説明

バイオマスの燃料への変換のためのプロセス

本発明は、脂質バイオマス燃料原料の可燃性燃料への直接変換のためのプロセスに関する。特に、本発明は、石油由来輸送燃料の代替品として適した輸送燃料への動物油脂の直接変換のためのプロセスを提供する。一実施形態では、本方法は、脂質バイオマスを加水分解して遊離脂肪酸を形成する段階、遊離脂肪酸を触媒によって脱酸素化してn−アルカンを形成する段階、およびn−アルカンの少なくとも一部を、有用な輸送燃料であるべき正確な鎖長、コンホメーション、および比の化合物の混合物に改質する段階を含む。特に、本発明に従って製造された生成物は、n−アルカン、イソアルカン、芳香族、シクロアルカン、およびそれらの組合せからなる群より選択される炭化水素化合物の混合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを燃料に変換するためのプロセスに関する。より具体的には、本発明のプロセスは、脂質バイオマス源の、輸送燃料、特にジェットエンジン燃料、ディーゼルエンジン燃料、およびガソリンエンジン燃料として有用な様々な炭化水素への変換を可能にする。
【背景技術】
【0002】
化石燃料(または石油系燃料)は、エネルギー生産および輸送の基礎を20世紀および21世紀に築いた。増加する人口と新興国家の間での必要性の増加、ならびに、戦争、政治、および自然災害から生じる市場の不安定さにより、この再利用不能な資源に世界的な注目が集まっている。特に、コストの上昇ならびに不足および供給中断の脅威から、近年、石油関連製品に対する代替燃料源の必要性が強調されている。バイオ燃料は、特に代替燃料の中心となっている。
【0003】
バイオ燃料は、一般にバイオマスに由来するあらゆる燃料とみなされる。バイオマスという用語は、多くの場合植物に基づく供給源、例えばトウモロコシ、大豆、亜麻仁、菜種、サトウキビ、およびパーム油などに関して用いられるが、この用語は一般にあらゆる近ごろの生物、または炭素の循環に役割を果たすそれらの代謝副生成物に拡大されている。
【0004】
化石燃料に取って代わるバイオ燃料の製造が開発中であり、高い純エネルギー量(net energy gain)を生じる液体および気体バイオ燃料の効率的な製造における安価な有機物(通常、セルロース、農業廃棄物、および下水廃棄物)の使用が主眼となっている。バイオ燃料中の炭素は近年植物の成長により大気の二酸化炭素から抽出されたものであり、バイオ燃料を燃やしても地球の大気中の二酸化炭素の純増加をもたらさないので、バイオ燃料は、(特に化石燃料よりも)環境に好ましいとみなされる。おそらくより重要なことには、バイオ燃料は再利用可能な燃料源であり、それに由来する潜在的に無限の燃料供給は、長期の燃料価格を安定させる効果を有し得る。
【0005】
バイオ燃料の普及の一つは、家庭での調理および暖房(例えば、薪、炭、および乾燥肥料)における使用である。生物学的に製造されたアルコール類、最も一般的にはメタノールおよびエタノール、そして程度は低いがプロパノールおよびブタノールは、酵素および微生物学的発酵によって生産することができる。例えば、サトウキビから生産されたエタノールは、ブラジルで自動車燃料として広く用いられ、トウモロコシから生産されたエタノールは米国で燃料添加剤として用いられている。ガソリンおよび石油も様々な廃棄物源から生産されている。例えば、廃棄物(植物、食物、紙、プラスチック、塗料、綿、合成繊維、下水スラッジ、動物の部分、および細菌)の熱解重合は、メタンおよび石油から得られるものに類似するその他の化合物の抽出を可能にする。
【0006】
代替燃料源、特にバイオ燃料に対する必要性も、ハイエンドの用途、例えば自動車およびジェット燃料などに拡大している。ほとんど全てのハイエンド用途燃料(例えば、ジェットエンジン燃料、ディーゼルエンジン燃料、およびガソリンエンジン燃料)は、現在石油から作られている。従って、かかる燃料は原油の精製を通じて製造される。精製は、一般に3つの基本的な活動のカテゴリー:分離、品質向上、および変換、を包含する。分離の間、供給原料(例えば、原油)をある物理的特性(一般に沸点)に基づいて2またはそれ以上の成分に分離する。最も一般的な分離方法は、蒸留である。品質を向上させるには、化学反応を用いて望ましくない特性をもたらす不要な化合物を除去することにより製品品質を改良する。例えば、「甘くすること」は、腐食性のメルカプタンおよびその他の有機硫黄化合物の除去に関する。水素化処理(Hydroprocessing)は、水素と触媒を用いて反応性化合物、例えばオレフィン類、硫黄化合物、および窒素化合物を除去する。粘土処理は、燃料流を粘土粒子の床の上を通過させることにより極性化合物を除去する。変換は、通常大きな分子を小さな分子にクラッキングすることにより(例えば、触媒クラッキングおよびハイドロクラッキング)、基本的に供給原料の分子構造を変化させる。
