説明

バイオオイル組成物、上記オイル組成物を含む製剤と、循環器疾患の予防又は治療のためのその使用

本発明は、バイオオイル組成物、好ましくは、カイアシから得られたもの、最も好ましくはカイアシであるカラヌス フィンマルキクスから得られたものと、アテローム性プラークの形成及びその後の虚血性心疾患の進行を予防又は治療するためのその使用に関するものである。上記組成物には、同じ海洋性のn-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)であって、一般に、海洋性オイルの抗アテローム性動脈硬化なる効果に関与していると見られているもの、即ち、EPA(C20:5n-3エイコサペンタエン酸)及びDHA(C22:6n-3ドコサヘキサエン酸)が含まれる。しかしながら、全く予想外なことに、本発明のオイル組成物には、アテローム性プラークの形成を予防する著しく高い能力を、EPA及びDHA単独に起因するものよりも有することが明らかとなり、更には、EPA及びDHA単独とは異なり、顕著な血中コレステロール低下効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明はバイオオイル組成物、上記オイル組成物を含む製剤と、循環器疾患の予防又は治療のための栄養補助食品、機能性食品及び医薬製品における上記オイル組成物の使用に関する。
【発明の背景】
【0002】
1970年代において、Bang、Dyerberg及びNielsenは、グリーンランドの西海岸に住んでいるエスキモーの血漿脂質及びリポタンパク質パターンについて述べ、それをデンマークの集団と比較した(H.O. Bang, J. Dyerberg and A.B. Nielsen. Plasma lipid and lipoprotein pattern in Greenlandic West-coast Eskimos. Lancet 1971;1:1143-45)。その後、Dyerbergと彼の共同研究者達(J. Dyerberg, H.O. Bang and N. Hjφrne. Fatty acid composition of the plasma lipids in Greenland Eskimos. American Journal of Clinical Nutrition 1975;28:958-66)は、彼らが発見した差異と、デンマーク人と比較してエスキモーの虚血性心疾患による死亡率の著しい低下には関係があるとした。食物性脂質の摂取量がほとんど同じ2つの集団であったので、それらは虚血性心疾患の著しい差異は海洋性脂質の摂取量の大きな差異に起因し、虚血性心疾患は食物性脂質の化学的性質に関係することが示唆された(J. Dyerberg, H.O. Bang, E. Storffersen, S. Moncada and J.R.Vane. Eicosapentaenoic acid and prevention of thrombosis and atherosclerosis? Lancet 1978;2:117-19)。これらの先駆的な研究の後、虚血性心疾患は、まだ西洋社会において最も重篤な命を奪う病気の1つではあるが、単なる食物性脂質の過剰摂取に起因する脂質蓄積症とは見なされないことが明白になった。
【0003】
この調査を創始した科学者達が、伝統的なエスキモーの食事における抗アテローム生成因子が海洋性の長鎖多価不飽和脂肪酸(PUFA)であることを示唆したのが最初であった。彼らの食事は、主にアザラシ、クジラ、そして、海鳥、そして、ある程度の魚から成り、数グラム(おそらく15グラム程度)の脂肪酸が毎日提供されていた。これは、典型的な「現代」西洋食の含有量よりも多い。
【0004】
この30-40年間の調査によって、Dyerbergのグループによる古典的研究が立証され、科学者及び他の専門家間の共通理解に対する確実な科学的根拠が確立された: それは、シーフード及び海洋性オイルの健康効果は、何よりも先に、2つの典型的な海洋性PUFA (即ち、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA) )が関係している可能性があることである。この記載は、シンポジウム「Beyond Cholesterol」:Prevention and Treatment of Coronary Heart Disease with n-3 Fatty Acids(American Journal of Clinical Nutrition 2008;87(suppl): 2010S-2S)(Deckelbaumらによって発行)の結論及び勧告に基づいている。
