説明

バイオマスの水熱分解反応システム及びそれを用いた有機原料の製造システム

【課題】バイオマス原料からセルロース主体の成分を分離することができるバイオマスの水熱分解反応システムと、それを用いた効率的な糖液の製造を行うと共に、該糖液を基点として、各種有機原料を効率よく製造することができる有機原料の製造システム及び方法を提供する。
【解決手段】バイオマス原料11を供給するバイオマス供給部31と、加圧熱水15を供給する加圧熱水供給部と、バイオマス固形分17を排出するバイオマス抜出装置51と、これらに連通する流路を切換える切換え手段と、バイオマス原料11と加圧熱水15とを対向接触させて水熱分解させる水熱分解装置41とを具備してなり、バイオマス原料11をバイオマス供給部31から水熱分解装置41内に充填し、その後加圧熱水15を供給する流路に切り換え、水熱分解を行い、反応終了後、バイオマス抜き出し装置51からバイオマス固形分17を排出してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス原料を効率よく水熱分解することができるバイオマスの水熱分解反応システム、それを用いた例えばアルコール類、石油代替品類、又はアミノ酸類等の有機原料を効率よく製造することができるバイオマス原料を用いた有機原料の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、希硫酸、濃硫酸による木材等のバイオマスの糖化処理後、固液分離し、液相を中和処理し、エタノール発酵等の原料として利用するエタノール等の製造技術が実用化されている(特許文献1、特許文献2)。
また、糖を出発原料として、化学工業原料生産(例えば乳酸発酵等)も考えられる。
ここで、バイオマスとは、地球生物圏の物質循環系に組み込まれた生物体又は生物体から派生する有機物の集積をいう(JIS K 3600 1258参照)。
【0003】
ここで、現在アルコール原料として用いられているサトウキビ、トウモロコシ等は本来食用に供されるものであるが、これらの食用資源を長期的、安定的に工業用利用資源とすることは、有効食料品のライフサイクルの観点から、好ましくない。
【0004】
このため、将来的に有用な資源と考えられる草本系バイオマスや木質系バイオマスのようなセルロース系資源を有効活用するのは、重要な課題である。
【0005】
また、セルロース系資源では、セルロースは38〜50%、ヘミセルロース成分が23〜32%と様々で、発酵原料にならないリグニン成分も15〜22%とそれぞれ異なっている。多くの課題を抱えたままの工業化研究のため、原料は固定的に想定されており、原料の汎用性を考慮した生産システムの技術の開示は未だないのが現状である。
【0006】
さらに、元来、澱粉原料に較べて発酵原料に不利な方法で、ごみ問題、地球温暖化防止対応などを目標に考えるのであるから、原料を固定的に考えた生産システムでは意味が薄れる。広く一般の廃棄物に適用できなければならない。酵素糖化法そのものも、効率が悪すぎて、将来課題とされているのが現状である。酸処理による糖化率も、過剰反応による糖の過分解などで、およそ75%(糖化可能成分基準)前後とかなり小さい値となっている。従って、セルロース系資源に対して、エタノール生産収率はおよそ25%に止まっている(非特許文献1、特許文献3)。
【0007】
【特許文献1】特表平9−507386号公報
【特許文献2】特表平11−506934号公報
【特許文献3】特開2005−168335号公報
【非特許文献1】日経バイオビジネス、p.52、2002年9月
【非特許文献2】「バイオマス―生物資源の高度利用」 日本農芸化学会編 朝倉書店発行 1985年9月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1及び2にかかる提案においては、反応に必要な硫酸を常に反応系外から供給する必要があり、製造規模の増大と共に、耐酸性の設備及び多量の硫酸の購入コストが増大すると共に、用いた硫酸の廃棄コスト(例えば石膏法による処理のコスト)及び硫酸回収コストが増大するという、問題がある。
【0009】
