説明

ハードコート付積層体

【課題】高い硬度が得られ、かつ基材追従性に優れ、射出成形用途に適したハードコート付積層体を提供する。
【解決手段】プラスチック基材の片面または両面に、無機粒子濃度の異なる2層以上のハードコート層から構成されるハードコート層ユニットを有し、該ハードコート層ユニット上に、該プラスチック基材の面方向に対して水平方向に、組成の異なる2種以上の表層構成物から構成される表層を有することを特徴とするハードコート付積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬度が高く、耐擦傷性、基材追従性に優れた、積層構造を有するハードコート層付積層体に関し、詳しくは、ブラウン管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED)等のディスプレイの表面や家電製品等のタッチパネル、各種窓、例えば、住宅用窓、ショーウインドウ、車両用窓、車両用風防、遊戯機械等のガラス保護フィルム、メガネレンズなどの保護フィルムあるいはガラス代替樹脂製品などとして利用できるハードコート層付積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ、タッチパネル、住宅用窓、ショーウインドウ、車両用窓、車両用風防、遊戯機械、メガネレンズ等の分野で、加工性、軽量化の観点で、ガラス製品と置き換わりつつある。これらプラスチック製品の表面は、基本的には傷つきやすいため、耐擦傷性を付与する目的でハードコートフィルムを貼合せるなどして用いている。また、従来のガラス製品についても、飛散防止のためにプラスチックフィルムを貼合するケースが増えており、これらのフィルム表面の硬度強化のために、その表面にハードコート層を形成することが広く行われている。
【0003】
しかしながら、従来のハードコートフィルムは、そのハードコート層の硬度が不十分であったこと、また、その塗膜厚みが薄いことに起因して、下地のプラスチック基材フィルムが変形した場合に、それに応じてハードコート層も変形し、ハードコートフィルム全体としての硬度の低下がみられた。一方、硬度を上げるため、ハードコート層の膜厚を上げると、ハードコート層形成時にハードコート層の収縮が起きたり、基材を湾屈曲させたりすると、ハードコート層が追従せずに割れてしまうなどの現象があった。そのため、特に湾屈曲のある射出成形用途には適さなかったのが現状である。
【0004】
上記課題に対し、ハードコート層の硬度を上げるため、ハードコート層の樹脂形成成分を多官能性アクリル酸エステル系モノマーとし、これにアルミナ、シリカ、酸化チタン等の粉末状無機充填剤および重合開始剤を含有する被覆用組成物を用いる方法、あるいはアルコキシシラン等で表面処理したシリカもしくはアルミナからなる無機質の充填材料を含む光重合性組成物、さらに架橋有機微粒子を充填することなども近年検討されている。これらの方法では、ハードコートフィルムの表面硬度を上げる効果は備えてはいるものの、ヘイズの増加や脆性劣化の問題を有しており、上記方法のみでは近年要求されているハードコートフィルムの表面硬度性能に十分に応えうるものではなかった。
【0005】
また、ハードコート層を2層構成とし、第1層目に微粒子のシリカを添加することで、カールと耐傷性を満足させる方法、ハードコート層を2層構成とし、下層をラジカル硬化性樹脂とカチオン硬化性樹脂のブレンドからなる硬化樹脂層を使用し、上層にラジカル硬化性樹脂のみからなる硬化樹脂層を使用したハードコートフィルムが知られているが、これらも十分満足できる硬度ではなかった。
【0006】
一般に、ハードコート層の厚みを厚くすることが、硬度増加に有効であることが知られている。特に、ハードコート層に無機、有機の充填剤を含有した層を厚くすることで、ハードコートフィルムの硬度をさらに向上できるが、厚くすることでヘイズの増加が大きくなり、ハードコート層の割れや剥がれが生じやすくなったり、硬化収縮により基材への追従性が悪くなりハードコートフィルムのカールが大きくなったりするという問題などがある。
【0007】
上記の様な課題に対し、例えば、特許文献1では、射出成形体表面に耐擦傷性を付与でき、延伸性のある射出成形用ハードコートフィルムが開示されている。特許文献1に記載の方法では、基材上のハードコート層膜厚を厚くすることが可能で、射出成形に必要な延伸性も付与することができるが、アクリレート系のハードコート層で構成されており、ハードコート層としての性能、特に、硬度に関しては十分とはいえない。また、特許文献2においては、支持体上に、特定配合量の金属酸化物微粒子、紫外線硬化型樹脂として1分子中に3個以上(メタ)アクリロイル基を含有し、かつ硬化後の収縮率が10%未満であるウレタン(メタ)アクリレート(A)、1分子中に3個以上(メタ)アクリロイル基を含有する多官能アクリレート(B)、有機溶剤、及び光重合開始剤から構成される塗料組成物を用いてハードコート層を形成したハードコートフィルムが開示されており、更には、特許文献3においては、ハードコート層が硬化後の体積収縮率が2〜10%である熱硬化性樹脂または活性エネルギー硬化性樹脂を主成分とし、かつ該ハードコート層の厚みが4〜10μmであるハードコートフィルムが開示されている。これら各特許文献に記載のハードコートフィルムでは、耐擦傷性、表面硬度、カール特性、脆弱性等が改良されるとされている。本発明者が検討を進めた結果、特許文献2、3で開示されている技術も、耐擦傷性や硬度の向上効果は得られるものの、特に、基材追従性が要求される射出成形用途のハードコートフィルムとしては、耐クラック性、基材追従性(延伸性)などは満足できるものではないことが判明した。
【特許文献1】特開2008−260231号公報
【特許文献2】特開2005−288787号公報
【特許文献3】特開2005−288921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、高い硬度が得られ、かつ基材追従性に優れ、射出成形用途に適したハードコート付積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0010】
1.プラスチック基材の片面または両面に、無機粒子濃度の異なる2層以上のハードコート層から構成されるハードコート層ユニットを有し、該ハードコート層ユニット上に、該プラスチック基材の面方向に対して水平方向に、組成の異なる2種以上の表層構成物から構成される表層を有することを特徴とするハードコート付積層体。
【0011】
2.前記組成の異なる2種以上の表層構成物の一つは、不連続で独立した多角形様構造群であることを特徴とする前記1に記載のハードコート付積層体。
【0012】
3.前記組成の異なる2種以上の表層構成物は、インクジェット記録方式を用いて前記ハードコート層ユニット上に吐出して形成されることを特徴とする前記2に記載のハードコート付積層体。
【0013】
4.前記ハードコート層ユニットと、前記表層との間に、大気圧プラズマCVD法により形成された金属酸化物層を有することを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載のハードコート付積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高い硬度が得られ、かつ基材追従性に優れ、射出成形用途に適したハードコート付積層体を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、プラスチック基材の片面または両面に、無機粒子濃度の異なる2層以上のハードコート層から構成されるハードコート層ユニットを有し、該ハードコート層ユニット上に、該プラスチック基材に対して水平方向に、組成の異なる2種以上の表層構成物から構成される表層を有することを特徴とするハードコート付積層体により、高い硬度が得られ、かつ基材追従性に優れ、射出成形用途に適したハードコート付積層体を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0017】
