説明

バイオセンサー

【課題】本発明は、測定及び製造が簡易的であり、且つ、在宅医療等に利用可能となる安価なバイオセンサーの提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、測定対象物質と特異的に反応する分子認識成分と、測定対象物質と分子認識成分との反応により体積が変化する刺激応答性高分子と、刺激応答性高分子の体積変化により局在表面プラズモン共鳴の強度が変化する平均粒径が0.2nm〜200nmの金属粒子とを含み、金属粒子と分子認識成分とが、刺激応答性高分子に固定されているバイオセンサーに関する。本発明のバイオセンサーは、製造及び測定が簡易的であり、対象物質を高感度に検出することもできる。さらに、標識分子等の特殊な材料を必要としないことから、従来よりも安価なバイオセンサーとすることも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサーに関し、医療、食品、製薬、環境等の分野において利用可能なバイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサーは、生体分子の認識能を利用して目的物質を検出する化学センサーであり、医療、食品、製薬、環境分野において目的とする生体物質検出のため利用されている。従来より、ELISAやイムノクロマト等を利用した検出方法が知られているが、これらの方法は、生体物質を蛍光物質等で標識化する作業が必要であることから、より簡易的に製造可能なバイオセンサーの開発が期待されている。
【0003】
標識化を必要としないバイオセンサーとしては、pH、温度、イオン強度等の環境変化により体積変化する刺激応答性高分子中に、対象物質と特異的に反応する分子認識成分と、光回折性の結晶性コロイドとを含むバイオセンサーが、特許文献1に記載されている。結晶性コロイドは、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、二酸化ケイ素等の帯電粒子が、水等の溶媒中で自然に集まり規則的な配列を形成する自己集合によって形成されるものである。このバイオセンサーに測定対象物質を添加すると、対象物質と分子認識成分との特異的な反応により高分子周囲の溶媒環境が変化して、体積変化が生じ、結晶性コロイドの格子間隔が変化することとなる。このため、測定対象物質の添加前後における吸光スペクトルを測定し、吸収ピークの波長シフトにより目的物質を検出することができる。
【0004】
【特許文献1】特表2001−505236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1記載のバイオセンサーは、波長シフトの観察が必要であるため、対象物質の定量に細かい波長分解能を有する分析装置が必要となり、在宅医療や食品工場等の検査工程等において容易に利用可能なものではなかった。また、結晶性コロイドを形成するため、帯電粒子を自己集合させるには、長時間の反応や、精製等の煩雑な作業が必要であったため、より簡易に製造可能なバイオセンサーが望まれていた。
【0006】
そこで本発明は、測定及び製造が簡易的であり、且つ、在宅医療等に利用可能となる安価なバイオセンサーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者等は、刺激応答性高分子を用いたバイオセンサーについて鋭意検討を行った。その結果、金属粒子の局在表面プラズモン共鳴を利用したバイオセンサーであれば、特定波長における吸収ピークの強度変化によって対象物質を容易に測定することが可能となることを見出し、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明は、測定対象物質と特異的に反応する分子認識成分と、測定対象物質と分子認識成分との反応により体積が変化する刺激応答性高分子と、刺激応答性高分子の体積変化により局在表面プラズモン共鳴の強度が変化する平均粒径が0.2nm〜200nmの金属粒子とを含み、金属粒子と分子認識成分とが、刺激応答性高分子に固定されていることを特徴とするバイオセンサーに関する。
【0009】
本発明のように、局在表面プラズモン共鳴の強度が変化するバイオセンサーであれば、波長シフトを測定する場合のように吸収スペクトルを作成しなくとも、特定波長における吸光度の強度変化により対象物質を検出・定量できるため、簡易的な装置のみでの測定が可能となる。また、本発明のバイオセンサーは、刺激応答性高分子に、金属粒子及び分子認識成分が固定されているものであるが、以下で製造方法の詳細を説明するように、標識化作業等の煩雑な工程を必要とせず、簡易的に製造することができる。金属粒子及び分子認識成分が固定される方法は、包括固定によるものが好ましい。包括固定は、三次元の網目構造を有する刺激応答性高分子において、その網目状の囲いの中に金属粒子や分子認識成分が包含されている状態をいい、簡易的な方法で固定することができる。この場合、刺激応答性高分子には、三次元の網目構造を有するゲル状等のものを使用できる。
