説明

バイオオーグメンテーションにおける環境影響の評価方法

【課題】バイオオーグメンテーションの実施において、投入した炭化水素分解菌が環境に与える影響を適切に評価すること。
【解決手段】炭化水素分解菌の土壌投入が環境に与える影響の評価方法であって、
(1)汚染土壌について、
(1-1)炭化水素分解菌を投入し、
(1-2)前記(1-1)の投入後の土壌からDNAを抽出し、
(1-3)前記(1-2)で抽出したDNAを用いて下記(1a)〜(1c):
(1a)土壌バクテリア数、
(1b)Real-time PCR法により得られる炭化水素分解菌数、及び、
(1c)PCR-DGGE法により得られる土壌バクテリアDNAのバンドパターン
を測定し、
(1-4)前記(1-3)で得られた(1a)〜(1c)の測定結果に基づき、汚染土壌における環境浄化又は回復効果を評価する工程、
かつ、
(2)非汚染土壌について、
(2-1)炭化水素分解菌を投入し、
(2-2)前記(2-1)の投入後の土壌からDNAを抽出し、
(2-3)前記(2-2)で抽出したDNAを用いて、下記(2a)〜(2c):
(2a)土壌バクテリア数、
(2b)Real-time PCR法により得られる炭化水素分解菌数、及び、
(2c)PCR-DGGE法により得られる土壌バクテリアDNAのバンドパターン
を測定し、
(2-4)前記(2-3)で得られた(2a)〜(2c)の測定結果に基づき、非汚染土壌における環境影響を評価する工程
を有することを特徴とする環境影響評価方法、並びに、前記評価方法により得られる結果を用いた汚染土壌の浄化又は回復方法、及び炭化水素分解菌のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオオーグメンテーション、特に、炭化水素分解菌の投入が、環境に与える影響を評価する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題に対する意識の高まりや法規制が進む中、環境汚染の浄化技術として、物理的手法、化学的手法、生物学的手法等が研究・開発されてきている。このうち、微生物機能を利用したバイオレメディエーションは、他の手法と比較して、投入エネルギーが抑制できる、現場での処理が可能である等の利点を有することから、将来の主要技術の一つと考えられている。
【0003】
特に、バイオレメディエーションの中でも、外部の微生物を投入するバイオオーグメンテーションは、高い浄化効率を有し、また難分解性物質に対しても高い浄化効率を有することから、今後の利用拡大が期待されている(非特許文献1参照)。
しかし、実際の現場に生息していない外来微生物を投入することは、環境に何らかの影響を与える可能性が否定できない。このため、バイオオーグメンテーションの実施においては、環境に与える影響を適切に評価する手法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】田口精一、「バイオプロセスハンドブック −バイオケミカルエンジニアリングの基礎から有用物質生産・環境調和技術まで−」、P. 638〜652、エヌ・ティー・エス、2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、バイオオーグメンテーションの実施において、投入した炭化水素分解菌が環境に与える影響を適切に評価することが重要である。
特に、環境に与える影響が適切に評価されるためには、汚染土壌だけでなく、その周辺の非汚染土壌に対する影響も評価すること、即ち、1)汚染土壌に残留しないか、並びに、2)外来微生物が汚染土壌周辺の非汚染土壌に対して影響を与えないかを評価することが重要と考えられる。更に、環境における生態系の機能を考えれば、土壌の浄化だけでなく、土壌が回復しているか、即ち、微生物の機能が回復しているかを評価することが重要と考えられる。
【0006】
本発明は、炭化水素分解菌の投入による土壌環境への影響を適切に評価する方法を提供すること、特に、土壌中の生態系が反映され、かつ迅速及び正確な評価を可能とする方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記のような課題を解決することを主な目的として鋭意検討を重ねた結果1)土壌中の総バクテリア数、2)炭化水素分解菌数、及び3)土壌微生物の群集構造を、特定の方法で解析すること、更に汚染土壌だけでなく非汚染土壌に対しても解析を行うことで、適切な評価が可能になることを見出し、更に鋭意検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の評価方法、汚染土壌の浄化又は回復方法、及びバイオオーグメンテーション用炭化水素分解菌のスクリーニング方法に関する。
【0009】
項1:炭化水素分解菌の土壌投入が環境に与える影響の評価方法であって、
(1)汚染土壌について、
(1-1)炭化水素分解菌を投入し、
(1-2)前記(1-1)の投入後の土壌からDNAを抽出し、
(1-3)前記(1-2)で抽出したDNAを用いて下記(1a)〜(1c):
(1a)土壌バクテリア数、
(1b)Real-time PCR法により得られる炭化水素分解菌数、及び、
(1c)PCR-DGGE法により得られる土壌バクテリアDNAのバンドパターン
を測定し、
(1-4)前記(1-3)で得られた(1a)〜(1c)の測定結果に基づき、汚染土壌における環境浄化又は回復効果を評価する工程、
かつ、
(2)非汚染土壌について、
(2-1)炭化水素分解菌を投入し、
(2-2)前記(2-1)の投入後の土壌からDNAを抽出し、
(2-3)前記(2-2)で抽出したDNAを用いて、下記(2a)〜(2c):
(2a)土壌バクテリア数、
(2b)Real-time PCR法により得られる炭化水素分解菌数、及び、
(2c)PCR-DGGE法により得られる土壌バクテリアDNAのバンドパターン
を測定し、
(2-4)前記(2-3)で得られた(2a)〜(2c)の測定結果に基づき、非汚染土壌における環境影響を評価する工程
を有することを特徴とする環境影響評価方法。
【0010】
項2:前記(1-2)及び(2-2)において、
フェノール含有抽出溶媒を用いてDNAを抽出することを特徴とする項1に記載の環境影響評価方法。
【0011】
項3:項1の評価方法を経時的に行って、(1a)〜(1c)の経時変化を解析し、
(1a)の土壌バクテリア数が、ほぼ一定であるか又は増加し、
(1b)の炭化水素分解菌数が、減少もしくは実質的に0となり、かつ、
(1c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンが、類似度係数 0.5〜1.0の範囲でほぼ一定もしくは(2c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンに類似するように変化する場合に
(1-4)における汚染土壌における環境回復効果がある又は高いと評価することを特徴とする環境影響評価方法。
【0012】
項4:項1の評価方法を経時的に行って、(2a)〜(2c)の経時変化を解析し、
(2a)の土壌バクテリア数が、ほぼ一定であるか又は減少せず、
(2b)の炭化水素分解菌数が、減少もしくは実質的に0となり、
(2c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンが、類似度係数 0.5〜1.0の範囲でほぼ一定となる場合に
(2-4)における非汚染土壌における環境影響がない又は少ないと評価することを特徴とする環境影響評価方法。
【0013】
項4−1:炭化水素分解菌が、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する炭化水素分解菌であり、
前記(1b)及び(2b)におけるReal-time PCR法が、
配列表の配列番号1の塩基配列で表されるプライマー、及び
配列表の配列番号2の塩基配列で表されるプライマー
からなる炭化水素分解菌検出用プライマーセット
を用いたものであることを特徴とする項1〜4のいずれかに記載の評価方法。
【0014】
項4−2:炭化水素分解菌が、ゴルドニア(Gordonia)属に属する炭化水素分解菌であり、
前記(1b)及び(2b)におけるReal-time PCR法が、
配列表の配列番号3の塩基配列で表されるプライマー、及び
配列表の配列番号4の塩基配列で表されるプライマー
からなる炭化水素分解菌検出用プライマーセット
を用いたものであることを特徴とする項1〜4のいずれかに記載の評価方法。
【0015】
項5:汚染土壌の浄化又は回復方法であって、
項1又は2に記載の評価方法を経時的に行って、(1a)〜(1c)の経時変化を解析し、
(1a)の土壌バクテリア数が、増加せず、
(1b)の炭化水素分解菌数が、一時的に増加した後に減少せず、または、
(1c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンが、バンド数が減少して類似度係数が減少するか、もしくは(2c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンと異なるように変化する場合に、
栄養物質及び/又は炭化水素分解菌を更に投入する
ことを特徴とする汚染土壌の浄化又は回復方法。
【0016】