前記特許文献3にかかる提案においては、各種セルロース系資源を熱水処理して、酵素法により糖化を行うものであるが、熱水処理する際に、セルロースを糖化する際のリグニン成分等のセルラーゼ阻害物質(非特許文献2)が除去されずにセルロースと混在することとなるので、セルロースの糖化効率が低下する、という問題がある。
【0010】
また、セルロース以外のヘミセルロース成分を含むものであるので、糖化に際しては、セルロース及びヘミセルロース成分に各々適した酵素を用いる必要がある、という問題がある。
【0011】
また得られる糖液もセルロースからは6炭糖液、ヘミセルロース成分からは5炭糖液となり、例えばアルコール発酵においても各々適した酵母が必要になり、6炭糖液と5炭糖液とが混在した状態におけるアルコール発酵効率においてもその向上が求められている。
【0012】
このように、従来の技術では、副反応生成物が酵素糖化阻害を引起し糖収率が減少する現象が起きていたので、酵素糖化阻害物質を除去し、セルロース主体による酵素糖化性を高める水熱分解装置の出現が切望されている。
【0013】
本発明は、前記課題に鑑み、バイオマス原料からセルロース主体の成分を分離することができるバイオマスの水熱分解反応システムと、それを用いた効率的な糖液の製造を行うと共に、該糖液を基点として、各種有機原料(例えばアルコール類、石油代替品類、又はアミノ酸類等)を効率よく製造することができるバイオマス原料を用いた有機原料の製造システム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、バイオマス原料を供給するバイオマス供給部と、加圧熱水を供給する加圧熱水供給部と、バイオマス固形分を排出するバイオマス抜出装置と、これらに連通する流路を切換える切換え手段と、バイオマス原料を加圧熱水と対向接触させつつ水熱分解し、加圧熱水中にリグニン成分及びヘミセルロース成分を移行し、バイオマス固体中からリグニン成分及びヘミセルロース成分を分離してなる水熱分解装置とを具備してなり、バイオマス原料を供給部から反応装置内に充填し、その後加圧熱水を供給する流路に切り換え、水熱分解を行い、反応終了後、バイオマス抜き出し装置からバイオマス固形分を排出してなることを特徴とするバイオマスの水熱分解反応システムにある。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、水熱分解装置を複数有してなり、供給、反応及び抜き出しを連続して行うことを特徴とするバイオマスの水熱分解反応システムにある。
【0016】
第3の発明は、第1の発明において、水熱分解装置を複数有してなり、回転式切り替え手段により、バイオマスの供給、反応及び抜き出しを連続して行うことを特徴とするバイオマスの水熱分解反応システムにある。
【0017】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、前記水熱分解装置の反応温度が180〜240℃であると共に、加圧熱水の状態であることを特徴とするバイオマスの水熱分解反応システムにある。
【0018】
第5の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、供給するバイオマス原料と加圧熱水との重量比は、1:1〜1:10であることを特徴とするバイオマスの水熱分解反応システムにある。
【0019】
第6の発明は、バイオマス原料を前処理する前処理装置と、第1乃至5のいずれか一つの水熱分解反応システムと、前記水熱分解装置から排出される前記バイオマス固形分中のセルロースを酵素処理して6炭糖を含む糖液に酵素分解する第1の酵素分解装置と、前記第1の酵素分解装置で得られた糖液を用いて、発酵処理によりアルコール類、石油代替品類又はアミノ酸類のいずれか一つを製造する発酵装置とを具備することを特徴とするバイオマス原料を用いた有機原料の製造システムにある。
【0020】
