説明

ハーネス用グリース組成物

【課題】 オレフィンエラストマー等に対する材料適合性および耐腐食性、酸化安定性に優れたハーネス用グリース組成物を提供すること。
【解決手段】 増ちょう剤、基油及び添加剤を含むハーネス用グリース組成物において、基油がポリオキシアルキレングリコールエーテルを含み、添加剤がキノリン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物を含むハーネス用グリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハーネス用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の電装部品、特にエアコン近傍部のハーネス部品では、湿気等による凝縮水がコネクタ等へ浸入し、金属部品(接点材)を腐食させるため、この腐食を防止する必要がある。また、長期的な使用を可能にするために、使用される潤滑剤(基油に増ちょう剤を添加し、半固体状にしたグリース)には優れた耐腐食性や酸化安定性が要求されている。さらにまた、環境負荷物質対応として金属部品の被覆線材質をポリ塩化ビニルからオレフィンエラストマーに変更したため、材料適合性についても考慮したグリースの設計が要求されている。
従来、自動車ワイヤーハーネス配線コネクタ充填用グリースとして、耐熱性に優れたグリースが報告されている(特許文献1)。しかし、このグリースは基油に精製鉱油を使用していることからオレフィンエラストマー等に対する材料適合性が懸念され、また耐腐食性や酸化安定性については考慮されていない。
また減速装置用として、防錆性に優れ、ゴム材等に対する影響の少ないグリースについても報告されている(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。これらのグリースはオレフィンエラストマー等に対する材料適合性については満足するが、耐腐食性や酸化安定性においては必ずしも充分とはいえない。
【0003】
【特許文献1】特公平6−99702号公報
【特許文献2】特公平4−266995号公報
【特許文献3】特開昭63−309591号公報
【特許文献4】特開昭64−29496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的はハーネス用グリース組成物を提供することであり、特に、オレフィンエラストマー等に対する材料適合性および耐腐食性、酸化安定性に優れたハーネス用グリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のグリース組成物を提供するものである。
1.増ちょう剤、基油及び添加剤を含むハーネス用グリース組成物において、基油がポリオキシアルキレングリコールエーテルを含み、添加剤がキノリン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物を含むハーネス用グリース組成物。
2.増ちょう剤がリチウム石けん及び有機化ベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1記載のハーネス用グリース組成物。
3.ポリオキシアルキレングリコールエーテルの40℃における動粘度が、30〜400mm2/sである上記1又は2記載のハーネス用グリース組成物。
4.キノリン系化合物の含有量が、全グリース組成物の質量に対して、0.1〜10質量%であり、ベンゾトリアゾール系化合物の含有量が、全グリース組成物の質量に対して、0.1〜10質量%である上記1〜3のいずれか1項記載のハーネス用グリース組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明のグリース組成物は、基油がポリオキシアルキレングリコールエーテルを含み、添加剤としてキノリン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいるため、オレフィンエラストマー等に対する材料適合性および耐腐食性、酸化安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明では基油としてオレフィン材に対して悪影響の少ないポリオキシアルキレングリコールエーテルを含むものを使用することを特徴とする。好ましいポリオキシアルキレングリコールエーテルは以下の式Iで表されるものである。
