説明

ハードバターの製造方法

本発明は、酵素エステル交換反応を施して得られた原料油脂を溶剤に溶解させて油脂溶液を製造する工程と、上記油脂溶液を10〜25℃に維持して高融点分画を結晶化して除去する工程と、及び上記高融点分画が除去された油脂溶液を0〜15℃に維持して中融点分画を結晶化して得る工程とを含み、溶剤分別法によって、トリグリセリド中に1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)を85w/w%以上含むSOSハードバターを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードバターの製造方法に関し、より詳しくは、酵素エステル交換反応を施して得られた油脂から、1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)を85重量%以上含むハードバターを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カカオバターを代替するために開発されたハードバターは、チョコレートを主とする製菓、製パンなどの食品、医薬品、及び化粧品に広く利用されている。このようなハードバターは、1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP)、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセリン(POS)、及び1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)などの分子内に1つの不飽和結合を有する対称型トリグリセリド類(SUS)を主成分としている。
【0003】
ハードバターは、植物性油脂または動物性油脂を分別することにより製造することができる。一般的に分別は次のような過程で行われる。まず、油脂を液相あるいは溶融状態にした後、所望の分離温度まで冷却して核形成を誘導する。次に、分離を効果的に行うことができる大きさと形状で結晶を成長させる。最後に固体相と液体相を分離するが、このとき、濾過、フィルタープレス、または遠心分離などの方法が利用される。油脂の分別は、他の油脂加工技術に比べて不可逆的な化学的組成変化を与えるのではなく、単に物理的性質によって可逆的に化学的組成を変化させることができる。
【0004】
このような油脂の分別はウィンタライゼーションとは異なる。油脂の分別とウィンタライゼーションは、両方とも所望の部分を分離するという作業ではあるが、ウィンタライゼーションは、大量の液状油で透明度を低下させる微量のワックス成分を除去する目的で、低温で一定時間停滞させた後除去することである。これは除去する量が非常に少ないため、分離工程と言うより精製工程と看做すのがより正確である。一方、分別工程は分離しようとする成分間の割合に多くの差がなく、分離した後、分離前と化学的組成変化が多くなり、これによって得られる各々の分画物の物理的特性にも相当な変化をもたらすようになる。また、分別工程はウィンタライゼーションと異なり、冷却と分離過程で非常に精緻な技術が必要である。
【0005】
このような油脂分別方法には、乾式分別法と溶剤分別法がある。溶剤を使用しない乾式分別法は、油脂自体の融点のみに依存して結晶化を行うため、近年、結晶管と高圧フィルタープレスの開発などのお陰で広く利用されている。最終製品に対する後処理が不要であり、製品に対する損失が少ないことから、最近脚光を浴びている分別技術である。また、溶剤分別で問題となる安全性と費用問題でも、好ましい方法として考えられている。しかし、溶剤分別に比べて分離精密度が低いため、結晶分離のとき液相が混入され純度が低くなり、分別工程の操作が困難であるという短所がある。
【0006】
溶剤分別法は、アルコール、ヘキサン、アセトンなどの有機溶媒を使用してトリグリセリド及び脂肪酸などの融点の差を大きくして、分離などの効率を高めることができる。このような溶媒を使用すると、原料油脂の粘性度が減少して短時間で分別することができ、選択的結晶化を効果的に行うことができるし、分離度が良くて収率が高くなり、分別過程中で結晶分と液体との分離過程において溶剤を利用して結晶を洗うことができ結晶の純度を高めることができる。このように、溶剤分別法は乾式分別法の短所を克服できる長所があるが、工程において嵩が大きくなるため設備投資費用の負担が大きくなり、ヘキサンを使用する場合は爆発危険性がある。しかし溶剤分別法は高い分離度を有しているため、精緻な組成を有するハードバターを製造する際に多く活用されている。
【0007】