第7の発明は、第6の発明において、熱水排出液中のヘミセルロース成分を酵素処理して5炭糖を含む糖液に酵素分解する第2の酵素分解装置と、前記第2の酵素分解装置で得られた糖液を用いて、発酵処理によりアルコール類、石油代替品類又はアミノ酸類のいずれか一つを製造する発酵装置とを具備することを特徴とするバイオマス原料を用いた有機原料の製造システムにある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、対向接触させる水熱分解反応システムを用いることにより、目的成分であるセルロース(酵素糖化により6炭糖液となる)を生成する反応以外の副反応物(リグニン成分、ヘミセルロース成分)を加圧熱水中に移行させることにより、セルロース主体のバイオマス固形分を得ることができる。その結果、6炭糖液を効率よく糖化させて、該糖液を基点として、各種有機原料(例えばアルコール類、石油代替品類、又はアミノ酸類等)を効率よく製造することができる。
【0022】
また、対向接触させることにより、熱水に可溶化され易い成分から順次反応系外へ排出されると共に、バイオマスの投入部から熱水投入部まで温度勾配が生じる為、ヘミセルロース成分の過分解が抑制され、結果的に5炭糖成分を効率よく回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0024】
本発明による実施例に係るバイオマスの水熱分解反応システムについて、図面を参照して説明する。図1は、実施例に係るバイオマスの水熱分解反応システムを示す概念図である。図1に示すように、本実施例に係るバイオマスの水熱分解反応システム40は、バイオマス原料11を供給するバイオマス供給部31と、加圧熱水15を供給する加圧熱水供給部(図示せず)と、バイオマス固形分17を排出するバイオマス抜出装置51と、これらに連通する流路を切換える切換え手段(図示せず)と、バイオマス原料11と加圧熱水15とを対向接触させて水熱分解させる水熱分解装置41とを具備してなり、バイオマス原料11をIの充填工程において水熱分解装置41内に充填し、その後加圧熱水15を供給する流路に切り換え、IIの昇温工程で昇温を行い、IIIの反応工程で水熱分解を行い、反応終了後、IVの冷却工程で冷却して、Vの抜出工程でバイオマス抜出し装置(図示せず)からバイオマス固形分17を排出してなるものである。
【0025】
本実施例では、水熱分解装置41を複数基用いて、それを各工程に順次送り込み、配管流路を順次切り替えるようにすることで、水熱分解反応を完結するようにしている。なお、水熱分解装置41を一基用いて、完全バッチ方式としてもよい。
【0026】
図1中、工程(1)では、バイオマス原料11をバイオマス供給部31から充填するようにしている(I 充填工程)。
【0027】
工程(2)〜(4)では、次に、水熱分解装置41を所定の温度まで水蒸気等の熱媒を用いて昇温させる(II 昇温工程)。
【0028】
工程(5)〜(8)は、加圧熱水15を(8)→(5)にかけて順次接触するように流して(模擬的なカウンターフロー状態を作る。)、水熱分解反応を行い、熱水排出液16として排出するようにしている(III 反応工程)。この際のバイオマス中のセルロースの見かけ上の流れは、図中右から左であり、一方の加圧熱水15の液の見かけ上の流れは、図中左から右であり、バイオマスと加圧熱水とは見かけ上対向接触している。
【0029】
工程(9)では、分解終了後に、冷却水により冷却している(IVの冷却工程)。
そして、工程(10)では、内部からバイオマス固形分17を抜出装置により抜き出すようにしている(V 抜出工程)。
【0030】
図2は、水熱分解装置41の概略図であり、内部には撹拌翼61が設けられていると共に、バイオマス原料11を抜出工程の際に、押圧充填する圧縮ピストン62も設けられている。なお、符号63は熱媒ジャケットである。
【0031】
反応は反応装置に連通する各種流路を切換える切換え手段(図示せず)を制御装置により切り替えることにより、水熱分解装置41内でバイオマス原料11と加圧熱水15とを対向接触させて水熱分解させるようにしている。
【0032】
図3はその配管のレイアウトの一例である。
図3に示すものは、6基の水熱分解装置41を用いて配管を切り替えてなるものであり、左から順に「II 昇温工程」、「III 反応工程」、「IV 冷却工程」、「V 抜出工程」及び「I 充填工程」となっている状態を示している。
