説明

バイアルとこれに用いる密封装置

【課題】シール部材を半打栓姿勢から密封姿勢へ簡単に切換えできるうえ、密封後はこの密封姿勢を確実に保持でき、しかも簡単な構成で安価に実施できるようにする。
【解決手段】バイアル2は、有底筒状の胴部とその上方に延設した首部6を備える。首部6の上端部外周面に径方向外側へ膨出した鍔部9を形成する。密封装置1はシール部材11と保持部材12とを有する。シール部材11は円板状の本体部14を備え、本体部14の周縁部に首部6の上端面へ密着する密着部16を形成する。保持部材12は押圧部19と筒状部20とを備える。筒状部20の下部はその弾性復元力に抗して拡径可能であり、内方へ突出した係止部24を備える。係止部24の上面に形成した係止面27は、筒状部20の中心軸25と直交する平面を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品等を収容するバイアルとこれに用いる密封装置に関し、さらに詳しくは、シール部材を、バイアルの収容部内と外部空間とが連通した半打栓姿勢から、その連通を遮断する密封姿勢へ簡単に切換えできるうえ、密封後はこの密封姿勢を確実に保持でき、しかも簡単な構成で安価に実施できる、バイアルとこれに用いる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に医薬品等を収容するバイアルは、有底筒状の胴部とその胴部から上方へ延設した首部とを備えており、この首部の上端に開口部が形成してある。この開口部の周囲には、首部の外周面よりも径方向外側へ膨出した鍔部が形成してある。上記の開口部は、ゴム栓などのシール部材を用いた密封装置で密封される。即ちこのシール部材は、上記の鍔部の上端面へ圧接させた状態に装着することで密封される。そしてこのシール部材の周縁部と鍔部の周縁部とに亘って、アルミニウム材料など金属製の保持部材を巻き締めることで、シール部材の密封姿勢が保持される。上記の保持部材には、注射器の針をシール部材の上面へ刺通できるように窓部が上面の中央に透設してあり、この窓部を覆う状態に、フリップオフキャップ等の保護蓋が保持部材の上方に装着してある。
【0003】
上記のバイアルに薬剤を収容してその薬剤を凍結乾燥する場合、上記のシール部材は、上記の胴部に形成された収容部内が外部空間に連通した、いわゆる半打栓状態で上記の開口部へ装着され、この半打栓姿勢の状態でバイアルが凍結乾燥装置内へ収容される。そして所定の温度と真空度の条件下で上記の薬剤が凍結乾燥されたのち、凍結乾燥装置内で上記の半打栓姿勢のシール部材が、開口部の周囲に圧着された密封姿勢に切換えられ、バイアルの収容部内が外部空間から完全に遮断されたのち、凍結乾燥装置から取り出される。その後、この密封姿勢のシール部材の周縁部と鍔部の周縁部とに亘って上記の保持部材が巻き締めされる。
【0004】
上記のバイアルは、上記の保持部材を巻き締めるための巻き締め機が必要であり、安価に実施できないうえ、保持部材が金属製であるため巻き締め時に金属微粒子を発生する虞がある。さらに、凍結乾燥装置からバイアルを取り出したのち巻き締めするまでの間に、万一シール部材が緩むと大気がバイアル内へ侵入する虞がある。そしてこの大気の侵入による悪影響を確実に防止するには、巻き締め処理を無菌条件下で実施しなければならず、設備が大掛かりとなって安価に実施できない問題がある。
【0005】
これらの問題を解消し、凍結乾燥装置内で上記のシール部材の密封姿勢を保持できるようにするため、シール部材の外側にロック機構付き冠状蓋を配置し、この冠状蓋を、係止部を備えた内側キャップと、その外側に係合する外側キャップで構成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照、以下、従来技術という。)。
【0006】
即ちこの従来技術の密封装置は、円板状の閉鎖端の周縁から円筒状のスカートを垂下して、このスカートの下端内面に環状の係止部を突設した内側キャップと、この内側キャップ内で上記の閉鎖端の下側に保持された円板状のシール部材と、筒状部の下部内面に上記の内側キャップの外周面と係合するロック手段を備えた外側キャップとを有する。上記の内側キャップは、スカートの下端縁から軸方向に延びるとともに円周方向に隔置さた複数のスリットを備えており、上記の係止部が遠心方向に応力を受けるとスカートの下端部が拡径するようにしてある。一方、上記の外側キャップは内側キャップの外周面に沿って軸方向へ移動可能であり、上記のロック手段は内側キャップの外周面の上端部と下端縁とに係合して、外側キャップを内側キャップの上方位置と周側位置とでそれぞれ位置決めできるようにしてある。
【0007】
上記の従来技術では、上記の密封装置をバイアルの開口部へ半打栓の状態に装着する場合、上記の内側キャップは係止部がバイアルの鍔部の上面に係止され、上記のシール部材は開口部から離隔した位置に保持される。また上記のロック手段はこの内側キャップの外周面の上端部に係合しており、従って上記の外側キャップは内側キャップの上方位置に位置決めされている。この半打栓状態でバイアルを凍結乾燥装置内に収容して凍結乾燥を行い、その凍結乾燥が終了すると、凍結乾燥装置内で密封装置をバイアル側へ押圧する。これにより上記の内側キャップが下降し、上記のスカートが拡径して上記の係止部が鍔部の外周縁を乗り越え、この係止部が鍔部の下面に係止すると、上記のシール部材が開口部の周縁に確りと押圧された密封姿勢に切り換わる。
【0008】
ここで、従来のバイアルは上記の鍔部の下面が、水平面に対し、即ち内側キャップの軸方向と直行する面に対し、外側ほど上方へ偏移したテーパ面に形成されており、その傾斜角度は約30度に設定されている。このため、上記の内側キャップにバイアルから離隔させる上向きの応力が加わると、鍔部の下面を介して上記の係止部に拡径方向の分力が加わり、上記のスカートの下端部が拡径されて上記の係止部が鍔部を乗り越えてしまい、内側キャップが上方へ移動してシール部材による密封姿勢が保持できなくなる虞がある。
【0009】
