説明

ハードコート剤組成物、成形品、およびレンズ

【課題】耐擦傷性、密着性(特に、チオウレタン系、チオエポキシ系樹脂への密着性)および耐衝撃性に優れた組成物を提供する。
【解決手段】
少なくとも下記の成分(A)〜(D)を含有し、成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部中、成分(A)が4〜60重量部、成分(B)が36〜92重量部、成分(C)が4〜60重量部、成分(D)が、成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部に対して0.01〜10重量部であることを特徴とするハードコート剤組成物。
成分(A):1分子中に6個以上の水酸基を有するデンドリマー化合物
成分(B):一般式(1)で表されるシラン化合物あるいはそれが部分的に縮合した化合物、または、それらの混合物
成分(C):金属酸化物微粒子
成分(D):金属キレート化合物
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンドリマー化合物、シラン化合物および/またはそれが部分的に縮合した化合物、金属酸化物微粒子、金属キレート化合物を少なくとも含有し、実用レベルの密着性を維持しつつ、耐擦傷性が高く、耐衝撃性に優れたハードコート剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用レンズとして、樹脂製レンズは軽量性、耐衝撃性、着色性などの理由から、ガラスレンズに代わり急速に普及している。従来これらの目的にはジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)(以下D.A.C.と略す)をラジカル重合したものや、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メタクリレート(PMMA)などが用いられてきた。しかしながら、これらのレンズ樹脂はn=1.49〜1.58程度の屈折率であるためガラスレンズと同等の光学特性を得るためには、レンズの中心厚、コバ厚、および曲率を大きくする必要があり全体的に肉厚となるため、より屈折率の高い樹脂が求められてきた。
【0003】
かかる課題の対策として、特許文献1にはチオール化合物とイソシアネート化合物を熱重合し、チオウレタン結合を形成して得られる樹脂が記載されており、n=1.60〜1.67程度の屈折率が得られている。
【0004】
また、特許文献2に記載されているチオエポキシ化合物の開環熱重合によりエピチオスルフィド結合を形成して得られる樹脂では、n=1.70以上の屈折率が得られている。
【0005】
一方、樹脂製レンズは軽量性、耐衝撃性、着色性などの利点に対し、表面の硬度、耐擦傷性がガラスレンズに比べ大きく劣るため、その対策として表面に擦傷が付くことを防止する、いわゆるハードコート処理が必要不可欠のものとなっている。
【0006】
このハードコート処理には熱硬化型のシリコーン系ハードコート剤が主として用いられている。その硬化被膜は耐擦傷性を有する反面、柔軟性に乏しいため耐衝撃性が不足する傾向にある。
【0007】
この耐衝撃性の不足を補うため、耐衝撃性を有する樹脂層をレンズ表面にさらにもう一層コートすることが行われている。(特許文献3)
【0008】
このように、樹脂製レンズ表面に耐擦傷性、および耐衝撃性ともに優れたコート処理を施すには、従来の技術では、耐擦傷性および耐衝撃性を付与するための別々の層を二層形成させる必要がある。したがって、塗布の回数が2回となり、作業効率の点から製造上コストがかさむという問題があった。
【0009】
一回の塗布のみで耐擦傷性、耐衝撃性を付与する方法として特許文献4や特許文献5などが存在するが、液の調製が複雑であり、保存安定性に乏しいなど、実用性の点で問題を有していた。
【0010】
【特許文献1】特開平9−110956号公報
【特許文献2】特開2002−194083号公報
【特許文献3】特開平05−214136号公報
【特許文献4】特開2005−139236号公報
【特許文献5】特開2007−119635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、一回の塗布のみで実用レベルの密着性を維持しつつ、高い耐擦傷性、および優れた耐衝撃性をともに付与するハードコート剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、これらの問題を解決するために、鋭意検討を行ったところ、デンドリマー化合物、シラン化合物および/またはそれが部分的に縮合した化合物、金属酸化物微粒子、金属キレート化合物を少なくとも含有し、特定の組成比で配合されたハードコート剤組成物が実用レベルの密着性を維持しつつ、耐擦傷性が高く、耐衝撃性に優れることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、
[1]少なくとも下記の成分(A)〜(D)を含有し、成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部中、成分(A)が4〜60重量部、成分(B)が36〜92重量部、成分(C)が4〜60重量部、成分(D)が成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部に対して0.01〜10重量部であることを特徴とするハードコート剤組成物。
成分(A):1分子中に6個以上の水酸基を有するデンドリマー化合物
成分(B):一般式(1)で表されるシラン化合物あるいはそれが部分的に縮合した化合物、または、それらの混合物
【0014】
【化1】

【0015】
(上記式中、Rはカチオン重合性基を有する有機基であり、R、Rは、それぞれ独立に水素またはアルキル基であり、nは1〜3の整数を表す。)
成分(C):金属酸化物微粒子
成分(D):金属キレート化合物
【0016】
[2]成分(A)がポリエステルポリオールデンドリマー化合物であることを特徴とする[1]記載のハードコート剤組成物。
【0017】
[3]成分(A)が、一般式(2)または(3)で表されるポリエステルポリオールデンドリマー化合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載のハードコート剤組成物。
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、X〜Xはジメチロールプロピオン酸残基又は水素原子を示し、n、nは1〜10の整数を示す。)
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、X〜Xはジメチロールプロピオン酸残基又は水素原子を示し、nは0または1の整数、n、nは1〜10の整数を示す。)
【0022】
[4]成分(E)として一般式(4)で表されるジメチルシロキサン骨格を有する化合物をさらに含有し、且つ成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部に対して、成分(E)の含有量が10.0重量部以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のハードコート剤組成物。
【0023】
【化4】