【0010】
本発明のバイオセンサーによる測定原理について説明する。本発明のバイオセンサーに測定対象物質を添加すると、対象物質と分子認識成分との間で、酵素反応や抗原抗体反応等の特異的な反応が進行する。この反応による生産物等の影響で、pHやイオン強度等が変化すると、刺激応答性高分子が膨張又は収縮し、体積変化を生じる。この体積変化に伴い、高分子中に固定されている金属粒子間の距離も変化することとなり、金属粒子間の局在表面プラズモン共鳴に由来する吸収ピーク強度が変化するものである。
【0011】
よって、バイオセンサーに対象物質を添加すると、吸収ピーク強度が増減することとなり、簡易的な測定が可能となる。また、ピーク強度の変化は、対象物質と分子認識成分との反応によるpH等の変化に起因するため、特異的な反応性を利用して対象物質のみを検出する高感度なバイオセンサーとすることができる。尚、上記した局在表面プラズモン共鳴とは、金属粒子に光を照射した際、粒子表面の自由電子が振動して電磁場が発生し、特定波長の光のみを吸収又は散乱する特性をいう。
【0012】
本発明のバイオセンサーは、局在表面プラズモン共鳴を発現させるため、金属粒子の平均粒径を、0.2nm〜200nmの金属粒子とするものである。平均粒径が0.2nm未満であると局在表面プラズモン共鳴が発現しにくい傾向があり、200nmを超えると金属光沢が生じやすくなり、局在表面プラズモン共鳴が観察しにくい傾向となる。
【0013】
本発明における金属粒子としては、局在表面プラズモン共鳴を生じる金属を用いることができるが、Ag、Au、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osのいずれか1種以上からなるものを適用することが好ましい。これらの金属粒子によれば、可視光の波長領域において局在表面プラズモン共鳴を観察することができるバイオセンサーとすることができ、簡易的な装置による測定が可能となる。また、測定感度の高いバイオセンサーとするため、金属粒子は、粒径が均一で、粒子径分布もシャープなものを用いることが好ましい。
【0014】
金属粒子は、上記したものの中でも、Agからなるものとすることがより好ましい。本発明者等によれば、Agを用いた場合、局在表面プラズモン共鳴に由来する吸収ピーク強度が絶対的に大きいバイオセンサーとなることが分かったためである。そして、ピーク強度が大きいバイオセンサーによれば、対象物質を添加した場合の強度変化を精度良く検出でき、測定感度を向上させることができる。
【0015】
金属粒子をAuからなるものとする場合には、平均粒径が10〜150nmであることが好ましく、40〜100nmであることがさらに好ましい。また、使用する分子認識成分の種類により、適宜好適な平均粒径の金属粒子を選択することが好ましい。平均粒径は、10〜150nmであれば、吸収ピーク強度の変化を観察することが可能であり、40〜100nmであると、対象物質の測定のために充分な吸収ピーク強度を示すバイオセンサーとすることができる。また、粒径の標準偏差が10%以内のものを用いることが好ましい。吸収ピーク強度の大きさを向上させて、対象物質の測定のため充分なものにできるためである。
【0016】
本発明のバイオセンサーにおいて、上記した金属粒子は、刺激応答性高分子に固定され、ある程度金属粒子同士の凝集を抑制することができるが、さらに安定性を向上させるため、金属粒子の表面に保護剤を備えるものとすることが好ましい。保護剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、クエン酸、ポリエチレングリコール、タンニン酸、アスコルビン酸のいずれか1種以上を用いることができる。尚、保護剤は、金属粒子の周辺に化学的又は物理的に吸着する化合物であり、金属粒子同士の凝集を抑制する他、粒径分布を適正範囲に制御し安定化させることができる。
【0017】
金属粒子のバイオセンサー中における濃度は、0.001wt%〜0.10wt%の範囲とすることが好ましい。金属粒子の濃度は、高すぎると測定器の検出限界を超える場合があり、低すぎると吸収ピーク強度を良好に検出することができない場合がある。濃度は、金属の種類によって適宜調整することが好ましく、前述のように、Agを用いたバイオセンサーは、吸収ピーク強度の絶対値が大きいため、比較的低い濃度とすることができ、0.005wt%〜0.05wt%の範囲とすることができる。
