説明

バイオディーゼル燃料の製造方法

【課題】新規なバイオディーゼル燃料の製造方法を提供する。
【解決手段】リン脂質を含むバイオマス原料を酵素によって処理することにより、バイオマス原料中のリン脂質を加水分解するとともに脂肪酸をエステル化させてバイオディーゼル燃料を製造する。酵素としては、リン脂質に対して加水分解活性を示す酵素を用いることができ、好ましくは、2種類の特定のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むものの少なくともいずれか一方を用いる。これらのポリペプチドは、アミノ酸配列が、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたものであっても、75%の相同性を有しているものであってもよい。バイオマス原料を酵素処理することにより、生産性よく、容易にバイオディーゼル燃料を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物等を利用したバイオディーゼル燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食用油又は廃棄食用油に含まれるグリセリドを原料に、アルカリや固体酸触媒、あるいはリパーゼを用いてバイオディーゼル燃料(BDF:Bio Diesel Fuel)を製造する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ナンヨウアブラギリ由来の植物油脂の遊離脂肪酸をあらかじめ硫酸でエステル化処理した原料油脂と、炭素数が2以下のアルキルアルコールとを、酸化カルシウム触媒の存在下でエステル交換反応させて、バイオディーゼル燃料を製造する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、グリセリドを含む油脂と、水とリパーゼとを混合して所定の分解率に達するまで加水分解反応させた後、アルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させるバイオディーゼル燃料の製造方法が開示されている。
【0005】
バイオディーゼル燃料は、バイオマス原料から得られるディーゼル燃料であり、化学物質としては、例えば、脂肪酸メチルエステルが、現在、知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−012254号公報
【特許文献2】特開2010−106107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、食用油又は廃棄食用油をバイオディーゼル燃料の原料として用いる場合、需要と供給のバランスが成立しないといった問題や、食用の油と競合するなどといった問題がある。また、従来のバイオディーゼル燃料の製造方法では、製造コストが高いことや、反応後の廃液処理の方法、副産物グリセリンの余剰の対処が、実用化の課題として挙げられる。これらの問題から、バイオディーゼル燃料はその実用化が難しかった。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、生産性よく、容易にバイオディーゼル燃料を製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るバイオディーゼル燃料の製造方法は、リン脂質を含むバイオマス原料を、酵素によって処理することにより、バイオマス原料中のリン脂質を加水分解するとともに脂肪酸をエステル化させてバイオディーゼル燃料を製造するものである。
【0010】
前記酵素としては、リン脂質に対して加水分解活性を示す酵素を用いる。
【0011】
前記酵素としては、好ましくは、下記の酵素A及び酵素Bのすくなくとも一方の酵素、又は、下記の酵素C及び酵素Dのすくなくとも一方の酵素を用いる。
【0012】
酵素A:下記の(a1)、(a2)、又は、(a3)のポリペプチドを含む酵素、
(a1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(a2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチド;
(a3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の相同性を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチド。
【0013】
酵素B:下記の(b1)、(b2)、又は、(b3)のポリペプチドを含む酵素、
(b1)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチド;
(b3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の相同性を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチド。
【0014】
酵素C:下記の(c1)、(c2)、又は、(c3)のポリペプチドを含む酵素、
(c1)配列番号3に記載の塩基配列をポリヌクレオチドとして有する微生物から産生されるポリペプチド;
(c2)配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチド;
(c3)配列番号3に記載の塩基配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチド。
【0015】
酵素D:下記の(d1)、(d2)、又は、(d3)のポリペプチドを含む酵素、
(d1)配列番号4に記載の塩基配列をポリヌクレオチドとして有する微生物から産生されるポリペプチド;
(d2)配列番号4に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチド;
(d3)配列番号4に記載の塩基配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチド。
【0016】
本発明では、前記酵素がストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物に由来するものであることが好ましい。また、前記バイオマス原料が廃棄物であることが好ましい。また、前記エステル化はメチルエステル化であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、バイオマス原料を酵素処理することによりバイオディーゼル燃料を生成することができるので、生産性よく、容易にバイオディーゼル燃料を製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の酵素によりバイオディーゼル燃料を生成した結果を示すTLCの写真である。
【図2】(a)及び(b)は、酵素によりバイオディーゼル燃料を生成した結果を示すTLCの写真である。
【図3】酵素によりバイオディーゼル燃料を生成した結果を示すTLCの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明によるバイオディーゼル燃料の製造方法では、リン脂質を含むバイオマス原料を、酵素A、酵素B、酵素C、酵素Dから選ばれる少なくとも1種の酵素などの、リン脂質に対して加水分解活性を示す酵素によって処理する。
【0020】
[酵素]
本明細書において、酵素とは、精製酵素に限定されず、粗精製物、固定化物なども含む。酵素の精製は、例えば、微生物の培養液を用いて、硫安沈澱、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィーなどの、当業者に周知の方法を用いて行われる。それにより、種々の精製度の酵素(ほぼ単一までに精製された酵素を含む)が得られ得る。
【0021】
本明細書において、微生物とは、野性株、変異株(例えば、紫外線照射などにより誘導されたもの)、あるいは、細胞融合もしくは遺伝子組換え法などの遺伝子工学的手法により誘導される組換え体などのいずれの株であってもよい。組換え体などの遺伝子操作された微生物は、例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual,第2版(Sambrook,J.ら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載されるような、当業者に公知な技術を用いて容易に作成され得る。微生物の培養液とは、微生物菌体を含む培養液、および遠心分離などにより微生物菌体を除いた培養液の両方を意味する。
【0022】
酵素としては、リン脂質に対して加水分解活性を示す酵素を用いる。いわゆるホスホリパーゼ(PL)と称せられる酵素である。ホスホリパーゼとしては、PLA1、PLA2、PLBなどを用いることができる。このような酵素としては、例えば、シグマアルドリッチ社から市販されているブタ膵臓由来、ムフェジコブラ由来、放線菌Streptomyces violaceoruber由来などのPLA2や、Thermomyces lanuginosus由来PLA1、Lecitase Ultra由来PLA1などの市販されている酵素などが挙げられる。あるいは、酵素として、三菱化学フーズ製PLA1、ノボザイム製レシターゼ、ジェネンコア協和製PLA2リポモッド699L、ナガセケムテックス製PLA2ナガセ、ディー・エス・エムジャパン製PLA2マキサパールA2、旭化成ファーマテック製PLA2、旭化成ファーマテック製PLBなどの産業用酵素を用いてもよい。このうち、バイオディーゼル燃料の製造という観点から、酵素は、アルコール耐性(特にメタノールに対しての耐性)を有することが好ましい。
【0023】
さらに、バイオディーゼル燃料の製造においては、これらの酵素よりも以下に説明する酵素A、酵素B、酵素C及び酵素Dの方が好ましい。以下で説明する酵素は、カルシウム塩などの無機塩の添加を不要にすることができ、低温〜高温(20〜70℃)で反応させることができ、酵素処理の効率を向上させることができる。また、pH3〜11で反応させることができるため、反応制御しやすい。また、酵素の力価が極めて高いため、反応効率が格段に高い。さらに、多くの種類のリン脂質に作用するため、反応収率が高い。
【0024】
[酵素A、酵素C]
酵素Aは、(a1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は、(a2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチド、又は、(a3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の相同性を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチドを含んでいる。
【0025】
