説明

バイオエレクトロケミカルシステム用の導電性繊維と、この導電性繊維を有する電極と、この電極を有するシステム

【課題】バイオ電池の生産やバイオエレクトロケミカルシステム、特にバイオメディカル(生医学)システム、例えば酵素バイオセン、免疫バイオセンサ、DNA、RNAおよびバイオ電池の電極で使用される導電性繊維。
【解決手段】少なくとも一種のバイオポリマーから成る少なくとも一つの堆積物によって被覆された合体されたカーボンナノチューブ(nanotubes de carbone assembles)から成る導電性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオエレクトロケミカルシステム用の電気伝導性繊維に関するものである。
本発明はさらに、上記の導電性繊維を有する電極と、この電極を有するシステムとにも関するものである。
本発明はバイオエレクトロケミカルシステム、特にバイオメディカル(生医学)システム、例えば素バイオセン、免疫バイオセンサ、DNA、RNAおよびバイオ電池(バイオ電池)の生産で応用できる。
【背景技術】
【0002】
炭素(カーボン)は電極を製造するのに採用される一つの原料である。炭素は化学的に不活性であるため電気化学の分野の幅広い範囲に用途がある。そのため炭素は電気化学的装置、例えば、感応素子、アクチュエータ、小型バッテリ、蓄電池の生産で各種の形で非常に広く使用されている。さらに、炭素は有機の分子およびポリマーを効率的に吸着する原料でもある。すなわち、炭素はレドックスポリマー、酵素、導電性高分子材料を吸収でき、高性能および高効率な電気化学装置を製造することができる。また、炭素はバイオコンパチブル(biocompatible)であり生物学的用途の器具の生産に理想的である。
【0003】
炭素はさらに、機械的強度、熱安定性に優れ、「繊維」の形で使用することができるという利点がある。「繊維」とは直径が10ナノメートル〜1ミリメートルである任意長さを有する系と定義されている。この特性は装置を小型化したり、装置を生体内に移植することができるという点で極めて重要である。また、繊維の形にすることで同じ容積で表面積を増加させることができる。すなわち、全ての電気化学器具の応答振幅は比表面積で決まるので、比表面積はきわめて重要である。
【0004】
上記のような種々の利点から、炭素繊維は従来から微小電極、感応素子(センサー)、電気化的なバイオ電池の製造で広く研究されており、今日では小型バイオ電池および微小電極の製造に最も利用されている材料である。
【0005】
しかし、電流が弱く、吸収は不安定で効率が悪いため実際の材料の性能は制限されている。例えば非特許文献1に記載のバイオ電池の場合、それが発生する電力は生医学システム、例えば移植したバイオセンサへの電力供給用には不充分である。
【0006】
十分な検出限界に達するには、2μW程度の電力が必要であり、バイオセンサまたはバイオ電池の電流密度を増加させる必要がある。そのためには電極の比表面積を増加させる必要がある。
そのためにしなければならないことは、バイオエレクトロケミカル用途の分野で炭素が有する特性を維持したまま、できれば改良して、比表面積の大きな材料を作ることである。
【0007】
カーボンナノチューブ(単一壁、二重壁、多重壁)は生物電気化学にとって非常に有利な特数を有する材料である。すなわち、カーボンナノチューブは炭素から成り、ナノサイズであるため、非常に大きな比表面積を有している。しかし、ナノチューブは全体として構造化されていない。ナノチューブは粉末の形をしており、そのままではバイオエレクトロケミカル用途には使用できない。
【0008】
カーボンナノチューブを用いて電極を改造する方法は種々提案されている。例えば非特許文献2が引用できる。この文献ではナノチューブを伝導性材料の表面上にランダムに載せるか、伝導性マトリックス中に埋め込む。しかし、この方法ではその性能すなわち比表面積および電気伝導率を効率的に使用することは難しい。
【0009】
他のアプローチは、伝導性表面上のナノチューブの量を増加させるものである。例えば非特許文献3や非特許文献4を挙げることができる。
【0010】
ニコチン・アデニンジヌクレオチド(NADH)検出用にカーボンナノチューブ繊維をベースにした簡単な微小電極も作られている。この特定用途の説明書は非特許文献5に記載されている。この文献の電極は非バイオエレクトロケミカル用であり、その応答はカーボンナノチューブの固有応答に制限される。
【0011】
さらに他のアプローチは樹脂中にナノチューブ繊維を固定して繊維の断面を電気活性(electroactive)要素として使用するものである。このアプローチは非特許文献6に記載されている。このタイプのナノチューブ電極は繊維の横断が小さいため、絶対値の大きな電流を発生させることはできない。