この問題を解消するため、上記の従来技術では内側キャップが下降して上記の係止部が鍔部の下面に係止されたのち、前記の外側キャップをバイアル側へさらに押し込む。これにより上記のロック手段による係合が解除され、外側キャップが内側キャップの外周面に沿って下降し、上記のロック手段が内側キャップの下端縁に係合して、外側キャップが内側キャップの周側位置に位置決めされる。この結果、上記のスカートは外側キャップで周囲から拘束されるので、内側キャップに上向きの応力が加わって、鍔部の下面を介して上記の係止部に拡径方向の分力が加わっても、上記のスカートの下端部は拡径されることがなく、上記の係止部が鍔部の下面から外れることがない。これにより、上記のシール部材による密封姿勢が確実に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表平08−500563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の従来技術では、冠状蓋を内側キャップと外側キャップで構成しており、構造が複雑で部品点数が多く高価につく問題がある。しかも、上記のロック手段は内側キャップの係止部が鍔部を乗り越える前に内側キャップの外周面の上部から外れると、外側キャップが下方へスライドして内側キャップを周囲から拘束することとなり、上記のスカートは拡径できず、上記の係止部が鍔部を乗り越えできなくなる問題がある。このため、上記のロック手段は内側キャップ外周面の上部へ十分な強度で係合させる必要があり、その係合強度の設定が容易でないうえ、内側キャップを移動させてシール部材を密封姿勢へ切換えたのち外側キャップを移動させるためさらに高い押圧力でロック手段の係合を解除しなければならず、密封操作が容易でない問題もある。
【0012】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、シール部材を、バイアルの収容部内と外部空間とが連通した半打栓姿勢から、その連通を遮断する密封姿勢へバイアルの収容部内と外部空間とが連通した密封姿勢へ簡単に切換えできるうえ、密封後はこの密封姿勢を確実に保持でき、しかも簡単な構成で安価に実施できる、バイアルとこれに用いる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば、本発明の実施の形態を示す図1から図13に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち、本発明1はバイアルに関し、有底筒状の胴部(3)とその胴部(3)から上方へ延設した首部(6)とを備え、上記の胴部(3)内に収容部(4)が形成してあり、上記の首部(6)の上端に開口部(8)を形成して、この開口部(8)を介して上記の収容部(4)内を外部空間に連通してあり、上記の首部(6)の上端部外周面に径方向外側へ膨出した鍔部(9)が形成してあるバイアルであって、上記の鍔部(9)の下面に、首部(6)の中心軸(10)と直交する平面を備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明2はバイアルに関し、有底筒状の胴部(3)とその胴部(3)から上方へ延設した首部(6)とを備え、上記の胴部(3)内に収容部(4)が形成してあり、上記の首部(6)の上端に開口部(8)を形成して、この開口部(8)を介して上記の収容部(4)内を外部空間に連通してあり、上記の首部(6)の上端部外周面に径方向外側へ膨出した鍔部(9)が形成してあるバイアルであって、上記の鍔部(9)の下面に外側ほど上方へ偏移したテーパ面を備え、このテーパ面は、内周縁から軸直交方向外側へ延びる平面との間の傾斜角度(α)が15度以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明3はバイアル用密封装置に関し、上記の本発明1または本発明2のバイアルに装着される密封装置であって、上記の開口部(8)を密閉するシール部材(11)と、このシール部材(11)を保持する保持部材(12)とを有し、上記のシール部材(11)は円板状の本体部(14)を備え、この本体部(14)の周縁部には、上記の開口部(8)の周囲の全周に亘って首部(6)の上端面へ密着する密着部(16)が形成してあり、上記の保持部材(12)は、円板状の押圧部(19)とその外周縁から垂下した筒状部(20)とを備え、この押圧部(19)の下方に上記の本体部(14)が保持してあり、上記の筒状部(20)には、下端部に内方へ突出した係止部(24)が周方向に沿って形成してあり、上記の係止部(24)には、下側ほど拡径した案内面(26)が筒状部(20)の中心軸(25)を臨む側に形成してあり、この案内面(26)の下端部内径は、上記の鍔部(9)の外径よりも大径であるが、上端部内径は鍔部(9)の外径よりも小径に形成され、上記の筒状部(20)の下部は、その弾性復元力に抗して上記の案内面(26)の上端部内径を鍔部(9)の外径以上に拡径可能であり、上記の係止部(24)の上面に形成した係止面(27)が、筒状部(20)の中心軸(25)と直交する平面を備えており、この係止面(27)と上記の押圧部(19)の下面との間は、上記のシール部材(11)の本体部(14)と上記の鍔部(9)とを挟持してその本体部(14)を首部(6)の上面へ圧着できる寸法に設定してあることを特徴とする。
【0016】