酵素Cは、(c1)配列番号3に記載の塩基配列をポリヌクレオチドとして有する微生物から産生されるポリペプチド、又は、(c2)配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチド、又は、(c3)配列番号3に記載の塩基配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチドを含んでいる。
【0026】
配列番号3に記載の塩基配列のポリヌクレオチドは、配列番号1に記載のポリペプチド(アミノ酸配列)をコードし得る。すなわち、本発明の好ましい一態様では酵素Aと酵素Cとが一致する。
【0027】
酵素A及び酵素Cは、グリセロールリン脂質中のグリセロール基のα位(sn−1位)の脂肪酸エステル結合を優先的に(sn−2位よりも優位に)加水分解する酵素、すなわちホスホリパーゼA1(PLA1)の一種である。したがって、PLA1である酵素A及び酵素Cは、リン脂質から2−リゾリン脂質、グリセロール−3−リン酸、及び、グリセロール−3−ホスホコリンなどのグリセロール−3−リン酸エステル化合物の少なくとも1種以上、好ましくは3種全てを生成する酵素である。
【0028】
PLA1活性は、例えば、以下のようにして確認され得るが、確認方法はこれに限定されるものではない。具体的には、例えば、酵素反応の結果、生成する遊離脂肪酸量を測定することにより、PLA1活性を確認することができる。
【0029】
具体的な手法としては、まず、0.02%(w/v)トライトン(Triton)X−100(ナカライテスク(株)製)10mLに卵黄ホスファチジルコリン1g(ナカライテスク製)を溶解し、10%(w/v)卵黄ホスファチジルコリンを調製する。この10%(w/v)卵黄ホスファチジルコリン0.025mLに、0.2M トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)0.060mLと、0.5M EDTA二ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.005mLとを加える。そして、37℃で5分間予備加温した後、酵素活性を確認する試料0.010mLを添加し、37℃で5分間反応させる。酵素反応後、100℃で5分間加熱し、反応を停止させる。反応停止後、反応液5μL中に含まれる遊離脂肪酸量を、例えば遊離脂肪酸測定キットである「NEFA Cテストワコー」(和光純薬工業(株)製)を用いて、キットに添付の指示書に記載のとおりに測定する。1分間に1μmolの遊離脂肪酸を生成する酵素量を、1単位(1U)とする。
【0030】
酵素A及び酵素Cは、例えば、緩衝液として、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.1〜5.6)、ビストリス−塩酸緩衝液(pH5.6〜7.2)、トリス−塩酸緩衝液(pH7.2〜8.8)、および、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH8.8〜10.5)、を用いて、上記の卵黄ホスファチジルコリンと酵素とを反応条件下におくと、そのpH範囲内(pH4.1〜10.5)でPLA1活性を示し得る。至適pHはpH5.6付近であるが、pH5〜8で実質的に100%の活性を示す。
【0031】
酵素A及び酵素Cは、例えば、上記のように卵黄ホスファチジルコリンと酵素とを37℃にて5分間反応させた条件下でpH5.6における加水分解活性を100%とした場合、pH4.1からpH10の範囲内で50%以上の活性を示すことが好ましい。
【0032】
酵素A及び酵素Cは、例えば、上記の卵黄ホスファチジルコリンと酵素との反応条件下においては、約20〜65℃で作用し得る。至適温度は、この範囲内にあり得る。好ましくは約30〜55℃の範囲内にあり、より好ましくは40〜55℃の範囲内にあり、さらにより好ましくは約50℃である。
【0033】
酵素A及び酵素Cは、例えば、120mM 酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)で30分間処理した場合、4℃から40℃まででは、ほぼ活性の低下が見られず安定であり得、そして45℃でも80%程度(例えば75%)以上の活性が残存している。
【0034】
酵素A及び酵素Cは、例えば、緩衝液として酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)を用いて、上記のリン脂質と酵素溶液とを反応条件下におくと、100mMのEDTAが存在しても阻害を受けず、EDTAを添加しない場合とほぼ同一の活性を示すことが好ましい。また、10mM Ca2+、Zn2+の存在下では、約80%の活性(例えば80〜95%程度の活性)を示すことが好ましい。一方、10mMのFe3+、Fe2+では活性が阻害され得るものである。
【0035】
酵素A及び酵素Cは、pH9.0の条件下で上記のように該酵素と基質とを50℃にて5分間反応させた場合、卵黄ホスファチジルコリンが基質である場合に対する加水分解活性を100%とすると、DPPCに対して50%以下(下限は30%)、PAに対して350%以上(上限は400%)、PGに対して400%以上(上限は450%)、PSに対して450%以上(上限は480%)、PEに対して100%以上(上限は140%)、PIに対して350%以上(上限は380%)、大豆ホスファチジルコリン(SIGMA製)に対して300%以上(上限は360%)、大豆レシチン(和光純薬製)に対して75.0%以上(上限は90%)であることが好ましい。
【0036】
酵素A及び酵素Cは、卵黄ホスファチジルコリンを基質としたときに、pH5.6で50℃にて5分間の条件での加水分解活性を100%とした場合に、DPPCに対して100%以上(上限は140%)、PAに対して100%以下(下限は60%)、PGに対して150%以上(上限は190%)、PSに対して150%以上(上限は190%)、PEに対して100%以上(上限は120%)、PIに対して250%以上(上限は290%)、大豆ホスファチジルコリン(SIGMA製、L-α-Phosphatidylcholine)に対して250%以上(上限は290%)、大豆レシチン(和光純薬製)に対して250%以上(上限は280%)の活性を有し、トリグリセリド(オリーブ油)に対する活性がほぼ0%(例えば5%以下、3%以下、又は1%以下、あるいは検出限界以下)であることが好ましい。このような基質特異性を有することが好ましいものである。
【0037】
なお、DPPCは、1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholineの略である。PAは、1,2-Dimyristoyl-sn-glycerol-3-phosphateの略である。PGは、1,2-Diacyl-sn-glycero-3-phospho-(1-rac-glycerol)の略である。PSは、L-α-Phosphatidylserineの略である。PEは、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamineの略である。PIは、L-α-Phosphatidylinositol)の略である。
【0038】
酵素A及び酵素Cは、電気泳動条件などにより若干変化し得るが、SDS−PAGEにおける分子量が25,000〜30,000の範囲内(例えば、約28,000、又は、約27,000)を示すことが好ましい。また、酵素A及び酵素Cは、アミノ酸組成から計算した分子量が、25,000〜30,000の範囲内であることが好ましい。例えば、ストレプトマイセス・アルビドフラブス(Streptomyces albidoflavus)NA297株由来の天然の酵素では、SDS−PAGEにおける分子量が約28,000、具体的には28,000を示す。このストレプトマイセス・アルビドフラブス(Streptomyces albidoflavus)NA297株由来の天然の酵素では、そのアミノ酸組成から計算した分子量は27,199である。
【0039】
酵素A及び酵素Cは、6.0〜6.1の範囲内(例えば6.06)の等電点を示すことが好ましい。酵素の等電点は、そのアミノ酸配列から、GENETYXにより算出され得る。
【0040】
酵素A及び酵素C、すなわちホスホリパーゼA1の一態様は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるものである。ホスホリパーゼA1は、好ましくは配列番号1の34位から269位までのアミノ酸配列(本明細書では、「配列番号1に記載内のアミノ酸配列」ともいう)を有する。
【0041】
酵素A及び酵素Cは、PLA1活性を有する限り、配列番号1に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号1に記載内のアミノ酸配列に対して、1または複数のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有する酵素であっても良い。当業者であれば、例えば、部位特異的変異導入法(NucleicAcid Res.,1982年,10巻,pp.6487;Methods inEnzymol.,1983年,100巻,pp.448;Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,ColdSpring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY.1989年;PCR:APractical Approach,IRL Press,1991年,pp.200)などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより、タンパク質の構造を改変することができる。置換、欠失、挿入、および/または付加することができるアミノ酸残基数は、通常50以下、例えば30以下、あるいは20以下、好ましくは16以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは0〜3である。また、アミノ酸の変異は、人工的に変異させた酵素のみならず、自然界において変異した酵素も、PLA1活性を有する限り、酵素A及び酵素Cに含まれる。
【0042】
配列番号1に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号1に記載内のアミノ酸配列に対して、相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質も、PLA1活性を有する限り、酵素A及び酵素Cに含まれる。酵素A及び酵素Cは、好ましくは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号1に記載内のアミノ酸配列と、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、なおより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。
