説明

バイオフィルムの除去のための方法

【課題】バイオフィルム、綿状の大量のスラッジまたは大量の生物学的活性スラッジを水システムから除去するための方法を提供する。
【解決手段】1以上の塩素化ヒダントイン、例えばジクロロまたはモノクロロジアルキルヒダントインを水システムに加えることを含む。代わりに、塩素化ヒダントインを、塩素源およびアルキル化ヒダントインを水システムに別々に加えてその場で形成させてもよい。太陽光にさらされたときの塩素化ヒダントイン溶液の著しい光安定性のために特に有利である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[優先日]
本出願は、参照によって本明細書中に組み込まれる2002年12月20日に出願された米国仮特許出願60/435,680からの優先権を主張する。
【発明の背景】
【0002】
バイオフィルムは、表面上および綿状塊中の微生物の望ましくない蓄積として定義することができる。全地球の細菌の99%超がバイオフィルム共同体の中で生存していると推定される。バイオフィルムは、基層中に固定化された細胞からなり、しばしば微生物起源の有機ポリマーマトリックス中に包埋されており、物質の拡散を制限し、抗菌剤を拘束することができる。流動性の水性環境中において、バイオフィルムは微生物を取り囲む粘着性および吸収性の多糖体マトリックスからなる。バイオフィルム細菌は、遊離の浮遊細菌とは形態的および代謝的に異なる。これらの構造組織は特徴的形態をなし、バイオフィルム培養物は通常のプランクトン様生物とは区別される。
【0003】
バイオフィルムは、水道管を腐食させることからコンピューターチップの機能不全に至るまでの産業についての問題を生み出す。水性環境中に浸されたあらゆる人工装置は、微生物バイオフィルムによるコロニー形成にさらされやすい。例えば、バイオフィルムは、船底、工業パイプライン、家庭用排水管、および人工股関節の表面上に存在することがある。製造業者にとって、バイオフィルム群とはシステム内の微生物接種源を意味し、目詰まりの問題を引き起こすことがある。水処理施設では、浮遊性バイオフィルムの形成が、沈降性が低くかつ浄化過程で密集させるのが難しい大量の生物汚泥を生じる。膨大な数の細菌が綿状塊に浸透し、非繊維状および繊維状バルク形態が蔓延している。これらの汚損物質としての役割に加え、バイオフィルムは人に有害な影響を与えることがある(抗生物質に対する抵抗性を変化させ、免疫系に影響を与えることを含む)。従って、バイオフィルムを除去する効果的方法を開発するための技術における要求が存在する。
【0004】
バイオフィルムの動的性質は、生物付着を測定および監視することを困難にする。バイオフィルムは多くの場合、包埋された無機粒子、例えば、堆積物、スケール沈積物、腐食沈積物を含む。さらに、バイオフィルムは、厚み、表面分布、微生物数および化学組成が連続的に変化し、環境的因子、例えば水温、水化学および表面状態の変化に反応する。従って、バイオフィルムの複雑性は、処理および除去戦略の有効性を低下させる。
【0005】
工業システム内の大半の微生物はバイオフィルムと関係があるけれども、歴史的にはプランクトン様微生物と比べてあまり注意深く受け止められてこなかった。しかしながら、様々な殺菌剤は、同じ微生物の分散した細胞と比べてバイオフィルムに対してあまり有効ではないことが解っている。バイオフィルム制御に使用される最も一般的な殺菌剤は、純粋な遊離ハロゲン供与体、例えばNaOClおよびNaOCl/NaOBrである。しかしながら、これらは効果を及ぼすためには大量に使用しなければならない。さらに、バイオフィルムについてのハロゲンの有効性を評価するいくつかの最近の研究によれば、付着した細菌が遊離塩素に対する殺菌抵抗性を増加させることが解っている。プランクトン様微生物に対して一般に有効な濃度での遊離塩素処理は、付着した細菌の数またはこれらの代謝活性についてあまり有効ではない。データは、バイオフィルムへの遊離塩素の輸送が主要な律速因子であることを示しており、濃度を増加させても殺菌効率は増加しなかった。Griebe, T., Chen, C.I.., Srinavasan, R., StewartP., 「モノクロラミンおよび遊離塩素によるバイオフィルム殺菌の分析」工業水システムにおける生物付着および生物腐食(G.Geesey, Z.Lewandowski、およびH-C.Flemmingによって編集)151-161頁, Lewis Publishers(1994).
