説明

ハードコート組成物及びプラスチック光学製品

【課題】耐候性がよい高屈折率ハードコート層を形成するためのハードコート組成物及びそのようなハードコート層を備えたプラスチック光学製品を提供すること。
【解決手段】プラスチック製光学基材表面にハードコート層を形成するためのハードコート組成物であって、テトラエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等の有機シラン化合物、酸化チタンを主体として更に酸化ジルコニウム及び酸化シリコン等からなる複合微粒子、ジシアンジアミド、イタコン酸並びにCo(II)のアセチルアセトネート化合物を主成分とするハードコート液をプラスチック製眼鏡レンズの表面に塗布し、硬化させてハードコート層を形成させる。このような成分のハードコート層とすることによってハードコート層の耐候性を良好に維持することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば眼鏡レンズのようなプラスチック光学基材の表面に形成されるハードコート層及び同ハードコート層がその表面に形成されたプラスチック光学製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズはガラスレンズよりも軽量で割れにくく着色しやすいという利点があるため視力矯正用のレンズやサングラスのような眼鏡レンズとして多用されている。しかし、一方でガラスレンズに比べて柔らかく傷が付きやすいという特性があるため、従来からその表面にハードコート層を形成するようにしている。
ところで、近年、特に視力矯正用のレンズでは高屈折率材料を用いてレンズの薄型化を実現するようになってきている。このような高屈折率材料を用いた眼鏡レンズの一例として特許文献1を挙げる。このような高屈折率材料の眼鏡レンズにハードコート層を形成する場合に生じる問題の1つにハードコート層と眼鏡レンズとの屈折率の違いから発生する干渉縞がある。この干渉縞は眼鏡レンズの外観(他人にレンズを見られた場合のレンズの見た目)の不良となってしまう。そのため、ハードコート層の屈折率を高屈折率材料を使用した眼鏡レンズの屈折率に近づけた高屈折率のハードコート層を実現する技術が開発されている。このような高屈折率ハードコート層に関する技術として特許文献2を挙げる。特許文献2では酸化チタンを主材とする無機酸化物微粒子をハードコート液に添加することで形成されるハードコート層の屈折率の向上を図らんとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−270859号公報
【特許文献2】特開平3−68901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、酸化チタンはハードコート層の屈折率向上に寄与するものの、一方でその他の物理的性能、例えば耐候性能が酸化チタンを含有しないハードコート層と比較して劣るものとなっていた。具体的には紫外線による酸化チタンの光触媒作用によってハードコート層が劣化し、酸化チタンを含有しないハードコート層よりもクラックや層剥離が発生しやすくなってしまうこととなっていた。ここに光触媒作用は酸素の存在下での遊離基の発生が助長されることから酸素を遮断するために被膜(例えば酸化シリコンのような酸化被膜)をハードコート層の表面に蒸着させて耐候性を向上させる手段も考えられるがこのような蒸着被膜は耐熱性能が十分ではないため経年使用によって被膜が剥離してしまい、耐候性を向上するための十分な手段とはなり得ない。そのため、ハードコート層自体に十分な耐候性能を与える技術が望まれていた。
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的は、耐候性がよい高屈折率ハードコート層を形成するためのハードコート組成物及びそのようなハードコート層を備えたプラスチック光学製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、プラスチック製光学基材表面にハードコート層を形成するためのハードコート組成物であって下記A〜E成分を含有することをその要旨とする。
A.有機ケイ素化合物の加水分解物
B.酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子
C.ジシアンジアミド
D.有機多価カルボン酸
E.Co(II)化合物
請求項2に記載の発明では請求項1に記載の発明において、前記有機多価カルボン酸はイタコン酸であることをその要旨とする。
請求項3に記載の発明では、プラスチック光学製品として請求項1又は2に記載のハードコート組成物を湿式法によって前記光学基材表面に直接又は他の層を介して形成させたハードコート層を有することをその要旨とする。
請求項4に記載の発明では請求項3に記載の発明において、前記ハードコート層の上面には湿式法によって単層又は複層の反射防止膜を形成したことをその要旨とする。
請求項5に記載の発明では請求項4に記載の発明において、前記反射防止膜は少なくとも最上層に有機ケイ素化合物を主成分とした膜層が配置される膜構造であることをその要旨とする。
請求項6記載の発明では請求項4又は5に記載の発明において、前記複層の反射防止膜は低屈折率層と高屈折率層の交互層から構成され、高屈折率層は金属酸化物を主成分とした膜層であることをその要旨とする。
