説明

バイオアレイの検出方法

【課題】本発明は、DNAチップに代表されるバイオアレイの光学的検出において、バックグラウンドを低減させる検出方法の確立を目的とするものである。
【解決手段】上記の課題を解決するため本発明に係る標的物質の検出方法は、試料溶液中に含まれる標的物質と、反応容器内の透光性基板の表面に固定され、前記標的物質に特異的に結合しうるプローブとを反応させ、前記プローブと反応した標的物質が有する発光物質から発せられる発光を検出することにより、前記試料溶液中の前記標的物質の有無または量を検出する方法であって、前記試料溶液が光不透過性粒子を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAチップを始めとしたバイオアレイ、すなわち標的物質と特異的に結合しうるプローブを複数種担持した二次元アレイを用いて、標的物質の有無または量を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノムシーケンスプロジェクトの進展に伴って、ゲノム上の特定遺伝子の検出、SNPs解析、発現解析等がポストゲノムの課題として注目されている。そのため、最近の医療、分子生物学の分野では、標的核酸を検出する方法として、マイクロアレイ(DNAチップ)を用いたハイブリダイゼーション法や、in situハイブリダイゼーション法などの解析方法の重要性が高まっている。マイクロアレイハイブリダイゼーション法では、標的核酸と特異的に結合するプローブ核酸を基板上に固定し、プローブ核酸と標的核酸とをハイブリダイゼーションさせることにより、試料中の標的核酸の存在や量を解析する。
【0003】
一方、DNAが翻訳されて生合成されるタンパク質はより実際の生化学反応に寄与していることから、多数のタンパク質を一度に分析することが望まれている。このようなことから多数のタンパク質や、タンパク質と結合する物質を固相基板にアレイ状に固定したプロテインチップも開発されている。
【0004】
さらには、細胞分化やガン化、免疫反応や受精などの細胞認識に広く関わっている糖鎖を固定化した糖鎖チップも開発されてきている(特許文献1)。
【0005】
こうしたバイオアレイを用いた標的物質の検出にはいくつかの方法が知られている。一般的な方法は、適当な方法で蛍光色素を導入した標的物質を含む試料溶液と、バイオアレイとを接触させ、反応終了後に未反応の試料溶液を洗い流し、レーザーなどによって標識物質を励起させ、その蛍光を観測するというものである。
【0006】
蛍光を観測する方法としては、特許文献2のように蛍光色素をレーザー光によって励起し、蛍光を光電子倍増管などで走査しながら観測する方法、あるいは蛍光を共焦点顕微鏡で観測する方法、特許文献3のようにエバネッセント光で励起する方法などがある。また、励起光源としてレーザーの代わりにランプを用い、撮像素子としてCCDやCMOSを用いる場合もある(特許文献4)。
【0007】
ここで、共焦点顕微鏡を用いた観測は、被写界深度が浅いことから、洗浄工程が省略できるという長所がある。
【0008】
また、エバネッセント光を利用した場合、励起される範囲が基板表面近傍のみしか励起されないことから、特許文献5に記載されているように、バイオアレイのプローブと標的物質との反応が終了した後の洗浄工程が省略できるという長所がある。しかしながら、エバネッセント光を用いた検出であっても、光散乱など迷光によるバックグラウンドが高くなる現象がある。これに関して特許文献7では、バイオアレイではないがスラブ型光導波路の表面に抗体を固定しておき、試料溶液中の抗原の量を、エバネッセント光を利用して蛍光強度から測定する方法に於いて、迷光を防ぐ目的で水溶性色素等を添加する方法が公開されている。
【0009】
また、光源にランプを用い、CCDやCMOSを用いて検出する方法は、装置構成を単純化できるという長所がある。
【0010】
一方、生体試料の高感度検出方法として化学発光法も知られている。化学発光反応を用いて生体試料を検出する方法は、従来イムノアッセイにおいて用いられている。イムノアッセイでは、まず抗原抗体反応を用いて標的物質を含む複合体を形成する。次に、検出マーカーとなる物質を複合体に標識し、発光反応を行うことにより発光信号の検出を行う。
【0011】
特許文献8には、マイクロウエルプレート上での化学発光検出を実現するための発光検出装置が開示されている。この装置は、マイクロアレイプレートを保持する保持手段と、マイクロアレイプレートに形成された微小ウエルの間隔と同じ間隔で先端を微小ウエルに挿入可能な複数の光伝導ガイドと、を有する。この装置は更に、光伝導ガイドと組み合わされて個々の微小ウエルに発光反応の基質溶液を導入するための基質溶液注入手段を有する。
【特許文献1】特開2004−115616号公報
【特許文献2】米国特許6628385号公報
【特許文献3】特許第3783826号
【特許文献4】特開2000−235035号公報
【特許文献5】特許第3448654号
【特許文献6】米国特許6733977号公報
【特許文献7】特許3326708号
【特許文献8】国際公開WO2003/31952号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、走査する検出法は測定に時間がかかると言う問題点があった。
【0013】
また、共焦点顕微鏡を応用した測定装置は大型に成りやすいという問題点があった。
【0014】
さらに、蛍光を利用した方式において、エバネッセント光を利用する方法では、高効率で且つ再現性良く入射光を導入するためには、バイオアレイの加工(光導波路の設置、平坦性)や装置への載置時に高い精度が必要という課題があった。
【0015】
また、光源にランプを用いCCDやCMOSにより検出する場合、装置は単純であるものの、被写界深度が深く、溶液中の蛍光試料によるバックグラウンドが高くなるという課題があった。さらに、例えば特許文献6のような化学反応カートリッジにした場合、天板のプラスティックの自家蛍光によりバックグラウンドが高くなるという問題点もあった。
【0016】
発光を利用した方式においても、未反応の標的物質を除去後、標的物質に検出マーカーとなる物質を複合体に標識し、さらに発光のための試薬と結合させる必要があり、検出に他段階を必要としていた。
【0017】
本発明は、上記課題・問題点に鑑みてなされたものであり、試料溶液中に含まれる標的物質を検出する際に、容易に測定可能であり、かつ、バックグラウンドを低くすることのできるバイオアレイの検出方法の確立を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る標的物質の検出方法は、