純粋な遊離ハロゲン供与体の過剰な反応性を、ブロモクロロジメチルヒダントイン(BCDMH)を使用することによって達成した。M.Ludyansky and F.Himplerによって発表された研究、題名「ハロゲン化ヒダントインのバイオフィルムに対する効力」NACE、紙面405頁(1997)は、純粋な遊離ハロゲン供与体と比較したバイオフィルムに対するより高い効力を実証した。しかしながら、有効ではあるものの、依然としてバイオフィルムに適用したときに効率的なハロゲン供給源ではない。
【0006】
他の者は、補助剤の添加と共に酸化ハロゲンを使用することによって水中システムにおけるバイオフィルムの成長を抑制することを試みた。米国特許4,976,874 Gannon他は、参照によって本明細書中に組み込まれ、非酸化四級アンモニウムハロゲン化物と組み合わせて酸化ハロゲンを使用する生物付着の制御のための方法および処方を開示する。しかしながら、この方法は、環境的問題をもたらす。
【0007】
従って、水システム中のバイオフィルムの制御は、典型的には大量の水流に対して酸化性および非酸化性殺菌剤の添加を必要とする。しかしながら、高レベルのこれらの高価な化学物質が必要とされる。なぜなら、特定の適用の中で様々な物理的および化学的状態にさらされる結果として、これらの有効性は急速に減少するからである。殺菌剤の濃度は、殺菌剤がバイオフィルムに到達するまでにかなり減少してしまう。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、水性媒体中に存在するバイオフィルムを分解する方法に関する。当該方法は、1以上の塩素化ヒダントイン、特にモノクロロジメチルヒダントイン(MCDMH)またはジクロロジメチルヒダントイン(DCDMH)を水性媒体に添加することを含む。特に重要なことは、ハロゲンで安定化された活性塩素溶液は非常に光安定性があるので、塩素化ヒダントインのバイオフィルムに対する活性が日光の存在中で弱まることがないことである。水性媒体中で維持された塩素化ヒダントインの濃度は、一般にバイオフィルム阻害のために約0.01〜約100ppm(Cl2として表わされた)の範囲にある。
【0009】
濃縮物中においては、塩素化ヒダントインの濃度は、一般に総重量に基づいて約0.1〜100重量%の範囲にある。
【0010】
本発明は、バイオフィルムを含む可能性を本質的に含む全ての水システムに対する適用をもつ。これらは、冷却水システム;パルプ化または製紙システム、白水が含有する大量の活性汚泥の処理を含む白水処理;および空気洗浄システム;並びに農業上水および排水システム;食品調製および洗浄システム;醸造所;乳製品および肉製品システム;および石油産業システムであってもよい。水システムはまた、飲料水システムを含むあらゆる上水システム;並びにスイミングプールおよび温泉といったレクリエーション水システム;便器、排水管、下水管、シャワー室、浴槽、および流し台を含む家庭用水関連システム;並びに施設内「水関連」システム、病院内システム、歯科用水システムおよび医療装置が水性媒体と接触するところのあらゆるシステム;観賞用噴水、水族館、水産養殖における養魚場、およびバイオフィルムの成長にさらされるあらゆる他のシステムを含む。バイオフィルムは、表面(例えばマット、綿状塊、および粘液)に付着したりしなかったり、異なる形態および種の病原性微生物、例えばレジオネラ・ニューモフィラ菌を含むことがある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、水システムにおけるバイオフィルムの形成および蓄積と相関する熱伝達抵抗(HTR)および溶解酸素(DO)値についてのNaOClの効果を示す。
【図2】図2は、水システムにおける熱伝達抵抗(HTR)および溶解酸素(DO)値についてのNaOBrの効果を示す。
【図3】図3は、水システムにおける熱伝達抵抗(HTR)および溶解酸素(DO)値についてのBCDMH/MEHの効果を示す。
【図4】図4は、水システムにおける熱伝達抵抗(HTR)および溶解酸素(DO)値についてのMCDMHの効果を示す。
【図5】図5は、水システムにおける熱伝達抵抗(HTR)および溶解酸素(DO)値についてのDCDMHの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
