説明

バイオチップ、検体反応装置及び検体反応方法

【課題】簡易な方法で精度良く検体を含む液体を分注できるバイオチップ、検体反応装置及び検体反応方法を提供すること。
【解決手段】バイオチップ1は、第1容器10と、融点が25℃以上63℃以下であるワックス22が充填された第2容器20と、第1容器10と第2容器20との間に設けられた狭窄部30と、を含み、狭窄部30を介して第1容器10と連通し、壁面の少なくとも一部がワックス22で形成された受入室24が第2容器20内に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップ、検体反応装置及び検体反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な疾患に関与する遺伝子の存在が明らかになり、遺伝子診断や遺伝子治療など遺伝子を利用した医療が注目されている他、農畜産分野においても品種判別や品種改良に遺伝子を用いた手法が多く開発されてきており、遺伝子の利用技術が拡大している。遺伝子を利用するために核酸増幅技術が広く普及している。この技術としては一般的にPCR(Polymerase Chaine Reaction)などが知られており、今日では、PCRは、生体物質の情報解明において必要不可欠な技術となっている。
【0003】
PCRによる検査では、チューブやチップ(バイオチップ)と称する検体反応用容器を用いて反応を行う手法が一般的である。しかしながら従来の手法においては、必要な試薬等の量が多く、また必要な熱サイクルを実現するために装置が複雑化したり、反応に時間がかかったりするという問題があった。そのため微少量の試薬や検体を用いてPCRを精度よく短時間で行うためのバイオチップや反応装置が必要とされていた。
【0004】
このような問題を解決するために、特許文献1には、反応液と混和せず反応液よりも比重の軽い液体(ミネラルオイル等)を充填したチューブの中で、液滴の状態で含まれる反応液を往復移動させることによって熱サイクルをかけて反応を行う装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−136250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載された従来のバイオチップにおいては、PCRによる検査では検体を含む微小量の液体を複数の容器に正確に分注する必要があり、作業者には技能と正確さが求められていた。また、このバイオチップ内にはミネラルオイルが充填されているため、保管や取扱い等を行う際の液漏れや蒸発を防止するために弁やシールを設ける等の工夫をする必要があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、簡易な方法で精度良く検体を含む液体を分注でき、保管、取扱い時に液漏れや蒸発のないバイオチップ、検体反応装置及び検体反応方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るバイオチップは、
第1容器と、
融点が25℃以上63℃以下であるワックスが充填された第2容器と、
前記第1容器と前記第2容器との間に設けられた狭窄部と、
を含み、
前記狭窄部を介して前記第1容器と連通し、壁面の少なくとも一部が前記ワックスで形成された受入室が前記第2容器内に形成されている。
【0009】
本発明によれば、第2容器に少なくとも室温(25℃)以下で固体であるワックスが充填されているため、液漏れや蒸発が起きず、バイオチップの取扱いや保管が容易となる。また、ワックスはPCRを行う温度範囲においては液体(オイル)となるため、特別な処理を行う必要がなく、簡易に反応を行うことができる。
【0010】
また、本発明によれば、狭窄部を介して第1容器と連通し、壁面の少なくとも一部がワックスで形成された受入室が第2容器内に形成されている。これにより、第1容器に検体を含む液体を供給して遠心力等を利用して、狭窄部を通じて正確な量を容易に受入室に分注することができる。
【0011】
(2)このバイオチップは、
前記第2容器と前記狭窄部との組を複数含み、
それぞれの前記狭窄部は、同一の平面上であって、前記平面上の1点から放射方向に配置され、
前記第1容器は、前記狭窄部に対して前記1点に近い側に位置していてもよい。
【0012】
これにより、遠心力等を利用して、複数の第2容器を含む場合においても検体を含む液体を簡易に精度よく分注できるバイオチップが実現できる。
【0013】
(3)このバイオチップは、
プライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方が、前記受入室内に配置されていてもよい。
【0014】
これにより、検体を含む液体を分注すれば、検体を含む液体とプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方とを混合することができるので、分注作業をより簡易にすることができる。
