説明

バイオチップ形成用感光性樹脂組成物、及びバイオチップ

【課題】 高アスペクト比、高精細なパターンを形成できるとともに、該パターンの基板に対する密着性が高く、自家蛍光性が低く、しかも培養細胞に対する損傷性が極めて低いバイオチップを製造する上で極めて好適な感光性樹脂組成物を得る。
【解決手段】 本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物は、エポキシ基を有するオキシシクロヘキサン骨格を有する特定構造のエポキシ化合物(A1)と、エポキシ化シクロヘキセニル基を有する多価カルボン酸誘導体である特定構造のエポキシ化合物(A2)と、光カチオン重合開始剤(B)と、溶剤(C)とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオチップ形成用感光性樹脂組成物、それを用いて作製されたドライフィルムレジスト及びバイオチップに関する。
【背景技術】
【0002】
医療や食品などの検査において、一枚のチップ上で分析に必要な分離・抽出・反応・判定といった工程を行うことが可能な検査素子が、いわゆるバイオチップとして注目されている。これらの検査素子は、ミクロキャピラリーや凹地などを配置した基板が用いられている。
【0003】
従来、これらの基板には、ガラスやシリコンといった素材が用いられ、上記のごときパターン形成はフォトリソグラフィーなどを応用したエッチングなどの技術が用いられている。特にガラスは自家蛍光性が低く蛍光検出法を用いるバイオチップには好適な材料である。しかしながら、特にガラスは表面処理が困難であり、DNAチップの場合には、試料を含む溶液を流すと固定化したDNA断片が剥がれてしまうことがある。また、ガラスでは、平板以外の形状を作製することが難しいといった問題がある。
【0004】
一方、特にガラス基板の上記問題に鑑みて種々の有機材料を応用する研究もなされている。例えば、特許文献1記載のエポキシ樹脂組成物SU−8TMはバイオチップ形成用感光性樹脂組成物として広く研究分野で用いられている。しかしながら、SU−8TMの硬化物は自家蛍光があり、高感度な蛍光分析が望まれるバイオチップを形成する素材としては課題があった。この解決方法としては、一般にSU−8TMで作製した凸パターンを鋳型にして、PDMS(ポリジメチルシロキサン)などで型取りする方法が採られるが、バイオチップ作製の工程数が単純に増えるだけでなく、この型取り工程は脱泡など非常に煩雑な作業を含んでおり改善が望まれている。
【0005】
特許文献2では、低自家蛍光性エポキシ樹脂について記されているが、その化学構造の主骨格は自家蛍光性化学種である芳香族環からなり、また、自家蛍光性評価に用いた励起光の波長は500nm超の1点であり、バイオチップの蛍光分析時に一般的に用いられる蛍光標識物質の励起波長域を網羅しているとは言い難く実用的効果は定かではない。
【0006】
特許文献3では、化学構造的に自家蛍光性部位がないシクロオレフィンコポリマーがチップ基板の材料として用いられている。しかしながら、シクロオレフィンコポリマーの課題として、成形温度での溶融樹脂粘度が高く、流動性が悪いため、バイオチップのような微細な形状を有した基板の作製が困難であること、耐薬品性に課題を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−522531号公報
【特許文献2】特開2009−75261号公報
【特許文献3】特許第4292405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高アスペクト比、高精細なパターンを容易に形成できるとともに、該パターンの基板に対する密着性が高く、自家蛍光性が低く、しかも培養細胞に対する損傷性が極めて低いバイオチップを製造する上で極めて好適な感光性樹脂組成物、及びドライフィルムレジストを提供することにある。
本発明の他の目的は、高アスペクト比、高精細なパターンを有するとともに、該パターンの基板密着性が高く、自家蛍光性が低く、しかも培養細胞に対しての損傷性が極めて低いバイオチップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の2種のエポキシ化合物と、光カチオン重合開始剤と、溶剤とを含む感光性樹脂組成物を用いて形成した感光性樹脂層をフォトリソグラフィーに付すと、他の有機材料を用いた場合と比較して、基板への密着性に優れ、自家蛍光性が低く、しかも培養細胞に対する損傷性が極めて低いバイオチップに好適な硬化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

[式(1)中、R1はm個の活性水素を有する有機化合物から活性水素を除いた残基を示し、Aは置換基を有するオキシシクロヘキサン骨格であり、次式(a)
【化2】

[式(a)中、Xは、下記式(b)、(c)、(d)
【化3】

[式(d)中、R2は、水素原子、アルキル基、アルキルカルボニル基又はアリールカルボニル基を示す]
の何れかの基を示す]
で表される基を示す。nは0〜100の整数を示し、mは1〜100の整数を示す。mが2以上の場合、m個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、nが2以上の場合、n個のAはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、式(1)中に少なくとも1個のAを有し、且つAのうち少なくとも1つは式(a)中のXが式(b)で表される基である]
で表されるエポキシ化合物(A1)、下記式(2)
【化4】

[式(2)中、R3は炭素数3〜30の3価以上の脂肪族、脂環式又は芳香族カルボン酸からカルボキシル基を除いた残基を示す。Bは、次式(e)
【化5】

[式(e)中、Ra、Rbは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。rは4〜8の整数を示す。r個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい]
で表される基を示す。Yは、次式(f)
【化6】

