説明

ハンダ試料の作製方法、ハンダ試料及びハンダ試料の分析方法

【課題】従来、定量基準となるハンダ試料が存在しないため、蛍光X線分析装置によるハンダ材料の定量分析が行えない。また、溶融ハンダは冷却固化の際に含有成分が偏析するため、表面分析装置では、十分な分析精度が得られない。
【解決手段】溶融状態のハンダ材料を冷却固化してハンダ試料とする工程と、冷却固化したハンダ試料を折畳んで重ね合わせる工程と、前記ハンダ試料を圧延する工程により、含有成分の偏析の少ないハンダ試料が作製でき、前記ハンダ試料を表面分析装置で定量分析することにより、簡便かつ高精度な分析ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品等の接合に用いるハンダ材料からなるハンダ試料の作製方法、ハンダ試料及びハンダ試料の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の電気製品及び/又は電子機器に用いられる電子回路基板を作製するための実装技術に採用されているプロセスの1つにフローハンダ付けプロセスがある。
【0003】
以下、一般的なフローハンダ付けプロセスについて説明する。このプロセスは、ハンダ付けに先立って、まず、電子部品のリード線をスルーホールに挿入し、電子部品が上面側に配置されたプリント基板を準備する。この時点で、スルーホールの壁面ならびにプリント基板の上面側および下面側のスルーホールを取り囲む領域には、銅箔などからなるランドが形成されており、このランドはプリント基板の回路パターンに接続されている。
【0004】
次に、このようなプリント基板を、フローハンダ付け装置内で搬送手段によってほぼ一定速度で多数搬送して、ハンダ槽の上方を通過させる。ハンダ槽内ではハンダ材料が予め溶融状態にされており、更にハンダ槽に設けられているポンプ手段等によって、溶融しているハンダ材料はハンダ噴流を形成している。このプロセスにおいてハンダ槽には、基板のスルーホールに入り込み得る量よりも遙かに多量のハンダ材料が溶融状態で入れられている。そのハンダ材料を溶融状態に維持するために、ハンダ槽は使用するハンダ材料の融点よりも10〜50℃程高い温度に設定されている。従って、ハンダ材料は、このハンダ槽内では溶融状態で存在するので、液状の挙動を示すことになる。従って、ハンダ槽内のハンダ噴流は、上述したハンダ槽の上方を通過しつつあるプリント基板の下面側表面に振りかけられて接触する。
【0005】
プリント基板の下面側表面に適用された液状のハンダ材料は、電子部品のリード線とスルーホールの内壁との間の環状空間を、プリント基板の下面側から毛細管現象によって濡れ上がりながらスルーホール内を満たし、その後、温度低下により固化して、ハンダ材料からなる接合部を形成する。このようにして、ハンダ材料によって、電子部品のリード線とプリント基板のランドが電気的に接合され、電子回路基板が作製される。
【0006】
一方、上記のようにして供給された大部分のハンダ材料は、スルーホールの中に入ることなく重力により溶融状態のままハンダ槽内に落下し、再び溶融ハンダ材料の一部となって、循環して使用される。この循環の過程で、基板の下面側に接触した溶融状態のハンダ材料は、実際には、基板のみではなく、基板表面に形成されている配線パターン、並びに電子部品のリード線部分のメッキ部及び母材等にも接触し得る。高温で溶融状態のハンダ材料が接触することによって、配線パターン並びに電子部品のリード線部分のメッキ部及び母材等に使用されている材料の成分はハンダ材料に溶出し、溶融ハンダ材料中の不純物となる。
【0007】
近年、地球環境保護の関心が高まる中、電子回路基板などの産業廃棄物の処理についての法規制も進みつつあり、鉛も世界的に法規制の対象となりつつある。そのような法規制に対応して、電子部品実装に用いられるハンダ材料は、鉛ハンダ(Pb−Sn系ハンダ)材料から、鉛を含まないハンダ材料、いわゆる鉛フリーハンダ材料への移行が図られつつある。
【0008】
