説明

バイオディーゼル燃料の製造方法

【課題】本発明は、酸価20以下の油脂類全体を原料として使用可能であり、かつ廃水処理を必要としない環境負荷の少ない、品質規格値に適合可能なバイオディーゼル燃料油製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、酸価20以下の油脂類を原料とし、原料油を減圧下で加熱して水分、臭気物質及び遊離脂肪酸類を留去する工程と、原料油を親水性吸着剤と接触させ残存する遊離脂肪酸及び酸性物質を吸着除去する工程と、カリウム系のアルカリ触媒存在下でエステル交換反応させる工程と、エステル交換反応による反応生成物の軽液成分を非水方式で精製する工程と、を含むバイオディーゼル燃料の製造方法を提供するものである

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃食油などの劣化油脂類からも高い転化率で高品質な脂肪酸バイオディーゼル燃料油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオディーゼル燃料とは、一般に植物油とアルコールをエステル交換反応をさせ、脂肪酸アルキルエステルとし、ディーゼル機関用燃料としたものである。化学構造内に酸素を含む含酸素燃料であり、硫黄分をほとんど含まないことから黒煙等の有害排気ガスの排出が少ない。また植物由来であることから京都議定書に示された規定上、二酸化炭素の排出がゼロカウントとされる。このようなことから、環境負荷の少ない軽油代替燃料として注目されており、欧米では既に規格、法制度も整備され、2005年度には、大豆や菜種油から年間500万トン以上生産され使用されている。一方日本では、1万トン/年程度が廃食油から製造されており地方自治体等限定されて使用されている。日本では2007年1月に、バイオディーゼル燃料について、軽油への5%の混合(B5)を前提とした品質規格が制定された。
【0003】
油脂類の主成分であるモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドをアルキルアルコールとエステル交換反応させることによって、脂肪酸アルキルエステルが得られることは以前から知られている。一方、遊離脂肪酸とアルキルアルコールとのエステル化反応によっても脂肪酸アルキルエステルを得られることが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。またこの反応を利用して、油脂類からバイオディーゼル燃料油を製造する技術についてもこれまで様々に検討されてきた。特に近年石油高騰等の経済的背景の下、多数の関連特許が出願されている(例えば、特許文献1〜11を参照)。これらの文献においては、様々な原料油からエステル化の効率を向上させ、不純物をなるべく残存しないような工夫が試みられている。
【0004】
ところで、一般的に、脂肪酸アルキルエステル型バイオディーゼル燃料油の製造方法は、以下の3種類に大別される。
【0005】
(1)均一系、不均一系酸、アルカリ触媒反応
(2)高温、高圧型無触媒反応
(3)酵素反応
これらの中で、最も広範囲に利用されている反応系が(1)の触媒法である。(2)および(3)は、触媒残渣が生じない、エステル交換反応と共にエステル化反応も同時に進行する等の優位性があるが、反応変換率、初期コスト及びランニングコストなど種々の面で、未だ実用化には至っていないのが現状である。
【0006】
(1)の触媒法については種々の方法が報告されており、分類すると以下のようになる。
【0007】
〔1〕酸触媒(均一)
〔2〕酸触媒(不均一)
〔3〕アルカリ触媒(均一)
〔4〕アルカリ触媒(不均一)
〔5〕酸触媒(均一)−アルカリ触媒(均一){二段階法}
〔6〕酸触媒(不均一)−アルカリ触媒(均一){二段階法}
〔7〕酸触媒(不均一)−アルカリ触媒(不均一){二段階法}
〔8〕酸触媒(均一)−アルカリ触媒(不均一){二段階法}
酸触媒には、均一および不均一両方が見られるが、アルカリ触媒においては、実用化されているものは均一系だけである。他の方法では変換率が十分ではないためである。
【0008】
上述のように、脂肪酸アルキルエステル型バイオディーゼル燃料油について、欧米では既にEN14214およびASTM D6751等の基準によって厳しく規格化されているが、今後2007年度を目処に、自動車業界からの意見を取り入れさらに厳しい規格が制定される予定になっている。これらの動きは必然の成り行きであり、環境型燃料としての優遇時代から脱皮して、バイオディーゼル燃料油がまさしく石油代替燃料の中心に据えられる動きである。
【0009】
ここで、上記規格に適合した燃料油を製造するためには、必ず精製工程を設ける必要がある。一般的なバイオディーゼル燃料油製造方法であるアルカリ触媒法の場合には、水洗方式と吸着方式の2つがある。
【0010】
原料油のエステル交換反応の変換率が98%程度の場合には、数千ppmオーダーで残存する石鹸、アルコール、グリセリン、塩あるいはグリセリド誘導体を、水洗いによって除去する必要がある(特許文献12等を参照)。その後、加熱することで水分を除去する。水洗の効果により、製品中の、グリセリン、アルコールおよび金属(K、Naなど)に関しては、規制値の範囲内におさめられる可能性が高い。しかし、水分に関しては、加熱や蒸留を含め徹底的な除去を行っても、500ppm程度が限度である。これ以上に水分値を下げるために更なる加熱を行えば、これらの精製過程でバイオディーゼル自体の分解が生じる可能性がある。また、水洗方式で重大な問題となるのは、廃水である。1トンのバイオディーゼル燃料油を製造するために1トンから3トン程度の廃水が生じるが、2007年海洋汚染防止関連法によれば、これらの廃水は、完全に処理してからでないと廃棄できなくなり、これによるコスト増は甚大である。
【0011】
これに対し、吸着剤法は、遊離脂肪酸が3000ppm以下、塩類5000ppm以下、水分1000ppm以下の原料油を用い、変換率が99%以上の場合に、使用可能であるという前提条件はつくが、製品中の水分以外の不純物に関し、水洗方式と同等、あるいはそれ以上の品質でバイオディーゼル燃料油を精製、製造可能である(特許文献13〜15等を参照)。水洗方式と比較して大きく異なる利点は、バイオディーゼル燃料油中の水分量がきわめて少ない点と、廃水を生じない点である。
【0012】
しかし、上記特許文献に記載の製造方法に従って製造する場合、反応前の原料油の状況および反応後の脂肪酸アルキルエステルの状況によっては、2007年度以降設定されるバイオディーゼル燃料規格値である水分値200ppm以下、アルコール値1000ppm以下、酸価0.3以下を達成することは困難である。
【0013】
また、今後のバイオディーゼル燃料規格ならびに環境負荷問題を考慮した場合、廃水の出ない非水方式による精製が好適な方法であるが、この非水方式を用いて水分値200ppm以下、アルコール値1000ppm以下、酸価0.3以下を常時達成するバイオディーゼル燃料油の製造方法は存在しない。
【0014】
ところで、脂肪酸アルキルエステル型バイオディーゼル燃料油の製造原料に関しては、ほとんどが脂肪酸グリセロールエステルであり、これらからの製造方法はアルコリシスによるエステル交換反応が主である。従って最も主流である反応は、上記〔3〕アルカリ触媒(均一)に該当する、アルコール中水酸化ナトリウムや水酸化カリウム触媒を用いたエステル交換反応である(例えば、特許文献16等を参照)。
【0015】
しかし、新鮮な植物油や動物油においてグリセロールエステルが100%にまで精製されたものは入手困難であり、さらにバイオディーゼル燃料油の需要が増大するに従って、不良油脂、廃食油などの劣化油脂なども原料油として使用していこうとする動きが出てきている。これらの主な不純物は遊離脂肪酸である。
【0016】
エステル交換反応において遊離脂肪酸が多く含まれると、これらがまず触媒であるアルカリ金属と反応し、アルカリ石鹸を生じてしまい、反応収率を低下させるばかりでなく、エマルジョンの原因となるため精製も困難になる。従ってアルカリ触媒下でのエステル交換反応による脂肪酸アルキルエステル燃料の製造においては、原料油中の遊離脂肪酸量をコントロールする必要がある。
【0017】
原料油中の遊離脂肪酸を脂肪酸アルキルエステルに変換しようとすれば、遊離脂肪酸とアルコールとのエステル化反応を行う必要がある。エステル化反応は平衡反応であることから、一方の原料であるアルコールを過剰に用いるか、副反応物として生成する水を除去することによって平衡を生成系にずらし、収率を上げるようにしている。
【0018】
さらに反応速度を速めるためには、触媒が使用されるのが一般的である。一般的に脂肪酸のエステル化反応における工業化プロセスでは、酸性触媒が多く使用されている。例えば硫酸やリン酸などの無機酸、およびp−トルエンスルホン酸などの有機酸がエステル化触媒である。しかしながら、これらの反応は基本的に反応溶液中に触媒が溶解した状態で存在する均一反応系であるので、生成液から触媒の分離、回収が困難であるという問題がある。また、このような問題を解決する方法として、固定化あるいは固体酸触媒もよく使用され、スルホン酸系イオン交換樹脂やヘテロポリ酸をシリカゲルや活性炭に担持した固体酸触媒などが知られる。しかしこれらの固定化あるいは固体酸触媒を用いた場合、エステル化反応は十分に進行するが、それだけではエステル交換反応に対しては、変換率が低い。
