説明

バイオチップの分析方法及びその自動分析システム

【課題】このバイオチップの分析方法及びその自動分析システムは,多種のアレルゲンをスポットとして搭載したバイオチップを用いて,分析べき検体の採取後に,検体と抗体との反応検出過程を自動化し,且つ迅速に測定結果を得ることができる。
【解決手段】この発明は,抗原をスポット6として搭載したバイオチップ2と,採取した血液検体から血清成分を取り出すプレフィルタと,バイオチップ2と対となった試薬カセット4aとを提供し,検体を添加したバイオチップ2の抗原と反応させ,抗体との反応,洗浄,検出試薬の添加から化学発光検出までの各処理を自動化し,且つ迅速に分析測定結果を得ることができ,分析測定時間が短く,設置面積の極小化を達成した一貫したバイオチップの自動分析システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,蛋白質,核酸,糖脂質等の生体分子の抗原を独立したスポットとして固定したバイオチップを用いて,分析すべき検体を高速で,安価に,取り扱い容易に,多項目にわたる分析を同時にできるバイオチップの分析方法及びその自動分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,アレルギー疾患は,花粉症,アトピー性皮膚炎,気管支喘息,食物アレルギー,薬物アレルギー等の様々なアレルギー疾患があり,国民1億2千万人のうちアレルギーと何らかの関わりを持つ人が4200万人いるといわれている。このようにアレルギー疾患の増えた理由として,日常生活環境内における感作性物質(抗原)の増加,これへの濃厚暴露が最大の要因といわれる。アレルギー疾患は,日常生活環境と切り離すことができないので,病気の治療において症状を薬で抑えるだけでは不十分で再発を免れ得ず,その原因にまで踏み込んで原因物質は何かをアレルギー独特の検査法を駆使し特定して,治療を行うことが必要である。従って,病医院のアレルギー科や皮膚科,内科等でアレルギー疾患に関する診療やアレルギー症状を引き起こす原因物質である抗原を,即ちアレルゲンを特定する診療が増加している。アレルゲンを特定する検査は,検査の複雑性や大規模な検査分析装置を要するため,専門の検査機関に検査を依頼するのが通常である。
【0003】
アレルギー症状は,抗原がからだ(生体)に作用し免疫機能が働く,抗原抗体反応である。この反応の結果,免疫グロブリン(Immunoglobulin: Igと略す) を生ずる。免疫グロブリンは,現在,A,G,D,M,Eの5種が知られており,このうち,免疫グロブリンE(IgEと略す)の過剰反応がアレルギー症状を惹起することが知られており,現在ではこれを検出して診断に用いている。これをIgE抗体という。免疫グロブリンは,タンパク質であり,構造はアミノ酸の連鎖である。IgEは,正常者で200−240ng/mlと微量である。アレルゲンの特定は,問診表にはじまり,酵素抗体法(enzyme-
linked immunosorbent assay:ELISA)等の各種検査法を実施し,原因抗原を特定する。
【0004】
IgE検量方法としては,アレルゲンを固定した固体表面に対象検体を作用させた後,蛍光標識した二次抗体でアレルゲンに結合したIgE抗体量を,蛍光強度から検出する蛍光免疫測定法(例えば,特許文献1参照),又は化学発光標識した二次抗体でアレルゲンに結合したIgE抗体量を,化学発光強度から検出する化学発光免疫法,或いは発色標識した二次抗体でアレルゲンに結合したIgE抗体量を,比色検出する色素免疫法,例えば,CAP−FEIA法(CAP法と略す)がある。
【0005】
実用化されているIgE分析装置の計測法として,単項目法と多項目法がある。単項目法では,1つのウェルに1検体の試料を加え,そのウェルに固定されたアレルゲンに対するIgE抗体の有無を判定する。1 ウェルにつき1種のアレルゲンしか判定できないため,アレルゲンを特定するスクリーニング分析では,それぞれ別の多種のウェルを使用することが必要である。この代表的なものがグローバルスタンダードとなっているCAP法である。CAP法は,単項目測定毎に40マイクロリッターの検体試料を必要とするので,N個の多項目について測定する場合,血液試料量が多くなり,装置が大型となるので,分析装置は検査会社に設置されることになる。これに対して分析効率を向上させる目的で,同時に多項目を測定する技術が開発されてきた。多項目法では,一つのウェルに多数のアレルゲンを局所的に配置してそれぞれの場所での免疫抗体判定からIgE抗体存在の有無を判定する。このためには,アレルゲンを局所的に固定する技術と,それを判定する計測技術が必要である。
【0006】