請求項7記載の発明では請求項6に記載の発明において、前記高屈折率層は酸化チタンを除く金属酸化物を主成分とした膜層であることをその要旨とする。
請求項8記載の発明では請求項6に記載の発明において、前記高屈折率層は酸化ジルコニウムを主成分とした膜層であることをその要旨とする。
【0006】
本発明に使用されるプラスチック基材としては例えばポリメチルメタクレート及びその共重合体、ポリカーボネート、ポリジエチレングリコールビスアリルカーボネート(CR−39)、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン、その他硫黄含有樹脂等が一例として挙げられる。中でも本発明の高屈折率ハードコートの主旨からすれば、ポリカーボネート、ポリチオウレタン、その他硫黄含有樹脂など屈折率1.58以上のプラスチック基材が好ましい。光学基材の用途例としては代表的には眼鏡用のプラスチックレンズが挙げられる。
ハードコート組成物の構成要素としてシラン化合物の加水分解物とは、
一般式として、
12nSiX3-n( n=0 or 1) (1)
で表される有機ケイ素化合物。
(式中、R1は重合可能な反応基を有する有機基、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、Xは加水分解基)
で表される物質である。
ここに、R1の具体例として重合可能な反応基の具体例としては、例えばビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。ここでR1としてはエポキシ基が最も好ましい。エポキシ基が存在することでシラン化合物の加水分解物は開環重合するため、耐擦傷性、耐候性、耐薬品性が向上するためである。
また。R2の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。
また、Xは加水分解可能な官能基であり、その具体例として、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。Xとしてはアルコキシ基が最も好ましい。
上記有機ケイ素化合物の具体例としては、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン等が挙げられる。なお、一般式(1)の有機ケイ素化合物のほかにテトラアルコキシシランやメチルトリアルコキシシラン等を併用して硬度等の物性を調節することも可能である。
【0007】
酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子としては酸化チタン以外の微粒子はシリコン、アルミニウム、錫、ジルコニウム、鉄、アンチモン、ニオブ、タンタル、タングステン等から選ばれる1種以上の酸化物であればよい。更に、最表面がアンチモン酸化物で被覆されていることが好ましい。更に、特に酸化ジルコニウム、及び酸化シリコンが酸化チタンに対して一体的結合され、これらからなる複合金属酸化物微粒子の最表面がアンチモン酸化物で被覆されていることがより好ましい。
複合金属酸化物微粒子は通常1〜100nm程度の平均粒径とされ、好ましくは3〜50nm程度、より好ましくは5〜15nm程度の平均粒径とされる。複合金属酸化物による微粒子化は酸化チタン単独の場合による光触媒作用を緩和するために行われるものであり、あまり平均粒径が小さいと屈折率の向上が望めず耐擦傷性も悪くなる。一方、平均粒径があまり大きすぎると光の散乱が生じてしまうため上記粒径が望ましい。
尚、酸化チタンは無定形であっても結晶型(アナタース型、ルチル型、ブルッカイト型等)であっても構わない。アンチモン酸化物の被覆層の厚さには特に制限はないが通常上記複合金属酸化物微粒子の径の1/200〜1/5の範囲にあることが好ましい。
ジシアンジアミドは単独で使用するのではなく、有機多価カルボン酸と同時に使用することが耐候性の点で特に好ましい。ジシアンジアミドは有機多価カルボン酸の存在下での耐候性の発現が顕著である。有機多価カルボン酸としての具体例はマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。ジシアンジアミドと有機多価カルボン酸とを同時に使用する場合の相乗効果では特にイタコン酸を使用することが耐候性の点で最も好ましい。
【0008】
Co(II)(2価のコバルト)化合物は酸化チタンと同時に存在することで光触媒反応の進行を遅延させその結果ハードコート層成分である高分子物質の分解が抑えられ、ハードコート層の劣化を防止することができる。Co(II)化合物としては、酸化チタンを含有するハードコート組成剤用の溶媒、例えば、アルコールやプロピレングリコールエーテルに溶解し、かつ上記A成分との相溶性がありその物性を阻害しないものが好ましい。より具体的には、Co(II)イオンのキレート化合物が好ましい。
Co(II)のキレ−ト剤としては特に脂肪族の配位子を有するものが好ましい。脂肪族酸の配位子としては、例えばアセチルアセトン、ジ−n−ブトキシド−モノ−エチルアセテート、ジ−n−ブトキシド−モノ−メチルアセテート、メチルエチルケトオキシム、2,4−ヘキサンジオン、3,5−ヘプタンジオンおよびアセトオキシム等が好ましく用いられる。特に2価のコバルトアセチルアセトネ−トの金属錯体を構成するアセチルアセトンを使用することが耐候性の点で最も好ましく、更にCo(II)化合物とジシアンジアミド及び有機多価カルボン酸(特にイタコン酸)の三者が存在することによって耐候性が極めて顕著に向上する。
