説明

バイオポリマー材料

純粋なケラチンタンパク質、ケラチンコポリマーまたは架橋ケラチンタンパク質の成型物品が、湿潤されたタンパク質粉末から圧縮および任意の熱の適用により生成される。安定な材料が、成型または機械加工されうる。本開示は、製造物品、および、成形または形成されたケラチンタンパク質調製物を含む物品の製造のためのプロセスを含む。ケラチンの乾燥粉末または湿潤粉末調製物が圧力および任意に熱にさらされて、ケラチンがガラス転移状態または流動可能な可塑状態に高められる。それからケラチン調製物が、型内で周囲条件に戻されることにより成型され、または押出され成形されうる。成型または成形された製品は良好な物理的強度および湿潤強度を呈し、可塑剤の添加により、または弾性ケラチンコポリマーの使用によって、より耐水性または可撓性に作られうる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
合成ポリマーのバイオポリマー代替物は、非常に興味深い。再生可能資源からの持続可能な生成された生分解性ポリマーは、合成ポリマーから現在作られる広範囲の製品の環境持続性に必要な、重要な技術開発を提供する。
【0002】
ポリ乳酸、大豆タンパク質、澱粉、キチン、および他の天然の構造材料を含む様々な天然材料が、バイオポリマー材料を作製するために研究されている。しかし、バイオポリマー材料には、潜在的食用作物を食品以外の用途に転用する場合には材料供給源の持続可能性、特に湿潤時の物理的性質、および合成ポリマー工業において使用されるものに類似の工業プロセスを使用して加工される能力を含む問題が残る。
【0003】
ケラチンはその天然形態において、合成ポリマーに求められることの多い望ましい頑強性(robustness)を呈するが、天然に熱可塑性または形成可能でないため、合成ポリマー材料の代替物を作製するために有用な方法でケラチンを操作することは可能となっていない。他の天然材料と比較したときのケラチンの頑強性の一つの理由は、角、蹄、毛髪、羊毛、羽毛および爪等のケラチン材料に繊維状タンパク質が高比率で生じることである。このタンパク質の繊維構造に組織化する傾向に加え、この繊維状タンパク質の高秩序の性質は、ケラチンがバイオポリマー材料の作製に非常に適する上で重要な要因である。
【0004】
天然の供給源からケラチンを分離する過去の方法は、有望ではあるが工業的に許容可能な手段で加工することができる頑強な材料を作製する上で実際的に有用でない材料を生じている。
【0005】
ケラチンから再構成材料を形成するための一般的なアプローチは、溶媒キャスティングまたは溶融加工のいずれかを用いたケラチンと他のポリマーとのブレンディングを伴う。ブレンドされたポリマーは、完全なバイオポリマー材料ではないことが多く、したがって持続可能性の観点から理想に及ばず、加えて、成分の不完全混合に起因する不十分な物理的性能を有しうる。様々な溶媒、最も一般的には水性のものから材料をキャスティングすることにより、純粋なケラチンからいくつかの材料が構築されている。これらの場合には、キャスト材料の形態が限定される。フィルムおよび繊維のほうが、より大きな体積の材料または実質的に厚い材料よりもこれらのプロセスを使用して作製するのがはるかに容易である。加えて、これらの材料は、特に水にさらされたときに不適切な物理的性質を有することが多い。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、製造物品、および、成形または形成されたケラチンタンパク質調製物を含む物品の製造のためのプロセスを含む。ケラチンの乾燥粉末または湿潤粉末調製物が圧力および任意に熱にさらされて、ケラチンがガラス転移状態または流動可能な可塑状態に高められる。それからケラチン調製物が、型内で周囲条件に戻されることにより成型され、または押出され成形されうる。成型または成形された製品は良好な物理的強度および湿潤強度を呈し、可塑剤の添加により、または弾性ケラチンコポリマーの使用によって、より耐水性または可撓性に作られうる。
【0007】