[式(f)中、Rd1、Rd2、Rd3、Rd4、Rd5、Rd6、Rd7、Rd8、Rd9は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜9のアルキル基を示す]
で表される基を示す。qは0以上の整数、pは3以上の整数を示す。qが2以上の場合、q個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、p個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、式(2)中に少なくとも1個のBを有する]
で表されるエポキシ化合物(A2)、光カチオン重合開始剤(B)及び溶剤(C)を含有するバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を提供する。
【0011】
前記エポキシ化合物(A1)とエポキシ化合物(A2)の含有比率は、例えば、前者/後者(重量比)=1/99〜99/1の範囲である。
【0012】
前記光カチオン重合開始剤(B)としては、トリアリールスルホニウム塩であるのが好ましい。
【0013】
前記溶剤(C)としては、ケトン系溶剤、エステル系溶剤及びグリコールエーテル系溶剤からなる群より選択された少なくとも1種の溶剤であるのが好ましい。
【0014】
本発明は、また、ベースフィルム上に前記のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を塗布して形成された感光性樹脂層が設けられているか、又は、さらに該感光性樹脂層の上にカバーフィルムが積層されていることを特徴とするドライフィルムレジストを提供する。
【0015】
本発明は、さらに、第1の基板上に前記のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を塗布して形成された感光性樹脂層をフォトリソグラフィーに付してパターンを形成し、該パターン上に第2の基板を積層して得られるバイオチップを提供する。
【0016】
本発明は、さらにまた、基板上に前記のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を塗布して形成された感光性樹脂層をフォトリソグラフィーに付してパターンを形成し、該パターン上に、前記のドライフィルムレジストを、該ドライフィルムレジストの感光性樹脂層が前記パターンと接するようにして積層し、さらに該感光性樹脂層をフォトリソグラフィーに付してパターンを形成して得られるバイオチップを提供する。
【0017】
なお、本発明でいうバイオチップとはマイクロアレイ、μ−TAS(Micro Total Analysis System)を含む広義の意味である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物及びドライフィルムレジストによれば、アスペクト比が高く、高精細なパターンを容易に形成できるとともに、該パターンの基板に対する密着性が高く、自家蛍光性が低く、しかも培養細胞に対する損傷性が極めて低いバイオチップを製造することができる。また、本発明のバイオチップは、高アスペクト比、高精細なパターンを有するとともに、該パターンの基板密着性が高く、しかも自家蛍光性が低く、培養細胞に対しての損傷性も極めて低い。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物は、前記式(1)で表されるエポキシ化合物(A1)、前記式(2)で表されるエポキシ化合物(A2)、光カチオン重合開始剤(B)及び溶剤(C)を含有している。
【0020】
[エポキシ化合物(A1)]
エポキシ化合物(A1)は前記式(1)で表される化合物である。式(1)中、R1はm個の活性水素を有する有機化合物から活性水素を除いた残基を示し、Aは置換基を有するオキシシクロヘキサン骨格であり、前記式(a)で表される基を示す。式(a)中、Xは、前記式(b)、(c)、(d)の何れかの基を示す。式(d)中、R2は、水素原子、アルキル基、アルキルカルボニル基又はアリールカルボニル基を示す。また、式(1)中、nは0〜100の整数(好ましくは0〜30の整数)を示し、mは1〜100の整数(好ましくは1〜30の整数、さらに好ましくは1〜10の整数)を示す。mが2以上の場合、m個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、nが2以上の場合、n個のAはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、式(1)中に少なくとも1個(好ましくは3個以上)のAを有し、且つAのうち少なくとも1つは式中のXが式(b)で表される基である。エポキシ化合物(A1)は1種単独で又は2種以上の混合物として使用できる。なお、式(1)において、Aにおける式(a)の左側の結合手がR1と結合している。
【0021】
1はm個の活性水素を有する有機化合物から活性水素を除いた残基であるが、その前駆体である活性水素を有する有機化合物としては、アルコール、フェノール、カルボン酸、アミン、チオールなどが挙げられる。
【0022】
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、ベンジルアルコール、アリルアルコール等の1価のアルコール;エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールS等の2価のアルコール;グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールなどの3価以上のアルコールが挙げられる。前記アルコールは、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等であってもよい。前記アルコールとしては、炭素数1〜10の脂肪族アルコール(特に、トリメチロールプロパン等の炭素数2〜10の脂肪族多価アルコール)が好ましい。
【0023】
前記フェノールとしては、例えば、フェノール、クレゾール、カテコール、ピロガロール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、フェノール樹脂、クレゾールノボラック樹脂などが挙げられる。
【0024】
前記カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、動植物油の脂肪酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ポリアクリル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。また、乳酸、クエン酸、オキシカプロン酸などの水酸基とカルボキシル基とをともに有する化合物も挙げられる。
【0025】
前記アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、4,4′−ジアミノジフェニルアミン、イソホロンジアミン、トルエンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、エタノールアミンなどが挙げられる。
【0026】
前記チオールとしては、例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、フェニルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸の多価アルコールエステルなどが挙げられる。
【0027】
