説明

バイオチップ及びそれを用いた試料溶液の機能性検査方法

血液などの酵素活性や免疫学的特性を網羅的に測定して病理学的診断を行う際のデータの取り扱い性や信頼性に優れ、化学処理が容易でしかも検出部の集積度を高められ微量の検体溶液でも酵素活性及びその傾向を取得できるバイオチップを提供する。
チップ基板11に導入される試料溶液中の酵素を検出するバイオチップであって、全体が渦巻き状やツリー状、放射状などの流路パターンで前記チップ基板上に形成された試料溶液流路12と、試料溶液流路12に所定順で複数配置され所定の酵素に対してそれぞれ異なる活性を有する酵素活性検知部13と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素に対する試料溶液の活性や反応挙動をパターン化して網羅的に検出することができるバイオチップ、及びバイオチップを用いた試料溶液の機能性検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単一の蛍光性酵素基質ペプチドを用い、溶液中の蛍光変化によって酵素活性を測定する技術が多くの酵素−蛍光性基質ペアに対して確立されている。
また、このような酵素活性の多種測定を同時並行して行うために、基板上にDNAやRNAを加水分解した反応物を多数固定してチップ化する手法が開発されている。
例えば多数のオリゴヌクレオチドをガラス等の基板上に固定化して、アレイとしたものはDNAチップと呼ばれ、病理、医療、創薬、食品、および環境等の分野で関連する遺伝子の解析に多用されている。
また、DNAチップと同様にプロテインチップ(サイファージェン社の登録商標)を用いて遺伝子産物であるタンパク質を網羅的に検索する技術の開発が進められている。生命現象がみられるところにDNAが存在するのと同様に、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)も存在する。従って、プロテアーゼを網羅的に検出することができれば、ペプチド性ホルモンの分泌、生成、分解の過程からなるホメオスターシスに関する生体情報が得られる等、個人のヘルスケアに必要な技術となる。プロテアーゼを網羅的に検出するには、タンパク質としての一分子の存在を科学的に定性定量する方法がある。
しかしながら、タンパク質の断片化はタンパク質機能の喪失をもたらすため、生体高分子の立体構造を保持したまま基板上に固定化することはその形態的な問題から容易ではなく、技術上のネックになっている。
【0003】
近年、病理学的診断などの医学的分野やプロテオーム解析等の研究的分野の発展に伴って、タンパク質のような断片化による欠点がなく化学的な取り扱いやデータのライブラリ化が容易な酵素を用いた方法が注目され、複数の酵素に対する活性を検出する必要性が生じており、酵素に対して活性を有する感応物質を用いてその変化に伴う吸収光や蛍光等を溶液中で測定する技術が種々研究されている。
例えば、特許文献1には、タンパク質分解酵素の一種であるカスパーゼにより特異的に切断される基質ペプチドの両端を蛍光基で修飾し、カスパーゼにより基質ペプチドが切断されて生じる蛍光基の蛍光波長や蛍光強度を測定してカスパーゼを含む溶液の酵素活性を検出するようにした蛍光プローブが記載されている。
また、このような酵素活性の測定方法としては、蛍光測定用マイクロプレートに形成されたセルに検体溶液を注入し、プレートリーダを用いてセルの蛍光を測定する方法がある。
【特許文献1】特開2000−316598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記従来の技術では以下のような課題を有していた。
(1)特許文献1に記載の技術では、特定のタンパク質分解酵素に対する試料溶液の酵素活性が検出されるだけなので、多種多様の酵素やタンパク質を含む血液などの複雑系に対応させて、その酵素活性や免疫学的特性などを網羅的に測定して、測定対象となる試料溶液の特徴を多くのライブラリデータなどの中で位置付けて病理学的診断などを行うには複雑な手順の繰り返しが必要で測定の信頼性や迅速性に欠けるという課題があった。
(2)また、酵素センサとして特定の酵素に対する特異性が予め知られている基質ペプチドを用いる必要があるので、この基質ペプチドを多数特定配置してこれをセンサとして複雑な免疫系等を解析するには、基礎データの膨大な蓄積を要するという課題があった。
(3)ミリメートルサイズのセルを有するマイクロプレートに検体溶液を注入して蛍光プローブの蛍光変化を測定する従来の方法では、多数の酵素活性を調べるためには大量の溶液を必要とし、かつハンドリングも煩雑となる。そのため、蛍光測定を行う際にはマイクロプレートの交換に時間を要し、測定効率を高めることができず測定に時間を要するという課題を有していた。
(4)さらにセンサ物質と酵素とが結合又は反応しあう際の時系列データなどの取得が困難で動的解析性に欠けるという課題があった。
(5)基板上でアレイ状に酵素基質を結合させることから、同時並行測定を行うためには基板表面を酵素を含む試料溶液に浸す必要があり、試料溶液をミリリットル単位で必要として試料溶液を多量に要するという課題があった。
(6)蛍光性酵素基質ペプチドを用い、溶液中の蛍光変化によって酵素活性を測定する技術では単一の酵素測定の為に溶液用の蛍光測定ウェルをひとつ必要とし、多数の蛍光測定装置を用いたとしても蛍光測定にはウェル100個当たり数分を必要とし、精密な定量性を確保するための各ウェル毎に時間変化測定を行う場合には数時間以上の時間を必要とし効率性に欠けるという課題があった。
(7)酵素活性検出バイオチップの研究レベルにおいては、トリメトキシアミノプロピルシラン等を介して酵素基質のペプチドをガラス等の基板上表面に結合し、この表面を酵素溶液に浸すことによって蛍光発光を検出している。しかしながら、基板上の蛍光性基質ペプチドの結合量が低いことから、酵素活性あるなしの定性的な結果を得ることはできても、定量性を要求される用途には使用し難いという課題があった。
(8)また、基板上への蛍光性基質ペプチドの結合量が安定せずかつ結合量の定量が困難であることから、複数の酵素基質ペプチド間の結果の比較を行うことができず、単一チップ上で同時に酵素活性を定量することは困難である。
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたもので、血液などの酵素活性や免疫学的特性を網羅的に測定して病理学的診断を行う際のデータの取り扱い性や信頼性、迅速性に優れ、化学処理が容易でしかも検出部の集積度を高められ微量の検体溶液でも酵素活性及びその傾向を取得できるバイオチップを提供することを目的とする。
また本発明は、基礎データの蓄積を要せず、しかも時系列データの解析性に優れ、少量の試料溶液を用いて試料溶液の酵素活性を短時間で測定できる操作性と効率性に優れた試料溶液の機能性検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載のバイオチップは、チップ基板に導入される試料溶液中の酵素を検出するバイオチップであって、全体が渦巻き状やツリー状、放射状などの流路パターンで前記チップ基板上に形成された試料溶液流路と、前記試料溶液流路に所定順で複数配置され所定の酵素に対してそれぞれ異なる活性を有する酵素活性検知部と、を有して構成される。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)少量の試料溶液を供給するだけで試料溶液の流れを試料溶液流路に形成させ、試料溶液中の酵素をそれぞれ異なる酵素活性を備えた酵素活性検知部と反応させることができる。こうして、この各酵素活性検知部における酵素反応に伴う状態変化を光学的または電気的に検出することにより、試料溶液に固有の活性挙動をチップ基板上に表示された二次元イメージとして網羅的に取得することができる。
(2)この二次元イメージのデータを同様に取得された既知のライブラリデータなどと比較参照することにより特定したりグループ化したりして、試料溶液の酵素活性や免疫特性を網羅的に把握して病理学的診断などを的確かつ迅速に行うことができる。
(3)渦巻き状やツリー状、放射状などの流路パターンで形成された試料溶液流路に、それぞれ異なる活性を備えた酵素活性検知部が配列されているので、取得された二次元イメージデータに基づく病理診断などをコンピュータによるデータのパターン認識処理を介せず目視により直接行うこともできる。また、試料溶液流路を特定の幾何学的配列にして形成することによりデータ取得時におけるスキャン操作の容易化や、データ処理の省略化なども図ることができる。
(4)チップ基板に蛍光基をDNAチップ用プロッタや印刷手段などを用いて結合させて試料溶液検知セルを構成することができ、検出部の集積度を飛躍的に高めることができ、極微量の試料溶液を用いてその酵素活性などのデータを効率的に得ることができる。
【0007】
ここで、試料溶液としては、病理診断などの対象となる血液や尿を含む体液や培養液などを適用できる。試料溶液は生体試料(血液等)をそのまま、あるいはフィルタや遠心分離等で血球成分等を除去したものを用いることができる。また、生体試料を基に酵素が活性を発現するような条件設定(pH調整、活性剤導入など)を行ったものを使用することもできる。pH調整剤としては、Tris−HCl,Hepes−KOH等の緩衝剤を反応バッファーとして添加することができる。また、酵素活性の発現に必要な塩類や活性保護剤を添加することもできる。
検知対象となる酵素としては、トリプシン,キモトリプシン,トロンビン,プラスミン,カリクレイン,ウロキナーゼ,エラスターゼ等のセリンプロテアーゼ、ペプシン,カテプシンD,レニン,キモシン等のアスパラギン酸プロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼA,B,コラゲナーゼ,サーモリシン等のメタロプロテアーゼ、カテプシンB,H,L,カルパイン等のシステインプロテアーゼ等の内部のペプチド結合を切断するエンドペプチダーゼ、血液凝固系プロテアーゼ、捕体系プロテアーゼ、ホルモンプロセシング酵素等が該当する。
検知対象となる酵素が不活性状態を持つ場合、トリプシン等の添加または内在阻害剤の除去により、それらを活性化させることもできる。
【0008】