成型物品は、整形移植片、脊髄移植片、充填材、ネジ、またはファスナー、組織拡張器または足場、人工組織または器官を含むがこれに限られない移植片、創傷治癒包帯または創傷修復材料、ボトルまたはコンテナ等の構造物品等の医療デバイスを含むがこれに限られない、多くの製品分野において有用であり、例えば溶融押出賦形剤のような製薬的に活性な剤と共押出されうる。
【0008】
本開示全体において、文脈から別の解釈が要求されない限り、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」等のその変化形は、「含むがこれに限られない」を意味し、はっきり言及されていない他の要素も含まれうると理解される。さらに、文脈から別の解釈が要求されない限り、不定冠詞「a」または定冠詞「the」という用語の使用は、単一の物体または要素を意味することも、または複数もしくは一つ以上のこのような物体または要素を意味することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ケラチンは、高度のアミノ酸のシステインにより特徴づけられるタンパク質のファミリーであり、これによりケラチンタンパク質にジスルフィド結合による高度な架橋が与えられている。ケラチンタンパク質は広範囲の生物組織に存在し、皮膚、毛髪および他の材料において構造的役割を果たしている。
【0010】
ケラチンは天然に不溶性であり、バイオポリマー製品として有用な形態に容易に加工可能でない羊毛または羽毛の形態において生じる。しかし、ケラチンを修飾して可溶性にでき、それから圧縮法を用いてバイオポリマー材料を作製するための原料としての使用のために、粉末形態のように単離しうる。ケラチンの粉末形態を作製するための任意のプロセスを用いて、圧縮法に適したケラチンの形態を生成しうる。
【0011】
一つのそのようなプロセスは、参照により本明細書に組み込まれる2006年12月12日に交付された米国特許第7,148,327号に記載されるように、ケラチンを化学的に修飾してS−スルホン化ケラチンを形成するステップを含む。S−スルホン化ケラチンとは、ケラチンタンパク質のシスチンアミノ酸間のジスルフィド結合が可逆的に修飾されて、ケラチンタンパク質に元々存在する天然のジスルフィド架橋の制御された再導入を可能にする極性官能基が作製されるプロセスを経た、ケラチンタンパク質をいう。S−スルホン化ケラチンは、主にS−スルホシステインの形で存在するシステイン/シスチンを有する。この高極性基は、タンパク質にある程度の溶解性を与える。S−スルホ基は溶液において安定であるが、不安定なシステイン誘導体であり、システイン等のチオールおよび他の還元剤に対して反応性が高い。還元剤との反応は、S−スルホシステイン基のシスチンへの再変換をもたらす。S−スルホシステインは、両基ともSO基を含むがシステイン酸と化学的に異なる。システイン酸は、システインまたはシスチンの酸化により不可逆的に生成され、一旦形成されると、再びシステインへとジスルフィド架橋を形成することはできない。S−スルホシステインはシステインに反応性であり、容易にジスルフィド架橋を形成する。s−スルホン化かつ酸化されたシステイン酸を含むタンパク質が、本開示の実施において有用である。
【0012】
S−スルホン化ケラチンタンパク質の場合、還元条件の適用により、例えばチオールを適用することにより、S−スルホネートの形態の架橋ジスルフィドの形態への変換が達成されうる。参照により本明細書に組み込まれる2006年12月12日に交付された米国特許第7,148,327号に記載されるものを含む様々な方法により、S−スルホン化ケラチンタンパク質が調製できる。
【0013】
シスチンジスルフィド結合をシステインS−スルホネートに修飾するメカニズムは以下のようにまとめられ、式中Kはケラチンである:
K−S−S−K→2K−S−SO
架橋を再形成するメカニズムは以下のようにまとめることができ、式中Kはケラチン、Rは還元剤である:
K−S−SO+R−S → K−S−S−R+SO2−
K−S−S−R+R−S → K−S−+R−S−S−R
2K−S−SO+R−S → K−S−S−K+SO2−
ケラチンタンパク質は、ケラチンタンパク質画分でありうる。ケラチンタンパク質画分は、ケラチンタンパク質ファミリー内からの別個の群であり、中間径フィラメントタンパク質、高硫黄タンパク質および高グリシンチロシンタンパク質を含む。