【0043】
タンパク質の相同性の(ホモロジー)検索は、例えばSWISS−PROT、PIR、DADなどのタンパク質のアミノ酸配列に関するデータベース、またはDDBJ、EMBL、あるいはGene−BankなどのDNAデータベースなどを対象に、BLAST、FASTAなどのプログラムを利用して、例えば、インターネットを通じて行うことができる。タンパク質の活性の確認は、上記に記載の手順を利用して行い得る。
【0044】
酵素A及び酵素Cの供給源は特に限定されるものではないが、酵素A及び酵素Cは、微生物などの生体細胞から得ることができる。そのような微生物としては、例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物が挙げられる。好ましくはストレプトマイセス・アルビドフラブス(Streptomyces albidoflavus)およびストレプトマイセス・アルブス(Streptomyces albus)であり、最も好ましくはストレプトマイセス・アルビドフラブス(Streptomyces albidoflavus)NA297(受託番号:NITE BP−1014菌株、以下「NA297株」という)である。このストレプトマイセス・アルビドフラブス(Streptomyces albidoflavus)NA297は、配列番号3の塩基配列で示されるポリヌクレオチドをDNA中に有している。
【0045】
例えば、上記ストレプトマイセス・アルビドフラブス(Streptomycesalbidoflavus)NA297(受託番号:NITE BP−1014)は適当な栄養培地で液体培養することにより該酵素を菌体外に分泌するので、その培養上清を凍結乾燥、塩析、有機溶媒などにより処理したものを酵素製剤として製造することができる。
【0046】
酵素製剤の製造に用い得る微生物はストレプトマイセス・アルビドフラブス(Streptomyces albidoflavus)NA297に限られるものではなく、ストレプトマイセス属に属し、かつ、酵素A又は酵素Cを生産し得る微生物であってもよい。また、それらの生物種の天然または人為的変異株や、PLA1活性の発現に必要な遺伝子断片を人為的に取り出し、それを組み入れた他の生物種であっても酵素A及び酵素Cの製造に用いることができる。また、ストレプトマイセス属に属さなくても、上記の酵素A又は酵素Cを生産し得る微生物であれば、それを用いることもできる。
【0047】
ストレプトマイセス・アルビドフラブス(Streptomycesalbidoflavus)NA297を用いた酵素製剤を例に挙げて、その製造について説明する。
【0048】
この菌は栄養培地で液体培養することにより該酵素を菌体外に分泌するので、その培養上清を凍結乾燥、塩析、有機溶媒などにより処理する、あるいはこの処理物を固定化するなどして酵素製剤を製造することができる。さらに具体的に説明すると、まず、この菌を適当な培地、例えば適当な炭素源、窒素源、無機塩類を含む培地中で培養し、該酵素を分泌させる。ここで炭素源としては、澱粉および澱粉加水分解物、グルコース、シュークロースなどの糖類、グリセロールなどのアルコール類、および有機酸(例えば、酢酸およびクエン酸)またはその塩(例えば、ナトリウム塩)などが挙げられる。窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー、大豆粉などの有機窒素源および硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素などの無機窒素化合物挙げられる。無機塩類としては、塩化ナトリウム、リン酸1カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガン、塩化カルシウム、硫酸第1鉄などが挙げられる。炭素源の濃度は、例えば1〜20%(w/v)、好ましくは1〜10%(w/v)の範囲である。窒素源の濃度は、例えば1〜20%(w/v)、好ましくは1〜10%(w/v)の範囲である。培養温度は、酵素A及び酵素Cが安定であり、そして培養される微生物が十分に生育できる温度であることが好ましく、例えば、20〜37℃であることが好ましい。培養時間は、上記酵素が十分に生産される時間であることが好ましく、例えば、1〜7日間程度であることが好ましい。培養は、好ましくは、好気的な条件下で、例えば、通気攪拌または振とうしながら行うことができる。
【0049】
酵素A及び酵素Cに含まれるポリペプチドは、タンパク質の溶解度による分画(有機溶媒による沈殿や硫安などによる塩析など);陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィー;キレート、色素、抗体などを用いたアフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適当に組み合わせることにより精製することができる。例えば、上記微生物の培養上清を回収した後、硫安沈殿、さらに陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、及び/又は、陽イオン交換クロマトグラフィーを行うことにより精製することができる。これにより、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)において、ほぼ単一バンドにまで精製することができる。すなわち、酵素A及び酵素Cを構成するポリペプチドは、HPLC分析およびゲル濾過クロマトグラフィー分析により、単量体と推定できる。
【0050】
[酵素B及び酵素D]
酵素Bは、(b1)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、又は、(b2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチド、又は、(b3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の相同性を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチドを含んでいる。
【0051】
酵素Dは、(d1)配列番号4に記載の塩基配列をポリヌクレオチドとして有する微生物から産生されるポリペプチド、又は、(d2)配列番号4に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチド、又は、(d3)配列番号4に記載の塩基配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチドを含んでいる。
【0052】
配列番号4に記載の塩基配列のポリヌクレオチドは、配列番号2に記載のポリペプチド(アミノ酸配列)をコードし得る。すなわち、本発明の好ましい一態様では酵素Bと酵素Dとが一致する。
【0053】
酵素B及び酵素Dは、グリセロール基のα位(sn−1位)の脂肪酸エステル結合と、グリセロール基のβ位(sn−2位)の脂肪酸エステル基との両方の脂肪酸エステル基を加水分解する酵素活性を有する。すなわち、酵素B及び酵素Dは、ホスホリパーゼA1活性及びホスホリパーゼA2活性を併有する酵素であり、いわゆるホスホリパーゼB(PLB)と称される酵素の1種である。したがって、PLBである酵素B及び酵素Dは、リン脂質からリゾリン脂質、グリセロール−3−リン酸、及び、グリセロール−3−ホスホコリンなどのグリセロール−3−リン酸エステル化合物の少なくとも1種以上、好ましくは3種全てを生成する酵素である。
【0054】
PLB活性は、例えば、以下のようにして確認され得るが、確認方法はこれに限定されるものではない。具体的には、例えば、酵素反応の結果、生成する遊離脂肪酸量を測定することにより、PLB活性を確認することができる。
【0055】
具体的な手法としては、まず、10%(w/v)トライトン(Triton)X−100(ナカライテスク(株)製)10mLにジミリストイルホスファチジン酸1g(フナコシ製)を溶解し、10%(w/v)ジミリストイルホスファチジン酸を調製する。この10%(w/v)ジミリストイルホスファチジン酸0.005mLに、0.2M トリス−塩酸緩衝液(pH8.4)0.025mLと、0.5M EDTA二ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.002mLと、蒸留水0.063mLとを加える。そして、37℃で5分間予備加温した後、酵素活性を確認する試料0.005mLを添加し、37℃で5分間反応させる。酵素反応後、100℃で5分間加熱し、反応を停止させる。反応停止後、反応液5μL中に含まれる遊離脂肪酸量を、例えば遊離脂肪酸測定キットである「NEFA Cテストワコー」(和光純薬工業(株)製)を用いて、キットに添付の指示書に記載のとおりに測定する。1分間に1μmolの遊離脂肪酸を生成する酵素量を、1単位(1U)とする。
【0056】
酵素B及び酵素Dは、例えば、緩衝液として、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.1〜5.6)、ビストリス−塩酸緩衝液(pH5.6〜7.2)、トリス−塩酸緩衝液(pH7.2〜8.8)、および、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH8.8〜10.5)、を用いて、上記のホスファチジン酸と酵素とを反応条件下におくと、そのpH範囲内(pH4.1〜10.5)でPLB活性を示し得る。至適pHは、pH8〜8.8付近とすることができる。
【0057】
酵素B及び酵素Dは、例えば、上記のようにジミリストイルホスファチジン酸と酵素とを37℃にて5分間反応させた条件下でpH8.4における加水分解活性を100%とした場合、pH7.2からpH10.0の範囲内で50%以上の活性を示すことが好ましい。
【0058】
酵素B及び酵素Dは、例えば、上記のようにジミリストイルホスファチジン酸と酵素との反応条件下においては、約20〜65℃で作用し得る。至適温度は、この範囲内にあり得る。好ましくは約37〜60℃の範囲内であり、より好ましくは45〜55℃の範囲内であり、さらにより好ましくは約50℃である。
【0059】
酵素B及び酵素Dは、例えば、160mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.4)で30分間処理した場合、4℃から45℃まででは、ほぼ活性の低下が見られず安定であり得、そして好ましくは、50℃でも80%程度(例えば75%)以上の活性が残存している。
【0060】
酵素B及び酵素Dは、例えば、緩衝液としてトリス−塩酸緩衝液(pH8.4)を用いて、上記のリン脂質と酵素溶液とを反応条件下におくと、10mMのEDTAによって阻害を受けず、EDTAを添加しない場合とほぼ同一の活性を示すことが好ましい。また、10mM Ca2+の存在下では、約90%の活性(例えば85〜95%程度の活性)を示すことが好ましい。一方、10mMのMg2+、Mn2+、Co2+、Cu2+、Zn2+、Fe3+、Fe2+では活性が阻害され得るものである。