【0018】
刺激応答性高分子は、ポリアクリルアミド、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリル酸、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールのいずれか1種以上からなることが好ましい。pH、温度、イオン強度等の環境変化により、体積変化を生じることが知られており、容易に重合させることができる。
【0019】
本発明において、分子認識成分とは、測定対象物質と特異的に反応するものであり、酵素、抗原、抗体、DNA、RNA、アプタマー、ペプチド核酸、糖鎖のいずれか1種以上であることが好ましい。酵素としては、例えば、測定対象物質がグルコースの場合には、グルコース酸化酵素、グルコース脱水素酵素等、乳酸の場合には、乳酸酸化酵素等、アセトアルデヒドの場合には、アセトアルデヒド脱水素酵素等を用いることができる。
【0020】
分子認識成分と測定対象物質との特異的な反応としては、抗原抗体反応や酵素反応が知られており、本発明のバイオセンサーは、抗原抗体反応や酵素反応のいずれを用いた場合にも、対象物質を検出することができ、測定可能な物質の種類が広範囲に及ぶ。ここで、抗原抗体反応は、安定的に抗原抗体複合体を形成し、反応後も複合体の状態で維持されるが、酵素反応では、酵素と対象物質とが一旦は結合して酵素反応するものの、反応終了後には分離してしまうことから、複合体に起因する状態変化を測定する方法には利用することが困難であった。
【0021】
例えば、従来より、基板上に分子認識成分を固定化したバイオセンサーが知られているが、これらのバイオセンサーは、測定対象物質と分子認識成分とが複合体を形成することによる状態変化を測定するものであり、酵素反応を利用した測定は困難なものであった。一方、本発明のバイオセンサーは、刺激応答性高分子を用いるため、酵素と対象物質とが分離した場合にも、pHやイオン強度等の変化により高分子の体積変化が生じ、酵素反応を利用した測定を行うことができるものである。
【0022】
本発明のバイオセンサーは、刺激応答性高分子を形成するためのモノマーを含む溶媒に、粒径が0.2nm〜200nmである金属粒子を添加して重合し、重合した刺激応答性高分子に分子認識素子を固定することにより分子認識成分を固定する方法により製造できる。刺激応答性高分子の形成には、一般的な重合方法を利用できるが、特にポリアクリルアミド等を用いる場合は、光重合によると簡易的な光源のみで刺激応答性高分子を生成でき、バイオセンサーを容易に製造することができる。
【0023】
また、分子認識素子の固定は、重合した刺激応答性高分子にカルボキシル基を導入し、脱水縮合した後、N-ヒドロキシスクシンイミド又はその化合物を結合させて、N-ヒドロキシスクシンイミドと分子認識成分中のアミノ基とを結合させることにより行うことが好ましい。刺激応答性高分子としてポリアクリルアミドを用いた場合には、アルカリ性の試薬を添加することによってカルボキシル基を導入することができ、簡易的な方法で分子認識成分を固定できる。
【0024】
尚、上記カルボキシル基を導入する方法以外の固定方法としては、例えば、アミノ基を有する刺激応答性高分子については、グルタルアルデヒド等を用いて分子認識成分を化学的に結合させて固定することができる。また、刺激応答性高分子の官能基を利用することなく、分子認識素子を直接包括固定しても良い。
【0025】
本発明の製造方法に用いる金属粒子は、上記したように表面に保護剤を備えることが好ましく、Ag、Au、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osのいずれか1種以上の金属塩の溶液に、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、クエン酸、ポリエチレングリコール、タンニン酸、アスコルビン酸のいずれか1種以上保護剤を添加した後、還元して、作製することができる。
【0026】
また、刺激応答性高分子を形成するためのモノマーとしては、アクリルアミド、ジメチルシロキサン、アクリル酸、ビニルメチルエーテル、ビニルアルコール、エチレングリコール等を用いることができ、溶媒中のモノマー濃度は、10wt%〜30wt%であることが好ましい。この範囲内であれば、測定対象物質が充分に拡散し検出感度が良好となるためである。モノマー濃度は、低すぎると重合した高分子の強度がバイオセンサーとして充分なものとならない場合があり、高すぎると、測定対象物質が高分子中を拡散しにくく、分子認識素子との反応が遅れ、応答性の良好なバイオセンサーとなりにくい。
