説明

ハードコートフィルムの製造方法、及びハードコートフィルム

【課題】フィルムの表面硬度を損なうことなく、カールの発生を抑えたハードコートフィルムの製造方法、及びそれにより得られたハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】基材上に光重合性化合物を含有する組成物を塗布した後、光照射により前記光重合性化合物を重合させてハードコート層を形成する工程を有するハードコートフィルムの製造方法であって、前記ハードコート層を形成する工程において、前記光照射を行うときの膜面温度を20℃〜30℃に制御し、2回以上の光照射を行い、各光照射間に10秒〜60秒の未照射時間を設ける、ハードコートフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムの製造方法、及びハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)は大画面化が進み、例えば反射防止フィルム、光拡散シート等の光学フィルムを配置した液晶表示装置が増大している。例えば反射防止フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)のような様々な画像表示装置において、外光の反射や像の映り込みによるコントラスト低下を防止するために、ディスプレイの表面に配置される。また、光拡散シートは液晶表示装置のバックライト側に用いられる。
【0003】
光学フィルムは、普通、透明支持体上に光拡散性(ハードコート)層、または高屈折率層および低屈折率層などを積層して作製される。
光学フィルムはディスプレイの最表面に用いられるため様々な膜強度、たとえば細かなこすり傷に対する耐擦傷性や、筆記器具で書かれたときの圧力に耐える膜硬度などが要求される。
これらの要求に応えるために、表面に硬い層を積層する方法、オルガノシラン化合物を含有した層を形成する方法、積層する層の厚みを厚くする方法などが行なわれてきた。
このような膜強度を高める方法として、例えば、特許文献1には耐擦傷性の観点から、光学フィルムの製造方法において、塗布、乾燥を行った後の硬化工程において、加熱処理と光照射工程とを逐次又は同時に複数回行う方法が記載されている。
また、高い硬度、クラック、ひび割れ等の成形の欠陥抑制等の観点から光照射を多段階に変化させて光硬化させる方法が知られている(例えば、特許文献2、3参照。)。例えば、特許文献2にはプラスチック成形品の表面において、紫外線を多段にわたり照射して硬化塗膜を形成する方法が記載されている。
一方、表面フィルムにはディスプレイの表面を薄くするために、支持体の薄手化も要求されてきている。
これら膜強度付与や支持体の薄層化を行うとカールが大きくなって、表面フィルムの製造、加工での取り扱い性が難しくなるという問題が生じている。
また、光学フィルムの開発において、カールを抑制しようとすると、フィルム表面硬度が低下してしまうという問題も生じており、表面硬度とカール抑制とを両立する光学フィルムの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−256925号公報
【特許文献2】特開昭61−238号公報
【特許文献3】特開平3−90320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、フィルムの表面硬度を損なうことなく、カールの発生を抑えたハードコートフィルムの製造方法、及びそれにより得られたハードコートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の手段により達成される。
〔1〕
基材上に光重合性化合物を含有する組成物を塗布した後、光照射により前記光重合性化合物を重合させてハードコート層を形成する工程を有するハードコートフィルムの製造方法であって、前記ハードコート層を形成する工程において、前記光照射を行うときの膜面温度を20℃〜30℃に制御し、2回以上の光照射を行い、各光照射間に10秒〜60秒の未照射時間を設ける、ハードコートフィルムの製造方法。
〔2〕
最初の前記未照射時間が、前記重合性化合物の重合によるハードコート層の硬化率として30%〜50%硬化させた後に設けられる、〔1〕に記載のハードコートフィルムの製造方法。
〔3〕
1回目の光照射における照射時間が0.01〜1秒である、〔1〕又は〔2〕に記載のハードコートフィルムの製造方法。
〔4〕
前記光重合性化合物の重合による前記ハードコート層の硬化率として50%以上硬化させた後における光照度が100mW/cm以下である、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
〔5〕
前記ハードコート層を形成する工程において1又は2回の前記未照射時間を設ける、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
〔6〕
前記光照射を行うときの膜面温度の制御が、温度制御された風及びローラーで行われる、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
〔7〕
〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたハードコートフィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明のハードコートフィルムの製造方法は、フィルムの表面硬度を損なうことなく、カールの発生を抑えたハードコートフィルムを製造することができる。
また、上記製造方法により得られた本発明のハードコートフィルムは、高い表面硬度及びカール発生の抑制を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、数値が物性値、特性値等を表す場合に、「(数値1)〜(数値2)」という記載は、「数値1以上〜数値2以下」の意味を表す。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」との記載は、「アクリレートおよびメタクリレートの少なくともいずれか」の意味を表す。「(メタ)アクリル酸」等も同様である。
【0009】
本発明のハードコートフィルムの製造方法は、基材上に光重合性化合物(以下、単に「硬化性化合物」ともいう。)を含有する組成物を塗布した後、光照射により前記光重合性化合物を重合させてハードコート層を形成する工程を有するハードコートフィルムの製造方法であって、前記ハードコート層を形成する工程において、前記光照射を行うときの膜面温度を20℃〜30℃に制御し、2回以上の光照射を行い、各光照射間に10秒〜60秒の未照射時間を設ける。
【0010】
本発明者は、ハードコート層形成時に光重合性化合物(硬化性化合物)の重合反応が進行しハードコート層の硬化が進行するほど、該層内部で収縮応力が増大していき、ある程度硬化(重合)が進むと、前記収縮応力により急激にカールの発生が増大し、そのまま硬化(重合)を進めると生じたカールを解消してもとの状態に戻し得ないことを見出している。一方で、ハードコート層の硬化が進行することにより該層内部で収縮応力が増大している段階であっても後述のようにして前記収縮応力を緩和させることができ、かつカールを抑え得る段階があることを見出している。本発明はこの知見に基づきなされるに至ったものである。