チップ基板としては、酵素特異性を有しないガラス質や合成樹脂質などの基質のものが用いられる。また、ペプチド結合を形成するための縮合反応に用いられる溶媒(クロロホルム,ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、酢酸エチル等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド等の極性有機溶媒、ジオキサン,テトラヒドロフラン等のエーテル類、メタノール,エタノール等のアルコール類、ピリジン等)に不溶性の合成樹脂(ポリスチレン等)製やガラス製等で平板状や球面等の湾曲面状等に形成されたものが用いられる。ミモートプス社製ランタンシリーズ(登録商標)等の市販の固相有機合成用担体も用いることができる。
【0009】
試料溶液流路は、チップ基板の垂直断面が矩形状、U字状、溝状などに形成された部分である。試料溶液流路の流路パターンは、単数もしくは複数の上流側開口部から下流側開口部に向けて試料溶液が流れるように連続して若しくは分岐して、平面視で渦巻き状や、ツリー状、放射状、ジグザグ状などに形成することができる。これにより、試料液体流路の集積度を高め、バイオチップを小型化・コンパクト化することができる。
試料溶液流路は、チップ基板上に機械的あるいは化学的に刻んで、100μL以下程度の容積、流路幅および深さが1mm以下程度に形成することができる。これらの上限値より大きくなるにつれ、チップ基板上の試料溶液流路の集積度が低下し、チップ基板上に形成させる蛍光パターンの特定が困難になる傾向がみられるからである。
試料溶液流路の一端側には、単数若しくは複数の上流側開口部に連設して試料溶液を供給するための窪み状等の液供給部を形成することができる。窪み状等に形成された液供給部に試料溶液を一旦供給しておけば、後は放置しておくだけで、試料溶液を液供給部から試料液体流路に毛管現象等で順次移動させることができるからである。液供給部には供給される血液(試料溶液)中の赤血球や白血球、リンパ球などを除くためのメンブレンフィルムなどのフィルタを必要に応じて設け、これよって、試料溶液が流路壁に付着してその流れが妨げられないようにすることができる。
試料溶液流路の他端側には、単数若しくは複数の下流側開口部に連設して試料溶液を貯めるための液貯留部を形成することができる。この液貯留部は、チップ基板の中央または周縁部に形成された凹部状の部分である。これによって、試料溶液流路の他端側から液貯留部へ試料溶液が流出するため、試料溶液流路から液貯留部への試料溶液の流れを形成することができるので、試料溶液流路内で試料溶液が滞留することなく、試料溶液内の酵素の作用によって酵素活性検知部から切断されたオリゴペプチドを試料溶液内に確実に遊離させることができ、酵素活性の検出感度を高めることができる。
【0010】
酵素活性検知部は、特定の酵素に対して選択的特異的な反応挙動を有するペプチド鎖などの感応基質などが配置されて構成される。このような酵素特異的反応などに伴って感応基質の蛍光波長や蛍光強度などの光学的特性や電気的特性が変化し、これを検出することができる。
酵素活性検知部を試料溶液流路内に複数配し、この酵素活性検知部の光を受けることができる位置等にCCDやCMOS素子の集積体等からなるイメージセンサを配置した場合は、チップ基板上の二次元蛍光イメージを取得して、酵素活性検知部の時系列蛍光データ又は所定時間経過後の蛍光データを得ることができる。
試料溶液流路内に互いに隣接して配置される酵素活性検知部は、隔壁などを介してセル状に周囲と隔絶するように配置する必要はなく、チップ基板の試料溶液流路の底部に沿って平面状に連続配列するようにしてもよい。
なお、蛍光基が結合したペプチドからなるそれぞれ独立した酵素活性検知部の試料溶液流路内への配置は、例えば市販のDNAチップ用プロッタ等を用いたり、顕微鏡を見ながらシリンジを使ったりして配置することができる。また、渦巻き状などに形成された試料溶液流路内の所定領域毎にその表面に酵素特異性を付与させたポリスチレン樹脂などの球状粒子や平板等を充填し、それぞれ独立した酵素活性検知部を配列することも可能である。
【0011】
請求項2に記載のバイオチップは、請求項1に記載の発明において、前記酵素活性検知部が、(a)その基端側が前記チップ基板に結合されその他端側に結合されるペプチド鎖との化学結合状態によってその蛍光周波数や蛍光強度などの蛍光特性が変動される蛍光基と、(b)アミノ酸の組み合わせからなる特定アミノ酸配列のペプチド鎖により付与される酵素特異性の結合部を介して前記蛍光基に結合されるオリゴペプチドと、を備えて構成される。
この構成によって、請求項1に記載の作用に加えて以下の作用を有する。
(1)チップ基板に結合した蛍光基と、蛍光基に酵素によって切断されるペプチド結合で結合したオリゴペプチドとを備えているので、酵素と反応させてペプチド結合の切断が起こるとオリゴペプチドが遊離される。オリゴペプチドが遊離した蛍光基の蛍光波長又は所定の波長における蛍光強度はその遊離前とは異なるので、蛍光強度等の変化を指標として酵素活性を検出することができる。
(2)チップ基板上の試料溶液流路内に蛍光基が結合しているので、酵素を含む極微量の試料溶液を試料溶液流路中に満たしチップ基板の蛍光強度等を測定するだけで酵素活性を検出することができるとともに、酵素活性を検出できる酵素活性検知部の集積度を飛躍的に高めバイオチップを小型化できる。
(3)微小容量の試料溶液流路を満たすだけの試料溶液を用いるだけで酵素活性を検出することができるので、測定の際に多量の試料溶液を必要とせず、微量の試料溶液でも酵素活性の検出を行うことができる。
(4)試料溶液流路を流れる試料溶液中の酵素と酵素活性検知部の特異的な結合部位とが接触することで、この酵素に対応したオリゴペプチドと蛍光基との結合部が切断され、蛍光共鳴エネルギーなどの変化に伴って蛍光基の蛍光発光周波数をシフトさせたり、その蛍光強度を変動させたりすることができる。この変化を励起光照射下でフィルタなどを通してその輝点変化を観察したり、または蛍光スペクトルを計測してデータ化したりすることができる。
(5)特定酵素などに対する酵素特異性はオリゴペプチドを構成するそれぞれのアミノ酸配列により決まるので、このアミノ酸配列の可能な組み合わせを一定の順序でチップ基板上の試料溶液流路に二次元配列した場合は、同じ試料溶液であれば常に同一の蛍光パターン配列のイメージが得られる。従って、このイメージデータを既知成分のデータを含むライブリーデータと比較することにより、その酵素特異性の傾向などから病理学的特性を網羅的に判定することができる。
(6)アミノ酸配列を構成するアミノ酸としては、タンパク質に含まれる20種以上のものが設定可能である。アミノ酸配列を4種のアミノ酸で構成した場合は、20=160000種以上もの順列組み合わせからなるペプチド鎖の一部または全部を試料溶液流路の各酵素活性検知部に配列することができる。
(7)このようなアミノ酸配列の全てについて特定の酵素やタンパク質に対する酵素活性などの知見を予め必要としないので、コンピュータによる制御手段を適用してその規則配列を機械的に形成させることができ、一定のアミノ酸配列からなるペプチド鎖を順次試料溶液流路に配置させることができ、既知または未知の酵素に対する所定の酵素活性を備えて規格構成されたバイオチップを容易に製造して提供できる。
【0012】
ここで、オリゴペプチドは、アミノ酸数個からなるペプチド鎖で構成されたペプチドであって、分子量が大きく塊状などのタンパク質とは異なって略線状の形態を有している。このオリゴペプチドのアミノ酸配列によって、このオリゴペプチドが結合される蛍光基との結合部分における酵素特異性を特徴付けることができる。
【0013】
蛍光基としては、オリゴペプチドとのペプチド結合が酵素によって切断される前後において、蛍光波長や蛍光強度に変化が生じるものが用いられる。特に、ペプチド鎖との結合部とペプチド結合したときは特定波長領域において非蛍光物質であり、ペプチド結合が切断されてペプチド鎖が遊離したときに該特定波長領域において蛍光を発する蛍光基、例えば、4−メチルクマリル−7−アミド(MCA)、7−アミノ−4−カルボキシメチルクマリン(ACC)、p−ニトロアニリド、α−ナフチルアミド、α−ナフチルエステル等が好適に用いられる。
結合部に位置するアミノ酸残基は、酵素によってC末端側のペプチド結合が選択的に切断されるものが用いられる。これにより、蛍光基と結合していた結合部を遊離させて蛍光基の蛍光強度や蛍光周波数を変化させることができるからである。
また、オリゴペプチドを所定の長さ(例えば15Å程度)以上のペプチド鎖で形成した場合には、個々のアミノ酸に対する基質特異性が高くなく、むしろ比較的長いペプチド鎖の切断作用に必要とするエラスターゼ等の酵素の検出もできるようにすることができ、検出できる酵素の種類を増やすことができる。
【0014】
アミノ酸配列は、例えばA(アラニン)、B(プロリン)、C(リジン)、D(フェニルアラニン)の各アミノ酸を要素とするペプチド鎖で構成して、酵素活性検知部が試料溶液流路内にペプチド鎖の各要素の規則組み合わせ順に配列した場合は、基本的なアミノ酸について蓄積された基礎データに基づいて、検査データの解析や評価を容易かつ迅速に行うことができる。また、基礎的アミノ酸からなるオリゴペプチドをそのA〜Dの文字コード順などの降順や昇順に規則配列するように公知のペプチド鎖の合成手段を用いて機械的に構成することができ、バイオチップ生産の効率性にも優れている。
【0015】
請求項3に記載のバイオチップは、請求項1又は2に記載の発明において、前記蛍光基がアミノメチルクマリン系蛍光基であって、シランカップリング剤などで化学修飾された前記チップ基板上に結合されて構成される。
この構成によって、請求項1又は2に記載の作用に加えて以下の作用を有する。
(1)蛍光基をシランカップリング剤で化学修飾されたチップ基板に結合させるので、結合をより確実に強化することができ、しかも蛍光基のチップ基板に対する結合が試料溶液中の酵素などの作用で容易に切断されることがなく、バイオチップの安定性と耐久性を高めることができる。
(2)アミノメチルクマリン系蛍光基を用いるので、各オリゴペプチドとの結合状態によって異なるその優れた蛍光特性を有効に利用して、選択性に優れた酵素活性検知部を構成することができる。
【0016】
ここで、シランカップリング剤としては例えば、アミノプロピルトリメトキシシランなどが適用できる。
