説明

バイオセンサ用マーカ、バイオセンサ、及びバイオセンサ用マーカ検出方法

【課題】超高感度な高価なセンサ等を用いることなく安価かつ高感度に検出可能なバイオセンサ用マーカ、バイオセンサ、及びバイオセンサ用マーカ検出方法を提供する。
【解決手段】バイオセンサに用いるマーカは、バイオセンサの検出位置2の近傍に標的バイオ物質4と共に固定される磁性微粒子種5と、外部磁界Hの印加によって磁性微粒子種10に柱状に吸着されて磁性微粒子柱30を形成する複数の磁性微粒子20とからなるものである。外部磁界を印加することで磁性微粒子柱30を形成し、磁性微粒子種10と磁性微粒子柱30とからなるマーカをバイオセンサで検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオセンサ用マーカ、バイオセンサ、及びバイオセンサ用マーカ検出方法に関し、特に、マーカを増大させることでセンサによる検出精度を向上させたバイオセンサ用マーカ、バイオセンサ、及びバイオセンサ用マーカ検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、バイオセンサは、タンパク質間の相互作用の解析やがん治療、DNA解析、病原菌等の検出、疾病の診断、環境関連物質の計測等、広範な分野で利用されている。バイオセンサは、被測定物質である抗原(バイオ物質)とこれに特異的に結合する試験試薬である抗体との結合を測定し、被測定物質の定性や定量を行うものである。
【0003】
抗原と抗体の結合を測定する手法としては、例えば蛍光物質を用いて色の濃淡により測定するDNAチップがある。しかしながら、蛍光物質の光量等が安定しないため、高精度な測定には向いていなかった。
【0004】
また、表面プラズモン共鳴測定法(SPR)や水晶振動子マイクロバランス測定法(QCM)を用いて、質量変化の測定を用いたバイオセンサも存在する。しかしながら、質量が非常に微小なバイオ物質の測定を行うには十分な感度が得られず、また装置も複雑となりコストの問題等もあった。
【0005】
近来注目されているバイオセンサとしては、バイオ物質が固定された磁性微粒子をマーカとしてこの磁気を測定する巨大磁気抵抗(GMR)素子やホール素子を用いる磁気センサを用いた手法等が知られている(特許文献1、特許文献2等)。これらは磁気信号が蛍光体等に比べて安定していると共に、高感度な磁気計測技術を用いることで高精度に測定ができ、また自動化の観点からも注目されている技術である。
【0006】
図1を用いて、磁性微粒子をバイオセンサ用のマーカとして用いた従来の測定手法を説明する。図1は、従来のバイオセンサのマーカ測定手法を説明するための模式的な側面図である。基板1にGMR素子やホール素子等からなるセンサ部2が設けられている。そして、センサ部2の上部にプローブ3が固定されている。プローブ3は、試料中に存在し得る標的バイオ物質4と相補鎖を構成するように選択されている。試料中に標的となるバイオ物質4が存在すると、バイオ物質4がプローブ3に相補的に結合する。一方、磁性微粒子5はバイオ物質4に結合するように表面処理がされており、バイオ物質4により磁性微粒子5がキャッチされように構成されている。したがって、試料中にバイオ物質4が存在すると、バイオ物質4に結合してセンサ部近傍に固定される磁性微粒子5の磁気がセンサ部2により測定されるものである。これにより、マーカの有無が検出される。
【0007】
【特許文献1】特表2003−524781号公報
【特許文献2】特開2005−188950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バイオセンサ用のマーカとして用いられる磁性微粒子の大きさについては、バイオ物質に固定されるためにはなるべくバイオ物質に対して大きすぎない程度であることが好ましい。磁性微粒子がバイオ物質に対してあまりにも大きいと、本来は結合すべきバイオ物質が存在しているにもかかわらず、磁性微粒子がそこにキャッチされず、測定されないということが起こり得るが、バイオ物質と同程度の大きさであればこのようなことは起こり難いためである。しかしながら、磁性微粒子を小さくした場合、磁性微粒子の磁気はその大きさに比例するため、磁性微粒子が小さくなればなるほど磁気センサで検出され難くなり、磁性微粒子がバイオ物質と結合しているにも関わらず磁性微粒子の有無が測定できないということも起こり得る。
