説明

ハードコート用組成物、ハードコートフィルム及び表示デバイス

【課題】帯電防止性及び保存安定性に優れ、透明性が高く、基材との密着性に優れ、ハードコート層とした際に高い硬度を有するハードコート用組成物を提供すること。
【解決手段】(A)下記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマー、(B)硬化性樹脂、及び、(C)架橋剤を含有する樹脂組成物からなり、帯電防止性を有するハードコート用組成物。
M−N・・・(1)
(式中、Mは、置換若しくは無置換のチオフェン環基を表し、Nは、置換若しくは無置換のピロール環基を表す。Mによって表される環とNによって表される環は直接結合している。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性を有するハードコート用組成物、このハードコート用組成物を用いたハードコートフィルム及び表示デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ用途に代表される、各種光学フィルム(反射防止フィルム、防汚フィルムなど)や光学フィルタは、傷つきや埃付着を防止するため、ハードコート層や帯電防止層が形成されることが多い。このような光学用途に用いられるハードコート層や帯電防止層には、高い透明性が要求される。また、帯電防止層に対しては、表面抵抗が10〜1012Ω程度の抵抗値を有することが必要とされる。さらに、このような用途においては、安定した帯電防止性が重要であり、経時により抵抗値が上昇し、帯電防止性能が低下することが無い物が要求されている。
このような要求に対して、従来、ハードコート性を有する帯電防止塗料として、ITO(酸化錫ドープ酸化インジウム)やATO(酸化錫ドーブ酸化アンチモン)などの透明性無機導電性酸化物の微粒子を、各種の硬化性樹脂に分散させたハードコート樹脂組成物が使用されていた。
【0003】
帯電防止性としての導電膜を形成する方法として、InやSnOの粒子を有機溶剤に分散させたものを用いる方法も公知であるが(例えば、特許文献1参照)、この方法によれば安価に導電膜が形成できる反面、抵抗値が無機導電性酸化物の分散性に影響されやすく、帯電防止性が不安定であった。また、上記のITO粉体を印刷・塗布焼成して製造された透明導電膜は、乾燥および焼成時に揮発成分と熱分解成分とが膜中から抜け出ていくため、抜けた後には空孔が残り多孔質の膜となり、基板とITO粉体およびITO粉体同士の結合が弱いので、膜としての強度に欠け、密着性が悪くなるといった欠点があった。さらに、無機導電性酸化物は、固有の屈折率が有機質の樹脂と大きく異なるために多量に配合するとヘイズが増大して透明性が損なわれることとなった。
【0004】
また、帯電防止性樹脂組成物として、導電性高分子を溶媒に溶解または分散させ、ハードコート成分を混合した帯電防止性樹脂組成物が考えられる。しかしながら、導電性高分子は、通常、不溶不融であり、加工性に乏しい為樹脂組成物中に均一に溶解・分散せず、塗膜にした場合も透明性や膜強度、密着性に劣る傾向にあった。
【0005】
このような課題に対して、導電性高分子の構造中に、親油性の置換基を導入し溶媒に溶解可能となる導電性高分子が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
また、分子内にアニオン基及び/又は電子吸引性基を有する可溶化高分子成分と導電性高分子成分とを含む可溶性導電性高分子が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−26768号公報
【特許文献2】特許第3024867号公報
【特許文献3】特許第4350597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された導電性高分子は、導電性に寄与しない嵩高いアルキル鎖が導電性高分子中に含まれているために、溶媒に可溶でハードコート樹脂への混合が可能にはなるものの、優れた導電性を有するとともに、保存安定性に優れるというバランスの良い組成物を調製できないとの問題点があった。
【0008】
また、特許文献3に記載の可溶性導電性高分子では、この可溶性導電性高分子を安定的に溶剤に溶解させるためには、可溶性導電性高分子の比率を高めなければならず、その結果、ハードコート成分との相溶性が低下したり、導電性が低下するとの問題が発生することとなった。
【0009】
即ち、現状の導電性高分子とハードコート成分とを含有するハードコート用組成物においては、優れた導電性(帯電防止性)を維持し、導電性高分子とハードコート成分との相溶性を確保し、更に保存安定性を確保し、ハードコート層とした際に高い硬度を有することを同時に達成することは困難であった。
【0010】
本発明は、帯電防止性及び保存安定性に優れ、透明性が高く、基材との密着性に優れたハードコート用組成物を提供することを目的とする。さらには、これを用いたハードコートフィルム及び表示デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、導電性ポリマーである特定の複素環含有芳香族ポリマーと、硬化性樹脂と、架橋剤とを含有するハードコート用組成物が、ハードコート剤に求められる要求特性(硬度、耐擦傷性、透明性、ヘイズ等)を充足するとともに、帯電防止性及び保存安定性に優れ、かつ、このハードコート用組成物がハードコートフィルム及び表示デバイスに好適に用いることができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(A)下記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマー
M−N・・・(1)
(式中、Mは、置換若しくは無置換のチオフェン環基を表し、Nは、置換若しくは無置換のピロール環基を表す。Mによって表される環とNによって表される環は直接結合している。)、
(B)硬化性樹脂、及び、
(C)架橋剤
を含有する樹脂組成物からなり、帯電防止性を有するハードコート用組成物に関する。
【0013】
本発明のハードコート用組成物において、上記複素環含有芳香族化合物は、下記一般式(2′)で表される複素環含有芳香族化合物であることが好ましく、
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表すが、少なくとも一方は有機基を表す。また、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
下記構造式(2−1)〜(2−10)で表される複素環含有芳香族化合物のなかの少なくとも1つであることがより好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
本発明のハードコート用組成物において、上記硬化性樹脂は、多官能アクリレート又は多官能メタクリレートを含むもの、又は、ケイ素を含有する有機無機ハイブリッド樹脂を含むものが好ましい。
【0018】
本発明のハードコート用組成物は、有機溶媒を含むことが好ましい。
【0019】
本発明のハードコートフィルムは、本発明のハードコート用組成物を用いて形成された帯電防止性ハードコート層を備えることを特徴とする。
また、本発明の表示デバイスは、本発明のハードコートフィルムを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のハードコート用組成物は、導電性高分子として、チオフェン環基とピロール環基とが直接結合したカップリング体を単量体とする特定の複素環含有芳香族ポリマーを含有しており、この複素環含有芳香族ポリマーは、溶剤溶解性に優れるとともに、硬化性樹脂との相溶性に極めて優れるため、本発明のハードコート用組成物を用いて塗膜(ハードコート層)を形成することで、基材との密着性及び膜強度に優れるハードコート層を形成することができる。また、各種硬化性樹脂との相溶性が高いために均一分散するため、少ない添加量で機能を発揮し、透明性が向上する。
また、上記複素環含有芳香族ポリマーは、各種硬化性樹脂との相溶性に優れるため、硬化性樹脂の選択の自由度が高く、要求特性に応じた最適な硬化性樹脂と併用することができる。
本発明のハードコート用組成物は、上述した複素環含有芳香族ポリマーの特性に起因して、長期間に渡って構成成分の沈殿や、ゲル化等がみられず、長期間安定に保存することができる。
また、本発明のハードコート用組成物は、架橋剤を含有するため、硬化性樹脂の網目構造を密にし、架橋密度をアップさせることができ、その結果、ハードコート層とした際の硬度をより高めることができる。
また、本発明のハードコート用組成物は、ハードコートフィルムの作製や、このハードコートフィルムを用いた表示デバイスの製造に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のハードコートフィルムを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明のハードコート用組成物について説明する。
本発明のハードコート用組成物は、
(A)上記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマー、
(B)硬化性樹脂、及び、
(C)架橋剤
を含有する樹脂組成物からなり、帯電防止性を有する。
以下、本発明のハードコート用組成物を構成する各成分について、順に説明する。
【0023】
(A)複素環含有芳香族ポリマー
上記複素環含有芳香族ポリマーは、下記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物を単量体とする。
M−N・・・(1)
(式中、Mは、置換若しくは無置換のチオフェン環基を表し、Nは、置換若しくは無置換のピロール環基を表す。Mによって表される環とNによって表される環は直接結合している。)
【0024】
ここで、チオフェン環基とは2−チエニル基のことをいい、炭素原子上に置換基を有してもよい。
また、ピロール環基とは2−ピロリル基のことをいい、炭素原子上又は窒素原子上に置換基を有してもよい。
【0025】
上記一般式(1)におけるMで表される置換チオフェン環基としては、例えば、以下のような構造が挙げられる。
【0026】
【化3】