バイオフィルムの除去および分解の程度および性質は、当然その問題の状況に応じて変化する。その問題の多様な性質およびバイオフィルムが成長する多様な環境は、バイオフィルム除去のための様々な戦術および戦略を必要とする。確立したバイオフィルムに関して、単にその場でそれを殺菌して放置するよりも、それを取り除く方が望ましい場合が多い。さらに、バイオフィルムを形成する細胞を死滅させ、それらが他の場所に拡散することを防止することが重要であろう。従って、本発明の目的のための用語、バイオフィルムの「分解」は、存在するバイオフィルムの除去および破壊、並びに処理を施されたシステム内でのバイオフィルム微生物の再成長の防止を含む。これは、クリーンシステムからのバイオフィルム増殖の防止と、バイオフィルムが既に形成されてしまった処理システム内における継続的増殖の防止を含む「バイオフィルム制御」よりも困難な仕事である。
【0013】
用語「塩素化ヒダントイン」とは、純粋な化合物の状態にあってもよく、例えばモノクロロジメチルヒダントインでもよく、あるいはヒダントイン類の混合物、すなわちモノクロロジメチルヒダントインおよびジクロロジメチルヒダントインの混合物、0.1〜2.0程度のハロゲン化を示すヒダントイン類の混合物をいう。
【0014】
塩素化ヒダントインのアルキル基は同一または異なっていてもよく、好ましくはアルキル基は1〜6炭素原子をもつ。
【0015】
好ましい塩素化ヒダントインは、ジクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン(DCDMH)、モノクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン(MCDMH)、ジクロロ-5-メチル-5-エチルヒダントイン(DCMEH)、モノクロロ-5-メチル-5-エチルヒダントイン(MCMEH)、および上記化合物の任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない。塩素化ヒダントインは、固体、液体、スラリー、またはゲルの形態であってもよい。用語「固体」は、粉末、顆粒、錠剤、ブリケットおよびスラリーを含む。
【0016】
塩素化ヒダントインの濃縮物は、典型的なバイオフィルム制御濃縮物よりも大きな活性成分の濃度をもつ。例えば、塩素化ヒダントインの固体濃縮物は、典型的には濃縮物の100%の全重量に基づいて70重量%の活性成分(Cl2として表わされた)を含む。一方、次亜塩素酸ナトリウムの液体濃縮物は、典型的には濃縮物の100%の全重量に基づいて約12重量%の活性成分のみを含む。さらに、本発明の塩素化ヒダントインは安定であり、現在販売されている大半の漂白剤とは異なっている。
【0017】
上述の議論は、バイオフィルムを含む水システムの塩素化ヒダントインでの処理についてであるが、乾燥バイオフィルムまたは無水媒体内のバイオフィルムが固形または顆粒ハロゲン化ヒダントインとの接触に至った後に水システムが形成されることにも及ぶ。例えば、水または水蒸気を前記2つの固形物または無水物質に加えることによって水システムを形成してもよい。
【0018】
水性媒体に添加される塩素化ヒダントインの量は、バイオフィルムを分解するために十分な量である。これは一般に約0.01〜約100ppm(Cl2として表わされた)であり、好ましくは約0.05〜約25ppm(Cl2として表わされた)である。
【0019】
水システムにあらかじめ形成されたハロゲン化ヒダントインを添加することに加えて、その場でハロゲン化ヒダントインを形成することが望ましいこともある。これは、ヒダントインおよびハロゲン化剤を適切なモル比で別々に水システムを含むバイオフィルムに添加することによって行うことができる。例えば、次亜塩素酸アルカリ金属(例えばNaOCl)または塩素ガスまたは他の活性塩素源およびジメチルヒダントインを、所望の量のハロゲン化ヒダントイン(halohydantoin)をその場で形成するのに十分なモル比で添加することができる。大ざっぱに、塩素(塩素源からの)とアルキル化ヒダントインのモル比は、1:100〜100:1、好ましくは1:10〜10:1である。
【0020】
いくつかのシステム、例えば冷却水システムでは、添加剤が以前から使用されている。他のシステム、例えばスイミングプールでは、性能添加剤はなくてもよい。
【0021】