すなわち、前述の如く、プラスチック基材上に、無機粒子濃度の異なる2層以上のハードコート層を積層してハードコート層ユニットを構成することにより、各ハードコート層の弾性率あるいは収縮率の違いを持たせることで、プラスチック基材との密着性あるいは応力緩和効果、高いハードコート性を付与している。しかしながら、これらの構成のみで構成したハードコート層付積層体を、射出成形用途に適用した場合には、湾曲部を有する金型で成型を行う場合には、成型時の急激な変形等にハードコート層付積層体に過度の応力や歪みが付与され、それに十分に追従することができないため、ハードコート層付積層体の基材からの剥離や塗膜のひび割れ(クラック)が発生するため、射出成形用途に対する適性が十分でなかった。本発明者は、射出成形にハードコート層付積層体にかかる応力の緩和方法について鋭意検討を進めた結果、無機粒子濃度の異なる2層以上のハードコート層を積層したハードコート層ユニット上に、更に、プラスチック基材に対して水平方向に、組成が異なり2種以上の表層構成物から構成される表層を設けることにより、折り曲げや湾曲部を有する射出成形に装着した際の積層したハードコート層が受ける伸縮応力を、最表面に設けた表層により吸収、緩和することにより、従来困難とされていた射出成形法により、プラスチック材料上にハードコート層付積層体による加飾を可能としたものである。
【0018】
詳しくは、最表面に設けた表層は、組成の異なる2種以上の表層構成物から構成され、それぞれの表層構成物間では、硬度や収縮率の異なる組成により構成され、その中で、少なくとも一つの表層構成物の形状を、不連続で独立した多角形様構造群として形成することにより、多角形様構造群が、表層及びハードコート層が受ける層の拡張や収縮等の伸縮応力の横方向への伝播を遮断することにより、ストレスによるひび割れ等を防止するものと推測している。
【0019】
以下、本発明のハードコート付積層体の各構成要素の詳細について説明する。
【0020】
《ハードコート層》
本発明のハードコート層付積層体は、無機粒子濃度の異なる2層以上のハードコート層から構成されるハードコート層ユニットを有していることを特徴とする。
【0021】
本発明に係るハードコート層は、それぞれ濃度の異なる無機粒子と共に、樹脂バインダー(主には、活性光線硬化樹脂)、該樹脂バインダーの重合開始剤、該樹脂バインダーの溶解溶媒、該無機粒子の分散溶媒等により構成されたハードコート層塗布液を、プラスチック基材上に塗設して形成される。
【0022】
本発明に係る無機粒子濃度の異なる2層以上のハードコート層、プラスチック基材に近い側から外へ向けて硬度が順次硬くなる構成であることが、より高い硬度を得るために好ましい。このとき無機粒子の添加濃度により、膜硬度を調整することがより好ましい。
【0023】
〔無機粒子〕
本発明に係るハードコート層群においては、各ハードコート層群に適用できる無機粒子としては、例えば、Si、Ti、Mg、Ca、Zr、Sn、Sb、As、Zn、Nb、In、Alから選択される金属の酸化物微粒子が好ましく、具体的には、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、ITO、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。特に本発明においては無機粒子として酸化珪素を用いることが好ましい。
【0024】
本発明に好ましく適用することができる酸化珪素としては、例えば、酸化珪素粒子として富士シリシア化学(株)製のサイリシア、日本シリカ(株)製のNipsil E、日本アエロジル(株)製のアエロジルシリーズ、日産化学工業(株)製のコロイダルシリカ、オルガノシリカゾル等を適用することができる。
【0025】
本発明に係るハードコート層に適用できる無機粒子の平均粒子径としては、5nm以上、1.0μm以下であることが好ましく、更に好ましくは5nm以上、500nm以下である。無機粒子の平均粒子径は、無機粒子を電子顕微鏡で観察し、100個の任意の一次粒子の粒径を求め、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒子径はその投影面積に等しい円を仮定した時の直径で表したものである。
【0026】
本発明に係るハードコート層において、無機粒子の含有量は、本発明で規定する条件を満たす範囲であれば特に制限はない。
【0027】
〔樹脂バインダー〕
本発明に係るハードコート層は、主に、樹脂バインダー、具体的には活性光線硬化樹脂と無微粒子とで構成されていることが好ましい。
【0028】
〈活性光線硬化樹脂〉
本発明に適用可能な活性光線硬化樹脂としては、紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂などが代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線照射によって硬化する樹脂でもよい。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることが出来る。
【0029】
紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、もしくはプレポリマーを反応させて得られた生成物に更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートと記載した場合、メタクリレートを包含するものとする)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることが出来る(例えば、特開昭59−151110号等を参照)。
【0030】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂は、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることが出来る(例えば、特開昭59−151112号を参照)。
【0031】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂の具体例としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させたものを挙げることができる(例えば、特開平1−105738号)。
【0032】
具体的には、
1)分子中に含有する(メタ)アクリロイル基の数が少ない、すなわち、硬化収縮の小さい樹脂を用いる。具体的には、イソブチル(メタ)アクリレートやヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの単官能(メタ)アクリレートや、1,6−ヘキサンジオール−ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール−ジ(メタ)アクリレートなどの二官能(メタ)アクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。
【0033】
2)1分子中に3個以上(メタ)アクリロイル基を含有し、かつ硬化後の収縮率が10%未満であるウレタン(メタ)アクリレートが挙げられ、これらは工業的に入手可能であり、例えば、日本合成化学工業社製UV−7600B、UV−7640B、大日本インキ化学工業社製ユニディック17−806、ユニディック17−813、V−4030、V−4000BA、ダイセルUCB社製EB−1290Kなどが挙げられる。
【0034】
3)開環重合性環状エーテル化合物しては、エポキシ誘導体、オキセタン誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、オキサゾリン誘導体などの環状イミノエーテル類などが挙げられ、特にエポキシ誘導体、オキセタン誘導体、オキサゾリン誘導体が好ましい。
【0035】
