説明

バイオチップ用基板及びバイオチップ

【課題】 スポットが拡散したり、隣同士の接触により、クロスコンタミネーションを起こすことがないバイオチップ用基板及びそれを用いたバイオチップを提供すること。
【解決手段】 生体関連物質を固定化する複数の凹部を基板に形成することにより、スポットが拡散したり、隣同士の接触により、クロスコンタミネーションを起こすことがないバイオチップ用基板及びそれを用いたバイオチップを提供する。
【効果】 スポットが拡散したり、隣同士の接触により、クロスコンタミネーションを起こすことがないバイオチップ用基板及びバイオチップが提供された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸、ペプチド、糖等の生体関連物質を固定化したバイオチップ及びそのための基板に関する。
【背景技術】
【0002】
平板状の基板表面にDNA、プロティンを固定化させたバイオチップには、フォトリソグラフィを用いて基板表面でオリゴヌクレオチドを合成するAffymetrix法と、予め準備したプローブDNA、プローブプロティンをスポットして基板表面に固定化するStanford法があり、いずれの場合もターゲットとの生化学反応後に蛍光を検出し、そのパターンから分子識別や診断を行うことは良く知られている。
【0003】
上記2法の内、Affymetrix法は基板表面で合成するため、安定的な固定化や長いオリゴヌクレオチドの合成が困難であり、コストも高いという欠点があった。また、Stanford法はプローブDNA、プローブプロティンなどの微少なスポットを基板表面に載せ、吸着や共有結合で被認識分子を固定化するために、基板表面に共有結合型のアミノ基、アルデヒド基、シラノ基、エポキシ基あるいは非共有結合型のポリリジンを付与しておくが、基板全面に付与するため、スポットが拡散したり、隣同士の接触により、クロスコンタミネーションをおこしたり、スポット法によっては、載せる量がスポットごとに違ったりすることが知られていた。特に被認識分子の疎水性やイオン化しやすさなど分子そのものの性質によっても量や形状(たとえばスポットの直径)がどのスポットにおいても均一であるということが無くなるのが現実である。近年はDNAチップが普及しており、その多くがガラスを基板材料に用いているが、ガラス表面のシラノール基の修飾では置換量は少なく一般に用いられるスライドガラスでは一枚あたりが数ナノモルであり固定化能力は低かった。更に、吸着の場合不特定吸着が強く、生化学反応後の洗浄を行っても残存する、非反応部の蛍光物質が検出のS/N比を下げるという欠点もあった。
【0004】
【特許文献1】特開2001-128683号公報
【特許文献2】特表2005-510440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、スポットが拡散したり、隣同士の接触により、クロスコンタミネーションを起こすことがないバイオチップ用基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、生体関連物質を固定化する複数の凹部を基板に形成することにより、スポットが拡散したり、隣同士の接触により、クロスコンタミネーションを起こすことがないバイオチップ用基板を提供できることに想到し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、生体関連物質を固定化する複数の凹部を基板に形成したバイオチップ用基板を提供する。また、本発明は、上記本発明の基板上に、生体関連物質を固定化したバイオチップを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、スポットが拡散したり、隣同士の接触により、クロスコンタミネーションを起こすことがないバイオチップ用基板及びバイオチップが提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記の通り、本発明のバイオチップ用基板は、生体関連物質を固定化する凹部を複数有する。1枚当りの凹部の数は特に限定されないが、常用されているスライドグラス大の基板当り通常100個ないし5万個程度、好ましくは1000個ないし1万個程度である。