【0009】
上記ハードコート層を形成するA〜Eの成分は次のような配合割合とすることが好ましい。
(1)A及びB(有機ケイ素化合物の加水分解物と酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子)については固形分比でA:B=8:2〜3:7
(2)C.ジシアンジアミドについてはA+Bの固形分に対し3〜15%
(3)D.有機多価カルボン酸についてはA+Bの固形分に対し5〜25%
(4)E.Co(II)化合物についてはA+B+C+Dの固形分に対し0.1〜5.0%
A成分に比較してB成分が多いほど形成されるハードコート層の屈折率が向上するものの、膜層がもろくなってクラックが生じやすくなる。そのためB成分はA成分との関係から上記の割合が最も好ましい。C成分は少ないと耐候(密着)性が低下するものの多すぎるとA+B成分とのバランスが悪くなり光学性能が低下してしまう。そのため、上記の割合が最も好ましい。また、D成分は少ないと耐候(耐クラック)性が低下し、多すぎると硬度が低下してしまう。そのため、上記の割合が最も好ましい。E成分は少ないと耐候(密着及びクラック)性の向上の効果がないため、C、D成分と同時に存在することが必要である。また、E成分が多すぎると着色してしまうため、結局上記の割合が最も好ましい。
【0010】
上記ハードコート組成物には、塗膜の各性能をより改善するために、種々の添加剤を配合することが望ましい。例えば、光学基材との密着性、染色性を向上させるための添加剤としては、硬化剤やエポキシ樹脂、被塗布物に紫外線が到達するのを阻止するための紫外線吸収剤を使用してもよい。また、硬化を促進するための硬化触媒を配合することも可能である。
ハードコート組成物を溶媒に溶解又は分散させ、更に必要に応じて希釈溶剤によって希釈させることでハードコート液を作製することができる。希釈溶剤はアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類等を挙げることができる。
ここで湿式とはディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の公知の方法でハードコート液を基材に塗布し、乾燥させ、必要に応じて加熱させることで被膜層を形成する方式であって、その膜厚は、通常、約0.5〜10.0μmとすることが好ましい。膜厚が薄すぎると、実用的な耐擦傷性を得難く、また、厚すぎると面精度の低下やクラック等の外観的な問題が生じやすくなるためである。
【0011】
また、基材は通常塗布前に前処理を行う。前処理は基材表面の酸-アルカリによる脱脂処理、プラズマ処理、超音波洗浄等が挙げられる。これら前処理によって基材表面の層の密着性に影響のある汚れが除去される。
また、光学基材とハードコート層との間にはプライマー層を介在させる、つまりハードコート層をプライマー層の上に形成するようにしてもよい。つまり、光学基材の表面にプライマー層が形成されている場合にはプライマー層を光学基材の表面と解釈できる。ここにプライマー層はハードコート層とレンズ基材との密着性の向上のためこの位置に配置される連結層であって、例えばウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂等から構成される。ディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の湿式法を用いることも自由である。プライマー層は一般にレンズ基材をプライマー液に浸漬させて成膜させる。プライマー液は水又はアルコール系の溶媒にこれらから選択された樹脂材料と必要に応じて無機酸化物微粒子ゾルを混合させた液である。
【0012】
本発明の反射防止膜は、単層又は複層の膜層構造を成している。単層で反射防止膜が構成される場合には有機ケイ素化合物を主成分とした膜層であることが好ましく、複層で構成される場合には最上層が有機ケイ素化合物を主成分とした膜層であることが好ましい。例えば2層構造の反射防止膜の場合には、最上層から低屈折率層、高屈折率層の順に構成され、3層構造の反射防止膜の場合には、最上層から低屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に構成されることが必要である。また、低屈折率層は有機ケイ素化合物や低屈折率物質のSiO2の無機ケイ素化合物が多く用いられる。有機ケイ素化合物を主成分とし、必要に応じて無機ケイ素化合物を取り入れることが好ましい。
有機ケイ素化合物としては、次式で表される有機ケイ素化合物が用いられる。
1a2bSi(OR3)4-(a+b)
1a2bSiX4-(a+b)
(ここで、R1は、炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基からなる群から選ばれる有機基を有する炭素数1〜6のアルキル基であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基であり、R3は炭素数1〜4のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールアルキル基である。Xはハロゲン原子である。また、a=0または1、b=0,1または2である)。
