説明

ハードコートフィルム

【課題】両面ハードコートフィルムでありながらも、打ち抜き加工の際にエッジ部分にクラックが発生しにくく、かつペン摺動耐久性に優れたハードコートフィルムを提供すること。
【解決手段】基材フィルムの一方の面にハードコート層A、他方の面にハードコート層Bを有するハードコートフィルムであって、ハードコート層Aの厚みが2μm以上10μm以下であり、ハードコート層Bの厚みが0.05μm以上2.5μm以下であり、ハードコート層Aの厚みがハードコート層Bの厚みよりも0.5μm以上厚く、ハードコート層Aは、2種以上の成分が相分離して形成された凹凸を有するハードコートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムに関する。特に、打ち抜き加工に適し、かつ鉛筆硬度およびペン摺動耐久性に優れ、とりわけアイコンシート用として好適に用いられるハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネルは、透明ないし半透明の入力デバイスをLCD(液晶表示装置)等のディスプレイ上に直接設けることにより、画面を見ながら入力操作することが可能であり、誰にでも簡単に操作ができ、また文字や絵の入力も可能であることから、マン/マシンインターフェースとして多く用いられるようになってきた。
タッチパネルは、光学方式、超音波方式、電磁誘導方式、静電容量方式、抵抗膜方式などがあるが、中〜小型のタッチパネルでは抵抗膜方式が主流となっている。また、これらの方式によって、タッチパネルの表面に用いられる材料は異なるが、多くの場合はプラスチックフィルムに何らかの硬度の高い材料を設けたハードコートフィルムが用いられている。
【0003】
このようなタッチパネルの用途としては、ATMなどの端末やカーナビゲーションシステム、スマートフォン、携帯音楽再生用端末、ゲーム機など多岐にわたっているが、特に最近の薄型化、意匠性の向上、デザインの多種・多彩化に伴い、タッチパネルの表面に使用されるハードコートフィルムは、うら面(ハードコートフィルムにおいてタッチパネル側となる面)に枠やアイコン、ロゴ等の印刷を行い、タッチパネルと一体化させることが多くなって来た。このようにうら面に印刷が施されたハードコートフィルムのことをアイコンシートと呼ぶことか多い。このアイコンシートには、一般的に、片面にハードコート処理をしたプラスチックフィルムの、ハードコート処理とは反対面に意匠性を高めるための蒸着加工や、枠やロゴの印刷を行い、印刷部分以外の蒸着部分をエッチング処理するなどして製造される。そして、この一連の工程により得られた1枚の加工シートから複数枚(10〜30枚程度)のアイコンシートが作られて、最後に必要なサイズに断裁(打ち抜き)加工されてタッチパネルメーカーに供される。
【0004】
一方、タッチパネル表面に使用されるハードコートフィルムは、そのおもて面(ハードコートフィルムにおいて入力側となる面)は、例えばポリアセタール製のペンを用いて入力操作が行われる。そのため、かかるハードコート層にはペン摺動耐久性が求められており、それを向上する技術として、例えば特許文献1の報告がある。
上記のようなアイコンシート製造においては、片面ハードコートフィルムのうら面に印刷などの加工がなされるものであるが、近年のさらなる高品質の要求に対しては、各加工時にかかるうら面に傷が付いてしまうと、品質が不十分となり、歩留り低下となってしまう。そこで、うら面にもハードコート層を設けることが考えられるが(例えば、特許文献2)、そうした場合には、打ち抜き加工の際にエッジ部分にクラックが生じる問題がある。また、おもて面に単にハードコートを付与しただけでは、ペン摺動耐久性が十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−70456号公報
【特許文献2】特開平10−16111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、両面ハードコートフィルムでありながらも、打ち抜き加工の際にエッジ部分にクラックが発生しにくく、かつペン摺動耐久性に優れたハードコートフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、表裏のハードコート層について、それぞれの厚みおよび厚みの差を特定の数値範囲として、かつおもて面のハードコート層が、相分離による凹凸を有することにより、打ち抜き加工の際にクラックが生じにくく、かつ鉛筆硬度およびペン摺動耐久性に優れることを見出し、本発明に到達した。
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を採用するものである。
1.基材フィルムの一方の面にハードコート層A、他方の面にハードコート層Bを有するハードコートフィルムであって、ハードコート層Aの厚みが2μm以上10μm以下であり、ハードコート層Bの厚みが0.05μm以上2.5μm以下であり、ハードコート層Aの厚みがハードコート層Bの厚みよりも0.5μm以上厚く、ハードコート層Aは、2種以上の成分が相分離して形成された凹凸を有するハードコートフィルム。
2.ハードコート層Aが、凹凸を付与するための微粒子を含有していない上記1に記載のハードコートフィルム。
3.ハードコート層A表面の中心線平均粗さ(Ra)が1nm以上300nm以下であり、かつ10点平均粗さ(Rz)が25nm以上2,000nm以下である上記1または2に記載のハードコートフィルム。
4.基材フィルムとハードコート層Aおよび/またはハードコート層Bとの間にポリエステル樹脂と架橋剤とを構成成分として含有する易接着層を有する上記1〜3のいずれか1に記載のハードコートフィルム。
5.ハードコート層Aが硬化性樹脂組成物Aからなり、かかる硬化性樹脂組成物Aが、第1成分として不飽和二重結合含有アクリル共重合体と、弟2成分として多官能性不飽和二重結合含有モノマーまたはそのオリゴマーとを主成分とする、上記1〜4のいずれか1に記載のハードコートフィルム。
6.ハードコート層Bが硬化性樹脂Bからなり、かかる硬化性樹脂Bが、多官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートオリゴマー、あるいは多官能(メタ)アクリレートポリマーを主成分とする、上記1〜5のいずれか1に記載のハードコートフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハードコートフィルムは、両面ハードコートフィルムでありながらも、打ち抜き加工の際にエッジ部分にクラックが発生しにくく、かつペン摺動耐久性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ハードコートフィルム>
本発明のハードコートフィルムは、基材フィルムの一方の面にハードコート層A、他方の面にハードコート層Bを有するものである。
【0010】
<ハードコート層A>
本発明におけるハードコート層Aは、本発明のハードコートフィルムをタッチパネル用、とりわけアイコンシート用として用いる際には、最終製品において最表面に設けられる層であるため、硬度は高い方が望ましい。ハードコート層Aの厚みは、硬度が鉛筆硬度で2H以上、好ましくは3H以上を確保できる程度の厚みであれば特に規制されるものではないが、下限は2μm以上である。また、これにより、ペン摺動耐久性に優れる。かかる厚みは、好ましくは3.5μm以上であり、凝集破壊であるキズだけでなく、塑性変形の凹みも目立ち難くなる。このような観点から、ハードコート層Aの厚みは、更に好ましくは4.5μm以上である。他方、上限は10μm以下であり、好ましくは8.5μm以下、更に好ましくは7μm以下である。ハードコート層Aの厚みが厚すぎると、ハードコート層Aが硬化する時や、硬化後に蒸着や印刷などの加工を行なう時の熱でハードコート層Aが収縮し、ハードコートフィルムがカールしやすくなる傾向にあり、後に貼り合せる際に問題が生じ易くなる。また、ハードコート層Aの厚みを上記数値範囲とすることによって、打ち抜き加工時のエッジ部分のクラック発生をより抑制できる傾向にある。
なお、ハードコート層Aの硬度は、後記するハードコート層Aを構成する後記硬化性樹脂組成物Aを適宜選定したり、ハードコート層Aの厚みを調整したり、さらに光重合開始剤の添加量やUV照射強度を調整したり、UV照射時にNパージをして酸素濃度を調整したりすることにより、容易に調整することができる。