【0061】
酵素B及び酵素Dは、pH8.4の条件下で上記のように該酵素と基質とを50℃にて5分間反応させた場合、ジミリストイルホスファチジン酸が基質である場合に対する加水分解活性を100%とすると、ホスファチジルコリン(PC)に対して95%以上、ホスファチジルイノシトール(PI)、及び、ホスファチジルグリセロール(PG)に対して20%以上、ホスファチジルセリン(PS)に対して25%以上の活性を有することが好ましい。また、同じ条件において、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、トリステアリンおよびジパルミトイルグリセリドに対する活性がほぼ0%(例えば5%以下、3%以下、又は1%以下、あるいは検出限界以下)であることが好ましい。このような基質特異性を有することが好ましいものである。
【0062】
酵素B及び酵素Dは、電気泳動条件などにより若干変化し得るが、SDS−PAGEにおける分子量が38,000〜40,000の範囲内(例えば、約39,000、又は、38,900)を示すことが好ましい。また、酵素B及び酵素Dは、アミノ酸組成から計算した分子量が、41,000〜43,000の範囲内であることが好ましい。例えば、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)NA684株由来の天然の酵素では、SDS−PAGEにおける分子量が約39,000、具体的には38,900を示す。このストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)NA684株由来の天然の酵素では、そのアミノ酸組成から計算した分子量は約42,000である。
【0063】
酵素B及び酵素Dは、6.2〜6.6の範囲内(例えば6.4)の等電点を示すことが好ましい。酵素の等電点は、そのアミノ酸配列から、GENETYXにより算出され得る。
【0064】
酵素B及び酵素D、すなわちホスホリパーゼBの一態様は、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるものである。ホスホリパーゼBは、好ましくは配列番号2の31位から412位までのアミノ酸配列(本明細書では、「配列番号2に記載内のアミノ酸配列」ともいう)を有する。
【0065】
酵素B及び酵素Dは、PLB活性を有する限り、配列番号2に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号2に記載内のアミノ酸配列に対して、1または複数のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有する酵素であっても良い。当業者であれば、例えば、部位特異的変異導入法(NucleicAcid Res.,1982年,10巻,pp.6487;Methods inEnzymol.,1983年,100巻,pp.448;Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,ColdSpring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY.1989年;PCR:APractical Approach,IRL Press,1991年,pp.200)などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより、タンパク質の構造を改変することができる。置換、欠失、挿入、および/または付加することができるアミノ酸残基数は、通常50以下、例えば30以下、あるいは20以下、好ましくは16以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは0〜3である。また、アミノ酸の変異は、人工的に変異させた酵素のみならず、自然界において変異した酵素も、PLB活性を有する限り、酵素B及び酵素Dに含まれる。
【0066】
配列番号2に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号2に記載内のアミノ酸配列に対して、相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質も、PLB活性を有する限り、酵素B及び酵素Dに含まれる。PLBは、好ましくは、配列番号2に記載のアミノ酸配列、又は、配列番号2に記載内のアミノ酸配列と、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、なおより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であり得る。
【0067】
タンパク質の相同性の(ホモロジー)検索は、例えばSWISS−PROT、PIR、DADなどのタンパク質のアミノ酸配列に関するデータベース、またはDDBJ、EMBL、あるいはGene−BankなどのDNAデータベースなどを対象に、BLAST、FASTAなどのプログラムを利用して、例えば、インターネットを通じて行うことができる。タンパク質の活性の確認は、上記に記載の手順を利用して行い得る。
【0068】
酵素B及び酵素Dの供給源は特に限定されるものではないが、酵素B及び酵素Dは、微生物などの生体細胞から得ることができる。そのような微生物としては、例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物が挙げられる。好ましくは、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)、ストレプトマイセス・チャッタノゲンシス(Streptomyces chattanoogensis)およびストレプトマイセス・リディカス(Streptomyces lydicus)が挙げられる。これらの菌株は近縁であることから同種の活性の酵素B及び酵素Dが得られると考えられる。
【0069】
例えば、上記ストレプトマイセス・エスピー(Streptomycessp.)NA684(受託番号:NITE BP−1015)は適当な栄養培地で液体培養することにより該酵素を菌体外に分泌するので、その培養上清を凍結乾燥、塩析、有機溶媒などにより処理したものを酵素製剤として製造することができる。ストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)NA684は、配列番号4の塩基配列で示されるポリヌクレオチドをDNA中に有している。
【0070】
また、ストレプトマイセス・チャッタノゲンシス(Streptomyceschattanoogensis)NBRC12754でもNA684株と同様の活性が得られることを実験で確認している。したがって、ストレプトマイセス・エスピーNA684とストレプトマイセス・チャッタノゲンシスとは同様の活性を示すものである。
【0071】
酵素製剤の製造に用い得る微生物はストレプトマイセス・エスピー(Streptomyces sp.)NA684に限られるものではなく、ストレプトマイセス属に属し、かつ、酵素B又は酵素Dを生産し得る微生物であってもよい。また、それらの生物種の天然または人為的変異株や、PLB活性の発現に必要な遺伝子断片を人為的に取り出し、それを組み入れた他の生物種であってもPLBの製造に用いることができる。また、ストレプトマイセス属に属さなくても、上記のPLBを生産し得る微生物であれば、それを用いることもできる。
【0072】
ストレプトマイセス・エスピー(Streptomycessp.)NA684を用いた酵素製剤を例に挙げて、その製造について説明する。
【0073】
この菌は栄養培地で液体培養することにより該酵素を菌体外に分泌するので、その培養上清を凍結乾燥、塩析、有機溶媒などにより処理する、あるいはこの処理物を固定化するなどして酵素製剤を製造することができる。さらに具体的に説明すると、まず、この菌を適当な培地、例えば適当な炭素源、窒素源、無機塩類を含む培地中で培養し、該酵素を分泌させる。ここで炭素源としては、澱粉および澱粉加水分解物、グルコース、シュークロースなどの糖類、グリセロールなどのアルコール類、および有機酸(例えば、酢酸およびクエン酸)またはその塩(例えば、ナトリウム塩)などが挙げられる。窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー、大豆粉などの有機窒素源および硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素などの無機窒素化合物挙げられる。無機塩類としては、塩化ナトリウム、リン酸1カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガン、塩化カルシウム、硫酸第1鉄などが挙げられる。炭素源の濃度は、例えば1〜20%(w/v)、好ましくは1〜10%(w/v)の範囲である。窒素源の濃度は、例えば1〜20%(w/v)、好ましくは1〜10%(w/v)の範囲である。培養温度は、酵素B及び酵素Dが安定であり、そして培養される微生物が十分に生育できる温度であることが好ましく、例えば、20〜37℃であることが好ましい。培養時間は、上記酵素が十分に生産される時間であることが好ましく、例えば、1〜7日間程度であることが好ましい。培養は、好ましくは、好気的な条件下で、例えば、通気攪拌または振とうしながら行うことができる。
【0074】
酵素B及び酵素Dに含まれるポリペプチドは、タンパク質の溶解度による分画(有機溶媒による沈殿や硫安などによる塩析など);陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィー;キレート、色素、抗体などを用いたアフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適当に組み合わせることにより精製することができる。例えば、上記微生物の培養上清を回収した後、硫安沈殿、さらに陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、及び/又は、陽イオン交換クロマトグラフィーを行うことにより精製することができる。これにより、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)において、ほぼ単一バンドにまで精製することができる。すなわち、酵素B及び酵素Dを構成するポリペプチドは、HPLC分析およびゲル濾過クロマトグラフィー分析により、単量体と推定できる。
【0075】
[微生物]
酵素A、酵素B、酵素C及び酵素Dは、微生物によって産生し得るものである。ここで、酵素A及び酵素Bについてはそのアミノ酸配列情報から、また、酵素B及び酵素Dについてはその塩基配列情報から、人工的にポリペプチドを生成することができ、BDFの製造に人工合成によって得た酵素(ポリペプチド)を用いてもよい。しかしながら、微生物により酵素を産生する場合、容易に上記の酵素を得ることができる。