【0005】
EPA及びDHAは、それぞれ、20及び22の炭素原子を含み、そして、5及び6つの共役二重結合を有し、その最初の1つは、両脂肪酸の疎水性(メチル)末端から計数した3つ目の炭素原子(n-3)の位置にある。略称C20:5n-3は、多くの場合EPAの化学名称として使われ、C22:6n-3はDHAである。海洋環境の植物プランクトンはEPA及びDHAの一次生産者であり、この第一栄養段階から動物性プランクトンを経て魚及び海洋性哺乳動物までの食物網になる。植物性食用オイル及び動物性脂質におけるEPA及びDHAの含有量は、あったとしても少量である。
【0006】
EPA及びDHAは、特に循環器疾患の予防において重要であると考えられている。適量のシーフード摂取(250mgのEPA及びDHAを毎日供給)であっても、冠状動脈死のリスクを36%低下させ、母集団の死亡率を17%低下させるのに十分なようである(U.J. Jung et al. American Journal of Clinical Nutrition 2008;87(suppl): 2003S-9S)。
【0007】
EPA及びDHAの心臓保護効果を説明する生理的および分子的メカニズムには以下が含まれる: 1)血漿中トリアシルグリセロール及び遊離脂肪酸のレベルを低下させること、2)高密度リポタンパク質(HDL)レベルを増加させ、低密度リポタンパク質(LDL)レベルを低下させること、3)血小板凝集を低下させること、4)コレステロール輸送及び動脈壁におけるコレステロール沈着を減少させること、5)動脈の炎症を減少させること。複雑で多様な生化学的メカニズムを伴う相互作用メカニズムがあり、このメカニズムには、EPA及びDHAの効果とこれらの変換生成物(プロスタグランジン、プロスタサイクリン、トロンボキサン、ロイコトリエン)の効果であって、異なる細胞および組織における免疫及び炎症の調節並びに遺伝子発現に対する効果が含まれる。EPA及びDHAの健康効果は、もはや疑うことができないにもかかわらず、関係するメカニズムは、複雑すぎて完全には理解されていない。例えば、未だ不可解な事実は、「冠状動脈疾患の予防及び治療におけるn-3脂肪酸の有益な効果の基礎をなしている主要なメカニズムは、血漿中トリアシルグリセロール濃度を低下させる効果とは区別されるように見える」(Deckelbaum et al., American Journal of Clinical Nutrition 2008;87(suppl): 2010S-2S)ということである。
【0008】
この30-40年の間の予備臨床試験およびヒト臨床試験から、シーフード及び海洋性食用オイルの消費が健康のために有益であるという一貫した証拠が提供され、これらの健康効果が、まっさきに、EPA(エイコサペンタエン酸)及びDHA(ドコサヘキサエン酸)と関係していることが、当業者の間で一般に受け入れられている。虚血性心疾患を予防するこれらの2つの海洋性n-3 PUFAの能力に関する完全な根拠は、非常に絶大で、1日のEPA及びDHA消費量を推奨することが西洋社会の保健当局の第一次予防戦略の一部になっている。この戦略のサポートについては、R.J. Deckelbaumによって要約され記述されているシンポジウム「Beyond Cholesterol: Prevention and Treatment of Coronary Heart Disease with n-3 Fatty Acids(American Journal of Clinical Nutrition, 2008; 87 (suppl): 2010S-2S)を参照できる。さらに、EPA及びDHAの濃縮物(米国特許、番号5,502,077、5,656,667及び5,698,594の通り生産したもの)は、虚血性心疾患の危険因子と考えられている血液成分のレベルを低下させる医薬品として、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、雌マウスの大動脈における巣形成の代表的な視覚図であって、上記マウスは、バイオオイル組成物(食餌1)又はEPA/DHA-濃縮物(食餌2)が添加された食餌を摂食したものであり、比較対象の食餌(食餌3)を摂食したものと比較している。
