説明

ハードコート層の形成方法、スプレー塗工用硬化性組成物および成形品

【課題】スプレー塗工によって良好な面観が得られにくい基材(例えば、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート)に対しても良好な面観が得られると共に、優れた指紋視認性および指紋拭き取り性を備えたハードコート層が得られる、ハードコート層の形成方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るハードコート層の形成方法は、基材上に、多官能(メタ)アクリルモノマー(A)、光重合開始剤(B)、脂肪酸エステルからなる非イオン性界面活性剤(C)および有機溶剤(D)を含有する硬化性組成物をスプレー塗工して塗膜を形成する工程と、前記塗膜に放射線を照射してハードコート層を形成する工程と、を含み、前記有機溶剤(D)は、25℃における表面張力が23.5dyne/cm以下且つ標準沸点が80℃以上の有機溶剤(D1)を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層の形成方法、該方法で使用可能なスプレー塗工用硬化性組成物、および該方法により製造された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等の各種基材表面の傷付き防止や汚染防止のための保護コ−ティング材として、優れた塗工性を有し、かつ各種基材の表面に、硬度、耐擦傷性、防汚性、耐摩耗性、表面滑り性、低カール性、密着性、透明性、耐薬品性および塗膜面の外観のいずれにも優れた硬化膜を形成し得る硬化性組成物が要請されている。
【0003】
近年、表面にハードコート処理を施した携帯電話や情報端末等が市販されている。ハードコート処理を行うことで光沢のある表面となり意匠性が高まるが、逆に光沢があることで指紋の付着が目立つようになった。そのため、従来ハードコートに求められてきた耐擦傷性、透明性に加え、防汚性、特に指紋拭き取り性の要求が高まっているが、これらの特性の全てを満たす材料は存在しないのが現状である。一方、これらの塗工に際しては、曲面にも塗布できることからスプレー塗工を行いたいという要求がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、電離放射線硬化型樹脂に、脂肪酸エステルからなるHLB2〜15の非イオン性界面活性剤を添加した硬化性組成物を塗布して形成された、タッチパネルまたはディスプレイ用ハードコートフィルムが開示されている。
【0005】
特許文献2には、所定の構造を有し、全ての末端に重合性不飽和基を有するポリアルキレンオキシド鎖含有ポリマー(具体的には脂肪酸エステル系界面活性剤)、2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物および重合性不飽和基を表面に有する無機微粒子を含み、これらの成分が互いに反応可能であるハードコート層用硬化性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−114355号公報
【特許文献2】特開2008−165040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した特許文献1や特許文献2に開示された硬化性組成物をスプレー塗工することにより形成されたハードコート層では、十分な指紋視認性や指紋拭き取り性が得られないという課題があった。そこで、本願発明者らは、その課題を解決するために特願2010−257341において、水酸基濃度が一定量以下の脂肪酸エステル系界面活性剤を一定量配合した硬化性組成物を使用することで、スプレー塗工により形成されたハードコート層に優れた指紋視認性や指紋拭き取り性を付与できることを見出した。
【0008】
ところが、特願2010−257341に記載の発明では、基材となる材料の種類によっては、基材の上に塗布された組成物のハジキが生じ、良好な表面外観(以下、「面観」ともいう)を有するハードコート層が得られない場合があった。
【0009】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、前記課題を解決することで、スプレー塗工によって良好な面観が得られにくい基材(例えば、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート)に対しても良好な面観が得られると共に、優れた指紋視認性および指紋拭き取り性を備えたハードコート層が得られるハードコート層の形成方法、該方法で使用可能なスプレー塗工用硬化性組成物、ならびに該方法により製造された成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0011】
[適用例1]
本発明に係るハードコート層の形成方法の一態様は、
基材上に、多官能(メタ)アクリルモノマー(A)、光重合開始剤(B)、脂肪酸エステルからなる非イオン性界面活性剤(C)および有機溶剤(D)を含有する硬化性組成物をスプレー塗工して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に放射線を照射してハードコート層を形成する工程と、を含み、
前記有機溶剤(D)は、25℃における表面張力が23.5dyne/cm以下且つ標準沸点が80℃以上の有機溶剤(D1)を含むことを特徴とする。
【0012】
[適用例2]
適用例1のハードコート層の形成方法において、
前記硬化性組成物中の前記成分(D)の含有量を100質量部としたときに、前記成分(D1)を25質量部以上含有することができる。
【0013】
[適用例3]
適用例1または適用例2のハードコート層の形成方法において、
前記硬化性組成物中の前記成分(C)の含有量が、前記成分(C)および前記成分(D)以外の全成分の合計を100質量部としたときに、1質量部を超えて100質量部以下であることができる。
【0014】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例のハードコート層の形成方法において、
前記成分(C)のHLB値が2以上15以下であることができる。
【0015】
[適用例5]
本発明に係るスプレー塗工用硬化性組成物の一態様は、
多官能(メタ)アクリルモノマー(A)、光重合開始剤(B)、脂肪酸エステルからなる非イオン性界面活性剤(C)および有機溶剤(D)を含有し、