本発明のハードコートフィルムの製造方法が、カールの発生を抑える理由は定かではないが以下のように推定される。
光照射中に未照射時間を設けることで、ハードコート層の硬化が進行することにより生じる前記収縮応力を重合反応物の熱拡散により緩和することでカールを抑制することができ、更には、光照射による硬化と、未照射による前記収縮応力の緩和とを繰り返すことによりカールを生じることなくハードコート層を形成できるものと推定される。
【0011】
[光照射]
塗布後、熱重合(熱硬化)させると、熱膨張した状態で硬化することになり、硬化後に常温に戻る際に熱収縮が起こり、大きな収縮応力が発生しカール発生の原因となる。
これに対し、本発明のハードコートフィルムの製造方法における光照射は、前記塗布後、熱重合(熱硬化)させることなく、光照射、電子線ビーム照射などにより行うことができ、前記重合性化合物を重合ないしは架橋させてハードコート層を形成することができ、収縮応力及びカールの発生を抑制することができる。
本発明のハードコートフィルムの製造方法において、硬化進行により生じた前記収縮応力を緩和する観点から、前記ハードコート層を形成する工程における光照射を2又は3回の光照射を行い、各光照射間に設ける前記未照射時間が1又は2回であることが好ましい。
本発明において、未照射時間とは、実質的に光が照射されない時間をいい、例えば、照度1mW/cm以下の環境下、好ましくは0.2mW/cm以下の環境下に置くことをいう。
最初の光照射(1回目の光照射)における光照度としては特に制限はないが10〜1000mW/cmであることが好ましく、20〜500mW/cmであることがより好ましい。
1回目の光照射における照射時間としては特に制限はないが、下記の硬化率30%〜50%を達成する観点から0.01〜1秒であることが好ましく、0.02〜0.5秒であることがより好ましい。
本発明のハードコートフィルムの製造方法において、最初の前記未照射時間は、前記重合性化合物の重合によるハードコート層の硬化率として30%〜50%硬化させた後に設けることが好ましく、40%〜50%硬化させた後に設けることがより好ましい。前記最初の未照射時間を設ける時点が硬化率30%以上であることにより生産性が良く、硬化率50%以下であることによりハードコート層中に生じた収縮応力を緩和することができ、発生したカールを抑えることができる。
本発明のハードコートフィルムの製造方法において、例えば、1回目などの光照射により前記光重合性化合物の重合によるハードコート層の硬化率として30%〜50%硬化させた後に、ハードコート層中に発生した収縮応力を緩和することによりカールを抑制する観点から10秒〜60秒の前記未照射時間を設けることがより好ましく、前記カール抑制の観点だけでなく、生産性をも考慮すると、10〜20秒の前記未照射時間を設けることが更に好ましい。
2回目以降の各未照射時間としては、それぞれ、10秒〜60秒であり、10〜20秒であることが好ましい。
本発明のハードコートフィルムの製造方法において、更なるカール抑制の観点から、前記光重合性化合物の重合によるハードコート層の硬化率として50%以上硬化させた後における光照度(例えば、2回目、3回目などの光照射)が100mW/cm以下であることが好ましく、20〜50mW/cmであることがより好ましい。
2回目以降の各光照射における各照射時間としては特に制限はないが0.1〜20秒であることが好ましく、1〜10秒であることがより好ましい。
紫外線照射の場合、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等が利用できる。
紫外線による硬化は、窒素パージ等で酸素濃度が4体積%以下、更に好ましくは2体積%以下、最も好ましくは0.5体積%以下で硬化することが好ましい。膜面温度は上記収縮応力及びカール発生の抑制の観点から、20℃〜30℃に制御する。
本発明において、光源の輻射熱等による膜面温度の上昇を温度調整した風及びローラーを用いることで抑えることができる。UV照射量は20〜600mJ/cmが好ましく、50〜300mJ/cmがより好ましい。
本発明のハードコートフィルムの製造方法において、前記光重合性化合物の重合によるハードコート層の硬化率として70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上硬化させることでハードコート層の形成を達成することができる。
【0012】
[基材]
本発明のハードコートフィルムの製造方法における基材としては、プラスチックフィルムを用いることが好ましく、透明性のプラスチックフィルムを用いることがより好ましい。プラスチックフィルムを形成するポリマーとしては、セルロースアシレート(例、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、代表的には富士フイルム社製TAC−TD80U,TD80UFなど)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリスチレン、ポリオレフィン、ノルボルネン系樹脂(アートン:商品名、JSR社製)、非晶質ポリオレフィン(ゼオネックス:商品名、日本ゼオン社製)、などが挙げられる。このうちトリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、が好ましく、特にトリアセチルセルロースが好ましい。
[塗布方式]
本発明のハードコートフィルムの製造方法における塗布方式としては特に制限はないが、ハードコート層を形成するための塗布用組成物(塗布液)をバーコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、グラビアコート法やダイコート法により基材上に塗布し、加熱・乾燥することが好ましく、バーコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法により塗布することがより好ましく、バーコート法により塗布することが特に好ましい。
その後、光照射して、ハードコート層を形成する光重合性化合物を重合して硬化することができる。これによりハードコート層が形成される。ここで必要であれば、ハードコート層を複数層としてもよい。このようにして本発明におけるハードコートフィルムが得られる。
また、同様にして低屈折率層を形成するための塗布液を機能層上に塗布し、光照射あるいは加熱し(紫外線など電離放射線を照射、好ましくは加熱下で電離放射線を照射することにより硬化させ、)低屈折率層を形成してもよい。
【0013】
〔ハードコート層を形成する組成物〕
本発明のハードコートフィルムの製造方法におけるハードコート層を形成する組成物、すなわち塗布組成物ないしは塗布液としては主として、マトリックス形成バインダーとしての硬化性モノマー、オリゴマー、ポリマー等の前記光重合性化合物を含有する。その他、光重合開始剤、有機溶媒を含有してもよく、必要に応じて前記特定粒径比を有する透光性粒子、膜硬度を強くするための添加剤、カール低減や屈折率調節等のための無機微粒フィラー、塗布助剤等を含有していてもよい。
【0014】
ここで、バインダーとは、透光性粒子を除いた膜構成成分を示し、前記光重合性化合物とその重合により得られた光硬化性樹脂、後記の高分子化合物、有機ケイ素化合物、及び界面活性剤などを含む。
