説明

バイオアッセイ装置

【課題】海生生物の幼生を塩素に暴露した場合において、所定回数の試験で幼生の何個体のうちの何個体が死亡したか信頼性のある結果を得られる試験装置を提供すること。
【解決手段】試験装置は、液体を貯留する貯留タンクと、前記貯留タンクから送液された液体に塩素を発生させる発生部と、前記発生部によって形成された気泡を除去する脱泡部と、前記脱泡部により前記気泡が除去された液体を通過させ、かつ前記幼生を封入することができる観察セルと、前記塩素のうち前記観察セルを通過した液体に含まれる塩素を除去する除去部と、を備える。観察セルを流れる前記液体の流速は50ml/minから100ml/minの範囲であり、前記観察セルの容積は、5cmから7cmの範囲あり、前記観察セルに封入される前記幼生の個体数は、20個体から60個体の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水を利用するプラントの配管中における海生生物の幼生の付着状況を調査するための試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海水を利用するプラントにおいて、特に火力発電所や原子力発電所等では、蒸気を冷却するために復水器が使用されている。この復水器は、蒸気を海水で冷却・凝縮し、真空を作るとともに復水として回収する。海水が通過する復水器の配管の内では、海水中に含まれるムラサキイガイやフジツボ等の海生生物が付着しやすい。これらの海生生物が配管内に付着したり、付着した生物の死骸が堆積したりすることにより、配管の流路が狭められたり、腐蝕により漏洩が生じたりするといった問題がある。
【0003】
そこで、上記のような海生生物の付着を防ぐために、防汚塗料の開発や、電流や超音波を流す方法や、塩素処理により致死させる方法が開発されている。
【0004】
また、海水と接する配管へ海生生物が付着しているか否かについて調査するための観察容器についての発明も開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−271331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、観察容器を使用して、容器内に存在する海生生物の状況に関して試験する試験装置においては、容器内を流れる海水の流れによって試験結果にばらつきが生じる場合がある。このばらつきの標準偏差を求めるために、試験を複数回行う必要があった。
【0006】
特に、海生生物を塩素処理により麻痺又は致死させるため、海生生物の幼生を容器内に封入し、幼生が麻痺又は致死する塩素濃度を試験する場合には、封入する海生成物の幼生の個体数や海水の流れの違いによって試験の結果が試験ごとに相違することが問題となっていた。
【0007】
本発明は、上記のような状況に鑑み、海生生物の幼生を容器内に封入し、幼生が致死する塩素濃度を試験する場合において、所定回数の試験で何個体のうちの何個体が死亡したか信頼性のある結果を得られる試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 海水を利用するプラントの配管中における海生生物の幼生の付着状況を調査するための試験装置であって、液体を貯留する貯留タンクと、前記貯留タンクから送液された液体に塩素を発生させる発生部と、前記発生部によって形成された気泡を除去する脱泡部と、前記脱泡部により前記気泡が除去された液体を通過させ、かつ前記幼生を封入することができる観察セルと、前記塩素のうち前記観察セルを通過した液体に含まれる塩素を除去する除去部と、を備え、前記観察セルを流れる前記液体の流速は50ml/minら100ml/minの範囲であり、前記観察セルの容積は、30cmから50cmの範囲あり、前記観察セルに封入される前記幼生の個体数は、20個体から60個体の範囲である試験装置。
【0009】
(1)の試験装置は、海水を利用するプラントの配管中における海生生物の幼生の付着状況を試験又は評価するための試験装置である。そして、液体を貯留する貯留タンクと、貯留タンクから液体を送液する送液ポンプと、液体に塩素を発生させる発生部と、気泡を除去する脱泡部と、海生生物を封入できる観察セルと、観察セルを通過した液体から塩素を除去する除去部とを備える。また、貯留タンクは、除去部において塩素が除去された液体を貯留する。観察セルを流れる液体の流速は50ml/minであり、前記観察セルの容積は、30cmから50cmである。前記観察セルに封入される前記幼生の個体数は、20個体から60個体の範囲である。
【0010】
