説明

ハードコートフィルムの製造方法

【課題】塗布外観に優れたハードコートフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ハードコート層を形成するための塗剤において、特定沸点および特定粘度を有する有機溶剤を特定量添加した塗剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネルは、透明ないし半透明の入力デバイスをLCD(液晶表示装置)等のディスプレイ上に直接設けることにより、画面を見ながら入力操作することが可能であり、誰にでも簡単に操作ができ、また文字や絵の入力も可能であることから、マン/マシンインターフェースとして多く用いられるようになってきた。そして、タッチパネルの表面には、それを保護する目的において、プラスチックフィルムに何らかの硬度の高い材料からなる層を設けたハードコートフィルムが用いられているのが一般的である。
現在、このようなタッチパネルの用途としては、ATMなどの端末やカーナビゲーションシステム、スマートフォン、携帯音楽再生用端末、ゲーム機など多岐にわたっている。
【0003】
一方、タッチパネルには、用途に応じて人の指で入力する場合とプラスチック製のスタイラスペンで入力する場合とがある。これらのうち、指入力の場合においては、タッチパネル表面に指紋が残りやすいという問題があるが、これまで指入力のタッチパネルは、カーナビゲーションシステムのごとく屋外で使用される場合が多く、またその画質は実用レベルであれば良く、高画質といった要求よりもむしろ外光の反射や映り込み防止の要求が高いものであった。そのため、指入力のタッチパネルにおけるハードコートフィルムとしては、多くの場合、アンチグレア(AG)処理ハードコート(HC)フィルムが用いられていた(例えば特許文献1、2)。そして、かかるAGHCは元来白っぽく見えるために、指紋が付着しても見えにくく、そのため指紋に関する問題はあまり重要視されていなかったのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−58162号公報
【特許文献2】特開2008−96781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、スマートフォンや携帯音楽再生用端末等で画像や動画を見ることが多くなってきており、そのような端末においては、画質の高いタッチパネルが要求されている。そのため、このような用途に用いられるハードコートフィルムには、より良好なハードコート層の塗布外観が求められる。これは、塗布外観に劣ると、ハードコート層の微妙な厚み斑による干渉斑が生じ、画質を低下させてしまうためである。このような斑を防ぐために、界面活性剤を添加して塗液のレベリングを促進したり、高沸点溶剤を用いることでレベリング時間を長くしたりする等の工夫が考えられる。しかしながら、これらによって塗布外観を良好なものとするためには、ある程度の量の界面活性剤や高沸点溶剤を用いることとなり、高沸点溶剤を用いた場合は、塗膜の乾燥/固化後のハードコート層内に溶媒が残ってしまい、次の加熱工程や真空工程でガスが発生し、臭気や蒸着・スパッタ不良などの問題が生じる場合が多い。また、界面活性剤を用いた場合は、乾燥/固化後のハードコート層表面の表面張力が変化してしまうために、顧客でのリコート(オーバーコート)特性や粘着等への付着力が低下してしまう場合がある。
【0006】
また、さらに近年においては、画像や動画を見るための端末に、指入力のタッチパネルが多く用いられるようになってきており、画質の低下を避けるためにAGHCフィルムを用いずに、クリアHCフィルムを用いる必要が生じてきている。しかしながらその場合は、クリアHCフィルム表面を指で触れることになるため、入力時に付着した指紋が目立ってしまうという大きな問題がある。また、付着した指紋が拭き取りにくいという問題がある。このような場合において、上記のごとく塗布外観良化のために界面活性剤を添加すると、表面張力が変化してしまい、ハードコート層表面に付着した指紋がより目立ちやすくなってしまうといった問題を生じる場合がある。
【0007】
本発明の目的は、上記のような残留溶媒および界面活性剤の添加に係る問題を抑制すると同時に、塗布外観に優れたハードコートフィルムの製造方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、上記に加えてさらに同時に耐指紋性に優れたハードコートフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ハードコート層を形成するための塗剤において、特定沸点および特定粘度を有する有機溶剤を特定量用いることによって、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、基材フィルムの上に、ハードコート層を形成するための塗剤を塗布して、乾燥、硬化するハードコートフィルムの製造方法であって、該塗剤が、沸点が120℃以下かつ粘度が1.5〜3.0mPa・sの有機溶剤を25質量%以上60質量%以下含むハードコートフィルムの製造方法である。