【0012】
従来技術としては非特許文献7(以下、D1という)を挙げることができる。このD1にはガラス状カーボン電極(GCE)から成る電極に関するもので、表面がカーボンナノチューブ(CNT)の分散物で被覆されている。使用する堆積方法からこのCNTはランダムに配向し、二次元表面を形成する。このCNT堆積物を乾燥後、酵素をCNTに固定する。このためにレドックスポリマーが使用される。このD1に記載の第2実験では、酵素をCNT分散物中に混合し、電極の形となるようにガラス状カーボン電極上にレドックスポリマを加えて電極を形成する。上記の2つの電極形成方法はCNT繊維から成るものではない。この電極上の電気化学プロセスは電極表面上に限定され、従って、得られる電流も制限される。
【0013】
上記の方法とは逆に、本発明はCNTはナノメートルオーダーで組織化され、配向されている。すなわち、繊維の形で合わされているので三次元の電極を得ることができ、従来法のものに比べて比表面積を増加できる。
【0014】
特許文献1(以下、D2という)を挙げることもできる。この文献D2にもD1に記載のものと類似の方法が記載されている。D2に記載の方法の本質はバイオポリマー(酵素、DNA)のような生物学的化合物をナノ構造化された材料、例えば溶液中のCNTと混合し、溶液を混合して分散液を形成し、得られたナノ構造化されたコンポジット材料を取出すことにある。ナノチューブは集合し、生物学的化合物で被覆されている。しかし、上記化合物はナノチューブ間の電流通路に対して絶縁バリヤーを構成し、電極としての使用には有害である。
【0015】
本発明では、ナノチューブが繊維の形に集められた後に生物学的化合物がそのナノチューブ上に配置される。ナノチューブを最初に繊維の形に集めることによって、ナノチューブ間の接触効率、従って、電極の伝導度を最大化することができる。
【0016】
従来技術として特許文献2(以下、D3という)も挙げることができる。このD3は伝導性または半伝導性またはCNTの粒子(金属)と二官能性タンパクとから成るナノ粒子に関するものある。この文献に記載のタンパクは2つの活性領域を有し、その領域の一つはタンパクをナノチューブに付けるのに使用する。金属または半導体のナノ粒子の用途が記載されている。このナノパーティクルを用いることで電子回路をナノサイズで連結でき金属のナノ粒子を高密度に一体化できる。しかし、電気伝導性繊維の製造方法は記載がなく、その繊維をどのようにして電極にするかは記載も示唆もない。
【0017】
結論として、従来の解決策はバイオエレクトロケミカルシステムを機能させるには満足なものではない。炭素繊維では比表面積が小さすぎ、十分な電流密度は得られず、従って、バイオ電池またはバイオセンサのようなバイオエレクトロケミカルシステムのような用途に十分な電流密度は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際特許第WO 2005/075663号公報(文書D2)
【特許文献2】国際特許第WO 2004/020453号公報(文書D3)
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Heller, A., Anal. Bioabal. Chem. 2006, 385, 469-473 and the publication by Heller, A., Curr Opin Biotechnol 2006, 10, 664-672
【非特許文献2】Wang, Y.; Li, Q.; Hu, S., Bioelectrochemistry 2005, 65, 135-142
【非特許文献3】Huang, X.-J.; Im, H.-S.;Yarimaga, 0.; Kim, J.-H.; Jang, D.-Y.; Lee, D.-H.; Kim, H.-S.; Choi, Y.-K., J. Electroanal. Chem. 2006, 594, 27-34
【非特許文献4】Wang, K.; Fishman, H. A.; Dai, H.; Harris, J. S., Nano. Lett. 2006, 6, 2043-2048
【非特許文献5】Wang, J.; Deo, R. P.; Poulin, P.; Mangey, M., J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, (48), 14706-14707
【非特許文献6】Viry, L.; Derre, A.; Garrigues, P.; Sojic, N.; Poulin, P.; Kuhn, A., Anal. Bioanal. Chem. 2007, 389, 499-505