各凹部の容量は、特に限定されないが、好ましくは1nLないし10nLである。このような小さな容量の凹部内において、被検試料中の標的分子の所望の結合が、溶液系において検出可能な程度に起きることはこれまでに知られておらず、本発明において初めて得られた知見である。各凹部の容量が小さいということは、反応に供する被検試料の量も少なくてよいということであり、貴重な被検試料の容量を少なくすることができ有利である。溶液系の結合反応が行なわれているマイクロプレートのウェルは、各ウェル当りの容量が200〜300μLであり、本願発明者らは、マイクロプレートのウェルの1万分の1以下の容量でも溶液系において所望の結合反応が検出可能であることを初めて知見した。各凹部のサイズは、特に限定されないが、凹部の形状が円筒状の場合、直径が50μmないし350μm、深さが10μm〜200μm程度で、容量が上記した1nLないし10nL程度になるものが好ましい。また、凹部の形状は何ら限定されないが、製造の容易性の観点から円筒状のものが好ましい。
【0010】
凹部の内壁(底面を含む)は、グラファイト、ダイヤモンド、ダイヤモンドライク炭素又はアモルファス炭素等のような炭素で形成されていることが好ましい。このような炭素材料には、後述する方法により、生体関連物質を固定化するのに有用な活性基を容易に高密度に結合させることができる。
【0011】
凹部の内壁を炭素で形成する1つの好ましい態様として、基板を金属で形成し、凹部の内部にのみグラファイト、ダイヤモンド、ダイヤモンドライク炭素又はアモルファス炭素等のような炭素層を形成したものを挙げることができる。この場合、基板を構成する金属としては、アルミニウム、チタン及びステンレススチール並びにこれらの少なくとも一種を含む合金から成る群より選ばれる金属が、加工が容易で、かつ、剛性があるために平坦性に優れ、表面硬度が高いために研磨後の平滑性に優れるなどの理由で好ましい。
【0012】
金属製の基板本体が曲がっていたり表面に凹凸があると、乱反射が多くなったり、検出時の焦点が合わなかったりして、検出時のS/N比が下がるので、基板本体は平坦でかつその表面が平滑であることが好ましい。このため、打ち抜きなどの寸法加工後に加圧焼鈍を行い歪みを取り去ると共に平坦性を向上させ、次いで表面の研削加工を施して平滑化した後、更に表面を研磨して表面精度を上げて基板本体を製造することが好ましい。これらの平坦/平滑化加工は、金属加工の常法により行うことができる。なお、金属がアルミニウム又はアルミニウム合金である場合には、柔らかくて表面精度を確保し難いので、無電解NiPめっきや陽極酸化などの硬質化処理を表面に施すことが好ましい。基板本体の表面の表面粗さRaは1nm未満であることが好ましい。Raの下限は特にないが、通常、0.2nm程度が加工精度の限界に近い。また、基板本体の表面の平坦度は、5μm未満であることが好ましい。基板本体の厚さは何ら限定されないが、通常、0.5mm〜2mm程度である。また、アルミニウム又はアルミニウム合金から成る基板本体上にNiP等のめっき層を形成したり、その表面を陽極酸化して酸化物層を形成する場合、これらのめっき層や酸化物層の厚さも何ら限定されないが、通常、5μm〜30μm程度である。
【0013】
金属製の基板に凹部を形成する方法としては、微少ドリルを用いた機械的加工、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザーなどのレーザー加工、フォーカスドイオンビーム加工などのエネルギー照射加工、リソグラフィ加工又はプレス加工等を用いて行うことができる。
【0014】
金属製基板の各凹部の内部に炭素層を形成する場合、該炭素層は、グラファイト、ダイヤモンド、ダイヤモンドライク炭素、アモルファス炭素等の、炭素から成る層であり、これらはスパッタ法、蒸着法、CVD(chemical vapor deposition)法等により形成することができる。すなわち、グラファイト層は、例えば、グラファイト粒子を蒸着源とする真空蒸着法により、形成することができる。ダイヤモンド層は、例えば、熱フィラメントCVD装置を用いて低圧気相合成法により、形成することができる。ダイヤモンドライク炭素は、例えば、イオンビームスパッタ法あるいは高周波プラズマCVD法により、形成することができる。アモルファス炭素は、例えば、高周波スパッタ法により、形成することができる。これらは、市販の装置を用いて容易に行うことができる。なお、上記のように、めっき層や酸化物層が形成される場合にはその上に炭素層が形成される。すなわち、炭素層は、基板本体の表面上に直接又は他の層を介して間接的に積層される。