現在,実用化されている多項目法は,同時多項目アレルゲン特異的IgE抗体測定法(Multiple Antigen Simultaneous Test:MAST法と略す) である(例えば,非特許文献1参照)。この方法では,長尺のウェルの中をさらに小さなウェルに分け,それぞれのウェルに別種の抗原を固定し,検体試料はウェル全体に作用させた後,個別のウェルシグナル強度を分析し,それぞれのウェル全体に抗原に対するIgE抗体量を分析している。この方法で現在33種までの抗原について同時分析が可能であるが,サンプル量は200マイクロリッターに過ぎない。しかし,測定に要する時間は5時間とされている。
【0007】
もう一つの多項目法として,薄層クロマトを用いたイムファストチェック法がある。これはウェルを使用せず検体サンプル液が自動的に添加する薄層法が用いられている。サンプル液と発色液を注入する工程のみでよいため,カセット化しやすく現場で使用できるポイントオブケアテスト (Point Of Care Test:POCT)型となっている。しかし,使用できるアレルゲン数は3個程度に限られる。
【0008】
多項目法の一つとして高速現場分析を目的としたタンパクチップ方式( マイクロアレイチップ法と略す) が知られている(例えば,非特許文献2参照)。特殊表面コートしたスライド基板のスポット状にアレルゲンを固定し,そこに検体血清が流れる流路を設け,反応させた後,洗浄,二次抗体反応,洗浄後,化学発光試薬を作用させ,スポットの発光強度をCCDカメラで計測し,その強度からIgE量を判定する。サンプル検体のチップ容器への注入工程及びその後工程が自動化されている。測定に要する時間は30分以上とされている。しかし,装置のサイズが大きく,多くの設置面積を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−49276号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】山下耕平,同時多項目アレルゲン特異IgE測定試薬(MASTII-S),アレルギーの臨床,28 (4),314-321 (2008).
【非特許文献2】Y. Ito et al, Automated microfluidic assay system for autoantibodies found in autoimmune diseases using a photoimmobilized autoantigenmicroarray, Biotechnol. Prog. 24, American Institute of Chemical Engineers, 1384-1392 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
バイオチップの分析方法及びその分析システムについて,従来技術では,多項目同時測定は可能であっても,ポイントオブケアテスト(POCT)システムとしての課題,即ち設置面積を取らないコンパクトで且つ安価な機器であること,習熟を要さず誰でも使える簡易操作システムであること,迅速にその場で結果が出せること,10種以上のアレルゲンスクリーニングが少量サンプルを用いた一回操作でできること等を満足させるものはなかった。
【0012】
そこで,この発明の目的は,上記の問題点を解決することであり,多種のアレルゲンの抗原を互いに独立した即ち隔置したスポットとして搭載したバイオチップを用いて,検体の採取後に,検体と抗原との反応検出過程を自動化し,且つ迅速に測定結果を得ることができるバイオチップの分析方法及びその自動分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は,蛋白質,核酸,サイトカイン等の生体分子である異なった種類の抗原を互いに隔置して複数個のスポットにして固定したバイオチップと前記バイオチップを囲む擁壁とを固定した基板を設置ステーションで移動テーブル上に設置し,前記バイオチップのエリアに分析すべき検体を供給し,前記基板上の前記擁壁内の前記バイオチップを洗浄液ノズル,抗体ノズル,試薬ノズル及び吸引ノズルを備えたノズルステーションへ移動させると共に,前記検体中の抗体を前記スポットの前記抗原と反応させることによりいずれかの前記スポットの前記抗原に前記検体中の前記抗体を捕捉させ,次いで,前記バイオチップの前記エリアに前記抗体ノズルから二次抗体試薬を注入して二次抗体を前記スポットに補足された前記抗体とを反応結合させ,前記抗体と反応結合した二次抗原抗体の量を分析するために前記バイオチップに前記試薬ノズルから発光試薬を注入し,前記発光試薬を前記二次抗原抗体と反応させることにより化学発光を誘起し,前記バイオチップを観測エリアへ移動させて前記スポットの発光強度をCCDカメラにより観測してそれぞれの前記抗原の前記スポットに対応する前記検体中の抗体量を分析することを特徴とするバイオチップの分析方法に関する。