式I R1O−(CH2CHR2O)n−R3
式中、R1及びR3は、独立に、水素原子、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イゾブチル基、ペンチル基、ヘキシル基)を表し、R2は炭素原子数1〜10、好ましくは1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)を表し、nは5〜30、好ましくは8〜20の数を表す。但し、R1及びR3が同時に水素原子を表すことはない。
【0008】
式Iのポリオキシアルキレングリコールエーテルのポリオキシアルキレン基の具体例としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリ(オキシプロピレンオキシエチレン)、ポリ(オキシブチレンオキシエチレン)、ポリ(オキシブチレンオキシプロピレン)、ポリ(オキシペンチレンオキシエチレン)、ポリ(オキシペンチレンオキシプロピレン)、等が挙げられる。
式Iで表されるポリオキシアルキレングリコールエーテルはモノエーテルでもジエーテルでもよく、その具体例としては、ポリオキシプロピレンモノプロピルエーテル、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル、ポリオキシブチレンモノブチルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンモノプロピルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンモノブチルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンモノペンチルエーテル、ポリオキシプロピレンジメチルエーテル等が挙げられる。好ましいものは、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル、ポリオキシプロピレンジメチルエーテルであり、特に好ましいものはポリオキシプロピレンジメチルエーテルである。
本発明で使用する基油は、基油全体に対してポリオキシアルキレングリコールエーテルを好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%含有することが好ましい。本発明で使用する基油は、ポリオキシアルキレングリコールエーテルの他に、グリース組成物に普通に使用される他の基油、例えば、鉱物油、合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテル油等を含有することができるが、その量は基油全体に対して10質量%未満が好ましい。
ポリオキシアルキレングリコールエーテルの40℃における動粘度は、好ましくは30〜400mm2/sであり、さらに好ましくは80〜120mm2/sである。
【0009】
本発明のハーネス用グリース組成物の増ちょう剤としては従来既知の増ちょう剤例えば、脂肪酸金属塩、有機化ベントナイト、PTFE等が挙げられ、特に脂肪酸金属塩、有機化ベントナイトが好ましい。
脂肪酸金属塩の構成脂肪酸としては、炭素原子数10〜30、好ましくは16〜20の脂肪酸が挙げられ、好ましい具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。また金属塩としては、Na,Liなどのアルカリ金属塩、Ba,Caなどのアルカリ土類金属塩あるいはAlなどの3価の金属塩が挙げられる。また二塩基酸を含む2種以上の脂肪酸とAl,Ca,Liなどの金属塩、すなわちコンプレックス石けんの使用も可能である。このうち、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムは、その耐水性、耐熱性および機械安定性に優れていることから最も好ましい。
増ちょう剤の量は、基油100質量部に対して、好ましくは2〜35質量部、さらに好ましくは5〜15質量部である。2質量部未満では得られたグリースが流動状で軟らかくなりすぎる傾向があり、35質量部を超えると硬くなりすぎる傾向がある。
【0010】
本発明のハーネス用グリース組成物に使用されるキノリン系化合物の好ましい例としては、トリメチルジヒドロキノリンオリゴマーに代表される以下の式IIで表される化合物が挙げられる。
【0011】
式II
【化1】