【0015】
金属製基板の各凹部の内部に炭素層を形成する場合、該炭素層は、各凹部の内部にのみ形成され、凹部間の基板表面には形成しないことが好ましい。後述のように、炭素層には生体関連物質を固定化するための活性基を結合することができるが、各凹部の内部にのみ炭素層が形成され、凹部間の基板表面には形成されない場合には、炭素層に結合される活性基も凹部内にのみ存在することになり、凹部内にのみ生体関連物質が固定化されることが確保される。炭素層を凹部内にのみ形成することは、例えば、基板の全面に上記したスパッタ法、蒸着法、CVD法等により炭素層を形成し、次いで、凹部間の基板表面には形成された炭素層を研削して削り取ることにより行なうことができる。この方法によれば、小さな凹部の内部にのみ炭素層を容易に形成することができる。
【0016】
凹部の内壁を炭素で形成する他の好ましい方法として、基板全体を炭素製にすることを挙げることができる。基板自体をグラファイト又はアモルファス炭素等のような炭素で形成することにより、凹部の内壁を炭素で形成することができる。この場合、凹部の形成は、微少ドリルを用いた機械的加工、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザーなどのレーザー加工、フォーカスドイオンビーム加工などのエネルギー照射加工、リソグラフィ加工、射出成形、多数の硬質の針によるスタンプ等により行うことができる。基板全体を炭素製にする場合でも、基板表面は平坦であることが好ましく、金属製の基板について上記した範囲の表面粗さを有することが好ましい。このような表面粗さは、市販の研磨機により表面を研磨することにより行うことができる。その際の研磨は基板全体に活性基を付与した後に行って、凹部間の基板表面に形成された活性基を除去する。
【0017】
凹部の内壁を構成する炭素は、生体関連物質を固定化するための活性基を有していることが好ましい。活性基は、凹部内壁を構成する炭素材料に活性基を結合させることにより付与することができる。活性基としては、特に限定されないが、炭素に共有結合されたアミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、スルフィドリル基及びエポキシ基を例示することができる。これらの中でもアミノ基は、汎用性が高く、生体関連物質との結合も容易であるので特に好ましい。これらの共有結合により炭素に結合されるこれらの官能基は、プラズマあるいは紫外線照射によって炭素のC−C結合、C=C結合、C−O結合を切り、ラジカル化したCと、該官能基又は該官能基を有する化合物とを結合させることにより炭素に共有結合させることができる。例えば、アミノ基は、下記実施例に詳述するように、炭素材料に大気雰囲気下で紫外線を照射することにより、大気中の酸素をオゾンに変えてこのオゾンを炭素と作用させ、次いで、排気後、塩素ガスを作用させて炭素を塩素化し、さらに、排気後、アンモニアガスを作用させて炭素をアミノ化することにより炭素に共有結合させることができる。また、アンモニアプラズマ照射で直接導入する事もできる。またアルゴンプラズマ照射基板表面にラジカルを形成させ、空気酸化でパーオキサイドとし、アリルアミン等との反応によってもアミノ基を表面で生成できる。アルデヒド基は、例えば、炭素表面を酸塩化物にして還元することで得られる。カルボキシル基は、例えば、アミノ基をジアゾニウムイオンとし、ニトリルに変換した後、これを加水分解することで得られる。また、アルキル基を過マンガン酸カリ等で酸化させても得られる。スルフィドリル基は、例えば、炭素表面を光などでハロゲン化し、生成するハロゲン化アルキルにチオ−ルを反応させて得ることができる。エポキシ基は、例えば、炭素・炭素二重結合を過酸で処理してつくることができる。