【0014】
このバイオチップの分析方法において,前記バイオチップの前記エリアへの前記二次抗体試薬の注入に先立って,前記エリアから前記吸引ノズルで前記検体を吸引除去し,前記洗浄液ノズルから前記エリアに洗浄液を供給して前記バイオチップをそれぞれ洗浄し,次いで前記エリアから前記吸引ノズルで前記洗浄液を吸引除去し,また,前記発光試薬の注入に先立って,前記エリアから前記吸引ノズルで前記二次抗体試薬を吸引除去し,前記洗浄液ノズルから前記エリアに前記洗浄液を供給して前記バイオチップをそれぞれ洗浄し,次いで前記エリアから前記吸引ノズルで前記洗浄液を吸引除去するものである。
【0015】
また,前記バイオチップは,20種以上の異なったアレルゲン抗原を互いに隔置して複数個の前記スポットにして固定したチップ,8種以上の異なった自己免疫抗原を互いに隔置して複数個の前記スポットにして固定したチップ,及び/又は前記サイトカインや抗体蛋白質を互いに隔置して複数個の前記スポットにして固定したチップである。
【0016】
また,この発明は,蛋白質,核酸,糖脂質等の生体分子である異なった種類の抗原を互いに隔置して複数個のスポットにして固定したバイオチップと前記バイオチップのエリアを囲んだ擁壁とを固定した基板,前記基板が設置ステーションで取付け取外し可能に設置された移動テーブル,洗浄液を前記擁壁内の前記エリアに吐出する洗浄液ノズル,二次抗体試薬を前記擁壁内の前記エリアに注入する抗体ノズル,発光試薬を前記擁壁内の前記エリアに注入する試薬ノズル,及び前記擁壁内の前記エリアに供給された分析すべき検体,前記洗浄液,前記二次抗体試薬及び前記発光試薬を吸出する吸引ノズルを備えたノズルステーション,前記バイオチップにおける前記スポットの発光状態を観測するため観測ステーションに設けられたCCDカメラ,前記バイオチップを前記設置ステーション,前記ノズルステーション及び前記観測ステーションに順次に移動させるため前記移動テーブルを移動させる第1駆動装置,並びに前記洗浄液ノズル,前記抗体ノズル,前記試薬ノズル,前記吸引ノズル及び前記CCDカメラを前記バイオチップに対して上下移動するための第2駆動装置から構成されていることを特徴とするバイオチップ自動分析システムに関する。
【0017】
このバイオチップ自動分析システムにおいて,アレルゲン抗原を搭載した前記バイオチップは,ウェルに囲まれたオープンチップに形成されているものである。
【0018】
このバイオチップ自動分析システムは,前記バイオチップを前記ノズルステーションにおける反応位置及び前記CCDカメラによる観測位置に移動させる前記第1駆動装置によって前記バイオチップ上の反応液を適宜攪拌することができるものである。
【0019】
このバイオチップ自動分析システムは,前記観測ステーションへ移動した前記バイオチップへと前記CCDカメラを覆うCCDカメラフードを下降させ,前記バイオチップを前記CCDカメラフード内に暗箱状に密閉収容することにより,前記バイオチップの前記スポットの発光状態を観測するものである。
オチップ自動分析システム。
【0020】
このバイオチップ自動分析システムは,前記検体の数に応じて容易に分析量を増減できるようにユニット化し,制御,データ収集及び解析は,LAN経由で接続されたユニット毎に行うことができるものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明によるバイオチップの分析方法は,多種の異なったアレルゲンを互いに隔置したスポットとして搭載したいわゆる1個のバイオチップと,分析すべき血液検体から血清成分を取り出すプレフィルタと,バイオチップと対となった試薬カセットとを提供して,検体を添加したバイオチップの抗原と反応させ,反応,洗浄,検出試薬の添加から化学発光検出までを自動化し,且つ迅速に測定結果を得ることができ,また,上記分析方法を測定時間が短く,設置面積極小化を達成できる装置からなる一貫した自動分析システムを構築することである。このバイオチップの分析方法及びそのシステムは,臨床現場での利用に供するポイントオブケアテスト(POCT)解析のために,非特異的吸着が抑制された光固定化基板を用いて,多種のアレルゲン抗原を固定化したバイオチップを作製し,分析すべき検体を該バイオチップに注入した後,反応検出過程を自動化したことにより,微量な検体サンプルで迅速且つ正確に分析測定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施形態に係るバイオチップの分析方法の一実施例を示すフローチャートである。
【図2】この発明の実施形態に係るバイオチップ自動分析システムの一実施例を示す説明図である。