【0076】
微生物としては、上述したストレプトマイセス属の菌を利用することができるが、上記のポリヌクレオチドが導入された微生物を用いてもよい。すなわち、配列番号3又は配列番号4に記載の塩基配列を有するポリヌクレオチド、及び、配列番号3又は配列番号4に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、及び、配列番号3又は配列番号4に記載の塩基配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリヌクレオチド、から選ばれる少なくとも1種のポリヌクレオチドが導入された微生物である。上記のポリヌクレオチドが導入された微生物は、ベクターや形質転換体によって得ることができる。つまり、ポリヌクレオチド又はベクターを宿主に導入することにより、酵素A、酵素B、酵素C又は酵素Dを産生する能力を保有する形質転換体を作製することができる。
【0077】
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:ALaboratory Manual第2版、Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY,1989年参照)。特に放線菌に関しては、「PRACTICAL STREPTOMYCES GENETICS(Kieserら、John Innes Foundation、2000年)」を参照して行うことができる。
【0078】
微生物中で、上記の酵素をコードするポリヌクレオチドを発現させるためには、まず微生物中で安定に存在するプラスミドベクターやファージベクターにこのDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる。そのために、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターをDNA鎖の5’側上流に組み込むことが好ましい。また、転写・翻訳を制御するユニットにあたるターミネーターをDNA鎖の3’側下流に組み込むことが好ましい。より好ましくは、上記プロモーターとターミネーターの両方をそれぞれの部位に組み込む。このプロモーターおよびターミネーターとしては、宿主として利用される微生物中において機能することが知られているプロモーターおよびターミネーターが用いられる。これらの各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターなどに関しては、「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版」、特に放線菌に関しては、「PRACTICAL STREPTOMYCES GENETICS(Kieserら、JohnInnes Foundation、2000年)」などに詳細に記述されており、その方法を利用することが可能である。また、必要に応じてシグナル配列を用いることで細胞外に効率的に分泌生産させることができる。この時使用するシグナル配列はホスホリパーゼでもその他のものでも良い。
【0079】
形質転換の対象となる宿主は、上記の酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターにより形質転換されて、酵素活性を発現することができる生物であれば特に制限はない。例えば、細菌、放線菌、枯草菌、大腸菌、酵母、カビなどが挙げられる。より具体的には、例えば、エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属など宿主ベクター系の開発がされている細菌;ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属など宿主ベクター系の開発がされている放線菌;サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クライベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属などの宿主ベクター系の開発がされている酵母;ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属などの宿主ベクター系の開発がされているカビなどが挙げられる。遺伝子組換えの操作の容易性からは大腸菌が好ましく、遺伝子の発現の容易性からは放線菌が好ましい。
【0080】
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、例えば、蚕などの昆虫(Nature315,592−594(1985))や菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種蛋白質を発現させる系が開発されており、これらを利用してもよい。
【0081】
得られた形質転換体は、上記のように酵素の製造に用いることができる。具体的には、形質転換体を適当な栄養培地で液体培養して、発現したポリペプチドを細胞外に分泌させ、その培養上清を凍結乾燥、塩析、有機溶媒などにより処理して酵素を製造することができる。
【0082】
宿主細胞に依存して培養条件は変動し得るが、培養は、当業者が通常用いる条件下で行われ得る。例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces)属のような放線菌を宿主として用いる場合、チオストレプトンを含むトリプチックソイ培地(例えば、ベクトン・ディッキンソン社製)が用いられ得る。形質転換体により産生された酵素は、上述のようにしてさらに精製され得る。
【0083】
[バイオマス原料]
バイオディーゼル燃料(BDF)の製造に使用するバイオマス原料は、リン脂質を含むものであれば特に限定されるものではなく、植物油、動物油、魚油、微生物油をはじめ、生体廃棄物、バイオ廃棄物、食品廃棄物、下水汚泥、活性汚泥、余剰汚泥、ヒト排泄物、家畜排泄物、生ゴミ、雑草や廃棄農作物、藻類(淡水藻又は海水藻、微細藻類)などの過剰繁殖生物廃棄物、生物細胞、生物死体など、種々の廃棄物を使用することができる。特に、廃棄物を原料に用いた場合、廃棄物を利用してバイオディーゼル燃料を製造することができるため、廃棄物をエネルギー源として再利用することができ、また、廃棄物の処理を容易にし得るものであり、エネルギー資源と環境に配慮した燃料を得ることができる。また、例えば、無尽蔵に廃棄される下水汚泥や、食用油製造時に廃棄されるガム質(リン脂質)や種子などの絞りかすを用いれば、大量のエネルギーを継続して取り出すことが可能である。また、酵素処理によってバイオディーゼル燃料を製造できるため、アルカリや酸などの廃液の処理を容易に又はほとんど不要にすることが可能である。また、グリセリンをグリセロール−リン酸化合物として補足するので、副産物のグリセリンを大量に排出することも抑制することができる。
【0084】
バイオマス原料は、水又はアルコールなどの有機溶剤を添加し、粘度、固形物濃度、リン脂質濃度などを適宜調整して、酵素処理しやすい分散液やスラリーの状態にしてもよい。また、固形物がミキシング可能な状態で混合された固体混合物であってもよい。要するに、リン脂質と酵素とが接触し得る状態であれば、酵素反応を進行させることが可能になる。
【0085】
[加水分解反応]
バイオディーゼル燃料の製造においては、バイオマス原料を上記の酵素によって酵素処理することにより、バイオマス原料中のリン脂質が加水分解され、脂肪酸がエステル化する。得られた脂肪酸エステルがバイオディーゼル燃料となる。脂肪酸エステルはメチルエステルであることが好ましい。脂肪酸メチルエステルはバイオディーゼル燃料として容易に認可され得るものであり、燃料効率の高い燃料を得ることができるものである。また、バイオディーゼル燃料としての使用が可能であれば、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステルなどの炭化水素のエステルであってもよい。
【0086】
加水分解反応及びエステル化反応は、下記の<反応式1>に従って進行する。
【0087】
<反応式1>
【0088】
【化1】

【0089】
上記の反応式1において、矢印「A1」で示す部位がホスホリパーゼA1(PLA1)によって加水分解される部位であり、矢印「A2」で示す部位がホスホリパーゼA2(PLA2)によって加水分解される部位である。ホスホリパーゼB(PLB)はA1とA2の両方の部位を加水分解する。反応式1の上段は、PLA1が作用した後、PLA2が作用して、脂肪酸エステルとグリセロール−3−リン酸化合物が生成される経路である。反応式1の下段は、PLA2が作用した後、PLA1が作用して、脂肪酸エステルとグリセロール−3−リン酸化合物が生成される経路である。PLBでは上段と下段の反応が同時進行する。上記の酵素A及び酵素CはPLA1活性を有するものであり、このようなPLA1にあっては、脂肪酸をより多く得るために、PLA2の酵素やPLBの酵素と併用してもよい。
【0090】
加水分解反応においては、エステル化によって脂肪酸と反応するアルコールの存在下で反応を行うことが好ましい。例えば、脂肪酸メチルエステルを製造する場合には、メタノール(MeOH)の存在下で加水分解反応を行うことが好ましい。これにより、加水分解反応と同時にエステル化を進行させることができ、脂肪酸エステルを容易に製造することができる。すなわち、一旦、遊離脂肪酸を生成した後、遊離脂肪酸をエステル化するような2ステップの反応よりも、簡単にバイオディーゼル燃料を製造することができる。
【0091】
エステル化される脂肪酸としては、原料に含まれリン脂質に結合した脂肪酸であれば、限定されるものではないが、例えば、炭素数4〜30、好ましくは炭素数8〜24である飽和又は不飽和の脂肪酸を例示することができる。具体的には、酪酸(ブチル酸)、吉草酸(バレリアン酸)、カプロン酸、エナント酸(ヘプチル酸)、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、エレオステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸などが挙げられる。
【0092】
加水分解反応の際の条件としては、酵素が加水分解作用を発揮する条件とすることができる。
【0093】
例えば、反応条件としては、酵素を失活させない程度のアルコール存在下で酵素が作用する温度とpHの条件であることが好ましい。より好ましくは、1〜70mol%、好ましくは10〜70mol%、さらに好ましくは10〜30mol%程度のメタノール存在下、酵素の最適温度、pH条件で反応を行う。温度としては、酵素活性の観点からは、10〜70℃が好ましく、20〜65℃がより好ましく、45〜55℃がさらに好ましい。また、温度として、室温(例えば、20〜25℃)で反応させることも好ましい。室温での反応の場合、加温することなく、バイオディーゼル燃料を得ることが可能となる。pHとしては、pH4〜11において酵素反応が進行し得るのでこの範囲が好ましい。酵素活性の観点からは、酵素A及び酵素Cでは、pH4.1〜10.5がより好ましく、pH5〜9がさらに好ましく、pH5.5〜8がよりさらに好ましい。また、酵素B及び酵素Dでは、pH5.6〜10.4がより好ましく、pH7〜10がさらに好ましく、pH7.5〜9がよりさらに好ましい。また、温和な条件という観点からは、中性領域(pH6〜8程度)のpHで反応させることも好ましい。