これらはいずれも当業者にとって周知の有機合成化学の反応に基づき行うことができる。また、活性基は、必ずしも共有結合により炭素に結合させる必要はなく、活性基を有する化合物を炭素材料に非共有結合的に物理吸着させてもよい。例えば、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸であるリジンを重縮合したポリリジンを炭素材料に物理吸着させることにより炭素材料にアミノ基を付与することができる。炭素材料に付与する活性基の密度は、特に限定されないが、炭素材料1cm2当り通常10 pmol〜1000 pmol程度、好ましくは、100 pmol〜300 pmol程度である。
【0018】
上記した本発明のバイオチップ用基板の凹部に生体関連物質を固定化することによりバイオチップを得ることができる。ここで、生体関連物質としては、DNA、RNA等の核酸、各種タンパク質、抗体、酵素並びに合成及び天然ペプチド等のペプチド、多糖類、少糖類等の糖類、各種脂質、並びにこれらの複合体(糖タンパク質、糖脂質、リポタンパク質等)を例示することができる。また、細胞自体を固定化することも可能であり、細胞自体も本願発明で言う「生体関連物質」に包含される。さらに、補酵素、抗原エピトープ、ハプテンのような低分子化合物も、酵素や抗体のような生体高分子と特異的に相互作用するので本願発明で言う「生体関連物質」に包含される。これらの生体関連物質は、そのまま上記炭素層に結合することもできるし、生体関連物質をプラスチックビーズ等の他の担体上に担持した状態で上記炭素層に結合することもできる。
【0019】
活性基を有する炭素材料上への生体関連物質の固定化は、上記した活性基を介して周知の方法により行なうことができる。例えば、活性基がアミノ基である場合、下記実施例に詳述するように、アミノ基をブロモ酢酸とカルボジイミドにより相当する無水物とし、アミノ基と反応させて表面をブロモアセチル化し、ついでペプチド等の生体関連物質中のスルフィドリル基と反応させることにより、固定化することができる。あるいは、グルタルアルデヒドを介して生体関連分子中のアミノ基と反応させて固定化できる。活性基がアルデヒド基の場合には、固定化したい生体分子のアミノ基と共有結合で固定化できる。活性基がカルボキシル基の場合には、N−ヒドロキシスクシンイミドとエステルを形成し生体関連物質のアミノ基と結合できる。活性基がスルフィドリル基の場合には、生体関連分子のアミノ基を選択的にブロモアセチル化することにより固定化できる。あるいは同じスルフィドリル基とジスルフィドを介して固定化できる。さらに、スルフィドリル基は固定化する位置のアミノ基を選択的にマレイミド化(たとえばN−6マレイミドカプロン酸とアミノ基とを縮合させる)して反応させることで固定化できる。活性基がエポキシ基の場合には、同様にマレイミドのついた生体関連物質と反応することにより固定化することができる。
【0020】
なお、凹部内壁が活性基を有さない場合にはもちろんのこと、凹部内壁が活性基を有する場合であっても必ずしも生体関連物質を共有結合により固定化する必要はない(下記実施例3参照)。単に、固定化すべき生体関連物質の溶液を凹部に入れ、乾燥させることにより生体関連物質を凹部内に付着させたものでもバイオチップとして用いることができる。この場合には、標的物質と結合することにより蛍光等が変化する生体関連物質を凹部に入れておく。このようなドライ形式のバイオチップを用いた場合、簡便かつ微量な検体の検出が可能である。溶液での測定とは異なり、測定溶液を乾燥させて測定を行うことより、検出溶液である生体関連物質溶液を乾燥させることでチップの持ち運びや保存が可能である。また、測定を行う際も、被検試料溶液を添加し溶け出した生体関連物質と被検試料との結合反応を行った後に乾燥し、測定することで、微量溶液測定時の蒸発を気にしない簡便な測定法を実現することができる。また当該基板は再利用もできる。
【0021】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
1. バイオチップ用基板の製造(その1)
