説明

ハードコート積層体

【課題】ラクトン環単位又はグルタル酸無水物単位を有する重合体を含む熱可塑性樹脂組成物から形成される、高温・高湿の環境にも性能変化の少なく透明性の高い支持体に、透明性及び高湿度下での耐久性(高湿度の下での保存後の密着性)に優れるハードコート層を形成したハードコート積層体を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物から形成された支持体上に、ハードコート層形成用塗布組成物から形成されたハードコート層を有するハードコート積層体であって、該熱可塑性樹脂組成物がラクトン環単位又はグルタル酸無水物単位を有する重合体を含有し、且つハードコート層形成用塗布組成物が、以下の成分(a)及び(b)を含有することを特徴とするハードコート積層体。
(a)同一分子内に重合性官能基と親水基を含有する硬化性化合物。
(b)重合開始剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトン環単位又はグルタル酸無水物単位を有する化合物を含有する熱可塑性樹脂組成物から形成された支持体上に、同一分子内に重合性官能基と親水基を含有する硬化性化合物を主成分とするハードコート層形成用塗布組成物から形成されたハードコート層が積層されたハードコート積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、PDP、有機ELなどに代表されるフラットパネルディスプレイがブラウン管に変わり広く用いられるようになってきている。それに伴いディスプレイの設置される環境も多様になっている。また、携帯電話やパームなどのモバイル用途のディスプレイに使用される場合には、使用環境はより厳しくなってきている。
【0003】
トリアセチルセルロースフィルムは、偏光板用の保護フィルムとして加工しやすいことから、広く液晶ディスプレイ用の光学フィルムに用いられているが、透湿度が高く、高温高湿下で保管すると偏光板の性能が変化しやすいという問題点がある。特に、携帯電話の用途では、外出時の雨や人の汗やなどで高湿環境にさらされる場合があり、改良が望まれていた。
【0004】
高温・高湿の環境にも性能変化の少ない透明性の高い支持体として、ラクトン環含有重合体を含む熱可塑性樹脂のフィルムを用いること(特許文献1)、グルタル酸無水物単位を有する重合体のフィルムを用いること(特許文献2)が、それぞれ開示されている。これらの熱可塑性樹脂のフィルムは、高温・高湿での性能が変化しにくいという点では一定の性能に達しているものの、この膜単独でディスプレイ表面に用いる場合、表面の硬度は不十分である。フィルムの硬度を上げるために、従来からハードコート層を設けることが知られている。
【特許文献1】特開2006−171464号公報
【特許文献2】特開2004−070296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらこれらのフィルムに、一般に用いられている有機溶剤で反応性モノマーを希釈したハードコート層形成用組成物塗布液を塗布して硬化させたところ、フィルムが有機溶剤に侵されて、部分的にフィルムの透明性が低下する問題があることが分った。
【0006】
有機溶剤を使用しないハードコート層形成用組成物として、水性溶媒に硬化性化合物を界面活性剤と共に分散した水性塗布液を、ラクトン環単位又はグルタル酸無水物単位を有する重合体を含む熱可塑性樹脂組成物から形成される支持体に塗布し硬化したところ、ハードコート層自身の硬度は満足できるものの、支持体とハードコート層の界面の密着が不十分であり、特に高湿度に保管した後に密着が悪化するという問題があることが分った。
【0007】
本発明は、ラクトン環単位又はグルタル酸無水物単位を有する重合体を含む熱可塑性樹脂組成物から形成される支持体に、透明性及び高湿度下での耐久性(高湿度の下で保存後の密着性)に優れるハードコート層を形成したハードコート積層体の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
我々は検討の結果、以下の方法により上記の課題を解決できることを見いだした。すなわち、本発明の上記目的は以下の手段により達成された。
【0009】
(1) 熱可塑性樹脂組成物から形成された支持体上に、ハードコート層形成用塗布組成物から形成されたハードコート層を有するハードコート積層体であって、該熱可塑性樹脂組成物がラクトン環単位又はグルタル酸無水物単位を有する重合体を含有し、且つハードコート層形成用塗布組成物が、以下の成分(a)及び(b)を含有することを特徴とするハードコート積層体。
(a)同一分子内に重合性官能基と親水基を含有する硬化性化合物。
(b)重合開始剤。
(2) ハードコート層形成用塗布組成物が水性塗布液であり、その水性塗布液中に(a)成分を分散状態で含有する上記(1)に記載のハードコート積層体。
(3)ハードコート層形成用塗布組成物が、重合性官能基を有さず且つ親水基を有する分散剤を含有しない上記(2)に記載のハードコート積層体。
(4) ラクトン環単位を有する重合体が、下記一般式(1)で表される単位を有する重合体である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のハードコート積層体。
【0010】
一般式(1):
【化1】

【0011】
式中、R11、R12、R13は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
(5)グルタル酸無水物単位を有する重合体が、下記一般式(3)で表される単位を有する重合体である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のハードコート積層体。
【0012】
一般式(3):
【化2】

【0013】
式中、R31、R32は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
(6)熱可塑性樹脂が、更にシアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを有する共重合体を含む上記(1)〜(5)のいずれかに記載のハードコート積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、透明性及び高湿度下での耐久性(高湿度の下で保存後の密着性)に優れるハードコート層を形成したハードコート積層体が提供できる。
【0015】
本発明では、塗布時の粘度調節の目的で用いられる有機溶剤を実質的に使用しないハードコート層形成用塗布組成物を用いるため、有機溶剤耐性が低いラクトン環単位又はグルタル酸無水物単位を有する重合体を含む熱可塑性樹脂組成物から形成された支持体に対しても、該支持体表面を溶解して透明性を失わせることがなく透明性に優れ、重合性官能基により界面同士の結合にも優れている。これにより、透明性に優れ、かつ高湿度保存後の密着性にも優れたハードコート積層体が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本願明細書において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。また本明細書において、アルキル基等の「基」は、特に述べない限り、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。さらに、炭素原子数が限定されている基の場合、該炭素原子数は、置換基が有する炭素原子数を含めた数を意味する。
【0017】
<ハードコート積層体>
以下、本発明のハードコート積層体(以下、本発明の積層体とも称する)について説明する。
【0018】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物から形成された支持体上に、ハードコート層形成用塗布組成物から形成されたハードコート層を有するハードコート積層体であって、該熱可塑性樹脂組成物がラクトン環単位又はグルタル酸無水物単位を有する重合体を含有し、且つハードコート層形成用塗布組成物が、以下の成分(a)及び(b)を含有することを特徴とするハードコート積層体である。
(a)同一分子内に重合性官能基と親水基を含有する硬化性化合物。
(b)重合開始剤。
【0019】
熱可塑性樹脂組成物から形成される支持体の上層に、ハードコート層形成用塗布組成物から形成されるハードコート層を設ける。このようなハードコート層によって、該支持体単独ではHB以下の鉛筆硬度(JIS K6894)であっても、ハードコート積層体の鉛筆硬度を3H以上にすることができる。
【0020】
1.熱可塑性樹脂組成物から形成された支持体
本発明において、支持体に用いられる熱可塑性樹脂は、主鎖中又は側鎖に、ラクトン環単位又はグルタル酸無水物単位を含有する重合体{以下、これらの重合体を(A)成分と称する}である。重合体中にこれらの環構造を有することで、ガラス転移温度が高く、耐熱性の高い光学フィルムが得られる。以下、各成分について好ましい態様を説明する。
【0021】
1−1.ラクトン環単位を有する重合体(ラクトン環含有重合体)
本発明で用いられる好ましい支持体の第1の態様は、ラクトン環含有重合体から形成される支持体である。ラクトン環含有重合体は、ラクトン環を有するものであれば特に限定されないが、好ましくは下記一般式(1)で示されるラクトン環構造を有する。
【0022】
一般式(1):
【化3】

【0023】
一般式(1)中、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜20の有機残基を表し、有機残基は酸素原子を含有していてもよい。ここで、炭素原子数1〜20の有機残基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などが好ましい。
【0024】
ラクトン環含有重合体の構造中における上記一般式(1)で示されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。ラクトン環構造の含有割合を5質量%以上とすることにより、得られた重合体の耐熱性、及び表面硬度が向上する傾向にあり、ラクトン環構造の含有割合を90質量%以下とすることにより、得られた重合体の成形加工性が向上する傾向にある。
【0025】
ラクトン環含有重合体は、上記一般式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。上記一般式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造としては、例えば、ラクトン環含有重合体の製造方法として後述するような、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシ基含有単量体、不飽和カルボン酸及び下記一般式(2)で示される単量体からなる群から選択される少なくとも1種の単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
一般式(2):CH2=C(R21)−X
【0026】
一般式(2)中、R21は水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R22基を表し、Acはアセチル基を表し、R22は、水素原子又は炭素原子数1〜20の有機残基を表す。Xは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基などが好ましい。
【0027】
ラクトン環含有重合体の構造中における上記一般式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%であり、ヒドロキシ基含有単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。また、不飽和カルボン酸を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。さらに、上記式(2)で示される単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