試料溶液中に含まれる標的物質と、反応容器内の透光性基板の表面に固定され、前記標的物質に特異的に結合しうるプローブとを反応させ、前記プローブと反応した標的物質が有する発光物質から発せられる発光を検出することにより、前記試料溶液中の前記標的物質の有無または量を検出する方法であって、
前記試料溶液が光不透過性粒子を含有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る標的物質の検出方法は、
試料溶液中に含まれる標的物質と、反応容器内の透光性基板の表面に固定され、前記標的物質に特異的に結合しうるプローブとを反応させ、前記プローブと反応した標的物質が有する発光物質から発せられる発光を検出することにより、前記試料溶液中の前記標的物質の有無または量を検出する方法であって、
前記標的物質と前記プローブとを反応させた後に、前記試料溶液を光不透過性粒子の分散液に置換し、前記発光を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の検出方法によって、試料溶液中の標的物質の有無又は量を容易に検出でき、かつ、バックグラウンドを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
試料溶液中の標的物質と反応させるプローブを固定した透光性基板としてはバイオアレイを好適に用いることができる。バイオアレイとは、ガラスや石英などの基板(担体)に、複数種類のプローブを2次元状に固定化したものを言う。このようなバイオアレイの一例としてDNAチップがあげられる。DNAチップとは、基体としての固相担体(基板)にプローブ核酸が1乃至複数固定された物である。核酸からなるプローブ(プローブ核酸)を用いる場合、一般にプローブ核酸は、リンカーを介して基板に固定化されていることが多い。リンカーとしては、例えばプローブ核酸がcDNAのような場合にはポリ−L−リジンの利用がよく知られている。また、プローブ核酸がアミノ修飾オリゴヌクレオチドの場合は、アミノ基と反応するエポキシ基、カルボキシル基(必要によってスクシンイミドエステルなど活性化させたものを含む)などを基板表面に設ける方法なども知られている。また、メルカプト基修飾オリゴヌクレオチドの場合は、例えば、スライドガラス表面をアミノシランカップリング剤により処理した上で、EMCS(N−(6−マレイミドカプロキシルオキシ)スクシンイミド)などの二価性試薬を介して固相化することができる。また、作製したプローブ核酸を基板に結合させる方法以外にも、フォトリソグラフィー技術によって、基板上で核酸を合成する方法もある。
【0022】
DNAチップ・プロテインチップのように、従来から核酸やタンパク等の生体内分子を検出するため、既知配列をもつ核酸やタンパク(例えば抗体)をプローブとしてハイブリダイズする方法が多く用いられてきた。例えば核酸をハイブリダイゼーションにより検出する場合は、まず、固定したプローブ核酸に蛍光物質を標識したサンプル核酸を入れてハイブリダイズさせる。次に、サンプル核酸がプローブ核酸に結合すると、プローブ核酸と一緒に固定され、光源からの励起光で蛍光物質を励起し、発光する蛍光を検出することでターゲットとする核酸を検出していた。
【0023】
ここで、従来技術のバイオアレイによる標的物質の検出について、DNAチップを用いた場合を例に挙げて説明する。
【0024】
DNAチップを用いた場合、標的物質は標的核酸となるが、ここでは例として血液検体に含まれる核酸を標的とした場合について説明する。まず、血液検体に含まれる核酸を常法により抽出し、必要によってPCR(ポリメラーゼ チェーン リアクション)などの核酸増幅方法によって標的物質としての標的核酸を増幅する。この時、蛍光で標識したプライマーを用いる方法、あるいは蛍光で標識したdNTPを増幅時に取り込ませる方法等によって、標的核酸を蛍光標識する。この蛍光標識された標的核酸を、液媒体としての緩衝溶液に溶解し、試料溶液とする。また、標的核酸の高次構造をほどくために、必要によって試料溶液にホルムアミドなどの変性剤や界面活性剤などを添加することもできる。この試料溶液をDNAチップ上に固定したプローブ核酸と接触させ、温度をかけて標的核酸とプローブ核酸とをハイブリダイゼーションさせる。必要によってアジテーションを行う。ハイブリダイゼーション反応が終了した後、核酸を含まない溶液でDNAチップを洗浄し、必要によって水でリンスした後、乾燥させて蛍光を測定し、DNAチップの面方向の二次元画像を得る。
【0025】
また、図1に示した例では、基板(101)に固定したプローブ核酸(103)とハイブリダイゼーションした標的核酸(104)が持つ蛍光物質(105)を検出する。基板(101)がカートリッジに包含されている場合は天板(102)により構成された天井が設けられている。検出方法としては様々な方法を利用できるが、ここでは装置のシンプル化が可能な例について説明する。まず、基板(101)下部から光源ランプ(106)により励起光を照射する。この時励起光のみを透過させる不図示の光学フィルタを設けてあっても良い。これによって励起された蛍光物質(105)は蛍光を発する。発せられた蛍光は、蛍光のみが透過する光学フィルタ(107)を通って、CCDやCMOS等の撮像素子に届く。撮像素子は不図示の方法によって得られた蛍光信号を二次元画像に変換する。透光性裏面に得られる蛍光による二次元画像は、一括して、あるいは複数分割で取得する。
【0026】
ここで、励起光としてエバネッセント光を利用すれば、基板表面近傍の蛍光物質(プローブ核酸にハイブリダイズした標的核酸に結合する蛍光物質)しか励起されない。しかし、図1のように、励起光としてエバネッセント光を使用せず通常の光を使用する形態では被写界深度が深く、洗浄工程を省略すると、試料溶液中に含まれる未反応の標的核酸に結合する蛍光物質が励起されてしまう。この結果、未反応の標的核酸も検出してしまい、バックグラウンドが高くなってしまうという問題があった。
【0027】
また、図1に示すように天板を有する形態の場合、ハイブリダイゼーション反応後に未反応の標的核酸を洗浄してから蛍光測定を行っても、天板(102)などが持つ自家蛍光を拾ってしまい、バックグラウンドが高くなってしまうと言う問題があった。
【0028】
そこで、発明者らは鋭意検討したところ、標的物質を含む試料溶液を光不透過性粒子により光不透過性とすることにより、基板に固定されたプローブに結合した標的物質を検出し、かつ、バックグラウンドを低減することができることを見出した。
【0029】
したがって、本発明に係る標的物質の検出方法は、