【0014】
中間径フィラメントタンパク質は、Orwin等(Structure and Biochemistry of Mammalian Hard Keratin,Electron Microscopy Reviews,4,47,1991)により詳述され、Gillespie(Biochemistry and physiology of the skin,vol.1,Ed.Goldsmith Oxford University Press,London,1983,pp.475−510)により低硫黄タンパク質とも呼ばれる。中間径フィラメントタンパク質ファミリーの主要な特徴は、40〜60kD範囲の分子量および約4%のシステイン含量(ハーフシスチンとして測定される)である。
【0015】
高硫黄タンパク質ファミリーも、上記と同じ刊行物においてOrwinおよびGillespieにより十分に記載される。このタンパク質ファミリーは異質性が高いが、10〜30kD範囲の分子量および10%より大きいシステイン含量を有するものとして特徴づけられうる。このファミリーのサブセットは、超高硫黄タンパク質であり、最高34%のシステイン含量を有しうる。
【0016】
高グリシン−チロシンタンパク質ファミリーも、上記と同じ刊行物においてOrwinおよびGillespieにより十分に記載される。このファミリーは、高チロシンタンパク質とも呼ばれ、10kD未満の分子量、典型的に10%より大きいチロシン含量、および典型的に20%より大きいグリシン含量の特徴を有する。
【0017】
本開示の目的においては、「ケラチンタンパク質画分」は、上述の全部ではないが主に一つの別個のタンパク質基を含む、ケラチンの精製された形態である。
【0018】
可溶性ケラチンタンパク質またはタンパク質画分は、インタクトでもありうる。インタクトという用語は著しく加水分解されていないタンパク質をさし、加水分解は、水の添加によるペプチド結合の切断として定義される。Gillespieは、インタクトとは、角質化されたポリマー状態のタンパク質をさし、さらに複合体化して羊毛および毛髪においてインタクトなケラチンを形成するポリペプチドサブユニットをさすと考える。これらは、角質化のプロセスを通じて形成されるジスフィルド架橋を伴わない天然形態のケラチンタンパク質と同等である。
【0019】
インタクトなケラチンタンパク質およびケラチンタンパク質画分は、参照により出願全体が本明細書に組み込まれる2006年6月19日に出願の同時係属中の共同所有の米国特許出願第10/583,445号においてさらに詳述される。
【0020】
ケラチンは、酸化ケラチンでもありうる。酸化ケラチンは、ケラチンを酸化剤に曝露した結果として生成され、シスチンのシステイン酸への変換がもたらされ、ケラチンが可溶または粉末形態に変換される。
【0021】
ケラチンは、還元ケラチンでもありうる。還元ケラチンは、チオール、ホスフィンまたは他の類似の還元剤等の還元剤にケラチンを曝露した結果として生成される。これにより、存在するシスチンがシステインまたは別の誘導体に変換され、架橋が切断され、不溶性ケラチンが粉末形態に乾燥されうる可溶形態に変換される。
【0022】
ケラチンは、羊毛、羽毛、動物またはヒトの毛髪、蹄、角、爪、皮膚、鉤爪、嘴を含む任意のケラチン供給源から導出されうる。
【0023】
ある実施形態では、ケラチン分子は、主にβケラチンである単離された画分でありうる。βケラチンは、βプリーツシート構造を形成するタンパク質である。それらは、カメの背甲および腹甲の角質材料、ヘビの表皮および鳥の羽毛の主な構成要素である。いくつかのβケラチン、例えば特に鳥ケラチンは、より高比率のセリン、トレオニン、チロシン、およびシステインアミノ酸により特徴づけられる。βケラチン材料の優れた供給源は、家禽処理の副産物を含む鳥の羽である。
【0024】
本開示の実行においては、洗浄した家禽羽毛等のケラチン供給源が、水溶液またはアルコール溶液において、酸化的亜硫酸分解を含む酸化、酸化後還元、または還元のいずれかにより、分画され、濾過される。濾過後、可溶性濾液または濾過により保持された不溶性部分のいずれかが、本開示の実行において使用されうる。不溶性部分は主にβケラチンであり、供給源タンパク質のβケラチン部分に由来する70、80、90または95%ものタンパク質を含みうる。