上記式で表される有機ケイ素化合物としては、具体的には、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、α-グルシドキシメチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキキシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキキシラン等を挙げることができる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用することも可能である。
【0013】
高屈折率層にはジルコニウム,アンチモン,タンタル,チタン、錫、インジウム等から選ばれる1種類以上の金属酸化物微粒子が使用される。3層反射防止膜の場合には、最上層から低屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に構成されるが、基板上側の低屈折率は最上層の低屈折率層と高屈折率層の屈折率がこれらの中間の屈折率であることが好ましい。この層を中屈折率層と呼ぶ。中屈折率層にはアルミニウム,ジルコニウム,タンタル,チタン,錫,インジウム等から選ばれる1種類以上の金属酸化物微粒子あるいは低屈折率物質のSiO2と、高屈折率物質のジルコニウム,タンタル,チタン, ,錫,インジウム等から選ばれる1種類以上の金属酸化物微粒子から構成された等価膜層が多く用いられている。また、高屈折率層の金属酸化物微粒子の成分比率を変更することで中屈折率層とすることも行われている。高屈折率層及び中屈折率層には特にジルコニウムが好ましく、チタンは比較的好ましくない。チタンは光触媒作用があるため膜の硬度の劣化を助長してしまうからである。
【0014】
本発明の反射防止膜は湿式で形成される。ここで湿式とはディップ法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法の公知の方法で各層用に調製された反射防止処理液を塗布し、乾燥させ、必要に応じて加熱させることで被膜層を形成する方式である。
反射防止膜の加熱方法としては熱風、赤外線などで行うことが可能である。加熱温度は適用される光学基材及び使用されるコーティング組成物によって決定されるが、通常は室温から250℃、より好ましくは60℃から150℃が使用される。常温よりも低温では硬化又は乾燥が不十分であり、またこれより高温になると基材や膜の黄変などの問題点を生ずる。
反射防止処理液は水又はアルコール系の溶媒に上記各層を形成するための有機ケイ素化合物及び/又は金属酸化物微粒子を混合させた液である。反射防止膜はこれらのいずれかの方法によって第1層用の反射防止処理液をまずハードコート膜表面に展着させ、その後公知の方法にて溶媒を蒸発させて第1層目を形成させる。次いで第2層用の反射防止処理液を同様に第1層の表面に展着させ同様の工程で第2層目を形成させる。更に必要に応じて第3層・・・と所望の膜数となるまで積層させていく。
低屈折率膜の屈折率は、1.35〜1.50が好ましく、1.35〜1.45がさらに好ましい。高屈折率膜の屈折率は、1.63〜1.75であると好ましく、1.68〜1.75であるとさらに好ましい。中屈折率膜の屈折率は1.50〜1.60が好ましく、1.53〜1.58が更に好ましい。
各膜層の膜厚は50〜200nmが好ましく、特に60〜130nmの範囲が好ましい。
【0015】
また、反射防止膜の形成前には密着性を向上させるためにハードコート層にコロナ処理やプラズマ処理をすることが好ましい。
また、反射防止膜の上面に更に滑性処理を行うことは自由である。滑性処理とは例えば反応性シリコ−ン化合物や含フッ素有機シラン化合物などを塗布し極薄い(10nm以下)の厚みの滑性層を形成するものである。
【発明の効果】
【0016】
上記各請求項に記載の発明によれば、酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子をプラスチック光学基材の表面のハードコート層に含有するプラスチック光学製品について、ジシアンジアミドと有機多価カルボン酸及びCo(II)化合物が同時に存在することによってハードコート層の耐候性を良好に維持することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施例1)
<使用レンズについて>
ノルボルネンジイソシアネ−ト50重量部、ペンタエリスリト−ルテトラキス(3−メルカプトプロピオネ−ト)25重量部、ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチア−1,11−ウンデカンジオ−ル25重量部の合計100重量部に対して、触媒としてジブチルチンジクロライド0.03重量部を配合した均一溶液をレンズ用モ−ルドに注入し、20℃〜130℃まで20時間かけ昇温硬化させ、屈折率1.594、アッベ数42の光学特性を有する度数0.00のフラットレンズを形成した。これを玉型加工したものを光学基材としてのプラスチックレンズとした。
<酸化チタンゾルについて>