また、ハードコート層Aの厚みは、ハードコート層Aを構成する後記硬化性樹脂組成物Aの塗布量により容易に調整することができる。
【0011】
本発明におけるハードコート層Aは、その表面に、2種以上の成分が相分離して形成された凹凸を有する。かかる凹凸を有することにより、ペン摺動耐久性に優れる。また、本発明においては、ハードコート層Aは、表面に凹凸を付与するための微粒子を含有していない態様が好ましい。このような態様により、ペン摺動耐久性の向上効果を高くすることができる。すなわち、表面に凹凸を有することによりペン摺動耐久性を向上させることができるが、かかる凹凸が微粒子により形成されたものである場合は、ペンで筆記した際にハードコート層から微粒子が脱落してしまい、かかる脱落した微粒子によって表面が削られてしまう現象が生じ易くなり、ペン摺動耐久性の向上効果が低くなってしまうためである。
【0012】
また、本発明におけるハードコート層A表面における中心線平均粗さ(Ra)は、1nm以上が好ましく、ペン摺動耐久性の向上効果を高くすることができる。このような観点から、Raは、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは8nm以上、特に好ましくは11nm以上である。他方、Raが大きすぎると、透明性の向上効果が低くなる。そのため、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、160nm以下がさらに好ましい。さらに、本発明におけるハードコート層A表面における10点平均粗さ(Rz)は、25nm以上が好ましく、ペン摺動耐久性の向上効果を高くすることができる。このような観点から、Rzは、より好ましくは45nm以上、さらに好ましくは55nm以上、特に好ましくは80nm以上である。他方、Rzが大きすぎると、透明性の向上効果が低くなる。そのため、2,000nm以下が好ましく、1,500nm以下がより好ましく、1,300nm以下がさらに好ましい。かかるRaおよびRzは、同時に上記数値範囲にあると、ペン摺動耐久性の向上効果をさらに高くすることができる。また、上記のごとくRa、Rzであることにより、巻き取り性が良好となる。
【0013】
また、本発明においては、ハードコート層Aが上記のような表面凹凸を有することによって、本発明のハードコートフィルムを巻き取る時の滑り性が向上し、保護フィルムをラミネートしなくても巻き取ることが可能になり、またそれに印刷などを施してアイコンシートとしたものを重ね合わせた際に、ブロッキングを生じにくくすることができる。
このようなRaおよびRzの態様を達成するためには、ハードコート層Aを形成する際に用いる溶剤や乾燥条件を調整したり、相分離の成分を調整したりすればよい。例えば、低沸点溶剤を用いて早く乾燥させると、表面は粗くなる傾向にある。また、お互いに相分離しやすいもの同士だと粗くなる傾向にある。
本発明では、このようなハードコート層Aは、例えば下記のような硬化性樹脂組成物Aを用いることにより形成することができる。
【0014】
<硬化性樹脂組成物A>
本発明におけるハードコート層Aは、2種以上の成分が相分離して形成された凹凸を有するものであり、以下の硬化性樹脂組成物Aからなるものである。かかる硬化性樹脂組成物Aには、第1成分および第2成分の2種類の成分が少なくとも含まれる。これら第1成分および第2成分は、硬化性樹脂組成物Aを基材フィルム上に塗布した際に、第1成分および第2成分それぞれの物性の差に基づいて、第1成分と第2成分とが相分離する、という特徴を有する。
【0015】
かかる第1成分は少なくとも一種以上の樹脂からなり、第2成分は少なくとも一種以上のモノマー若しくはオリゴマーからなる群から選択される。
【0016】
第1成分の樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリシロキサン樹脂、ポリシラン樹脂、ポリイミド樹脂またはフッ素樹脂を骨格構造に含む樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は、低分子量であるいわゆるオリゴマーであってもよい。(メタ)アクリル樹脂を骨格構造に含む樹脂として、(メタ)アクリルモノマーを重合または共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとを共重合した樹脂などが挙げられる。オレフィン樹脂を骨格構造に含む樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体などが挙げられる。ポリエーテル樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にエーテル結合を含む樹脂であり、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ポリエステル樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にエステル結合を含む樹脂であり、例えば不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。ポリウレタン樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にウレタン結合を含む樹脂である。ポリシロキサン樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にシロキサン結合を含む樹脂である。ポリシラン樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にシラン結合を含む樹脂である。ポリイミド樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にイミド結合を含む樹脂である。フッ素樹脂を骨格構造に含む樹脂は、ポリエチレンの水素の一部または全部をフッ素で置きかえられた構造を含む樹脂である。樹脂として、上記骨格構造の2種以上からなる共重合体であってもよく、上記骨格構造とそれ以外のモノマーとからなる共重合体であってもよい。
【0017】
かかる第1成分の樹脂は、重量平均分子量で2,000〜100,000、より好ましくは5,000〜50,000であるのが好ましい。
また、第1成分の樹脂は、好ましくはガラス転移温度(Tg)の下限としては2℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは50℃以上を有する。一方、ガラス転移点の上限としては200℃、好ましくは150℃を有する。ガラス転移温度は、通常の動的粘弾性によるTgの測定方法と同様の方法により得ることができる。このTgは、例えば、RHEOVIBRON
MODEL RHEO2000、3000(商品名、オリエンテック社製)等を用いて測定することができる。ガラス転移温度が2℃より低い場合は、アンチブロッキング機能が低下する。
【0018】
第2成分は、モノマーあるいはオリゴマーであるが、モノマーとしては多官能性モノマー、例えば多価アルコールと(メタ)アクリレートとの脱アルコール反応物、具体的には、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどを用いることができる。オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーや上記第1成分であげられた樹脂の低分子量物、特に繰り返し単位の数が3〜10であり、重量平均分子量8,000未満のものである。オリゴマーとしては、前述の樹脂の骨格構造の2種以上からなる共重合体であってもよく、上記骨格構造とそれ以外のモノマーとからなる共重合体であってもよい。
【0019】
また、本発明における第1成分および第2成分は、それぞれ、互いに反応する官能基を有しているのが好ましい。このような官能基を互いに反応させることによって、ハードコート層Aの耐性を高めることができる。このような官能基の組み合せとして、例えば、活性水素を有する官能基(水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基など)とエポキシ基、活性水素を有する官能基とイソシアネート基、エチレン性不飽和基とエチレン性不飽和基(エチレン性不飽和基の重合が生じる)、シラノール基とシラノール基(シラノール基の縮重合が生じる)、シラノール基とエポキシ基、活性水素を有する官能基と活性水素を有する官能基、活性メチレンとアクリロイル基、オキサゾリン基とカルボキシル基などが挙げられる。また、ここにいう「互いに反応する官能基」とは、第1成分および第2成分のみを混合しただけでは反応は進行しないが、重合開始剤、または硬化剤、触媒、光増感剤を併せて混合することにより互いに反応するものも含まれる。