【0027】
(各式中、nは1から10の整数を示す。)
【0028】
上記一般式(1)におけるNで表される置換ピロール環基としては、例えば、以下のような構造が挙げられる。
【0029】
【化4】

【0030】
(各式中、nは1から10の整数を示す。)
【0031】
【化5】

【0032】
(各式中、nは1から10の整数、Rは、置換基を有していてもよい芳香族基又は炭素数1から10のアルキル基を示す。)
【0033】
上記チオフェン環基の置換基としては、例えば、後述の有機基等が挙げられるが、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数1から5のアルコキシ基が好ましい。
上記ピロール環基の置換基としては、例えば、後述の有機基等が挙げられるが、炭素原子上の置換基としては、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数1から5のアルコキシ基が好ましく、窒素原子上の置換基としては、炭素数1から10のアルキル基又は置換基を有していてもよいフェニル基が好ましい。
ここで、チオフェン環基やピロール環基の置換基であるアルキル基又はアルコキシ基には、ハロゲン元素やカルボン酸基、スルホン酸基などの官能基が結合していてもよい。
【0034】
上記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物(以下、複素環含有芳香族化合物(1)ともいう)において、チオフェン環とピロール環とは、環構造に含まれない原子を介して結合することはなく、両環に含まれる原子間の結合によって、直接結合している。
複素環含有芳香族化合物(1)としては、溶剤溶解性や耐熱性、耐候性の観点から、チオフェン環基又はピロール環基の3位又は4位に結合している置換基の数の合計が、2個以上である化合物が好ましい。また、3位又は4位に結合している置換基の数の合計が4個である場合(すなわち、すべての3位及び4位に置換基が結合している場合)、立体障害を避けるために、M又はNの少なくとも一方において、3位の置換基と4位の置換基が結合して環構造を形成していることが好ましい。
【0035】
上記複素環含有芳香族化合物(1)は、Mで示されるチオフェン環上の炭素原子のうち少なくとも1つは無置換であり、かつ、Nで示されるピロール環上の炭素原子のうち少なくとも1つは無置換である。このような複素環含有芳香族化合物(1)を単量体として酸化重合すると、無置換の炭素原子間でカップリング反応が進行することで、複素環含有芳香族ポリマーとして、繰り返し単位が−M−N−で示される直鎖状重合体が得られる。
M、Nによって表されるチオフェン環及びピロール環は、一方の2位の炭素原子間で互いに結合し、他方の2位の炭素原子が無置換であることが好ましい。
【0036】
上記複素環含有芳香族化合物としては、下記一般式(2)又は(3)のいずれかによって表される複素環含有芳香族化合物が好ましい。
これらの複素環含有芳香族化合物を単量体として酸化重合を行うと、酸化重合は、チオフェン環上の2位の無置換の炭素原子や、ピロール環上の2位の無置換の炭素原子において進行する。
【0037】
下記一般式(2)で表される複素環含有芳香族化合物は、一般式(1)におけるMが、3位及び/又は4位に置換基を有することがあるチオフェン環基であり、Nが、3位及び/又は4位に置換基を有することがあるピロール環基である。
【0038】
【化6】

【0039】
一般式(2)中、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表すが、少なくとも一方は有機基を表し、かつ、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表す(ケースi)か、あるいは、RとRがともに水素原子を表し、かつ、RとRは、それぞれ独立して、有機基を表す(ケースii)。
ここで、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよく、また、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。このような環構造としては、例えば、エチレンジオキシ基により形成される環構造が挙げられる。
【0040】
一般式(2)で表される複素環含有芳香族化合物は、ケースiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物や、ケースiiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物が好ましく、ケースiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物がより好ましい。
【0041】
さらに好ましくは、ケースiにおいて、RとRが互いに結合してエチレンジオキシ基を表す下記一般式(2′)で表される複素環含有芳香族化合物である。
【0042】
【化7】

【0043】
特に好ましくは、高い導電性と安定性を両立する為には、バンドギャップが小さく、酸化電位が高い化合物であり、下記構造式(2−1)〜(2−10)で表される化合物である。
これらの化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマーは、後述する硬化性樹脂(ハードコート成分)との相溶性及び溶剤溶解性に極めて優れるとともに、上記複素環含有芳香族ポリマーは、バンドギャップが小さく、酸化電位が高いことに起因して、本発明のハードコート用組成物に、優れた導電性を付与することができるからである。
【0044】
【化8】

【0045】
下記一般式(3)で表される複素環含有芳香族化合物は、一般式(1)におけるMが、3位及び/又は4位に置換基を有することがあるチオフェン環基であり、Nが、3位及び/又は4位に置換基を有することがあるN−置換ピロール環基である。
【0046】
【化9】

【0047】
一般式(3)中、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表すが、少なくとも一方は有機基を表し、かつ、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表す(ケースi)か、あるいは、RとRがともに水素原子を表し、かつ、RとRは、それぞれ独立して、有機基を表す(ケースii)。
ここで、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよく、また、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。このような環構造としては、例えば、エチレンジオキシ基により形成される環構造が挙げられる。また、一般式(3)中、Rnは有機基を表す。
【0048】
一般式(3)で表される複素環含有芳香族化合物は、ケースiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物や、ケースiiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物が好ましく、ケースiにおいて、RとRがそれぞれ独立して有機基を表し、これらが互いに結合して環構造を形成する化合物がより好ましい。
【0049】
さらに好ましくは、ケースiにおいて、RとRが互いに結合してエチレンジオキシ基を表す下記一般式(3′)で表される複素環含有芳香族化合物である。
【0050】
【化10】

【0051】
特に、一般式(3′)において、R及びRが水素原子を表し、Rnが置換基を有していてもよいフェニル基を表す下記一般式(3″)で示される化合物が好ましい。
【0052】
【化11】