【0019】
遊離脂肪酸を含む油脂類のエステル化法としては、上記〔5〕酸触媒(均一)−アルカリ触媒(均一){二段階法}または〔6〕酸触媒(不均一)−アルカリ触媒(均一){二段階法}に分類される、まず固体酸触媒を含む酸触媒によってエステル化しその後アルカリ触媒によってエステル交換反応を行うという方法について報告がある(特許文献17〜19等を参照)。しかし反応が全く性質の異なる2触媒系で複雑となることや、脂肪酸量によって第1反応を常時コントロールする必要があるなど操作性にも欠ける。さらに遊離脂肪酸の量が20%以上であれば、複雑なプロセスプラントへの投資との採算性がはかれるが、例えば20%以下である場合には、かえって過剰投資となってしまう。
【0020】
これらの課題を解決するべく、高温高圧法や酵素法が報告されている。高温高圧法では、アルコールの超臨界状態でエステル化およびエステル交換反応を同時に行うことが可能である(特許文献20〜25等を参照)。
【0021】
しかし、発明者らの精査の限りでは、遊離脂肪酸のエステル化反応では、変換率が98%程度であるため、最終的な精製を必要とし、さらに高温下で脂肪酸部位の酸化あるいは二重結合の異性化など複雑な反応が起こってしまう傾向がある。また装置コストが高価であり、操業の困難さがあるため経済性の面で実用化が困難な部分がある。
【0022】
これとは対照的に、酵素を用いたエステル化反応も報告されている。リパーゼによる反応では、エステル化およびエステル交換反応が同時に進行する。さらにリパーゼを担体に固定化することで、サイクル数を増やし廃棄物の産生を抑制することができる(特許文献26または27を参照)。しかし、生物学的反応であることから、反応条件が温和であるためどうしても、反応速度及び変換率に課題が残る。
【0023】
以上より、バイオディーゼル燃料油製造の原料となる油脂類として広く利用可能である遊離脂肪酸の量が10%以下(酸価<20)であるような油脂類の場合には、まず、遊離脂肪酸を不純物として除去し、原料油を脂肪酸グリセリド誘導体のみとした後で、アルカリ触媒法によってエステル交換反応を実施することが好適であると考えられる。しかしながら、このような方法を実現することは以下の理由により困難である。
【0024】
まず、原料油脂中から遊離脂肪酸を除去する方法、すなわち脱酸法は、油脂化学における精製法として確立されたものがあり、この処理によって油脂中の遊離脂肪酸類含有率を、0.01〜0.03%にまで除去することが可能である(例えば非特許文献2等を参照)。この方法では、一般的に弱アルカリ水溶液による洗浄法が用いられる。しかしながら、この方法ではアルカリ廃液が生じるため、これの処理にコストがかかってしまう。さらに洗浄後、油脂中の水分をエステル交換反応に先立って除去する工程が必要となるため工程が複雑になる。
【0025】
これに対して、パーム油等不飽和脂肪酸類の含有率が少ない、すなわちヨウ素価の小さい油脂類の脱酸法として、物理精製法すなわち減圧水蒸気蒸留法がある。この方法は、減圧下、200〜250℃で1〜2時間処理するというものである。この方法は、除去効率は高いものの、不飽和脂肪酸類が多く含まれる油脂類すなわちヨウ素価の高い(80以上)油脂では、上記処理条件下でダイマーの生成、脂肪酸構造の変化が起こるため、原料油が限定され、酸化劣化油には適していない。
【0026】
従って一般的な油脂化学における脱酸法は、種々の油脂類ならびにそれらの酸化劣化油を原料油として使用するバイオディーゼル燃料製造の前処理である遊離脂肪酸除去法としてそのまま使用することができない。
【0027】
さらに、廃食油中の水分および臭気物質を除去する目的で、廃食油をアルコールと反応させる前に減圧加熱処理する方法もある(特許文献28〜30を参照)が、遊離脂肪酸については触れられていない。実際、特許中の実施例においてなされた処理条件(60mmHg、84℃)で、酸価5の酸化劣化油脂(一般的廃食油)を処理した場合、処理後の遊離脂肪酸量は1.5%以上(酸価3以上)残っており、その後の反応変換率も97.5%と低い値を示した。遊離脂肪酸量を減少させるべくさらに条件を厳しくして(10mmHg、180℃)処理を行った場合、製品であるバイオディーゼル中の脂肪酸成分であるオレイン酸、リノール酸およびリノレン酸アルキルエステル成分の比率が減少し、また反応変換率も97.5%であった。さらに条件を厳しくし、5mmHg、200℃で処理をしたところ、やはり脂肪酸部位のシスからトランスへの異性化によると考えられる流動点上昇が見られた。
【特許文献1】特開2002−167356号公報
【特許文献2】特開2002−294277号公報
【特許文献3】特開2000−44984号公報
【特許文献4】特開2000−109883号公報
【特許文献5】欧州特許出願公開第1644470号
【特許文献6】欧州特許出願公開第1616853号
【特許文献7】欧州特許出願公開第1542960号
【特許文献8】米国特許出願公開第2006/111579号
【特許文献9】米国特許出願公開第2006/094890号
【特許文献10】米国特許出願公開第2006/080891号
【特許文献11】米国特許出願公開第2006/074256号
【特許文献12】欧州特許出願公開第0249463号
【特許文献13】特開平10−245586号公報
【特許文献14】特開平10−231497号公報
【特許文献15】米国特許第5972057号
【特許文献16】特開平7−197047号公報
【特許文献17】米国特許第6642399号
【特許文献18】米国特許第6965044号
【特許文献19】米国特許出願公開第2004/102640号
【特許文献20】特開2000−109883号公報
【特許文献21】特開2000−143586号公報
【特許文献22】欧州特許出願公開第1506996号
【特許文献23】米国特許第6187939号
【特許文献24】米国特許第6818026号
【特許文献25】米国特許第6288251号
【特許文献26】国際公開第01/038553号
【特許文献27】特開2002−233393号公報
【特許文献28】特開平10−245586号公報
【特許文献29】特開平10−231497号公報
【特許文献30】米国特許第5972057号
【非特許文献1】「有機化学ハンドブック」技報堂出版、1988、p1407〜p1409
【非特許文献2】産業図書出版・油脂化学入門p48〜p49
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
そこで、本発明は、経済性、食品との両立性および量的観点から、バイオディーゼル燃料油の原料油脂類となりうる、酸価20以下の油脂類全体を原料として使用可能であり、かつ廃水処理を必要としない環境負荷の少ない、さらに2007年度以降の品質規格中の製造上生じる不純物類の規格値に適合可能なバイオディーゼル燃料油製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、原料油とアルコールをアルカリ触媒存在下でエステル交換反応させる工程を含むバイオディーゼル燃料の製造方法において、当該エステル交換反応に先立って水分、臭気物質及び遊離脂肪酸類を親水性吸着剤により除去すること、アルカリ触媒としてカリウムを含む触媒を使用すること、エステル交換反応の反応生成物を塩基性物質吸着性固体吸着剤により精製すること等により、廃食油等の酸価20以下の油脂を原料として、環境負荷の少ない方法で、高品質なバイオディーゼル燃料を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0030】
即ち、本発明は、酸価20以下の原料油からバイオディーゼル燃料を製造する方法であって、前記原料油を減圧下で加熱して水分、臭気物質及び遊離脂肪酸類を留去する工程と、前記原料油を親水性吸着剤と接触させ残存する遊離脂肪酸及び酸性物質を吸着除去する工程と、前記原料油とアルコールを、水酸化カリウム、炭酸カリウム、およびカリウムアルコラートからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ触媒存在下でエステル交換反応させる工程と、前記エステル交換反応による反応生成物から軽液成分を分離する工程と、前記軽液成分に対し、塩基性物質吸着性固体吸着剤に接触させる処理、遠心分離により固体不純物等を除去する処理、減圧下で加熱して低沸点物質を除去する処理、及びフィルターを通して固体不純物等を除去する処理、を行う工程と、を含むバイオディーゼル燃料の製造方法を提供する。
【0031】