板厚1.2mmの高純度Al-Mg合金板(Mg含有量4重量%)を26x76mm角にプレスで打ち抜いた後に、340℃の雰囲気下で複数枚を積み重ねて加圧焼鈍を行い、歪みを取り去ると共に平坦度を5μm以下にした。その後、端面とチャンファの加工(具体的には、角度45°、a寸法0.2mm)を行い、25x75mmの平板を作製した。次いで、スポンジ砥石を貼ったスピードファム社製の両面研削機16Bを用いて研削加工を行い、板厚0.98mm、平行度1μm以下とした。次にこの基板にローランド社製刻印機CAMM-3を用い、微小ドリルによる機械加工によって、図1に示す寸法の微小凹部を作製した。続いて、この平板に順に脱脂、エッチング、酸活性処理、ジンケート処理を施した。具体的には、上村製アルカリ脱脂液AD-68F(50℃)に5分間、硫酸・リン酸系エッチング液AD-101F(80℃)に2分間、硝酸活性液(20℃)に1分間、ジンケート液AD-301F3X(20℃)に30秒間、順次、浸セキ処理を行って前処理を施した。さらにその後に、メルテック社製無電解NiP液NI-422(90℃)に2時間、浸セキして両面に各12μm厚のめっき膜を形成した。更に、これをスピードファム社製の両面研磨機16Bにコロイダルシリカ砥粒を用いて両面を各2μm研磨し、超平滑基板とした。基板は板厚1.00mm、表面粗さRaが0.35nmであった。なお、平坦度、平行度及びRaは、それぞれ、溝尻製平坦時計FT-50LD、ランクテーラーホブソン製真円度測定機タリロンド、ランクテーラーホブソン製触針式粗さ計タリステップを用いて測定した。
【0023】
次に、徳田製作所社製高周波スパッタ装置CFS-8EPを用いて、片面にアモルファスカーボンを40nm厚つけた。具体的には、Ar雰囲気1.0Pa、投入進行波電力(Pf)1kW、反射波電力(Pr)20Wの条件で5分間スパッタした。この後にスピードファム社製の両面研磨機16Bにコロイダルシリカ砥粒を用いて表面を研磨し、凹部の内壁面以外の炭素層を除去した。次に微小凹部内のアモルファスカーボン層に活性基を付与した。活性基の付与は次の方法で行った。まず、合成石英の窓を持つステンレス製容器内に基板をセットした後に大気雰囲気下で波長185nmを30%強度、波長254nmを100%強度の比率を持つ紫外線(ランプ出力110W)を3cm離れた位置で照射して基板表面のオゾン処理を行った。次に、排気の後に塩素を導入し13Pa塩素雰囲気下で塩素処理(25℃、5分間)を行い、更に排気の後にアンモニアを導入し13Paアンモニア雰囲気下でアミノ化処理(25℃、5分間)を行った。この基板のアミノ基量は4.1 nmol/両面であった。なお、アミノ基量は、基板表面を塩酸で処理した後に残存する塩酸を水酸化ナトリウム水溶液で逆滴定する方法(特願2005−069554)により測定した。
【実施例2】
【0024】
2. バイオチップ用基板の製造(その2)
熱硬化性のフェノール樹脂を型に入れた後に、90℃および120℃の2段階の熱処理を行いベークライトブロックを作製した。ブロックから板厚2mm、31x95mmサイズの平板を切り出し、鉄定盤を貼ったスピードファム社製の両面研削機16Bを用いて研削加工を行い、板厚1.30mm、平行度1μm以下とした。次に、これにチャンファ加工を施した後に徐々に加温して1200℃の熱処理を行って基体を炭化しグラッシ−カーボンとした。その後に、大気下で富士電機社製LD励起YVO4レーザーを用いて図1の寸法の微小凹部を作製し、更に、活性基の付与を次の方法で行った。まず、合成石英の窓を持つステンレス製容器内に基板をセットした後に大気雰囲気下で波長185nmを30%強度、波長254nmを100%強度の比率を持つ紫外線(ランプ出力110W)を3cm離れた位置で照射して基板表面のオゾン処理を行った。次に、排気の後に塩素を導入し13Pa塩素雰囲気下で塩素処理(25℃、5分間)を行い、更に排気の後にアンモニアを導入し13Paアンモニア雰囲気下でアミノ化処理(25℃、5分間)を行った。この基板のアミノ基量は4.1 nmol/両面であった。なお、アミノ基量は、基板表面を塩酸で処理した後に残存する塩酸を水酸化ナトリウム水溶液で逆滴定する方法(特願2005−069554)により測定した。続いて、これをスピードファム社製の両面研磨機16Bにコロイダルシリカ砥粒を用いて表面を研磨し、凹部の内壁面のみ以外の活性基を除去して選択吸着グラッシ−カーボン基板を作製した。
