説明

ハードディスク基板用洗浄剤組成物、およびハードディスク基板の洗浄方法

【課題】アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対する洗浄性に優れるハードディスク基板用洗浄剤組成物、およびハードディスク基板の洗浄方法を提供する。
【解決手段】(A)成分:アルカリ金属の水酸化物を0.01〜5.00質量%、(B)成分:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸および/またはその塩を0.10〜20.00質量%、(C)成分:下記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩を0.05〜10.00質量%含有し、界面活性剤の含有量が1.00質量%未満であることを特徴するハードディスク基板用洗浄剤組成物。
2m+1O(CO)SOM ・・・(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク基板用洗浄剤組成物、およびハードディスク基板の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスにおいては、微細な汚れが動作不良や性能低下を招きやすい。そのため、半導体基板、ハードディスク基板、液晶パネル等に用いられるディスプレイ基板などの電子デバイス用基板に付着した汚れをほぼ完全に除去することが求められる。
【0003】
従来、洗浄対象とする電子デバイス用基板や電子デバイス用基板に付着した汚れの種類に応じて要求される清浄度を達成するため、多様な精密洗浄技術が提案されている。
例えば、ハードディスク基板は、酸化セリウムやアルミナ等の研磨材で粗研磨した後、さらにコロイダルシリカ等の研磨材で仕上げ研磨を行う。粗研磨後や仕上げ研磨後のハードディスク基板の表面には、研磨で生じた砥粒や研磨カスが残留するため、各研磨の後にこれらを除去する必要がある。
【0004】
粗研磨や仕上げ研磨で生じた砥粒や研磨カスの残留を除去するために、例えば純水と、オキシモノ又はジカルボン酸系化合物を0.1〜50.0重量%と、界面活性剤を1.0〜50重量%含有する磁気ディスクNi−P基板の研磨液用洗浄剤組成物が提案されている(特許文献1参照。)。
また、アニオン界面活性剤を3〜30質量%と、グリコールのモノエーテル又はジエーテルを10〜40質量%と、水を30〜87質量%含有する精密部品用水系洗浄剤組成物が提案されている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−224948号公報
【特許文献2】特開2002−212597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところでハードディスクは、近年、小型化や高容量化の傾向にあり、それに応じて、ハードディスク基板の研磨工程において基板の表面粗さや基板表面の微少うねりを低減したり、スクラッチ・ピットとよばれる傷などの表面欠陥を軽減したりすることが求められる。また、基板の表面を研磨した後は、表面に研磨材などの砥粒や研磨カスが付着しやすい。ハードディスクの小型化や高容量化には、これら砥粒や研磨カスを十分に除去することが重要であるため、洗浄工程においては、砥粒や研磨カスなどをより一層除去することが求められている。そのため、洗浄剤組成物には高い洗浄性が求められる。
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の洗浄剤組成物では、砥粒や研磨カスを十分に除去することは困難であった。
特に、粗研磨の際に用いる研磨材として好適に使用されるアルミナは、微粒子汚れとして基板表面に付着しやすい。基板に付着したアルミナは仕上げ研磨の前に基板を洗浄することで概ね除去されるものの、完全に除去するのは困難であった。そのため、仕上げ研磨の後にもアルミナが基板上に残留することとなる。従って、ハードディスクの小型化や高容量化に応じるために、洗浄剤組成物にはアルミナなどの研磨材に対して優れた洗浄性を有することが求められる。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対する洗浄性に優れるハードディスク基板用洗浄剤組成物、およびハードディスク基板の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意検討した結果、界面活性剤は洗浄効果に優れる物質であり、洗浄剤に一般的に用いられる成分ではあるが、特にアルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れの基板への付着を促進することに着目した。そこで、洗浄剤組成物中の界面活性剤の量を減らすことでアルミナ等の研磨材由来の微粒子汚れに対する洗浄性を向上させると共に、洗浄剤組成物中に含まれる各成分の種類やその含有量を規定することで、界面活性剤の量を減らしても高い洗浄性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明のハードディスク基板用洗浄剤組成物は、(A)成分:アルカリ金属の水酸化物を0.01〜5.00質量%、(B)成分:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸および/またはその塩を0.10〜20.00質量%、(C)成分:下記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩を0.05〜10.00質量%含有し、界面活性剤の含有量が1.00質量%未満であることを特徴する。
