説明

バイオフィードバック装置及びプログラム

【課題】簡易な構成によって安価且つ手軽に使用することのできるバイオフィードバック装置を提供する。
【解決手段】被験者10の左右の掌の温度を温度センサ11L、11Rで検出し、その温度差に応じた信号を差動増幅回路12から音声再生回路13とスピーカ制御回路14とに出力する。音声再生回路13は、差動増幅回路12から入力された信号のレベルに応じた音量レベルで音声信号を再生する。スピーカ制御回路14は、差動増幅回路12から入力された信号のレベルが正(右より左の体温が高い)ときにはスピーカ15LのみをONし、負(左より右の体温が高い)ときにはスピーカ15RのみをONする。音声再生回路13により再生された音声信号は、ON状態となったスピーカ15Lまたは15Rに出力され、被験者10の左耳または右耳に到達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体から検出された生体情報に応じて該生体に対して出力する音声の出力態様を制御するバイオフィードバック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経失調症など、心と体の創刊不全のために心身症(psycosomatic disorders)が生じることは、医学界の常識となっている。この心身症の治療法には様々なものが知られているが、そのうちで最も客観的で治療効果判定が容易な治療法が、生体からの無自覚情報を機械により検出し、生体にフィードバックすることで自律神経系の意志制御を可能にするバイオフィードバック療法である。
【0003】
例えば、自律神経失調症の一つと考えられている「多汗症」を治療するためのバイオフィードバック療法として、左右の掌の温度を意志的に上下させる「皮膚温バイオフィードバック療法」が安全且つ簡易な療法として知られている。この皮膚温バイオフィードバック療法を実現する装置では、患者の生体情報の検出結果に応じてバイオフィードバック信号を表示することで、生体に対するバイオフィードバックを行うものとしている。
【0004】
また、心身症の治療よりもむしろゲームのプレイヤの精神活動状態を変化させてゲームのリアル間を増すことを目的とするバイオフィードバック装置もある(例えば、特許文献1参照)。このバイオフィードバック装置では、聴覚刺激に関して、binaural beatによって脳波を同調させることを一手法として適用している。例えば、98Hzの音と100Hzの音をステレオサウンドで右側および左側の耳に聞かせ、両耳で聞こえる音の周波数の差に相当する2Hzの脳波の同調化を起こさせて、睡眠時に現れる状態への制御が可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開2001−252265号公報(段落0082、0083)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した皮膚温バイオフィードバック療法を実現するための装置は、生体情報を検出するためのセンサーが過剰に用いられており、また、一般的にはなじみのないバイオフィードバック信号表示装置を必要とするため、専門知識の無い患者にとって決して使いやすいものではなかった。また、他に知られているバイオフィードバック装置でも、これと同じように比較的複雑な装置を必要としていた。
【0007】
また、特許文献1のバイオフィードバック装置は、心身症の治療を目的とするものではなく、左右の音声周波数の違いを生体に対して直接作用させるものである。また、検出した生体情報と左右の音声周波数の制御との関係が具体的に開示されていなく、不明確である。例えば、精神状態に乱れが生じている患者の場合、生体の反応にも部位毎に偏りが見られることが多いのに対して、特許文献1の場合は、このような場合を全く考慮していない。また、特定の周波数の音声を出力し続けることとなるため、このような単調な音声を聞いている患者にとって退屈に感じられる虞もあった。
【0008】
本発明は、簡易な構成によって安価且つ手軽に使用することのできるバイオフィードバック装置、及びバイオフィードバック療法を実現するためのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかるバイオフィードバック装置は、
生体から検出された生体情報に応じて出力態様を変化させた音声を該生体に対して出力するバイオフィードバック装置であって、
前記生体の左側から生体情報を検出する左側検出手段と、該生体の右側から生体情報を検出する右側検出手段とから構成される生体情報検出手段と、
前記左側検出手段により検出された生体情報と前記右側検出手段により検出された生体情報の差分を算出する生体情報差分算出手段と、