【0028】
ラクトン環含有重合体の製造方法については、特に限定はされないが、好ましくは、重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(p)を得た後に、得られた重合体(p)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合工程を行うことによって得られる。
【0029】
下記一般式(1p)で表される単量体を含む単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得ることが好ましい。
【0030】
一般式(1p):
【化4】

【0031】
式中、 R14及びR15は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜20の有機残基を表し、有機残基は酸素原子を含有していてもよい。
【0032】
一般式(1p)で表される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチルなどが挙げられる。これらの中でも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性向上効果が高い点で、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。一般式(1p)で表される単量体は、1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0033】
重合工程において供する単量体成分中の一般式(1p)で表される単量体の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは10〜50重量%である。重合工程において供する単量体成分中の一般式(1p)で表される単量体の含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、表面硬度が不十分になることがあり、好ましくない。重合工程において供する単量体成分中の一般式(1p)で表される単量体の含有割合が90重量%よりも多いと、重合時、ラクトン環化時にゲル化が起こることや、得られた重合体の成形加工性が乏しくなることがあり、好ましくない。
【0034】
重合工程において供する単量体成分中には、一般式(1p)で表される単量体以外の単量体を含んでいても良い。このような単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、前記一般式(2)で表される単量体が好ましく挙げられる。一般式(1p)で表される単量体以外の単量体は、1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、一般式(1p)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルであれば特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられ、これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中でも特に、耐熱性、透明性が優れる点から、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0036】
環化縮合反応を行う際に、重合体(p)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機カルボン酸類を触媒として用いても良い。特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に示されている様に、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
【0037】
環化縮合反応を行う際には、特開2001−151814号公報に示されているように有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。触媒として有機リン化合物を用いることにより、環化縮合反応率を向上させることができるとともに、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。さらに、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
【0038】
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、且つ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化縮合反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化縮合反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、縮合環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
【0039】
脱揮工程とは、溶剤、残存単量体等の揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要により減圧加熱条件下で、除去処理する工程をいう。この除去処理が不十分であると、生成した樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等によって着色したり、後述する、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こったりする問題等が生じる。
【0040】
ラクトン環含有重合体の質量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。
【0041】
ラクトン環含有重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内での質量減少率が、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下であるのがよい。ダイナミックTGの測定方法については、特開2002−138106号公報に記載の方法を用いることができる。
【0042】
ラクトン環含有重合体は、環化縮合反応率が高いので、成型品の製造過程で脱アルコール反応が少なく、該アルコールを原因とした成形後の成形品中に泡や銀条(シルバーストリーク)が入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化縮合反応率によって、ラクトン環構造が重合体に充分に導入されるので、得られたラクトン環含有重合体は高い耐熱性を有する。
【0043】
ラクトン環含有重合体は、濃度15質量%のクロロホルム溶液にした場合、その着色度(YI)が、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。着色度(YI)が6以下であれば、着色により透明性が損なわれるなどの不具合が生じにくいので、本発明において好ましく使用することができる。
【0044】
ラクトン環含有重合体は、熱質量分析(TG)における5%質量減少温度が、好ましくは330℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上である。熱質量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これを330℃以上とすることにより、充分な熱安定性が発揮されやすい傾向にある。熱質量分析は、上記ダイナミックTGの測定の装置を使用することができる。
【0045】
ラクトン環含有重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは115℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上、特に好ましくは135℃以上、最も好ましくは140℃以上である。
【0046】
ラクトン環含有重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは5,000ppm以下、より好ましくは2,000ppm以下、さらに好ましくは1,500ppm、特に好ましくは1,000ppmである。残存揮発分の総量が5,000ppm以下であれば、成形時の変質などによって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良が起こりにくくなるので好ましい。
【0047】
ラクトン環含有重合体は、射出成形により得られる成形品に対するASTM−D−1003に準拠した方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の指標であり、これを85%以上とすると、透明性が向上する傾向にある。
【0048】
1−2.グルタル酸無水物単位を有する重合体
本発明における好ましい支持体の第2の態様は、グルタル酸無水物単位を有する重合体から形成される支持体である。
【0049】
グルタル酸無水物単位を有する重合体は、下記一般式(3)で表されるグルタル酸無水物単位(以下、グルタル酸無水物単位と呼ぶ)を有することが好ましい。
【0050】
一般式(3):
【化5】

【0051】
一般式(3)中、R31、R32は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。R31、R32は、特に好ましくは、同一又は相異なる、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0052】
グルタル酸無水物単位を有する重合体は、グルタル酸無水物単位を含有するアクリル系共重合体であることが好ましい。アクリル系熱可塑性共重合体としては、耐熱性の点から120℃以上のガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。
【0053】
アクリル系熱可塑性共重合体に対するグルタル酸無水物単位の含有量としては、5〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜45質量%である。5質量%以上、より好ましくは10質量%以上とすることにより、耐熱性向上の効果を得ることができ、さらには耐候性向上の効果を得ることもできる。
【0054】
また、上記のアクリル系熱可塑性共重合体は、さらに不飽和カルボン酸アルキルエステルに基づく繰り返し単位を含むことが好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステルに基づく繰り返し単位として、例えば、下記一般式(4)で表されるものが好ましい。
一般式(4):―[CH2―C(R41)(COOR42)]―
【0055】
一般式(4)中、R41は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、R42は炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、又は1個以上炭素数以下の数の水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基を表す。
【0056】
一般式(4)で表される繰り返し単位に対応する単量体は下記一般式(5)で表される。
一般式(5):CH2=C(R41)(COOR42
【0057】