【0025】
それからβケラチンが、成型物品を形成するために、材料の塑性流動に対して必要とされる圧力および温度で圧縮成型される。
【0026】
ケラチンは過去には、熱、圧縮および押出を使用するもの等の従来の工業用ポリマープロセスを用いて処理可能であると知られていない。
【0027】
熱および圧縮を適用することにより、ケラチンタンパク質粒子の融合を達成することが可能であることが確定されている。さらに、融合した材料はこれらの条件下で塑性流動を達成でき、したがって従来の工業用方法を用いて処理可能でありうる。
【0028】
ケラチンの単純な圧縮から有用な材料が生成されうるが、これらの材料は、実質的な形状の変化または粒子の融合を同時に容易に受けない。望ましい塑性流動性およびケラチンの一つの材料への融合を達成するためには、ケラチンが圧力下で相転移するのを可能にするために適正な量の水を加えながら、その同じ条件下でのケラチンの融合を妨げるほど湿潤しすぎないことが必要である。水対ケラチンの望ましい比は、1対4である。水対ケラチンの比率は、ケラチン供給源およびケラチン画分に部分的に依存する。例えば羊毛は、マトリックス中により低濃度の疎水性タンパク質を有し、したがってヒト毛髪ケラチンよりも実質的に高いガラス転移温度を有し、ヒト毛髪で144℃および羊毛で174℃と報告される(Wortmann等,Biopolymers 2006 Apr5;81(5):371−5)。ガラス転移は水濃度にも依存する。Katoh等、(Biomaterials,2004(25)2265−2272)は、脱水羊毛S−スルホケラチンにおいて転移がないこと、および水含量が増加するとともに減少する転移温度を発見した。本明細書に記載の実施例も、水和ケラチンに圧力を適用することにより、ケラチンのガラス転移が周囲温度で達成されうることを実証する。
【0029】
好ましい実施形態の実行においては、乾燥ケラチンタンパク質粒子に水が加えられ、水がケラチンタンパク質に均一に分配されるように平衡化させられる。タンパク質分子の再編成を促進するために、適正な量の水が必要である。多すぎる水はタンパク質分子の融合を妨げ、結果として得られる材料の物理的性質が劣る。使用されるケラチンタンパク質および製造される物品に応じて、約10%〜約50%w/wの濃度に水が加えられうる。前述のように、羊毛と比べてヒト毛髪ケラチンにはより少ない水が加えられる必要があり、αケラチンまたはインタクトな中間径フィラメントタンパク質にはさらに少ない水が加えられる。
【0030】
ケラチンタンパク質粉末が、必要に応じて約3MPa〜約700MPaの圧力に圧縮される。ケラチンの融合および塑性流動を達成するために、この圧力が必要とされる。3MPa未満の圧力ではタンパク質粒子が合体せず、結果として得られる材料の物理的性質が劣る。
【0031】
圧縮下でケラチンタンパク質を加熱することにより、タンパク質が融合しまた熱可塑性ポリマーと同様の様式で流動する能力が強化されることにより望ましい物理的形態を達成する。圧縮下で約40℃〜約175℃に加熱することにより、ケラチンと水の組み合わせがそのガラス転移温度を超えて高められ、その結果塑性流動が増進される。正確な加熱温度は、圧縮下のケラチンの正確な性質に依存する。S−スルホン化ケラチン中間径フィラメントタンパク質は、頑強なバイオポリマー材料を達成するために圧縮下で70℃に加熱される。
【0032】
本開示の実行をいかなる特定の理論にも制限するものでないが、圧縮プロセスの間にケラチンタンパク質が組織化または整列される結果、頑強な物理的性質が達成されると考えられる。これを達成するために、ケラチンは高分子量であり、加水分解されずまたは低分子量でないのが好ましい。それらはインタクトなタンパク質であるのが好ましい。
【0033】
ある実施形態においては、実質的にインタクトな中間径フィラメントタンパク質が使用される。これらのタンパク質は、高秩序および繊維構造で知られる。その結果、繊維状中間径フィラメントタンパク質は、圧縮プロセスの間にある程度の秩序を達成し、製造物品のための頑強な材料がもたらされうる。高硫黄タンパク質および高グリシン高チロシンタンパク質等の他のタンパク質画分も、圧縮を経ていくつかの物品に適した材料を作製する。