前記生体の左側に対して音声を出力する左側出力手段と、該生体の右側に対して音声を出力する右側出力手段とから構成される音声出力手段と、
前記生体情報差分算出手段により算出された生体情報の差分に応じて、前記左側出力手段と前記右側出力手段とからそれぞれ出力される音声の音圧を変化させる音声出力制御手段と
を備えることを特徴とする。
【0010】
上記バイオフィードバック装置では、生体の左側と右側からそれぞれ生体情報を検出し、その差分を算出しているものとしている。そして、算出した生体情報の左右の差分に従って、左側出力手段と右側出力手段とから出力される音声、すなわち生体の左側と右側に対してそれぞれ出力される音声の音圧を変化させるものとしている。心身症の患者は、左右の音声の音圧差を解消させるように自律訓練を行えばよい。例えば、右半身に意識を向けて音圧差が少し解消されれば、さらに音圧差が解消されるまで右半身に意識を向け続けていればよい。こうして生体の左右の状態を意図的に変化させる自律訓練が容易に行えるものとなる。
【0011】
ここで、生体の左右の状態を意図的に変化させる自律訓練を行うために生体から上記バイオフィードバック装置に入力する必要がある情報は、左右各々の生体情報だけであり、上記バイオフィードバック装置から生体に出力する必要がある情報は、左右各々で音圧を変化させた音声だけであり、いずれを行う手段も比較的簡易な構成の装置で実現できることが知られたものである。また、生体情報の入力から音声の出力の間で必要な手段は、生体情報の差分を算出する手段と、左右それぞれに出力される音声の音圧を変化させる手段だけであり、いずれも比較的簡易な構成の装置で実現できることが知られたものである。
【0012】
このように比較的簡易な構成の装置で実現できる手段のみで構成されることから、上記バイオフィードバック装置は、安価に製造できるとともに小型化できるものとなり、例えば、心身症の患者が自宅での治療に用いるのにも適したものとなる。さらに、上記バイオフィードバック装置を使用する際に使用者が設定しなくてはならないことは、生体情報検出手段と音声出力手段とを左右正しく取り付けるだけである。このため、専門的知識の乏しい者も手軽に使用することができる。
【0013】
なお、上記バイオフィードバック装置では、音声出力手段から出力する音声の“音圧”を制御するものであるため、音程が変化する音声、すなわち音楽を出力される音声として適用することも可能である。この場合には、使用者が出力される音声に退屈してしまうことなく、上記バイオフィードバック装置を使用することができるようになる。
【0014】
上記バイオフィードバック装置において、
前記生体情報検出手段は、前記生体の体温を該生体の生体情報として検出するものとすることができる。
【0015】
この場合、様々な生体情報を検出するセンサー類の中でも比較的簡易な構成で済む温度センサーが生体情報検出手段として適用されることから、上記バイオフィードバック装置をさらに簡易な構成のものとし、安価に製造することができるようになる。
【0016】
この場合において、
前記音声出力制御手段は、前記左側出力手段と前記右側出力手段のうちで前記左側検出手段と前記右側検出手段とが検出した前記生体の左右の体温のうちで体温が高い方に対応した音声出力手段からのみ音声を出力させるものとすることができる。
【0017】
また、前記音声出力制御手段は、前記生体情報差分算出手段の算出した前記生体の左右の体温の差に応じて、該生体の体温が高い方に対応した音声出力手段から出力される音声の音圧を変化させるものとすることができる。
【0018】
上記のように左側出力手段または右側出力手段の一方のみから音声を出力させれば済むものとすることで、出力される音声の音圧を左右別々に制御する機能を考える必要がなく、より簡易な装置構成とすることができる。また、左右の一方のみからしか音声が出力されないため、左右の生体情報の差分が小さいときでも容易に音圧差(少なくとも一方は必ず0)を感じられることとなるので、患者が自律訓練を容易に実施することができる。さらに、左右の一方のみから出力される場合でも、左右の体温の差に応じてその音声の音圧を変化させることで、左右一方により意識を向けるべきかどうかが判断しやすくなり、生体の左右の状態を意図的に変化させる自律訓練を効率よく行うことができるようになる。
【0019】
上記バイオフィードバック装置は、
前記生体の左側の生体情報と右側の生体情報との差分として基準となる基準情報を生成する基準情報生成手段をさらに備えていてもよい。この場合において、