このような単量体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−へキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル及び(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、中でもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種を単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。
【0058】
上記のアクリル系熱可塑性共重合体に対する不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の含有量は、50〜95質量%が好ましく、より好ましくは55〜90質量%である。グルタル酸無水物単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位とを有するアクリル系熱可塑性共重合体は、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位と不飽和カルボン酸単位とを有する共重合体を重合環化させることにより得ることができる。
【0059】
不飽和カルボン酸単位としては、例えば、下記一般式(6)で表されるものが好ましい。
一般式(6):―[CH2―C(R51)(COOH)]―
ここでR51は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0060】
不飽和カルボン酸単位を誘導する単量体の好ましい具体例としては、一般式(6)で表される繰り返し単位に対応する単量体である下記一般式(7)で表される化合物、ならびにマレイン酸、及び更には無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。
一般式(7):CH2=C(R51)(COOH)
【0061】
これらはその1種を単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。上記のように、グルタル酸無水物単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位とを有するアクリル系熱可塑性共重合体は、例えば不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位と不飽和カルボン酸単位とを有する共重合体を重合環化させることにより得ることができるものであるから、その構成単位中に不飽和カルボン酸単位を残して有していてもよい。
【0062】
上記のアクリル系熱可塑性共重合体に対する不飽和カルボン酸単位の含有量としては10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下である。10質量%以下とすることで、無色透明性、滞留安定性の低下を防ぐことができる。
【0063】
また、前記アクリル系熱可塑性共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲で、芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位を有していてもよい。芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位の具体例としては、対応する単量体でいうと、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体;アリルグリシジルエーテル;無水マレイン酸、無水イタコン酸;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド;アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル;N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン;2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンなどを挙げることができる。これらはその1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記のアクリル系熱可塑性共重合体に対する、芳香環を含まないその他のビニル系単量体単位の含有量としては、35質量%以下が好ましい。
【0065】
なお、芳香環を含むビニル系単量体単位(N−フェニルマレイミド、メタクリル酸フェニルアミノエチル、p−グリシジルスチレン、p−アミノスチレン、2−スチリル−オキサゾリンなど)ついては、耐擦傷性、耐候性を低下させる傾向にあるため、前記のアクリル系熱可塑性共重合体に対する含有量としては1質量%以下にとどめるのが好ましい。
【0066】
1−3.(A)成分である熱可塑性樹脂と併用できる他の熱可塑性樹脂(B)
本発明において、支持体に用いられる熱可塑性樹脂には、(A)成分に加えて、更に別の熱可塑性樹脂(B)を含むことができる。本発明において熱可塑性樹脂(B)は、本発明における(A)成分と混合してフィルム状にした際に、ガラス転移温度が100℃以上、全光線透過率が85%以上の性能を有するものが、耐熱性や機械強度を向上させる点において好ましい。
【0067】
本発明において、支持体に用いられる(A)成分とその他の熱可塑樹脂(B)成分の含有割合は、[(A)/{(A)+(B)}]の質量割合で、好ましくは60〜99質量%、より好ましくは70〜97質量%、さらに好ましくは80〜95質量%である。支持体中の環含有重合体の含有割合が60質量%よりも少ないと、耐熱性を十分に発揮できないおそれがある。(B)成分を併用することで位相差を調整することができる。
【0068】
本発明にかかるその他の熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;などが挙げられる。ゴム質重合体は、表面に本発明における環重合体と相溶し得る組成のグラフト部を有するのが好ましく、また、ゴム質重合体の平均粒子径は、フィルム状とした際の透明性向上の観点から、100nm以下である事が好ましく、70nm以下である事が更に好ましい。
【0069】
本発明で用いられる(A)成分と熱力学的に相溶する熱可塑性樹脂としては、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを含む共重合体、具体的にはアクリロニトリル−スチレン系共重合体やポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル類を50質量%以上含有する重合体を用いるとよい。それらの中でもアクリロニトリル−スチレン系共重合体を用いるとガラス転移温度が120℃以上、面方向の100μm当たりの位相差が20nm以下で、全光線透過率が85%以上である光学フィルムが容易に得られる。
【0070】
なお、環含有重合体とその他の熱可塑性樹脂とが熱力学的に相溶することは、これらを混合して得られた熱可塑性樹脂組成物のガラス転移点を測定することによって確認することができる。具体的には、示差走査熱量測定器により測定されるガラス転移点がラクトン環含有重合体とその他の熱可塑性樹脂との混合物について1点のみ観測されることによって、熱力学的に相溶しているといえる。
【0071】
その他の熱可塑性樹脂として、アクリロニトリル−スチレン系共重合体を用いる場合、その製造方法は、乳化重合法や懸濁重合法、溶液重合法、バルク重合法等を用いる事が可能であるが、得られる光学フィルムの透明性や光学性能の観点から溶液重合法かバルク重合法で得られたものである事が好ましい。
【0072】
本発明で(A)成分として用いられる熱可塑樹脂組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;サリチル酸フェニル、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;リン酸トリス(ジブロモプロピル)、リン酸トリアリル、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
【0073】
熱可塑性樹脂成形体中のその他の添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜0.5質量%である。
【0074】
2.支持体の製造方法
本発明における支持体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、(A)成分と、必要に応じて(B)成分及び添加剤などを、公知の混合方法で混合し、フィルム状に成形することにより得られる。また、延伸することによって延伸フィルムとしてもよい。
【0075】
フィルム成形の方法としては、従来公知のフィルム成形方法を使用すればよく、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法などが挙げられる。これらのフィルム成形方法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が特に好ましい。
【0076】
溶液キャスト法(溶液流延法)に使用される溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンなどの塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールなどのアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;などが挙げられる。これら溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0077】
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
【0078】
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の、フィルムの成形温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
【0079】
延伸を行う方法としては、従来公知の延伸方法が適用でき、例えば、一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸などを用いることができる。延伸は、好ましくは、フィルム原料の重合体のガラス転移温度付近で行われる。具体的な延伸温度としては、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)である。延伸温度を(ガラス転移温度−30℃)以上とすることにより、充分な延伸倍率が得られやすい傾向にあり、延伸温度を(ガラス転移温度+100℃)以下とすることにより、樹脂が流動して安定な延伸を行いやすい傾向にある。面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.3〜10倍である。延伸倍率を1.1倍以下とすることにより、延伸による靭性の向上が得られ安い傾向にある。逆に、延伸倍率を25倍以上とすることにより、延伸倍率を上げるだけの効果がより認められやすい傾向にある。
【0080】
延伸速度(一方向)としては、好ましくは10〜20,000%/分、より好ましくは100〜10,000%/分である。延伸速度を10%/分以上とすることにより、充分な延伸倍率を得る時間を短縮できる傾向にあり、製造コストを抑えることが可能にある。逆に、延伸速度を20,000%/分以上とすることにより、延伸フィルムの破断などが起こりにくくなる。フィルムの光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うこともできる。
【0081】
