説明

ハードコートフィルムおよびその製造方法

【課題】静電容量方式のタッチパネルに好適に用いることのできる、耐擦傷性および密着性に優れ、かつ近年要求される程度に欠点数が少ない静電容量方式タッチパネル用ハードコートフィルムを提供すること。
【解決手段】基材フィルムの少なくとも片面に、表面の水の接触角が78度以上90度以下、n−ドデカンの接触角が22度以下であり、径が30μm以上の欠点の個数が20個/m以下であるハードコート層を有するハードコートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネルは、透明ないし半透明の入力デバイスをLCD(液晶表示装置)等のディスプレイ上に直接設けることにより、画面を見ながら入力操作することが可能であり、誰にでも簡単に操作ができ、また文字や絵の入力も可能であることから、マン/マシンインターフェースとして多く用いられるようになってきた。
【0003】
タッチパネルには、光学方式、超音波方式、電磁誘導方式、静電容量方式、抵抗膜方式などの方式がある。このうち、中〜小型のタッチパネルでは抵抗膜方式が主流となっている。また、静電容量方式のタッチパネルは、使用するフィルムの枚数が少ないために透明性に優れる、導電膜同士の接触がないために磨耗による劣化がない、複数点での検知が可能である等の理由から、近年よく用いられるようになってきた。このようなタッチパネルの表面には、一般的には傷付き防止のためにハードコートフィルムが用いられる。そして、かかるハードコートフィルムとしては、画像の視認性をより高めるために、欠点の抑制が求められている。
【0004】
また、静電容量方式のタッチパネルは、キャリアフィルムとしてのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、エッチング処理されたITO層を有するITO−PETフィルムを複数枚積層して得られる。そして、得られた静電容量方式のタッチパネルは、キャリアフィルム側をLCD等のディスプレイに載せて(この場合空気層が間に存在する)、あるいは粘着剤等を用いてLCD等のディスプレイに貼り合わされて用いられる。このとき、かかるキャリアフィルムは、静電容量方式のタッチパネルの内面に残存することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−114355号公報
【特許文献2】特開2004−230562号公報
【特許文献3】特開2005−186584号公報
【特許文献4】特開2009−40056号公報
【特許文献5】特開2007−58162号公報
【特許文献6】特開2008−96781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、タッチパネルに用いられるハードコートフィルムには、欠点の抑制が求められている。特に、静電容量方式のタッチパネルに用いられるハードコートフィルムとしては、かかる方式のタッチパネルが高透明であるという特徴を活かすために、従来よりもさらに欠点数の減少が要求されてきており、例えば塗布抜け等の塗布欠点が挙げられる。
【0007】
また、ハードコート層の上に粘着剤を介して他の機能層を設ける場合において、ハードコート層の密着性が低いという問題がある。特に、上述したような静電容量方式のタッチパネルの製造工程においては、ITO−PETフィルムを積層していない側のキャリアフィルム表面が搬送中等において傷付き易いという問題があるため、キャリアフィルムにハードコート層を設けることが考えられるが、一般的なハードコート層は密着性が低く、粘着剤を用いて、タッチパネル構成材料となるITO−PETフィルム等のフィルムやLCDと貼り合わせることが困難となる問題がある。
【0008】
そこで本発明は、静電容量方式のタッチパネルにも好適に用いることのできる、耐擦傷性および密着性に優れ、かつ近年要求される程度に欠点数が少ないハードコートフィルムを提供することを目的とする。かかるハードコートフィルムは、特には、静電容量方式のタッチパネルディスプレイにおいてその内面に用いられるハードコートフィルムである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、水の接触角およびn−ドデカンの接触角が同時にそれぞれ特定の数値範囲にあり、かつ特定の大きさ以上の欠点の個数が特定数以下であるハードコートフィルムによって、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成を採用するものである。
【0010】
1.基材フィルムの少なくとも片面に、表面の水の接触角が78度以上90度以下、n−ドデカンの接触角が22度以下であり、径が30μm以上の欠点の個数が20個/m以下であるハードコート層を有するハードコートフィルム。
【0011】
また本発明は、以下の構成を包含する。
2.基材フィルムの少なくとも片面に、溶媒としてのグリコールエーテルに少なくとも放射線硬化型樹脂を添加して得られた、固形分濃度1〜70質量%のハードコート層を形成するための塗液を塗工して塗膜を形成し、得られた塗膜を温度50〜150℃で10〜180秒間加熱乾燥し、硬化して得られた、上記1に記載のハードコートフィルム。
3.ハードコート層表面の水の接触角が78度以上86度以下、n−ドデカンの接触角が22度以下である上記1または2に記載のハードコートフィルム。
4.ヘイズが2.0%以下である上記1〜3のいずれか1に記載のハードコートフィルム。
5.基材フィルムの厚みが12μm以上60μm以下である上記1〜4のいずれか1に記載のハードコートフィルム。
6.ハードコート層の厚みが1.0μm以上3.0μm以下である上記1〜5のいずれか1に記載のハードコートフィルム。
7.基材フィルムとハードコート層との間に、ポリエステル樹脂と架橋剤とを構成成分として含む易接着層を有する上記1〜6のいずれか1に記載のハードコートフィルム。
8.静電容量方式タッチパネル内面用である上記1〜7のいずれか1に記載のハードコートフィルム。
【0012】
さらに本発明は、以下の製造方法を包含する。
9.上記1〜8のいずれか1に記載のハードコートフィルムを製造するに際して、基材フィルムの少なくとも片面に、溶媒としてのグリコールエーテルに少なくとも放射線硬化型樹脂を添加して得られた、固形分濃度1〜70質量%のハードコート層を形成するための塗液を塗工して塗膜を形成し、得られた塗膜を温度50〜150℃で10〜180秒間加熱乾燥し、硬化する、ハードコートフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、欠点数が少なく外観が良好で、耐擦傷性に優れ、静電容量方式のタッチパネル製造工程においてはITO−PETフィルムを保護することができ、また密着性に優れたハードコートフィルムを得ることができる。よって本発明のハードコートフィルムは、特に、静電容量方式のタッチパネルの内面に用いるハードコートフィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ハードコートフィルム]