【図2】図2は、3つの試験食に対する雌マウス(n=10)の平均成長を示す図である。
【図3】図3は、3つの試験食を摂食した雌マウス(n=10)の様々な器官の平均重量を示す図である(WAT =白色脂肪組織)。
【発明の詳細な説明】
【0010】
以下の本発明の説明において、バイオオイル組成物、カイアシオイル、カイアシオイル組成物及びオイル組成物なる用語は、互いに置換可能な用語として使われる。
【0011】
EPA及びDHAは、海水魚、クジラ、アザラシ及び甲殻類に存在する主要な脂肪酸である。また、海洋性のカイアシであるカラヌス フィンマルキクスに存在するオイルはEPA及びDHAの豊かな供給源である、しかし、このオイルは、多くの他の化学的特性について、他の海洋性オイルとは異なる。他の海洋性オイルと比較して、本発明のカイアシオイルは、C18:4n-3 PUFA(ステアリドン酸、SDA)が非常に豊富である。他の一般的な海洋性食用オイルとは異なり、カイアシオイルに存在するPUFAは、主に長鎖一価不飽和アルコールとのモノエステル(即ち、ロウエステル)として存在する。他の一般的な食物の海洋性オイルと比較して、本発明のカイアシオイルには、比較的高い比率の遊離脂肪酸、少量のトリグリセリド及び高レベルのアスタキサンチン及びコレステロールが含まれる。
【0012】
EPA及びDHAが冠状動脈疾患の予防及び治療において海洋性オイルの有益な効果を果たす鍵因子であるという共通理解に基づいて、本発明にて説明するように、これらの2つの脂肪酸の生医学的効果をカイアシオイル組成物のものと比較した。本発明によるカイアシオイルの効果をマウスにおけるアテローム性プラーク形成及び総コレステロールのレベルに関して濃縮EPA/DHA-調製剤のものと比較した。上記カイアシオイルは、対照調製剤中のEPA及びDHAの総量と同じ総量のEPA及びDHAを提供するように調整した。これらの研究においては、0.2%(w/w)のコレステロールを含有しているアテローム生成高脂質(21%w/w)の食餌を摂食させている実験動物(アポリポタンパクE(ApoE)欠損マウス)を使用した。
【0013】
本発明のカイアシオイル組成物と他の食物の海洋性オイルとの間に化学組成に差異が存在するが、生物活性に関する顕著な差異は、本発明にて説明したように、虚血性心疾患に対する海洋性PUFAの効果を調べている者であっても全く予測することはできなかった。最も印象的なことは、本発明のバイオオイル組成物が、濃縮EPA/DHAとは対照的に、アテローム性プラークの形成を阻害する、統計的に有意な能力を有するという非常に予想外の発見である。実験動物の体内の脂質沈着パターンに影響を及ぼす方法においては、EPAやDHAとも異なる。本発明に記載されているカイアシオイルは、本質的に新規の抗アテローム性動脈硬化組成物である。
【0014】
本発明によるバイオオイル組成物は、血中コレステロールレベルに対しても著しい効果を示す。総血中コレステロールレベルは、本発明によるバイオオイル組成物を含む食餌を摂食した動物においては、濃縮EPA/DHAを含む食餌を摂食した動物のレベルと比較すると、顕著に低い。
【0015】
本発明によるバイオオイル組成物は、海洋性カイアシ、好ましくはカラヌス属のカイアシ(例:カラヌス フィンマルキクス)を由来とし、捕れたての、冷凍/解凍の、又は脱水された原材料を用いた。本発明のオイル組成物は、当業者に知られている任意の方法、例えば、従来の魚油生産技術、生物工学的な方法、有機溶媒抽出、超臨界流体抽出、又は常温圧縮によって得ることができるが、これらに限定されるものではない。オイル取得手順やオイル収率に依存しない、典型的な全組成を表1に示す。本発明によるバイオオイル組成物の特徴を示すために、従来の魚油(たら肝油)及びオキアミオイルの対応する組成を比較して示している。これらのオイルが著しく異なっていること(特にトリグリセリド、リン脂質、モノエステル(ロウエステル)、及びアスタキサンチンの含有量に関するもの)が、この全体の化学分析から明らかである。ロウエステルは、たら肝油及びオキアミオイルと異なり、本発明のカイアシオイルの主要な脂質成分を構成する点に注目すべきである。
【0016】
【表1】


【0017】
全化学組成における顕著な差異(表1)の他に、説明の便宜のためにここで使用する3つの海洋性オイルは、個々の脂肪酸含有量においても、非常に異なる(表2)。
【0018】
【表2】


【0019】