【0027】
刺激応答性高分子は、上記したモノマーを含む溶媒に、金属粒子を添加し、紫外線照射による光重合等で形成することができる。上記のように、金属粒子としては、溶媒に金属粒子が分散したコロイド溶液を用いることができる。バイオセンサー中における金属粒子の最終濃度は、0.005%〜0.025%の範囲内とすることが好ましい。吸収強度が低すぎることや、測定器の検出限界を超えることが生じにくく、吸収強度の変化を安定して観察することができるためである。尚、光重合する場合の開始剤には、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(IRGACURE 2959、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)のようなアルキルフェノン系光重合開始剤等を用いることができる。また、モノマーを含む溶媒には、架橋剤を添加することが好ましく、例えば、N,N’-メチレンビスアクリルアミドを使用できる。
【0028】
カルボキシル基を導入して刺激応答性高分子に分子認識成分を固定する場合、使用するアルカリ性試薬としては、特に水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。また、脱水縮合には、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール等を用いることができ、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)又はその化合物としては、N−ヒドロキシスクシンイミド等を用いることができる。カルボキシル基の導入及び脱水縮合は、N−ヒドロキシスクシンイミドを結合させるために行われ、N−ヒドロキシスクシンイミドはタンパク質中のアミノ基と結合しやすいため、分子認識成分の固定化が可能となる。
【0029】
以上で説明したように、本発明のバイオセンサーによる対象物質の測定方法としては、バイオセンサーに測定対象物質を添加し、局在表面プラズモン共鳴の強度の変化を、吸収ピークの強度変化により検出することができる。
【0030】
吸収ピークは、紫外可視光分光光度計により、バイオセンサーへ照射した光の透過光又は反射光を検出する方法によって測定することができる。例えば、透過光を測定する場合、石英製のセルにバイオセンサーを入れ、次いで測定対象となる溶液を添加して、300〜800nmの波長における吸収ピークの強度変化を観察することにより、測定できる。
【発明の効果】
【0031】
以上で説明したように、本発明のバイオセンサーは、製造及び測定が簡易的であり、対象物質を高感度に検出することもできる。さらに、標識分子等の特殊な材料を必要としないことから、従来よりも安価なバイオセンサーとすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明における最良の実施形態について説明する。
【0033】
第1実施形態:測定対象物質をグルコースとし、金属粒子をAgからなるものとし、刺激応答性高分子はポリアクリルアミド、分子認識成分にグルコース酸化酵素を用いて、以下の方法によってバイオセンサーを製造した。
【0034】
[金属粒子の作製]
保護剤としてポリビニルピロリドン(以下、PVPという。)を用いて、Agからなる金属粒子を作製した。エチレングリコール125mlにPVP25gを溶解させた溶液に、硝酸銀1.0g(Ag濃度63.5wt%)を結晶のまま添加して撹拌し、加熱還元して金属粒子を得た。得られた金属粒子は、水洗した後、アセトンを投入して撹拌して静置し、上澄みを除去して沈殿を回収した。この沈殿を乾燥させた後、水に溶解させ、ろ過、濃縮して水溶液とした。
【0035】
上記により得られた金属粒子の平均粒径を測定したところ、20nmであった。尚、平均粒径は、TEM(日本電子株式会社製、JEM−2010)によって撮影した写真を用いて、写真中の100検体を対象として粒子の大きさを計測し、その粒度分布から算出した(以下における平均粒径についても、同様の方法で測定した)。
【0036】
[光重合による刺激応答性高分子ゲルの作製]
10wt%のアクリルアミド溶液(モノマーとして、アクリルアミドを9.7%、架橋剤であるN,N’-メチレンビスアクリルアミドを0.3%含む溶液)に、最終濃度0.001%となるよう、上記により得られた金属粒子を添加し、撹拌した。次に、光重合開始剤である2,2−ジメトキシアセトフェノンを添加してガラス基板上に展開し、トランスイルミネーター(紫外線照射装置)で5分間紫外線照射し、光重合してゲル化させた。得られたゲルは、超純水にて洗浄を行った。
【0037】