本発明のハードコートフィルムは、基材フィルムの少なくとも片面にハードコート層を有するものである。
【0015】
(接触角)
本発明においては、ハードコート層表面における水の接触角が78度以上90度以下であると同時に、n−ドデカンの接触角が22度以下であることが必要である。ハードコート層表面における濡れ性を上記数値範囲とすることによって、静電容量方式タッチパネルにおいて、上記ハードコート層表面とLCD等のディスプレイ表面、あるいはその他の材料フィルムとを粘着剤で貼り合せた際の密着性に優れると同時に、耐擦傷性に優れる。水の接触角が78度よりも小さい場合は、耐擦傷性に優れたハードコートフィルムを得ることが困難になる傾向にある。また、親油性が同時に低下してしまい、粘着剤の種類によっては粘着剤等に対する密着性が低くなる傾向にある。他方、水の接触角が90度よりも大きい場合は、極性溶媒に対する濡れ性が極端に低くなるため、粘着加工がしにくい、あるいは親水性基を持つ粘着層との密着性が低くなる傾向にある。また、n−ドデカンの接触角が22度を超える場合は、親油性が低くなる傾向にあり、粘着等との密着性が著しく低下する傾向にある。このような観点から、水の接触角は、好ましくは78度以上86度以下であり、より好ましくは80度以上85度以下であり、特に好ましくは82度以上85度以下であり、かつn−ドデカンの接触角が22度以下であることが好ましい。なお、ここで接触角が22度以下といういうことは、接触角測定において液滴が濡れ広がってしまい、角度の測定が不可能な状態を意味する。
【0016】
上記のような接触角を達成するためには、例えば後述する(ポリ)アルキレングリコール成分含有放射線硬化型樹脂を用いればよい。このような放射線硬化型樹脂としては、例えばKZ6404(JSR株式会社製)、ルシフラールG−004(日本ペイント工業製)、ビームセット1460(荒川化学工業製)等があげられる。
【0017】
本発明者は、このような接触角の調整は、従来用いられてきた濡れ性を調整し得る界面活性剤のような独立した添加剤の単純な添加によっては達成できないことを見出した。すなわち界面活性剤を添加した場合は、塗工・硬化後のハードコート層表面には界面活性剤の親水基と疎水基とが混在してしまうため、水に対する濡れ性と油(n−ドデカン)に対する濡れ性とが同時に悪くなってしまう。一方で界面活性剤を添加していない一般的なアクリル系のハードコート層は、n−ドデカンの接触角の範囲は達成されるが、水の接触角の範囲は達成されない。いずれにしても通常のハードコート層やそれに界面活性剤を添加したものでは、本発明に必要な接触角の範囲を実現できず、すなわち本発明が目的とする耐擦傷性と密着性とを同時に達成できないことが確認された。
【0018】
(欠点)
本発明のハードコートフィルムは、ハードコート層表面において光学顕微鏡で観測される径が30μm以上の欠点の個数が20個/m以下である。ここで欠点とは、ハードコート層を形成するための塗液を塗工する工程等において、かかる塗液がはじかれて、ハードコート層において塗布抜けとなったハジキ状欠点のことを示す。かかる塗布抜けとしては、ハードコート層が完全に欠落しないまでも、層厚みが極端に薄くなったものを含む。このような欠点は、光学顕微鏡で観察することにより明らかに周辺部とコントラストの異なる欠点として確認することができる。
【0019】
また径は、欠点において、フィルム面内方向における最大長さを示す。上記のような特定の径を有する欠点の個数が上記数値範囲にあると、タッチパネルとしたときに視認できる欠点を低減することができ、特に欠点に対する要求品質の高い静電容量方式タッチパネル用として、好ましい品質が得られる。このような観点から、欠点の個数は、好ましくは15個/m以下が好ましく、さらに好ましくは10個/m以下が好ましく、特に好ましくは5個/m以下である。
上記のような欠点の態様を達成するためには、例えば好ましい達成方法として、ハードコート層を形成するための塗液において、溶剤として後述するような特定の溶剤を用いることが挙げられる。
【0020】
(ヘイズ)
本発明におけるハードコートフィルムは、ヘイズが2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。ヘイズが2.0%以下の場合は、タッチパネルにした時のクリア感が十分であり、スマートフォン等に適する。また、ヘイズが1.0%以下、好ましくは0.5%以下の場合は、さらにタッチパネルにした時のクリア感に優れ、静電容量方式タッチパネル用としてさらに好適に用いることができる。
なお、ヘイズの測定方法については、JISK7361−1に準じて測定することができる。
【0021】
[ハードコート層]
ハードコート層としては、本発明の規定する水の接触角およびn−ドデカンの接触角を満たすものであれば特に限定されない。本発明におけるハードコート層は、主に後述する放射線硬化型樹脂(以下、ハードコート(HC)主剤と呼称する場合がある。)からなる。ここで「主に」とは、ハードコート層の全質量中に80質量%以上、好ましくは90質量%以上であることを示す。
【0022】
(ハードコート層の厚み)
本発明におけるハードコート層の厚みは、1.0μm以上3.0μm以下が好ましい。ハードコート層の厚みが上記数値範囲にあると、上述のように水の接触角の調整が容易になることに加えて、加熱時等においてハードコートフィルムがカールし難くなる傾向にある。このような観点から、静電容量方式タッチパネルに用いる際は、ハードコート層の厚みは、1.0μm以上2.2μm以下がさらに好ましい。
【0023】
(放射線硬化型樹脂)
本発明における放射線硬化型樹脂は、放射線により硬化させることができるモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。本発明における放射線硬化型樹脂としては、硬化後の架橋密度を高くすることができ、表面硬度の向上効果を高くすることができ、かつ透明性の向上効果を高くすることができるという観点から、多官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートオリゴマー、あるいは多官能(メタ)アクリレートポリマー等の多官能(メタ)アクリレート化合物が好ましい。
【0024】
かかる多官能(メタ)アクリレート化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基を含有する化合物であるが、分子内に少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を含有することが好ましく、そのような態様とすることによって、放射線硬化型樹脂の架橋反応が進行しやすくなり、表面硬度の向上効果をより高くすることができる。また、本発明における多官能(メタ)アクリレート化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基以外の他の重合性官能基を含有してもよい。