このシステムにおいては、配管の切り替えにより、流路を切り替え、順次バイオマスと加圧熱水との分解反応を連続して行うようにしている。
【0033】
本実施例においては、加圧熱水15を水熱分解装置41の下方から供給しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、上方から下降させるようにしてもよい。
これにより、連続して効率的な水熱分解反応を行うことができることとなる。
【0034】
ここで、水熱分解装置41に供給するバイオマスとしては、特に限定されるものではなく、地球生物圏の物質循環系に組み込まれた生物体又は生物体から派生する有機物の集積をいう(JIS K 3600 1258参照)が、本発明では特に木質系の例えば広葉樹、草本系等のリグノセルロース資源や農業系廃棄物、食品廃棄物等を用いるのが好ましい。
また、前記バイオマス原料11としては、粒径は特に限定されるものではないが、5mm以下に粉砕することが好ましい。
本実施例では、バイオマスの供給前において、前処理装置として、例えば粉砕装置を用いて前処理するようにしてもよい。また、洗浄装置により洗浄するようにしてもよい。
なお、バイオマス原料11として、例えば籾殻等の場合には、粉砕処理することなく、そのまま水熱分解装置41に供給することができるものとなる。
【0035】
また、水熱分解装置41における、反応温度は180〜240℃の範囲とするのが好ましい。さらに好ましくは200〜230℃とするのがよい。
これは、180℃未満の低温では、水熱分解速度が小さく、長い分解時間が必要となり、装置の大型化につながり、好ましくないからである。一方240℃を超える温度では、分解速度が過大となり、ヘミセルロース系糖類の過分解が促進され、好ましくないからである。
また、ヘミセルロース成分は約140℃付近から、セルロースは約230℃付近から、リグニン成分は140℃付近から溶解するが、セルロースを固形分側に残し、且つヘミセルロース成分及びリグニン成分が十分な分解速度を持つ180℃〜240℃の範囲とするのがよい。
【0036】
また、反応圧力は本体内部が加圧熱水の状態となる、各温度の水の飽和蒸気圧に更に0.1〜0.5MPaの高い圧力とするのが好ましい。
また、反応時間は20分以下、3分〜10分とするのが好ましい。これはあまり長く反応を行うと過分解物の割合が増大し、好ましくないからである。
【0037】
ここで、本発明では、水熱分解装置41の本体内の加圧熱水15とバイオマス原料11との流動は、バイオマス原料11と加圧熱水15とを対向接触させる、いわゆるカウンターフローで接触するようにすることが好ましい。
【0038】
また、固体と液体との固液比は、液体分が少ないほど回収水及び水熱分解のための加温のスチーム量を減らすことができるので好ましい。
ここで、供給するバイオマス原料と加圧熱水との重量比は、装置構成により適宜異なるが、例えば1:1〜1:10、より好ましくは1:1〜1:5とするのが好ましい。
【0039】
本実施例によれば、原料であるバイオマス原料11と、バイオマス中のリグニン成分及びヘミセルロース成分を除去する加圧熱水15とを水熱分解装置41に別系統で供給するため、固体に対する液体の重量比を小さくすることができ、装置の経済性の向上に寄与することとなる。
【0040】
また、バイオマス抜出装置51内では、加圧状態から常圧状態に変化するので、排出されるバイオマス固形物17は、爆砕されることとなり、繊維が破壊され、後の工程である酵素糖化における糖化効率が向上することとなる。
【0041】
また、図4には、別の形態の回転式反応装置のレイアウトを示す。
図4に示すように、回転式反応装置は反応容器を順次回転させるようにして、反応を容器中で完結するようにしている。すなわち、図4では(1)充填工程、(2)パッケージ工程、(3)流通待ち工程、(4)〜(5)反応工程及び(6)排出工程と各工程を回転式の基台(図示せず)上で執り行うようにしている。
【0042】
図5は回転式反応装置の一例を示す。