【0009】
さらに本発明は、有機溶剤がアルコール類である態様であると、さらに好適に上記目的を達成することができる。
また本発明は、基材フィルムの上に、ハードコート層を形成するための塗剤を塗布して、乾燥、硬化するハードコートフィルムの製造方法であって、該塗剤が、沸点が120℃以下かつ粘度が1.5〜3.0mPa・sの有機溶剤を25質量%以上60質量%以下含む、ハードコート層表面における水の接触角が80〜88度、n−ドデカンの接触角が22度以下である耐指紋性ハードコートフィルムの製造方法を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、多量の高沸点溶剤や界面活性剤を用いずに、塗布外観に優れるハードコートフィルムを提供することができる。そのため、本発明の製造方法によって得られたハードコートフィルムは、残留溶剤や界面活性剤を多量に含むことにより生じる後工程における問題を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ハードコートフィルムの製造方法]
本発明のハードコートフィルムの製造方法は、特定沸点かつ特定粘度の有機溶剤を特定量含有したハードコート層を形成するための塗剤(以下、単に塗剤と呼称する場合がある。)を、基材フィルム上のハードコート層を形成したい側の表面に塗布し、乾燥し、硬化するものである。
ハードコート層を形成するための塗剤は、有機溶剤、ハードコート主剤、および任意に添加してもよいその他の添加剤を混合し、必要に応じて溶媒で濃度を調整した溶液である。
【0012】
以下、上記塗剤を構成する各成分について説明する。
[有機溶剤]
本発明における塗剤は、沸点が120℃以下かつ粘度が1.5〜3.0mPa・sの有機溶剤を含むことが必要である。沸点および粘度が同時に上記数値範囲にある有機溶剤を用いることによって塗布外観を優れたものとすることができる。そして、それによりハードコート層の微妙な厚み斑を抑制することができ、これによる干渉斑を抑制することができる。沸点が120℃より高い場合は、十分に乾燥しにくくなる傾向にあり、有機溶剤がハードコート層中に残留溶剤として残ってしまう場合が多い。このような観点から、好ましい沸点範囲は100℃以下、さらに好ましくは95℃以下、特に好ましくは90℃以下である。用いる有機溶剤の沸点の下限は特に限定されないが、溶媒や塗剤のハンドリング性の観点から、室温より十分に高い温度、例えば45℃以上が好ましく、60℃以上がさらに好ましく、80℃以上が特に好ましい。また、粘度が上記数値範囲にあると、塗剤を塗布後〜乾燥までの間に、塗剤が適度に流動し、レベリング効果を得ることができる。これによって初めて良好な塗布外観が実現される。粘度が1.5mPa・sより低い場合は、塗剤の流動性が高くなりすぎるために、いわゆる「泳ぎムラ」と呼ばれる塗布欠点が発生しやすくなる。他方、粘度が3.0mPa・sより高い場合は、塗剤の流動性が低すぎてレベリング効果が得られなくなる傾向にあり、良好な塗布外観が得られない。このような観点から、粘度は、好ましくは1.8〜2.7mPa・s、さらに好ましくは2.0〜2.5mPa・sである。
【0013】
上記のような有機溶剤としては、上記の沸点および粘度の数値範囲を満足するものであればその種類は特に限定されないが、例えば、イソプロピルアルコール、t−ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテルを用いることができる。中でも、アルコール類が好ましく、t−ブタノールが特に好ましい。
【0014】
本発明においては、上記のような有機溶剤を、塗剤中に25質量%以上60質量%以下含むことが必要である。このような態様とすることによって、塗布外観を優れたものとすることができる。有機溶剤の含有量は、少なすぎる場合は、好適なレベリング効果が得られなくなる傾向にあり、多すぎる場合は、ハードコート層中に有機溶剤が残留溶剤として残存しやすくなる傾向にある。このような観点から、含有量は、好ましくは30〜60質量%、さらに好ましくは40〜60質量%である。本発明においては、上記のような特定沸点および特定粘度の有機溶剤を2種類以上用いる態様であってもよく、その場合は、それらの合計の含有量が上記数値範囲となるようにすればよい。
【0015】
なお、塗剤には、本発明の目的を阻害しない範囲において、上記のような特定沸点および特定粘度を有する有機溶剤以外の溶剤を溶媒として含んでいても良い。かかる溶剤としては、例えば水、エタノール、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸エチル、トルエン等を挙げることができる。
【0016】
[ハードコート主剤]