項6:バイオオーグメンテーション用炭化水素分解菌のスクリーニング方法であって、
候補となる炭化水素分解菌株について項1〜4のいずれかに記載の評価方法を行い、
得られる評価が、汚染土壌における環境回復効果がある又は高く、かつ、非汚染土壌における環境影響がない又は少ないとなる菌株を選別する工程
を有することを特徴とするスクリーニング方法。
【0017】
尚、本発明において「汚染物質」とは、人体又は環境に有害な影響を与える物質を指す。汚染物質としては、特に石油が挙げられる。
【0018】
また、「汚染土壌」とは、前記汚染物質を含む土壌を指す。また、「非汚染土壌」とは、前記汚染土壌に隣接し、前記汚染土壌と土質が実質的に同じで、前記汚染物質を含まない土壌を指す。
【0019】
また、本発明において、炭化水素分解菌とは、炭化水素を分解する能力を有する微生物を指す。
【0020】
炭化水素分解菌としては、例えば、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する炭化水素分解菌や、ゴルドニア(Gordonia)属に属する炭化水素分解菌等が挙げられる。
【0021】
Rhodococcus属に属する炭化水素分解菌、別言すると、Rhodococcus属に属し、かつアルカンヒドロキシラーゼ遺伝子を有する菌としては、例えば、Rhodococcus sp. ODNM2B、Rhodococcus sp. ODNM1C、Rhodococcus sp. NDMI54、Rhodococcus sp. NDMI114、Rhodococcus sp. NDKK48、Rhodococcus sp. NDKY82A、Rhodococcus sp. NDKK1、Rhodococcus sp. NDKK2、Rhodococcus sp. NDKK5、Rhodococcus sp. NDKK6、Rhodococcus sp. NDKK7、及び、Rhodococcus equiに属する菌等が挙げられる。このうち、ロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)NDKK6株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に、受託番号 FERM P-20708として、平成17年11月10日に寄託されている菌株である。
【0022】
また、Gordonia属に属する炭化水素分解菌、別言すると、Gordonia属に属し、かつアルカンヒドロキシラーゼ遺伝子を有する菌としては、例えば、Gordonia sp. YS5、Gordonia sp. YS3、Gordonia sp. NDKY76A、Gordonia sp. NDKK46、Gordonia sp. NDKY2C、及びGordonia sp. NDKY2B等が挙げられる。このうち、ゴルドニア エスピー (Gordonia sp. ) NDKY76A株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に、受託番号 FERM P-20709として、平成17年11月10日に寄託されている菌株である。
【0023】
尚、本明細書では、炭化水素分解菌の中でも難分解性の環状アルカンに対し高い分解活性を示すRhodococcus属炭化水素分解菌、及び、Gordonia属炭化水素分解菌を例に挙げて説明するが、本発明の炭化水素分解菌をこれに限定することを意味するものではない。
【0024】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
【0025】
本発明は、炭化水素分解菌の土壌投入が環境に与える影響を評価するために、
(1)浄化対象土壌、並びに、(2)非浄化対象土壌を対象とし、
(a)土壌中の総バクテリア数、(b)炭化水素分解菌数、(c)土壌バクテリアDNAのバンドパターンの解析を特定の手法で行う。
【0026】
(a)土壌バクテリア数
本発明において、土壌バクテリア数とは、対象土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNA量に基づいて求められる土壌バクテリア数を表す。
【0027】
単位重量が1gである場合、その数は、対象土壌(又は試料)単位重量あたりの数(cells/g-soil又はcells/g-sample)の単位で表すことができる。
【0028】
なお、ここでいうDNA量とは、対象土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNAの量を示す。より詳細には、DNAの由来に関わらず、該試料単位重量当たりに存在するDNAの総量を示す。
【0029】
土壌バクテリア数は、対象土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNA量を、適当な手法で換算することにより求めることができる。
【0030】
例えば、顕微鏡等の測定手段を用いて、予め土壌中の土壌バクテリアの数とDNA量との相関関係を求めておき、採取した試料から測定されたDNA量を該相関関係に照合することによって、求めることができる。
【0031】
好ましい態様の一例において、土壌バクテリア数は、対象土壌から採取した試料の単位重量あたりのDNA量を、下記式により換算することによって求められる。
Y = 1.7 × 108 X(R2 = 0.96)[Y;土壌バクテリア数(cells/g-soil)、X;eDNA量(μg/g-soil)]
試料中に存在する全てのバクテリアに由来するDNAの総量は、対象土壌の総合的な特性や状況を反映している。従って、対象土壌から採取した試料単位重量当たりに存在するDNA量に基づいて求められる土壌バクテリア数は、土壌の特性や土壌中のバクテリアの働きの状況を把握する指標となる。
【0032】
対象土壌から採取された試料とは、上記対象土壌から採取(サンプリング)される土壌のことである。採取方法は特に限定されず、適宜公知の方法に従って行うことができる。
【0033】
採取条件も適宜設定し得るが、対象土壌における微生物の状況を適正に判断するという観点から、試料の採取は、雨等によって対象土壌が通常の状態でない時期を避けて行うことが好ましい。
【0034】
対象土壌から採取した試料単位重量あたりのDNA量は、診断対象の土壌から採取した試料に存在するDNAを溶出し、該DNAの量を定量することにより測定することができる。
【0035】
対象土壌から採取した試料におけるDNA量の測定は、試料を取得した後、直ちに行うことが望ましいが、取得された試料を、低温(例えば−4〜−80度程度、好ましくは−20〜−80度程度)で1日〜3週間程度保存しておくこともできる。
【0036】
該試料に含まれる全微生物からDNAを溶出する方法としては、DNAが顕著に分解或いはせん断され、その定量に悪影響が及ぼされるものでない限り、特に制限されない。
【0037】
例えば、当該DNAの溶出方法の一態様として、該試料をDNA溶出溶液で処理する方法を挙げることができる。
【0038】
ここで使用されるDNA溶出溶液としては、バクテリアからDNAを溶出するために一般的に使用されている溶液を挙げることができる。
【0039】
具体的には、当該DNA抽出用溶液としては、EDTA、EGTA等のDNA分解酵素の阻害剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤を含む溶液及び/又はそれらを含む緩衝液等を用いることができる。また、緩衝液には、プロテイナーゼK、サーモライシン、サチライシン等のタンパク質分解酵素を含有させることもできる。各成分の配合割合は、DNAの抽出を著しく阻害しない範囲で適宜設定することができる。
【0040】
特に、本発明においては、DNA抽出用溶液として、フェノール含有抽出溶液を用いることが好ましい。抽出溶媒にフェノールを加えて細胞壁の溶解・破砕処理を行うことにより、細胞表面の疎水性が高く、厚い細胞壁を有するバクテリアに対しても十分な処理が行われ、DNA抽出効率が向上する。抽出溶媒におけるフェノールの含有割合は、効果を奏する範囲内で設定できるが、抽出溶媒全量に対し25〜50%程度、特に40〜50%程度である。
【0041】
上記DNA溶出溶液を用いたDNAの溶出処理において、DNAの溶出条件については、特に制限されない。例えば、溶出処理に供される土壌1gに対して、上記DNA抽出溶液を2〜20ml、好ましくは5〜15ml、更に好ましくは8〜12mlを添加混合することにより、DNAの溶出を行うことができる。
【0042】
また、溶出温度については、使用するDNA溶出溶液や溶出処理に供される土壌の種類等に応じて、適宜設定することができる。
【0043】
溶出時間については、使用するDNA抽出用溶液の種類、溶出処理に供される土壌の種類、溶出温度等によって異なり、一律に規定することはできないが、一例として、0.1〜4時間、好ましくは0.2〜2時間、更に好ましくは0.3〜1時間を挙げることができる。
【0044】
かくして溶出されたDNAを定量することによって、対象土壌に存在するDNA量を求めることができる。
【0045】
DNAの定量方法は、特に制限されず、例えば、溶出されたDNAを、必要に応じて精製し、回収して、公知又は慣用のDNA定量方法により定量することができる。
【0046】
