説明

ハードディスク装置用慣性ラッチ

【課題】小型化されても高い精度で安定的に製造できる上、脆さを抑え、衝撃強度を向上し、プラスチックの剥離や充填物の脱落による微小なゴミが発生しにくく、さらに低コストのハードディスク装置用慣性ラッチを提供する。
【解決手段】ラッチ機構を構成する部材である慣性ラッチ6aを、ポリマー主鎖に添加物との相溶性を良好にするN−H基及びC=O基双方を有する、ポリアミドもしくはポリウレタンをベースに非磁性金属系粉末状充填材を配合して比重を3〜6としたプラスチック材料によって成形してなることとする。前記プラスチック材料中に、前記非磁性金属系粉末状充填材が60体積%以下で配合されていることとする。前記非磁性金属系粉末状充填材が、酸化亜鉛あるいは青銅であることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
外部からの衝撃によって磁気ヘッドが磁気ディスク側へ移動するのを規制するハードディスク装置のラッチ機構を構成する部材である慣性ラッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置は各種情報を磁気データとして保管することでデータの出し入れが簡単で高容量であることから、コンピュータ用だけでなくカーナビゲーションや画像、映像保存、音楽プレーヤー、携帯電話など家電製品への用途が多様化している。
【0003】
特にノートパソコンやPDA、カーナビゲーション、携帯音楽プレーヤー、携帯電話など常に動きや振動を伴う用途が増大しており、ハードディスク装置が外力を受けた際の信頼性の要求が高い。
【0004】
ハードディスク装置の信頼性を高める為に、ベースに囲まれた装置内部にはデータを保持する磁気ディスク、磁気ディスクからデータの受け渡しを行う磁気ヘッド、磁気ヘッドの動作を制御するコイルモールド、停止時に磁気ヘッドを格納するランプ等のほかにハードディスク装置が停止時に装置全体に動きが与えられた場合、磁気ヘッドが磁気ディスク上に移動しないようにコイルモールドの動きを抑制するラッチ及び慣性ラッチから構成されるラッチ機構がある。
【0005】
ラッチ機構の慣性ラッチはハードディスク装置全体が動いても慣性ラッチ自体の慣性モーメントによって同様な動きをせず、回転軸に対して一定の位置を保持するため、十分な慣性モーメントを有する必要がある。
【0006】
従来の慣性ラッチは、比重が大きい真鍮などの金属を打ち抜きプレス加工を行い、表面に無電界ニッケルめっき等を施しているが、加工が複雑且つ多工程な上、精度を要求されるため安定的に製造することが難しい。
【0007】
また、ハードディスク装置の小型化に伴い、装置内部の部材も小型化が進み、打ち抜きプレス加工による製造は難しくなっている。
【0008】
それら課題の対応策として液晶ポリマーにタングステン粉を高充填した材料にて作成した十分な慣性モーメントを有する、慣性ラッチが提案されている(特許文献1参照。)。
【0009】
ほかにハードディスク装置はデータの保存量を増やすために、磁気ディスクと磁気ヘッド間距離が接近させ、磁気ディスクの単位面積あたりのデータ保存量を高くしている。
【0010】
磁気ディスクと磁気ヘッド間距離が接近したため、磁気ディスクと磁気ヘッド間にゴミが挟まるとデータを消してしまう危険性があり、ハードディスク装置内部のゴミを非常に嫌う。
【0011】
そのためハードディスク装置内部は清浄な環境に保つ必要があり、装置内部に位置する部材はゴミを抑制する必要がある。
【特許文献1】特開2002−251847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のハードディスク装置のラッチ機構を構成する部材である慣性ラッチは金属を打ち抜きプレス及び表面にメッキを施し、加工が複雑且つ多工程な上、必要な精度を安定性が乏しく、高コストであり、小型化した慣性ラッチを安定的に製造することが難しい。
【0013】
上記課題の対応策として液晶ポリマーにタングステン粉を高充填した材料にて作成した慣性ラッチが提案されているが、液晶ポリマーにタングステン粉を高充填した材料を使用しているため、非常に脆く、衝撃に弱い上、慣性ラッチ表面からプラスチックの剥離や充填物の脱落による微小なゴミが発生しやすく、ハードディスク装置用慣性ラッチとしては不適である。
【0014】
ほかにプラスチックに充填する金属系粉末状充填材にタングステンを使用すると安定な精度で製造が出来る上、十分な慣性モーメントが得られるが、充填材であるタングステンが高価である為、慣性ラッチ材料の価格が高騰しやすく、低コスト化が難しい。
【0015】
また、プラスチックに充填する金属系粉末状充填材を鉄などの磁性体やステンレスなど微小形状になると磁性を有する物質を使用すると、慣性ラッチ自体が磁性を有し、アクチュエータの動作による磁場に引き寄せられて誤作動を起すため、ハードディスク装置用慣性ラッチとしては不適である。
【0016】