【非特許文献7】JOSHI, MERCHANT, WANG, SCHMIDTKE "Amperometric Biosensors Based on Redox Polymer-Carbon Nanotube-Enzyme Composites (文書D1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記の問題は、バイオセンサやバイオ電池のようなバイオエレクトロケミカルシステムにおいて必要な電力または所望検出限界を得ることができる伝導度と高い比表面積とを有するバイオ活性(bioactive)な繊維を用いることによって解決できる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の対象は、少なくとも一種のバイオポリマーから成る堆積物(depot)によって被覆された集合されたカーボンナノチューブ(nanotubes de carbone assembles)から成ることを特徴とする原則として導電性の繊維にある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来のカーボン繊維電極および本発明電極での酸素電解還元の場合の電流密度曲線。
【図2】従来の炭素繊維および発明の繊維での酸素電解還元の時間的変化曲線。
【図3】本発明電極を備えたバイオ電池の概念図。
【図4】本発明電極を備えたバイオセンサの概念図。
【図5】本発明による繊維き製造プロセス段階を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上記バイオポリマーは天然または合成のタンパク、例えば酵素の中から選択できる。
上記堆積物は一種以上のレドックスポリマーをさらに有することができる。
上記バイオポリマーは核酸、例えばDNAまたはRNAの中から選択できる。
【0024】
本発明の他の対象は上記の導電性繊維の製造方法にある。本発明方法は、カーボンナノチューブから成る繊維を作る段階と、上記繊維上に少なくとも一種のバイオポリマーから成る少なくとも一種の堆積物を載せる段階とを有する。
【0025】
上記の堆積は少なくとも一つのバイオポリマーを含む溶液中に繊維を漬けるか、浸すか、電気メッキするか、塗布(コーティングまたは吹付け)して行うことができる。繊維の選択されたセグメントを被覆する必要がある場合には、堆積をコーティング(badigeonage)または吹付けで行うのが適切である。
【0026】
繊維上に一種以上のレドックスポリマーをさらに堆積させることもできる。このレドックスポリマーの堆積はバイオポリマーの堆積と同時に行うことができる。
また、バイオポリマーの堆積の前に、液浸または電気メッキまたは塗布によってレドックスポリマーの堆積を行うこともできる。
【0027】
本発明の一つの実施例では、上記のカーボンナノチューブから成る繊維を作る段階が、水溶液中または有機溶剤中のカーボンナノチューブの分散物からカーボンナノチューブを合体(coagulation)して得られた繊維のスピニング(filage)から成る。
【0028】
ナノチューブの合体をバインダを使用して行う場合には、堆積前にバインダを除去する段階を有する。このバインダの除去は、バインダの融点に繊維を加熱して行う。カーボンナノチューブの特性を劣化させないようにするために、分解温度が700℃を越えないバインダーを使用する。例えば、ポリビニールアルコール(PVA)を選択して繊維の加熱を不活性雰囲気下で300℃〜1100℃、好ましくは600℃に加熱する。
【0029】
本発明さらに、上記のカーボンナノチューブ繊維からなる電極の製造方法にも関するものである。この電極は、本発明による少なくとも一種のバイオポリマーから成る堆積物によって被覆された集合されたカーボンナノチューブ繊維のセグメントから成る。
【0030】
この電極は一端のみがバイオポリマー堆積物(必要に応じて一種のレドックスポリマをさらに含むことができる)を有する繊維セグメントから成ることができる。
【0031】
上記定義の電極は特にバイオエレクトロケミカルシステム、例えばバイオ電池またはバイオセンサで使用するのに適している。
本発明繊維では伝導性が改善されるので、マイクロ(微小)電極、すなわち長さが5cm以下、例えば1〜3cmの間で、直径が1〜100マイクロメートルの繊維セグメント(断片)から成る電極を製造することができる。
上記特性の改善によって人体に移植可能な生医学システムでマイクロ電極を使用することができるようになる。
【0032】
本発明の上記以外の特徴および利点は以下の説明および本発明実施例から明らかに成るであろう。しかし、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【0033】