ハードバターの組成によっては、ハードバターで製造された製菓の嗜好性を異ならせ得る。例えば、ハードバターはチョコレートの嗜好性に影響を及ぼすので、より嗜好性の高いチョコレート等の製菓類を製造するためにはハードバターの開発が必要である。SOSの豊富なハードバターで製造されたチョコレートは、硬度が高いながらも口溶性が良いため、多くの人から好まれる傾向がある。従来はSOSの豊富なハードバターを製造するために0℃未満の極低温で分別する方法が利用されたが、これは作業時間が長くなり、工程費が高くなるという短所があった。
【0008】
そこで、本発明者らは、作業時間の短縮及び工程費の節減が可能で、SOS含量の高い高純度のSOSハードバターをより経済的に製造する方法を開発するために研究した結果、本発明を完成するに到った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、作業時間と製造費用を節減することができる高純度のSOSハードバターを製造するハードバターの製造方法を提供することである。本発明の他の目的は、上記の方法で製造された高純度のSOSハードバターを含むチョコレート類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を果たすため、本発明は、酵素エステル交換反応を施して得られた原料油脂を溶剤に溶解させて油脂溶液を製造する工程と、上記油脂溶液を10〜25℃で維持し、高融点分画を結晶化して除去する工程と、上記高融点分画が除去された油脂溶液を0〜15℃で維持して中融点分画を結晶化して得る工程とを含み、溶剤分別法によって、トリグリセリド中に1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)を85w/w%以上含むSOSハードバターを製造する方法を提供する。
【0011】
本発明の他の目的は上記の方法で製造された高純度のSOSハードバターを含むチョコレート類を提供することである。
【0012】
以下、本発明を更に詳しく説明する。
【0013】
本発明によれば、酵素エステル交換反応を行って25w/w%以上のSOSを含む原料油脂を、溶剤分別法によって溶媒に溶解した後、温度を低くさせながら高融点の油脂分画を結晶化し除去した後、さらに温度を低くして結晶化した固体を得ることで、SOS含量が85w/w%以上の高純度のSOSハードバターを製造することができる。本発明では従来の0℃未満の極低温ではなく、常温(0〜25℃)の範囲内で分別することで、冷媒温度を上昇させる作業時間の短縮、工程費の節減などが可能になった。
【0014】
したがって、本発明の一態様において、原料油脂を溶剤に溶解させて油脂溶液を製造する工程と、上記油脂溶液を10〜25℃に維持して高融点分画を結晶化して除去する工程と、上記高融点分画が除去された油脂溶液を0〜15℃に維持して中融点分画を結晶化して得る工程とを含み、溶剤分別法によって、トリグリセリド中に1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)を85w/w%以上含むSOSハードバターを製造する方法を提供する。
【0015】
上記原料油脂は、植物性油脂を酵素エステル交換反応したものを用いることができる。上記植物性油脂は、オレイン酸含量が80%以上であることが好ましく、代表的なものにハイオレイックひまわり油がある。上記酵素エステル交換反応は、sn-1,3位に特異性を有する酵素の存在下で植物性油脂をステアリン酸エチルエステルと反応させることで行うことができる。sn-1,3位に特異性を有する酵素は、Rhizopus delemar(リゾプス・デレマー)、Mucor miehei(ムコール・ミーハイ)、Aspergilillus miger(アスペルギルス・ニガー)、Rhizopus arrhizus(リゾプス・アリズス)、Rhizopus niveus(リゾプス・ニベウス)、Mucor javanicus(ムコール・ジャバニカス)、Rhizopus javenicus(リゾプス・ジャバニカス)、Rhizopus oxyzae(リゾプス・オリザエ)などから分離した酵素があるが、これに限定されるものではない。酵素エステル交換反応により得られた生成物を0.1〜0.2mmHg、200〜250℃で蒸溜してエチルエステルを除去することで、トリアシルグリセリド(Triacylglyceride:TAG)の含量を98%以上にすることができる。上記の酵素エステル交換反応と蒸溜によってエチルエステルを除去したトリグリセリドは、SOSを天然に含む油脂よりSOS含量における品質の変化幅が少なくて、一貫性のある製品を提供することができる。また、酵素エステル交換反応を施した油脂は、分別後の副産物を酵素エステル交換反応の基質として再使用することができ経済的に有利である。さらに、植物性油脂をエステル交換反応することによって、よりSOS含量の高い原料油脂として利用することができ、SOSハードバターを製造するときの収率を増加させることができるという長所がある。