性能添加剤(すなわち、塩素化ヒダントインの品質および使用を増強する組成物)は、洗浄剤、生物分散剤、溶解度改質剤、圧縮補助剤、フィラー、界面活性剤、染料、芳香剤、分散剤、潤滑剤、離型剤、洗浄添加剤、腐食防止剤、キレート剤、安定剤、臭化物源、およびスケール抑制剤を含むがこれらに限定されない。重要な必要条件は、クロロヒダントイン組成物と適合性であることである。
【0022】
本明細書に記載された塩素化ヒダントインに添加された溶解度改質剤は、例えば重炭酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化バリウム、および炭酸ナトリウムを含む。米国特許4,537,697を参照されたい。溶解度改質剤を、0.01重量%〜50重量%の範囲の量で組成物中に使用することができる。
【0023】
圧縮補助剤の例は、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムカチオンが結合した炭酸塩、重炭酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、過炭酸塩、および過リン酸塩を含む無機塩である。米国特許4,677,130を参照されたい。圧縮補助剤を、0.01重量%〜50重量%の範囲の量で組成物中で使用することができる。
【0024】
クロロヒダントインに添加することができるフィラーは、例えば、無機塩(例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウムカチオンが結合した硫酸塩)、および塩化物アニオン、並びに他の無機物質(例えば、粘土およびゼオライト)を含む。製品価格を下げるためにフィラーを組成物中に使用することができ、0.01重量%〜50重量%の範囲で添加することができる。
【0025】
生物分散剤は、バイオフィルム抑制剤として塩素化ヒダントインの効力を増強し、水性媒体が収容される容器の表面をきれいに保つのを補助する。これらは典型的には界面活性剤であり、好ましくは微生物およびバイオフィルムに対して殺菌効果を示さない界面活性剤である。生物分散剤の例は、エアロゾルOTB(ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム)、ラウリルスルホコハク酸二ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、および他のスルホン酸塩を含む。界面活性剤は、洗浄性能を増強させるために組成物中で使用することができ、0.01重量%〜20重量%の範囲の量で添加することができる。一般に、上記混合物は、混合物の100%全重量に基づいて約80重量%〜約99.99重量%の塩素化ヒダントインおよび約0.01重量%〜20重量%の生物分散剤を含む。好ましくは、約90重量%〜約99.99重量%の塩素化ヒダントインおよび約0.01重量%〜10重量%の生物分散剤を含む。
【0026】
所望のモル比での所望の非塩素化ヒダントインの水溶液を、米国特許4.560,766並びにPetterson,R.C., and Grzeskowiak,V., J.Org.Chem.,24,1414(1959)およびCorral,R.A., and Orazi,O.O., J.Org.Chem.,28,1100(1963)に記載された方法によって調製してもよい。両文献は参照によって本明細書中に組み込まれる。
【0027】
例1
バイオフィルム阻害制御効力
殺菌剤および分散剤を含む殺菌剤の効力を、未処理の対照群と比較して、試験用フラスコ内のバイオフィルム乾燥重量の減少量によって評価した。バイオフィルムの成長を、Ludyansky,M., Colby,S., バイオフィルムに対する殺生効力を評価するための実験室的方法, Cooling Tower Institute, Paper TP96-07 (1996)に記載された方法によって重量測定的に決定した。
【0028】
あらゆる化学的制御に対して非常に抵抗性があることが知られており、様々な適用(冷却水システム、製紙プロセス用水、および下水処理プロセス)において見出されている有鞘スフェロチラス菌(ATCC 15291)を本試験において使用した。
【0029】