これらの開環重合性環状エーテル化合物は、上記のような環状構造を2個以上好ましくは3個以上同一分子内に有する化合物が好ましい。例えば3官能グリシジルエーテルとしてはトリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートなど、4官能以上のグリシジルエーテルとしてはソルビトールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシルエーテル、クレゾールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル、フェノールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテルなど、3官能以上のエポキシ類としてはエポリードGT−301、エポリードGT−401、EHPE(以上、ダイセル化学工業(株)製)、フェノールノボラック樹脂のポリシクロヘキシルエポキシメチルエーテルなど、3官能以上のオキセタン類としてはOX−SQ、PNOX−1009(以上、東亞合成(株)製)などが挙げられる。
【0036】
4)単官能のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの極性基含有のアクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、スチレン、ビニルアセテート、無水マレイン酸などの既存のモノマーが挙げられる。
【0037】
5)同一分子内に1個もしくは2個の開環重合性基を有する化合物も必要に応じて併用することができ、好ましい化合物としては単官能または2官能のグリシジルエーテル類、単官能または2官能の脂環式エポキシ類、単官能または2官能のオキセタン類が挙げられ、種々の市販もしくは公知の化合物を使用することができる。
【0038】
〔光重合開始剤〕
本発明に係るハードコート層には、上記光重合性樹脂を光照射により硬化するため、重合開始剤、光酸発生剤等を用いる。
【0039】
硬化樹脂がラジカル重合型硬化樹脂である場合には、光ラジカル重合開始剤を用い、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのケトン、ベンゾイルベンゾエート、ベンゾイン類、α−アシロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、およびチオキサントンなどが含まれる。光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の例には、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、およびチオキサントンなどが含まれる。
【0040】
また、硬化樹脂がカチオン重合型硬化樹脂である場合には、カチオンを発生させる光酸発生剤として、トリアリールスルホニウム塩やジアリールヨードニウム塩やスルホン酸のニトロベンジルエステルなど化合物が挙げられ、有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」ぶんしん出版社刊(1997)などに記載されている化合物など種々の公知の光酸発生剤が使用できる。この中で特に好ましくはジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネートなどのスルホニウム塩もしくはジフェニルヨードニウム塩であり、対イオンとしてはPF、SbF、AsF、B(Cなどが挙げられる。
【0041】
〔基材上へのハードコート層の付与方法〕
本発明においては、各ハードコート層を基材上に形成する方法としては、薄膜を形成する公知の湿式塗布法により形成することが好ましい。
【0042】
湿式塗布法とは、硬化樹脂、光重合開始剤等を溶媒、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他の溶媒に溶解して、ハードコート層塗布液を調製し、この塗布液を用いて、ウェット状態の薄膜を基材上に形成する方法である。
【0043】
この様な湿式塗布法に用いられる塗布方式としては、例えば、インクジェット塗布、スピンコート塗布、ディップ塗布、エクストルージョン塗布、ロールコート塗布スプレー塗布、グラビア塗布、ワイヤーバー塗布、エアナイフ塗布、スライドポッパー塗布、カーテン塗布等の公知の溶液を用いた塗布方法(塗布装置)を適用することができる。
【0044】
上記の塗布方式により基材上に形成したハードコート層は、膜を硬化する目的で、活性光線が照射される。
【0045】
ハードコート層を硬化するのに使用する活性エネルギー線としては、放射線、ガンマー線、アルファー線、電子線、紫外線などが挙げられるが、紫外線が好ましく、紫外線によりラジカルもしくはカチオンを発生させる上記重合開始剤を添加し、紫外線により硬化させる方法が特に好ましい。
【0046】
硬化樹脂を光硬化反応により硬化皮膜層を形成するための紫外線を発生する光源としては、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を挙げることができる。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、照射光量は20〜10000mJ/cm程度あればよく、好ましくは、50〜2000mJ/cmである。近紫外線領域〜可視光線領域にかけてはその領域に吸収極大のある増感剤を用いることによって使用出来る。
【0047】
硬化樹脂を含む塗布液は塗布、乾燥された後、紫外線光源による紫外線照射により硬化するが、照射時間は0.5秒〜5分がよく、硬化樹脂の硬化効率、作業効率とから3秒〜2分がより好ましい。
【0048】
また、本発明に係る積層したハードコート層を形成する湿式塗布法として、例えば、図3で示した構成を例にとると、計3層のハードコート層を同時に塗布する同時重層塗布方式を適用することが、高い生産性が得られる観点で好ましい。
【0049】
同時重層塗布方式に適用可能な塗布装置としては、複数の塗布液を供給できる供給口あるいは供給スリットを備え、所望の乾燥膜厚となるように各供給口あるいは供給スリットへの塗布液の供給量を制御する手段を備えた装置であり、例えば、エクストルージョン塗布、スライドホッパー塗布、カーテン塗布等の塗布装置を適用することができる。
【0050】
《表層》
本発明において、表層を構成する組成の異なる2種以上の表層構成物は、基材の面方向と平行な面に配置され、表層構成物の一つは、不連続で独立した多角形様構造群であることが好ましい。この多角形様の配置は、射出成形適性と同時に膜硬度を持たせるために必要である。塗設の方法は特に限定しないが、塗布精度、塗布効率の面で、インクジェット記録方式を用いてハードコート層ユニット上に吐出して形成されることがより好ましい。
【0051】
多角形様の配置は平面に隙間無く敷き詰められる形状である六角形、三角形、四角形あるいはこれらの組み合わせにより隙間無く面が充填される形状がより好ましく、多角形の面にあたる部分には硬度を付与する構成物、多角形の辺にあたる部分には射出成形適性を付与する構成物を配置することが好ましい。
【0052】
本発明においては多角形様配置における多角形の面積、あるいは辺の部分の線幅(面積)に特に制限は無いが、その目的において、自由に調整することができる。すなわち硬度をより求める場合には、多角形の面部分を広くする、また、射出成形適性を求める場合は辺にあたる部分の線幅を広くするなどの調整ができる。
【0053】
表層構成物を形成する材料としては、ハードコート層の形成に用いるのと同様に活性光線硬化樹脂を用いることができ、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることが出来る。
【0054】
更には、オルガノシラン化合物の加水分解物、オルガノシラン化合物の部分縮合物の併用、有機パーヒドロポリシラザン、無機パーヒドロポリシラザン、ハフニアやジルコニア酸化膜を形成するゾルやその他の有機無機ハイブリッド、ナノコンポジットを用いたハードコート剤を使用することもできる。
【0055】
また、活性光線硬化樹脂と共に、ハードコート層の形成に用いるのと同様の光重合開始剤、樹脂溶媒等を用いることができる。
【0056】