本発明におけるハードコート主剤としては、得られるハードコート層がその基本特性(とりわけ鉛筆硬度などの硬度)を実現できるものであれば特には限定されないが、本発明におけるハードコート主剤は、主に後述する放射線硬化型樹脂からなることが好ましい。ここで「主に」とは、ハードコート層の全質量中に80質量%以上、好ましくは90質量%以上であることを示す。
【0017】
(放射線硬化型樹脂)
本発明における放射線硬化型樹脂は、放射線により硬化させることができるモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。本発明における放射線硬化型樹脂としては、硬化後の架橋密度を高くすることができ、表面硬度の向上効果を高くすることができ、かつ透明性の向上効果を高くすることができるという観点から、多官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートオリゴマー、あるいは多官能(メタ)アクリレートポリマー等の多官能(メタ)アクリレート化合物が好ましい。
【0018】
かかる多官能(メタ)アクリレート化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基を含有する化合物であるが、分子内に少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を含有することが好ましく、そのような態様とすることによって、放射線硬化型樹脂の架橋反応が進行しやすくなり、表面硬度の向上効果をより高くすることができる。また、本発明における多官能(メタ)アクリレート化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基以外の他の重合性官能基を含有してもよい。
【0019】
分子内に少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を含有する多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えばネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート)、メラミン(メタ)アクリレート等、およびこれらのうち少なくとも1種からなる1〜22量体程度のオリゴマーや、これらのうち少なくとも1種からなるポリマーを挙げることができる。このような多官能(メタ)アクリレート化合物は、一種類を単独で用いても良いし、二種類以上を併用して用いても良い。
【0020】
多官能(メタ)アクリルオリゴマー/ポリマーの繰り返し単位数は、特には制限されないが、例えば数平均分子量で150〜1000000、好ましくは1000〜500000であることが好ましく、塗布外観の向上効果を高くすることができる。数平均分子量が150に満たない場合や、1000000を超える場合は、粘度が低すぎたり高すぎたりする傾向にあり、塗布外観の向上効果が低くなる傾向にある。
【0021】
以上のような、分子内に少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を含有する多官能(メタ)アクリレート化合物は、例えばアロニックスM−400、M−450、M−305、M−309、M−310、M−315、M−320、TO−1200、TO−1231、TO−595、TO−756(以上、東亞合成製)、KAYARD D−310、D−330、DPHA、DPHA−2C(以上、日本化薬製)、ニカラックMX−302(三和ケミカル社製)等の市販品として入手することができる。
【0022】
また、本発明においては、良好な耐指紋性を実現するために、ハードコート層表面が特定の濡れ性を持つことが好ましく、水接触角が80〜88度、かつn−ドデカン接触角が22度以下である態様が好ましい。
【0023】
このような接触角の態様を有するためには、放射線硬化型樹脂として、上記多官能(メタ)アクリレート化合物からなるアクリルポリマーの主鎖もしくは側鎖に(ポリ)アルキレングリコール成分が共重合された構造を形成しうる(ポリ)アルキレングリコール成分含有放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。かかる(ポリ)アルキレングリコール成分は、繰り返し構造を有さずにモノ(アルキレングリコール)であってもよいし、繰り返し構造を有してオリゴ(アルキレングリコール)あるいはポリ(アルキレングリコール)であってもよい。(ポリ)アルキレングリコール成分の具体例としては、繰り返し構造を有していてもよい(ポリ)エチレングリコールや(ポリ)プロピレングリコール等の(ポリ)アルキレングリコールを好ましく例示することができ、中でも繰り返し構造を有していてもよい(ポリ)エチレングリコールが好ましい。(ポリ)アルキレングリコール成分含有放射線硬化型樹脂の好ましい態様としては、(ポリ)アルキレングリコール成分の両末端に(メタ)アクリロイル基を官能基として有する化合物を含む態様が挙げられる。また、硬化後に多官能(メタ)アクリレート化合物(オリゴマーまたはポリマー)に(ポリ)アルキレングリコール成分がランダム共重合、または特に好ましくはブロック共重合した構造を形成しうるものも好ましく挙げられる。