本発明4はバイアル用密封装置に関し、上記の本発明1または本発明2のバイアルに装着される密封装置であって、上記の開口部(8)を密閉するシール部材(11)と、このシール部材(11)を保持する保持部材(12)とを有し、上記のシール部材(11)は円板状の本体部(14)を備え、この本体部(14)の周縁部には、上記の開口部(8)の周囲の全周に亘って首部(6)の上端面へ密着する密着部(16)が形成してあり、上記の保持部材(12)は、円板状の押圧部(19)とその外周縁から垂下した筒状部(20)とを備え、この押圧部(19)の下方に上記の本体部(14)が保持してあり、上記の筒状部(20)には、下端部に内方へ突出した係止部(24)が周方向に沿って形成してあり、上記の係止部(24)には、下側ほど拡径した案内面(26)が筒状部(20)の中心軸(25)を臨む側に形成してあり、この案内面(26)の下端部内径は、上記の鍔部(9)の外径よりも大径であるが、上端部内径は鍔部(9)の外径よりも小径に形成され、上記の筒状部(20)の下部は、その弾性復元力に抗して上記の案内面(26)の上端部内径を鍔部(9)の外径以上に拡径可能であり、上記の係止部(24)の上面に形成した係止面(27)が、内側ほど下方へ偏移したテーパ面を備えており、このテーパ面の外端縁から軸直交方向内側へ延びる平面との間の傾斜角度(β)が15度以下であり、この係止面(27)と上記の押圧部(19)の下面との間は、上記のシール部材(11)の本体部(14)と上記の鍔部(9)とを挟持してその本体部(14)を首部(6)の上面へ圧着できる寸法に設定してあることを特徴とする。
【0017】
本発明5は密封装置付きバイアルに関し、上記の本発明1又は本発明2のバイアルに、上記の本発明3又は本発明4の密封装置が装着してあることを特徴とする。
【0018】
上記の密封装置の保持部材をバイアルの首部へ上方から載置すると、上記の係止部の案内面の内径は、鍔部の外径に比べて下端部が大径であるが上端部が小径であるので、その案内面が鍔部の外周縁に受け止められ、上記の保持部材は仮止姿勢となる。ここで、上記の案内面の内径とは、その高さ位置で最も内方にある点を通る軌跡が形成する円の直径をいう。上記の仮止姿勢では、上記のシール部材は、本体部の下端面が首部の上端面から鍔部の肉厚より大きい寸法で離隔した半打栓姿勢に保持されており、この本体部と首部の上端面との間を介して、上記の収容部内が外部空間と連通している。
【0019】
バイアルはこの状態で凍結乾燥装置内に収容され、凍結乾燥処理が施される。この凍結乾燥処理が終了すると、その凍結乾燥装置内で上記の密封装置が下方へ押し込まれる。これにより、上記の案内面が鍔部の外周面で外側へ押圧され、上記の筒状部の下部がその弾性復元力に抗して拡径し、上記の係止部が上記の鍔部を乗り越える。係止部が鍔部を乗り越えると、鍔部による案内面に対する外側への押圧力が消失するので、筒状部の下部はその弾性復元力により縮径し、係止部が鍔部の下面に係止されて、保持部材が拘束姿勢となる。上記の係止部の係止面と上記の押圧部の下面との間は、所定の寸法に設定してあるので、上記の保持部材がこの拘束姿勢に切り換わると、上記のシール部材は本体部が上記の首部の上面へ確りと圧着された密封姿勢となり、上記の収容部内と外部空間との連通が遮断される。
【0020】
このとき、上記の鍔部の下面と上記の係止部材の係止面とは、いずれも軸直交面、即ち水平面であるか、若しくは水平面に対する傾斜角度が15度以下であるので、上記の拘束姿勢に切り換わった保持部材に上方への応力が加わった場合、上記の係止部には、上記の鍔部の下面と係止面とを介して外側への押圧力が加わることがなく、仮に加わったとしても僅かな応力に過ぎない。この結果、上記の係止部が筒状部の弾性復元力により鍔部の下方に維持されるので、上記の保持部材が拘束姿勢に保持され、上記のシール部材が密封姿勢に保持される。そしてこのシール部材の密封姿勢が保持された状態で、バイアルが上記の乾燥装置内から取り出され、次工程へ搬送される。
【0021】
上記の鍔部の下面と係止面は、ともに水平面であると、保持部材に上方への応力が加わっても係止部には拡径方向への分力が加わらないので、この保持部材を確実に拘束姿勢に保持することができて好ましい。しかし上記の鍔部の下面や係止面は、いずれか一方または両方が、水平面に対し15度以下の傾斜角度を備えたテーパ面であってもよい。この場合、その傾斜角度は、小さいほど係止部に加わる拡径方向への分力が小さくなるので、10度以下であるとより好ましく、7度以下であると一層好ましい。
【0022】
上記のバイアルは、上記の首部と胴部とが滑らかな外周面を有する肩部を介して互いに接続されていてもよい。但し、この胴部と首部とが下方に向かって大径となる肩部を介して互いに接続してあり、この肩部の外周面に環状の突条部が形成してあると、下方の胴部を射出ブロー成形する際にプリフォームの肉厚をこの突条部を含む寸法に形成でき、胴部の肉厚を容易に調整できて好ましい。
【0023】
上記のバイアル用密封装置において、上記の係止部は、上記の筒状部の下端部の全周に亘って形成されている必要はなく、周方向に適当な間隔をあけて設けてあってもよい。しかしこの係止部を、周方向の略全周または大部分に亘って設けてあると、この係止部により上記の保持部材をこの係止部で確りと保持できて好ましい。
【0024】
上記のシール部材は、上記の本体部のみから形成されていてもよいが、この本体部の下面に筒状の脚部を備えて、この脚部が上記のバイアルの開口部から上記の首部内へ挿入可能であり、上記の収容部内と外部空間とを連通する通気路をこの脚部に形成してあると、上記の半打栓姿勢においてこの脚部をバイアルの開口部から首部内へ挿入することで、このシール部材を介して上記の保持部材を仮止姿勢に安定良く支持することができ、好ましい。このとき、上記の開口部は上記の脚部で蓋されるが、この脚部には通気路が形成されているので、この通気路を介して収容部内が外部空間に連通される。この通気路は、脚部の筒壁を貫通させて形成してもよく、或いは外周面に凹溝状に形成してもよい。
【0025】
上記の脚部は、上記の首部内へ挿入可能であればよく、特定の形状や寸法のものに限定されないが、外周面に上記の首部の内径よりも僅かに大径の環状突部を備えると、半打栓時にシール部材を、脚部の軸方向と首部の軸方向とが一致した適正な姿勢に、安定良く容易に保持できて好ましい。
【0026】
上記の筒状部の下部が、その弾性復元力に抗して拡径可能であるとは、特定の材質や構造のものに限定されない。例えばこの筒状部に、下端縁から上下方向中間位置まで軸方向に沿って延びる複数のスリットを形成し、そのスリットで挟まれた部位の弾性復元力に抗して上記の案内面の上端部内径を鍔部の外径以上に拡径可能に構成することができる。或いは、筒状部の少なくとも下部に、上下方向の凹部などからなる襞部を形成し、この襞部が周方向へ伸長することで、上記の案内面の上端部内径を鍔部の外径以上に拡径可能に構成してもよい。