試料溶液中に含まれる標的物質と、反応容器内の透光性基板の表面に固定され、前記標的物質に特異的に結合しうるプローブとを反応させ、前記プローブと反応した標的物質が有する発光物質から発せられる発光を検出することにより、前記試料溶液中の前記標的物質の有無または量を検出する方法であって、
前記試料溶液が光不透過性粒子を含有することを特徴とする。
【0030】
この本発明の検出方法により、試料溶液中に含まれる未反応の標的物質が有する発光物質によるバックグラウンドを低減することができる。つまり、試料溶液を光不透過性とすることにより、基板表面近傍に存在する発光物質(透光性基板に固定されたプローブと反応した標的物質が有する発光物質)から発せられる発光のみ検出することができる。
【0031】
また、発光として蛍光を利用する場合でも、基板表面近傍に存在する発光物質にのみ励起光を照射し、試料溶液中の未反応の標的物質には照射しないようにすることができる。または、試料溶液中の未反応標的物質が有する蛍光物質に励起光が照射しても、その蛍光物質からの蛍光を遮断することができる。
【0032】
また、試料溶液中には未知の混在物が含まれている場合があり、この未知の混在物からの発光によりバックグラウンドが大きくなってしまう場合がある。また、混在物が有機系のものである場合には、励起光の照射により強い蛍光を発してしまうため、これがノイズとなってバックグラウンドが大きくなってしまう場合がある。本発明によれば、このような混在物からの発光や蛍光も遮断でき、バックグラウンドを低減することができる。
【0033】
さらに、本発明により、エバネッセント光や共焦点顕微鏡を用いずにCCDやCMOS等といった被写界深度が深い撮像素子を用いた場合でも、効率的にバックグラウンドを低減させることができる。
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0035】
(試料溶液)
本発明における「試料溶液」とは、少なくとも標的核酸を含有しうる溶液である。試料溶液としては、例えば血液、尿、唾液等の体液が含まれる。勿論、標的物質を含有すれば、体液以外の任意の溶液も試料溶液として本発明に係る検出方法に供することができる。また、試料溶液には、標的物質を精製し、プローブと特異的に結合しやすいように適宜調製した溶液も含まれる。例えば、標的物質がDNAである場合は、DNAを抽出し、ハイブリダイゼーション溶液に溶解させることにより、試料溶液を調製することができる。ハイブリダイゼーション溶液は、例えば、ホルムアルデヒド、SSC(NaCl,trisodium citrate)、SDS(sodium dodecyl sulfate)、EDTA(ethylenediamidetetraacetic acid)、蒸留水などからなる混合液であり、混合比率は使用する核酸の性質により異なる。
【0036】
(標的物質)
本発明における「標的物質」とは、存在あるいは量を測定する対象となる物質を言い、例えば核酸、抗原のようなタンパク質などの生化学物質があげられる。より具体的には、遺伝病の原因遺伝子、癌関連遺伝子、又はウイルス由来の核酸など疾病のマーカーとなり得る核酸や、癌マーカーとなり得るタンパク等が挙げられる。
【0037】
例えば、標的物質がある特定の核酸(標的核酸)である場合、標的核酸の由来元としては、例えば、人工合成産物、ヒトやマウスなどの動物、植物、細菌、真菌、古細菌、ウイルスなどの微生物等を挙げることができる。
【0038】
(発光物質)
本発明における「発光物質」としては、発光性を有し、標的物質を標識するものであれば特に限定されない。例えば化学的発光物質や、物理的発光物質、生物的発光物質等が挙げられる。化学的発光物質としては、例えば、ルミノール、イソルミノール又はベンゾペリレン等のルミノール類等が挙げられる。また、生物的発光物質としては、例えばペルオキシダーゼ(POD)、アルカリホスファターゼ(ALP)等の酵素が挙げられる。また、発光物質は「蛍光物質」も含む概念である。「蛍光物質」とは、励起光により蛍光する物質であって、標的物質を蛍光標識するものをいう。標的物質を蛍光物質で標識することで、標的物質のスクリーニングが可能となる。この蛍光物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ローダミン、フルオレセイン、Cy3、Cy5などを挙げることができる。
【0039】
例えば標的物質が核酸である場合は、蛍光物質としては、励起波長が532nmのCy3や、同じく633nmのCy5などを用いることができる。また、PCRにより増幅するときに、蛍光標識したdNTPを取り込ませる方法もある。標的物質が抗原などタンパク質の場合は、例えばあらかじめ標的物質にビオチンを組み込んでおき、蛍光標識でラベル化したストレプトアビジンなどと反応させることができる。またはスクシンイミジルエステル基を導入した蛍光標識とこれらタンパク質とを反応させて蛍光標識可能である。いずれの場合も市販のタンパク質蛍光標識キットが使用でき、蛍光色素としてはAlexa Fluorシリーズ、Cy5、Cy3などが使用される。
【0040】
また、標的物質を蛍光物質で標識するのは、標的物質がプローブと反応する前であってもよいし、反応した後でもよく、特に限定されるものではない。
【0041】
(プローブ)
本発明における「プローブ」とは、標的物質と特異的に結合する物質の総称である。特に限定されるものではないが、標的物質が核酸の場合は、例えばその相補配列を有するDNAやRNAをプローブ(プローブ核酸)とすることができる。また、標的物質が抗原の場合は、抗体などのその抗原を認識し、特異的に結合するような物質をプローブとすることができる。また、標的物質となる特定配列の核酸やタンパク質を特異的に結合しうるものでなくても、例えばマイナーグルーブバインダー(MGB)やインターカレーターのように、核酸のみと特異的に結合する物質やタンパク質のみと特異的に結合する物質をも含む。また、透光性基板に固定されるプローブは1種類に限られるものではなく、複数種類であってもよい。
【0042】
なお、プローブ核酸は、個々のポリヌクレオチド分子などのプローブ機能を有するプローブ分子そのものを意味する場合と、分散した状態等で担体表面に固定された同じ配列のポリヌクレオチドなどの同じプローブ機能を有するプローブ分子の集団を意味する場合がある。また、本発明に採用されるプローブ核酸は、その使用目的に応じて適宜選択されるものである。例えば、本発明の方法を好適に実施する上で、プローブ核酸としては、DNA、RNA、cDNA(コンプリメンタリーDNA)、PNA(ペプチド核酸)、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、その他の核酸あるいはその類縁体等を挙げることができる。また、必要に応じてこれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。また、人工的に合成されたオリゴDNAや、バクテリア等のベクターで合成したBAC DNA、cDNA等も用いることができる。プローブ核酸の塩基長は、短鎖のオリゴDNAで10〜100mer程度、長鎖のBACDNAで数kmer程度が好適に用いられる。例えば、16s rRNAを検査するプローブ核酸として、特開2007−014351号公報で開示されている。また、例えば、大腸がんの検査のためのプローブ核酸として、特開2007−159491公報で開示されている。