本実施例において酸化チタン系複合微粒子(いわゆる酸化チタンゾル)は、商品名「ハイネックスAB20」(触媒化成工業株式会社製)を使用した。「ハイネックスAB20」は主成分を酸化チタンとするとともに酸化ジルコニウム及び酸化シリコンをその他の微粒子として複合微粒子を構成している。より具体的には酸化チタンと酸化ジルコニウムの結合体を酸化チタンと酸化シリコンの結合体で包囲する構造とされ、更に外方からアンチモン酸化物で被覆されている。固形分濃度25%で分散溶媒としてメタノ−ルを使用している。
<ハードコート液の調整>
テトラエトキシシランを11重量部、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを76重量部、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランを22重量部に、メタノ−ル150部加え、氷冷下攪拌しながら0.01N塩酸24部を滴下して加水分解を行い、更に5℃で1昼夜撹拌した(この溶液をベース溶液とする)。
このベース溶液の合計283重量部の混合物に対して上記「ハイネックスAB20」を192重量部、レベリング剤としてのシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「SILWETLー7001」 )を0.60重量部、イタコン酸を20.02重量部、ジシアンジアミドを8.33重量部、Co(II)のアセチルアセトネートを1.48重量部を加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約30%のハードコート液を得た。
【0018】
<ハードコート層の形成>
前処理された基材にハードコート組成物をディッピング法(引き上げ速度300mm/min )により塗布し、100℃×2時間の条件にて硬化させ膜厚2.0〜3.0μmのハ−ドコ−ト層を得た。このようにして得られたハードコート層が形成されたプラスチックレンズについて耐候性試験を行った。
耐候性試験はサンシャインウエザオメーター(スガ試験機株式会社製)にてそれぞれ60時間と120時間の紫外線曝露試験を行い、曝露後のクラックの有無と密着性を評価した。外観の判定は目視で行い、「○」はクラックなし、「×」はクラックが発生、とした。密着性についてはJIS D−0202に準じてクロクカットテ−プ試験によって行った。ナイフを用いて基材表面に1mm間隔の切れ目を入れ、100個のマス目を形成する。次に、その上にセロハンテ−プ(ニチバン株式会社製)を強く押し付けてから、表面から90度方向へ勢いよく引っ張り剥離した後、コ−ト膜の残っているマス目の数を数えて2段階でランク付けした。「○」は100〜95、「×」は94〜0とした。
これらの結果を表1に示す。
【0019】
(実施例2)
実施例2は実施例1と同じ条件でハードコート層を形成し、その上に反射防止膜を湿式で形成させたものである。
<反射防止膜の形成>
テトラエチルオルトシリケート63重量部、メタノール632重量部、0.01N塩酸100重量部、メタノールシリカゾル(日産化学製;固形分30%)33重量部を添加し、加水分解終了後、さらにpHを5に調整しコロイド溶液化を行い、イソプロピルアルコール200重量部、メチルアルコール300重量部を添加したベース液を作成した。
このベース液1000重量部に対して、γ- グリシドキシプロピルトリメトキシシラン加水分解物[γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン30重量部、メチルアルコール60重量部、0.01N塩酸105重量部]を添加し、24時間室温にて攪拌する。さらに、シリコーン系界面活性剤1.0重量部、アルミニウムアセチルアセトネートを2重量部添加し、反射防止膜用の反射防止処理液を調製した。
ハードコート層表面を30mmの距離から20秒間コロナ処理した後、この反射防止処理液を、スピンコート条件:回転数3000rpm 回転時間30秒で処理してハ−ドコ−ト層表面に塗布して、120℃で1.5時間加熱硬化させて反射防止膜を形成した。
【0020】
実施例2においても耐候性試験及び密着性については実施例1と同様の条件で試験を行った。更に加えて、実施例2においては反射防止膜のハ−ドコ−ト層への密着性、つまり反射防止膜の耐摩耗性を試験した。
耐摩耗性試験は#000のスチールウールで塗膜面を1Kg荷重をかけて擦り、表面状態を確認し、次のように判定した。
「○」・・・反射防止膜が擦り取れない。
「△」・・・反射防止膜が一部擦り取れ、反射色が変色する。
「×」・・・反射防止膜が擦り取られ、白くなる。
これらの結果を表1に示す。
【0021】
(実施例3)
実施例3は実施例1と同じ条件でハードコート層を形成し、その上に実施例2と同様反射防止膜を湿式で形成させたものである。
<反射防止膜の形成>
ハ−ドコ−ト層表面に下層(高屈折率層)及び上層(低屈折率層)の2層の膜層からなる反射防止膜を形成した。
a.下層膜の形成
酸化ジルコニウム微粉末(住友大阪セメント社製、粒径10−30nm)2.0重量部と、プロピレグリコールモノメチルエーテル10重量部と、エチルアルコール88.0重量部を混合し、これに界面活性剤(旭電化工業社製、アデカコールCS141E)を添加して混合し、その後、この溶液を超音波ホモジナイザー(セントラル化学社製;ソニファイヤー450)を用いて10分間分散させ、均一塗料とした。最後に固形分5%となるようエチルアルコールにて濃度希釈し、下層膜用の反射防止処理液を調製した。