ハンダ材料として鉛フリーハンダ材料が使用される場合には、上述のようなフローハンダ付けプロセスにおいて、高温で溶融状態のハンダ材料が接触する電子部品から、特に電子部品のリード線部分のメッキ部から、そこに用いられている鉛成分が溶融状態のハンダ材料に溶出し、そのハンダ材料がハンダ槽に戻ることによって、鉛成分がハンダ材料中の不純物成分となり得る。鉛フリーハンダ材料が含有し得る鉛成分の許容値は、例えばEUにおけるRoHS(Restriction of Hazardous Substances)指令によれば1000ppmと非常に低い値であるので、フローハンダ付けプロセスに用いられるハンダ槽を管理する上で、槽内のハンダ材料の組成をモニタリングする必要がある。
【0009】
ハンダ材料の組成をモニタリングするために用い得る方法として、原子吸光分析法、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法、蛍光X線分析法等のいくつかの方法が知られている。これらの方法はそれぞれ目的及び用途に応じて使い分けられているが、サンプリングしてからその結果が得られるまでの時間的間隔(タイムスパン)が相対的に短いという点を重視する場合には、蛍光X線分析法が適している。
【0010】
蛍光X線分析に用いる試料については、液体若しくは粉体のような流動性を有する形態よりも固体であることが好ましいこと、及びその固体試料は一方の面が平滑面であることが好ましいこと、並びに、1mm程度の厚みを有することが必要であることが、例えば特許文献1等から知られている。このような試料の主成分が金属材料である場合には、照射したX線がサンプル内部に入射する深度は、照射したX線の強度とサンプルの組成に基づいて詳細にみると異なるが、金属材料の場合には一般に、表面から数百nm深さまでの情報が得られる。
【特許文献1】特開平07−128262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
蛍光X線分析法の操作は簡便であるが、十分な定量分析精度を得るためには、定量基準となる試料を準備して、あらかじめ装置の補正をしておく必要がある。現在、樹脂系材料および一般的な金属材料の定量基準試料については良好な市販品が存在するが、ハンダ材料について良好な市販品は存在していない。その理由は、溶融状態のハンダ材料を冷却固化させる際に、偏析が生じ易いためであると考えられている。
【0012】
ハンダ材料の固化した試料に偏析が生じている場合には、試料の表面若しくは表面に近い部分と、それより内部との間で、従って厚み方向に関して組成が異なっている。特に、ハンダ材料中の鉛成分を定量分析する場合に、鉛成分が偏析することによって、鉛成分の含有率が試料の表面部分と試料の内部とで異なり、一般に試料の内部よりも試料の表面部分の方がより高い鉛成分の含有率を示す傾向がある。そのような試料を蛍光X線分析にかけたとしても、試料の表面又は表面に近い部分についての情報しか得られず、正確な分析結果を得ることができない。従って、これまでは十分な精度の分析を簡便に行うことが困難であった。
【0013】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、ハンダ試料の作製方法、ハンダ試料、及びハンダ試料の分析方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のハンダ試料の作製方法は、溶融状態のハンダ材料を冷却固化してハンダ試料とする工程と、冷却固化したハンダ試料を折畳んで重ね合わせる工程と、前記ハンダ試料を圧延する工程を有することを特徴とする。このような構成にすることで、溶融状態のハンダ材料を冷却固化してハンダ試料とする工程において、ハンダ材料の含有成分の偏析が発生しても、冷却固化したハンダ試料を折畳んで重ね合わせる工程とハンダ試料を圧延する工程により、均質化が可能であり、表面分析装置の定量基準となるハンダ試料が作製できる。
【0015】
また、本発明のハンダ試料は、複層構造であって、単層の厚みが990nm以下であることを特徴とする。また複層構造内の各々の単層が同一組成からなることを特徴とする。このような構成にすることで、表面分析によるハンダ試料の定量分析が可能となり、また、予めハンダ試料の組成を明確にしておくことで、表面分析装置の定量基準試料として活用できる。