[分子認識素子の固定化]
上記により得られた高分子ゲルに、10% テトラメチルエチレンジアミンを含む0.3N NaOH水溶液を添加して加水分解し、カルボキシル基を導入させた。その後、100mM 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド溶液を添加してカルボキシル基を脱水縮合し、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を添加してカルボキシル基に結合させた。分子認識成分であるグルコース酸化酵素(E.C.1.1.3.4)を100U(ユニット)/ml(添加量)添加し、NHS基と結合させて固定化してバイオセンサーを得た。尚、グルコース酸化酵素において、1U(ユニット)は、25℃において1分間で1μmolのD−グルコノ−δ−ラクトンを生成する酵素量として定義される。
【0038】
第2実施形態:金属粒子をAuからなるものとし、保護剤としてクエン酸を用いて作製した以外は、第一実施形態と同様の方法によりバイオセンサーを作製した。塩化金酸四水和物0.17gと、クエン酸三ナトリウム二水和物0.49gとを、それぞれ超純水25mlと100mlに溶解させて、塩化金酸溶液とクエン酸溶液を調製した。次に、500mlの三口フラスコ内に、塩化金酸溶液6mlと純水200mlとを投入して、30分間加熱還流させた。液温が安定した後、クエン酸溶液50mlを混合して、15分間加熱還流し、加熱を停止して室温で放冷した。この溶液26mlを、500mlの三口フラスコに入れ、液温が30℃になるまで恒温槽内で撹拌した。液温が安定したら、塩化金酸四水和物0.076gを溶解させた塩化金酸溶液252mlと、L−アスコルビン酸ナトリウム0.092gを溶解させたL−アスコルビン酸溶液256mlとを同時に滴下して、1時間撹拌しながら反応させて、Auからなる金属粒子を形成させた。この金属粒子は、図1のTEM観察写真のように、真球状で粒径が均一なものであり、平均粒径は40nmであった。
【0039】
上記方法により得られたバイオセンサーについて吸光スペクトルの測定を行い、さらに、第1実施形態のバイオセンサーによりグルコースを測定対象として吸収スペクトルの強度変化を測定した。
【0040】
バイオセンサーの吸収スペクトル測定:バイオセンサーを光路長1.0cmの石英製セルに投入し、分光光度計により波長300〜800nmにおける吸収スペクトルを観察した。図2に示すように、Agを用いた第1実施形態のバイオセンサーでは波長410.2nm、Auを用いた第2実施形態のバイオセンサーでは波長527.6nmに吸収ピークが見られ、Agを用いた場合の方がピーク強度の絶対値が大きいことが分かった。また、Agを用いたバイオセンサーでは黄色、Auを用いたバイオセンサーでは赤色の発色が肉眼により確認できた。
【0041】
[グルコースの測定]
上記方法により得られたバイオセンサーを用いて、対象物質であるグルコースの測定を行った。尚、以下の測定には、第1実施形態のバイオセンサーを使用した。バイオセンサーに100mM グルコース溶液(溶媒は20mM リン酸緩衝液(pH7.4)とした)を滴下し、25℃において0〜60分間酵素反応させた後、分光光度計により吸収ピークの強度変化を測定した。また、グルコース溶液の代わりに、100mM スクロース溶液、又は20mM リン酸緩衝液(pH7.4)のみを添加した場合についても、同様に測定を行った。尚、吸収ピークの強度変化は、上記した吸収スペクトル測定と同様の方法により吸収スペクトルを作成し、410.2nmにおけるピーク強度の変化を観察した。
【0042】
図3に示されるように、グルコースの添加によりピーク強度が減少する光学特性の変化を確認でき、Agを用いたバイオセンサーは、測定感度が良好であることが分かった。また、図4より、グルコースを添加した場合のみ吸収ピーク強度が減少し、スクロースやリン酸緩衝液を添加した場合は吸収ピーク強度が変化せず、グルコースのみを特異的に検出できることが分かった。これは、グルコース酸化酵素が、グルコースと特異的に結合して酵素反応するためであり、酵素反応により、グルコン酸や過酸化水素等が発生すると、イオン強度の変化により高分子ゲルが膨潤し、金属粒子の局在表面プラズモン共鳴の強度が減少して、吸収ピークの強度が減少したものと考えられる。
【0043】
[グルコース溶液の濃度に対するピーク強度の変化の測定]
バイオセンサーに添加するグルコース溶液の濃度を1×10−3M、10−6M、10−9M、10−12M、10−15Mとして、30分反応させた後の吸収ピーク強度の変化を測定し、検量線を作成した。
【0044】