【0043】
また、プローブは、基板上にタンパク質と結合する官能基を設けたものであってもよい。官能基としては陰イオン交換が可能なもの、陽イオン交換が可能なもの、銅イオン、ニッケルイオン、ガリウムイオン、鉄イオンなどの金属イオンを導入したものなどが挙げられる。
【0044】
なお、標的物質とプローブとの組み合わせとしては、例えば、酵素−基質、補酵素−酵素、抗原−抗体、リガンド−レセプター、DNA−DNA、DNA−RNA、RNA−RNA、PNA−DNA、PNA−RNAなどを挙げることができる。しかし、本発明はこれらの組み合わせに限定されるものではない。
【0045】
(発光)
本発明における「発光」には、化学的な発光、物理的な発光、生物的な発光等がある。また、発光には蛍光も含まれ、蛍光とは、励起光により励起された蛍光物質から発せられる発光のことをいう。
【0046】
本発明は、DNAチップやプロテインチップなどのバイオアレイ上に結合した標的物質から発せられる発光を検出することにより、標的物質を検出することができる。特に以下の説明に限定するものではないが、DNAチップを例にあげて一形態について説明すると、基板上に固定されたプローブと、ビオチンなどで標識した標的核酸をハイブリダイゼーションさせる。次に未反応の標的物質を除去する。次にストレプトアビジン結合西洋わさび由来ペルオキシダーゼなどのようなストレプトアビジンと酸化酵素の複合体を反応させ、さらに未反応の複合体を除去する。続いてルミノール、過酸化水素溶液、p−ヨードフェノール溶液を含む溶液を接触させることでルミノールが発光し、プローブ−標的物質複合体の有無を検出できる。
【0047】
プロテインチップの場合も同様で、標的物質をあらかじめビオチンなどで標識しておけば、上記と同じ方法で検出可能である。
【0048】
本発明における発光は、バイオアレイの検出に用いることが可能であれば、上述した方式に限定されるものではない。
【0049】
(光不透過性粒子)
本発明で用いられる光不透過性粒子は、試料溶液、あるいは分散液を別途調製する場合の液媒体(例えば緩衝液)に対して不溶性の微粒子であって、発光、あるいは励起光を用いる場合は励起光及び蛍光の少なくとも一方の光を、吸収又は散乱する物質である。つまり、光不透過性粒子は、標的物質を標識する発光物質からの発光の少なくとも一部を遮ることができれば、本発明の効果を奏することができる。そして、発光物質として蛍光物質を使用する場合は、その蛍光物質から発せられる蛍光、あるいはその蛍光物質を励起する励起光の少なくともどちらか一方を遮ることができれば、本発明の効果を奏することができる。
【0050】
この光不透過性粒子を試料溶液に添加することで、試料溶液を光不透過性とすることができる。ここで、光不透過性とは、前述のように、発光、あるいは励起光を用いる場合は励起光及び蛍光の少なくとも一つの光を吸収あるいは散乱する性質をいう。また、光不透過性粒子は、光を全て吸収等する必要はなく、本発明の効果を有する程度の光不透過性を有すればよい。
【0051】
光不透過性粒子の材質としては、プローブと標的物質との反応を阻害しないものであることが好ましい。また、標的物質、その他溶液に含まれている成分を吸着しないことが好ましい。また、標的物質を吸着しないようにするために光不透過性粒子の表面を加工することも好ましい様態である。また、光不透過性粒子の密度は、下部から観測する場合は溶液中で浮上しない程度、上部から観測する場合は溶液中で沈殿しないことが好ましい。具体的には溶液中で沈澱あるいは浮上しないように溶液の密度と同じくらいのものを選択することが好ましい。さらには、凝集しないようにすることも好ましく、例えば、光不透過性粒子に電荷を持たせ、その斥力によって凝集しないようにすることが好ましい。しかし、粒子の電荷がプローブと標識物質との反応を阻害する可能性もあるため、プローブや標的物質の種類によっては避けた方がよい場合もある。このような材料としては、カーボンブラック粒子などの顔料、金属粒子、金属酸化物粒子、又はこれらの混合物などがあげられる。一般にプラスティックは自家蛍光を持つものが多く、標的物質を吸着するものも多いため、使用しない方が好ましい。なお、光不透過性粒子は適宜選択可能であり、ここにあげたものに限定されるものではない。
【0052】
光不透過性粒子の最適な粒径は、発光物質(例えば励起光を用いる場合は蛍光物質等)が基板表面からどのくらいの距離に位置するかによって変わってくる。すなわち、標的物質やプローブの種類によって変わってくる。また、基板表面と標的核酸との親和性の度合いによっても変わってくる。例えばDNAチップを例に挙げて説明すると、例えば16s rRNA遺伝子の約1.5kbpを標的核酸とした場合、仮に直線状になったとするとその長さは約500nmである。しかしながら、温度や変性剤の有無にもよるが、高次構造をとるためもっと基板表面に近い位置となる。また、同様の理由で、これよりも短いDNAでも長いDNAでもそれほど基板表面からの距離は大きく異ならず、プローブとハイブリダイゼーションする部分近傍以外は、大体50nm乃至300nmの範囲に標的核酸が位置することになる。この距離よりも光不透過性粒子の粒径が小さすぎると、発光物質(例えば蛍光物質)と基板表面の間に入り込み、発光(例えば蛍光)のシグナル強度が弱くなる場合がある。逆に、光不透過性粒子の粒径が大きすぎると、未反応の標的物質が持つ発光物質(例えば蛍光物質)からの発光(例えば蛍光)が観測されやすくなり、バックグラウンドが高くなる場合がある。
【0053】
発光物質(例えば励起光を用いる場合は蛍光物質)が基板からどれくらい離れた位置に存在するかについて調べる場合は、例えば、特許文献9(特開2007−40979号公報)に記載の方法を用いることができる。この特許文献9には、エバネッセント光を利用した物質の位置情報や変位情報を得る方法が記載されており、この方法を用いることで、蛍光物質が基板表面からどのくらいの距離にいるかを測定し、最適な粒径を選ぶことができる。
【0054】