また、多角形様構造群の形成に好適に用いられるインクジェット記録方式として、表層構成物形成液をハードコート層ユニット上に吐出するのに用いるインクジェットヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。又吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等など何れの吐出方式を用いても構わない。本発明においては、形成した多角形様構造群を迅速に硬化する観点から、インクジェットヘッドに近接した位置に、紫外線硬化樹脂を光硬化反応により硬化皮膜層を形成するための紫外線を発生する光源を配置することが好ましい。
【0057】
《金属酸化物層》
本発明のハードコート付積層体においては、ハードコート層ユニットと、前記表層との間に、大気圧プラズマCVD法により形成された金属酸化物層を有することが好ましい。
【0058】
本発明に係る金属酸化物層は、その構成材料の主成分が金属酸化物により構成されていることが、高い硬度を備えた最表層を形成できる観点から好ましい。
【0059】
本発明でいう主成分とは、金属酸化物層の80質量%以上が金属酸化物で構成されていることであり、好ましくは90質量%以上が金属酸化物で構成されていることであり、特に好ましくは95質量%以上が金属酸化物で構成されていることである。
【0060】
本発明に係る金属酸化物層を構成する金属酸化物としては、特に制限はなく、例えば、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化珪素、酸化チタン、酸化窒化チタン、窒化チタン、酸化ホウ素又は酸化アルミニウム等の金属酸化物膜が挙げられるが、これらの中でも、高い硬度を備えた表面層が得られる観点から酸化珪素膜であることが、特に好ましい。
【0061】
本発明に係る金属酸化物層は、例えば、原材料をスプレー法、スピンコート法、スパッタリング法、イオンアシスト法、プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下での大気圧プラズマCVD法等を適用して形成することができる。
【0062】
しかしながら、スプレー法やスピンコート法等の湿式塗布方式では、分子レベル(nmレベル)の平滑性を得ることが難しく、また溶剤を使用するため、本発明に適用する樹脂基材が有機材料であることから、使用可能な樹脂基材または溶剤が限定されるという欠点がある。そこで、本発明のハードコート層付積層体においては、酸化物層の形成方法としては、プラズマCVD法を適用することが好ましく、特に、大気圧または大気圧近傍の圧力下での大気圧プラズマCVD法は、減圧チャンバー等が不要で、高速製膜ができ生産性の高い製膜方法である点から好ましい。本発明に係る金属酸化物層を大気圧プラズマCVD法で形成することにより、均一かつ表面の平滑性を有する膜を比較的容易に形成することが可能となるからである。尚、大気圧プラズマCVD法の層形成条件の詳細については、後述する。
【0063】
プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法により得られる金属酸化物層は、原材料(原料ともいう)である有機金属化合物、分解ガス、分解温度、投入電力などの条件を選ぶことで、様々な特性を備えた各種金属酸化物を生成することができるため好ましい。例えば、珪素化合物を原料化合物として用い、分解ガスに酸素を用いれば、珪素酸化物が生成する。これは、プラズマ空間内では非常に活性な荷電粒子・活性ラジカルが高密度で存在するため、プラズマ空間内では多段階の化学反応が非常に高速に促進され、プラズマ空間内に存在する元素は熱力学的に安定な化合物へと非常な短時間で変換されるためである。
【0064】
このような無機物の原料としては、典型または遷移金属元素を有していれば、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても構わない。気体の場合にはそのまま放電空間に導入できるが、液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。又、溶媒によって希釈して使用してもよく、溶媒は、メタノール,エタノール,n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用できる。尚、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響は殆ど無視することができる。
【0065】
本発明においては、金属酸化物の形成に用いる有機金属化合物は、
珪素化合物としては、例えば、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等が挙げられる。
【0066】
チタン化合物としては、例えば、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンテトライソポロポキシド、チタンn−ブトキシド、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−エチルアセトアセテート)、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンアセチルアセトネート、ブチルチタネートダイマー等が挙げられる。
【0067】
ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド、ジルコニウムトリ−n−ブトキシドアセチルアセトネート、ジルコニウムジ−n−ブトキシドビスアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムヘキサフルオロペンタンジオネート等が挙げられる。
【0068】
アルミニウム化合物としては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、トリエチルジアルミニウムトリ−s−ブトキシド等が挙げられる。
【0069】
硼素化合物としては、ジボラン、テトラボラン、フッ化硼素、塩化硼素、臭化硼素、ボラン−ジエチルエーテル錯体、ボラン−THF錯体、ボラン−ジメチルスルフィド錯体、三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体、トリエチルボラン、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリ(イソプロポキシ)ボラン、ボラゾール、トリメチルボラゾール、トリエチルボラゾール、トリイソプロピルボラゾール、等が挙げられる。
【0070】
錫化合物としては、テトラエチル錫、テトラメチル錫、二酢酸ジ−n−ブチル錫、テトラブチル錫、テトラオクチル錫、テトラエトキシ錫、メチルトリエトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、トリイソプロピルエトキシ錫、ジエチル錫、ジメチル錫、ジイソプロピル錫、ジブチル錫、ジエトキシ錫、ジメトキシ錫、ジイソプロポキシ錫、ジブトキシ錫、錫ジブチラート、錫ジアセトアセトナート、エチル錫アセトアセトナート、エトキシ錫アセトアセトナート、ジメチル錫ジアセトアセトナート等、錫水素化合物等、ハロゲン化錫としては、二塩化錫、四塩化錫等が挙げられる。
【0071】
また、その他の有機金属化合物としては、例えば、アンチモンエトキシド、ヒ素トリエトキシド、バリウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、ベリリウムアセチルアセトナート、ビスマスヘキサフルオロペンタンジオネート、ジメチルカドミウム、カルシウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、クロムトリフルオロペンタンジオネート、コバルトアセチルアセトナート、銅ヘキサフルオロペンタンジオネート、マグネシウムヘキサフルオロペンタンジオネート−ジメチルエーテル錯体、ガリウムエトキシド、テトラエトキシゲルマン、テトラメトキシゲルマン、ハフニウムt−ブドキシド、ハフニウムエトキシド、インジウムアセチルアセトナート、インジウム2,6−ジメチルアミノヘプタンジオネート、フェロセン、ランタンイソプロポキシド、酢酸鉛、テトラエチル鉛、ネオジウムアセチルアセトナート、白金ヘキサフルオロペンタンジオネート、トリメチルシクロペンタジエニル白金、ロジウムジカルボニルアセチルアセトナート、ストロンチウム2,2,6,6−テトラメチルヘプタンジオネート、タンタルメトキシド、タンタルトリフルオロエトキシド、テルルエトキシド、タングステンエトキシド、バナジウムトリイソプロポキシドオキシド、マグネシウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、ジエチル亜鉛、などが挙げられる。