前記有機溶剤(D)は、25℃における表面張力が23.5dyne/cm以下且つ標準沸点が80℃以上の有機溶剤(D1)を含むことを特徴とする。
【0016】
[適用例6]
適用例5のスプレー塗工用硬化性組成物において、
前記成分(D)の含有量を100質量部としたときに、前記成分(D1)を25質量部以上含有することができる。
【0017】
[適用例7]
適用例5または適用例6のスプレー塗工用硬化性組成物において、
前記成分(C)の含有量が、前記成分(C)および前記成分(D)以外の全成分の合計を100質量部としたときに、1質量部を超えて100質量部以下であることができる。
【0018】
[適用例8]
適用例5ないし適用例7のいずれか一例のスプレー塗工用硬化性組成物において、
前記成分(C)が直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数6〜30の1価または2価の炭化水素基を有することができる。
【0019】
[適用例9]
適用例5ないし適用例8のいずれか一例のスプレー塗工用硬化性組成物において、
前記成分(C)が(メタ)アクリロイル基を有することができる。
【0020】
[適用例10]
適用例5ないし適用例9のいずれか一例のスプレー塗工用硬化性組成物において、
前記成分(C)のHLB値が2以上15以下であることができる。
【0021】
[適用例11]
本発明に係る成形品の一態様は、
適用例5ないし適用例10のいずれか一例の硬化性組成物が硬化してなるハードコート層を備えることを特徴とする。
【0022】
[適用例12]
適用例11の成形品において、
前記ハードコート層は、ポリカーボネート、ABS樹脂およびポリメチルメタクリレートから選択される少なくとも1種の基材の表面と接して配置されることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るハードコート層の形成方法によれば、スプレー塗工によって良好な面観が得られにくい基材に対しても良好な面観が得られると共に、優れた指紋視認性および指紋拭き取り性を備えたハードコート層を得ることができる。また、本発明に係るハードコート層の形成方法によれば、良好な面観が得られる基材の種類が拡大されるため、汎用性が格段に向上する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含む。なお、本明細書においては、例えば下記の「多官能(メタ)アクリルモノマー(A)」を、単に「成分(A)」と省略して記載することがある。(B)ないし(E)の各成分についても同様である。
【0025】
1.硬化性組成物
本実施の形態に係る硬化性組成物(以下、単に「組成物」ともいう)は、下記成分(A)〜(E)を含み得る。これらのうち、成分(A)〜(D)は必須成分であり、成分(E)は必要に応じて添加し得る任意成分である。
・多官能(メタ)アクリルモノマー(A)
・光重合開始剤(B)
・脂肪酸エステルからなる非イオン性界面活性剤(C)
・有機溶剤(D)
・その他の添加剤(E)
【0026】
本実施の形態に係る組成物によれば、上記成分(D)として25℃における表面張力が23.5dyne/cm以下且つ標準沸点が80℃以上の有機溶剤(D1)を含有することにより、スプレー塗工によって良好な面観が得られにくい基材(例えば、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート)に対しても良好な面観が得られると共に、優れた指紋視認性および指紋拭き取り性を備えたハードコート層を形成することができる。これにより、本実施の形態に係る組成物をスプレー塗工して使用できる基材の種類が拡大されるため、汎用性が格段に向上する。
【0027】
以下、本実施の形態に係る組成物中に含み得る各成分について詳細に説明する。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイルはアクリロイルおよびメタクリロイルを表し、(メタ)アクリレートはアクリレートおよびメタクリレートを表す。
【0028】
1.1.多官能(メタ)アクリルモノマー(A)
多官能(メタ)アクリルモノマー(A)は、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する(メタ)アクリルモノマーである。成分(A)は、組成物の成膜性を高めるための、いわゆるバインダー成分である。なお、後述する成分(C)が(メタ)アクリロイル基を複数有する場合があるが、本発明における多官能(メタ)アクリルモノマー(A)には、成分(C)は含まれないものとする。
【0029】
多官能(メタ)アクリルモノマー(A)の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリルモノマー;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を2個有する多官能(メタ)アクリルモノマー;ビス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート等の水酸基含有多官能(メタ)アクリレート類、及びこれらの水酸基へのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物のポリ(メタ)アクリレート類;2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴエステル(メタ)アクリレート類、オリゴエーテル(メタ)アクリレート類、及びオリゴエポキシ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。以上例示した多官能(メタ)アクリルモノマーは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用することもできる。
【0030】
これらの中では、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0031】