【0025】
分子内に少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を含有する多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えばネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート)、メラミン(メタ)アクリレート等、およびこれらのうち少なくとも1種からなる1〜22量体程度のオリゴマーや、これらのうち少なくとも1種からなるポリマーを挙げることができる。このような多官能(メタ)アクリレート化合物は、一種類を単独で用いても良いし、二種類以上を併用して用いても良い。
【0026】
本発明おける放射線硬化型樹脂としては、上記多官能(メタ)アクリレート化合物からなるアクリルポリマーの主鎖もしくは側鎖に、(ポリ)アルキレングリコール成分が共重合された(ポリ)アルキレングリコール成分含有放射線硬化型樹脂であることが好ましく、これをハードコート層に用いる方法を、本発明が規定する水およびn−ドデカンの接触角を達成するための特に好ましい方法として例示することができる。かかる(ポリ)アルキレングリコール成分としては、エチレングリコールやプロピレングリコール等のアルキレングリコールを好ましく例示することができ、中でもエチレングリコールが好ましい。かかる(ポリ)アルキレングリコール成分は、繰り返し構造を有さずにモノ(アルキレングリコール)であってもよいし、繰り返し構造を有してオリゴ(アルキレングリコール)あるいはポリ(アルキレングリコール)であってもよい。好ましい態様としては、(ポリ)アルキレングリコール成分の両末端に(メタ)アクリロイル基を官能基として有する態様、多官能(メタ)アクリレート化合物(オリゴマーまたはポリマー)に(ポリ)アルキレングリコール成分をランダム共重合またはブロック共重合した態様が挙げられる。特に好ましい態様は、多官能(メタ)アクリレート化合物(オリゴマーまたはポリマー)の主鎖あるいは側鎖に(ポリ)アルキレングリコール成分をブロック共重合した態様である。
【0027】
(ポリ)アルキレングリコール成分は、数平均分子量Mnが、好ましくは46〜1000000、さらに好ましくは60〜500000である。数平均分子量Mnが上記数値範囲にあると、ハードコート層の表面における水の接触角とn−ドデカンの接触角とを、本発明が規定する数値範囲とすることが容易となる。数平均分子量Mnが高すぎる場合は、水の接触角が高くなりすぎる傾向にある。また、塗剤の粘度が高くなりすぎるため、塗工が困難となる傾向にある。また極性の低い溶剤に溶けにくくなる傾向にあるため、塗剤としての扱いが困難となる傾向にある。
【0028】
(ポリ)アルキレングリコール成分の共重合量は、多官能(メタ)アクリレート化合物からなるアクリルポリマーの質量に対して、好ましくは1質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上4質量%以下、特に好ましくは2質量%以上3質量%以下である。(ポリ)アルキレングリコール成分の共重合量が上記数値範囲にあると、ハードコート層の表面における水の接触角とn−ドデカンの接触角とを、本発明が規定する数値範囲とすることが容易となる。(ポリ)アルキレングリコール成分の共重合量を増やすと、水の接触角は小さくなる傾向にあるが、n−ドデカンの接触角にはあまり大きな影響を及ぼさない。そのため、(ポリ)アルキレングリコール成分を用いる方法によると、通常の界面活性剤を添加するのみでは得られない水の接触角の範囲とn−ドデカンの接触角の範囲の組み合わせとすることができる。
【0029】
以上のような放射線硬化型樹脂の数平均分子量Mnは、好ましくは100〜1000000、さらに好ましくは1000〜500000である。数平均分子量Mnが高すぎたり低すぎたりする場合は、粘度が高すぎたり低すぎたりするため、塗工が困難となる傾向にある。
【0030】
(光重合開始剤)
また、本発明においては、より硬い硬度のハードコート層を形成するために、ハードコート層には、光重合開始剤を添加することが好ましい。光重合開始剤としては、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フロオレノン、アントラキノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メチル−1−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド等を挙げることができる。かかる光重合開始剤の添加量は、放射線硬化型樹脂100質量%を基準として、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。添加量を上記数値範囲とすることによって、ハードコート層の表面硬度の向上効果をより高くすることができる。添加量が多すぎる場合は、添加した光重合開始剤が可塑剤として働く傾向にあり、ハードコート層の強度が低くなってしまい、硬度が軟らかくなってしまう恐れがある。
【0031】
(任意に添加してもよいその他の添加剤)
本発明におけるハードコート層においては、本発明が規定するハードコート層表面における接触角の態様を実現できる範囲においては、無機微粒子、有機微粒子、光増感剤、レベリング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料等を加えることができる。
【0032】
[ハードコート層の形成方法]
本発明のハードコートフィルムは、ハードコート層を形成するための塗液(以下、ハードコート(HC)塗液と呼称する場合がある。)を、後述する基材フィルム上のハードコート層を形成したい側の表面に塗工し、加熱乾燥し、硬化することにより得ることができる。
【0033】
本発明におけるHC塗液は、溶媒に、放射線硬化型樹脂、好ましく添加される光重合開始剤、および任意に添加してもよいその他の添加剤を添加し、混合した溶液である。各成分の添加にあたっては、粉体等の固体として添加してもよいし、固体を適当な溶媒を用いて溶液あるいは分散体の態様としたものを添加してもよい。
【0034】
本発明におけるHC塗液に用いられる溶媒としては、欠点数を本発明が規定する範囲とするために、主たる溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルを用いることが好ましい。中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが、とりわけ欠点数を抑制する効果が高いため好ましい。ここで主たるとは、溶媒全量に対して、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上を示す。