これにより、当該試験装置は、塩素を所定量発生させて所定の濃度とした場合に、海生成物の幼生が何個体のうち何個体が付着変態しなかったか試験することができ、さらに当該試験により得られる結果が他の条件で試験を行うよりも信頼性の高いものとすることができる。なお、本試験装置は、試験装置の一例としてのバイオアッセイ装置である。
【0011】
(2) 前記観察セルは、透明である(1)記載の試験装置。
【0012】
観察セルは、透明であってよい。これにより、該観察セルの内部が肉眼で視認できる。
【0013】
(3) 前記観察セルは、該観察セルの一端から他端までの長さが8cmから12cmであり、幅が1cmから3cmである(1)又は(2)記載の試験装置。
【0014】
(3)の観察セルは、該観察セルの一端から他端までの長さが8cmから12cmであり、幅が1cmから3cmである。この寸法とすることにより、観察セルの内部に封入される海生成物の幼生が20個体から60個体である場合に、肉眼で個体を確認しやすくなる。
【0015】
(4) 前記幼生は、アカフジツボ付着期幼生を含む(1)から(3)記載の試験装置。
【0016】
(4)海生生物の幼生は、アカフジツボ付着期幼生であってよい。フジツボ類は、復水器などの海水中に設けられる施設に付着して施設を汚損させる代表的な海生生物である。
【0017】
(5) (1)から(4)に記載の試験装置の取り扱い方法であって、前記観察セルの中の前記幼生の個体数を所定数にすることによって試験を行う回数を低減する試験装置の取り扱い方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図を用いて本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の実施形態は下記の実施形態に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0019】
図1は、試験装置1の構成を示すブロック図である。図2は、観察セル15及び対照セル25の構成を示す図である。図3は、電解部13の概略的構成を示す図である。図4は、脱泡部14の構成を示す図である。
【0020】
[装置の構成]
[概要]
本発明の好適な実施形態の一例である試験装置1の構成について図を用いて説明する。試験装置1は、後述の観察セル15を通る試験系2と、観察セル15と比較するための対照セル25を通る対照系3との2系統の流路を有する。この2系統は、試験装置に流す液体である溶液を貯める貯留タンク11と人工海水内に溶存する塩素を除去する除去部16とを共通とする。試験系2は、人工海水を送液するポンプ12と、人工海水内に塩素を発生させる電解部13と、流路に発生した気泡を除去する脱泡部14と、海生生物の幼生を封入することができる観察セル15と、人工海水内に溶存する塩素を除去する除去部16と、上記各部を連通し、人工海水を各部に流す管であるパイプ18と、を備える。また、図1における矢印は溶液が流れる方向を示す。
【0021】
対照系3は、貯留タンク11から溶液を送液するポンプ22と、観察セル15と比較するための対照セル25と、を備える。対照系3は、上述の通り対照系2と共通する除去部16と、人工海水を上記各部に流す管であるパイプ17と、を備える。
【0022】
なお、本実施形態においては、試験系2、対照系3いずれにおいても観察セル15又は対照セル25を設置する流路の数は1としているが、これに限らず例えば流路数は複数あってもよい。試験系2と対照系3とをそれぞれ複数系統設けた場合、各系統内を流れる人工海水の流速が変化し偏ってしまう場合があるため、それぞれ1系統で試験することが好ましい。
【0023】
ここで、溶液とは、当該試験装置1における移動相である。そして、当該試験装置1に用いられる溶液としては、人工海水等の人工的に調製した溶液や水等が好ましいが、自然界に存在する海水であってもよい。人工海水は市販のものを使用することもできるが,例えば、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム7水塩、塩化マグネシウム6水塩、塩化カルシウム2水塩、塩化カリウム、塩化ストロンチウム6水塩、臭化ナトリウム、ホウ酸、フッ化ナトリウム、ヨウ化カリウムを所定の割合で混合したものを水に溶かして使用することもできる。
【0024】
ポンプ12、22は、貯留タンク11に貯留された溶液を試験装置1における試験系2及び対照系3の各部に流す。対照系3では、貯留タンク11からそのまま対照セル25に溶液が流される。そして、対照セル25を通過した溶液は、除去部16を通って塩素を除去され、貯留タンク11に再び貯留される。
【0025】