【0072】
また、これらの金属を含む原料ガスを分解して金属酸化物を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、などが挙げられる。
【0073】
金属元素を含む原料ガスと、分解ガスを適宜選択することで、各種の金属酸化物を得ることができる。
【0074】
これらの反応性ガスに対して、主にプラズマ状態になりやすい放電ガスを混合し、プラズマ放電発生装置にガスを送りこむ。
【0075】
このような放電ガスとしては、窒素ガスおよび/または周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
【0076】
上記放電ガスと反応性ガスを混合し、混合ガスとしてプラズマ放電発生装置(プラズマ発生装置)に供給することで膜形成を行う。放電ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、放電ガスの割合を50%以上として反応性ガスを供給する。
【0077】
以上のように、上記のような原料ガスを放電ガスと共に使用することにより様々な無機薄膜を形成することができる。
【0078】
次いで、本発明のハードコート層付積層体の製造方法において、本発明に係る金属酸化物層の形成に好適に用いることのできるプラズマCVD法及び大気圧プラズマCVD法について、更に詳細に説明する。
【0079】
プラズマCVD法(化学的気相成長法)は、揮発・昇華した有機金属化合物が高温の基材表面に付着し、熱により分解反応が起き、熱的に安定な無機物の薄膜が生成されるというものである。このような通常のCVD法(熱CVD法とも称する)では、通常500℃以上の基板温度が必要であるため、プラスチック基材への製膜には使用することが難しい。
【0080】
一方、プラズマCVD法は、基材近傍の空間に電界を印加し、プラズマ状態となった気体が存在する空間(プラズマ空間)を発生させ、揮発・昇華した有機金属化合物がこのプラズマ空間に導入されて分解反応が起きた後に基材上に吹きつけられることにより、金属酸化物の薄膜を形成するというものである。プラズマ空間内では、数%の高い割合の気体がイオンと電子に電離しており、ガスの温度は低く保たれるものの、電子温度は非常な高温のため、この高温の電子、あるいは低温ではあるがイオン・ラジカルなどの励起状態のガスと接するために無機膜の原料である有機金属化合物は低温でも分解することができる。したがって、金属酸化物を製膜する樹脂基材についても低温化することができ、樹脂基材上へも十分製膜することが可能な製膜方法である。
【0081】
しかしながら、プラズマCVD法においては、ガスに電界を印加して電離させ、プラズマ状態とする必要があるため、通常は、0.10kPa〜10kPa程度の減圧空間で製膜していたため、大面積のフィルムを製膜する際には設備が大きく操作が複雑であり、生産性の課題を抱えている方法である。
【0082】
これに対し、大気圧近傍でのプラズマCVD法では、真空下のプラズマCVD法に比べ、減圧にする必要がなく生産性が高いだけでなく、プラズマ密度が高密度であるために製膜速度が速く、更にはCVD法の通常の条件に比較して、大気圧下という高圧力条件では、ガスの平均自由工程が非常に短いため、極めて平坦な膜が得られ、そのような平坦な膜は、光学特性が良好である。以上のことから、本発明においては、大気圧プラズマCVD法を適用することが、真空下のプラズマCVD法よりも好ましい。
【0083】
また、この方法によれば、樹脂基材上、更に詳しくはハードコート層上に金属酸化物膜を形成させたときの膜密度が緻密であり、安定した性能を有する薄膜が得られる。また残留応力が圧縮応力で、0.01MPa以上,100MPa以下という範囲の金属酸化物膜が安定に得られることが特徴である。
【0084】
以下、大気圧あるいは大気圧近傍での大気圧プラズマCVD法を用いた金属酸化物層の形成方法について述べる。
【0085】
先ず、本発明に係る金属酸化物層の形成に使用されるプラズマ製膜装置の一例について、図1、図2に基づいて説明する。図中、符号Fはハードコート層を有する基材樹脂の一例としての長尺フィルムである。
【0086】
図1または図2に述べるプラズマ放電処理装置においては、ガス供給手段から、前記金属を含む原料ガス、分解ガスを適宜選択して、またこれらの反応性ガスに対して、主にプラズマ状態になりやすい放電ガスを混合してプラズマ放電発生装置にガスを送りこむことで、セラミック膜を得ることができる。
【0087】
放電ガスとしては、前記のように窒素ガスおよび/または周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が用いられる。これらの中でも窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられ、特に窒素がコストも安く好ましい。
【0088】
図1は、ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置であり、プラズマ放電処理装置、二つの電源を有する電界印加手段の他に、図1では図示してない(後述の図2に図示してある)が、ガス供給手段、電極温度調節手段を有している装置である。
【0089】
プラズマ放電処理装置15は、第1電極16と第2電極17から構成されている対向電極を有しており、該対向電極間に、第1電極16からは第1電源21からの周波数ω、電界強度V、電流Iの第1の高周波電界が印加され、また第2電極17からは第2電源22からの周波数ω、電界強度V、電流Iの第2の高周波電界が印加されるようになっている。第1電源21は第2電源22より高い高周波電界強度(V>V)を印加出来、また第1電源21の第1の周波数ωは第2電源22の第2の周波数ωより低い周波数を印加出来る。
【0090】
第1電極16と第1電源21との間には、第1フィルタ23が設置されており、第1電源21から第1電極16への電流を通過しやすくし、第2電源22からの電流をアースして、第2電源22から第1電源21への電流が通過しにくくなるように設計されている。
【0091】
また、第2電極17と第2電源22との間には、第2フィルタ24が設置されており、第2電源22から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源21からの電流をアースして、第1電源21から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0092】
第1電極16と第2電極17との対向電極間(放電空間)18に、ガス供給手段(不図示)からガスGを導入し、第1電極16と第2電極17から高周波電界を印加して放電を発生させ、ガスGをプラズマ状態にしながら対向電極の下側(紙面下側)にジェット状に吹き出させて、対向電極下面と基材Fとで作る処理空間をプラズマ状態のガスG°で満たし、図示してない基材の元巻き(アンワインダー)から巻きほぐされて搬送して来るか、あるいは前工程から搬送して来る基材Fの上に、処理位置19付近で薄膜を形成させる。薄膜形成中、電極温度調節手段(不図示)から媒体が配管を通って電極を加熱または冷却する。プラズマ放電処理の際の基材樹脂の温度によっては、得られる金属酸化物膜の物性や組成等は変化することがあり、これに対して適宜制御することが望ましい。温度調節の媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ放電処理の際、幅手方向あるいは長手方向での基材樹脂の温度ムラが出来るだけ生じないように電極の内部の温度を均等に調節することが望まれる。
【0093】