【実施例3】
【0025】
αヘリックス構造をとるペプチドの両端部を異なる蛍光標識で標識したペプチドを基板の凹部に吸着させたペプチドチップを用いてカルモジュリンを測定した。これらは具体的に次のようにして行った。
【0026】
αヘリックス構造を形成するペプチドのコア領域配列は、文献(K. T. O'Neil and W.F.DeGrado, Trend Biochem Sci, 15, 59-64 (1990))のペプチドのアミノ酸配列を参考にし、コンピュータを用いた分子モデリング(米国Molecular Simulation 社,Insight II / Discoverを用いた分子モデリング)を用いて設計した。その結果、コア領域のアミノ酸配列は、Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-とした。この配列は、カルモジュリンと特異的に結合することが知られている。この配列に固定化のアンカーのためのCys残基、蛍光標識をした残基としてLys(TAMRA), Lys(FAM)を追加しCys-Lys(TAMRA)-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Lys(FAM)-NH2を合成した。リジンのアミノ酸の側鎖に蛍光基を導入した蛍光性アミノ酸誘導体を合成しビルディングブロックとして合成に用いた。すなわち蛍光修飾アミノ酸誘導体をジイソプロピルカルビジイミドを用いてN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル誘導体に導いた。Fmoc-Lys-OH(スイスNovabiochem社、製品番号#04-12-1042)の側鎖アミノ基と上記活性エステルとを常法にしたがってジメチルホルムアミド中、室温で、一夜撹拌したのち、反応混合物を濃縮、エーテルで沈殿させて蛍光標識をしたFmoc-Lys(TAMRA)-OHを得た。収率80%。(Fmoc:フルオレニルメチルオキシカルボニル)。同様にしてFmoc-Lys(FAM)-OHを得た。収率85%。
【0027】
これらの蛍光誘導体をビルディングブロックとして用いて、常法のFmoc法による固相ペプチド合成により図2のA、B標識付き合成ペプチドを各15マイクロモルスケールで合成した。すなわち、TentaGel SRAM 、ドイツRapp Polymere社商品番号#S30-023(ポリエチレングリコール鎖付リンクアミド樹脂)を固相担体としてFmoc-アミノ酸誘導体を順次縮合させた。具体的には特許第2007165号多種品目同時化学反応装置に記載された方法を用い、市販の島津製作所モデルPSSM-8多種品目同時ペプチド合成装置に依って実施した。
【0028】
合成した標識ペプチドを60% DMFに濃度1.0μMの濃度で溶解し、実施例1又は2の基板の凹部に、SpotBot(TeleChem International社、米国)を用いて蛍光標識αペプチド(被認識物質)を各凹部に1.8nL入れた。この場合、ペプチドは固定化しなかった。ペプチド溶液を各凹部に添加、乾燥後、結合(認識)の定量を試みた。カルモジュリンを20mMのTris-HCl, 100μMのCaCl2, 150mMのNaClと20mMのPEG2000を含む溶液に溶解し、各凹部へ3.9nL(0.5 mg/mL)入れた。25℃でインキュベートし、直ちに蛍光スキャナー(日立ソフトウエアエンジニアリング社製 CRBIO IIe)で測定を行った(励起波長498nm、測定波長579nm)。
【0029】
実施例1で製造した基板で行なった測定結果を図3に示す。カルモジュリンの濃度に依存して蛍光が変化しており、このバイオチップを用いてカルモジュリンの定量が可能であることが明らかになった。なお、実施例2の基板を用いた場合でも同様な結果が得られた。
【実施例4】
【0030】
実施例1で作製した凹部内の炭素層の活性基に固定化するペプチドとして、次の配列を有する蛍光標識ペプチドを化学合成した。Ac-Cys-Gly-Lys(FAM)-Gly-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Lys(TAMRA)-Gly-NH2