アミノメチルクマリン系蛍光基としては、4−メチルクマリル−7−アミド(MCA)、7−アミノ−4−カルボキシメチルクマリン(ACC)などが含まれる。
【0017】
請求項4記載のバイオチップは、請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の発明において、前記チップ基板が透光性であって、その背面側にCCDやCMOS素子などを配列したイメージセンサ基板が積層されて構成されている。
この構成によって、請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の作用に加えて以下の作用を有する。
(1)酸化珪素や酸化アルミニウムなどの透光性材からなるチップ基板の背面側にイメージセンサ基板が積層されているので、酵素活性検知部が所定のパターンで配列されたチップ基板背面側からの蛍光変化を直接的にしかも二次元画像として取得できる。
(2)酵素活性検知部をそのチップ基板上に高密度で集積させた状態で試料溶液中の酵素成分の解析を行えるので、コンパクトで信頼性に優れたバイオチップを提供できる。
【0018】
イメージセンサ基板としては、周知の半導体製作技術によりシリコン薄板上にフォトダイオードが二次元配置された感光部及びその信号出力部を備えて形成されるCCDやCMOS素子などを適用することができる。
【0019】
請求項5記載のバイオチップは、請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の発明において、前記チップ基板の前記試料溶液流路が形成された面側に保護層を備えて構成されている。
この構成によって、請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の作用に加えて以下の作用を有する。
(1)チップ基板上に溝状などに形成された試料溶液流路の開口部が酸化珪素膜などの透光性又は不透光性の保護層で被覆されているので、導入される試料溶液が試料溶液流路中で空気と接触することなく保護され、測定精度や信頼性、安定性をさらに高めることができる。
(2)透光性の保護層で試料溶液流路を被覆した場合には、その保護層側から励起光を照射したり、蛍光基の蛍光変化をその外部から測定したりすることができる上に、試料溶液を試料溶液流路に導入後のバイオチップのハンドリング性や保存性にも優れている。
【0020】
保護層は例えば、酸化珪素や酸化アルミニウムなどで形成されたセラミック被膜を試料溶液流路が形成されたチップ基板上に添着して構成させることができる。
また、蛍光基の励起波長を通過するフィルタを保護層として被覆することもできる。これにより、前記試料溶液流路が形成された面側から光を照射し、酵素活性検知部の蛍光を検出することができる位置等にCCD等のイメージセンサを配置することで酵素活性を検出することができる。
【0021】
請求項6に記載の試料溶液の機能性検査方法は、請求項1乃至5の内いずれか1項に記載のバイオチップの前記試料溶液流路の液貯留部に試料溶液を所定条件で供給する試料溶液供給工程と、前記試料溶液流路上に配列された前記酵素活性検知部毎の状態変化により形成される前記チップ基板上の二次元イメージをその特定波長域を除去するフィルタで処理してその時系列データ又は所定時間後の結果データを取得するデータ取得工程と、前記時系列データ又は結果データを予め同一測定条件で蓄積されたライブラリデータと比較してパターン認識手段や統計的データ処理手段により各ライブラリデータとのパターン適合度を判定するデータ判定工程と、を有して構成されている。
この構成によって、以下の作用を有する。
(1)全体が渦巻き状やツリー状、放射状などに形成された試料溶液流路に試料溶液を供給する試料溶液供給工程を有するので、試料溶液流路の酵素活性検知部と試料溶液中の酵素とを接触させ、この酵素に対して特異的に作用して切断するオリゴペプチドと蛍光基との結合を切断させることができる。
(2)次にこの酵素活性検知部毎の酵素切断による蛍光基の蛍光特性などの変化により二次元イメージを取得するデータ取得工程を有するので、複雑な計算処理を行うことなく多種類のオリゴペプチドに対応する蛍光挙動を二次元イメージとして網羅的に取り込むことができる。
(3)このように取得される時系列データ又は結果データをライブラリデータと比較して各ライブラリデータとのパターン適合度を算出するデータ判定工程を有するので、基礎データの蓄積を要することなく、少量の試料溶液を用いて試料溶液の酵素活性を短時間で測定でき、操作性と効率性に優れている。
(4)血液中などのプロテアーゼは混合物として生体内外に存在するので、混合物のまま酵素活性のみを網羅的に検出して、これをペプチドライブラリのデータと比較、参照して、ペプチド性ホルモンの分泌、生成、分解の過程からなるホメオスターシスなどに関する生体情報が得られ、個人のヘルスケアに資することができる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1記載の発明によれば、以下のような効果が得られる。
(1)少量の試料溶液を供給するだけで試料溶液の流れを試料溶液流路に形成させ、試料溶液中の酵素をそれぞれ異なる酵素活性を備えた酵素活性検知部と反応させることができる。こうして、この各酵素活性検知部における酵素反応に伴う状態変化を光学的または電気的に検出することにより、試料溶液に固有の活性挙動をチップ基板上に表示された二次元イメージとして網羅的に取得することができる。
(2)この二次元イメージのデータを同様に取得された既知のライブラリデータなどと比較参照することにより特定したりグループ化したりして、試料溶液の酵素活性や免疫特性を網羅的に把握して病理学的診断などを的確かつ迅速に行うことができる。
(3)渦巻き状やツリー状、放射状などの流路パターンで形成された試料溶液流路に、それぞれ異なる活性を備えた酵素活性検知部が配置されているので、取得された二次元イメージデータに基づく病理診断などをコンピュータによるデータのパターン認識処理を介せず目視により直接行うこともできる。また、試料溶液流路を特定の幾何学的配列にして形成することによりデータ取得時におけるスキャン操作の容易化や、データ処理の省略化なども図ることができる。
(4)チップ基板に蛍光基をDNAチップ用プロッタや印刷手段などを用いて結合させて試料溶液検知セルを構成することができ、検出部の集積度を飛躍的に高めることができ、極微量の試料溶液を用いてその酵素活性などのデータを効率的に得ることができる。
【0023】
請求項2記載の発明によれば、請求項1の効果に加えて、以下の効果を有する。
(1)チップ基板に結合した蛍光基と、蛍光基に酵素によって切断されるペプチド結合で結合したオリゴペプチドとを備えているので、酵素と反応させてペプチド結合の切断が起こるとオリゴペプチドが遊離される。オリゴペプチドが遊離した蛍光基の蛍光波長又は所定の波長における蛍光強度はその遊離前とは異なるので、蛍光強度等の変化を指標として酵素活性を検出することができる。
(2)チップ基板上の試料溶液流路内に蛍光基が結合しているので、酵素を含む極微量の試料溶液を試料溶液流路中に満たしチップ基板の蛍光強度等を測定するだけで酵素活性を検出することができ、酵素活性を検出できる酵素活性検知部の集積度を飛躍的に高めることができる。
(3)試料溶液流路を満たすだけの試料溶液を用いるだけで酵素活性を検出することができるので、測定の際に多量の試料溶液を必要とせず、微量の試料溶液でも酵素活性の検出を行うことができる。
(4)試料溶液流路を流れる試料溶液中の酵素と酵素活性検知部の特異的な結合部位とが接触することで、この酵素に対応したオリゴペプチドと蛍光基との結合部が切断され、蛍光共鳴エネルギーなどの変化に伴って蛍光基の蛍光発光周波数をシフトさせたり、その蛍光強度を変動させたりすることができる。この変化を励起光照射下でフィルタなどを通してその輝点変化を観察したり、または蛍光スペクトルを計測してデータ化したりすることができる。
(5)特定酵素などに対する酵素特異性はオリゴペプチドを構成するそれぞれのアミノ酸配列により決まるので、このアミノ酸配列の可能な組み合わせを一定の順序でチップ基板上の試料溶液流路に二次元配列しておくことにより、同じ試料溶液であれば常に同一の蛍光パターン配列のイメージが得られる。従って、このイメージデータを既知成分のデータを含むライブリーデータと比較することにより、その酵素特異性の傾向などから病理学的特性を網羅的に判定することができる。
(6)アミノ酸配列を構成するアミノ酸としては、タンパク質に含まれる20種以上のものが設定可能である。アミノ酸配列を4種のアミノ酸で構成した場合は、20=160000種以上もの順列組み合わせからなるペプチド鎖の一部または全部を試料溶液流路の各酵素活性検知部に配列することができる。
(7)このようなアミノ酸配列の全てについて特定の酵素やタンパク質に対する酵素活性などの知見を予め必要としないので、コンピュータによる制御手段を適用してその規則配列を機械的に形成させることができ、一定のアミノ酸配列からなるペプチド鎖を順次試料溶液流路に配置させることができ、既知または未知の酵素に対する所定の酵素活性を備えて規格構成されたバイオチップを容易に製造して提供できる。
【0024】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて以下の効果を有する。
(1)蛍光基をシランカップリング剤で化学修飾されたチップ基板に結合させるので、結合をより確実に強化することができ、しかも蛍光基のチップ基板に対する結合が試料溶液中の酵素などの作用で容易に切断されることがなく、バイオチップの安定性と耐久性を高めることができる。
(2)アミノメチルクマリン系蛍光基を用いるので、各オリゴペプチドとの結合状態によって異なるその優れた蛍光特性を有効に利用して、選択性に優れた酵素活性検知部を構成することができる。
【0025】
請求項4記載の発明によれば、請求項1乃至3の内いずれか1の効果に加えて以下の効果を有する。
(1)酸化珪素や酸化アルミニウムなどの透光性材からなるチップ基板の背面側にイメージセンサ基板が積層されているので、酵素活性検知部が所定のパターンで配列されたチップ基板背面側からの蛍光変化を直接的にしかも二次元画像として取得できる。
(2)酵素活性検知部をそのチップ基板上に高密度で集積させた状態で試料溶液中の酵素成分の解析を行えるので、コンパクトで信頼性に優れたバイオチップを提供できる。