上記以外の活性水素を有する有機化合物として、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル部分加水分解物、デンプン、セルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシエチルセルロース、アクリルポリオール樹脂、スチレン−アリルアルコール共重合樹脂、スチレン−マレイン酸共重合樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、ポリエステルカルボン酸樹脂、ポリカプロラクトンポリオール樹脂などの、水酸基、カルボキシル基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選択された少なくとも1種の基を有するポリマーが挙げられる。
【0028】
上記の中でも、活性水素を有する有機化合物としては、アルコール、水酸基を有するポリマーが好ましく、特にアルコールが好ましい。
【0029】
前記R2におけるアルキル基としては、メチル、エチル基等のC1-6アルキル基等、アルキルカルボニル基としては、アセチル、プロピオニル基等のC1-6アルキル−カルボニル基等、アリールカルボニル基としては、ベンゾイル基等のC6-10アリール−カルボニル基等が挙げられる。
【0030】
エポキシ化合物(A1)は、例えば、特開昭60−161973号公報(特公平6−25194号公報)に記載された方法によって製造することができる。例えば、エポキシ化合物(A1)は、前記m個の活性水素を有する有機化合物を開始剤にして、4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドを開環重合させることによって得られるポリエーテル樹脂、すなわち、ビニル基側鎖を有するポリシクロヘキセンオキシド重合体のビニル基側鎖を過酸(過酢酸など)等の酸化剤でエポキシ化することによって製造することができる。この製造条件により、Xとして式(b)を有するA、Xとして式(c)を有するA、Xとして式(d)を有するAの存在比率が異なる。式(c)で表されるビニル基はエポキシ化されなかった未反応ビニル基であり、式(d)で表される基は反応溶媒や過酸等に由来する基である。
【0031】
エポキシ化合物(A1)として市販品を用いることもできる。市販品として、例えば、商品名「EHPE 3150」(ダイセル化学工業社製;固体状多官能脂環型エポキシ基樹脂)などがある。
【0032】
[エポキシ化合物(A2)]
エポキシ化合物(A2)は、前記式(2)で表される化合物である。式(2)中、R3は炭素数3〜30の3価以上の脂肪族、脂環式又は芳香族カルボン酸からカルボキシル基を除いた残基を示す。Bは、前記式(e)で表される基を示す。Yは、前記式(f)で表される基を示す。式(e)中、Ra、Rbは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。rは4〜8の整数を示す。r個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。式(f)中、Rd1、Rd2、Rd3、Rd4、Rd5、Rd6、Rd7、Rd8、Rd9は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜9(好ましくは炭素数1〜4)のアルキル基を示す。また、式(2)中、qは0以上の整数(例えば、0〜100の整数、好ましくは0〜30の整数、さらに好ましくは0〜10の整数)、pは3以上の整数(例えば、3〜100の整数、好ましくは3〜30の整数、さらに好ましくは3〜10の整数)を示す。qが2以上の場合、q個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、p個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、式(2)中に少なくとも1個のBを有する。エポキシ化合物(A2)は1種単独で又は2種以上の混合物として使用できる。
【0033】
3は炭素数3〜30の3価以上の脂肪族、脂環式又は芳香族カルボン酸からカルボキシル基を除いた残基であるが、その前駆体である炭素数3〜30の3価以上の脂肪族、脂環式又は芳香族カルボン酸としては、プロパン−1,2,3−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、シクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、トリメリット酸、その他、特許第2926262号公報の原料の項に記載の化合物が挙げられる。
【0034】
エポキシ化合物(A2)は、例えば、特許第2926262号公報に記載された方法によって製造することができる。
【0035】
エポキシ化合物(A2)として市販品を用いることもできる。市販品として、例えば、商品名「エポリード GT401」(ダイセル化学工業社製;液状多官能脂環型エポキシ樹脂)などがある。
【0036】
本発明では、エポキシ化合物(A1)とエポキシ化合物(A2)とを組み合わせて用いる。なお、エポキシ化合物(A1)とエポキシ化合物(A2)の混合物をエポキシ樹脂(A)と称する場合がある。
【0037】
エポキシ樹脂(A)としては、エポキシ樹脂の着色成分が自家蛍光の原因になる場合があるので着色の小さいものが好ましく、例えば、APHA色数が200以下、より好ましくは100以下のものである。
【0038】
また、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量が小さすぎる場合には、硬化収縮が大きくなることで硬化物の反りやクラックが発生しやすくなる。、一方、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量が大きすぎる場合には、架橋密度が小さくなることで硬化塗膜の強度や基板への密着性、耐薬品性、耐熱性、耐クラック性が低下しやすくなる。これらのことから、本発明において、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、特に175〜205g/eq.の範囲が好ましい。そのため、エポキシ化合物(A1)のエポキシ当量としては、170〜190g/eq.の範囲が好ましく、エポキシ化合物(A2)のエポキシ当量としては、200〜300g/eq.の範囲が好ましい。
【0039】
また、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ化合物(A1)の軟化点が低すぎる場合には、本発明の感光性樹脂組成物を基板に塗布、予備乾燥した後の塗膜表面のタックフリー性が低く、パターニング時にマスクの貼り付きが生じやすくなる。さらに、ドライフィルムレジストとして使用する際に常温で軟化するので好ましくない。一方、エポキシ化合物(A1)の軟化点が高すぎる場合には、ドライフィルムレジストを基板へラミネートする際に軟化しにくく、基板への貼合性が悪くなるので好ましくない。これらのことから、本発明において使用するエポキシ樹脂(A)中のエポキシ化合物(A1)の軟化点としては、好ましくは50℃〜100℃であり、より好ましくは60℃〜90℃である。
【0040】
本発明において、エポキシ化合物(A1)とエポキシ化合物(A2)の配合比率は、特に限定されるものではないが、一般には、前者/後者(重量比)=1/99〜99/1、好ましくは、10/90〜97/3、より好ましくは、30/70〜96/4、さらに好ましくは、45/55〜95/5、特に好ましくは、60/40〜92/8である。エポキシ化合物(A2)の配合比率が高すぎると、本発明の感光性樹脂組成物を基板に塗布、予備乾燥した後の塗膜表面のタックフリー性が低く、パターニング時にマスクの貼り付きが生じやすくなる。一方、エポキシ化合物(A1)の配合比率が高すぎると、本発明の感光性樹脂組成物から形成された硬化塗膜の柔軟性が損なわれ、耐クラック性が悪くなりやすい。
【0041】
[光カチオン重合開始剤(B)]