【0053】
上記一般式(2)、(3)及び(3″)において、R〜R、Rn、Rxのそれぞれが表す有機基としては、例えば、炭素数1から10の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等)、炭素数1から10の直鎖状、分岐状または環状のアルケニル基(例えば、エチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基、シクロヘキセニル基等)、炭素数1から5のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等)、置換基を有していてもよいフェニル基(例えば、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、ビフェニル基、シクロヘキシルフェニル基等)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基等)等が挙げられる。
さらに、これらの有機基には、例えば、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、水酸基などの官能基やフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン元素等が結合していてもよい。
また、R〜Rは、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、水酸基、ハロゲン元素等であってもよい。
なお、以上の有機基はそれぞれ独立して選択される。
【0054】
〜Rが表す有機基としては、炭素数1から10のアルキル基又は炭素数1から5のアルコキシ基が好ましく、Rnが表す有機基としては、炭素数1から10のアルキル基、又は、フェニル基が好ましく、特にフェニル基が好ましい。
【0055】
隣接するR〜R(RとR、RとR、RとR、RとR)の両方が有機基であり、これらが互いに結合して環構造を形成する場合、環構造としては、特に限定されないが、炭素数2から10の脂環式構造が好ましい。
脂環式構造には酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、窒素原子などを含んでいてもよく、なかでも、特に酸素原子を含んだアルキレンジオキシ基を有する環構造が好ましい。
さらに、脂環式構造が芳香族性を有していてもよく、この場合、複素環含有芳香族化合物(1)のM、Nは、縮環構造を有する(例えば、イソチアナフテン等)事を意味する。
【0056】
次に、上記複素環含有芳香族化合物(1)の製造方法を説明する。
上記複素環含有芳香族化合物(1)は、超原子価ヨウ素反応剤の存在下、2種類の複素環芳香族化合物をカップリングさせることで製造することができる。このようなカップリング反応が超原子価ヨウ素反応剤の存在下では、1:1の比率で効率よく進行する。超原子価ヨウ素反応剤としては後述と同様のものを使用することができる。
【0057】
上記カップリング反応において、超原子価ヨウ素反応剤の使用量は特に限定されず、1種類の原料1モルに対して、好ましくは0.1〜4モル、更に好ましくは0.2〜3モルの割合で用い、更に好ましくは0.3〜2モルの割合で用いる。
【0058】
上記カップリング反応では、原料として、置換又は無置換のチオフェン化合物M−H、及び、置換又は無置換のピロール化合物N−Hを使用する。ここで、M及びNは上記と同様である。これらの化合物は、所望の生成物を得るために適宜選択すればよい。
【0059】
上記カップリング反応は、通常、溶媒の存在下で実施する。
上記溶媒としては、原料、複素環含有芳香族化合物(1)、及び、超原子価ヨウ素反応剤を溶解または分散させる溶媒であればよく、このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールエーテルアセテート類;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、トルエン、キシレン(o−、m−、あるいはp−キシレン)、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、クロロメタン(塩化メチル)、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン(四塩化炭素)などの有機溶媒、水とこれらの有機溶媒との混合溶媒(含水有機溶媒)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0060】
カップリング反応の系中には、添加剤を適宜添加しても良い。超原子価ヨウ素反応剤と添加剤とを併用することで、複素環含有芳香族化合物の収率を向上させることができ、また、超原子価ヨウ素反応剤の量を減らすことができる。
上記添加剤としては、例えば、ブロモトリメチルシラン、クロロトリメチルシラン、トリメチルシリルトリフラート、三フッ化ホウ素、トリフルオロ酢酸、塩酸、硫酸等が挙げられ、これらのなかではブロモトリメチルシランが好ましい。これらは単独で用いてもよく、複数で用いてもよい。
上記添加剤の使用量は、複素環含有芳香族化合物1モルに対して、好ましくは0.1〜4モル、より好ましくは0.2〜3モルの割合であり、更に好ましくは0.5〜2モルの割合である。
【0061】
また、カップリング反応の系中には、フッ素系アルコールを添加しても良い。超原子価ヨウ素反応剤とフッ素系アルコールとを併用することで、複素環含有芳香族化合物の収率を向上させることができ、また、超原子価ヨウ素反応剤の量を減らすことができる。
上記フッ素系アルコールとしては、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロエタノール等が挙げられ、これらのなかでは、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールが好ましい。
上記フッ素系アルコールの使用量は、特に特定されないが、用いる溶剤100重量部に対して1〜80重量部が好ましく、特に、10〜40重量部が好ましい。
【0062】
上記カップリング反応は、通常、各原料、超原子価ヨウ素反応剤、及び、溶剤や他の試薬等を混合して、−50℃〜100℃の温度範囲で、10分から48時間行うことによって、上記複素環含有芳香族化合物を製造することができる。
上記カップリング反応は、0〜50℃の温度範囲で30分〜8時間行うことが好ましく、10〜40℃の温度範囲で1〜4時間行うことがより好ましい。このとき、加える試薬の順序は問わない。
【0063】
次に、上記複素環含有芳香族化合物(1)を単量体として、複素環含有芳香族ポリマーを製造する方法について説明する。
上記複素環含有芳香族ポリマーの製造では、上記単量体(複素環含有芳香族化合物(1))を、各種酸化剤を用いた化学重合法により酸化重合する。
化学重合法は、簡便で大量生産が可能なため、従来の電解重合法と比べ工業的製法に適した方法である。
【0064】
上記化学重合法に用いる酸化剤としては特に限定されないが、例えば、スルホン酸化合物をアニオンとし、高価数の遷移金属をカチオンとする酸化剤等が挙げられる。この酸化剤を構成する高価数の遷移金属イオンとしては、Cu2+、Fe3+、Al3+、Ce4+、W6+、Mo6+、Cr6+、Mn7+及びSn4+が挙げられる。これらのなかでは、Fe3+およびCu2+が好ましい。
遷移金属をカチオンとする酸化剤の具体例としては、例えば、FeCl、Fe(ClO、KCrO、過ホウ酸アルカリ、過マンガン酸カリウム、四フッ化ホウ酸銅等が挙げられる。
また、遷移金属をカチオンとする酸化剤以外の酸化剤としては、例えば、過硫酸アルカリ、過硫酸アンモニウム、H等が挙げられる。さらに、超原子価ヨウ素反応剤に代表される超原子価化合物が挙げられる。
【0065】
特に好ましい実施形態は、酸化剤が超原子価ヨウ素反応剤である。
超原子価ヨウ素反応剤とは、3価または5価の超原子価状態にあるヨウ素原子を含む反応剤のことをいう。超原子価ヨウ素反応剤は、より安定なオクテット状態(1価のヨウ素)に戻ろうとする性質を有しているため、鉛(IV)、タリウム(III)、水銀(II)などの重金属酸化剤と類似の反応性を有する。さらに、超原子価ヨウ素反応剤は、このような重金属酸化剤に比べて低毒性であり、安全性に優れ、工業的な製法に適している。
【0066】
上記超原子価ヨウ素反応剤としては特に限定されず、3価の超原子価ヨウ素反応剤としては、例えば、フェニルイオジンビス(トリフルオロアセタート)または(ビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼン(以下、PIFAという場合がある))、フェニルイオジンジアセテート(ヨードソベンゼンジアセテート(以下、PIDAという場合がある))、ヒドロキシ(トシロキシ)ヨードベンゼン、ヨードシルベンゼン等が挙げられる。これらの反応剤の構造式を以下に示す。
【0067】
【化12】

【0068】
5価の超原子価ヨウ素反応剤としては、例えば、デスマーチンペルヨージナン(Dess-Martin periodinane(DMP))、o−ヨードキシ安息香酸(o-iodoxybenzoic acid(IBX))等が挙げられる。これらの反応剤の構造式を以下に示す。
【0069】
【化13】