このペプチドがαへリックス構造を取ることはCDスペクトルで確認した。ここで、FAM及びTAMRAは、いずれも蛍光色素であり、FAMを光励起すると、FAMとTAMRA間の距離に応じて、FAMの励起エネルギーがTAMRAに移動し、TAMRAの蛍光が発する(蛍光共鳴エネルギー移動、FRET、蛍光という)。タンパク質が結合するとペプチドのへリックス構造が固定され、FRET蛍光が増大する。FRETは励起状態にある供与体分子(この場合FAM)から基底状態にある受容体分子(この場合TAMRA)へのエネルギー移動により受容体からの蛍光が観測される現象である。このペプチドは、タンパク質であるカルモジュリン(CaM)と特異的に結合することが知られているが、結合するとFAMとTAMRAの距離が小さくなる。CaMの量が多いほど測定されるTAMRAからの蛍光強度が大きくなり結合の定量が可能である。
【0031】
上記標識ペプチドを60%ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、2μMの濃度とした。一方、実施例1で作製した基板上のアミノ基をブロモアセチル化した。これは具体的には次のようにして行なった。ブロモ酢酸 (BrAcOH、東京化成 Mw=138.95, 2.00 mmol, 278 mg) 、ジシクロヘキシルカルボジイミド (DCC) (Ardrich, Mw=206.33, 1.00 mmol, 206 mg)をテトラハイドロフラン(3.33 ml)に溶解し室温で60分間ゆっくりしんとうし、ブロモ酢酸無水物を形成させた。生成した不溶性のウレアを濾過で除去した。当該アミノ化基板を5%ジイソプロピルエチルアミンのNMP溶液に浸したのち軽くリンスした。先の濾液をこの基板に加え室温で1時間浸し、時々軽くしんとうし、ブロモ化した。得られた基板を超純水(Milli Q水(商品名))で洗浄し、窒素で乾燥させた。次に、上記標識ペプチド溶液を基板上にスポットして該標識ペプチドを、上記ブロモアセチル化したアミノ基と反応させて結合させ、基板上に固定化した。スポットはTeleChem International 社(米国カリフォルニア)製のSpotBot装置を用い、同じくTeleChem International 社のマイクロスポッティングピンを使用して実施した。
【0032】
このようにして作製した標識ペプチド固定化基板に、異なる量のCaMを含む溶液(CaMを100μMの塩化カルシウム溶液に溶解した)を塗布し、洗浄後、蛍光をスキャナー(日立ソフトウエアエンジニアリング社製 CRBIO IIe)を用いて測定した。
【0033】
結果を図3に示す。図3に示されるように、測定された蛍光強度は、基板に添加したCaMの量に依存して増大しており、本発明のバイオチップにより、チップに固定化された生体関連物質と特異的に反応する物質を定量できることが明らかになった。
【実施例5】
【0034】
N−マレイミドカプロイロキシスクシンイミド(N-(6-Maleimidocaproyloxy)succinimide)) Dojin社製(以後EMCSと略記)を3 mg秤量しジメチルスルフォキシド(DMSO)/ジメチルホルムアミド(DMF)/ジオキサンの2:4:4溶液に最終濃度が0.3mg/mLとなるように溶解したEMCS溶液を調製した。ここにアミノ化基板を室温で30分浸してアミノ基とEMCS活性エステルとを反応させた。基板をDMFで次にエタノールで洗浄し、未反応のEMCSと反応副生成物を除去した。後窒素ガス雰囲気下で乾燥させ、マイクロウエル内部のみマレイミド化された修飾基板を作製した。
【0035】
蛍光基TAMRAのみで標識したαへリックス構造を取るペプチド
Ac-Cys-Gly-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Leu-Lys-Lys-Leu-Leu-Lys-Leu-Lys(TAMRA)-Gly-NH2 を定法により合成した。タンパク質が結合するとペプチドのへリックス構造が変化しそれにあわせて蛍光強度の変化する。このペプチドは、タンパク質であるカルモジュリン(CaM)と特異的に結合することがしられており、CaMの量が多いほど測定されるTAMRAの蛍光強度が大きくなり結合の定量が可能である。