なお、対照セル25に流入する溶液の流量を調節するため、対照セル25に向かう流路の途中に、流量計33を備えることが好ましい。当該流路において、パイプ17を流れる溶液が所定の流量よりも多い場合には、回避ライン28のバルブ35を開け、対照セル25に流入する溶液の流量を調節することができる。言い換えると、バルブ35の開閉によって、対照セル25に流入する溶液の流量を調節することができる。
【0026】
一方、試験系2においては、ポンプ12によって溶液が貯留タンク11から電解部13に送液され、電解部13では当該溶液を電気分解して塩素を発生させる。試験系2における電解部13から後述する除去部16までの流路には、塩素が一定の濃度で含まれる溶液が流される。
【0027】
次に溶液は、脱泡部14に流入する。脱泡部14は、主として電解部13で発生した気泡を除去する。気泡が除去された溶液は、海生生物の幼生が封入された観察セル15に送られる。幼生は塩素を含んだ溶液に暴露され、封入された幼生の一部が麻痺又は死亡する。封入された個体数に対して、何個体が麻痺又は死亡したかを確認することにより、幼生を麻痺又は死亡させるのに必要な塩素の濃度が得られる。
【0028】
なお、試験系2では、電解部13から脱泡部14間の流路において流量を調節できるようにすることが好ましい。具体的には、電解部13の下流側に配置された流量計31により流量を測定する。測定した流量が観察セル15に流入するのに適した流量より多い場合には、バルブ37を開けて回避ライン19に余分な流量を流し、同時にバルブ38を締めて観察セル15側に流れる流量を調節する。バルブ38の開閉を調節する場合には、脱泡部14側の流量計32で示される流量を参照して調節することができる。
【0029】
[海生生物]
本発明の試験装置1で観察できる海生生物は、イガイやフジツボ等の海生生物の幼生を主とするが、これに限られない。本明細書における海生生物とは、海中に生息する生物のうち特に水中の岩礁や構造物等に付着する生物を指し、例えば、藻類、海綿類、苔虫類、二枚貝類、ホヤ類及びこれらの幼生を対象とすることができる。該試験装置1における試験において、試験できる海生生物は1種類とは限らず、2種以上の海生生物を同時に観察セル15に封入して試験することができる。
【0030】
本実施形態においては、アカフジツボ付着期幼生を試験に用いた。海生生物の中には幼生の間に海に漂い、水中の構造物に付着するものがある。フジツボ類は幼生の間に構造物に付着して、付着後変態する。このため、幼生が構造物に付着する前に死亡する環境又は付着変態を阻害する環境を構築することで、水中の構造物の劣化を防ぐことができるからである。
【0031】
観察セルに封入するアカフジツボ付着期幼生の個体数は、20個体から60個体の範囲であることが好ましい。例えば、20個体未満であると、個体数が少ないため、人工海水の流れやアカフジツボ付着期幼生自身の塩素に対する耐性の違いによって、試験結果にばらつきが生じ、この結果試験を複数回行う必要が生じる。60個体を超えると、観察セル15中の個体の濃度が高すぎ、密度の影響によりかえって幼生が観察セル15に付着しにくくなる場合がある。
【0032】
上記の範囲の個体数とすることにより、本発明における試験装置を使用して、アカフジツボ付着期幼生を塩素に暴露したときに、何個体分の何個体が観察セルに付着しなかったかの結果を得ることができる。当該結果が、他の範囲の個体を観察セルに封入した場合に比べて、一度の試験で安定的に付着しなかった個体数の値を得ることができる。
【0033】
[観察セル]
観察セル15は、透明の部材で形成された観察セル本体151と観察セル本体151の両端に配置され遮蔽部となる蓋用筒152、153とを有する。蓋用筒152、153に遮蔽されることにより、観察セル本体151の内部に観察対象となる海生生物を封入することができる。一方、観察セル15に流入した溶液は、該観察セル15を通過することができる。
【0034】
本実施形態においては、観察セル15を流れる人口海水の流速は50ml/minから100ml/minの範囲に調整されてよい。流速が早すぎると、幼生が観察セルの下流側に設けられる後述する網状部材156に張り付いて、動けなくなる恐れがある。流速が100ml/minの範囲までであると、幼生が上流側へ向かって遊泳することができる。
【0035】
また、観察セル15の容積は30cmから50cmの範囲にあることが好ましい。アカフジツボ付着期幼生は体長が0.6mm程度であり、顕微鏡での確認が必要である。このため、幼生を20個体から60個体封入した場合に、50cmを超えると、観察セルが大きすぎて観察セルに封入された幼生の個体数がまばらに浮遊し、確認がしづらくなる。また、幼生を20個体から60個体封入した場合に、30cm未満では観察セル15が小さすぎ、観察セル15中に幼生が集まりすぎて、確認がしづらくなるとともに密度の影響により付着しにくくなる可能性が考えられる。
