説明

ハードコート層の形成方法

【課題】指紋視認性、指紋拭き取り性に優れると同時に高い透明性を有する硬化膜を与える硬化性組成物を提供する。
【解決手段】基材上に、下記成分(A)〜(D)を含有し、硬化性組成物をスプレー塗工して塗膜を形成する工程、並びに、前記塗膜に放射線を照射してハードコート層を形成する工程を含む、ハードコート層の形成方法。
(A)多官能(メタ)アクリルモノマー
(B)光重合開始剤
(C)脂肪酸エステルからなりHLBが2〜7である非イオン界面活性剤
(D)有機溶剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層の形成方法に関する。より詳細には、スプレー塗工に適した硬化性組成物を用いたハードコート層の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等の各種基材表面の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コ−ティング材として、優れた塗工性を有し、かつ各種基材の表面に、硬度、耐擦傷性、防汚性、耐摩耗性、表面滑り性、低カール性、密着性、透明性、耐薬品性及び塗膜面の外観のいずれにも優れた硬化膜を形成し得る硬化性組成物が要請されている。
【0003】
近年、表面にハードコート処理を施した携帯電話や情報端末等が市販されている。ハードコート処理を行うことで光沢のある表面となり意匠性が高まるが、光沢があることで、指紋の付着が目立つ様になった。そのため、従来ハードコートに求められてきた耐擦傷性、透明性に加え、防汚性、特に指紋拭き取り性の要求が高まっているが、これらの特性の全てを満たす材料は存在しないのが現状である。一方、これらの塗工に際しては、曲面にも塗布できることからスプレー塗工を行いたいという要求がある。
【0004】
特許文献1には、電離放射線硬化型樹脂に脂肪酸エステルからなるHLB2〜15の非イオン界面活性剤を添加してなる、タッチパネル又はディスプレイ用ハードコートフィルムが開示されている。このフィルムは、指紋視認性や指紋拭き取り性は良好であるが、耐擦傷性に劣り、また、透明性にも劣っていた。これは、脂肪酸エステル系界面活性剤が、指紋視認性、指紋拭き取り性を発現するために、硬化膜表面にブリードアウトし、それにより硬化膜の耐擦傷性や透明性が低下していた。この組成物をスプレー塗工しても十分な指紋視認性、指紋拭き取り性は得られなかった。
【0005】
特許文献2には、所定の構造を有し、全ての末端に重合性不飽和基を有するポリアルキレンオキシド鎖含有ポリマー(具体的には脂肪酸エステル系界面活性剤)、2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物及び重合性不飽和基を表面に有する無機微粒子を含み、これらの成分が互いに反応可能であるハードコート層用硬化性樹脂組成物が開示されている。この硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化膜は、上記ポリアルキレンオキシド鎖含有ポリマーと、(メタ)アクリロイル基を有する化合物と、重合性官能基を表面に有する無機粒子が互いに反応することにより、ポリアルキレンオキシド鎖含有ポリマーが硬化膜表面にブリードアウトすることが無くなり、かつ各成分が互いに架橋できることにより、耐擦傷性が向上している。特許文献2の硬化膜は、耐擦傷性にも優れているが、十分な指紋視認性や指紋拭き取り性は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−114355号公報
【特許文献2】特開2008−165040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、得られる硬化膜に優れた指紋視認性、指紋拭き取り性を有するハードコート材として有用なスプレー塗工用の硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行ったところ、水酸基濃度が一定量以下の脂肪酸エステル系界面活性剤を、一定量配合した組成物を使用することで、スプレー塗工により形成したハードコート層に、優れた防汚性と高い透明性を付与できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、下記の積層フィルム及び硬化性組成物を提供する。
1. 基材上に、下記成分(A)〜(D)を含有し、下記成分(C)のHLBが2〜7である硬化性組成物をスプレー塗工して塗膜を形成する工程、並びに、前記塗膜に放射線を照射する工程を含む、ハードコート層の形成方法。
(A)多官能(メタ)アクリルモノマー
(B)光重合開始剤
(C)脂肪酸エステルからなる非イオン界面活性剤
(D)有機溶剤
2.前記成分(C)の配合量が、前記(A)成分及び前記(B)成分の合計100重量部に対して、10重量部を超えて100重量部以下である、上記1に記載のハードコート層の形成方法。
3.前記成分(C)のHLBが2〜4の範囲である、上記1又は2に記載のハードコート層の形成方法。
【0010】
4.下記成分(A)〜(D)を含有し、下記成分(C)のHLBが2〜7である、スプレー塗工用硬化性組成物。
(A)多官能(メタ)アクリルモノマー
(B)光重合開始剤
(C)脂肪酸エステルからなる非イオン界面活性剤
(D)有機溶剤
5.前記成分(C)の配合量が、前記(A)成分及び前記(B)成分の合計100重量部に対して、10重量部を超えて100重量部以下である、上記4に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
6.前記成分(C)が、分子内に、直鎖状または分岐鎖状の炭素数6〜30の1価又は2価の炭化水素基を有する界面活性剤である、上記4又は5に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
7.前記成分(C)が、(メタ)アクリロイル基を有する界面活性剤である、上記4〜6の何れか1に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
8.前記成分(C)のHLBが2〜4の範囲である、上記4〜7のいずれか1に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
9.さらに、(E)数平均粒子径1〜200nmの無機酸化物粒子を含有する上記4〜8のいずれか1に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
10.前記成分(E)が表面に重合性不飽和基を有する無機酸化物粒子である上記9に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、指紋視認性、指紋拭き取り性に優れると同時に、高い透明性を有するハードコート層を提供できる。
本発明によれば、さらに透明性に優れた積層フィルムを提供できる。