このような方法によれば、原料油脂類をアルコールと反応させる前に、水分、臭気物質及び遊離脂肪酸等の酸性物質が除去されるので、エステル交換反応のアルカリ触媒の活性が低下することがない。また反応終了後の脂肪酸アルキルエステル中に大量の水、脂肪酸アルカリ石けん、臭気物質等の異物が残存するのを抑制することができるので、その後の精製工程も低エネルギー、低コストで環境負荷の少ない方法で行うことができ、水分、アルカリ金属、遊離脂肪酸等の不純物量が燃料規格値に適合したバイオディーゼル燃料を得ることができる。さらに、遊離脂肪酸と水が反応前に除去されることにより、副反応や、遊離脂肪酸の直接反応による脂肪酸石けんの生成が抑えられ、その結果エマルジョンが生じにくくなり、後に続く軽液と重液の比重分離工程等も容易となる。
【0032】
また、遊離脂肪酸と水分の除去を減圧下での加熱と、親水性吸着剤による吸着という2段階で行うため、上述したアルカリ水溶液による洗浄法、減圧水蒸気蒸留法、減圧加熱処理法に伴う問題も生じない。
【0033】
さらに、軽液成分を非水方式により精製するため、水との接触により石けん化反応が進むことがなく、廃水処理の問題も生じない。また、固体吸着剤カラムによれば、残存触媒等の不純物を簡易に除去することができ、工程の連続化も可能となるので作業性が向上する;遠心分離により強制的に比重分離を行うことにより、微量残存するグリセロール、グリセリン誘導体、微細吸着剤等の高比重物質を高精度で除去することが可能である;加熱、減圧処理によれば、軽液中のアルコール、水といった低沸点物質を徹底的に除去することが可能である;フィルターを通すことによって、凝集物質等の固体不純物等を除去することができる、という効果もある。これらの処理により、製造工程のばらつきによらず、燃料規格値に適合させることが可能となるとともに、燃料規格値で規定されていない値についても、コモンレール方式による精密なディーゼルエンジンにも対応可能なバイオディーゼル燃料を製造することができる。
【0034】
本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法は、前記親水性吸着剤が、活性アルミナ、塩基性処理活性炭、およびシリカゲルからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0035】
これらの親水性吸着剤によれば、加熱減圧処理後の原料油から、残存する遊離脂肪酸等の酸性不純物を少量の吸着剤で高効率に除去することができる。
【0036】
また、本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法のエステル交換反応工程は、原料油の脂肪酸部位に対して1.05〜1.25モル当量のアルコールに、原料油に対して0.5重量%〜2.0重量%のアルカリ触媒を溶解させて、触媒含有アルコール溶液を調整する工程と、原料油と触媒含有アルコール溶液を混合し撹拌する工程と、を含むことが好ましい。
【0037】
このようにアルカリ触媒として上記の濃度を使用することにより、エステル交換反応に対する触媒活性が十分に得られ、短時間の反応で転化率を98%以上とすることができる。
【0038】
上記軽液成分を分離する工程は、前記反応生成物を遠心分離することによって行われることが好ましい。遠心分離によれば、比重差を利用した静置分層分離法による場合に比べて、短時間で高効率に分離することが可能であり、他の工程との連続操作にも対応可能である。
【0039】
また、上記塩基性物質吸着性固体吸着剤は、活性白土、酸性白土、活性炭、ベントナイト、シリカゲル、活性アルミナ、及びモレキュラーシーブスからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの固体吸着剤によれば、軽液に含まれた不純物を高効率で吸着除去できる。特に、活性白土、活性炭は、脱アルカリ効果、脱色効果、脱臭効果が共に優れており、またある一定の堅牢度を有するため、カラム充填剤として好適に用いることができる。
【0040】
また、軽液成分を減圧下で加熱する処理を行う前に、前記軽液に流動点降下剤、酸化安定剤を添加することが好ましい。このような方法によれば、流動点降下剤や酸価安定剤等の添加剤がバイオディーゼル製品中で凝縮することなく、均一に溶解させることが可能である。
【0041】
また、本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法では、上述した臭気物質及び遊離脂肪酸類の留去工程に先立って、原料油から水又は水溶液を比重分離する工程と、比重分離後の原料油から固体物質をフィルターにより除去する工程と、を行うことも好ましい。このような前処理により、原料油中の水、水溶液をさらに除去し、減圧加熱、親水性吸着剤による水分等の除去をより効率よく行うことができる。
【0042】
上記エステル交換反応に用いられるアルコールは、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、及びt−ブチルアルコールからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらのアルコールによれば、原料油脂中のグリセリドが、エステル交換反応により、高変換率で脂肪酸アルキルエステルに転化する。
【0043】
本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法では、上述したすべての工程が連続式で行われることが好ましい。連続操作によれば、敷地、空間に制限がある場合でも、大量生産プラントとして稼動させることが可能である。尚、すべての工程を連続式で行うためには、例えば、時間のかかる工程に用いられる槽を複数用意して前後の工程を行う槽と並列に接続する、各種分離工程に遠心分離法を用いて時間を短縮するなどの方法を適宜用いることができる。
【0044】
さらに、本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法は、副生成物としてグリセリンを得る工程を含むことも好ましい。当該工程は、具体的には、上記反応生成物から軽液成分を分離した後の重液成分に硫酸又は燐酸を添加して中和する工程と、得られた包摂水和物、または、水和硫酸カリウム結晶若しくは水和第三燐酸カリウム結晶を濾別後の濾液、を減圧蒸留し、副生成物としてグリセリンを得る工程と、を含む。
【0045】
重液には主成分であるグリセリンの他に反応に使用された触媒のほとんどが含まれているため、燃料として使用するためには、一般に、アルカリ腐食のための特別なボイラーを必要とし、減圧蒸留を行った場合には、ポリグリセロールが生成され、蒸留収率は50%以下である。さらに、一般的に行われる酸による中和を行った場合、高粘度のスラリー状または半固体となり、塩の濾別や、蒸留操作が極めて困難となる。しかしながら、本発明に係る方法によれば、中和後の塩は酸カリウム塩の水包摂結晶として、大きな結晶構造をとるため、酸カリウム塩を速やかに分離でき、系が高粘度にならないので、濾別が容易である。さらにその後の蒸留も極めて容易に行うことができ、高純度のグリセリンを高収率で得ることができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法は、水分、臭気物質及び遊離脂肪酸類をできる限り原料油から除去してからアルカリ触媒存在下でエステル交換反応を行い、反応後の生成物を非水方式により精製するので、酸価20以下の劣化油脂類を原料として用いることができ、廃水処理を必要としないので環境負荷が少なく、2007年度以降の品質規格中の製造上生じる不純物類の規格値にも適合可能なバイオディーゼル燃料を製造することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0048】
(バイオディーゼル燃料の製造方法)
本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法は、酸価20以下の油脂類を原料とする。酸価20以下である限り、どのような油脂類であってもよく、例えば、菜種油、大豆油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、米油、ゴマ油、トウモロコシ油、ココナッツ油、サフラワー油、紅花油、ピーナッツ油、綿実油、アマニ油、マスタード油などの植物性油脂類、牛脂、豚脂、鯨油、魚油などの動物性油脂類および、これらの廃食油、または動植物油製造過程で生じる劣化油等が挙げられる。酸価が20を超えると、遊離脂肪酸成分が10%以上含まれることになり、製造効率が低下し、経済性の面から課題を生じる。また、不純物として含まれる水などは、混入していても問題はないが、受け容れ時の原料として常識の範囲内で適正に判断されることが好ましい。
【0049】
本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法は、エステル交換反応に先立って、原料油を減圧下で加熱して水分、臭気物質及び遊離脂肪酸類を留去する工程と、留去工程の後、原料油を親水性吸着剤と接触させ、残存する遊離脂肪酸類及び酸性物質を吸着除去する工程とを含む。