【0027】
上記の保持部材が、仮止姿勢において上記のシール部材を半打栓姿勢に保持した際、上記の収容部内は、首部の上端面とシール部材の本体部との間と、上記のスリットや筒状部内面と鍔部との間とを順に介して外部空間に連通する。しかしこの筒状部に、上記の収容部内と外部空間とを連通する連通路が透設してあると、上記の収容部内は、首部の上端面とシール部材の本体部との間と、上記の連通路とを順に介して外部空間に連通するので、凍結乾燥の際に収容部内から気体の排出を容易に行うことができて好ましい。
【0028】
上記の保持部材の押圧部には、注射器の針をシール部材の上面へ刺通できるように、通常、中央にシール部材の本体部を露出する窓部が形成してある。そこで、上記の保持部材の上部に保護蓋を配置して、この保護蓋で離脱可能に上記の窓部を蓋してあると、上記の露出した本体部を不用意な損傷や汚損などから保護できて好ましい。なおこの保護蓋を配置する保持部材の上部とは、上記のスリットの上端よりも上方など、保持部材を拘束姿勢へ切換える際に筒状部の下部の拡径が阻害されない範囲をいう。また上記の保護蓋は、保持部材と破断容易な接続部を介して連結しておくなど、再装着不能に構成しておくと、開封されたことが明確となるのでさらに好ましい。
【0029】
上記の保護蓋は、特定の形状や構造のものに限定されないが、この保護蓋の下面に、上記の窓部へ挿入される環状の封止部を形成して、この封止部の下端周縁部を上記の本体部の上面へ保密状に当接しておくと、この封止部で囲まれたシール部材の本体部の上面を、滅菌状態など清浄な状態に保持できて、さらに好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
【0031】
(1)仮止姿勢の保持部材は、筒状部に形成した係止部を、鍔部の外周面を乗り越えさせてその下面に係合させるだけで、拘束姿勢に切り換えることができ、しかも過剰な押圧力を必要としないので、シール部材を半打栓姿勢から密封姿勢へ簡単に切換えることができる。
(2)しかも鍔部の下面や係止部の係止面は、水平面若しくは水平面に対する傾斜角度が15度以下であるので、一旦鍔部の下面に係止した係止部は鍔部の下面から外れることがなく、密封後はこの密封姿勢を確実に保持することができる。
(3)バイアルは鍔部の下面を所定の簡単な形状に形成するだけでよく、一方、密封装置はシール部材とこれを保持する保持部材とを有するだけでよい。この結果、前記の従来技術と異なって、保持部材の外側に必要とされた外側キャップを省略でき、簡単な構成で安価に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態を示す、密封装置付きバイアルの斜視図である。
【図2】第1実施形態のバイアルを示し、図2(a)はバイアルの縦断面図、図2(b)は図2(a)のA部の拡大断面図である。
【図3】第1実施形態のバイアル用密封装置の平面図である。
【図4】第1実施形態のバイアル用密封装置を示し、図4(a)は図3のB−B線矢視断面図、図4(b)は図4(a)のC部の拡大断面図である。
【図5】第1実施形態の、半打栓状態のバイアル用密封装置の縦断面図である。
【図6】第1実施形態の、密封状態のバイアル用密封装置の縦断面図である。
【図7】第1実施形態の変形例を示す、シール部材の蛙瞰図である。
【図8】本発明の第2実施形態を示し、図8(a)は図2(b)相当図、図8(b)は図4(b)相当図である。
【図9】本発明の第2実施形態を示す、密封装置付きバイアルの斜視図である。
【図10】第2実施形態の、保持部材の縦断面図である。
【図11】第2実施形態の、密封装置付きバイアルの平面図である。
【図12】第2実施形態の、半打栓状態での図11のD−D線矢視断面図である。
【図13】第2実施形態の、密封状態での図11のD−D線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1から図6は本発明の第1実施形態を示し、図1は密封装置(1)が装着されたバイアル(2)の斜視図である。図2(a)に示すように、上記のバイアル(2)は、有底筒状の胴部(3)を備え、その胴部(3)内に収容部(4)が形成してある。医薬品等の収容物はこの収容部(4)内に収容される。上記の胴部(3)の上方には、上方に向かって小径となる肩部(5)を介して首部(6)が延設してある。上記の肩部(5)の外周面には、環状の突条部(7)が形成してある。
【0034】
上記の首部(6)の上端には開口部(8)が形成してあり、この開口部(8)を介して上記の収容部(4)内が外部空間に連通している。また上記の首部(6)の上端部の外周面には、径方向外側へ膨出した鍔部(9)が形成してある。図2(a)と図2(b)に示すように、この鍔部(9)の下面は、大部分が首部(6)の中心軸(10)と直交する平面に形成してある。
【0035】
一方、上記の密封装置(1)は、図3と図4に示すように、上記の開口部(8)を密閉するシール部材(11)と、このシール部材(11)を保持する保持部材(12)と、その保持部材(12)の上面に装着した保護蓋(13)とを有する。
【0036】
図4(a)に示すように、上記のシール部材(11)は円板状の本体部(14)とその本体部(14)の下面に垂下した筒状の脚部(15)とを備える。上記の本体部(14)の周縁部には、全周に亘って密着部(16)が形成してある。上記の脚部(15)は上記のバイアル(2)の開口部(8)から上記の首部(6)内へ挿入可能であり、この脚部(15)に、上記の収容部(4)内と外部空間とを連通する通気路(17)が、下端から上下方向中間位置までに亘って切欠くことで、筒壁を貫通する状態に形成してある。またこの脚部(15)には、外周面の下寄り位置と上寄り位置とに、上記の首部(6)の内径よりも僅かに大径の環状突部(18)が形成してある。
【0037】