本発明によれば、指紋視認性、指紋拭き取り性に優れ、耐擦傷性にも優れると共に、湿熱耐性や乾熱耐性等の耐久性を有し、かつ透明性に優れた硬化膜が得られる硬化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.硬化性組成物
本発明の硬化性組成物(以下、本発明の組成物という)は、下記成分(A)〜(F)を含み得る。これらのうち成分(A)〜(D)は必須成分であり、成分(E)〜(F)は必要に応じて添加される任意成分である。
(A)多官能(メタ)アクリルモノマー
(B)光重合開始剤
(C)脂肪酸エステルからなる非イオン界面活性剤
(D)有機溶剤
(E)数平均粒子径1〜200nmの無機酸化物粒子
(F)その他の添加剤
【0013】
本発明の組成物は、上記成分(C)が脂肪酸エステル基と(メタ)アクリロイル基を有するHLB値(Hydrophile−Lipophile Balance)2〜7の脂肪酸エステルからなる非イオン界面活性剤であることにより、成分(C)を多量に配合しても得られる硬化膜(塗膜)の白化を防止し、高い透明性を有する硬化膜が得られる。硬化膜の耐擦傷性を向上させる。また、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数6〜30の1価又は2価の炭化水素基を有していることにより、指紋の拭き取り性に優れる。
以下、本発明の組成物の各成分について説明する。
【0014】
(A)多官能(メタ)アクリルモノマー
本発明に用いられる成分(A)多官能(メタ)アクリルモノマーは(メタ)アクリロイル基を2個以上有する(メタ)アクリルモノマーである。成分(A)は、組成物の成膜性を高めるための、いわゆるバインダー成分である。
尚、後述する成分(E)が反応性粒子(Ec)である場合及び後述する成分(C)も(メタ)アクリロイル基を複数有する場合が有るが、本発明における多官能(メタ)アクリルモノマー(A)には、反応性粒子(Ec)及び成分(C)を含まないものとする。
【0015】
多官能(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリルモノマー;エチレングルコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングルコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を2個有する多官能(メタ)アクリルモノマー、ビス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート等の水酸基含有多官能(メタ)アクリレート類、及びこれらの水酸基へのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物のポリ(メタ)アクリレート類;2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴエステル(メタ)アクリレート類、オリゴエーテル(メタ)アクリレート類、及びオリゴエポキシ(メタ)アクリレート類等を挙げることができる。以上挙げた多官能(メタ)アクリルモノマーは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0016】
この中では、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0017】
このような多官能(メタ)アクリルモノマー(A)の市販品としては、例えば、東亞合成(株)製アロニックスM−400、M−404、M−408、M−450、M−305、M−309、M−310、M−315、M−320、M−350、M−360、M−208、M−210、M−215、M−220、M−225、M−233、M−240、M−245、M−260、M−270、M−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−221、M−203、TO−924、TO−1270、TO−1231、TO−595、TO−756、TO−1343、TO−902、TO−904、TO−905、TO−1330、日本化薬(株)製KAYARAD D−310、D−330、DPHA、DPCA−20、DPCA−30、DPCA−60、DPCA−120、DN−0075、DN−2475、SR−295、SR−355、SR−399E、SR−494、SR−9041、SR−368、SR−415、SR−444、SR−454、SR−492、SR−499、SR−502、SR−9020、SR−9035、SR−111、SR−212、SR−213、SR−230、SR−259、SR−268、SR−272、SR−344、SR−349、SR−601、SR−602、SR−610、SR−9003、PET−30、T−1420、GPO−303、TC−120S、HDDA、NPGDA、TPGDA、PEG400DA、MANDA、HX−220、HX−620、R−551、R−712、R−167、R−526、R−551、R−712、R−604、R−684、TMPTA、THE−330、TPA−320、TPA−330、KS−HDDA、KS−TPGDA、KS−TMPTA、共栄社化学(株)製ライトアクリレート PE−4A、DPE−6A、DTMP−4A、新中村化学(株)製NKエステルA−TMM−3LM−N等を挙げることができる。
【0018】
成分(A)は、その全量を100重量%として、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリルモノマーを50重量%以上含有することが好ましく、70重量%以上がより好ましく、100重量%であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明の組成物における成分(A)の配合量は、成分(D)以外の合計を100重量部としたときに40〜95重量部の範囲内が好ましく、45〜90重量部の範囲内であることが好ましく、50〜90重量部の範囲内であることがより好ましい。成分(A)が上記範囲で配合されることで、高い硬度の硬化膜を得ることができる。
【0020】
(B)光重合開始剤
本発明における成分(B)は、光重合開始剤である。光重合開始剤(B)としては、放射線(光)照射により活性ラジカル種を発生させる化合物(放射線(光)重合開始剤)であり、汎用されているものを挙げることができる。
【0021】
光重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生して重合を開始せしめるものであれば特に制限はなく、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等を挙げることができる。
【0022】