【0020】
ここで使用できる重合開始剤として、光重合開始剤、熱重合開始剤などが挙げられ、光重合開始剤には、例えば、2−ヒドロキシ−2メチル−1フェニル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタンノン−1などが挙げられる。熱重合開始剤としては、アゾビスイソブリチロニトリル等のアゾ系熱重合開始剤やベンゾイルパーオキサイド等のパーオキサイド系熱重合開始剤が挙げられる。使用できる触媒としては、酸、塩基触媒、金属触媒が挙げられ、使用できる光増感剤としては、ベンゾフェノンおよびその誘導体やチオキサントンおよびその誘導体、アントラキノンおよびその誘導体、クマリンおよびその誘導体などが挙げられる。使用できる硬化剤として、例えば、メラミン硬化剤、(ブロック)イソシアネート硬化剤、エポキシ硬化剤などが挙げられる。
【0021】
第1成分および第2成分それぞれが、互いに反応する官能基を有する場合は、第1成分と第2成分との混合物は、熱硬化性、光硬化性(紫外線硬化性、可視光硬化性、赤外線硬化性など)といった硬化性を有することとなる。熱硬化は、基材となる熱可塑性樹脂に影響を与えるので、熱を用いない硬化反応、特に光硬化反応が好ましい。
【0022】
第1成分と第2成分との相分離をもたらす、第1成分および第2成分それぞれの物性の差として、例えばそれぞれの成分のSP値(solubility parameter(溶解性パラメーター)、SUH、CLARKE、J.P.S.A−1、5、1671〜1681(1967)に準じて測定することができる。)と重量平均分量が一定の差異を有する場合が挙げられる。
【0023】
第1成分と第2成分との相分離をもたらす第1成分および第2成分それぞれの物性の差がSP値の差である場合、第1成分のSP値と第2成分のSP値との差は1.0以上であるのが好ましい。このSP値の差が1.5以上であるのがさらに好ましい。このSP値の差の上限は特に限定されないが、一般には8以下である。第1成分のSP値と第2成分のSP値との差が1.0以上ある場合は、互いの樹脂の相溶性が低く、それにより硬化性樹脂組成物Aの塗布後に第1成分と第2成分との相分離がもたらされると考えられる。
【0024】
本発明においては、第1成分の樹脂として、不飽和二重結合含有アクリル共重合体であるのがより好ましく、また第2成分のモノマーまたはオリゴマーとして、多官能性不飽和二重結合含有モノマーまたはそのオリゴマーであるのがより好ましい。また、硬化性樹脂組成物Aは、これら第1成分と第2成分を主成分としてなることが好ましい。なお、本発明でいう「オリゴマー」とは、繰り返し単位を有する重合体であって、この繰り返し単位の数が3〜10であるものをいう。また、「主成分」とは、硬化性樹脂組成物A中に占める割合が60質量%以上、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であることをいう。
【0025】
かかる不飽和二重結合含有アクリル共重合体としては、例えば(メタ)アクリルモノマーを重合または共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとを共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を有するモノマーとを反応させた樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合およびイソシアネート基を有するモノマーとを反応させた樹脂、などが挙げられる。これらの不飽和二重結合含有アクリル共重合体は1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
また、多官能性不飽和二重結合含有モノマーとしては、上記の多官能性モノマー、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリレートとの脱アルコール反応物、具体的には、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。この他にも、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート(共栄社化学(株)社製)などの、ポリエチレングリコール骨格を有するアクリレートモノマーを使用することもできる。これらの多官能性不飽和二重結合含有モノマーは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
さらに、本発明に有用な第1成分および第2成分の他の一例として、第1成分および第2成分が、共に(メタ)アクリル樹脂を骨格構造に含む樹脂を用いるのが好ましい。この第1成分は、不飽和二重結合含有アクリル共重合体であるのがより好ましく、また第2成分は多官能性不飽和二重結合含有モノマーであるのがより好ましい。
【0028】
なお、第1成分および第2成分が上記組み合わせである場合に用いられる好ましい有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;アニソール、フェネトールプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、また2種以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0029】
本発明における硬化性樹脂組成物Aには、上記の第1成分および第2成分のほかに、通常使用される樹脂が含まれてもよい。また、本発明における硬化性樹脂組成物Aは、上記のような第1成分および第2成分を用いることによって、微粒子などを含ませなくても、凹凸を有する樹脂層を形成することができることに特徴がある。そのため、本発明における硬化性樹脂組成物は、微粒子を含まないのが好ましい。
【0030】
本発明における硬化性樹脂組成物Aは、第1成分と第2成分とを、必要に応じた溶媒、重合開始剤、触媒、光増感剤および硬化剤と併せて混合することにより調製される。硬化性樹脂組成物A中における第1成分と第2成分との質量比率は、0.1:99.9〜50:50が好ましく、0.3:99.7〜20:80がより好ましく、0.5:99.5〜10:90がさらに好ましい。重合開始剤、触媒および光増感剤を用いる場合は、第1成分および第2成分、そして必要に応じた他の樹脂(これらを合わせて「樹脂成分」という。)100質量部に対して、0.01〜20質量部、好ましくは1〜10質量部加えることができる。硬化剤を用いる場合は、上記樹脂成分100質量部に対して、0.1〜50質量部、好ましくは1〜30質量部加えることができる。溶媒を用いる場合は、上記樹脂成分100質量部に対して、1〜9,900質量部、好ましくは10〜900質量部加えることができる。
【0031】
その他、本発明における硬化性樹脂組成物Aは、必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。このような添加剤として、帯電防止剤、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の添加剤が挙げられる。
【0032】
以上のような不飽和二重結合含有アクリル共重合体である第1成分および多官能性不飽和二重結合含有モノマーまたはそのオリゴマーである第2成分を主成分とする本発明における硬化性樹脂組成物Aの具体例としては、日本ペイント社製のハードコート塗料である、ルシフラールNAB−001、ルシフラールNAB−007、ルシフラールNAG−1000などが挙げられる。
【0033】
<ハードコート層Aの形成方法>
本発明におけるハードコート層Aは、基材フィルム上に、上記の硬化性樹脂組成物Aを塗布することにより形成される。硬化性樹脂組成物Aの塗布方法は、塗装工程等の状況に応じて適宜選択することができ、例えばディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法などにより塗布することができる。なお、以下、ハードコート層Aを形成するために基材フィルム上に塗布する塗液を、ハードコート(HC)剤Aと呼称する場合がある。