【0070】
これらのなかでは、3価の超原子価ヨウ素反応剤が好ましく、PIFAが、安定で取り扱いやすく、十分に高い酸化能を有する点でより好ましい。
【0071】
また、超原子価ヨウ素反応剤の中でも、アダマンタン構造を有する超原子価ヨウ素反応剤、テトラフェニルメタン構造を有する超原子価ヨウ素反応剤を選択すると回収再利用できることから好ましい。より具体的には、1,3,5,7−テトラキス−(4−(ジアセトキシヨード)フェニル)アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−((4−(ヒドロキシ)トシロキシヨード)フェニル)アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−(4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニル)アダマンタン等の3価のアダマンタン構造を有する超原子価ヨウ素反応剤、または、テトラキス−4−(ジアセトキシヨード)フェニルメタン、テトラキス−4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニルメタン等の3価のテトラフェニルメタン構造を有する超原子価ヨウ素反応剤は、安定で取り扱いやすく、十分に高い酸化能を有する上に、脂溶性が高く回収再利用可能なので、さらに好ましい。
5価の超原子価ヨウ素反応剤を用いる場合は、デスマーチンペルヨージナン(DMP)が好ましい。
【0072】
このような超原子価ヨウ素反応剤は、合成により得られたものを用いてもよく、あるいは市販品を用いてもよい。例えば、PIFAは、PIDAにトリフルオロ酢酸を加えて反応させ、その結果、PIFAを反応生成物として析出させることにより得られる(J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1985, 757を参照のこと)。PIDAは、ヨードベンゼンを酢酸中、ペルオキソほう酸ナトリウム(4水和物)(NaBO・4HO)を用い酸化することにより得られる(Tetrahedron, 1989, 45, 3299およびChem. Rev., 1996, 96, 1123を参照のこと)。さらに、PIDAは、m−クロロ過安息香酸(mCPBA)を酸化剤としてヨードベンゼンから得られる(Angew. Chem. Int. Ed., 2004, 43, 3595を参照のこと)。1,3,5,7−テトラキス−(4−(ジアセトキシヨード)フェニル)アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−((4−(ヒドロキシ)トシロキシヨード)フェニル)アダマンタン、1,3,5,7−テトラキス−(4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニル)アダマンタン、テトラキス−4−(ジアセトキシヨード)フェニルメタン、テトラキス−4−ビス(トリフルオロアセトキシヨード)フェニルメタンは、例えば特開2005−220122号公報に記載の方法で合成できる。
【0073】
上記酸化剤の使用量は特に限定されないが、上記単量体1モルあたり1〜5モルの範囲が好ましく、より好ましくは2〜4モルの範囲である。特に上記酸化剤として超原子価ヨウ素反応剤を使用する場合、上記単量体1モルに対して、好ましくは1〜4モル、更に好ましくは1.5〜4モルの割合で用い、より好ましくは2〜2.5モルの割合で用いる。
超原子価ヨウ素反応剤の量が少ない場合、酸化重合反応が進みにくくなることがある。一方、超原子価ヨウ素反応剤の量が多すぎる場合、過剰酸化が起こり溶媒に全く不溶な生成物が得られることがあり、所望のポリマーの収率が低下することがある。
【0074】
上記複素環含有芳香族ポリマーの製造方法では、超原子価ヨウ素反応剤と金属を含まない酸化剤とを併用してもよい。超原子価ヨウ素反応剤と金属を含まない酸化剤とを併用することで、超原子価ヨウ素反応剤の使用量を減らすことができる。金属を含まない酸化剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、メタクロロ過安息香酸等が挙げられる。
【0075】
上述したように上記超原子価ヨウ素反応剤と金属を含まない酸化剤とを併用する場合、上記超原子価ヨウ素反応剤は酸化触媒として作用し、上記単量体1モルに対して、好ましくは0.001〜0.3モル、より好ましくは0.01〜0.1モルの割合で用いる。一方、金属を含まない酸化剤は、上記単量体1モルに対して、好ましくは1〜4モル当量、より好ましくは1.5〜2.5モル当量の割合で用いる。
【0076】
また、金属を含まない酸化剤と超原子価ヨウ素反応剤とを併用する場合、超原子価ヨウ素反応剤の量が少なすぎると、重合反応が十分に進行しないことがある。一方、超原子価ヨウ素反応剤の量が多すぎても、重合度は、ある一定の重合度より大きくならず、超原子価ヨウ素反応剤が無駄になることがある。
【0077】
なお、超原子価ヨウ素反応剤と金属を含まない酸化剤とを併用する場合は、重合反応を始める際は、超原子価ヨウ素反応剤の前駆体を用いても良い。具体的には、例えば、1,3,5,7−テトラキス−(4−(ジアセトキシヨード)フェニル)アダマンタンの前駆体である1,3,5,7−テトラキス−(4−ヨードフェニル)アダマンタンを触媒量と、化学量論量のメタクロロ過安息香酸を加えることで、反応系中で超原子価ヨウ素反応剤を発生させればよい。
【0078】
上記複素環含有芳香族ポリマーの製造方法では、複素環含有芳香族ポリマーに、ドーパントをドープしてもよい。ドーパントをドープすることによって、得られる複素環含有芳香族ポリマーにより高い導電性が付与され得る。ドーパントは、重合反応前に原料として仕込んでもよく、重合反応中に添加してもよく、あるいは重合反応後に得られる複素環含有芳香族ポリマーに添加してもよい。
【0079】
ドーパントとしては特に限定されないが、例えば、Cl、Br、I、IClなどのハロゲン;PF、BF、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルなどのルイス酸;HF、HCl、HNO、HSOなどのプロトン酸;p−トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などの有機酸等が挙げられる。
【0080】
導電性の付与を目的として用いるドーパントは、上記単量体1モルに対して、好ましくは0.05〜6モルの割合で用い、より好ましくは0.2〜4モルの割合で用いる。
上記ドーパントの量が0.05モルよりも少ない場合、複素環含有芳香族ポリマーに、十分な導電性を付与し得ない場合がある。一方、ドーパントの量が6モルよりも多い場合、複素環含有芳香族ポリマーに添加したすべてのドーパントがドープされず、添加量に比例した効果を望めない。また、余剰のドーパントも無駄になる。
【0081】
なお、上記ルイス酸は、ドーパントとして作用するだけではなく、酸化重合反応を促進させる作用も有する。酸化重合反応を促進させる目的でルイス酸を用いる場合、特に、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルが好ましく用いられる。
【0082】
上記酸化重合反応は、通常、溶媒の存在下で実施する。
上記溶媒としては、上記単量体、酸化剤、及び、ドーパントを溶解または分散させる溶媒であればよく、このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールエーテルアセテート類;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、トルエン、キシレン(o−、m−、あるいはp−キシレン)、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、クロロメタン(塩化メチル)、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン(四塩化炭素)等の有機溶媒、水とこれらの有機溶媒との混合溶媒(含水有機溶媒)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0083】
上記酸化重合反応の温度は、−100℃〜100℃が好ましい。溶媒として有機溶媒を用いる場合および水を用いる場合のいずれの場合も、より好ましくは0℃〜40℃である。反応温度が−100℃よりも低い場合、反応速度が遅くなったり、溶媒によっては凍結したりし、複素環含有芳香族ポリマーの収率が低下するおそれがある。一方、反応温度が100℃よりも高い場合、副反応や過剰酸化が起こり、複素環含有芳香族ポリマーの収率が低下するおそれがある。
【0084】
上記酸化重合反応の反応時間は、特に制限されない。酸化重合反応を促進させるためにルイス酸を用いた場合は12時間程度が好ましく、ルイス酸を用いない場合は20時間程度が好ましい。
【0085】
このようにして得られた複素環含有芳香族ポリマーには、精製処理を施してもよい。
精製方法(精製工程)としては特に限定されないが、例えば、反応後、溶媒をグラスフィルターでろ過し、得られたポリマーを、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ヘキサン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエンなどで洗浄する方法等が挙げられる。その他の精製方法としては、ソックスレー抽出などによる精製等が挙げられる。
【0086】
このような複素環含有芳香族ポリマーの製造方法では、洗浄後、得られた複素環含有芳香族ポリマーを、必要に応じて、通常の手段により乾燥する(乾燥工程)。
ここで、乾燥方法は、重合度、置換基、含まれるドーパントによって適宜決定可能であり、例えば、室温下(約25℃)での減圧(約0.5mmHg)乾燥、常圧下での加熱送風(約60℃)乾燥等が挙げられる。乾燥温度は、100℃以下が好ましく、200℃を超えると、複素環含有芳香族ポリマーが分解する危険性が高くなる。
【0087】
上記酸化重合において、アダマンタン構造およびテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤を用いた場合、下記のような方法で回収することが望ましい。例えば、反応を終えた溶液を減圧濃縮し、残渣(ポリマー、アダマンタン構造もしくはテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤、金属を含まない酸化剤、未反応の単量体)にメタノールを加えて混合し、グラスフィルターを用いてろ過することにより、金属を含まない酸化剤及び未反応の単量体はメタノール溶液として除去できる。残渣として残ったポリマー及びアダマンタン構造又はテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤は、ジエチルエーテルを加えて混合しグラスフィルターを用いてろ過することにより、残渣のポリマーと、ジエチルエーテル溶液のアダマンタン構造およびテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤とに分離することができる。そのジエチルエーテルを濃縮することで、アダマンタン構造およびテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤を回収することができる。アダマンタン構造およびテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤の回収方法は、上記の例に限定されないが、ポリマー、アダマンタン構造又はテトラフェニルメタン構造の超原子価ヨウ素反応剤、金属を含まない酸化剤および未反応の単量体の、溶媒種による溶解性の違いを利用し、適当な溶媒を選択することで、各々の成分を分離することができる。
【0088】
(B)硬化性樹脂
本発明のハードコート用組成物において、上記硬化性樹脂は、硬化することによりハードコート用組成物の硬化物に硬度を付与することができる成分であり、熱や光、電子線により硬化する。
なお、本明細書においては、上記硬化性樹脂をハードコート成分とも称する。
【0089】
上記硬化性樹脂(ハードコート成分)としては、(メタ)アクリル系樹脂(多官能アクリレート)、ポリエステルアクリレート、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂等の環状エーテル系樹脂、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドシリコーン、メラミン系樹脂、ケイ素を含有する有機無機ハイブリッド樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0090】
上記ハードコート成分は、(メタ)アクリル系樹脂、環状エーテル系樹脂、メラミン系樹脂及びケイ素を含有する有機無機ハイブリッド樹脂になるものを含むことが好ましく、多官能アクリレート又は多官能メタクリレートや、ケイ素を含有する有機無機ハイブリッド樹脂を含むことがより好ましい。
この理由は、(メタ)アクリル系樹脂や環状エーテル系樹脂は簡便に高架橋密度のネットワークを構築しやすく、高い硬度が得られ、基材に対する密着性も高いからである。
また、メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合体からなる熱硬化性樹脂であり、高密度ネットワークを構築しやすい。
【0091】
また、ケイ素を含有する有機無機ハイブリッド樹脂としては、メチルトリメトキシシラン、エポキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシランなどの3官能性シランを加水分解することで得られる(RSiO1.5の構造(所謂シルセスキオキサン)を持つネットワーク型ポリマー、又は、多面体クラスターであり、カゴ型、梯子型、ランダム型などの構造を有する物が知られている。上記ケイ素を含有する有機無機ハイブリッド樹脂は、エポキシ基やアクリレート基などの官能基を修飾することが可能で、熱硬化性やUV硬化性などの特性を付与することが可能である。
また、これらの有機無機ハイブリッド樹脂は、3官能シランの加水分解・縮重合体だけでなく、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランなどの2官能性シラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシエトキシシランなどの4官能性シラン等との共重合体であっても良い。
【0092】
また、ハードコート成分には、必要に応じて、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶媒、粘度調整剤等を含有しても良い。
【0093】
上記ハードコート成分としては、光硬化性化合物及び/又は熱硬化性化合物を含むことが好ましい。
ここで、上記光硬化性化合物としては、紫外光の照射を受けることによって架橋し硬化するものであり、具体的には、多官能(3官能以上)アクリレート樹脂、2官能以上のポリブタジエンアクリレート、シリコンアクリレート、アミノプラスト樹脂アクリレート、有機無機ハイブリッド樹脂等が挙げられる。
上記熱硬化性化合物としては、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
また、上記ハードコート成分は、電子線によって硬化する樹脂を含んでいてもよい。
【0094】
上記多官能アクリレート樹脂としては、エポキシアクリレート樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、2官能以上のポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、カルボキシル変性型反応性ポリアクリレート等が挙げられる。
【0095】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、例えば、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとを反応させて得られる化合物等が挙げられる。上記ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート及びトリメチロールプロパンジアクリレート等が挙げられる。これらのヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0096】
上記ポリイソシアネートは、脂肪族系、芳香族系及び脂環式系のいずれのポリイソシアネートでもよく、例えば、メチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、メチレンビスフェニルジイソシアネート等が挙げられる。これらのポリイソシアネートは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらのポリイソシアネートのうち無黄変ウレタンとなるものが好適である。
【0097】
上記のヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとの組み合わせは特に限定されないが、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレートとイソホロンジイソシアネートとの組合せ、及び、2−ヒドロキシエチルアクリレートと2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの組合せが好適である。
【0098】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を製造する方法としては、例えば、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート中のヒドロキシ基とポリイソシアネート中のイソシアネート基との割合(ヒドロキシ基:イソシアネート基)がモル比で1:0.8〜1:1となるように、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとを反応容器に入れ、ジラウリル酸ジn−ブチルスズなどの有機スズ化合物を触媒量加え、ハイドロキノシなどの重合禁止剤をさらに加え、反応温度30〜120℃、好ましくは50〜90℃で加熱して攪拌する方法等が挙げられる。ここで、反応温度は、段階的に昇温することが好ましい。反応生成物中に、ウレタン(メタ)アクリレートがオリゴマー化したものが含まれていてもよい。
【0099】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂として、各種の市販品が用いられてもよい。ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の市販品としては、例えば、紫光シリーズ(日本合成化学工業(株)製)、ニューフロンティアR−1000シリ−ズ(第一工業製薬(株)製)、UA−306H(共栄社化学(株)製)、UF−8001(共栄社化学(株)製)等が挙げられる。
【0100】
上記アクリレート樹脂以外の例としては、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能または多官能モノマー、あるいはビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、芳香族ビニルエーテル、脂肪族ビニルエーテル等のモノマー等のカチオン重合性官能基を有する化合物が挙げられる。
【0101】
また、上記光硬化性化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ化合物等のエポキシ系オリゴマー、脂肪酸系ビニルエーテル、芳香族系ビニルエーテル等のビニルエーテル系オリゴマー等の環状エーテル結合含有オリゴマー等も挙げられる。
【0102】
また、熱硬化性化合物の例としては、例えば、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアナート基、アジリジン基、オキサゾリン基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドラジン基、ビニル基、シアノ基、メチロール基又は活性メチレン基等の熱硬化性基を持つモノマー又はオリゴマー等が挙げられる。なお、上記熱硬化性基は、ブロックイソシアナート基のように、反応性を有する官能基にブロック剤が結合しており、加熱されるとブロック剤の分解反応が進行して重合性及び架橋性を示す官能基でもよい。
また、熱硬化性樹脂のモノマーとしては、通常カップリング剤として用いられる有機ケイ素化合物(ケイ素のアルコキシド又はシランカップリング剤)、有機チタン化合物(チタネートカップリング剤)又は有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物を用いることもできる。
有機ケイ素化合物としては、例えば、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランなどの2官能性シラン、メチルトリメトキシシラン、エポキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシランなどの3官能性シラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシエトキシシランなどの4官能性シラン等が挙げられる。これらの反応性基を有する有機ケイ素化合物は、他のモノマーやオリゴマーと硬化反応して強固に結合し易いので、得られるハードコート層としての強度を向上させる。
有機チタン化合物としては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン等が挙げられる。
【0103】
上記複素環含有芳香族ポリマーと上記ハードコート成分の混合量は、求められる帯電防止性、硬化物(ハードコート層)の硬度等によって適宜選択されるが、複素環含有芳香族ポリマー:ハードコート成分=0.001:99.999〜99.9:0.1(質量比)の範囲であり、好ましくは5:95〜95:5の範囲である。