【0035】
HC塗液の固形分濃度としては、1〜70質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましく、30〜45質量%がさらに好ましい。このような態様とすることも、本発明が規定する欠点を低減するための好ましい達成方法の1つである。
【0036】
HC塗液を塗布する方法としては、それ自体公知の方法を採用できる。例えばリップダイレクト法、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、バーコーター法等を好ましく挙げることができる。これらの塗布方法によって、基材フィルム上にHC塗液を塗布し、ハードコート(HC)塗膜を形成し、得られたHC塗膜を加熱乾燥する。加熱乾燥の条件としては、50〜150℃で10〜180秒間加熱することが好ましく、50〜120℃で20〜150秒間加熱することがさらに好ましく、50〜80℃で30〜120秒間加熱することが特に好ましい。加熱乾燥後、紫外線照射または電子線照射によりHC塗膜を硬化する。紫外線照射の場合、その照射量は、好ましくは10〜2000mJ/cm、さらに好ましくは50〜1500mJ/cm、特に好ましくは100〜1000mJ/cmである。
【0037】
本発明においては、上記のような特定の溶媒を採用した上で、同時に上記のごとく好ましいHC塗液の固形分濃度および乾燥条件を採用することを、本発明が規定する欠点の態様を得るための特に好ましい達成方法として挙げることができる。すなわち、このような特定の条件を採用することによって、HC主剤を十分に硬化させながら、HC塗液の粘度および溶媒の沸点を適度な範囲にすることができ、欠点をより低減することができるというものである。なお、本発明においては、HC塗液に界面活性剤を添加することを妨げるものではないが、本発明が規定するハードコート表面の接触角を阻害しない範囲で添加する必要がある。しかしながら、そのような範囲で界面活性剤の添加のみで欠点抑制を達成しようとしても、塗布抜け欠点抑制の効果は非常に低く、結果として本発明が規定する欠点の態様を満足することができない。接触角達成の観点からは、界面活性剤を実質的に含有しない態様(例えば好ましくは0.1質量%以下)が好ましい。
【0038】
[基材フィルム]
本発明における基材フィルムは、特に限定されるものではなく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレントリアセチルセルロース、アクリル等からなるシートあるいはフィルムを挙げることができる。中でも、透明性等の光学特性、機械特性、耐熱性、価格のバランスが良いという観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートからなるフィルムが好ましい。
【0039】
基材フィルムの厚みは特には限定されないが、タッチパネルに適した剛性がありかつハンドリング性が良好であるという観点からは、好ましくは12μm以上300μm以下、より好ましくは25μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上220μm以下、特に好ましくは75μm以上195μm以下である。
【0040】
また、静電容量方式タッチパネルに用いる際は、とりわけ、基材フィルムの厚みは12μm以上60μm以下が好ましい。基材フィルムの厚みが上記数値範囲にあると、光線透過率がより高く、ヘイズがより低くなる傾向にあり、また剛性を十分に保った上で製品としてのタッチパネルの総厚みを薄くすることができる。このような観点から、静電容量方式タッチパネルに用いる際は、基材フィルムの厚みは、20μm以上55μm以下がさらに好ましい。
【0041】
[易接着層]
本発明においては、ハードコート層と基材フィルムとの接着性を高める等の目的で、ハードコート層と基材フィルムとの間にポリエステル樹脂と架橋剤とを構成成分として含む易接着層を設けることが好ましい。さらに、かかる易接着層により、水の接触角およびn−ドデカンの接触角を本発明の規定する範囲とすることがより容易となり、本発明が好ましく規定する範囲とすることができる。
かかる易接着層は、ポリエステル樹脂と架橋剤とを構成成分として含むものである。以下、易接着層を構成する各構成成分について説明する。
【0042】
(ポリエステル樹脂)
易接着層に用いるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とから得られるポリエステルである。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を例示することができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、ジメチロールプロパン等や、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを例示することができる。
【0043】
かかるポリエステル樹脂としては、2種以上のジカルボン酸成分かつ/または2種類以上のジオール成分を用いた共重合ポリエステルを用いることが好ましく、接着性により優れる。ポリエステル樹脂には、若干量であればマレイン酸、イタコン酸等の不飽和多塩基酸成分、或いはp−ヒドロキシ安息香酸等の如きヒドロキシカルボン酸成分が含まれていてもよい。
【0044】
かかるポリエステル樹脂のガラス転移点温度(Tg)は、好ましくは40〜100℃である。Tgがこの範囲であれば、優れた接着性や耐傷性を得ることができる。また、ハードコート層表面の接触角を、本発明が規定する態様にしやすくなる。ガラス転移点温度が40℃未満であると耐ブロッキング性に劣る傾向にあり、他方、100℃を超えると易接着層が硬くて脆くなり、耐傷性が悪化する傾向にある。このような観点から、Tgは、さらに好ましくは60〜80℃である。
【0045】
また、ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は、0.4以上0.7未満であることが好ましい。IVがこの範囲であれば、ポリエステル樹脂自体からの低分子量物の発生をより高度に抑制でき、かつポリエステル樹脂の凝集力がより高くなる故に、より優れた接着性や耐傷性を得ることができる。また、ハードコート層表面の接触角を、本発明が規定する態様にしやすくなる。固有粘度が0.4未満であるとポリエステル樹脂自体からの低分子量物の発生が起こり易くなり、基材の透明性を悪化させ易くなる。このような観点から、IVは、さらに好ましくは0.5以上0.7未満である。
また、ポリエステル樹脂は水に可溶性または分散性のものが好ましいが、多少の有機溶剤を含有する水に可溶なものも用いることができる。
【0046】