【0016】
また、本発明のハンダ試料の分析方法は、前記ハンダ試料の作製方法によって作製されたハンダ試料を表面分析装置で定量分析することを特徴とする。組成が均質化されたハンダ試料を用いることで、前記ハンダ試料を表面分析装置で簡便かつ高精度に分析できる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明のハンダ試料の作製方法によれば、ハンダ試料の含有成分の均質化が可能で、表面分析装置の定量基準となるハンダ試料を得ることができる。
【0018】
また、本発明のハンダ試料は、表面分析による定量分析が可能であるため、ハンダ試料の組成を予め明確にしておくことで、表面分析装置の定量基準として活用できる。
【0019】
また、本発明のハンダ試料の分析方法によれば、組成が均質化されたハンダ試料を用いることで、表面分析によるハンダ材料組成の簡便かつ高精度な分析が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明のハンダ試料の作製方法は、溶融状態のハンダ材料を冷却固化してハンダ試料とする工程と、冷却固化したハンダ材料を折畳んで重ね合わせる工程と、ハンダ試料を圧延する工程を有することを特徴とする。
【0022】
蛍光X線分析装置でハンダ試料を分析する場合、一般的に表面から数百nm深さまでの情報が得られる。従って、圧延によって、数百nm以下の厚みに成型すれば、蛍光X線分析装置での定量分析においては、ハンダ試料の厚み方向の偏析は問題がなくなる。
【0023】
また、折畳んで重ね合わせる工程と圧延する工程を繰返すことで、面方向の偏析も低減できる。
【0024】
厚みが数百nmのハンダ材料シートは、剛性が低いため、シワや破れなど、取扱い上の課題がある。しかしながら、圧力を適正値に設定し、折畳んで重ね合わせる工程と圧延する工程を繰返すことで、薄層の重なった多層形状のハンダ試料にすることが可能で、十分な剛性が確保できるため、容易に取扱うことができる。
【0025】
本発明では、まず、ハンダ槽などから溶融状態のハンダ材料を取出し、冷却固化する。ハンダ槽には、Sn−Ag系、Sn−Bi系、Sn−Zn系、Sn−Cu系、Sn−Au系、Sn−Sb系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Ag−Bi系、及びSn−Ag−Bi−Cu系から選ばれる何れかの鉛フリーハンダ材料が貯留されている。ハンダ材料の取出し量は、特に限定するものではなく、取出したハンダ材料の一部または全量を冷却固化すればよい。冷却方法は、自然放冷や冷却治具を用いた強制冷却など限定するものではない。ハンダ試料の折畳んで重ね合わせる工程には、工具やプレス機などを使用することが可能で、ハンダ試料の強度が高く、折畳めない場合は、プレス機などでハンダ試料を薄膜化した後に折畳んでもよい。次に、折畳んだハンダ試料の圧延は、ローラー圧延機や平板圧延機などを用いて行い、圧力の設定は、ハンダ試料の千切れなどが無く、かつ効率的に圧延できる条件に設定するのが好ましい。折畳んで重ね合わせる工程と圧延する工程の繰り返し回数は、1回目から均質化の効果が得られるが、好ましくは、層状構造となるハンダ試料の各層の厚みが990nm以下、さらに好ましくは、120nm以下になるように設定する。図1は、本発明のハンダ試料1の断面図を示す図である。
【0026】
また、折畳んで重ね合わせる工程と圧延する工程の繰り返しについては、折畳みと圧延を1回ずつ交互に行うことに限定するものではなく、折畳みと圧延の頻度は、任意に設定してよい。
【0027】
さらに、作製したハンダ試料1を、表面分析装置の定量基準として活用するためには、ハンダ試料1の組成を定量化する必要がある。本発明のハンダ試料1の作製方法における同一条件で、複数個のハンダ試料1を作製し、前記複数個のハンダ試料1の一部をJISZ3910などの分析方法で定量測定することで、同一条件で作製したハンダ試料1の組成を定量表現することができる。
【0028】