本発明において、光カチオン重合開始剤(B)としては、特に制限はなく公知の光カチオン重合開始剤を使用できる。光カチオン重合開始剤として、例えば、スルホニウム塩(スルホニウムイオンとアニオンとの塩)、ヨードニウム塩(ヨードニウムイオンとアニオンとの塩)、セレニウム塩(セレニウムイオンとアニオンとの塩)、アンモニウム塩(アンモニウムイオンとアニオンとの塩)、ホスホニウム塩(ホスホニウムイオンとアニオンとの塩)、遷移金属錯体イオンとアニオンとの塩などが挙げられる。光カチオン重合開始剤(B)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0042】
前記スルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウム塩、トリ−p−トリルスルホニウム塩、トリ−o−トリルスルホニウム塩、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウム塩、1−ナフチルジフェニルスルホニウム塩、2−ナフチルジフェニルスルホニウム塩、トリス(4−フルオロフェニル)スルホニウム塩、トリ−1−ナフチルスルホニウム塩、トリ−2−ナフチルスルホニウム塩、トリス(4−ヒドロキシフェニル)スルホニウム塩、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム塩、4−(p−トリルチオ)フェニルジ−(p−フェニル)スルホニウム塩などのトリアリールスルホニウム塩;ジフェニルフェナシルスルホニウム塩、ジフェニル4−ニトロフェナシルスルホニウム塩、ジフェニルベンジルスルホニウム塩、ジフェニルメチルスルホニウム塩などのジアリールスルホニウム塩;フェニルメチルベンジルスルホニウム塩、4−ヒドロキシフェニルメチルベンジルスルホニウム塩、4−メトキシフェニルメチルベンジルスルホニウム塩などのモノアリールスルホニウム塩;ジメチルフェナシルスルホニウム塩、フェナシルテトラヒドロチオフェニウム塩、ジメチルベンジルスルホニウム塩などのトリアルキルスルホニウム塩などが挙げられる。
【0043】
ヨードニウム塩としては、例えば、ジフェニルヨードニウム塩、ジ−p−トリルヨードニウム塩、ビス(4−ドデシルフェニル)ヨードニウム塩、ビス(4−メトキシフェニル)ヨードニウム塩などが挙げられる。
【0044】
セレニウム塩としては、例えば、トリフェニルセレニウム塩、トリ−p−トリルセレニウム塩、トリ−o−トリルセレニウム塩、トリス(4−メトキシフェニル)セレニウム塩、1−ナフチルジフェニルセレニウム塩などのトリアリールセレニウム塩;ジフェニルフェナシルセレニウム塩、ジフェニルベンジルセレニウム塩、ジフェニルメチルセレニウム塩などのジアリールセレニウム塩;フェニルメチルベンジルセレニウム塩などのモノアリールセレニウム塩;ジメチルフェナシルセレニウム塩などのトリアルキルセレニウム塩などが挙げられる。
【0045】
アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、エチルトリメチルアンモニウム塩、ジエチルジメチルアンモニウム塩、トリエチルメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリメチル−n−プロピルアンモニウム塩、トリメチル−n−ブチルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウム塩;N,N−ジメチルピロリジウム塩、N−エチル−N−メチルピロリジウム塩などのピロリジウム塩;N,N′−ジメチルイミダゾリニウム塩、N,N′−ジエチルイミダゾリニウム塩などのイミダゾリニウム塩;N,N′−ジメチルテトラヒドロピリミジウム塩、N,N′−ジエチルテトラヒドロピリミジウム塩などのテトラヒドロピリミジウム塩;N,N−ジメチルモルホリニウム塩、N,N−ジエチルモルホリニウム塩などのモルホリニウム塩;N,N−ジメチルピペリジニウム塩、N,N−ジエチルピペリジニウム塩;N−メチルピリジニウム塩、N−エチルピリジニウム塩などのピリジニウム塩;N,N′−ジメチルイミダゾリウム塩などのイミダゾリウム塩;N−メチルキノリウム塩などのキノリウム塩;N−メチルイソキノリウム塩などのイソキノリウム塩;ベンジルベンゾチアゾニウム塩などのチアゾニウム塩;ベンジルアクリジウム塩などのアクリジウム塩などが挙げられる。
【0046】
ホスホニウム塩としては、例えば、テトラフェニルホスホニウム塩、テトラ−p−トリルホスホニウム塩、テトラキス(2−メトキシフェニル)ホスホニウム塩などのテトラアリールホスホニウム塩;トリフェニルベンジルホスホニウム塩などのトリアリールホスホニウム塩;トリエチルベンジルホスホニウム塩、トリブチルベンジルホスホニウム塩、テトラエチルホスホニウム塩、テトラブチルホスホニウム塩、トリエチルフェナシルホスホニウム塩などのテトラアルキルホスホニウム塩などが挙げられる。
【0047】
遷移金属錯体イオンの塩としては、(η5−シクロペンタジエニル)(η6−トルエン)Cr+、(η5−シクロペンタジエニル)(η6−キシレン)Cr+などのクロム錯体カチオンの塩;(η5−シクロペンタジエニル)(η6−トルエン)Fe+、(η5−シクロペンタジエニル)(η6−キシレン)Fe+などの鉄錯体カチオンの塩などが挙げられる。
【0048】
前記カチオンと塩を形成するためのアニオン(対イオン)としては、例えば、SbF6-、PF6-、BF4-、(CF3CF23PF3-、(CF3CF2CF23PF3-、(C654-、(C654Ga-、スルホン酸アニオン(トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ペンタフルオロエタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロブタンスルホン酸アニオン、メタンスルホン酸アニオン、ベンゼンスルホン酸アニオン、p−トルエンスルホン酸アニオン)、(CF3SO23-、(CF3SO22-、過ハロゲン酸イオン、ハロゲン化スルホン酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、アルミン酸イオン、ヘキサフルオロビスマス酸イオン、カルボン酸イオン、アリールホウ酸イオン、チオシアン酸イオン、硝酸イオンなどが挙げられる。
【0049】
本発明における光カチオン重合開始剤(B)としては、樹脂組成物に可視光域の波長の光を照射した際に蛍光をほとんど発しないものが好ましい。このような性質を有する光カチオン重合開始剤の具体例として、例えば、トリフェニルスルホニウム塩、トリ−o−トリルスルホニウム塩、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウム塩、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム塩などのトリアリールスルホニウム塩を挙げることができる。このうちジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム塩は、蛍光発色性不純物の混入が少なく、光を照射した際の酸発生能力に優れることから特に好ましい。また、対イオン(アニオン)としては、特に、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオンなどが好ましい。
【0050】