前記生体情報差分算出手段は、前記左側検出手段により検出された生体情報と右側検出手段により検出された生体情報との差分を算出した後、さらに当該生体情報の差分の情報と前記基準情報生成手段の生成した基準情報との差分を算出するものとすることができる。
【0020】
この場合には、自律訓練を行おうとする患者が予め基準情報生成手段が生成する基準情報の設定を行っておくことで、左右の生体情報を一致した状態とする自律訓練だけではなく、左右の生体情報に所定の差が生じた状態とする自律訓練も容易に行うことができるようになる。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明の第2の観点にかかるプログラムは、
生体の左右それぞれから生体情報を検出する左右一対の生体情報検出装置と、該生体の左右それぞれに対して音声を出力する左右一対の音声出力装置とに接続されたコンピュータ装置において実行され、前記生体情報検出装置により検出された生体情報に応じて出力態様を変化させた音声を前記音声出力装置から出力するための音声信号を生成するプログラムであって、
前記生体情報検出装置により検出された前記生体の左右それぞれの生体情報を、前記コンピュータ装置が備える記憶装置に一時記憶させるステップと、
前記記憶装置に一時記憶された左右の生体情報の差分を算出し、該算出した差分を前記記憶装置に一時記憶させるステップと、
前記コンピュータ装置が備える音声信号生成装置が生成して前記音声出力装置から出力される左右それぞれの音声の音圧を、前記記憶装置に一時記憶された差分に応じて変化させるステップと
を前記コンピュータ装置に実行させることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1は、この実施の形態にかかるバイオフィードバック装置の回路構成を示すブロック図である。図示するように、このバイオフィードバック装置は、左右一対の温度センサ11L、11Rと、差動増幅回路12と、音声再生回路13と、スピーカ制御回路14と、左右一対のスピーカ15L、15Rとから構成される。スピーカ15L、15Rは、例えば、ヘッドフォンの左右に用いられているスピーカとすることができ、被験者10の左右それぞれの耳に音声を出力する。
【0024】
温度センサ11L、11Rは、被験者(例えば、心身症の治療を行う患者)10の左右の掌の温度をそれぞれ検出し、該検出した温度に応じたレベルの信号を差動増幅回路12に出力する。差動増幅回路12は、温度センサ11L、11Rからそれぞれ入力された信号のレベル差に対応したレベル(例えば、左の掌の温度が高い場合を正、右の掌の温度が高い場合を負とする)の信号(すなわち、被験者10の左右の掌の温度差に応じた信号)を音声再生回路13とスピーカ制御回路14とに出力する。
【0025】
音声再生回路13は、差動増幅回路12から入力された信号のレベルに応じた音量レベルで音声信号を再生してスピーカ制御回路14に出力する。再生される音声信号の音量レベルが高くなると、スピーカ15Lまたは15Rから出力される音声の音圧が高くなることとなる。なお、音声再生回路13が再生する音声は、例えば、比較的音声レベルの変化が少なく、心身症の治療用に好適なものとして選ばれた音楽とすることができる。
【0026】
スピーカ制御回路14は、差動増幅回路12から入力された信号のレベルに応じてスピーカ15L、15Rの一方への音声信号の出力をONし、他方への音声信号の出力をOFFする。例えば、被験者10の左の掌の温度が右の掌の温度よりも高いときには、差動増幅回路12から入力された信号が正レベルであり、このときには左のスピーカ15Lへの音声信号の出力がONされる。但し、差動増幅回路12から出力された信号のレベルが0であるとき、すなわち被験者10の左右の掌の温度に差がないときには、スピーカ15L、15Rのいずれに対する音声信号の出力もOFFされる。
【0027】
スピーカ制御回路14は、また、スピーカ15L、15Rのうちで音声信号の出力がONされた方に対して、音声再生回路13により再生された音声信号を出力し、スピーカ15L、15Rの対応するものから音声出力させる。すなわち、被験者10の左右の掌で温度の高い方に対応したスピーカ15L、15Rの何れかから、左右の温度差に応じて音圧の制御された音声が出力される。
【0028】
次に、このバイオフィードバック装置による作用について説明する。被験者10の左の掌の温度と右の掌の温度とに差が生じている場合、いずれか温度の高い方に対応したスピーカ15L、15Rから温度差に応じた音量レベルで音声が出力される。例えば、音声が出力されているのが左のスピーカ15Lで被験者10が左半身(左の掌を含む)に意識を向けていると、スピーカ15Lから出力される音声の音量レベルが小さくなる。つまり、この被験者は、左右のうちで意識を向けている方の体温が低下する(或いは、意識を向けていない方の体温が上昇する)という傾向にある。