【0016】
上記の溶剤は原料油脂を溶解できるものであれば、特に制限されることなく、例えばアセトン、n-ヘキサン、メチルエチルケトン、エタノール、またはこれらの混合物などが利用できる。
【0017】
上記の油脂溶液を製造する工程で、原料油脂を溶剤に溶解させた油脂溶液の濃度が高いほど製造効率を高くすることができる。従って、油脂溶液は原料油脂を25w/w% 以上含有するように製造することができ、溶剤中に溶解させた原料油脂の量を最大限に増加させることが好ましい。
【0018】
上記の溶剤分別法は、当該技術分野で通常用いられる装置を利用して行うことができ、例えば二重ジャケットの反応器を利用することができる。上記の高融点分画を結晶化して除去する工程は、油脂溶液を10〜25℃で油脂の結晶化が行われるまで放置することができ、約2〜5時間行うことができる。結晶化が充分に行われたら、固体相を液体相から分離して高融点分画を減圧フィルターで除去することができる。その後、固体相が分離された液体相を、また反応器に入れて溶解させた後、0〜15℃で油脂の結晶化が行われるまで放置し、例えば約10〜15時間行うことができる。この際、反応液に30〜40rpmの撹拌を加えて冷却水から油脂への温度伝達速度を速くすると、油脂の結晶化が更に促進できる。充分な結晶化が行われたら、固体相を液体相から分離して固体相を得る。そして得られた固体相は中融点の油脂で、SOSを85%以上含むようになる。
【0019】
上記の溶剤分別法は、従来のSOSハードバターの製造方法とは異なり、極低温ではなく常温での分別方法により高純度のSOSハードバターを製造することができるので、ハードバターを製造するための作業時間と費用を節減することができ、非常に経済的な方法であると言える。
【0020】
上記の溶剤分別方法に製造されたSOSハードバターは、中融点の油脂で口溶性が良いため、チョコレート類の製造に使用され、嗜好性に優れたチョコレートの製造に利用することができるだけでなく、低い原価で製造ができ、より経済的なチョコレートの製造に利用することができる。また、上記の溶剤分別方法により製造されたSOSハードバターは、天然油脂またはその分別油脂、例えばハードパーム中部油(Hard Palm Middle Fraction:HPMF)と混合して用いることで、ココアバターと類似の物性を表すようにすることができる。また、上記の溶剤分別方法により製造されたSOSハードバターは、天然油脂またはその分別油脂と共にチョコレート類の製造のための油脂として用いることができる。
【0021】
したがって、本発明はまた他の態様において、上記の本発明による方法で製造されたハードバターを含むチョコレート類を提供する。
【0022】
上記のチョコレート類とは、テオブロマカカオの木の種実から得られるココア原料に他の食品または食品添加物などを加えて加工したものをいう。上記のチョコレート類はチョコレート、ミルクチョコレート、準チョコレート、チョコレート加工品を含む。チョコレートは、ココア原料に糖類、油脂、乳加工品、食品、または食品添加物などを加えて加工したもので、ココア原料の含量が20%以上(ココアバターが10%以上)であるものを言う。ミルクチョコレートは、ココア原料に糖類、油脂、乳加工品、食品、または食品添加物などを加えて加工したもので、ココア原料の含量が12%以上、乳固形分が8%以上のものをいう。準チョコレートは、ココア原料に糖類、油脂、乳加工品、食品、または食品添加物などを加えて加工したもので、ココア原料の含量が7%以上であるもの、またはココアバターを2%以上含み固形分の含量が10%以上のものをいう。チョコレート加工品はナッツ類、キャンディー類、ビスケット類などの食用可能な食品に、チョコレート、ミルクチョコレートや準チョコレートを混合、被服、充填、接合などの方法で加工したものをいう。このようなチョコレート類の製造は当該技術分野において公知である通常の方法により製造することができ、チョコレート類を製造するための油脂成分として上記の本発明による方法によって製造したハードバターを利用することができ、必要に応じて天然油脂またはその分別油脂と共に混合して利用することもできる。