【0034】
圧縮前にケラチンに加えられた水は、圧縮プロセスの間に除去される。適切な脱水を達成することは、結果として得られる材料の適切な湿潤強度を達成するために重要である。脱水はケラチンタンパク質の相互作用の増進を可能にし、中間径フィラメントは繊維状タンパク質鎖間の複数の極性および無極性相互作用を経る。タンパク質分子間の密接相互作用の複合効果が、結果として得られる材料の水の浸透に抵抗する。
【0035】
湿潤時に物理的強度を維持することは、バイオポリマー材料の望ましい特徴である。これを達成する一つの方法は、酸性形態のケラチンまたは等電点のケラチンを用いて、ケラチンタンパク質の極性を減少させることである。酸性形態のs−スルホン化ケラチンの使用により、より高度のイオン基またはスルホン酸塩を伴うケラチンを使用するのと比較して、溶解性が実質的に減少した材料が作製される。亜硫酸分解の結果生成される酸性形態のS−スルホン化ケラチン、および酸化の結果生成される酸性形態の酸化ケラチン、またはランチオニン化ケラチンが圧縮されて、良好な物理的強度のバイオポリマー材料が生成されうる。
【0036】
圧縮成型により生成された材料において、湿潤時の望ましい物理的性質が達成される。材料は、長期間水中で周囲温度または高温で維持され、寸法安定性を維持しうる。水中で維持することによってある程度の剛性の減少が生じるが、バイオポリマー用途における材料の有用性を減少させるほどではない。
【0037】
塩形態の酸化またはs−スルホン化ケラチン等のケラチンの極性形態が圧縮後に処理されて、酸性形態が作製されうる。鉱酸または有機酸等の酸により処理が達成されうる。ケラチン材料のジスフィルド架橋を再形成して湿潤強度をさらに増進する追加的利点があるチオール酸によっても、処理が達成されうる。
【0038】
湿潤時に物理的強度を維持する別の方法は、還元形態またはジスルフィド結合形態のケラチンを使用することである。圧縮を用いた処理時に、これらのケラチンが成型されて湿潤時に望ましい物理的性質を有する頑強な材料を形成しうる。
【0039】
タンパク質架橋において一般的に用いられるもの等の追加的な架橋剤による材料の処理により、物理的性質がさらに増進されうる。これらにはアルデヒド、エポキシド、無水物などが含まれる。シランまたはシロキシドポリマーがケラチンタンパク質に共有結合されたエポキシドまたはビニル末端ポリマーを含むシラン架橋剤により、架橋されたケラチンポリマーまたはエラストマーが調製されてもよい。
【0040】
このようにケラチンタンパク質は、処理された粉末が圧縮されるように圧縮前に、または結果として得られた完成形の材料が処理されるように圧縮後に、架橋剤で処理されうる。これも当然のことながら、ある実施形態では、成型物品は最終的な機能的形状になくてもよく、切断、粉砕、または研磨により成型材料がさらに成形されうる。
【0041】
望ましい可撓性材料を達成するために、圧縮前の混合物への可塑剤の包含により、バイオポリマー材料の剛性が減少されうる。可塑剤は、グリセロール、ポリエチレングリコールまたは類似のポリオールを含む任意の一般的な可塑剤から選択されうる。圧縮前に4対1のケラチン対可塑剤溶液比で1〜5%グリセロールの水溶液によりs−スルホン化ケラチンタンパク質粉末を水和することにより、可撓性バイオポリマー材料の調製が達成される。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
乾燥粉末としての酸性化S−スルホン化ケラチン中間径フィラメントタンパク質を、4:1の質量比で水と合わせた。混合物を、12時間周囲条件下で平衡化させた。平衡後、混合物を直径38mmの円筒状型へ移し、20分の時間25MPaの圧力をかけた。型からの除去時には、タンパク質粉末は透明な琥珀色の外観の単一のタンパク質ブロックに融合していた。それからブロックを、任意の所望の形状に機械加工することができた。ブロックを2時間沸騰水に浸漬したが、外観または寸法の観察可能な変化は生じなかった。ブロックをさらに2週間周囲温度で水に浸漬したが、外観または寸法の観察可能な変化は生じなかった。いずれの場合にも、ブロックはより可撓性になった。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同一の方法でタンパク質を調製および成型したが、圧縮に使用した型およびタンパク質、水の混合物を70℃に予め加熱した。