【0029】
左のスピーカ15Lから音声が出力されていて左半身に意識を向けたときに音量レベルが低下したのであれば、未だ左のスピーカ15Lから音声が出力されている間において左半身に意識を向けていれば、さらに左右の体温差が縮まると考えられるので、被験者10は、この状態を続けていけばよい。そして、左右の体温差が縮まれば、さらに左のスピーカ15Lから出力される音声の音量レベルが低下する。
【0030】
こうして左のスピーカ15Lからも音声が出力されなくなり、左右何れのスピーカ15L、15Rからも音声が出力されなくなれば、左の掌と右の掌の温度差が0度になったということであり、被験者10の左右の掌の温度差を意識的に上下させる自律訓練が達成できたものとなる。次に、このような被験者が、この実施の形態にかかるバイオフィードバック装置を用いて行った自律訓練の具体例について説明する。
【0031】
最初の状態として、温度センサ11Lで検出された被験者10の左の掌の温度が36.8度、温度センサ11Rで検出された右の掌の温度が36.5度であったものとする。また、例えば、0.1度の温度差で出力される音声の音量レベルが1になるものとする。ここでは、左右の掌の温度差0.3度に対応したレベルの信号が差動増幅回路12から出力され、音声再生回路13により音量レベル3で音声信号が再生されるとともに、差動増幅回路12の出力信号が正レベルであるので、スピーカ15LがONされる。こうして左のスピーカ15Lから音量レベル3の音声が出力されて、被験者10の左の耳に到達するものとなる。
【0032】
スピーカ15Lから出力される音声を受けて、被験者10が左半身に意識を向けていると、温度センサ11Lで検出された左の掌の温度が36.7度に下がることとなる。一方、温度センサ11Rで検出された右の掌の温度が36.5度のままとなっていたものとする。ここでは、左右の掌の温度差0.2度に対応したレベルの信号が差動増幅回路12から出力され、音声再生回路13により音量レベル2で音声信号が再生されるとともに、スピーカ15LがONされる。こうして左のスピーカ15Lから音量レベル2の音声が出力されて、被験者10の左の耳に到達するものとなる。
【0033】
スピーカ15Lから出力される音声のレベルは低下したものの依然として左のスピーカ15Lから音声が出力され続けているので、被験者10は継続して左半身に意識を向け続ける。こうして被験者10が左半身に意識を向け続けることで、温度センサ11Lで検出された左の掌の温度が36.5度に下がることとなる。一方、温度センサ11Rで検出された右の掌の温度も36.5度のままになっているものとする。
【0034】
この場合には、音声再生回路13は、左右の掌の温度差0度に対応したレベル0で音声信号を再生する、言い換えれば、音声信号を再生しない。また、差動増幅回路12の出力信号のレベルが0であるので、スピーカ15L、15RのいずれもOFFとなり、被験者10の左の耳にも右の耳にも音声は到達しない。このときには、被験者10の左右の体温差がなくなり、左右の温度差を意識的に0度とすることができたことになる。
【0035】
その後、温度センサ11Lで検出された左の掌の温度が36.5度のままで、温度センサ11Rで検出された右の掌の温度が36.6度に上昇したものとする。ここでは、左右の掌の温度差−0.1度に対応したレベルの信号が差動増幅回路12から出力され、音声再生回路13により音量レベル1で音声信号が再生されるとともに、差動増幅回路12の出力信号のレベルが負なのでスピーカ15RがONされる。こうして右のスピーカ15Rから音量レベル1の音声が出力されて、被験者10の右の耳に到達するものとなる。
【0036】
この場合、被験者10は、今度は音声が出力されているスピーカ15Rに対応した右半身に意識を向けていると、右の掌の温度が低下していくこととなり、そのまま左右何れのスピーカ15L、15Rからも音声が出力されなくなるまで右半身に意識を向け続けていればよいことになる。
【0037】
なお、上記の説明では、被験者10がスピーカ15L、15Rのうちの音声が出力されている方に対応した半身に意識を向けることで意識を向けた方にある掌の温度が低下し(或いは意識を向けてない方にある掌の温度が上昇して)、左右の体温差が解消されていくものとしていた。もっとも、左のスピーカ15Lから音声が出力されているときに右半身に意識を向けることで出力される音声のレベルが低下していくような被験者10の場合には、音声の出力されているスピーカ15L、15Rの方向とは逆方向の半身に意識を向けるという自律訓練を行えばよいものとなる。