【0009】
磁性微粒子からの微小な磁界を検出する磁気センサの多くはGMRセンサからなるものであるが、これには感度が低いという問題があり、上記のような極小の磁性微粒子に対して十分な測定感度を得ることができなかった。また、GMRセンサよりも高感度な測定精度を期待できるホールセンサであっても、例えば単分子DNAの大きさに相当する粒径100nm以下というような極小の磁性微粒子の磁気を測定するのには、まだ十分な測定感度を有しているとはいえなかった。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、超高感度な高価なセンサ等を用いることなく安価かつ高感度に検出可能なバイオセンサ用マーカ、バイオセンサ、及びバイオセンサ用マーカ検出方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明によるバイオセンサ用マーカは、バイオセンサの検出位置の近傍に標的バイオ物質と共に固定される磁性微粒子種と、外部磁界の印加によって磁性微粒子種に柱状に吸着されて磁性微粒子柱を形成する複数の磁性微粒子と、を具備するものである。
【0012】
ここで、印加される外部磁界は、検出位置の面に対して垂直方向又は水平方向であれば良い。
【0013】
また、印加される外部磁界は、その印加方向が可変可能であっても良い。
【0014】
また、マーカは、磁気センサを用いて検出されれば良い。
【0015】
ここで、磁気センサは、磁性微粒子柱と検出位置との間に磁気回路を形成する強磁性部を有していても良い。
【0016】
また、マーカは導電性を有し、磁性微粒子柱がこれと検出位置との間に電気回路を形成するための電気スイッチを構成するものであっても良い。
【0017】
さらに、マーカは、水晶振動子マイクロバランスセンサを用いて検出されるものであっても良い。
【0018】
また、マーカは、表面プラズモン共鳴センサを用いて検出されるものであっても良い。
【0019】
また、マーカは、光学顕微鏡を用いて検出されるものであっても良い。
【0020】
また、本発明のマーカを検出するバイオセンサは、バイオセンサの検出位置の近傍に標的バイオ物質と共に固定される磁性微粒子種と、外部磁界の印加によって磁性微粒子種に柱状に吸着されて磁性微粒子柱を形成する複数の磁性微粒子と、複数の磁性微粒子に外部磁界を印加する外部磁界印加手段と、磁性微粒子種と磁性微粒子柱とからなるマーカを検出する検出手段と、を具備するものである。
【0021】
ここで、外部磁界印加手段は、検出位置の面に対して垂直方向又は水平方向に外部磁界を印加するものであれば良い。
【0022】
また、外部磁界印加手段は、印加される外部磁界の印加方向が可変可能であっても良い。
【0023】
さらに、検出手段は、マーカの磁気を検出する磁気センサからなるものであっても良い。
【0024】
ここで、磁気センサは、磁性微粒子柱と検出位置との間に磁気回路を形成する強磁性部を有していても良い。
【0025】
また、マーカは導電性を有し、検出手段は、磁性微粒子柱がこれと検出位置との間に電気回路を形成するように構成される電気スイッチを有するものであっても良い。
【0026】
また、検出手段は、マーカを共振周波数の変化として検出する水晶振動子マイクロバランスセンサからなるものであっても良い。
【0027】
さらに、検出手段は、マーカを表面プラズモン共鳴の変化として検出する表面プラズモン共鳴センサからなるものであっても良い。
【0028】
さらにまた、検出手段は、光学顕微鏡からなるものであっても良い。
【0029】
さらに、本発明のバイオセンサを用いたマーカ検出方法は、バイオセンサの検出位置の近傍に標的バイオ物質と共に磁性微粒子種を固定する過程と、磁性微粒子種の近傍に複数の磁性微粒子を提供する過程と、複数の磁性微粒子に外部磁界を印加する過程と、外部磁界によって磁性微粒子種に柱状に複数の磁性微粒子が吸着されて磁性微粒子柱が形成される過程と、磁性微粒子種と磁性微粒子柱とからなるマーカを検出する過程と、を具備するものである。
【0030】
ここで、外部磁界を印加する過程は、検出位置の面に対して垂直方向又は水平方向に外部磁界を印加する過程であれば良い。
【0031】
また、外部磁界を印加する過程は、外部磁界の印加方向が可変可能であっても良い。
【発明の効果】
【0032】