3つのオイル間の脂肪酸組成における最も注目すべき差異は、カイアシオイルの非常に高いステアリドン酸(SDA)含有量である。
【0020】
本発明のオイル組成物において、SDA、EPA及びDHAは、大部分は長鎖アルコールとのエステルとして存在する。本発明のカイアシオイルにおけるロウエステル及び長鎖アルコールの典型的な組成を、表3に示す。
【0021】
【表3】


【0022】
結論として、本発明のカイアシオイルは、典型的な魚油やオキアミオイルとは、全化学組成及び脂肪酸含有量において著しく異なる。しかしながら、他の海洋性オイルのように、EPA及びDHAは含まれている。
【0023】
ロウエステル含有量が高いにもかかわらず、本発明のオイル組成物は、室温で低粘性であり、完全な自由流動液体である。その理由の1つは、ロウエステルにおけるアルコールは、中程度の長さの一価不飽和アルコールが優勢であり、典型的には80%以上(主にC20:1及びC22:1)ということである。
【0024】
使用する分析法によるが、本発明のオイル組成物におけるロウエステルの典型的な含有量は、70-90%であり、10-20%の他の成分(例:遊離脂肪酸、トリアシルグリセロール、ステロール及び色素)が含まれる。ある種の応用においては、当業者にとって既知である適切な方法によって遊離脂肪酸及び他の成分を除去することが有利であったり、さらには望ましかったりするかもしれない。従って、本発明の一実施例において、上記オイル組成物は、最高で100%のロウエステルを含むことができる。
【0025】
本発明によるカイアシオイルが著しく異なる生物学的効果をEPA及びDHAの濃縮調製剤(カイアシオイル中に含まれるものと同じ濃度を使用)よりも有することが明らかとなった。特に本発明による組成物は、アテローム性プラークの形成を予防することから、循環器疾患の予防及び治療に有効である。本発明による組成物が、総血中コレステロールレベルに影響を及ぼすことも明らかであり、高コレステロール血症及び高い血中コレステロールレベルの予防及び治療に有効である。
【0026】
本発明によるバイオオイル組成物には、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%(重量%)から75%、80%、85%、86%、87%、88%、89% 90%、91%、92%、93%、94%、95%,96%、97%、98%、99%、100%(重量%)までのロウエステルが含まれる。好ましくは、バイオオイル組成物には、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87% 88%、89%(重量%)から90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、100%(重量%)までのロウエステルが含まれる。
【0027】
更には、本発明のバイオオイル組成物には、5%、6%、7%、8%、9%、10%(重量%)から11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%(重量%)までのSDAが含まれる。
【0028】
バイオオイル組成物のEPA含有量は、3%、4%、5%、6%、7%(重量%)であって、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%,15%(重量%)までであってもよい。上記組成物は、2%、3%、4%、5%(重量%)であって、6%、7%、8%、9%、10%(重量%)までのDHAを含んでもよい。
【0029】
一実施形態として、本発明は、バイオオイル組成物を提供するものであって、上記組成物は、20-100重量%のロウエステル、好ましくは50-100重量%のロウエステル、より好ましい70-100重量%のロウエステルが含まれ、循環器疾患の予防用及び治療用薬剤として使用されるものである。上記オイル組成物は、海洋性のカイアシから単離してもよく、好ましくはカラヌス属のうちの1つであり、より好ましくは、上記カイアシはカラヌス フィンマルキクス種である。
【0030】
本発明の他の実施形態において、本発明は、アテローム性動脈硬化、高コレステロール血症及び高い血中コレステロールレベルの予防用及び治療用薬剤として使用されるバイオオイル組成物が提供される。
【0031】
他の一実施形態において、本発明は、更に5-20重量%のSDAを含むオイル組成物が提供される。
【0032】