【0050】
上記留去工程は、50〜170℃、1〜20mmHgで行うことが好ましい。50℃未満ではほとんど蒸気圧を確保できず除去効率が悪くなり、170℃を超えると脂肪酸部位中不飽和部の変性が生じ、バイオディーゼル燃料油としての性状に悪影響を及ぼす。また、1mmHg未満の高真空状態を保持するには、装置のコスト及び運転コストが大きくなり、20mmHgを超える圧力では、水分は除去できても遊離脂肪酸がほとんど残存してしまう。
【0051】
ここで、原料油は、例えば熱交換器内で水蒸気と熱交換することによって加熱できる。加熱された原料油は、減圧器内に噴霧状態で導入することにより、表面積を増大させることができるので、水分や遊離脂肪酸等の蒸発速度を上昇させることができて好ましい。この工程を通過した原料油は、例えば、水分値500ppm以下、遊離脂肪酸量5000ppm以下、臭気物質500ppm以下とすることができる。
【0052】
上記親水性吸着剤による吸着除去工程では、吸着剤として、粒径0.1μm〜10μmの活性アルミナ、塩基性処理を施した活性炭、及びシリカゲルから選択される少なくとも一種を用いることが望ましい。吸着剤はカラムに充填して用いることが好ましく、吸着剤の充填量は、処理する原料油の0.1%〜5.0%程度の少量でよい。0.1%未満であると、十分に遊離脂肪酸等酸性物質を所定量まで除去できない。しかし5%を超えると、原料油の吸着量が多くなるとともに吸着剤自体で、製造コストに影響を与える。このカラムを通過した原料油は、例えば遊離脂肪酸量0.3%以下にまで減少させることができる。この量であれば、例えば水酸化カリウムを触媒として原料油に対し1%用いた場合、脂肪酸石鹸となって消費されてしまう量が、触媒量の10%未満に抑えられると共に、生じた脂肪酸石鹸の反応液中濃度がCMC(臨界ミセル濃度)以下となるため、生じた石鹸のほとんどが比重分離後の重液(グリセリン層)に溶解することとなり、軽液中の不純物量が減少し、精製が容易となる。もし、この工程を省略し、遊離脂肪酸量0.5%で同様の触媒量での反応を行った場合、触媒の10%以上が石鹸への変換により消費され、反応変換効率が減少し、また、CMC濃度以上となるため反応後の分離が困難となり、さらに軽液中の石鹸濃度も上昇するので精製が困難となる。
【0053】
本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法では、続いて、原料油とアルコールをアルカリ触媒存在下でエステル交換反応させる。
【0054】
原料油と反応させるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、およびt−ブチルアルコールの少なくとも一種から選択される。アルコールの純度は、99.5%以上が望ましい。
【0055】
また、アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、カリウムアルコラート等カリウム系塩基性触媒が用いられる。水酸化ナトリウム等のナトリウム系塩基性触媒と比較した場合、例えばアルコールとして99.8%純度メタノールを化学量論量の1.10当量用い、触媒量を原料油の1wt%とし、水分量0.05%、遊離脂肪酸量0.3%の原料油と64℃でエステル交換反応を行った場合、水酸化カリウムでは、99%以上の変換率に到達するまでの時間は5分以内であったところ、水酸化ナトリウムでは2時間経過後にようやく97.5%であり、その後変換率は向上しなかった。また反応後の軽液と重液の比重分離においても水酸化カリウムでは、20分程度で界面が明確に現れたのに対し、水酸化ナトリウムでは、8時間経過後も界面付近に白濁したエマルションが存在し明確な界面は現れなかった。これらの現象は、触媒活性の違いとともにナトリウム石鹸のCMCがカリウム石鹸のそれと比較して低いことにも起因している。
【0056】
本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法は、まず、触媒含有アルコール溶液を調整し、その後、原料油と触媒含有アルコール溶液を混合し撹拌することが好ましい。これにより、エステル交換反応を極めて短時間で終了させることが可能である。
【0057】
ここで、アルコールへの触媒の溶解量は、原料油に対して0.5〜2.0重量%であることが好ましく、さらに好ましくは、0.7〜1.5重量%である。また原料油にたいするアルコールの添加量は、化学量論量の1.05〜1.25モル当量が好ましく、さらに好ましくは、1.08〜1.15モル当量である。触媒の添加量は、上記所定の範囲内であれば多ければ多いほど、変換速度、変換率ともに向上するが、一定範囲を超えると平衡転化率は一定となり、逆に、石鹸化反応が起こりやすくなる。アルコール添加量も上記所定の範囲内であれば多ければ多いほど、変換速度、変換率ともに向上するが、一定範囲を超えると平衡転化率は一定となり、過剰のアルコールが無駄となる。さらに反応終了後、比重分離における重液グリセリン層の比重がアルコールによって減少するとともにアルコール自体が界面活性剤の機能を発現するため、比重分離が困難となる傾向がある。
【0058】
触媒含有アルコール溶液の調製時には、触媒の溶解熱による局部的過熱によってアルコールが突沸することを防ぐために、所定量のアルコールを溶解槽内に先に投入しておき、これに十分な攪拌下、触媒を少量ずつ投入していき完全に溶解させることが好ましい。また、溶解熱を排出するために、冷却水ジャケットに冷却水を流し、系内温度をアルコール沸点以下に維持するようにすることも好ましい。
【0059】
原料油とアルコールの反応は、25℃〜250℃で行うことが好ましく、さらに好ましくは50℃〜100℃であり、圧力は大気圧0.1MPa〜7.8MPaが好ましく、さらに好ましくは大気圧0.1MPa〜2.0MPaの範囲である。この条件下では、平衡転化率が99.8%以上に達する。トリグリセリドとアルコールの反応は可逆反応であるため、平衡転化率を最大にするには、最適な反応温度および圧力を設定する必要がある。しかし反応速度を速めるためにアルコールの沸点以上に温度を上げた場合には、反応装置が圧力容器となるため、コスト的に不利な場合も生じる。従って最適な温度及び圧力設定は、使用するアルコールの沸点付近かつ常圧〜0.12MPaの範囲内である。また、反応時間は、必要最短時間に設定されるべきである。これは、上記のように反応が可逆反応であることと、生じた脂肪酸アルキルエステルが残存する水と反応し加水分解を起こす副反応が生じるためである。従って反応時間は、1分〜20分間が最適である。
【0060】
原料油とアルコールによるエステル交換反応の反応生成物は、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンを主成分とする混合物である。これらは、各々約0.87〜0.90gcm及び1.10〜1.25g/cmの密度を有しており、相互の溶解性も大きくないため、所定の時間静置、または遠心分離することにより、脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液と、グリセリンを主成分とする重液とに分離する。重液に中和・蒸留処理を行うことにより、副生成物としてグリセリンを得ることができる。軽液部には、少量の触媒、脂肪酸石鹸、未反応アルコール、臭気物質等不純物が混入しているため、さらに精製が行われる。
【0061】
本発明のバイオディーゼル燃料の製造方法では、軽液成分の精製は、非水方式、即ち水による洗浄工程を含まない方法により行われ、具体的には、軽液成分に対し、塩基性物質吸着性固体吸着剤に接触させる処理、遠心分離により固体不純物等を除去する処理、減圧下で加熱して低沸点物質を除去する処理、及びフィルターを通して固体不純物等を除去する処理が行われる。これらの処理は、記載された順序で行われることが好ましいが、当該順序に限定されず、適宜入れ替えてもよい。
【0062】
上記固体吸着剤に接触させる処理とは、固体の塩基性物質吸着剤を用いた処理であり、例えば、塩基性物質除去用吸着剤充填カラムを通過させることによって行うことができる。吸着剤としては、活性炭、活性炭素繊維、活性白土、酸性白土、ベントナイト、珪藻土、活性アルミナ、モレキュラーシーブスおよびシリカゲルからなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。これらの吸着剤は、使用直前にマイクロ波処理、および加熱処理(150℃〜700℃)を行ってもよい。この際、充填剤の粒径は、0.01mm〜1.0mmの範囲であることが好ましい。吸着効率は粒径が小さいほど良好であるが、これ以上細かい場合には、カラム通過時の圧損が大きく通過時間が長時間となってしまう。また1.0mm以上の粒径であると、十分な吸着効果は得られない。充填剤の量は、0.5重量%〜2.0重量%で十分であるが、それ以上充填してもよい。使用後の充填剤は再生あるいは廃棄処分のいずれかの方法で処理することができる。通過流速は、例えば、5〜30リットル毎分程度とすることができるが、その後、固−液遠心分離処理を行う場合は、遠心分離処理能力に合わせて調整してもよい。固体吸着剤処理後の軽液成分のカリウム濃度は、例えば、5mg/kg以下となる。液は中性である。