ポリエステル樹脂は例えば次の方法で製造することができる。ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル交換反応器に仕込み、触媒を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃に制御して、生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行う。次いで、温度を徐々に255℃まで上昇させ、系内を減圧下にして重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂を得ることができる。重縮合時に分子量が上昇してくると溶融粘度が高くなり、系内の攪拌が難しくなる。易接着層に使用されるポリエステル樹脂はホモのポリエチレンテレフタレートと比較すると分子量が低い割に溶融粘度が高くなり、系内の攪拌が非常に難しく、攪拌設備のモーターのトルクを上げること、羽根の形状を工夫すること、重合時間を延ばすこと等で固有粘度を上げることができる。
【0047】
ポリエステル樹脂の含有量は、易接着層の全質量中に、好ましくは50〜95質量%、さらに好ましくは60〜90質量%であり、接着性により優れ、ハードコート層表面における濡れ性を、本発明が規定する数値範囲にし易くなる。
【0048】
(架橋剤)
易接着層に用いる架橋剤としては、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、メラミン系架橋剤およびイソシアネート系架橋剤が好ましく、オキサゾリン系架橋剤が特に好ましい。易接着層が架橋剤を含有することで、耐ブロッキング性を高くすることができる。また、易接着層の強度(凝集力)を高くすることができ、接着性に優れる。さらに、ハードコート層表面の接触角を、本発明が規定する態様にしやすくなる。とりわけオキサゾリン系架橋剤は取り扱いやすく、易接着層を形成するための塗液のポットライフが長いことから好ましい。なお、これらは1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0049】
エポキシ系架橋剤は、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等が挙げられる。ここで、ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトール、ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルが挙げられる。グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’,−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0050】
オキサゾリン系架橋剤は、オキサゾリン基を含有する重合体が好ましい。かかる重合体は、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2ーエチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等のア(メタ)クリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N、N−ジアルキルアクリルアミド、N、N−ジアルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸のエステル部にポリアルキレンオキシドを付加させたもの等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα、β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、等のα、β−不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
【0051】
メラミン系架橋剤は、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロールメラミン誘導体に低級アルコールとしてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を反応させてエーテル化した化合物及びそれらの混合物が好ましい。メチロールメラミン誘導体としては、例えば、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等が挙げられる。
【0052】
イソシアネート系架橋剤は、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、1,6−ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン−4、4´−ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3´−ビトリレン−4,4´ジイソシアネート、3,3´ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0053】
架橋剤の含有量は、易接着層の全質量中に、好ましくは0.1〜35質量%、さらに好ましくは10〜30質量%である。0.1質量%より少ないと易接着層の凝集力が発現しない場合があり、接着性が不足する場合があり好ましくない。35質量%より多いと易接着層が非常に硬くなり、応力緩和が少なくなり接着性が発現しない場合や、易接着層を有するフィルムを回収使用した場合に架橋体による異物が発生しやすくなる傾向にある。
【0054】
(微粒子)
本発明においては、易接着層には微粒子を含有することが好ましい。
本発明で使用する微粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、三酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデン等の無機微粒子;アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂等の有機微粒子を用いることができる。これらは1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0055】
かかる微粒子は、平均粒子径が、好ましくは22〜220nm、さらに好ましくは40〜122nmである。平均粒子径が220nmより大きいと微粒子の脱落が発生しやすくなり、22nmよりも小さいと十分な滑性、耐傷性が得られない場合があり好ましくない。
【0056】
微粒子の含有量は、易接着層の全質量中に、0.1〜10質量%が好ましい。0.1質量%未満であると十分な滑性、耐傷性が得られず、10質量%を超えると塗膜の凝集力が低くなり接着性が悪化し好ましくない。また、ハードコート層表面における接触角を、本発明が規定する態様とすることが困難となる傾向にある。