【0094】
酵素の量としては、酵素の純度や力価、酵素製剤中の活性成分の含有量などによって変動し得るが、例えば、酵素の取扱い性や酵素反応の均一性の観点から、原料100質量部に対して、酵素0.000001質量部以上、酵素0.000001質量部以上、酵素0.00001質量部以上、酵素0.0001質量部以上、酵素0.001質量部以上、又は酵素0.01質量部以上、などにすることができる。また、酵素処理の効率化の観点から、原料100質量部に対して、酵素10質量部以下、酵素1質量部以下、酵素0.1質量部以下、酵素0.01質量部以下、又は酵素0.001質量部以下、などにすることができる。酵素の量は、例えば、賦形剤などの助剤で酵素力価を調整することにより調節したりすることが可能である。
【0095】
また、酵素としては、ある程度の力価があればよいと思われるが、例えば、リン脂質に対する力価が0.1U/mL以上、1U/mL以上、又は、10U/mL以上のものを使用することができ、また、リン脂質に対する力価が10000U/mL以下、1000U/mL以下、又は、10U/mL以下のものを使用することができる。適宜の力価にすることにより、酵素反応の処理性を向上させることができる。
【0096】
メタノールなどの脂肪酸をエステル化するためのアルコールの量としては、リン脂質100質量部に対してアルコール1〜100質量部となる量にすることが好ましく、5〜55質量部となる量にすることがより好ましく、5〜10質量部となる量にすることがさらに好ましい。また、酵素活性を失活させないようにするために、ポリペプチドを含有する処理物のアルコール濃度は低い方がよい。
【0097】
反応時間としては、酵素反応を進行させる観点からは長い方がよく、処理効率を高める観点からは短いほうがよいが、例えば、1〜72時間程度とすることが好ましく、12〜72時間程度とすることがより好ましく、24〜48時間程度とすることがさらに好ましい。
【0098】
また、脂肪酸をエステル化するためのアルコール(例えばメタノール)を酵素処理中に逐次添加するなどしてもよい。例えば、メタノールを逐添加する場合、添加したメタノールを順次エステル化することができ、酵素を失活させずに、バイオディーゼル燃料を製造することができる。また、酵素を必要に応じて逐次に添加してもよいし、酵素として固定化酵素を利用してもよい。酵素の逐次添加や固定化酵素の使用により、酵素の失活を抑制することが可能となり得る。
【0099】
ところで、バイオディーゼル燃料の製造においては、ポリペプチドを含む酵素を原料に加えて酵素処理することで脂肪酸エステルが得られるものであるが、例えば、上記の酵素(ポリペプチド)を産生する微生物を原料に加え、微生物から酵素を産生させるとともに、その産生した酵素によって原料から脂肪酸エステルを生成させるようにすることもできる。この場合、原料に微生物を加えて所定の反応条件にするだけで脂肪酸エステルを得ることができ、容易にバイオディーゼル燃料を製造することが可能となる。前記所定の条件とは、微生物から酵素が産生し、かつ、酵素が加水分解反応を行う条件であるが、いずれも生体由来物であるので、簡単に条件を設定することができる。
【0100】
生成された脂肪酸エステルは、バイオディーゼル燃料として利用することが可能となる。バイオディーゼル燃料として利用するためには、酵素反応によって得られた脂肪酸エステルを含む組成物から、バイオディーゼル燃料として利用する脂肪酸エステルを精製することが好ましい。精製は、沈殿分離、カラム分離、液相分離、比重分離、蒸留分離など、種々の分離方法を使用することができる。精製方法としては、食用油からバイオディーゼル燃料を製造する方法と同じ方法を用いることができる。精製度としては、完全に脂肪酸エステルを単離するほど精製しなくてもよい。すなわち、バイオディーゼル燃料として使用可能であれば、ある程度の精製度でよく、脂肪酸エステルを含む混合物(粗組成物)であってよい。ただし、安全上の観点から、燃焼したときに有毒ガスが発生する成分が取り除かれていることが好ましい。また、取扱いの観点からは、室温(25℃)で液体又は固体であることが好ましく、さらに、室温(25℃)でも液体であることが好ましい。
【0101】
精製方法の一例を挙げると、例えば、まず、組成物に脂肪酸エステルが可溶化可能な溶剤を加え、溶解しない固形物を沈殿やろ過により取り除く。溶剤としては、水や有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、メタノールやエタノールなどのアルコールを用いることができる。次に、比重差特性を利用し、生成物を遠心分離または静置して脂肪酸エステル層を分離し、回収する。静置時間は1時間以上、好適には12時間以上、より好適には18時間程度、さらに好適には24時間程度とすればよい。次に、脂肪酸エステル層に含まれている溶剤を留去などして除去する。留去により溶媒を除去する場合には、溶剤として沸点が低いもの(例えば100℃以下)を用いることが好ましい。沸点が低いと容易に留去することができ、加熱に多くのエネルギーを必要としないという利点がある。留去方法としては、例えば常圧または減圧蒸留等が挙げられる。
【0102】
このようにして、バイオディーゼル燃料として利用可能な脂肪酸エステルを得ることができる。バイオディーゼル燃料の好ましい用途については、食用油から製造されたバイオディーゼル燃料と同じような用途でよい。バイオディーゼル燃料は燃焼によりエネルギーとして取り出すことが可能である。例えば、バイオディーゼル燃料として、ボイラーやディーゼルエンジンの燃料などに利用することができる。
【0103】
ところで、副産物として得られるグリセロール3-リン酸化合物は、リン酸成分(肥料)として土壌改良材等に利用可能である。すなわち、上記の酵素処理で得られたバイオディーゼル燃料以外の分画成分は、さらに有効利用し得る。
【0104】
以上のように、上記の酵素を用いたバイオディーゼル燃料の製造方法では、原料の廃棄物と酵素、メタノールを混ぜるだけでバイオディーゼル燃料(脂肪酸メチルエステル)を製造することができることから、アルカリや強い加熱も必要ないので、製造場所が限定されず、簡便で、複雑な装置も技術も不要である。例えば、生ゴミに酵素とメタノールを入れて混ぜれば燃料ができるということも可能である。
【実施例】
【0105】
[酵素A:ポリペプチドAの精製]
(a)微生物の培養
菌体として、ストレプトマイセス・アルビドフラブス(Streptomycesalbidoflavus)NA297(受託番号:NITE BP−1014)を使用した。
【0106】
まず、トリプチックソイ培地(べクトン・ディンキンソン社製)500mLを調製し、500mL容バッフル付き三角フラスコに50mlずつ分注して、さらに1%大豆レシチンと0.1%ツィーン(Tween)80を添加した後、121℃で15分間蒸気殺菌を行った。
【0107】
そして、予め平板培地に生育した上記菌体のコロニーを適当量とり、トリプチックソイ培地(べクトン・ディンキンソン社製)5mLを入れたφ18試験管(18×180mm)に接種し、28℃で良好な生育が得られるまで振とう培養した。この培養液を先の滅菌した培地50mLに0.5mlずつ接種し、28℃で55時間振とう培養した。遠心分離機を用いて、この培養液から上清を回収した。
【0108】
(b)硫安分画
上記(a)で回収した培養上清に、80%(w/v)飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、生じた沈殿を遠心分離(15,000rpm、30分、4℃)により回収した。この沈殿を20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)30mlで可溶化し、20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で透析し、粗酵素液を得た。
【0109】
(c)Toyopearl Phenyl−650Mカラムクロマトグラフィー
上記(b)で得られた粗酵素液に終濃度で1.5Mの硫酸アンモニウムを添加し、1.5M硫酸アンモニウムを含む20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化したToyopearl Phenyl−650Mカラム(内径26mm、高さ38mm、東ソー社製)にアプライした。同緩衝液でカラムを洗浄した後、硫酸アンモニウム(1.5Mから0Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0110】
(d)HiTrap SP HPカラムクロマトグラフィー
上記(c)で得られた活性画分を集め、Viva spin(ザルトリウス社製)を用い濃縮脱塩した。これに、20mM MES−水酸化ナトリウム緩衝液(pH6.0)を加えた。これを、20mM MES−水酸化ナトリウム緩衝液(pH6.0)で予め平衡化したHiTrap SP(5ml)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0111】
(e)HiTrap Q HPカラムクロマトグラフィー
上記(d)で得られた活性画分を集め、Viva spinを用い濃縮脱塩した。これに、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を加えた。20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で予め平衡化したHiTrap Q HP(5ml)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0112】
(f)SDS−PAGE
上記(e)で溶出した活性画分を集めてSDS−PAGE(15%(w/v)ポリアクリルアミドゲル)により解析したところ、溶出画分において、分子量約28,000Daで、単一のバンドが観察された。これにより、ストレプトマイセス・アルビドフラブス(Streptomyces albidoflavus)NA297株より、電気泳動的に単一に精製されたポリペプチド(ポリペプチドAという)を得た。このポリペプチドAは、HPLC分析およびゲル濾過クロマトグラフィー分析により、単量体と推定された。
【0113】
(g)アミノ酸配列の解析
ポリペプチドAを用いて、プロテインシーケンサーによりN末端アミノ酸配列の解析を行った。また、nanoLC−MS/MSにより内部アミノ酸配列の解析を行った。解析により、ストレプトマイセス・アルビドフラブスNA297から得られた精製ポリペプチドのN末端アミノ酸配列は、配列番号1に示すものであることが確認された。よって、ポリペプチドAは酵素Aであることが確認された。