【0015】
[重合性化合物]
本発明において、光重合性化合物(硬化性化合物)としては、1又は2種以上の任意のアクリレート化合物を使用することができる。その中で、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する、本業界で広範に用いられる高硬度の硬化物を形成するアクリレート系化合物を好適に使用することが可能である。このような化合物としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル{例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性リン酸トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−クロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0016】
3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能アクリレート系化合物類の具体化合物としては、日本化薬(株)製KAYARAD DPHA、同DPHA−2C、同PET−30、同TMPTA、同TPA−320、同TPA−330、同RP−1040、同T−1420、同D−310、同DPCA−20、同DPCA−30、同DPCA−60、同GPO−303、大阪有機化学工業(株)製V#400、V#36095D等のポリオールと(メタ)アクリル酸のエステル化物を挙げることができる。また紫光UV−1400B、同UV−1700B、同UV−6300B、同UV−7550B、同UV−7600B、同UV−7605B、同UV−7610B、同UV−7620EA、同UV−7630B、同UV−7640B、同UV−6630B、同UV−7000B、同UV−7510B、同UV−7461TE、同UV−3000B、同UV−3200B、同UV−3210EA、同UV−3310EA、同UV−3310B、同UV−3500BA、同UV−3520TL、同UV−3700B、同UV−6100B、同UV−6640B、同UV−2000B、同UV−2010B、同UV−2250EA、同UV−2750B(日本合成化学(株)製)、UL−503LN(共栄社化学(株)製)、ユニディック17−806、同17−813、同V−4030、同V−4000BA(大日本インキ化学工業(株)製)、EB−1290K、EB−220、EB−5129、EB−1830,EB−4358(ダイセルUCB(株)製)、ハイコープAU−2010、同AU−2020((株)トクシキ製)、アロニックスM−1960(東亜合成(株)製)、アートレジンUN−3320HA,UN−3320HC,UN−3320HS、UN−904,HDP−4Tなどの3官能以上のウレタンアクリレート化合物、アロニックスM−8100,M−8030,M−9050(東亞合成(株)製、KBM−8307(ダイセルサイテック(株)製)の3官能以上のポリエステル化合物なども好適に使用することができる。
【0017】
さらに、本発明における光重合性化合物として、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する樹脂、例えば比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物などのオリゴマー又はプレポリマー等もあげられる。
【0018】
本発明に使用される重合性化合物(例えば3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物)はバインダー全量に対して40〜99質量%となるようにハードコート層を形成する組成物中に含有することが好ましく、50〜98質量%となるようにハードコート層を形成する組成物中に含有することがより好ましく、60〜98質量%となるようにハードコート層を形成する組成物中に含有することがさらに好ましい。
【0019】
[光重合開始剤]
本発明に使用される光重合開始剤は、電離放射線の照射によりラジカル重合反応を開始可能なラジカルを発生する化合物で、「最新UV硬化技術」(p.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)や、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)のカタログ、特開2001−139663号、特開平5−83588号、特開平5−83588号公報、特開平1−304453号、米国特許第3,479,185号、特開平5−239015号、特開平8−134404号、特開平11−217518号、特開2002−116539号、特開2002−116539号等の公報に記載されている公知の各種の光重合開始剤を使用することができる。その中でも、感光波長が300nm〜430nmにある光開始能の高い光開始剤は、高圧水銀灯やメタルハライドランプ等の光源と感光波長がマッチングして高い感度を示すため、好適に使用される。フィルムの着色の観点から、300nm〜380nmに感光波長を有するものが更に好ましい。
【0020】
光重合開始剤は、前記重合性化合物に対応して用いることが好ましく、前記重合性化合物100質量部に対して、重合開始剤総量で0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲がより好ましい。以下に具体的な光重合開始剤を列挙するが、これらに限定されるものではない。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
上記化合物の中では、C−1〜C−6に記載のトリハロメチル−s−トリアジン系開始剤、C−13、C−14、C−16、C−17に記載のアシルホスホン系開始剤、C−18、C−23、C−22、C−29のα−解裂型開始剤、C−26、C−28のケトオキシム系開始剤が感度が高く着色等が少ないため好ましい。
【0024】
(高分子化合物)
本発明に係るハードコート層を形成する組成物は、高分子化合物を含有してもよい。高分子化合物を含有することで、硬化収縮を小さくしたり、樹脂粒子の分散安定性(凝集性)に関わる塗布液の粘度調整をより優位に行うことができ、さらには、乾燥過程での固化物の極性を制御して樹脂粒子の凝集挙動を変えたり、乾燥過程での乾燥ムラを減じたりすることもでき、好ましい。
【0025】
高分子化合物は、ハードコート層を形成する組成物に含有させる時点で既に重合体を形成しており、該高分子化合物としては、例えばセルロースエステル類(例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースナイトレート等)、ウレタン類、ポリエステル類、(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、メタクリル酸メチル/(メタ)アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/(メタ)アクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸メチル/(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体、メタクリル酸メチル/(メタ)アクリル酸共重合体、ポリメタクリル酸メチル等)、ポリスチレン等の樹脂が好ましく用いられる。