本発明のハンダ材料組成の定量分析方法は、前記のハンダ試料1の作製方法によって作製されたハンダ試料1を用いて定量分析することを特徴とする。
【0029】
本発明における溶融ハンダを冷却固化および前記冷却固化したハンダ材料を折畳む工程および前記折畳んだハンダ材料を圧延する工程は、前記表面分析装置の定量基準となるハンダ試料1の作製方法における工程と同様で良い。溶融状態のハンダ材料を冷却固化および前記冷却固化したハンダ材料を折畳む工程および前記折畳んだハンダ材料を圧延する工程を経て作製したハンダ試料1は、表面分析用サンプルとして均質である状態で、蛍光X線分析や発光分光分析などの表面分析装置で定量分析を行うことが可能である。
【0030】
特に、蛍光X線分析は操作が簡単で、均質である状態のハンダ試料1であれば、簡便かつ高精度に定量分析できる。
【0031】
図2に、本発明のハンダ材料組成の簡便かつ高精度な定量分析方法の工程フローチャートを示した。
【0032】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における表面分析装置の定量基準となるハンダ試料1の作製方法について詳細に説明する。
【0033】
主成分が錫、銀および銅からなり、含有比率が錫96.5%、銀3%および銅0.5%の3元系鉛フリーハンダ材料が溶融したハンダ槽から、SUS製の柄杓を用いて前記鉛フリーハンダ材料を約2g取出し、前記SUS製の柄杓内で自然冷却して、前記鉛フリーハンダ材料を固化した。次に、前記固化した鉛フリーハンダ材料を油圧式平板圧延機を用いて平方センチメートルあたり2000kgの圧力で、1分間圧延した。前記圧延処理後に、前記固化した鉛フリーハンダ材料の厚みをマイクロメータで測定した結果、約1mmであった。次に、ペンチを用いて、前記圧延した鉛フリーハンダ材料を中央部分で半分に折畳んだ。次に、前記折畳んだ鉛フリーハンダ材料を前記圧延と同一条件で圧延し、厚みを測定した結果、約1mmであった。さらに、前記折畳みと、前記圧延を繰返し行い、前記圧延の都度、前記固化した鉛フリーハンダ材料の厚み測定を行った。その結果、前記鉛フリーハンダ材料の厚みは、前記圧延の都度、約1mm厚みになっていた。
【0034】
また、前記折畳みと、前記圧延を1回行うと、前記固化した鉛フリーハンダ材料は2層構造になり、2回行うと4層構造になる。このように前記折畳みと、前記圧延を1回行う毎に、前記固化した鉛フリーハンダ材料の複層構造の層数は2倍になる。また、前述のように、前記折畳みと、前記圧延を繰返しても、前記固化した鉛フリーハンダ材料の総厚みはほぼ一定である。このため、前記折畳みと、前記圧延を1回行うと、前記固化した鉛フリーハンダ材料の複層構造内の単層の厚みは約1/2になると考えられる。
【0035】
次に、電子顕微鏡を用いて、前記固化した鉛フリーハンダ材料の断面観察を行い、前記複層構造内の単層の厚みを任意で20ポイント測定し、平均値を算出した。
【0036】
表1は、前記折畳みと、前記圧延の繰返し回数と、前記複層構造内の単層の厚みの関係を示したものである。
【0037】
【表1】

【0038】
表1からは、前記折畳みと、前記圧延を1回行うと、前記複層構造内の単層の厚みが約1/2になることが確認できた。
【0039】
次に、前記固化した鉛フリーハンダ材料中の鉛の偏析状況を、蛍光X線分析装置を用いて測定した。前記固化した鉛フリーハンダ材料の各部位から得られる鉛の特定X線強度の比較を行うことで、鉛の偏析状況の評価を行った。面内の鉛の偏析状況は、前記固化した鉛フリーハンダ材料の表面内の中央部分1点と外周部分4点の合計5部位の鉛の特定X線強度を測定し、そのバラツキから算出した。
【0040】
厚み方向の鉛の偏析状況は、蛍光X線分析と厚み方向の研磨を繰返し行い、厚み方向5部位の鉛の特定X線強度のバラツキから算出した。まず、表裏の中央部分の蛍光X線分析を行い、次に、表面から約0.5g研磨した後、研磨面の中央部位を蛍光X線分析を行った。前記研磨処理と研磨面の中央部分の蛍光X線分析を3回繰返し、表裏の分析結果と合わせて、厚み方向に5部位の鉛の特定X線強度データを得た。
【0041】