【0026】
請求項5記載の発明によれば、請求項1乃至4の内いずれか1に記載の効果に加えて、以下の効果を有する。
(1)チップ基板上に溝状などに形成された試料溶液流路の開口部が酸化珪素膜などの透光性又は不透光性の保護層で被覆されているので、導入される試料溶液が試料溶液流路中で空気と接触することなく保護され、測定精度や信頼性、安定性をさらに高めることができる。
(2)透光性の保護層で試料溶液流路を被覆した場合には、その保護層側から励起光を照射したり、蛍光基の蛍光変化をその外部から測定したりすることができる上に、試料溶液を試料溶液流路に導入後のバイオチップのハンドリング性や保存性にも優れている。
【0027】
請求項6記載の発明によれば、以下の効果を有する。
(1)全体が渦巻き状やツリー状、放射状などに形成された試料溶液流路に試料溶液を供給する試料溶液供給工程を有するので、試料溶液流路の酵素活性検知部と試料溶液中の酵素とを接触させ、この酵素に対して特異的に作用して切断するオリゴペプチドと蛍光基との結合を切断させることができる。
(2)次にこの酵素活性検知部毎の酵素切断による蛍光基の蛍光特性などの変化により二次元イメージを取得するデータ取得工程を有するので、複雑な計算処理を行うことなく多種類のオリゴペプチドに対応する蛍光挙動を二次元イメージとして網羅的に取り込むことができる。
(3)このように取得される時系列データ又は結果データをライブラリデータと比較して各ライブラリデータとのパターン適合度を算出するデータ判定工程を有するので、基礎データの蓄積を要することなく、少量の試料溶液を用いて試料溶液の酵素活性を短時間で測定でき、操作性と効率性に優れている。
(4)血液中などのプロテアーゼは混合物として生体内外に存在するので、混合物のまま酵素活性のみを網羅的に検出して、これをペプチドライブラリのデータと比較、参照して、ペプチド性ホルモンの分泌、生成、分解の過程からなるホメオスターシスなどに関する生体情報が得られ、個人のヘルスケアに資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】酵素活性検知部の酵素活性検出原理を示す模式図
【図2】異なる配置構成を有した酵素活性検知部の模式図
【図3】実施の形態1におけるバイオチップの模式斜視図
【図4】試料溶液流路に配列された酵素活性検知部の状態を示す模式図
【図5】実施の形態1におけるバイオチップに導入された試料溶液の酵素活性をイメージセンサを用いて測定する場合の構成図
【図6】実施の形態2におけるバイオチップの模式図
【図7】実施の形態2におけるバイオチップの変形例を示す模式図
【図8】アミノ酸の組み合わせごとに蛍光強度をプロットしたグラフ
【符号の説明】
【0029】
1 チップ基板
2 蛍光基
3 オリゴペプチド
4 酵素
5 蛍光波長が変化した蛍光基
6 オリゴペプチド
7 第1の蛍光基
7a 蛍光が観察されるようになった第1の蛍光基
8 第2のオリゴペプチド
9 第2の蛍光基
10 バイオチップ
11 チップ基板
12 試料溶液流路
13 酵素活性検知部
14 液供給部
15 液貯留部
20 イメージセンサ
21 レンズ
22,23 フィルタ
24 イメージセンサ
30 バイオチップ
31 チップ基板
32 試料溶液流路
32a 酵素活性検知部
33 上部フィルタ
34 イメージセンサ基板
35 下部フィルタ
36 酸化珪素層
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るバイオチップにおける酵素活性検知部の酵素活性検出原理を示す模式図である。
図中、1は酸化珪素やガラス等で平板状に機械的あるいは化学的に製溝された部分(試料溶液流路)を備えたチップ基板、2はチップ基板1にペプチド結合等で直接結合した4−メチルクマリル−7−アミド(MCA)等の蛍光基、3は蛍光基2とペプチド結合で結合されたアミノ酸,ペプチド等のオリゴペプチド、4は蛍光基2とオリゴペプチド3の結合を選択的に切断するセリンプロテアーゼ等の基質特異性を有する酵素、5は酵素4によって選択的にオリゴペプチド3が遊離されたことにより蛍光波長等が変化した7−アミノ−メチルクマリン(AMC)等の蛍光基である。以上のように構成される酵素活性検出部は、公知のペプチド合成の手法を用いて合成され、チップ基板1上に結合される。
【0031】
以下、図1を参照して酵素活性の検出原理について説明する。
図1(a)に示す4−メチルクマリル−7−アミド(MCA)等の蛍光基2は特定波長領域において非蛍光物質であり蛍光を示さない。このチップ基板1に酵素4を含む試料溶液を接触させ反応させると、基質特異性を有する酵素4は、蛍光基2とオリゴペプチド3との間のペプチド結合を切断する(図1(b)参照)。
オリゴペプチド3が遊離した蛍光基5は7−アミノ−メチルクマリン(AMC)等の該特定波長領域における蛍光物質となり、蛍光波長又は所定の波長における蛍光強度は、オリゴペプチド3とペプチド結合した蛍光基2とは異なるので、蛍光強度等の変化を指標として酵素活性を検出することができる(図1(c)参照)。
【0032】
なお、ここでは蛍光基2がチップ基板1に直接結合された場合について説明したが、蛍光基2をアミノ酸,ペプチド等を介してチップ基板1に結合させる場合もある。これにより、チップ基板1と酵素作用点との距離を適正化することができ、チップ基板1の影響を受けずに酵素活性をより正確に検出することができるという作用が得られる。なお、この場合、蛍光基2とチップ基板1との間のアミノ酸,ペプチド等は酵素特異性を有しない分子又は化合物で合成する。酵素が作用して蛍光基2がチップ基板1から遊離するのを防止するためである。
【0033】
図2は、図1とは異なる配置構成を有した酵素活性検知部の模式図である。
図2において、6はチップ基板1にその一端が固定化された第1のオリゴペプチド、7はオリゴペプチド6の側鎖に導入された第1の蛍光基、8はペプチド結合で第1のオリゴペプチド6と結合した第2のオリゴペプチド、9は第2のオリゴペプチドに結合し第1の蛍光基7と蛍光共鳴エネルギー移動を起こす第2の蛍光基、7aは蛍光共鳴エネルギー移動によって本来観察されるはずの第2の蛍光基9の蛍光が減衰し、代わりに蛍光が観察されるようになった第1の蛍光基である。
ここで、蛍光共鳴エネルギー移動とは、ある2つの蛍光化合物が距離的に近い位置に存在するとき、その2つの蛍光化合物のうちの一方(ドナーという)の蛍光スペクトルと他方(アクセプターという)の励起スペクトルとが重なりをもつ場合、ドナーの励起波長のエネルギーを当てると本来観察されるはずのドナーの蛍光が減衰し、代わりにアクセプターの蛍光が観察される現象をいう。
この酵素活性検知部では、酵素4によって第2のオリゴペプチドが遊離されて2つの蛍光化合物が距離的に遠い位置に存在することになったため、本来観察されるはずの第2の蛍光基9の蛍光が減衰し、代わりに第1の蛍光基7の蛍光が観察され(7a)、酵素活性を検出することができる。
【0034】
ここで、第1の蛍光基7、第2の蛍光基9としては、蛍光共鳴エネルギー移動が起こるドナーとアクセプターの組合せを用いることができる。例えば、第1の蛍光基7(又は第2の蛍光基9)の蛍光波長と重なる波長域に吸収帯をもつ原子団である第2の蛍光基9(又は第1の蛍光基7)が用いられる。具体的には、(7−メトキシクマリン−4−イル)アセチル(MOAc),アントラニロイルベンジル(ABz),N−メチルアントラニル酸(Nma)等とジニトロフェニル(Dnp)の組合せ、DabsylとEDANS(5−(2'-アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸)の組合せ、トリプトファン(Trp)と5−ジメチルアミノ−1−ナフタレンスルホン酸(Dns)の組合せ、カルボキシジクロロフルオレセイン(CDCF)とカルボキシメチルローダミン(CTMR)の組合せ、カルボキシジクロロフルオレセイン(CDCF)とカルボキシX−ローダミン(CXR)の組合せ、ルシファーイエロー(LY)とカルボキシメチルローダミン(CTMR)の組合せ等が用いられる。
これらのドナーやアクセプターのいずれが第1の蛍光基7になっても第2の蛍光基9になっても構わない。第1の蛍光基7にスペクトル変化が生じれば酵素活性の測定指標にすることができるからである。
なお、第1のオリゴペプチド6の側鎖に導入された第1の蛍光基7と第2のオリゴペプチド8に各々結合した第1の蛍光基7と第2の蛍光基9の結合部間の長さは、100Å以下であることが望ましい。この距離が長くなるにつれ蛍光共鳴エネルギー移動が小さくなり蛍光強度等の変化が小さくなる傾向がみられ、100Åより長くなるとこの傾向が著しく蛍光強度の変化が著しく小さくなり感度が低下するからである。
このように酵素活性検知部を構成することにより、個々のアミノ酸に対する基質特異性が高くなく、むしろ比較的長いペプチド鎖を切断作用に必要とするエラスターゼ等の酵素の検出を容易に行うことができ検出感度を高めることができる。
【0035】
(実施の形態1)
図3は以上の酵素活性検出原理が適用される本発明の実施の形態1におけるバイオチップの模式斜視図であり、図4は試料溶液流路に配列された酵素活性検知部の状態を示す模式図である。
図3において、10は本発明の実施の形態1におけるバイオチップ、11はバイオチップ10を構成して全体が略矩形板状に形成されたチップ基板、12はその全体が渦巻き状となってチップ基板11上に溝状に形成された試料溶液流路、13は試料溶液流路12内にセル状、スポット状に形成されそれぞれ所定の酵素活性を有して所定順で配置された酵素活性検知部、14は試料溶液流路12の外端側に設けられ試料溶液が供給される略矩形状の液供給部、15は試料溶液流路12の排出側となる渦巻き中心側に略円形状に設けられた液貯留部である。
バイオチップ10は、その全体が略矩形板状(一辺の長さ約20〜30mm、厚み約2mm)のガラス質やポリスチレン樹脂質などからなるチップ基板11に、流路幅約0.5mm、深さ約0.1mmの流路断面と有効流路長さ約90mmを有して互いに流路間隔0.5mmで渦巻き状に形成された試料溶液流路12を備えている。なお、液供給部14は一辺が約2.5mmの略正方形状に形成され、このような試料溶液流路12の有効容積は約4.5μLである。