【0034】
かかる塗布においては、硬化性樹脂組成物Aを適当な溶媒で希釈して行なうこともできるが、かかる溶媒としては、特に限定されるものではない。用いられる溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒を単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。これらの溶媒のうち、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒およびケトン系溶媒が好ましく使用される。
【0035】
第1成分と第2成分の相分離は、基材フィルムに硬化性樹脂組成物Aを塗布して得られた塗膜を、室温にて相分離させてもよいし、また硬化させる前に塗膜を乾燥させて、硬化前に予め相分離させておいてもよい。塗膜を硬化させる前に乾燥又は加熱させる場合は、30〜200℃、より好ましくは40〜150℃で、0.01〜30分間、より好ましくは0.1〜10分間乾燥させて、予め相分離させることができる。第1成分と第2成分との混合物が光硬化性である場合に、硬化前に乾燥させて予め相分離させておくことは、凹凸を有する被膜中の溶媒を効果的に除去でき、かつ所望の大きさの凹凸を設けることができるという利点がある。
【0036】
硬化させる前に相分離させる他の方法として、塗膜に光を照射して相分離させる方法を用いることもできる。照射する光として、例えば露光量0.1〜3.5J/cmの光、好ましくは0.5〜1.5J/cmの光を用いることができる。また、この照射光の波長は特に限定されるものではないが、例えば360nm以下の波長を有する照射光などを用いることができる。また、例えば光開始剤として2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどを用いる場合は、照射光は310nm付近の波長を有する光を照射するのが好ましく、そしてさらに360nm付近の波長を有する光を照射するのがより好ましい。このような光は、高圧水銀灯、超高圧水銀灯などを用いて得ることができる。このように光を照射することによって、相分離および硬化が生じることとなる。光を照射して相分離させることによって、硬化性樹脂組成物Aに含まれる溶媒の乾燥ムラに起因する表面形状のムラを回避できるという利点がある。
【0037】
硬化性樹脂組成物Aの塗布により得られた塗膜を、または乾燥させた塗膜を、硬化させることによって、相分離により形成された凹凸を有するハードコート層Aが形成される。第1成分と第2成分との混合物が熱硬化性である場合は、40〜280℃、より好ましくは80〜250℃で、0.1〜180分間、より好ましくは1〜60分間加熱することにより、硬化させることができる。第1成分と第2成分との混合物が光硬化性である場合は、必要に応じた波長の光を発する光源を用いて光を照射することによって、硬化させることができる。なお、光照射は、上記のとおり相分離させる目的で用いることもできる。
【0038】
<ハードコート層B>
本発明におけるハードコート層Bは、本発明のハードコートフィルムをタッチパネル用、とりわけアイコンシート用として用いる際には、この層の表面に蒸着や印刷などの加工が施される層である。本発明のハードコートフィルムは、後に打ち抜き加工にて断裁されるが、ハードコート層Bの厚みが厚すぎると、かかる打ち抜き加工時に断裁部分近辺のハードコート層にクラックが発生し意匠性が悪くなる。このため、ハードコート層Bの厚みの上限は、2.5μm以下であり、好ましくは2μm以下、更に好ましくは1.5μm以下である。他方、下限は、0.05μm以上であり、薄すぎると耐傷性に劣るものとなり、歩留低下を引き起こす。このような観点から、ハードコート層Bの厚みの下限は、好ましくは0.1μm以上である。
なお、ハードコート層Bの厚みは、ハードコート層Bを構成する後記硬化性樹脂Bの塗布量により容易に調整することができる。
【0039】
ハードコート層Bは、工程における耐傷付き性を付与する目的で設けられるものであり、このような観点からは、硬度は、好ましくはB以上であればよく、より好ましくはHB以上であればよく、さらに好ましくはF以上であればよい。他方、打ち抜き加工性の向上効果を高くしたり、蒸着性や印刷性を高くしたり、ハードコート層Bと蒸着層や印刷層との密着性を高くしたりする観点においては、H以下が好ましい。これらのバランスに優れるという観点から、ハードコート層Bの硬度は、HB〜Hが好ましい。
なお、ハードコート層Bの硬度は、当該ハードコート層を構成する後記硬化性樹脂Bを適宜選定したり、ハードコート層Bの厚みを調整したり、さらに光重合開始剤の添加量やUV照射強度を調整したり、UV照射時にNパージをして酸素濃度を調整したりすることにより、容易に調整することができる。
【0040】
本発明においては、ハードコート層Aの厚みおよびハードコート層Bの厚みがそれぞれ上記数値範囲にあると同時に、ハードコート層Aの厚みがハードコート層Bの厚みよりも厚く、その差が0.5μm以上である。厚みの差を上記数値範囲とすることによって、打ち抜き加工時のエッジ部分のクラック発生を抑制することができる。厚みの差が小さすぎる場合は、クラックが発生し易くなる傾向にある。このような観点から、厚みの差は、好ましくは1μm以上、さらに好ましくは3μm以上、特に好ましくは4μm以上である。他方、厚みの差が大きいと、クラックが発生し難くなる傾向にあり好ましい傾向にあるが、厚みの差が大きすぎる場合は、ハードコートフィルムがカールし易い傾向にあるため、9μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましい。
本発明では、以上のようなハードコート層Bは、例えば下記のような硬化性樹脂Bを用いることにより形成することができる。
【0041】
<硬化性樹脂B>
本発明におけるハードコート層Bは、主たる成分として硬化性樹脂Bよりなる。かかる硬化性樹脂Bとしては、熱硬化性樹脂や放射線硬化性樹脂などがある。本発明においては、放射線硬化性樹脂が好ましく、なかでも紫外線硬化性樹脂が好ましい。本発明におけるハードコート層Bは、主たる成分として以下の放射線硬化性樹脂Bよりなることが好ましい。なお、ここで「主たる」とは、ハードコート層の質量を基準として、51質量%以上、好ましくは55質量%を意味する。
【0042】
本発明における放射線硬化性樹脂Bは、放射線により硬化させることができるモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。本発明における放射線硬化性樹脂Bとしては、硬化後の架橋密度を高くすることができ、表面硬度の向上効果を高くすることができ、かつ透明性の向上効果を高くすることができるという観点から、多官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートオリゴマー、あるいは多官能(メタ)アクリレートポリマー等の多官能(メタ)アクリレート化合物が好ましい。
かかる多官能(メタ)アクリレート化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基を含有する化合物であるが、分子内に少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を含有することが好ましく、そのような態様とすることによって、放射線硬化性樹脂Bの架橋反応が進行しやすくなり、表面硬度の向上効果をより高くすることができる。また、本発明における多官能(メタ)アクリレート化合物は、分子内に(メタ)アクリロイル基以外の他の重合性官能基を含有してもよい。
【0043】
分子内に少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を含有する多官能(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えばネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート等、およびこれらのうち少なくとも1種からなる2〜20量体程度のオリゴマーや、これらのうち少なくとも1種からなるポリマーを挙げることができる。このような多官能(メタ)アクリレート化合物は、一種類を単独で用いても良いし、二種類以上を併用して用いても良い。
【0044】