本発明のバイオセンサ用マーカには、磁性微粒子種とこれに柱状に吸着される磁性微粒子柱を用いることで、DNA相当の大きさの極小磁性微粒子種であっても安価に種々のセンサを用いて高感度に測定することが可能であるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図2は、本発明のバイオセンサ用マーカを説明するための側面図であり、図2(a)は外部磁界を印加していない状態の側面図、図2(b)は外部磁界を垂直方向に印加した場合の側面図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。まず、従来の手法と同様に、基板1に形成されるセンサ部2の上部にプローブ3が固定される。なお、センサ部2の上部には、プローブ3が固定されるように所定の表面処理が施されている。また、図示例のセンサとしては、GMR素子やトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子、ホール素子等の磁気センサを用いたものが挙げられる。プローブ3は、測定される試料中に存在し得る標的バイオ物質4と相補鎖を構成するように予め選択されたものである。試料中に標的となるバイオ物質4が存在すると、バイオ物質4がプローブ3に相補的に結合する。このようにしてバイオ物質4がセンサ部の検出位置近傍に固定される。
【0034】
一方、磁性微粒子種10はバイオ物質4に結合するように表面処理がされており、バイオ物質4により磁性微粒子種10がキャッチされように構成されている。なお、上述の説明では固定化されたバイオ物質に磁性微粒子種が結合する例を説明したが、本発明はこれに限定されず、予め磁性微粒子種にバイオ物質を結合しておき、これを試料としてプローブが固定された検出面上に提供するもの等であっても勿論構わない。センサの検出位置近傍への磁性微粒子種の固定化手法は、従来の又は今後開発されるべきあらゆる技術が適用可能であり、磁性微粒子種を測定することで間接的にバイオ物質の存在を検出できるように構成されるものであれば如何なる手法であっても構わない。また、磁性微粒子種を適切にプローブやバイオ物質の近傍に導くために、センサ部近傍に磁性微粒子移動用配線を配置した、本願出願人と同一の出願人による特願2006−007138に開示の技術を適用することも勿論可能である。
【0035】
磁性微粒子種10は、例えば単分子DNAに相当する程度の大きさである粒径100nm以下のものが好ましい。この程度の大きさとすることで、磁性微粒子種10とバイオ物質4との大きさの差異が大きくならず、これらの結合が容易となる。また、磁性微粒子種10は、強磁性であっても常磁性であっても良く、フェライトやアルニコ等、より具体的には、FePt,Co,Ni,Fe,MnSb,MnAs等、種々の磁性材料からなるものが適用可能である。なお、磁性微粒子種10は、市販のものを用いることが可能であり、例えば1μmの粒径の磁性微粒子であるインビトロジェン株式会社のDynabeads MyOne Streptavidin等が利用可能である。
【0036】
磁性微粒子種の具体的な固定化の一例を挙げると、基板としては例えば表面が疎水性である旭硝子株式会社のCYTOP CTL−809Mを用いることができ、この基板上に親水性の金膜を形成し、これに硫黄原子とチオール基からなるプローブを固定し、ビオチンが付された標的バイオ物質となるオリゴ等がプローブに結合される。この状態で、表面が親水性のインビトロジェン株式会社のDynabeads MyOne Streptavidinを用いた磁性微粒子種を基板上に提供して、磁性微粒子種を基板上に固定化する。
【0037】
本発明においては、このように固定化された磁性微粒子種10に対して、さらに複数の磁性微粒子20を提供する。磁性微粒子20は、その大きさに特に制限はないが、磁性微粒子種10と同程度の大きさであれば良い。但し、後述の磁性微粒子柱の形成条件や印加される外部磁界の強さによって、より大きい磁性微粒子や小さい磁性微粒子を種々選択することが可能である。また、磁性微粒子20は、強磁性であっても常磁性であっても良く、フェライトやアルニコ等、より具体的には、FePt,Co,Ni,Fe,MnSb,MnAs等、種々の磁性材料からなるものが適用可能である。なお、複数の磁性微粒子20は、市販のものを用いることが可能であり、例えば1μmの粒径の磁性微粒子であるインビトロジェン株式会社のDynabeads MyOne Streptavidin等が利用可能である。