【0007】
図1は、様々な燃料の種類を製造するための最新の完全に統合された精製所の概略配置図を提供する。図1から分かるように、原油は、直留軽および重ガソリン、灯油、およびディーゼルが常圧で分離される蒸留カラムに供給される。大気カラムの底部は真空蒸留されて、流動触媒クラッキング(FCC)またはハイドロクラッキング装置供給用のガス油が得られる。既に、減圧残油は陸上発電または船舶用燃料のための低価の高硫黄燃料油として用いられているかもしれない。しかし、現今競争力を保つためには、精製機はあらゆる原油の樽から可能な限り多くの高価な生成物を収集する必要があり、減圧残油は現在残油変換ユニット、例えば残油クラッキング装置、溶媒抽出ユニット、またはコーカーなどに送ることができる。これらのユニットはさらなる輸送燃料またはガス油を生産し、最小限の残油またはコークスを残す。
【0008】
精製所で製造されるジェット燃料は、全て直留または水素化処理された生成物であってもよいし、また、直留、水素化処理、および/またはハイドロクラッキング生成物のブレンドであってもよい。少量の重ガソリン成分を加えてもよい。低硫黄原油からの直留灯油は、ジェット燃料規格特性の全てに適う。とはいえ、直留灯油は、通常、ジェット燃料として販売される前に、メルカプタン酸化、粘土処理、または水素処理により改良される。精製所は、あらゆる性能要件、規制要件、経済要件、および在庫(inventory)要件に適うように利用可能な流れをブレンドする必要がある。最終ブレンド段階を含む、精製所の運転のあらゆる態様を最適化するための、高性能コンピュータプログラムが開発された。精製機は、最終のジェット燃料生成物の詳細な組成について実際には限定的な制御しかできない。それは、原油供給材料の組成により主に決定され、それは通常利用可能性およびコストの検討材料に基づいて選択される。さらに、変換プロセスで起こる化学反応は、生成物を多くの要求に合わせて製造することを可能にするほど十分に明確ではない。
【0009】
輸送燃料の消費は、特に新興経済国で急速に増大する輸送に対する必要性を踏まえると、世界的に増大し続けている。例えば、米国でのジェット燃料の消費はまさに、1974年に1日あたり3200万ガロンから1999年に1日あたり7000万ガロンに増加した。燃料に対する必要性は明らかに増大しているが、精製所の数はその増大する必要性に追いついていない。米国石油化学・石油精製業者協会(National Petrochemicals and Refiners Association)によれば、米国で建設された最も新しい精製所は1976年に完成した。1999年から2002年までの間、米国での精製設備能力は3パーセントしか上昇していない。さらに、一般市民の認識および環境上の懸念から、新しい精製所を建設することがますます困難になっている。例えば、カリフォルニアエネルギー委員会(California Energy Commission)の報告書には、同国の精製設備能力の20%に相当する10の精製所が1985年から1995年の間に閉鎖されたとしても、新しい精製所がカリフォルニアに建設される可能性は低いと記されている。従って、輸送燃料量の増加に対する必要性があるだけでなく、代替供給源(石油供給の減少および原油市場の変化に対抗するため)ならびに燃料を作成する代替方法に対する必要性も存在する。
【0010】
米国国防総省高等研究計画局(DARPA)先進技術研究室(ATO)は、2006年7月5日に掲載されたその米国一般調達通知書(Broad Agency Announcement)(BAA)06〜43において、その航空機、地上車、および非原子力船に動力を供給する石油への依存を減らすための代替エネルギーおよび燃料効率への取り組みを探るためにバイオ燃料に対する提案要請を始めた。DARPAのBAA06〜43は特に、石油に基づく軍用ジェット燃料(例えば現在の標準的な燃料である、JP−8)の代用物であって、最終的に石油に由来するJP−8に代わる経済的に入手可能な代用物を、農業または水産養殖のいずれかにより生産される石油資源の多い作物(限定されるものではないが植物、藻、真菌、および細菌を含む)から効率的に生産するプロセスを開発する努力を模索した。