2m+1O(CO)SOM ・・・(1)
(式(1)中、Mはナトリウム、カリウム、アンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンまたは水酸化テトラメチルアンモニウムのいずれかであり、mは1〜6の整数であり、nは0〜12の整数である。)
【0011】
さらに、(D)成分:クエン酸および/またはその塩を0.10〜20.00質量%含有することが好ましい。
また、純水で1質量%に希釈した希釈液の25℃におけるpHが8〜13であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のハードディスク基板の洗浄方法は、本発明のハードディスク基板用洗浄剤組成物を純水で0.01〜20.00質量%に希釈して用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対する洗浄性に優れるハードディスク基板用洗浄剤組成物、およびハードディスク基板の洗浄方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ハードディスク基板用洗浄剤組成物]
本発明のハードディスク基板用洗浄剤組成物(以下、単に「洗浄剤組成物」という。)は、アルミナなどの研磨材でハードディスク基板を研磨した後の洗浄用として用いる。
ハードディスク基板の材料としては、ガラス、ニッケルとリンとの混合物(Ni−P)、ニッケルと鉄との混合物(Ni−Fe)、アルミニウム、炭化ホウ素、炭素等が挙げられ、中でもガラス、ニッケルとリンとの混合物(Ni−P)、ニッケルと鉄との混合物(Ni−Fe)、またはアルミニウムであることが好ましい。
【0015】
本発明の洗浄剤組成物は、(A)成分:アルカリ金属の水酸化物と、(B)成分:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸および/またはその塩と、(C)成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩とを含有する。
【0016】
<(A)成分>
本発明における(A)成分は、アルカリ金属の水酸化物である。
アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。中でも、製造コストを抑えられる観点からナトリウムが好ましい。
【0017】
(A)成分の含有量は、洗浄剤組成物100質量%中、0.01〜5.00質量%であり、0.10〜3.00質量%が好ましい。(A)成分の含有量が0.01質量%以上であれば、アルミナ等の研磨材が溶解しやすくなるため、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対する洗浄性が向上する。一方、(A)成分の含有量が5.00質量%以下であれば、基板がガラス製の場合に基板の表面を溶解するのを抑制できる。なお、(A)成分の含有量が5.00質量%を超えても洗浄性の向上は頭打ちになる。
【0018】
<(B)成分>
本発明の洗浄剤組成物は、(B)成分として1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸および/またはその塩を含有する。
塩としては、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、または水酸化テトラメチルアンモニウムなどが挙げられる。
(B)成分としては、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸−4ナトリウム塩が好ましい。
【0019】
(B)成分の含有量は、洗浄剤組成物100質量%中、0.1〜20.0質量%であり、0.5〜15.0質量%が好ましく、2.0〜10.0質量%がより好ましい。(B)成分は、キレート剤の役割を果たすため、アルミナ等の金属酸化物からなる研磨材の表面に吸着してマイナスの電荷を高めることができ、基板にアルミナが付着するのを抑制できる。従って、(B)成分の含有量が0.1質量%以上であれば、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対する洗浄性が向上する。一方、(B)成分の含有量が20.00質量%を超えてもこれら洗浄性の向上は頭打ちになるばかりではなく、製造コストがかかりやすくなる。
【0020】
<(C)成分>