【0024】
(上記式中、nは1〜10,000の整数である。)
【0025】
[5]前記ジメチルシロキサン骨格を有する化合物が一般式(5)で示すポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする[4]に記載のハードコート剤組成物。
【0026】
【化5】

【0027】
(上記式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基、Rは水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、カチオン重合性基又はエチレン性不飽和基を表し、n、nは1〜5の整数、n10は1〜30の整数、n11は1〜70の整数、n10/n11は1以下である。)
【0028】
[6][1]〜[5]のいずれかに記載のハードコート剤組成物を基材の表面に塗布し、次いで前記ハードコート剤組成物を硬化させてなる硬化膜を有する成形品。
【0029】
[7]基材がチオウレタン系樹脂またはチオエポキシ系樹脂から選ばれる少なくとも1つからなるものである[6]に記載の成形品。
【0030】
[8][1]〜[5]のいずれかに記載のハードコート剤組成物を基材の表面に塗布し、次いで前記ハードコート剤組成物を硬化させてなる硬化塗膜を有するレンズ。
【0031】
[9]前記硬化塗膜の上に設けられた反射防止膜をさらに有することを特徴とする[8]に記載のレンズ。
【発明の効果】
【0032】
本発明のハードコート剤組成物は、実用レベルの密着性を維持しつつ、耐擦傷性、耐衝撃性いずれにおいても優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0034】
少なくとも下記の成分(A)〜(D)を含有し、成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部中、成分(A)が4〜60重量部、成分(B)が36〜92重量部、成分(C)が4〜60重量部、成分(D)が、成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部に対して0.01〜10重量部であることを特徴とするハードコート剤組成物。
成分(A):1分子中に6個以上の水酸基を有するデンドリマー化合物
成分(B):一般式(1)で表されるシラン化合物あるいはそれが部分的に縮合した化合物、または、それらの混合物
【0035】
【化6】

【0036】
(上記式中、Rはカチオン重合性基を有する有機基であり、R、Rは、それぞれ独立に水素またはアルキル基であり、nは1〜3の整数を表す。)
成分(C):金属酸化物微粒子
成分(D):金属キレート化合物
【0037】
本発明の成分(A)とは、1分子中に6個以上の水酸基を有するデンドリマー化合物である。
【0038】
本発明における成分(A)としては、好ましくは1分子中に6個以上の水酸基を有するポリエステルポリオールデンドリマー化合物であり、特に、一般式(2)または(3)で表されるポリエステルポリオールデンドリマー化合物を好適に用いることができる。
【0039】
【化7】

【0040】
(式中、X〜Xはジメチロールプロピオン酸残基又は水素原子を示し、n、nは1〜10の整数を示す)
【0041】
【化8】

【0042】
(式中、X〜Xはジメチロールプロピオン酸残基又は水素原子を示し、nは0または1の整数、n、nは1〜10の整数を示す。)
【0043】
成分(A)の1分子中に6個以上の水酸基を有するポリエステルポリオールデンドリマー化合物とは、エステル結合により高度に枝分かれした分子構造を有し、末端基のほとんどが水酸基であるポリエステルポリオールであれば特に制限されない。一般式(2)または(3)で表されるポリエステルポリオールデンドリマー化合物は、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エトキシ化ペンタエリスリトール等をコアとして2,2−ジメチロールプロピオン酸(Bis−MPA)との重合により形成される。用いるポリエステルポリオールデンドリマー化合物の分子量は、好ましくは1,000〜10,000g/molである。分子量が1,000g/mol以上であると、耐衝撃性に対する効果がより大きくなる。一方、分子量が10,000g/mol以下であると、好ましい溶解性が得られる。
【0044】
本発明の一般式(2)または(3)で表される化合物としては、具体的には、例えば以下に例示する式(6)から(9)または(10)から(12)で表される構造の化合物が挙げられる。
【0045】
【化9】

【0046】
【化10】

【0047】
成分(A)の1分子中に6個以上の水酸基を有するデンドリマー化合物は、市販のものが使用でき、例えば、BOLTORN H20、BOLTORN H30、BOLTORN H40、BOLTORN H2003、BOLTORN H2004、BOLTORN P1000(いずれもペルストルプ アー・ペー社製)、ハクブレイン(伯東社製)等があげられる。これらの化合物は1種または2種以上組み合わせて用いられる。
【0048】
ポリエステルポリオールデンドリマー化合物100重量部に対して100重量部以下の範囲で、直鎖状のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールを添加してもよい。また、末端の水酸基はエポキシ化されていても構わない。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどがあげられる。
【0049】
本発明における成分(B)の一般式(1)で表されるシラン化合物またはそれが部分的に縮合した化合物について説明する。本発明で用いるシラン化合物は一般式(1)で表されるシラン化合物またはそれが部分的に縮合した化合物である。
【0050】
【化11】