【0036】
観察セル15の一端から他端までの長さは8cmから12cmの範囲にあることが好ましい。幼生を20個体から60個体封入した場合に、12cmを超えると、観察セルが大きすぎて観察セルに封入された幼生の個体数がまばらに浮遊し、確認がしづらくなる。また、幼生を20個体から60個体封入した場合に、8cm未満では観察セル15が小さすぎて、観察セル15中に幼生が集まりすぎて、確認がしづらくなるとともに密度の影響により付着しにくくなる可能性が考えられる。
【0037】
図2に示すように観察セル15は、内部が空洞であって円柱状の観察セル本体151の両端に観察セル本体151よりも直径が小さい円柱状の蓋用筒152、153がはめ込まれている。蓋となる筒152、153における観察セル本体151側の端部154、155には、当該蓋用筒152、153の端部154、155全面をふさぐように、網状部材156が配置されてよい。
【0038】
網状部材156における穴の大きさは、観察対象である海生生物の幼生が通過できない程度の大きさであることが好ましい。穴は、観察対象の海生生物の大きさによって変更することができる。また、穴の大きさは、溶液の通過を阻害しない程度であることが好ましい。具体的には、試験対象がアカフジツボ付着期幼生の場合,100μmから224μmあることが好ましい。
【0039】
また、網状部材156の材質は、ナイロン、ポリエチレン、テトロン、ポリエステル、カーボン、テフロン(登録商標)、ポリプロピレン等を例示できる。
【0040】
観察セル本体151の材質は、その外側から観察できるよう透明の材質であることが好ましい。例えば、ガラス、プラスチック、アクリルの材質で作製される好ましく、詳細には、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブラチール、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩酸ビニル、ポリビニルホルマール、ポリ2塩化ビニル、エチルセルロース、酢酸セルロース、プロピルセルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ナイロン、ポリメチルメタクリエート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン尿素樹脂、エポキシ樹脂、ガラス、又は石英ガラスからなる化合物等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、観察セル本体151及び蓋用筒152、153の材質は、塩素や溶液と反応(例えば、変性、硬化、変色など)を起こさない材質であることが好ましい。
【0041】
さらには、特に観察セル本体151は、海生生物の幼生が付着しやすいような材質であることが好ましい。例えば、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルホルマール、ポリ2塩化ビニル、エチルセルロース、酢酸セルロース、プロピルセルロース、酢酸酪酸セルロース、又は硝酸セルロースからなる化合物を挙げることができる。さらには、観察セル本体151の内部表面には、海生生物が付着しやすいような加工がなされていることが好ましい。
【0042】
蓋用筒152、153については、上述の観察セル本体151と同様の材質であることが好ましいが、異なる材質であってもよい。
【0043】
観察セル本体151及び蓋用筒152、153の形状は、内部が空洞である円柱状として説明したが、これに限られない。例えば、四角柱、三角柱等を挙げることができる。
【0044】
観察セル15及び対照セル25は、地面に対して垂直となるように設置されることが好ましい。また、溶液は、図2における矢印41方向に流す。すなわち、溶液は、観察セル15及び対照セル25において下から上に向けて流れるようにする。各セルに封入される海生生物が重力及び水流による圧力により押さえつけられるのを防ぐためである。
【0045】
屋内光等の光が観察セル15に当たると、光の当たり方により試験結果に影響を与える場合があるため、観察セル本体151の外側に遮光部材を配置することが好ましい。観察セル内部を暗くすることにより、光による試験結果への影響を回避することができる。また、発電所等のプラントで想定される環境は、地上より暗い状態であるので、より近い環境を創出することができる。この覆いは例えば、観察セル本体151の外側に遮光性のテープ等を巻きつけて作製することができる。
【0046】