【0036】
最終濃度が2.0マイクロモル(μM)となるようにDMF/pH 8.0、10mM、Tris-塩酸(1:1)に溶解した。本ペプチド溶液3.9 nLをTeleChem International 社(米国カリフォルニア)製のSpotBot装置を用い、同じくTeleChem International 社のマイクロスポッティングピンを使用して当該基板上に添加した。 30分放置後マレイミド基とペプチドのシステインのチオール基が反応し、ペプチドが固定化された。基板をDMF/水(1:1)で洗浄した。
【0037】
各微小凹部に異なる量のCaMを含む溶液(CaMを100μMの塩化カルシウム溶液に溶解した)3.9 nLをTeleChem International 社(米国カリフォルニア)製のSpotBot装置を用い、同様に当該基板上に添加した。Milli Q水(商品名)で洗浄後、蛍光をスキャナー(日立ソフトウエアエンジニアリング社製 CRBIO IIe)を用いて蛍光強度を測定した。
【0038】
その結果図3と同様の結果を得た。すなわち測定された蛍光強度は、基板に添加したCaMの量に依存して増大しており、本発明のバイオチップにより、チップに固定化された生体関連物質と特異的に反応する物質を定量できることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例で作製した基板に設けた凹部の配置を示す図である。
【図2】本発明の実施例で作製したペプチドの構造を示す図である。
【図3】本発明の実施例3において測定した、カルモジュリン濃度と蛍光強度との関係を示す図である。
【図4】本発明の実施例4において測定した、カルモジュリン濃度と蛍光強度との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体関連物質を固定化する複数の凹部を基板に形成したバイオチップ用基板。
【請求項2】
前記各凹部の容量が1nLないし10nLである請求項1記載の基板。
【請求項3】
前記凹部の内壁が炭素で形成されている請求項1又は2記載の基板。
【請求項4】
前記基板が金属製であり、前記凹部内にのみ炭素層が形成されている請求項3記載の基板。
【請求項5】
前記金属が、アルミニウム、チタン及びステンレススチール並びにこれらの少なくとも一種を含む合金から成る群より選ばれる金属である請求項4記載の基板。
【請求項6】
前記金属がアルミニウム又はその合金であり、前記基板と前記炭素層との間にめっき層又は該金属の酸化物層が設けられている請求項5記載の基板。
【請求項7】
前記炭素層が、グラファイト、ダイヤモンド、ダイヤモンドライク炭素又はアモルファス炭素から成る請求項4ないし6のいずれか1項に記載の基板。
【請求項8】
前記基板が炭素から成る請求項3記載の基板。
【請求項9】
前記基板がグラファイト又はアモルファス炭素から成る請求項8記載の基板。
【請求項10】
前記凹部の内壁を構成する炭素が活性基を有する請求項3ないし9のいずれか1項に記載の基板。
【請求項11】
前記活性基が、炭素に共有結合された、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、スルフィドリル基若しくはエポキシ基又は前記炭素層に非共有結合的に結合されたポリリジンである請求項10記載の基板。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の基板上に、生体関連物質を固定化したバイオチップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−349552(P2006−349552A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177466(P2005−177466)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(502249851)株式会社ハイペップ研究所 (11)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】