【0051】
(上記式中、Rはカチオン重合性基を有する有機基であり、R、Rは、それぞれ独立に水素またはアルキル基であり、nは1〜3の整数を表す。)
【0052】
上記のR、Rにおいて、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n−およびi−プロピル基、n−、i−およびt−ブチル基などが挙げられる。
【0053】
上記のカチオン重合性基Rとしては、特に制限されるものではないが、好ましくは(メチル)グリシジルエーテル基、オキセタニル基、エポキシシクロヘキシル基を有する基等が挙げられる。硬化性、ハードコート性、密着性、化合物の入手のし易さなどから、一般式(13)、(14)で表されるカチオン重合性基を有するシラン化合物が好ましい。
【0054】
【化12】

【0055】
(上記式中、Rは水素またはメチル基、Rはメチル基またはエチル基を表す。n12、n13はそれぞれ独立に1〜10の整数を表す。)
これらの化合物は1種または2種以上組み合わせて用いられる。
【0056】
これらのシラン化合物として具体的には、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジエチルエトキシシラン、3−エチル−3−{[3−(トリメトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタンなどが挙げられる。
【0057】
これらの化合物は、3次元的な網目構造を形成することが可能であり、ハードコート性を上げることができる。さらにこれらの化合物はシランカップリング剤とも呼ばれており、チオウレタン系樹脂またはチオエポキシ系樹脂との密着性を促進する働きがある。また、これらのシラン化合物はそのままの状態で用いても構わないが、反応性をより高めるために、予め、一般式(1)のアルコキシシリル基(Si−O−R)を塩酸水などの酸性触媒、またはアンモニア水などの塩基性触媒を用いて加水分解し、シラノール(Si−OH)の状態にして、または部分的に縮合し、シロキサン結合(Si−O−Si)が形成された状態にして用いるのがより好ましい。
【0058】
成分(C)の金属酸化物微粒子について説明する。プラスチックレンズ基材の高屈折率化により、屈折率が1.6以上のプラスチックレンズ基材に少なくとも成分(A)、(B)、(D)の成分を含有するハードコート剤組成物を塗布すると、ハードコート層により干渉縞が生じる。そのため、金属酸化物微粒子をハードコート層に配合して屈折率調整をする。
【0059】
このような金属酸化物微粒子としては、Si,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる金属の1種又は2種以上の酸化物微粒子又は複合微粒子を例示することができる。具体的には、SiO,SnO,Sb,CeO,ZrO,TiO等の無機酸化物微粒子を、分散媒たとえば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたもの、または、Si,A1,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiの無機酸化物の2種以上によって構成される複合微粒子を水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散したものを例示することができる。いずれも粒子径は約1〜300nmが好適である。
【0060】
さらにコーティング液中での分散安定性を高めるためにこれらの微粒子表面を有機ケイ素化合物で処理したものを使用することも可能である。
【0061】
この際用いられる有機ケイ素化合物としては、単官能性シラン、あるいは二官能性シラン、三官能性シラン、四官能性シラン等がある。処理に際しては加水分解性基を未処理で行ってもあるいは加水分解して行ってもよい。また処理後は、加水分解性基が微粒子の−OH基と反応した状態が好ましいが、一部残存した状態でも安定性には何ら問題がない。
【0062】
成分(D)の金属キレート化合物について説明する。本発明で用いる金属キレート化合物はハードコート剤組成物の硬化触媒として作用する。好ましい金属キレート化合物は、Cu(II),Zn(II),Co(II),Ni(II),Be(II),Ce(III),Ta(III),Ti(III),Mn(III),La(III),Cr(III),V(III),Co(III),Fe(III),Al(III),Ce(IV),Zr(IV),V(IV)等を中心金属原子とするアセチルアセトネート、アミン、グリシン等のアミノ酸、ルイス酸、有機酸金属塩等が挙げられる。この中でも、硬化条件、塗液のポットライフなどにおいて、Al(III),Fe(III)のアセチルアセトネートがより好ましい。添加量は、成分(A)〜(C)の合計100重量部に対して0.01〜10.0重量部の範囲内が望ましい。さらに過塩素酸類を併用して使用することも可能である。好ましい過塩素酸類としては、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム等が挙げられる。
【0063】
本発明において成分(A)〜(C)の合計100重量部中、成分(A)が4〜60重量部、成分(B)が36〜92重量部、成分(C)が4〜60重量部、成分(D)が、成分(A)〜(C)の合計100重量部に対して0.01〜10重量部である。成分(A)が60重量部以下であると、十分な耐擦傷性が得られる。成分(A)が4重量部以上であると、膜が脆くなり充分な耐衝撃性が得られない可能性を低減できる。成分(B)が36重量部以上であると、充分な耐擦傷性、密着性が得られる。少なすぎる場合、充分な耐擦傷性、密着性が得られない可能性がある。成分(B)が92重量部以下であると、膜が脆くなり充分な耐衝撃性が得られない可能性を低減できる。成分(C)が4重量部以上であると、干渉縞が強くなり、また充分な耐擦傷性が得られない可能性を低減できる。成分(C)が60重量部以下であると、ハードコート層が白濁し外観が劣化するのを抑制できる。成分(D)が成分(A)〜(C)の合計100重量部に対して0.01重量部以上であると、充分な硬化速度や耐擦傷性が得られる。
【0064】
成分(A)から(D)の特に好ましい組合せとして具体的には、成分(A)としては一般式(6)から(12)で表される構造のポリエステルポリオールデンドリマー化合物、成分(B)としては3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、成分(C)としてはTiO,ZrO等の無機酸化物微粒子を分散媒たとえば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたもの、または、Si,Sn,Zr,Tiの無機酸化物の2種以上によって構成される複合微粒子を水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散したもの、さらに成分(D)としてはAl(III)アセチルアセトネートである。
【0065】
シリケート化合物を添加して、ハードコート層の耐擦傷性を向上させることもできる。本発明で用いるシリケート化合物は、4官能性アルコキシシランまたは4官能性アルコキシシランを部分的に加水分解することで得られる化合物のことである。シリケート化合物としては市販の物も使用することが出来、例えば、(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ基を含有するシリケートとしては、オキセタニルシリケート(OX−SC)(東亞合成社製 商品名)、などがあり、メトキシ基またはエトキシ基を有するシリケートとしてはエチルシリケート28、エチルシリケート28P(いずれもコルコート社製 商品名)、Mシリケート51、Mシリケート60、シリケート40(いずれも多摩化学社製 商品名)などがあり好適に使用することができる。
【0066】
本発明における成分(E)として一般式(4)で表されるジメチルシロキサン骨格を有する化合物について説明する。一般的には一般式(5)で表されるジメチルシロキサンの側鎖の一部をエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのポリエーテルに変性したものや、シルセスキオキサンをジメチルシロキサン主鎖または側鎖に結合させたものなどが好適に用いられる。
【0067】
【化13】