細菌を5% CGY培地{1 LのDI水当り5gのcasitone(Difco)、lOgのグリセロール、および1gの酵母自己分解物質(Difco)を含有}中25-30℃で培養した。接種材料は、約106細胞数/mlを含む。8オンスのフラスコに、150 mlの5% CGY培地と1 mlのスフェロチラス菌を入れた。このフラスコに試験用殺菌剤、すなわちNaOCl, NaOBr, MCDMHを入れた。殺菌剤を含まない別のフラスコを対照群として用意した。これらのフラスコをシェーカーに取り付け、22〜30℃で100〜200rpmで回転させながら48〜72時間にわたって維持した。得られた内容物を105℃で5時間にわたり乾燥させ、終夜にわたって冷却した。乾燥生物量を含むフラスコの重量からフラスコの自重を控除して乾燥生物量を得た。
【0030】
バイオフィルム防止の有効性を、未処理の対照群と処理済みフラスコ中の平均乾燥生物量の差に基づいて、以下の式:E%={(Bcontrol avg−Bavg)/Bcontrol avg}×100(式中、E%=バイオフィルム成長のパーセント減少、B=バイオフィルム重量、およびBcontrol=対照フラスコ中のバイオフィルム重量)に従って、増殖のパーセント変化として算出した。
【0031】
殺菌剤の濃度を含む実験の結果を、以下の表1に示した。
【表1】

【0032】
本結果は、塩素化ヒダントイン(MCDMH)が、遊離ハロゲン供与体(NaOClまたはNaOBr)を上回る優れたバイオフィルム阻害剤であることを示す。
【0033】
例2
バイオフィルム除去制御効力
例1と同様、スフェロチラス菌(ATCC 15291)を以下の試験に使用した。
【0034】
バイオフィルム試験系
塩素化殺菌剤の効力試験のためのオンライン試験システムを使用し、バイオフィルムのモニタリングおよび測定のためのリアルタイムな非破壊的方法を提供した。このシステムは、バイオフィルムの形成と蓄積に相関する熱伝達抵抗(HTR)、およびバイオフィルム活性の変化と相関するバルク水中の溶解酸素(DO)値をモニターする。システム設計、パラメーターおよび増殖条件は、Ludensky,M., 「バイオフィルムについての殺菌剤試験のための自動化されたシステム」Journal of lndustrial Microbiology and Biotechnology, 20:109-115(1998)に開示されている。
【0035】
このシステムは、連続流熱交換ループ、生物成長反応器(ケモスタット)および生命維持のためのサブシステム、バイオフィルム測定器、ならびに環境的制御器からなる。水の流れ、温度、希釈率および栄養分濃度を含む全てのシステムのパラメーターを、速く、密でかつ再現性のあるバイオフィルム増殖を得るために最適化した。システムの補給水を一定の酸素飽和度に維持し(空気の連続的散布によって)、温度、およびpH条件を維持した。従って、再循環水におけるDO濃度またはpH値のあらゆる変化は、バイオフィルム活性によるものと考えられる。全てのモニタリングおよび制御パラメーターを、カスタムデザインのコンピューターソフトウェアプログラムによって制御されたデータ取得システムにおいて算出した。データを15秒おきに収集し、後のグラフ解析のために3〜60分間毎に平均値を計算しスプレッドシートに記録した。システムが数週間一定条件のもとで連続的に機能することができるようにプログラムを設計した。殺菌剤効力試験を、HTRおよびDOの対応する曲線の形状および値の分析および比較を通して行った。分析には殺菌剤処理に対応する曲線パターンの考察とバイオフィルムの回復(再増殖)を含めた。
【0036】
増殖条件
冷却水システムおよび製紙機械中の熱交換器表面上に頑強なバイオフィルムを形成することが知られている有鞘スフェロチラス菌(ATCC 15291)を、バイオフィルム増殖のために選択した。接種材料を微生物増殖反応器に汲み入れ、室温で終夜にわたり静置した。翌日、補給水および栄養素(CGY培地)を加えた。システムの初期増殖条件およびパラメーターの選択は、先の実験、実験室的制限、システム構成部品の幾何学的大きさ、およびバイオフィルムの増殖を促進するための要望に基づいている。プランクトン的増殖から付着した繊維的増殖までの増殖状態の遷移は、培地濃度を5%未満まで低下させ、かつ最大比速度よりも高い希釈速度を維持することによって得られた。試験条件を表2に示した。
【表2】

【0037】
試験溶液の殺生効力を、殺生処理に対するバイオフィルムの反応を示すHTRおよびDO曲線の形状の分析によって決定した。
【0038】
処理プログラム
処理プログラム中、栄養素および補給水をシステムに連続的に供給した(一定の化学的性質、酸素および温度)。3つの処理方式、すなわち、スラグ式、スラグ式と連続式、連続式で試験を行った。