上記の本発明による方法によって製造されたハードバターを利用することで、チョコレート製造原価の節減及び固い特性を増加させるなど付加価置の高いチョコレート類を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明した通り、本発明の方法によれば、SOSが85%以上の高純度のSOSハードバターを常温で溶剤分別方法により製造することができ、従来の方法に比べて作業時間が短縮され、工程費が節減される経済的な方法であると言える。また、本発明の方法により製造されるハードバターは、天然油脂あるいはその分別油脂、例えばハードパーム中部油(Hard Palm Middle Fraction:HPMF)と混合して用いることで、ココアバターと類似の物性を表すように利用することができる。また、本発明の方法により製造されたハードバターを必要に応じて、天然油脂またはその分別油脂などと適切に混合してチョコレートの製造時、油脂として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例による酵素エステル交換反応後の油脂に対して HPLCによって油脂中のトリグリセリドの組成を確認した結果を示すグラフである。
【図2】本発明の一実施例に従い、アセトンを利用して分別した後、最終的に得られた中融点油脂に対して、HPLCで油脂中のトリグリセリドの組成を確認した結果を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施例に従い、ヘキサンを利用して分別した後、最終的に得られた中融点油脂に対して、HPLCで油脂中のトリグリセリドの組成を確認した結果を示すグラフである。
【図4】本発明のSOSハードバター製造方法の一実施例により、アセトンを利用して分別した後、最終的に得られた中融点油脂に対して核磁気共鳴を利用し固体脂の含量を分析した結果を示すグラフである。
【図5】本発明のSOSハードバター製造方法の一実施例により、アセトンを利用して分別した後、最終的に得られた中融点油脂に対して示差走査熱量分析法を行い、その結果得られたDSC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を下記の実施例によって更に具体的に説明する。しかし、これらの実施例は本発明に関する理解に資するためのもので、いかなる意味でも本発明の範囲がこれらにより制限されることではない。
【0026】
実施例1
ハイオレイックひまわり油とステアリン酸エチルエステル(Stearic ethyl ester)とをsn-1,3位に特異性を有する酵素であるLipozyme RMIM(immobilized sn-1,3-specific lipase from Rhizomucor miehei)(リゾムコール・ミーハイ由来のsn-1,3位に特異性を有する固定化リパーゼであるリポザイム RMIM)を用いてエステル交換反応させ、SOS含量が25w/w%以上になるようにした。合成された油脂を0.001mbar、230℃で蒸溜してエチルエステルを除去し、トリアシルグリセリド(Triacylglyceride:TAG)が98w/w%以上になるようにした。
【0027】
上記エステル交換反応により得られた原料油脂1kgとアセトン(acetone)4kgとを混合して、アセトンが揮発しないように栓をした後、完全に溶解させた。この混合液を二重ジャケットの反応器を利用して、先ず高融点部分を結晶化した。上記の混合液を25℃で3時間、30rpmで撹拌後、減圧濾過して固体相と液体相を分離した。
【0028】
濾過した液体相の油脂収率は98%以上であり、また中融点油脂を得るために液体相を二重ジャケットの反応器に入れて60℃で完全に溶解させた。低融点油脂と中融点油脂を分離するために約15℃の冷媒を反応器に約10時間流し、30rpmで撹拌した。その後、減圧濾過して液体相と固体相を分離し、減圧蒸溜してアセトンを除去した後、固体相の中融点油脂を得た(重量:255g、全体収率:25.5%、SOS収率:82%)。
【0029】
実施例2
上記実施例1と同様に、ハイオレイックひまわり油とステアリン酸エチルエステル(Stearic ethyl ester)をsn-1,3位に特異性を有する酵素であるLipozyme RMIM (immobilized sn-1,3-specific lipase from Rhizomucor miehei)を用いてエステル交換反応させ、SOS含量が25w/w%以上になるようにした。合成された油脂は0.001mbar、230℃で蒸溜し、エチルエステルを除去し、トリアシルグリセリド(Triacylglyceride:TAG)が98%以上になるようにした。
【0030】