この回転式反応装は複数の水熱分解反応容器(以下「反応容器」という)81−1…を下部否回転部82と上部否回転部83との間の回転可動部85において回転可能に設けたものである。なお、図4に対応するように反応容器の符号を同じとしている。
複数の反応容器81は図示しない解放手段により下部否回転部82及び上部否回転部83から解放され、図示しない回転手段により回転する回転軸84により回転可動されて次の反応工程に移行できるようにしている。
なお、図5中、符号86は原料圧縮機、87が水熱分解物排出機を各々図示する。
【0043】
また、本実施例のリボルバー式切り替え手段は、回転する都度にシールを解放して回転させ、その後再度シールを行い、反応をするようにしている。この際のシールは、図6に示すように、反応時の気密性はシール部86により行うようにしている。
【0044】
そして、図7に示すように、反応が終了した際には、上部否回転部83が上昇してシールを解放し、回転軸84により回転され、反応容器81−1から次の反応容器81−2に回転(移動)し、次いで上部否回転部83を降下させてシール部86によりシールするようにしている。
【0045】
このように、回転式の反応容器を複数設けることで連続して効率的な水熱分解を行うことができる。
【実施例2】
【0046】
本発明による実施例に係るバイオマス原料を用いた有機原料であるアルコールの製造システムについて、図面を参照して説明する。図8は、実施例に係るバイオマス原料を用いた有機原料の製造システムを示す概念図である。
図8に示すように、本実施例に係るバイオマス原料を用いたアルコールの製造システム10−1は、バイオマス原料11を例えば粉砕処理する前処理装置12と、前処理したバイオマス粉砕物13を加圧熱水15と対向接触させつつ水熱分解し、加圧熱水15中にリグニン成分及びヘミセルロース成分を移行し、バイオマス固体中からリグニン成分及びヘミセルロース成分を分離してなる図1に示す水熱分解装置41−1Aと、前記水熱分解装置41−1Aから排出されるバイオマス固形分17中のセルロースを酵素処理して6炭糖を含む糖液に酵素(セルラーゼ)18−1で酵素分解する第1の酵素分解装置19−1と、第1の酵素分解装置19−1で得られた第1の糖液(6炭糖)20−1を用いて、発酵処理によりアルコール類(本実施の形態ではエタノール)を製造する第1のアルコール発酵装置21−1と、第1のアルコール発酵液22−1を精製して目的生成物のエタノール23と残渣24−1とに分離処理する第1の精製装置25−1とを具備するものである。
【0047】
本発明によれば、図1に示すような水熱分解装置41において、カウンターフローを採用することにより、液体側の加圧熱水15中にリグニン成分及びヘミセルロース成分を移行させ、固体側のバイオマス固形分17にはセルロースがとどまることとなり、酵素糖化の第1の酵素分解装置19−1により第1の糖液(6炭糖)20−1を得ることとなる。
そして、6炭糖に応じた発酵(最終製品に応じた発酵:本実施例では第1のアルコール発酵装置21−1を用いてエタノール23を発酵により求める)プロセスを構築することができる。
【0048】
本実施例では、発酵処理により求めるものとして、アルコール類のエタノールを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、アルコール類以外の、化成品原料となる石油代替品類又は食品・飼料原料となるアミノ酸類を発酵装置により得ることができる。
【0049】
ここで、糖液を基点とした化成品としては、例えばLPG、自動用燃料、航空機用ジェット燃料、灯油、ディーゼル油、各種重油、燃料ガス、ナフサ、ナフサ分解物であるエチレングリコール、エタノールアミン、アルコールエトキシレート、塩ビポリマー、アルキルアルミニウム、PVA、酢酸ビニルエマルジョン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、MMA樹脂、ナイロン、ポリエステル等を挙げることができる。よって、枯渇燃料である原油由来の化成品の代替品及びその代替品製造原料としてバイオマス由来の糖液を効率的に利用することができる。
【実施例3】
【0050】