【0038】
心身症の一種と考えられる掌多汗症の患者を被験者10として、その多汗症の治療に上記のバイオフィードバック装置を実際に用いて、その効果を検証した。ここでの被験者10は、漢方診断において気虚、気逆、血虚、水滞が著しく、気血水スコアが111点という高い値を示し、手から汗が滴り落ちる程の重症であった掌多汗症の患者である。この患者は、上記のバイオフィードバック装置を用いた治療を行う前、半年の間補中益気湯療法を行っていた。補中益気湯療法の結果、気血水スコアが59点まで低下し、掌の発汗もかなり改善されたが、多汗症の完全な治癒には到らなかった。
【0039】
この患者に対して、上記バイオフィードバック装置を用いて、1日3回2分間の自宅で行うように指示した。この多汗症患者の被験者10は、上記バイオフィードバック装置を用いて左右の掌の温度差を意志的に上下させ、その温度差を0度とすることを容易に行うことができた。そして、このような訓練を1ヶ月間続けた結果、訓練時以外のときにおける左右の掌の温度差に改善が見られ、掌からの発汗も相当程度まで抑えられるようになった。
【0040】
以上説明したように、この実施の形態にかかるバイオフィードバック装置によれば、被験者10の左右の掌の温度を検出し、その温度差に応じた音量レベルの音声をスピーカ15L、15Rのうちの体温の高い方に対応したものから出力するものとしている。被験者10は、例えば、左のスピーカ15Lから音声が出力されているときには、左半身に意識を向ける。このとき左の掌の温度が低下すれば、右の掌との温度差が小さくなってスピーカ15Lから出力される音声の音量レベルが小さくなる。逆に言えば、音量レベルが小さくなれば、左の掌と右の掌の体温差が小さくなったということである。
【0041】
左のスピーカ15Lから音声が出力されているときに左半身に意識を向けて音量レベルが小さくなった場合は、さらにスピーカ15L、15Rの何れからも音声が出力されなくなるまで左半身に意識を向け続けていればよい。このようにスピーカ15L、15Rから出力される音声に応じて左半身または右半身に意識を向けるという自律訓練を行うことで、被験者10の左右の体温を意図的に上下させてその温度差を解消させることができる。その自律訓練の実施は、左のスピーカ15と右のスピーカ15Rの何れから音声が出力されているかに従って行えばよいので、非常に実施しやすいものとなる。上記バイオフィードバック装置は、皮膚温バイオフィードバック療法を簡易に行い得るようにしたもので、心身症の治療などにおいて効果を発揮するものとなる。
【0042】
ここで、上記バイオフィードバック装置において、被験者10の生体の情報として必要なのは、左右の掌の体温だけであり、これを検出するのに必要な構成は、左右一対の温度センサ11L、11Rだけとなる。また、バイオフィードバックにより被験者10に対して与える情報は、左右の耳に到達する音声だけであり、これを被験者10に与えるのに必要な構成は、左右一対のスピーカ15L、15Rだけとなる。さらに、体温の検出から音声の出力までの間で必要な回路は、差動増幅回路12と、音声レベルを調整しつつ音声を再生する音声再生回路13と、スピーカ15L、15Rへの音声の出力をON/OFFするスピーカ制御回路14だけである。これらは、いずれも比較的簡易な構成の装置で実現されている。
【0043】
このように比較的簡易な構成の装置のみを集めて構成されていることから、上記バイオフィードバック装置は、小型で安価に製造することができるようになる。また、上記バイオフィードバック装置を使用する際に、温度センサ11L、11Rをそれぞれ左右の掌に正しく装着し、スピーカ15L、15Rをそれぞれ左右の耳に正しく当てて装着すれば、後は装置の電源を入れて起動すればよいだけである。このため、専門的知識の乏しい者でも手軽に使用することができるものとなり、例えば、心身症の患者が自宅での治療に用いるにも非常に適したものとなる。さらに上記バイオフィードバック装置は、小型化することが可能なことから、自宅での治療に限らず、心身症の患者が移動先でも治療に用いることもできるようになる。
【0044】
さらに、スピーカ15L、15Rの双方から同時に音声が出力されることはなく、一時には一方からしか音声が出力されないものとなっている。このため、音声再生回路13が左右別々に音量レベルを制御する機能を有する必要もなく、さらに簡単な装置構成とすることができる。一時にはスピーカ15L、15Rの一方からしか音声が出力されないことから、被験者10は、左の掌と右の掌のどちらが温度が高く、従って左半身と右半身のどちらに意識を向けつつ自律訓練を行うべきかということを容易に判断できるようになる。
【0045】