上記の保持部材(12)は、円板状の押圧部(19)と、その外周縁から垂下した円筒状の筒状部(20)とを備え、この筒状部(20)の内周面の上寄り位置に環状の支持突起(21)が形成してある。上記のシール部材(11)の本体部(14)は、この支持突起(21)により上記の押圧部(19)の下側に支持されている。
【0038】
上記の筒状部(20)には、下端縁から上下方向中間位置までに亘って、軸方向に沿って延びる複数のスリット(22)が形成してあり、各スリット(22)の上端位置に、この筒状部(20)の肉壁を貫通する状態に略円形断面の連通路(23)が透設してある。この筒状部(20)の下端部には、内方へ突出した係止部(24)が周方向に沿って形成してある。この係止部(24)の内面側、即ち筒状部(20)の中心軸(25)を臨む側には、下側ほど拡径した案内面(26)が形成してある。この案内面(26)の下端部内径は、前記のバイアル(2)の鍔部(9)の外径よりも大径であるが、上端部内径はその鍔部(9)の外径よりも小径に形成されている。ここで、上記の案内面(26)の内径とは、その高さ位置で最も内方にある点を通る軌跡が形成する円の直径をいう。
【0039】
上記の筒状部(20)は特定の材質に限定されないが、所定の弾性復元力を有する弾性変形可能な合成樹脂材料等で形成されており、上記のスリット(22)で挟まれた部位は、その弾性復元力に抗して上記の案内面(26)の上端部内径を上記の鍔部(9)の外径以上に拡径することができる。図4(a)と図4(b)に示すように、上記の係止部(24)の上面には、筒状部(20)の中心軸(25)と直交する平面からなる係止面(27)が形成してある。この係止面(27)と上記の押圧部(19)の下面との間は、上記のシール部材(11)の本体部(14)と上記の鍔部(9)とを挟持してその本体部(14)を首部(6)の上面へ圧着できる寸法に設定してある。
【0040】
上記の押圧部(19)の中央には、上記の本体部(14)の上面を上方に露出する窓部(28)が透設してある。また前記の保護蓋(13)は上記の押圧部(19)の上面に装着してあり、この保護蓋(13)で上記の窓部(28)が蓋してある。この保護蓋(13)の下面には、上記の窓部(28)へ挿入される環状の封止部(29)が形成してあり、この封止部(29)の下端周縁部は上記の本体部(14)の上面へ保密状に当接してある。この封止部(29)と本体部(14)の上面とで囲まれた空間内は、滅菌状態に維持されている。またこの保護蓋(13)の周縁は、上記の保持部材(12)の外周縁よりも僅かに外方へ突出させてあり、バイアル(2)内の収容物を取り出す際に、この突出端(30)に指先などを掛けることで、この保護蓋(13)を容易に取り外せるようにしてある。但しこの保護蓋(13)は、一旦取り外すと再び装着することはできないようにしてある。なお、この実施形態ではこの保護蓋(13)を押圧部(19)の上面に装着したが、本発明ではこの保護蓋(13)は、上記のスリット(22)で挟まれた部位を拡径できるように、上記のスリット(22)の上端よりも上方位置に装着してあればよい。
【0041】
次に、上記の密封装置の使用方法について説明する。
上記の密封装置(1)は、上記のバイアル(2)内に所定の収容物を収容したのち、そのバイアル(2)の首部(6)へ載置される。このとき、上記の案内面(26)は、下端部内径がバイアル(2)の鍔部(9)の外径よりも大径であるが、上端部内径がその鍔部(9)の外径よりも小径であるので、図5に示すように、保持部材(12)は、この案内面(26)が鍔部(9)の外周縁の上端部に受け止められた仮止め姿勢(T)となる。
【0042】
上記の仮止め姿勢(T)の保持部材(12)に支持された上記のシール部材(11)は、脚部(15)の下端部がバイアル(2)の開口部(8)から首部(6)内へ僅かに挿入される。この脚部(15)は、外周面の下寄り位置に形成された環状突部(18)により、開口部(8)や首部(6)の内面に支持されるので、この脚部(15)の中心軸が首部(6)の中心軸(10)と略一致した状態に安定良く支持され、本体部(14)の下端面が首部(6)の上端面から、鍔部(9)の肉厚より大きい寸法で離隔した半打栓姿勢(Y)に保持される。
【0043】
この半打栓姿勢(Y)では、上記の脚部(15)に形成された通気路(17)と、本体部(14)の下端面と首部(6)の上端面との間の間隙と、筒状部(20)に形成された連通路(23)とを順に介して、上記の収容部(4)内が外部空間と連通している。この状態で、バイアル(2)とこれに装着された密封装置(1)とが図示しない凍結乾燥装置内へ収容され、凍結されたのち、所定の真空度と温度下で凍結乾燥される。このとき昇華により生じた気体は、上記の収容部(4)内から上記の通気路(17)と上記の隙間と上記の連通路(23)とを順に介して外部空間へ排出される。
【0044】
上記の凍結乾燥が終了すると、上記の密封装置(1)は上方から押圧されてバイアル(2)側へ移動する。このとき、上記の案内面(26)は上記の鍔部(9)で外側へ押圧され、筒状部(20)のうちの上記のスリット(22)で挟まれた部位が、その弾性復元力に抗して拡径する。これにより上記の保持部材(12)は、上記の係止部(24)が上記の鍔部(9)を乗り越え、図6に示すように、上記の係止面(27)がこの鍔部(9)の下面に係止された、拘束姿勢(R)となる。この状態では、上記の本体部(14)が保持部材(12)の押圧部(19)で下方に押圧されて、シール部材(11)は前記の密着部(16)が首部(6)の上端面に確りと密着した密封姿勢(X)に切換わり、上記の収容部(4)内は外部空間との連通が遮断される。なおこの密封姿勢(X)では、脚部(15)の周面の上寄り位置に形成した環状突部(18)が首部(6)内へ圧入されるので、この環状突部(18)によっても外部空間との連通が遮断され、収容部(4)内が一層良好に密封される。
【0045】
上記の拘束姿勢(R)に切り換わった保持部材(12)は、上記の係止面(27)と鍔部(9)の下面が、それぞれ首部(6)の中心軸(10)や筒状部(20)の中心軸(25)と直交する平面に、即ち水平面に形成してあるので、この保持部材(12)に上方への応力が加わっても、上記の係止部(24)やスリット(22)で挟まれた部位に拡径方向への分力が加わらない。この結果、この係止部(24)が鍔部(9)の下面から外れることがないので、上記のシール部材(11)の密封姿勢(X)が確実に保持される。バイアル(2)はこの状態で凍結乾燥装置から取り出されて、次工程へ搬送される。