本発明の洗浄剤組成物は、(C)成分として下記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(以下、「短鎖AES」という。)を含有する。
2m+1O(CO)SOM ・・・(1)
【0021】
式(1)中、Mはナトリウム、カリウム、アンモニウム、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンまたは水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)のいずれかである。Mとしては、ナトリウムが好ましい。
mは1〜6の整数であり、3〜5の整数が好ましい。mが1〜6の整数であれば、研磨材として好適に使用されるアルミナとの親和性が向上し、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対する洗浄性が向上する。
nは0〜12の整数であり、0〜8の整数が好ましい。nが0〜12の整数であれば、研磨材として好適に使用されるアルミナとの親和性が向上し、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対する洗浄性が向上する。
【0022】
式(1)で表される短鎖AESは、純水で1質量%に希釈したときの25℃における表面張力が、50mN/mを超えることが好ましい。表面張力は、表面張力計を使用し、Wilhelmy法に基づき、白金プレートを用いて測定する。
なお、本発明において「純水」とは、水から物理的処理または化学的処理によって不純物を除去したものである。純水としては、例えば、脱イオン水や蒸留水などが挙げられる。
【0023】
このような短鎖AESとしては、例えば、CO(CO)SONa(オキシエチレンブチルエーテル硫酸ナトリウム)が挙げられる。
また、短鎖AESとしては市販のものを用いてもよく、例えば、泰光油脂化学工業社製の「タイポールBx−Conc」が適している。
【0024】
(C)成分の含有量は、洗浄剤組成物100質量%中、0.05〜10.00質量%であり、1.00〜5.00質量%が好ましい。(C)成分の含有量が0.05質量%以上であれば、アルミナ等の研磨材との親和性が向上するため、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対する洗浄性が向上する。一方、(C)成分の含有量が10.00質量%を超えても洗浄性の向上は頭打ちになるばかりではなく、製造コストがかかりやすくなる。
【0025】
<界面活性剤>
上述したように、界面活性剤は洗浄効果に優れる物質であり、洗浄剤に一般的に用いられる成分ではあるが、特にアルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れの基板への付着を促進しやすい。そのため、界面活性剤の含有量が増える程、研磨材に対する洗浄性は低下しやすくなる。
本発明の洗浄剤組成物には、界面活性剤を含有させてもよいが、界面活性剤を含有しないのが最も好ましい。界面活性剤を含有させる場合、その含有量は、洗浄剤組成物100質量%中、1.00質量%未満であり、0.70質量%以下が好ましく、0.50質量%以下がより好ましい。界面活性剤の含有量が1.00質量%未満であれば、研磨材に対して優れた洗浄性を発現できる。
【0026】
ここで、本発明における「界面活性剤」とは、純水で1質量%に希釈したときの25℃における表面張力が、50mN/m以下の化合物(ただし、上述した(C)成分として用いる短鎖AESを除く)のことである。表面張力は、表面張力計を使用し、Wilhelmy法に基づき、白金プレートを用いて測定する。
表面張力は、界面活性剤中のアルキル基の炭素数が増えるほど、小さくなる傾向にある。従って、本発明において界面活性剤に分類される化合物は、アルキル基の炭素数が7以上の比較的長鎖の化合物である。
【0027】
界面活性剤としては、例えば、イオン性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。
イオン性界面活性剤としては、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、石鹸、アルファオレフィンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキル硫酸エステル、アルキルエーテル硫酸エステル、メチルタウリン酸、アラニネート、スルホコハク酸、硫酸化油、エーテルカルボン酸、第4級アンモニウム、イミダゾリニウムベタイン系、アミドプロピルベタイン系、アミノジプロピオン酸、アルキルアミン、アルキルアミドの塩等が挙げられる。
また、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、ポリオキシアルキレンポリアルキルアリールエーテル、脂肪酸エステル、アルキルアミンEO付加体、アルキルアミドEO付加体、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0028】