【0057】
(脂肪族ワックス)
本発明においては、易接着層には脂肪族ワックスを含有することが好ましい。
脂肪族ワックスの具体例としては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、パームワックス、ロジン変性ワックス、オウリキュリーワックス、サトウキビワックス、エスパルトワックス、バークワックス等の植物系ワックス;ミツロウ、ラノリン、鯨ロウ、イボタロウ、セラックワックス等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシンワックス等の鉱物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等の石油系ワックス;フィッシャートロプッシュワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス等の合成炭化水素系ワックスを挙げることができる。就中、ハードコート層や基材フィルムに対する接着性に優れ、また滑性が良好なことから、カルナバワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが特に好ましい。これらは環境負荷の低減が可能であることおよび取扱い易さから水分散体として用いることが好ましい。
【0058】
脂肪族ワックスの含有量は、易接着層の全質量中に、好ましくは0.5〜30質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。含有量が0.5質量%未満ではフィルム表面の滑性が十分には得られないことがあり好ましくない。30質量%を超えると基材フィルムやハードコート層に対する接着性の向上効果が低くなる傾向にある。
【0059】
[易接着層の形成方法]
本発明において上記各構成成分は、易接着層を形成するための塗液(水溶液、水分散液或いは乳化液等の水性塗液。以下、塗液と呼称する場合がある。)の形態で使用されることが好ましい。かかる塗液には、必要に応じて、前記各構成成分以外の他の樹脂、例えば帯電防止剤、着色剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、架橋剤を添加することができる。
【0060】
本発明に用いる塗液の固形分濃度は、通常22質量%以下が好ましいが、特に1〜10質量%であることが好ましい。この割合が1質量%未満であると、基材フィルムへの塗れ性が不足することがあり、22質量%を超えると塗液の安定性や易接着層の外観が悪化することがあり好ましくない。
【0061】
塗液の塗布は、任意の段階で実施することができるが、基材フィルムの製造過程で実施する、いわゆるインラインコーティングが好ましく、更には配向結晶化が完了する前のフィルムに塗布するのが好ましい。ここで、結晶配向が完了する前のフィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向または横方向の何れか一方に延伸した一軸延伸フィルム、更には縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸せしめたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸せしめて配向結晶化を完了せしめる前の二軸延伸フィルム)等を含むものである。なかでも、未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムに、塗液を塗布し、そのまま縦延伸および/または横延伸と熱固定とを施すのが好ましい。
【0062】
塗液を基材フィルムに塗布する際には、塗布性を向上させるための予備処理として基材フィルム表面にコロナ表面処理、火炎処理、プラズマ処理等の物理処理を施すか、あるいは塗液に界面活性剤を添加することが好ましい。かかる界面活性剤は、フィルムへの塗液の濡れを促進する機能や塗液の安定性を向上させるものであり、例えば、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン型、ノニオン型界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤の添加量は、塗液中に、0.01〜2質量%含まれていることが好ましい。
【0063】
塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独または組み合わせて用いることができる。なお、塗膜は必要に応じフィルムの片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。
【0064】
易接着層の厚さは、好ましくは0.01〜0.3μm、より好ましくは0.02〜0.25μmであり、すなわち塗液の塗布量は、易接着層の厚さが上記数値範囲となるような量であることが好ましい。易接着層の厚さが薄過ぎると、接着性に劣る傾向にあり、逆に厚過ぎると、ブロッキングを起こしたり、ヘイズ値が高くなったりする傾向にある。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中における各評価は下記の方法に従った。
【0066】
(1)水の接触角
ハードコート層表面に5mmの高さから0.2mLの蒸留水をシリンジにてゆっくりと滴下し、30秒間放置後、その接触角(ハードコート層表面と液滴の接線が成す角)をCCDカメラで観察して測定した。同様の操作を5回繰り返し、平均値を用いた。
【0067】
(2)n−ドデカンの接触角
測定用の液体としてn−ドデカンを使用した以外は水の接触角と同様にして測定した。なお、接触角が22度以下の領域においては、接触角の数値を正確に求めることができないため、接触角が22度以下であるという結果を以って、測定値とした。
【0068】
(3)ヘイズ
ハードコートフィルムのヘイズは、JIS K7150に準拠して、スガ試験機(株)製のヘイズメーターHCM−2Bにて測定を行った。測定光は、ハードコート層側から入射した。測定は、任意の5箇所について実施し、それらの平均値をヘイズ(単位:%)とした。
【0069】
(4)エチレングリコールユニットの含有量の測定方法
放射線硬化型樹脂を分取GPCによって各含有成分に分け、それぞれの成分につき熱分解GC−MSを行うことで構成する構造を同定した。その後H−NMRのピーク積分値から各成分の定量を行い、(ポリ)アルキレングリコール成分の含有量を同定した。
[分取GPC条件]
カラム:JAIGEL−2H×2本 600×22mmI.D.(日本分析工業製)
移動相溶媒:クロロホルム3.5ml/min
[熱分解GC−MS条件]
熱分解温度:600℃単純熱分解およびオンラインメチル化熱分解
メチル化剤:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)
