説明

バイアル用ゴム栓

【課題】ゴム栓が他部材に付着することをより確実に防止することができるバイアル用ゴム栓を提供する。
【解決手段】本発明に係るバイアル用ゴム栓は、電子密度が1×1011cm−3〜1×1013cm−3であるプラズマで天面が処理されている。このプラズマとして、マイクロ波によって生成されたプラズマを用いることができる。また、プラズマとして、表面波励起プラズマを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バイアル用ゴム栓に関する。
【背景技術】
【0002】
少量の薬剤を保存する容器として、バイアルやアンプルがある。アンプルは原則液状薬剤に使用される。バイアルは、液状の薬剤にも、固体(粉末または非結晶)の薬剤にも使用することができる。バイアルの特徴は、密封性が維持されるゴム栓を有しているため、外界から遮断された状態で、注入針や移注針を用いてほぼ無菌的に薬液調製をすることが可能であることである。
【0003】
しかしながら、バイアルへのゴム栓の装着において、ゴムの材質自体の特性により、ゴム栓をバイアルに押し込む際に使用される押しつけ板にゴム栓が付着することがある。特に、凍結乾燥製剤の製造時において、押しつけ板にバイアルに打栓されたゴム栓の天面が付着することが問題となっている。押しつけ板にゴム栓が付着すると、工程内でのバイアル破損が生じ、同時生産のバイアルが使用できなくなってしまう。
【0004】
より具体的に説明すると、一般的に、凍結乾燥製剤の製造は、特許文献1(実開昭62−108258号公報)の図6に示されるように、(a)凍結乾燥前の液状原薬を所定量充填したバイアルに、容器内部と外部が通気される状態となるようにゴム栓をバイアル口部に打栓する(半打栓)、(b)この状態で凍結乾燥を行ない、ゴム栓の脚部の隙間よりバイアル内の水分と気体を抜く、(c)ゴム栓の天面側から押しつけ板で荷重を加えて打栓する、という工程で行なわれている。
【0005】
この(c)の打栓工程において、ゴム栓に押しつけ板が圧接するため、押しつけ板にゴム栓の天面が付着することがある。押しつけ板に付着してしまったゴム栓は、押しつけ板上昇時にバイアルごと持ち上げられることになる。この状態でゴム栓が押しつけ板から剥離すると、ゴム栓と一体となって持ち上げられたバイアルが落下して割れてしまう。
【0006】
打栓工程においては、多数個のバイアルに同時に打栓を行なうため、打栓時に1個でもバイアルが落下して破損すると、ガラス破片や内容物の飛散により周囲のバイアル全てが汚染されてしまい、同時に打栓された全てのバイアルの商品価値が失われてしまう。
【0007】
ゴム栓天面の押しつけ板への付着対策の一つとして、特許文献1においては、ゴム栓の天面に突起を設けて天面が平坦とならないようにすることが提案されている。平坦面領域が広く付着頻度が高い天面に、突起を設けることによって、ゴム栓が押しつけ板に密着しにくくして、押しつけ板への付着を抑制している。
【0008】
また、特許文献2(特開昭59−71336号公報)においては、ゴムにプラズマ処理を施すことによってゴムの特性自体を改質することが提案されている。窒素ガスを低圧下にて励起させて発生させた高周波励起プラズマをゴム成型品に照射し、ゴムの特性である粘着性を弱くしている。
【特許文献1】実開昭62−108258号公報
【特許文献2】特開昭59−71336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載されているように、ゴム栓の天面に突起を形成してゴム栓天面が他部材に密着しにくくしてもゴム栓の押しつけ板への付着は依然として起こっており、問題を解決するには至っていない。また、特許文献2には、プラズマ処理によりゴム栓の天面を処理することが開示されているが、一般的に用いられる程度の電子密度(1cmあたり10〜1010)のプラズマを照射してゴム栓天面を処理したとしても、ゴム栓の押しつけ板への付着を完全に防止することはできない。
【0010】
バイアル用ゴム栓は、用途毎に区別して生産すると必要のないコストがかかり好ましくない。そのため凍結乾燥製剤の製造時に行なわれるように、荷重をかけて押しつけ板で圧接した場合でも、押しつけ板に付着しにくいゴム栓が要望されている。
【0011】
本発明の目的は、ゴム栓が他部材に付着することをより確実に防止することができるバイアル用ゴム栓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特許文献1のような、ゴム栓天面に突起を設ける形状変更ではゴム栓の付着を防ぐことができないことに鑑み、ゴム栓の表面を改質する種々の方法を試みた。その結果、ゴム栓天面の処理に、一般的に用いられる電子密度よりも高い電子密度のプラズマを用いることで、押しつけ板へのゴム栓の表面の付着が防止できることを見出した。
【0013】