多官能(メタ)アクリルオリゴマー/ポリマーの繰り返し単位数は、特には制限されないが、例えば数平均分子量で150〜1,000,000、好ましくは1,000〜500,000であることが好ましく、塗布外観の向上効果を高くすることができる。数平均分子量が150に満たない場合や、1,000,000を超える場合は、粘度が低すぎたり高すぎたりする傾向にあり、塗布外観の向上効果が低くなる傾向にある。
【0045】
以上のような、分子内に少なくとも2つの(メタ)アクリロイル基を含有する多官能(メタ)アクリレート化合物は、例えばアロニックスM−400、M−450、M−305、M−309、M−310、M−315、M−320、TO−1200、TO−1231、TO−595、TO−756(以上、東亞合成社製)、KAYARD D−310、D−330、DPHA、DPHA−2C(以上、日本化薬社製)、ニカラックMX−302(三和ケミカル社製)等の市販品として入手することができる。
【0046】
<光重合開始剤>
本発明においては、より硬度に優れたハードコート層Aおよび/またはB(ハードコート層Aおよび/またはBを指す場合、これらをまとめて単にハードコート層と呼称する場合がある。)を形成するために、ハードコート層に光重合開始剤を添加するのが好ましい。光重合開始剤としては、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フロオレノン、アントラキノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メチル−1−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド等を挙げることができる。かかる光重合開始剤の添加量は、硬化性樹脂(硬化性樹脂組成物Aまたは硬化性樹脂B)100質量%を基準として、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。添加量を上記数値範囲とすることによって、ハードコート層の表面硬度の向上効果をより高くすることができる。添加量が多すぎる場合は、添加した光重合開始剤が可塑剤として働く傾向にあり、ハードコート層の強度が低くなってしまう恐れがある。
【0047】
<不活性粒子>
本発明におけるハードコート層Bは、取り扱い性の観点からは、不活性粒子を含有することができる。他方、透明性の観点からは、含有しないことが好ましい。
かかる不活性粒子は、有機粒子であってもよいし、無機粒子であってもよい。有機粒子としては、例えばポリスチレン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、スチレン−アクリル樹脂粒子、ジビニルベンゼン−アクリル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、メラミン樹脂粒子等の高分子樹脂粒子が挙げられる。中でも、透明性に優れるという観点から、アクリル樹脂粒子が好ましい。また、無機粒子としては、(1)二酸化ケイ素(水和物、ケイ砂、石英等を含む);(2)各種結晶形態のアルミナ;(3)SiO成分を30質量%以上含有するケイ酸塩(例えば非晶質もしくは結晶質の粘土鉱物、アルミノシリケート(焼成物や水和物を含む)、温石綿、ジルコン、フライアッシュ等);(4)Mg、Zn、ZrおよびTiの酸化物;(5)CaおよびBaの硫酸塩;(6)Li、BaおよびCaのリン酸塩(1水素塩や2水素塩を含む);(7)Li、NaおよびKの安息香酸塩;(8)Ca、Ba、ZnおよびMnのテレフタル酸塩;(9)Mg、Ca、Ba、Zn、Cd、Pb、Sr、Mn、Fe、CoおよびNiのチタン酸塩;(10)BaおよびPbのクロム酸塩;(11)炭素(例えばカーボンブラック、グラファイト等);(12)ガラス(例えばガラス粉、ガラスビーズ等);(13)CaおよびMgの炭酸塩;(14)ホタル石;(15)スピネル型酸化物等が挙げられる。このうち、透明性に優れるという観点から、二酸化ケイ素が好ましい。
【0048】
なお、不活性粒子の平均粒径は、50〜500nmであることが好ましい。平均粒径が上記数値範囲にあると、耐ブロッキング性に優れる。このような観点から、平均粒径は、さらに好ましくは70〜350nm、特に好ましくは80〜280nmである。
また、不活性粒子の含有量は、ハードコート層Bの質量を基準として2〜10質量%であることが好ましい。含有量が上記数値範囲にあると、透明性をある程度維持したまま取り扱い性に優れる。このような観点から、含有量は、さらに好ましくは2〜8質量%、特に好ましくは3〜6質量%であるが、上述のごとく、透明性向上の観点からは、不活性粒子を含有しない態様が好ましい。
【0049】
<その他の添加できる成分>
本発明におけるハードコート層Bは、本発明の目的を損なわない範囲で、上記不活性粒子以外の無機微粒子や有機微粒子、光増感剤、レベリング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料等を含有することができる。
【0050】
<ハードコート層Bの形成方法>
ハードコート層Bは、ハードコート層Bを形成するための塗液(以下、ハードコート(HC)剤Bと呼称する場合がある。)を、後述する基材フィルムのハードコート層Bを形成したい側の表面に塗工し、加熱乾燥し、硬化することにより得ることができる。
本発明におけるHC剤Bは、溶媒に、硬化性樹脂B、および任意に添加してもよい光重合開始剤、不活性粒子、その他添加できる成分を添加し、混合した溶液である。各成分の添加にあたっては、粉体等の固体として添加してもよいし、固体を適当な溶媒を用いて溶液あるいは分散体の態様としたものを添加してもよい。HC剤Bに用いられる溶媒は、特に限定はされないが、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、セカンダリーブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸ブチル、酢酸エチルなどのエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類等を用いることができ、HC剤Bの分散性が良好となり、ハードコート層Bの外観が良好となる。中でも、溶解性が良好であるという観点から、ケトン類が好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが特に好ましい。HC剤Bの固形分濃度としては、1〜70質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましく、このような態様とすることによって、塗り斑等の欠点を低減することができる。
【0051】
HC剤Bを塗布する方法としては、それ自体公知の方法を採用できる。例えばリップダイレクト法、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、バーコーター法等を好ましく挙げることができる。これらの塗布方法によって、基材フィルム上にHC剤Bを塗布し、ハードコート(HC)塗膜を形成し、得られたHC塗膜を加熱乾燥する。加熱乾燥の条件としては、50〜150℃で10〜180秒間加熱することが好ましく、50〜120℃で20〜150秒間加熱することがさらに好ましく、50〜80℃で30〜120秒間加熱することが特に好ましい。加熱乾燥後、紫外線照射または電子線照射によりHC塗膜を硬化する。紫外線照射の場合、その照射量は、好ましくは10〜2,000mJ/cm、さらに好ましくは50〜1,500mJ/cm、特に好ましくは100〜1,000mJ/cmである。
【0052】
本発明のハードコートフィルムは、基材フィルムの両面にハードコート層A、ハードコート層Bを有するものであるが、それぞれのハードコート層を順次設けてもよいし、両面に、それぞれ、HC剤A、HC剤Bを塗工して同時にハードコート層を設けてもよい。
【0053】
<基材フィルム>
本発明における基材フィルムは、特に限定されるものではなく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、スチレン系樹脂(例えばポリスチレン)、トリアセチルセルロース、アクリル系樹脂等からなるシートあるいはフィルムを挙げることができる。中でも、透明性等の光学特性、機械特性、耐熱性、価格のバランスが良いという観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートからなるフィルムが好ましい。