光重合開始剤の市販品としては、例えば、BASF社製イルガキュア 184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、ダロキュア 1116、1173、ルシリン TPO、8893、UCB社製ユベクリル P36、ランベルティ社製エザキュアーKIP150、KIP65LT、KIP100F、KT37、KT55、KTO46、KIP75/B等を挙げることができる。
【0023】
本発明の組成物中における成分(B)の含有量は、成分(D)以外の合計を100重量部としたときに、0.1〜10重量部の範囲内であることが好ましく、0.3〜5重量部の範囲内であることがより好ましく、0.5〜5重量部の範囲内とすることがさらに好ましい。尚、成分(B)の含有量は、上記の範囲内で、成分(A)の含有量を基準に決めることもできる。例えば、成分(A)の含有量を100重量部とした場合に、成分(B)の含有量は0.25〜20重量部とすることが好ましく、0.5〜15重量部とすることがより好ましい。成分(B)の含有量を上記範囲内とすることで高硬度な硬化膜を得ることが可能となる。
【0024】
(C)脂肪酸エステルからなる非イオン界面活性剤(以下、成分(C)を「(C)脂肪酸エステル系界面活性剤」ということがある。)
成分(C)は、本発明で得られるハードコート層に付着した指紋を見えにくくすると共に、指紋の拭き取り性を良好にする目的で配合される。本発明の硬化性組成物は、スプレー塗工で好適に使用される。スプレーで塗工する場合は、界面活性剤が塗膜表面に偏在化しにくいため、他の塗工方法で塗布する場合と比較して、多量の界面活性剤を配合する必要が生じるが、HLBを2〜7の範囲の非イオン界面活性剤を使用することで、硬化膜の白化を抑制することができる。また同様な理由から、成分(C)のHLBは2〜4であることが好ましい。また、成分(C)に(メタ)アクリロイル基を付与することにより、本発明の組成物中のバインダー成分と結合して固定化することができるため、(C)脂肪酸エステル系界面活性剤が硬化膜表面にブリードアウトするのを防止することができる。これにより、得られる硬化膜のの耐久性が向上する。さらに、成分(C)は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数6〜30の1価又は2価の炭化水素基を有することが好ましい。炭素数6〜30の炭化水素基を有することで、得られる硬化膜に指紋視認性や指紋拭き取り性を付与することができる。ここで「指紋視認性」とは、フィルム表面に指紋を付着させたときの肉眼での見え難さを意味する。
【0025】
ここで、HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値とは、界面活性剤の特性を示す重要な指数であって、親水性又は親油性の大きさの程度を示す。HLB値は次の計算式によって求めることができる。
HLB=7+11.7Log(M/M
ここにMは親水基の分子量、Mは親油基の分子量である。M+M=M(界面活性剤の分子量)である。本発明で用いる(C)脂肪酸エステル系界面活性剤のHLB値は2〜7の範囲内であることが必要であり、2〜4の範囲内であることが好ましい。HLB値を上記の範囲内とすることで、界面活性剤を多量に配合しても白化することがなく、スプレー塗工に適した組成物を得ることができる。
【0026】
成分(C)に(メタ)アクリロイル基を付与する方法として、例えば、水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤の水酸基を(メタ)アクリロイル基に変換することにより得ることができる。具体的には、成分(C)は、脂肪酸エステル系界面活性剤が有する水酸基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを反応させることにより得ることができる。
(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、例えば、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を使用することができる。このような化合物を用いることにより、脂肪酸エステル系界面活性剤の水酸基とイソシアネート基とが反応しウレタン結合を形成することで(メタ)アクリロイル基が導入される。
イソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物の具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、1,1−ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]エチルイソシアネート等を使用することができる。また、ジイソシアネート化合物に水酸基と(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を反応させて得ることもできる。このようなジイソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルが好ましい。
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の市販品としては、例えば、EMALEX HCシリーズ(日本エマルジョン社製)、ノイゲンHCシリーズ(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
ポリオキシエチレン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、EMALEX GWIS−100EX(イソステアリン酸グリセリル、日本エマルジョン社製)、ノイゲンGISシリーズ(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0028】
水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤と、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応は、以下のようにして行うことができる。
即ち、イソシアネート化合物と水酸基含有化合物の反応であり、通常ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ジブチル錫ジラウレート、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン、2,6,7−トリメチル−1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン等のウレタン化触媒を、反応物の総量100重量部に対して0.01〜1重量部用いるのが好ましい。また、これらの化合物の反応においては、無触媒で行うこともできる。反応温度は、通常0〜90℃であり40〜80℃で行うのが好ましい。反応は、無溶剤で行っても、溶剤に溶解させて行ってもよい。
【0029】
成分(C)は、例えば下記式(1)で示される構造を有することができる。
【0030】
【化1】