本発明の支持体の膜厚は、10μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以上300μm以下である。10μm未満では、支持体を均一に作成するのが困難であり、また500μmを超えるとディスプレイの表面フィルムが厚くなりすぎ薄層化・軽量化の流れに逆行する。
【0082】
3.ハードコート層形成用塗布組成物
本発明の積層体は、ハードコート性を付与するために、以下の成分(a)及び(b)を含有するハードコート層形成用塗布組成物を、熱可塑性樹脂組成物から形成された支持体に塗布し、必要に応じて乾燥して、硬化してなるハードコート層を有する。
(a):同一分子内に重合性官能基と親水基を含有する硬化性化合物。
(b):重合開始剤。
【0083】
(a)成分である同一分子内に重合性官能基と親水基を含有する硬化性化合物は、有機溶剤を実質使用しないで水中に分散して使用するのに適した化合物であり、一般的に塗布時の粘度調節の目的で用いられる有機溶剤を実質的に使用しないでハードコート層形成用塗布組成物に用いることができる。また、(b)成分は、(a)成分を硬化するのに必要な重合開始剤である。
以下、各成分について好ましい態様を説明する。
【0084】
3−1.(a)成分:同一分子内に重合性官能基と親水基を含有する硬化性化合物
本発明で用いられる(a)成分は、水に溶解又は分散するのに適した硬化性化合物として、アニオン又はノニオンの親水基を有することが好ましい。アニオンタイプとしては、ポリウレタンアクリレートの骨格中にカルボン酸塩やスルホン酸塩を導入し、その親水性によって水に溶解又は分散させているものを用いることができる。また、ノニオンタイプとしてはポリウレタンアクリレートの骨格中にポリエチレングリコール鎖や多量の水酸基を導入し、その親水性によって水に溶解又は分散させているものを用いることができる。硬化後のハードコート層の耐水性を強化するためには、親水基としては、カルボン酸基又は水酸基が好ましい。
【0085】
なかでも、以下に示す態様のポリウレタンアクリレートを用い、有機溶剤を希釈溶剤として使用しないことで、ハードコート性、支持体との密着性、支持体の白濁防止を満たしたハードコート積層体を得ることができる。
【0086】
本発明では、ハードコート層形成用塗布組成物は、上記ポリウレタンアクリレート及び水を主成分とする塗布組成物であることが好ましい。このようなポリウレタンアクリレートは:
(a−1)水酸基含有アクリル酸エステル、
(a−2)有機ポリイソシアネート類、
(a−3)分子内に少なくとも1個の水酸基を含有するポリエチレングリコール類、及び
(a−4)分子内に少なくとも1個の水酸基を含有する脂肪酸、
からなる反応生成物を用いた硬化性組成物であることが好ましい。また、塗布組成物の安定性付与のため、好ましくは該反応生成物を、
(a−5)アミン
で中和することが好ましい。特に好ましくは、3級アミンである。
【0087】
本発明におけるハードコート層形成用塗布組成物中のポリウレタンアクリレートは、上記のように(a−1)〜(a−4)成分から構成される反応生成物であるのが好ましく、さらに好ましくは中和塩である。
【0088】
上記の(a−1)成分は水酸基含有アクリル酸エステルであり、その分子内に少なくとも1個の水酸基と少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する各種のものが該当する。具体例としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ロジンエポキシアクリレートなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独又は組み合わせて使用できる。なお、ポリエポキシアクリレートのごときポリオールポリアクリレート類を使用した場合には、得られる製品粘度が増大する傾向にあるため、前記例示のアクリレート類と併用するのがよい。両者の比率は質量比で95:5〜40:60が好ましく、90:10〜60:40が更に好ましい。
【0089】
有機ポリイソシアネート類である(a−2)成分としては、分子内に反応性のイソシアナート基を3個以上有する有機ポリイソシアネート類が該当する。またその分子量は500〜1000程度が好ましい。(a−2)成分の具体例は、例えば1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどの各種ジイソシアネートから得られる3量体、該ジイソシアネート類をトリメチロールプロパンなどの多価アルコールと反応させたプレポリマー、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0090】
(a−3)成分のポリエチレングリコール類は、その分子内に少なくとも1個の水酸基を有する各種のものを特に制限なく使用できるが、下記一般式(8)で表されるものが特に好適である。
一般式(8):H−(OCH2CH2n−OR61
式中、R61は炭素数1〜4のアルキル基を、nは7〜25の整数を示す。
【0091】
(a−3)成分の使用量は、組成物中のポリウレタンアクリレート全量に対し通常3〜12質量%、好ましくは5〜10質量%である。3質量%以上であれば、水洗浄性が不足となるなどの不都合が生じないので好ましい。また、12質量%以下であれば、硬化塗膜の耐水性が不足したり、凝集性が不足したりするなどの問題が生じないので好ましい。
【0092】
(a−4)成分である脂肪酸は、その分子内に少なくとも1個の水酸基と、1個のカルボキシル基を含有する。その酸価及び水酸基価は特に制限されないが、通常は、共に150〜500の範囲であることが好ましい。(a−4)成分の具体例としては、例えばひまし油脂肪酸、硬化ひまし油脂肪酸、6−ヒドロキシカプロン酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸などが挙げられる。
【0093】
ポリウレタンアクリレート中の(a−4)成分の含有量はポリウレタンアクリレートの酸価が10〜50mgKOH/g、好ましくは15〜45mgKOH/gとなるように配合する。ポリウレタンアクリレートの酸価が10mgKOH/g以上であれば親水性が十分であるため安定な分散液が得やすい。また、ポリウレタンアクリレートの酸価が50mgKOH/g以下であれば親水性が強くなりすぎることがなく、適度な粘度の分散液が得られるので好ましい。
【0094】
(a−5)成分のアミンとしては、1〜3級のアミンを用いることができるが、塗布組成物の安定性の観点から3級アミンが好ましい。3級有機アミンとしては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを例示できる。これらの中で特にトリメチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。その理由はハードコート層形成用塗布組成物を塗工し、乾燥させる時、トリメチルアミンやトリエチルアミンは比較的容易に揮発し塗膜に残らないためである。揮発性の低い3級アミンを使用すると乾燥後も塗膜に残存し耐水性を低下させる傾向がある。水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等も同様の理由により中和成分として好ましくない。
【0095】
前記各成分の使用割合は特に制限されないが、(a−1)成分の水酸基と(a−2)成分のイソシアネート基の当量比が(a−1):(a−2)=1:1.2〜2程度となり、また得られるカルボキシル基含有ポリウレタン(メタ)アクリレートのアクリル当量が500〜15000g/モルの範囲になることが好ましい。この範囲にすることで架橋後の塗膜が十分な硬度を得ることができる。更に、(a−1)と(a−3)の水酸基当量の合計が(a−2)のイソシアネート基の当量より大きいことが形成される化合物の安定性の点で好ましい。
【0096】
以下、(a−1)〜(a−4)成分からなるポリウレタンアクリレートの製造法につき説明する。
まず(a−1)成分、(a−2)成分、(a−3)成分を、それぞれ上記使用割合で反応させ、遊離イソシアナート基を有するプレポリマーを得る。ついで、該プレポリマーと(a−4)成分を上記使用割合で反応させる。反応温度は40〜100℃、好ましくは60〜80℃であり、全反応時間は4〜12時間程度である。このウレタン化反応に際しては、反応促進のためにオクチル酸第1スズなどの公知のウレタン化触媒を使用するのが好ましい。また、ウレタン化反応に際し(A)成分の重合を防止するため、ハイドロキノン、メトキシフェノール、フェノチアジンなどの重合防止剤を、反応系に対して10〜5000ppm、好ましくは50〜2000ppm使用したり、エアーシールを行ったりするのがよい。
【0097】
上記で得られたポリウレタンアクリレートは、ついで中和剤である(a−5)成分により中和される。中和度は特に限定はされないが、通常は30〜100%、好ましくは50〜100%とされる。
中和後、水を加え、固形分20〜60質量%になるよう希釈して目的のハードコート層形成用塗布組成物を得る。固形分濃度は更に好ましくは、30〜50質量%である。この範囲により高濃度では液保管時の安定性が低下し、この範囲より低濃度では水分乾燥時に塗膜の粘度が低く、はじきなどの欠陥を生じやすい。
【0098】
本発明におけるハードコート層形成用塗布組成物は、本発明で用いる支持体を侵さないという目的から、揮発性有機溶剤希釈型の塗布組成物ではないが、支持体が白濁を起こさない範囲で塗布組成物中に公知の揮発性有機溶剤を若干量併用することを妨げるものではない。本発明においては、支持体を有機溶剤が侵して白濁や界面密着不良などの弊害を起こすことがなく、且つ塗布組成物の連続相が有機溶剤含有相とはならない範囲で、揮発性有機溶剤を添加することができるが、有機溶剤を実質的に使用しないハードコート層形成用塗布組成物であることが好ましい。
【0099】
これらの併用可能な有機溶媒としては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、n−ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、N−メチルピロリドン、トルエン、キシレン、(メタ)アクリル酸メチル、メタ)アクリル酸エチル、スチレン、メチルスチレンなどが挙げられる。
【0100】
本発明に使用する有機溶媒の沸点は、水よりも乾燥タイミングを遅らせるために、水の沸点とほぼ同等以上であることが好ましいが、高すぎると蒸発しきれず塗膜中に残存し返って膜強度を低下させてしまうため、75℃〜220℃が好ましく、90℃〜200℃が更に好ましく、100℃〜180℃が最も好ましい。
【0101】
本発明で用いる塗布組成物に使用する有機溶剤において、100gの水に対する有機溶剤の溶解度は、油相の分散安定性の観点から0g以上30g以下であることが好ましく、0g以上20g以下であることがより好ましく、0g以上10g以下であることがさらに好ましい。また、本発明に使用する有機溶剤の支持体に対する溶解性は、支持体表面を膨潤又は溶解させうることが好ましい。従って、前述の条件を満たす溶剤の中から、支持体の種類に適応したものを適宜選択すればよい。
【0102】
有機溶媒種と有機溶媒の絶対塗布量にも依存するが、界面密着を改良する効果を有する添加量としては、ハードコート層形成用塗布組成物全体に占める有機溶剤の割合として、一般に0〜5質量%、好ましくは0.1〜4質量%、更に好ましくは0.5〜3質量%である。
【0103】
本発明で用いられるハードコート層形成用塗布組成物は、ポリウレタンアクリレートの他に、必要に応じて、低級アルコールなどの親水性溶媒、着色料、その他レベリング改良剤などの添加剤などを、本発明の目的や効果を逸脱しない範囲内で適宜に併用しうる。本発明における含水樹脂組成物は、それ自体放置安定性が良好であるため、界面活性剤を添加する必要はなく、そのため硬化皮膜の耐水性が良好であり、本発明における支持体を用いたい場合でもハードコート層と支持体の界面も密着を良好に保つことができる。
【0104】