<(D)成分>
本発明の洗浄剤組成物は、(D)成分としてクエン酸および/またはその塩を含有することが好ましい。
クエン酸は、分子量当りの官能基数(ヒドロキシル基とカルボキシル基の総数)が多く、かつ水に対して高い溶解性を示す。官能基数の数が多いほどアルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れが基板から剥離しやすくなる傾向にある。また、水に対する溶解性が高いほど基板に残留しにくくなるので、洗浄性が向上する傾向にある。従って、(D)成分を含有することで、微粒子汚れに対する洗浄性により優れ、砥粒や研磨カスを十分に除去できるようになる。
塩としては、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、または水酸化テトラメチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0029】
(D)成分の含有量は、洗浄剤組成物100質量%中、0.10〜20.00質量%が好ましく、1.00〜15.00質量%がより好ましく、2.00〜10.00質量%が特に好ましい。(D)成分の含有量が0.10質量%以上であれば、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れを基板から容易に剥離しやすくなり、微粒子汚れに対する洗浄性がより向上する。一方、(D)成分の含有量が20.00質量%を超えても洗浄性の向上は頭打ちになるばかりではなく、製造コストがかかりやすくなる。
【0030】
<その他の成分>
本発明の洗浄剤組成物は、(A)〜(D)成分、および界面活性剤以外のその他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて含有してもよい。
その他の成分としては、例えば、溶媒、pH調整剤、消泡剤、グリコールエーテル類、防腐剤、酸化防止剤、無機塩、分散剤等が挙げられる。
溶媒としては、例えば純水、エタノールやイソプロパノールなどのアルコール、及びアルコールと水の混合物が挙げられる。溶媒の含有量は、洗浄剤組成物100質量%中、50.00〜99.50質量%が好ましく、60.00〜98.00質量%がより好ましい。
【0031】
<物性>
本発明の洗浄剤組成物は、純水で1質量%に希釈した希釈液の25℃におけるpHが、8〜13であることが好ましく、8.5〜12.5であることがより好ましく、9〜12であることがさらに好ましい。pHが上記範囲内であれば、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対する洗浄性がより向上する。
なお、pHの測定は、pHメータ(東亜ディーケーケー株式会社製、「HM−20S」)とpH電極(東亜ディーケーケー株式会社製、「GST−5211C」)を用いて、25℃の希釈液に対してpH電極を浸漬し15秒経過後の指示値を読み取ることにより行う。
【0032】
<調製方法>
本発明の洗浄剤組成物の調製方法は、特に限定されるものではなく、常法に準じて各成分を順次混合することにより調製できる。
【0033】
以上説明したように、本発明の洗浄剤組成物は、上記の材料を用いた各種のハードディスク基板の表面を研磨材で研磨した後の洗浄に用いられる。特に、本発明の洗浄剤組成物はアルミナなどの研磨材で研磨した後のハードディスク基板の洗浄に好適であり、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対する洗浄性に優れる。
【0034】
かかる効果が得られる理由としては、定かではないが以下のように推測される。
本発明の洗浄剤組成物は、(A)成分としてアルカリ金属の水酸化物を0.01〜5.00質量%と、(B)成分として1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸および/またはその塩を0.10〜20.00質量%と、(C)成分として短鎖AESを0.05〜10.00質量%含有する。各成分によってアルミナなどの研磨材を溶解することで、研磨材に対する洗浄性が向上すると考えられる。また、(B)成分がアルミナとキレートすることで、特にアルミナに由来する微粒子汚れが基板に付着するのを抑制でき、微粒子汚れに対する洗浄性が向上すると考えられる。
さらに、(A)成分と(B)成分と(C)成分の含有量を特定の範囲に規定することで、界面活性剤の含有量を1.00質量%未満に軽減しても優れた洗浄性を維持できる。
また、洗浄剤組成物にとして(D)成分を配合すれば、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れや研磨カス等に対する洗浄性がより向上する。
【0035】
[ハードディスク基板の洗浄方法]
本発明のハードディスク基板の洗浄方法は、本発明の洗浄剤組成物を純水で0.01〜20.00質量%に希釈して用いる方法である。