【0024】
(ポリ)アルキレングリコール成分は、数平均分子量Mnが、好ましくは46〜1000000、さらに好ましくは60〜500000である。数平均分子量Mnが上記数値範囲にあると、ハードコート層の表面における水の接触角とn−ドデカンの接触角とを、本発明が好ましく規定する数値範囲とすることが容易となる。数平均分子量Mnが高すぎる場合は、水の接触角が高くなる傾向にある。また、塗剤の粘度が高くなる傾向にあるため、塗布外観の向上効果が低くなる傾向にある。また極性の低い溶剤に溶けにくくなる傾向にあるため、塗剤としての扱いが困難となる傾向にある。
【0025】
(ポリ)アルキレングリコール成分の共重合量は、多官能(メタ)アクリレート化合物からなるアクリルポリマーの質量に対して、好ましくは1質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上4質量%以下、特に好ましくは2質量%以上3質量%以下である。(ポリ)アルキレングリコール成分の共重合量が上記数値範囲にあると、ハードコート層の表面における水の接触角とn−ドデカンの接触角とを、本発明が好ましく規定する数値範囲とすることが容易となる。(ポリ)アルキレングリコール成分の共重合量を増やすと、水の接触角は小さくなる傾向にあるが、n−ドデカンの接触角にはあまり大きな影響を及ぼさない。そのため、(ポリ)アルキレングリコール成分を用いる方法によると、通常の界面活性剤を添加するのみでは得られない水の接触角の範囲とn−ドデカンの接触角の範囲の組み合わせとすることができる。
【0026】
以上のような放射線硬化型樹脂の数平均分子量Mnは、好ましくは100〜1000000、さらに好ましくは1000〜500000である。数平均分子量Mnが高すぎる場合は、粘度が高くなる傾向にあり、塗布外観の向上効果が低くなる傾向にある。
上記のような態様を有するグリコール成分含有放射線硬化型樹脂組成物は、市販品を用いることもでき、かかる市販品としては、例えばKZ6404(JSR株式会社製)、ルシフラールG−004(日本ペイント工業製)、ビームセット1460(荒川化学工業製)等があげられる。
【0027】
本発明者は、このような接触角の調整は、濡れ性を調整し得る界面活性剤のような独立した添加剤の単純な添加によっては達成できないことを見出した。すなわち界面活性剤を添加した場合は、塗工・硬化後のハードコート層表面には界面活性剤の親水基と疎水基とが混在してしまうため、水に対する濡れ性と油(n−ドデカン)に対する濡れ性とが同時に悪くなってしまう。このようなハードコート層表面は、指紋の拭き取り性には優れるが、付着した指紋が非常に目立ちやすい。一方で界面活性剤を添加していない一般的なアクリル系のハードコート層は、n−ドデカンの接触角の範囲は達成されるため、付着した指紋は目立ちにくいが、指紋の拭き取り性が十分ではない。いずれにしても通常のハードコート層やそれに界面活性剤を添加したものでは、本発明が好ましく規定する接触角の範囲を実現できず、すなわち優れた耐指紋性が得られないことが確認された。一方、上述したような(ポリ)アルキレングリコール成分含有放射線硬化型樹脂組成物を用いる方法においては、(ポリ)アルキレングリコール成分の共重合量を増やすと、水の接触角は低くなる傾向にあるが、n−ドデカンの接触角にはあまり影響を及ぼさない。そのため、上記のような水接触角およびn−ドデカン接触角を同時に達成することが可能となる。
【0028】
[任意に添加してもよいその他の添加剤]
(光重合開始剤)
本発明においては、より硬度に優れたハードコート層を形成するために、塗剤には、光重合開始剤を添加するのが好ましい。光重合開始剤としては、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フロオレノン、アントラキノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メチル−1−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド等を挙げることができる。かかる光重合開始剤の添加量は、放射線硬化型樹脂組成物100質量%を基準として、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。添加量を上記数値範囲とすることによって、ハードコート層の表面硬度の向上効果をより高くすることができる。添加量が多すぎる場合は、添加した光重合開始剤が可塑剤として働く傾向にあり、ハードコート層の強度が低くなってしまう恐れがある。
【0029】
本発明においては、本発明の目的を達成できる範囲においては、無機微粒子、有機微粒子、光増感剤、レベリング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料等を加えることができる。
