説明

ハーネスのシール構造

【課題】防水性に優れたハーネスのシール構造を提供する。
【解決手段】延在する導電部材を1つ以上束ねてなるハーネス20と、ハーネス20を支持固定する固定部材30と、ハーネス20と固定部材30を気密封止するホットメルト樹脂部材40とからなるハーネスのシール構造において、固定部材30にハーネス20を挿通する方向に沿って、固定部材30に壁部33を立て、ハーネス20の外面と壁部33の内面とがホットメルト樹脂部材40により接着されるとともに、壁部の外面もこの樹脂部材により被覆されることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスの防水装置に関し、特に、自動車用の車載カメラ等に用いるに好適なワイヤーハーネスの防水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワイヤーハーネスの防水構造は種々考えられている。その一例が特開平8−220117号公報に開示されており、以下これらの公報に開示された方法について説明する。
【0003】
特開平8−220117号公報に開示された方法について、図8(A)、(B)は、それぞれ信号線126a、126bのみを被覆するホットメルト158、ワイヤーハーネス126の外皮に密着した状態に1次成形した場合の斜視図、及び断面図を示す。この場合、同図(B)に示すように、ワイヤーハーネス126の外皮とホットメルト158と境界、及び信号線126a,126bの絶縁材とホットメルト158との境界に、それぞれ接着界面160a,160bが形成される。そして、同図(C)に示すように、ハウジング130の2次成形を行うと、ホットメルト158とハウジング130との間に溶着層162が形成され、防水性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−220117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の防水構造においては、ワイヤーハーネスを屈曲させた場合、ホットメルトとハウジングが剥離することにより、ワイヤーハーネスが脱落する可能性がある。また、熱衝撃試験などの信頼性試験を行うと、熱膨張係数差に基づくストレスが接続部で生じ、ハーネスとホットメルト、またはハウジングとホットメルトが剥離することにより、防水性の悪化が懸念される。車載用のカメラに用いられる場合、この防水性の悪化により、カメラのレンズが曇ることにより、鮮明な映像を取り込むことができない恐れがあるとともに、電気回路の絶縁を阻害することにより、回路動作に異常をもたらす恐れがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、接合部の剥離がなく、防水性が向上するハーネスのシール構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明の請求項1によるハーネスのシール構造は、延在する導電部材を1つ以上束ねてなるハーネスと、該ハーネスを支持固定する固定部材と、前記ハーネスと固定部材を気密封止する樹脂部材とからなるハーネスのシール構造において、前記固定部材に前記ハーネスを挿通する方向に沿って、前記固定部材に壁部を立て、前記ハーネスの外面と前記壁部の内面とが前記樹脂部材により接着されるとともに、前記壁部の外面も前記樹脂部材により被覆されることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の請求項2によるハーネスのシール構造は、前記壁部は筒状であることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の請求項3によるハーネスのシール構造は、前記壁部の外面のすそ部に位置する前記固定部材の表面に凹部を設けることを特徴としている。
【0010】
また、本発明の請求項4によるハーネスのシール構造は、前記壁部に所定の深さの切り欠き部が設けられ、前記切り欠き部は所定の間隔を空けて複数個設けられていることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の請求項5によるハーネスのシール構造は、前記壁部の表面が凹凸を有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、本発明のハーネスのシール構造は、固定部材に立てた壁部の内面とハーネスの外面が樹脂部材により接着されるとともに、壁面の外面も樹脂部材によって覆われる構造としたことにより、樹脂部材の中に壁部が埋設するので、熱衝撃による収縮の動きが壁部によって抑えられる。このことにより、樹脂部材がハーネスから剥離するのを防ぐことができる。また、ハーネスの屈曲時には壁部によって挙動が抑えられる。ことにより、樹脂部材がハーネスから剥離するのを防ぐことができ、ハーネスが樹脂部材から脱落することを防ぐことができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、本発明のハーネスのシール構造は、壁部の形状を筒状とすることにより、壁部の外面と内面を樹脂部材で覆う構造となるため、ハーネスの屈曲によるハーネスの剥離耐性がより強くなり防水性能が向上する。