このチップ基板11上の液供給部14に採取された血液サンプルなどの試料溶液が供給されて試料溶液流路12を毛管現象等によって順次移動して酵素活性検知部13に接触して試料溶液中に含まれる各酵素の活性や抗体反応性などの特性が検出されるようにしている。
【0036】
酵素活性検知部13は、チップ基板11上に渦巻き状に形成された試料溶液流路12の底部にセル状、窪み状又は平坦なスポット状サイトとして形成され、それぞれ異なる酵素活性を備えたものが互いに所定間隔をおいて順次配列されるように構成されている。
酵素活性検知部13は、図3及び図4に示すように略溝状に形成された試料溶液流路12の底面にその一端側が結合される蛍光基Kと、蛍光基Kの他端側に結合され例えばA〜Dの4サイトに配置されるアミノ酸配列からなるオリゴペプチドとで構成される。
蛍光基Kは例えばアミノメチルクマリン系蛍光基であって、各オリゴペプチドとの結合状態によって異なる蛍光特性を有する。なお、必要に応じてチップ基板11をシランカップリング剤などで化学修飾処理して、蛍光基Kがチップ基板11の試料溶液流路12内に結合されるようにして、チップ基板11との結合の安定性と耐久性を高めることができる。
【0037】
蛍光基Kに接合するオリゴペプチドのA〜Dの各サイトには例えば、ala:アラニン、pro:プロリン、lys:リジン、phe:フェニルアラニンの内のいずれかの組み合わせからなるペプチド鎖が設定されるようにしている。
オリゴペプチドは例えば、(1)ala−pro−lys−phe、(2)pro−lys−phe−ala、(3)lys−phe−ala−pro、(4)phe−ala−pro−lysのようなアミノ酸配列に設定され、このような各アミノ酸配列に対応して、オリゴペプチドが結合される蛍光基の結合部の酵素特異性が規定されるようにしている。
【0038】
各アミノ酸配列は、ペプチドをC末端から伸長していく固相法等の通常のペプチド合成法により合成することができる。また、目的とするアミノ酸配列のC末端側からN末端側へ逐次伸長していく逐次伸長法や、複数の短いペプチド断片を合成しペプチド断片間のカップリングにより伸長させる断片縮合法等を用いることができる。また、公知のペプチド合成機を用いて9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)アミノ酸やt−ブチルオキシカルボニル(Boc)アミノ酸等を導入して合成することもできる。さらに、プロテアーゼを用いてペプチド結合を生成したり、遺伝子工学的手法を用いて合成することもできる。
さらに、ペプチド結合を形成するための縮合方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、DCC−アディティブ法、活性エステル法、カルボニルジイミダゾール法、酸化還元法、ウッドワード試薬Kを用いる方法等が用いられる。また、縮合反応を行う前に、公知の手段によりアミノ酸やペプチド中の反応に関与しないカルボキシル基、アミノ基等を保護したり、また反応に関与するカルボキシル基,アミノ基を活性化させたりしておくこともできる。
【0039】
こうして、図4に示すようにアミノ酸配列の可能な組合せをそれぞれ有したS1〜Snの酵素活性検知部13を試料溶液流路12の底部に、例えば以下のように配列する。
S1:蛍光基−オリゴペプチド(1)(ala−pro−lys−phe)
S2:蛍光基−オリゴペプチド(2)(pro−lys−phe−ala)
S3:蛍光基−オリゴペプチド(3)(lys−phe−ala−pro)
S4:蛍光基−オリゴペプチド(4)(phe−ala−pro−lys)


Sn:蛍光基−オリゴペプチド(n)
このようにS1〜Snの酵素活性検知部が配列された試料溶液流路12に試料溶液を流して酵素活性検知部13と接触させることにより、試料溶液中の酵素やタンパク質がそれぞれ異なる酵素特異性が付与されたオリゴペプチドと蛍光基間の結合に作用してこの結合を切断する。この切断に伴う蛍光基の蛍光特性変化を光学的に検出することにより、渦巻き状に形成された試料溶液流路12を、試料溶液に固有の蛍光パターンとして表すことができる。
なお、S1〜Snにおけるオリゴペプチドのアミノ酸配列は、各アミノ酸配列についてその酵素活性などの特性や挙動が既知である必要はなく、バイオチップ10として特定のユニークな配列のものであればよい。このため、S1〜Snには、例えば周期的パターンを含むような規則配列やランダム配列のものなどが含まれる。
【0040】
試料溶液流路12は、チップ基板11が酸化珪素やガラス質である場合にはエッチング加工などにより形成される。また、チップ基板11が合成樹脂などである場合にはエンボス加工、レーザビーム加工、マシンニングセンタを用いた研削加工などにより形成されるが、所定形状の金型を用いて合成樹脂を出発原料として射出成形やプレス成形などにより製造することもできる。
溝状に形成される試料溶液流路12の深さは約10〜200μm、幅は10〜1000μmの範囲とすることが好ましい。これは流路の深さや幅がそれぞれの下限値より小さくなると、試料溶液の粘性で流路が閉塞されたり、測定感度が不足するような傾向が現れ、逆に深さや幅がそれぞれの上限値より大きくなると、チップ基板上の酵素活性検知部の集積度が不足してチップ基板上に形成させる蛍光パターンの特定が困難になる傾向が生じるからである。
【0041】
液供給部14はチップ基板11の辺側に配置されて不織布フィルタやメンブレンフィルムなどの血液中の赤血球などを除去するフィルタを設けることもできる。これによって、供給される試料溶液中の赤血球や白血球などを濾過して試料溶液の粘性等を調整することができるので、試料溶液流路12の壁部に付着して流路が閉塞されるのを効果的に防止できる。
【0042】
続いて、以上のように構成されたバイオチップ10に適用される試料溶液の機能性検査方法について、図4に示す酵素活性検知部の特定酵素に対する動作模式図を参照しながら説明する。
まず、それぞれ固有の酵素活性を有する酵素活性検知部13をチップ基板11上に渦巻き状に形成された試料溶液流路12の各サイトS1〜Snにそれぞれ所定パターンで配置したバイオチップ10を用意して、試料溶液供給工程において、このバイオチップ10の液供給部14に血液などの試料溶液を所定流量や温度の条件で供給する。これによって、液供給部14に供給された血液成分等が試料溶液流路12に供給されて、各S1〜Snのサイトの酵素活性検知部13に毛管現象等を利用して順次接触させることができる。
こうして、図示するように血液成分中の特定の酵素に対して感応性を有したオリゴペプチドと蛍光基との結合部分が切断され、蛍光基の蛍光特性が切断前の状態(ここではαとする)から切断後の状態(ここではβとする)に変化する。この結果、試料溶液流路12に沿うS1〜Snのサイトにおける蛍光基の状態は、その初期状態X(α、α、α、α、α・・・・・・)から、例えば検知状態Y(α、β、α、α、β・・・・・・・)のように表される。
【0043】
次のデータ取得工程においては、試料溶液流路12上の酵素活性検知部13毎における蛍光変化により形成されるチップ基板11上の二次元蛍光イメージをイメージセンサなどで取得して、その特定波長域を除去するフィルタで処理することにより、その時系列データ又は所定時間後の結果データを得ることができる。
【0044】
データ判定工程においては、前記時系列データ又は所定時間後の結果データを、予め同一測定条件で各種のサンプルについて測定蓄積されたライブラリデータと比較してパターン認識手段や統計的判定手段などにより各ライブラリデータとのパターン適合度を判定して、各種の病理学的知見などを迅速かつ的確に得ることができる。
【0045】
以上説明したように、バイオチップ10を用いる試料溶液の機能性検査方法では、血液や尿等を含む試料溶液を検査対象とし、酵素特異性を付与するオリゴペプチドでアレイ化された試料溶液流路に導いて反応させる。この酵素反応の結果を蛍光強度を検出するイメージセンサで取得して、この取得されたデータをライブラリデータと比較して、試料溶液に含まれるプロテアーゼ混合物の活性を網羅的に検出することができる。また、試料溶液流路12が渦巻状に形成されているので、毛管現象等で試料溶液流路12内を移動する試料溶液の速度を略一定にでき、取得した時系列データの再現性に優れ、さらに分岐せずひと続きなので、試料液体流路12における液供給部14からの道のりの長さと蛍光強度等とを1対1の関係で表すことができ、ライブラリデータとの比較を容易に行うことができる。
このようにプロテアーゼを網羅的に検出して、ペプチド性ホルモンの分泌、生成、分解過程からなるホメオスターシスなどに関する生体情報が得られるので、これを個人のヘルスケアに効率的に活用することができる。
こうして、バイオチップを用いた試料溶液の機能性検査方法を、病理学的診断などの医学的分野やプロテオーム解析等の研究的分野に適用して、複数の酵素の活性を高速で、かつ少量のサンプルで測定することができる。
【0046】
次に、イメージセンサを用いてバイオチップに導入された試料溶液の酵素活性を測定する具体的な構成について説明する。
図5は実施の形態1におけるバイオチップに導入された試料溶液の酵素活性をイメージセンサを用いて測定する場合の構成図である。
図5において、20はバイオチップ10の上部に配置されレンズ21を介してチップ基板11上の酵素活性検知部13における二次元データを取得するためのイメージセンサである。このように、イメージセンサ20をチップ基板11から離して置く形態のものでは、酵素活性検知部13の蛍光基の状態変化がレンズ21などの光学系を介してイメージセンサ20上に結像して読み取られる。
【0047】
以上のように実施の形態1におけるバイオチップは構成されているので、チップ基板11の試料溶液流路12に酵素を含む極微量の試料溶液を導入させチップ基板11の蛍光強度等を測定するだけで酵素活性を検出することができる。さらに、個別の試料ごとに基板に溶液を注入するセル等を形成する必要がなく酵素活性検知部13及び試料溶液流路12を微小化できるので、チップ基板11において酵素の検出部の集積度を飛躍的に高めることができる。
また、酵素を含む極微量の試料溶液を使用するだけで酵素活性を検出することができるので、測定の際に多量の試料溶液を必要とせず、微量の試料溶液でも酵素活性の検出を行うことができる。
【0048】
(実施の形態2)
図6はチップ基板をイメージセンサ上に直接配置してバイオチップに導入される試料溶液の酵素活性を測定する場合の本発明の実施の形態2におけるバイオチップの模式図である。