図5より、グルコース濃度が10−12Mであっても検出することができ、高感度なバイオセンサーであることが分かった。このため、血液以外の唾液等を試料とした場合にも、グルコースを検出可能なものとなり得る。
【0045】
[アクリルアミド濃度に対するピーク強度の変化の測定]
高分子ゲルに用いるアクリルアミド溶液の濃度を、20%、30%とした場合について、Agからなる金属粒子を用いて、上記と同様の方法で光重合を行い、バイオセンサーを作製した。それぞれについて、100mMグルコース溶液を添加して反応させ、吸収ピークの強度変化を測定した。
【0046】
図6より、アクリルアミド溶液の濃度が低いほど、バイオセンサーの応答性が良好であり、短時間で吸光強度が減少することが分かった。これは、ポリアクリルアミドゲルの濃度が低い場合、高分子鎖の架橋度が低いため、測定対象物質であるグルコースが自由に拡散してグルコース酸化酵素と結合しやすくなるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第2実施形態における金属粒子のTEM観察写真。
【図2】バイオセンサーの吸収スペクトル。
【図3】グルコース添加後の吸収ピーク強度の経時変化。
【図4】グルコース、スクロース、リン酸緩衝液添加後の吸光度変化。
【図5】グルコース濃度に対する吸光度変化。
【図6】アクリルアミド濃度を変化させた場合の吸光度変化。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質と特異的に反応する分子認識成分と、
前記測定対象物質と前記分子認識成分との反応により体積が変化する刺激応答性高分子と、
前記刺激応答性高分子の体積変化により局在表面プラズモン共鳴の強度が変化する平均粒径が0.2nm〜200nmの金属粒子とを含み、
前記金属粒子と前記分子認識成分とが、前記刺激応答性高分子に固定されていることを特徴とするバイオセンサー。
【請求項2】
金属粒子は、Ag、Au、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osのいずれか1種以上からなる請求項1記載のバイオセンサー。
【請求項3】
金属粒子は、Agからなる請求項1記載のバイオセンサー。
【請求項4】
金属粒子は、表面にポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、クエン酸、ポリエチレングリコール、タンニン酸、アスコルビン酸のいずれか1種以上の保護剤を備える請求項1〜3のいずれか記載のバイオセンサー。
【請求項5】
刺激応答性高分子が、ポリアクリルアミド、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリル酸、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールのいずれか1種以上からなる請求項1〜4のいずれか記載のバイオセンサー。
【請求項6】
分子認識成分が、酵素、抗原、抗体、DNA、RNA、アプタマー、ペプチド核酸、糖鎖のいずれか1種以上である請求項1〜5のいずれか記載のバイオセンサー。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載のバイオセンサーの製造方法であって、
刺激応答性高分子を形成するためのモノマーを含む溶媒に、平均粒径が0.2nm〜200nmの金属粒子を添加して重合し、
前記重合した刺激応答性高分子に分子認識素子を固定するバイオセンサーの製造方法。
【請求項8】
分子認識素子の固定は、重合した刺激応答性高分子にカルボキシル基を導入し、脱水縮合した後、N-ヒドロキシスクシンイミド又はその化合物を結合させて、N-ヒドロキシスクシンイミドと分子認識成分中のアミノ基とを結合させることにより行う請求項7記載のバイオセンサーの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか記載のバイオセンサーに測定対象物質を添加し、局在表面プラズモン共鳴の強度の変化を、吸収ピークの強度変化により検出する測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−197046(P2010−197046A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140511(P2007−140511)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000217228)TANAKAホールディングス株式会社 (146)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】