洗浄剤組成物を0.01質量%以上に希釈すれば、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対して優れた洗浄性を十分に発揮できる。一方、洗浄剤組成物を20.00質量%以下に希釈すれば、アルミナ等の研磨材に由来する微粒子汚れに対して優れた洗浄性を維持しつつ、砥粒や研磨カスを十分に除去できる。
【0036】
洗浄の手段としては特に限定されず、洗浄対象である研磨後のハードディスク基板に、洗浄剤組成物をスプレー等から直接吹き付けて塗布して拭き取る方法;ハードディスク基板を洗浄剤組成物に浸漬する方法;洗浄時に超音波処理を行ったり、ブラシで擦ったりする方法などが挙げられる。
以下、本発明のハードディスク基板の洗浄方法の一例について具体的に説明する。
【0037】
まず、ハードディスク基板の表面をアルミナで粗研磨する。
ハードディスク基板を粗研磨する方法としては特に限定されず、例えば、研磨機を用いて研磨材を含む研磨スラリーを供給しながら基板を加圧して表面を研磨する方法などが挙げられる。
【0038】
ついで、本発明の洗浄剤組成物を所望の濃度になるように希釈し、スプレー等で吹き付けて、洗浄ブラシ等を用いて洗浄する。
さらに、純水をスプレー等で吹き付けて濯ぎ、基板に残存する洗浄剤組成物等を除去する。
純水で基板を濯いだ後は、公知の方法で乾燥して、基板に残存する純水を除去する。
【0039】
粗研磨した後のハードディスク基板は、コロイダルシリカ等の研磨材を用いて仕上げ研磨する。その際、コロイダルシリカ以外の研磨材、例えば金属または半金属の炭化物、窒化物、酸化物、ホウ化物、ダイヤモンド等を併用してもよい。具体的には、α−アルミナ、炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、ヒュームドシリカ等が挙げられる。これら研磨材を併用する場合、研磨材100質量%中のコロイダルシリカの割合は50〜100質量%が好ましい。
ハードディスク基板を仕上げ研磨する方法としては特に限定されず、粗研磨と同様にして行えばよい。
【0040】
仕上げ研磨後のハードディスク基板は、公知の洗浄剤組成物を用いて洗浄してもよいし、本発明の洗浄剤組成物を用いて洗浄してもよい。ただし、本発明の洗浄剤組成物を用いる場合は、所望の濃度になるように希釈して用いるのが好ましい。
洗浄剤組成物で洗浄した後は、純水をスプレー等で吹き付けて濯ぎ、基板に残存する洗浄剤組成物等を除去する。
純水で基板を濯いだ後は、公知の方法で乾燥して、基板に残存する純水を除去する。
【0041】
なお、ハードディスク基板の洗浄方法は上述した方法に限定されず、例えば粗研磨後の洗浄には公知の洗浄剤組成物や純水等を用い、仕上げ研磨後の洗浄のみに本発明の洗浄剤組成物を用いてもよい。
【0042】
以上説明したように、本発明のハードディスク基板の洗浄方法によれば、研磨工程によってハードディスク基板の表面に付着した研磨材、特にアルミナに由来する微粒子汚れを十分に洗浄し除去できる。
従って、本発明によって洗浄したハードディスク基板は、小型化や高容量化を目的としたハードディスク用に最適である。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
【0044】
ここで、各実施例および比較例で用いた表1、2に示す成分は以下の通りである。
キレート剤:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸4Na(ライオン社製、「フェリオックス115−A」をNaOHで中和して調製)、
短鎖AES:CO(CO)SONa(オキシエチレンブチルエーテル硫酸ナトリウム)(泰光油脂化学工業社製、「タイポールBx−Conc」、表面張力:65mN/m)、
クエン酸:クエン酸3Na・2HO(小松屋化学社製、「クエン酸ナトリウム」)、
界面活性剤:ジオクチルスルホコハク酸Na(ライオン社製、「リパール870P」、表面張力:27mN/m)。
なお、表1、2に示す「バランス」とは、洗浄剤組成物に含まれる各成分の総量が100質量%になるように調整した、洗浄剤組成物中の純水の配合量を意味する。
【0045】
<表面張力の測定>
洗浄剤組成物を純水(イオン交換水)で1%に希釈して希釈液を調製し、25℃における希釈液の表面張力を測定した。
表面張力の測定は、全自動表面張力計(協和科学社製、「KYOWA CBVP SURFACE TENSIOMETER A3」)を使用し、25℃に設定して、Wilhelmy法に基づき、白金プレートを用いて測定した。
【0046】
<洗浄剤組成物のpHの測定>
洗浄剤組成物を純水で1%に希釈して希釈液を調製し、25℃における希釈液のpHを測定した。
pHの測定は、pHメータ(東亜ディーケーケー株式会社製、「HM−20S」)とpH電極(東亜ディーケーケー株式会社製、「GST−5211C」)を用いて、25℃の希釈液に対してpH電極を浸漬し15秒経過後の指示値を読み取ることにより行った。
【0047】
<洗浄性の評価>
洗浄後の基板をハロゲンランプで照射して、アルミナ由来の微粒子汚れの残存の程度を目視観察し、以下の評価基準にて微粒子汚れの洗浄性を評価した。なお、汚れが落ちているほど、アルミナ由来の微粒子汚れに対する洗浄性が高いことを意味する。