本発明におけるハードコート層形成用塗布組成物の最適粘度は、25℃において、通常は1〜500mPa・sが好ましく、更に好ましくは2〜100mPa・s、最も好ましくは2〜70mPa・sである。
【0105】
3−2.(b)成分:重合開始剤
本発明で用いられるバインダーの重合は、光重合開始剤又は熱重合開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。
【0106】
(光重合開始剤)
光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤が好ましく、光ラジカル重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、ロフィンダイマー類、オニウム塩類、ボレート塩類、活性エステル類、活性ハロゲン類、無機錯体、クマリン類などが挙げられる。
【0107】
アセトフェノン類の例には、2,2−ジメトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、1−ヒドロキシ−ジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシ−ジメチル−p−イソプロピルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルホリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−アセトフェノン(ダロキュア1173、チバスペシャルティーケミカルス製)、(p−ヒドロキシエトキシ)−2−ヒドロキシ−2−メチル−アセトフェノン(イルガキュア2959、チバスペシャルティーケミカルス製)などが含まれる。
【0108】
ベンゾイン類の例には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテルなどが含まれる。
【0109】
ベンゾフェノン類の例には、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルスルフィド、2,4−ジクロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン及びp−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメチルアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、3,3',4,4'−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどが含まれる。
【0110】
ホスフィンオキシド類の例には、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなどが含まれる。活性エステル類の例にはIRGACURE OXE01(1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)] チバスペシャリティーケミカルス製)、スルホン酸エステル類、環状活性エステル化合物などが含まれる。具体的には特開2000−80068号公報の実施例記載化合物1〜21が特に好ましい。
【0111】
オニウム塩類の例には、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩が挙げられる。ボレート塩の例にはカチオン性色素とのイオンコンプレックス類が挙げられる。
【0112】
活性ハロゲン類の例には、s−トリアジンやオキサチアゾール化合物が知られており、例えば2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−(p−スチリルフェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−(3−Br−4−ジ(エチル酢酸エステル)アミノ)フェニル)−4,6−ビス(トリクロルメチル)−s−トリアジン、2−トリハロメチル−5−(p−メトキシフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールが含まれる。
【0113】
具体的には、特開昭58−15503号公報のp14〜p30、特開昭55−77742号公報のp6〜p10、特公昭60−27673号公報のp287記載のNo.1〜No.8、特開昭60−239736号公報のp443〜p444のNo.1〜No.17、米国特許第4701399号明細書のNo.1〜19などの化合物が特に好ましい。
【0114】
本発明において、ハードコート層と支持体との密着性を改良するためには、ハードコート層形成用塗布組成物を支持体に塗布後、十分に乾燥させて水分を除去した後に硬化することが好ましい。水分の除去時に重合開始剤が低分子量だと、揮散したり移動したりして、ハードコート層形成用塗布組成物の内部に存在しにくく、塗布組成物中で分散された樹脂相の表面に残りやすく、硬化後の硬度が高くなりにくい。この課題を解決するために、本発明においては、分子量が220以上の重合開始剤又は、オリゴマー型の重合開始剤が好ましい。
【0115】
オリゴマー型放射線重合開始剤としては、放射線照射により光ラジカルを発生する部位を有するものであれば、特に制限はない。熱処理による揮散防止のために、重合開始剤の分子量は250以上10,000以下が好ましく、更に好ましくは300以上10,000以下である。質量平均分子量をこの範囲にすることで揮散性が小さく、得られる硬化塗膜の硬度を十分なものとすることができる。
【0116】
ビス型のα−ヒドロキシケトン系の光重合開始剤として、揮散防止に有効な化合物として、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(イルガキュア127、チバスペシャルティーケミカルス製、分子量340)が挙げられる。
【0117】
また、オリゴマー型重合開始剤の具体例としては、例えば、下記一般式(9)で表されるオリゴマー型紫外線重合開始剤が挙げられる。
【0118】
一般式(9):
【化6】

【0119】
一般式(9)中、Yは直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R71、R72は直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、相互に結合して環を形成してもよい。mは2〜50の整数である。
【0120】
Yの直鎖状又は分岐状のアルキレン基の炭素数は、特に制限ないが、1〜10が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3が特に好ましい。R71及びR72の直鎖状又は分岐状のアルキル基の炭素数は、特に制限ないが、1〜8が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3が特に好ましい。mは2〜20が好ましく、2〜10がより好ましく、2〜6が特に好ましい。
【0121】
オリゴマー型紫外線重合開始剤の繰り返し単位の連鎖部の末端は、置換基が結合されている。置換基としては、オリゴマー重合開始剤に由来する基であってもよいし、オリゴマー重合停止剤に由来する基であってもよいが、通常は水素原子、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの低級アルキル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロヘキシル、シクロへプチル基、シクロオクチル基及びこれ等のアルキル基置換体などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、及びそのアルキル基置換体等が挙げられる。
【0122】
オリゴマー型紫外線重合開始剤の具体例としては、ポリ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−{4−(1−メチルビニル)フェニル}プロパノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−{4−ビニル−フェニル}プロパノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−エチル−1−{4−(1−メチルビニル)フェニル}プロパノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−エチル−1−{4−ビニル−フェニル}プロパノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−{4−(1−メチルビニル)フェニル}ブタノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−{4−ビニル−フェニル}ブタノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−エチル−1−{4−(1−メチルビニル)フェニル}ブタノン]、ポリ[2−ヒドロキシ−2−エチル−1−{4−ビニル−フェニル}ブタノン]等が挙げられる。
【0123】
上記一般式(9)に示す重合開始剤の市販品としては、フラテツリ・ランベルティ社製、商品名「エザキュアKIP150」(CAS−No.163702−01−0)、「エザキュアKIP65LT」(「エザキュアKIP150」とトリプロピレングリコールジアクリレートの混合物)、「エザキュアKIP100F」(「エザキュアKIP150」と2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの混合物)、「エザキュアKT37」、「エザキュアKT55」(以上、「エザキュアKIP150」とメチルベンゾフェノン誘導体の混合物)、「エザキュアKTO46」(「エザキュアKIP150」、メチルベンゾフェノン誘導体及び2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドの混合物)、「エザキュアKIP75/B」(「エザキュアKIP150」と2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1オンの混合物)等を挙げることができる。
【0124】
「最新UV硬化技術」{(株)技術情報協会}(1991年)、p.159、及び、「紫外線硬化システム」加藤清視著(平成元年、総合技術センター発行)、p.65〜148にも種々の例が記載されており本発明に有用である。
【0125】
市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製の「イルガキュア651」、「イルガキュア184」、「イルガキュア819」、「イルガキュア907」、「イルガキュア1870」(CGI−403/Irg184=7/3混合開始剤)、「イルガキュア500」、「イルガキュア369」、「イルガキュア1173」、「イルガキュア2959」、「イルガキュア4265」、「イルガキュア4263」、“OXE01”等;日本化薬(株)製の「カヤキュアーDETX−S」、「カヤキュアーBP−100」、「カヤキュアーBDMK」、「カヤキュアーCTX」、「カヤキュアーBMS」、「カヤキュアー2−EAQ」、「カヤキュアーABQ」、「カヤキュアーCPTX」、「カヤキュアーEPD」、「カヤキュアーITX」、「カヤキュアーQTX」、「カヤキュアーBTC」、「カヤキュアーMCA」など;サートマー社製の“Esacure(KIP100F,KB1,EB3,BP,X33,KTO46,KT37,KIP150,TZT)”等、及びそれらの組み合わせが好ましい例として挙げられる。
【0126】
光重合開始剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。(a)成分100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。