図2は、本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【0094】
本発明に係る大気圧プラズマ放電処理装置は、少なくとも、プラズマ放電処理装置30、二つの電源を有する電界印加手段40、ガス供給手段50、電極温度調節手段60を有している装置である。
【0095】
図2は、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との対向電極間(放電空間)32で、基材Fをプラズマ放電処理して薄膜を形成するものである。
【0096】
ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との間の放電空間(対向電極間)32に、ロール回転電極(第1電極)35には第1電源41から周波数ω、電界強度V、電流Iの第1の高周波電界を、また角筒型固定電極群(第2電極)36には第2電源42から周波数ω、電界強度V、電流Iの第2の高周波電界をかけるようになっている。
【0097】
ロール回転電極(第1電極)35と第1電源41との間には、第1フィルタ43が設置されており、第1フィルタ43は第1電源41から第1電極への電流を通過しやすくし、第2電源42からの電流をアースして、第2電源42から第1電源への電流を通過しにくくするように設計されている。また、角筒型固定電極群(第2電極)36と第2電源42との間には、第2フィルタ44が設置されており、第2フィルタ44は、第2電源42から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源41からの電流をアースして、第1電源41から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0098】
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置に設置する第1電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
A1 神鋼電機 3kHz SPG3−4500
A2 神鋼電機 5kHz SPG5−4500
A3 春日電機 15kHz AGI−023
A4 神鋼電機 50kHz SPG50−4500
A5 ハイデン研究所 100kHz* PHF−6k
A6 パール工業 200kHz CF−2000−200k
A7 パール工業 400kHz CF−2000−400k
等の市販のものを挙げることが出来、何れも使用することが出来る。
【0099】
また、第2電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
B1 パール工業 800kHz CF−2000−800k
B2 パール工業 2MHz CF−2000−2M
B3 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
B4 パール工業 27MHz CF−2000−27M
B5 パール工業 150MHz CF−2000−150M
等の市販のものを挙げることが出来、何れも好ましく使用出来る。
【0100】
ここで高周波電界の波形としては、特に限定されない。連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モード等があり、そのどちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側(第2の高周波電界)は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
【0101】
本発明に適用できる大気圧プラズマ放電処理装置としては、上記説明し以外に、例えば、特開2004−68143号公報、同2003−49272号公報、国際特許第02/48428号パンフレット等に記載されている大気圧プラズマ放電処理装置を挙げることができる。
【0102】
以上の様な方法に従って、ハードコート層を有する樹脂基材に設けられる金属酸化物層の膜厚は、構成する金属酸化物の種類により異なるが、概ね、50〜2000nmの範囲であることが好ましい。
【0103】
《基材》
本発明に用いられる基材は、ポリエステル樹脂により耐熱性、ポリカーボネート樹脂による耐衝撃性にすぐれた構成となっている。使用する素材は特に制限はないが、エチレン、プロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)樹脂、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン樹脂(APO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリビニルブチラート(PVB)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフルオロプロピレン−パーフルオロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂等を用いることができる。
【0104】
また、上記に挙げた樹脂以外にも、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物によりなる樹脂組成物や、上記アクリルレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解せしめた樹脂組成物等の光硬化性樹脂およびこれらの混合物等を用いることも可能である。
【0105】
上記例示した樹脂基材は、市販品として入手することができ、例えば、ゼオネックスやゼオノア(日本ゼオン(株)製)、非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルムのARTON(ジェイエスアール(株)製)、ポリカーボネートフィルムのピュアエース(帝人(株)製)、セルローストリアセテートフィルムのコニカタックKC4UX、KC8UX(コニカミノルタオプト(株)製)などを挙げることができる。
【0106】
さらに、これらの樹脂の1または2種以上をラミネート、コーティング等の手段によって積層させたものを樹脂フィルム基材として用いることも可能である。
【0107】
また、本発明に係る樹脂基材は、シート状であってもフィルム状であっても、あるいはその他の形態であってもよく、特にその形態には制限はない。また、樹脂基材の膜厚は、使用する樹脂の種類や、目的用途等の各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できる。
【0108】
《ハードコート層付積層体の構成例》
図3は、本発明のハードコート付積層体の構成の一例を示す断面図である。
【0109】
図3のa)においては、プラスチック基材2上に、それぞれ無機粒子を濃度が異なる状態で含有している3層のハードコート層3、4、5が形成されて、ハードコート層ユニットHUを構成している。ハードコート層5上には、本発明に係る組成の異なる2種以上の表層構成物から構成される表層6が形成されている。
【0110】
表層6は、相対的に硬度の高い表層構成物7と、それに対し硬度の低い表層構成物8とが、プラスチック基材2に対して水平方向に交互に配置されており、その中でも、相対的に硬度の高い表層構成物7は、不連続で独立した多角形様構造群を構成している。
【0111】
図3のb)は、本発明のより好ましい態様である金属酸化物層を有する例を示してある。図3のb)においては、プラスチック基材2上に、それぞれ無機粒子を濃度が異なる状態で含有している2層のハードコート層3、4が形成されて、その上に、大気圧プラズマCVD法により形成された金属酸化物層Mを有し、最表層として、不連続で独立した多角形様構造群を有する表層6が配置されている。
【0112】
図4は、表層の不連続で独立した多角形様構造の一例を示す上面図である。
【0113】