本発明に係るバイアル用ゴム栓においては、ゴム栓の天面を、電子密度が1×1011cm−3〜1×1013cm−3であるプラズマで処理している。
【0014】
また、上記プラズマは、マイクロ波によって生成されたプラズマであってもよい。
また、上記プラズマは、表面波励起プラズマであってもよい。
【0015】
また、上記プラズマは、プラズマ生成ガスとして酸素を用いて発生させられたものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るバイアル用ゴム栓によると、ゴム栓が他部材に付着することをより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明に基づいた実施の形態におけるバイアル用ゴム栓について、図を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、一般的なバイアルおよびバイアル用ゴム栓の構造を示す分解斜視図である。図1に示すように、バイアル用ゴム栓1は、バイアル21の口部に嵌入される脚部11と、天面13aを構成しバイアル21の口部の端面を覆う円盤状の天面部材13とで構成されている。本実施の形態のゴム栓の材料としては、一般的にバイアル用のゴム栓として使用される、塩素化ブチルゴムなどを用いることができる。
【0019】
図2は、表面波励起プラズマ処理装置の構造を示す断面図である。図2に示すように、表面波励起プラズマ処理装置100は、筐体110と、アンテナ120と、アンテナ120に向かって被処理体を保持する保持部材130とを有している。
【0020】
筐体110には内部の空気を吸引するためのポンプが接続されている。アンテナ120は、石英で覆われたアンテナで構成され、アンテナ120を通して筐体110の内部にマイクロ波が入射される。保持部材130には冷却水が流れる冷却管132が接続されており、被処理体を冷却することができる。
【0021】
本実施の形態のバイアル用ゴム栓1の天面13aには、以下の工程によりプラズマ処理が施される。まず、プラズマ処理されるゴム栓1を、図2に示すような表面波励起プラズマ処理装置内にセットする。このときゴム栓1の天面13aがアンテナ120に対向するように配置する。次にチャンバー内の圧力を30Pa、酸素ガス流量を20sccmとし、発信周波数2.45GHzのマイクロ波プラズマを、アンテナ120からゴム栓1の天面13aに照射する。なお、上記の条件はあくまでも一例であってこの条件に限定されるものではない。
【0022】
上記の例のようにプラズマをマイクロ波(300MHz〜30GHzの電磁波)で生成することによって、本発明に係るバイアル用ゴム栓の処理に必要な高い電子密度のプラズマを容易に得ることができる。また、プラズマ生成時に生成されるイオンが電磁波の電界に追随して移動しないので、アンテナ表面に高電界のシースが形成されることがない。これによりアンテナがエッチングされることがほとんどない。そのため、エッチング生成物が被処理面に作用することによってプラズマの処理効果が低下することがない。ゴム栓天面に対して高い電子密度のプラズマが作用しプラズマ処理が確実になされるため、ゴム栓を処理するプラズマとして用いるのに好適である。
【0023】
プラズマが表面波励起プラズマであると、アンテナが石英、アルミナなどの絶縁体で覆われており、アンテナが金属である場合のような金属原子の処理空間への浮遊がない。そのため、金属原子が被処理面に作用することによってプラズマの処理効果が低下することがなく、確実にプラズマ処理を行なうことができるため好ましい。
【0024】
プラズマ生成ガスは、プラズマ処理によってゴム栓に悪影響を及ぼさないものであれば特に限定はない。安全性などを考慮して、たとえば酸素を用いることができる。
【0025】
本実施の形態のバイアル用ゴム栓の付着力と、一般的なプラズマ処理として用いられる電子密度のプラズマによって処理されたゴム栓の付着力と、未処理のバイアル用ゴム栓の付着力とを以下の実験を行ない比較した。各々のプラズマ処理条件を以下に示す。
【0026】
(実施例)
塩素化ブチルゴム製のバイアル用ゴム栓を、図2に示される表面波励起プラズマ処理装置を用いて、発信周波数2.45GHz、Oガス流量20sccm、圧力30Paで、照射アンテナとゴム栓天面との距離が5cmとなるように配置し、マイクロ波パワー300Wで5分間照射した。
【0027】
(比較例)
塩素化ブチルゴム製のバイアル用ゴム栓を、高周波プラズマ処理装置(PE−200,Plasma Etch社製)を用いて、発信周波数13.56MHz、Oガス流量60sccm、圧力30Pa、照射アンテナとゴム栓天面との距離が10cmとなるように配置し、RFパワー300Wで5分間照射した。
【0028】
上記実施例のプラズマ処理を行なったゴム栓と、比較例のプラズマ処理を行なったゴム栓と、未処理のゴム栓とを3日以上放置し、図3の実験装置を用いて次の実験を行ない、付着力(剥離力)を測定した。