本発明の導電性繊維は従来技術の繊維に比べて比表面積が非常に高い繊維であり、その比表面積は50m2/g以上である。
【0034】
この繊維は[図5]で1で示す段階で集められた(assemble)カーボンナノチューブのみから成る繊維を製造し、その繊維を[図5]で3で示す段階で処理してバイオエレクトロアクティブにすることによって得ることができる。
【0035】
上記の処理は各用途に応じて選択したバイオポリマーで被覆することに本質がある。従って、この処理後に得られる繊維は集められた(assemble)カーボンナノチューブと少なくとも一種のバイオポリマーから成る堆積物とから成る。この堆積物はレドックスポリマーともよばれるポリマーをさらに含むことができる。
【0036】
バイオポリマーは下記の中から選択できる:
(1)天然または合成のタンパク、特に酵素
(2)核酸、例えばDNAおよびRNA。
【0037】
本発明の一つの実施例では、繊維は例えば特許文献3に記載の製造方法で得ることができる。
【特許文献3】国際特許第WO0163028号公報
【0038】
この方法を用いることで水溶液または有機溶剤中でナノチューブの分散物からナノチューブを凝集(合体)させてて肉眼スケールでカーボンナノチューブだけから成る繊維を得ることができる。
【0039】
しかし、この方法で得られる繊維がバインを含む。このバインは本発明の用途であるバイオエレクトロケミカルを考慮した場合、除去する必要がある。
【0040】
この方法の利点は単一壁、二重壁または多重壁のナノチューブ全体から繊維を製造できる点にある。
【0041】
特許文献3に記載のポリマーバインダの存在下で製造方法で得られるナノチューブ繊維の他の利点は、従来の炭素繊維とは違って、破壊せずに折曲げることができるだけの十分な可撓性を有するしている点にある。
【0042】
バインダの存在で製造ときのスピニングは容易になるが、繊維の比表面積および伝導性は犠牲になる。従って、本発明ではバインダを除去して、カーボンナノチューブの表面を開放する必要がある。
【0043】
そのため、本発明繊維の製造方法の実施例では追加の段階([図5]で2で示す段階)で高温処理して使用したバインダを除去する。
【0044】
カーボンナノチューブの特性を劣化させずに除去できるような、繊維の製造で使用するバインダを選択することは容易である。例えばポリビニールアルコール(PVA)を選択できる。このバインダはスピニング時にナノチューブを良好に凝結させることができるポリマーである。このバインダが熱処理で劣化するのは300℃以上になってからである。このバインダは非酸化性雰囲気中で600℃で熱処理するとその95%が劣化する。この温度ではナノチューブは全く劣化しない。
この熱処理後、繊維はカーボンナノチューブのみから成る。
【0045】
繊維の熱アニーリング(recuit thermique)前に引張ることでナノチューブを一定方向に配向させるのが好ましい。この熱アニール前のストレッチによって電気伝導率と直径、密度およびキャパシタンスを調整、制御することができる。
【0046】
従って、本発明のナノチューブのみから成る繊維は非常に高い比表面積(50m2/g以上)を有し、直径は1〜100ミクロンで、密度は1.8g/cm3まで大きくすることができる。
この繊維構造にすることによって電気化学用途でカーボンナノチューブを効果的に使用することができるようになる。
【0047】
本発明の繊維の製造方法では、バイオエレクトロケミカル特性に合わせるために、繊維のタイプに応じて一つ以上の処理段階をさらに行うことができる。そうした処理の一つは繊維をバイオエレクトロアクティブ種(または生物特異種)、特に選択した一種以上のバイオポリマーで被覆することである。この段階は[図5]の3で示す段階である。
【0048】
バイオポリマーは用途に応じて選択する。
【0049】
繊維をバイオエレクトロアクティブにすることができる処理は、例えば必要菜種すなわち選択したポリマーを含む溶液中の繊維を浸すか、この溶液を繊維に浸透させるか、繊維上にこの溶液を塗布(堆積)させる(例えばコーティングまたはスプレーする)か、溶液中で電位を与えて繊維上に溶液を電気メッキすることである。
【0050】
ポリマーとナノチューブとのあいだの非常に強い作用で吸収安定性が確実に増加する。この吸収安定性はセンサー素子またはバイオ電池の安定性にはクリティカルなものである。本発明繊維では従来の炭素材料で得られたものに比べてはるかに高い機能時間が保証できる。
【0051】
バイオ反応(bioreactions)を加速するために、選択したバイオポリマーに適したレドックスポリマーで繊維を被覆する第2の処理を行うこともできる。