更なる他の一実施形態において、本発明は、3-15重量%のEPA及び2-10重量%のDHAを含むオイル組成物が提供される。
【0033】
本発明の更なる実施形態において、20-100重量%のロウエステル、好ましくは70-100重量%のロウエステル、5-20重量%のSDA、3-15重量%のEPA及び2-10重量%のDHAを含むオイル組成物が提供される。
【0034】
本発明の他の一実施形態において、脂肪族アルコール並びに脂肪族アルコールとのモノエステルであるSDA、DHA及びEPAを含むオイル組成物が提供される。
【0035】
更なる実施形態において、本発明は、1000-4000ppmのアスタキサンチン(主にエステル型)を含むオイル組成物が提供される。
【0036】
上述のオイル組成物を含む栄養補助食品製剤も、本発明によって提供される。
【0037】
上述のオイル組成物を含む機能性食品製剤も、本発明によって包含される。
【0038】
本発明の更なる他の一実施形態において、上述のオイル組成物を含む医薬製剤が提供される。
【0039】
上述のオイル組成物を含む本発明の製剤は、カプセル、錠剤、乳液又は強壮剤として提供しても良く、アジュバント(adjuvans)、抗酸化剤、乳化剤、界面活性剤及び担体からなるグループから選択される1以上の医薬的に許容可能な添加物を含んでもよい。
【0040】
本発明は、更に、循環器疾患、特にアテローム性動脈硬化、高コレステロール血症及び高い血中コレステロールレベルの予防用又は治療用製品を製造するための上述のオイル組成物の使用が提供される。
【0041】
本発明は、循環器疾患、特にアテローム性動脈硬化、高コレステロール血症及び高い血中コレステロールレベルの予防法又は治療法であって、かかる予防的又は治療的処置を必要とする個体は、バイオオイル組成物を含む医薬組成物を経口的に投与され、上記組成物は、20-100重量%のロウエステル、好ましくは50-100重量%のロウエステル、より好ましくは70-100重量%のロウエステルが含まれ、そして1日の用量レベルが4-100mg/kg(体重)の範囲内である方法が提供される。
【0042】
他の一実施形態において、本発明は、投与される医薬組成物には更に5-20重量%のSDAが含まれる方法が提供される。
【0043】
更なる他の一実施形態において、本発明は、医薬組成物には3-15重量%のEPA及び2-10重量%のDHAが含まれる方法が提供される。
【0044】
本発明の更なる実施形態において、投与される医薬組成物には20-100重量%のロウエステル、好ましくは70-100重量%のロウエステル、5-20重量%のSDA、3-15重量%のEPA及び2-10重量%のDHAが含まれる方法が提供される。
【0045】
本発明の他の一実施形態において、投与される医薬組成物には脂肪族アルコール並びに脂肪族アルコールとのモノエステルであるSDA、DHA及びEPAが含まれる方法が提供される。
【0046】
更なる実施形態において、本発明は、投与される医薬組成物に1000-4000ppmのアスタキサンチン(主にエステル型)が含まれる方法を提供する。以下に、限定するものではないが、実験に基づく部分及び実施例によって本発明を例示し、文書化している。
【実施例】
【0047】
実験
任意の候補薬又は食品成分における、虚血性心疾患の予防効果を調査するときに、最も信頼性が高いエンドポイント分析は、実際の疾患の兆候(例:アテローム性プラークの形成)である。疾患の進行リスクを表すと考えられる血液パラメータに対する影響は、新規な抗アテローム生成薬の候補に対する作用様式の評価にとって当然重要ではあるが、かかる血液分析を疾患の兆候そのものについての効能データと関連づけることが好ましい。これが、本発明の根拠を構成している、本研究の原理である。
【0048】
本発明のカイアシオイルの生物学的効果は、アポリポタンパク質E(ApoE)欠損マウスにおいて示された。この株のマウスが、脈管炎症及びアテローム性プラークの進行に対する食餌成分の影響を決定するために常に用いられる。理由は、これらのマウスがヒトと非常に類似するパターンのアテローム性動脈硬化病変を発病し、アテローム血栓性(atherotrombotic)疾患の発症、進行及び退行に関係する生化学的および細胞内プロセスの研究のための有効なモデル動物だからである。研究は、トロムソ大学医学部(ノルウェー)で行われた。7週齢の雌マウスを10匹ずつ3つのグループに配置し、13週間、3つの異なる食餌療法(下を参照)を行った。