【0015】
(4)このバイオチップは、
プライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方が、前記第2容器内において、前記狭窄部から最も遠い位置に配置されていてもよい。
【0016】
これにより、検体を含む液体とプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方とが混合しやすくなる。また、プライマー及び蛍光プローブが第1容器内に溶出しにくくなる。
【0017】
(5)本発明に係る検体反応装置は、
バイオチップを用いて検体の反応を行う検体反応装置であって、
前記バイオチップは、
第1容器と、
融点が25℃以上63℃以下であるワックスが充填された第2容器と、
前記第1容器と前記第2容器との間に設けられた狭窄部と、
を含み、
前記狭窄部を介して前記第1容器と連通し、壁面の少なくとも一部が前記ワックスで形成された受入室が前記第2容器内に形成されており、
前記バイオチップを装着可能な装着部と、
前記装着部に前記バイオチップを装着した場合に、重力方向における前記第2容器内の最下点と回転軸との距離が変化するように前記バイオチップを回転させる回転部と、
前記装着部に前記バイオチップを装着した場合に、前記回転軸に対して温度分布が軸対称になるように前記第2容器の少なくとも一部を前記ワックスの融点以上の温度まで加熱する加熱部と、
を含む。
【0018】
本発明によれば、バイオチップを回転させると、重力方向における第2容器内の最下点と回転軸との距離を変化させ、同時に加熱部により、回転軸に対して軸対称の温度分布を形成することができる。これにより、簡易な方法で精度良く検体を含む液体を分注できるバイオチップを用いて、検体の反応を効率良く行うための検体反応装置を実現できる。
【0019】
(6)本発明に係る検体反応方法は、
バイオチップを用いて検体を反応させる検体反応方法であって、
前記バイオチップは、
第1容器と、
融点が25℃以上63℃以下であるワックスが充填された第2容器と、
前記第1容器と前記第2容器との間に設けられた狭窄部と、
を含み、
前記狭窄部を介して前記第1容器と連通し、壁面の少なくとも一部が前記ワックスで形成された受入室が前記第2容器内に形成されており、
前記第1容器に検体を含む液体を供給する供給工程と、
前記第1容器から前記狭窄部に向かって遠心力を発生させるように前記バイオチップを回転させて、前記検体を含む液体を前記受入室に充填する充填工程と、
前記充填工程で回転させる回転軸に対して温度分布が軸対称になるように前記第2容器の少なくとも一部を前記ワックスの融点以上の温度まで加熱し、重力方向における前記第2容器内の最下点と回転軸との距離が変化するように前記バイオチップを回転させて検体の反応を行う検体反応工程と、
を含む。
【0020】
本発明によれば、壁面の少なくとも一部がワックスで形成された受入室が第2容器内に形成されているバイオチップを回転させて、第1容器から狭窄部に向かって遠心力を印加することにより、第1容器から受入室へ検体を含む液体を精度よく簡単に分注することができる。
【0021】
さらに本発明によれば、バイオチップを回転させて、重力方向における第2容器内の最下点と回転軸との距離を変化させ、バイオチップを加熱して第2容器内に温度分布を形成することにより、簡易な方法で精度良く検体を含む液体を分注できるバイオチップを用いて効率よく検体を反応させる検体反応方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(A)は、第1実施形態に係るバイオチップの平面図、図1(B)は、図1(A)のA−Aにおける断面図。
【図2】図2(A)は、第2実施形態に係るバイオチップの平面図、図2(B)は、図2(A)のB−Bにおける断面図。
【図3】図3(A)は、本実施形態に係る検体反応装置の斜視図、図3(B)は、本実施形態に係る検体反応装置の他の斜視図。
【図4】本実施形態に係る検体反応方法のフローチャートの一例。
【図5】本実施形態に係る検体反応方法のフローチャートの他の例。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0024】
1.第1実施形態に係るバイオチップ
図1(A)は、第1実施形態に係るバイオチップの平面図、図1(B)は、図1(A)のA−Aにおける断面図である。
【0025】
第1実施形態に係るバイオチップ1は、第1容器10、第2容器20及び狭窄部(オリフィス)30を含んで構成されている。第1容器10と第2容器20とは、狭窄部30を介して連通している。
【0026】
第1容器10は、基板50の凹部として形成されている。第1容器10は、投入口12から検体を含む液体(以下、「被検液」と呼ぶこともある。)を投入できるように構成されている。第1容器10は、キャップ100により投入口12を封止できるように構成されていてもよい。
【0027】