【0068】
(上記式中、nは1〜10,000の整数である。)
【0069】
【化14】

【0070】
(上記式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基、Rは水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、カチオン重合性基又はエチレン性不飽和基を表し、n、nは1〜5の整数、n10は1〜30の整数、n11は1〜70の整数、n10/n11は1以下である。)
【0071】
成分(E)を添加することにより、表面張力を調製することができるため、樹脂表面にコートするときのハジキを防止したり、塗膜の平滑性を向上させたりする効果がある。また、ジメチルシロキサン部分が塗膜の表面にブリードする性質があるためすべり性が向上しより良好な耐擦傷性が期待できる。また、ポリエーテル変性されたものや、シルセスキオキサンが結合したものは溶解性に優れている。
【0072】
成分(E)の含有量は、成分(A)〜(C)の合計100重量部に対し、0.01重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上である。これにより、これにより、ハジキを防止したり、塗膜の平滑性を向上させたりすることができる。また、成分(E)の含有量は、成分(A)〜(C)の合計100重量部に対し、10重量部以下、より好ましくは5重量部以下である。これにより、硬化性の低下を抑制し、表面状態を良好にすることができる。
【0073】
また、成分(E)の具体例は市販のものが使用でき、側鎖をポリエーテル変性されたジメチルシロキサン誘導体としては、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−375(いずれも、BYK−Chemie(株)製 商品名)があげられる。主鎖または側鎖にシルセスキオキサンを結合させたものとしてはオキセタニルシルセスキオキサン(OX−SQSI20)(東亞合成社製 商品名)が挙げられる。
【0074】
なお、本発明のハードコート剤組成物は溶剤を加えることにより、粘度が調整される。好ましい溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ポリエチレングリコールメチルエーテル、ポリエチレングリコールメチルエーテルアセテート、ジメチルホルムアミド、N,N′−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエンなどが挙げられる。
【0075】
また、本発明のハードコート剤組成物100重量部に対して5重量部以下の範囲で、成分(C)以外のシランカップリング剤を添加してもよく、具体的には3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−モルホリノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等の三官能シラン、さらに、二官能シラン、すなわち、前記三官能シランの一部がアルキル基、フェニル基、ビニル基等で置換された二官能シラン、例えばジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0076】
本発明のハードコート剤組成物100重量部に対して5重量部以下の範囲で、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料・油溶染料・蛍光染料・顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン・ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加しハードコート液の塗布性および硬化後の被膜性能を改良することもできる。特に紫外線吸収剤、酸化防止剤やヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤から選ばれる1種、もしくは2種以上を添加することによりハードコート被膜に耐候性を付与することが可能である
【0077】
性能が損なわれない範囲、具体的には本発明の組成物100重量部に対して5重量部以下の範囲で、他の樹脂成分、具体的にはポリウレタン、ポリスチレン、アクリル樹脂、などを添加してもよい。
【0078】
[ハードコート剤組成物の調製方法]
調製方法は、公知の方法で行えばよく、特に限定されるものではないが、例えば以下の通りである。まず所望量の成分(A)〜(C)を遮光性の褐色ガラス容器あるいはポリ容器中で混合、必要に応じて組成物を温め(概ね50℃以下)、完全に混合させる。混合物が室温(23℃)の状態で成分(D),(E)、さらに必要に応じその他成分を添加し充分に混合する。さらに充分静置脱気して組成物とした。混合はマグネチックスターラーや攪拌器を用いたが、量や粘度に応じて、ミキサー、シェーカーなどを選択すればよい。
【0079】
[塗布方法、硬化方法]
上記のようにして調製したハードコート組成物の塗布(コート)方法、硬化方法としては、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法あるいはフロー法によりプラスチックレンズ基材にハードコート組成物を塗布した後、100〜200℃の温度で数時間加熱焼成することにより硬化させ、ハードコート剤組成物が硬化した被膜(ハードコート層)を形成することができる。
【0080】
[反射防止膜の形成]
前記方法にてプラスチックレンズ基材上に形成されたハードコート層の表面に、反射防止膜を形成することができる。反射防止膜は、ハードコート層上に無機被膜、有機被膜の単層または多層で構成される。無機被膜の材質としては、SiO,SiO,ZrO,TiO,TiO,Ti,Ti,Al,Ta,CeO,MgO,Y,SnO,MgF,WO等の無機物が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。プラスチックレンズの場合は、低温で真空蒸着が可能なSiO,ZrO,TiO,Taが好ましい。
【0081】
無機被膜の成膜方法は、例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、飽和溶液中での化学反応により析出させる方法等を採用することができる。真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
【0082】
有機被膜の材質は、プラスチックレンズやハードコート層の屈折率を考慮して選定され、真空蒸着法の他、スピンコート法、ディップコート法などの量産性に優れた塗装方法で成膜することができる。
【0083】
また、反射防止膜を形成する際には、ハードコート−反射防止膜界面の密着性を向上させるため、予めハードコート層の表面処理を行うこともできる。この表面処理の具体的例としては、酸処理、アルカリ処理、紫外線照射処理、アルゴンもしくは酸素雰囲気中での高周波放電によるプラズマ処理、アルゴンや酸素もしくは窒素などのイオンビーム照射処理などが挙げられる。
【0084】
更に、反射防止膜の表面を汚れ難く、あるいは汚れを拭き取りやすくするために、パーフルオロアルキル基等を含む含フッ素シラン化合物などを用いて反射防止膜の表面に撥水膜を形成することができ、また、防曇性を付与するためにスルフォン酸Na、スルフォン酸Kなどの親水性基を有する界面活性剤などを用いて反射防止膜の表面に親水膜を形成することもできる。
【0085】
[組成物および硬化膜の評価方法]
・硬化膜(ハードコート剤組成物が硬化した被膜)の密着性評価方法:
JIS−K5600−5−6:1999年付着性試験(クロスカット法)が挙げられる。
好ましい状態は、膜を硬化させた状態で分類0(カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない)または分類1(カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない)である。また、後述の耐候性試験後の状態で分類0〜分類2(塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を超えるが15%を上回ることはない)である。
・硬化膜の耐擦傷性の評価方法:
スチールウール(♯0000)による擦り試験が挙げられ、好ましくは500g荷重・10往復でキズなしである。
・硬化膜の耐衝撃性の評価方法:
重量が16g(16g:FDA(米国食品医薬品局)基準値、眼鏡レンズでの実用上の指標となっている。)、33g、45g、68g、114g、229g、540gの鋼球を、1270mmの高さより順に落下させ、試料の破壊を確認した。破壊が起きた一つ前の剛球の重量を耐衝撃の値とした。好ましい状態は、229gの剛球を落下させた場合でも変化なし、またはクラックが発生しても破片の飛散りが無い状態である。より好ましい状態は、540gの剛球を落下させた場合でも変化なし、またはクラックが発生しても破片の飛散りが無い状態である。
・ハードコート剤組成物の粘度の測定:
25℃においてE型粘度により測定した。好ましくは0.1〜500mPa・s、より好ましくは0.5〜100mPa・s、さらに好ましくは1〜50mPa・sである。
・ハードコート剤組成物の保存安定性:
一ヶ月間、室温で保存してゲル化の有無を調べた。
・硬化膜の屈折率の測定:
アタゴ社製アッベ屈折計により測定した。
・硬化膜の外観の評価:
目視により行い、コート・硬化後の膜にハジキ、途切れ、平滑でない、ゆず肌の発生などの欠陥がないことを確認した。
【0086】
[本発明のハードコート剤組成物の用途]
本発明のハードコート剤組成物は樹脂などの基材に塗布・硬化すると耐擦傷性、耐衝撃性、密着性に優れ、透明性が非常に高いため、広い範囲で使用できる。特に、一層の塗布のみで済むため、作業効率が改善される利点がある。
【0087】
以下、作製例、解析例、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は作製例、解析例、実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0088】
《本発明のハードコート剤組成物を含有するハードコート剤の調製と評価》
[作製例1]
<チオウレタン系樹脂の作製(1)>
式(15)で表されるノルボルネンジイソシアナート 50.6g、式(16)で表される1,2−ビス(2−メルカプトエチル)チオ−3−メルカプトプロパン 25.5g、式(17)で表される、ペンタエリスリトールテトラ(3−メルカプトプロピオネート)23.9gとジブチル錫ジクロライド 0.02g、内部離型剤としてZelecUN(STEPAN社)0.125gを加えて攪拌し、減圧下で1時間脱泡した。1μmテフロン(登録商標)フィルターにて濾過後、ガラスモールドとガスケットよりなる成型モールドに注入した。この成型モールドを20℃から130℃まで徐々に昇温させながら、30時間で重合を行い、樹脂を合成した。重合終了後、徐々に冷却し合成された樹脂を成型モールドから取り出した。得られた樹脂を130℃にて2時間アニール処理し、中心厚1.15mmのレンズを得た。
【0089】
【化15】