【0063】
また、遠心分離により軽液成分から固体不純物等を除去する処理は、例えば固−液分離用遠心分離機により行われる。この処理により、1μm以下の充填剤や少量残存するグリセリンおよびグリセリン誘導体など高比重物質が除去される。
【0064】
尚、流動点降下剤や酸化安定剤等の添加剤投入が必要な場合には、この時点で、スタティックミキサー等により添加することが好ましい。
【0065】
また、軽液成分を減圧下で加熱する処理は、低沸点物質除去のために行われ、例えば、減圧脱水、脱臭、脱酸等の機能を備えた減圧塔内で行われる。圧力は、1〜100mmHg、温度は20〜100℃とすることが好ましい。この処理により、例えば、軽液中の水分は0.02%以下、遊離脂肪酸量は0.15%以下、アルコール量は0.1%以下、固体物質0.005%以下、臭気物質10ppm以下とすることができる。
【0066】
また、フィルターを通して固体不純物等を除去する処理は、例えば、カートリッジ式フィルター等を用いて1μm以上の微粒子・凝縮物質を除去することができる。
【0067】
本発明のバイオディーゼル燃料の製造方法は、原料油を減圧下で加熱して水分、臭気物質及び遊離脂肪酸類を留去する工程に先立って、原料油から水又は水溶液を比重分離する工程と、比重分離後の原料油から固体物質をフィルターにより除去する工程を行ってもよい。比重分離工程は、例えば、4〜12時間程度静置することにより行われ、原料油を常に液体状態に保つため、必要に応じて加熱しながら行うことが好ましい。これにより、原料油中に含まれる微小固形分、水分、塩類、高比重有機物分等を沈殿除去することができ、過飽和水の除去により、原料油中の水分値は例えば、10000ppm以下とすることができる。フィルター除去工程は、例えば、メッシュ100〜1000のカートリッジフィルターを装着したストレーナーを通過させることによって行うことができる。本工程により、さらに微細固形物を除去することが可能となり、例えば、固体含有量0.05%以下とすることができる。
【0068】
また、本発明のバイオディーゼル燃料の製造方法では、上述したすべての工程が連続式で行われることが好ましい。必要に応じて同一工程を行う装置を複数用意することにより無駄な時間なく効率よく製造することができる。
【0069】
本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法によれば、水分、臭気物質及び遊離脂肪酸類をできる限り原料油から除去してからアルカリ触媒存在下でエステル交換反応を行い、反応後の生成物を非水方式により精製するので、動植物油および廃食油など酸価20以下の劣化油から、触媒を用いたアルコールとのエステル交換反応によって、EN14214及びASTMD6715など公的なバイオディーゼル規格に適合する高品質なバイオディーゼル燃料を製造することができる。
【0070】
尚、EN14214及びASTMD6715に示された基準値に適合するバイオディーゼル燃料とは、密度0.860−0.900g/cm、動粘度3.5−5.0mm/s、引火点>120℃、セタン価>51、水分<500ppm、酸価<0.5mgKOH/g、アルコール量<0.20%、エステル量>96.5%、総グリセロール量<0.25%、アルカリ金属量<5mg/kgの性状を有し、ディーゼル車用燃料として使用することが可能であることを意味する。さらに、2007年度以降、水分<200ppm、アルコール量<1000ppm、酸価0.3mgKOH/g、エステル>98.5%と、規格値がより厳しく規定される予定であるが、本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法によれば、酸価が20を超えない原料油を使用すれば、これらの規格を満たすディーゼル燃料を得ることができる。
【0071】
また、本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法では、エステル交換反応後の反応生成物の重液成分から、副生成物としてグリセリンを得ることができる。まず、重液成分に硫酸または燐酸を滴下してアルカリ触媒を中和する。アルカリ触媒に対して当量モルのプロトンに相当する酸を、アルカリ触媒中のカリウム原子に対して0.3〜5モル当量の水で希釈して滴下することが好ましい。また、中和熱によって中和液の温度が上昇するため冷却しながら反応させることが好適である。滴下終了後、例えば、5〜20分撹拌し、その後撹拌を止めて30分間静置する。酸カリウム塩の結晶が沈殿したら濾別し、得られた濾液を蒸留する。蒸留は例えば、1mmHg〜20mmHg、160℃〜190℃で行うことが好ましい。これ以上の高温になるとグリセリンの分解が起こる。蒸留後、さらに遠心分離によって脂肪酸アルキルエステルを主成分とする軽液と、グリセリンを主成分とする重液とに分離する。これにより、純度99%以上のグリセリンを得ることができる。遠心分離によって得られた軽液からは、再度、固体吸着剤処理等の精製を行って、バイオディーゼル燃料を得ることができる。
【0072】
(バイオディーゼル燃料の製造装置)
次に、上述のような本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法を実施することができる製造装置の一例を、図面を参照して説明する。
【0073】
本発明のバイオディーゼル燃料の製造方法を実施するバイオディーゼル燃料油の製造装置は、図1に示すように、前処理部1、脱水、脱臭、脱酸部2、酸性物質除去部3、触媒含有アルコール溶液調製部4、混合反応部5、液-液分離部6、中和・蒸留処理部7、塩基性物質吸着処理部8、高比重物質除去処理部9、低沸点物質除去処理部10、および微粒子・凝縮物質除去処理部11を含むものとすることができる。なお、前処理部1、脱水、脱臭、脱酸部2、および酸性物質除去部3の構成を図2に、触媒含有アルコール溶液調製部4、混合反応部5、および液−液分離部6の構成を図3に、塩基性物質吸着処理部8、高比重物質除去処理部9、低沸点物質除去処理部10、および微粒子・凝縮物質除去処理部11の構成を図4に、中和・蒸留処理部7の構成を図5に、それぞれ示している。
【0074】
前処理部1は、図2に示すように、受け入れ口にメッシュ10〜100程度のステンレス製網を備えた原料油受け入れタンク13、下部にテーパーをつけた原料油貯蔵タンク14、および液−液遠心分離機15、カートリッジフィルター付きストレーナー17を備えている。原料油は、まず原料油受け入れタンク13に、メッシュ数10〜100のステンレス製網を通過して送り込まれる。このとき廃食油等に含まれる比較的大きい固形物質がメッシュによって除去される。また原料油受け入れタンクには、50℃程度にまで加熱可能な、スチームあるいは電熱線が配置されており、0℃以下の寒期操業やパーム油脂、動物油脂等凝固点の高い油脂類においても、液状で扱うことが可能である。
【0075】
その後、原料油貯蔵タンク14に送液ポンプを介して送り込まれる。原料油貯蔵タンク14では、4時間〜12時間程度静置される。これにより、原料油中に含まれる微小固形分、水分、塩類、高比重有機物分等が沈殿し、これらを下部ドレインバルブより除去する。この物理的比重分離によって、過飽和水が除去されることにより、原料油中の水分値は、例えば、10,000ppm以下にまで減少されうる。除去後の上澄み液は、ストレーナー17を通過させて、脱水、脱臭、脱酸部2へ送り込まれる。前処理部1の操作を連続的に行うため、図2に示されたように、原料油貯蔵タンク14は複数準備され、静置時間を考慮して常時次工程に送液可能なようになっていることが好ましい。さらには、ヨウ素価、平均分子量等バイオディーゼル燃料の性状に影響を与える油種本来の性状値を調製するために、異種の油種を混合する場合にも好適に使用できる。また、原料油貯蔵タンク14には50℃程度にまで加熱可能な、スチームあるいは電熱線が配置されている。これにより寒期操業やパーム油脂、動物油脂等凝固点の高い油脂類においても、液状で扱うことが可能である。
【0076】
さらに連続して、次工程に原料油を送液するために、遠心分離機15が配備されている。これにより、静置効果すなわち微小固形分、水分、塩類、高比重有機物質分の除去を短時間で得ることができるため、さらに連続して工程を実施することが可能である。このように一次処理された原料油は、メッシュ100〜1000のカートリッジフィルターを備えたストレーナー17を通過させることにより、さらに微細固形物を取り除くことが可能となり、例えば固体含有量0.05%以下の前処理原料油が得られる。
【0077】
脱水、脱臭、脱酸部2は、バイオディーゼル燃料油およびグリセリンを燃料として使用可能なスチーム発生用ボイラー19、多管式熱交換器18、減圧脱水、脱臭、脱酸塔20、コンデンサー22、および真空ポンプ23を備えている。
【0078】