バイオチップ1が、例えば、PCRに用いられる場合、被検液は、標的核酸を含み得る検体を含む液体である。標的核酸としては、例えば、血液、尿、唾液、髄液などの検体から抽出されたDNA、又は、該検体から抽出されたRNAから逆転写したcDNAなどが挙げられる。被検液は、標的核酸を増幅するためのプライマー及び増幅産物を検出するための蛍光プローブの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0028】
第2容器20は、基板50内に形成されている。図1(A)及び図1(B)に示す例では、第2容器20は、第1容器10から狭窄部30に向かう方向が長手方向となるチューブ状に構成されている。なお、第2容器20の形状はこれに限らず、例えば、途中にある角度で折れ曲がる屈曲部を有するチューブ状に構成されていたり、第2容器20の内部の一部を仕切る仕切り部を有し、仕切り部を周回する経路を有するように構成されていたりしてもよい。
【0029】
第2容器20内には、ワックス22が充填されている。また、第2容器20内には、受入室24が形成されている。受入室24は、狭窄部30を介して第1容器10と連通し、壁面の少なくとも一部がワックス22で形成されている。
【0030】
ワックス22の融点は、バイオチップの保管時や移送時、被検液の分注作業時には固体であり、検体を反応させるときには液体である範囲に存在することが好ましい。通常、被検液の分注作業を行う室温は25℃程度に設定されていることも多いため、ワックス22の融点は、例えば、25℃以上63℃以下とすることが好ましい。さらに、被検液の分注作業を行う作業者の体温は、通常、37℃程度であるので、ワックス22の融点は37℃以上とすることがさらに好ましい。なお、検体を反応させるときまでバイオチップを25℃以下の温度環境で取り扱う場合は、ワックスの融点を25℃未満とすることも可能である。
【0031】
例えば、PCR温度サイクルにおいて最も低いアニーリング時の温度は、高い場合には63℃程度であるから、ワックス22の融点は63℃以下とすることが好ましい。また、PCR温度サイクルにおいて最も低いアニーリング時の温度は、低い場合には55℃程度であるから、ワックス22の融点は55℃以下とすることがより好ましい。
【0032】
このような融点を持つワックスとして、例えば、日本精蝋(株)製のパラフィンワックス115を用いることができる。パラフィンワックス115は、融点が47℃であり、100℃近辺では粘度3cP、密度0.768g/cmとなり、適度な粘度と被検液に対する比重差を得ることができる。また、パラフィンワックス115はシリコンオイルと混合可能なので、シリコンオイルを混入することで粘度を調整することも可能である。被検液は水溶液であるので、ワックスと混和せず、ワックスが溶融した状態ではワックス中に液滴として含まれる。
【0033】
このように、第1実施形態に係るバイオチップ1によれば、第2容器20に少なくとも室温(25℃)以下で固体であるワックスが充填されているため、液漏れや蒸発が起きず、バイオチップの取扱いや保管が容易となる。また、ワックスはPCRを行う温度範囲においては液体(オイル)となるため、特別な処理を行う必要がなく、簡易に反応を行うことができる。
【0034】
第2容器20は、例えば、基板50の凹部として形成した後に、受入室24となる領域にスペーサーを挿入してワックス22を充填し、その後にスペーサーを除去してカバー52により凹部上面を覆うことにより形成してもよい。これにより、所望の容積を有する受入室24を容易に形成できる。
【0035】
受入室24内には、標的核酸を増幅するためのプライマー及び増幅産物を検出するための蛍光プローブの少なくとも一方が配置されていてもよい。これにより、検体を含む液体を分注すれば、検体を含む液体とプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方とを混合することができる。したがって、検体を含む液体を準備する際にプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方の準備を省略できるので、分注作業をより簡易にすることができる。
【0036】
また、プライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方が、第2容器20内において、狭窄部30から最も遠い位置に配置されていてもよい。これにより、ワックス22を溶融させた後に、第1容器10から第2容器20に向かう遠心力等の慣性力を与えることにより、第2容器20内に配置されたプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方に、分注された検体を含む液体をより強い力で接触させることができる。したがって、検体を含む液体とプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方とが混合しやすくなる。また、プライマー及び蛍光プローブと第1容器10との間にワックス22が介在することにより、プライマー及び蛍光プローブが第1容器10内に溶出しにくくなる。