【0127】
光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーケトン及びチオキサントンなどを挙げることができる。更にアジド化合物、チオ尿素化合物、メルカプト化合物などの助剤を1種以上組み合わせて用いてもよい。市販の光増感剤としては、日本化薬(株)製の「カヤキュアー(DMBI,EPA)」などが挙げられる。
【0128】
(熱重合開始剤)
熱重合開始剤としては、有機又は無機過酸化物、有機アゾ及びジアゾ化合物等を用いることができる。
【0129】
具体的には、有機過酸化物として過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシド、無機過酸化物として、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等、アゾ化合物として2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等、ジアゾ化合物としてジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【0130】
熱重合開始剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。(a)成分100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。
【0131】
3−3.その他の構成成分
本発明におけるハードコート層形成用塗布組成物は、(a)成分:同一分子内に重合性官能基と親水基を含有する硬化性化合物及び、(b)成分:重合開始剤の他に、必要に応じて、低級アルコールなどの親水性溶媒、着色料、その他レベリング改良剤などの添加剤などを、本発明の目的や効果を逸脱しない範囲内で適宜に併用しうる。これら添加剤は、塗布組成物から水分を除いた成分の全質量に対して、0.01〜5質量%の範囲で使用することが好ましい。本発明におけるハードコート層形成用塗布組成物は、それ自体放置安定性が良好であるため、界面活性剤を添加する必要はなく、そのため硬化皮膜の耐水性が良好であり、本発明の支持体を用いたい場合でもハードコート層と支持体の界面も密着を良好に保つことができる。
【0132】
ハードコート層の膜厚は、フィルムに充分な耐久性、耐衝撃性を付与する観点から、通常0.5〜50μm程度とし、好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜10μm、最も好ましくは3〜7μmである。
【0133】
また、ハードコート層の表面硬度は、鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。さらに、JIS K−5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0134】
ハードコート層には、内部散乱性付与の目的で、平均粒径が1.0〜15.0μm、好ましくは1.5〜10.0μmのマット粒子、例えば無機化合物の粒子又は樹脂粒子を含有してもよい。
【0135】
ハードコート層のバインダーには、ハードコート層の屈折率を制御する目的で、高屈折率モノマーもしくは無機粒子、又はそれら両者を加えることができる。無機粒子には屈折率を制御する効果に加えて、架橋反応による硬化収縮を抑える効果もある。本発明では、ハードコート層形成後において、前記多官能モノマー及び/又は高屈折率モノマー等が重合して生成した重合体、その中に分散された無機粒子を含んでバインダーと称する。
【0136】
ハードコート層のヘイズは、光学フィルムに付与させる機能によって異なる。画像の鮮明性を維持し、表面の反射率を抑えて、ハードコート層の内部及び表面にて光散乱機能を付与しない場合は、ヘイズ値は低い程よく、具体的には10%以下が好ましく、更に好ましくは5%以下であり、最も好ましくは2%以下である。
【0137】
本発明のハードコート積層体は、目的に応じて、表面ヘイズ及び内部ヘイズを自由に設定可能であるが、ハードコート層の表面散乱にて、防眩機能を付与する場合は、表面ヘイズが5〜15%であることが好ましく、5〜10%であることがより好ましい。また、ハードコート層の内部散乱により、液晶パネルの模様や色ムラ、輝度ムラ、ギラツキなどを見え難くしたり、散乱により視野角を拡大したりする機能を付与する場合は、内部ヘイズ値(全ヘイズ値から表面ヘイズ値を引いた値)は10〜90%であることが好ましく、更に好ましくは15〜80%であり、最も好ましくは20〜70%である。
【0138】
ハードコート層の表面凹凸形状については、画像の鮮明性を維持する目的からクリアな表面を得るためには、表面粗さを示す特性のうち、例えば中心線平均粗さ(Ra)を0.08μm以下とすることが好ましい。Raは、より好ましくは0.07μm以下であり、更に好ましくは0.06μm以下である。本発明のハードコート積層体においては、その表面凹凸にはハードコート層の表面凹凸が支配的であり、ハードコート層の中心線平均粗さを調節することにより、ハードコート積層体の中心線平均粗さを上記範囲とすることができる。
【0139】
画像の鮮明性を維持する目的では、表面の凹凸形状を調整することに加えて、透過画像鮮明度を調整することが好ましい。クリアなハードコート積層体の透過画像鮮明度は60%以上が好ましい。透過画像鮮明度は、一般にフィルムを透過して映す画像のボケ具合を示す指標であり、この値が大きい程、フィルムを通して見る画像が鮮明で良好であることを示す。透過画像鮮明度は好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上である。
【0140】
本発明におけるハードコート層には、導電剤を含んでいてもよい。導電剤の添加により、ハードコート積層体の最表面の飽和帯電量を低減することができ、それにより最表面での耐埃性を付与することができる。
【0141】
4.ハードコート層の塗布・乾燥・硬化方法
4−1.ハードコート層の塗布方法
本発明におけるハードコート層は、以下の公知の塗布方法により形成することができるが、この方法に制限されない:
ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、エクストルージョンコート法(ダイコート法)(米国特許2681294号明細書参照)、マイクログラビアコート法等。
これらの中でもマイクログラビアコート法、ダイコート法が好ましい。
【0142】
本発明のハードコート積層体を高い生産性で供給するために、エクストルージョン法(ダイコート法)が特に好ましく用いられる。特に、ハードコート層や反射防止層のような、ウエット塗布量の少ない領域(20cm3/m2以下)で好ましく用いることができる。また、本発明におけるハードコート層形成用塗布組成物の粘度が10〜100mPa・sの領域では、他の方法に比較して塗布面状に優れ特に好ましい。
【0143】
4−2.ハードコート層の乾燥方法
本発明のハードコート積層体は、支持体上に直接ハードコート層形成用塗布組成物が塗布された後、水を乾燥するために加熱されたゾーンにウェブで搬送されることが好ましい。
【0144】
乾燥ゾーンの温度は25〜140℃が好ましく、乾燥ゾーンの前半は比較的低温であり、後半は比較的高温であることが好ましい。但し、塗布組成物に含有される水以外の成分の揮発が始まる温度以下であることが好ましい。例えば、紫外線硬化樹脂と併用される市販の光ラジカル発生剤のなかには、120℃の温風中で数分以内にその数10%前後が揮発してしまうものもあり、また、単官能、2官能のアクリレートモノマー等は100℃の温風中で揮発が進行するものもある。そのような場合には、塗布組成物に含有される水以外の成分の揮発が始まる温度以下であることが好ましい。
【0145】
また、ハードコート層形成用塗布組成物及び、後記の付加的に形成可能な構成層などの各層の塗布組成物を支持体上に塗布した後の乾燥風は、これら塗布組成物の固形分濃度が1〜50質量%の間は、塗膜表面の風速が0.1〜2m/秒の範囲にあることが、乾燥ムラを防止するために好ましい。また、これらの塗布組成物を支持体上に塗布した後、乾燥ゾーン内で塗布面とは反対側の支持体面に接触する搬送ロールと支持体との温度差が0℃〜20℃以内とすると、搬送ロール上での伝熱ムラによる乾燥ムラが防止できるので好ましい。
【0146】
4−3.ハードコート層の硬化方法
本発明のハードコート積層体は、溶媒の乾燥の後に、ウェブで電離放射線及び/又は熱により各塗膜を硬化させるゾーンを通過させ、塗膜を硬化することができる。
【0147】
本発明における電離放射線種は、特に制限されるものではなく、皮膜を形成する硬化性組成物の種類に応じて、紫外線、電子線、近紫外線、可視光、近赤外線、赤外線、X線などから適宜選択することができが、紫外線、電子線が好ましく、特に取り扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られるという点で紫外線が好ましい。
【0148】
紫外線反応性の硬化性組成物を光重合させる紫外線の光源としては、紫外線を発生する光源であれば何れも使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプ又はシンクロトロン放射光等も用いることができる。このうち、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプを好ましく利用できる。
【0149】
また、電子線も同様に使用できる。電子線としては、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される、一般に50〜1000keV、好ましくは100〜300keVのエネルギーを有する電子線を挙げることができる。
【0150】
照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、照射光量は10mJ/cm2以上が好ましく、更に好ましくは、50〜10000mJ/cm2であり、特に好ましくは、50〜2000mJ/cm2である。その際、ウェブの幅方向の照射量分布は、中央の最大照射量に対して、両端まで含めて50〜100%の分布が好ましく、80〜100%の分布がより好ましい。
【0151】
本発明では、支持体上に積層された少なくとも一層のハードコート層を、電離放射線を照射し、且つ電離放射線照射開始から0.5秒以上の間、膜面温度60℃以上に加熱した状態で、酸素濃度10体積%以下の雰囲気で電離放射線を照射する工程によって硬化することが好ましい。また電離放射線照射と同時及び/又は連続して酸素濃度3体積%以下の雰囲気で加熱されることも好ましい。特に膜厚が薄い低屈折率層がこの方法で硬化されることが好ましい。硬化反応が熱で加速され、物理強度、耐薬品性に優れた皮膜を形成することができる。
【0152】
電離放射線を照射する時間については0.7秒以上60秒以下が好ましく、0.7秒以上10秒以下がより好ましい。照射時間を0.7秒以上とすることで、硬化反応が完了し、十分な硬化を行うことができる。また60秒以下とすることで、長時間低酸素条件を維持する必要がないため、設備の大型化を避けることができる、多量の不活性ガスが不要である、などの観点で優れている。
【0153】
酸素濃度が6体積%以下の雰囲気で、電離放射線硬化性組成物の架橋反応又は重合反応を行うことが好ましく、更に好ましくは酸素濃度が4体積%以下、特に好ましくは酸素濃度が2体積%以下、最も好ましくは1体積%以下である。必要以上に酸素濃度を低減するためには、窒素などの不活性ガスの多量の使用量が必要であり、製造コストの観点から好ましくない。
【0154】
酸素濃度を10体積%以下にする手法としては、大気(窒素濃度約79体積%、酸素濃度約21体積%)を別の気体で置換することが好ましく、特に好ましくは窒素で置換(窒素パージ)することである。
【0155】