このような多官能(メタ)アクリルモノマー(A)の市販品としては、例えば、アロニックスM−400、M−404、M−408、M−450、M−305、M−309、M−310、M−315、M−320、M−350、M−360、M−208、M−210、M−215、M−220、M−225、M−233、M−240、M−245、M−260、M−270、M−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−221、M−203、TO−924、TO−1270、TO−1231、TO−595、TO−756、TO−1343、TO−902、TO−904、TO−905、TO−1330(以上、東亜合成株式会社製);KAYARAD D−310、D−330、DPHA、DPCA−20、DPCA−30、DPCA−60、DPCA−120、DN−0075、DN−2475、SR−295、SR−355、SR−399E、SR−494、SR−9041、SR−368、SR−415、SR−444、SR−454、SR−492、SR−499、SR−502、SR−9020、SR−9035、SR−111、SR−212、SR−213、SR−230、SR−259、SR−268、SR−272、SR−344、SR−349、SR−601、SR−602、SR−610、SR−9003、PET−30、T−1420、GPO−303、TC−120S、HDDA、NPGDA、TPGDA、PEG400DA、MANDA、HX−220、HX−620、R−551、R−712、R−167、R−526、R−551、R−712、R−604、R−684、TMPTA、THE−330、TPA−320、TPA−330、KS−HDDA、KS−TPGDA、KS−TMPTA(以上、日本化薬株式会社製);ライトアクリレート PE−4A、DPE−6A、DTMP−4A(以上、共栄社化学株式会社製);NKエステルA−TMM−3LM−N(新中村化学株式会社製)等が挙げられる。
【0032】
成分(A)は、その全量を100質量%として、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリルモノマーを50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、100質量%含有することが特に好ましい。
【0033】
本実施の形態に係る組成物中における成分(A)の含有量は、成分(D)以外の全成分の合計を100質量部としたときに50〜99質量部の範囲内が好ましく、65〜98質量部の範囲内であることがより好ましく、75〜95質量部の範囲内であることが特に好ましい。成分(A)の含有量を上記範囲内とすることで、高硬度のハードコート層を得ることができる。
【0034】
1.2.光重合開始剤(B)
光重合開始剤(B)は、放射線(光)照射により活性ラジカル種を発生させる化合物であり、汎用されているものを挙げることができる。
【0035】
光重合開始剤(B)としては、放射線(光)照射により分解してラジカルを発生し重合を開始せしめるものであれば特に制限はなく、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等が挙げられる。
【0036】
光重合開始剤(B)の市販品としては、例えば、イルガキュア 184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、ダロキュア 1116、1173、ルシリン TPO、8893(以上、BASFジャパン株式会社製);ユベクリル P36(UCB社製);エザキュアーKIP150、KIP65LT、KIP100F、KT37、KT55、KTO46、KIP75/B(以上、ランベルティ社製)等が挙げられる。
【0037】
本実施の形態に係る組成物中における成分(B)の含有量は、成分(D)以外の全成分の合計を100質量部としたときに、0.1〜15質量部の範囲内であることが好ましく、0.3〜15質量部の範囲内であることがより好ましく、0.5〜10質量部の範囲内であることが特に好ましい。成分(B)の含有量を上記範囲内とすることで、高硬度のハードコート層を得ることができる。
【0038】
1.3.脂肪酸エステルからなる非イオン性界面活性剤(C)
本実施の形態に係る組成物は、ハードコート層の白化を防止すると共に、ハードコート層の指紋視認性および指紋拭き取り性を良好にする観点から、脂肪酸エステルからなる非イオン性界面活性剤(C)(以下、成分(C)を「脂肪酸エステル系界面活性剤(C)」ともいう)を含有する。
【0039】
本実施の形態に係る組成物をスプレーで塗工する場合は、界面活性剤が塗膜表面に偏在化しにくいため、他の塗工方法で塗布する場合と比較して、多量の界面活性剤を必要とする。そして、界面活性剤を多量に含有する組成物を使用した場合、得られるハードコート層が白化することがある。しかしながら、脂肪酸エステル系界面活性剤(C)を使用することで、ハードコート層の白化を抑制することができる。
【0040】
脂肪酸エステル系界面活性剤(C)のHLB値は、2〜15の範囲にあることが好ましく、2〜7の範囲にあることがより好ましく、2〜4の範囲にあることが特に好ましい。
HLB値を上記範囲内とすることで、界面活性剤を多量に配合しても白化することがなく、スプレー塗工に適した組成物を得ることができる。
【0041】
ここで、HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値とは、界面活性剤の特性を示す指数であって、親水性または親油性の大きさの程度を示す。HLB値は、次の計算式によって求めることができる。
HLB=7+11.7Log(M/M
前記式において、Mは親水基の分子量、Mは親油基の分子量である。M+M=M(界面活性剤の分子量)である。
【0042】
また、脂肪酸エステル系界面活性剤(C)が少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有することにより、硬化処理の際に本実施の形態に係る組成物中に含まれるバインダー成分と結合して固定されるため、脂肪酸エステル系界面活性剤(C)がハードコート層の表面にブリードアウトすることを防止できる。これにより、得られるハードコード層の耐久性が向上する。
【0043】
成分(C)に(メタ)アクリロイル基を付加する方法としては、例えば、水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤の水酸基を(メタ)アクリロイル基に変換する方法が挙げられる。具体的には、(メタ)アクリロイル基を有する成分(C)は、脂肪酸エステル系界面活性剤が有する水酸基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0044】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、例えば、イソシアネート基および(メタ)アクリロイル基を有する化合物を使用することができる。このような化合物を用いることにより、脂肪酸エステル系界面活性剤の水酸基とイソシアネート基とが反応しウレタン結合を形成することで(メタ)アクリロイル基が導入される。