【0052】
実際にはレドックスポリマーの堆積はポリマーの堆積と同時またはその前に、同じ方法すなわち液浸、電気メッキ、塗布を用いて行うことができる。
【0053】
電気メッキまたは共電着に関しては下記非特許文献8に記載のGao達の方法が使用できる:
【非特許文献8】"Electrodeposition of Redox Polymers and Co- Electrodeposition of Enzymes by Coordinative Crosslinlcing," Zhiqiang Gao, Gary Binyamin, Hyug-Han Kim, Scott Calabrese Barton, Yongchao Zhang, and Adam Heller, Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, No. 5, 810-813。
【0054】
他の実施例では、カーボンナノチューブ繊維をポリマー・バインダを用いない合体(coagulation)プロセスで得る。このプロセスでは下記非特許文献9に記載の方法が使用できる:
【非特許文献9】J. Steinmetz, M. Glerup, M. Paillet, P. Bernier and M. Holzinger entitled "Production of Pure Nanotube Fibers Using a Modified Wet- Spinning Method," published in the publication Carbon, 43(11): 2397-2400, 2005
【0055】
このプロセスで得られるカーボンナノチューブ繊維の次の処理段階は上記の同じものである。この解決策はバインダ除去のための熱処理段階を必要としないという利点がある。
【0056】
この第2の実施例は例えば繊維の非連続的に製造するのに使用できる。事実、ポリマー・バインダを用いないスピニングは難しく、十分な機械強度を有する均質な繊維を連続的に製造するには適していない。
【0057】
カーボンナノチューブから成る繊維を製造するための他のプロセスとして例えば下記のプロセスを使用することもできる:
静的溶液を使用した脱退プロセス
【非特許文献10】L. M. Ericson, H. Fan, H. Q. Peng, V. A. Davis, W. Zhou, J. Sulpizio, Y. H. Wang, R. Booker, J. Vavro, C. Guthy, A. N. G. Parra-Vasquez, M. J. Kim, S. Ramesh, R. K. Saini, C. Kittrell, G. Lavin、H. Schmidt, W. W. Adams, W. E. Billups, M. Pasquali, W. F. Hwang, R. H. Hauge, J. E. Fischer, and R. E. Smalley. "Macroscopic, Neat, Single-Walled Carbon Nanotube Fibers," and published in Science, 305 (5689): 1447-1450, 2004
【0058】
直接合成プロセス
下記文献に記載のように、ナノチューブ100%の繊維が製造できる:
【非特許文献11】H. W. Zhu, C. L. Xu, D. H. Wu, B. Q. Wei, R. Vajtai, and P. M. Ajayan "Direct Synthesis of Long Single-Walled Carbon Nanotube Strands" and published in Science, 296 (5569): 884-886, 2002
【非特許文献12】M. Zhang, K. R. Atkinson, and R. H. Baughman "Multifunctional Carbon Nanotube Yarns by Downsizing an Ancient Technology" and published in Science, 306 (5700): 1358-1361, 2004
【非特許文献13】Y. L. Li, I. A. Kinloch, and A. H. Windle "Direct Spinning of Carbon Nanotube Fibers from Chemical Vapor Deposition Synthesis" and published in Science, 304 (5668): 276-278, 2004
【0059】