【0104】
(C)架橋剤
上記架橋剤としては特に限定されないが、例えば、低分子アクリレート、低分子エポキシ樹脂、イソシアネート等が使用できる。具体的には、エチレンオキシド変性ビスフェノールジアクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸ジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレートなどの2官能の低分子アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレートなどの3官能の低分子アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの4官能以上の低分子アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’−4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ヴィニルシクロヘキセンモノオキサイド−1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサンなどの脂環式エポキシ、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレートなどのエポキシ基を有するアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルなどの多官能脂肪族エポキシ化合物、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアナート、1,3−フェニレンビスメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6−ジイソシアネートヘキサン、ポリメチレンポリフェニルイソシアナート、トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン変性ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン変性イソホロンジイソシアネート、などのイソシアネート等が挙げられる。
上記架橋剤の配合量は、上記硬化性樹脂(B)に対して、1〜100重量部、好ましくは、10〜70重量部である。少なすぎるとハードコート層とした場合に硬度が上がらず、多すぎると、膜が脆くなりすぎる。
【0105】
本発明のハードコート用組成物は、上記架橋剤と、ハードコート成分として多官能アクリレートあるいは有機無機ハイブリット樹脂を用いた組み合わせが、特に高硬度を維持するために優れた組み合わせである。特に、多官能アクリレートとしてはウレタンアクリレート、エポキシアクリレートが好ましく、有機無機ハイブリット樹脂としては、硬化性シルセスキオキサンが好ましい。
【0106】
本発明のハードコート用組成物は、(A)複素環含有芳香族ポリマー、(B)硬化性樹脂(ハードコート成分)、及び、(C)架橋剤に加えて、必要に応じて、(D)バインダー樹脂、(E)微粒子、(F)重合開始剤、(G)添加剤、(H)溶剤等を含有していてもよい。
以下、上記(D)〜(H)の各成分について説明する。
【0107】
(D)バインダー樹脂
上記バインダ樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、並びに、スチレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル及びアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選択される2種以上のモノマーから構成された共重合体等が挙げられる。
上記バインダー樹脂の含有量は、上記複素環含有芳香族ポリマー(A)の固形分100重量部に対して、10〜5000重量部であることが好ましい。より好ましくは、30〜2000重量部である。含有量が5000重量部を超えると、透明性および導電性が低下する場合がある。逆に、10重量部より少ない場合は、硬化性が低下し、十分な耐擦傷性や耐溶剤性が導電性被膜に付与されにくくなることがある。
【0108】
(E)微粒子
上記微粒子は、上記ハードコート用組成物を用いて塗膜を形成した際に、塗膜の滑り性の向上に寄与するものである。
上記微粒子は、塗膜の透明性を低下させないために、その一次粒子径が100nm以下であるものが好ましく、50nm未満であるものがより好ましい。粒子径が100nmを超えると光の散乱が発生し、透過率の低下によって透明性が低下するおそれがある。
【0109】
上記微粒子としては、酸化アンチモン、インジウム錫混合酸化物及びアンチモン錫混合酸化物などの金属酸化物、シリカ等からなる微粒子が挙げられ、これらのなかでは、透明性、硬度の観点から一次粒子径が100nm以下であるシリカ微粒子が好ましい。
【0110】
上記微粒子の含有量は、複素環含有芳香族ポリマー、硬化性樹脂、及び、架橋剤の合計量100重量部に対して、0.5〜200重量部の割合を占めるように配合するのが好ましい。より好ましくは1〜50重量部である。
【0111】
(F)重合開始剤
上記重合開始剤としては、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルアセトフェノンなどのアセトフェノン類;ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール、チオキサンテン、2−クロロチオキサンテン、2,4−ジエチルチオキサンテン、2−メチルチオキサンテン、2−イソプロピルチオキサンテンなどのイオウ化合物;2−エチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2,3−ジフェニルアントラキノンなどのアントラキノン類;アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、クメンパーオキシドなどの有機過酸化物;および2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールなどのチオール化合物等が挙げられる。
これらの化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
上記重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂(B)100重量部に対して、0.1〜50重量部であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜10重量部である。
【0113】
さらに、それ自体では、光重合開始剤として作用しないが、上記の化合物と組み合わせて用いることにより、光重合開始剤の能力を増大させ得るような化合物を添加することもできる。そのような化合物としては、例えば、ベンゾフェノンと組み合わせて使用すると効果のあるトリエタノールアミンなどの第三級アミン等が挙げられる。
【0114】
(G)添加剤
上記添加剤としては、例えば、上記ハードコート用組成物を用いて塗膜を形成する際に、基板との密着性を向上させたり、塗膜の耐久性を向上させるためのシランカップリング剤、塗布性を向上させるためのレベリング剤や界面活性剤等が挙げられる。
上記シランカップリング剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロキシトリアルコキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
上記シランカップリング剤を配合する場合、その配合量は、複素環含有芳香族ポリマー、硬化性樹脂、及び、架橋剤の合計量100重量部に対して、好ましくは0.2〜10重量部とすればよく、より好ましくは0.5〜5重量部とする。
【0115】
上記界面活性剤の例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミドなどの非イオン性界面活性剤;フルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキル4級アンモニウム、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなどのフッ素系界面活性剤等が挙げられる。
上記界面活性剤を配合する場合、その配合量は、複素環含有芳香族ポリマー、硬化性樹脂、及び、架橋剤の合計量100重量部に対して、0.1〜60重量部が好ましく、0.2〜20重量部がより好ましい。
【0116】
(H)溶剤
溶剤は無くても良いが、上記溶剤としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールエーテルアセテート類;N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、トルエン、キシレン(o−、m−、あるいはp−キシレン)、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ヘキサン、ヘプタン、クロロメタン(塩化メチル)、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン(四塩化炭素)等の有機溶媒、水とこれらの有機溶媒との混合溶媒(含水有機溶媒)等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
本発明のハードコート用組成物は、有機溶媒を含有することが好ましい。その理由は、高硬度を有し、基材との密着性が高く、均一なハードコート層を形成するのに適しているからである。
【0117】
上記溶剤の配合量は、上記複素環含有芳香族ポリマー100重量部に対して、100〜5000重量部が好ましく、500〜3000重量部がより好ましい。
【0118】
このような構成からなる本発明のハードコート用組成物は、例えば、各成分を混合機で混合することにより製造することができる。
このとき、各成分の投入方法は特に限定されず、例えば、全成分を同時に投入すればよい。
【0119】
次に、本発明のハードコートフィルムについて、図面を参照しながら説明する。
本発明のハードコートフィルムは、既に説明したハードコート用組成物を用いて形成された帯電防止性ハードコート層を備えることを特徴とする。
【0120】
図1は、本発明のハードコートフィルムを模式的に示す断面図である。
図1に示すように、ハードコートフィルム1は、フィルム基材10と、フィルム基材10上に形成されたハードコート層20とからなる。
なお、図1では、フィルム基材10の片面にのみハードコート層20が形成されているが、本発明のハードコートフィルムは、フィルム基材の両面にハードコート層が形成されていてもよい。
【0121】
ここで、フィルム基材10としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリルアミド、セルロースプロピオネート等からなるフィルムが挙げられる。
また、フィルム基材10は、必要に応じて、その表面にスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理が施されていることが好ましい。このような処理が表面に施されていれば、ハードコート層20に対する密着性をより高めることができる。
さらに、フィルム基材10の表面は、ハードコート層20を設ける前に、必要に応じて、溶剤洗浄や超音波洗浄などにより除塵、清浄化されていてもよい。
【0122】
ハードコート層20は、本発明のハードコート用組成物を塗布し、乾燥させた後、硬化処理を施すことにより形成した層である。
ここで、ハードコート用組成物の塗布は、従来公知の方法により行うことができ、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ピードコーター法等の方法により行うことができる。
上記乾燥の方法としては、例えば、減圧乾燥又は加熱乾燥、更にはこれらの乾燥を組み合わせた方法等が挙げられる。具体的には、例えば、ハードコート用組成物が溶剤としてケトン系溶剤を含有する場合は、室温〜80℃、好ましくは40℃〜60℃の範囲内の温度で、20秒〜3分、好ましくは30秒〜1分程度の時間で乾燥工程を行えばよい。
【0123】
また、上記硬化処理は、例えば、ハードコート用組成物を塗布、乾燥させた塗膜に対し、上記ハードコート用組成物が光硬化型の場合、光照射して乾燥させた塗膜を硬化させることにより行う。上記光照射には、主に、紫外線、可視光、電子線、電離放射線等を使用する。紫外線硬化の場合には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等を使用する。ここで、エネルギー線源の照射量は、紫外線波長365nmでの積算露光量として、50〜5000mJ/cm程度である。
また、ハードコート用組成物が熱硬化型の場合には、加熱により硬化させハードコート層を形成するが、通常40℃〜150℃の温度にて処理する。また、室温(25℃)で24時間以上放置することにより反応を行ってもよい。
さらに、ハードコート用組成物の組成によっては、光硬化と熱硬化とを併用してもよい。
【0124】
次に、本発明の表示デバイスについて説明する。
本発明の表示デバイスは、本発明のハードコートフィルムを有することを特徴とする。
【0125】
本発明の表示デバイスは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等であって、反射防止フィルム、偏光板などの光学フィルムとして本発明のハードコートフィルムを備えている。
【実施例】
【0126】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0127】
(製造例1)
200mLのビーカーに、120gのトルエン、8.0gのメタノール、13.91gのp−トルエンスルホン酸鉄(III)(40%ブタノール溶液)、1.3g(3.3mmol)の上記構造式(2−3)で表される複素環含有芳香族化合物(以下、複素環含有芳香族化合物(2−3)ともいう)を加えた。
その後、氷浴下(内温5〜7℃)で2時間撹拌し、HPLCにて複素環含有芳香族化合物(2−3)の消失を確認した。これにより、p−トルエンスルホン酸ドープの複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体トルエン分散体110g(固形分1.5%)を得た。
【0128】
この複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体トルエン分散体については、GPC溶離液に溶解せず、GPC測定では、複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体トルエン分散体そのものの分子量を測定することは困難であった。しかし、上記重合反応において、複素環含有芳香族化合物(2−3)が完全に消失していることと、以下に示すハードコート用組成物の試験結果により本複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体トルエン分散体が導電性を示す結果が得られたことから、複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体トルエン分散体が生成していることが明らかである。
【0129】
(製造例2)
200mLのビーカーに、100gのMEK、8.0gのメタノール、10.0gの硫酸鉄(III)(1%水溶液)、10.0gの過硫酸アンモニウム(10%水−メタノール水溶液)、5.0gのジエチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、1.3g(3.3mmol)の複素環含有芳香族化合物(2−3)を加えた。
その後、室温(内温20〜25℃)で6時間撹拌し、HPLCにて複素環含有芳香族化合物(2−3)の消失を確認した。これにより、DEHSドープの複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体120g(固形分1.5%)を得た。
【0130】
この複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体については、GPC溶離液に溶解せず、GPC測定では、複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体そのものの分子量を測定することは困難であった。しかし、上記重合反応において、複素環含有芳香族化合物(2−3)が完全に消失していることと、以下に示すハードコート用組成物の試験結果により本複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体が導電性を示す結果が得られたことから、複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体が生成していることが明らかである。
【0131】
(製造例3)
200mLのビーカーに、100gのエチレンジクロライド、10.0gのメタノール、12.0gのp−トルエンスルホン酸鉄(III)(40%ブタノール溶液)、5.0gのジエチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、1.3g(4.7mmol)の上記構造式(2−1)で表される複素環含有芳香族化合物(以下、複素環含有芳香族化合物(2−1)ともいう)を加えた。
その後、室温下(内温20〜25℃)で24時間撹拌し、HPLCにて複素環含有芳香族化合物(2−1)の消失を確認した。これにより、DEHSドープの複素環含有芳香族化合物(2−1)重合体EDC分散体120g(固形分1.4%)を得た。
【0132】
この複素環含有芳香族化合物(2−1)重合体EDC分散体については、GPC溶離液に溶解せず、GPC測定では、複素環含有芳香族化合物(2−1)重合体EDC分散体そのものの分子量を測定することは困難であった。しかし、上記重合反応において、複素環含有芳香族化合物(2−1)が完全に消失していることと、以下に示すハードコート用組成物の試験結果により本複素環含有芳香族化合物(2−1)重合体EDC分散体が導電性を示す結果が得られたことから、複素環含有芳香族化合物(2−1)重合体EDC分散体が生成していることが明らかである。
【0133】
(製造例4)
200mLのビーカーに、120gのトルエン、10.0gのメタノール、12.0gのp−トルエンスルホン酸鉄(III)(40%ブタノール溶液)、12.0gのポリビニルスルホン酸、1.3g(3.0mmol)の上記構造式(2−5)で表される複素環含有芳香族化合物(以下、複素環含有芳香族化合物(2−5)ともいう)を加えた。
その後、室温(内温20〜25℃)で6時間撹拌し、HPLCにて複素環含有芳香族化合物(2−5)の消失を確認した。これにより、PVSドープの複素環含有芳香族化合物(2−5)重合体トルエン分散体125g(固形分1.6%)を得た。
【0134】
この複素環含有芳香族化合物(2−5)重合体トルエン分散体については、GPC溶離液に溶解せず、GPC測定では、複素環含有芳香族化合物(2−5)重合体トルエン分散体そのものの分子量を測定することは困難であった。しかし、上記重合反応において、複素環含有芳香族化合物(2−5)が完全に消失していることと、以下に示すハードコート用組成物の試験結果により本複素環含有芳香族化合物(2−5)重合体トルエン分散体が導電性を示す結果が得られたことから、複素環含有芳香族化合物(2−5)重合体トルエン分散体が生成していることが明らかである。
【0135】
(製造例5)
200mLのビーカーに、120gのMEK、8.0gのメタノール、13.91gの硫酸鉄(III)(1%水溶液)、20.00gの過硫酸アンモニウム(10%水−メタノール水溶液)、2.06gのp−トルエンスルホン酸、1.3g(2.6mmol)の上記構造式(2−8)で表される複素環含有芳香族化合物(以下、複素環含有芳香族化合物(2−8)ともいう)を加えた。
その後、室温(内温20〜25℃)で6時間撹拌し、HPLCにて複素環含有芳香族化合物(2−8)の消失を確認した。これにより、p−トルエンスルホン酸ドープの複素環含有芳香族化合物(2−8)重合体MEK分散体110g(固形分1.5%)を得た。
【0136】
この複素環含有芳香族化合物(2−8)重合体MEK分散体については、GPC溶離液に溶解せず、GPC測定では、複素環含有芳香族化合物(2−8)重合体MEK分散体そのものの分子量を測定することは困難であった。しかし、上記重合反応において、複素環含有芳香族化合物(2−8)が完全に消失していることと、以下に示すハードコート用組成物の試験結果により本複素環含有芳香族化合物(2−8)重合体MEK分散体が導電性を示す結果が得られたことから、複素環含有芳香族化合物(2−8)重合体MEK分散体が生成していることが明らかである。
【0137】
(比較製造例1)
2000mLの三口フラスコに、1.53g(10.9mmol)の3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)、410gのイオン交換水、253gの12.8質量%ポリスチレンスルホン酸水溶液、16.5g(0.41mmol)の1%硫酸鉄(III)水溶液を加えた。次いで、11.8g(5.7mmol)の10.9質量%ペルオキソ二硫酸水溶液を加えた。その後、室温下(約25℃)で24時間撹拌し、HPLCにてEDOTの消失を確認し、ポリスチレンスルホン酸ドープのポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)水分散体を650g(固形分1.3%)得た。
【0138】
このPEDOT水分散体については、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を使用しているため、GPC測定では、PEDOTそのものの分子量を測定することは困難であった。しかし、上記重合反応において、EDOTが完全に消失していることと、以下に示す導電性樹脂組成物の試験結果により本水分散体が導電性を示す結果が得られたことから、PEDOTが生成していることが明らかである。
【0139】
下記、表1に製造例1〜5及び比較製造例1の配合を示す。
【0140】
【表1】