前処理部1で固体物質が除去された原料油は、送液ポンプにより多管式熱交換器18に送り込まれ、多管式熱交換器18を通過する間に、水蒸気と熱交換し、後続の減圧脱水、脱臭、脱酸塔20で必要となる温度にまで加熱される。加熱された原料油は、減圧脱水、脱臭、脱酸塔20に装備されている分散ノズルを通って塔内に噴霧される。さらに噴霧された原料油は、同様に塔内に装備された、フィン状複数の多孔板上を薄膜状で通過する。すなわち、20mmHg以下で50℃〜170℃の温度で、噴霧及び多孔板の効果により表面積が増大した状態で水分、臭気成分、および遊離脂肪酸が速やかに蒸発し、該塔20の上部出口より排出された後コンデンサー22で冷却液化され系外に除去される。これによって原料油は例えば、水分量0.05%以下、臭気物質0.05%以下及び遊離脂肪酸量0.5%以下となるように、脱水、脱臭、脱酸される。
【0079】
酸性物質除去処理部3は、固体親水性吸着剤充填カラム21を備えている。減圧脱水、脱臭、脱酸塔20を通過した原料油中の遊離脂肪酸等酸性物質をさらに親水性かつ塩基性の固体吸着剤に吸着させて除去する。脂肪酸部位の熱劣化を防ぐように設定された減圧脱水、脱臭、脱酸塔20の除去条件では、C18以上の遊離脂肪酸類は一部しか除去できないため総遊離脂肪酸量は0.5%程度までしか減少させられないが、酸性物質除去処理部3を通過させることにより、これらの遊離脂肪酸類も除去可能となり遊離脂肪酸量0.3%以下にまで減少させることができる。この量であれば、例えば水酸化カリウムを触媒として原料油に対し1%用いた場合、脂肪酸石鹸となって消費されてしまう量が、触媒量の10%未満に抑えられると共に、生じた脂肪酸石鹸の反応液中濃度がCMC(臨界ミセル濃度)以下となるため、生じた石鹸のほとんどが比重分離後の重液(グリセリン層)に溶解することとなり、軽液中の不純物量が減少し、精製が容易となる。たとえばこの工程を省略し、遊離脂肪酸量0.5%で同様の触媒量での反応を行った場合、触媒の10%以上が石鹸への変換により消費され、反応変換効率が減少し、さらに、CMC濃度以上となるため反応後の分離が困難となり、さらに軽液中の石鹸濃度も上昇することで精製が困難となる。
【0080】
触媒含有アルコール溶液調製部4は、図3に示すように、冷却水ジャケットを備えた触媒溶解槽27、アルコール貯蔵タンク29を備えている。触媒含有アルコール溶液の調製は、エステル交換反応に応じバッチ形式で行われる。まずアルコール貯蔵タンクから所定量のアルコールを送液ポンプ16によって触媒溶解槽27に送り込まれる。次にこれを攪拌しながら、所定量のカリウム系触媒を溶解槽上部のシューターを通じて導入し完全に溶解するまで攪拌を行う。この際溶解熱が生じるため、冷却水を冷却水ジャケットに流し、系が65℃以上にならないように留意することが好ましい。触媒を予めアルコールに溶解させることにより、原料油とのエステル交換反応を極めて短時間で終了させることが可能となる。予め触媒含有アルコール溶液を調製せず、原料油にアルコールと触媒を直接投入して反応させた場合には、96%の交換率到達時間は30分間であり、最終的には98.5%の変換率までしか到達しない上に2時間を要した。
【0081】
混合反応部5は、攪拌モーター25、攪拌羽根26を備えた攪拌反応槽24を備えている。攪拌反応槽24は、円筒形の反応器であり、中心に設置された回転軸に攪拌羽根26を取り付けてある。この回転軸を攪拌モーター25で、所定の速度で攪拌することにより、原料油と触媒含有アルコールを速やかに接触、反応させることができる。さらに反応温度を所定の温度、50〜65℃に調整するために攪拌反応槽には冷却、加熱可能なジャケットおよびヒーター等を装備してある。さらに攪拌反応槽24は、次工程以降が連続となるように2個以上装備し、逐次的交互に反応させてもよい。反応全体に必要な時間が30分以内であるため1個でも連続性は保たれる。
【0082】
液−液分離部6は、静置比重分離槽30と液−液分離用遠心分離機40から構成されている。反応終了後の反応液は50℃以上の温度を保ったまま、静置比重分離槽30に送液され、2時間〜8時間静置され室温(15〜25℃)に戻される。これによって軽液部(脂肪酸アルキルエステル液部)と重液部(グリセリン液部)とに分離される。静置比重分離槽30には、所定の位置に透明窓部が設置されており、液−液界面を確認することができるようになっている。この界面が明確に現れた後、重液を静置比重分離槽30底部のドレインより抜き出す。ドレインコックの開閉は液状態の目視による手動でも可能であるが、界面センサーによって自動的に制御されている。重液は、中和・蒸留処理部7に送り出される。重液抜き出し後、軽液部を塩基性物質吸着処理部8に送り出す。工程を連続的に行うために、分離層30を複数設けてもよく、また、撹拌槽24から液−液分離用遠心分離機40に直接反応生成物を導入し、軽液と重液に分離することも可能である。
【0083】
塩基性物質吸着処理部8は、図4に示されるように、塩基性物質除去用吸着剤装填カラム31を備えている。液−液分離部6から送り込まれた軽液は、カラム31を通過する間に、含有する脂肪酸石鹸、アルカリ触媒等塩基性物質を吸着によって取り除かれる。さらに微量に残存する水、グリセリン、着色物質等の親水性物質も一部取り除かれる。カラム31も複数用意し、充填剤交換の際にも連続して作業が行えるようにしておくことが好ましい。使用後の充填剤は、再生あるいは廃棄いずれかの方法で処理される。通過流速は、吸着効果や、その後の処理の速度にあわせて調節することができるが、5〜30リットル毎分程度が好ましい。バッファータンクや遠心分離機の並列使用により、さらに高速にすることもできる。
【0084】
高比重物質除去処理部9は、固−液、液−液分離用遠心分離機41を備えている。塩基性物質吸着処理部8を通過した軽液中に含まれる、微量の細粒吸着剤成分(固体)や水分、グリセリンおよびグリセリン誘導体等比重1g/cm以上の高比重物質を、遠心分離機41によって分離除去する。
【0085】
低沸点物質除去処理部10は、スタティックミキサー式添加剤導入機45、減圧脱水、脱臭、脱酸塔44、コンデンサー42、真空ポンプ43を備えている。高比重物質除去処理部9を通過した軽液は、必要に応じ、流動点降下剤等の添加剤を、スタティックミキサー式添加剤導入機45によって、減圧脱水、脱臭、脱酸塔44の前に添加される。その後、軽液は減圧脱水、脱臭、脱酸塔44に導入される。ここでは、20〜100℃、1〜100mmHgの条件で低沸点物質の除去処理が行われる。これによって、アルコール、水分、および臭気物質等が除去される。さらに添加剤等も均一に溶解させることが可能である。
【0086】
微粒子・凝縮物質除去処理部11は、カートリッジ式フィルター32、およびカートリッジ式フィルター33から構成されている。フィルター32には5μm、フィルター33には、1μmのフィルターがそれぞれ装備され、これを順次通過することによって、1μm以上の凝縮物質を除去することができる。フィルター通過後、製品タンクへ移送される。
【0087】
中和・蒸留処理部7は、図5に示されるように中和処理攪拌槽46、希硫酸貯蔵タンク35、連続濾過機36、減圧式蒸留塔47、ボイラー51、コンデンサー48、真空ポンプ49、液−液遠心分離機50、グリセリン貯蔵タンク52を備えている。液−液分離部6から送液された重液は、まず中和処理攪拌槽46に投入される。これに、使用したアルカリ触媒に対し当量モルのプロトンに相当する希酸貯蔵タンク35に蓄えられた酸を、アルカリ触媒中のカリウム原子に対して0.3〜5モル当量の水で希釈し、滴下して、攪拌モーター53による攪拌を行いながら中和する。この際、中和熱によって中和液の温度が上昇するが、冷却水によって100℃以下、好ましくは60℃以下に調整する。滴下終了後5〜20分間攪拌し、その後攪拌を止め30分程度静置する。この際、所定量の水が含まれないとカリウム塩の結晶が成長せず、溶液がスラリー状態となって次工程の濾別が困難となる。カリウム塩の結晶が生じるのを確認後、下部ドレインバルブから液全体を、連続濾過機36に通す。濾液を減圧蒸留塔47に導入し、減圧蒸留を行う。蒸留は、1mmHg〜20mmHg、160℃〜190℃で行うことが好ましい。本留をコンデンサー48で凝縮し、これを液−液遠心分離機50にかけ、軽液(脂肪酸アルキルエステル)と重液(グリセリン)に分離する。
【0088】
軽液は、塩基性物質吸着処理部8へ再度もどし、製品化を行うことができる。重液はグリセリン貯蔵タンク52に移送する。
【実施例】
【0089】
以下、本バイオディーゼル燃料油の製造方法を、より具体的な実施例により説明する。
【0090】
[実施例1]
図1ないし図5に示した構成の、20トン/日の処理生産能力を有する製造装置において、原料油受け入れタンク13の受け入れ口に装着するフィルターとして、メッシュ数120のステンレス製網を用いた。原料油貯蔵タンク14あるいは固−液、液−液用遠心分離機15の出口側に設置したストレーナー17に装着されたフィルターとして、メッシュ数300のポリエステル長繊維製を使用した。
【0091】