式(1)中、各記号の意味は下記の通りである。Xは置換されていてもよい炭素数3〜10の(m+m)価の炭化水素基を示す。複数個あるY及びYはそれぞれ独立にエーテル結合、エステル結合、或いはウレタン結合を含む2価の基又は単結合を示し、Y及びYの少なくとも1個は脂肪酸に由来する構造を有する。Zは(メタ)アクリロイル基を1個以上有する基を示す。複数個あるR11及びR12はそれぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖又は分岐の炭化水素基を示す。m及びmはそれぞれ0〜10の整数であり、n及びnはそれぞれ独立に0〜20の整数である。ただし、m及びmは同時に0ではない。
【0031】
成分(C)の化合物は、次のようにして合成することができる。
水酸基を有する界面活性剤に対し、反応後のHLBが2〜7になる様な比率で(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物又は(メタ)アクリル酸を反応させることで得ることができる。例えば、3個の水酸基を有する界面活性剤を原料として使用する場合、原料の界面活性剤のHLBが5の場合は、水酸基の1/3モル当量の(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物又は(メタ)アクリル酸を反応させるだけでもよい。原料の界面活性剤のHLBが9の場合、水酸基の等モル当量の(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物又は(メタ)アクリル酸を反応させることが好ましい。
【0032】
本発明の組成物における成分(C)の含有量は、成分(A)及び(B)の合計100重量部に対して、10〜100重量部の範囲内であり、10〜80重量部の範囲内であることがより好ましく、10〜50重量部の範囲内であることがさらに好ましい。成分(C)の含有量を上記範囲とすることで、スプレー塗工においても十分な指紋視認性が得られるため好ましい。なお、成分(C)が(メタ)アクリロイル基を有しない場合は、硬化膜の硬度が低下するおそれがあるため、成分(C)の配合量を、成分(A)及び(B)の合計100重量部に対して、10〜50重量部とすることが好ましい。
【0033】
(E)無機酸化物粒子
本発明の組成物は成分(E)として無機酸化物粒子を含有していてもよい。成分(E)は、無機酸化物を主成分とする粒子であれば特に限定されない。成分(E)は、積層フィルムの硬度を向上させたり、カールを小さくする効果が期待される。
【0034】
成分(E)は、得られる硬化性組成物の硬化膜の透明性、色合いの観点から、選択して用いることができる。
【0035】
成分(E)の好ましい例示としては、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の無機酸化物を主成分とする粒子を挙げることができ、具体的には、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム等の粒子を挙げることができる。中でも、高硬度の観点から、シリカ、アルミナ、ジルコニア及び酸化アンチモンの粒子が好ましい。これらは単独で又は2種以上を組合わせて用いることができる。さらには、成分(E)は、粉体状又は溶剤分散ゾルとして用いるのが好ましい。溶剤分散ゾルとして用いる場合、分散媒としては、水や有機溶剤等特に限定されないが、他の成分との相溶性、分散性の観点から、分散媒は、有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。中でも、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレンが好ましい。
【0036】
成分(E)の数平均粒子径は、1〜200nmの範囲内にあることが好ましく、5〜150nmの範囲内であることがより好ましく、10〜100nmの範囲内であることがさらに好ましい。数平均粒子径が上記の範囲であると、硬化物としたときの透明性と硬度の両立が可能となる。無機酸化物粒子(E)の数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察で測定した20個の粒子径の平均値をいう。また、粒子の分散性を改良するために各種の界面活性剤やアミン類を添加してもよい。
【0037】
ケイ素酸化物粒子(例えば、シリカ粒子)として市販されている商品としては、例えば、コロイダルシリカとして、日産化学工業(株)製メタノ−ルシリカゾル、IPA−ST、MEK−ST、NBA−ST、XBA−ST、DMAC−ST、ST−UP、ST−OUP、ST−20、ST−40、ST−C、ST−N、ST−O、ST−50、ST−OL等を挙げることができる。また粉体シリカとしては、日本アエロジル(株)製アエロジル130、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルOX50、旭硝子(株)製シルデックスH31、H32、H51、H52、H121、H122、日本シリカ工業(株)製E220A、E220、富士シリシア(株)製SYLYSIA470、日本板硝子(株)製SGフレ−ク等を挙げることができる。
【0038】
また、アルミナの水分散品としては、日産化学工業(株)製アルミナゾル−100、−200、−520;アルミナのイソプロパノール分散品としては、住友大阪セメント(株)製AS−150I;アルミナのトルエン分散品としては、住友大阪セメント(株)製AS−150T;ジルコニアのトルエン分散品としては、住友大阪セメント(株)製HXU−110JC;アンチモン酸亜鉛粉末の水分散品としては、日産化学工業(株)製セルナックス;アルミナ、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛等の粉末及び溶剤分散品としては、シーアイ化成(株)製ナノテック;アンチモンドープ酸化スズの水分散ゾルとしては、石原産業(株)製SN−100D;ITO粉末としては、三菱マテリアル(株)製の製品;酸化セリウム水分散液としては、多木化学(株)製ニードラール等を挙げることができる。
【0039】
成分(E)の形状は球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、又は不定形状であり、好ましくは、球状である。成分(E)の比表面積(窒素を用いたBET比表面積測定法による)は、好ましくは、10〜1000m/gであり、さらに好ましくは、100〜500m/gである。
【0040】
成分(E)は、分子内に重合性不飽和基及び加水分解性シリル基を有する有機化合物(Eb)(以下、「粒子変性剤(Eb)」という。)で表面処理された無機酸化物粒子(以下、「反応性粒子(Ec)」という。)であることも好ましい。反応性粒子(Ec)に対して、粒子変性剤(Eb)で表面処理されていない成分(E)を、「酸化物粒子(Ea)」という。反応性粒子(Ec)は、バインダー成分と共有結合を形成することができるため、耐擦傷性、耐熱性及び透明性により優れた硬化膜を得ることができる。