◎◎:全く微粒子汚れが観察されない。
◎:ほんの僅かに微粒子汚れが観察されるが、非常に良好。
○:微粒子汚れが一部残存しているが、概ね良好。
△:全体的に微粒子汚れが残存している。
×:殆ど微粒子汚れが落ちていない。
【0048】
[実施例1〜8]
表1に示す配合(%)で、各成分を混合して洗浄剤組成物を調製した。マグネチックスターラーの入った樹脂製のビーカーに純水1980mLを入れ、マグネチックスターラーを回転させながら洗浄剤組成物を20mL添加し、1.00%に希釈した。希釈後の洗浄剤組成物のpHを表1に示す。
【0049】
別途、3.5インチのアルミニウム基板の表面をNi−Pメッキしたハードディスク基板の全体に、pH=4.0に調整したアルミナ分散液(平均1次粒子径:0.2μm)を塗布し、試験片とした。
ついで、ローラーで保持された試験片に、希釈した洗浄剤組成物を25℃で射出しながら、洗浄ブラシを試験片の表面に押し当てた状態で、回転数100rpmの条件で20秒間回転させ、洗浄を行った。その後、試験片を流水(純水)で60秒間濯ぎ、エアブローで乾燥させた。
乾燥後の試験片について、上記の評価方法で洗浄性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1〜5]
表2に示す配合(%)で、各成分を混合して洗浄剤組成物を調製した以外は実施例1〜8と同様にしてハードディスク基板を洗浄した。
乾燥後の基板について、上記の評価方法で洗浄性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
表1から明らかなように、実施例1〜8で得られた各洗浄剤組成物を用いて、ハードディスク基板を洗浄した結果、基板に付着したアルミナ由来の微粒子汚れを十分に洗浄できた。中でも、(D)成分を含有する実施例1は、(D)成分を含有しない実施例4に比べて高い洗浄性を示した。
また、界面活性剤を0.2〜0.5%含む実施例7、8で得られた洗浄剤組成物は、界面活性剤を含有しない実施例1で得られた洗浄剤組成物に比べると洗浄性はやや劣るが、概ね良好であった。
従って、本発明の洗浄剤組成物は、研磨材、特にアルミナ由来の微粒子汚れに対する洗浄性に優れていた。
【0054】
一方、(B)成分を含有しない比較例1、および(C)成分を含有しない比較例2で得られた各洗浄剤組成物は、実施例1〜8で得られた各洗浄剤組成物に比べて洗浄性が劣っていた。
また、界面活性剤を1.0%以上含む比較例3、4で得られた洗浄剤組成物は、実施例1〜8で得られた洗浄剤組成物に比べて洗浄性が劣っていた。特に、界面活性剤を5.0%含有する比較例4は洗浄性に著しく劣り、殆ど微粒子汚れが落ちていなかった。
また、(B)成分を30.0%含有する比較例5で得られた洗浄剤組成物は、比較例1に比べると洗浄性はやや良好であったが、(B)成分の含有量が多いため、実施例1〜8に比べると洗浄性が劣っていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:アルカリ金属の水酸化物を0.01〜5.00質量%、(B)成分:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸および/またはその塩を0.10〜20.00質量%、(C)成分:下記一般式(1)で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩を0.05〜10.00質量%含有し、
界面活性剤の含有量が1.00質量%未満であることを特徴するハードディスク基板用洗浄剤組成物。
2m+1O(CO)SOM ・・・(1)
(式(1)中、Mはナトリウム、カリウム、アンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンまたは水酸化テトラメチルアンモニウムのいずれかであり、mは1〜6の整数であり、nは0〜12の整数である。)
【請求項2】
さらに、(D)成分:クエン酸および/またはその塩を0.10〜20.00質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のハードディスク基板用洗浄剤組成物。
【請求項3】
純水で1質量%に希釈した希釈液の25℃におけるpHが8〜13であることを特徴とする請求項1または2に記載のハードディスク基板用洗浄剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のハードディスク基板用洗浄剤組成物を純水で0.01〜20.00質量%に希釈して用いることを特徴とするハードディスク基板の洗浄方法。

【公開番号】特開2011−46807(P2011−46807A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195619(P2009−195619)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】