【0049】
マウスには、実験用の高脂肪(21 % w/w)及びコレステロール(0.2 % w/w)食であって、生物が利用可能な炭水化物(糖/デキストリン)が豊富であり、かなりの飽和脂肪を有する食餌(sniff Spezialdiaten GmbH, sniff EF Clinton/Cybulsky (II) mod.)を自由摂取させた。この食餌の組成は、肥満症及びアテローム性動脈硬化病変の進行を促進する。食餌には、1 % (w/w)の本発明に係るカイアシオイル(食餌1)又は0.1223 % (w/w)のEPA/DHA-濃縮物(食餌2)のいずれかが加えられ、EPA及びDHAが等しい含有量の2つの実験用飼料が製造された。これらの2つの食餌とオイル無添加のコントロール食餌(食餌3)のコレステロール量は、コレステロールを加えることによって0.20%に調節した。これは、飼料成分やカイアシ-オイル自体に存在するコレステロールを考慮するためである。試験食の組成は、表4に示される。
【0050】
【表4】


【0051】
カイアシオイル調製剤は、Calanus AS、トロムソ、ノルウェー(www.calanus.no)により提供される実験用製品であった。比較検体として使用するEPA/DHA濃縮物は、脂質を低くする薬オマコール(Pronova Biopharma ASA, P.O. Box 420, NO-1327 Lysaker, Norway)であった。製造業者(www.pronova.com)によると、この製品は、オメガ-3-脂肪酸エチルエステルのEPA(460 mg/g)及びDHA(380 mg/g)を90%含み、出発物質として魚油を使用して製造される。
【0052】
実験マウスを毎日モニターし、定期的に体重を測定した。血清のサンプルを、脂質及び脂肪酸を含む様々な血液パラメータを後に分析するために種々の時点で取得した。実験終了後マウスを屠殺し、そして、関連する全ての臓器を標準的方法に従って解剖した。屠殺したマウスの解剖後、大動脈を単離し、洗浄し、縦方向に割き、そして、白いボール紙にピンで留め、少なくとも24時間、10%ホルマリンにて固定した。大動脈を分析前にオイルレッドO(シグマ体)にて染色した。リンス後、大動脈を顕微鏡のスライドに載せ、GeoScan Enabler (Meyer Instruments, Houston, Texas, USA)を備えているSprintScan 35 スキャナー (Polaroid, Cambridge, Massachusetts, USA)を使用して画像(2,700dpi)を取得した。画像の陽性領域を、最先端の較正及び画像分析方法を採用し、分析した。全体の病変域を、N.V. Guevara et al. (The absence of p53 accelerates atherosclerosis by increasing cell proliferation in vivo. Nature Medicine 1999; 5:335-339)に記載されているコンピューターを利用した定量的形態計測によって、各グループごとに定量化した。
【0053】
生物学的効果
i)アテローム性動脈硬化
本発明のカイアシオイルが著しく異なる生物学的効果をEPA及びDHA濃縮調製剤(カイアシオイル中に含まれるものと同じ濃度を使用)よりも有することが明らかとなった。海洋性オイルの陽性の健康効果がもっぱらEPA及びDHAの含有量に関連しているというのが、当業者の圧倒的なコンセンサスであることを考慮すると、これは非常に予想外の発見であった。
【0054】
結果を表5及び図1-3に示している。
【0055】
雌マウス大動脈のアテローム性プラーク形成に対する本発明のカイアシオイル及びEPA/DHA-濃縮物の効果を表5に示す。カイアシオイル調製剤は、コントロールと比較して弓部大動脈(p=0.002)及び全大動脈 (p=0.001)の両方における巣形成の減少に著しく、そして統計学的に非常に重大な効果を及ぼした。また、EPA/DHA-濃縮物はコントロールと比較して巣形成を減少させたが、統計的有意差の要件を満たすような効果ではなかった。
【0056】
【表5】

【0057】
マウスの成長は、図2に示される。カイアシオイルが豊富な飼料を用いたマウスは最も急速に成長し、その飼料でよく育ったにもかかわらず、この見かけ上の差異は統計的有意差の要件を満たさない。摂取量にグループ間の差異はなく、負の効果は試験食を与えた動物において観察されなかった。