【0045】
イソシアネート基および(メタ)アクリロイル基を有する化合物の具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、1,1−ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]エチルイソシアネート等を使用することができる。また、ジイソシアネート化合物に水酸基と(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を反応させて得ることもできる。このようなジイソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0046】
水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルが好ましい。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の市販品としては、例えば、EMALEX HCシリーズ(日本エマルジョン社製)、ノイゲンHCシリーズ(第一工業製薬社製)等が挙げられる。ポリオキシエチレン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、EMALEX GWIS−100EX(イソステアリン酸グリセリル、日本エマルジョン社製)、ノイゲンGISシリーズ(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0047】
水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤と、イソシアネート基および(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応は、以下のようにして行うことができる。すなわち、イソシアネート化合物と水酸基含有化合物の反応であり、通常ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ジブチル錫ジラウレート、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、2,6,7−トリメチル−1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等のウレタン化触媒を、反応物の総量100質量部に対して0.01〜1質量部用いるのが好ましい。また、これらの化合物の反応においては、無触媒で行うこともできる。反応温度は、通常0〜90℃であり40〜80℃で行うのが好ましい。かかる反応は、無溶剤で行っても溶剤に溶解させて行ってもよい。
【0048】
さらに、脂肪酸エステル系界面活性剤(C)は、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数6〜30の1価または2価の炭化水素基を有することが好ましい。成分(C)がこのような炭化水素基を有することで、得られるハードコート層に良好な指紋視認性や指紋拭き取り性を付与することができる。なお、本明細書における「指紋視認性」とは、フィルム表面に指紋を付着させたときの肉眼での見え難さを意味する。
【0049】
成分(C)は、例えば下記一般式(1)で示される構造を有することができる。
【0050】
【化1】

式(1)中、各記号の意味は下記の通りである。Xは置換されていてもよい炭素数3〜10の(m+m)価の炭化水素基を示す。複数個あるYおよびYはそれぞれ独立にエーテル結合、エステル結合、あるいはウレタン結合を含む2価の基または単結合を示し、YおよびYの少なくとも1個は脂肪酸に由来する構造を有する。Zは(メタ)アクリロイル基を1個以上有する基を示す。複数個あるR11およびR12はそれぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖または分岐の炭化水素基を示す。mおよびmはそれぞれ0〜10の整数であり、nおよびnはそれぞれ独立に0〜20の整数である。ただし、mおよびmは同時に0ではない。
【0051】
脂肪酸エステル系界面活性剤(C)は、例えば次のようにして合成することができる。水酸基を有する界面活性剤に対し、反応後のHLB値が2〜15になるような比率で(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物または(メタ)アクリル酸を反応させることにより得ることができる。例えば、3個の水酸基を有する界面活性剤を原料として使用する場合、原料の界面活性剤のHLB値が5の場合は、水酸基の1/3モル当量の(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物または(メタ)アクリル酸を反応させるだけでもよい。原料の界面活性剤のHLB値が9の場合、水酸基の等モル当量の(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物または(メタ)アクリル酸を反応させることが好ましい。
【0052】
本実施の形態に係る組成物中における成分(C)の含有量は、成分(C)および成分(D)以外の全成分の合計を100質量部としたときに、1質量部を超えて100質量部以下の範囲内にあることが好ましい。成分(C)の含有量を上記範囲内とすることで、スプレー塗工によって得られたハードコート層においても十分な指紋視認性および指紋拭き取り性が得られるため好ましい。なお、成分(C)が(メタ)アクリロイル基を有しない場合は、ハードコート層の硬度が低下するおそれがあるため、成分(C)の含有量を、成分(C)および成分(D)以外の全成分の合計100質量部に対して、1質量部を超えて10質量部以下とすることが好ましい。
【0053】
1.4.有機溶剤(D)
本実施の形態に係る組成物は、特にスプレー塗工における塗工性を向上させる観点から、有機溶媒(D)で希釈して用いられる。スプレー塗工する際の硬化性組成物の粘度は、通常0.1〜100mPa・秒/25℃であり、好ましくは0.5〜50mPa・秒/25℃である。
【0054】