【0090】
【化16】

【0091】
【化17】

【0092】
[作製例2]
<チオウレタン系樹脂の作製(2)>
式(18)で表されるm−キシリレンジイソシアナート 36.4g、式(16)で表される1,2−ビス(2−メルカプトエチル)チオ−3−メルカプトプロパン 33.6gとジブチル錫ジクロライド 0.01g、内部離型剤としてZelecUN(STEPAN社)0.07gを加えて攪拌し、減圧下で1時間脱泡した。1μmテフロン(登録商標)フィルターにて濾過後、ガラスモールドとガスケットよりなる成型モールドに注入した。この成型モールドを20℃から120℃まで徐々に昇温させながら、30時間で重合を行い、樹脂を合成した。重合終了後、徐々に冷却し合成された樹脂を成型モールドから取り出した。得られた樹脂を120℃にて3時間アニール処理し、中心厚1.15mmのレンズを得た。
【0093】
【化18】

【0094】
[作製例3]
<チオエポキシ系樹脂の作製(1)>
式(19)で表される、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド70.0g、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン0.014gとN,N−ジシクロヘキシルメチルアミン0.07gを加えて攪拌し、減圧下で1時間脱泡した。3μmテフロン(登録商標)フィルターにて濾過後、ガラスモールドとガスケットよりなる成型モールドに4時間かけ注入した。このモールドを30℃で10時間保温した後、20℃から80℃まで徐々に昇温して、20時間で重合を行い、樹脂を合成した。重合終了後、徐々に冷却し合成された樹脂を成型モールドから取り出した。得られた樹脂120℃にて3時間アニール処理し、中心厚1.15mmのレンズを得た。
【0095】
【化19】