図6において、22は酵素活性検知部13が試料溶液流路12内に配列されたチップ基板11の表面に配置された透光性を有する保護層としてのフィルタであり、酵素活性検知部13の励起波長は通過させるが蛍光波長は遮断するような選択性を有している。23はチップ基板11の背面に配置されたフィルタであり、酵素活性検知部13の蛍光波長は通過させるが励起波長は遮断するような選択性を有している。24はチップ基板11の裏面側にフィルタ23を介して配設されたCCD等のイメージセンサである。
なお、本実施の形態においては、チップ基板11は透光性を有するガラス製等で形成されている。
これにより、実施の形態2におけるバイオチップは、酵素活性検知部13の蛍光を密着配置されたイメージセンサ24の検出素子でそのまま読み取ることができるので、レンズ等の光学系を要さずコンパクト化することができる。
【0049】
図7は実施の形態2におけるイメージセンサを積層させたバイオチップの変形例を示す模式図である。
図7において、30は実施の形態2における変形例のバイオチップ、31は酸化珪素からなる透光性を有するチップ基板、32はチップ基板31に溝状にエッチング等で形成された試料溶液流路、32aは試料溶液流路32内に配列された酵素活性検知部、33は試料溶液流路32の開口面を覆うように配置され所定波長の蛍光を透過させるためのガラスまたは有機物からなる上部フィルタ、34はチップ基板31の裏面側に下部フィルタ35を介して積層配置されたCMOS素子等が集積化されたイメージセンサ基板、36はイメージセンサ基板34の表面を保護する酸化珪素層であり、イメージセンサ基板34のCMOS素子等を形成する際に絶縁層(保護層)としてCVD等の手段で形成されたものである。
なお、上部フィルタ33は酵素活性検知部32aの励起波長は通過させるが蛍光波長は遮断するような選択性を有しており、下部フィルタ35は酵素活性検知部32aの蛍光波長は通過させるが励起波長は遮断するような選択性を有している。
また、チップ基板31はイメージセンサ基板34のCMOS素子等を形成する際に絶縁層(保護層)としてCVD等の手段で形成された酸化珪素層と同様に、CVD等で形成されている。
以上のように構成された本実施の形態におけるバイオチップ30は、イメージセンサ基板34の酸化珪素層36上に直接配置された下部フィルタ35の投影面上にチップ基板31の酵素活性検知部32aが位置するように構成されており、チップ基板31をイメージセンサ基板34のCMOS素子等を形成するのと同様の半導体製造技術を用いて製造されているので、製造工程が短縮できるという作用が得られる。
【実施例1】
【0050】
以下、本発明を実施例を参照してさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例で説明するアミノ酸、ペプチド、保護基、溶媒等は、当該技術分野で慣用されている略号又はIUPAC-IUBの命名委員会で採用された略号を使用する。
例えば、以下の略号を使用している。Ala:アラニン、Pro:プロリン、Lys:リジン、Phe:フェニルアラニン、Aca:アミノカプロン酸、Ac:アセチル、ACC:7−アミノ−4−カルボキシメチルクマリン、Boc:t−ブチルオキシカルボニル、Lys(Boc):側鎖t-ブチルオキシカルボニル保護リジン、DCC:ジシクロヘキシルカルボジイミド、DCM:ジクロロメタン、DIEA:N,N−ジイソプロピルエチルアミン、DMF:N,N−ジメチルホルムアミド、EtOH:エタノール、Fmoc:9−フルオレニルメチルオキシカルボニル、HATU:o−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、HBTU:o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、HOAt:1−ヒドロキシ−7−アゾベンゾトリアゾール、HOBt:1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、TFA:トリフルオロ酢酸。
【0051】
実施例1では、酵素活性検知部を形成させるための予備実験として、酵素活性検出用基板としてのペプチジル蛍光基結合球状基板を合成して酵素(トリプシンとキモトリプシン)に対する活性の測定を行った。以下、その方法について説明する。
なお、このような球状基板を、渦巻き状などに形成された試料溶液流路の酵素活性検知部S1〜Snとなる各領域に充填配置してバイオチップを構成することができる。
<ペプチジル蛍光基結合球状基板の合成>
基板としては球状の市販のNH-PEGA-resin(渡辺化学工業製)を用いた。固相合成用ベッセルを垂直に固定し、NH-PEGA-resin(0.05 mmol/g, 0.5 g)を入れてベッセルのコックを開いた状態でDMF(10 ml)を流し溶媒を置換した。次いで、ベッセルのコックを閉じ、Fmoc-Aca-OH (0.13 mmol, 44 mg), HBTU(0.13 mmol, 48 mg), DIEA(0.13 mmol, 0.022ml)をDMF(2 ml)に溶解させて加え、一晩反応させた。反応後、コックを開きDMF(10 ml)および メタノール(10 ml)で洗浄し、Fmoc-Aca-PEGA resinを得た。
【0052】
次に、ベッセル中のFmoc-Aca-PEGA resin(0.05 mmol/g, 0.5 g)に、コックを開いた状態でDMF(10 ml)を流し、溶媒置換および洗浄を行った。コックを閉じて20%ピペリジン/DMFを入れ、30分反応させ、脱Fmocを行った。その後、コックを開いて20%ピペリジン/DMFを除去し、次いでDMF(10 ml) を用いて洗浄した。次に、コックを閉じた状態でFmoc-Aca-OH(3 eq), HATU(3 eq), HOAt(3eq), DIEA(5eq)をDMF(2 ml)に溶解させて加え、3時間反応させた。その後コックを開け、DMF(10 ml),メタノール(10 ml)を用いて洗浄し、基板(PEGA resin)に結合部(Aca-Aca-)が結合したFmoc-Aca-Aca-PEGA resinを得た。
次に、20%ピペリジン/DCM (1 mL) を用いて30分撹拌してFmoc基の除去を行った。DCM(1 ml)で3回、DMF (1 ml)で1回洗浄した後、DMF 1 mlに溶解させたFmoc-Lys(Boc)-ACC-OH (36 mg, 54 mmol), DCC (11 mg, 54 mmol), HOBt・H2O (8.3 mg, 54 mmol)を加え24 時間反応させた。反応終了後、DMF (1 ml)で2回、DCM (1 ml)で2回、EtOH (1 ml)で2回、DCM (1 ml)で2回洗浄した後、減圧下乾燥させて蛍光基(ACC)が結合部(Aca-Aca-)に結合したFmoc-Lys(Boc)-ACC-Aca-Aca- PEGA resin を得た。
その後、DMF (1 ml)で1回洗浄し、DIEA (32 ml, 183 mmol) および無水酢酸(8.5 ml, 90 mmol)をDMF (1 ml)に希釈して加え1時間撹拌させた。その後、DMF (1 ml)で3回、 DCM (1 ml)で3回洗浄を行い、未反応物のアセチル化を行った。
【0053】
次いで、20%ピペリジン/DCM (1 ml) を用いて30分撹拌してFmoc基の除去を行った。その後、DCM(1 ml)で3回、DMF (1 ml) 洗浄を行った後、Fmoc-Pro-OH (18 mg, 54mmol), HATU (20 mg, 54 mmol), HOAt (7 mg, 54 mmol), DIEA (16 ml, 90 mmol) をDMF (1 ml)に溶解させて加え1時間反応させた。その後、DMF (1 ml)で3回、DCM (1 ml)で3回洗浄しFmoc-Pro-Lys(Boc)- ACC-Aca-Aca- PEGA resinを得た。
以下、Fmoc-Pro-Lys(Boc)-ACC-Aca-Aca-PEGA resin にFmoc-Ala-OHを用いて同様の操作を繰り返しペプチドを伸長し、蛍光基(ACC)に結合部(Ala-Ala-Pro-Lys)が結合したAla-Ala-Pro-Lys(Boc)-ACC-Aca-Aca-PEGA resinを得た。その後、コックを閉じてDIEA (2.5 mmol, 0.435 ml),無水酢酸(1.25 mmol, 0.117 ml)をDMF(2 ml)に希釈して加え1時間反応させて結合部の末端基がアセチル化されたAc-Ala-Ala-Pro-Lys(Boc)-ACC-Aca-Aca-PEGA resinを得た。
ベッセルにAc-Ala-Ala-Pro-Lys(Boc)-ACC-Aca-Aca-PEGA resin(0.05 mmol, 0.5 mg)を入れ、コックを開いた状態でDCM(10 ml)を流し溶媒を置換した後、コックを閉じて25%TFA/DCM(2 ml)を入れ、30分反応させ、脱Bocを行った後、DCM(10 ml),H2O (10 ml)を用いて洗浄し、目的とする実施例1のペプチジル蛍光基結合球状基板(Ac-Ala-Ala-Pro-Lys-ACC-Aca-Aca-PEGA resin)を得た。
【0054】
<酵素活性の測定>
96ウェルの蛍光測定用マイクロプレートのウェルA〜Dに、実施例1の酵素活性検出用基板としてのペプチジル蛍光基結合球状基板Ac-Ala-Ala-Pro-Lys-ACC-Aca-Aca-PEGA resinと以下の溶液を入れ、実験開始時の蛍光値と30分後の蛍光値との差を測定した。蛍光値は、WALLAC ARVOTM SX 1420 マルチラベルカウンタ(パーキンエルマー製)を用いて励起波長370nm、蛍光波長460nmで測定した。
A:Ac-Ala-Ala-Pro-Lys-ACC-Aca-Aca-PEGA resin (wet) 5 mg、20 mM Tris HCl buffer(pH 7.2, 100 mM NaCl, 50 mM CaCl2 )240 μl、トリプシン(1 mg/1 ml)から10μl
B:Ac-Ala-Ala-Pro-Lys-ACC-Aca-Aca-PEGA resin (wet) 5 mg、20 mM Tris HCl buffer(pH 7.2, 100 mM NaCl, 50 mM CaCl2 )240 μl、キモトリプシン(1 mg/1 ml)から10 μl