図4において、表層を構成する6角形様構造の表層構成物7が、不連続で独立した蜂の巣状のパターンで形成され、それぞれの6角形様構造の表層構成物7の間隙部に、やや硬度が低く、柔軟性が高い表層構成物8が形成された構造を示している。この様な不連続で独立した蜂の巣状パターンは、インクジェット記録方式を用いて、それぞれのインクジェットヘッドに、表層構成物7を形成する紫外線硬化型インクと、表層構成物8を形成する紫外線硬化型インクとを充填した後、決められたパターン信号に従ってそれぞれのインクを、ハードコート層上あるいは金属酸化物層上に吐出した後、紫外線を照射、硬化することにより、高い精度で形成することができる。
【0114】
《適用分野》
以上の方法に従って作製されるハードコート層付積層体は、高い硬度、耐擦過性、耐久性(密着性)、カールに優れた特性を備えており、例えば、ブラウン管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED)等のディスプレイの表面材料や家電製品等のタッチパネル、各種の建築用の窓、例えば、住宅用窓、ショーウインドウ、車両用窓、車両用風防、遊戯機械等のガラス保護フィルム、メガネレンズなどの保護フィルムあるいは、あるいはガラス代替樹脂製品して、広い分野に適用することができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0116】
《ハードコート層付積層体の作製》
〔樹脂基材フィルム〕
樹脂基材フィルムは、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂を70:30の割合で混合し、押し出し成形した厚さ200μmのフィルムを用いた。
【0117】
〔試料1の作製〕
下記の方法に従って、ハードコート層付積層体である試料1(図3のa)に記載の構成)を作製した。
【0118】
(ハードコート層の形成)
下記の塗布液1〜3を調製し、それぞれ孔径1μmのポリプロピレン製フィルタで濾過した後、マイクログラビアコーターを用いて上記樹脂基材フィルム2上に順次それぞれの乾燥膜厚が0.5μm、0.5μm、0.4μmとなるように塗布し、乾燥、硬化を繰り返して製膜して、図3のa)に示すような第1ハードコート層3、第2ハードコート層4、第3ハードコート層5を形成した。乾燥は、60℃で150秒、硬化は紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとした。
【0119】
〈塗布液1の調製〉
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 100部
イルガキュア184 チバ・ジャパン(株)製 5.0部
酢酸エチル 120部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 120部
BYK−307 ビックケミージャパン社製 0.4部
酸化珪素粒子:アエロジルR972V(一次平均粒子径16nm、日本アエロジル社製) 2.0部
〈塗布液2の調製〉
上記塗布液1の調製において、酸化珪素粒子の添加量を、2.0部から5.5部に変更した以外は同様にして、塗布液2を調製した。
【0120】
〈塗布液3の調製〉
上記塗布液1の調製において、酸化珪素粒子の添加量を、2.0部から8.5部に変更した以外は同様にして、塗布液3を調製した。
【0121】
(表層の形成)
下記の方法に従って、第3ハードコート層5上に、組成の異なる2種表層構成物を有する表層6を形成して、試料1を作製した。
【0122】
上記第1〜第3のハード層を形成した基材を巻戻し、下記塗布液4、5をインクジェットヘッドより吐出して、図4に示すパターンからなる表層を形成した。
【0123】
インクジェットヘッドとして、印字解像度を720dpi×720dpi(本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す)とし、360dpi、インク液滴量16plの条件のインクジェットヘッドを2基用意し、それぞれの40℃に保温したインクジェットヘッドに下記塗布液4と塗布液5を充填した。次いで、塗布液4を充填したインクジェットヘッドより、表4に示すような1辺の長さが100μmの六角形パターンからなる表層構成物7を不連続で独立したパターンとして形成し、同時に、塗布液5を充填したインクジェットヘッドより、上記六角形パターンからなる表層構成物7間の間隙を埋めるように、線幅が30μmの表層構成物8を形成した。この時、表層構成物7、8の乾燥膜厚は1.3μmとなるように吐出量を制御した。上記不連続で独立した多角形様構造群を形成した後、60℃で100秒の乾燥を行った後、160W/cmの高圧水銀灯を用いて照射量250mJ/cmの紫外線を照射して表層を硬化した。
【0124】
〈塗布液4の調製〉
光硬化性樹脂:DPHA 日本化薬製 10部
光硬化性樹脂:PET−30 日本化薬製 40部
重合開始剤:イルガキュア184 チバ・ジャパン(株)製 2部
下記反応液A 10部
トルエン 53部
〈反応液Aの調製〉
攪拌機、還流冷却器を備えた反応器を使用し、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−5103、信越化学工業(株)製)187部、メチルトリメトキシシラン2.8部、メタノール320部、KF0.006部を加えて混合したのち、窒素雰囲気下で水15部を加え、さらに室温で3時間攪拌した後、メタノール還流下40〜50℃で2時間加熱攪拌し低沸分を減圧留去し、室温まで冷却して反応液Aを得た。
【0125】
〈塗布液5の調製〉
光硬化性樹脂:EB−3700 ダイセルUCB社製 40部
光硬化性樹脂:PETA−K ダイセルUCB社製 20部
光硬化性樹脂:A−BPE−4 新中村化学社製 20部
下記反応液B 20部
重合開始剤:イルガキュア184 チバ・ジャパン(株)製 4部
イソプロピルアルコール 200部
酢酸ブチル 200部
〈反応液Bの調製〉
攪拌機、還流冷却器を備えた反応器を使用しメチルシクロヘキシルメタクリレート50部、メチルメタクリレート50部、プロピレングリコールモノメチルエーテル120部を混合し窒素雰囲気下90℃に加熱、つぎにt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート0.5部およびプロピレングリコールモノメチルエーテル30部からなる混合物を2時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌した。その後さらに120℃で1時間攪拌し反応液Bを得た。
【0126】
上記各塗布液の調製に用いた各添加剤の詳細は、以下の通りである。
【0127】
イルガキュア184:重合開始剤
BYK−307:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン
アエロジルR972V:酸化珪素粒子
DPHA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物
PET−30:ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物
EB−3700:アクリル系多官能オリゴマー
PETA−K:アクリル系多官能モノマー
A−BPE−4:アクリル系多官能モノマー
〔試料2の作製〕
上記試料1の作製において、塗布液3を用いた第3ハードコート層を塗設する代わりに、下記方法に従って金属酸化物層Mを設けた以外同様にして、図3のb)に記載の構成からなる試料2を得た。
【0128】
(金属酸化物層の形成)
図2に記載のロール電極型放電処理装置を用いて、プラズマ放電処理を実施し、上記樹脂基材上の形成した第1ハードコート層、第2ハードコート層上に、膜厚が150nmでSiOのみで構成される金属酸化物層Mを形成した。
【0129】
放電処理装置は、ロール電極に対向して棒状電極を複数個フィルムの搬送方向に対し平行に設置し、各電極部に原料(下記放電ガス、反応ガス1、2)及び電力を投入出来る構造を有する。
【0130】
ここで各電極を被覆する誘電体は、対向する電極共に、セラミック溶射加工のものに片肉で1mm被覆した。被覆後の電極間隙は、1mmに設定した。また誘電体を被覆した金属母材は、冷却水による冷却機能を有するステンレス製ジャケット仕様であり、放電中は冷却水による電極温度コントロールを行いながら実施した。ここで使用する電源は、応用電機製高周波電源(80kHz)、パール工業製高周波電源(13.56MHz)を使用した。その他処理条件は以下の通りである。