【0096】
(実施例1)
シラン化合物および/またはそれが部分的に縮合した化合物として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン36.0gに0.1N塩酸水13.2gを攪拌しながら添加し、さらに2時間攪拌した。エチルセロソルブ70gを加え、次にデンドリマー化合物としてBOLTORN H40(ペルストルプ アー・ペー社製 製品名)を6.0g、金属酸化物微粒子としてメタノール分散酸化スズ−二酸化チタン−酸化ジルコニウム−五酸化アンチモン複合酸化物微粒子ゾルHIT30M1(日産化学(株)製、固形分濃度30重量% 製品名)76.0g(固形分重量:22.8g)を加え充分攪拌した後、金属キレート化合物として、Al(III)アセチルアセトネート2.0g、ジメチルシロキサン骨格を有する化合物として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンBYK333(BYKケミー製、製品名)0.1gを添加し4時間攪拌後、一昼夜熟成させてコーティング用ハードコート剤組成物とし、後述の方法で評価を行った。
【0097】
(実施例2)
シラン化合物および/またはそれが部分的に縮合した化合物として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン33.0gとMシリケート51(多摩化学(株)製 製品名)3.0gを混合後、0.1N塩酸水13.2gを攪拌しながら添加し、さらに2時間攪拌した。エチルセロソルブ70gを加え、次にデンドリマー化合物としてBOLTORN H20(ペルストルプ アー・ペー社製 製品名)を6.0g、金属酸化物微粒子としてメタノール分散酸化ジルコニウム−酸化スズ−五酸化アンチモン−二酸化ケイ素複合酸化物微粒子ゾルHZ−307M6(日産化学(株)製、固形分濃度30重量% 製品名)80.0g(固形分重量:24.0g)を加え充分攪拌した後、金属キレート化合物として、Al(III)アセチルアセトネート2.0g、ジメチルシロキサン骨格を有する化合物として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンBYK333(BYKケミー製、製品名)0.1gを添加し4時間攪拌後、一昼夜熟成させてコーティング用ハードコート剤組成物とし、後述の方法で評価を行った。
【0098】
(実施例3〜10)
表1に示す組成により、実施例1、2同様にコーティング用ハードコート剤組成物を調製し、後述の方法で評価を行った。
【0099】
(比較例1)
シラン化合物および/またはそれが部分的に縮合した化合物として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを42.0gに0.1N塩酸水13.2gを攪拌しながら添加し、さらに2時間攪拌した。エチルセロソルブ70gを加え、金属酸化物微粒子としてメタノール分散酸化スズ−二酸化チタン−酸化ジルコニウム−五酸化アンチモン複合酸化物微粒子ゾルHIT30M1(日産化学(株)製、固形分濃度30重量%)76.0g(固形分重量:22.8g)を加え充分攪拌した後、金属キレート化合物として、Al(III)アセチルアセトネート2.0g、ジメチルシロキサン骨格を有する化合物として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンBYK333(BYKケミー製、製品名)0.1gを添加し4時間攪拌後、一昼夜熟成させてコーティング用組成物とし、後述の方法で評価を行った
【0100】
(比較例2)
シラン化合物および/またはそれが部分的に縮合した化合物として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを42.0gに0.1N塩酸水13.2gを攪拌しながら添加し、さらに2時間攪拌した。エチルセロソルブ70gを加え、金属酸化物微粒子としてメタノール分散シリカゾル SNOWTEX(日産化学(株)製、固形分濃度30重量%)76.0g(固形分重量:22.8g)を加え充分攪拌した後、金属キレート化合物として、Al(III)アセチルアセトネート2.0g、ジメチルシロキサン骨格を有する化合物として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンBYK333(BYKケミー製、製品名)0.1gを添加し4時間攪拌後、一昼夜熟成させてコーティング用ハードコート剤組成物とし、後述の方法で評価を行った
【0101】
(比較例3〜7)
表1に示す組成により、比較例1、2同様にコーティング用ハードコート剤組成物を調製し、後述の方法で評価を行った。
【0102】
ハードコート剤組成物およびその硬化膜の評価は以下の通りに行った。評価結果を表1、2に示す。
【0103】
[ハードコート層の形成]
実施例1〜10、比較例1〜7のそれぞれを作製例1〜3で得られた樹脂板にディップコートにて塗布し、80℃で30分間風乾した後、120℃で120分間焼成を行った。このようにして得られた硬化膜(ハードコート層)の膜厚は1.9〜2.5μmであった。このサンプルは温度23℃、相対湿度40〜50%の場所に保管し養生した。その後、ハードコート層の膜厚の確認を触針式表面形状測定器(DekTakIII アルバック社製)にて行った。
【0104】
〔1〕ハードコート剤組成物の粘度
実施例1〜10、比較例1〜7のハードコート剤組成物の粘度(25℃)をE型粘度計(東京計器社製)により測定した。評価結果を表1に示す。
【0105】
〔2〕ハードコート剤組成物の保存安定性
実施例1〜10、比較例1〜7の組成物について一週間室温に保存し、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
A:ゲル化していない。
B:ゲル化した。
【0106】
〔3〕製膜性(平滑性)
実施例1〜10、比較例1〜7の組成物について作製例1で成型した樹脂板上にディップコートにより製膜して硬化させ、以下の評価を行った。
A:コート・硬化後の膜が平滑であり、ハジキ、途切れ、ゆず肌の発生などの欠陥がない。
B:コート・硬化後の膜にハジキ、途切れ、ゆず肌の発生などの欠陥がないが、若干平滑性が劣る。
C:硬化後の膜が平滑でない、ハジキ、途切れ、ゆず肌の発生など外観上欠陥が認められる。
評価結果を表1に示す。
【0107】
〔4〕硬化膜の屈折率
実施例1〜10、比較例1〜7のそれぞれを作製例1の樹脂板上に硬化膜(ハードコート層)を形成したサンプルについて、アタゴ社製アッベ屈折計により測定した。
屈折率の測定値を表1に示す。
【0108】
〔5〕透明性
実施例1〜10、比較例1〜7のそれぞれを作製例1の樹脂板上にハードコート膜を形成したサンプルについて外観を目視により、透過率を膜透過率計(島津UV2200)により400nm〜600nm間の透過率を測定した。
A:400nm〜600nm間で透過率が90%以上