【0026】
高分子化合物は、硬化収縮への効果やハードコート層を形成する組成物の粘度増加効果の観点から、高分子化合物を含有する層に含む全バインダーに対して、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは20〜50質量%の範囲で含有することが好ましい。
また、高分子化合物の分子量は質量平均で0.3万〜40万が好ましく、0.5万〜30万がより好ましく、0.5万〜20万がさらに好ましい。
【0027】
バインダーの屈折率は、マトリックス全体として、好ましくは1.40〜2.00であり、より好ましくは1.45〜1.90であり、更に好ましくは1.48〜1.85であり、特に好ましくは1.51〜1.80である。なお、バインダーの屈折率は、ハードコート層の成分から樹脂粒子を除いて測定した値である。
【0028】
ハードコート層のバインダーは、ハードコート層を形成する組成物の固形分量に対して20〜95質量%の範囲で含有させることが好ましい。
【0029】
(透光性粒子)
本発明におけるハードコート層を形成する組成物に透光性粒子を含有させることにより、光拡散性のハードコート層を形成することができる。
本発明におけるハードコート層を形成する組成物には、得られるハードコート層の厚みに対して平均粒径が0.2〜0.8倍の粒径を有する透光性粒子を含有することが好ましい。より好ましい平均粒径はハードコート層の厚みに対して0.3〜0.8倍で、さらに好ましくは0.4〜0.7倍である。平均粒径が上記の範囲であると画面の黒しまりに優れ、且つ適度の防眩性を有することによるザラツキ感が少なく、さらにギラツキと称される表面凹凸に起因する高精彩ディスプレイを見たときの微小な輝度ムラを減少させることができる。
【0030】
透光性粒子は、光拡散効果を効果的に発現させるために、上記の平均粒子径範囲を有することに加え、前述のバインダーとの間の屈折率差を調節することが好ましい。具体的には、透光性粒子とバインダーの間の屈折率差は、0.02以上であり、0.03以上0.25以下がより好ましく、0.04以上0.2以下が特に好ましい。
さらに樹脂粒子においては、架橋剤が粒子を合成する前の全モノマーに対して3モル%以上含有して架橋されたものが好ましい。
透光性粒子のバインダーに対する含有量は、ハードコート層を形成する組成物の全固形分中の2〜40質量%がこのましく、4〜25質量%であることが特に好ましい。
透光性粒子の塗布量は、好ましくは10mg/m〜10000mg/m、より好ましくは50mg/m〜4000mg/mである。
【0031】
本発明に係る透光性粒子の具体例としては、樹脂粒子の場合、例えば架橋ポリメチルメタアクリレート粒子、架橋メチルメタアクリレート−スチレン共重合体粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋メチルメタアクリレート−メチルアクリレート共重合粒子、架橋アクリレート−スチレン共重合粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、ポリカーボネート粒子等の樹脂粒子が好ましく挙げられる。さらにはこれらの樹脂粒子の表面にフッ素原子、シリコン原子、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、スルホン酸基、燐酸基等を含む化合物を化学結合させた所謂表面修飾した粒子も好ましく挙げられる。なかでも架橋スチレン粒子、架橋ポリメチルメタアクリレート粒子、架橋メチルメタアクリレート−スチレン共重合体粒子等が好ましい。
【0032】
樹脂粒子の形状は、真球又は不定形のいずれも使用できる。粒度分布はヘイズ値と拡散性の制御性、塗布面状の均質性から単分散性粒子が好ましい。例えば平均粒子径よりも20%以上粒子径が大きな粒子を粗大粒子と規定した場合、この粗大粒子の割合は全粒子数の1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。このような粒子径分布を持つ粒子は通常の合成反応後に、分級によって得られ、分級の回数を上げることやその程度を強くすることにより、より好ましい分布の粒子を得ることができる。
透光性粒子の無機粒子の具体例としては、例えばシリカ粒子、中空シリカ粒子、アルミナ粒子、TiO粒子、Mg0粒子、Sr0粒子、BaO粒子、SrSO粒子、SnO粒子、ZnO粒子等の金属酸化物粒子が挙げられる。これらは製造時の粒子沈降抑制のために二次粒子、または不定形の二次粒子であることも好ましい。
【0033】
粒子の粒度分布はコールターカウンター法により測定し、測定された分布を粒子数分布に換算する。平均粒径は得られた粒子分布から算出する。
【0034】
(無機フィラー)
本発明におけるハードコート層を形成する組成物には、層の硬度の増加、硬化収縮減少、さらに屈折率を高めるため、前記の透光性粒子に加えて、無機フィラーを屈折率の調整や、膜強度の調整の目的で含有させることもできる。
無機フィラーの含有量は、ハードコート層を形成する組成物全固形分の10質量%以上、好ましくは15質量%〜80質量%、より好ましくは20質量%〜70質量%含有することが好ましい。
無機フィラーとしては、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、インジウム、亜鉛、錫、アンチモンのうちより選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、一次粒子の平均粒径が、一般に0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.06μm以下である微細な無機フィラーを含有することも好ましい。
【0035】
また逆に、高屈折率の樹脂粒子を用いた光拡散性のハードコート層では、粒子との屈折率差を大きくするためにバインダーの屈折率を低くすることも好ましい。このために無機フィラーとして、シリカ微粒子、中空シリカ微粒子等を用いることができる。好ましい粒径は前記の高屈折率化微細無機フィラーと同じである。
【0036】
これら微細無機フィラーの具体例としては、TiO、ZrO、Al、In、ZnO、SnO、Sb、ITO(Snをドープした酸化インジウム)、SiO等が挙げられる。TiO及びZrOが高屈折率化の点で特に好ましい。該無機フィラーは表面をシランカップリング処理又はチタンカップリング処理されることも好ましく、フィラー表面にバインダー種と反応できる官能基を有する表面処理剤が好ましく用いられる。
【0037】
なお、微細無機フィラーは、粒径が光の波長よりも十分短いために散乱が生じず、バインダーポリマーに該フィラーが分散した分散体は光学的に均一な物質の性質を有する。
【0038】
(有機溶媒)
ハードコート層を形成する塗布組成物には少なくとも1種の有機溶媒が含有されることが好ましい。