本発明は、このような従来の問題点を解決しようとするものであり、小型化されても高い精度で安定的に製造できる上、脆さを抑え、衝撃強度を向上し、プラスチックの剥離や充填物の脱落による微小なゴミが発生しにくく、さらに低コストのハードディスク装置用慣性ラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記目的を達成するため、外部からの衝撃によって磁気ヘッドが磁気ディスク側へ移動するのを規制するハードディスク装置のラッチ機構であって、前記ラッチ機構を構成する部材である慣性ラッチを、ポリマー主鎖に添加物との相溶性を良好にするN−H基及びC=O基双方を有する、ポリアミドもしくはポリウレタンをベースに非磁性金属系粉末状充填材を配合して比重を3〜6としたプラスチック材料によって成形してなることを特徴とする。
【0018】
本発明は、前記プラスチック材料中に、前記非磁性金属系粉末状充填材が60体積%以下で配合されていることを特徴とする。
【0019】
本発明は、前記非磁性金属系粉末状充填材が、酸化亜鉛あるいは青銅であることを特徴とする。
【0020】
上記第1の課題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、慣性ラッチをポリマー主鎖に添加物との相溶性を良好にするN−H基及びC=O基双方を有する、ポリアミドもしくはポリウレタンをベースに非磁性金属系粉末状充填材を配合して比重を3〜6としたプラスチック材料によって成形してなることによって、脆さを抑え、衝撃強度を向上し、プラスチックの剥離や充填物の脱落による微小なゴミが発生しにくく、
且つ大きな慣性モーメントを得ることができる。
【0021】
さらに小型化されても高い精度で安定的に慣性ラッチを製造できる。
【0022】
また、ポリアミドもしくはポリウレタンは安価であり、低コスト化ができる。
【0023】
慣性ラッチ自体が非磁性体であるので、アクチュエータの動作による磁場に引き寄せられる誤作動が起きない。
【0024】
第2の課題解決手段はプラスチック材料中に、前記非磁性金属系粉末状充填材が60体積%以下で配合されていることで、脆さを抑え、衝撃強度を向上し、
プラスチックの剥離や充填物の脱落による微小なゴミが発生しにくくできる。
【0025】
第3の課題解決手段は非磁性金属系粉末状充填材が、酸化亜鉛もしくは青銅であることで酸化による腐蝕がされず、
且つ酸化亜鉛あるいは青銅は安価であり、大幅な低コスト化ができる。
【発明の効果】
【0026】
上述したように本発明のハードディスク装置用慣性ラッチは脆さを抑え、衝撃強度を向上し、プラスチックの剥離や充填物の脱落による微小なゴミが発生しにくくでき、
且つ大きな慣性モーメントを得ることができる。
【0027】
さらに小型化されても高い精度で安定的に慣性ラッチを製造できる。
【0028】
また、ポリアミドあるいはポリウレタン、酸化亜鉛あるいは青銅は安価であり、大幅な低コスト化ができる。
【0029】
慣性ラッチ自体が磁化せず、アクチュエータの動作による磁場に引き寄せられて誤作動を起さない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、本発明のハードディスク装置用慣性ラッチを搭載したハードディスクドライブの説明図であって、図2と同様である。
【0031】
ハードディスク装置用慣性ラッチ6aをプラスチック成形することで高い精度で製造でき、ハードディスクドライブにとって致命的な微小ゴミが慣性ラッチ表面から発生しないようにする目的をポリマー主鎖に添加物との相溶性を良好にするN−H基及びC=O基双方を有するポリアミドもしくはポリウレタンをベースに、青銅や酸化亜鉛等の非磁性金属系粉末状充填材を配合したプラスチック材料によって成形される上、前記材料に配合する非磁性金属系粉末状充填材量を60体積%以下に抑えることで実現した。
【実施例1】
【0032】
ハードディスク装置用慣性ラッチ6aを市販されているポリアミド11(PA11)に非磁性金属系粉末状充填材として青銅を40体積%配合し、比重を4.1としたプラスチック材料で射出成形にて作成したところ十分な慣性モーメントが得られ、図1のハードディスク装置に設置し、装置全体に動きを与えたところ、ラッチ機構が機能することが確認された。
【0033】
また、上記の慣性ラッチ6aを破壊試験として2m高さから10mm厚の鉄板へ自重落下させたところ、表1記載の通り、脆さが改良され、破壊しなかった。
【0034】
また、上記の慣性ラッチ6aから発生する2.0ミクロンの微小ゴミを調べたところ表2記載の通り、良好な結果が得られた。
【実施例2】
【0035】
ハードディスク装置用慣性ラッチ6aを市販されているポリウレタン(PU)に非磁性金属系粉末状充填材として青銅を40体積%配合し、比重を4.1とした材料で射出成形にて作成したところ十分な慣性モーメントが得られ、図1のハードディスク装置に設置し、装置全体に動きを与えたところ、ラッチ機構が機能することが確認された。
【0036】
また、上記の慣性ラッチ6aを破壊試験として2m高さから10mm厚の鉄板へ自重落下させたところ、表1記載の通り、脆さが改良され、破壊しなかった。
【0037】
また、上記の慣性ラッチ6aから発生する2.0ミクロンの微小ゴミを調べたところ表2記載の通り、良好な結果が得られた。
【実施例3】
【0038】
ハードディスク装置用慣性ラッチ6aを市販されているポリアミド6(PA6)に非磁性金属系粉末状充填材として酸化亜鉛を60体積%配合し、比重を3.7とした材料で射出成形にて作成したところ十分な慣性モーメントが得られ、図1のハードディスク装置に設置し、装置全体に動きを与えたところ、ラッチ機構が機能することが確認された。