前記ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム塩は米国特許第4231951号に記載の方法により製造されるが、本発明において使用されるジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム塩としては、副生物としての二量体を実質的に含まないものが好ましい。このようなジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム塩の具体例としては、商品名「CPI−101A」(サンアプロ(株)製、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート50%炭酸プロピレン溶液)、商品名「CPI−100P」(サンアプロ(株)製、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファート50%炭酸プロピレン溶液)、商品名「K1−S」(サンアプロ(株)製、非アンチモン系トリアリールスルホニウム塩)などが挙げられる。
【0051】
なお、有機材料系でバイオチップ基板を作製した場合の課題である生体物質(例えばDNA、たんぱく質、細胞)への非毒性、低損傷性の付与に鑑みると、光カチオン重合開始剤(B)としては、なかでも、商品名「CPI−100P」(サンアプロ(株)製、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファート50%炭酸プロピレン溶液)、商品名「K1−S」(サンアプロ(株)製、非アンチモン系トリアリールスルホニウム塩)が好ましい。特に、商品名「CPI−100P」(サンアプロ(株)製、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファート50%炭酸プロピレン溶液)を使用した場合には、本発明のエポキシ樹脂(A)の塗膜表面上で細胞を培養した際に細胞の成長性が良好であり、且つ培養液に浸漬した場合のガラス基板からの耐剥離性に顕著な向上がみられた。よって、光カチオン重合開始剤(B)としては、商品名「CPI−100P」(サンアプロ(株)製、ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファート50%炭酸プロピレン溶液)の使用が特に好ましい。
【0052】
本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物において、光カチオン重合開始剤(B)の含有量が少なすぎる場合は、充分な硬化速度を得ることが難しくなる。また、光カチオン重合開始剤(B)を必要以上に多くした場合は、経済的ではない。これらの観点から、本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物における光カチオン重合開始剤(B)の使用割合は、前記エポキシ樹脂(A)[エポキシ化合物(A1)とエポキシ化合物(A2)の総量]100重量部に対して、例えば1〜20重量部、好ましくは4〜12重量部である。
【0053】
[溶剤(C)]
本発明において、溶剤(C)としては、特に制限はなく、1種単独で又は2種以上を混合して使用できる。溶剤(C)としては、、そのものに蛍光発光が少なく、さらに光照射時及び熱硬化時に起こる副反応で自家蛍光を発する副生成物を生成しにくい溶剤が好ましい。このような溶剤の具体例としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルなどの各種グリコールエーテル系溶剤が挙げられる。これらの中でも、特に蛍光物質を発生し難いことと乾燥性の観点からシクロペンタノンが好ましい。
【0054】
溶剤(C)は、基板に感光性樹脂組成物を塗布する際の膜厚や塗布性を調整する目的で加えられる。バイオチップ形成用感光性樹脂組成物における溶剤(C)の含有量は、前記エポキシ樹脂(A)及び光カチオン重合開始剤(B)に対する溶解性、その揮発性、塗工液としての液粘度を適正に保持するため、通常5〜95重量%、好ましくは25〜60重量%である。
【0055】
[その他の成分]
本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物には、本発明の趣旨を損なわない範囲で、より一層の性能向上のために種々の添加剤を加えることができる。添加剤を加える場合は、添加剤自体に自家蛍光がなく、また使用される光カチオン重合開始剤(B)との反応で自家蛍光を発するような生成物を副生しないものを用いることが好ましい。このような目的で使用される添加剤としては、本発明の必須成分であるエポキシ樹脂(A)以外の光カチオン重合性化合物、界面機能付与剤、その他の添加剤などが挙げられる。
【0056】
エポキシ樹脂(A)以外の光カチオン重合性化合物としては、本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物との間に混和性のある化合物が用いられる。このような光カチオン重合性化合物としては、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、環状エーテル化合物、環状ラクトン化合物、環状アセタール化合物、環状チオエーテル化合物、スピロオルトエステル化合物、ビニル化合物などが挙げられる。これらの化合物は、1種または2種以上使用することができる。中でも入手するのが容易であり、取り扱いに便利なエポキシ化合物が適している。
【0057】
上記脂環式エポキシ化合物の具体例としては、本発明の必須成分であるエポキシ樹脂(A)以外のものであり、少なくとも1個の脂環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル、またはシクロヘキセンやシクロペンテン環含有化合物を酸化剤でエポキシ化することによって得られるシクロヘキセンオキサイドやシクロペンテンオキサイド含有化合物などが挙げられる。
【0058】
例えば、脂環式エポキシ化合物として、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシル−3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアルコール、エチレングリコールジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0059】
上記脂肪族エポキシ化合物の具体例としては、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートのビニル重合により合成したホモポリマー、グリシジルアクリレート、またはグリシジルメタクリレートとその他のビニルモノマーとのビニル重合により合成したコポリマー等が挙げられる。
【0060】
代表的な脂肪族エポキシ化合物としては、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテルなどの多価アルコールのグリシジルエーテル、またプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステルが挙げられる。さらに、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテルや高級脂肪酸のグリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸オクチル、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシ化アマニ油、エポキシ化ポリブタジエン等を用いることもできる。
【0061】