エステル交換反応により得られた上記の原料油脂1kgとn-ヘキサン(n-Hexane)4kgとを混合して、ヘキサンが揮発しないように栓をした後、完全に溶解させた。この混合液を二重ジャケットの反応器を利用して、先ず高融点部分を結晶化した。上記の混合液を10℃で3時間、30rpmで撹拌した後、減圧濾過して固体相と液体相を分離した。
【0031】
濾過した液体相の油脂収率は98%以上であり、また中融点油脂を得るために液体相を二重ジャケットの反応器に入れて、60℃で完全に溶解させた。低融点油脂と中融点油脂を分離するために、5℃の冷媒を反応器に約10時間流し、30rpmで撹拌した。その後、減圧濾過して液体相と固体相を分離し、減圧蒸溜してn-ヘキサンを除去した後、固体相の中融点油脂を得た(重量:250g、全体収率:25%、SOS収率:79%)。
【0032】
実験例1:トリグリセリド構造分析
酵素エステル交換反応によってトリグリセリドの構造が変化するが、このトリグリセリドの構造が油脂の物理的、化学的特性を決定する。従って、上記実施例1で酵素エステル交換反応の前後の油脂に対して、HPLCを利用し油脂中のトリグリセリドの種類と含量を確認した。
【0033】
HPLCを利用したトリグリセリド分析を下記表1の条件で行った。逆相高分解能液体クロマトグラフィー−蒸気化光散乱検出器システムを利用して分別前後の油脂中のトリグリセリド構造を分析した。試料30μlとヘキサン10mlを入れて、PEFEシリンジフィルター(syringe filter)(25mm、0.2μm)を利用して濾過させた後、2mmバイアル入れてオートサンプラーを利用して試料を20μl注入した。溶媒は、アセトニトリル(溶媒A)、ヘキサン/イソプロパノール(溶媒B)を用い、流速は1ml/minであった。溶媒の勾配溶離(A:B、v:v)の進行過程は、45分間80:20で維持し、60分まで54:46に変化した後、60分から70分まで80:20で維持させて、総進行時間は70分であった。
【0034】
[表1]

【0035】
酵素エステル交換反応の前後の油脂に対して、HPLCで油脂中のトリグリセリド組成を確認した結果を図1〜図3に示す。
【0036】
図1〜図3は、酵素エステル交換反応の前(図1)、実施例1のアセトン分別後(図2)、実施例2のヘキサン分別後(図3)の油脂に対して、HPLCを利用して油脂中のトリグリセリド組成を確認した結果を示すグラフである。図1のグラフによれば、OOO:13.5%、SOO:40.4%、SOS:26.7%であり、分別前のSOS含量が26.7%であることを確認した。図2のグラフによれば、SOO:2.5%、POS:6.5%、SOS:86.5%であり、アセトン分別後、SOS含量が約60% 増加したことが判る。図3によれば、SOO:6.5%、POS:6.5%、SOS:85.5%であり、ヘキサン分別後のSOS含量が約60%増加したことが判る。またヘキサン分別結果とアセトン分別結果とでは、SOS含量が同様に増加することが確認できる。
【0037】
図1〜図3において、OOO、SOO、SOS、POSの意味は次の通りである。
OOO:トリオレイン(triolein)
SOO:1-ステアロイル-2,3-ジオレイルグリセリン(1-stearoyl-2,3-dioleoylglycerin)
SOS:1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(1,3-distearoyl-2-oleoylglycerin)
POS:1-パミトイル-2-オレイル-3-ステアロイルグリセリン(1-palmitoyl-2-oleoyl-3-stearoylglycerin)
【0038】
実験例2:核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)を利用した固体脂含量分析
上記実施例1で得られた固体相の中融点油脂に対して、核磁気共鳴を利用し、固体脂含量(Solid Fat Content:SFC)を分析した。固体脂含量分析のための核磁気共鳴分析条件を下記の表2に表した。
【0039】
核磁気共鳴を利用した固体脂含量分析試験は並列式(Parallel Method)で行った。アセトン分別後のサンプルを3mLずつ5個準備して、実験の前処理時に80℃で充分油脂を溶解させた後、60℃で10分、0℃で90分処理して冷却させた。その後、26℃で40時間結晶を安定化させた後、0℃で90分間冷凍させた。10.0℃、20.0℃、25.0℃、30.0℃、35.0℃に予めセットしたセルシウスバス(Celsius bath)−メタルブロックサーモスタット(metal block thermostat)で30分ずつ放置後、サンプルを測定した。サンプルの測定時間は約6秒とした。