有機溶剤(D)は、25℃における表面張力が23.5dyne/cm以下且つ標準沸点が80℃以上の有機溶剤(D1)を含んでいればよく、前記有機溶剤(D1)以外の有機溶剤(D2)を含んでいてもよい。有機溶剤(D)として成分(D1)を含有することで、スプレー塗工によって良好な面観が得られにくい基材(例えば、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート)に対してもハジキが生じ難くなるため、良好な面観を有するハードコート層が得られる。
【0055】
成分(D1)の25℃における表面張力は23.5dyne/cm以下であればよいが、18.0dyne/cm以上23.0dyne/cm以下であることが好ましく、19.0dyne/cm以上23.0dyne/cm以下であることがより好ましい。上記範囲内の表面張力を有する有機溶剤を含有することで、スプレー塗工によって良好な面観が得られにくい基材に対する組成物の濡れ性が良好となり、ハジキが生じ難くなる。その結果、良好な面観を有するハードコート層が得られやすくなる。
【0056】
成分(D1)は、上記の表面張力に加えて標準沸点が80℃以上であると、スプレー塗工によって基材に付着する前に揮発するようなことがなくレベリング効果が発揮されるため、良好な面観を有するハードコート層が得られやすくなる。成分(D1)の標準沸点が80℃未満の場合、スプレー塗工すると基材に付着する前に揮発してしまい、レベリング効果が得られず良好な面観を有するハードコート層が得られ難い傾向がある。
【0057】
このような有機溶剤(D1)としては、例えば、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;酢酸イソプロピル等のエステル類;ジイソアミルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。
【0058】
前記有機溶剤(D1)以外の有機溶剤(D2)は、前述したようにスプレー塗工における塗工性を向上させる観点から添加し得る任意成分である。有機溶剤(D2)としては、特に限定されるものではないが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;メタノール等のアルコール類;酢酸n−ブチル等のエステル類;エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。
【0059】
本実施の形態に係る組成物中における成分(D1)の含有量は、成分(D)の含有量を100質量部としたときに25質量部以上含有することが好ましく、50質量部以上含有することがより好ましい。成分(D1)の含有量を上記範囲内とすることで、スプレー塗工によって良好な面観が得られにくい基材に対しても良好な面観が得られるため好ましい。
【0060】
本実施の形態に係る組成物中における有機溶剤(D)の含有量は、有機溶剤(D)を除く成分の合計を100質量部としたときに、50〜10,000質量部の範囲内であることが好ましい。なお、有機溶剤(D)の含有量は、塗布膜厚、組成物の粘度、スプレーノズルの形状、ノズル径等を考慮して適宜決めることができる。
【0061】
1.5.その他の添加剤(E)
本実施の形態に係る組成物には、上記成分の他、必要に応じて成分(A)以外のラジカル重合性化合物、無機酸化物粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レベリング剤等を添加することができる。
【0062】
成分(A)以外のラジカル重合性化合物として、単官能アクリレートを使用してもよい。例えば、適切な分子量や構造を有する単官能アクリレートを使用することで、基材との密着性を向上させることができる。このような単官能アクリレートとして、例えば、テトラヒドロフルフリルアクリレート等が好ましく用いられる。
【0063】
無機酸化物粒子としては、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモンおよびセリウムよりなる群から選択される少なくとも1つの元素の無機酸化物を主成分とする粒子が挙げられ、具体的には、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム等の粒子が挙げられる。無機酸化物粒子を添加することで、ハードコート層の硬度を向上させたり、カールを小さくする効果が期待できる。
【0064】
なお、分子内に重合性不飽和基および加水分解性シリル基を有する有機化合物で表面処理された無機酸化物粒子(以下、「反応性粒子」ともいう)を用いることも好ましい。反応性粒子は、バインダー成分と共有結合することができるため、耐擦傷性、耐熱性および透明性に優れたハードコート層を得ることができる。
【0065】
1.6.硬化性組成物の製造方法
本実施の形態に係る組成物は、上記成分(A)〜(D)、および必要に応じて成分(E)をそれぞれ添加して、室温または加熱条件下で混合することにより調製することができる。具体的には、ミキサー、ニーダー、ボールミル等の公知の混合機を用いて調製することができる。ただし、加熱条件下で混合する場合には、重合開始剤や重合性不飽和基の分解開始温度以下で行うことが好ましい。本実施の形態に係る組成物は、放射線(光)によって硬化反応が進行するため、放射線(光)が遮断された容器内で混合することが好ましい。
【0066】
2.ハードコート層の形成方法および成形品
2.1.ハードコート層の形成方法
本実施の形態に係るハードコート層の形成方法は、基材上に、多官能(メタ)アクリルモノマー(A)、光重合開始剤(B)、脂肪酸エステルからなる非イオン性界面活性剤(C)および有機溶剤(D)を含有する硬化性組成物をスプレー塗工して塗膜を形成する工程と、前記塗膜に放射線を照射してハードコート層を形成する工程と、を含み、前記有機溶剤(D)は、25℃における表面張力が23.5dyne/cm以下且つ標準沸点が80℃以上の有機溶剤(D1)を含むことを特徴とする。
【0067】
本実施の形態に係るハードコート層の形成方法で用いられる硬化性組成物は、前述した通りであるから詳細な説明は省略する。
【0068】