不活性ガスを電離放射線照射室に供給し、且つ照射室のウェッブ入口側にやや吹き出す条件にすることで、ウェッブ搬送にともなう導搬エアーを排除し、反応室の酸素濃度を有効に下げられるとともに、酸素による硬化阻害の大きい極表面の実質の酸素濃度を効率よく低減することができる。照射室のウェッブ入口側での不活性ガスの流れの方向は、照射室の給気、排気のバランスを調整することなどで制御できる。不活性ガスをウェッブ表面に直接吹き付けることも、導搬エアーを除去する方法として好ましく用いられる。
【0156】
硬化の際、フィルム面が60℃以上170℃以下で加熱されることが好ましい。加熱温度が60℃以上であれば加熱による硬化が進行し、170℃以下であれば支持体の変形などの問題が生じることがない。更に好ましい温度は60〜100℃である。フィルム面とはハードコート層など硬化しようとする層の膜面温度を指す。またフィルム面がこのような温度になる時間は、UV照射開始から0.1秒以上、300秒以下が好ましく、更に10秒以下が好ましい。フィルム面の温度を上記の温度範囲に保つ時間が0.1秒以上であれば、皮膜を形成する硬化性組成物の反応を促進することができ、300秒以下であればフィルムの光学性能が低下したり、設備が大きくなりすぎたりするなどの製造上の問題が生じないので好ましい。
【0157】
加熱する方法に特に限定はないが、ロールを加熱してフィルムに接触させる方法、加熱した窒素を吹き付ける方法、遠赤外線又は赤外線の照射などが好ましい。特許2523574号公報に記載の回転金属ロールに温水や蒸気・オイルなどの媒体を流して加熱する方法も利用できる。加熱の手段としては誘電加熱ロールなどを使用してもよい。
【0158】
本発明では、支持体上に積層された少なくとも一層のハードコート層などの層を、複数回の電離放射線により硬化することができる。この場合、少なくとも2回の電離放射線が、酸素濃度3体積%を超えることのない連続した反応室で行われることが好ましい。複数回の電離放射線照射を同一の低酸素濃度の反応室で行うことにより、硬化に必要な反応時間を有効に確保することができる。特に高生産性のため製造速度を上げた場合には、硬化反応に必要な電離放射線のエネルギーを確保するために複数回の電離放射線照射が必要となる。
【0159】
また、硬化率(100−残存官能基含率)が100%未満のある値となった場合、その上に層を設けて電離放射線及び/又は熱により硬化した際に下層の硬化率が上層を設ける前よりも高くなると、下層と上層との間の密着性が改良され、好ましい。
【0160】
5.付加的に形成可能な構成層
本発明のハードコート積層体は、ハードコート層に加えて、更に別の機能層を単独又は複数層設けることもできる。好ましい1つの態様としては、支持体上に形成されたハードコート層の上に、光学干渉によって反射率が減少するように屈折率、膜厚、層の数、層順等を考慮して積層した反射防止層を設けることにより反射防止フィルムとすることができる。
【0161】
一般に反射防止フィルムは、最も単純な構成では、支持体上に低屈折率層のみを塗設した構成である。更に反射率を低下させるには、反射防止層を、支持体(及びハードコート層)よりも屈折率の高い高屈折率層と、支持体(及びハードコート層)よりも屈折率の低い低屈折率層とを組み合わせて構成することが好ましい。構成例としては、支持体側から高屈折率層/低屈折率層の2層のものや、屈折率の異なる3層を、中屈折率層(支持体又はハードコート層よりも屈折率が高く、高屈折率層よりも屈折率の低い層)/高屈折率層/低屈折率層の順に積層されているもの等があり、更に多くの反射防止層を積層するものも提案されている。中でも、耐久性、光学特性、コストや生産性等から、ハードコート層を有する支持体上に、中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層の順に塗布することが好ましく、例えば、特開平8−122504号公報、特開平8−110401号公報、特開平10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等に記載の構成が挙げられる。
【0162】
また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例えば、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
【0163】
さらに別の態様として、光学干渉を積極的には用いずに、ハードコート性、防湿性、ガスバリア性、防眩性、防汚性などの付与の目的のために必要な層を設けた光学フィルムも好ましい。これらの層は、蒸着、大気圧プラズマ、塗布などの方法により形成することができる。生産性の観点からは、塗布により形成することが好ましい。
【0164】
本発明のハードコート積層体は、特にその用途は限定されないが、画像表示装置の画像表示面の前面板として、好適に利用でき、特に、液晶表示装置等に用いられる偏光板用保護フィルム、プラズマディスプレイや有機ELディスプレイ等で使用される画像表示装置前面板用フィルムとして利用できる。
【0165】
ハードコード積層体の最表面に、低屈折率層をさらに積層することにより反射性を低減させ、視認性が向上した画像表示装置前面板用の積層体として好適に利用できる。本発明において低屈折率層は、その屈折率が1.1以上1.5未満であり、好ましくは1.1以上1.45以下で構成されてなるものをいう。低屈折率層を備えたハードコート積層体は反射防止効果が付与される。低屈折率層の厚さは、20nm以上400nm以下であり、好ましくは50nm以上120nm以下である。
【実施例】
【0166】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は、以下に示す具体例に限定されるものではない。以下、「部」「%」の記載は質量換算を意味する。
【0167】
<ハードコート積層体>
〔環含有重合体の作製〕
合成例1:ラクトン環含有重合体ペレット(P−1)の作製
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を付した30L反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)8000g、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)2000g、4−メチル−2−ペンタノン(メチルイソブチルケトン、MIBK)10000g、n−ドデシルメルカプタン5gを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温し、還流したところで、開始剤としてt−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート{化薬アクゾ(株)製、「カヤカルボン Bic−75」(商品名)}5.0gを添加すると同時に、t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート10.0gとMIBK230gからなる溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜120℃)で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行った。
【0168】
得られた重合体溶液に、リン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物{堺化学工業(株)製、“Phoslex A−18”(商品名)}30gを加え、還流下(約90〜120℃)で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、この環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、該押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、透明なペレット(P−1)を得た。
【0169】
得られたペレット(P−1)について、ダイナミックTGの測定を行ったところ、0.17質量%の質量減少を検知した。この質量減少から算出される脱アルコール反応率は96.6%であった。また、ペレットの質量平均分子量は133,000であり、メルトフローレートは6.5g/10分、ガラス転移温度は131℃であった。
【0170】
合成例2:グルタル酸無水物単位を含有するアクリル系熱可塑性共重合体ペレット(P−2)の作製
メタクリル酸メチル20質量部、アクリルアミド80質量部、過硫酸カリウム0.3質量部、イオン交換水1500質量部を反応器中に仕込み、単量体が完全に重合体に転化するまで、反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保ち、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤水溶液を作製した。
【0171】
得られたメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤水溶液0.05部を、更にイオン交換水165部に溶解させた溶液にして、ステンレス製のオートクレーブに供給し、撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記の単量体混合物を、反応系を撹拌しながら添加し、70℃に昇温した。
メタクリル酸(MAA) 30質量部
メタクリル酸メチル(MMA) 70質量部
t−ドデシルメルカプタン 0.6質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4質量部
【0172】
内温が70℃に達した時点を重合開始時として、180分間保った後、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体Dを製造した。この共重合体D製造時の重合率は98%であった。
【0173】
このビーズ状の共重合体D及びナトリウムメトキシドを、共重合体D100質量部、ナトリウムメトキシド0.5質量部の割合で、ベント付き同方向回転2軸押出機に、そのホッパー口より供給して、樹脂温度250℃で溶融押出し、ペレット状の、グルタル酸無水物単位を含有するアクリル系熱可塑性共重合体(P−2)を製造した。得られたアクリル系熱可塑性共重合体を、赤外分光光度計を用いて分析した結果、1800cm-1及び1760cm-1に吸収ピークが確認され、グルタル酸無水物単位が形成されていることを確認した。また、このアクリル系熱可塑性共重合体を重ジメチルスルホキシドに溶解させ、室温(23℃)にて1H−NMRを測定し、共重合体組成を決定したところ、メタクリル酸メチル単位70質量%、グルタル酸無水物単位30質量%、メタクリル酸単位0質量%であった。また、そのガラス転移温度は145℃であった。
【0174】
〔透明支持体の作製〕
製造例1:支持体(SP−1)の作製
上記ペレット(P−1)とアクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂{東洋スチレン(株)製、「トーヨーAS AS20」(商品名)}をP−1/AS樹脂=90/10の質量比で単軸押出し機(φ=30mm)を用いて混錬することにより、透明なペレットを得た。得られたペレットのガラス転移温度は127℃であった。このペレットをメチルエチルケトン(MEK)に溶解させ、溶液キャスト法で60μmのフィルム(SP−1)を作製した。
【0175】
製造例2:支持体(SP−2)の作製
製造例1で得られた支持体(SP−1)のフィルムを、100℃で0.1m/分の速度で1.5倍に単軸延伸することで50μmの延伸フィルム(SP−2)を得た。
【0176】
製造例3:支持体(SP−3)の作製
合成例2で得られたペレット(P−2)をMEKに溶解させ、溶液キャスト法で60μmのフィルム(SP−3)を作製した。
【0177】
〔ハードコート層形成用塗布組成物の調製〕