基材フィルムの厚みは特には限定されないが、タッチパネルに適した剛性がありかつハンドリング性が良好であるという観点から、好ましくは25μm以上300μm以下、さらに好ましくは40μm以上200μm以下、特に好ましくは50μm以上150μm以下である。
【0054】
<易接着層>
本発明では、基材フィルムとハードコート層Aおよび/またはハードコート層Bとの間に、易接着層を有することが好ましい。かかる易接着層は、ポリエステル樹脂と架橋剤とを構成成分として含有する。かかる易接着層により、基材フィルムとハードコート層との接着性をより向上することができる。また、易接着層を基材フィルム上に有することにより、基材フィルムの易滑性、耐傷性、耐ブロッキング性をより向上することができる。
以下、易接着層を構成する各構成成分について説明する。
【0055】
<ポリエステル樹脂>
易接着層に用いられるポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸成分とジオール成分から得られるポリエステルを用いることができる。多価塩基成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を例示することができる。
かかるポリエステル樹脂としては、2種以上のジカルボン酸成分を用いた共重合ポリエステルを用いることが好ましい。ポリエステル樹脂には、若干量であればマレイン酸、イタコン酸等の不飽和多塩基酸成分が、或いはp−ヒドロキシ安息香酸等の如きヒドロキシカルボン酸成分が含まれていてもよい。
【0056】
ポリエステル樹脂のジオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、ジメチロールプロパン等や、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを例示することができる。
【0057】
ポリエステル樹脂は、ガラス転移点温度が、好ましくは40〜100℃である。ガラス転移点温度が40℃未満であるとフィルム同士でブロッキングが発生しやすくなる傾向にあり、100℃を超えると易接着層が硬くて脆くなる傾向にあり、耐傷性が悪化する傾向にあり好ましくない。ガラス転移点温度は、さらに好ましくは60〜80℃である。この範囲であれば、より優れた接着性や耐傷性を得ることができる。
【0058】
ポリエステル樹脂の固有粘度(o−クロロフェノール中、35℃で測定)は、0.4dl/g以上0.7dl/g未満であることが好ましい。固有粘度が0.4dl/g未満であるとポリエステル樹脂自体からの低分子量物の発生が起こりやすくなる傾向にあり、基材の透明性を悪化させ易くなる傾向にあり、好ましくない。固有粘度は、好ましくは0.5dl/g以上0.7dl/g未満である。この範囲であれば、ポリエステル樹脂自体からの低分子量物の発生をより高度に抑制でき、かつポリエステル樹脂の凝集力がより高くなる故に、より優れた接着性や耐傷性を得ることができる。
また、ポリエステル樹脂は水に可溶性または分散性のものが好ましいが、多少の有機溶剤を含有する水に可溶なものも用いることができる。
【0059】
ポリエステル樹脂は、例えば次の方法で製造することができる。ジカルボン酸成分とジオール成分をエステル交換反応器に仕込み、触媒を添加して窒素雰囲気下で温度を230℃に制御して生成するメタノールを留去させてエステル交換反応を行なう。次いで、温度を徐々に255℃まで上昇させ、系内を減圧下にして重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂を得ることができる。重縮合時に分子量が上昇してくると溶融粘度が高くなり、系内の攪拌が難しくなる。易接着層に使用されるポリエステル樹脂はホモのポリエチレンテレフタレートと比較すると分子量が低い割に溶融粘度が高くなり、系内の攪拌が非常に難しく、攪拌設備のモーターのトルクを上げること、羽根の形状を工夫すること、重合時間を延ばすこと等で固有粘度を上げることができる。ポリエステル樹脂の、易接着層100質量%中での含有割合は、好ましくは50〜95質量%、さらに好ましくは60〜90質量%である。
【0060】
<架橋剤>
易接着層に用いられる架橋剤としては、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、メラミン系架橋剤およびイソシアネート系架橋剤が好ましい。これらは1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0061】
エポキシ系架橋剤としては、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等が挙げられる。ここで、ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトール、ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルが挙げられる。グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’,−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0062】
オキサゾリン系架橋剤としては、オキサゾリン基を含有する重合体が好ましい。かかる重合体は、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適であり、これをモノマー成分として含有する重合体、すなわちオキサゾリン基を含有するアクリル樹脂が、本発明においては特に接着性を高くすることができるため好ましい。かかる重合体においては、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンを1〜10(mmol/g,solid)含有することが好ましい。他のモノマーとしては、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2ーエチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N、N−ジアルキルアクリルアミド、N、N−ジアルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸のエステル部にポリアルキレンオキシドを付加させたもの等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα、β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、等のα、β−不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
【0063】
メラミン系架橋剤としては、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロールメラミン誘導体に低級アルコールとしてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を反応させてエーテル化した化合物及びそれらの混合物が好ましい。メチロールメラミン誘導体としては、例えば、モノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン等が挙げられる。
【0064】
イソシアネート系架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、1,6−ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン−4、4’−ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ビトリレン−4,4’ジイソシアネート、3,3’ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0065】
易接着層中の架橋剤の含有割合は、易接着層100質量%中に好ましくは0.1〜30質量%、さらに好ましくは1〜20質量%、特に好ましくは3〜10質量%である。含有割合が0.1質量%より少ないと、易接着層の凝集力を高める効果が発現しにくくなる傾向にあり、接着性が不足する傾向にあり好ましくない。他方、30質量%より多いと、易接着層が硬くなりすぎる傾向にあり、応力緩和が少なくなる傾向にあり、接着性向上の効果が発現しにくくなったり、易接着層を有するフィルムを回収使用した場合に架橋体による異物が発生しやすくなる傾向にあり好ましくない。