前記硬化性組成物を塗布する基材としては、特に限定されないが、高度な透明性を確保する観点から、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ、メラミン、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ABS樹脂、AS樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ノルボルネン系樹脂等の各種プラスチックフィルムやガラスであることが好ましい。一般に、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート等の基材に硬化性組成物をスプレー塗工した場合、ハジキが生じることにより良好な面観を有するハードコート層が得られにくい。しかしながら、本実施の形態に係るハードコート層の形成方法は、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート等の基材に対してスプレー塗工しても良好な面観を有するハードコート層が得られる点で優れている。
【0069】
基材の厚さは、用途により適宜変更することができるが、例えば10〜5000μmの厚さの基材を使用することができる。なお、基材上に前述の硬化性組成物を直接塗布して硬化処理を行った場合に、基材とハードコート層との密着性が劣る場合は、あらかじめ基材にコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理等の表面処理を行うこともできる。
【0070】
基材へのコーティング方法は、基材が曲面の場合でも簡易に塗布できる観点からスプレー塗工が最適であるが、通常のコーティング方法、例えば、ディッピングコート、フローコート、シャワーコート、ロールコート、スピンコート、刷毛塗り等を使用することもできる。これらコーティングにおける塗膜の厚さは、乾燥、硬化後の膜厚で、好ましくは0.1〜400μmであり、より好ましくは0.5〜200μmである。
【0071】
前述のように基材上に前記硬化性組成物をコーティングし塗膜を形成した後、放射線(光)を照射することにより該塗膜を硬化させてハードコート層を形成する。なお、前記塗膜に放射線(光)を照射する前に、必要に応じて0〜200℃の温度で有機溶剤(D)等の揮発成分を揮発させて除去する工程を設けてもよい。
【0072】
放射線(光)としては、前記硬化性組成物をコーティングした後、短時間で硬化させることができるものであれば特に限定されないが、照射装置の入手しやすさ等の理由で、紫外線、電子線が好ましい。紫外線の線源としては、水銀ランプ、ハライドランプ、レーザー等を使用でき、また電子線の線源としては、市販されているタングステンフィラメントから発生する熱電子を利用する方式等を使用することができる。放射線として紫外線または電子線を用いる場合、好ましい紫外線の照射光量は0.01〜10J/cmであり、より好ましくは0.1〜2J/cmである。また、好ましい電子線の照射条件は、加速電圧は10〜300kV、電子密度は0.02〜0.30mA/cmであり、電子線照射量は1〜10Mradである。
【0073】
2.2.成形品
本実施の形態に係る成形品は、前述の硬化性組成物が硬化してなるハードコート層を備えている。かかる成形品の具体例としては、前述のハードコート層の形成方法によって得られる、基材上にハードコート層が形成された積層体が挙げられる。
【0074】
前述したように、一般にポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレートから選択される少なくとも1種の基材に硬化性組成物をスプレー塗工した場合、ハジキが生じることにより良好な面観を有するハードコート層が得られにくい。しかしながら、本実施の形態に係る成形品によれば、前記ハードコート層がポリカーボネート、ABS樹脂およびポリメチルメタクリレートから選択される少なくとも1種の基材の表面と接して配置されることで、良好な面観を有すると共に、優れた指紋視認性および指紋拭き取り性を備えることができる。
【0075】
本実施の形態に係る成形品は、良好な面観を有し、指紋拭き取り性や指紋視認性にも優れていることから、携帯電話や情報端末等の指紋が付着し易い場面で用いられる各種携帯機器の表面保護フィルム等として好適である。
【0076】
3.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「%」は質量%を表し、「部」は質量部を表す。
【0077】
3.1.脂肪酸エステル系界面活性剤(C)の合成例
3.1.1.合成例1:脂肪酸エステル系界面活性剤(C−1)の製造
下記一般式(2)で示される脂肪酸エステル系界面活性剤(C−1)の合成方法を以下に示す。
【0078】
【化2】

式(2)中、Rは、それぞれ下記式(3)で表される基である。a+b+c=5である。
【0079】
【化3】

【0080】
撹拌機を取り付けた3つ口フラスコに、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル社製、ヨシノックスBHT)0.033g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学株式会社製、NKエステル A−TMM−3LM−N)22.96g、トリレンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン社製、TOLDY−100)7.78g、およびメチルイソブチルケトン(三菱化学株式会社社製)50.00gを仕込み、そこにジラウリル酸ジオクチル錫(共同薬品株式会社製、KS−1200−A)0.333gを添加した後、室温で2時間撹拌した。次いで、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日本エマルジョン株式会社社製、EMALEX HC−5;HLB値5)18.90gを添加した。反応液を60℃まで昇温して2時間攪拌し、脂肪酸エステル系界面活性剤(C−1)を得た。また、アクリル化反応はほぼ定量的に進行するため、仕込量から求めた脂肪酸エステル系界面活性剤(C−1)のHLB値は2である。
【0081】
3.1.2.合成例2:脂肪酸エステル系界面活性剤(C−2)の製造
下記一般式(4)で示される脂肪酸エステル系界面活性剤(C−2)の合成方法を以下に示す。
【0082】
【化4】

【0083】
式(4)中、Rは、それぞれ下記式(5)で表される基である。a+b+c=7である。
【0084】
【化5】

【0085】