【0038】
このような複数の磁性微粒子20が磁性微粒子種10の近傍に提供された状態で、複数の磁性微粒子20に外部磁界Hを例えば磁石やコイル等により印加する。すると、図2(b)に示されるように、外部磁界の印加方向に沿って、複数の磁性微粒子20が磁性微粒子種10に柱状に吸着され、磁性微粒子柱30が形成される。また、図示例では磁性微粒子柱は1本のみ示しているが、本発明はこれに限定されず、例えば複数の磁性微粒子種が複数のセンサ部上にそれぞれ固定されていれば、複数の磁性微粒子柱が各磁性微粒子種にそれぞれ吸着されて固定されるものである。さらに、磁性微粒子種に固定されない磁性微粒子柱も存在し得るが、これらは洗浄等を行うことで除去されれば良い。
【0039】
磁性微粒子柱30は、図示のように、外部磁界Hの方向に沿って立つものであり、概ね中心が両端よりも太くなるように集まって構成される。このような現象は、例えばジンリューらによる「磁性流体中の磁場誘起構造体」フィジカルレヴューレターズ、Vol.74、No.14、1995年4月3日(Jing Liu et al., “Field−Induced Structures in Ferrofluid Emulsions” Physical Review Letters, Volume 74, Number 14, 3 April 1995)等によっても説明されている。
【0040】
なお、図2(b)では、検出位置の面に対して垂直方向に外部磁界Hを印加した場合の状態を表わしているが、本発明はこれに限定されず、外部磁界は検出位置の面に対して水平方向に印加しても良いし、必要により印加方向を可変するように構成しても良い。複数の磁性微粒子20は柱状に磁性微粒子種10に吸着されるが、磁性微粒子種10がないところでも複数の磁性微粒子20が柱状に集まる場合がある。したがって、このような不要な柱状磁性微粒子を除去するために、例えば外部磁界の印加方向を水平方向とするとこれらが水平方向に流れていき、固定された磁性微粒子種に吸着している磁性微粒子20と分別することが可能となる。その他、磁性微粒子種に固定されない磁性微粒子や磁性微粒子柱は、外部磁界の印加方向を可変しながら洗浄することにより効率良く除去することも可能である。
【0041】
また、外部磁界の強さについては、磁性微粒子の磁気モーメント等の磁気物性により異なるが、形成され得る磁性微粒子柱の大きさや磁性微粒子種との吸着力を考慮して適宜設定されれば良い。例えば印加磁界は最大でも約71.6kA/m(約900Oe)程度であれば良く、より小さい磁界でも磁性微粒子柱は形成され得る。
【0042】
センサ部2では、このように固定された磁性微粒子種10と磁性微粒子柱30とからなるマーカの磁気を測定することで、バイオ物質の有無を間接的に検出する。本発明によるマーカは、例えば磁性微粒子の粒径が100nmであっても磁性微粒子柱の長さが例えば数μm程度となり磁気が増強されるので、磁性微粒子種単体では検出できないような磁気であっても、容易に検出することが可能となる。
【0043】
なお、上述の例では、センサ部2のセンサとしては、GMR素子やTMR素子、ホール素子等の磁気センサを用いたものを例として挙げたが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明によるマーカは、磁性微粒子柱30により磁性微粒子種単体に比べて磁気が増強されるだけではなく、質量や大きさも増強される。したがって、磁気センサ以外にも、例えば水晶振動子マイクロバランスセンサや表面プラズモン共鳴センサを用いてマーカの有無を容易に検出することが可能となる。
【0044】
ここで、水晶振動子マイクロバランスセンサとは、水晶振動子の表面に物質が付着すると振動数が減少する特性を利用した質量センサである。また、表面プラズモン共鳴センサとは、金薄膜へのレーザの入射角度の変化に伴って反射光強度が減衰する表面プラズモン共鳴の現象を利用したセンサである。水晶振動子マイクロバランスセンサや表面プラズモン共鳴センサにおいて、磁性微粒子種単体では微量過ぎて振動数の変化や屈折率の変化が測定できなかった状況でも、本発明のマーカを用いれば、磁性微粒子柱により質量が増強されているため容易に測定することが可能となる。