【0058】
種々の臓器の重量が図3に示されている。カイアシオイルを摂食させたマウスの白色脂肪組織(WAT)に蓄積した脂肪がより高量であったにもかかわらず、差異は統計的に有意ではなかった。しかしながら、より多くの脂質が脂質貯蔵組織に蓄積する一方で、本発明のカイアシオイルが巣形成を減らすことは、実際に注目すべき観察結果である。
【0059】
ii) 血中コレステロールレベル
カイアシオイルは、このオイルと同じ濃度の精製されたEPA及びDHAよりも特に顕著な抗アテローム性動脈硬化なる効果を有する。このカイアシオイルの効果に関係するメカニズムは、従って、EPA及びDHA効果に対する付加的なものかもしれないし、完全に異なるものかもしれない。
【0060】
表6に示す結果からカラヌスオイルは、実験動物の血中コレステロールレベルに対する効果に関してもEPA及びDHAと異なることが示されている。EPA/DHA-食餌を摂食した動物の血中コレステロールレベルが摂食13週間後のコントロール動物と同じであったのに対して、カラヌスオイルのグループの血中コレステロールレベルはより顕著に低かった。両方の治療グループは、コントロールと比較してわずかな(同様な)トリグリセリド低下効果を有するようである。
【0061】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環器疾患の予防用又は治療用薬剤として使用するための、20-100重量%のロウエステル、好ましくは70-100重量%のロウエステルを含むバイオオイル組成物。
【請求項2】
アテローム性動脈硬化の予防用又は治療用薬剤として使用するための、請求項1に記載のバイオオイル組成物。
【請求項3】
高コレステロール血症の予防用又は治療用薬剤として使用するための、請求項1に記載のバイオ組成物。
【請求項4】
高い血中コレステロールレベルの予防用又は治療用薬剤として使用するための、請求項1に記載のバイオ組成物。
【請求項5】
前記組成物は、5-20重量%のステアリドン酸(SDA)を含有する、請求項1から4に記載のバイオオイル組成物。
【請求項6】
前記組成物は、3-15重量%のエイコサペンタエン酸(EPA)及び2-10重量%のドコサヘキサエン酸(DHA)を含有する、請求項1から5のいずれかに記載のバイオオイル組成物。
【請求項7】
前記組成物は、脂肪族アルコール並びに脂肪族アルコールとのモノエステルであるSDA、DHA及びEPAを含有する、請求項1から6のいずれかに記載のバイオオイル組成物。
【請求項8】
前記組成物は、1000-4000ppmのアスタキサンチンを含有する、請求項1から7のいずれかに記載のバイオオイル組成物。
【請求項9】
前記組成物は、カイアシから単離されたものである、請求項1から8のいずれかに記載のバイオオイル組成物。
【請求項10】
前記カイアシは、カラヌス属である、請求項9に記載のバイオオイル組成物。
【請求項11】
前記カイアシは、カラヌス フィンマルキクス種である、請求項10に記載のバイオオイル組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載のバイオオイル組成物を含む、栄養補助食品製剤。
【請求項13】
請求項1-11のいずれかに記載のバイオオイル組成物を含む、機能性食品製剤。
【請求項14】
請求項1-11のいずれかに記載のバイオオイル組成物を含む、医薬製剤。
【請求項15】
カプセル、錠剤、乳液又は強壮剤にて提供される、請求項12又は14に記載の製剤。
【請求項16】
アジュバント、抗酸化剤、乳化剤、界面活性剤及び担体をからなる群より選択される1以上の医薬的に許容可能な添加剤を含む、請求項15に記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−514596(P2012−514596A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544395(P2011−544395)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【国際出願番号】PCT/NO2010/000002
【国際公開番号】WO2010/077152
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(511159783)
【Fターム(参考)】