B:400nm〜600nm間での透過率80%以上90%未満
C:400nm〜600nm間での透過率80%未満
評価結果を表1に示す。
【0109】
〔6〕硬化性
硬化の確認は、膜表面にタックがなく、つめで引っ掻いても膜剥がれがないものを完全硬化とした。
A:120℃・2hrの焼成で完全硬化した。
B:120℃・2hrの焼成では完全硬化しない。
(130℃・2hrの後焼成で完全硬化する)
C:完全硬化しない
評価結果を表1に示す。
【0110】
〔7〕密着性試験
実施例1〜10、比較例1〜7のそれぞれを作製例1〜4の樹脂板上に硬化膜(ハードコート層)を形成したサンプルについて、JIS−K5600付着性試験(クロスカット法)に沿って実施した。まずサンプルに等間隔スペーサを用いカッターナイフにて1mm間隔で切れ目を入れ、1mmのマス目を25個形成させる。その上へ透明感圧付着テープを貼り付け、60℃の角度で引き剥がし、コート被膜の残っているマス目をカウントした。
【0111】
評価は以下の分類0の場合をAA、分類1〜2の場合をA、分類3の場合をB、分類4〜5の場合をCとした。
分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
分類1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
分類2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
分類3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的または全面的にはがれている、クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%は超えるが35%を上回ることはない。
分類4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的または全面的にはがれている、クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に35%は超えるが65%を上回ることはない。
分類5:はがれの程度が分類4を超える。
評価結果を表2に示す。
【0112】
〔8〕耐擦傷性試験
実施例1〜10、比較例1〜7のそれぞれを作製例1の樹脂板上に硬化膜(ハードコート層)を形成したサンプルについて、♯0000のスチールウール(日本スチールウール(株)製)で1000g及び500gの荷重をかけ、10往復、表面を摩擦し、傷のついた程度を目視で次の段階で判断した。
AA:1000g荷重で摩擦した範囲に全く傷がつかない。
A:500g荷重で摩擦した範囲に全く傷がつかない。
B:500g荷重で摩擦した範囲内に1〜9本の傷がつく。
C:500g荷重で摩擦した範囲内に10〜30本の傷がつく。
D:500g荷重で摩擦した範囲内に無数の(30本を超える)傷がつく。
評価結果を表2に示す。
【0113】
〔9〕耐衝撃性
実施例1〜10、比較例1〜7のそれぞれを作製例1の樹脂板上に硬化膜(ハードコート層)を形成したサンプルについて耐衝撃性を評価した。質量が16g(16g:FDA(米国食品医薬品局)基準値、眼鏡レンズでの実用上の指標となっている。)、33g、45g、68g、114g、229g、540gの鋼球を、1270mmの高さより順に落下させ、試料の破壊を確認する。破壊が起きた一つ前の剛球の重量を耐衝撃の値とした。
評価結果を表2に示す。
【0114】
〔10〕耐温水性
実施例1〜10、比較例1〜7のそれぞれを作製例1の樹脂板上に硬化膜(ハードコート層)を形成したサンプルについて、80℃の温水中に15分浸漬し外観の変化を調べた。
A:外観上の変化が見られない。
B:膜に膨潤などの変化が観察される。
C:膜にクラックが観察される。
評価結果を表2に示す。
【0115】
実施例1〜10において、〔1〕〜〔10〕の評価で良好な結果を得た。成分(A)のポリエステルポリオールデンドリマー化合物を用いることにより、耐衝撃性が向上した。他の評価も良好であった。比較例1〜2においては、成分(A)のポリエステルポリオールデンドリマー化合物が添加されていないため耐衝撃性が不充分であった。比較例3では成分(B)のシラン化合物の量が少ないため、密着性、耐擦傷性、透過率が不足した。比較例4では、成分(D)のAl(III)アセチルアセトネートが加えられていないため、硬化性が不足し、そのため、評価不能であった。比較例5では比較例1〜2と同様に耐衝撃性が不足し、さらに成分(E)のポリエーテル変性ジメチルシロキサンが添加されていないため、耐擦傷性がやや劣った。比較例6では(B)のシラン化合物が添加されていないため、良好なコート膜が形成することが出来ず、評価不能であった。比較例7では成分(C)が添加されていないため、密着性、耐擦傷性ともに不足した。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のハードコート剤組成物は、デンドリマー化合物、シラン化合物および/またはそれが部分的に縮合した化合物、金属酸化物微粒子、金属キレート化合物を必須成分とし、熱硬化することにより、耐擦傷性に優れるコート層を形成することができるため、コーティング剤や光学材料分野、より具体的には眼鏡レンズのハードコート、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、ELディスプレイなどの反射防止用途、高密度記録光媒体の読み取り、光学フィルター等の光学部材、さらにプラスチック材料、金属材料、セラミックス材料およびガラス材料等の意匠性の向上を目的とした表面コーティング剤などの用途に有用である。
また、本発明のハードコート剤組成物は、基材に対して、一回の塗布のみで耐擦傷性、耐衝撃性が得られるため、作業効率が改善される利点がある。
【0117】
特にハードコート剤として、特にチオウレタン系樹脂、チオエポキシ系樹脂表面に対しても、密着性、耐擦傷性、耐衝撃性において優れるため、メガネレンズ、カメラ用のレンズ、光記録・再生用機器のピックアップレンズ等のハードコート剤などに広く応用することができる。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記の成分(A)〜(D)を含有し、成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部中、成分(A)が4〜60重量部、成分(B)が36〜92重量部、成分(C)が4〜60重量部、成分(D)が成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部に対して0.01〜10重量部であることを特徴とするハードコート剤組成物。
成分(A):1分子中に6個以上の水酸基を有するデンドリマー化合物
成分(B):一般式(1)で表されるシラン化合物あるいはそれが部分的に縮合した化合物、または、それらの混合物
【化1】