観察セル本体151を遮光するには、他の例としては、観察セル本体151の外径よりも大きな径であって、観察セル本体151の全体又は一部を覆うことができる大きさの筒をかぶせてもよい。当該筒は、透明ではなく、光をある程度遮断できるような材質が好ましい。例えば、黒い紙又は鉄や金属等の金属で作製された筒を例示できる。そして、試験中においても観察セル本体151内部を観察することができるように開閉自在であることが好ましい。
【0047】
また、対照系3における対照セル25も同様の構成で作製される。対照セル25は、試験中に試験系2における観察セル15と同時に使用される。そして、試験終了時に観察セル15と対照セル25とを比較して観察セル15に対する効果を検証する。
【0048】
[ポンプ]
ポンプ12、22は、貯留タンク11に貯留する溶液を試験装置1の各部に送液する。このポンプ12、22は、既知のポンプを使用することができる。例えば、回転ポンプや往復動ポンプのような容積式ポンプ、又は遠心ポンプ、プロペラポンプ等、試験装置1を用いて行う試験にあわせて適宜選択することができる。好ましくは、送液量が常に一定であって圧力変動による影響が少ないポンプを使用することが好ましい。具体的には、マグネット式遠心ポンプを例示できる。
【0049】
[電解部]
図3は、電解部13の概略的構成を示す図である。電解部13は、上記パイプ18に接続可能な接続部を備え、内部に電極を受け入れ可能な空間を有する電解槽131と、図示しない電源装置から電源の供給を受けて電解槽131内部において溶液を電気分解する電極132、133と、を少なくとも有する。なお、本実施形態においては電極132を陽極、電極133を陰極として説明するが、これに限らず陰極と陽極とが逆になっていてもよい。また、電解部13には、ドレイン135、電解槽131内のエア抜き136を備えることができる。
【0050】
電極132、133は、例えば、外径が3mm、長さが5cmの棒状の電極である。また、材質はチタンが好ましいが、これに限られない。また、該棒状の電極には、1μmの厚さで白金メッキがなされていることが好ましい。
【0051】
電解部13では、パイプ18を通して供給された溶液が電解槽131に流入すると、流入した溶液の一部が電解槽131内部に設置された電極132、133により電気分解され、塩素及び次亜塩素酸が発生する。そして生成された塩素等を含む溶液は電解槽131から排出され、パイプ18を通じて脱泡部14に送られる。
【0052】
電解部13は、溶液を電気分解して塩素を発生させる。希塩酸や海水を電気分解すると、これらに含まれる塩素は水と反応して次亜塩素酸と塩酸とが生成される。
【化1】

【0053】
そして、次亜塩素酸はさらに水中で解離して、次式のように水素イオンと次亜塩素酸イオンとが生成される。
【化2】

【0054】
この反応は可逆反応であり、水のpH値や水温によって変化する。試験装置1においては、このような反応を利用して塩素を発生させ、塩素の海生生物に対する影響等を試験することができる。
【0055】
電解部13以降の流路では、所定の塩素濃度の溶液が流れることとなる。この塩素濃度は、以下のように調節する。すなわち、電気分解を行う電流値と残留塩素濃度は比例関係にあるため、当該試験装置1において使用する溶液をあらかじめ調製しておく。この溶液を使用して、所定の電流値の時の残留塩素濃度を想定して較正直線を作成する。なお、電流値と残留塩素濃度については溶液の温度によっても変化するので、一定の温度で較正直線の作成及び当該試験装置1において試験又は評価を行うことが好ましい。
【0056】
海水を溶液として使用する場合は,電流値と残留塩素濃度が比例の関係にあるため,あらかじめ電流値と残留塩素濃度の関係式と作成しておけば,電流値を調整することで試験前、試験中を問わず、簡単に任意の残留塩素濃度に設定することができる。例えば、水温が25度の人工海水を電解部に4L/minで流すときに、50mAの電流を流すと、観察セルに流入する海水における遊離残留塩素濃度は、約0.16mg/Lとなる。
【0057】
次亜塩素酸ナトリウムを別途用意してパイプ18の流路に流入させるのではなく、電解塩素を使用することにより、消毒力の高い次亜塩素酸イオンが発生しやすく、かつ塩素の残留性を低くすることができる。また、海生生物の忌避対策として電解塩素を使用しているプラントの環境に近づけることができる。
【0058】
[脱泡部]
脱泡部14は、電解部13による電気分解によって生じた気泡や、溶液に溶解していた空気が当該溶液の飽和溶解量を超えた場合に発生した気泡を取り除く。気泡が溶液内に含まれると、試験装置1内における溶液の流れを阻害し、再現性に影響を与えないようにするためである。
【0059】