具体的に、DNAの定量方法としては、精製することにより回収したDNAをアガロースゲル電気泳動に供した後に、臭化エチジウムで該DNAを染色して、ゲル上のDNAのバンドの蛍光強度を測定する方法を挙げることができる。
【0047】
また例えば、精製することにより回収したDNAを緩衝液に溶解して、該溶液の260nmの吸光度を測定する方法を挙げることもできる。
【0048】
DNAを精製する方法も、特に制限されず、常法に従って行うことができる。例えば、DNAを精製する方法としては、上記のようにしてDNA溶出処理した後の溶液を遠心分離して、その上清を回収する工程;前記工程で得られた上清に、クロロホルム、クロロホルム−イソアミルアルコール等の上記上清と層分離する不純物除去用溶液を添加して、混合する工程;前記工程で得られた混合液からDNAを含有する層を取り出すことにより、不純物を除去する工程、及び前記工程で得られたDNAを含有する層にイソプロピルアルコール、エタノール又はポリエチレングリコール等のDNA沈殿剤を添加してDNAを沈殿させ、これを回収する工程を含有する方法を挙げることができる。
【0049】
なお、DNAの抽出効率は、対象土壌の種類によって異なることがあるため、予め各試料におけるDNAの抽出効率を測定しておき、当該抽出効率に基づいて各対象試料毎に補正を行った上で、そのDNA量を求めることが望ましい。
【0050】
ここでいうDNA抽出効率とは、該対象土壌から採取した試料中に含まれるDNA量に対して、該試料から実際に溶出・定量されるDNA量の割合を意味する。
【0051】
上記のように測定されたDNA量から、上述の方法に従って、土壌バクテリア数を求める
ことができる。
【0052】
より具体的には、実施例に記載の方法に従って求めることができる。
【0053】
土壌バクテリア数は、土壌における微生物の活性の状況を反映しており、土壌バクテリア数が大きいほど、土壌中の各種有機物、窒素含有化合物、リン含有化合物などの物質を変換する活性が高いと考えられる。又は土壌バクテリア数が小さいほど、汚染物質が残留し、土壌バクテリアの生育が抑制され、物質変換活性が低いと考えられる。
【0054】
このため、土壌バクテリア数は、対象土壌における環境回復効果の指標となる。即ち、石油汚染土壌などの汚染が回復していない又は浄化が十分でない場合は、汚染物質の毒性等によって土壌バクテリア数が低下する。一方、汚染土壌の浄化又回復と共に土壌バクテリア数は増加する。
【0055】
また、炭化水素分解菌の投入が対象土壌の生態系へ影響を与えるか否かの指標となる。
即ち、投入した炭化水素分解菌の共存や生産物や炭化水素分解物が、土壌中に存在する微生物に対して悪影響を示す場合は、土壌バクテリア数が低下すると考えられる。一方、土壌バクテリア数が低下しない場合は、炭化水素分解菌の投入が土壌の生態系に与える影響はほとんどない又は少ないと考えられる。
【0056】
(b)炭化水素分解菌数
本発明において、炭化水素分解菌数は、投入した炭化水素分解菌の菌数を意味し、通常、対象土壌(又は試料)単位重量あたりの炭化水素分解菌数として示される。単位重量が1gである場合、その数は、対象土壌(又は試料)単位重量あたりの数(cells/g-soil又はcells/g-sample)の単位で表すことができる。
【0057】
炭化水素分解菌数は、対象土壌から抽出したDNAを鋳型としてReal-time PCRを行って得ることができる。即ち、炭化水素分解菌数は、対象土壌から抽出したDNAを鋳型とし、炭化水素分解菌用プライマーセットを用いて、Real-time PCRを行い、炭化水素分解菌に特異的なDNA配列を増幅し、増幅されたDNAを検出し、検出した値を用いて炭化水素分解菌数を算出することにより、得ることができる。
【0058】
対象土壌からDNAを抽出する方法は公知の方法に従って行うことができるが、前記土壌バクテリア数の測定に記載した手法と同様の手法とすることが好ましい。また、抽出したDNAの精製も公知の方法に従って行うことができるが、上記土壌バクテリア数の測定に用いた手法と同様の手法に用いることが好ましい。
【0059】
即ち、本発明によれば、土壌バクテリア数の測定に用いたDNA抽出試料を用いて、炭化水素分解菌数の測定も実施することができ、測定に必要な時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0060】
また、DNA抽出用溶液としては、フェノール含有溶液を用いることが好ましい。抽出溶媒にフェノールを加えて細胞壁の溶解・破砕処理を行うことによって、細胞表面の疎水性が高く、厚い細胞壁を有するバクテリアに対しても十分な処理が行われ、DNAの抽出効率が向上し、より正確な測定が可能となる。
【0061】
DNAの検出方法も特に限定されず、公知のReal-time PCRアッセイの手法に従って、PCR産物を増幅サイクルごとに逐次検出して行えばよい。
【0062】
PCRにおける条件は、炭化水素分解菌の種類等に応じて、適宜設定し、至適化することができる。
【0063】
例えば、炭化水素分解菌が、Rhodococcus属に属する炭化水素分解菌である場合は、アニーリング温度が60℃の条件とすることが好ましい。また、反応条件は、通常、95℃・5〜10分の加熱後、95℃・15〜20秒、60℃・30〜60秒、72℃・45〜75秒の反応を30サイクル程度である。
【0064】
また、炭化水素分解菌が、Gordonia属に属する炭化水素分解菌である場合は、アニーリング温度が61℃の条件とすることが好ましい。また、反応条件は、通常、95℃・5〜10分の加熱後、95℃・15〜20秒、61℃・30〜60秒、72℃・45〜75秒の反応を30サイクル程度である。
【0065】
PCRに用いるプライマーも、炭化水素分解菌を特異的に検出可能なものであれば、特に限定されず、炭化水素分解菌の種類等に応じて好ましく用いられる。
【0066】
例えば、Rhodococcus属に属する炭化水素分解菌であれば、
配列表の配列番号1の塩基配列で表されるプライマー、および
配列表の配列番号2の塩基配列で表されるプライマー
からなるプライマーセットが好ましく用いられる。
当該プライマーセットは、特に、Rhodococcus sp. NDKK6の検出に好適である。
【0067】
また、Gordonia属に属する炭化水素分解菌であれば、
配列表の配列番号3の塩基配列で表されるプライマー、および
配列表の配列番号4の塩基配列で表されるプライマー
からなるプライマーセットが好ましく用いられる。
当該プライマーセットは、特に、Gordonia sp. NDKY76A株の検出に好適である。
【0068】
Real-time PCRで検出した値を、公知の方法に従って作成した検量線にあてはめることにより、炭化水素分解菌数を算出することができる。
【0069】
例えば、Rhodococcus属に属する炭化水素分解菌は、下記式により、土壌1 g当たりの炭化水素分解菌数を算出することができる。
Rhodococcus属炭化水素分解菌数(cells/g-soil)= (3×1016)×e(-0.7747×Ct値)
[式中、Ct値は実験より得られた値であり、閾値に到達したときのサイクル数(threshold cycle)を表す。]
【0070】
また、Gordonia属に属する炭化水素分解菌は、下記式により、土壌1 g当たりの炭化水素分解菌数を算出することができる。
Gordonia属炭化水素分解菌数(cells/g-soil)= (8×1017)×e(-0.9518×Ct値)
[式中、Ct値は実験より得られた値であり、閾値に到達したときのサイクル数(threshold cycle)を表す。]
【0071】
炭化水素分解菌数は、炭化水素分解菌の残留性を示す指標となる。
【0072】
即ち、炭化水素分解菌数が大きい場合は、対象土壌中の汚染物質濃度が依然として高いか、投与した炭化水素分解菌の環境中での生残性(定着性)が高いといえる。また炭化水素分解菌数が小さい場合は対象土壌中の汚染物質が分解されて生育基質の濃度が低下したか、投与した炭化水素分解菌の環境中での生残性(定着性)が低いと言える。
【0073】
これから、炭化水素分解菌数は、対象土壌における環境回復効果の指標となる。即ち、炭化水素分解菌数が一時的に増加した後に減少する場合は、環境が回復していると評価できる。一方、炭化水素分解菌数が増加したまま維持される場合は、環境が十分に浄化されていない又は回復していないと評価できる。
【0074】
また、炭化水素分解菌の投入が土壌の生態系へ影響を与えるか否かの指標となる。即ち、炭化水素分解菌数が一時的に増加したとしても後に減少する場合は、当該菌株による環境に対する影響がない又は少ないと評価できる。一方、炭化水素分解菌数が増加したまま維持され、減少しない場合は、当該菌株が環境中に残留して環境に悪影響が生じている可能性がある又は高いと評価できる。
【0075】
(c)土壌バクテリアDNAのバンドパターン
本発明において、土壌バクテリアDNAのバンドパターンとは、土壌バクテリアの群集構造、即ち、土壌中のバクテリアを構成する微生物の多様性を意味する。
【0076】