有機溶媒としては、例えばアルコール系では、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール、イソアミルアルコール、1−ペンタノール、n−ヘキサノール、メチルアミルアルコール等、ケトン系では、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等、エステル系では、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソアミル、酢酸n−アミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酢酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等、エーテル、アセタール系では、1,4ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルアセタール等、炭化水素系では、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、リグロイン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、ジビニルベンゼン等、ハロゲン炭化水素系では、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、塩化エチレン、1,1,1−トリクロルエタン、1,1,2−トリクロルエタン、トリクロルエチレン、テトラクロルエチレン、1,1,1,2−テトラクロルエタン等、多価アルコールおよびその誘導体系では、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキシレングリコール、1,5−ペンタジオール、グリセリンモノアセテート、グリセリンエーテル類、1,2,6−ヘキサントリオール等、脂肪酸系では、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、乳酸等、窒素化合物系では、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、アセトニトリル等、イオウ化合物系では、ジメチルスルホキシド等、が挙げられる。
これらの中でメチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、1−ペンタノール等が特に好ましく、また凝集性制御の目的でアルコール、多価アルコール系の溶媒を適宜混合して用いてもよい。
これらの有機溶媒は、単独でも混合して用いてもよく、塗布組成物中に有機溶媒総量として、40質量%〜98質量%含有することが好ましく、60質量%〜97質量%含有することがより好ましく、70質量%〜95質量%含有することが最も好ましい。
【0039】
(界面活性剤)
本発明におけるハードコート層を形成する組成物は、特に塗布ムラ、乾燥ムラ、点欠陥等の面状均一性を確保するために、フッ素系、シリコーン系の何れかの界面活性剤、あるいはその両者をハードコート層用の塗布組成物中に含有することが好ましい。特にフッ素系の界面活性剤は、より少ない添加量において、本発明のハードコートフィルムの塗布ムラ、乾燥ムラ、点欠陥等の面状故障を改良する効果が現れるため、好ましく用いられる。
面状均一性を高めつつ、高速塗布適性を持たせることにより生産性を高めることが目的である。
フッ素系の界面活性剤の好ましい例としては、任意のフルオロ脂肪族基を含有する共重合体(いわゆる、フッ素系ポリマー)が挙げられる。
【0040】
本発明の製造方法により得られたハードコートフィルムにおけるハードコート層の厚みは、前記基材の厚みに対して0.03〜0.20倍であることが好ましく、0.05〜0.17倍がより好ましく、0.07〜0.15倍がさらに好ましい。厚さがこの範囲内であると、膜硬度に優れ、カール、ヘイズ値、ギラツキ等の欠点がなく、しかも防眩性と黒しまり感等の調整も容易である。例えば、前記基材の厚みが80μmであるとハードコート層の厚みは2.4μm〜16μmが、前記基材の厚みが仮に40μmであると1.2μm〜8μmであることが好ましい。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、3H以上であることが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法により得られたハードコートフィルムにおけるハードコート層には、前述のように、透光性粒子を含有していてもよいし、また含有していなくてもよく、光拡散性(防眩性を含む)を有するハードコート層でもよいし、光拡散性を有しないハードコート層でもよい。また、1層でもよいし、複数層、例えば2層〜4層で構成されていてもよく、光拡散性ハードコート層と光拡散性を持たない透明ハードコート層の組み合わせでもよい。ハードコート層の透光性粒子以外の部分の素材の屈折率は1.45〜2.00の範囲にあることが好ましい。
【0042】
本明細書において、光散乱性を変えたり防眩性を変える数μmオーダーの透光性粒子を含有するハードコート層を光拡散性ハードコート層とも称し、該透光性粒子を含有しないハードコート層を透明ハードコート層とも称する。
【0043】
透明ハードコート層と光拡散性ハードコート層の積層配置は特に限定されない。基材側から順に透明ハードコート層、光拡散性ハードコート層の順に配置してもよく、また逆の配置でもよい。
【0044】
本発明におけるハードコートフィルムは、ハードコート層以外の機能層が塗設されていてもよく、これらの層としては、例えば、帯電防止層、高屈折率層、低屈折率層、防汚層等が挙げられる。帯電防止層は導電性の無機微粒子を含有することが好ましい。高屈折率層は屈折率が1.50〜2.00の範囲にあることが好ましい。低屈折率層は屈折率が1.20〜1.48の範囲にあることが好ましく、ハードコート層または高屈折率層の外側に隣接して塗設されることが好ましく、最外層であってもよい。また低屈折率層の上にさらに防汚層を有してもよい。
【0045】
〔低屈折率層〕
本発明におけるハードコートフィルムは、ハードコート層の上に、屈折率が前記基材より低い層(低屈折率層)を設けていてもよく、反射防止フィルムとして用いることもできる。
本発明においては、前記のハードコート層より外側、すなわち前記基材より遠い側に低屈折率層を設けることができる。低屈折率層を有することで、防眩性フィルムに反射防止機能を付与し、さらには防眩性をより高めることができる。低屈折率層の屈折率は前記のハードコート層の屈折率より低く設定することが好ましい。低屈折率層とハードコート層との屈折率差が小さすぎる場合は反射防止性が低下し、大き過ぎると反射光の色味が強くなる傾向がある。低屈折率層とハードコート層との屈折率差は0.01以上0.30以下が好ましく、0.05以上0.20以下がより好ましい。
低屈折率層は、低屈折率素材を用いて形成することができる。低屈折率素材としては、低屈折率バインダーを用いることができる。また、バインダーに微粒子を加えて低屈折率層を形成することもできる。
【0046】
低屈折率バインダーとしては、含フッ素共重合体を好ましく用いることができる。含フッ素共重合体は、含フッ素ビニルモノマーから導かれる構成単位と架橋性付与のための構成単位を有することが好ましい。
【0047】
(含フッ素共重合体)