【0037】
狭窄部30は、第1容器10と第2容器20との間に設けられている。狭窄部30の内径は、重力程度では被検液や溶融したワックス22が通過しない程度の大きさであり、例えば、0.1mm以上0.9mm以下程度としてもよい。
【0038】
狭窄部30により、第1容器10と第2容器20との間での被検液や溶融したワックス22の移動は制限される。第1容器10に投入された被検液に、例えば、遠心力などの慣性力を与えることにより、第1容器10から第2容器20の受入室24へと被検液を移動させることができる。
【0039】
第1容器10、第2容器20及び狭窄部30の内壁は親油撥水処理されていてもよい。例えば、基板50の材料としてポリプロピレンなどの親油撥水材料を用いてもよい。これにより、例えば回転によりバイオチップに遠心力を印加して被検液を受入室24へ分注した後、回転を停止した場合に、被検液は表面張力により狭窄部30から千切れる。余った被検液は受入部30に分注された被検液から分離して第1容器10内に残るので、正確な量の被検液が受入部24に分注されやすくなる。
【0040】
また、第1容器10は親水性とされていてもよい。これにより、余った被検液が第1容器内に戻りやすくなるので、狭窄部30においてより確実に被検液を分離することができる。
【0041】
したがって、第1実施形態に係るバイオチップ1によれば、例えば、自動分注機などの大掛かりな設備を用いることなく、ピペットを用いた分注作業よりも簡易な方法で、ピペットを用いた分注精度よりも高い精度で、被検液を正確に分注できる。
【0042】
さらに、第1実施形態に係るバイオチップ1によれば、例えば、被検液の充填が済んだバイオチップ1を検体反応装置に設置して反応を開始させると、反応のための加熱によりワックスが溶融して液体となる。反応を開始するための特殊な処理が不要であるため、簡便かつ効率的に反応を行うことができる。
【0043】
2.第2実施形態に係るバイオチップ
図2(A)は、第2実施形態に係るバイオチップの平面図、図2(B)は、図2(A)のB−Bにおける断面図である。以下、第2実施形態に係るバイオチップ2について、第1実施形態に係るバイオチップ1との相違点を中心に説明する。
【0044】
第2実施形態に係るバイオチップ2は、第2容器20−1〜20−8と狭窄部30−1〜30−8との組を複数含む。図2(A)及び図2(B)に示す例では、第2容器20−1と狭窄部30−1、第2容器20−2と狭窄部30−2、第2容器20−3と狭窄部30−3、第2容器20−4と狭窄部30−4、第2容器20−5と狭窄部30−5、第2容器20−6と狭窄部30−6、第2容器20−7と狭窄部30−7、第2容器20−8と狭窄部30−8とがそれぞれ組となり、バイオチップ2は8つの組を含んで構成されている。
【0045】
また、バイオチップ2は、第1容器10を含む。第1容器10と第2容器20−1〜20−8とは、それぞれ狭窄部30−1〜30−8を介して連通している。
【0046】
それぞれの第2容器20−1〜20−8の構成は、第1実施形態に係るバイオチップ1の第2容器20と同様である。すなわち、それぞれの第2容器20−1〜20−8には、それぞれワックス22−1〜22−8が充填され、それぞれ受入室24−1〜24−8が形成されている。受入室24−1〜24−8の壁面の少なくとも一部はワックス22−1〜22−8で形成されている。
【0047】
図2(A)及び図2(B)に示す例では、第2容器20−1〜20−8は、第1容器10からそれぞれ狭窄部30−1〜30−8に向かう方向が長手方向となるチューブ状に構成されている。なお、第2容器20−1〜20−8の形状はこれに限らず、例えば、途中にある角度で折れ曲がる屈曲部を有するチューブ状に構成されていたり、第2容器20−1〜20−8の内部の一部を仕切る仕切り部を有し、仕切り部を周回する経路を有するように構成されていたりしてもよい。
【0048】
それぞれの狭窄部30−1〜30−8の構成は、第1実施形態に係るバイオチップ1の狭窄部30と同様である。それぞれの狭窄部30−1〜30−8は、同一の仮想平面上であって、当該仮想平面上の1点Xから放射状に配置されている(以下、点Xを含む上述の仮想平面を、単に「仮想平面」という。)。
【0049】
バイオチップ2の第1容器10は、狭窄部30−1〜30−8に対して点Xに近い側に配置されている。これにより、第1容器10に被検液が投入された状態で、仮想平面に垂直であって点Xを通る直線を軸として回転させることによって、1点Xから狭窄部30−1〜30−8に向かう遠心力により狭窄部30−1〜30−8を介して第2容器20−1〜20−8の受入室24−1〜24−8へ移動させることができる。
【0050】