【0141】
なお、表1中の略語は以下の通りである。
TOL:トルエン
MEK:メチルエチルケトン
EDC:エチレンジクロライド
PTS−Fe:p−トルエンスルホン酸鉄
FeSO/APS: 硫酸鉄(III)/過硫酸アンモニウム
PTS:p−トルエンスルホン酸
DEHS:ジエチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム
PVS:ポリビニルスルホン酸
【0142】
次に、下記の方法により、ハードコート用組成物を製造した(実施例1〜5、及び、比較例1)。なお、表2には、実施例及び比較例で製造したハードコート用組成物の配合を示した。
【0143】
(実施例1)
製造例1で得た複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体トルエン分散体1.4g、UV硬化型ウレタンアクリレート(日本合成化学社製、UV−7600B)0.03g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社製、KAYARAD DPHA)0.02g、アセトフェノン系光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア127)0.003g、メチルエチルケトン2.0gを混合し、ハードコート用組成物を製造した。
【0144】
(実施例2)
製造例2で得た複素環含有芳香族化合物(2−3)重合体MEK分散体1.4g、下記の方法で合成した熱硬化性シルセスキオキサン(SQ−1)0.05g、脂環式エポキシ樹脂(ダイセル化学社製、セロキサイド2021−P)0.02g、熱カチオン系硬化触媒(三新化学工業社製、SI−60L)0.003gを混合し、ハードコート用組成物を製造した。
【0145】
(SQ−1の合成)
撹拌機及び温度計を設置した反応容器に、メチルイソブチレンケトン(MIBK)150g、水酸化テトラメチルアンモニウムの20%水溶液4.8g(水酸化テトラメチルアンモニウム1.1mmol)、蒸留水13.5gを仕込んだ後、フェニルトリメトキシシラン107.4g(541.0mmol)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン42.6g(180.0mmol)を50〜55℃で徐々に加え、3時間撹拌放置した。反応終了後、系内にMIBK150gを加え、さらに60gの蒸留水で水層のpHが中性になるまで水洗した。次に80gの蒸留水で2回水洗後、減圧下でMIBKを留去して目的の化合物(SQ−1)を得た。Mwは4800であった。SQ−1は、分散度Mw/Mn=1.5、IR測定で3500cm−1付近の残存シラノールのピークを持つ、ラダー型もしくはランダム型構造を主体とするシルセスキオキサン誘導体であった。
【0146】
(実施例3)
製造例3で得た複素環含有芳香族化合物(2−1)重合体EDC分散体1.4g、UV−7600B(UV硬化型ウレタンアクリレート)0.05g、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(ダイセルサイテック株式会社製、HDDA)0.025g、アリルメタクリレート(新中村化学工業社製、S−1800M)0.06g、アルキルフェノン系光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア184)0.003g、トルエン2.0gを混合し、ハードコート用組成物を製造した。
【0147】
(実施例4)
製造例4で得た複素環含有芳香族化合物(2−5)重合体トルエン分散体1.4g、ポリエステルアクリレート(東洋ケミカルズ株式会社製、MiramerPS420)0.05g、トリメチロールプロパントリアクリレート(東亞合成社製、アロニックスM−309)0.02g、イルガキュア184(光重合開始剤)0.003g、エチルビニルエーテル0.01g、メチルエチルケトン2.0gを混合し、ハードコート用組成物を製造した。
【0148】
(実施例5)
製造例5で得た複素環含有芳香族化合物(2−8)重合体MEK分散体1.4g、下記の方法で合成したUV硬化性シルセスキオキサン(SQ−2)を0.05g、KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)0.02g、シランカップリング剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、SILQUEST A187 SILANE)0.02g、アゾビスイソブチロニトリル0.005g、トルエン4.0gを混合し、ハードコート用組成物を製造した。
【0149】
(SQ−2の合成)
撹拌機及び温度計を設置した反応容器に、MIBK150g、水酸化テトラメチルアンモニウムの20%水溶液4.8g(水酸化テトラメチルアンモニウム1.1mmol)、蒸留水13.5gを仕込んだ後、フェニルトリメトキシシラン107.4g(541.0mmol)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン42.6g(180.0mmol)を50〜55℃で徐々に加え、3時間撹拌放置した。反応終了後、系内にMIBK150gを加え、さらに60gの蒸留水で水層のpHが中性になるまで水洗した。次に80gの蒸留水で2回水洗後、減圧下でMIBKを留去して目的の化合物(SQ−2)を得た。Mwは4800であった。SQ−2は、分散度Mw/Mn=1.5、IR測定で3500cm−1付近の残存シラノールのピークを持つ、ラダー型もしくはランダム型構造を主体とするシルセスキオキサン誘導体であった。
【0150】
(比較例1)
比較製造例1で得たPEDOT水分散体10.0g、水溶性脂肪族ウレタンアクリレート(ダイセルサイテック株式会社製、EBECRYL2000)0.10g、KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)0.10g、ポリジメチルシロキサン系表面調整剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製、BYKUV3500)0.05g、イルガキュア184(光重合開始剤)0.01g、エタノール10g、水2.0gを混合し、ハードコート用組成物を製造した。
【0151】
【表2】