蛍光X線分析は、エスアイアイナノテクノロジー製SEA2210Aを用いて、管電流1mA、励起電圧31kv、測定時間30分の条件で行った。前記条件で、同一ハンダ試料1の同一部位の鉛の特定X線強度を繰返し測定した結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2のように前記条件では、繰返し測定の変動係数が1.320となった(変動係数=σ/平均値×100)。
【0044】
同一測定条件による同一部位の繰返し測定なので、変動係数1.320は、測定バラツキを示す値と考えられる。
【0045】
表3は、表面の面内5部位の鉛の特性X線強度の測定結果および変動係数の計算結果である。
【0046】
【表3】

【0047】
表3の変動係数は、測定バラツキとハンダ試料1に含まれる鉛量の面内バラツキの合算値であると考えられる。前記折畳みおよび前記圧延を行わないハンダ試料では、外周部で鉛濃度が高くなる傾向が認められ、変動係数が4.472で、表2の繰返し測定時のバラツキを示した変動係数よりも大幅に増大している。前記折畳みおよび前記圧延を繰返すことで、中央部と外周部の鉛濃度差が小さくなり、10回繰返すと変動係数が1.343、13回繰返すと変動係数が1.336となり、偏析が緩和されることが確認できた。
【0048】
表4は、厚み方向5部位の鉛の特性X線強度の測定結果およびバラツキの計算結果である。
【0049】
【表4】

【0050】
前記折畳みおよび前記圧延を行わないハンダ試料では、表層部に鉛濃度が高くなる傾向があり、表面分析では、ハンダ試料全体の定量分析ができないことが確認できた。
【0051】
表5は、同一のハンダ試料1に対して、前記折畳みおよび前記圧延を繰返し、圧延の都度、蛍光X線分析を行うことで、前記折畳みおよび前記圧延によるハンダ試料1表面の鉛の特性X線強度の推移を測定した結果である。
【0052】
【表5】

【0053】
前記折畳みおよび前記圧延を繰返し行うことにより、ハンダ試料1表面の鉛濃度が低下していることが分かった。これは、前記折畳みおよび前記圧延により、表層部に偏析した鉛が分散され、ハンダ試料1が均質化されたこと、および複層構造内の単層厚みが低減されることに起因する現象である。
【0054】
前記折畳みおよび前記圧延の繰返し回数が10回以上になると、繰返し回数の増加に伴い、表層部の鉛濃度の低下が顕著になる。また、13回以上では、繰返し回数を増加しても、鉛濃度の変動はほとんどなく、ほぼ一定の値になった。
【0055】
前記折畳みおよび前記圧延の繰返し回数が10回以上になると、複層構造内の単層厚みが990nm以下になる。一般に、蛍光X線分析装置でハンダ試料1を分析する場合、表面から数百nm深さまでの情報が得られるため、複層構造内の単層厚みが990nm以下になると、厚みの影響が顕著に現れるものと考えられる。
【0056】
また、前記折畳みおよび前記圧延の繰返し回数が13回以上では、複層構造内の単層厚みが120nm以下になる。蛍光X線分析では表面から数百nm深さまでの情報が得られるため、複層構造内の単層厚みが120nm以下になると、厚みおよび偏析の影響が大幅に削減されるものと考えられる。
【0057】
次に、前記折畳みおよび前記圧延を13回繰返す方法で、ハンダ試料1を10個作製した。前記作製した10個のハンダ試料1の表裏面の中央部を蛍光X線分析し、鉛の特性X線強度を測定した。次に、前記作製した10個のハンダ試料1のうち5個をJISZ3910の方法を活用して原子吸光分析し、鉛含有量の定量分析を行った。表6に蛍光X線分析および原子吸光分析結果を示す。
【0058】
【表6】

【0059】
蛍光X線分析からはハンダ試料1のサンプル内の表裏差やハンダ試料1のサンプル間バラツキは認められなかった。また、原子吸光分析からもハンダ試料1のサンプル間のバラツキは認められなかった。
【0060】
前記蛍光X線分析によって測定した鉛の特性X線強度と、前記原子吸光分析によって測定した鉛含有量の関係を蛍光X線装置の定量基準データとして活用し、前記作製した10個のハンダ試料1のうち、前記原子吸光分析を行わなかった5個のハンダ試料1を、蛍光X線分析装置の定量基準となるハンダ試料1として活用した。