【0046】
上記のバイアル(2)から収容物を取り出す場合、上記の保護蓋(13)が上記の突出端(30)に指先を掛けるなどして取り外される。これによりシール部材(11)の上面中央が前記の窓部(28)を介して露出するので、この露出した部位に注射器の針が刺通され、通常の手順により収容部(4)内の収容物が取り出される。
【0047】
上記の第1実施形態では、上記のシール部材(11)の脚部(15)に上記の通気路(17)を、切欠き状に筒壁を貫通させて形成した。しかし本発明ではこの通気路を脚部の他の部位に形成してもよい。
例えば図7に示す変形例では、脚部(15)の外周面の下端から上下方向中間位置までに亘り、上下に延びる溝状の通気路(17)を複数、周方向に所定の間隔をあけて形成してある。この場合は筒状の脚部(15)の周壁に切欠きが形成されないので、この脚部(15)をバイアルの首部内へ挿入した場合に、上記のシール部材(11)の本体部(14)を安定良く支持することができる利点がある。
【0048】
図8は本発明の第2実施形態を示しており、図8(a)はバイアル(2)の鍔部(9)を拡大した断面図であり、図8(b)はバイアル用密封装置(1)の保持部材(12)の、筒状部(20)の係止部(24)を拡大した断面図である。この第2実施形態では、上記の鍔部(9)の下面の大部分が、外側ほど上方に偏移したテーパ面に形成してあり、このテーパ面の内周縁から軸直交方向外側へ延びる平面(即ち、水平面)との間の傾斜角度(α)を、約5度に設定してある。また上記の係止部(24)の上面に形成した係止面(27)は、筒状部(20)の中心軸側ほど下方に偏移したテーパ面に形成してあり、このこのテーパ面の外端縁から軸直交方向内側へ延びる平面(即ち、水平面)との間の傾斜角度(β)を、約5度に設定してある。
【0049】
上記の保持部材(12)が拘束姿勢に切換わると、前記の第1実施形態と同様、上記の係止部(24)は鍔部(9)の下面に係止される。このとき、上記の鍔部(9)の下面と係止面(27)とは、それぞれ軸直交面に対し傾斜しているので、この拘束姿勢の保持部材(12)に上方への応力が加わると、鍔部(9)の下面と係止面(27)とを介して拡径方向への分力が加わる。しかし上記の傾斜角度(α・β)はそれぞれ約5度程度であるので、その分力は僅かな応力に過ぎず、上記の係止部(24)は筒状部(20)の弾性復元力により、鍔部(9)の下面へ係止した状態に維持される。この結果、上記の保持部材(12)が拘束姿勢に保持され、この保持部材(12)により図外のシール部材が密封姿勢に保持される。その他の構成は上記の第1実施形態と同様であり、同様に作用するので説明を省略する。
【0050】
上記の第1実施形態では、保持部材の筒状部のうち、スリットの上端位置に連通路を透設した。しかし本発明ではこれに代えて、上記のスリットを連通路に兼用してもよく、或いは、スリット間など他の部位に連通路を透設してもよい。
例えば、図9に示す本発明の第3実施形態では、バイアル(2)に装着した密封装置(1)の保持部材(12)には、筒状部(20)に複数のスリット(22)を設けるとともに、このスリット(22)間に断面が円形の連通路(23)を透設してある。
【0051】
図10に示すように、上記の保持部材(12)は、前記の第1実施形態と同様、円板状の押圧部(19)とその外周縁から垂下した筒状部(20)とを備え、この筒状部(20)に、下端縁から上下方向中間位置までに亘って、軸方向に延びる複数のスリット(22)が形成してある。しかしこの第3実施形態では、上記の第1実施形態とは異なり、これらのスリット(22)同士間の上寄り位置に上記の連通路(23)が透設してある。
【0052】
またこの第3実施形態では、筒状部(20)の内周面の上部に、複数のリブ(31)が突設してあり、シール部材(11)は圧入することでこのリブ(31)に支持される。筒状部(20)の内周面の下寄り位置には、前記の第1実施形態と同様、内方へ突出した係止部(24)が周方向に沿って形成してあり、この係止部(24)に案内面(26)と係止面(27)がそれぞれ形成してある。しかし筒状部(20)の内周面には、第1実施形態と異なり、この係止部(24)の下方に装着案内面(32)が形成してある。この装着案内面(32)の内径は、例えば図12に示すように、上記のバイアル(2)の鍔部(9)の外径よりも十分に広く形成されている。なお、上記の係止面(27)は、筒状部(20)の中心軸(25)と直交する平面からなるが、上記の第2実施形態と同様、軸直交面(水平面)に対し傾斜したテーパ面に形成してもよい。
【0053】
図10の仮想線に示すように、上記の保持部材(12)には、上記の押圧部(19)の上面に円板状の保護蓋(13)が装着してある。この押圧部(19)の中央には窓部(28)が透設してあり、この窓部(28)の周囲に環状の溝部(33)が形成してある。一方、上記の保護蓋(13)の下面には、環状の封止部(29)が上記の窓部(28)に対面させて突設してあり、この封止部(29)の周囲に複数の溶着用突起(34)が形成してある。この溶着用突起(34)を上記の溝部(33)へ、例えば超音波融着によりスポット状に溶着することで、上記の保護蓋(13)が保持部材(12)に固定され、上記のシール部材(11)の上面中央が上記の封止部(29)により滅菌状態に維持される。
【0054】
図10と図11に示すように、上記の保護蓋(13)の外径は、上記の保持部材(12)の外径と同等か僅かにこれよりも広く形成してある。一方、上記の押圧部(19)の外周縁は、上側ほど小径となるテーパ面に形成してあり、この押圧部(19)の外周縁と上記の保護蓋(13)の外周縁との間に環状の凹部(35)が形成してある。なお、上記の押圧部(19)の上面や保護蓋(13)の上面には、射出成型のゲートを逃がすための逃し部(36)が凹設されているが、本発明ではこれらの逃し部(36)を省略してもよい。