含フッ素共重合体を主として構成する含フッ素ビニルモノマーとしては、フルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオリド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等)、(メタ)アクリル酸の部分又は完全フッ素化アルキルエステル誘導体類{例えば「ビスコート6FM」(商品名)、大阪有機化学工業(株)や“R−2020”(商品名)、ダイキン工業(株)製等}、完全又は部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられるが、好ましくはペルフルオロオレフィン類であり、屈折率、溶解性、透明性、入手性等の観点から特に好ましくはヘキサフルオロプロピレンである。
【0048】
これらの含フッ素ビニルモノマーの組成比を上げれば屈折率を下げることができるが、皮膜強度は低下する傾向がある。本発明では共重合体のフッ素含率が20〜60質量%となるように含フッ素ビニルモノマーを導入することが好ましく、より好ましくは25〜55質量%の場合であり、特に好ましくは30〜50質量%の場合である。
【0049】
架橋反応性付与のための構成単位としては主として以下の(A)、(B)、(C)で示される単位が挙げられる。
(A):グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテルのように分子内に予め自己架橋性官能基を有するモノマーの重合によって得られる構成単位、
(B):カルボキシ基やヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基等を有するモノマー{例えば(メタ)アクリル酸、メチロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、マレイン酸、クロトン酸等}の重合によって得られる構成単位、
(C):分子内に上記(A)、(B)の官能基と反応する基とそれとは別に架橋性官能基を有する化合物を、上記(A)、(B)の構成単位と反応させて得られる構成単位(例えばヒドロキシ基に対してアクリル酸クロリドを作用させる等の手法で合成できる構成単位)が挙げられる。
【0050】
上記(C)の構成単位は、その架橋性官能基が光重合性基であることが好ましい。該光重合性基としては、例えば(メタ)アクリロイル基、アルケニル基、シンナモイル基、シンナミリデンアセチル基、ベンザルアセトフェノン基、スチリルピリジン基、α−フェニルマレイミド基、フェニルアジド基、スルフォニルアジド基、カルボニルアジド基、ジアゾ基、o−キノンジアジド基、フリルアクリロイル基、クマリン基、ピロン基、アントラセン基、ベンゾフェノン基、スチルベン基、ジチオカルバメート基、キサンテート基、1,2,3−チアジアゾール基、シクロプロペン基、アザジオキサビシクロ基などを挙げることができ、これらは1種のみでなく2種以上であってもよい。これらのうち、(メタ)アクリロイル基及びシンナモイル基が好ましく、特に好ましくは(メタ)アクリロイル基である。
【0051】
光重合性基含有共重合体を調製するための具体的な方法としては、下記の方法を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
a.水酸基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、(メタ)アクリル酸クロリドを反応させてエステル化する方法、
b.水酸基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、イソシアネート基を含有する(メタ)アクリル酸エステルを反応させてウレタン化する方法、
c.エポキシ基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、(メタ)アクリル酸を反応させてエステル化する方法、
d.カルボキシ基を含有してなる架橋性官能基含有共重合体に、エポキシ基を含有する含有(メタ)アクリル酸エステルを反応させてエステル化する方法。
【0052】
なお、上記光重合性基の導入量は任意に調節することができ、塗膜面状安定性・無機粒子共存時の面状故障低下・膜強度向上などの点からカルボキシ基やヒドロキシ基等を残していても良い。
共重合体中の架橋性付与のための構成単位の導入量が10〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは15〜45モル%の場合であり、特に好ましくは20〜40モル%の場合である。
【0053】
本発明で特に有用な含フッ素共重合体は、ペルフルオロオレフィンとビニルエーテル類又はビニルエステル類のランダム共重合体である。特に単独で架橋反応可能な基{(メタ)アクリロイル基等のラジカル反応性基、エポキシ基、オキセタニル基等の開環重合性基等}を有していることが好ましい。これらの架橋反応性基含有重合単位はポリマーの全重合単位の5〜70モル%を占めていることが好ましく、特に好ましくは30〜60モル%の場合である。好ましいポリマーについては、特開2002−243907号、特開2002−372601号、特開2003−26732号、特開2003−222702号、特開2003−294911号、特開2003−329804号、特開2004−4444、特開2004−45462号の各公報に記載のものを挙げることができる。
【0054】
また本発明で有用な含フッ素共重合体には、防汚性を付与する目的で、ポリシロキサン構造が導入されていることが好ましい。ポリシロキサン構造の導入方法に制限はないが、例えば特開平6−93100号、特開平11−189621号、同11−228631号、特開2000−313709号の各公報に記載のごとく、シリコーンマクロアゾ開始剤を用いてポリシロキサンブロック共重合成分を導入する方法;特開平2−251555号、同2−308806号の各公報に記載のごとくシリコーンマクロマーを用いてポリシロキサングラフト共重合成分を導入する方法が好ましい。特に好ましい化合物としては、特開平11−189621号公報の実施例1、2、及び3のポリマー、又は特開平2−251555号公報の共重合体A−2及びA−3を挙げることができる。これらのポリシロキサン成分は、ポリマー中の0.5〜10質量%であることが好ましく、特に好ましくは1〜5質量%である。
【0055】
本発明に好ましく用いることのできる共重合体の好ましい分子量は、質量平均分子量が5000以上、好ましくは10000〜500000、最も好ましくは15000〜200000である。平均分子量の異なるポリマーを併用することで塗膜面状の改良や耐傷性の改良を行うこともできる。
【0056】
上記の共重合体に対しては、特開平10−25388号公報及び特開2000−17028号公報に記載のごとく、適宜、重合性不飽和基を有する硬化剤を併用してもよい。また、特開2002−145952号公報に記載のごとく、含フッ素の多官能の重合性不飽和基を有する化合物との併用も好ましい。多官能の重合性不飽和基を有する化合物の例としては、前記防眩層で述べた多官能モノマーを挙げることができる。これら化合物は、特に共重合体本体に重合性不飽和基を有する化合物を用いた場合に耐擦傷性改良に対する併用効果が大きく好ましい。
【0057】
(微粒子)
前記低屈折率層には微粒子を含有させてもよい。