【図3】このバイオチップの分析方法に使用するバイオチップを示し,(A)はバイオチップの外観イメージを示す斜視図,(B)はバイオチップの構成概要と該バイオチップと洗浄液ノズル,抗体ノズル,発光試薬ノズル,及び吸引ノズルをを示す断面図,(C)はバイオチップ外観上面を示す平面図である。
【図4】分析すべき検体ごとのCCDカメラによる観測スポットの一例を示し,検体ごとに発光スポットが異なっているので,検体の抗体を判別することができる観測写真である。
【図5】アレルゲン抗原として自己抗体をバイオチップ上に配してCCDカメラによる観測を行った結果の一例を示すCCDカメラによる観測写真であり,発光スポットに対応する自己抗体の名称を示している説明図である。
【図6】この発明による自動分析システムにより得られたデータとELISAによる解析結果との相関性の一例を示すグラフであり,(a)はSSA,(b)はUI−RNP68kDa,(c)はDNA,(d)はSSB,及び(e)はSmの各抗体である,
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下,図面を参照して,この発明によるバイオチップの分析方法及びその自動分析システムを説明する。図2には,この発明によるバイオチップ自動分析システム1の概念図が示されている。バイオチップ自動分析システム1は,バイオチップ2,プレフィルタ(図示せず),試薬供給システム又は試薬カセット4a,反応・計測一体型自動化装置,制御・解析・表示装置,及びノート型パソコン6から構成されている。
【0024】
バイオチップ自動分析システム1は,ノート型パソコン6で制御し,測定データを収集及び解析する。また,制御・解析・表示装置6は,本自動化装置の全体制御を行うと共に,画像データから各アレルゲンのスポット2dの位置を判定し,その光信号強度からそのアレルゲンに対応するIgE抗体濃度を推定し,アレルゲンのスクリーニング判定を行い,測定結果を表示する自動化装置である。また,バイオチップ自動分析システム1は,検体数に応じて容易に分析量を増減できるように該システムをユニット化する。バイオチップ2の分析量を増加する場合は,該ユニット単位で増やし,制御やデータ収集,解析等は,LAN経由で接続されたユニット毎に行う。また,LANに接続されたユニット全体のデータ収集や解析等の処理を行うことができる。
【0025】
−バイオチップ2について−
バイオチップ自動分析システム1に用いるバイオチップ2は,10種以上のアレルゲン抗原を互いに独立即ち隔置した多数個のスポット2dとして固定したものである。バイオチップ2は,アレルゲン抽出エキス又はリコンビナントアレルゲン抗体をスポット2dとして,固定化基板2a上に複数個並べて配置する。バイオチップ2の基板2aは,蛋白質固定用に表面処理されたガラス基板,シリコン基板,又はプラスチック基板であることが望ましい。これらの基板のなかでも,特に,光固定ポリマーコートされたメタル基板(本発明者が開発して先に特許出願した特願2008−080292号参照)上にアレルゲン抽出エキス又はリコンビナントアレルゲン抗体をスポット状に複数個配列して固定したバイオチップ2は,非特異吸着が少なく,且つ水切りが良いので,バイオチップの分析方法における自動化工程用に適している。
【0026】
−プレフィルタについて−
バイオチップ自動分析システム1に用いるプレフィルタ(図示せず)は,被験者から採取した血液検体から赤血球等を除去し,粘度等を調整する試薬を添加して,反応処理,測定条件に適するように調整するカセットフィルタである。
【0027】
−試薬供給システム又は試薬カセット4aについて−
試薬供給システム又は試薬カセット4aは,変性し易く保存し難い試薬を1回で使い切りにして利便性等を向上させた試薬を搭載したカセットである。例えば,西洋わさびペルオキシダーゼ(Horseradish peroxidase:HRP)を付加した抗IgE抗体の標識用試薬液瓶からの試薬液Aを吐出する抗体ノズル9bと,過酸化水素を含む試薬液瓶とルミノールを含む試薬液瓶からの試薬液Bを混合して吐出する試薬ノズル9cにより,独立してバイオチップ2に滴下することができる機構を持つ試薬供給ノズルシステム,又は1個のバイオチップ2に対応できるように抗IgE抗体の標識用試薬液アンプルと,上記試薬液Aと上記試薬液Bとを直前に混合してバイオチップ2に滴下することができる機構を持つアンプルとで構成される試薬カセットを用いてもよいものである。
【0028】
−反応・計測一体型自動化装置について−