土壌バクテリアDNAのバンドパターンは、PCR−DGGE(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法を用いて得ることができる。土壌バクテリアDNAのバンドパターンの解析は、SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism、一本鎖高次構造多型)法やT−RFLP(Terminal Restriction Fragment LengthPolymorphism Analysis、末端断片長多型解析)法等の他の手法も可能であるが、土壌のような多種多様な微生物が存在する環境での群集構造解析は、16S rRNA遺伝子を対象とするPCR−DGGE法が適している。
【0077】
より詳細には、PCR−DGGE法による土壌バクテリアDNAのバンドパターンは、土壌から抽出されるDNAを鋳型としてPCR反応で増幅した複数の産物を得て、該産物を変性剤濃度勾配ゲルに適用して電気泳動により分離し、電気泳動後のゲル中のPCR増幅産物の分離パターンの特定のバンドの移動度とそのバンドのDNA量を用いて、算出することができる。
【0078】
対象土壌からDNAを抽出する方法は公知の方法に従って行うことができるが、前記土壌バクテリア数の測定に記載した手法と同様の手法とすることが好ましい。
【0079】
即ち、本発明によれば、土壌バクテリア数の測定に用いたDNA抽出試料を用いて、土壌バクテリアDNAのバンドパターンの測定も実施することができる。更に、土壌バクテリア数の測定に用いたDNA抽出試料を用いて、炭化水素分解菌数及び土壌バクテリアDNAのバンドパターンの測定を実施することができる。即ち、本発明によれば、評価に必要なデータを効率よく取得することができ、迅速に評価を行うことができる。
【0080】
また、DNA抽出用溶液としては、特に、フェノール含有溶液を用いることが好ましい。抽出溶媒にフェノールを加えて細胞壁の溶解・破砕処理を行うことによって、細胞表面の疎水性が高く、厚い細胞壁を有するバクテリアに対しても十分な処理が行われ、DNAの抽出効率が向上し、より正確な測定が可能となる。
【0081】
PCR−DGGE法に用いるプライマーは、異なる種の微生物で配列が共通な不変領域、具体的には16SrRNA遺伝子を対象に、種特異的な配列多様性を有する可変領域を挟むように配置されていることを条件として設計することができる。16SrRNAには合計9箇所の可変領域があることから、これらのいずれかを挟むようにプライマーを設計するが、特に、微生物種による配列の差が比較的大きいV3可変領域を含むようにプライマーを設計することが好ましい。そのようなプライマーとしては、例えば、配列表の配列番号5及び6に示されるプライマーを用いることができる。
【0082】
PCR−DGGE法で得られたDNAパターンは、各レーン毎にDNAのバンドの本数と移動距離を数値化し、この値に基づいて、全てのレーンの組み合わせを用いて類似性を算出する。
【0083】
以下、類似性を数値化した値を類似度係数ともいう。
【0084】
類似性を数値化する方法は特に限定されないが、例えば、「平均距離法」を用いて総バンド数に対する一致率=BSI(Band similarity Index)を算出し、値が高いものからグループ化(クラスタリング)することができる。換言すると、BSI値を類似度係数として用いることができる。
【0085】
BSIが高いほど、レーン間のバンドパターンが類似していると判断でき、菌叢に差がないことを意味する。
【0086】
具体的にその類似性を示すBSI値が凡そ0.5以上程度であれば、微生物群集構造は大きくは変化していないと判断できる。一方、BSIが0.2〜0.3程度であれば、群集構造は大きく変化していると考えられる。
【0087】
土壌バクテリアDNAのバンドパターンは、対象土壌に存在する微生物の種類(微生物叢)の多様性を示す。
【0088】
これから、土壌バクテリアDNAのバンドパターンは、環境浄化又は回復効果の指標となる。即ち、汚染が回復していない又は浄化が十分でない場合、汚染物質の毒性等によって、特定の微生物の生育が抑制され、土壌バクテリアDNAのバンドパターンで示される多様性が小さくなると考えられる。一方、汚染土壌の浄化又回復と共に、生育可能な微生物の種類が増え、土壌バクテリアDNAのバンドパターンで示される多様性が大きくなると考えられる。
【0089】
また、炭化水素分解菌の投入によって、対象土壌の生態系へ影響を与えるか否かの指標となる。即ち、投入した炭化水素分解菌の共存や生産物や炭化水素分解物が、土壌中に存在する微生物の生育を抑制している場合は、土壌バクテリアDNAのバンドパターンで示される多様性が小さくなると考えられる。一方、土壌バクテリア数が低下しない場合は、炭化水素分解菌の投入が土壌の生態系に与える影響はほとんどない又は少ないと考えられる。
【0090】
(1)汚染土壌における評価
汚染土壌においては、上記(a)土壌中の総バクテリア数、(b)炭化水素分解菌数、(c)土壌バクテリアDNAのバンドパターンの解析結果に基づき、汚染土壌における環境浄化又は回復効果を評価することができる。
【0091】
具体的に、土壌バクテリア数が大きいほど、汚染物質の濃度が低下し、環境が回復しており、炭化水素分解菌数が小さいほど、汚染物質の濃度が低下し、投入した炭化水素分解菌が残留していないことを示しており、
土壌バクテリアDNAのバンドパターンが多様であるほど土壌微生物の生態系が回復していると評価できる。
【0092】
また、上記(a)〜(c)をモニタリング、即ち、経時的に測定して、その変化を解析することにより、環境浄化及び回復の程度又は進行状況を評価することができる。
【0093】
具体的に、
(1a)汚染土壌の土壌バクテリア数が、ほぼ一定であるか又は増加し、
(1b)汚染土壌の炭化水素分解菌数が、減少もしくは実質的に0となり、かつ、
(1c)汚染土壌の土壌バクテリアDNAのバンドパターンが、BSI 0.5〜1.0でほぼ一定であるか、もしくは非汚染土壌の土壌バクテリアDNAのバンドパターンの分離パターンと類似するように変化する場合に
汚染土壌における環境回復効果がある又は高いと評価することができる。
【0094】
なお、本明細書において、土壌バクテリア数がほぼ一定であるとは、一定値の0.5〜2倍程度の幅を許容することを意味する。
【0095】
また、本明細書において、炭化水素分解菌数が、実質的に0であるとは、Real-time PCR法での検出限界以下となること、具体的には、炭化水素分解菌数が1×106cells/g-soil以下程度であることを意味する。
【0096】
(2)非汚染土壌における評価
非汚染土壌においては、上記(a)土壌中の総バクテリア数、(b)炭化水素分解菌数、(c)土壌バクテリアDNAのバンドパターンの解析結果に基づき、非汚染土壌に与える影響、換言すると、投与菌の安全性や有害性等を評価することができる。
【0097】
具体的に、土壌バクテリア数が炭化水素分解菌を投与した場合と投与していない場合で類似の値であるほど、炭化水素分解菌による影響は小さく、
炭化水素分解菌数が時間経過と共に減少するほど、当該菌株の環境中での生残性(定着性)が低く、
土壌バクテリアDNAのバンドパターンが炭化水素分解菌を投与した場合と投与していない場合で類似であるほど環境への影響はない若しくは非常に小さいと評価できる。
【0098】
また、上記(a)〜(c)をモニタリング、即ち、経時的に測定して、その変化を解析することにより、非汚染土壌に与える影響の程度又は状況を評価することができる。
【0099】
具体的に、
(2a)非汚染土壌の土壌バクテリア数が、ほぼ一定であるか又は減少せず、
(2b)非汚染土壌の炭化水素分解菌数が、減少もしくは実質的に0となり、
(2c)非汚染土壌の土壌バクテリアDNAのバンドパターンが、BSI 0.5〜1.0でほぼ一定であるように変化する場合に、非汚染土壌における環境影響がない又は少ないと評価する。
【0100】
前記(1)及び(2)の評価は、得られた値を更に換算させた値を用いて行ってもよい。また、前記(1)及び(2)において、指標の経時変化を解析する方法は、特に限定されず、適宜公知の方法に従って行うことができる。例えば、得られた値を更に換算させた値を用いて指標の変動をモニタリングしてもよい。また、適当なグラフ又は図等の表示手段を用いてモニタリングしてもよい。
【0101】
また、上記(1)及び(2)の評価においては、(a)〜(c)に加えて、更に1又は複数の他の指標を用いて行うこともできる。
【0102】
他の指標としては、例えば、植物生長、原生動物数、土壌中での物質循環活性に関する指標等が挙げられる。
【0103】
2.汚染土壌の浄化又は回復方法
本発明における上記評価方法を利用することで、土壌の浄化又は回復を効率よく行うことができる。
【0104】
本発明の浄化又は回復方法においては、
上記本発明の評価方法を経時的に行って、汚染土壌における前記(1a)〜(1c)の経時変化を解析し、
(1a)の土壌バクテリア数が、増加せず、
(1b)の炭化水素分解菌数が、一時的に増加した後に減少せず、または、
(1c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンが、バンド数が減少して類似度係数が減少するか、もしくは(2c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンと異なるように変化する場合に、
栄養物質及び/又は炭化水素分解菌を更に投入して、汚染土壌の浄化又は回復を行う。
【0105】