ハードコート層表面を30mmの距離から20秒間コロナ処理した後、この下層膜用の反射防止処理液を、スピンコート条件:回転数1500rpm 回転時間60秒で処理してハ−ドコ−ト層表面に反射防止膜層の第1層となる高屈折率層を形成させ、80℃で10分間加熱硬化させた。
b.上層膜層の形成
実施例2と同様の反射防止処理液を上層用の反射防止処理液として使用し、スピンコート条件:回転数3000rpm 回転時間30秒で処理して高屈折率層表面に反射防止膜層の第2層となる低屈折率層を形成させ、120℃で1.5時間加熱硬化させて、2層の膜層からなる反射防止膜を形成した。
【0022】
実施例3においても耐候性試験及び密着性については実施例1と同様の条件で試験を行った。更に加えて、実施例3においても実施例2と同様反射防止膜のハ−ドコ−ト層への密着性、つまり反射防止膜の耐摩耗性を試験した。耐摩耗性試験の条件は実施例2と同様である。
これらの結果を表1に示す。
【0023】
(実施例4)
実施例4は実施例1と同じ条件でハードコート層を形成し、その上に実施例2と同様反射防止膜を湿式で形成させたものである。
<反射防止膜の形成>
ハ−ドコ−ト層表面に下層(高屈折率層)及び上層(低屈折率層)の2層の膜層からなる反射防止膜を形成した。
a.下層膜の形成
酸化チタンを主成分とする固形分濃度5%の高屈折率処理液「X-12-2170A」(信越化学工業株式会社製)を下層用の反射防止処理液に使用した。
ハードコート層表面を30mmの距離から20秒間コロナ処理した後、この下層膜用の反射防止処理液を、スピンコート条件:回転数1500rpm 回転時間60秒で処理してハ−ドコ−ト層表面に反射防止膜層の第1層となる高屈折率層を形成させ、80℃で10分間加熱硬化させた。
b.上層膜層の形成
実施例2と同様の反射防止処理液を上層用の反射防止処理液として使用し、この上層膜用の反射防止処理液を、スピンコート条件:回転数2000rpm 回転時間30秒で処理して高屈折率層表面に反射防止膜層の第2層となる低屈折率層を形成させ、120℃で1.5時間加熱硬化させて、2層の膜層からなる反射防止膜を形成した。
【0024】
実施例4においても耐候性試験及び密着性については実施例1と同様の条件で試験を行った。更に加えて、実施例4においても実施例2及び3と同様反射防止膜のハ−ドコ−ト層への密着性、つまり反射防止膜の耐摩耗性を試験した。耐摩耗性試験の条件は実施例2と同様である。
これらの結果を表1に示す。
【0025】
(比較例1)
比較例1では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して 実施例1における、「ハイネックスAB20」に換えて商品名「オプトレイク1120F」(触媒化成工業株式会社製)を使用し同じ固形分比になるように添加した。「オプトレイク1120F」は主成分を酸化チタンとするとともに酸化第2鉄及び酸化シリコンと結合し複合微粒子を構成している。そして複合微粒子の周囲を酸化シリコンで被覆した構造とされている。また、複合微粒子の表面はアンチモン酸化物で被覆されていない。固形分濃度20%で分散溶媒としてメタノ−ルを使用している。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、硬化触媒としての過塩素酸アルミニウムを1.20重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約23%のハードコート液を得た。実施例と異なりイタコン酸及びジシアンジアミドは加えていない。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0026】
(比較例2)
比較例2では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して、実施例1における、「ハイネックスAB20」に換えて商品名「オプトレイク1130Z(U−25)」(触媒化成工業株式会社製)を使用した。「オプトレイク1130Z(U−25)」は主成分を酸化チタンとするとともに酸化ジルコニウム及び酸化シリコンをその他の微粒子として複合微粒子を構成している。より、具体的には酸化チタンと酸化シリコンの結合体を酸化チタンと酸化ジルコニウムの結合体で包囲する構造とされ、更にこれを外方から酸化シリコンと酸化ジルコニウムの結合体で包囲する構造とされている。固形分濃度30%で分散溶媒としてメタノ−ルを使用している。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、Co(II)のアセチルアセトネート1.20重量部、硬化触媒としてのアルミニウムアセチルアセトネートを1.20重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約25%のハードコート液を得た。実施例と異なりイタコン酸及びジシアンジアミドは加えていない。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0027】
(比較例3)