【0114】
なお、Genetyxを用いて酵素のアミノ酸配列に基づいて等電点を予測した結果、ポリペプチドAの等電点は6.06であった。
【0115】
[酵素B:ポリペプチドBの精製]
(a)微生物の培養
菌体として、ストレプトマイセス・エスピー(Streptomycessp.)NA684(受託番号:NITE BP−1015)を使用した。
【0116】
まず、NB培地「1% ペプトン(べクトン・ディンキンソン社製)、1%肉エキス(極東製薬工業(株)製)、0.5% 塩化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)、pH7.2」300mLを調製し、500mL容三角フラスコに100mlずつ分注して、さらに1%大豆レシチンと0.1%ツィーン(Tween)80を添加した後、121℃で15分間蒸気殺菌を行った。
【0117】
そして、予め平板培地に生育した上記菌体のコロニーを適当量とり、トリプチックソイ培地(べクトン・ディンキンソン社製)5mLを入れたφ18試験管(18×180mm)に接種し、28℃で良好な生育が得られるまで振とう培養した。この培養液を先の滅菌した培地100mLに1mlずつ接種し、28℃で108時間振とう培養した。遠心分離機を用いて、この培養液から上清を回収した。
【0118】
(b)硫安分画
上記(a)で回収した培養上清に、80%(w/v)飽和となるように硫酸アンモニウムを添加し、生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm、30分、4℃)により回収した。この沈殿を可溶化し、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で透析し、粗酵素液を得た。
【0119】
(c)DEAE−Toyopearlカラムクロマトグラフィー
上記(b)で得られた粗酵素液を、20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で予め平衡化した「DEAE−Toyopearl 650Mカラム」(内径26mm、高さ55mm、東ソー社製)にアプライした。同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0120】
(d)HiTrap Qカラムクロマトグラフィー
上記(c)で得られた活性画分を集め、Viva spin(ザルトリウス社製)を用い濃縮脱塩した。これに、20mM トリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を加えた。これを、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)で予め平衡化した「HiTrap Q」(5ml)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから1Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0121】
(e)RESOURCE PHEカラムクロマトグラフィー
上記(d)で得られた活性画分を集め、Viva spinを用い濃縮脱塩した。これに、1M硫酸アンモニウムを含む20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)を加えた。1M硫酸アンモニウムを含む20mM トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で予め平衡化した「RESOURCE PHE」(1ml)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、硫酸アンモニウム(1Mから0Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0122】
(f)Mono Sカラムクロマトグラフィー
上記(e)で得られた活性画分を集め、Viva spinを用い濃縮脱塩した。これに、20mM メス−水酸化ナトリウム緩衝液(pH6.0)を加えた。20mM メス−水酸化ナトリウム緩衝液(pH6.0)で予め平衡化した「Mono S」(1ml)カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)にアプライし、同緩衝液でカラムを洗浄した後、塩化ナトリウム(0Mから0.5Mまで)のリニアグラジェントにより、活性画分を溶出させた。
【0123】
(g)SDS−PAGE
上記(e)で溶出した活性画分を集めてSDS−PAGE(12%(w/v)ポリアクリルアミドゲル)により解析したところ、溶出画分において、分子量約39,000Daで、単一のバンドが観察された。これにより、電気泳動的に単一に精製されたポリペプチド(ポリペプチドBという)を得た。このポリペプチドBは、HPLC分析およびゲル濾過クロマトグラフィー分析により、単量体と推定された。
【0124】
(h)アミノ酸配列の解析
ポリペプチドBを用いて、プロテインシーケンサーによりN末端アミノ酸配列の解析を行った。また、nanoLC−MS/MSにより内部アミノ酸配列の解析を行った。解析により、ストレプトマイセス・エスピーNA684から得られた精製ポリペプチドのN末端アミノ酸配列は、配列番号2に示すものであることが確認された。よって、ポリペプチドBは酵素Bであることが確認された。
【0125】
なお、Genetyxを用いて酵素のアミノ酸配列に基づいて等電点を予測した結果、ポリペプチドBの等電点は6.4であった。
【0126】
[微生物のDNA]
配列番号1のポリペプチドをコードする塩基配列は、配列番号3の塩基配列であり、そのため、ストレプトマイセス・アルビドフラブスNA297は、配列番号3のポリヌクレチドをDNAとして有していることが推定される。そして、このストレプトマイセス・アルビドフラブスにおけるコア領域のDNAをPCRにより増幅させて解析したところ、配列番号3のポリヌクレオチドが確認された。よって、ストレプトマイセス・アルビドフラブスNA297は配列番号3のポリヌクレチドをDNAの一部として有していることが確認された。
【0127】
配列番号2のポリペプチドをコードする塩基配列は、配列番号4の塩基配列であり、そのため、ストレプトマイセス・エスピーNA684は配列番号4のポリヌクレチドをDNAとして有していることが推定される。そして、このストレプトマイセス・エスピーにおけるコア領域のDNAをPCRにより増幅させて解析したところ、配列番号4のポリヌクレオチドが確認された。よって、ストレプトマイセス・エスピーNA684は配列番号4のポリヌクレチドをDNAの一部として有していることが確認された。
【0128】
[ホスホリパーゼ活性]
上記のポリペプチドA及びポリペプチドBについて、次の方法によりホスホリパーゼ活性及び活性の条件を確認した。
【0129】
(a)ポリペプチドA
0.02%(w/v)トライトン(Triton)X−100(ナカライテスク(株)製)10mLに卵黄ホスファチジルコリン1g(ナカライ製、L-α-phosphatidylcholine(egg yolk))を溶解し、10%(w/v)卵黄ホスファチジルコリンを調製した。この10%(w/v)卵黄ホスファチジルコリン0.025mLに、0.2M トリス−塩酸緩衝液(pH8.0)0.060mLと、0.5M EDTA二ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.005mLとを加えた。そして、37℃で5分間予備加温した後、ポリペプチドAを含む試料0.010mLを添加し、37℃で5分反応させた。ここで、リン脂質100質量部に対するポリペプチドAの質量は、0.01mlがすべて酵素で比重1とすれば4質量部となるが、使用するサンプル中のポリペプチドAの純度によってポリペプチドAの質量が変わるのでポリペプチドA含有試料の添加量の調整に留意した。酵素反応後、100℃で5分間加熱し、酵素反応を停止させた。反応停止後、反応液5μL中に含まれる遊離脂肪酸量を、遊離脂肪酸測定キットである「NEFA Cテストワコー」(和光純薬工業(株)製)を用いて、キットに添付の指示書に記載のとおりに測定した。1分間に1μmolの遊離脂肪酸を生成する酵素量を、1単位とした。
【0130】
この酵素試験により、ポリペプチドAはPLA1活性を示すことが確認された。
【0131】
pHの条件としては、ポリペプチドAは、少なくともpH4.0〜10.5の範囲で強いPLA1活性を示すことが確認された。
【0132】
温度の条件としては、ポリペプチドAは、少なくとも20〜60℃の範囲で強いPLA1活性を示すことが確認された。
【0133】
(b)ポリペプチドB
10%(w/v)トライトン(Triton)X−100(ナカライテスク(株)製)10mLにジミリストイルホスファチジン酸1g(フナコシ製)を溶解し、10%(w/v)ジミリストイルホスファチジン酸を調製した。この10%(w/v)ジミリストイルホスファチジン酸0.005mLに、0.2M トリス−塩酸緩衝液(pH8.4)0.025mLと、0.5M EDTA二ナトリウム(和光純薬工業(株)製)0.002mLと、蒸留水0.063mLとを加えた。そして、37℃で5分間予備加温した後、ポリペプチドBを含む試料0.005mLを添加し、37℃で5分反応させた。ここで、リン脂質100質量部に対するポリペプチドBの質量は、0.005mlがすべて酵素で比重1とすれば2質量部となるが、使用するサンプル中のポリペプチドBの純度によってポリペプチドBの質量が変わるのでポリペプチドB含有試料の添加量の調整に留意した。酵素反応後、100℃で5分間加熱し、酵素反応を停止させた。反応停止後、反応液5μL中に含まれる遊離脂肪酸量を、遊離脂肪酸測定キットである「NEFA Cテストワコー」(和光純薬工業(株)製)を用いて、キットに添付の指示書に記載のとおりに測定した。1分間に1μmolの遊離脂肪酸を生成する酵素量を、1単位とした。
【0134】
この酵素試験により、ポリペプチドBはPLB活性を示すことが確認された。
【0135】
pHの条件としては、ポリペプチドBは、少なくともpH6.0〜10.5の範囲で強いPLB活性を示すことが確認された。
【0136】
温度の条件としては、ポリペプチドAは、少なくとも20〜65℃の範囲で強いPLB活性を示すことが確認された。
【0137】
[実施例1、2]
リン脂質を含む原料として、大豆レシチン(和光純薬製)を用いた。酵素として、上記のポリペプチドAを含み100U/mL(下限60U/mL)のPLA1活性を有する酵素製剤(実施例1)、又は、上記のポリペプチドBを含み100U/mL(下限60U/mL)のPLB活性を有する酵素製剤(実施例2)を用いた。これらの酵素製剤は発現上清である。
【0138】