また、上記評価方法を経時的に行って、非汚染土壌における環境影響がある又は大きいと評価される場合は、汚染土壌の浄化又は回復の方法として適さないと判断することができる。
【0106】
栄養物質は、土壌微生物の栄養となるものであれば、特に限定されず、対象とする土壌の種類や生息微生物の種類等により、適宜設定できる。また投与形態も限定されず、例えば、栄養物質を含む土壌等の形態で投与してもよい。
【0107】
また、追加投与する炭化水素分解菌の種類も、適宜設定することができ、初期投与した炭化水素分解菌と同じ菌であってもよく、異なる菌であってもよい。例えば、初期にRhodococcus属の炭化水素分解菌を投与して、追加処理が必要となった場合、Gordonia属の炭化水素分解菌を投与することができる。また、初期にGordonia属の炭化水素分解菌を投与し、追加処理が必要となった場合、Rhodococcus属の炭化水素分解菌を投与することが考えられる。
【0108】
栄養分の投与、及び、炭化水素分解菌の投与のいずれを行うか、又は双方の処理が必要であるかは、(a)〜(c)の動向や値の大小により判断することができる。
【0109】
例えば、(1a)の土壌バクテリア数が増加していない場合には、栄養物質の投与を行うことが考えられる。また、(1b)の炭化水素分解菌数が減少したにも関わらず、(1a)と(2a)の土壌バクテリア数に差がある場合、及び/又は(1c)と(2c)のバンドパターンの類似度係数が0.5以下である場合に、炭化水素分解菌の追加投与処理を行うことが考えられる。
【0110】
また、炭化水素分解菌又は栄養分の投与量等も、(a)〜(c)の動向や値の大小により判断することができる。
【0111】
また、本発明の土壌浄化又は回復方法においては、栄養分及び/又は炭化水素分解菌の投与以外の他の処理を更に行ってもよい。他の処理としては、例えば、土壌の撹拌による通気などが考えられる。
【0112】
本発明の土壌の浄化又は回復方法によれば、土壌中の微生物の状態及び炭化水素分解菌の動向を把握することができ、それに応じた追加処理を行うことで、バイオレメディエーション処理を効率化することができる。換言すると、本発明の土壌の浄化又は回復方法は、汚染土壌の浄化又は回復における処理の決定方法とも述べることができる。
【0113】
本発明によれば、対象土壌における総合的なバクテリアの状況や土壌の特性、炭化水素分解菌による処理の状況を把握することができ、これにより、バイオレメディエーションをより効率化させることができ、更に土壌バクテリアの状況が良好な状態となるよう土壌環境を回復することができると考えられる。
【0114】
3.バイオオーグメンテーション用炭化水素分解菌のスクリーニング方法
本発明は、更に、上記評価方法を利用して、汚染土壌に対する環境回復効果が高く、非汚染土壌に対して環境に対する悪影響を与えることの少ない炭化水素分解菌をスクリーニングする方法を提供する。
【0115】
本発明のスクリーニング方法は、 候補となる炭化水素分解菌株について上記本発明の記載の評価方法を行って、汚染土壌における環境回復効果がある又は高く、かつ、非汚染土壌における環境影響がない又は少ないとの評価が得られた菌株を選別することにより、バイオオーグメンテーションに適した炭化水素菌をスクリーニングする。
【0116】
候補となる炭化水素分解菌としては、種々の炭化水素分解菌を対象とでき、特に限定されない。
【0117】
本発明のスクリーニング方法によれば、汚染浄化能力だけでなく、汚染土壌における総合的なバクテリアの状況に与える影響や環境回復能力、更には、汚染土壌に隣接する非汚染土壌に対する影響についても評価して、炭化水素分解菌株を選択することができる。
【0118】
バイオオーグメンテーションは、高い浄化効率が期待できるものの、外部の微生物を投入することから、浄化対象土壌及びその周辺土壌の生態系のバランスを崩すことが懸念される。このため、特に実地のバイオオーグメンテーション処理では適切な菌株の選択が重要となる。これに対し、本発明のスクリーニング方法によれば、汚染土壌の浄化効率に加え、汚染土壌の環境回復能力、及び汚染土壌の周辺に対する影響も考慮した適切な菌株の選択が可能となる。
【発明の効果】
【0119】
本発明によれば、外部微生物投入によるバイオオーグメンテーション処理を、より効率よく安全に行うことを可能にする、環境影響評価方法が提供される。
【0120】
従来、浄化対象となる土壌の解析が中心に行われていたが、投入微生物は外部に広がる可能性もあるため、非汚染土壌、即ち、浄化対象土壌に隣接する領域に対する影響も評価する必要がある。更に、土壌環境に与える影響を適切に評価するためには、土壌の特性や土壌中のバクテリアの働きの状況、更には、菌の共存による影響も把握することが重要である。更に、土壌中の微生物の状況を適切に把握するためには、試料を採取後、迅速かつばらつきの少ない処理を行うことが必要である。
【0121】
本発明によれば、土壌中の微生物の状態及び炭化水素分解菌の動向を把握することができ、本来の土壌環境が回復しているか、更に、非汚染土壌に対する安全性が確保されるかを評価することができる。更に、本発明においては、同じ採取試料を利用した複数の指標を得ることができ、適確な評価を迅速に得ることができる。
【0122】
更に、本発明の土壌の浄化又は回復方法によれば、土壌中の微生物の状態及び炭化水素分解菌の動向を把握しながら、追加処理を行うことで、バイオレメディエーション処理を効率化することができ、更に土壌バクテリアの状況が良好な状態となるよう土壌環境を回復することができると考えられる。
【0123】
更に、本発明のスクリーニング方法によれば、汚染土壌の浄化効率に加え、汚染土壌の環境回復能力、及び汚染土壌の周辺に対する影響も考慮し、安全かつ効率のよいバイオオーグメンテーション処理に適した菌株の選択が可能となる。
【0124】
このように、本発明は、安全でより効率のよいバイオオーグメンテーションに向けた評価技術を提供するものであり、バイオオーグメンテーションの実用化促進に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】実施例において、異なる抽出溶液を用いてDNA抽出効率の差違を解析した結果を示す図面である。
【図2】異なる菌株について、抽出溶液におけるフェノールの有無によるDNA抽出効率の違いを解析した結果を示す図面である。
【図3】非汚染土壌Aに対し、Rhodococcus sp. NDKK6株を投与したときの土壌バクテリア数の変化を解析した結果を示す図面である。
【図4】非汚染土壌Aに対し、Rhodococcus sp. NDKK6株を投与した場合におけるReal-timePCRにより測定される菌株の残存数の変化を解析した図面である。
【図5】非汚染土壌Aに対し、Rhodococcus sp. NDKK6株を投与した場合におけるPCR-DGGEより得られるバンドパターンを解析した結果を示す図面である。
【図6】非汚染土壌Bに対し、Rhodococcus sp. NDKK6株を投与したときの土壌バクテリア数の変化を解析した結果を示す図面である。
【図7】非汚染土壌Bに対し、Rhodococcus sp. NDKK6株を投与した場合におけるReal-timePCRにより測定される菌株の残存数の変化を解析した図面である。
【図8】非汚染土壌Bに対し、Rhodococcus sp. NDKK6株を投与した場合におけるPCR-DGGEより得られるバンドパターンを解析した結果を示す図面である。
【図9】非汚染土壌Cに対し、Rhodococcus sp. NDKK6株を投与したときの土壌バクテリア数の変化を解析した結果を示す図面である。
【図10】非汚染土壌Cに対し、Rhodococcus sp. NDKK6株を投与した場合におけるReal-timePCRにより測定される菌株の残存数の変化を解析した図面である。
【図11】非汚染土壌Cに対し、Rhodococcus sp. NDKK6株を投与した場合におけるPCR-DGGEより得られるバンドパターンを解析した結果を示す図面である。
【図12】非汚染土壌Aに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与したときの土壌バクテリア数の変化を解析した結果を示す図面である。
【図13】非汚染土壌Aに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるReal-timePCRにより測定される菌株の残存数の変化を解析した図面である。
【図14】非汚染土壌Aに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるPCR-DGGEより得られるバンドパターンを解析した結果を示す図面である。
【図15】非汚染土壌Bに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与したときの土壌バクテリア数の変化を解析した結果を示す図面である。
【図16】非汚染土壌Bに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるReal-timePCRにより測定される菌株の残存数の変化を解析した図面である。