反応・計測一体化自動化装置は,分析すべき検体を添加したバイオチップ2の反応,洗浄,標識抗体反応,洗浄,発色試薬反応を一貫して自動化により行う機能と,CCDカメラ10cを用いて計測用発色試薬を注入したバイオチップ2から発色信号画像を計測する機能を持つ,自動化装置である。バイオチップ2と試薬カセット4aをセットする機構,即ち,バイオチップ1を移動テーブル12にセットする設置ステーション8と,両者を反応台,即ち反応位置に移動する機構である駆動装置8aと,検体と抗原との一定の反応時間後に,バイオチップ2上の試薬を吸引廃液する吸引ノズル9dと,廃液後に遅滞なく洗浄液,抗体試薬又は発光試薬を滴下できる独立のノズル,即ち洗浄液ノズル9a,抗体ノズル9b,発光試薬ノズル9cを持つ反応装置,即ちノズルステーション9及び駆動装置9eと,発光試薬の滴下後に,CCDカメラ10cによるCCDカメラ観測系,即ちCCDカメラステーション10及びカメラ観測位置に移動できる機構と,検体を測定終了後にバイオチップ2を反応台に戻し,試薬を吸引し廃液した後に,駆動装置8aにより,バイオチップ2と試薬カセット4aを当初のセット状態に戻すことができる機構,を持つ自動化反応装置である。
【0029】
−制御・解析・表示装置について− 上記の自動化反応装置は,ノート型パソコン6に搭載されたプログラムにより制御し,CCDカメラ10cから取得した情報をパソコン6に読み込み,パソコン6に読み込まれた情報を画像データから自動的にアレルゲン抗体の存在量を解析し表示することができるものである。
【0030】
また,上記の反応装置において,化学発光計測時にはCCDカメラ10cにセットされたレンズと発光試薬を添加されたバイオチップ2とを光学的に遮光シールドできる機構,即ちカメラフード10a及び駆動装置10bを持つことを特徴としている。これにより装置の小型化及び軽量化を図ることができる。上記の反応装置において,洗浄用試薬は,別途備え付けのボトルからポンプにより,試薬供給チューブ9fを介してノズル9b,9cに供給される。更に,上記の反応装置において,バイオチップ2上の試薬は,吸引ポンプ4aにより吸引ノズル9dを介して,廃液処理トレイ8bに廃液される。また,上記の反応装置において,バイオチップ2上の洗浄液ノズル9a,吸引ノズル9d,及び抗体ノズル9b,発光試薬ノズル9cが同時にセットされることを特徴としている。
【0031】
図3の(A)には,バイオチップ2の外観イメージが示されている。図3の(B)には,バイオチップ2の構成概要と,バイオチップ2と各種のノズル9a〜9dの配置状態を示している。図3の(C)には,バイオチップ2の外観上の平面図が示されている。洗浄液ノズル9a,抗体ノズル9b,及び発光試薬ノズル9cは,同一長さに形成されており,吸引ノズル9dの長さは,上記の各ノズル9a〜9cよりも長く形成されている。吸引ノズル9dが長く形成されている理由は,バイオチップ2のエリア2bの底部に存在する洗浄液残渣,検体,抗体及び発光試薬の各液をすべて吸引するためである。そして,4種類のノズル9a〜9dは,ノズルステーション9において,駆動装置9eにより,同時にバイオチップ2上を上下動するように構成されており,ノズル9a〜9dの上下動を個々に行うよりも処理時間即ち測定時間を短縮できる実用的な構造に構成されている。
【0032】
次に,この発明によるバイオチップの分析方法に使用されるバイオチップ2の作製方法について説明する。
この発明において開発したアレルゲン抗原をバイオチップ2に固定する光固定化技術は,どのような生体分子も共有結合で安定に固定化できる,固定化物の有効濃度が高い,非特異的吸着を抑制し,高いシグナル対ノイズ(S/N)比を実現できることが特徴である。これらの特徴により,より微量なサンプル量で,より迅速に,より多くの種類を検出できることを可能にしている。
【0033】
この発明で使用されるバイオチップ2の作製は,以下のように行った。
(1)フェニルアジド基と分子量約500のポリエチレングリコール基を側鎖に持つメタクリル系ポリマーを光反応性マトリックスとして,終濃度1%となるように調製した。 (2)スピンコートによって,ポリスチレン又は金属蒸着ガラス製チップ上に,調製したポリマーをプレコートした。
(3)バイオチップ2を0.09MPaで15分間減圧乾燥した。
(4)ブラックライトによりバイオチップ2を7分間UV照射した。
(5)蛋白質,核酸,サイトカイン等の生体分子の抗原に対して,ビスアジドを10%になるように混合し,抗原サンプルを調製した。
(6)調製した抗原サンプルを,プレコートしたバイオチップ2上にDNAアレイヤーを用いてスポットした。
(7)バイオチップ2を常温常圧で7分間乾燥した後に,ブラックライトにより7分間UV照射した。
【0034】