その一方で、スピーカ15L、15Rの一方からしか一時には音声が出力されなくても、出力される音声の音量レベルは、被験者10の左右の掌の温度差に応じて変化させられるものとなる。つまり、出力されている音声の音量レベルが大きいほど左右の温度差が大きく、左半身か右半身かの何れかにより強く意識を向けるべきと言うことも容易に判断できるようになる。このため、被験者10の左右の体温を意図的に上下させる自律訓練を容易に行うことができるものとなる。
【0046】
また、この実施の形態にかかるバイオフィードバック装置では、スピーカ15L、15Rから出力させる音声の音量レベル(すなわち、音圧)を変化させるものとしているため、出力される音声は音程が変化するものであってもよい。つまり、被験者10は、音楽を聴きながらバイオフィードバック治療を行うことができるものとなり、バイオフィードバック治療を行っている間において退屈に感じてしまうこともない。
【0047】
本発明は、上記の実施の形態に限られず、種々の変形、応用が可能である。以下、本発明に適用可能な上記の実施の形態の変形態様について説明する。
【0048】
上記の実施の形態では、スピーカ15L、15Rのうちの温度センサ11L、11Rで検出された温度が高い方に対応するものから音声を出力するものとしていたが、検出された温度が低い方に対応するものから音声を出力するようにしてもよい。つまり、このような場合でも、左のスピーカ15Lから音声が出力されているときに左半身に向けることで音声の音量レベルが大きくなったときには、被験者は、左右の温度差が開いたことを認識できるからである。上記バイオフィードバック装置のスピーカ15L、15Rから出力される音声は、被験者10の生体に直接作用させるものではなく、あくまで被験者10の自律訓練をアシストするものだからである。
【0049】
上記の実施の形態では、温度センサ11L、11Rで検出された被験者10の左右の掌の温度差に応じてスピーカ15L、15Rのいずれか一方のみON(或いは両方ともOFF)するものとし、さらには左右の掌の温度差に応じて出力する音声の音量レベルを制御するものとしていた。もっとも、出力する音声の音量レベルを制御する機能を有していなくても、掌の温度が高い方(或いは低い方)に対応するスピーカ15L、15Rのみから音声を出力させるようにしても、一定の効果を得ることができる。
【0050】
また、音声再生回路13が左右別々に出力される音声の音量レベルを制御する機能を有するのであれば、スピーカ15L、15Rの両方から常に音声が出力されるものとしてもよい。この場合において、例えば、スピーカ15L、15Rのうちの温度が低い方の掌に対応したものから出力される音声の音量レベルをデフォルトレベルとし、高い方の掌に対応したものから出力される音声の音量レベルを体温差に応じて変化させるものとしてもよい。また、例えば、左のスピーカ15Lから出力される音声の音量レベルは常に一定としておき、右のスピーカ15Lから出力される音声の音量レベルだけを変化させるものとしてもよい。ここでは、右のスピーカ15Rから出力される音声の音量レベルは、左右の掌の温度が同じなら同じにし、右の掌の温度の方が高いなら左のスピーカ15Lから出力される音声の音量レベルよりも小さくし、左の掌の温度の方が低いなら左のスピーカ15Lから出力される音声の音量レベルよりも大きくするものとすればよい。
【0051】
上記の実施の形態では、音声再生回路13により音楽の音声データを再生して、スピーカ15Lまたは15Rの何れかから出力させるものとしていた。しかしながら、出力する音声の種類は、これに限るものではなく、例えば、音声再生回路13の代わりに発振回路を設け、これによって音声を発生させるものとしてもよい。また、左の掌と右の掌の温度差に応じて音声の音量レベルを変化させるのではなく、周波数を変化させるものとしてもよい。音声の出力と併用して、被験者10に対して他の情報を左右別に与えるものとしてもよい。例えば、左の掌の方が右の掌よりも温度が高いときには、左右一対のランプのうちの左側を点灯することなどを行ってもよい。
【0052】
上記の実施の形態では、左の掌と右の掌の温度差が0となったとき、左のスピーカ15Lからも右のスピーカ15Rからも音声を出力させないように制御していた。これに対して、例えば、左右の掌の温度差が特定の温度差となったときに、スピーカ15L、15Rの何れからも音声を出力させないものとしてもよい。ここで、例えば、左右の掌の温度差が+1度(+は、左の方が高いことを意味するものとする)であるときにスピーカ15L、15Rから音声を出力させないものとする場合、左右の掌の温度差が+2度のときは左のスピーカ15Lから、0度のときは右のスピーカ15Rから音声を出力させるものとすることができ、基準となる+1度との差は同じなので、それぞれの場合に出力される音声の音声レベルは、等しいものとなる。