【0039】
スラグ式処理は、予め計算された投与量(当該システム中の循環水の容積当り)で調製されたストック溶液をケモスタットに加えることによって行った。スラグ式と連続式では、ハロゲン要求量を克服するために導入された初期スラグ投与量によって殺生処理を行い、補給水速度に基づいた一定の濃度で3時間にわたり連続式を行った。
【0040】
殺菌剤の調製およびモニタリング
全部で5つの殺菌剤、NaOCl、NaOBr、MCDMH、BCDMH/MEH、およびDCDMHを、1000ppmの新鮮なCl2マスター溶液として調製した。全ての殺菌剤の処理濃度を、処理直前に行われたDPD Cl2試験によって測定された遊離および全残留ハロゲンの測定値から算出した。
【0041】
初期濃度(10, 15および20ppm)を増加させながら、スラグ式と連続式の繰返し処理を取り入れる試験を、連続した3日間にわたってNaOCl、NaOBr、MCDMH、BCDMH/MEH、およびDCDMHについて行った。システムにおける熱伝達速度および溶解酸素値を自動的に追跡し、その変化について分析を行った。得られたパラメーターに基づいて、以下の結論に到達した。
【0042】
NaOCl、NaOBr、およびBCDMH/MEHでは、全ての試験濃度でバイオフィルムを除去することができなかった。各処理の開始24時間後にバイオフィルムの回復が観察され、HTR値は、図1、2および3に示したように、各処理の開始時に観察された値よりも高かった。
【0043】
殺菌剤処理に対する溶解酸素反応は、DCDMHの場合で最も強く、NaOClの場合で最も弱かった。曲線パターン(図1〜図5)の分析を通して、図2および図3に示したような15ppm BCDMH/MEHまたは20ppm NaOBrのスラグ式と連続式処理によってバイオフィルムの再増殖の制御を達成することができた。しかしながら、これらの殺菌剤は、いずれもバイオフィルムの除去を起こすことはできなかった。
【0044】
塩素化ヒダントインMCDMHおよびDCDMHの試験は特徴的結果を示した:20ppmのMCDMHまたはDCDMHの追加後直ちにバイオフィルムの脱落が起こった。試験の結果を図4および図5に示した。この結果は、その他の酸化殺菌剤とは共通ではない。
【0045】
上述した観察結果を以下の表に要約した。
【表3】

【0046】
例3
この例は、これらの試験溶液が摸擬太陽光にさらされたとき、NaOClと比較したときのMCDMHの増強された光安定性を実証する。
【0047】
試験溶液を、温度22℃でpH7.8の水道水に以下の表4で示した濃度のNaOClおよびMCDMHを加えることによって調製した。これらの溶液を、地球表面での太陽の分光放射輝度を模擬するUVA-340蛍光によって照射した。気化を防ぐために、紫外光に対して透過性の石英プレートで試験サンプルを覆った。全体のハロゲン濃度を時間の関数として測定した。生み出された活性ハロゲンの減衰曲線を、一次動的アルゴリズムおよび対応する算出された活性ハロゲン半減期を使用して分析を行った。結果を表4に示した。
【0048】
表4に示したように、MCDMHはNaOClに対して劇的に優れた光安定性を提供する。MCDMHについて観察された活性ハロゲンの半減期は、NaOClの1.1時間に対して108時間であった。
【表4】

【0049】
これらのデータは、MCDMHの活性が最初の6.5時間でほとんど低下せず、試験期間中にわたって顕著な活性が残ったのに対し、NaOClの活性が模擬太陽光の存在中で急激に低下したことをはっきりと示している。比較対象の半減期は、さらに塩素化ヒダントインの顕著な光安定性を示す。
【0050】
例4
ヒダントイン安定化活性塩素溶液を、ヒダントインとNaOClとを組み合わせることによって同様に生み出すことができる。表2に示したように、DMHおよびNaOClの組み合わせは、シアヌル酸との組み合わせよりもより大きな光安定性を生み出す(レクリエーション水市場で周知の塩素光安定剤)。試験条件を例3と同一とした。
【表5】

【0051】