【0011】
バイオディーゼルは、ジェット燃料生産の代替供給源として提案されている;しかし、現在のバイオディーゼル代替燃料は、農作物油から抽出されたトリグリセリドのエステル交換により生成される。具体的には、脂肪をアルコールと反応させてアルキルエステル(バイオディーゼル)に変換した後、バイオディーゼルをジェット燃料に変換する。全体的な反応は下の式(1)、
CH(OCOR)CH(OCOR)CH(OCOR)+3ROH+(触媒)→ROCOR+ROCOR+ROCOR+CHOHCHOHCHOH (1)
〔式中、R、R、およびRは、場合により別個の炭化水素鎖を表す〕に与えられる。式(1)から分かるように、1つのトリグリセリド分子は3つのアルコール分子と一緒になり3つのバイオディーゼル分子と1つのグリセロール分子を生じる。従って、エステル交換反応は、トリグリセリドトリエステルを3つの脂肪酸アルキルモノエステルに変換する。このプロセスは、JP−8よりもエネルギー密度が25%低く、所要のJP−8運用管理体制より低い極限で(−47℃)許容されない低温流れ特性を示す、メチルエステル(バイオディーゼル)のブレンドを許容されないほど産出する。例えば、この方法で製造された燃料の40℃での動粘度は、1.9〜6.0センチストークスの範囲内であるが、許容されるジェット燃料の粘度は約1.2センチストークスの範囲内であるべきである。さらにまた、かかる燃料が約0℃の範囲の凝固点を有することは一般的である。さらに、原料コストが、バイオマスからのジェット燃料の製造における主な生産コスト作用因であるため、経済的に入手可能であって好適に入手できる必要な原材料を利用するジェット燃料をバイオマスから製造するためのプロセスがこれまでなかった。
【0012】
同様に、その他の輸送車両、特に自動車用の実行可能な代替燃料源を確立する必要性および要望が増大している。1992年のエネルギー政策法(EP法)に定義されるように、代替燃料には、エタノール、天然ガス、プロパン、水素、バイオディーゼル、電力、メタノール、およびpシリーズ燃料が含まれる。既に指摘したように、バイオ燃料は、これまで事実上手の届かなかった潜在的に無限の燃料供給に相当する。バイオマスを自動車燃料、例えばガソリンまたはディーゼルなど、の供給源として利用する能力は、供給増加によるガソリン価格の低下をもたらす可能性があるだけでなく、原油の需要を減少させ、埋蔵量の減少という懸念を食い止めることができうる。
【0013】
植物油、動物油脂、および藻脂質は、エステル交換、脱酸素化、熱分解、および触媒クラッキングプロセスにより、液体および気体の炭化水素の組合せに変換することができる。これらの処理は全て、過去100年にわたって様々な程度で開発されてきた。これらの燃料原料(fuelstocks)を燃料に変換するために、これらの処理のいくつかの組合せを用いることができ、最適な組合せは、燃料原料と燃料生成物の所望の特性の両方の関数(function)である。本発明は、バイオマスから燃料を製造するためのプロセスを提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、バイオ燃料の製造のためのプロセスを提供する。一態様では、本発明は、バイオマスの燃料への直接変換を提供する。好ましい実施形態では、本発明のプロセスは、脂質バイオマスの輸送燃料、例えばジェットエンジン燃料、ガソリンエンジン燃料、およびディーゼルエンジン燃料への直接変換を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一実施形態では、本発明のプロセスは次の段階:(A)熱加水分解を脂質バイオマスに行って遊離脂肪酸を含む生成物流を形成し、かつ、グリセロールを含む副生成物流を形成する段階;(B)触媒脱酸素化を遊離脂肪酸流に行ってn−アルカンを含む生成物流を形成する段階;ならびに(C)1以上の改質段階をn−アルカン流に行ってn−アルカン、イソアルカン、芳香族、およびシクロアルカンからなる群より選択される炭化水素化合物の混合物を含む生成物流を形成する段階、を含む。好ましくは、段階(C)の後、炭化水素化合物は、輸送燃料として有用な全体的な組成を形成するために必要な組合せおよび比である。