【0040】
[表2]

【0041】
実施例1で得られた固体相の中融点油脂に対して核磁気共鳴を利用し、固体脂含量を分析した結果を図4に表した。図4によれば、SOSハードバターは、10℃で86.1%、20℃で76.4%、25℃で74.8%、30℃で70.9%、35℃で56.0%であることが確認された。このような高い固体脂含量のため、これより低い固体脂含量の天然油脂又はその分別油脂と混合することにより、該当の油脂の物性を堅固にさせるという役割を果たすようになる。
【0042】
実験例3:示差走査熱量法(Differential Scanning Calorimetry:DSC)分析による物理的性状分析
示差熱量計で溶剤分別の前後に対して溶融プロファイル(Melting Profile)を測定することができ、これで、高融点、低融点の分画が除去の可否が判る。実施例1のアセトン分別により最終的に得られた固体相の中融点油脂に対して、DSCプロファイルを測定した。
【0043】
分析条件は下記表3の通りである。
[表3]

【0044】
DSCプロファイルを測定した結果を図5に示した。図5のDSC曲線によると、-60〜80℃の温度範囲で、全体的相変化があることが分かる。SOSハードバターは15℃から26℃まで溶融される低温溶融部分と、26℃から40℃に至るまで溶融される高温溶融部分があることが分かる。また、これを冷却して結晶を形成させる過程では、19℃から7℃まで結晶が形成される特性を表すことが確認できる。このような結果から、天然油脂又はその分別油の溶融及び結晶形成の特性を考慮してSOSハードバターの混合割合を調節することにより、所望の物性を示す油脂を開発することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料油脂を溶剤に溶解させて油脂溶液を製造する工程と、
上記油脂溶液を10〜25℃に維持して高融点分画を結晶化して除去する工程と、
上記高融点分画が除去された油脂溶液を0〜15℃に維持して中融点分画を結晶化して得る工程とを含み、
溶剤分別法によって、トリグリセリド中に1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS)を85w/w%以上含むSOSハードバターを製造することを特徴とするハードバターの製造方法。
【請求項2】
上記原料油脂は、オレイン酸を80%以上含む植物性油脂とステアリン酸エチルエステルとをsn-1,3位に特異性を有する酵素を利用してエステル交換反応を施した後、エステルを除去してトリグリセリドにしたことを特徴とする請求項1に記載のハードバターの製造方法。
【請求項3】
上記原料油脂は、ハイオレイックひまわり油であることを特徴とする請求項2に記載のハードバターの製造方法。
【請求項4】
上記のエチルエステルの除去を、0.001〜0.1mbar、200〜250℃で行うことを特徴とする請求項2に記載のハードバターの製造方法。
【請求項5】
上記溶剤は、ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、エタノール、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載のハードバターの製造方法。
【請求項6】
上記油脂溶液を製造する工程において、油脂溶液は、原料油脂を25w/w%以上含むように製造されることを特徴とする請求項1に記載のハードバターの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載のハードバターの製造方法により製造されるSOSハードバターを含むチョコレート類。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−529907(P2012−529907A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515958(P2012−515958)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/KR2009/006249
【国際公開番号】WO2011/037296
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(508075890)シージェー チェイルジェダン コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】