【0039】
また、上記の慣性ラッチ6aを破壊試験として2m高さから10mm厚の鉄板へ自重落下させたところ、表1記載の通り、脆さが改良され、破壊しなかった。
【0040】
また、上記の慣性ラッチ6aから発生する2.0ミクロンの微小ゴミを調べたところ表2記載の通り、良好な結果が得られた。
【実施例4】
【0041】
ハードディスク装置用慣性ラッチ6aを市販されているポリアミド6(PA6)に非磁性金属系粉末状充填材として青銅を38体積%配合し、比重を4.0とした材料で射出成形にて作成したところ十分な慣性モーメントが得られ、図1のハードディスク装置に設置し、装置全体に動きを与えたところ、ラッチ機構が機能することが確認された。
【0042】
また、上記の慣性ラッチ6aを破壊試験として2m高さから10mm厚の鉄板へ自重落下させたところ、表1記載の通り、脆さが改良され、破壊しなかった。
【0043】
また、上記の慣性ラッチ6aから発生する2.0ミクロンの微小ゴミを調べたところ表2記載の通り、良好な結果が得られた。
【0044】
次に比較例としてポリブチレンテレフタレート(PBT)に非磁性金属系粉末状充填材として青銅を37体積%配合し、比重を4.0としたプラスチック材料で射出成形にて作成した慣性ラッチを比較例1、液晶ポリマー(LCP)にタングステンを36体積%配合し、比重を8.0としたプラスチック材料で射出成形にて成形した慣性ラッチを比較例2、ポリフェニレンスルフィド(PPS)にタングステンを18体積%配合し、比重4.5としたプラスチック材料で射出成形にて成形した慣性ラッチを比較例3の結果を表1、2に記載する。
【0045】
実施例1〜4と同様の自重落下による破壊試験を実施したところ、比較例1は破壊が認められなかったが、比較例2、3は破壊が認められ、不適という評価を得た。
【0046】
また、比較例1〜3を2.0ミクロンの微小ゴミ発生量を確認したところ全ての比較例は実施例1〜4よりも微小ゴミ発生量が多く認められ、不適という評価を得た。
【0047】
次に比較例としてポリアミド6(PA6)に非磁性金属系粉末状充填材として酸化亜鉛を64体積%配合し、比重4.0としたプラスチック材料で射出成形にて成形した比較例4、酸化亜鉛を75体積%配合し、比重4.5としたプラスチック材料で射出成形にて成形した比較例5、酸化亜鉛を86体積%配合し、比重5.0としたプラスチック材料で射出成形にて成形した比較例6と前記実施例3の酸化亜鉛の配合量を増加させた結果を表3、4に記載する。
【0048】
実施例1〜4と同様の自重落下による破壊試験を実施したところ、比較例4は端部の角形状に破壊が認められ、比較例5、6は破壊が認められ、不適という評価を得た。
【0049】
また、比較例4〜5を2.0ミクロンの微小ゴミ発生量を確認したところ全ての比較例は実施例1〜4よりも微小ゴミ発生量が多く認められ、不適という評価を得た。
【0050】
前記結果よりハードディスク装置用慣性ラッチとして使用できるポリアミド6(PA6)に非磁性金属系粉末状充填材として酸化亜鉛を配合量は60体積%以下である。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】慣性ラッチを搭載したハードディスク装置の説明図である。(実施例1)
【図2】慣性ラッチを搭載したハードディスク装置のラッチ機構を拡大した説明図で図1のA部である。(実施例2)
【符号の説明】
【0056】
1 ベース
2 磁気ディスク
3 ランプ
4a 磁気ヘッド
4b コイルモールド
5 ラッチ
6a 慣性ラッチ
6b 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの衝撃によって磁気ヘッドが磁気ディスク側へ移動するのを規制するハードディスク装置のラッチ機構であって、
前記ラッチ機構を構成する部材である慣性ラッチを、ポリマー主鎖に添加物との相溶性を良好にするN−H基及びC=O基双方を有する、ポリアミドもしくはポリウレタンをベースに非磁性金属系粉末状充填材を配合して比重を3〜6としたプラスチック材料によって成形してなることを特徴とするハードディスク装置用慣性ラッチ。
【請求項2】
前記プラスチック材料中に、前記非磁性金属系粉末状充填材が60体積%以下で配合されていることを特徴とする請求項1記載のハードディスク装置用慣性ラッチ。
【請求項3】
前記非磁性金属系粉末状充填材が、酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1または2記載のハードディスク装置用慣性ラッチ。
【請求項4】
前記非磁性金属系粉末状充填材が、青銅であることを特徴とする請求項1または2記載のハードディスク装置用慣性ラッチ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−34074(P2008−34074A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228423(P2006−228423)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(301053383)株式会社ニュートン (6)
【Fターム(参考)】