ここで、粒径が小さく発光物質(例えば蛍光物質)と基板との間に入り込む物質として、例えば水溶性の染料等の分子が考えられる。図4(励起光を用いる構成)のように染料の分子は小さく、基板表面と蛍光物質(105)との間に入り込む。このようになると標的物質(図4では標的核酸)に結合する蛍光物質(105)は励起されず、蛍光を検出することができなくなってしまう。したがって、本発明では、図5に示すように、不溶性の微粒子を溶液に懸濁させて用いる。染料分子よりも大きな微粒子を懸濁させた試料溶液では、図5に示すように、プローブと反応した標的物質の持つ蛍光物質に励起光は届くが、試料溶液中を浮遊する未反応の標的物質の蛍光物質には届かない。あるいは、励起光が到達する未反応の標的物質の割合を効果的に低減できる。
【0055】
また、光不透過性粒子の粒径は、予想される発光(例えば蛍光物質)と基板表面との距離の半分から2倍程度が好ましい。しかしながら、本発明はこの値に限定されるものではない。
【0056】
プローブにタンパクを用いるプロテインチップや糖鎖チップの場合はより粒径の選択が重要となる。タンパクは核酸よりもジスルフィド結合などにより強固に高次構造が形成され、さらに大きさも千差万別である。したがって、タンパクと一言に言っても、発光物質(例えば蛍光物質)と基板表面との距離がどのくらいになるかは、タンパクによって大きく異なる。特にバイオマーカー探索などに利用されるプロテインチップでは種々のタンパクがプローブに結合しうるため、発光物質がどのくらいの距離に位置するかを予測することや、全てのタンパクにおいて発光物質の位置を同じくらいに設定することは難しい。したがって、本発明が有効に活用できるのは、標的タンパクが特定されるような実施形態、すなわち患者検体から調製された試料溶液中にある疾患のバイオマーカーが存在するか否かを確認するような、臨床診断用に用いることが良い。ただし、用途はこれらに限定されるものではない。
【0057】
また、光不透過性粒子の添加量は、用いる材料や発光物質の種類等によって適宜調整することができる。
【0058】
(透光性基板)
本発明における透光性基板は、標的物質を検出するために用いる光(励起光、発光)を透過可能な材料からなる。例えば、標的物質の検出に蛍光を用いる場合は、励起光および蛍光が透過する必要がある。また、例えば検出に発光を用いる場合(励起光は用いない場合)は、その発光が透過できる必要がある。また、標的物質の検出にその他の光学的検出を用いる場合は、それに応じて検出に使われる波長の光が透過しうる材質が用いられる。透光性基板の材料として、例えば、ガラス、石英、樹脂等を用いることができる。好適には光吸収の少ない合成石英ガラスが用いられる。
【0059】
例えば、標的物質が核酸である場合、プローブ核酸を固定する基板は、目的とする検査の形態に応じて適宜選択でき、プローブ核酸の固定領域を有する平面を構成する基板が好適に用いられる。基板は、石英や硼珪酸等のガラスや、樹脂で形成することができ、多孔質にすることもできる。通常は板状であるが、これに限定されるものではなく、基板に流路を形成することもできる。透光性基板表面のプローブ核酸の固定領域を含む部分が反応領域として利用される。
【0060】
(蛍光の検出方法)
発光物質として例えば蛍光物質を使用することができるが、蛍光物質の検出は、励起光で蛍光物質を励起して蛍光させ、透光性基板を透過して出てくる蛍光を基板外側で検出することによる。励起光の光源としては、例えば、波長域が約300〜700nmであるキセノンランプを使用することができる。
【0061】
本発明では、蛍光はCCDやCMOS等の撮像素子に検出されることが特に好ましい。撮像素子は得られた蛍光信号などの信号を二次元画像に変換する。CCDやCMOS等の撮像素子は共焦点方式に比べ被写界深度が深く、溶液中のバックグラウンドの影響を強く受けてしまうが、本発明を用いることによりバックグラウンドを低減させることができる。したがって、本発明の実施にCCDやCMOS等の撮像素子を用いることにより、測定時間の短縮化、装置構成の単純化及びバックグラウンドの低減を同時に図ることができる。
【0062】
以下、本発明について、図2を用いて詳細に説明する。以下は、発光物質として蛍光物質を使用し励起光を用いる場合の実施形態について説明するが、特に本発明を限定するものではない。
【0063】
プローブ(103)が固定された透光性基板(101)を有する反応槽に試料溶液を注入し、プローブと標的物質(104)を含む試料溶液を反応させる。図2の試料溶液は光不透過性粒子(不図示)の添加により光不透過性の試料溶液(105)となっている。このように試料溶液を光不透過性としても、プローブ(103)と反応した標的物質(104)は基板表面近傍にあることから、標的物質が有する蛍光物質(105)に励起光が到達し、その蛍光物質(105)から発せられる蛍光も撮像素子(108)で検出可能である。一方、基板表面から遠い位置にある未反応の標的物質(110)までは励起光が到達しない、又は到達してもその蛍光が遮られるため、未反応の標的物質が有する蛍光物質由来のバックグラウンドは低減される。したがって、未反応の標的物質を洗浄する工程を省略し、1段階で検出することができる。
【0064】
さらに、このような実施形態では、ハイブリダイゼーション反応開始から、プローブと結合した標的物質の量の経時変化を経時的に取得することも可能である。すなわち、例えば開始時から2時間と予め設定した時間ハイブリダイゼーション反応を行うのではなく、一定時間ごとに結合量を測定し、ある閾値を超えた時点で、標的物質が試料溶液中に存在すると判断することができる。このようにすることで、検出時間を短縮化することも可能である。
【0065】
また、標的物質とプローブとを反応させてから試料溶液に光不透過性粒子を添加してもよく、反応槽に注入する前に試料溶液に光不透過性粒子を添加してもよい。蛍光を検出する際に試料溶液が光不透過性となっていれば、バックグラウンドを低減できる。
【0066】
以上、標的物質が含まれる試料溶液を光不透過性とすることにより、洗浄工程が不要で、かつバックグラウンドを低減することのできる、本発明の検出方法について説明した。しかし、本発明は、上記の標的物質が含まれる試料溶液を光不透過性とする形態に限られるものではなく、蛍光の検出時に透光性基板上の溶液が光不透過性となっていればよい。つまり、本発明の他の形態として、まず、試料溶液を反応槽に注入して標的物質とプローブとを反応させ、次に、試料溶液を反応槽から排出した後に、光不透過性の分散液を反応槽に注入し、蛍光を検出するという形態もとることができる。
【0067】
この場合、本発明に係る標的物質の検出方法は以下のように表される。
【0068】