【0041】
粒子変性剤(Eb)
本発明に用いられる粒子変性剤(Eb)は、重合性不飽和基及び加水分解性シリル基を有する有機化合物であれば特に限定されない。重合性不飽和基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和基が挙げられる。尚、加水分解性シリル基とは、水と反応してシラノール(Si−OH)基を生成するものであって、例えば、ケイ素に1以上のメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、等のアルコキシ基、アリールオキシ基、アセトキシ基、アミノ基、ハロゲン原子が結合したものが挙げられる。
【0042】
本発明で用いられる粒子変性剤(Eb)は、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の市販品を使用することもできるし、例えば、国際公開公報WO97/12942号公報に記載された化合物を用いることもできる。
【0043】
反応性粒子(Ec)の調製
反応性粒子(Ec)は、粒子変性剤(Eb)を酸化物粒子(Ea)と混合し、加水分解させ、両者を結合させることにより得られる。得られる反応性粒子(Ec)中の有機重合体成分即ち加水分解性シランの加水分解物及び縮合物の割合は、通常、反応性粒子(Ec)の乾燥粉体を空気中で完全に燃焼させた場合の重量減少%の恒量値として、例えば空気中で室温から通常800℃までの熱重量分析により求めることができる。
【0044】
酸化物粒子(Ea)への粒子変性剤(Eb)の結合量は、反応性粒子(Ec)(酸化物粒子(Ea)及び粒子変性剤(Eb)の合計)を100重量%として、好ましくは、0.01〜40重量%であり、さらに好ましくは、0.1〜30重量%、特に好ましくは、1〜20重量%である。酸化物粒子(Ea)に反応させる粒子変性剤(Eb)の量を上記範囲とすることで、組成物中における反応性粒子(Ec)の分散性を向上させることができ、得られる硬化物の透明性、耐擦傷性を高める効果が期待できる。
【0045】
本発明の組成物における成分(E)は任意成分であるが、添加する場合の含有量は、酸化物粒子(Ea)である場合も反応性粒子(Ec)である場合も共に、成分(D)以外の合計を100重量部としたときに、1〜30重量部であることが好ましく、2〜20重量部の範囲内であることがより好ましい。成分(E)の含有量が1重量%未満であると、配合した効果が表れないおそれがあり、30重量部を超えると塗工性が低下するおそれがある。
尚、無機酸化物粒子(E)の含有量は、固形分を意味し、無機酸化物粒子(E)が溶剤分散ゾルの形態で用いられるときは、その含有量には溶剤の量を含まない。
【0046】
(D)有機溶剤
本発明の組成物は、スプレーでの塗工性を向上させるために、有機溶剤で希釈して用いられる。例えば、ハードコート材として用いる場合の粘度は、通常0.1〜100mPa・秒/25℃であり、好ましくは、0.5〜50mPa・秒/25℃である。
有機溶剤(D)としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。
【0047】
本発明の組成物において必要に応じて用いられる有機溶剤(D)の配合量は、溶剤を除く成分の合計を100重量部としたときに、50〜10,000重量部の範囲内であることが好ましい。溶剤の配合量は、塗布膜厚、組成物の粘度、スプレーノズルの形状、ノズル径等を考慮して適宜決めることができる。
【0048】
(F)その他の添加剤
本発明の組成物には、上記成分の他、必要に応じて(A)、(C)及び(Ec)成分以外のラジカル重合性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レベリング剤等を添加することができる。
【0049】
本発明の組成物は、上記(A)〜(D)成分、及び、必要に応じて、(E)〜(G)成分から任意に選択した成分をそれぞれ添加して、室温又は加熱条件下で混合することにより調製することができる。具体的には、ミキサ、ニーダー、ボールミル等の公知の混合機を用いて調製することができる。ただし、加熱条件下で混合する場合には、重合開始剤や重合性不飽和基の分解開始温度以下で行うことが好ましい。
上記のようにして得られた本発明の組成物は、放射線(光)によって硬化させることができる。
【0050】
II.硬化膜
本発明の硬化膜は、前記本発明の組成物を種々の基材にコーティングして硬化させることにより得ることができる。具体的には、組成物をコーティングし、必要に応じて、0〜200℃で(D)有機溶剤等の揮発成分を揮発させて除去した後、放射線で硬化処理を行うことにより得ることができる。
基材へのコーティング方法は、スプレー塗工の他、通常のコーティング方法、例えばディッピングコート、フローコ−ト、シャワーコート、ロールコート、スピンコート、刷毛塗り等を挙げることができる。これらコーティングにおける塗膜の厚さは、乾燥、硬化後の膜厚で、好ましくは0.1〜400μmであり、より好ましくは、0.5〜200μmである。
【0051】
放射線としては、組成物をコーティング後短時間で硬化させることができるものである限り特に制限はないが、照射装置の入手しやすさ等の理由で、紫外線、電子線が好ましい。紫外線の線源としては、水銀ランプ、ハライドランプ、レーザー等を、また電子線の線源としては、市販されているタングステンフィラメントから発生する熱電子を利用する方式等を使用することができる。放射線として紫外線又は電子線を用いる場合、好ましい紫外線の照射光量は0.01〜10J/cmであり、より好ましくは、0.1〜2J/cmである。また、好ましい電子線の照射条件は、加速電圧は10〜300kV、電子密度は0.02〜0.30mA/cmであり、電子線照射量は1〜10Mradである。
【0052】
III.基材
被覆の対象となる基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ、メラミン、トリアセチルセルロース、ABS、AS、ノルボルネン系樹脂等のプラスチック、ガラス、木材、金属等が挙げられる。直接塗布した場合に、基材とハードコート層の密着性が劣る場合は、予め基材に下地処理を行ってもよい。
【0053】
IV.適用例
本発明のハードコート層は、指紋視認性や指紋拭き取り性に優れるので、人が直接触れる様な、携帯電話、情報端末等の各種携帯機器の表面保護層として特に好適に用いられる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。尚、特にことわらない限り、「%」は重量%を表し、「部」は重量部を表す。
【0055】
合成例1:化合物(C−1)の製造
【0056】
【化2】