C:Ac-Ala-Ala-Pro-Lys-ACC-Aca-Aca-PEGA resin (wet) 5 mg、20 mM Tris HCl buffer(pH 7.2, 100 mM NaCl, 50 mM CaCl2 )250 μl
D:20 mM Tris HCl buffer (pH 7.2, 100 mM NaCl, 50 mM CaCl2 )250 μl,
なお、ウェルAとウェルBとの異なる点は酵素の種類であり、ウェルA(又はウェルB)とウェルCとの異なる点は酵素の有無であり、ウェルA(又はウェルB,C)とウェルDとの異なる点は酵素活性検出用基板の有無である。
各ウェルについて実験開始時の蛍光値と30分後の蛍光値との差を(表1)に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
(表1)のウェルA,BとウェルCの蛍光値を比較して、実施例1の酵素活性検出用基板は、トリプシンが存在するウェルAでは約315倍、キモトリプシンが存在するウェルBでは約10倍異なることが確認された。これにより、実施例1の酵素活性検出用基板を適用して酵素の量や酵素の種類等に対応した酵素活性の検出が可能であることが示された。また、ウェルAとウェルBの蛍光値を比較して、実施例1の酵素活性検出用基板は、トリプシンの場合の蛍光値がキモトリプシンの場合の蛍光値と比較して約30倍以上大きいことが確認された。これは、実施例1の酵素活性検出用基板の蛍光基と結合する結合部のアミノ酸がリジンであり、トリプシンは主にリジンのC末端側のペプチド結合を選択的に切断する特異性を有していることから発現したものであると推察される。一方、キモトリプシンは主に芳香族アミノ酸残基のC末端側のペプチド結合を選択的に切断する特異性を有しているため、反応前後の蛍光値の変化が小さかったと推察される。
これにより、実施例1の酵素活性検出用基板は酵素によって特異性を有するため、活性を有する酵素の定性分析が可能であることが示された。また、同一の種類の酵素活性検出用基板に同一種類の酵素を含有する検体溶液を接触させ所定時間後における蛍光値を測定すれば、蛍光値の変化は酵素の作用を受けて修飾された分子の数に対応するので、酵素の定量分析が可能であると推察された。
【実施例2】
【0057】
実施例2では、酵素活性検出用基板としてのペプチジル蛍光基結合平面基板を合成して酵素の活性測定を行った。以下、その方法について説明する。なお、以下に述べる合成方法を適用して酵素活性検知部を形成でき、試料溶液流路の各領域にそれぞれ異なる酵素特異性を有した酵素活性検知部を所定パターンで配列することができる。
【0058】
<ペプチジル蛍光基結合平面基板の合成>
基板としては、ペプチド合成用多板状合成樹脂製担体(ミモートプス社製ランタンシリーズ(登録商標))を1プレートだけ切り離し平面状とした合成樹脂製担体を用いた。
スクリュー管に基板としての合成樹脂製担体lantern 1個 (ミモートプス社D-series, 導入率18 mmol / 個) を入れ、20%ピペリジン/DCM (1 mL) を用いて30分撹拌しFmoc基の除去を行った。DCM (1 ml)で3回、DMF (1 ml) で洗浄した後、Fmoc-Aca-OH(19 mg 54 mmol), DCC (17 mg 81 mmol), HOBt・H2O (8 mg 54 mmol)をDMF (1 ml)に溶解させて加え24時間反応させた。反応終了後、DMF (1 ml)で2回、DCM (1 ml)で2回、EtOH (1 ml)で2回、DCM (1 ml)で2回洗浄した後、減圧下乾燥させてFmoc-Aca-lanternを得た。
次に、20%ピペリジン/DCM (1 ml) を用いて30分撹拌してFmoc基 の除去を行った。その後、DCM(1 ml)で3回、DMF (1 ml) 洗浄を行った後、Fmoc-Aca-OH (19 mg, 54mmol), HATU (20 mg, 54 mmol), HOAt (7 mg, 54 mmol), DIEA (16 ml, 90 mmol) をDMF (1 ml)に溶解させて加え1時間反応させた。その後、DMF (1 ml)で3回、DCM (1 ml)で3回洗浄し、基板(lantern)に結合部(Aca-Aca)の一端が固定化されたFmoc-Aca-Aca-lanternを得た。
【0059】
次いで、20%ピペリジン/DCM (1 mL) を用いて30分撹拌してFmoc基の除去を行った。DCM(1 ml)で3回、DMF (1 ml)で1回洗浄してlanternを膨潤させ、DMF 1 mlに溶解させたFmoc-Lys(Boc)-ACC-OH (36 mg, 54 mmol), DCC (11 mg, 54 mmol), HOBt・H2O (8.3 mg, 54 mmol)を加え24 時間反応させた。反応終了後、DMF (1 ml)で2回、DCM (1 ml)で2回、EtOH (1 ml)で2回、DCM (1 ml)で2回洗浄した後、減圧下乾燥させて結合部(Aca-Aca)に蛍光基(ACC)が結合したFmoc-Lys(Boc)-ACC-Aca-Aca-lanternを得た。
その後、DMF (1 ml)で1回洗浄し、DIEA (32 ml, 183 mmol) および無水酢酸(8.5 ml, 90 mmol)をDMF (1 ml)に希釈して加え1時間撹拌させた。その後、DMF (1 ml)で3回、 DCM (1 ml)で3回洗浄を行い、未反応物のアセチル化を行った。
次に、20%ピペリジン/DCM (1 ml) を用いて30分撹拌してFmoc基 の除去を行った。その後、DCM(1 ml)で3回、DMF (1 ml) 洗浄を行った後、Fmoc-Pro-OH (18 mg, 54mmol), HATU (20 mg, 54 mmol), HOAt (7 mg, 54 mmol), DIEA (16 ml, 90 mmol) をDMF (1 ml)に溶解させて加え1時間反応させた。その後、DMF (1 ml)で3回、DCM (1 ml)で3回洗浄しFmoc-Pro-Lys(Boc)-ACC-Aca-Aca-lanternを得た。
【0060】
以下、Fmoc-Pro-Lys(Boc)-ACC-Aca-Aca-lantern にFmoc-Ala-OHを用いて同様の操作を2回繰り返してペプチドを伸長させ、蛍光基(ACC)に結合部(Ala-Ala-Pro-Lys)が結合したFmoc-Ala-Ala-Pro-Lys(Boc)-ACC-Aca-Aca- lanternを得た。
その後、20%ピペリジン/DCM (1 ml) を用いて30分撹拌してFmoc基 の除去を行った。その後、DCM(1 ml)で3回、DMF (1 ml) 洗浄を行った後、DMF (1 mL)、DIEA 32 ml (183 mmol) および無水酢酸8.5 ml(90 mmol) をDMF (1 mL)に希釈して加え、1時間撹拌させた。その後、DMF (1 ml)で3回、DCM (1 ml)で3回lanternを洗浄し、25% TFA/DCMを用いて30分反応させてBoc基の除去を行った。その後、DCM(1 ml)で3回、H2O (1 ml)で5回、DCM(1 ml)で3回洗浄し、減圧乾燥を行い、結合部(Ala-Ala-Pro-Lys)の末端基がアセチル化されたAc-Ala-Ala-Pro-Lys(Boc)-ACC-Aca-Aca- lanternを得た。
25%TFA/DCM(1ml)を用いてLys側鎖のBoc基を除去し、目的とする実施例2の酵素活性検出用基板(Ac-Ala-Ala-Pro-Lys-ACC-Aca-Aca-lantern)を得た。
【0061】
<酵素活性の測定>
実施例2の酵素活性検出用基板に、20 mM Tris HCl buffer(pH 7.2, 100 mM NaCl, 50 mM CaCl2)を100 μl, メタノール100 μl, トリプシン(1 mg/1 ml)を 50 μl加え、反応前と反応後の蛍光値を測定した。蛍光値は、WALLAC ARVOTM SX 1420 マルチラベルカウンタ(パーキンエルマー製)を用いて励起波長370nm、蛍光波長460nmで測定した。
その結果、初期蛍光値は39000、18時間反応後の蛍光値は145000であり、蛍光値が約4倍変化することが確認された。これにより、基板としてlanternを用いた実施例2の酵素活性検出用基板においても、活性を有する酵素の検出が可能であることが示された。
【実施例3】
【0062】
実施例3では、酵素活性検出用基板としてのペプチジル蛍光基結合平面基板を合成して酵素の活性測定を行った。以下、その方法について説明する。
<ペプチジル蛍光基結合平面基板の合成>
基板としては、ペプチド合成用多板状合成樹脂製担体(ミモートプス社製ランタンシリーズ(登録商標))を1プレートだけ切り離して平面状とした合成樹脂製担体を用いた。
スクリュー管に基板としての合成樹脂製担体lantern 1個 (ミモートプス社D-series, 導入率18 mmol / 個) を入れ、20%ピペリジン / DCM (1 mL) を用いて30分撹拌しFmoc基を切り出した。 DCM洗浄 (1 ml×3) 後、DMF (1 ml×1) でlanternを膨潤させDMF 1 mlに溶解させたFmoc-Aca-OH 20.0 mg (56.6 mmol), DCC 17.5 mg (84.5 mmol), HOBt・H2O 8.8 mg (57.5 mmol)を加え23時間撹拌した。DMF (1 ml×2), DCM (1 ml×2), DCM / EtOH = 1:1 (1 ml×2), EtOH (1 ml×2), DCM (1 ml×1), ジエチルエーテル(1 ml×1)で樹脂を洗浄した後乾燥させ、Fmoc-Aca-lanternを得た。
【0063】
次に、20%ピペリジン/DCM (1 mL) を用いて30分撹拌してFmoc基を切り出しDCM洗浄 (1 ml×3)した後、DMF 1 mlに溶解させたFmoc-Aca-OH 23.0mg (65.1mmol), HATU 21.6 mg (56.8 mmol), HOAt 8.1 mg (59.5 mmol), DIEA 15.7 ml (90.2 mmol) を加え1時間撹拌させた。DMF (1 ml×3), DCM (1 ml×3) で洗浄し基板(lantern)に結合部(Aca-Aca)の一端が固定化されたFmoc-Aca-Aca-lanternを得た。次いで、20%ピペリジン/DCM (1 mL) を用いて30分撹拌してFmoc基を除去し、DCM洗浄 (1 ml×3)を行ってH-Aca-Aca-lanternを得た。