上記エポキシ化合物以外の光カチオン重合性化合物の具体例としては、トリメチレンオキサイド、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ジクロロメチルオキセタン等のオキセタン化合物、テトラヒドロフラン、2,3−ジメチルテトラヒドロフラン等のトリオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3,6−トリオキサシクロオクタン等の環状エーテル化合物、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状ラクトン化合物、エチレンスルフィド等のチイラン化合物、トリメチレンスルフィド、3,3−ジメチルチエタン等のチエタン化合物、テトラヒドロチオフェン誘導体等の環状チオエーテル化合物、エポキシ化合物とラクトンとの反応によって得られるスピロオルトエステル化合物、スピロオルトカーボナート化合物、環状カーボナート化合物、エチレングリコールジビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、3,4−ジヒドロピラン−2−メチル(3,4−ジヒドロピラン−2−カルボキシレート)、トリエチレングリコールジビニルエーテル等のビニルエーテル化合物、スチレン、ビニルシクロヘキセン、イソブチレン、ポリブタジエン等のエチレン性不飽和化合物及び上記誘導体等が挙げられる。
【0062】
本発明の必須成分であるエポキシ樹脂(A)以外の光カチオン重合性化合物の配合量は、エポキシ樹脂(A)[エポキシ化合物(A1)とエポキシ化合物(A2)の総量]100重量部に対して、100重量部以下が好ましく、より好ましくは50重量部以下、特に好ましくは20重量部以下である。
【0063】
本発明では、生体物質(例えばDNA、たんぱく質、細胞)との親和性を付与する目的で界面機能付与剤を添加してもよい。界面機能付与剤の機能としては塗膜表面の疎水性と親水性のバランスを制御し得るものであれば特に限定されず、各種界面活性剤、ポリオール類を用いることができる。これら界面機能付与剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。界面機能付与剤は多量に使用すると当該塗膜の基板に対する耐剥離性の低下を引き起こしたり、パターニング性を悪くする場合がある。少量でも効果を発揮する点から、悪影響を及ぼさない範囲内での使用が適当である。
【0064】
本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物には、その他の添加剤として、熱可塑性樹脂、増粘剤、消泡剤、レベリング剤などの各種添加剤を用いることができる。これらの添加剤を使用する場合、その配合量は本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物100重量部に対して、それぞれ0.1〜20重量部程度が一応の目安であるが、使用目的に応じて適宜増減し得る。
【0065】
さらに、本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物には、例えば硫酸バリウム、チタン酸バリウム、酸化ケイ素、無定形シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、雲母などの無機充填剤を添加することもできる。
【0066】
本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(A)[エポキシ化合物(A1)及びエポキシ化合物(A2)]と、光カチオン重合開始剤(B)、溶剤(C)、及び必要に応じて他の成分を、好ましくは前記の割合で配合し、ディゾルバーなどの攪拌機にて均一に混合、溶解、分散することにより調製することができる。本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物は、好ましい態様では液状で使用される。
【0067】
本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物をフォトリソグラフィーに付すことにより、アスペクト比が高く高精細なパターンを形成することができる。例えば、ガラス、シリコンウエハ等の基板上に、例えば1〜1000μmの厚み(好ましくは10〜200μmの厚み)で、スピンコーターなどを用いて塗布し、例えば40℃〜130℃で5分〜24時間程度加熱して溶剤を除去し、感光性樹脂組成物の層を形成した後、所定のパターンを有するマスクを載置して高圧水銀灯などの光源を用い、例えば10〜10000mJ/cm2のエネルギー量で紫外線を照射し、例えば50〜130℃で1〜60分間程度の加熱処理を行った後、未露光部分を現像液を用いて、室温〜50℃で1〜180分間程度現像してパターンを形成し、必要に応じてさらに加熱処理を施すことで諸特性を満足する永久硬化膜(パターン)を得ることができる。
【0068】
現像液としては、特に制限はないが、例えば、γ−ブチロラクトン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの有機溶剤、あるいは、これら有機溶剤と水の混合液などを用いることができる。現像は浸漬法、パドル型、スプレー型、シャワー型などの現像装置を用いてもよく、必要に応じて超音波照射を行ってもよい。
【0069】
本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物から、それ自体公知の種々に方法により成形体を作製することができる。
【0070】
[ドライフィルムレジスト]
本発明のドライフィルムレジストは、ベースフィルム上に前記本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を塗布して形成された感光性樹脂層が設けられている。さらに該感光性樹脂層の上にカバーフィルムが積層されていてもよい。
【0071】
本発明のドライフィルムレジストは、例えば、前記本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を、ベースフィルム(基材)上に、例えば、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、バーコーター、グラビアコーターなどにより塗布した後、例えば45〜100℃に設定した乾燥炉で乾燥し、所定量の溶剤を除去することにより、また必要に応じてカバーフィルム(基材)などを積層することにより製造できる。この際、ベースフィルム上のレジストの厚さは、例えば2〜100μmに調整される。
【0072】
ベースフィルム及びカバーフィルムとしては、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、トリアセチルセルロース、ポリイミドなどのポリマーフィルムを使用し得る。これらのフィルムは、必要に応じて、シリコン系離型剤や非シリコン系離型剤などにより離型処理されてもよい。
【0073】
このようなドライフィルムレジストを使用するには、例えばカバーフィルムを剥がして、ハンドロール、ラミネーターなどにより、40〜100℃、圧力0.5〜20kg重/cm2の条件で基板、支持体などに転写し、前記と同様に露光、露光後熱処理、現像、加熱処理を施せばよい。
【0074】
本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物をドライフィルムレジストに加工して使用すれば、支持体、基板上への塗布、および乾燥の工程を省略することが可能であり、より簡便に本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を用いたパターン形成が可能となる。
【0075】
[バイオチップ]
本発明におけるバイオチップとは、医療検査、食品検査に供され、細胞培養やセルソーター、生化学分析、環境分析、化学合成など種々の生化学あるいは化学プロセスを行なわせるために、基板上に数μmから数百μmの微細な流路(マイクロチャネル)やミキサーなどの素子や検出部などが設けられたものである。バイオチップには必要に応じて薬液を投入するための注入孔が設けられてもよい。
【0076】