【図17】非汚染土壌Bに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるPCR-DGGEより得られるバンドパターンを解析した結果を示す図面である。
【図18】非汚染土壌Cに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与したときの土壌バクテリア数の変化を解析した結果を示す図面である。
【図19】非汚染土壌Cに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるReal-timePCRにより測定される菌株の残存数の変化を解析した図面である。
【図20】非汚染土壌Cに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるPCR-DGGEより得られるバンドパターンを解析した結果を示す図面である。
【図21】汚染土壌Aに対し、Gordonia sp. NDKY76A株を投与した場合における総油分濃度の変化を解析した結果を示す図面である。
【図22】汚染土壌Aに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与したときの土壌バクテリア数の変化を解析した結果を示す図面である。
【図23】汚染土壌Aに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるReal-timePCRにより測定される菌株の残存数の変化を解析した図面である。
【図24】汚染土壌Aに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるPCR-DGGEより得られるバンドパターンを解析した結果を示す図面である。
【図25】汚染土壌Bに対し、Gordonia sp. NDKY76A株を投与した場合における総油分濃度の変化を解析した結果を示す図面である。
【図26】汚染土壌Bに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与したときの土壌バクテリア数の変化を解析した結果を示す図面である。
【図27】汚染土壌Bに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるReal-timePCRにより測定される菌株の残存数の変化を解析した図面である。
【図28】汚染土壌Bに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるPCR-DGGEより得られるバンドパターンを解析した結果を示す図面である。
【図29】汚染土壌Cに対し、Gordonia sp. NDKY76A株を投与した場合における総油分濃度の変化を解析した結果を示す図面である。
【図30】汚染土壌Cに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与したときの土壌バクテリア数の変化を解析した結果を示す図面である。
【図31】汚染土壌Cに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるReal-timePCRにより測定される菌株の残存数の変化を解析した図面である。
【図32】汚染土壌Cに対し、Gordonia sp. NDKY76A 株を投与した場合におけるPCR-DGGEより得られるバンドパターンを解析した結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0126】
以下、本発明をより詳細に説明するために、実施例や試験例を用いて説明するが、本発明はこれらの例に制限されるものではない。
【実施例】
【0127】
1.炭化水素分解菌をモニタリングするためのDNA抽出効率の向上
(1−1)実験方法
土壌中の微生物数、特に土壌中での存在割合が高い土壌バクテリア数を把握することは、土壌の生態系を理解する上で重要である。この土壌バクテリア数を定量する技術には、主に平板培養法や呼吸活性測定法がある。前者は培養を伴うために時間が掛かったり、土壌中には培養が困難な微生物が多く含まれているため、総数を正確に把握できない問題がある。一方、後者は測定値がばらつきやすいという問題がある。そこで、微生物(バクテリア)から抽出した核酸(DNA)量に基づいた定量法である環境DNA(eDNA)解析法が構築されてきた。環境eDNA法では、まず温和な条件で土壌バクテリアからeDNAを抽出し、そのDNA量を定量する。次に、予め構築したeDNA量−土壌バクテリア数の検量線を用いてeDNA量から土壌バクテリア数を算出する。しかしながら、本法では細胞壁が強固なバクテリアからはDNAが抽出され難い。
【0128】
一方、バイオオーグメンテーションで用いる炭化水素分解菌には、細胞表面の疎水性度が高く、厚い細胞壁を有するものがあり、Rhodococcus属やGordonia属等の炭化水素分解菌もそのような特性を有している。
【0129】
そのため、バイオオーグメンテーションの評価を行う際、eDNA法による土壌バクテリア数による評価を用いると、eDNAの抽出効率が低くなり、実際よりも土壌バクテリア数を過小評価してしまうことが考えられる。
【0130】
このようなDNA抽出効率を考慮して、炭化水素分解菌及び一般的な土壌細菌を用い、DNA抽出溶媒の種類を代えて、細胞壁の溶解・破砕処理を検討した。
【0131】
炭化水素分解菌としては、Rhodococcus属に属する菌及びGordonia属に属する菌を用いた。
【0132】
また、一般的な土壌細菌としては、大腸菌及び枯草菌を用いた。これらの菌をLB培地(ポリペプトン10 g/L、乾燥酵母エキス5 g/L、塩化ナトリウム5 g/L)5 mlで24時間前培養した。
【0133】
この前培養液1 mlを1.5 ml容マイクロチューブに移し、8,000 rpm、5分間遠心分離して菌体を集菌した。上清を捨て、表1に示すDNA抽出緩衝液(pH 8.0)400 μlを加え、菌体を懸濁した。
【0134】
また、表1に示す液に、下記2)〜19)の処理を行ったDNA抽出緩衝液とする以外は同様として、菌体懸濁処理を行った。
【0135】
1)表1に示す溶液と同じ(他の物質の添加なし)
2) フェノール含有溶液(TE緩衝液飽和フェノール液、フェノール含量約69%(w/w))400 μlを加えた。
【0136】
3)−80℃で凍結した後、室温とする融解処理を3回繰り返した。
【0137】
4) 100℃の沸騰水中で10分間ボイリングした。
【0138】
5) アルカリ溶液(1NのNaOH溶液)を400 μlを加えた。
【0139】
6)〜19)では、以下の各精製品を1 %(w/v)になるように溶解させた10:1 TE緩衝液を400 μl加えた。10:1 TE 緩衝液の組成は表2に示す。
【0140】
6)トリトンX
7) CTAB
8) 塩化リゾチーム
9)サーモライシン
10)中性プロテアーゼ
11)アルカリ性プロテアーゼ
12)セルラーゼ
13)β−アミラーゼ
14)塩化リゾチーム+サーモライシン
15)塩化リゾチーム+中性プロテアーゼ
16)塩化リゾチーム+アルカリ性プロテアーゼ
17)塩化リゾチーム+セルラーゼ
18)塩化リゾチーム+β−アミラーゼ
19)アクロモペプチダーゼ
【0141】
各処理後、20 %(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム溶液を400 μl加え、1,500 rpm、室温で20分間撹拌した。撹拌後、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1、v/v)400 μlを加えて撹拌した後、16℃、12,000 rpmで5分遠心分離した。遠心分離後、水層を新たなマイクロチューブに300 μl分取し、2-プロパノールを180 μl加えて緩やかに混和し、16℃、14,000 rpmで15分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、70 %(v/v)エタノールを500 μl加え16℃、14,000 rpmで5分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去しアスピレーターで30分間減圧乾燥させた。これに前記TE 10:1緩衝液(pH 8.0)を50 μl加えよく溶解させ、これをeDNA溶液とした。アガロース2.0 g、50×TAE緩衝液(pH 8.0)4.0 ml及び0.1 mMエチジウムブロマイド溶液20 μlに蒸留水を加えて200 mlとし、1.0 %アガロースゲルを作製した。50×TAE緩衝液の組成は、表3に示す。
【0142】
eDNA溶液5.0 μlにローディングダイ(東洋紡、大阪)1.0 μlを混合し、全量6.0 μl、既知量のDNAを含むスマートラダー(ニッポンジーン、富山)1.5 μlをアガロースゲルにアプライした。これを100 Vで40分間電気泳動を行った後アガロースゲルにUV照射し、DNAバンドを確認した。KODAK 1D Image Analysis software(KODAK、東京)を用いてスマートラダーのDNAバンドを解析し、蛍光強度に対するDNA量の検量線を作成した。この検量線を用いて、各サンプルDNA溶液のDNAバンドの蛍光強度からDNA量を求め、各処理によって得られたeDNA量を比較した。
【0143】
【表1】