【0016】
本発明の個々のプロセス段階の1以上が熱の適用を必要とし得る。プロセス加熱は、多くのプロセスの中でも特に費用のかかる態様であり得る。しかし、本発明は、プロセス加熱の反応副生成物を利用することができる。例えば、一実施形態では、本発明のプロセスは、加水分解段階からグリセロール流の少なくとも一部を回収し、グリセロールをプロセス熱の少なくとも一部を生成するための燃料として用いることをさらに含む。グリセロールは、トリグリセリド含有脂質の加水分解の不可避な副生成物であるので、このグリセロールは特に費用効率の高い燃料源を形成する。だが、プロセス加熱燃料としてのグリセロールの使用が認識されているのは、本発明によるものだけである。
【0017】
本発明の一実施形態では、熱加水分解段階は、脂質バイオマスを反応カラムの底部に導入すること、反応カラムの上端近くに水を導入すること、および反応器を加熱することを含む。好ましくは、反応器は、反応器中の水が気化して蒸発すること(flashing to steam)を防ぐために十分な圧力下で約220℃〜約300℃の温度に加熱する。
【0018】
本発明のプロセスの触媒脱酸素化段階は、様々な実施形態で実行してよい。例えば、一実施形態では、触媒脱酸素化段階は、気相脱酸素化を含む。もう1つの実施形態では、触媒脱酸素化段階は、炭化水素溶媒中で実行される液相触媒脱酸素化を含む。両方の実施形態において、使用される触媒は、貴金属、例えばパラジウムなどであることが好ましい。脱酸素化はまた、複数の機構によって進行することもできる。一実施形態では、脱酸素化は脱炭酸を含む。もう1つの実施形態では、脱酸素化は脱カルボニル化を含む。
【0019】
液相実施形態では、触媒脱酸素化は、好ましくは、炭化水素溶媒中で実行される。かかる実施形態では、本発明はこの場合も独特の利益を提供する。特に、本発明は、触媒脱酸素化段階で形成されたn−アルカン流の一部を回収できることを実現する。この回収されたn−アルカン流は、次に液相触媒脱酸素化段階の実行される炭化水素溶媒の少なくとも一部として用いることができる。これは、別々の溶媒を導入する必要性を否定し、溶媒を反応温度まで上げ、反応プロセスを遅らせないようにするために、費用のかかる熱を加える必要も否定するという点で有益である。
【0020】
本発明に従う脱酸素化は、特に熱的脱炭酸とは区別され得る。具体的には、特定の実施形態において、触媒脱酸素化は、脱酸素化が熱による作用だけでは実質的に進行しない温度で実行される。さらに、本発明に従う触媒脱酸素化は、特に本発明に従って用いられる反応温度で実行される場合に、熱的脱炭酸では見られない変換率を達成する。
【0021】
本発明のプロセスの改質段階は、多数の別々の反応を含んでよい。例えば、特定の実施形態では、改質は、水素異性化(hydroisomerization)、ハイドロクラッキング(水素化分解)、脱水素環化(dehydrocyclization)、および芳香族化からなる群より選択される1以上の段階を含む。具体的な実施形態では、改質は、優先的に金属機能性成分と、所望により、酸性機能性成分を含む固体触媒の使用を含む。その他の実施形態では、改質は、2以上の異なる触媒の使用を含む。さらに、改質段階の別々の反応は、同じ反応器で実行しても、異なる反応器で実行してもよい。従って、一実施形態では、改質は、第1の反応器で実行される第1の反応と、少なくとも第2の別の反応器で実行される第2の反応を含む。従って、改質は、n−アルカン流を2以上の改質流に分離する段階と、2以上の改質流を別々に第1の反応器および少なくとも第2の反応器に導く段階を含んでよい。さらにその他の実施形態では、改質は、第1の反応器で実行される第1の反応、第2の別の反応器で実行される第2の反応と、少なくとも第3の別の反応器で実行される少なくとも第3の反応を含む。この場合もやはり、n−アルカン流は3以上の反応器に別々に導かれる3以上の改質流に分離されてよい。その他の実施形態では、反応器は、第1の改質生成物流が第1の反応器で形成され、第2の改質生成物流の形成される第2の反応器の中に進むように、一列に整列してよい。
【0022】