【0014】
請求項3の発明によれば、本発明のハーネスのシール構造は、壁部の外面のすそ部に位置する固定部材の表面に凹部を設けることにより、この凹部に樹脂部材が入り込む。そのため、壁部が樹脂部材によって挟まれる構造となるので、ハーネスを屈曲させた際に、ハーネスの挙動を抑えることができる。このことにより、ハーネスの剥離耐性がさらに強くなり防水性能が向上する。
【0015】
請求項4の発明によれば、本発明のハーネスのシール構造は、壁部に所定の深さの切り欠き部が設けられ、この切り欠き部が所定の間隔を空けて複数個設けられているので、粘性の高い樹脂部材を、効率よくハーネスと壁部との間に注入することができる。このことにより、本発明の構造を確実に形成することができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、本発明のハーネスのシール構造は、壁部の表面積を増やすことにより、樹脂部材との密着性が向上し、ハーネスの屈曲によるハーネスの剥離耐性がさらにより一層強くなり防水性が向上する。
【0017】
したがって、本発明のハーネスのシール構造は、防水性に優れたハーネスのシール構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係るハーネスのシール構造を説明する分解斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るハーネスのシール構造を説明する斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るハーネスのシール構造において、構造を説明する断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るハーネスのシール構造において、ブッシュ形状を説明する斜視図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係るハーネスのシール構造において、防水構造を説明する断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係るハーネスのシール構造において、変形例を示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るハーネスのシール構造において、ブッシュ形状を説明する斜視図である。
【図8】従来例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態のハーネスのシール構造を説明する分解斜視図であり、図2は本発明の第1実施形態のハーネスのシール構造を説明する斜視図であり、図3は本発明の第1実施形態のハーネスのシール構造を説明する断面図であり、図4は本発明の第1実施形態のハーネスのシール構造において、ブッシュ形状を説明する斜視図である。
【0020】
本発明の第1実施形態のハーネスのシール構造は、図1と図2及び図3に示すように、ハーネス20と、ハーネス20を支持固定するブッシュ(固定部材)30と、ホットメルト樹脂部材(樹脂部材)40とを備えて構成される。他に、ハーネス20を接続するフレキシブルプリント基板(以下FPCと称する)10によって構成されている。
【0021】
ハーネス20は、図3に示すように、延在する4本の導電線(導電部材)21と、4本の導電線のそれぞれを被覆している被覆部22と、外部からのノイズの影響を抑える遮蔽部23と、絶縁層としてのシース24から構成されている。このハーネス20は、後述するブッシュ30の中央孔36を挿通して配置されている。そして、ハーネス20の両端部は、それぞれの導電線21の両端が露出するように被覆部22等が剥がされており、一端部はブッシュ30の上部においてFPC10に半田付けにより固定され、他端部は外部と接続されるコネクタ(図示せず)等に固定される。
【0022】
ブッシュ30は、例えば絶縁材等の樹脂で形成されており、図1および図3に示すように、ブッシュ30の上部には2本のフック31と、4本の係止部32を有しており、下部にはハーネス20を挿通する方向に沿って壁部33を形成している。この壁部33は、図3に示すように筒状になっている。また、壁部33の外面のすそ部分に位置するブッシュ30の表面には凹部34を有している。また、ブッシュ30の中央には、ハーネス20が挿通可能な中央孔36が形成されている。
【0023】
2本のフック31は、FPC10に設けられた2箇所の切り欠き部11に係着し、FPC10が上方に抜けるのを防ぐ構成となっている。また、4本の係止部32はFPC10の下部と接することにより、下方への脱落を防止している。また、中央孔36の内面37とシース24の外面との間には隙間が設けられており、後述するホットメルト樹脂部材40が充填される。