比較例3では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して実施例1と同じ「ハイネックスAB20」を使用した。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、Co(II)のアセチルアセトネート1.20重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約25%のハードコート液を得た。実施例と異なりイタコン酸及びジシアンジアミドは加えていない。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0028】
(比較例4)
比較例4では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して比較例2と同じ「オプトレイク1130Z(U−25)」を使用し同じ固形分比になるように添加した。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、硬化触媒としてのアルミニウムアセチルアセトネートを1.48重量部、ジシアンジアミドを8.33重量部、イタコン酸を20.02重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約30%のハードコート液を得た。実施例と異なりCo(II)のアセチルアセトネートは加えていない。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
(比較例5)
比較例5では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して実施例1と同じ「ハイネックスAB20」を使用した。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、ジシアンジアミドを8.33重量部、イタコン酸を20.02重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約30%のハードコート液を得た。実施例と異なりCo(II)のアセチルアセトネートは加えていない。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0029】
(比較例6)
比較例6では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して比較例2と同じ「オプトレイク1130Z(U−25)」を使用した。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、ジシアンジアミドを8.33重量部、Co(II)のアセチルアセトネート1.28重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約28%のハードコート液を得た。実施例と異なりイタコン酸は加えていない。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
(比較例7)
比較例7では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して実施例1と同じ「ハイネックスAB20」を使用した。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、ジシアンジアミドを8.33重量部、Co(II)のアセチルアセトネート1.28重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約27%のハードコート液を得た。実施例と異なりイタコン酸は加えていない。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0030】
(比較例8)
比較例8では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して実施例1と同じ「ハイネックスAB20」を使用した。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、ジシアンジアミドを8.33重量部、イタコン酸を20.02重量部、実施例のCo(II)のアセチルアセトネートの代わりにCo(III)(3価のコバルト)のアセチルアセトネートを1.48重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約29%のハードコート液を得た。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
(比較例9)
比較例9では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して実施例1と同じ「ハイネックスAB20」を使用した。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、ジシアンジアミドを8.33重量部、イタコン酸を20.02重量部、実施例のCo(II)のアセチルアセトネートの代わりにFe(II)(2価の鉄)のアセチルアセトネートを1.48重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約29%のハードコート液を得た。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0031】