本発明に係る標的物質の検出方法は、
試料溶液中に含まれる標的物質と、反応容器内の透光性基板の表面に固定され、前記標的物質に特異的に結合しうるプローブとを反応させ、前記プローブと反応した標的物質が有する発光物質から発せられる発光を測定することにより、前記試料溶液中の前記標的物質の有無または量を検出する方法であって、
前記標的物質と前記プローブとを反応させた後に、前記試料溶液を光不透過性粒子の分散液に置換し、前記発光を測定することを特徴とする。
【0069】
この本発明について図3を用いて説明する。図3では、ハイブリダイゼーション反応が終了した後に、標的物質が含まれない溶液(例えば緩衝液)で未反応の標的物質を洗浄・除去し、光不透過性粒子の分散液(109)を反応槽に注入し、蛍光を検出している。従来では、洗浄後にそのまま又は乾燥させてから蛍光を測定していたが、天板(102)などが持つ自家蛍光を拾ってしまい、バックグラウンドが高くなってしまうと言う問題があった。一方、本発明のように光不透過性粒子の分散液(109)を反応槽に注入した場合は、励起光は天板(102)まで届かない。また、仮に届いたとしても蛍光は光不透過性粒子の分散液で遮られ、撮像素子(108)まで届かず、天板(102)の自家蛍光がバックグラウンドとして観測されることはない。標的物質が持つ蛍光物質は基板表面に近いことから光不透過性粒子の分散液を充填しても光源ランプ(106)からの励起光によって励起され、蛍光も充分に撮像素子(108)等の検出装置まで到達可能である。
【0070】
例えば、バイオアレイがカートリッジ化されている場合に、本発明は有効である。カートリッジとは、核酸におけるハイブリダイゼーション反応のようにプローブと標的物質との反応を行う反応チャンバ、そこに試薬などを供給する流路などを、反応容器として1つの筐体中にまとめた小型のシステムを言う。このようなカートリッジでは、筐体中に設けた中空部の底部にプローブを固定した透光性基板を配置し、中空部の天井と透光性基板との間に反応領域を設けた構成とする。カートリッジは、必要な試薬を包含しても良く、その場合、必要な時点で反応領域に試薬を供給するための構造をカートリッジに付与しておく。例えば、μTAS(Micro Total Analysis System)に代表されるような、数cm角程度のガラスやシリコン等のチップ上に送液、混合、反応、分析等の機能部を集積化した化学・生化学分析統合システムがある。一般に、バイオアレイのカートリッジには上述した天井部分を構成する天板が設置されており、その天板が有する自家蛍光によりバックグラウンドが高くなってしまう。したがって、本発明を用い、蛍光を測定する際に光不透過性の溶液をバイオアレイに注入することにより、天板からの蛍光をなくし、バックグラウンドを低減することができる。
【0071】
ハイブリダイゼーション終了後、試料溶液を光不透過性の溶液に置換する際には、反応槽を洗浄することが好ましい。例えば、緩衝溶液、水などで未反応の標的物質を洗い流すことができる。
【0072】
光不透過性粒子の分散液は、例えば水や緩衝液等の液媒体に光不透過性粒子を添加し、分散液を光不透過性とすることにより調製することができる。緩衝液としては特に限定されるものではないが、例えば、前記ハイブリダイゼーション溶液と同じ組成で標的物質を含まない溶液が好ましいが、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液又はリン酸緩衝生理食塩水等を使用することができる。
【0073】
また、光不透過性粒子の濃度の好ましい範囲は天板が持つ自家蛍光の量によって異なるが、目安として目視で天板が確認できない程度であれば充分である。例えば天板の材質がポリオレフィンの場合は光透過度が90%以下でも効果が認められ、好ましくは50%以下がよい。20乃至30%以下になるとその効果はほとんど差がなくなる場合がある。また光不透過性粒子の種類にもよるが、高濃度で用いると流動性が悪くなり、プローブと標的物質の反応効率にも影響する。なお、光不透過性粒子の分散液の濃度は天板の持つ自家蛍光などによって異なるが当業者によって適宜変更可能であり、これらに限定されるものではない。
【0074】
以下、バイオアレイ、プローブおよび標的物質の例について説明する。しかし、本発明を限定するものではない。
【0075】
例えば菌血症起炎菌特定のための遺伝子検査を目的としたDNAチップの場合、16s rRNA遺伝子の約1.5kbpを標的核酸とすることが考えられる。また、早期大腸がんの検査を目的とした場合、PAP遺伝子、REG1A遺伝子、DPEP1遺伝子などのmRNAをテンプレートとして、逆転写によってcDNA化した核酸を標的核酸としてその量を検出することができる。
【0076】
また、DNAチップの他にも、バイオアレイとしてプロテインチップが挙げられる。プロテインチップは様々な用途に用いられるが、例えばガンマーカーの検出に利用される。例えば、非特許文献 Use of proteomic patterns in serum to identify ovarian cancer. Lancet, 359, 572-577(2002)ではAdamらによる、プロテインチップの前立腺ガンマーカー探索が報告されている。さらには、複数の抗体をプローブとして基板に固定した抗体チップも開発されており、異なる環境下で発現している抗原を測定することが可能である。
【0077】
また、バイオチップとして糖鎖チップも挙げられる。糖鎖チップはD. Wangらによって公開された(Nat Biotechnol., 20, 234-235(2002))。これはニトロセルロースをスライドガラスにコートし、これに高分子複合糖質および多糖をプローブとして、高分子デキストラン添加によって、非共有結合的に固定させたものである。このような糖鎖チップに、例えば蛍光標識したレクチンを標的物質として反応させるなどの用途に用いる。
【0078】
なお、本明細書中に用いられる、バイオアレイ、プローブ、標的物質はこれらに限定されるものではない。
【0079】
次に発光法を用いた場合の例について説明する。
【0080】
発光によりプローブを検出する方法は上述したとおりビオチンなどで標識した標的物質をプローブと反応させる。次に未反応の標的物質を除去する。次にストレプトアビジン結合西洋わさび由来ペルオキシダーゼなどのようなストレプトアビジンと酸化酵素の複合体を反応させ、さらに未反応の複合体を除去する。続いてルミノール、過酸化水素溶液、p−ヨードフェノール溶液を含む溶液を接触させることで、プローブ−標的物質複合体の有無を検出できる。
【0081】