【0055】
図12に示すように、上記の密封装置(1)は、第1実施形態と同様、バイアル(2)の首部(6)へ載置される。このとき、上記の装着案内面(32)の内径が上記の首部(6)の上端周囲に形成された鍔部(9)の外径よりも広いので、この鍔部(9)を含む首部(6)は上記の筒状部(20)内へ容易に且つ確実に案内され、保持部材(12)は上記の案内面(26)が鍔部(9)の外周縁の上端部に受け止められた仮止め姿勢(T)となり、上記のシール部材(11)は、脚部(15)の下端部がバイアル(2)の開口部(8)から首部(6)内へ僅かに挿入された半打栓姿勢(Y)に保持される。この脚部(15)には通気路(17)が形成されており、この通気路(17)と、本体部(14)の下端面と首部(6)の上端面との間の間隙と、筒状部(20)に形成された連通路(23)とを順に介して、バイアル(2)の収容部(4)内が外部空間に連通している。
【0056】
なお、上記のシール部材(11)は、前記の第1実施形態と同様、脚部(15)の外周面に環状突部が形成してあると好ましい。またこのシール部材(11)としては、例えは前記の変形例で説明したものを使用してもよく、あるいは他の形状のものであってもよい。
【0057】
凍結乾燥装置内で凍結乾燥を終了したのち、上記の密封装置(1)をバイアル(2)側へ押し込むと、図13に示すように、上記の保持部材(12)が拘束姿勢(R)に切換わり、上記のシール部材(11)が密封姿勢(X)に切換わる。バイアル(2)はこの状態で凍結乾燥装置から取り出されて、次工程へ搬送される。
【0058】
上記の密封装置(1)で密封したバイアル(2)から収容物を取り出す場合は、上記の保護蓋(13)の外周縁の下方に形成された凹部(35)に指先を掛けるなどして、この保護蓋(13)を押し上げると、前記の溶着用突起(34)が破断して、この保護蓋(13)が保持部材(12)から取り外される。なお、この取り外された保護蓋(13)は溶着用突起(34)が破断しているので、再び保持部材(12)へ固定することはできない。この保護蓋(13)の離脱により、シール部材(11)の上面中央が前記の窓部(28)を介して露出するので、この露出した部位に注射器の針が刺通され、通常の手順により収容部(4)内の収容物が取り出される。その他の構成は上記の第1実施形態と同様であり、同様に作用するので説明を省略する。
【0059】
上記の各実施形態で説明したバイアルやこれに用いる密封装置は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、各部材の形状や寸法、配置、材質などをこの実施形態のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0060】
例えば、上記の第1実施形態や第3実施形態では、係止面と鍔部の下面とをいずれも中心軸と直交する平面(水平面)に形成してあり、第2実施形態では軸直交面に対し略等しい角度で傾斜したテーパ面に形成した。しかし本発明では、係止面と鍔部の下面とを互いに傾斜角度の異なるテーパ面に形成してもよく、或いは一方を水平面に形成するとともに、他方をテーパ面に形成したものであってもよい。
【0061】
また、上記の各実施形態では収容部に医薬品を収容して凍結乾燥する場合について説明したが、本発明のバイアルは収容部に医薬品以外の物品を収容するものであってもよく、収容物が液体や粉末など、凍結乾燥品以外のものであってもよいことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のバイアルとこれに用いる密封容器は、シール部材を、バイアルの収容部内と外部空間とが連通した半打栓姿勢から、その連通を遮断する密封姿勢へ簡単に切換えできるうえ、密封後はこの密封姿勢を確実に保持でき、しかも簡単な構成で安価に実施できるので、特に収容物を凍結乾燥する場合のバイアルとその密封装置に好適であるが、他の収容物を収容するバイアルとその密封装置にも適している。
【符号の説明】
【0063】
1…密封装置
2…バイアル
3…胴部
4…収容部
5…肩部
6…首部
7…突条部
8…開口部
9…鍔部
10…首部(6)の中心軸
11…シール部材
12…保持部材
13…保護蓋
14…本体部
15…脚部
16…密着部
17…通気路
18…環状突部
19…押圧部
20…筒状部
22…スリット
23…連通路
24…係止部
25…筒状部(20)の中心軸
26…案内面
27…係止面
28…窓部
29…封止部
α…鍔部(9)の下面の傾斜角度
β…係止面(27)の傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の胴部(3)とその胴部(3)から上方へ延設した首部(6)とを備え、上記の胴部(3)内に収容部(4)が形成してあり、上記の首部(6)の上端に開口部(8)を形成して、この開口部(8)を介して上記の収容部(4)内を外部空間に連通してあり、上記の首部(6)の上端部外周面に径方向外側へ膨出した鍔部(9)が形成してあるバイアルであって、
上記の鍔部(9)の下面に、首部(6)の中心軸(10)と直交する平面を備えていることを特徴とする、バイアル。
【請求項2】
有底筒状の胴部(3)とその胴部(3)から上方へ延設した首部(6)とを備え、上記の胴部(3)内に収容部(4)が形成してあり、上記の首部(6)の上端に開口部(8)を形成して、この開口部(8)を介して上記の収容部(4)内を外部空間に連通してあり、上記の首部(6)の上端部外周面に径方向外側へ膨出した鍔部(9)が形成してあるバイアルであって、
上記の鍔部(9)の下面に外側ほど上方へ偏移したテーパ面を備え、このテーパ面は、内周縁から軸直交方向外側へ延びる平面との間の傾斜角度(α)が15度以下であることを特徴とする、バイアル。
【請求項3】
上記の傾斜角度(α)が7度以下である、請求項2に記載のバイアル。
【請求項4】
上記の胴部(3)と首部(6)とが上方に向かって小径となる肩部(5)を介して互いに接続してあり、この肩部(5)の外周面に環状の突条部(7)が形成してあることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のバイアル。