【0045】
また、本発明によるマーカはその大きさも増強されているため、光学顕微鏡でマーカを検出することも可能である。光学顕微鏡はその分解能が理論上は100nm程度、実際には250nm程度であるため、それよりも小さい微粒子を観察することはできなかった。しかしながら、本発明のマーカを用いれば、磁性微粒子柱により数μm程度の大きさとなるため、高価且つ大掛かりな電子顕微鏡等を用いなくても光学顕微鏡で容易に観察することが可能である。また、必要により蛍光物質等を用いて濃淡を強調するようにすることも勿論可能である。
【0046】
図3に、10nmの粒径の磁性微粒子種に磁性微粒子柱を形成した本発明のマーカを光学顕微鏡で撮影した写真を示す。なお、10nmの粒径の磁性微粒子種は、本願発明者により作成されたものであり、その表面は親水性である。また、磁性微粒子柱用の複数の磁性微粒子も同様に、10nmの磁性微粒子を用いた。なお、印加した外部磁界は約71.6kA/m(約900Oe)程度である。図示の通り、磁性微粒子柱によりマーカが拡大されるため、光学顕微鏡の分解能よりも小さい磁性微粒子種にもかかわらず、本発明のマーカが確認できることが分かる。
【0047】
次に、本発明のマーカを用いるバイオセンサの他の実施例を説明する。図4は、本発明のマーカを用いるバイオセンサの他の実施例を説明するための模式図であり、図4(a)は外部磁界を垂直方向に印加した場合の側面図、図4(b)は外部磁界を水平方向に印加した場合の側面図、図4(c)は図4(b)の上面図である。図中、図2と同一の符号を付した部分は同一物を表しており、詳説は省略する。図4に示されるように、本実施例ではプローブ3がセンサ部2の側方近傍に固定されており、これにバイオ物質4及び磁性微粒子種10が結合している。ここに複数の磁性微粒子20が提供され、検出位置の面に対して垂直方向に外部磁界Hが印加されることで、磁性微粒子種に柱状に吸着される磁性微粒子柱30が形成される(図4(a)の状態)。
【0048】
そして、本実施例の特徴とするところは、図示のように、センサ部2は、これに近接して設けられた強磁性部40を有している。強磁性部40は、例えばパーマロイ等からなるものであり、磁性微粒子柱30とセンサ部2の間に磁気回路を形成するように配置されている。図4(a)に示されるような垂直方向の外部磁界を水平方向に切り替えると、図4(b)及び図4(c)に示されるような状態となる。図示のように、外部磁界を水平方向に印加すると、磁性微粒子柱30が外部磁界の印加方向に沿って水平方向に傾き、強磁性部40と接触する。すると、磁性微粒子種10及び磁性微粒子柱30からなるマーカの磁気は、強磁性部40を介して増幅されてセンサ部2に達するため、センサ部2ではより高精度にマーカの磁気を測定可能となる。
【0049】
本実施例によれば、プローブはセンサ部の側方に固定されているので、センサ部の上面にプローブを固定するための所定の表面処理等が必要なくなる。このため、センサ部をより表面に露出させることが可能となり、センサ感度を増強することも可能となる。なお、強磁性部は磁気回路を形成できればパーマロイに限定されず、種々の磁性材料、より具体的には、FePt,Co,Ni,Fe,MnSb,MnAs等が適用可能である。
【0050】
さらに、本発明のマーカを用いるバイオセンサのさらに他の実施例を、図5を用いて説明する。図5は、本発明のマーカを用いるバイオセンサのさらに他の実施例を説明するための模式的な側面図であり、水平方向に外部磁界を印加した状態を表している。図中、図2と同一の符号を付した部分は同一物を表しており、詳説は省略する。本実施例では、複数の磁性微粒子20を導電性の微粒子で構成することで、磁性微粒子柱を電気スイッチとして用いるようにしている。すなわち、センサ部2を例えば一対の導通端子で構成し、これを磁性微粒子柱30でショートするように構成する。これにより、磁性微粒子種10に吸着された磁性微粒子柱30からなるマーカの存在の有無が、外部磁界の印加方向を可変することにより導通端子の導通・非導通の確認だけで行えるようになる。このように、本発明のマーカを用いれば、磁気センサも不要で非常に安価に尚且つ確実に、マーカの有無を検出することが可能となる。
【0051】