【0144】
【表2】

【0145】
【表3】

【0146】
種々の抽出溶媒を用いて検討した結果を図1に示す。その結果、フェノールを加えたもの(レーン2)が最も高い抽出効率であることが分かった。
【0147】
また、前記2)の抽出緩衝液(表1の溶液にフェノールを添加したもの)を用いた場合と、1)の抽出緩衝液(表1の溶液)を用いた場合(従来法)とを、菌株ごとに比較した結果を図2に示す。
【0148】
上記のように、抽出溶媒にフェノールを加えて細胞壁の溶解・破砕処理を行うことにより、DNA抽出効率が向上することが明らかになった。
【0149】
このため、以下の実施例では、DNAの抽出溶媒として、フェノール含有溶媒を用いて、検討を行った。
【0150】
2.非汚染土壌における評価
(2-1)実験方法
2a)使用土壌
異なる場所から採集した3種類の土壌を用いた。諸性質を表4に示す。
【0151】
【表4】

【0152】
2b)炭化水素分解菌培養液の調製
Rhodococcus sp. NDKK6もしくはGordonia sp. NDKY76AをBFG培地(肉エキス 10 g/l、酵母エキス 10 g/l、D-グルコース 3 g/l)に植菌(1% v/v)し、30℃、130 rpmで2日間振とう培養した。培養後、SCF培地(コーンスティープリカー 30 g/l、酵母エキス 10 g/l、ソルビトール 40 g/l、リン酸水素二アンモニウム 5 g/l、リン酸水素二カリウム 5 g/l、硫酸マグネシウム 1 g/l)に植菌(1% v/v)し、30℃、130 rpmで3日間、振とう培養した。この培養液を用いてOD660 とCFUを測定し、バクテリア数を求めた。
【0153】
2c)土壌への投与
UMサンプル瓶に前述の3種の土壌サンプル100 gを入れ、洗浄した炭化水素分解菌(NDKK6株またはNDKY76A株)を1×108 cells/g-soilになるように投与した。コントロールは菌液と同体積の滅菌水を加えた。
【0154】
2d)モニタリング
菌液を投与した日を0日目として、3日おきに土壌をサンプリングした。
下記2e)の手法で測定したeDNA解析法により土壌バクテリア数を算出した。また、下記2g)のリアルタイムPCR法により、Rhodococcus sp. NDKK6およびGordonia sp. NDKY76Aの菌数を定量した。また、下記2h)のPCR-DGGE法により、土壌バクテリアDNAのバンドパターンの群集構造解析を行った。
【0155】
2e)eDNA解析法による土壌バクテリア数の測定
50 ml容遠沈管に土壌1.0 gを量り取り、前記表1に記載のDNA緩衝液(pH 8.0)を8.0 ml、20 %(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム溶液を1.0 ml加え、1,500 rpm、室温で20分間撹拌した。撹拌後、50 ml容遠沈管から滅菌済み1.5 mlマイクロチューブに1.5 ml分取し、16℃、8,000 rpmで10分間遠心分離した。水層を新たなマイクロチューブに700 μl分取し、フェノール350 μl、クロロホルム・イソアミルアルコール(24:1、v/v)350 μlを加えて撹拌し、抽出処理を行った後、16℃、12,000 rpmで5分遠心分離した。遠心分離後、水層を新たなマイクロチューブに500 μl分取し、2-プロパノールを300 μl加えて緩やかに混和し、16℃、14,000 rpmで15分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、70 %(v/v)エタノールを500 μl加え16℃、14,000 rpmで5分遠心分離した。遠心分離後、上清を除去しアスピレーターで30分間減圧乾燥させた。これに前記TE 10:1緩衝液(pH 8.0)を50 μl加えよく溶解させ、これをeDNA溶液とした。アガロース2.0 g、前記50×TAE緩衝液(pH 8.0)4.0 ml及び0.1 mMエチジウムブロマイド溶液20 μlに蒸留水を加えて200 mlとし、1.0 %アガロースゲルを作製した。eDNA溶液5.0 μlにローディングダイ(東洋紡、大阪)1.0 μlを混合し、全量6.0 μl、既知量のDNAを含むスマートラダー(ニッポンジーン、富山)1.5 μlをアガロースゲルにアプライした。これを100 Vで40分間電気泳動を行った後アガロースゲルにUV照射し、DNAバンドを確認した。KODAK 1D Image Analysis software(KODAK、東京)を用いてスマートラダーのDNAバンドを解析し、蛍光強度に対するDNA量の検量線を作成した。この検量線を用いて、各サンプルDNA溶液のDNAバンドの蛍光強度からDNA量を求め、各土壌1.0 g当たりのeDNA量を算出した。
【0156】
eDNA量をDAPI染色による土壌バクテリア数に換算する検量線によって土壌バクテリア数を求めた。定量したeDNA量を関係式Y = 1.7 × 108 X(R2 = 0.96)[Y;土壌バクテリア数(cells/g-soil)、X;eDNA量(μg/g-soil)]を用いて土壌バクテリア数を算出した。
【0157】
2f)eDNAの精製
アガロースゲルに、e項に示す方法で土壌から抽出したeDNAを供し、得られたDNAバンドをカッターでゲルごと切り取った。このゲルをカラムに移し、遠心(4℃、14,000 rpm、3分)後、カラムから溶出したDNA溶液に0.1倍量の3 M酢酸ナトリウムと2.5倍量のエタノールを加え、−20℃で20分静置した。その後、遠心(4℃、14,000 rpm、10分)し、上清を除去した。70%エタノールを入れて再度遠心(4℃、14,000 rpm、5分)し、上清を除去した。アスピレーターで吸引乾燥した後、10:1TE緩衝液(表2)を10 μL加えDNAを溶解させた。
【0158】
2g)リアルタイムPCRによる炭化水素分解菌の定量
前記e項のeDNA解析法において抽出し、前記f項に示す方法で精製したeDNA溶液をテンプレートとし、200 μl容マイクロチューブに下記表5に示すリアルタイムPCR溶液を加え、Applied Biosystems 7300 Real-time System(アプライドバイオシステム、USA)にセットして、下記表6に示す設定で反応を行った。
【0159】
なお、溶液の調製はKAPA-SYBR qPCR-kit(KAPA-BIOSYSTEMS、大阪)のプロトコールに従い、プライマーは、表7に示すプライマーセットを用いた。
【0160】
【表5】

【0161】
【表6】

【0162】
【表7】

【0163】
2h)PCR-DGGEによる土壌バクテリアDNAのバンドパターンの解析
2h-1)PCR
前記eDNA解析法において抽出し、前記f項に示す方法で精製したeDNA溶液をテンプレートとし、PCR反応によってバクテリアの16S rRNA遺伝子におけるV3領域を含む領域の増幅を行った。200 μL容チューブに、表8に示すPCR溶液を加え、サマーマルサイクラー(BIO RAD、USA)にセットして、表9の設定でPCRを行った。PCRに用いたプライマーの塩基配列を表10に示す。なおPCRに用いた試料のうち、10×Buffer for KOD -Plus- Ver.2、2 mM dNTPs、25 mM MgSO4、KOD -Plus-(1 U/μl)はKOD -Plus- Ver.2(東洋紡、大阪)の試料を用いた。PCR反応後、反応液3.0 μLとゲルローディング液 1.0 μLを混合しアガロースゲルにアプライし100 V、20分電気泳動を行った。トランスイルミネーター(UVP、フナコシ、東京)を用いて500 bp付近のDNAバンドを確認した。
【0164】
【表8】

【0165】
【表9】

【0166】
【表10】

【0167】
2h-2)PCR産物の精製
得られたPCR産物をPCR-MTM kit(Clean Up System、VIOGENE)のSpin Methodに従って精製した。精製後、1 μL分光光度計Nano Drop(ND-1000、テクノロジーズ、USA)を用いてDNA濃度を測定した。
【0168】
2h-3)DGGE解析
精製したPCR産物を用いて表11に示す条件でDGGEを行った。アクリルアミド濃度は8%、ゲルの濃度勾配は30%−70%または30%−80%で、泳動条件は50 V・16時間で行った。
【0169】
【表11】

【0170】
2h-4)類似度係数の算出
PCR-DGGEで得られたDNAパターンから、解析ソフト(Total Lab TL120 v2006、Nonlinear dynamics、テキサス、アメリカ)を用いてBand Similarity Index(BSI)を下式に代入して算出した。また、このBSIを用いて、Unweighted Pair Group Method with Arithmetic Mean(UPGMA)法によりクラスター解析を行った。
(レーンAとBの相同性の計算例)
【0171】
【数1】