【請求項5】
上記の請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のバイアル(2)に装着される密封装置であって、
上記の開口部(8)を密閉するシール部材(11)と、このシール部材(11)を保持する保持部材(12)とを有し、
上記のシール部材(11)は円板状の本体部(14)を備え、この本体部(14)の周縁部には、上記の開口部(8)の周囲の全周に亘って首部(6)の上端面へ密着する密着部(16)が形成してあり、
上記の保持部材(12)は、円板状の押圧部(19)とその外周縁から垂下した筒状部(20)とを備え、この押圧部(19)の下方に上記の本体部(14)が保持してあり、
上記の筒状部(20)には、下端部に内方へ突出した係止部(24)が周方向に沿って形成してあり、
上記の係止部(24)には、下側ほど拡径した案内面(26)が筒状部(20)の中心軸(25)を臨む側に形成してあり、この案内面(26)の下端部内径は、上記の鍔部(9)の外径よりも大径であるが、上端部内径は鍔部(9)の外径よりも小径に形成され、
上記の筒状部(20)の下部は、その弾性復元力に抗して上記の案内面(26)の上端部内径を鍔部(9)の外径以上に拡径可能であり、
上記の係止部(24)の上面に形成した係止面(27)が、筒状部(20)の中心軸(25)と直交する平面を備えており、この係止面(27)と上記の押圧部(19)の下面との間は、上記のシール部材(11)の本体部(14)と上記の鍔部(9)とを挟持してその本体部(14)を首部(6)の上面へ圧着できる寸法に設定してあることを特徴とする、バイアル用密封装置。
【請求項6】
上記の請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のバイアル(2)に装着される密封装置であって、
上記の開口部(8)を密閉するシール部材(11)と、このシール部材(11)を保持する保持部材(12)とを有し、
上記のシール部材(11)は円板状の本体部(14)を備え、この本体部(14)の周縁部には、上記の開口部(8)の周囲の全周に亘って首部(6)の上端面へ密着する密着部(16)が形成してあり、
上記の保持部材(12)は、円板状の押圧部(19)とその外周縁から垂下した筒状部(20)とを備え、この押圧部(19)の下方に上記の本体部(14)が保持してあり、
上記の筒状部(20)には、下端部に内方へ突出した係止部(24)が周方向に沿って形成してあり、
上記の係止部(24)には、下側ほど拡径した案内面(26)が筒状部(20)の中心軸(25)を臨む側に形成してあり、この案内面(26)の下端部内径は、上記の鍔部(9)の外径よりも大径であるが、上端部内径は鍔部(9)の外径よりも小径に形成され、
上記の筒状部(20)の下部は、その弾性復元力に抗して上記の案内面(26)の上端部内径を鍔部(9)の外径以上に拡径可能であり、
上記の係止部(24)の上面に形成した係止面(27)が内側ほど下方へ偏移したテーパ面を備えており、このテーパ面の外端縁から軸直交方向内側へ延びる平面との間の傾斜角度(β)が15度以下であり、この係止面(27)と上記の押圧部(19)の下面との間は、上記のシール部材(11)の本体部(14)と上記の鍔部(9)とを挟持してその本体部(14)を首部(6)の上面へ圧着できる寸法に設定してあることを特徴とする、バイアル用密封装置。
【請求項7】
上記の傾斜角度(β)が7度以下である、請求項6に記載のバイアル用密封装置。
【請求項8】
上記のシール部材(11)は、上記の本体部(14)の下面に筒状の脚部(15)を備え、この脚部(15)は上記のバイアル(2)の開口部(8)から上記の首部(6)内へ挿入可能であり、上記の収容部(4)内と外部空間とを連通する通気路(17)がこの脚部(15)に形成してある、請求項5から7のいずれか1項に記載のバイアル用密封装置。
【請求項9】
上記の脚部(15)は、外周面に上記の首部(6)の内径よりも僅かに大径の環状突部(18)を備える、請求項8に記載のバイアル用密封装置。
【請求項10】
上記の筒状部(20)は、下端縁から上下方向中間位置まで軸方向に沿って延びる複数のスリット(22)を備え、この筒状部(20)の下部は、そのスリット(22)で挟まれた部位の弾性復元力に抗して上記の案内面(26)の上端部内径を鍔部(9)の外径以上に拡径可能である、請求項5から9のいずれか1項に記載のバイアル用密封装置。
【請求項11】
上記の筒状部(20)に、上記の収容部(4)内と外部空間とを連通する連通路(23)が透設してある、請求項5から10のいずれか1項に記載のバイアル用密封装置。
【請求項12】
上記の押圧部(19)の中央に、上記の本体部(14)の上面を露出させる窓部(28)が透設してあり、上記の保持部材(12)の上部に保護蓋(13)を配置して、この保護蓋(13)で離脱可能に上記の窓部(28)を蓋してある、請求項5から11のいずれか1項に記載のバイアル用密封装置。
【請求項13】
上記の保護蓋(13)の下面に、上記の窓部(28)へ挿入される環状の封止部(29)が形成してあり、この封止部(29)の下端周縁部が上記の本体部(14)の上面へ保密状に当接してある、請求項12に記載のバイアル用密封装置。
【請求項14】
上記の請求項1から4のいずれか1項に記載のバイアル(2)に、上記の請求項5から13のいずれか1項に記載の密封装置(1)が装着してあることを特徴とする、密封装置付きバイアル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−50699(P2011−50699A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205135(P2009−205135)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(500232123)大和特殊硝子株式会社 (6)
【Fターム(参考)】