低屈折率層に含有させ得る微粒子の塗設量は、1〜100mg/mが好ましく、より好ましくは1〜80mg/m、更に好ましくは1〜70mg/mである。微粒子の塗設量が該下限値以上であれば、耐擦傷性の改良効果が明らかに現れ、該上限値以下であれば、低屈折率層表面に微細な凹凸ができて外観や積分反射率が悪化するなどの不具合が生じないので好ましい。該微粒子は、低屈折率層に含有させることから、低屈折率であることが好ましい。
【0058】
具体的には、低屈折率層に含まれる微粒子は、無機微粒子、中空の無機微粒子、又は中空の有機樹脂微粒子であって、低屈折率のものであることが好ましく、中空の無機微粒子が特に好ましい。無機微粒子としては、例えば、シリカ又は中空シリカの微粒子が挙げられる。
【0059】
このような微粒子の平均粒径は、低屈折率層の厚みの30%以上100%以下が好ましく、より好ましくは30%以上80%以下、更に好ましくは35%以上70%以下である。すなわち、低屈折率層の厚みが100nmであれば、微粒子の粒径は30nm以上100nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以上80nm以下、更に好ましくは、35nm以上70nm以下である。
【0060】
上記のような(中空)シリカ微粒子は、その粒径が上記下限値以上であれば、耐擦傷性の改良効果が明らかに現れ、上記上限値以下であれば、低屈折率層表面に微細な凹凸ができて外観や積分反射率が悪化するなどの不具合が生じないので好ましい。
【0061】
(中空)シリカ微粒子は、結晶質でも、アモルファスのいずれでもよく、また単分散粒子でも、凝集粒子(この場合は、2次粒子径が、低屈折率層の層厚の15%〜150%であることが好ましい)でも構わない。また、2種類以上の複数の粒子(種類又は粒径)を用いても構わない。粒子の形状は、球径が最も好ましいが、不定形であっても問題ない。
【0062】
低屈折率層の屈折率を低下させるために、中空のシリカ微粒子を用いることが特に好ましい。該中空シリカ微粒子は屈折率が1.17〜1.40、より好ましくは1.17〜1.35、さらに好ましくは1.17〜1.33である。ここでの屈折率は粒子全体としての屈折率を表し、中空シリカ粒子を形成している外殻のシリカのみの屈折率を表すものではない。この時、粒子内の空孔の半径をr、粒子外殻の半径をrとすると、空隙率xは下記数式(3)で算出される。
【0063】
数式(3): x=(4πr/3)/(4πr/3)×100
【0064】
空隙率xは、好ましくは10〜60%、さらに好ましくは20〜60%、最も好ましくは30〜60%である。中空のシリカ粒子をより低屈折率に、より空隙率を大きくしようとすると、外殻の厚みが薄くなり、粒子の強度としては弱くなるため、耐擦傷性の観点から1.17未満の低屈折率の粒子は困難である。なお、これら中空シリカ粒子の屈折率はアッベ屈折率計{(株)アタゴ製}にて測定をおこなった。
【0065】
防汚性向上の観点から、更に、低屈折率層表面の表面自由エネルギーを下げることが好ましい。具体的には、含フッ素化合物やポリシロキサン構造を有する化合物を低屈折率層に使用することが好ましい。
【0066】
ポリシロキサン構造を有する添加剤としては、反応性基含有ポリシロキサン{例えば“KF−100T”,“X−22−169AS”,“KF−102”,“X−22−3701IE”,“X−22−164B”,“X−22−5002”,“X−22−173B”,“X−22−174D”,“X−22−167B”,“X−22−161AS” (商品名)、以上、信越化学工業(株)製;“AK−5”,“AK−30”,“AK−32”(商品名)、以上東亜合成(株)製;、「サイラプレーンFM0725」,「サイラプレーンFM0721」(商品名)、以上チッソ(株)製等}を添加するのも好ましい。また、特開2003−112383号公報の表2、表3に記載のシリコーン系化合物も好ましく使用できる。これらのポリシロキサンは低屈折率層全固形分の0.1〜10質量%の範囲で添加されることが好ましく、特に好ましくは1〜5質量%の場合である。
【0067】
本発明の製造方法により得られたハードコートフィルムを液晶表示装置に用いる場合、片面に粘着層を設ける等してディスプレイの最表面に配置することが好ましい。また、本発明の製造方法により得られたハードコートフィルムを前述のように反射防止フィルムとし、偏光板を組み合わせてもよい。前記基材がトリアセチルセルロースの場合は偏光板の偏光層を保護する保護フィルムとしてトリアセチルセルロースが用いられるため、前記反射防止フィルムをそのまま保護フィルムに用いることがコストの上では好ましい。
【0068】
本発明の製造方法により得られたハードコートフィルムは、片面に粘着層を設ける等してディスプレイの最表面に配置したり、そのまま偏光板用保護フィルムとして使用される場合には、十分に接着させるためには基材上に最外層を形成した後、鹸化処理を実施することが好ましい。鹸化処理は、公知の手法、例えば、アルカリ液の中に該フィルムを適切な時間浸漬して実施される。アルカリ液に浸漬した後は、該フィルムの中にアルカリ成分が残留しないように、水で十分に水洗したり、希薄な酸に浸漬してアルカリ成分を中和することが好ましい。
鹸化処理することにより、最外層を有する側とは反対側の基材の表面が親水化される。
親水化された表面は、ポリビニルアルコールを主成分とする偏光膜との接着性を改良するのに特に有効である。また、親水化された表面は、空気中の塵埃が付着しにくくなるため、偏光膜と接着させる際に偏光膜と反射防止フィルムの間に塵埃が入りにくく、塵埃による点欠陥を防止するのに有効である。
鹸化処理は、最外層を有する側とは反対側の基材の表面の水に対する接触角が40゜以下になるように実施することが好ましい。更に好ましくは30゜以下、特に好ましくは20゜以下である。
【0069】
〔偏光板〕
偏光板は、偏光膜を両面から挟む2枚の保護フィルムで主に構成される。本発明におけるハードコートフィルムは、偏光膜を両面から挟む2枚の保護フィルムのうち少なくとも1枚に用いることが好ましい。本発明におけるハードコートフィルムが保護フィルムを兼ねることで、偏光板の製造コストを低減できる。また、本発明におけるハードコートフィルムを最表層に使用することにより、外光の映り込み等が防止され、耐傷性、防汚性等も優れた偏光板とすることができる。
〔画像表示装置〕
本発明におけるハードコートフィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)、表面電界ディスプレイ(SED)のような画像表示装置に適用することができる。特に好ましくは液晶表示装置(LCD)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)に用いられる。本発明におけるハードコートフィルムは基材を有しているので、基材側を画像表示装置の画像表示面に接着して用いられる。
【0070】
本発明におけるハードコートフィルムは、偏光膜の表面保護フィルムの片側として用いた場合、ツイステットネマチック(TN)、スーパーツイステットネマチック(STN)、バーティカルアライメント(VA)、インプレインスイッチング(IPS)、オプティカリーコンペンセイテットベンドセル(OCB)等のモードの透過型、反射型、又は半透過型の液晶表示装置に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0071】