式(2)中、Rは、下記式(3)で表される基である。a+b+c=7である。
【0057】
【化3】

【0058】
撹拌機を取り付けた3つ口フラスコに、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル社製、ヨシノックスBHT)0.030g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学製、NKエステル A−TMM−3LM−N)21.05g、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(住化バイエルウレタン社製、デスモジュールI)9.10g、及びメチルイソブチルケトン(三菱化学社製)50.00gを仕込み、そこにジラウリル酸ジオクチル錫(共同薬品社製、KS−1200−A)0.031gを添加した後、室温で2時間撹拌した。次いで、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日本エマルジョン社製、EMALEX HC−7;HLB値6)19.52gを添加した。反応液を60℃まで昇温して2時間攪拌し、化合物(C−1)を得た。また、アクリル化反応はほぼ定量的に進行するため、仕込量から求めた化合物(C−1)のHLBは3である。
【0059】
合成例2〜6:化合物(C−2)〜(C−6)の製造
表1に示す化合物を、表1に示す割合で使用した以外は合成例1と同様にして化合物(C−2)〜(C−6)を得た。それぞれのHLBは表1に記載したとおりである。
【0060】
化合物(C−2)
【0061】
【化4】

式(4)中、Rは、それぞれ下記式(5)で表される基である。a+b+c=7である。
【0062】
【化5】

【0063】
化合物(C−3)、(C−4)及び(C−5)
【0064】
【化6】

式(6)中、Rは、各々独立に、水素原子又は下記式で表される基である。ただし、式(6)が(C−3)の場合は、Rは下記式(5)で表される基である。a+b+c=5である。
【0065】
【化7】

【0066】
化合物(C−6)
【0067】
【化8】

式(7)中、R4は、各々独立に、水素原子又は下記式(8)で表される基である。a+b+c=5である。
【0068】
【化9】

【0069】
合成例7:化合物(C−7)の製造
【0070】
【化10】

式(9)中、R5はそれぞれ独立に、水素原子又は下記式(10)で表される基である。a+b+c=5である。
【0071】
【化11】

【0072】
撹拌機を取り付けた3つ口フラスコに、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル社製、ヨシノックスBHT)0.005g、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工社製、カレンズMOI)1.79gを仕込み、そこにジラウリル酸ジオクチル錫(共同薬品社製、KS−1200−A)0.040gを添加した後、室温で2時間撹拌した。次いで、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日本エマルジョン社製、EMALEX HC−5;HLB値5)48.17gを添加した。反応液を60℃まで昇温して2時間攪拌し、化合物(C−7)を得た。
【0073】
【表1】

【0074】
合成例8:化合物(C−8)の製造
【0075】
【化12】

【0076】
攪拌機を取り付けた3つ口フラスコに、ヒマシ油(和光純薬製)0.933g、0.05mol/l硫酸を0.036g混合し、60℃で加熱攪拌することにより、水酸基濃度6.1mmol/gの化合物(C−8)を得た。(C−8)のHLBは2である。
【0077】
表1中に記載した化合物は下記の通りである。
HC−7:EMALEX HC−7、下記式で表される構造を有するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、日本エマルジョン社製。
【0078】
【化13】