【0029】
図3は、バイアル用ゴム栓の付着力を測定する測定装置を示す断面図である。図3に示す付着力測定装置300は、一対の板ばね310と、板ばね310の表面に接着されたひずみゲージ320と、一対の板ばね310の先端に設けられた接続部330と、バイアル用ゴム栓1を支持する支持体340と、バイアル用ゴム栓1に荷重を印加する平板350とを有している。一対の板ばね310と、板ばね310の表面に接着されたひずみゲージ320とによりロードセルが構成される。ロードセルにより、バイアル用ゴム栓1に加わる力を測定することができる。
【0030】
バイアル用ゴム栓1の付着力の測定は次の工程により行なった。バイアルを模した支持体340に、バイアル用ゴム栓1の脚部を軽く挿入し、ゴム栓1の天面方向から、SUS304、#400片面仕上げの平板350を、押しつけ荷重49Nで15分間押しつけて、支持体340にバイアル用ゴム栓1を嵌入させて組み付け、平板の荷重を解いた。その後、平板350をゴム栓1の天面から剥離させ、剥離強度を板バネ310の歪みからロードセルを用いて測定した。測定は5個の試験体について行なった。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
高周波励起プラズマによって処理された比較例のゴム栓は、平板に付着してしまった。実施例のバイアル用ゴム栓は、付着力がゼロ、すなわち平板と圧接しても全く付着しないという結果となった。この結果から、一般的なプラズマ処理を施したゴム栓とは明らかに異なり、本発明の実施例に係るゴム栓は、より付着しやすい凍結乾燥製剤の製造に使用しても押しつけ板に付着することがないことが確認された。このようにプラズマ処理したバイアル用ゴム栓を用いることで、従来の冷凍乾燥製剤の製造において発生したようなバイアルの破損を生じることがない。
【0033】
本実施の形態のように高い電子密度のプラズマ処理を行なうことにより、ゴム栓天面は表面が粗くなるとともに硬度が高くなるため、ゴム栓天面と押しつけ板との接触面に微小な間隙が確実に形成される。これによりゴム栓の天面と押しつけ板とが密着しなくなり、ゴム栓付着の発生を防止することができる。
【0034】
特に、凍結乾燥製剤を工業生産する際には、確実に密封するためにバイアルに荷重をかけてゴム栓を打栓するが、本実施の形態のプラズマ処理を天面に行なうことにより、荷重をかけてゴム栓と他部材とが接触した状態においても付着することを防止することができる。
【0035】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるのではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のバイアル用ゴム栓は、上述のように、ゴム栓製造工程やバイアルへの打栓工程において、他部材へ付着することを防ぎ、バイアル破損をも回避できる。そのため、凍結乾燥製剤を含む様々な薬剤の製剤化に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】バイアル用ゴム栓およびバイアルの構造を示す分解斜視図である。
【図2】表面波励起プラズマ処理装置の構造を示す断面図である。
【図3】バイアル用ゴム栓の付着力を測定する測定装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ゴム栓、11 脚部、13 天面部材、13a 天面、21 バイアル、100 表面波励起プラズマ処理装置、110 筐体、120 アンテナ、130 保持部材、132 冷却管、300 付着力測定装置、310 板バネ、320 ひずみゲージ、340 支持体、350 平板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアル用ゴム栓であって、
電子密度が1×1011cm−3〜1×1013cm−3であるプラズマで天面が処理された、バイアル用ゴム栓。
【請求項2】
前記プラズマは、マイクロ波によって生成されたプラズマである、請求項1に記載のバイアル用ゴム栓。
【請求項3】
前記プラズマは、表面波励起プラズマである、請求項2に記載のバイアル用ゴム栓。
【請求項4】
前記プラズマは、プラズマ生成ガスとして酸素が用いられた、請求項1から3のいずれかに記載のバイアル用ゴム栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−269613(P2009−269613A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119030(P2008−119030)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】