【0030】
[基材フィルム]
本発明における基材フィルムは、特に限定されるものではなく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレントリアセチルセルロース、アクリル等からなるシートあるいはフィルムを挙げることができる。中でも、透明性等の光学特性、機械特性、耐熱性、価格のバランスが良いという観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートからなるフィルムが好ましい。また、本発明における基材フィルムには、ハードコート層との密着性を高める等の目的で、易接着層を設けることが好ましい。また、基材フィルムの厚みは特には限定されないが、タッチパネルに適した剛性がありかつハンドリング性が良好であるという観点から、好ましくは25μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上200μm以下、特に好ましくは75μm以上195μm以下である。
【0031】
[塗布・乾燥・硬化]
本発明においては、上記特定の沸点および粘度を有する有機溶剤と、ハードコート主剤と、任意に添加してもよいその他の添加剤とを混合し、必要に応じて溶媒で希釈して塗剤を得る。かかる混合方法は特に限定されないが、例えば、溶媒中に、塗剤を構成する各成分を攪拌下で順次添加し、混合すればよい。各成分の添加にあたっては、粉体等の固体として添加してもよいし、固体を適当な溶媒を用いて溶液あるいは分散体の態様としたものを添加してもよい。
【0032】
得られる最終的な塗剤の固形分濃度としては、1〜70質量%が好ましく、このような態様とすることによって、塗り斑等の欠点をより低減することができ、塗布外観の向上効果を高くすることができる。このような観点から、塗剤の固形分濃度は、さらに好ましくは10〜50質量%、特に好ましくは30〜40質量%である。
【0033】
ハードコート層を形成するための塗剤を塗布する方法としては、それ自体公知の方法を採用できる。例えばリップダイレクト法、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、バーコーター法等を好ましく挙げることができる。特にグラビアロールコーター法が好ましく、グラビア直径が80mm以下であるリバースグラビアコーターが最も好ましい。これにより塗布外観がより良好となり、干渉斑抑制の向上効果を高くすることができる。これらの塗布方法によって、基材フィルム上に塗剤を塗布し、塗膜を形成し、得られた塗膜を加熱乾燥する。加熱乾燥の条件としては、50〜90℃で10〜180秒間加熱することが好ましく、55〜85℃で10〜180秒間加熱することがさらに好ましく、50〜80℃で10〜180秒間加熱することが特に好ましい。このような乾燥条件を採用することにより塗布外観がより良好となり、干渉斑抑制の向上効果を高くすることができる。加熱乾燥後、紫外線照射または電子線照射により塗膜を硬化する。紫外線照射の場合、その照射量は、好ましくは10〜2000mJ/cm、さらに好ましくは50〜1500mJ/cm、特に好ましくは100〜1000mJ/cmである。
【0034】
かくして基材フィルム上にハードコート層が形成されたハードコートフィルムを製造することができる。かかる製造方法によって得られたハードコートフィルムは塗布外観に優れ、ハードコート層の微妙な厚み斑が抑制され、干渉斑が抑制されたものである。また、残留溶剤が少なく、後工程において問題を生じ難い。
【0035】
[ハードコートフィルム]
本発明によって得られるハードコートフィルムは、基材フィルムの少なくとも片面にハードコート層を有するものである。
かかるハードコート層の厚みについては、鉛筆硬度などの硬度、透明性、カール等が好適な範囲であれば特には制限されないが、好ましい範囲としては1〜10μm、さらに好ましくは2〜8μm、特に好ましくは3〜6μmである。厚みが厚いと、硬度は高くなる傾向にあり、透明性は低くなる傾向にあり、カールはしやすくなる傾向にある。
【0036】
また、良好な耐指紋性を実現するためには、前述のとおり、ハードコート層表面が特定の濡れ性を持つことが好ましい。具体的には、ハードコート層表面における水の接触角が80度以上88度以下であると同時に、n−ドデカンの接触角が22度以下である態様である。ハードコート層表面における濡れ性を上記数値範囲とすることによって、耐指紋性により優れ、すなわち指紋中の油分(本発明ではn−ドデカンにより代替評価としている。)がより濡れ広がり易くなり、かかる指紋中の油分が光を拡散して白く目立ってしまうのをより抑制することができ、結果として指紋をより目立たなくすることができる。また同時に、付着した指紋の拭き取り性がより良好になる。水の接触角が80度よりも小さい場合は、水分/油分ともに濡れ広がり易くなる傾向にあり、拭き取り性の向上効果が低くなる傾向にある。