【0024】
ホットメルト樹脂部材40は、図1および図2に示すように、一般の熱可塑性成型品と親和性の高い樹脂、たとえばポリアミド系のホットメルト樹脂で形成されている。ホットメルト樹脂は、樹脂温度が上昇すると溶融し、樹脂温度が低下すると固化するものである。よって、ホットメルト樹脂部材40は、FPC10に係着されたハーネス20がブッシュ30の上部に配置された状態で金型にセットされ、金型にホットメルト樹脂を流し込むことによって図2のように形成される。これにより、ブッシュ30の上部は、ハーネス20の導電線21がFPC10に係着された箇所が覆われるように樹脂部材上部41が略方形状に形成される。また、ブッシュ30の中央孔36は、中央孔36の内面37とシース24の外面25との隙間にホットメルト樹脂が充填される。さらに、ブッシュ30の下部は、ブッシュ30の壁部33とハーネス20の一部を覆い、略方形状に樹脂部材下部42が形成される。これにより、ハーネス20およびブッシュ30と、ホットメルト樹脂部材40との境界は、ホットメルト樹脂により接着されることによって、気密封止されている。そして、ハーネス20はホットメルト樹脂部材40によって支持固定される。
【0025】
このように形成されたハーネスのシール構造の防水性について、図5を参照して説明する。
【0026】
水分がカメラ筐体50に浸入する経路は主に3つのパターンが考えられる。第1の侵入経路は、ハーネス20の被覆部22の内側あるいは遮蔽部23の内側を伝わり、カメラ筐体50に侵入する経路である。第2の経路は、ハーネス20のシース24の外面25を伝わり、カメラ筐体50に浸入する経路である。そして、第3の経路は、ブッシュ30の外周からホットメルト樹脂部材40とブッシュ30との境界部を伝わり、カメラ筐体50に侵入する経路である。
【0027】
第1の侵入経路については、ハーネス20の一端部がブッシュ30の上部においてFPC10に半田付け等により固定され、2本のフック31が、FPC10に設けられた2箇所の切り欠き部11に係着した状態でホットメルト樹脂部材40を形成しているので、侵入した水分はホットメルト樹脂部材40によって遮断される。
【0028】
また、第2の侵入経路については、ブッシュ30の中央孔36の内面37とシース24の外面25とがホットメルト樹脂によって充填されているので、シール性が高く、侵入した水分は遮断される。
【0029】
また、第3の侵入経路については、ブッシュ30に壁部33が設けられていることにより、壁部33を設けない場合と比較して水分の侵入経路が長くなるので、水分の浸入を抑えることが出来る。さらに、ブッシュ30の壁部33のすそ部に凹部34を設けることにより、水分の侵入経路がより長くなるので、水分の浸入を最小限に抑えることができる。
【0030】
ところで、ホットメルト樹脂部材40を構成するホットメルト樹脂は、成型する際には流動性の高い液状化した状態であるが、固化後は周囲の樹脂と強固に固着するとともに、適度な可撓性がある。しかし、熱によって収縮するため、例えば、熱衝撃試験等のような高温と低温の環境下を交互に繰り返し行う場合には、密着性が損なわれる恐れがある。
【0031】
しかし、ブッシュ30に壁部33を設けたことにより、高温環境下におかれた場合には、図4の矢印Aのように、ホットメルト樹脂部材40は膨張しようとするが、壁部33によって膨張が抑えられ、その結果、ブッシュ30とホットメルト樹脂部材40との境界に亀裂等が起きるのを防ぐことができる。
【0032】
また、低温環境下においては、図5の矢印Bのように、ホットメルト樹脂部材40は収縮しようとするが、壁部33がもうけられていることにより、壁部33によって収縮が抑えられ、上記と同様にブッシュ30とホットメルト樹脂部材40との境界に亀裂等が起きるのを防ぐことができる。
【0033】
次に、ハーネス20を図5の矢印Cのように図示左右に屈曲させた場合、ハーネス20の屈曲に追従してホットメルト樹脂部材40が変形する。この場合においても、ブッシュ30に壁部33を設けることにより、ハーネス20の挙動が抑えられるとともに、ホットメルト樹脂部材40の変形も抑えられるため、ブッシュ30とホットメルト樹脂部材40との境界部に亀裂等が起きるのを防ぐことができる。
【0034】
なお、壁部33のすそ部に凹部34を設けることにより、凹部34に充填されたホットメルト樹脂によって、ハーネスを屈曲させた場合にハーネスの挙動をより抑えることができる。このことにより、ハーネスの剥離耐性がさらに強くなり防水性能が向上する。また、外部から内部への水の侵入経路が長くなることも防水性向上に寄与している。
<変形例1>
【0035】
図6は、本発明の第1実施形態に係るハーネスのシール構造において、変形例を示す断面図である。
【0036】