本発明繊維は生物特異性を有し、従来技術の電極に比べてはるかに大きな比表面積および高い電気伝導率を有し、安定性が増加するので、バイオエレクトロケミカルシステムの電極の製造でのニーズに応えることができる。
【0060】
本発明繊維の特性は以下の施例から明らかになるであろう。以下の実施例では、バイオエレクトロ触媒反応(bioelectrocatalysis)を従来技術の炭素繊維と本発明繊維とで実行した。両者を比較のした結果は[図1]および[図2]に示してある。これらの図で炭素繊維に関する結果は細い線で表され、本発明繊維の結果は太線で表してある。
【実施例】
【0061】
実施例では、従来の炭素繊維と上記のようにして得たカーボンナノチューブ繊維に酵素を堆積させて被覆した。酵素は例えばビリルビンオキシダーゼおよびそのレドックスポリマーのPAA-PVI-[Os(44'-ジクロロ−2,2'−ビピリジン)2C1]+/2である。
2の電解還元を下記条件で行って、カーボン繊維電極(細い線)と本発明のナノチューブ繊維電極(太線)で、比較測定した:
溶液:20mmolリン酸緩衝液、0.14M NaC1、pH 7.2、37.5℃、1mV.s-1
【0062】
比較対象電極を被覆するのに使用したバイオエレクトロ触媒の組成:60.5重量%のビリルビンオキシダーゼ、32重量%のPAA-PVI-[Os(4,4'- ジクロロ-22'- ビピリジン)2C1]+/2+、7.5重量%の架橋剤(ポリエチレングリコール(400)ジグリシジルエーテル)。
【0063】
[図1]に示すように、+0.3V/AgAgC1で、カーボン繊維電極では215μA.cm-2の電流密度にすぎないが、カーボンナノチューブ繊維電極では880μA.cm-2の電流密度でO2をH2Oに還元できる。この値は繊維上でのO2の還元に関してこれまでの報告されている値の中で最も大きな値である。これは炭素繊維でなくカーボンナノチューブ繊維を使用する利点を明らかに示している。
【0064】
電極の比表面積が増加することによって限界電流密度だけが増加するのではなく、電極での酵素反応速度が良くなり、その電位が低下させることができる。この場合には酸素の還元過電圧を減らすことができる。
さらに、炭素繊維の代わりにカーボンナノチューブ繊維を使用することでシステムの安定性も増加できる。この結果は上記電極を使用した生理学的媒体中での安定性試験で示された。
【0065】
[図2]は、カーボン繊維電極(白丸)と本発明のカーボンナノチューブ繊維電極(黒丸)で行った、下記条件下での02の電解還元の時間的変化を示す:溶液:20mmol燐酸塩緩衝液、0.14M NaCl、pH 7.2、37.5℃、1mV.s-1、バイオエレクトロ触媒の組成:60.5重量%のリルビンオキシダーゼ、32重量%のPAA-PVI-[Os(4,4'-ジクロロ-2,2'-ビピリジン)2C1]+12+、7.重量%の架橋剤(ポリエチレングリコール(400)ジグリシジルエーテル)。
【0066】
[図2]に示すように、4時間の連続運転後、本発明のカーボンナノチューブ繊維電極では電流密度の低下は15%だけであるが、カーボン繊維電極での電流密度は50%である。
【0067】
本発明のカーボンナノチューブ繊維電極を用いて[図3]の概念図に示すような従来概念のバイオ電池を製造することができる。[図3]のアノードおよびカソードはカーボンナノチューブ繊維から上記のようにして得た電極である。これらの電極は上記バイオエレクトロ触媒で被覆され、同じ溶液中に置かれたカーボンナノチューブ繊維から成る。2つの電極は負荷Rを介して互いに接続され、下記反応を使用して上記負荷Rに電力を供給することができる:
【0068】
アノードでは電子がグルコースからグルコースオキシダーゼ(GOx)に移り、GOxからレドックスポリマーIに移り、そして、レドックスポリマーIから電極へ移る。カソードでは電子がカソードからレドックスポリマIIへ移り、レドックスポリマIIからビリルビンオキシダーゼ(BOD)へ移り、それからBODから02に移る。
【0069】
図示したシステムでは、グルコースがグルコースオキシダーゼ(GOx)によりδ-グルコノラクトンへ酸化された後に電子がレドックスポリマIによってアノードへ移る(式1)。次いで、電子はレドックスポリマIIによってカソードからビリルビンオキシダーゼ(BOD)へ移る。それによって02が水に触媒還元される(式2)。式3は此の電池の全体反応を示す。
【0070】
β-D-グルコース −> δ-グルコノラクトン+2H++2e- (1)
2+4H++4e- −> 2H2O (2)
2β-D-グルコース+02 −> 2δ-グルコノラクトン+H2O (3)
【0071】