次いで、DMF 1 mlに溶解させたFmoc-Phe-ACC-OH(33.4 mg 56.7 mmol)、DCC 12.5 mg (60.6 mmol), HOBt・H2O 8.9 mg (58.0 mmol)を加え22時間撹拌した。DMF (1 ml×2), DCM (1 ml×2), DCM / EtOH = 1:1 (1 ml×2), EtOH (1 ml×2), DCM (1 ml×1), ジエチルエーテル(1 ml×1)で洗浄後、乾燥させ結合部(Aca-Aca)に蛍光基(ACC)が結合したFmoc-Phe-ACC-Aca-Aca-Lanternを得た。
【0064】
次に、20%ピペリジン/DCM (1 mL) を用いて30分撹拌してFmoc基を除去し、DCM洗浄 (1 ml×3)した。次いで、DMF 1 mlに溶解させたFmoc-Pro-OH 24.7mg (73.2 mmol), HATU 21.4 mg (56.2 mmol), HOAt 8.2 mg (60.2 mmol), DIEA 15.7 ml (90.2 mmol) を加え1時間撹拌させた後、DMF (1 ml×3), DCM (1 ml×3)で洗浄しFmoc-Pro-Phe-ACC-Aca-Aca-lanternを得た。
以下、これと同様の操作を行ってFmoc-Ala-OHを2回導入し、蛍光基(ACC)に結合部(Ala-Ala-Pro-Phe)が結合したFmoc-Ala-Ala-Pro-Phe-ACC-Aca-Aca-lanternを得た。
その後、20%ピペリジン/DCM (1 mL) を用いて30分撹拌してFmoc基を除去し、DCM洗浄 (1 ml×3) 後、DMF (1 mL)、DIEA 32 ml (183 mmol) および無水酢酸8.5 ml(90 mmol) を加え、1時間撹拌させた。その後、DMF (1 ml×3), DCM (1 ml×3) で洗浄を行い、結合部(Ala-Ala-Pro-Phe)の末端基をアセチル化して、目的とする実施例3の酵素活性検出用基板としてのペプチジル蛍光基結合平面基板Ac-Ala-Ala-Pro-Phe-ACC-Aca-Aca-lanternを得た。
【0065】
<酵素活性の測定>
蛍光測定用マイクロプレートのウェルA,Cに実施例2の酵素活性検出用基板(導入率2μmol/基板)を、ウェルB,Dに実施例3の酵素活性検出用基板(導入率2μmol/基板)を入れ、各々に20 mM Tris HCl buffer(pH 7.2, 100 mM NaCl, 50 mM CaCl2)を100 μl, メタノール100 μlを加え、さらに以下の酵素50μgを加えて反応させた。
A:キモトリプシン
B:キモトリプシン
C:トリプシン
D:トリプシン
測定は、WALLAC ARVOTM SX 1420 マルチラベルカウンタ(パーキンエルマー製)を用いて励起波長370nm、蛍光波長460nmで、酵素を加える前の蛍光値と酵素を加えてから30分後の蛍光値とを測定し、その差を求めた。
各ウェルにおける算出された蛍光値の差を(表2)に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2によれば、キモトリプシンに対しては、蛍光基と結合する結合部のアミノ酸が芳香族アミノ酸の1種のフェニルアラニンである実施例3の酵素活性検出用基板で大きな蛍光値の変化が確認された。また、トリプシンに対しては、蛍光基と結合する結合部のアミノ酸がリジンである実施例2の酵素活性検出用基板で大きな蛍光値の変化が確認された。これらの変化の差は、キモトリプシンは主に芳香族アミノ酸残基のC末端側のペプチド結合を選択的に切断する特異性を有しており、トリプシンは主にリジンのC末端側のペプチド結合を選択的に切断する特異性を有していることから発現したものであると推察される。これにより、蛍光基と結合する結合部のアミノ酸の種類を変えることにより、酵素の種類に対する活性検出能を変えられることが明らかになった。
【実施例4】
【0068】
通常のペプチド合成用レジン1gにAca 0.3 mmolを実施例1のようにして導入し、これを361個のグループに分けた。このそれぞれのレジンにペプチド合成装置を用いてACCを導入し、ついでシステインを除く19種類のアミノ酸残基を2回導入し、最後に脱保護後アセチル基でキャッピングを行った。これにより361種類のペプチドを樹脂上で合成した。
各樹脂からペプチドを切り出し、361種類のC端無保護ペプチドを得た。
ガラス基板上、あるいはイメージセンサ上の保護層(絶縁層)として構築された酸化珪素層の(チップ基板)上にエッチングで流路幅500μm、流路深さ100μmの渦巻き状の試料溶液流路を形成した。なお、試料供給部として深さ100μm、縦横の長さが2.5mm正方の凹部をエッチングで試料溶液流路の一端部に連設形成した。
この試料溶液流路内の全面をアミノ基でコーティングし、ここに上記の酵素活性検知部としての361種類のペプチドを縮合剤(HATU)を用いて導入した。導入にはギルソン社製の自動スポッター(型式:222XL)を用い、1種類のペプチドは流路幅500μmの中心の約200μmの円内に導入し、約100μmの間隔をあけて他の種類のペプチドを次々に導入した。
このペプチドを導入した試料溶液流路の上面に、蓋(保護層)をかねて蛍光励起光を透過するフィルタ(350±10nmより長い波長を遮断するもの)を圧着した。イメージセンサ基板に蛍光発光フィルタ(450±10nmより短い波長を遮断するもの)を接着し、さらにその上にチップ基板を配置して実施の形態2で説明したものと同様のバイオチップを製造した。
【0069】
テスト用の試料として、トリプシンを中心とした酵素群1と、キモトリプシンを中心とした酵素群2の溶液(20nM、5mM HEPES pH7.4)を準備した。これを上記のバイオチップ2つにマイクロシリンジを用いてそれぞれ導入し、導入開始時点からのイメージセンサの出力を記録した。
イメージセンサの出力から各スポット(酵素活性検知部)の蛍光強度をそれぞれ10msec毎に算出し、それを元に各スポット毎の酵素活性(蛍光強度)を計算した。
【0070】
図8は各スポットを構成するアミノ酸ごとにその蛍光強度をプロットしたグラフである。図8においてx軸及びy軸はそれぞれのアミノ酸の組み合わせ配列を示し、z軸はこのアミノ酸の組み合わせに対応したそれぞれの蛍光強度を示している。
図8から同一の酵素活性検知部の配列を有するバイオチップで出力された蛍光強度のパターンが酵素群1と酵素群2では異なることが確認された。これにより、例えば、人の体液を試料溶液として用い、その酵素活性を本発明のバイオチップを用いて定期的にイメージデータとして検出することにより、体液中の酵素活性が変化しているか否かを網羅的にモニタリングすることができ、病理学的診断等を的確かつ迅速に行うことができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のバイオチップは、病理、医療、創薬、食品、および環境等の分野で関連する酵素やタンパク質、遺伝子を含む試料溶液の解析に適用して、その酵素活性などの特性データを網羅的に評価特定することができ、病理学的診断などの医学的分野やプロテオーム解析等の研究に資することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ基板に導入される試料溶液中の酵素を検出するバイオチップであって、全体が渦巻き状やツリー状、放射状などの流路パターンで前記チップ基板上に形成された試料溶液流路と、前記試料溶液流路に所定順で複数配置され所定の酵素に対してそれぞれ異なる活性を有する酵素活性検知部と、を有することを特徴とするバイオチップ。
【請求項2】
前記酵素活性検知部が、(a)その基端側が前記チップ基板に結合されその他端側に結合されるペプチド鎖との化学結合状態によってその蛍光周波数や蛍光強度などの蛍光特性が変動される蛍光基質と、(b)アミノ酸の組み合わせからなる特定アミノ酸配列のペプチド鎖により付与される酵素特異性の結合部を介して前記蛍光基質に結合されるオリゴペプチドと、を備えたことを特徴とする請求項1に記載のバイオチップ。
【請求項3】
前記蛍光基質がアミノメチルクマリン系蛍光基質であって、シランカップリング剤などで化学修飾された前記チップ基板上に結合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイオチップ。
【請求項4】
前記チップ基板が透光性であって、その背面側にCCDやCMOS素子などを配列したイメージセンサ基板が積層されていることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項5】
前記チップ基板の前記試料溶液流路が形成された面側に透光性又は不透光性の保護層を備えていることを特徴とする請求項1乃至4の内いずれか1項に記載のバイオチップ。
【請求項6】
請求項1乃至5の内いずれか1項に記載のバイオチップの前記試料溶液流路に試料溶液を所定条件で供給する試料溶液供給工程と、
前記試料溶液流路上に配列された前記酵素活性検知部毎の状態変化により形成される前記チップ基板上の二次元イメージをその特定波長域を除去するフィルタで処理してその時系列データ又は所定時間後の結果データを取得するデータ取得工程と、
前記時系列データ又は結果データを予め同一測定条件で蓄積されたライブラリデータと比較してパターン認識手段や統計的データ処理手段により各ライブラリデータとのパターン適合度を判定するデータ判定工程と、
を有することを特徴とする試料溶液の機能性検査方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/071056
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517269(P2005−517269)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000741
【国際出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】