本発明の第1のバイオチップは、第1の基板上に前記本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を塗布して形成された感光性樹脂層をフォトリソグラフィーに付してパターンを形成し、該パターン上に第2の基板を積層して得られる積層体である。第2の基板として、薬液投入用の導入口の設けられた基板を用いることもできる。
【0077】
また、本発明の第2のバイオチップは、基板上に前記本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を塗布して形成された感光性樹脂層をフォトリソグラフィーに付してパターンを形成し、該パターン上に、上記のドライフィルムレジストを、該ドライフィルムレジストの感光性樹脂層が前記パターンと接するようにして積層し、さらに該感光性樹脂層をフォトリソグラフィーに付してパターンを形成して得られる積層体である。
【0078】
上記基板としては、感光性樹脂層を均一に形成でき、かつ感光性樹脂層形成時およびその後の工程においても溶解や変形などを起こさない基板であればいずれでもよい。このような基板としては、シリコン、石英、ガラス、サファイア、金属、セラミックなどの無機材料、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂などの有機材料などで作製されたものが挙げられる。また、流路などの観察や光分析を行なう場合は、光透過性に優れるものが好ましく、例えば石英、ガラスなどの無機材料やアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンコポリマーなどのプラスチック材料が挙げられる。
【0079】
フォトリソグラフィーによる流路パターン等のパターン形成は上記と同様にして行うことができる。
【0080】
本発明のバイオチップは、流路等となるパターンが特定の2種のエポキシ化合物の硬化物で構成されているため、高いアスペクト比(レジストパターンの高さ対横幅比)、パターンの高精細化が可能であり、該パターンの基板に対する密着性が高く、自家蛍光性が低く、しかも培養細胞に対する損傷性が極めて低いという特性を有する。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例によりさらにに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例において、特に断りのない限り、部は重量部を、%は重量%をそれぞれ意味する。
【0082】
実施例1
ダイセル化学工業社製、商品名「EHPE 3150」[2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物;固体状多官能脂環型エポキシ樹脂]50部、ダイセル化学工業社製、商品名「エポリード GT401」[エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス−(3−シクロヘキセニルメチル)修飾ε−カプロラクトン;液状多官能脂環型エポキシ樹脂]10部、光カチオン重合開始剤(サンアプロ社製、商品名「CPI−100P」;ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファート50%炭酸プロピレン溶液)5.5部、及びシクロペンタノン(溶剤)50部を撹拌混合して、感光性樹脂組成物を調製した。
得られた感光性樹脂組成物を、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を塗布したガラス基板(2cm×2cm)上にスピンコーターを用いて均一に塗布し、感光性樹脂組成物層を形成した。なお、ガラス基板表面へのHMDSの塗布(スピンコーターで塗布後にホットプレートにより80℃で5分乾燥させる)は、ガラス基板と当該エポキシ樹脂との密着性を向上させる目的がある。形成した感光性樹脂組成物層をホットプレートにより65℃で5分および95℃で20分の露光前ベークを行った。その後、露光装置(ナノテック社製、片面マスクアライナーLA310、波長350nm以上光照射)を用いてマスク転写時の精度が最良となる露光量で露光を行なった。ホットプレートにより65℃で1分および95℃で5分の露光後ベーク(PEB)を行い、日本化薬社製の現像液(商品名「SU−8 developer」)を用いて浸漬法により23℃で2分〜10分間現像処理を施し、続いてイソプロピルアルコールに23℃で1分〜5分、浸漬法にてリンスすることで、基板上に硬化した塗膜及びパターンを得た。
【0083】
比較例1
感光性樹脂組成物として、日本化薬社製の光硬化性エポキシ樹脂組成物(商品名「SU−8 3010」;光カチオン重合触媒含有エポキシ樹脂組成物)を用いた以外は実施例1と同様にして、基板上に硬化した塗膜及びパターンを得た。
【0084】
評価試験
実施例及び比較例で得られた各硬化塗膜について下記の評価を行った。結果を表1に示す。なお、下記(2)及び(3)において、培地としては、DMEM−10%FBS[DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地;シグマ−アルドリッチ社製)に体積比で10%相当のFBS(ウシ胎児血清;シグマ−アルドリッチ社製)を添加したもの]を用いた。
【0085】
(1)低自家蛍光性
日立社製分光光度計F-4500を用い、365nmで励起し最大蛍光波長領域(430nm)の蛍光強度を比較した。
【0086】
(2)培養液中でのガラス基板からの耐剥離性
表面に硬化塗膜が形成されたガラス基板を3.5cmシャーレに入れて60℃で36時間殺菌処理を施した。100%コンフルまで培養したMIN6−m9細胞から細胞懸濁液(2.5×105 cells/ml)を調製し、各板が入った3.5cmシャーレに1ml、培地2.5mlを滴下した。続いて5%CO2インキュベータに入れて培養し、1日ごとに塗膜の様子を撮影し、耐剥離性を評価した。
【0087】
(3)培養細胞への低損傷性
表面に硬化塗膜が形成されたガラス基板を3.5cmシャーレに入れて60℃で36時間殺菌処理を施した。100%コンフルまで培養したMIN6−m9細胞から細胞懸濁液(2.5×105 cells/ml)を調製し、各板が入った3.5cmシャーレに1ml、培地2.5mlを滴下した。続いて5%CO2インキュベータに入れて培養し、1日ごとに細胞の様子を撮影した。撮影結果から細胞の増殖速度と形態を比較して細胞への損傷性を評価した。細胞培養開始1日目の結果を表1に示す。
なお、対照(参考例1)として、表面に硬化塗膜が形成されたガラス基板の代わりに、2cm×2cmのガラス基板(表面に酸素プラズマ処理を施している)を用いた以外は上記と同様にして細胞を培養した。
【0088】
なお、表1において、「細胞の相対増殖速度」は、ガラス基板(参考例1)での増殖速度を10とした相対値である。「細胞の形態」に関しては、細胞の増殖が進むに伴い、形態は粒状から平面不定形状へと進展する。「総合評価」は、ガラス基板(参考例1)での総合評価を10とした相対値である。
【0089】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を用いて製造されたバイオチップは、細胞への損傷性が低減されるものであり、培養中に塗膜が基板から剥がれることがないので、使用時に剥離を回避するための圧着冶具が不要となる。加えて、培養した細胞種の区別や細胞の生死を蛍光顕微鏡で観察する際に、当該塗膜の自家蛍光が低減されているため、従来より高感度で識別が可能となる。したがって、本発明のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物はバイオチップの形成材料として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