レストラン等で使用した、使用済み廃食油(酸価:5.2、ヨウ素価:108、引火点230℃、水分1.1%)を原料油受け入れタンク13に受け入れ、これを原料油貯蔵タンク14に送り込んだ。この原料油を、8時間自然沈降させた後に、上澄みを、次工程以降に用いた。触媒として水酸化カリウム(純度90%)を用い、触媒溶解槽27で触媒を、メチルアルコール(純度99.8%)100重量部に対して、水酸化カリウム8.3重量部の割合で溶解させた。また軽液の精製用の吸着剤は活性白土とし、平均粒径0.1mmのものを用いた。重液の中和には、硫酸を用いた。
【0092】
原料油貯蔵タンク14から、ストレーナー17を通過し、送液ポンプ16によって、多管式熱交換器18によって、原料油を150℃に加熱した。これを、減圧脱水、脱臭、脱酸塔20に送り込んだ。送液速度は、質量流量20kg/分であった。減圧塔20の絶対圧力は5mmHgであった。この時点での酸価は3.1であった。固体親水性吸着剤装填カラム21の充填剤としては、活性アルミナ(平均粒径0.1mm、通過原料油に対して1重量%相当)を用いた。通過速度は25kg/分、通過時の原料油温度80℃で行った。この時点での酸価は0.6であった。送液ポンプにて、質量を確認しながら1000kgを攪拌反応槽24に送り込んだ。
【0093】
反応槽24中の原料油温度を64℃にまで下げ、これに触媒溶液を、メタノール量(121kg、1.1当量)および触媒量(10kg、1重量%/原料油)相当を加えた。滴下時間は、15分間であった。滴下終了後、反応液を15分間攪拌した。攪拌速度は360rpmであった。反応液を攪拌反応槽24の下部ドレインコックより抜き出し、静置比重分離槽30に送り込んだ。ここで反応混合液を、4時間静置した。生じた界面の下部、すなわちグリセリン主成分の重液部を30のドレインから抜き出し、中和・蒸留処理部へ送った。重液部抜き出し後、軽液部は、塩基性物質吸着処理部8へと送った。塩基性物質除去用吸着剤充填カラム31の充填剤は活性炭および活性白土を多層構造で充填した。これらの量は、総量で通過液の1%であった。また通過速度は、20リットル/分であった。カラム通過後の軽液を、固−液分離用遠心分離機41に、20リットル/分の速度で通過させた。このときの遠心効果は1,000G相当の回転数で行った。遠心分離器通過後の軽液は、低沸点物質除去用の減圧脱水、脱臭、脱酸塔44に送り込まれ、減圧度10mmHg、温度80℃液の滞留時間30分で処理した。処理後、軽液はフィルター32、33を通し製品タンクへ送液した。
【0094】
得られた軽液すなわちバイオディーゼル燃料の純度の測定は、キャピラリーガスクロマトグラフ(GC−14A, TC−1, 0.25mmID,15m)を用いて、注入口温度:280℃、検出温度:250℃、カラム温度40℃5分〜320℃15分、昇温速度:10℃/分、サンプル注入量:5マイクロリットルで分析を行い、保持時間が16分から30分までのピーク面積から求めた。これらのピークについてはあらかじめ、GC-MSによって構造を確認した。同時に、残留アルコール量およびその他揮発性物質量もピーク面積から求めた。水分はカールフィッシャー水分計でもとめた。密度(15℃):[0.85〜0.9g/cm3]、動粘度(40℃):[1.9〜6.0mm2/s]、95%留出温度:[360℃以下]、引火点:[100℃以上]、目詰まり点:[0〜-20℃(流動点:0〜-20℃)]、硫黄分:[200ppm以下]、残留炭素:[0.05%以下(10%残油の残留炭素:0.5%以下)]、セタン価:[>51]、ヨウ素価:[120以下]、高不飽和脂肪酸(C18:3以上)量:[15%以下]、リン量:[20mg/kg]([]内は基準値を記載)をJIS規格に定められた方法および通常の方法で分析した。結果を表1に示した。表中の変換率(Conversion%)は、以下の式で計算した。また表中の変換率は、重液精製時に回収される軽液量を含んでいる。
【0095】
変換率 = 生成脂肪酸アルキルエステル量 / 攪拌反応槽への投入量
また、液−液分離後の重液は、中和・蒸留処理部7へ送られ、以下の条件で中和した。
【0096】
中和剤:濃硫酸8.0kg+水8.7kgからなる希硫酸
中和処理攪拌槽34の攪拌速度:100rpm
攪拌時間:10分間その後静置30分
温度:50℃
下部ドレインより反応混合液(含結晶)を連続濾過機36へ送液した。送液速度は、10リットル/分であった。硫酸カリウム塩結晶を濾過後、得られた濾液を減圧式蒸留塔47へ導入し蒸留した。蒸留における減圧度は10mmHg、ボトム温度180℃で行った。一部水分を含む初留分を除去後、本留をコンデンサー48で凝縮し、これを液−液遠心分離機50にかけ、脂肪酸アルキルエステル主成分の軽液とグリセリン主成分の重液とに分離した。重液は製品グリセリンとしてグリセリン貯蔵タンク52に送液した。得られた軽液は24kgであった。これは再度塩基性物質吸着処理部8に送られバイオディーゼル燃料として精製した。独立して精製した後のBDFは23.8kgであった。重液から得られたグリセリンの純度は99.0%であり、その量は、150kg(反応原料油からの収率:95.5%)であった。
【0097】
[実施例2]
原料油として、ナタネ油(酸価:0.6、ヨウ素価:118、引火点230℃、水分0.2%)を使用した以外は、実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表1に示した。
【0098】
[実施例3]
原料油として、ダイズ油(酸価:0.6、ヨウ素価:132、引火点240℃、水分0.2%)を使用した以外は、実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表1に示した。
【0099】
[実施例4]
原料油として、パーム油(酸価:0.8、ヨウ素価:54、引火点230℃、水分0.3%)を使用した以外は、実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表1に示した。
【0100】
[実施例5]
原料油受け入れタンク13から、原料油貯蔵タンク14で、8時間静置せず、直接液−液遠心分離機15へ送液し、分離操作を行った。このときの原料油の温度を55℃とした。その後ストレーナー17へ通した。通液速度は15リットル/分であった。このことによって、原料受け入れから反応工程へいたるまでの時間が、1時間30分に短縮された。これ以外は、実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表2に示した。
【0101】
[実施例6]
液−液分離部6において、反応槽24から、直接液−液分離用遠心分離機40へ反応混合液を通した。通過時の混合液の温度は、40℃とした。また通過速度は15リットル/分であった。このことによって、液-液分離部の滞留時間を1時間30分に短縮した。これ以外は、実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表2に示した。
【0102】
[実施例7]
高比重物質除去処理部9と低沸点物質除去処理部10の間で、アクリルポリマー系(分子量100,000)流動点降下剤をスタティックミキサーで、2,000ppm添加した。これ以外は、実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表2に示した。
【0103】
[実施例8]
アルコールとして、エチルアルコール(純度99.5%)を用いた。このとき反応温度は75℃とした。これ以外は、実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表2に示した。
【0104】
[比較例1]
原料油貯蔵タンク14から、ストレーナー17を通過し、送液ポンプ16によって、多管式熱交換器18によって、原料油を100℃に加熱した。これを、減圧脱水、脱臭、脱酸塔20に送り込んだ。送液速度は、質量流量20kg/分であった。減圧塔20の絶対圧力は5mmHgであった。この原料油を、固体親水性吸着剤装填カラム21を通さずに送液ポンプにて、質量を確認しながら1000kgを攪拌反応槽24に送り込んだ。このときの原料油の酸価は3.1であった。これ以外は実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表3に示した。
【0105】
[比較例2]
原料油貯蔵タンク14から、ストレーナー17を通過し、送液ポンプ16によって、多管式熱交換器18によって、原料油を200℃に加熱した。これを、減圧脱水、脱臭、脱酸塔20に送り込んだ。送液速度は、質量流量20kg/分であった。減圧塔20の絶対圧力は5mmHgであった。この原料油を、固体親水性吸着剤装填カラム21を通さずに送液ポンプにて、質量を確認しながら1000kgを攪拌反応槽24に送り込んだ。このときの原料油の酸価は0.8であった。これ以外は実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表3に示した。
【0106】
[比較例3]