撹拌機を取り付けた3つ口フラスコに、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル社製、ヨシノックスBHT)0.030g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学株式会社製、NKエステル A−TMM−3LM−N)21.91g、トリレンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン社製、TOLDY−100)7.43g、およびメチルイソブチルケトン(三菱化学株式会社社製)50.00gを仕込み、そこにジラウリル酸ジオクチル錫(共同薬品株式会社製、KS−1200−A)0.317gを添加した後、室温で2時間撹拌した。次いで、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日本エマルジョン株式会社社製、EMALEX HC−7;HLB値6)20.32gを添加した。反応液を60℃まで昇温して2時間攪拌し、脂肪酸エステル系界面活性剤(C−2)を得た。また、アクリル化反応はほぼ定量的に進行するため、仕込量から求めた脂肪酸エステル系界面活性剤(C−2)のHLB値は3である。
【0086】
3.2.硬化性組成物の調製例
3.2.1.実施例1
ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学株式会社製、商品名「NKエステルA−TMM−3LM−N」)34.7質量部、イルガキュア184(BASFジャパン株式会社製、光重合開始剤)1.0質量部、イルガキュア907(BASFジャパン株式会社製、光重合開始剤)0.6質量部および前記合成例1で製造した脂肪酸エステル系界面活性剤(C−2)3.7質量部を添加し、さらにメチルイソブチルケトン8.6質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート17.1質量部、tert−ブチルアルコール34.3質量部を添加して十分に撹拌することにより実施例1に係る硬化性組成物を得た。
【0087】
3.2.2.実施例2〜17および比較例1〜6
表1〜表3に示す配合量で各成分を用いた以外は実施例1と同様にして各硬化性組成物を製造した。なお、表1〜表3に記載した成分(D)以外の配合量は、固形分としての量を表す。
【0088】
3.3.ハードコート層の評価
3.3.1.ハードコート層の製造
厚さ1mmのABS樹脂プレート、厚さ1mmのポリカーボネートプレートまたは厚さ188μmのPETフィルム上に、上記実施例および比較例で得られた各硬化性組成物をスプレー塗工法で膜厚が10μmとなるように塗工した。80℃のオーブンで3分間乾燥した後、高圧水銀灯を用いて空気下で照射量300mJ/cmで紫外線を照射して各基材の上にハードコート層を形成した。
【0089】
3.3.2.ハードコート層の物性評価
上記のようにして得られたハードコート層の下記特性を評価した。得られた結果を表1〜表3に併せて示す。
【0090】
(1)表面外観(面観)
ABS樹脂上に形成されたハードコート層、ポリカーボネート上に形成されたハードコート層およびPETフィルム上に形成されたハードコート層のそれぞれについて目視にて観察し、以下の評価基準に従って評価した。
◎:硬化膜180mm×100mm中にゆず肌状の面観が確認できず、面内均一性が認められる。
○:硬化膜180mm×100mm中にゆず肌状の面観が確認できない。
△:硬化膜180mm×100mm中にゆず肌状の面観が一部分で確認できる。
×:硬化膜180mm×100mm中にゆず肌状の面観が全体的に確認できる。
【0091】
(2)ヘイズの測定
PETフィルム上にハードコート層が設けられた成形品のヘイズ(%)を、カラーヘイズメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。
【0092】
(3)全光線透過率(Tt;%)の測定
PETフィルム上にハードコート層が設けられた成形品の全光線透過率(%)を、カラーヘイズメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、JIS K7105に準拠して測定した。
【0093】
(4)指紋視認性
ABS樹脂プレート上にハードコート層が設けられた成形品において、ABS樹脂プレートの裏面を黒打ちし、フィルム表面に指紋を付着させた。その後、フィルム表面の垂直上方より目視観察し、判定者10人がその指紋が見え難いか否かを判別した。その結果を下記評価基準に従って評価した。
◎:9〜10人が「指紋が見え難い」と判断した。
○:5〜8人が「指紋が見え難い」と判断した。
△:1〜4人が「指紋が見え難い」と判断した。
×:0人が「指紋が見え難い」と判断した。
【0094】
(5)指紋拭き取り試験
ABS樹脂プレート上にハードコート層が設けられた成形品において、ABS樹脂プレートの裏面を黒打ちし、フィルム表面に指紋を付着させた。その後、指紋をティッシュで拭き取り、下記評価基準に従って評価した。
◎:1〜3回で指紋跡が確認できなくなった。
○:4〜6回で指紋跡が確認できなくなった。
△:7〜9回で指紋跡が確認できなくなった。
×:10回以上で指紋跡が確認できなくなった。
【0095】
(6)接触角(°)の測定
水およびヘキサデカンに対する、ハードコート層の接触角を協和界面科学株式会社製の接触角計「Drop Master500」を用いてJIS6768に準拠して測定した。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
表1〜表3中に記載した略号等は下記の通りである。なお、表1〜表3中に記載の成分(D)の表面張力は、測定温度25℃にて協和界面科学株式会社製の高精度表面張力計「CBVP−A3」を用いてWilhelmy法で測定した値を示したものである。
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:日本化薬株式会社製、KAYARAD DPHA
・ペンタエリスリトールトリアクリレート:新中村化学株式会社製、NKエステルA−TMM−3LM−N
・テトラヒドロフルフリルアクリレート:大阪有機化学工業株式会社製、ビスコートV#150
・Irg.184:BASFジャパン株式会社製、光重合開始剤
・Irg.907:BASFジャパン株式会社製、光重合開始剤
・HC−5:日本エマルジョン株式会社製、EMALEX HC−5、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(5E.O.);HLB値5