配合例1:ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−1)の調製
撹拌機、温度計及び還流冷却器を備えたフラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)の三量体{日本ポリウレタン(株)製、「コロネートHX」(商品名)}365.4質量部、ロジンエポキシアクリレート{荒川化学工業(株)製、「ビームセット101」(商品名)}168.4質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート100.3質量部、メトキシポリエチレングリコール{分子量400、東邦化学工業(株)製、「メトキシPEG400」(商品名)}25.1質量部及び4−メトキシフェノール0.8質量部を仕込み、次いで撹拌下にオクチル酸第1スズ0.16質量部を仕込んで、系内を昇温した。70℃で1.5時間保温した後、2−ヒドロキシエチルアクリレート31.4部を加えさらに1時間保温した。その後、ひまし油脂肪酸{豊国製油(株)製、“CO−FA”(商品名)}105.0質量部を加え、HMDI三量体中の残余イソシアネート基とひまし油脂肪酸の水酸基とを反応させた。得られたポリウレタンアクリレートの酸価は、24.2mgKOH/gであった。該ポリウレタンアクリレート200質量部を60〜70℃に保温し、撹拌下にトリエチルアミン6.1質量部を加えて中和し、更に脱イオン水293.9質量部を加えて、不揮発分40質量%のエマルジョン(E−1)を得た。このエマルジョンの粘度は50mPa・s/25℃であった。エマルジョン100質量部に対して光重合開始剤「ダロキュア1173」{分子量164、チバ・スペシャルティーケミカルズ(株)製}1.5質量部を添加し、更に水を加え不揮発分濃度が36質量%になるよう調節してハードコート層形成用塗布組成物(HCL−1)を調製した。
【0178】
配合例2:ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−2)の調製
配合例1において、光重合開始剤として「ダロキュア1173」を用いる代わりに、同質量の「イルガキュア2959」{分子量224、チバ・スペシャルティーケミカルズ(株)製)を用いた以外は配合例1と同様にして、ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−2)を調製した。
【0179】
配合例3:ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−3)の調製
配合例1において、光重合開始剤として「ダロキュア1173」を用いる代わりに、「イルガキュア2959」0.8質量部及び「イルガキュア127」{ビス型光重合開始剤、分子量340、チバ・スペシャルティーケミカルズ(株)製}0.7質量部を用いた以外は配合例1と同様にして、ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−3)を調製した。
【0180】
配合例4:ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−4)の調製
配合例1において、エマルジョン(E−1)100質量部に対してMEKを2質量部添加した以外は配合例1と同様にして、ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−4)を調製した。
【0181】
配合例5:ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−5)の調製(比較用)
先ず、「プルロニックF68」{親水性樹脂、旭電化工業(株)製}3質量部とジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム塩の80質量%溶液5質量部とを、水41質量部に溶解して乳化剤水溶液を調製した。ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート46質量部に「ダロキュア1173」3質量部を添加、溶解し、そこに上記乳化剤水溶液を添加、混合し、乳化分散して、エネルギー線硬化性水中油滴型エマルションを得た。これを不揮発分濃度が36質量%になるように水で希釈し、ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−5)を調製した。
【0182】
配合例6:ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−6)の調製(比較用)
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート46質量部、「ダロキュア1173」3質量部及び「プルロニックF68」3質量部をMEKに不揮発分濃度が36質量%になるよう溶解し、ハードコート層形成用塗布組成物(HCL−6)を調製した。
【0183】
〔ハードコート積層体の作製〕
実施例1:ハードコート積層体(HC−1)の作製
上記で作製した支持体(SP−1)の上に、ダイコート法によってハードコート層形成用塗布液(HCL−1)を塗布し、80℃で5分間乾燥の後、さらに窒素パージ下で240W/cmの「空冷メタルハライドランプ」{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照射量300mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、乾燥膜厚10μmのハードコート層を形成した。
【0184】
実施例2〜12及び比較例1〜6:ハードコート積層体(HC−2〜HC−18)の作製
実施例1において、支持体とハードコート層形成用塗布液を表1に示す様に変更した以外は実施例1と同様にして、ハードコート積層体(HC−2〜HC−18)を作製した。
【0185】
〔ハードコート積層体の評価〕
作製したハードコート積層体(HC−1)〜(HC−18)について、以下の評価を実施した。
【0186】
評価1:鉛筆硬度評価
ハードコート積層体の硬度は、JIS K−5400に従う鉛筆硬度試験で評価した。上記支持体のみで評価した鉛筆硬度はSP−1、2,3ともにHBのレベルであった。
【0187】
評価2:耐擦傷性評価(SW)
「ラビングテスター」を用いて、以下の条件で擦りテストを実施した。
評価環境条件:25℃、60%RH。
擦り材:スチールウール{日本スチールウール(株)製、グレードNo.0000}を、試料と接触するテスターの擦り先端部(1cm×1cm)に巻いて、バンド固定。
移動距離(片道):13cm。
擦り速度:13cm/秒。
荷重:500g/cm2
先端部接触面積:1cm×1cm。
擦り回数:10往復。
擦り終えた試料の裏側に油性黒インキを塗り、擦り部分の傷を反射光で目視観察して、擦った部分の傷の本数を以下の判定基準に従って評価した。
◎:傷の発生が全く認められない。
○:3本以内の細い傷が認められる。
△:10本以内の傷が認められる。
×:10本以上の傷が認められる。
○以上のレベルを合格とした
【0188】
評価3:密着性評価(常湿条件)
透明支持体とハードコート層との密着性は、以下の方法により評価した。
ハードコート積層体のハードコート層を有する側の表面に、カッターナイフで碁盤目状に縦11本、横11本の切り込みを1mm間隔で入れて、合計100個の正方形の升目を刻んだ。ハードコート積層体を25℃、55%RH下に24時間放置した後に、25℃、60%RHに調温調湿された部屋で日東電工(株)製のポリエステル粘着テープ(NO.31B)を圧着し、15分放置後引き剥がす試験を同じ場所で繰り返し3回行い、剥がれの有無を目視で観察した。100個の升目中、剥がれの数を数えた。剥がれの数は5升以内であることが好ましく、2升以内であることが更に好ましい。
【0189】
評価4:密着性評価(高湿条件)
ハードコート積層体に、上記評価3と同様に100個の正方形の升目を刻んだ。その後、60℃、90%RHで3日保存した後に、25℃、55%RHに調温調湿された部屋で日東電工(株)製のポリエステル粘着テープ(NO.31B)を圧着し、15分放置後引き剥がす試験を同じ場所で繰り返し3回行い、剥がれの有無を目視で観察した。
【0190】
評価5:塗膜の透明性
ハードコート積層体の透明性(白濁の発生の有無)は、ハードコート層を塗布する前後でのヘイズ変化で評価した。ヘイズとはJIS K−7105に規定されたヘイズ値のことであり、JIS K−7361−1で規定された測定法に基づき、日本電色工業(株)製の濁度計“NDH−1001DP”を用いて測定し、ヘイズ=(拡散光/全透過光)×100(%)として自動計測される値を用いた。ヘイズ差が1を超えると容易に視認できるレベルであり好ましくない。評価結果を下記表に示す。
【0191】
【表1】

【0192】
上記表1によれば、同一分子内に親水基と重合性官能基を含む硬化性化合物を含有する、水分散系ハードコート層形成用組成物を塗設した本発明の試料は、ヘイズの発生が抑えられ、鉛筆硬度、耐擦傷性、密着性(常湿、高湿下とも)に優れる。同一分子内に親水基と重合性官能基を含まない重合性化合物を、官能基を含まない分散剤で分散したハードコート層形成用塗布組成物(HCL−5)を塗設した試料は、鉛筆硬度は優れるものの密着性に劣り、特に高湿保管後の密着性が大きく悪化する。
【0193】
有機溶媒で希釈したハードコート層塗布組成物(HCL−6)を塗付した試料は、ヘイズの上昇が認められ、密着性も劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物から形成された支持体上に、ハードコート層形成用塗布組成物から形成されたハードコート層を有するハードコート積層体であって、該熱可塑性樹脂組成物がラクトン環単位又はグルタル酸無水物単位を有する重合体を含有し、且つハードコート層形成用塗布組成物が、以下の成分(a)及び(b)を含有することを特徴とするハードコート積層体。
(a)同一分子内に重合性官能基と親水基を含有する硬化性化合物。
(b)重合開始剤。
【請求項2】
ハードコート層形成用塗布組成物が水性塗布液であり、その水性塗布液中に(a)成分を分散状態で含有する請求項1に記載のハードコート積層体。
【請求項3】
ハードコート層形成用塗布組成物が、重合性官能基を有さず且つ親水基を有する分散剤を含有しない請求項2に記載のハードコート積層体。
【請求項4】
ラクトン環単位を有する重合体が、下記一般式(1)で表される単位を有する重合体である請求項1〜3のいずれかに記載のハードコート積層体。
一般式(1):
【化1】

(式中、R11、R12、R13は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。)
【請求項5】
グルタル酸無水物単位を有する重合体が、下記一般式(3)で表される単位を有する重合体である請求項1〜3のいずれかに記載のハードコート積層体。
一般式(3):
【化2】

(式中、R31、R32は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。)
【請求項6】
熱可塑性樹脂が、更にシアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを有する共重合体を含む請求項1〜5のいずれかに記載のハードコート積層体。

【公開番号】特開2012−250535(P2012−250535A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160537(P2012−160537)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【分割の表示】特願2007−87219(P2007−87219)の分割
【原出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】