カラム:ZB−1,長さ30m×内径0.32mm,膜厚0.5μm
GC温度:40℃(0min),15℃/min,322℃(10min)
H−NMRによる定量]
計算式:含有量=分子量×(積分比/H数),合計が100になるように規格化。
ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートは、GPCの面積比が重量比と一致すると仮定し、H−NMRのアクリル基の積分値(1000)をその比率に割り振った値とした。
【0070】
(5)ハードコート層の厚み
サンプルフィルムを鋭利な剃刀にてカットし、得られた断面を光学顕微鏡によって観察することでハードコート層の厚みを測定した。測定は、任意の10箇所について実施し、それらの平均値をハードコート層の厚み(単位;μm)とした。
【0071】
(6)鉛筆硬度
JIS K5600に準拠し実施した。
評価は、ハードコートフィルムのハードコート層表面において実施した。
【0072】
(7)欠点の評価方法
[欠点の検出]
ハードコートフィルムサンプルにおいて、エッジ部から5cmの領域を除いた部分から面積1mのサンプルを採取した。得られたサンプルを、ハードコート層が上向きとなるように黒色の検査台の上に置き、上方50cmの距離から三波長蛍光灯(パナソニック電工製、32W)にて光を照射しながら目視にて欠点を探し、検出した。なお、この方法にて視認できる欠点の最小のサイズ(径)は30μm程度である。
[欠点のサイズ]
上で検出した欠点を光学顕微鏡にて50倍〜200程度の倍率で観察し、スケールを用いて欠点の最大長さ(径)を測定し、最大長さが30μm以上あることを確認し、30μm以上のものについてその数をカウントした。最大長さが30μm未満であったものについては欠点数としてカウントしなかった。この時観察する欠点は、光学顕微鏡視野において明らかに周辺部とコントラストの異なる箇所として認識することができる。
【0073】
(8)ガラス転移点温度(Tg)
樹脂サンプルの場合は約10mg、フィルムサンプル(基材フィルム)の場合は約22mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差走査熱量計(DSC)(DuPont Instrument910 DSC)に装着し、25℃から22℃/分の速度で290℃まで昇温させ、290℃で3分間保持した後取り出し、直ちに氷の上に移して急冷した。このパンを再度DSCに装着し、25℃から22℃/分の速度で昇温させて、ガラス転移点温度Tg(単位:℃)を測定した。
【0074】
(9)ハードコート層の粘着密着性評価
[初期密着性]
幅25mmのポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製、No.31B)をハードコート層表面に500g加重のローラーにて密着させ、剥離試験機を用いて180°剥離を行い、その剥離力(単位:g/25mm)を測定することで粘着剤とハードコート層との初期密着性を評価した。なお、初期密着性評価においては、剥離力が1000g/25mm以上である場合を初期密着性評価合格とした。剥離力が上記数値範囲にあると、静電容量方式タッチパネル用として、十分な初期密着性を有することを表わす。
[経時密着性]
初期密着性の評価と同様に粘着テープをハードコート層表面に貼合したサンプルを作成し、それらを60℃×湿度90%の条件下に240時間保持し、その後に同様に剥離力の測定を行い、粘着剤とハードコート層の経時密着性を評価した。なお、経時密着性評価においては、剥離力が1000g/25mm以上である場合を経時密着性評価合格とした。剥離力が上記数値範囲にあると、静電容量方式タッチパネル用として、十分な経時密着性を有することを表わす。
【0075】
[実施例1]
<基材フィルムおよび易接着層>
基材フィルムとして、易接着層を有する、厚み38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
ここで、易接着層は、以下の構成成分からなる。
ポリエステル樹脂:ジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸65モル%/イソフタル酸30モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸5モル%、グリコール成分がエチレングリコール90モル%/ジエチレングリコール10モル%で構成されている。Tg=80℃、数平均分子量Mn13000。
架橋剤:メチルメタクリレート30モル%/2−イソプロペニル−2−オキサゾリン30モル%/ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリレート10モル%/アクリルアミド30モル%で構成されている。Tg=50℃。
微粒子:シリカフィラー(平均粒子径100nm)(日産化学(株)製、商品名:スノーテックスZL)
脂肪族ワックス:カルナバワックス(中京油脂(株)製、商品名:セロゾール524)
界面活性剤:ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成社製、商品名:ナロアクティーN−70)
これらの構成成分を、固形分の質量比で、ポリエステル樹脂/架橋剤/微粒子/脂肪族ワックス/界面活性剤=65/20/5/5/5となるように混合し、イオン交換水により固形分濃度5質量%となるように希釈して易接着層を形成するための塗液を得た。
得られた塗液を、基材フィルムの製造工程(常法の二軸延伸PETフィルムの製造工程)において、縦一軸延伸の後、横延伸工程の前において両面にインラインコーティングすることにより、厚み0.15μmの易接着層を両面に有する基材フィルムを得た。なお、かかる基材フィルムには、実質的に粒子が含有されていない(10ppm以下)ものを使用した。
【0076】
<HC塗液の調製>
HC主剤として、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートから主になるアクリルポリマーに、(ポリ)アルキレングリコール成分として、上記アクリルポリマーの質量に対して2.9質量%の繰り返しエチレングリコール単位が共重合された放射線硬化型樹脂(商品名:ビームセット1460、荒川化学工業製、固形分濃度90質量%、溶媒:メチルエチルケトン(MEK)/キシレン、光重合開始剤を含有する。)を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)で希釈し、固形分濃度40質量%のハードコート層を形成するための塗液を得た。(ポリ)アルキレングリコール成分についてはH−NMR、IR、GC−MS等の分析から(部分)共重合されていることを確認した。
【0077】
<ハードコート層の塗設>