脱泡するには、既知の脱気装置を使用してもよく、また、気泡を除去するためのトラップ(弁)となるものを使用してもよい。例えば、図4に示すように、パイプ18の途中に分岐管141を介在させて流路を分岐させ、分岐管141におけるパイプ18に接続しない方の出口に袋状弾性体142を接続したものを挙げることができる。
【0060】
なお、脱泡部14を取り付ける場合には、該袋状弾性体142がパイプ18よりも上方になるように設置することが好ましい。さらに好ましくは、分岐管141における袋状弾性体142を接続する側の出口が、溶液が流れる方向(矢印173の方向)とは逆方向に向くように傾けた状態で配置することが好ましい。これにより、溶液より軽い気泡を捕集しやすくすることができる。また、パイプ18における分岐管141を接続する部分は、該分岐管141における袋状弾性体142を接続する流路を頂点として略逆U字状に湾曲させた状態であることが好ましい。
【0061】
袋状弾性体142は、袋状の弾性体であり、特に袋状となっている部分が弾力性を有することが好ましい。例えば、上記分岐管141に接続可能な大きさをもつピペット用ニップルを挙げることができる。当該袋状弾性体142の材質は、ゴム、プラスチック等袋状の部分に弾力性を有するものであればよい。
【0062】
以下に、使用する場合の態様について説明する。袋状弾性体142及び分岐管141には、あらかじめ試験装置1で使用する溶液を満たしておく。そして、試験装置1に溶液を流し、試験を開始すると、パイプ18内に発生した気泡が分岐管141を通り、気泡となっていた気体が袋状弾性体142に蓄積される。このように、気体が袋状弾性体142に蓄積されるにつれて、該袋状弾性体142に満たされていた溶液が流路に押し出され、袋状弾性体142内の水位が下がっていく。
【0063】
捕集した気体が袋状弾性体142の容量を超えて蓄積されると捕集した気体がパイプ18に逆流してしまうため、袋状弾性体142を分岐管141から取り外し捕集した気体を抜く必要がある。気体を抜くには、袋状弾性体142が接続されている分岐管141の流路から当該袋状弾性体142を取り外すことにより可能である。
【0064】
気体を抜いた後は、取り外した袋状弾性体142を再度分岐管141に取り付ける。この場合、袋状弾性体142に空気がなるべく入らないよう、袋状弾性体142に圧力を加えた状態で分岐管141に取り付けることが好ましい。袋状弾性体142の取り付け終了後、袋状弾性体142にかかる圧力を元に戻した際に溶液を該袋状弾性体142に吸い上げられる。これにより、袋状弾性体142を取り外して捕集した気体を抜く際に、試験装置1に流れる溶液の送液を止めずに行うことが可能である。
【0065】
[除去部]
除去部16は、電解部13で発生した塩素や次亜塩素酸を溶液中から除去ことができれば、従来公知の形状、方法を用いてよい。具体的には、例えば、活性炭をつめた容器に溶液を流入させ、塩素や次亜塩素酸を活性炭に吸着させることにより行うことができる。除去部16は、試験系2における観察セル15の下流に配置される。除去部16は、電解部13で発生させた塩素を溶液から除去する。塩素が除去された溶液は、パイプ17、18により貯留タンク11内に戻され、再度試験に利用される。
【0066】
この活性炭の量は、試験装置1の電解部13内に流す溶液の流量や試験時間等に応じて決定される。例えば、溶液を3L/minから5L/minで流し、試験時間が48時間以内である場合には、除去部16の活性炭カートリッジフィルターは直径70mm、高さ250mm、ヤシガラ活性炭40〜80メッシュのものが使用できる。
【0067】
除去部16は、活性炭を入れた容器に限らず、電解部13で発生した塩素や次亜塩素酸を除去できる装置であればよい。例えば、薬液を用いて中和させる装置や、オゾンで処理する装置を設けてもよい。
【0068】
除去部16により、塩素や次亜塩素酸が除去された溶液は再び貯留タンク11に戻され、当該試験装置1の移動相として、再度使用することができる。
【0069】
流量計31、32、33は、パイプ17、18内に流れる溶液の流量が計測できるものであれば既知のものを使用することができる。また流路において使用されるバルブ35、36、37、38は、溶液の流量を変化できるものであればよく、電磁弁や手動弁いずれも使用可能である。使用するには、これらのバルブにタイマーを設けてもよいし、特に電磁弁を使用する場合には、例えばコンピュータ制御によりバルブを制御してもよい。
【0070】
以上の構成を備えることにより、本発明にかかる試験装置1は、海生生物の幼生を塩素を含んだ溶液に暴露した際に、観察セルに封入した幼生の個体数のうち何個体が死亡したかについて、一度の試験で安定した結果を得ることができる。
【0071】