EMALEX HC−7(a+b+c=7)、HLB値:6
【0079】
TDI:三井化学ポリウレタン社製、TOLDY−100、トリレンジイソシアネート、分子量:174.16
【0080】
IPDI:デスモジュールI、住化バイエルウレタン社製、イソホロンジイソシアネート、分子量:222.29
【0081】
カレンズMOI:昭和電工社製、2−メタクリロキシエチルイソシアネート、分子量:155.15
【0082】
PETA:NKエステル A−TMM−3LM−N、新中村化学社製、ペンタエリスリトールトリアクリレート、分子量:298.3
【0083】
HEA:大阪有機化学社製、ヒドロキシエチルアクリレート、分子量:116.11
BHT:ヨシノックスBHT、吉富ファインケミカル社製、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、分子量:220
KS−1200−A:共同薬品社製、ジラウリル酸ジオクチル錫
MIBK:メチルイソブチルケトン
【0084】
製造例1
粒子変性剤(Eb)の合成
乾燥空気中、メルカプトプロピルトリメトキシシラン221部、ジブチル錫ジラウレート1部からなる溶液に対し、イソホロンジイソシアネート222部を攪拌しながら50℃で1時間かけて滴下後、70℃で3時間加熱攪拌した。これに新中村化学製NKエステルA−TMM−3LM−N(ペンタエリスリトールトリアクリレート60重量%とペンタエリスリトールテトラアクリレート40重量%とからなる。このうち、反応に関与するのは、水酸基を有するペンタエリスリトールトリアクリレートのみである。)549部を30℃で1時間かけて滴下後、60℃で10時間加熱攪拌することで重合性不飽和基を含む粒子変性剤(Db)を得た。生成物中の残存イソシアネート量をFT−IRで分析したところ0.1%以下であり、反応がほぼ定量的に終了したことを示した。生成物の赤外吸収スペクトルは原料中のメルカプト基に特徴的な2550cm−1の吸収ピーク及び原料イソシアネート化合物に特徴的な2260cm−1の吸収ピークが消失し、新たにウレタン結合及びS(C=O)NH−基に特徴的な1660cm−1のピーク及びアクリロキシ基に特徴的な1720cm−1のピークが観察され、重合性不飽和基としてのアクリロキシ基と−S(C=O)NH−、ウレタン結合を共に有するアクリロキシ基修飾アルコキシシランが生成していることを示した。以上により、粒子変性剤(Eb)が合計で773部とペンタエリスリトールテトラアクリレート220部が得られた。
【0085】
製造例2
(Ec)である反応性粒子1(I)の製造
製造例1で製造した組成物2.98部(粒子変性剤(Eb)を2.32部含む)、シリカ粒子分散液(Ea)(固形分:35重量%、MEK−ST−L、数平均粒子径0.08μm、日産化学工業(株)製)89.90部、イオン交換水0.12部、及びp−ヒドロキシフェニルモノメチルエーテル0.01部の混合液を、60℃、4時間攪拌後、オルト蟻酸メチルエステル1.36部を添加し、さらに1時間同一温度で加熱攪拌することで反応性粒子分散液を得た。この分散液をアルミ皿に2g秤量後、175℃のホットプレート上で1時間乾燥、秤量して固形分含量を求めたところ、36.5重量%であった。また、分散液を磁性るつぼに2g秤量後、80℃のホットプレート上で30分予備乾燥し、750℃のマッフル炉中で1時間焼成した後の無機残渣より、固形分中の無機含量を求めたところ、95重量%であった。固形分量70重量%になるまで濃縮して、シリカ粒子(I)分散液とした。得られたシリカ粒子(I)の透過型電子顕微鏡法により測定した数平均粒子径は、80nmであった。
【0086】
製造例3
(Ec)である反応性粒子2(S)の製造 γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング・シリコーン株製 SZ6030)3.14部、シリカ粒子分散液(Da)(固形分:35重量%、MEK−ST−L、数平均粒子径0.08μm、日産化学工業(株)製)89.90部、イオン交換水0.12部、及びp−ヒドロキシフェニルモノメチルエーテル0.01部の混合液を、60℃、4時間攪5拌後、オルト蟻酸メチルエステル1.36部を添加し、さらに1時間同一温度で加熱攪拌することで反応性粒子分散液を得た。この分散液をアルミ皿に2g秤量後、175℃のホットプレート上で1時間乾燥、秤量して固形分含量を求めたところ、36.5重量%であった。また、分散液を磁性るつぼに2g秤量後、80℃のホットプレート上で30分予備乾燥し、750℃のマッフル炉中で1時間焼成した後の無機残渣より、固形分中の無機含量を求めたところ、93重量%であった。得られたシリカ粒子(I)の透過型電子顕微鏡法により測定した数平均粒子径は、50nmであった。
【0087】
実施例1
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製:KAYARAD DPHA)21.6重量部、光重合開始剤(BASF製:イルガキュア184)0.6重量部、光重合開始剤(BASF製:イルガキュア907)0.4重量部及び合成例1で製造した化合物(C−1)を4.8重量部(固形分は2.4重量部)を添加し、さらにメチルイソブチルケトンを22.6部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを50重量部添加し、撹拌して硬化性組成物1を得た。
【0088】
実施例2〜18及び比較例1〜3
表2及び表3に示す配合量で各成分を用いた以外は実施例1と同様にして各硬化性組成物を製造した。なお、表2及び表3に記載した(D)成分以外の配合量は、固形分としての量を表す。
【0089】
<硬化膜の製造>
厚さ188μmのPETフィルム上に、上記実施例及び比較例で得られた各硬化性組成物を、スプレー塗工法で塗工した(膜厚6μm)。80℃で3分乾燥した後、高圧水銀灯を用いて空気下で照射量300mJ/cmで紫外線を照射して光硬化して各硬化膜を作製した。
【0090】
<硬化膜の物性評価>
上記のようにして作成した硬化膜の下記特性を評価し、得られた結果を表2に示す。
(1)ヘーズ(%)の測定
硬化膜のヘーズ(%)を、カラーヘーズメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、JIS K7105に準拠して測定した。
【0091】
(2)全光線透過率(Tt;%)の測定
硬化膜の全光線透過率(%)を、カラーヘーズメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、JIS K7105に準拠して測定した。
【0092】
(3)指紋視認性
フィルムの裏面を黒打ちし、フィルム表面に指紋を付着させた。その後、フィルム表面の垂直上方より目視観察し、下記評価基準に従って評価した。
○:指紋が見え難い
△:指紋があることは分かるがはっきりとは見えない
×:指紋がはっきり見える
【0093】
(4)指紋拭き取り性試験
フィルムの裏面を黒打ちし、フィルム表面に指紋を付着させた。その後、指紋をテッシュで拭き取り、下記評価基準に従って評価した。
○:拭き取れる。
△:拭き取りにくい。
×:拭き取れない。
【0094】
(5)接触角(°)の測定
水及びヘキサデカンに対する、硬化膜の接触角を協和界面化学株式会社製の接触角計Drop Master500を用いてJIS6768に準拠して測定した。
【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
表2及び表3中に記載した化合物は下記の通りである。
反応性粒子1:製造例2で合成した反応性粒子1(Ec)
反応性粒子2:製造例3で合成した反応性粒子2(Ec)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:日本化薬株式会社製、KAYARAD DPHA
ペンタエリスリトールトリアクリレート:新中村化学株式会社製、NKエステルA−TMM−3LM−N
Irg.184:BASF社製、光重合開始剤
Ifg.907:BASF社製、光重合開始剤
成分(C)の各化合物は、合成例1〜7で合成
エマレックス SPE−100S:日本エマルジョン社製、ヤシ脂肪酸ソルビタン、HLB9
エマレックス SPO−100:日本エマルジョン社製、モノオレイン酸ソルビタン、HLB9