実施例1で用いられた水酸化カリウムに代えて、水酸化ナトリウム(96.0%純度)を用い、触媒溶解槽27内で、触媒をメタノール(純度99.8%)100重量部に対して触媒11.5重量部の割合で溶解させこれを所定量原料油に投入し反応させた。これ以外は、実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表3に示した。
【0107】
[比較例4]
比重分離後の軽液を、塩基性物質吸着処理部8の塩基性物質除去用吸着剤充填カラム31を通さずに、直接高比重物質除去処理部9へ送った。これ以外は実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表4に示した。
【0108】
[比較例5]
低沸点物質除去処理部10を通さずに処理を行った。これ以外は実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表4に示した。
【0109】
[比較例6]
原料油として、酸化劣化の非常に進んだ廃食油(酸価:30、ヨウ素価:75、水分3.3%)を用いた。脱臭、脱水、脱酸部2における減圧脱臭、脱水、脱酸塔20での処理条件を、100℃、3mmHgとし、通過流速を10リットル/分にした。これ以外は実施例1と同様に行った。性状分析の結果を表4に示した。
【0110】
[比較例7]
液−液分離部6で生じた重液の中和を行う際、硫酸を所定量の水で希釈せずに、濃硫酸(96%以上)のまま、中和所定量を加えて中和した。このとき、中和後の混合液は、硫酸カリウム塩が系から分離せず、溶液全体に分布し非常に粘度の高いスラリーとなった。これをこのまま減圧式蒸留塔37に送り蒸留を行ったところ、グリセリンの収率は63%であった。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0111】
表からわかるように、流動点やヨウ素価といった原料油種に依存する値が規格値を満たさない劣化油脂類を用いても、本発明に係る製造方法によれば、他の規格値を満たす高品質なバイオディーゼル燃料を得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明に係るバイオディーゼル燃料油の製造方法を実施するための装置の一例を示すブロック図である。
【図2】図1に示した製造装置の一部を構成する前処理部、脱水、脱臭、脱酸部、及び酸性物質除去処理部の構成を示す概略図である。
【図3】図1に示した製造装置の一部を構成する触媒含有アルコール溶液調整部、混合反応部、および液−液分離部の構成を示す概略図である。
【図4】図1に示した製造装置の一部を構成する塩基性物質吸着処理部、高比重物質除去処理部、低沸点物質除去処理部、及び微粒子・凝縮物質除去処理部の構成を示す概略図である。
【図5】図1に示した製造装置の一部を構成する中和・蒸留処理部の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0113】
1…前処理部、2…脱水、脱臭、脱酸部、3…酸性物質除去処理部、4…触媒含有アルコール溶液調製部、5…混合反応部、6…液−液分離部、7…中和・蒸留処理部、8…塩基性物質吸着処理部、9…高比重物質除去処理部、10…低沸点物質除去処理部、11…微粒子・凝縮物質除去処理部、13…原料油受け入れタンク、14…原料油貯蔵タンク、15、40、41、50…遠心分離機、17…カートリッジフィルター付きストレーナー、18…多管式熱交換器、19、51…ボイラー、20…減圧脱水、脱臭、脱酸塔、21…固体親水性吸着剤装填カラム、22、42、48…コンデンサー、23、43、49…真空ポンプ、24…攪拌反応槽、25、53…攪拌モーター、26…攪拌羽根、27…触媒溶解槽、29…アルコール貯蔵タンク、30…静置比重分離槽、31…塩基性物質除去用吸着剤装填カラム、32、33…カートリッジ式フィルター、35…希酸貯蔵タンク、36…連続濾過機、47…減圧式蒸留塔中和処理攪拌槽、45…スタティックミキサー式添加剤導入機、52…グリセリン貯蔵タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸価20以下の原料油からバイオディーゼル燃料を製造する方法であって、
前記原料油を減圧下で加熱して水分、臭気物質及び遊離脂肪酸類を留去する工程と、
前記原料油を親水性吸着剤と接触させ残存する遊離脂肪酸及び酸性物質を吸着除去する工程と、
前記原料油とアルコールを、水酸化カリウム、炭酸カリウム、およびカリウムアルコラートからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ触媒存在下でエステル交換反応させる工程と、
前記エステル交換反応による反応生成物から軽液成分を分離する工程と、
前記軽液成分に対し、塩基性物質吸着性固体吸着剤に接触させる処理、遠心分離により固体不純物等を除去する処理、減圧下で加熱して低沸点物質を除去する処理、及びフィルターを通して固体不純物等を除去する処理、を行う工程と、を含むバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項2】
前記親水性吸着剤は、活性アルミナ、塩基性処理活性炭、およびシリカゲルからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項3】
前記エステル交換反応工程は、
原料油の脂肪酸部位に対して1.05〜1.25モル当量のアルコールに、原料油に対して0.5重量%〜2.0重量%の前記アルカリ触媒を溶解させて、触媒含有アルコール溶液を調整する工程と、
前記原料油と前記触媒含有アルコール溶液を混合し撹拌する工程と、を含む、請求項1又は2に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項4】
前記軽液成分を分離する工程は、前記反応生成物を遠心分離することによって行われる、請求項1から3のいずれか1項に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項5】
前記塩基性物質吸着性固体吸着剤は、活性白土、酸性白土、活性炭、ベントナイト、シリカゲル、活性アルミナ、及びモレキュラーシーブスからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1から4のいずれか1項に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項6】
前記軽液成分を減圧下で加熱して低沸点物質を除去する処理を行う前に、前記軽液に流動点降下剤、酸化安定剤を添加する、請求項1から5のいずれか1項に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項7】
前記留去工程に先立って、原料油から水又は水溶液を比重分離する工程と、比重分離後の原料油から固体物質をフィルターにより除去する工程と、を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項8】
前記エステル交換反応に用いられるアルコールが、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、及びt−ブチルアルコールからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1から7のいずれか1項に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項9】
前記反応生成物から軽液成分を分離した後の重液成分に、アルカリ触媒に対して当量モルのプロトンに相当する硫酸または燐酸を、アルカリ触媒中のカリウム原子に対して0.3〜5モル当量の水で希釈して添加し、中和する工程と、
得られた包摂水和物、または、水和硫酸カリウム結晶若しくは水和第三燐酸カリウム結晶を濾別後の濾液、を減圧蒸留し、副生成物としてグリセリンを得る工程と、を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−239938(P2008−239938A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92934(P2007−92934)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【分割の表示】特願2007−76206(P2007−76206)の分割
【原出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【特許番号】特許第4078383号(P4078383)
【特許公報発行日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(507320915)バイオエナジーズジャパン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】