まず、大豆レシチン4.85gと、メタノール0.3gと、1M Tris−HCL緩衝液0.25mL(pH8)とを混合した。次に、実施例1又は実施例2の酵素製剤0.25mlを加え、スターラーにより、この混合物を、室温(約25℃)、24時間、の条件で撹拌・混合した。
【0139】
酵素処理後、この混合物をTLC(薄層クロマトグラフィ)により分析した。TLCの条件は、TLC担体としてメルク社製シリカゲル60を用い、展開溶媒として、n−ヘキサン:酢酸エチル:酢酸(9:1:0.1 体積比)の混合溶媒を用いた。
【0140】
図1は、実施例2(酵素:ポリペプチドB)における酵素処理後の結果を示すTLCの写真である。
【0141】
レーン1はオレイン酸のスポットであり、脂肪酸(FA)の比較対照である。レーン2は、大豆油のスポットであり、リン脂質(トリグリセリド:TG)の比較対照である。レーン3は、原料のレシチンのスポットである。ただし、レーン3では、レシチンと緩衝液とメタノールとの混合物で反応前のものを展開させている。なお、酵素を用いずに酵素処理と同様の処理をしたものを展開した場合もレーン3と同じ結果を与えた。レーン4は、上記によって得られた酵素処理物のスポットである。レーン5は、原料である廃食用油をアルカリ(KOH)により化学的製造法で得た脂肪酸エステル(ME)のスポットである。
【0142】
図1に示されるように、レーン3(原料)とレーン4(酵素処理物)とを比較すると、レーン4では脂肪酸メチルエステルのスポットが出現しており、大豆レシチンを酵素(ポリペプチドB)で反応させると、バイオディーゼル燃料となる脂肪酸メチルエステルが生成することが確認された。
【0143】
また、同様に、実施例1(ポリペプチドA)においても脂肪酸メチルエステルが得られることが確認された。
【0144】
さらに、実施例1及び実施例2の酵素処理後の混合物をライターで着火したところ、燃焼した。これにより、バイオディーゼル燃料として利用可能であることが確認された。
【0145】
[酵素例1〜7]
実施例1、2の場合と同様の方法で、酵素例1〜7により大豆レシチンの酵素処理を行った。なお、反応条件は、37℃程度、24時間(塩化カルシウム無添加)又は18時間(塩化カルシウム添加)、スターラーで撹拌、とした。また、TLCの条件は、TLC担体としてメルク社製シリカゲル60を用い、展開溶媒として、n−ヘキサン:酢酸エチル:酢酸(9:1:0.1 体積比)の混合溶媒を用い、試料をヘキサンで10倍希釈後に2μlをアプライする、とした。
【0146】
表1は、酵素例1〜7のサンプルの詳細である。
【0147】
【表1】

【0148】
酵素処理は、塩化カルシウム添加条件と、塩化カルシウム無添加条件とで行った。表2は塩化カルシウム無添加条件の反応液組成であり、表3は塩化カルシウム添加条件の反応液組成である。なお、塩化カルシウム添加では、最終の塩化カルシウム濃度は10mMとなった。Enzは酵素を示す。
【0149】
【表2】

【0150】
【表3】

【0151】
図2は、塩化カルシウム無添加条件における結果である。
【0152】
図2(a)は、酵素例1(ポリペプチドAを含む酵素)、及び、酵素例2(ポリペプチドBを含む酵素)における酵素処理後の結果を示すTLCの写真である。図2(a)において、レーン1は酵素例1(Enz1)、レーン2は酵素例2(Enz2)、レーン3は化学的製造法で得た脂肪酸エステル(BDF)を示す。
【0153】
図2(b)は、ホスホリパーゼ活性を示す酵素(酵素例3、4、5)で処理した後の結果を示すTLCの写真である。図2(b)において、レーン1は化学的製造法で得た脂肪酸エステル(BDF)、レーン2は酵素例3(Enz3)、レーン3は酵素例5(Enz5)、レーン4は酵素例4(Enz4)、レーン5は、混合物(レシチンと緩衝液とメタノールとの混合物:Con)を同条件でスターラーにて攪拌したものである。
【0154】
図2(a)及び(b)の結果から、酵素例1(ポリペプチドAを含む酵素)、及び、酵素例2(ポリペプチドBを含む酵素)、酵素例3(PLA1活性あり)、酵素例5(PLA1活性及びPLA2活性あり)、において、バイオディーゼル燃料が製造されていることが示された。なお、酵素例4(PLA2活性あり)は、本条件下においては酵素活性が弱く、BDFが生成しなかった。表1のように酵素活性はあるのにBDFが生成されないのは、Ca塩を添加しないと酵素が活性化しないか、メタノール耐性が低いか、大豆レシチンには作用しないのか、のいずれかの要因、あるいは複数の要因によるものと考えられる。
【0155】
図3は、塩化カルシウム添加条件における、酵素例4、6、7での酵素処理後の結果を示すTLCの写真である。図3において、レーン1は酵素例7(Enz7:PLA2活性あり)、レーン2は酵素例4(Enz4:PLA2活性あり)、レーン3は酵素例6(Enz6:PLB活性あり)、レーン3は化学的製造法で得た脂肪酸エステル(BDF)を示す。
【0156】
酵素例4、6、7では、本条件下においては酵素活性が弱く、塩化カルシウム添加条件でも脂肪酸エステルがまったく生成されていないことが確認された。原因として、メタノール耐性が低いことや、粗レシチンに作用しにくいことが考えられる。
【0157】
[バイオマス廃棄物の酵素処理]
バイオマス廃棄物の酵素処理方法について説明する。
【0158】
下水余剰汚泥からHolch法などによりレシチンを抽出し、エバポレーターにて減圧留去することで粗レシチンを得ることができる。この粗レシチンを原料として、上記の酵素で酵素処理することによりバイオディーゼル燃料を製造することができる。
【受託番号】
【0159】
[Streptomyces albidoflavus NA297(受託番号:NITE BP−1014)]
受託番号:NITE BP−1014
寄託機関の名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)
寄託機関のあて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
寄託の日付:2011年1月26日。
[Streptomyces sp. NA684(受託番号:NITE BP−1015)]
受託番号:NITE BP−1015
寄託機関の名称:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)
寄託機関のあて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
寄託の日付:2011年1月26日。
【配列表フリーテキスト】
【0160】
配列番号1:ポリペプチドA
配列番号2:ポリペプチドB
配列番号3:ポリペプチドAの発現遺伝子
配列番号4:ポリペプチドBの発現遺伝子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質を含むバイオマス原料を、リン脂質に対して加水分解活性を示す酵素によって処理することにより、バイオマス原料中のリン脂質を加水分解するとともに脂肪酸をエステル化させてバイオディーゼル燃料を製造する、バイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項2】
リン脂質を含むバイオマス原料を、下記の酵素A及び酵素Bのすくなくとも一方の酵素によって処理することにより、バイオマス原料中のリン脂質を加水分解するとともに脂肪酸をエステル化させてバイオディーゼル燃料を製造する、バイオディーゼル燃料の製造方法。
酵素A:下記の(a1)、(a2)、又は、(a3)のポリペプチドを含む酵素、
(a1)配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(a2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチド;
(a3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の相同性を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチド;
酵素B:下記の(b1)、(b2)、又は、(b3)のポリペプチドを含む酵素、
(b1)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチド;
(b3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の相同性を有し、リン脂質に対して加水分解活性を示すポリペプチド。
【請求項3】
リン脂質を含むバイオマス原料を、下記の酵素C及び酵素Dのすくなくとも一方の酵素によって処理することにより、バイオマス原料中のリン脂質を加水分解するとともに脂肪酸をエステル化させてバイオディーゼル燃料を製造する、バイオディーゼル燃料の製造方法。
酵素C:下記の(c1)、(c2)、又は、(c3)のポリペプチドを含む酵素、
(c1)配列番号3に記載の塩基配列をポリヌクレオチドとして有する微生物から産生されるポリペプチド;
(c2)配列番号3に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチド;
(c3)配列番号3に記載の塩基配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチド;
酵素D:下記の(d1)、(d2)、又は、(d3)のポリペプチドを含む酵素、
(d1)配列番号4に記載の塩基配列をポリヌクレオチドとして有する微生物から産生されるポリペプチド;
(d2)配列番号4に記載の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチド;
(d3)配列番号4に記載の塩基配列と少なくとも75%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを有する微生物から産生されるポリペプチド。
【請求項4】
前記酵素がストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物に由来するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項5】
前記バイオマス原料が廃棄物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。
【請求項6】
前記エステル化はメチルエステル化である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のバイオディーゼル燃料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−196175(P2012−196175A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62253(P2011−62253)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(505089614)国立大学法人福島大学 (34)
【Fターム(参考)】