従来の方法では各段階で未反応の物質を除去する洗浄工程が必要であった。しかしながら本発明を適用させれば、図6のように未反応の各試薬が残存していてもプローブと反応した発光物質が発光した光のみが観測できる。したがって未反応の洗浄工程を省略することが可能であり、工程の短縮化が可能である。
【0082】
なお、上述した発光による検出方は一例であり、既知の方法から当事者によって適宜選択可能であり、本試薬に限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
(実施例1、2、比較例1、2)
(1)基板作製
1インチ×3インチ角の合成石英ガラス基板を、純水ブラシ洗浄、純水リンス、アルカリ性洗剤超音波洗浄、純水リンス、純水超音波洗浄、純水リンス、窒素ブロー乾燥にて洗浄し、清浄面を有する石英ガラス基板を用意した。
【0084】
アミノシランカップリング剤(商品名:KBM-903;信越化学工業(株)社製)を1重量%になるように水に溶解し、30分間撹拌してメトキシ基を加水分解させた。この水溶液にスライドガラスを30分間浸漬させた後、取り出して純水で洗浄し、オーブン中120℃で1時間ベーク処理を行った。真空オーブンにてベークさせると5分程度でもよい。
【0085】
次いで、EMCSを0.3mg/mlとなるように1,4−ジオキサンに溶解する。ベーク処理したアミノ基導入石英ガラス基板をEMCS溶液に室温で2時間浸漬して、表面にマレイミド基を導入した。EMCS溶液処理後、基板を洗浄し、窒素雰囲気下で乾燥させた。
【0086】
(2)プローブDNAの合成
本実施例においてプローブは、検出しようとする標的核酸の全部または一部に対して相補的な塩基配列を有し、該標的核酸の塩基配列と特異的にハイブリダイズすることで該標的核酸を検出することが可能な一本鎖核酸を用いる。DNA自動合成機を用いて配列番号1の一本鎖核酸を合成した。なお、配列番号1の一本鎖DNA末端にはDNA自動合成機での合成時にチオールモディファイア(Thiol−Modifier)(グレンリサーチ(GlenResearch)社製)を用いる事によってメルカプト基を導入した。続いて通常の脱保護を行い、DNAを回収し、高速液体クロマトグラフィーにて精製した。
【0087】
5’HS- CGTACGATCGATGTAGCTAGCATGC 3’(配列番号1)
(3)プローブの固定
上記(2)で合成したDNA断片(配列番号1)をグリセリン15%、尿素15%、ジエチレングリコール9%、アセチレンアルコール(商品名:アセチレノールE100;川研ファインケミカル(株)社製)0.01%を含む水溶液に、約9μMになるよう溶解させた。
【0088】
これらのDNA断片を含む水溶液をインクジェット法で、上記(1)の方法によって作製したスライドガラスに別々にスポッティングする。さらに室温で30分間放置し、1MNaCl/50mMリン酸緩衝溶液(pH7.0)、純水で洗浄して乾燥させた。
【0089】
(4)反応カートリッジの作製
(3)で作製したDNAチップのプローブ固定領域にマイクロアレイチャンバ(ABgene社製)を用いて厚さ約0.5mmの反応チャンバを作製した。
【0090】
(5)ハイブリダイゼーション
本実施例では、標的核酸は実際のPCR産物ではなく、モデル化合物として合成オリゴヌクレオチドを用いた。DNA自動合成機にて配列番号1と相補である配列番号2のオリゴヌクレオチドを合成した。この際5’末端にCy3にて標識をした。常法により脱保護を行い、DNAを回収し、高速液体クロマトグラフィーにて精製した。
【0091】
5’Cy3- GCATGCTAGCTACATCGATCGTACG 3’(配列番号2)
配列番号2のオリゴヌクレオチドを0.1%SDS,1M NaCl/50mMリン酸緩衝溶液(pH7.0)に25nMになるように溶解させて、試料溶液を調製した。
【0092】
調製した試料溶液に平均粒子径55nmのカーボンブラック(三菱化学製、MA220)を2%となるように添加し、光不透過性の試料溶液Aを調製した。
【0093】
また、試料溶液に粒径100nmの金属粒子(商品名:nanomag-D-spio plain、マイクロモッド社製)を5mg/mLとなるように添加し、光不透過性の試料溶液Bを調製した。
【0094】
これらの試料溶液、光不透過性の試料溶液A及び光不透過性の試料溶液Bを(4)で作製した反応カートリッジの反応チャンバ内にチャンバ毎に注入し、蒸発しないように密閉した。これを50℃に加熱し、30分間ハイブリダイゼーションさせた。なお、試料溶液の場合を比較例1、光不透過性の試料溶液Aの場合を実施例1、光不透過性の試料溶液Bの場合を実施例2とする。
【0095】
(6)蛍光測定
上記ハイブリダイゼーション反応終了後のDNAチップを図1のような蛍光検出装置にて検出を行った。光源にはグリーンレーザー(J300GS、昭和オプトロニクス(株)製、出力300mW、波
長532nm)を用い、このレーザー光をビームエキスパンダーでエキスパンドし、プローブ固定領域全面が励起されるようにした。検出装置には550nmより短波長の光をカットする光学フィルタを設けたMP-E65mm F2.8 1-5×マクロレンズ(キヤノン社製)を用いてEOS 30D(キヤノン社製)にてISO感度100、F=2.8、露光時間10秒にて撮影を行った。
【0096】
また、比較例2として、比較例1と同様にハイブリダイゼーションを行った後に、試料溶液を0.1×SSCで置換したものも同様の条件で測定した。
【0097】
得られた二次元画像をデータ処理して、バックグラウンドとスポット部分のシグナル強度に変換した。その結果を表1に示した。
【0098】
【表1】

【0099】
比較例1ではバックグラウンドの蛍光強度が約59,000となり、スポットを認識することはできないほどであった。しかしながら、実施例1のバックグラウンドは4,000となり、蛍光物質の入っていない比較例2の約3,500と同程度であった。このことから微粒子(カーボンブラック)が、励起光が未反応の標的物質の蛍光物質に到達するのを防止し、本発明の実施系ではない比較例1に比べて大幅にバックグラウンドを低下させることができることが確認された。実施例2では微粒子の量が少ない例を示している。5mg/mLの微粒子量ではほとんどの光が透過する程度の濃度であるが、それでも比較例1と比べると検出が可能なレベルである。
【0100】
(実施例3、比較例3)
実施例1の(3)で作製したDNAチップに、透明ポリオレフィンにて厚さ0.5mmのハイブリチャンバを作製した。ハイブリチャンバには溶液を注入する注入口と溶液を排出する排出口を備えている。
【0101】
このハイブリチャンバに上記の試料溶液を注入し、これを50℃に加熱し、1時間ハイブリダイゼーションさせた。ハイブリダイゼーション反応終了後、0.1%SDS,1M NaCl/50mMリン酸緩衝溶液(pH7.0)にて洗浄及び置換した後、蛍光を検出した。これを比較例3とする。