【0152】
実施例及び比較例で製造したハードコート用組成物について、下記評価を行った。
即ち、ハードコート用組成物を、青板ガラス基板上にワイヤーバーにより塗布し、乾燥、高圧水銀灯の露光により硬化して厚さ5μmの帯電防止性ハードコート層を形成した。
そして、このハードコート層について、下記の方法により、表面抵抗率(SR)、全光線透過率(Tt)、ヘイズ値、密着性(碁盤目試験)、鉛筆硬度及び耐擦傷性を測定した。結果を表3に示した。
【0153】
表面抵抗値(SR)
JIS K 6911に従い、三菱化学(株)製、ハイレスターUP(MCP−HT450)を用いて測定した。
【0154】
全光線透過率(Tt)/ヘイズ値
JIS K 7150に従い、スガ試験機(株)製ヘイズコンピュータHGM−2Bを用いて測定した。
【0155】
密着性(碁盤目試験)
JIS K 5400の碁盤目剥離試験に従って行った。
【0156】
鉛筆硬度
JIS K 5400の試験法に準じて測定した。鉛筆硬度試験機を用いて荷重9.8Nをかけた際の塗膜にキズが付かない最も高硬度をもって鉛筆硬度とした。
【0157】
耐擦傷性
#0000スチールウールによる表面摩擦試験(荷重1kgf、ストローク幅30mm、10往復)後に傷の有無を目視観察し、下記の基準で評価した。
○:傷が0本
×:傷が1本以上
【0158】
また、ハードコート用組成物について、下記の方法により保存安定性を評価した。結果を表3に示した。
ここでは、一定時間経過前後の表面抵抗率(SR)の上昇率、及び、液外観を指標に保存安定性を評価した。
即ち、調製直後のハードコート用組成物を用いて、上述した方法でハードコート層を形成し、そのとき測定した表面抵抗率(SR)を初期表面抵抗率とし、更に、ハードコート用組成物を40℃1週間の条件で暗所に保管した後、同様の方法でハードコート層を形成し、測定した表面抵抗率(SR)を試験後表面抵抗率とし、試験後表面抵抗率を初期表面抵抗率で除することにより表面抵抗率(SR)の上昇率を算出した。
【0159】
また、試験後表面抵抗率の測定に使用したハードコート用組成物を1時間静置後、その液状体を目視観察し、下記の基準で1〜3の3段階で評価した。
3:沈殿物は観察されない。
2:わずかに沈殿物が観察される。
1:大量の沈殿物が観察される。
【0160】
【表3】