本発明による実施例に係るバイオマス原料を用いた有機原料であるアルコール製造システムについて、図面を参照して説明する。
図9は、本実施例に係るバイオマス原料を用いた有機原料のアルコール製造システムを示す概念図である。
図9に示すように、本実施例に係るバイオマス原料を用いたアルコールの製造システム10−2は、図1に示すアルコール製造システム10−1において、水熱分解装置41−1Aから排出される熱水排出液16中に移行されたヘミセルロース成分を酵素処理して5炭糖を含む第2の糖液20−2に酵素分解する第2の酵素分解装置19−2を設けてなるものである。
なお、酵素分解装置、アルコール発酵装置、精製装置は、それぞれ別途2機(第1の酵素分解装置19−1、第2の酵素分解装置19−2、第1のアルコール発酵装置21−1、第2のアルコール発酵装置21−2、第1の精製装置25−1、第2の精製装置25−2)設置している。そして、第1の糖液(6炭糖)20−1、第2の糖液(5炭糖)20−2に応じた酵素分解工程、アルコール発酵工程及び精製工程を行うようにして、エタノール23を得るようにしている。
【0051】
そして、本実施例では、第2の酵素分解装置19−2で得られた第2の糖液(5炭糖)20−2を用いて、発酵処理によりエタノール23を製造することができる。
【0052】
なお、熱水排出液は必ずしも別系統において処理するものではなく、例えば酵素分解装置を以降の工程を共通化したり、アルコール発酵装置以降の工程を共通化したり、あるいは精製装置以降を共通化する等適宜変更を行うことができる。
【0053】
本発明によれば、水熱分解装置41において、カウンターフローを採用することにより、固体側のバイオマス固形分17では、セルロースがとどまることとなり、酵素糖化の第1の酵素分解装置19−1により第1の糖液(6炭糖)20−1を得ると共に、液体側の加圧熱水15では、その加圧熱水に可溶したヘミセルロース成分を熱水排出液16として分離し、別途酵素糖化の第2の酵素分解装置19−2により第2の糖液(5炭糖)20−2を得るので、両者を効率よく分離して各々糖化することが可能となる。そして、6炭糖、5炭糖に応じた発酵(最終製品に応じた発酵:例:エタノール発酵)プロセスを構築することができる。
【0054】
このように、水熱分解装置41におけるカウンターフローを採用することによって6炭糖を得る酵素糖化反応において阻害物質となる副反応成分や加圧熱水に可溶なリグニン成分を加圧熱水15側に移行させるため、セルロース主体のバイオマス固形分17となり、その後の糖化反応における6炭糖の糖化反応収率が向上する。
【0055】
一方、系外から分離除去された熱水排出液16に含まれるヘミセルロース成分は、その後第2の酵素分解装置19−2において糖化され、5炭糖を含む糖液を得ることができる。
そして、6炭糖、5炭糖の各々に適した酵母等を用いることでエタノールを効率的に個別に発酵により求めることができるものとなる。
【0056】
このように、従来の技術では、副反応生成物が、酵素糖化阻害を引起し糖収率が減少する現象が起きていたが、本発明によれば、バイオマス原料からセルロース主体の成分とヘミセルロース成分を加圧熱水に移行させて両者を分離し、各々に適した効率的な糖液(6炭糖液、5炭糖液)の製造を行うと共に、該糖液を基点として、各種有機原料(例えばアルコール類、石油代替品類、又はアミノ酸類等)を効率よく製造することができるバイオマス原料を用いた有機原料の製造システム及び方法を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、本発明によれば、水熱分解装置により、バイオマス原料からセルロース主体の成分を分離し、効率的な糖液の製造を行うと共に、該糖液を基点として、各種有機(例えばアルコール類、石油代替品類、又はアミノ酸類等)を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1に係る水熱分解反応システムの概略図である。
【図2】実施例1に係る水熱分解装置の概略図である。
【図3】実施例1に係る水熱分解反応システムの反応工程概略図である。
【図4】実施例1に係る他の水熱分解反応システムの概略図である。