なお、本発明のバイオセンサ用マーカは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。また、上述の説明で挙げた寸法もこれらに限定されるものではなく、より大きいものであっても又はより小さいものであっても構わないことが理解されるべきである。
【0052】
また、磁性微粒子種と磁性微粒子柱用の磁性微粒子は同一のものであっても勿論構わない。しかしながら、磁性微粒子種用の磁性微粒子はバイオ物質と結合するように表面処理されているためコストがかかるが、磁性微粒子柱用の磁性微粒子は表面処理の必要がないため、コストの観点からは表面処理がされていない磁性微粒子を磁性微粒子柱用に用いるのが好ましい。
【0053】
さらに、適用される検出センサについても、上述の図示例のみに限定されるわけではなく、これらを組み合わせて複数の手段でマーカを検出するように構成しても勿論良い。また、検出センサにも特に制限はなく、一般的な磁性微粒子が検出できるようなセンサであればあらゆるものが適用可能である。さらに、外部磁界の印加については、複数の磁性微粒子を供給後に印加するものだけでなく、常時印加しているものであっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、従来のバイオセンサのマーカ測定手法を説明するための模式的な側面図である。
【図2】図2は、本発明のバイオセンサ用マーカを説明するための模式的な側面図であり、図2(a)は外部磁界を印加していない状態の側面図、図2(b)は外部磁界を垂直方向に印加した場合の側面図である。
【図3】図3は、本発明のバイオセンサ用マーカを光学顕微鏡で撮影した写真である。
【図4】図4は、本発明のマーカを用いるバイオセンサの他の実施例を説明するための模式図であり、図4(a)は外部磁界を垂直方向に印加した場合の側面図、図4(b)は外部磁界を水平方向に印加した場合の側面図、図4(c)は図4(b)の上面図である。
【図5】図5は、本発明のマーカを用いるバイオセンサのさらに他の実施例を説明するための模式的な側面図であり、水平方向に外部磁界を印加した状態を表している。
【符号の説明】
【0055】
1 基板
2 センサ部
3 プローブ
4 バイオ物質
5 磁性微粒子
10 磁性微粒子種
20 複数の磁性微粒子
30 磁性微粒子柱
40 強磁性部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオセンサに用いるマーカであって、該マーカは、
前記バイオセンサの検出位置の近傍に標的バイオ物質と共に固定される磁性微粒子種と、
外部磁界の印加によって前記磁性微粒子種に柱状に吸着されて磁性微粒子柱を形成する複数の磁性微粒子と、
を具備することを特徴とするバイオセンサ用マーカ。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオセンサ用マーカにおいて、前記印加される外部磁界は、前記検出位置の面に対して垂直方向又は水平方向であることを特徴とするバイオセンサ用マーカ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のバイオセンサ用マーカにおいて、前記印加される外部磁界は、その印加方向が可変可能であることを特徴とするバイオセンサ用マーカ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のバイオセンサ用マーカにおいて、該マーカは、磁気センサを用いて検出されることを特徴とするバイオセンサ用マーカ。
【請求項5】
請求項4に記載のバイオセンサ用マーカにおいて、前記磁気センサは、前記磁性微粒子柱と検出位置との間に磁気回路を形成する強磁性部を有することを特徴とするバイオセンサ用マーカ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のバイオセンサ用マーカにおいて、該マーカは導電性を有し、前記磁性微粒子柱がこれと前記検出位置との間に電気回路を形成するための電気スイッチを構成することを特徴とするバイオセンサ用マーカ。
【請求項7】
請求項1に記載のバイオセンサ用マーカにおいて、該マーカは、水晶振動子マイクロバランスセンサを用いて検出されることを特徴とするバイオセンサ用マーカ。
【請求項8】