次に,特に,図1〜図3を参照して,バイオチップ分析方法について説明する。図1には,この発明によるバイオチップ分析方法の一実施例を示すフローチャートが示されている。まず,20種類以上のアレルゲン抗原を互いに独立したスポット2dとして事前に固定したバイオチップ2を,基板2aに固定する(ステップS1)。バイオチップ2を固定した基板2aをバイオチップ自動分析システム1の設置ステーション8で装填してクランプ19等の固着手段で固定し,バイオチップ2の分析を開始する(ステップS2)。設置ステーション8では,温度コントローラ7によって所定の温度に制御されており,バイオチップ2も所定の温度に調整維持されている。次いで,分析すべき検体である血液血清をバイオチップ2上に手動ピペット等で吐出する(ステップS3)。バイオチップ2に検体を供給することによって,分析するべき検体と,いずれかのスポット2dの抗原とが反応することになる。
【0035】
次いで,多軸モータコントローラ5の指令でモータ等の駆動装置8a(第1駆動装置)を駆動し,駆動軸に設けたプーリ13やベルトコンベヤ14を介して移動テーブル12を作動し,バイオチップ2を設置ステーション8からノズルステーション9の位置へと移動させる。ここで,検体といずれかの抗原とが反応をする所定時間,例えば,8分以下の反応時間を要する(ステップS4)。次いで,いずれかのスポット2dの抗原と検体とが所定の反応時間が経過したか否かを判断する(ステップS5)。検体といずれかのスポット2dの抗原とが反応するのに十分な所定の時間が経過した後に,多軸モータコントローラ5の指令でモータ等の駆動装置9e(第2駆動装置)を駆動する。支持フレーム20には,各種のノズル9a〜9dとカメラフード10aが支持されており,支持フレーム20を上下動させるためのラック17が固定されている。駆動装置9eを駆動することによって,ピニオン16を回転に伴ってラック17と共に支持フレーム20が降下し,降下する吸引ノズル9dをバイオチップ2に近づける。次いで,制御コンピュータ3の指令でI/O制御11を通じて吸引ポンプ4bを作動し,抗原をスポット状に固定化したエリア2bに注入されている検体液を吸引ノズル9dによって吸引チューブ9gを通じて吸い出す(ステップS6)。バイオチップ2上に存在する検体液を吸い出した後に,洗浄液タンク21からの洗浄液を洗浄液ノズル9aを通じてエリア2bに吐出し,バイオチップ2を洗浄する(ステップS7)。再び,吸引ポンプ4bを作動してエリア2bに存在するバイオチップ2を洗浄した洗浄液を吸引ノズル9dによって吸い出す(ステップS8)。
【0036】
次に,多軸モータコントローラ5の指令で試薬カセット又は試薬供給システムから所定の二次抗体試薬を抗体ノズル9bから試薬供給チューブ9fを通じてバイオチップ2のエリア2bに注入し,ここで,抗原といずれかの検体とが反応した反応スポット2dと二次抗体試薬とが反応する所定時間,例えば,8分以下の反応時間を要する(ステップS9)。二次抗体試薬と反応スポット2dとが反応する十分な所定の時間が経過したか否かを判断し,その反応時間が経過したことで反応終了となる(ステップS10)。次いで,制御コンピュータ3の指令でI/O制御11を通じて吸引ポンプ4bを作動し,エリア2bに注入されている二次抗体試薬を吸引ノズル9dによって吸い出す(ステップS11)。次に,バイオチップ2上に存在する二次抗体試薬を吸い出した後に,洗浄液タンク21からの洗浄液を洗浄液ノズル9aを通じてエリア2bに吐出し,バイオチップ2を洗浄する。再び,吸引ポンプ4bを作動してエリア2bに存在するバイオチップ2を洗浄した洗浄液を吸引ノズル9dによって吸い出す(ステップS12)。そこで,多軸モータコントローラ5の指令で試薬カセット又は試薬供給システムから所定の発光試薬を試薬ノズル9cから試薬供給チューブ9fを通じてバイオチップ2のエリア2bに注入し(ステップS13),ここで,二次抗体試薬と反応した反応スポットに発光試薬が反応してバイオチップ2の反応スポットが発光することになり,バイオチップ2への試薬注入処理が終了する(ステップS14)。
【0037】
試薬注入処理が終了すると,多軸モータコントローラ5の指令で駆動装置9eを駆動する。駆動装置9eを駆動することによって,ピニオン16を回転してラック17と共に支持フレーム20を上昇させて各種のノズル9a〜9dを元の待機位置に上昇させる。次いで,多軸モータコントローラ5の指令で駆動装置8aを駆動し,駆動軸に設けたプーリ13,ベルトコンベヤ14を介して移動テーブル12を作動して,バイオチップ2をノズルステーション9からCCDカメラステーション10の位置へと移動させる(ステップS15)。再び,多軸モータコントローラ5の指令で駆動装置10b(第2駆動装置)を駆動させることによって,ピニオン16を回転してラック17と共に支持フレーム20が降下し,支持フレーム20に設けたカメラフ−ド10aをバイオチップ2のエリア2bを密閉状に覆うように降下させ,カメラフ−ド10aによって暗箱状態になっているバイオチップ2のスポット2dにおける発光状態をCCDカメラ10cで観測する。スポット2dの発光状態の観測の情報はパソコン6に取り込まれる(ステップS16)。パソコン6にスポット2dの発光状態のCCDカメラ10cによる観測情報を取り込んで観測が終了する(ステップS17)。