このバイオ電池は人体に移植された後に数マイクロワットを出し、自動バイオセンサー−エミッタ−(biodetector-emitter)Rへ電力を供給できる。自動バイオセンサー−エミッタ−Rには例えば糖尿または局在温度の制御、外科またはマイクロサージャリ後の内部汚染の制御に適したグルコースの局所濃度が記録されている。
【0072】
このバイオ電池を例として空気と15mmolのグルコースの存在下で使用した実験では600μW.cm-2の電力を得ることができた。炭素繊維で作られたバイオ電池手は同じ実験条件下で180μW.cm-2の電力しか得ることができない。
【0073】
[図4]は本発明をバイオセンサの製造に応用した場合を図示したものである。このバイオセンサは3つの電極と、1つのアノードElと、反対電極E2と、参照電極Erefとから成る。アノードElはバイオエレクトロ触媒すなわち選択したバイオポリマーまたはレドックスポリマーの堆積物を有するカーボンナノチューブ繊維から成る。上記アノードを測定する化学物質種を含む溶液中に入れる。カソードは参照電極Erefすなわち緩衝液中に入れた一定電位の電極である。[図3]の反応で使用したものと同じバイオエレクトロ触媒を使用した場合、カソードの電位に対してアノードの電位を測定することでグルコースの存在とその数量の情報が得られる。
【0074】
電極El、E2およびErefはバイオエレクトロ触媒反応で生じる電流または電圧を測定することができるセンサー、検出器(ポテンシオスタット)タイプの負荷成分Cに接続している。
【0075】
本発明繊維は全てのバイオエレクトロケミカルシステムに適用できる。
【0076】
下記リストは所望用途に従って選択できる酵素を示したものであるが、本発明がこれらに限定されるものではない。また、各酵素をバイオ電池またはバイオセンサの基質と組み合わせることができる:
(1)グルコースオキシダーゼ/グルコース(またはこの酵素で酸化される全ての糖類)
(2)ラクテートオキシダーゼ/ラクトン
(3)ピルべートオキシダーゼ/ピルべート
(4)アルコールオキシダーゼ/アルコール
(5)コレステロールオキシダーゼ/コレステロール
(6)グルタメートオキシダーゼ/グルタメート
(7)ピラノースオキシダーゼ/ピラノース
(8)コリンオキシダーゼ/コリン
(9)セロビオースデヒドロゲナーゼ/セロビオース
(10)グルコースデヒドロゲナーゼグルコース
(11)ピラノースデヒドロゲナーゼ/ピラノース
(12)フルクトースデヒドロゲナーゼ/フルクトース
(13)アルデヒドオキシダーゼ/アルデヒド
(14)グルコノラクトンオキシダーゼ/グルコノラクトン
(15)アルコールデヒドロゲナーゼ/グルコノラクトン
(16)ビリルビンオキシダーゼ/酸素
(17)ラカセーゼ/酸素
(18)セルロプラスミン/酸素
(19)アスコルビン酸塩オキシダーゼ/酸素またはアスコルビン酸塩
(20)ホルセラディシュパーオキシダーゼ/H22
【0077】
本発明繊維は連続製造できる。その横断面は円形でも非円形でもよく、その横断面の最大寸法は10ナノメートル〜1mmの間にすることができる。
【0078】
ナノチューブのいかなるタイプも、それらの製造のために使うことができる。
【0079】
バイオポリマーの堆積は所望のバイオポリマー(酵素またはDNAまたはRNA)を含む溶液中に浸すか、湿らすか、電気メッキで実行できる。電気メッキでは公知の方法で溶液に電位を加える。
【0080】
伝導プロセスを加速するためにレドックスポリマーを使用する場合、このレドックスポリマーをバイオポリマーと同じ溶液中に入れることができる。従って、レドックスポリマーをポリマーと同時に共電着させることができる。ポリマーおよびバイオポリマーの濃度は例えば0.1mg/mlから10mg/mlの範囲にすることができ、バイオポリマーの堆積厚さは数オングストロームから数マイクロメータにすることができる。
【0081】
ポリマーの濃度は、堆積物の厚さ、より正確には堆積させるバイオポリマーの量が制御できるように選択する。
【0082】
本発明繊維から電極を製造する時には所望の長さの繊維断片に切断する。従って、任意の長さを使用できる。
【0083】
大部分の用途、すなわちバイオ電池またはバイオセンサを製造するための電極で使用する場合には、非常に短い長さを選択し、例えば電極の長さを5cm以下、好ましくは1〜3cmにする。皮膚下または生体内に移植するマイクロ電極材料では直径が1〜30マイクロメートル、長さは1〜3cmである。
【0084】
繊維上に選択的に堆積させることもできる。すなわち、各繊維を所定長さのセグメントだけ被覆する。繊維から電極を製造する場合には、繊維セグメントの一端のみが堆積物(バイオポリマー、必要に応じてレドックスポリマー)で被覆されるように繊維セグメントを切断する。この電極は例えば神経バイオ(neurobiological)プローブの製造で使用できる。
【0085】