【0053】
この場合、スピーカ15L、15Rの何れからも音声が出力されないように被験者10が自律訓練を行うことによって、左右の掌の温度差を意識的に特定の温度に持って行くようにする訓練も行うことができる。なお、スピーカ15L、15Rの何れからも音声が出力されなくなる左右の掌の温度差を可変とするように差動増幅回路12を制御できるようにしてもよい。つまり、差動増幅回路12は、被験者10が予めセットする基準温度差に応じた信号を発生する基準信号発生回路が発生した信号をさらに入力し、左右の掌の温度差に応じた信号と基準温度差に応じた信号との差分を求め、当該差分に応じた信号を音声再生回路13とスピーカ制御回路14とに出力するものとすることができる。
【0054】
皮膚温バイオフィードバック療法は、上記の実施の形態で示したように温度差が0度となるように左右の掌の温度を意図的に上下させるものに限られない。例えば、左右の掌の温度差を+2度としたり、−2度としたりする自律訓練を行うものとする場合もある。このように左右の掌の温度差を意図的に生じさせる自律訓練を行うことも、平常時において左右の掌の温度差を解消し、多汗症などの心身症を治療するためのバイオフィードバック療法として知られたものである。
【0055】
この変形例に示したような構成を付加することによって、被験者10は、所定の温度差が生じるように左右の掌の温度差を意図的に上下させる自律訓練も、容易に行うことができるようになる。なお、この場合には、被験者10は、自律訓練を行う前に、左右の掌の基準温度差に応じた信号を基準信号発生回路に発生させるように、基準信号発生回路の設定を行っておけばよい。
【0056】
上記の実施の形態では、温度センサ11L、11Rは、それぞれ被験者10の左右の掌に取り付けられるものとしていたが、左右対称に取り付けられるのであれば、これ以外の部位(例えば、左右の耳など)に取り付けるものとしてもよい。また、上記のバイオフィードバック装置を利用したバイオフィードバック療法を行うのに必要な被験者10の生体情報は、体温に限るものではなく、左右で異なる状態を示すものであれば発汗量などの他の情報であってもよい。体温以外の生体情報を適用する場合には、適用される生体情報に応じた左右一対のセンサを温度センサ11L、11Rの代わりに用いればよいこととなる。
【0057】
上記の実施の形態では、本発明にかかるバイオフィードバック装置をハードウェアにより構成された回路で実現する場合を例として説明した。しかしながら、被験者10の左右の掌の温度を検出する温度センサ11L、11RにA/D変換器を介して接続され、D/A変換器を介してスピーカ15L、15Rに接続されたコンピュータ装置を用いて、上記したバイオフィードバック装置の機能をソフトウェアにより実現することができる。
【0058】
このようなコンピュータ装置は、CPUと、後述するフローチャートに示す処理を実行させるプログラムを記憶するとともにワークエリアとして使用されるメモリとを備え、また、メモリに記憶された音声データを順次読み出して再生する機能を有するものであれば、汎用コンピュータであっても専用コンピュータであってもよい。音声をステレオ出力する機能を有するのであれば、この場合のコンピュータ装置として携帯電話機を適用することもできる。
【0059】
図2は、このようなコンピュータ装置において実行される処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、例えば、所定時間毎に発生するタイマ割り込みによって起動されるものとすることができる。
【0060】
処理が開始すると、CPUは、接続されている温度センサ11L、11Rによりそれぞれ検出され、A/D変換器によって変換された左右の掌の温度に対応した数値データを、メモリの所定の領域に一時記憶させる(ステップS101)。次に、CPUは、ステップS101で記憶した左の掌の温度に対応した数値データと右の掌の温度に対応した数値データとの差分データを算出し、これをメモリの所定の領域に一時記憶させる(ステップS102)。
【0061】
次に、CPUは、算出された差分データの正負に応じて、左のスピーカ15L及び右のスピーカ15RをONまたはOFFする(ステップS103)。その後、CPUは、メモリから音声データを順次読み出し、読み出した音声データに基づいて算出された差分データの絶対値に応じた音声レベルで音声信号を再生する(ステップS104)。この音声信号の再生は、次にタイマ割り込みが生じるまで、継続して行われるものとなる。
【0062】