【0172】
2-2)結果
2i)Rhodococcus sp.NDKK6
(2i−A)土壌A
土壌Aに対し、Rhodococcus sp.NDKK6を投与した後の土壌バクテリア数、Rhodococcus 属炭化水素分解菌数、および土壌細菌の群集構造の変化を解析した結果を図3〜5に示す。
【0173】
(2i-B)土壌B
土壌Bに対し、Rhodococcus sp.NDKK6を投与した後の土壌バクテリア数、Rhodococcus 属炭化水素分解菌数、および土壌細菌の群集構造の変化を解析した結果を図6〜8に示す。
【0174】
(2i-C)土壌C
土壌Cに対し、Rhodococcus sp.NDKK6を投与した後の土壌バクテリア数、Rhodococcus 属炭化水素分解菌数、および土壌細菌の群集構造の変化を解析した結果を図9〜11に示す。
【0175】
(2ii)Gordonia sp. NDKY76A
(2ii−A)土壌A
土壌AにGordonia sp. NDKY76A株を投与した後の土壌バクテリア数、Gordonia属炭化水素分解菌数、および土壌細菌の群集構造の変化を解析した結果を図12〜14に示す。
【0176】
(2ii−B)土壌B
土壌BにGordonia sp. NDKY76A株を投与した後の土壌バクテリア数、Gordonia属炭化水素分解菌数、および土壌細菌の群集構造の変化を解析した結果を図15〜17に示す。
【0177】
(2ii−C)土壌C
土壌CにGordonia sp. NDKY76A株を投与した後の総土壌微生物数、Gordonia属炭化水素分解菌数、および土壌細菌の群集構造の変化を解析した結果を図18〜20に示す。
【0178】
上記土壌A〜Cを用いたいずれの結果においても、土壌バクテリア数は大きく低下しなかった。また、投与した炭化水素分解菌数は徐々に減少した。
【0179】
これから、投与した炭化水素分解菌は、土壌中に残留しにくく、また、他の土壌バクテリアの生育を抑制しないとの評価が可能である。
【0180】
土壌A、B、Cは、土壌の粒径や、含水率、団粒構造等の土質や、もとの土壌バクテリアの数又は群集構造などが異なるにもかかわらず、同様の結果が得られた。
【0181】
これから、Rhodococcus属炭化水素分解菌NDKK6、及びGordonia属炭化水素分解菌NDKY76Aを土壌に投与する場合の非汚染土壌に対する影響は、下記のとおりと判断された:
・投与した炭化水素分解菌は土壌中に残留しにくい
・他の土壌バクテリアの生育を抑制しない
・他の土壌バクテリアDNAのバンドパターンを大きく変化させない
これから、Rhodococcus属炭化水素分解菌NDKK6、及びGordonia属炭化水素分解菌NDKY76Aを土壌に投与する場合の非汚染土壌に対する環境影響は実質的にない又は低いと判断できた。
【0182】
3.石油汚染土壌における石油分解菌の生残性評価
UMサンプル瓶に前述の土壌サンプル100 gを入れ、さらに炭化水素(ヘキサデカン)を2,000 mg/kg-soilとなるように投与し、よく撹拌した。これに洗浄した炭化水素分解菌(Gordonia sp. NDKY76A)を1×108 cells/g-soilになるように投与し、28日間処理した。
【0183】
処理後、以下の方法により、eDNA解析法により土壌バクテリア数、Real-time PCR法により石油分解菌数、DGGEによるバンドパターンを経時解析した。
また、赤外吸光法により総油分濃度についても経時解析した。
【0184】
(3-1)実験方法
3a)土壌バクテリア数の解析
土壌バクテリア数は、前記2e)項と同様に、eDNA解析法により定量した。
【0185】
3b) Real-time PCR法により炭化水素分解菌数
炭化水素分解菌数は、前記2g)項と同様にして、Real-time PCR法により解析した。
【0186】
3c) DGGEによる土壌バクテリアDNAのバンドパターン
土壌バクテリアDNAのバンドパターンを、前記2h)項と同様にして、PCR-DGGE法により解析した。
【0187】
3d) 赤外吸光法による総油分濃度
土壌2.0 g、無水硫酸ナトリウム約0.4 g、シリカゲル約0.8 gを50 ml容共栓三角フラスコに採取しH997抽出液(堀場製作所、京都)を10 ml加えた。マグネチックスターラーで1時間撹拌した。撹拌後抽出液をろ過し、これを油分抽出サンプルとした。油分抽出サンプルを油分濃度計の測定範囲に入るように、適宜希釈した。ろ液約6.5 mlを吸収セルに入れ油分濃度計(OCMA-350、堀場製作所、東京)を用いて測定を行った。測定条件を表12に示す。また、下記式により測定値を油分濃度に換算した。
【0188】
【表12】

【0189】
【数2】

【0190】
(3-2)結果
(3i)Gordonia sp. NDKY76A
(3i−A)土壌A
土壌AにGordonia sp. NDKY76A株を投与した後の総油分濃度、土壌バクテリア数、Gordonia属炭化水素分解菌数、および土壌細菌の群集構造の変化を解析した結果を図21〜24に示す。
【0191】
(3i−B)土壌B
土壌BにGordonia sp. NDKY76A株を投与した後の総油分濃度、土壌バクテリア数、Gordonia属炭化水素分解菌数、および土壌細菌の群集構造の変化を解析した結果を図25〜29に示す。
【0192】
(3i−C)土壌C
土壌CにGordonia sp. NDKY76A株を投与した後の総油分濃度、土壌バクテリア数、Gordonia属炭化水素分解菌数、および土壌細菌の群集構造の変化を解析した結果を図29〜32に示す。
【0193】
Gordonia sp. NDKY76Aを石油系炭化水素汚染土壌に投与し、総バクテリア数を解析した結果、滅菌水を添加した系と比較して総バクテリア数に大きな差異はなかった。
【0194】
次に、Gordonia sp. NDKY76Aを石油系炭化水素汚染土壌に投与し、Gordonia sp. NDKY76A数の経時変化を解析した結果、土壌AにおいてGordonia sp. NDKY76Aは油分がある状態では残存し、油分を分解するとともに減少していく傾向が得られた。土壌Bまたは土壌Cでは、油分が残っているにも関わらずGordonia sp. NDKY76Aは減少した。
【0195】
Gordonia sp. NDKY76Aを石油系炭化水素汚染土壌に投与し、土壌中からバクテリアのDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子の可変領域を増幅してDGGEを行った。得られたバンドパターンから類似度係数を算出し、Gordonia sp. NDKY76A投与による菌叢の変化を解析した。その結果、土壌AではGordonia sp. NDKY76A投与による菌叢の変化はないと判断した。土壌Bについては菌叢が少し変化したと考えられ、土壌Cでは菌叢の変化は少ないと判断した。
【0196】
これから、Gordonia属炭化水素分解菌NDKY76Aは、汚染土壌に対する環境回復効果があると判断できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素分解菌の土壌投入が環境に与える影響の評価方法であって、
(1)汚染土壌について、
(1-1)炭化水素分解菌を投入し、
(1-2)前記(1-1)の投入後の土壌からDNAを抽出し、
(1-3)前記(1-2)で抽出したDNAを用いて下記(1a)〜(1c):
(1a)土壌バクテリア数、
(1b)Real-time PCR法により得られる炭化水素分解菌数、及び、
(1c)PCR-DGGE法により得られる土壌バクテリアDNAのバンドパターン
を測定し、
(1-4)前記(1-3)で得られた(1a)〜(1c)の測定結果に基づき、汚染土壌における環境浄化又は回復効果を評価する工程、
かつ、
(2)非汚染土壌について、
(2-1)炭化水素分解菌を投入し、
(2-2)前記(2-1)の投入後の土壌からDNAを抽出し、
(2-3)前記(2-2)で抽出したDNAを用いて、下記(2a)〜(2c):
(2a)土壌バクテリア数、
(2b)Real-time PCR法により得られる炭化水素分解菌数、及び、
(2c)PCR-DGGE法により得られる土壌バクテリアDNAのバンドパターン
を測定し、
(2-4)前記(2-3)で得られた(2a)〜(2c)の測定結果に基づき、非汚染土壌における環境影響を評価する工程
を有することを特徴とする環境影響評価方法。
【請求項2】
前記(1-2)及び(2-2)において、
フェノール含有抽出溶媒を用いてDNAを抽出することを特徴とする請求項1に記載の環境影響評価方法。
【請求項3】
請求項1の評価方法を経時的に行って、(1a)〜(1c)の経時変化を解析し、
(1a)の土壌バクテリア数が、ほぼ一定であるか又は増加し、
(1b)の炭化水素分解菌数が、減少もしくは実質的に0となり、かつ、
(1c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンが、類似度係数 0.5〜1.0の範囲でほぼ一定もしくは(2c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンに類似するように変化する場合に
(1-4)における汚染土壌における環境回復効果がある又は高いと評価することを特徴とする環境影響評価方法。
【請求項4】
請求項1の評価方法を経時的に行って、(2a)〜(2c)の経時変化を解析し、
(2a)の土壌バクテリア数が、ほぼ一定であるか又は減少せず、
(2b)の炭化水素分解菌数が、減少もしくは実質的に0となり、
(2c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンが、類似度係数 0.5〜1.0の範囲でほぼ一定となる場合に
(2-4)における非汚染土壌における環境影響がない又は少ないと評価することを特徴とする環境影響評価方法。
【請求項5】
汚染土壌の浄化又は回復方法であって、
請求項1の評価方法を経時的に行って、(1a)〜(1c)の経時変化を解析し、
(1a)の土壌バクテリア数が、増加せず、
(1b)の炭化水素分解菌数が、一時的に増加した後に減少せず、または、
(1c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンが、バンド数が減少して類似度係数が減少するか、もしくは(2c)の土壌バクテリアDNAのバンドパターンと異なるように変化する場合に、
栄養物質及び/又は炭化水素分解菌を更に投入する
ことを特徴とする汚染土壌の浄化又は回復方法。
【請求項6】
バイオオーグメンテーション用炭化水素分解菌のスクリーニング方法であって、
候補となる炭化水素分解菌株について請求項1〜3のいずれかに記載の評価方法を行い、
得られる評価が、汚染土壌における環境回復効果がある又は高く、かつ、非汚染土壌における環境影響がない又は少ないとなる菌株を選別する工程
を有することを特徴とするスクリーニング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate


【公開番号】特開2010−220498(P2010−220498A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69038(P2009−69038)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】