【0038】
バイオチップ2に対するCCDカメラ10cによる観測が終了すると,多軸モータコントローラ5の指令で駆動装置10b(第2駆動装置)を駆動し,ピニオン16を回転してラック17と共に支持フレーム20が上昇させ,カメラフ−ド10aをバイオチップ2のエリア2bから引き離すように元の位置に上昇させ,次いで,多軸モータコントローラ5の指令で駆動装置8aを駆動し,移動テーブル12を作動して,バイオチップ2をCCDカメラステーション10からノズルステーション9の位置へと移動させ,更に,多軸モータコントローラ5の指令で駆動装置10bを駆動し,支持フレーム20を下降させ,支持フレーム20に支持されている各種のノズル9a〜9dをバイオチップ2のエリア2bへ下降させる。次いで,制御コンピュータ3の指令でI/O制御11を通じて吸引ポンプ4bを作動し,エリア2bに注入されている発光試薬を吸引ノズル9dによって吸い出す(ステップS18)。そこで,駆動装置10bを駆動して支持フレーム20を上昇させ,各種のノズル9a〜9dを元の位置へ戻す。次いで,駆動装置8aを駆動して移動テーブル12を作動して,バイオチップ2をノズルステーション9から設置ステーション8の初期位置へと移動させ(ステップS19),最後に,クランプ19を解放してバイオチップ2を装着した基板2aを移動テーブル12から取り外し,バイオチップ2の分析が終了する(ステップS20)。
【0039】
図4には,CCDカメラ10cにより観測したバイオチップ2のスポット2dの発光状態の一例を示す。抗体ごとに発光状態が異なっていることが分るので,抗体種を判別することができる。
【0040】
図5にCCDカメラ10cにより観測したバイオチップ2のスポット2dの発光状態と,各々のスポット2dに対応する抗体を示している。目印とあるのは,標準の発光強度を示し,実際の観測スポットの強度とを比較して,どのスポット2dに抗原抗体の反応が生じているかをパソコン6で判断する。
【0041】
図6の(a)〜(e)には,5種類の抗体SSA,U1−RNP68kDa,dsDNA,SSB,及びSmについて,この発明によるバイオチップの分析方法を実施する分析システムにより解析した結果と,業界で標準機として用いられているELISAにより解析した結果の相関性を示す。
【0042】
表1には,この発明による実施例1,及び比較例1,2を示す。比較例1,2は,前記非特許文献1,2に記載されている諸元を示している。
【0043】
【表1】

【0044】
表2には,この発明によるバイオチップの自動分析システムにより得られた上記の抗体5種のデータと,広く普及しているELISAによる解析結果との相関性の一例を示す。これは,図6のデータをプロットし,相関係数を求めた。すべての抗体において高い相関係数が得られ,この発明によるバイオチップの自動分析システムの信頼性が高いことを示している。
【0045】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明によるバイオチップの分析方法及びその自動分析システムは,例えば,種類の異なる生体分子の抗原を複数個のスポットとして固定したバイオチップを用いて,分析すべき検体を高速で,安価に,取り扱い容易に,多項目にわたる分析を同時にでき,臨床現場等での利用に供するポイントオブケアテスト (Point Of Care Test:POCT)解析に適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 バイオチップ自動分析システム
2 バイオチップ
2b エリア
2c 擁壁
2d スポット
4a 試薬供給システムあるいは試薬カセット
4b 吸引ポンプ
6 パソコン
8 設置ステーション
8a 駆動装置(第1駆動装置)
9 ノズルステーション
9a 洗浄液ノズル
9b 抗体ノズル
9c 試薬ノズル
9d 吸引ノズル
9e,10b 駆動装置(第2駆動装置)
9f 試薬供給チューブ
9g 吸引チューブ
10 CCDカメラステーション
10a カメラフード
10c CCDカメラ
12 移動テーブル
20 支持フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子である異なった種類の抗原を互いに隔置して複数個のスポットにして固定したバイオチップと前記バイオチップを囲む擁壁とを固定した基板を設置ステーションで移動テーブル上に設置し,
前記バイオチップのエリアに分析すべき検体を供給し,
前記基板上の前記擁壁内の前記バイオチップを洗浄液ノズル,抗体ノズル,試薬ノズル及び吸引ノズルを備えたノズルステーションへ移動させると共に,前記検体中の抗体を前記スポットの前記抗原と反応させることによりいずれかの前記スポットの前記抗原に前記検体中の前記抗体を捕捉させ,