ロールコーターを用いて、基材フィルムの一方の表面(易接着層表面)に、乾燥・硬化後の膜厚みが1.5μmとなるように、上記で得られたHC塗液を均一に塗布し、70℃で2分間の条件で乾燥した。次いで、紫外線照射装置(FusionUV Systems Japan(株)製:商品名フュージョンHバルブ)を用いて、光量200mJ/cmの条件で紫外線を照射しハードコートフィルムを得た。得られたハードコート層、およびハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0078】
[実施例2]
基材フィルムとして、内部に実質的に粒子を含有せず、両面に上記の易接着層を有する、厚み50μmのPETフィルムを用い、ハードコート層の厚みを3.0μmとした以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコート層、およびハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0079】
[実施例3]
HC主剤として、ビームセット1460の代わりに、中国塗料社製の放射線硬化型樹脂(商品名:オーレックスJU116、固形分濃度50質量%、溶媒:MEK/メチルイソブチルケトン(MIBK))を用い、希釈溶剤としてPGMEAを用いて塗液の固形分濃度を30質量%とした以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコート層、およびハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0080】
[比較例1]
HC塗液の希釈溶媒としてMEKを用いた以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコート層、およびハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0081】
[比較例2]
HC塗液の希釈溶媒としてMEKを用いた以外は、実施例3と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコート層、およびハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0082】
[比較例3]
ウレタンアクリレートオリゴマーを主成分とする放射線硬化型樹脂(商品名:ビームセット575CB、荒川化学工業製、固形分濃度100質量%)に、ハードコート層表面の濡れ性を調整するために界面活性剤(商品名:KP−341、信越化学工業製、固形分濃度100質量%)を、放射線硬化型樹脂の固形分100質量%に対して0.25質量%添加し、さらにMEKで希釈することで固形分濃度40質量%のHC塗液を得た。ハードコート層の塗設については実施例1と同様に実施した。得られたハードコート層、およびハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0083】
上記で得られたハードコートフィルムをキャリアフィルムとして用いて、静電容量方式のタッチパネルを作成し、高精細LCDの画面上に静置して視認性を確認したところ、実施例1〜3で得られたハードコートフィルムを用いた場合は、画面上に欠点がほとんど確認されず、視認性に優れるものであった。対して、比較例1,2で得られたハードコートフィルムを用いた場合は、画面上に多くの欠点か観測され、視認性に劣るものであった。
【0084】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によって得られるハードコートフィルムは、欠点数が少なく外観が良好でるため、タッチパネル用として用いた場合に視認性に優れ、とくに高い視認性の要求される静電容量方式タッチパネルにも用いることができる。また、耐擦傷性に優れるため、静電容量方式タッチパネルの製造工程においてITO−PETフィルムを保護することができる。さらに、ITO−PETフィルムやLCD等の光学材料や光学部材との積層の際に、密着性に優れる。これらの特性を全て同時に備えるため、本発明のハードコートフィルムは、静電容量方式のタッチパネルの内部に用いるハードコートフィルムとしてとりわけ好適に用いることができ、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に、表面の水の接触角が78度以上90度以下、n−ドデカンの接触角が22度以下であり、径が30μm以上の欠点の個数が20個/m以下であるハードコート層を有するハードコートフィルム。
【請求項2】
基材フィルムの少なくとも片面に、溶媒としてのグリコールエーテルに少なくとも放射線硬化型樹脂を添加して得られた、固形分濃度1〜70質量%のハードコート層を形成するための塗液を塗工して塗膜を形成し、得られた塗膜を温度50〜150℃で10〜180秒間加熱乾燥し、硬化して得られた、請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
ハードコート層表面の水の接触角が78度以上86度以下、n−ドデカンの接触角が22度以下である請求項1または2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
ヘイズが2.0%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
基材フィルムの厚みが12μm以上60μm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
ハードコート層の厚みが1.0μm以上3.0μm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項7】
基材フィルムとハードコート層との間に、ポリエステル樹脂と架橋剤とを構成成分として含む易接着層を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項8】
静電容量方式タッチパネル内面用である請求項1〜7のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のハードコートフィルムを製造するに際して、基材フィルムの少なくとも片面に、溶媒としてのグリコールエーテルに少なくとも放射線硬化型樹脂を添加して得られた、固形分濃度1〜70質量%のハードコート層を形成するための塗液を塗工して塗膜を形成し、得られた塗膜を温度50〜150℃で10〜180秒間加熱乾燥し、硬化する、ハードコートフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−128157(P2012−128157A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279113(P2010−279113)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】