・HC−7:日本エマルジョン株式会社製、EMALEX HC−7、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(7E.O.);HLB値6
・HC−30:日本エマルジョン株式会社製、EMALEX HC−30、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(30E.O.);HLB値11
・HC−80:日本エマルジョン株式会社製、EMALEX HC−80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(80E.O.);HLB値15
・C−1:合成例1で製造した脂肪酸エステル系界面活性剤
・C−2:合成例2で製造した脂肪酸エステル系界面活性剤
【0100】
表1〜表2の結果から、有機溶剤(D)として有機溶剤(D1)を含有する実施例1〜17の硬化性組成物によれば、PETフィルムだけでなくスプレー塗工によって良好な面観が得られにくいABS樹脂プレートやポリカーボネートプレートに対しても良好な面観が得られると共に、優れた指紋視認性および指紋拭き取り性を備えたハードコート層を形成できることが判った。
【0101】
有機溶剤(D)として有機溶剤(D1)を含有しない比較例1〜2、4〜6の硬化性組成物から形成されたハードコート層は、基材をABS樹脂プレートやポリカーボネートプレートとした場合に、良好な面観が得られないことが判った。
【0102】
脂肪酸エステル系界面活性剤(C)を含有しない比較例3の硬化性組成物から形成されたハードコート層は、基材をABS樹脂プレートとした場合に、指紋視認性および指紋拭き取り性が大きく劣っていることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係るハードコート層の形成方法は、スプレー塗工によって良好な表面外観(面観)が得られにくい基材(例えば、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート)に対して良好な面観を有し、さらには指紋拭き取り性および指紋視認性に優れたハードコート層を製造するのに有用である。また、本発明に係るハードコート層の形成方法によれば、良好な面観が得られる基材の種類が拡大されるため、汎用性が格段に向上する。
【0104】
本発明に係る成形品は、優れた透明性と面観を有し、指紋拭き取り性や指紋視認性にも優れていることから、携帯電話や情報端末等の指紋が付着し易い場面で用いられる各種携帯機器の表面保護フィルム等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、多官能(メタ)アクリルモノマー(A)、光重合開始剤(B)、脂肪酸エステルからなる非イオン性界面活性剤(C)および有機溶剤(D)を含有する硬化性組成物をスプレー塗工して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜に放射線を照射してハードコート層を形成する工程と、を含み、
前記有機溶剤(D)は、25℃における表面張力が23.5dyne/cm以下且つ標準沸点が80℃以上の有機溶剤(D1)を含む、ハードコート層の形成方法。
【請求項2】
前記硬化性組成物中の前記成分(D)の含有量を100質量部としたときに、前記成分(D1)を25質量部以上含有する、請求項1に記載のハードコート層の形成方法。
【請求項3】
前記硬化性組成物中の前記成分(C)の含有量が、前記成分(C)および前記成分(D)以外の全成分の合計を100質量部としたときに、1質量部を超えて100質量部以下である、請求項1または請求項2に記載のハードコート層の形成方法。
【請求項4】
前記成分(C)のHLB値が2以上15以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のハードコート層の形成方法。
【請求項5】
多官能(メタ)アクリルモノマー(A)、光重合開始剤(B)、脂肪酸エステルからなる非イオン性界面活性剤(C)および有機溶剤(D)を含有し、
前記有機溶剤(D)は、25℃における表面張力が23.5dyne/cm以下且つ標準沸点が80℃以上の有機溶剤(D1)を含む、スプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項6】
前記成分(D)の含有量を100質量部としたときに、前記成分(D1)を25質量部以上含有する、請求項5に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項7】
前記成分(C)の含有量が、前記成分(C)および前記成分(D)以外の全成分の合計を100質量部としたときに、1質量部を超えて100質量部以下である、請求項5または請求項6に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項8】
前記成分(C)が直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数6〜30の1価または2価の炭化水素基を有する、請求項5ないし請求項7のいずれか一項に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項9】
前記成分(C)が(メタ)アクリロイル基を有する、請求項5ないし請求項8のいずれか一項に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項10】
前記成分(C)のHLB値が2以上15以下である、請求項5ないし請求項9のいずれか一項に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項11】
請求項5ないし請求項10のいずれか一項に記載の硬化性組成物が硬化してなるハードコート層を備える、成形品。
【請求項12】
前記ハードコート層は、ポリカーボネート、ABS樹脂およびポリメチルメタクリレートから選択される少なくとも1種の基材の表面と接して配置される、請求項11に記載の成形品。

【公開番号】特開2013−22515(P2013−22515A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159676(P2011−159676)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】