なお、本発明のバイオフィードバック装置の機能をソフトウェアにより実現する場合においても、ハードウェアにより実現する場合の各種変形例をそのまま適用することができる。また、上記した処理を実行するためのプログラムは、適用されるコンピュータ装置の形態に応じて、該コンピュータ装置によって読み取り可能な記録媒体に記録して配布したり、インターネット上に存在するサーバ装置からのダウンロードによって配布したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態にかかるバイオフィードバック装置の回路構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の変形例にかかるバイオフィードバック装置における処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
11L、11R 温度センサ
12 差動増幅回路
13 音声再生回路
14 スピーカ制御回路
15L、15R スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から検出された生体情報に応じて出力態様を変化させた音声を該生体に対して出力するバイオフィードバック装置であって、
前記生体の左側から生体情報を検出する左側検出手段と、該生体の右側から生体情報を検出する右側検出手段とから構成される生体情報検出手段と、
前記左側検出手段により検出された生体情報と前記右側検出手段により検出された生体情報の差分を算出する生体情報差分算出手段と、
前記生体の左側に対して音声を出力する左側出力手段と、該生体の右側に対して音声を出力する右側出力手段とから構成される音声出力手段と、
前記生体情報差分算出手段により算出された生体情報の差分に応じて、前記左側出力手段と前記右側出力手段とからそれぞれ出力される音声の音圧を変化させる音声出力制御手段と
を備えることを特徴とするバイオフィードバック装置。
【請求項2】
前記生体情報検出手段は、前記生体の体温を該生体の生体情報として検出する
ことを特徴とする請求項1に記載のバイオフィードバック装置。
【請求項3】
前記音声出力制御手段は、前記左側出力手段と前記右側出力手段のうちで前記左側検出手段と前記右側検出手段とが検出した前記生体の左右の体温のうちで体温が高い方に対応した音声出力手段からのみ音声を出力させる
ことを特徴とする請求項2に記載のバイオフィードバック装置。
【請求項4】
前記音声出力制御手段は、前記生体情報差分算出手段の算出した前記生体の左右の体温の差に応じて、該生体の体温が高い方に対応した音声出力手段から出力される音声の音圧を変化させる
ことを特徴とする請求項3に記載のバイオフィードバック装置。
【請求項5】
前記生体の左側の生体情報と右側の生体情報との差分として基準となる基準情報を生成する基準情報生成手段をさらに備え、
前記生体情報差分算出手段は、前記左側検出手段により検出された生体情報と右側検出手段により検出された生体情報との差分を算出した後、さらに当該生体情報の差分の情報と前記基準情報生成手段の生成した基準情報との差分を算出する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のバイオフィードバック装置。
【請求項6】
生体の左右それぞれから生体情報を検出する左右一対の生体情報検出装置と、該生体の左右それぞれに対して音声を出力する左右一対の音声出力装置とに接続されたコンピュータ装置において実行され、前記生体情報検出装置により検出された生体情報に応じて出力態様を変化させた音声を前記音声出力装置から出力するための音声信号を生成するプログラムであって、
前記生体情報検出装置により検出された前記生体の左右それぞれの生体情報を、前記コンピュータ装置が備える記憶装置に一時記憶させるステップと、
前記記憶装置に一時記憶された左右の生体情報の差分を算出し、該算出した差分を前記記憶装置に一時記憶させるステップと、
前記コンピュータ装置が備える音声信号生成装置が生成して前記音声出力装置から出力される左右それぞれの音声の音圧を、前記記憶装置に一時記憶された差分に応じて変化させるステップと
を前記コンピュータ装置に実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−325872(P2007−325872A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161617(P2006−161617)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(504390344)株式会社プロジェクト アイ (17)
【Fターム(参考)】