【0131】
〈金属酸化物層の形成条件〉
放電ガス:Nガス
反応ガス1:酸素ガスを全ガスに対し5%
反応ガス2:テトラエトキシシラン(TEOS)を全ガスに対し0.1%
低周波側電源電力:80kHz、10W/cm
高周波側電源電力:13.56MHz、10W/cm
〔試料3の作製〕
上記試料1の作製において、第1ハードコート層〜第3ハードコート層の形成に用いた塗布液1〜3を、同時重層塗布可能なスライドホッパー方式の塗布装置を用いて基材上に3層同時重層塗布し、下記の乾燥条件、硬化条件に変更した以外は同様にして、試料3を作製した。
【0132】
乾燥条件:80℃で、150秒乾燥処理を行った
硬化条件:紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cmで、照射量を100mJ/cmとした。
【0133】
〔試料4の作製〕
上記試料1の作製において、表層の表層構成物7の形状を、6角形形状から、平行四辺形型形状に変更した以外は同様にして、試料4の作製を作製した。
【0134】
〔試料5の作製〕
上記試料2の作製において、表層の表層構成物7の形状を、6角形形状から、平行四辺形型形状に変更した以外は同様にして、試料5の作製を作製した。
【0135】
〔試料6の作製〕
上記試料1の作製において、第1ハードコート層〜第3ハードコート層のハードコート層ユニットを、第2ハードコート層(酸化珪素粒子の添加量:5.5部)単層に変更し、乾燥膜厚を1.4μmとした以外は同様にして、試料6を作製した。
【0136】
〔試料7の作製〕
上記試料2の作製において、第1ハードコート層〜第3ハードコート層のハードコート層ユニットを、第2ハードコート層(酸化珪素粒子の添加量:5.5部)単層に変更し、乾燥膜厚を1.4μmとした以外は同様にして、試料7を作製した。
【0137】
〔試料8の作製〕
上記試料6の作製において、第2ハードコート層単層から無機粒子を除いた以外は同様にして、試料8を作製した。
【0138】
〔試料9の作製〕
上記試料2の作製において、表層の形成を行わなかった以外は同様にして、試料9を作製した。
【0139】
〔試料10の作製〕
上記試料1の作製において、表層の形成を塗布液4のみを用いた単一膜に変更した以外は同様にして、試料10を作製した。
【0140】
〔試料11の作製〕
上記試料2の作製において、表層の形成を塗布液4のみを用いた単一膜に変更した以外は同様にして、試料11を作製した。
【0141】
《射出成形体の作製》
〔レンズ型成型体Lの作製〕
図5に示すように、第1射出成形型10内に、上記作製したハードコート付積層体である試料1〜11をそれぞれ配置した後、第2射出成形型9を重ね合わせ、射出口11よりキャビティ内にポリカーボネート樹脂12を、樹脂温度300℃、金型温度90℃、射出圧力10MPaで射出することにより、図6に示すようなポリカーボネート樹脂表面にハードコート部を備えた凸レンズ様の各レンズ型成型体Lを得た。
【0142】
図6において、図6のa)はレンズ型成型体Lの上面図であり、図6のb)は、切断線A−A′で破断した際のレンズ型成型体Lの断面構造を示してある。
【0143】
〔U字型成型体Uの作製〕
図7に示すように、射出成形型13、14を用い、上記レンズ型成型体Lの作製と同様にして、図8に示すような両端が曲面となった各U字型成型体Uを得た。
【0144】
図8において、図8のa)はU字型成型体Uの上面図であり、図8のb)は、切断線A−A′で破断した際のU字型成型体Uの断面構造を示してある。
【0145】
《各射出成型体の評価》
〔耐擦傷性の評価〕
ラビングテスターを用い、以下の条件でこすりテストを行い、下記の評価基準に従って耐擦傷性を評価した。
【0146】
こすり部材:スチールウール(#0000番)
こすり部材をこすり先端部に巻き、加重5N、移動距離10cm、2秒で往復する速度で、各射出成型体のハードコート付積層体付与面側を20往復させ、その後、試料表面をルーペ及び目視で観察した。
【0147】
◎:ルーペ観察、目視観察共に、全く擦り傷の発生が認められない
○:ルーペ等を用いて観察するとごく小さな傷の発生は認められるが、目視では観察されない
○△:目視観察でも、やや弱い傷の発生が認められる
△:目視観察で、中程度の傷が見える
×:目視観察で、強い傷の発生が多数認められる
〔基材追従性の評価〕
得られた射出成形体の表面ハードコート層の状態をルーペ及び目視で観察し、下記の基準に従って、基材追従性を評価した。
【0148】
◎:型再現が良好で、クラックやしわの発生が全く認められない
○:型再現は良好であるが、極弱いクラックまたはしわの発生が僅かに認められる
△:クラック、しわのいずれか一方の故障発生が認められる
×:クラック、しわの双方の故障発生が認められる
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0149】
【表1】

【0150】
表1に示した結果より明らかな様に、本発明で規定する構成で得られた射出成形用のハードコート積層体試料は、比較試料に対し、耐擦傷性、基材追従性で優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【図2】本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明のハードコート付積層体の構成の一例を示す断面図である。
【図4】本発明に係る表層の不連続で独立した多角形様構造の一例を示す上面図である。
【図5】実施例で作製したレンズ型成型体Lの成型方法を示す模式図である。
【図6】実施例で作製したレンズ型成型体Lの断面図及び上面図である。
【図7】実施例で作製したU字型成型体Uの成型方法を示す模式図である。
【図8】実施例で作製したU字型成型体Uの断面図及び上面図である。
【符号の説明】
【0152】
1 ハードコート付積層体
2 プラスチック基材
3、4、5 ハードコート層
6 表層
7、8 表層構成物
9、14 第2射出成形型
10、13 第1射出成形型
11 射出口
12 ポリカーボネート樹脂
15、30 プラズマ放電処理装置
16 第1電極
17 第2電極
19 処理位置
21、41 第1電源
22、42 第2電源
32 放電空間(対向電極間)
40 電界印加手段
50 ガス供給手段
52 給気口
53 排気口
F 基材
G ガス
G° プラズマ状態のガス
HU ハードコート層ユニット
L レンズ型成型体
M 金属酸化物層
U U字型成型体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材の片面または両面に、無機粒子濃度の異なる2層以上のハードコート層から構成されるハードコート層ユニットを有し、該ハードコート層ユニット上に、該プラスチック基材の面方向に対して水平方向に、組成の異なる2種以上の表層構成物から構成される表層を有することを特徴とするハードコート付積層体。
【請求項2】
前記組成の異なる2種以上の表層構成物の一つは、不連続で独立した多角形様構造群であることを特徴とする請求項1に記載のハードコート付積層体。
【請求項3】
前記組成の異なる2種以上の表層構成物は、インクジェット記録方式を用いて前記ハードコート層ユニット上に吐出して形成されることを特徴とする請求項2に記載のハードコート付積層体。
【請求項4】
前記ハードコート層ユニットと、前記表層との間に、大気圧プラズマCVD法により形成された金属酸化物層を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のハードコート付積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−137400(P2010−137400A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314320(P2008−314320)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】