[式(1)中、R1はm個の活性水素を有する有機化合物から活性水素を除いた残基を示し、Aは置換基を有するオキシシクロヘキサン骨格であり、次式(a)
【化2】

[式(a)中、Xは、下記式(b)、(c)、(d)
【化3】

[式(d)中、R2は、水素原子、アルキル基、アルキルカルボニル基又はアリールカルボニル基を示す]
の何れかの基を示す]
で表される基を示す。nは0〜100の整数を示し、mは1〜100の整数を示す。mが2以上の場合、m個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、nが2以上の場合、n個のAはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、式(1)中に少なくとも1個のAを有し、且つAのうち少なくとも1つは式(a)中のXが式(b)で表される基である]
で表されるエポキシ化合物(A1)、下記式(2)
【化4】

[式(2)中、R3は炭素数3〜30の3価以上の脂肪族、脂環式又は芳香族カルボン酸からカルボキシル基を除いた残基を示す。Bは、次式(e)
【化5】

[式(e)中、Ra、Rbは、同一又は異なって、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。rは4〜8の整数を示す。r個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい]
で表される基を示す。Yは、次式(f)
【化6】

[式(f)中、Rd1、Rd2、Rd3、Rd4、Rd5、Rd6、Rd7、Rd8、Rd9は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜9のアルキル基を示す]
で表される基を示す。qは0以上の整数、pは3以上の整数を示す。qが2以上の場合、q個のBはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、p個の括弧内の基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、式(2)中に少なくとも1個のBを有する]
で表されるエポキシ化合物(A2)、光カチオン重合開始剤(B)及び溶剤(C)を含有するバイオチップ形成用感光性樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシ化合物(A1)とエポキシ化合物(A2)の含有比率が、前者/後者(重量比)=1/99〜99/1である請求項1記載のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物。
【請求項3】
光カチオン重合開始剤(B)が、トリアリールスルホニウム塩である請求項1又は2記載のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物。
【請求項4】
溶剤(C)が、ケトン系溶剤、エステル系溶剤及びグリコールエーテル系溶剤からなる群より選択された少なくとも1種の溶剤である請求項1〜3の何れか1項に記載のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物。
【請求項5】
ベースフィルム上に請求項1〜4の何れか1項に記載のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を塗布して形成された感光性樹脂層が設けられているか、又は、さらに該感光性樹脂層の上にカバーフィルムが積層されていることを特徴とするドライフィルムレジスト。
【請求項6】
第1の基板上に請求項1〜4の何れか1項に記載のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を塗布して形成された感光性樹脂層をフォトリソグラフィーに付してパターンを形成し、該パターン上に第2の基板を積層して得られるバイオチップ。
【請求項7】
基板上に請求項1〜4の何れか1項に記載のバイオチップ形成用感光性樹脂組成物を塗布して形成された感光性樹脂層をフォトリソグラフィーに付してパターンを形成し、該パターン上に、請求項5記載のドライフィルムレジストを、該ドライフィルムレジストの感光性樹脂層が前記パターンと接するようにして積層し、さらに該感光性樹脂層をフォトリソグラフィーに付してパターンを形成して得られるバイオチップ。

【公開番号】特開2012−247656(P2012−247656A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120007(P2011−120007)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】