【0044】
(実施例3)
乾燥粉末としての酸性化S−スルホン化ケラチン中間径フィラメントタンパク質を、4:1の比率で可塑剤溶液(水中20%w/wグリセロール)と合わせた。混合物を、12時間周囲条件下で平衡化させた。平衡後に混合物を実施例1に記載のように成型した。結果として得られたブロックは、実施例1で調製したブロックと比較してより剛性でなく、より容易に所望の形状に機械加工できた。
【0045】
(実施例4)
酸性化S−スルホン化ケラチン中間径フィラメントタンパク質を、チオグリコール酸アンモニウム(0.25M、pH7.4の0.1Mリン酸カリウム緩衝液)で1時間処理し、水で十分に洗浄し、凍結乾燥した。結果として得られた材料を粉末に粉砕してから4:1の比率で水と合わせた。混合物を、12時間周囲条件下で平衡化させた。平衡後に、混合物を実施例1に記載のように成型した。
【0046】
(実施例5)
実施例1で生成したブロックを、周囲温度で30分間グルタルアルデヒド(5%w/w)の水溶液において架橋した。乾燥後、結果として得られたブロックは実施例1で生成したものよりも高い剛性を有した。
【0047】
(実施例6)
酸化ケラチンを、4:1の比率で水と合わせる。混合物を、12時間周囲条件下で平衡化させる。平衡後に、混合物を実施例1に記載のように成型する。
【0048】
(実施例7)
ランチオニン化ケラチンを、4:1の比率で水と合わせる。混合物を、12時間周囲条件下で平衡化させる。平衡後に、混合物を実施例1に記載のように成型する。
【0049】
本発明の具体的実施形態および本発明の方法ステップが、好ましい実施形態に関して本明細書に記載されているが、特に開示されていないが従来技術において公知のさらなる代替物が、本開示の範囲内であることが企図される。したがって、当業者には当然のことながら、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法のステップまたは一連のステップにおいて材料、デバイスおよび/または方法に変形が適用されうる。当業者に明らかなこのような全ての類似の代用品および変更態様は、添付の請求の範囲に記載の本発明の精神、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インタクトなケラチンタンパク質を含む成型製造物品であり、前記ケラチンがシステインアミノ酸を含み、前記システインアミノ酸側鎖の前記硫黄原子が、実質的に酸性形態にありまたは架橋しており;前記インタクトなケラチンの繊維が、重量対重量ベースで4%未満の含水量を含む、物品。
【請求項2】
前記システインアミノ酸側鎖の前記硫黄原子が、少なくとも部分的に酸化される、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記架橋が、ジスフィルド架橋である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
前記架橋が、ランチオニン化される、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記ケラチンタンパク質が、架橋剤をさらに含む、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記ケラチンタンパク質が、可塑剤をさらに含む、請求項1に記載の物品。
【請求項7】
前記ケラチンタンパク質が、グリセロールをさらに含む、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
ボトル、補綴移植片、または創傷被覆材としてさらに定義される、請求項1に記載の物品。
【請求項9】
前記ケラチンが、実質的にインタクトな中間径フィラメントタンパク質である、請求項1に記載の物品。
【請求項10】