易接着層の架橋剤としては、上記のうちオキサゾリン系架橋剤が、取り扱いやすく、塗布液のポットライフが長いことから好ましい。
【0066】
<微粒子>
本発明における易接着層は、基材フィルムの滑性、耐傷性をより向上させるという観点から、微粒子を含有することが好ましい。かかる微粒子は、平均粒子径が20〜200nm、好ましくは40〜120nmである。200nmより大きいと微粒子の落脱が発生しやすくなり、20nmよりも小さいと十分な滑性、耐傷性が得られない場合があり好ましくない。微粒子は通常、易接着層の組成物中に含有される。
かかる微粒子としては例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、三酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデン等の無機微粒子;アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂等の有機微粒子を用いることができる。これらは1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
易接着層中における微粒子の含有量は、易接着層100質量%中に0.1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がさらに好ましい。含有量が0.1質量%未満であると十分な滑性、耐傷性が得られにくくなる傾向にあり、10質量%を超えると塗膜の凝集力が低くなる傾向にあり接着性が悪化する傾向にあり好ましくない。
【0067】
<脂肪族ワックス>
易接着層には、基材フィルムの滑性をより向上するという観点から、脂肪族ワックスを含有させることが好ましい。
【0068】
脂肪族ワックスの具体例としては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、パームワックス、ロジン変性ワックス、オウリキュリーワックス、サトウキビワックス、エスパルトワックス、バークワックス等の植物系ワックス;ミツロウ、ラノリン、鯨ロウ、イボタロウ、セラックワックス等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシンワックス等の鉱物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等の石油系ワックス;フィッシャートロプッシュワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス等の合成炭化水素系ワックスを挙げることができる。就中、ハードコートや粘着剤等に対する易接着性と滑性が良好なことから、カルナバワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが特に好ましい。これらは環境負荷の低減が可能であることおよび取扱い易さから水分散体として用いることが好ましい。
【0069】
これらの脂肪族ワックスの、易接着層100質量%中の含有量は、好ましくは0.5〜30質量%、さらに好ましくは1〜10質量%、特に好ましくは2〜5質量%である。含有量が0.5質量%未満ではフィルム表面の滑性が十分には得られない傾向にあり好ましくない。他方、含有量が30質量%を超えると、基材フィルムとの密着性が不足する傾向にあり、またハードコート層に対する接着性が不足する傾向にあり好ましくない。
【0070】
<易接着層の形成方法>
本発明において上記各構成成分は、易接着層を形成するための塗液(水溶液、水分散液或いは乳化液等の水性塗液を含む。以下、単に塗液と呼称する場合がある。)の形態で使用されることが好ましい。かかる塗液には、必要に応じて、前記各構成成分以外の他の樹脂、例えば帯電防止剤、着色剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、架橋剤を添加することができる。
【0071】
本発明に用いる塗液の固形分濃度は、通常、20質量%以下が好ましいが、特に1〜10質量%であることが好ましい。この割合が1質量%未満であると、基材フィルムへの塗れ性が不足することがあり、一方20質量%を超えると塗液の安定性や易接着層の外観が悪化することがあり好ましくない。
【0072】
塗液の塗布は、任意の段階で実施することができるが、基材フィルムの製造過程で実施する、いわゆるインラインコーティングが好ましく、更には配向結晶化が完了する前のフィルムに塗布するのが好ましい。ここで、結晶配向が完了する前のフィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向または横方向の何れか一方に延伸した一軸延伸フィルム、更には縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸させたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸せしめて配向結晶化を完了させる前の二軸延伸フィルム)等を含むものである。なかでも、未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムに、塗液を塗布し、そのまま縦延伸および/または横延伸と熱固定とを施すのが好ましい。
【0073】
塗液を基材フィルムに塗布する際には、塗布性を向上させるための予備処理として基材フィルム表面にコロナ表面処理、火炎処理、プラズマ処理等の物理処理を施すか、あるいは塗液に界面活性剤を添加することが好ましい。かかる界面活性剤は、フィルムへの塗液の濡れを促進する機能や塗液の安定性を向上させるものであり、例えば、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン型、ノニオン型界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤の添加量は、塗液中に、0.01〜2質量%含まれていることが好ましい。
【0074】
塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独または組合せて用いることができる。なお、塗膜は必要に応じフィルムの片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。
【0075】
易接着層の厚さは、乾燥膜厚で、好ましくは0.01〜0.3μm、より好ましくは0.02〜0.25μm、さらに好ましくは0.05〜0.1μmであり、すなわち塗液の塗布量は、易接着層の厚さが上記数値範囲となるような量であることが好ましい。易接着層の厚さが薄過ぎると、接着性に劣る傾向にあり、逆に厚過ぎると、ブロッキングを起こしたり、ヘイズ値が高くなったりする傾向にある。
【0076】
<ハードコートフィルムの特性>
本発明のハードコートフィルムのヘイズは、タッチパネル等の光学用途として用いた際にLCDの視認性に優れるという観点から、好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1.2%以下である。かかるヘイズは、基材フィルムのヘイズを低くしたり、易接着層における微粒子、ハードコート層の成分や添加する不活性粒子の態様を適宜調整することにより達成することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中における各評価は下記の方法に従った。
(1)ヘイズ
ハードコートフィルムのヘイズ(Hz)は、JIS K7150に準拠して、スガ試験機(株)製のヘイズメーターHCM−2Bにて測定を行った。測定光は、ハードコート層A側から入射した。測定は、任意の5箇所について実施し、それらの平均値をヘイズ(Hz)(単位:%)とした。
(2)ハードコート層の厚み
サンプルフィルムを鋭利な剃刀にてカットし、得られた断面を光学顕微鏡によって観察することでハードコート層の厚みを測定した。測定は、ハードコート層Aおよびハードコート層Bのそれぞれについて、任意の10箇所について実施し、それぞれの平均値をハードコート層の厚み(単位;μm)とした。
(3)2種以上の成分が相分離して形成された凹凸の有無