請求項1に記載のバイオセンサ用マーカにおいて、該マーカは、表面プラズモン共鳴センサを用いて検出されることを特徴とするバイオセンサ用マーカ。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れかに記載のバイオセンサ用マーカにおいて、該マーカは、光学顕微鏡を用いて検出されることを特徴とするバイオセンサ用マーカ。
【請求項10】
マーカを検出するバイオセンサであって、該バイオセンサは、
前記バイオセンサの検出位置の近傍に標的バイオ物質と共に固定される磁性微粒子種と、
外部磁界の印加によって前記磁性微粒子種に柱状に吸着されて磁性微粒子柱を形成する複数の磁性微粒子と、
前記複数の磁性微粒子に外部磁界を印加する外部磁界印加手段と、
前記磁性微粒子種と磁性微粒子柱とからなるマーカを検出する検出手段と、
を具備することを特徴とするバイオセンサ。
【請求項11】
請求項10に記載のバイオセンサにおいて、前記外部磁界印加手段は、前記検出位置の面に対して垂直方向又は水平方向に外部磁界を印加することを特徴とするバイオセンサ。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載のバイオセンサにおいて、前記外部磁界印加手段は、印加される外部磁界の印加方向が可変可能であることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項13】
請求項10乃至請求項12の何れかに記載のバイオセンサにおいて、前記検出手段は、マーカの磁気を検出する磁気センサからなることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項14】
請求項13に記載のバイオセンサにおいて、前記磁気センサは、前記磁性微粒子柱と検出位置との間に磁気回路を形成する強磁性部を有することを特徴とするバイオセンサ。
【請求項15】
請求項10乃至請求項12の何れかに記載のバイオセンサにおいて、前記マーカは導電性を有し、前記検出手段は、前記磁性微粒子柱がこれと前記検出位置との間に電気回路を形成するように構成される電気スイッチを有することを特徴とするバイオセンサ。
【請求項16】
請求項10に記載のバイオセンサにおいて、前記検出手段は、マーカを共振周波数の変化として検出する水晶振動子マイクロバランスセンサからなることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項17】
請求項10に記載のバイオセンサにおいて、前記検出手段は、マーカを表面プラズモン共鳴の変化として検出する表面プラズモン共鳴センサからなることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項18】
請求項10乃至請求項17の何れかに記載のバイオセンサにおいて、前記検出手段は、光学顕微鏡からなることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項19】
バイオセンサを用いたマーカ検出方法であって、該方法は、
前記バイオセンサの検出位置の近傍に標的バイオ物質と共に磁性微粒子種を固定する過程と、
前記磁性微粒子種の近傍に複数の磁性微粒子を提供する過程と、
前記複数の磁性微粒子に外部磁界を印加する過程と、
前記外部磁界によって前記磁性微粒子種に柱状に前記複数の磁性微粒子が吸着されて磁性微粒子柱が形成される過程と、
前記磁性微粒子種と磁性微粒子柱とからなるマーカを検出する過程と、
を具備することを特徴とするバイオセンサ用マーカ検出方法。
【請求項20】
請求項19に記載のバイオセンサ用マーカ検出方法において、前記外部磁界を印加する過程は、前記検出位置の面に対して垂直方向又は水平方向に外部磁界を印加する過程であることを特徴とするバイオセンサ用マーカ検出方法。
【請求項21】
請求項19又は請求項20に記載のバイオセンサ用マーカ検出方法において、前記外部磁界を印加する過程は、外部磁界の印加方向が可変可能であることを特徴とするバイオセンサ用マーカ検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−128677(P2008−128677A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310712(P2006−310712)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】