したがって、第2実施形態に係るバイオチップ2によれば、例えば、自動分注機などの大掛かりな設備を用いることなく、ピペットを用いた分注作業よりも簡易な方法で、ピペットを用いた分注精度よりも高い精度で、1つの第1容器から複数の受入室に被検液を正確に分注できる。
【0051】
また、第1実施形態に係るバイオチップ1と同様に、第2容器20−1〜20−8に少なくとも室温(25℃)以下で固体であるワックスが充填されているため、液漏れや蒸発が起きず、バイオチップの取扱いや保管が容易となる。また、ワックスはPCRを行う温度範囲においては液体(オイル)となるため、特別な処理を行う必要がなく、簡易に反応を行うことができる。
【0052】
受入室24−1〜24−8内には、標的核酸を増幅するためのプライマー及び増幅産物を検出するための蛍光プローブの少なくとも一方が配置されていてもよい。これにより、検体を含む液体を分注すれば、検体を含む液体とプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方とを混合することができる。したがって、検体を含む液体を準備する際にプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方の準備を省略できるので、分注作業をより簡易にすることができる。
【0053】
また、プライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方が、それぞれの第2容器20−1〜20−8内において、直接連通する狭窄部30−1〜30−8から最も遠い位置に配置されていてもよい。図2(A)及び図2(B)に示す例では、標的核酸を増幅するためのプライマー及び増幅産物量を測定するための蛍光プローブの少なくとも一方が、それぞれの第2容器20−1〜20−8内において、仮想平面に垂直であって点Xを通る直線を軸として回転させた場合に遠心力が最大となる位置に配置される。これにより、第2容器20−1〜20−8内に配置されたプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方に、分注された検体を含む液体をより強い力で接触させることができるので、検体を含む液体とプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方とが混合しやすくなる。また、プライマー及び蛍光プローブが第1容器10内に溶出しにくくなる。
【0054】
3.検体反応装置
図3(A)は、本実施形態に係る検体反応装置の斜視図、図3(B)は、本実施形態に係る検体反応装置の他の斜視図である。
【0055】
本実施形態に係る検体反応装置200は、バイオチップを用いて検体の反応を行う検体反応装置である。バイオチップ1を用いる場合の検体反応装置200は、バイオチップ1を装着可能な装着部210と、装着部210にバイオチップ1を装着した場合に、重力方向における第2容器20内の最下点と回転軸との距離が変化するようにバイオチップ1を回転させる回転部220と、装着部210にバイオチップ1を装着した場合に、回転軸に対して温度分布が軸対称になるように第2容器20の少なくとも一部をワックス22の融点以上の温度まで加熱する加熱部230と、を含む。
【0056】
バイオチップ2を用いる場合の検体反応装置200は、バイオチップ2を装着可能な装着部210と、装着部210にバイオチップ2を装着した場合に、重力方向における第2容器20−1〜20−8内の最下点と回転軸との距離が変化するようにバイオチップ2を回転させる回転部220と、装着部210にバイオチップ2を装着した場合に、回転軸に対して温度分布が軸対称になるように第2容器20−1〜20−8の少なくとも一部をワックス22−1〜22−8の融点以上の温度まで加熱する加熱部230と、を含む。
【0057】
以下、バイオチップ2を用いる場合の検体反応装置200を例にとり、図3(A)及び図3(B)を参照しながら説明する。
【0058】
装着部210は、バイオチップ2を装着可能に構成されている。図3(A)に示す例では、バイオチップ2と嵌合する溝が装着部210に相当する。図3(B)に示すように、スライド260をスライドガイド270に沿って白矢印方向に移動可能に構成し、バイオチップ2を装着部210に押圧することによりバイオチップ2を装着部210に装着してもよい。
【0059】
回転部220は、装着部210にバイオチップ2を装着した場合に、重力方向における第2容器20−1〜20−8内の最下点と回転軸との距離が変化するようにバイオチップ2を回転させる。図3(A)に示す例では、回転部220は、装着部210にバイオチップ2を装着した場合に、仮想平面に垂直であって点Xを通る直線を軸としてバイオチップ2を回転させて、重力方向における第2容器20−1〜20−8内の最下点と回転軸との距離が変化させる。
【0060】