前記ケラチンが、実質的にインタクトなαケラチンである、請求項1に記載の物品。
【請求項11】
前記ケラチンの大部分が、高硫黄タンパク質である、請求項1に記載の物品。
【請求項12】
前記ケラチンの大部分が、高グリシン、高チロシンタンパク質である、請求項1に記載の物品。
【請求項13】
前記成型物品が、前記成型プロセスの後に機械加工によりさらに成形される、請求項1に記載の成型物品。
【請求項14】
βケラチン供給源に由来する約70〜約95%のケラチンタンパク質を含む、成型製造物品。
【請求項15】
前記ケラチン供給源が、羽毛、嘴、鉤爪、もしくはヒトまたは動物の毛髪または爪である、請求項13に記載の成型物品。
【請求項16】
前記供給源が、羽毛である、請求項13に記載の成型物品。
【請求項17】
前記供給源が、羊毛である、請求項13に記載の成型物品。
【請求項18】
製造物品を生成するためのプロセスであり、
ケラチンタンパク質調製物に、前記ケラチンタンパク質調製物の前記ガラス転移状態に達するのに十分な圧力および任意に熱を、適用するステップ
を含む、プロセス。
【請求項19】
成型物品を生成するために、前記ケラチンタンパク質調製物を成型に閉じ込めるステップを含む、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記ケラチンタンパク質調製物を押出するステップを含む、請求項18に記載のプロセス。
【請求項21】
前記押出製品を成形するステップをさらに含む、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記ケラチンタンパク質調製物が、前記圧力の適用前に約4%w/w〜約35%w/wの水を含む、請求項18に記載のプロセス。
【請求項23】
前記ケラチンタンパク質調製物が、約3MPa〜約700MPaの圧力にさらされる、請求項18に記載のプロセス。
【請求項24】
前記ケラチンタンパク質調製物が、約50℃〜約170℃の温度にさらされる、請求項18に記載のプロセス。
【請求項25】
前記ケラチンタンパク質調製物が、実質的にインタクトなタンパク質である、請求項18に記載のプロセス。
【請求項26】
前記ケラチンタンパク質調製物が、実質的に単一のタンパク質画分である、請求項18に記載のプロセス。
【請求項27】
前記ケラチンタンパク質調製物が、βケラチンに実質的に由来する、請求項18に記載のプロセス。
【請求項28】
前記ケラチンタンパク質調製物が、実質的に中間径フィラメントタンパク質である、請求項18に記載のプロセス。
【請求項29】
前記ケラチンタンパク質調製物が、実質的に高硫黄タンパク質である、請求項18に記載のプロセス。
【請求項30】
前記ケラチンタンパク質調製物が、実質的に高グリシン、高チロシンタンパク質である、請求項18に記載のプロセス。
【請求項31】
前記ケラチンタンパク質調製物が、実質的にスルホン化される、請求項18に記載のプロセス。
【請求項32】
前記ケラチンタンパク質調製物が、実質的に酸化される、請求項18に記載のプロセス。
【請求項33】
前記ケラチンタンパク質調製物が、実質的に還元される、請求項18に記載のプロセス。
【請求項34】
前記ケラチンタンパク質調製物が、圧縮前に架橋剤または酸で処理される、請求項18に記載のプロセス。
【請求項35】
前記ケラチンタンパク質調製物が、圧縮後に架橋剤または酸で処理される、請求項18に記載のプロセス。
【請求項36】
前記ケラチンタンパク質調製物が、可塑化される、請求項18に記載のプロセス。


【公表番号】特表2012−526845(P2012−526845A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511014(P2012−511014)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/034723
【国際公開番号】WO2010/132673
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(511259751)ケラプラスト テクノロジーズ, リミテッド (2)
【Fターム(参考)】