Zygo社製の非接触表面形状測定機を用いて、ハードコート層Aの表面を観察し、2成分の相分離、およびそれによる凹凸の有無を観察した。Rzで25nm以上を「あり」、25nm未満を「なし」と評価した。
【0078】
(4)鉛筆硬度
JIS K5600に準拠し実施した。(荷重:750g)
評価は、ハードコートフィルムのハードコート層表面において実施した。
(5)打ち抜き性(断裁性)
ハードコートフィルムの打ち抜き性は、株式会社山越工作所製の手動打抜き器(PAT.NO.1835841)を用いて、サンプルフィルムから縦50mm×横40mmのサイズに100枚打ち抜き、打ち抜いたハードコートフィルムの四辺を目視観察してクラックの有無を確認した。クラックの入った枚数により下記の通り判定した。
◎:0枚
○:1〜2枚
△:3〜4枚
×:5枚以上
なお打ち抜きは、ハードコート層Aが上刃側となるようにして行なった。
【0079】
(6)ペン摺動性
先端が0.8mmRのポリアセタール製のペンを用いて、得られたハードコートフィルムのハードコート層A側の表面を、荷重250gの条件で直線状に5万回摺動後、ハードコート表面の削れ度合いを目視観察とし、下記の通り判定した。
◎:傷無し
○:極薄く見えるが指で触って分からない程度の浅い傷がある。
△:薄く見えるが指で触って分かる程度の傷がある。
×:はっきり見えて触ってもはっきり分かる程度の傷がある。
(7)表面粗さ
非接触光学粗さ計(ZYGO社製:商品名NewView5022)を使用し、倍率25倍にて283μm×213μmの領域についてスキャンを実施し、表面プロファイルを得た。得られた表面プロファイルから中心線平均粗さ(Ra)および十点平均粗さ(Rz)を算出した。測定は、ハードコート層Aの表面において、任意の5箇所について実施し、それらの平均値を測定値とした。
【0080】
[実施例1]
基材フィルムとして帝人デュポンフィルム社製ポリエステルフィルム(タイプ:O4L86W、厚み188μm、ポリエステル樹脂/架橋剤/微粒子/脂肪族ワックス=90/5/2/3(固形分の質量%)を構成成分として含有する厚み75nmの易接着層を両面に有するポリエステルフィルム)の片面(かかる面をおもて面とする。)に、硬化性樹脂組成物Aとして日本ペイント製のハードコート塗料(ルシフラールNAB−001)をリバースグラビア塗工方式で、乾燥後の塗布厚みが6μmになるように塗工し、60℃×2分間の条件で乾燥した。次いで、紫外線照射装置(FusionUV Systems Japan(株)製:商品名フュージョンHバルブ)を用いて、光量200mJ/cmの条件で紫外線を照射しハードコート層Aを形成した。
次に、基材フィルムにおいてハードコート層Aを形成した面と反対の面に、HC剤BとしてJSR(株)製のハードコート塗料(デソライトZ7501、多官能アクリレート系紫外線硬化性樹脂)をリバースグラビア塗工方式で、乾燥後の塗布厚みが1.5μmになるように塗工し、70℃×2分間の条件で乾燥した。次いで、おもて面と同様に、紫外線照射装置(FusionUV Systems Japan(株)製:商品名フュージョンHバルブ)を用いて、光量200mJ/cmの条件で紫外線を照射しハードコート層Bを形成し、ハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0081】
[実施例2]
硬化性樹脂組成物Aとして日本ペイント(株)製のハードコート塗料(ルシフラールNAB−007)を用いる以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0082】
[実施例3]
乾燥後のハードコート層Bの厚みを0.5μmとした以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0083】
[実施例4]
ハードコート層Aを形成するためのHC剤として日本ペイント(株)製のハードコート塗料(ルシフラールNAG−1000)を使用した以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
[実施例5〜6]
硬化性樹脂組成物A、HC剤Bの塗布量を変化させて、ハードコート層厚みを表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例1]
ハードコート層Aを形成するための硬化性樹脂組成物Aとして、JSR(株)製のハードコート塗料(デソライトZ7501)を使用した以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムは、巻き取る前に保護フィルム(サンエー化研製、PAC−3−60)をニップロールで貼り合せた後に巻き取る必要があった。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0085】
[比較例2]
乾燥後のハードコート層Bの厚みを3μmにした以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0086】
[比較例3]
乾燥後のハードコート層Bの厚みを6μmにした以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの特性を表1に示す。
【0087】
[比較例4〜7]
硬化性樹脂組成物A、HC剤Bの塗布量を変化させて、ハードコート層厚みを表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを作成し、評価した。結果を表1に示す。
なお、実施例1〜6、比較例2〜7においては、保護フィルムを用いずに巻き取ることができ、巻き取り性に問題がなく、良好であった。
また、表1において、HC層Aは、ハードコート層Aを表わす。
【0088】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のハードコートフィルムは、ATMなどの端末やカーナビゲーションシステム、スマートフォン、携帯音楽再生用端末、ゲーム機などのタッチパネル用に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方の面にハードコート層A、他方の面にハードコート層Bを有するハードコートフィルムであって、ハードコート層Aの厚みが2μm以上10μm以下であり、ハードコート層Bの厚みが0.05μm以上2.5μm以下であり、ハードコート層Aの厚みがハードコート層Bの厚みよりも0.5μm以上厚く、ハードコート層Aは、2種以上の成分が相分離して形成された凹凸を有するハードコートフィルム。
【請求項2】
ハードコート層Aが、凹凸を付与するための微粒子を含有していない請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
ハードコート層A表面の中心線平均粗さ(Ra)が1nm以上300nm以下であり、かつ10点平均粗さ(Rz)が25nm以上2,000nm以下である請求項1または2に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
基材フィルムとハードコート層Aおよび/またはハードコート層Bとの間にポリエステル樹脂と架橋剤とを構成成分として含有する易接着層を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
ハードコート層Aが硬化性樹脂組成物Aからなり、かかる硬化性樹脂組成物Aが、第1成分として不飽和二重結合含有アクリル共重合体と、弟2成分として多官能性不飽和二重結合含有モノマーまたはそのオリゴマーとを主成分とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
ハードコート層Bが硬化性樹脂Bからなり、かかる硬化性樹脂Bが、多官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能(メタ)アクリレートオリゴマー、あるいは多官能(メタ)アクリレートポリマーを主成分とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。


【公開番号】特開2013−10323(P2013−10323A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145787(P2011−145787)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】