加熱部230は、装着部210にバイオチップ2を装着した場合に、回転軸に対して温度分布が軸対称になるように第2容器20−1〜20−8の少なくとも一部をワックス22−1〜22−8の融点以上の温度まで加熱する。図3(A)に示す例では、加熱部230は、相対的に回転軸に近い側に相対的に高温で加熱する高温ヒーター232、相対的に回転軸に遠い側に相対的に低温で加熱する低温ヒーター234を有している。これにより、回転軸の近傍から外側へ向かうにつれて温度が低くなる温度勾配が形成される。すなわち、図3(A)に示す例では、加熱部230は、バイオチップ2の温度分布が軸対称になるようにバイオチップ2を加熱する構成となっている。
【0061】
加熱部230は、ヒーターコントローラー250によって制御されるように構成されていてもよい。例えば、検体反応装置200をリアルタイムPCRに用いる場合には、高温ヒーター232の温度を95℃、低温ヒーター234の温度を60℃となるように制御してもよい。また、図3(A)に示すように、高温ヒーター232と低温ヒーター234との間に断熱材280を有していてもよい。さらに、図3(B)に示すように、加熱部230を挟むように断熱材240が設けられていてもよい。
【0062】
加熱部230により加熱されたワックス22−1〜22−8は、溶融して液体となる。第2容器20−1〜20−8に被検液が供給された場合、溶融したワックスと被検液との比重差により、ワックスよりも重い被検液は重力方向におけるそれぞれの第2容器20−1〜20−8内の最下点近傍に移動する。バイオチップ2は、加熱部230により、温度分布が軸対称になるように加熱されているので、重力方向における第2容器20−1〜20−8内の最下点と回転軸との距離が変化すると異なる温度の領域が最下点となる。したがって、回転部220と加熱部230を適宜制御することにより、検体を含む液体を、第2容器20−1〜20−8内の温度の異なる領域間で移動させることができるので、所望の温度サイクル中に被検液をおくことができる。
【0063】
これにより、簡易な方法で精度良く被検液を分注できるバイオチップを用いて検体の反応を行うための検体反応装置を実現できる。
【0064】
4.検体反応方法
図4は、本実施形態に係る検体反応方法のフローチャートの一例である。図4に示す例では、バイオチップとして第1実施形態に係るバイオチップ1を用いているが、第2実施形態に係るバイオチップ2を用いることも可能である。
【0065】
図4に示す検体反応方法は、バイオチップ1を用いて検体を反応させる検体反応方法であって、第1容器10に検体を含む液体(被検液)を供給する供給工程と、第1容器10から狭窄部30に向かって遠心力を発生させるようにバイオチップ1を回転させて、検体を含む液体(被検液)を受入室24に充填する充填工程と、充填工程で回転させる回転軸に対して温度分布が軸対称になるように第2容器20の少なくとも一部をワックス22の融点以上の温度まで加熱し、重力方向における第2容器20内の最下点と回転軸との距離が変化するようにバイオチップ1を回転させて検体の反応を行う検体反応工程と、を含む。
【0066】
まず、第1容器10に被検液を供給する供給工程を行う(ステップS100)。例えば、バイオチップ1の投入口12から、第1容器10に被検液を投入することにより第1容器10に被検液を供給する。
【0067】
ステップS100の後に、第1容器10から狭窄部30に向かって遠心力を発生させるようにバイオチップ1を回転させて、被検液を受入室24に充填する充填工程を行う(ステップS102)。例えば、遠心機を用いて第1容器10から狭窄部30に向かって遠心力を発生させるようにバイオチップ1を回転させることにより、被検液を受入室24に充填してもよい。充填工程により、簡易な方法で精度良く被検液を分注できる。
【0068】
ステップS102の後に、回転軸に対して温度分布が軸対称になるように第2容器20の少なくとも一部をワックス22の融点以上の温度まで加熱し、重力方向における第2容器20内の最下点と回転軸との距離が変化するようにバイオチップ1を回転させて検体の反応を行う検体反応工程を行う(ステップS104)。なお、分注工程で遠心力を印加する装置と、反応工程で用いる反応装置は異なる装置であることが好ましい。
【0069】
ワックス22の融点以上の温度まで加熱することにより、ワックス22は溶融して液体となる。溶融したワックスと被検液との比重差により、ワックスよりも重い被検液は重力方向における第2容器20内の最下点近傍に移動する。バイオチップ1は、温度分布が軸対称になるように加熱されているので、重力方向における第2容器20内の最下点と回転軸との距離が変化すると温度が変化する。したがって、回転と加熱温度とを適宜制御することにより、検体を含む液体を、第2容器20内の温度の異なる領域間で移動させることができるので、所望の温度サイクル中に検体をおくことができる。これにより、バイオチップ1を用いて検体を反応させることができる。
【0070】