(上記式中、Rはカチオン重合性基を有する有機基であり、R、Rは、それぞれ独立に水素またはアルキル基であり、nは1〜3の整数を表す。)
成分(C):金属酸化物微粒子
成分(D):金属キレート化合物
【請求項2】
成分(A)がポリエステルポリオールデンドリマー化合物であることを特徴とする請求項1に記載のハードコート剤組成物。
【請求項3】
成分(A)が、一般式(2)または(3)で表されるポリエステルポリオールデンドリマー化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のハードコート剤組成物。
【化2】

(式中、X〜Xはジメチロールプロピオン酸残基又は水素原子を示し、n、nは1〜10の整数を示す。)


【化3】

(式中、X〜Xはジメチロールプロピオン酸残基又は水素原子を示し、nは0または1の整数、n、nは1〜10の整数を示す。)
【請求項4】
成分(E)として、一般式(4)で表されるジメチルシロキサン骨格を有する化合物をさらに含有し、且つ成分(A)、(B)、(C)の合計100重量部に対して、成分(E)の含有量が10.0重量部以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のハードコート剤組成物。
【化4】

(上記式中、nは1〜10,000の整数である。)
【請求項5】
前記ジメチルシロキサン骨格を有する化合物が一般式(5)で示すポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする請求項4に記載のハードコート剤組成物。
【化5】

(上記式中、Rは水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基、Rは水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、カチオン重合性基又はエチレン性不飽和基を表し、n、nは1〜5の整数、n10は1〜30の整数、n11は1〜70の整数、n10/n11は1以下である。)
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のハードコート剤組成物を基材の表面に塗布し、次いで前記ハードコート剤組成物を硬化させてなる硬化膜を有する成形品。
【請求項7】
前記基材がチオウレタン系樹脂またはチオエポキシ系樹脂から選ばれる少なくとも1つからなるものである請求項6に記載の成形品。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載のハードコート剤組成物を基材の表面に塗布し、次いで前記ハードコート剤組成物を硬化させてなる硬化塗膜を有するレンズ。
【請求項9】
前記硬化塗膜の上に設けられた反射防止膜をさらに有することを特徴とする請求項8に記載のレンズ。


【公開番号】特開2009−227801(P2009−227801A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74183(P2008−74183)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】