本発明をより詳細に説明するために、以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特別の断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0072】
〔実施例1〜6、比較例1、2〕
(1)ハードコート層用塗布液の作成
【0073】
{ハードコート層用塗布液(HC1)の調製}
ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物 45.1質量部
(日本化薬社製:PET30)
シリカ微粒子 38.7質量部
(日産化学社製:MEK−ST;粒子径:10〜20nm)
イルガキュア184(本文中C−18) 1.4質量部
(光重合開始剤;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
メチルエチルケトン 4.4質量部
メチルイソブチルケトン 10.5質量部
【0074】
同様にして下記ハードコート層用塗布液(HC2)も調製した。
{ハードコート層用塗布液(HC2)の調製}
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 56.3質量部
イルガキュア184 1.7質量部
メチルエチルケトン 31.5質量部
メチルイソブチルケトン 10.5質量部
【0075】
(2)ハードコート層の塗設
80μmの厚さを有するトリアセチルセルロースフィルム(TAC−TD80U、富士フイルム(株)製。屈折率1.48)に、前記ハードコート層用塗布液を各々下記表1に記載のようにバーコーターで固形膜厚が15μmになるように塗布し、60℃で60秒乾燥の後、窒素パージ下で下記表1に記載してある膜面温度、照度、照射時間、未照射時間で紫外線を照射して硬化し、ハードコート層を形成し、ハードコートフィルムを作製した。また、各実施例において、光源の輻射熱等による膜面温度の上昇を防ぐため、温度制御された風及び温度制御されたローラーを用いることで膜面温度を25℃に温度制御した。ただし、膜面温度の計測は温度制御したローラーの出口部において非接触型赤外温度計測器により測定した。また、未照射は複数のローラーを配置した遮光されたゾーンを通過させることで行った。この時の雰囲気温度とローラーの温度は約25℃であった。
なお、いずれのハードコート層の膜厚は15μmであった。
また、下記表中の硬化率(%)は以下のようにして測定した。
アクリル基の面外変核振動の特性吸収である812cm−1の吸収強度をFT−IR(装置:サーモ・ニコレー・ジャパン製、ニコレット710)により測定し、下記式より硬化率(%)を算出した。
【0076】
【数1】

【0077】
〔比較例3〕
光照射時に温度制御された風及び温度制御されたローラーを用いていないこと以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを作製した。
【0078】
〔比較例4〕
2回目の光照射時の膜面温度を100℃にした以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを作製した。
【0079】
(3)ハードコートフィルムの評価
得られたこれらのハードコートフィルム試料について、以下の項目の評価を行った。結果を表1に示した。
【0080】
[1.カール評価]
各ハードコートフィルムを3mm×35mmのサイズに切り出し、その曲率半径から以下の基準でクラス分けしてカール性を評価した。
◎:20cm以上
○:10cmより大きく、20cm未満
×:10cm以下
【0081】
[2.鉛筆硬度評価]
耐傷性の指標としてJIS K 5400に記載の鉛筆硬度評価を行った。各ハードコートフィルムを温度25℃、湿度60%RHで1時間調湿した後、JIS S 6006に規定する3Hの試験用鉛筆を用いて、500gの荷重にてn=5の評価において傷が3つ未満であるものを3Hと評価し、また、4Hの鉛筆を用いて同様の評価を行い、傷が3つ未満であるものを4Hと評価した。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示した結果から明らかなように、2回以上の光照射を行っておらず、未照射時間を設けていない比較例1及び2はカールが大きいことが分かる。また、光照射時に温度制御された風及び温度制御されたローラーを用いていない比較例3は、膜面温度20〜30℃を超えてしまい、2回以上の光照射を行っても、カールが大きいことが分かる。2回以上の光照射を行っても、膜面温度を20〜30℃に制御せずに100℃で光照射した比較例4についてもカールが大きいことが分かる。
一方、2回以上の光照射を行って、各照射間に10〜60秒の未照射時間を設けた実施例1〜6はいずれもハードコート層の硬度が高くて鉛筆等の引っかき耐性も良好であり、かつカールが小さいことが分かる。
特に、未照射時間が60秒と長い実施例3は未照射時間が長い分だけ生産性が劣るもののカール抑制が特に優れることが分かる。
また、50%以上硬化させた後における光照度を100mW/cm以下に抑え、照射回数を増やした実施例5についてもカール抑制が特に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に光重合性化合物を含有する組成物を塗布した後、光照射により前記光重合性化合物を重合させてハードコート層を形成する工程を有するハードコートフィルムの製造方法であって、前記ハードコート層を形成する工程において、前記光照射を行うときの膜面温度を20℃〜30℃に制御し、2回以上の光照射を行い、各光照射間に10秒〜60秒の未照射時間を設ける、ハードコートフィルムの製造方法。
【請求項2】
最初の前記未照射時間が、前記重合性化合物の重合によるハードコート層の硬化率として30%〜50%硬化させた後に設けられる、請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項3】
1回目の光照射における照射時間が0.01〜1秒である、請求項1又は2に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記光重合性化合物の重合による前記ハードコート層の硬化率として50%以上硬化させた後における光照度が100mW/cm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ハードコート層を形成する工程において1又は2回の前記未照射時間を設ける、請求項1〜4のいずれか1項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記光照射を行うときの膜面温度の制御が、温度制御された風及び温度制御されたローラーで行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたハードコートフィルム。

【公開番号】特開2012−215705(P2012−215705A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81057(P2011−81057)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】