また、受入室24内には、標的核酸を増幅するためのプライマー及び増幅産物を検出するための蛍光プローブの少なくとも一方が配置されていてもよい。これにより、検体を含む液体を分注すれば、検体を含む液体とプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方とを混合することができる。したがって、検体を含む液体を準備する際にプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方の準備を省略できるので、分注作業をより簡易にすることができる。
【0071】
また、プライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方が、第2容器20内において、狭窄部30から最も遠い位置に配置されていてもよい。これにより、第2容器20内に配置されたプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方に、分注された検体を含む液体をより強い力で接触させることができるので、検体を含む液体とプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方とが混合しやすくなる。また、プライマー及び蛍光プローブが第1容器10内に溶出しにくくなる。
【0072】
図5は、本実施形態に係る検体反応方法のフローチャートの他の例である。図5に示す例では、バイオチップとして第2実施形態に係るバイオチップ2を用いている。
【0073】
図5に示す検体反応方法は、バイオチップ2を用いて検体を反応させる検体反応方法であって、第1容器10に検体を含む液体(被検液)を供給する供給工程と、第1容器10から狭窄部30−1〜30−8に向かって遠心力を発生させるようにバイオチップ2を回転させて、検体を含む液体(被検液)を受入室24−1〜24−8に充填する充填工程と、充填工程で回転させる回転軸に対して温度分布が軸対称になるように第2容器20−1〜20−8の少なくとも一部をワックス22−1〜22−8の融点以上の温度まで加熱し、重力方向における第2容器20−1〜20−8内の最下点と回転軸との距離が変化するようにバイオチップ2を回転させて検体の反応を行う検体反応工程と、を含む。
【0074】
まず、第1容器10に被検液を供給する供給工程を行う(ステップS200)。例えば、バイオチップ2の投入口12から、第1容器10に被検液を投入することにより第1容器10に被検液を供給する。
【0075】
ステップS200の後に、第1容器10から狭窄部30−1〜30−8に向かって遠心力を発生させるようにバイオチップ2を回転させて、被検液を受入室24−1〜24−8に充填する充填工程を行う(ステップS202)。例えば、遠心機を用いて仮想平面に垂直であって点Xを通る直線を軸としてバイオチップ2を回転させることにより、被検液を受入室24−1〜24−8に充填してもよい。充填工程により、簡易な方法で精度良く被検液を分注できる。
【0076】
ステップS202の後に、充填工程で回転させる回転軸に対して温度分布が軸対称になるように第2容器20−1〜20−8の少なくとも一部をワックス22−1〜22−8の融点以上の温度まで加熱し、重力方向における第2容器20−1〜20−8内の最下点と回転軸との距離が変化するようにバイオチップ2を回転させて検体の反応を行う検体反応工程を行う(ステップS204)。
【0077】
ワックス22−1〜22−8の融点以上の温度まで加熱することにより、ワックス22−1〜22−8は溶融して液体となる。溶融したワックスと被検液との比重差により、ワックスよりも重い被検液は重力方向におけるそれぞれの第2容器20−1〜20−8内の最下点近傍に移動する。バイオチップ2は、温度分布が軸対称になるように加熱されているので、重力方向における第2容器20−1〜20−8内の最下点と回転軸との距離が変化すると温度が変化する。したがって、回転と加熱温度とを適宜制御することにより、検体を含む液体を、第2容器20−1〜20−8内の温度の異なる領域間で移動させることができるので、所望の温度サイクル中に検体をおくことができる。これにより、バイオチップ2を用いて検体を反応させることができる。
【0078】
また、受入室24−1〜24−8内には、標的核酸を増幅するためのプライマー及び増幅産物を検出するための蛍光プローブの少なくとも一方が配置されていてもよい。これにより、検体を含む液体を分注すれば、検体を含む液体とプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方とを混合することができる。したがって、検体を含む液体を準備する際にプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方の準備を省略できるので、分注作業をより簡易にすることができる。
【0079】