【0098】
表2及び表3の結果から、実施例の硬化膜は、透明性、指紋視認性、指紋拭き取り性、のいずれにも優れていることがわかる。
これに対し、HLBが9の比較例1〜3は、指紋視認性、指紋拭き取り性のいずれも劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の組成物は、指紋視認性、指紋拭き取り性に優れると同時に高い透明性を有する硬化膜を提供できる。
本発明の組成物は、スプレー塗工に適したハードコート形成用硬化性組成物として有用である。
【0100】
本発明の組成物を硬化させてなる硬化膜は、指紋視認性や指紋拭き取り性に優れ、耐擦傷性、乾熱耐性、湿熱耐性に優れ、さらに高い透明性を有しているので、タッチパネル、フィルム型液晶素子、プラスチック容器、建築内装材としての床材、壁材、人工大理石、ガラスパネル等の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コーティング材として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、
下記成分(A)〜(D)を含有し、硬化性組成物をスプレー塗工して塗膜を形成する工程、並びに、
前記塗膜に放射線を照射してハードコート層を形成する工程を含む、ハードコート層の形成方法。
(A)多官能(メタ)アクリルモノマー
(B)光重合開始剤
(C)脂肪酸エステルからなりHLBが2〜7である非イオン界面活性剤
(D)有機溶剤
【請求項2】
前記成分(C)の配合量が、前記(A)成分及び前記(B)成分の合計100重量部に対して、10重量部を超えて100重量部以下である、請求項1に記載のハードコート層の形成方法。
【請求項3】
前記成分(C)のHLBが2〜4である、請求項1又は2に記載のハードコート層の形成方法。
【請求項4】
下記成分(A)〜(D)を含有する、スプレー塗工用硬化性組成物。
(A)多官能(メタ)アクリルモノマー
(B)光重合開始剤
(C)脂肪酸エステルからなりHLBが2〜7である非イオン界面活性剤
(D)有機溶剤
【請求項5】
前記成分(C)の配合量が、前記(A)成分及び前記(B)成分の合計100重量部に対して、10重量部を超えて100重量部以下である、請求項4に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項6】
前記成分(C)が、直鎖状または分岐鎖状の炭素数6〜30の1価又は2価の炭化水素基を有する、請求項4又は5に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項7】
前記成分(C)が、(メタ)アクリロイル基を有する、請求項4〜6の何れか1項に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項8】
前記成分(C)のHLBが2〜4である、請求項4〜7のいずれか1項に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項9】
さらに、(E)数平均粒子径1〜200nmの無機酸化物粒子を含有する請求項4〜8のいずれか1項に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。
【請求項10】
前記成分(E)が重合性不飽和基を有する、請求項9に記載のスプレー塗工用硬化性組成物。

【公開番号】特開2012−106186(P2012−106186A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257341(P2010−257341)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】