また、電解部13において電気分解により塩素を発生させることにより、あらかじめ塩酸を含む溶液を用意する必要がなくなる。塩酸を含む溶液を使用する場合には、試験が開始されて時間が経過するにつれ該試験装置1を流れる溶液の全体量が増えるため、なんらかの処理が必要であるが、本発明では電気分解で塩素を発生させるため、溶液の全体量はほとんど変化せず、その必要がない。さらには、除去部16で塩素を除去した後は貯留タンク11に貯留させ、溶液を循環させて再利用することができるので、コストも低減させることができる。
【0072】
[実施例]
試験条件の設定のために、内径22mm、長さ80mmの管状の観察セルを有する試験装置に、電解塩素を添加しない条件で、人工海水を流速50ml/minで流し、観察セルに入れる個体数を変化させてアカフジツボ付着期幼生を封入し、アカフジツボ付着期幼生の付着試験を行った。試験は24時間行い、試験終了後、付着個体の有無を確認した。
試験例1 アカフジツボ付着期幼生を111個体観察セルに入れたとき、24時間後の付着個体数は4個体(3.6%)であった。
試験例2 アカフジツボ付着期幼生を54個体観察セルに入れたとき、24時間後の付着個体数は6個体(11%)であった。
試験例3 アカフジツボ付着期幼生を27個体観察セルに入れたとき、24時間後の付着個体数は4個体(15%)であった。
試験例4 アカフジツボ付着期幼生を23個体観察セルに入れたとき、24時間後の付着個体数は3個体(13%)であった。
【0073】
[評価]
観察セルに封入する個体が100個体を超えると、付着率が極端に低くなることが観察された。アカフジツボ付着期幼生の個体数が20個体から60個体の範囲であると、塩素を添加しない条件で、24時間以内に10〜15%の個体が付着するため、塩素を添加した場合との比較が可能であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の好適な実施形態の一例に係る試験装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の好適な実施形態の一例に係る観察セル及び対照セルの構成を示す図である。
【図3】本発明の好適な実施形態の一例に係る電解部の概略的構成を示す図である。
【図4】本発明の好適な実施形態の一例に係る脱泡部の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 試験装置
2 試験系
3 対照系
11 貯留タンク
12 ポンプ
13 電解部
14 脱泡部
15 観察セル
16 除去部
17 パイプ
18 パイプ
22 ポンプ
25 対照セル
131 電解槽
132、133 電極
141 分岐管
142 袋状弾性体
151 観察セル本体
152、153 蓋用筒
156 網状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を利用するプラントの配管中における海生生物の幼生の付着状況を調査するための試験装置であって、
液体を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクから送液された液体に塩素を発生させる発生部と、
前記発生部によって形成された気泡を除去する脱泡部と、
前記脱泡部により前記気泡が除去された液体を通過させ、かつ前記幼生を封入することができる観察セルと、
前記塩素のうち前記観察セルを通過した液体に含まれる塩素を除去する除去部と、を備え、
前記観察セルを流れる前記液体の流速は50ml/minから100ml/minの範囲であり、前記観察セルの容積は、30cmから50cmの範囲であり、前記観察セルに封入される前記幼生の個体数は、20個体から60個体の範囲である試験装置。
【請求項2】
前記観察セルは、透明である請求項1記載の試験装置。
【請求項3】
前記観察セルは、該観察セルの一端から他端までの長さが8cmから12cmであり、幅が1cmから3cmである請求項1又は2記載の試験装置。
【請求項4】
前記幼生は、アカフジツボ付着期幼生を含む請求項1から3いずれか記載の試験装置。
【請求項5】
請求項1から4に記載の試験装置の取り扱い方法であって、
前記観察セルの中の前記幼生の個体数を所定数にすることによって試験を行う回数を低減する試験装置の取り扱い方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−216460(P2009−216460A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58308(P2008−58308)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】