次いで,前記バイオチップの前記エリアに前記抗体ノズルから二次抗体試薬を注入して二次抗体を前記スポットに補足された前記抗体とを反応結合させ,
前記抗体と反応結合した二次抗原抗体の量を分析するために前記バイオチップに前記試薬ノズルから発光試薬を注入し,前記発光試薬を前記二次抗原抗体と反応させることにより化学発光を誘起し,
前記バイオチップを観測エリアへ移動させて前記スポットの発光強度をCCDカメラにより観測してそれぞれの前記抗原の前記スポットに対応する前記検体中の抗体量を分析することを特徴とするバイオチップの分析方法。
【請求項2】
前記バイオチップの前記エリアへの前記二次抗体試薬の注入に先立って,前記エリアから前記吸引ノズルで前記検体を吸引除去し,前記洗浄液ノズルから前記エリアに洗浄液を供給して前記バイオチップをそれぞれ洗浄し,次いで前記エリアから前記吸引ノズルで前記洗浄液を吸引除去し,また,前記発光試薬の注入に先立って,前記エリアから前記吸引ノズルで前記二次抗体試薬を吸引除去し,前記洗浄液ノズルから前記エリアに前記洗浄液を供給して前記バイオチップをそれぞれ洗浄し,次いで前記エリアから前記吸引ノズルで前記洗浄液を吸引除去することを特徴とする請求項1に記載のバイオチップの分析方法。
【請求項3】
前記バイオチップは,20種以上の異なったアレルゲン抗原を互いに隔置して複数個の前記スポットにして固定したチップ,8種以上の異なった自己免疫抗原を互いに隔置して複数個の前記スポットにして固定したチップ,及び/又は前記サイトカインや抗体蛋白質を互いに隔置して複数個の前記スポットにして固定したチップであることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオチップの分析方法。
【請求項4】
生体分子である異なった種類の抗原を互いに隔置して複数個のスポットにして固定したバイオチップと前記バイオチップのエリアを囲んだ擁壁とを固定した基板,
前記基板が設置ステーションで取付け取外し可能に設置された移動テーブル,
洗浄液を前記擁壁内の前記エリアに吐出する洗浄液ノズル,二次抗体試薬を前記擁壁内の前記エリアに注入する抗体ノズル,発光試薬を前記擁壁内の前記エリアに注入する試薬ノズル,及び前記擁壁内の前記エリアに供給された分析すべき検体,前記洗浄液,前記二次抗体試薬及び前記発光試薬を吸出する吸引ノズルを備えたノズルステーション,
前記バイオチップにおける前記スポットの発光状態を観測するため観測ステーションに設けられたCCDカメラ,
前記バイオチップを前記設置ステーション,前記ノズルステーション及び前記観測ステーションに順次に移動させるため前記移動テーブルを移動させる第1駆動装置,及び
前記洗浄液ノズル,前記抗体ノズル,前記試薬ノズル,前記吸引ノズル及び前記CCDカメラを前記バイオチップに対して上下移動するための第2駆動装置から構成されていることを特徴とするバイオチップ自動分析システム。
【請求項5】
アレルゲン抗原を搭載した前記バイオチップは,ウェルに囲まれたオープンチップに形成されていることを特徴とする請求項4に記載のバイオチップ自動分析システム。
【請求項6】
前記バイオチップを前記ノズルステーションにおける反応位置及び前記CCDカメラによる観測位置に移動させる前記第1駆動装置によって前記バイオチップ上の反応液を適宜攪拌することを特徴とする請求項4又は5に記載のバイオチップ自動分析システム。
【請求項7】
前記観測ステーションへ移動した前記バイオチップへと前記CCDカメラを覆うCCDカメラフードを下降させ,前記バイオチップを前記CCDカメラフード内に暗箱状に密閉収容することにより,前記バイオチップの前記スポットの発光状態を観測することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のバイオチップ自動分析システム。
【請求項8】
前記検体の数に応じて容易に分析量を増減できるようにユニット化し,制御,データ収集及び解析は,LAN経由で接続されたユニット毎に行うことを特徴とする請求項4〜7に記載のバイオチップ自動分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−13000(P2011−13000A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155249(P2009−155249)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(509185251)株式会社コンソナルバイオテクノロジーズ (3)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】