【0061】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2における本発明のハンダ材料組成の定量分析方法について、詳細に説明する。
【0062】
主成分が錫、銀および銅からなり、含有比率が錫96.5%、銀3%および銅0.5%の3元系鉛フリーハンダ材料が溶融したハンダ槽中の鉛含有量の定量分析を行った。
【0063】
溶融状態のハンダ材料を冷却固化する工程およびハンダ材料を折畳む工程および前記折畳んだハンダ材料を圧延する工程は、前記実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0064】
前記のハンダ材料を折畳む工程および前記折畳んだハンダ材料を圧延する工程を13回繰返しハンダ試料1を作製した。次に、前記ハンダ試料1の鉛含有量を、蛍光X線分析装置で定量分析した後、確認のため、JISZ3910の原子吸光分析で鉛含有量を定量分析した。その結果、蛍光X線分析での定量値が705ppm、原子吸光分析での定量値が711ppmであり、簡便かつ高精度な定量分析が可能であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のハンダ試料の作製方法によれば、ハンダ試料の含有成分の均質化が可能で、表面分析装置の定量基準となるハンダ試料を得ることができ、電子部品等の接合に用いるハンダ材料の組成分析に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のハンダ試料の断面図
【図2】本発明のハンダ材料組成の定量分析方法の工程フローチャート
【符号の説明】
【0067】
1 ハンダ試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態のハンダ材料を冷却固化してハンダ試料とする工程と、
冷却固化した前記ハンダ試料を折畳んで重ね合わせる工程と、
折畳んで重ね合わせた前記ハンダ試料を圧延する工程を有することを特徴とするハンダ試料の作製方法。
【請求項2】
溶融状態のハンダ材料を冷却固化してハンダ試料とする工程と、
冷却固化した前記ハンダ試料を圧延する工程と、
圧延した前記ハンダ試料を折畳んで重ね合わせる工程を有することを特徴とするハンダ試料の作製方法。
【請求項3】
前記折畳んで重ね合わせる工程と前記圧延する工程は、
ハンダ試料の単層の厚みが所定の範囲の厚みとなるまで繰り返し行うことを特徴とする請求項1または2に記載のハンダ試料の作製方法。
【請求項4】
対象とするハンダ材料は、鉛フリーハンダ材料であり、Sn−Ag系、Sn−Bi系、Sn−Zn系、Sn−Cu系、Sn−Au系、Sn−Sb系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Ag−Bi系、及びSn−Ag−Bi−Cu系から選ばれる何れかの材料であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のハンダ試料の作製方法。
【請求項5】
複層構造であるハンダ試料であって、単層の厚みが990nm以下であることを特徴とするハンダ試料。
【請求項6】
前記複層構造内の各々の単層が、同一組成からなることを特徴とする請求項5に記載のハンダ試料。
【請求項7】
請求項1乃至4の何れかに記載のハンダ試料の作製方法によって作製されたハンダ試料を表面分析装置で定量分析することを特徴とするハンダ試料の分析方法。
【請求項8】
表面分析装置が、蛍光X線分析装置であることを特徴とする請求項7に記載のハンダ試料の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−57463(P2007−57463A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245594(P2005−245594)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】