(比較例10)
比較例10では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して実施例1と同じ「ハイネックスAB20」を使用した。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、ジシアンジアミドを8.33重量部、イタコン酸を20.02重量部、実施例のCo(II)のアセチルアセトネートの代わりにFe(III)(3価の鉄)のアセチルアセトネートを1.48重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約29%のハードコート液を得た。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
(比較例11)
比較例11では上記実施例1と同じベース溶液の合計283重量部の混合物に対して実施例1と同じ「ハイネックスAB20」を使用した。
また、実施例1と同じレベリング剤を0.60重量部、ジシアンジアミドを8.33重量部、イタコン酸を20.02重量部、実施例のCo(II)のアセチルアセトネートの代わりにCu(II)(2価の銅)のアセチルアセトネートを1.48重量部加え5℃で更に1昼夜撹拌して固形分約29%のハードコート液を得た。
このようにして得られたハードコート液を上記各実施例と同様の手順でハードコート層を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0032】
(比較例12)
比較例12では上記比較例2と同じ条件でハードコート層を形成した。また、比較例12では上記実施例2と同様の条件でハードコート層の上面に反射防止膜を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。反射防止膜は実施例3と同じ条件で形成した。これらの結果を表1に示す。
(比較例13)
比較例13では上記比較例5と同じ条件でハードコート層を形成した。また、比較例13では上記実施例2と同様の条件でハードコート層の上面に反射防止膜を形成し、上記各実施例と同様に耐候性試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
<結果>
上記耐候性試験の結果、ジシアンジアミド、イタコン酸及びCo(II)を1つでも欠く場合には耐候性はいずれも実施例より劣ることが分かる。また、Co(II)の代わりの金属キレートでは例えばCo(III)であってもクラックが発生してしまいCo(II)以外ではよい結果が得られないことが分かる。
また、反射防止膜を本発明のハードコート層の上面に形成した場合でも優れた耐候性が得られ、耐候試験後の反射防止膜の耐摩耗性も良好であることが分かる。但し、酸化チタンを反射防止膜の下層膜層として使用した場合には他の金属酸化物に比べて耐候試験後の耐摩耗性は低下することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製光学基材表面にハードコート層を形成するためのハードコート組成物であって下記A〜E成分を含有することを特徴とするハードコート組成物。
A.有機ケイ素化合物の加水分解物
B.酸化チタンを主成分とする複合金属酸化物微粒子
C.ジシアンジアミド
D.有機多価カルボン酸
E.Co(II)化合物
【請求項2】
前記有機多価カルボン酸はイタコン酸であることを特徴とする請求項1に記載のハードコート組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のハードコート組成物を湿式法によって前記光学基材表面に直接又は他の層を介して形成させたハードコート層を有することを特徴とするプラスチック光学製品。
【請求項4】
前記ハードコート層の上面には湿式法によって単層又は複層の反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項3に記載のプラスチック光学製品。
【請求項5】
前記反射防止膜は少なくとも最上層に有機ケイ素化合物を主成分とした膜層が配置される膜構造であることを特徴とする請求項4に記載のプラスチック光学製品。
【請求項6】
前記複層の反射防止膜は低屈折率層と高屈折率層の交互層から構成され、高屈折率層は金属酸化物を主成分とした膜層であることを特徴とする請求項4又は5に記載のプラスチック光学製品。
【請求項7】
前記高屈折率層は酸化チタンを除く金属酸化物を主成分とした膜層であることを特徴とする請求項6に記載のプラスチック光学製品。
【請求項8】
前記高屈折率層は酸化ジルコニウムを主成分とした膜層であることを特徴とする請求項6に記載のプラスチック光学製品。

【公開番号】特開2012−234218(P2012−234218A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−194678(P2012−194678)
【出願日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【分割の表示】特願2006−283238(P2006−283238)の分割
【原出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】