他方、水の接触角が88度よりも大きい場合は、水分(指紋中や拭取り時の洗浄液や水、呼気中の水分)が油分より下側に入り込み難くなるためか、付着した指紋の拭き取り性の向上効果が著しく低下する傾向にある。また、n−ドデカンの接触角が22度を超える場合は、指紋成分中の油分の濡れ広がりが不十分となる傾向にあり、かかる油分に当たった光が拡散してしまい、指紋自体が白く目立ち易くなる傾向にある。このような観点から、水の接触角は、より好ましくは82度以上87度以下、特に好ましくは83度以上86度以下であり、かつn−ドデカンの接触角が22度以下であることがより好ましい。なお、ここで接触角が22度以下といういうことは、接触角測定において液滴が濡れ広がってしまい、角度の測定が不可能な状態を意味する。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中における各評価は下記の方法に従った。
【0038】
(1)溶剤の粘度測定
CBC株式会社製の微小振動式粘度計VM−10Aを用いて測定した。測定する溶媒、塗液の温度は28℃で実施した。
【0039】
(2)溶剤の沸点
日本化学会編,「第4版 化学便覧・基礎編」丸善刊、もしくは用いた溶剤のMSDSに記載の値を採用した。
【0040】
(3)塗布外観
ハードコートフィルムのハードコート層と反対の面を黒色に着色し、ハードコート層側の面を三波長蛍光灯で照らしながら干渉斑を観測し、以下の基準に基づいて評価した。
○:干渉斑が見えない
×:干渉斑が強く見える
【0041】
(4)残留溶剤
ハードコートフィルム約0.5gをバイアル瓶にとり密栓後、150℃×60分の加熱条件で、ヘッドスペースGC−MS法による測定を実施した。
本発明によって得られるハードコートフィルムの残留溶剤は、100ppm以下であることが好ましい。さらに好ましくは60ppm以下である。この範囲であると、加熱工程や真空工程のような後工程において、ガスの発生を抑制することができ、それによる問題の発生を抑制することができる。
【0042】
(5)ハードコート層の厚み
サンプルフィルムを鋭利な剃刀にてカットし、得られた断面を光学顕微鏡によって観察することでハードコート層の厚みを測定した。測定は、任意の10箇所について実施し、それらの平均値をハードコート層の膜厚み(単位;μm)とした。
【0043】
(6)鉛筆硬度
JIS K5600に準拠し実施した。
評価は、ハードコートフィルムのハードコート層表面において実施した。
【0044】
(7)接触角
(7−1)水の接触角
ハードコート層表面に5mmの高さから0.2mLの蒸留水をシリンジにてゆっくりと滴下し、30秒間放置後、その接触角(ハードコート層表面と液滴の接線が成す角)をCCDカメラで観察して測定した。同様の操作を5回繰り返し、平均値を用いた。
(7−2)n−ドデカンの接触角
測定用の液体としてn−ドデカンを使用した以外は水の接触角と同様にして測定した。なお、接触角が22度以下の領域においては、接触角の数値を正確に求めることができないため、接触角が22度以下であるという結果を以って、測定値とした。
【0045】
(8)(ポリ)アルキレングリコール成分の含有量の測定方法
放射線硬化型樹脂を分取GPCによって各含有成分に分け、それぞれの成分につき熱分解GC−MSを行うことで構成する構造を同定した。その後H−NMRのピーク積分値から各成分の定量を行い、(ポリ)アルキレングリコール成分の含有量を同定した。
[分取GPC条件]
カラム:JAIGEL−2H×2本 600×22mmI.D.(日本分析工業製)
移動相溶媒:クロロホルム3.5ml/min
[熱分解GC−MS条件]
熱分解温度:600℃単純熱分解およびオンラインメチル化熱分解
メチル化剤:テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)
カラム:ZB−1,長さ30m×内径0.32mm,膜厚0.5μm
GC温度:40℃(0min),15℃/min,322℃(10min)
H−NMRによる定量]
計算式:含有量=分子量×(積分比/H数),合計が100になるように規格化。
ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートは、GPCの面積比が重量比と一致すると仮定し、H−NMRのアクリル基の積分値(1000)をその比率に割り振った値とした。
【0046】
[実施例1]
[塗剤の調整]
[ハードコート層を形成するための塗液の調整]
ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートを主成分とし、(ポリ)アルキレングリコール成分として、上記アクリレートの質量に対して2.9質量%の繰り返しエチレングリコール単位を含む放射線硬化型樹脂(商品名:ビームセット1460、荒川化学工業製、固形分濃度80質量%、メチルエチルケトン(MEK、粘度0.4mPa・s、沸点80℃)/キシレン(粘度0.59mPa・s、沸点138〜144℃)=9/1(質量比)混合溶液、光重合開始剤を含有する)100質量部を、t−ブタノール(粘度2.0mPa・s、沸点82℃)135質量部で希釈し、固形分濃度34質量%の塗剤を得た。得られた塗剤中におけるt−ブタノールの含有割合は、57.4質量%であった。