【0161】
以上の結果より、実施例1〜5のハードコート用組成物を用いて形成した塗膜は、他の導電性高分子(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))を含有する比較例1のハードコート用組成物を用いて成形した塗膜に比べ、基材との密着性、鉛筆硬度及び耐擦傷性に優れるとともに、保存安定性にも優れることが明らかとなった。
そして、この理由は、本発明のハードコート用組成物は、導電性高分子(複素環含有芳香族ポリマー)が溶剤溶解性、及び、ハードコート成分との相溶性に優れるためであると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明のハードコート用組成物は、帯電防止性を有するハードコート剤として好適に使用することができ、本発明のハードコート用組成物を用いることで、帯電防止性を有するハードコートフィルムを得ることができる。また、本発明のハードコートフィルムは、各種表示デバイスの光学フィルムとして好適に使用することができる。本発明のハードコート用組成物で得られた帯電防止性を有するハードコートフィルムは、帯電防止性に優れ、透明性が高く、硬度も良好であり、特にプラスチック光学部品、光ディスク、タッチパネル、フラットパネルディスプレイ、携帯電話、フィルム液晶素子など、埃を嫌い、硬度、透明性を必要とする分野に好適なハードコートフィルムである。更にその他の分野、例えば半導体ウエハー保存容器、光ディスク、磁気テープ、その他電子・電気部材、半導体生産現場用クリーンルーム部材等においても適用できる。
【符号の説明】
【0163】
1 ハードコートフィルム
10 フィルム基材
20 ハードコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される複素環含有芳香族化合物を単量体とする複素環含有芳香族ポリマー
M−N・・・(1)
(式中、Mは、置換若しくは無置換のチオフェン環基を表し、Nは、置換若しくは無置換のピロール環基を表す。Mによって表される環とNによって表される環は直接結合している。)、
(B)硬化性樹脂、及び、
(C)架橋剤
を含有する樹脂組成物からなり、帯電防止性を有するハードコート用組成物。
【請求項2】
前記複素環含有芳香族化合物は、下記一般式(2′)で表される複素環含有芳香族化合物である請求項1に記載のハードコート用組成物。
【化1】

(式中、RとRは、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表すが、少なくとも一方は有機基を表す。また、RとRの双方が有機基を表す場合、これらは互いに結合して環構造を形成してもよい。)
【請求項3】
前記複素環含有芳香族化合物は、下記構造式(2−1)〜(2−10)で表される複素環含有芳香族化合物のなかの少なくとも1つである請求項1又は2に記載のハードコート用組成物。
【化2】

【請求項4】
前記硬化性樹脂は、多官能アクリレート又は多官能メタクリレートを含む請求項1〜3のいずれかに記載のハードコート用組成物。
【請求項5】
前記硬化性樹脂は、ケイ素を含有する有機無機ハイブリッド樹脂を含む請求項1〜3のいずれかに記載のハードコート用組成物。
【請求項6】
有機溶媒を含む請求項1〜5のいずれかに記載のハードコート用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のハードコート用組成物を用いて形成された帯電防止性ハードコート層を備えることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載のハードコートフィルムを有することを特徴とする表示デバイス。

【図1】
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【公開番号】特開2011−256357(P2011−256357A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221607(P2010−221607)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】