【0012】
式中、R4、R5、R6は同一でも異なっていても良く、好ましくは炭素原子数1〜10、さらに好ましくは1〜3のアルキル基であり、nは好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5の数である。
特に好ましいキノリン化合物としては、トリメチルジヒドロキノリンオリゴマー(n=2〜3)が挙げられる。
キノリン系化合物の含有量は、グリース組成物全体に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%、最も好ましくは1.0〜3質量%である。
本発明のグリース組成物には、他の酸化防止剤、例えば、2,6−ジ−t−ブチルクレゾールに代表されるフェノール系化合物、フェニル−α−ナフチルアミンに代表されるアミン系化合物を併用してもよいが、その使用量は、グリース組成物全体に対して、5.0質量%以下であることが望ましい。
【0013】
本発明のハーネス用グリース組成物の腐食防止剤として、ベンゾトリアゾール系化合物を含有する。ベンゾトリアゾール系化合物として好ましいものは以下の式IIIで表される化合物である。
式III
【化2】

【0014】
式中、R7は、水素原子、炭素原子数1〜10、好ましくは1〜3のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、であり、R8及びR9は独立に、水素原子、炭素原子数1〜20、好ましくは1〜10のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、等が挙げられる。特に好ましくはR7がメチル基、R8及びR9が2−エチルヘキシル基のベンゾトリアゾール系化合物である。
本発明のグリース組成物中のベンゾトリアゾール系化合物の含有量は、グリース組成物全体に対して、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.3〜5質量%、最も好ましくは0.5〜3質量%である。
本発明のグリース組成物には、ベンゾトリアゾール系化合物以外の腐食防止剤として、アルケニルコハク酸無水物に代表されるコハク酸系化合物やアルキルナフタレンスルホン酸に代表されるスルホン酸系化合物を併用してもよいが、その使用量は、グリース組成物全体に対して、5.0質量%以下であることが望ましい。
【0015】
実施例1〜6、比較例1〜6
下記の増ちょう剤、基油、添加剤を含有するグリース組成物を調製し、その特性を下記の方法により評価した。
(試験グリース)
増ちょう剤
リチウム石けん(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム)
有機化ベントナイト
基油
ポリオキシプロピレンジメチルエーテル(n=20):動粘度(40℃)95mm2/s
ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル(n=10):動粘度(40℃)105mm2/s
ジオクチルセバケート:動粘度(40℃)12mm2/s
添加剤
キノリン系化合物(トリメチルジヒドロキノリンオリゴマー)
ベンゾトリアゾール系化合物(1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]−4−メチルベンゾトリアゾールと1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]−5−メチルベンゾトリアゾールの混合物)
フェノール系化合物(オクダテシル3−(3,5ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
コハク酸系化合物(アルケニルコハク酸無水物)
【0016】
1.高温高湿薄膜試験(耐腐食性)
銅板、黄銅板およびスズメッキ板の下半分に厚さ2mmのグリースを塗布し、60℃,80%RH×168時間静置後、試験材の外観変色の有無を確認する。
○:腐食なし
×:腐食あり
2.酸化安定度試験(酸化安定性)
測定方法:JIS K 2220.12.に従って測定した。
○:50kPa未満
×:50kPa以上
3.オレフィン浸漬試験(材料適合性)
ポリプロピレンエラストマー(寸法50mm×5mm×1mm)を試料グリース(100g)中に80℃で96時間浸漬し、各オレフィン材について体積変化率を下記式により求めた。
体積変化率(%)=100×(A−B)/A
A:浸漬試験前のエラストマー体積
B:浸漬試験後のエラストマー体積
○:±10%未満の体積変化率
×:±10%以上の体積変化率
結果を表1及び表2に示す。
【0017】
【表1】






















【0018】
【表2】

【0019】
基油としてポリオキシアルキレングリコールエーテルを使用し、添加剤としてキノリン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物を含む本発明の実施例1〜6のグリース組成物は、高温高湿薄膜試験、酸化安定度試験及びオレフィン浸漬試験において優れた結果を示し、耐腐食性、酸化安定性、材料適合性に優れていることがわかる。
これに対してベンゾトリアゾール系化合物を含まない比較例1及び4のグリース組成物は、耐腐食性が劣り、キノリン系化合物を含まない比較例2及び3のグリース組成物は耐腐食性及び酸化安定性が劣り、基油としてジオクチルセバケートを使用し、ベンゾトリアゾール系化合物の代わりにコハク酸系化合物を使用した比較例5のグリース組成物は、耐腐食性及びオレフィン材料に対する適合性が劣る。またキノリン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物を含まない比較例6(市販グリース)は耐腐食性及び酸化安定性が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増ちょう剤、基油及び添加剤を含むハーネス用グリース組成物において、基油がポリオキシアルキレングリコールエーテルを含み、添加剤がキノリン系化合物及びベンゾトリアゾール系化合物を含むハーネス用グリース組成物。
【請求項2】
増ちょう剤がリチウム石けん及び有機化ベントナイトからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のハーネス用グリース組成物。
【請求項3】
ポリオキシアルキレングリコールエーテルの40℃における動粘度が30〜400mm2/sである請求項1又は2記載のハーネス用グリース組成物。
【請求項4】
キノリン系化合物の含有量が、全グリース組成物の質量に対して、0.1〜10質量%であり、ベンゾトリアゾール系化合物の含有量が、全グリース組成物の質量に対して、0.1〜10質量%である請求項1〜3のいずれか1項記載のハーネス用グリース組成物。

【公開番号】特開2006−249376(P2006−249376A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71455(P2005−71455)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】