表5のデータは、DMHがNaOClの光安定性を劇的に増強させ、かつこの組み合わせがNaOClとシアヌル酸の組み合わせよりも良好な結果を果すことを示す。NaOCl+DMH安定溶液について観察された活性ハロゲンの半減期は、シアヌル酸安定化NaOClについての17時間に対して141時間であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水システム中のバイオフィルム、大量の綿状スラッジまたは大量の生物学的活性スラッジを分解する方法であって、約0.01〜100 ppm(Cl2として表わされた)の濃度の塩素化ヒダントインを前記水性媒体中で形成するために、十分な量の1以上の塩素化ヒダントインを、バイオフィルム、大量の綿状スラッジまたは大量の生物学的活性スラッジを含む前記水性媒体に加え、または前記媒体中において形成させることを含む方法。
【請求項2】
前記塩素化ヒダントインが、モノクロロジアルキルヒダントイン、ジクロロジアルキルヒダントインまたはこれらの混合物であり、ここでのアルキル基が1〜6の炭素原子を含む請求項1の方法。
【請求項3】
前記塩素化ヒダントインが、モノクロロジメチルヒダントイン、ジクロロジメチルヒダントイン、またはこれらの混合物である請求項2の方法。
【請求項4】
前記塩素化ヒダントインを、水溶液または水性スラリー状態の水性媒体に加える請求項1の方法。
【請求項5】
前記塩素化ヒダントインを、固体状態の水性媒体に加える請求項1の方法。
【請求項6】
前記処理された水性媒体を太陽光にさらす請求項1の方法。
【請求項7】
塩素源からの塩素とアルキル化ヒダントインとを、1:100〜100:1の塩素とアルキル化ヒダントインのモル比で前記水性媒体に加えることによって、前記塩素化ヒダントインをその場で形成する請求項1の方法。
【請求項8】
前記塩素とアルキル化ヒダントインのモル比が1:10〜10:1である請求項7の方法。
【請求項9】
前記水性媒体が基体に付着しているバイオフィルムを含む請求項1の方法。
【請求項10】
前記塩素化ヒダントインを性能添加剤とともに加える請求項1の方法。
【請求項11】
前記性能添加剤が、分散剤、生物分散剤、スケール抑制剤、腐食防止剤、界面活性剤、殺菌剤、洗浄剤、およびこれらの混合物である請求項10の方法。
【請求項12】
前記水システムが、冷却水システム、パルプ化または製紙システム、空気洗浄システム、農業上水、および排水システム、食品製造または洗浄システム、石油産業システム、飲用水システム、家庭用水関連システム、または施設水関連システムである請求項1の方法。
【請求項13】
水性媒体中の基体からバイオフィルムを除去する方法であって、モノクロロジメチルヒダントイン、ジクロロジメチルヒダントイン、またはこれらの混合物を、約0.05〜25 ppm(Cl2として表わされた)の量で前記水性媒体に加え、または前記媒体中において形成させることを含む方法。
【請求項14】
塩素源からの塩素とジメチルヒダントインとを、1:10〜10:1の塩素とジメチルヒダントインのモル比で前記水性媒体に加えることによって、前記塩素化ジメチルヒダントインをその場で形成する請求項13の方法。
【請求項15】
前記塩素源が、次亜塩素酸ナトリウムまたはガス状塩素である請求項14の方法。
【請求項16】
水性媒体中に存在する大量の綿状スラッジまたは大量の生物学的活性スラッジを分解する方法であって、モノクロロジメチルヒダントイン、ジクロロジメチルヒダントイン、またはこれらの混合物を、約0.05〜25ppm(Cl2として表わされた)の量で前記水性媒体に加え、または前記媒体中において形成させることを含む方法。
【請求項17】
塩素源からの塩素とジメチルヒダントインとを、1:10〜10:1の塩素とジメチルヒダントインのモル比で前記水性媒体に加えることによって、前記塩素化ジメチルヒダントインをその場で形成する請求項16の方法。
【請求項18】
前記塩素源が、次亜塩素酸ナトリムまたはガス状塩素である請求項17の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−251977(P2011−251977A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−152088(P2011−152088)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【分割の表示】特願2004−564663(P2004−564663)の分割
【原出願日】平成15年6月6日(2003.6.6)
【出願人】(592233462)ロンザ インコーポレイテッド (15)
【Fターム(参考)】