(ピーク)の値が小さい分を、緑色蛍光体で補う様に組み合わせることで、演色性が良く、かつ発光輝度の高い発光装置を実現できる。
一方で、b/(a+b)=0.34のものであればI(490nm)/I(ピーク)=0.93となっているため、通常、半値幅が50nm以上70nm以下、好ましくは53nm以上66nm以下でかつ発光ピーク波長が535nm以上の緑色蛍光体と組み合わせることで、R12を容易に90以上にすることができる。具体的には、発光ピーク波長が542nmかつ半値幅が56nmのβ―SiAlON蛍光体などを組み合わせれば良い。この結果、I(490nm)/I(ピーク)の値が大きい分、緑色蛍光体の半値幅が狭めで発光ピーク波長が長波長の高輝度な緑色蛍光体を組み合わせることで、演色性が良く、かつ発光輝度の高い発光装置を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明の蛍光体の用途は特に制限されず、通常の蛍光体が用いられる各種の分野に使用可能であるが、発光ピークの半値幅が大きく、温度特性に優れるという特性を生かして、近紫外LED等の光源で励起される一般照明用発光体を実現する目的に適している。
また、上述のような特性を有する本発明の蛍光体を用いた本発明の発光装置は、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用可能であるが、中でも画像表示装置や照明装置の光源としてとりわけ好適に用いられる。
また、1986年にCIE(国際照明委員会)は、蛍光ランプが具備すべき演色性の指針を公表しており、その指針によれば、使用される場所に応じた好ましい平均演色評価数(Ra)は、一般作業を行う工場では60以上80未満、住宅、ホテル、レストラン、店舗、オフィス、学校、病院、精密作業を行う工場などでは80以上90未満、臨床検査を行う場所、美術館などでは90以上とされている。本発明に係る白色発光装置を用いた照明装置は、ここに挙げられたいずれの施設のための照明としても好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体とを有する発光装置の前記第2の発光体に含有させて用いる蛍光体であって、下記一般式[1’]の化学組成を有し、かつ、
波長410nmの光で励起した前記蛍光体の発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長にける強度をI(ピーク)、波長490nmにおける強度をI(490nm)としたときに、I(490nm)/I(ピーク)の値が下記式[2]を満たすことを特徴とする蛍光体。
SraBabEux(PO4cd [1’]
(上記一般式[1’]において、XはClである。また、c、d及びxは、2.7≦c≦3.3、0.9≦d≦1.1、0.3≦x≦1.2を満足する数である。さらに、a及びbは、a+b=5−xかつ0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する。)
0.2≦I(490nm)/I(ピーク) [2]
【請求項2】
温度100℃において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(100℃)、室温において波長410nmの光で励起して得られる発光スペクトルにおいて、発光ピーク波長における強度をI(室温)としたときに、I(100℃)/I(室温)の値が、下記式[4]を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の蛍光体。
0.68≦I(100℃)/I(室温) [4]
【請求項3】
350〜430nmの光を発生する第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発生する第2の発光体とを有する発光装置において、第2の発光体が第1の蛍光体として請求項1又は2に記載の蛍光体を含有することを特徴とする発光装置。
【請求項4】
該第2の発光体が第2の蛍光体を更に有し、該第2の蛍光体は、該第1の蛍光体とは発光ピーク波長の異なる少なくとも1種の蛍光体を含有することを特徴とする、請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
発光装置が発する光が、第1の発光体からの光と第2の発光体からの光を混合した光であって、かつ、白色であることを特徴とする請求項3又は4に記載の発光装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の発光装置を有することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−225822(P2011−225822A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40465(P2011−40465)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】