【0102】
また、比較例3と同様にハイブリダイゼーション反応を行い、0.1%SDS,1M NaCl/50mMリン酸緩衝溶液(pH7.0)にてチャンバ内を洗浄した後、光不透過性の溶液を注入し、蛍光を検出した。光不透過性粒子の分散液は、0.1%SDS,1M NaCl/50mMリン酸緩衝溶液(pH7.0)にChargeSwitch(米国登録商標)gDNA 50-100ul Blood Kit(インビトロジェン社製)の磁気ビーズを12.5mg/mLになるように添加して調製した。これを実施例3とする。
【0103】
上記ハイブリダイゼーション反応終了後のDNAチップを図1のような蛍光検出装置にて検出を行った結果を表2に示す。光源にはグリーンレーザー(出力200mW、波長532nm)を用い、このレーザー光をビームエキスパンダーでエキスパンドし、プローブ固定領域全面が励起されるようにした。検出装置には550nmより短波長の光をカットする光学フィルタを設けたMP-E65mm F2.8 1-5×マクロレンズ(キヤノン社製)を用いてEOS 30D(キヤノン社製)でISO感度200、F=2.8、露光時間1/60秒にて撮影を行った。
【0104】
【表2】

【0105】
比較例3では天板のバックグラウンドが約29,000と非常に高いが、微粒子を添加した実施例3ではバックグラウンドが約4,500と非常に低下し、S/N値が顕著に増加している。
【0106】
以上説明したように、本発明の検出方法によって、撮像素子にCCDやCMOSと言った被写界深度の深い検出装置であっても、プローブと未反応の標的物質の蛍光色素や反応
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】従来例の検出方法を説明する概念図である。
【図2】本発明の一実施形態を表す概念図である。
【図3】本発明の一実施形態を表す概念図である。
【図4】染料を用いた場合の模式図である。
【図5】本発明の一実施形態を表す概念図である。
【図6】本発明の一実施形態を表す概念図である。
【符号の説明】
【0108】
101 透光性基板
102 天板
103 プローブ
104 標的物質
105 蛍光物質
106 光源ランプ
107 光学フィルタ
108 撮像素子
109 光不透過性溶液
110 未反応の標的核酸
111 染料分子
112 光不透過性粒子
113 ルミノール
114 酸化酵素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中に含まれる標的物質と、反応容器内の透光性基板の表面に固定され、前記標的物質に特異的に結合しうるプローブとを反応させ、前記プローブと反応した標的物質が有する発光物質から発せられる発光を検出することにより、前記試料溶液中の前記標的物質の有無または量を検出する方法であって、
前記試料溶液が光不透過性粒子を含有することを特徴とする標的物質の検出方法。
【請求項2】
試料溶液中に含まれる標的物質と、反応容器内の透光性基板の表面に固定され、前記標的物質に特異的に結合しうるプローブとを反応させ、前記プローブと反応した標的物質が有する発光物質から発せられる発光を検出することにより、前記試料溶液中の前記標的物質の有無または量を検出する方法であって、
前記標的物質と前記プローブとを反応させた後に、前記試料溶液を光不透過性粒子の分散液に置換し、前記発光を測定することを特徴とする標的物質の検出方法。
【請求項3】
前記反応の開始時から前記発光を経時的に検出することを特徴とする請求項1に記載の標的物質の検出方法。
【請求項4】
前記光不透過性粒子の分散液は、水又は緩衝液に前記光不透過性粒子を添加して調製したことを特徴とする請求項2に記載の標的物質の検出方法。
【請求項5】
前記反応容器に設けた中空部の底部に前記透光性基板を配置し、該中空部の天井と該透光性基板との間に前記プローブと前記標的物質が反応する領域を設けたカートリッジを用いることを特徴とする請求項2又は4に記載の標的物質の検出方法。
【請求項6】
前記光不透過性粒子は、前記試料溶液又は前記分散液の液媒体に対して不溶性の微粒子であって、前記発光物質から発せられる発光の少なくとも一部を吸収あるいは散乱する物質であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの請求項に記載の標的物質の検出方法。
【請求項7】
前記発光物質は、励起光により励起されて蛍光を生じる蛍光物質であり、
前記励起光は、前記透光性基板の外側から前記蛍光物質に照射され、
前記光不透過性粒子は、前記試料溶液又は前記分散液の液媒体に対して不溶性の微粒子であって、前記励起光及び前記蛍光のうち少なくとも一方の光を吸収あるいは散乱する物質であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかの請求項に記載の標的物質の検出方法。
【請求項8】
前記光不透過性粒子は、カーボンブラック粒子、金属粒子若しくは金属酸化物粒子又はそれらの混合物であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの請求項に記載の標的物質の検出方法。
【請求項9】
前記蛍光の検出を、前記透光性基板の面方向の二次元画像の取得により行うことを特徴とする請求項7又は8のいずれかの請求項に記載の標的物質の検出方法。
【請求項10】
前記プローブが前記透光性基板に複数種類固定されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかの請求項に記載の標的物質の検出方法。
【請求項11】
前記標的物質は核酸であって、前記プローブは前記標的核酸に特異的に結合する核酸であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかの請求項に記載の標的物質の検出方法。
【請求項12】
前記光不透過性粒子の粒径が、50nm乃至300nmであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかの請求項に記載の標的物質の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−186220(P2009−186220A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23966(P2008−23966)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】