【0047】
[ハードコート層の形成]
上記で得られた塗剤を、小径リバースグラビアロールコーター(直径65mm)を用いて、基材フィルムとしてのポリエステル/ポリアクリレートを主成分とする易接着層を両面に有するPETフィルムO3LF8W−188(帝人デュポンフィルム株式会社製、厚み188μm)の片方の表面(易接着層の表面)に、乾燥・硬化後の膜厚みが6.0μmとなるように均一に塗布し、70℃で2分間の条件で乾燥した。次いで、紫外線照射装置(FusionUV Systems Japan(株)製:商品名フュージョンHバルブ)を用いて、光量200mJ/cmの条件で紫外線を照射しハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
なお、ハードコート層中において(ポリ)アルキレングリコール成分はアクリルに共重合された態様となっている。
【0048】
[実施例2]
t−ブタノールの代わりに、イソプロパノール(粘度2.4mPa・s、沸点82℃)を用いた以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0049】
[実施例3]
t−ブタノールの添加量を100質量部とし、さらにMEK(粘度0.4mPa・s、沸点80℃)を35質量部添加する以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られた塗剤の固形分濃度は34質量%であった。また、得られた塗剤中におけるt−ブタノールの含有割合は、42.6質量%であった。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
t−ブタノールの代わりに、MEK(粘度0.4mPa・s、沸点80℃)を用いた以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0051】
[比較例2]
t−ブタノールの代わりに、sec−ブタノール(粘度4.2mPa・s、沸点99℃)を用いた以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0052】
[比較例3]
t−ブタノールの代わりに、シクロヘキサノン(粘度2.2mPa・s、沸点155℃)を用いた以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1〜3で得られたハードコートフィルムは、そのハードコート層表面における水接触角が84.0度、n−ドデカン接触角が22度以下であった。
また、実施例1〜3で得られたハードコートフィルムの耐指紋性について、次のように評価を行った。
【0055】
[指紋の見え方]
ハードコートフィルムを、裏面を黒く塗ったガラス板上に置き、指をハードコートフィルムの端面に押し付けることで、指紋の半分をフィルムに半分をガラスに同時に付着させた。その指紋の正面からの見え方を確認したところ、ハードコート上の指紋がほとんど見えず、良好であった。
【0056】
[指紋の拭き取り性]
ハードコートフィルムのハードコート層表面に指を押し付けて指紋を付着させた後、ティッシュペーパーを用いて5往復の拭取りを実施した後の指紋の見え方について確認したところ、拭き取り後の指紋が見えず、良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの上に、ハードコート層を形成するための塗剤を塗布して、乾燥、硬化するハードコートフィルムの製造方法であって、該塗剤が、沸点が120℃以下かつ粘度が1.5〜3.0mPa・sの有機溶剤を25質量%以上60質量%以下含むハードコートフィルムの製造方法。
【請求項2】
該有機溶剤がアルコール類である請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項3】
基材フィルムの上に、ハードコート層を形成するための塗剤を塗布して、乾燥、硬化するハードコートフィルムの製造方法であって、該塗剤が、沸点が120℃以下かつ粘度が1.5〜3.0mPa・sの有機溶剤を25質量%以上60質量%以下含む、ハードコート層表面における水の接触角が80〜88度、n−ドデカンの接触角が22度以下である耐指紋性ハードコートフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−212554(P2011−212554A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81935(P2010−81935)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】