図6に示すように、壁部33の内面38に凹凸加工を形成してもよい。この場合、壁部33の内面38とホットメルト樹脂部材40との接触面積が増すことにより、より密着性の向上が期待でき、ブッシュ30とホットメルト樹脂部材40との境界において亀裂等が起きるのをさらに防ぐことができる。また、凹凸加工をすることにより、水分の浸入経路も長くなるため、より防水性能の向上が期待できる。
【0037】
なお、本変形例では、壁部33の内面38に凹凸加工を形成したが、外面にも凹凸加工を形成してもよく、その場合、壁部33の外面とホットメルト樹脂部材40との接触面積が増すことにより、さらに密着性の向上が期待でき、防水性能のさらなる向上が期待できる。
[第2実施形態]
【0038】
図7は、本発明の第2実施形態に係るハーネスのシール構造において、ブッシュ形状を説明する斜視図である。ブッシュ60を除いて、第1実施形態と同様であるので、共通する部分については、図1を参照し、第1実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。
【0039】
図1及び図7に示すように、ハーネス20と、ハーネス20を支持固定するブッシュ60と、ホットメルト樹脂部材40とを備えて構成される。他に、ハーネス20を接続するFPCによって構成されている。
【0040】
ブッシュ60の下部(図7では上部となる)にはハーネス20を挿通する方向に沿って壁部33を形成している。このブッシュ60に形成されている壁部33は、所定の深さの切り欠き部63が所定の間隔を空けて複数個設けられている。本実施形態では、図7に示すように、切り欠き部63が4箇所設けられている。
【0041】
このように、切り欠き部63が4箇所設けられていることにより、ホットメルト樹脂の粘性が高い場合でも、金型にホットメルト樹脂が流れ込みやすくなり、所定の形状に成型することが容易となる。このことにより、ホットメルト樹脂の粘性が高い場合でも、防水性能を満足するハーネスのシール構造を形成することができる。
【0042】
なお、切り欠き部63のすそ部にあり、凹部34の底面から所定の高さをもって繋げた繋ぎ部63aを設けることにより、凹部34と繋ぎ部63aに囲まれた箇所に充填されたホットメルト樹脂が、繋ぎ部63aを設けない場合と比較して、ハーネス屈曲時にハーネスの挙動を抑えることができる。このため、ブッシュ60とホットメルト樹脂部材40との境界部に亀裂等が起きるのを防ぐことができる。また、繋ぎ部63aをもうけることにより、ブッシュ60の外周からホットメルト樹脂部材40との境界部の距離が繋ぎ部63aを設けない場合と比較して長くなるので、外部からの水分の浸入も抑えることができる。
【0043】
また、壁部33に切り欠き部63が設けられた場合においても、壁部33の内面または外面は、実施形態1の変形例に示したように、凹凸加工を形成してもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 フレキシブルプリント基板(FPC)
20 ハーネス
21 導電線
22 被覆部
23 遮蔽部
24 シース
30 ブッシュ
31 フック
32 係止部
33 壁部
34 凹部
36 中央孔
37 内面
38 壁部
40 ホットメルト樹脂部材(樹脂部材)
50 カメラ筐体
60 ブッシュ
63 切り欠き部
63a 繋ぎ部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
延在する導電部材を1つ以上束ねてなるハーネスと、該ハーネスを支持固定する固定部材と、前記ハーネスと固定部材を気密封止する樹脂部材とからなるハーネスのシール構造において、
前記固定部材に前記ハーネスを挿通する方向に沿って、前記固定部材に壁部を立て、前記ハーネスの外面と前記壁部の内面とが前記樹脂部材により接着されるとともに、前記壁部の外面も前記樹脂部材により被覆されることを特徴とするハーネスのシール構造。
【請求項2】
前記壁部は筒状であることを特徴とする請求項1に記載のハーネスのシール構造。
【請求項3】
前記壁部の外面のすそ部に位置する前記固定部材の表面に凹部を設けることを特徴とする請求項1または2に記載のハーネスのシール構造。
【請求項4】
前記壁部に所定の深さの切り欠き部が設けられ、前記切り欠き部は所定の間隔を空けて複数個設けられていることを特徴とする請求項2または3に記載のハーネスのシール構造。
【請求項5】
前記壁部の表面が凹凸を有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のハーネスのシール構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−65508(P2013−65508A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204442(P2011−204442)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)