また、プライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方が、それぞれの第2容器20−1〜20−8内において、直接連通する狭窄部30−1〜30−8から最も遠い位置に配置されていてもよい。これにより、第2容器20−1〜20−8内に配置されたプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方に、分注された検体を含む液体をより強い力で接触させることができるので、検体を含む液体とプライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方とが混合しやすくなる。また、プライマー及び蛍光プローブが第1容器10内に溶出しにくくなる。
【0080】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0081】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0082】
1,2 バイオチップ、10 第1容器、12 投入口、20,20−1〜20−8 第2容器、22,22−1〜22−8 ワックス、24,24−1〜24−8 受入室、30,30−1〜30−8 狭窄部、50 基板、52 カバー、100 キャップ、200 検体反応装置、210 装着部、220 回転部、230 加熱部、232 高温ヒーター、234 低温ヒーター、240 断熱材、250 ヒーターコントローラー、260 スライド、270 スライドガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1容器と、
融点が25℃以上63℃以下であるワックスが充填された第2容器と、
前記第1容器と前記第2容器との間に設けられた狭窄部と、
を含み、
前記狭窄部を介して前記第1容器と連通し、壁面の少なくとも一部が前記ワックスで形成された受入室が前記第2容器内に形成されている、バイオチップ。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオチップにおいて、
前記第2容器と前記狭窄部との組を複数含み、
それぞれの前記狭窄部は、同一の平面上であって、前記平面上の1点から放射方向に配置され、
前記第1容器は、前記狭窄部に対して前記1点に近い側に位置している、バイオチップ。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれかに記載のバイオチップにおいて、
プライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方が、前記受入室内に配置されている、バイオチップ。
【請求項4】
請求1ないし3のいずれかに記載のバイオチップにおいて、
プライマー及び蛍光プローブの少なくとも一方が、前記第2容器内において、前記狭窄部から最も遠い位置に配置されている、バイオチップ。
【請求項5】
バイオチップを用いて検体の反応を行う検体反応装置であって、
前記バイオチップは、
第1容器と、
融点が25℃以上63℃以下であるワックスが充填された第2容器と、
前記第1容器と前記第2容器との間に設けられた狭窄部と、
を含み、
前記狭窄部を介して前記第1容器と連通し、壁面の少なくとも一部が前記ワックスで形成された受入室が前記第2容器内に形成されており、
前記バイオチップを装着可能な装着部と、
前記装着部に前記バイオチップを装着した場合に、重力方向における前記第2容器内の最下点と回転軸との距離が変化するように前記バイオチップを回転させる回転部と、
前記装着部に前記バイオチップを装着した場合に、前記回転軸に対して温度分布が軸対称になるように前記第2容器の少なくとも一部を前記ワックスの融点以上の温度まで加熱する加熱部と、
を含む、検体反応装置。
【請求項6】
バイオチップを用いて検体を反応させる検体反応方法であって、
前記バイオチップは、
第1容器と、
融点が25℃以上63℃以下であるワックスが充填された第2容器と、
前記第1容器と前記第2容器との間に設けられた狭窄部と、
を含み、
前記狭窄部を介して前記第1容器と連通し、壁面の少なくとも一部が前記ワックスで形成された受入室が前記第2容器内に形成されており、
前記第1容器に検体を含む液体を供給する供給工程と、
前記第1容器から前記狭窄部に向かって遠心力を発生させるように前記バイオチップを回転させて、前記検体を含む液体を前記受入室に充填する充填工程と、
前記充填工程で回転させる回転軸に対して温度分布が軸対称になるように前記第2容器の少なくとも一部を前記ワックスの融点以上の温度まで加熱し、重力方向における前記第2容器内の最下点と回転軸との距離が変化するように前記バイオチップを回転させて検体の反応を行う検体反応工程と、
を含む、検体反応方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−155921(P2011−155921A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20953(P2010−20953)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】