本発明繊維は糸、リボン、マルチフィラメント、マット、織布構造物または不織布構造物の形で使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のバイオポリマーから成る堆積物によって被覆された集合されたカーボンナノチューブ(nanotubes de carbone assembles)から成ることを特徴とする導電性繊維。
【請求項2】
上記バイオポリマーが天然または合成のタンパクの中から選択される請求項1に記載の導電性繊維。
【請求項3】
天然または合成のタンパクが酵素である請求項2に記載の導電性繊維。
【請求項4】
上記堆積物が一種以上のレドックスポリマーをさらに有する請求項3に記載の導電性繊維。
【請求項5】
上記バイオポリマーが核酸、例えばDNAまたはRNAの中から選択される請求項1に記載の導電性繊維。
【請求項6】
下記の段階:
(1)カーボンナノチューブから成る繊維を作り、
(2)上記繊維上に少なくとも一種のバイオポリマーから成る少なくとも一種の堆積物を載せる、
を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項7】
水溶液中または有機溶剤中のカーボンナノチューブの分散物からカーボンナノチューブを合体(coagulation)して得られた繊維のスピニング(filage)でカーボンナノチューブから成る繊維を作る請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
繊維上に一種以上のレドックスポリマーをさらに堆積させる請求項6に記載の繊維の製造方法。
【請求項9】
少なくとも一つのバイオポリマーを含む溶液中に繊維を漬けまたは浸すか、電気メッキするか、塗布(コーティングまたは吹付け)によって上記の堆積を行う請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
バイオポリマーの堆積と同時にレドックスポリマーの堆積を行う請求項8または9およびに記載の製造方法。
【請求項11】
バイオポリマーの堆積の前にレドックスポリマーの堆積を行う請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
塗布(コーティングまたは吹付け)によって繊維の選択されたセグメントに堆積を行う請求項6に記載の製造方法。
【請求項13】
バインダを使用してナノチューブの合体させ、堆積前にこのバインダを除去する請求項7に記載の製造方法。
【請求項14】
バインダの融点に繊維を加熱してバインダを除去する請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
バインダとしてポリビニールアルコール(PVA)を使用し、繊維を不活性雰囲気下で300℃〜1100℃、好ましくは600℃に加熱する請求項13または14に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の繊維の、マルチフィラメント糸およびリボン、マット、織成構造物または不織布構造物での使用。
【請求項17】
請求項1〜5および16のいずれか一項に記載のカーボンナノチューブの繊維から成る電極。
【請求項18】
長さが5以下、好ましくは1〜3cmの間で、直径が1〜30マイクロメートルである繊維セグメントから成る請求項17に記載の電極。
【請求項19】
端部のみに堆積物を有する繊維セグメントから成る請求項10および17に記載の電極。
【請求項20】
請求項17〜19のいずれか一項に記載の電極の、バイオエレクトロケミカルシステムの製造での使用。
【請求項21】
請求項17〜20のいずれか一項に記載の電極の、バイオ電池またはバイオセンサの製造での使用。
【請求項22】
請求項17〜20のいずれか一項に記載の電極の、バイオ電池または生医学で使用するバイオセンサでの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−522973(P2011−522973A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513031(P2011−513031)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051076
【国際公開番号】WO2009/150374
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(505252333)サントル・ナシヨナル・ド・ラ・ルシエルシユ・シヤンテイフイク (24)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】