【図5】実施例1に係る他の水熱分解装置の概略図である。
【図6】実施例1に係る他の水熱分解反応装置のシール構造の概略図である。
【図7】実施例1に係る他の水熱分解反応装置のシール工程の概略図である。
【図8】実施例2に係るアルコール製造システムの概略図である。
【図9】実施例3に係るアルコール製造システムの概略図である。
【符号の説明】
【0059】
11 バイオマス原料
12 前処理装置
13 バイオマス原料
15 加圧熱水
16 熱水排出液
17 バイオマス固形分
18 酵素
19 酵素分解装置
19−1 第1の酵素分解装置
19−2 第2の酵素分解装置
20−1 第1の糖液(6炭糖)
20−2 第2の糖液(5炭糖)
23 エタノール
40 水熱分解反応システム
41 水熱分解装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス原料を供給するバイオマス供給部と、
加圧熱水を供給する加圧熱水供給部と、
バイオマス固形分を排出するバイオマス抜出装置と、
これらに連通する流路を切換える切換え手段と、
バイオマス原料を加圧熱水と対向接触させつつ水熱分解し、加圧熱水中にリグニン成分及びヘミセルロース成分を移行し、バイオマス固体中からリグニン成分及びヘミセルロース成分を分離してなる水熱分解装置とを具備してなり、
バイオマス原料を供給部から反応装置内に充填し、その後加圧熱水を供給する流路に切り換え、水熱分解を行い、
反応終了後、バイオマス抜き出し装置からバイオマス固形分を排出してなることを特徴とするバイオマスの水熱分解反応システム。
【請求項2】
請求項1において、
水熱分解装置を複数有してなり、
供給、反応及び抜き出しを連続して行うことを特徴とするバイオマスの水熱分解反応システム。
【請求項3】
請求項1において、
水熱分解装置を複数有してなり、
回転式切り替え手段により、バイオマスの供給、反応及び抜き出しを連続して行うことを特徴とするバイオマスの水熱分解反応システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
前記水熱分解装置の反応温度が180〜240℃であると共に、加圧熱水の状態であることを特徴とするバイオマスの水熱分解反応システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
供給するバイオマス原料と加圧熱水との重量比は、1:1〜1:10であることを特徴とするバイオマスの水熱分解反応システム。
【請求項6】
バイオマス原料を前処理する前処理装置と、
請求項1乃至5のいずれか一つの水熱分解反応システムと、
前記水熱分解装置から排出される前記バイオマス固形分中のセルロースを酵素処理して6炭糖を含む糖液に酵素分解する第1の酵素分解装置と、
前記第1の酵素分解装置で得られた糖液を用いて、発酵処理によりアルコール類、石油代替品類又はアミノ酸類のいずれか一つを製造する発酵装置とを具備することを特徴とするバイオマス原料を用いた有機原料の製造システム。
【請求項7】
請求項6において、
熱水排出液中のヘミセルロース成分を酵素処理して5炭糖を含む糖液に酵素分解する第2の酵素分解装置と、
前記第2の酵素分解装置で得られた糖液を用いて、発酵処理によりアルコール類、石油代替品類又はアミノ酸類のいずれか一つを製造する発酵装置とを具備することを特徴とするバイオマス原料を用いた有機原料の製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−183806(P2009−183806A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23187(P2008−23187)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「バイオマスエネルギー高効率転換技術開発 バイオマスエネルギー転換要素技術開発 水熱分解法と酵素分解法を組合せた農業残渣等のセルロース系バイオマスの低コスト糖化技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】