本発明は、一般的な供給原料を使用して特定の輸送燃料に到達できることにより特徴付けられる。具体的な実施形態では、これは、n−アルカンを、一般的な輸送燃料を構成する化合物の種類を代表する多様な化合物に改質できることから起こる。正しい組合せおよび比は、改質生成物流が既に化合物の所望の組合せおよび比であるように、改質段階の反応中に達成され得る。しかし、本発明はまた、複数の生成物流が改質プロセスから回収され、それらの流れが合わされて所望の炭化水素化合物の組合せを所望の比で有する最終生成物が形成される実施形態を包含する。具体的な実施形態では、改質生成物流は、ジェットエンジン燃料、ガソリンエンジン燃料、またはディーゼルエンジン燃料として有用な全体的な組成を形成するために必要な組合せおよび比の炭化水素化合物を含む。好ましくは、形成された全体的な組成は、対応する石油由来の輸送燃料と実質的に同一である。さらにまた、本発明のプロセスの段階は別々にかつ順次に実行されることが優先的である。
【0023】
本発明はまた、エネルギー効率の良い方法で所望の燃料に到達できることにより特徴付けられる。従って、特定の実施形態では、本発明のプロセスは、少なくとも約75%の総合エネルギー効率を示す。エネルギー効率は、プロセス反応物質のより低い熱量(lower heating value)とプロセスへの総エネルギー投入量の合計に対する、生産された輸送燃料のより低い熱量(lower heating value)として計算され得る。
【0024】
本発明のプロセスは、脂質バイオマス、例えば動物油脂、植物油、および藻脂質などの変換による、バイオ燃料の経済的に入手可能な供給源を提供する。特に、低コストの動物油脂の燃料原料は、バイオ燃料の主な生産コスト作用因を克服する。本発明に従って製造されたバイオ燃料はまた、特定の種類の燃料に一般に必要とされる規格に準拠する。例えば、本発明に従って製造されたジェット燃料は、オンサイト型燃料の特性決定および反復フィードバックを最大化するための燃焼試験に従う。より具体的には、本発明に従って製造されたジェット燃料は、ジェットエンジン燃料、例えばJP−8などに必要なエネルギー密度および低温流れ特性(すなわちエネルギー密度>44MJ/kg、および低温流れ<−47℃)を提供する。
【0025】
本発明のその他の主要な利益は、脂質バイオマス供給原料によりもたらされる特有の多様性である。具体的な実施形態では、脂質バイオマス供給原料は動物油脂を含み、それは米国において単独でおよそ15億ガロン/年の供給原料を供給する。しかし、この供給原料はより多様化し、本発明はトリグリセリドを含むあらゆるバイオマス源(農業または水産養殖の両方)を使用することができる。脂質バイオマスを燃料供給原料として使用することは、それが一般に、脂質系バイオマスよりも炭水化物系バイオマスの変換に頼るその他のバイオマス燃料源、例えばサトウキビ、トウモロコシ、および同類のものなどに災いをもたらし得る天候に関連する不確実さから独立しているという点でさらに有益である。脂質バイオマス供給原料の利益は、さらに、燃料原料供給の堅調さにあり、動物生産のはるかに大きな地理的多様性は、戦略的な燃料原料の破壊活動に対してより大きな安全をもたらし、天候パターンの変化に対して相対的に非感受性であり、かつ、病害または寄生虫の侵襲に起因する作物の不作に対する感受性がより低い。言い換えれば、この燃料生産プロセスは所与の場所でより安価なバイオマス源を適合させて要求に合わせて製造することができるので、脂質バイオマス価格の地理的変動を克服することができる。従って、燃料が特定の燃料の全ての物理的および化学的要件を満たすと同時に、最適な効率および大規模実現可能性(scalability)も提供する、本発明のプロセスが脂質バイオマス供給原料から輸送燃料を首尾よく生産するために有用であることは明らかである。
【0026】
このようにして本発明を一般用語で説明したが、以下、必ずしも一定の縮尺で描かれていない、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】原油から燃料を製造するための典型的な最新の精製プロセスの模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に従う、脂質バイオマスを輸送燃料に直接変換するための工程を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に従う熱加水分解を受けた後のカノーラ油の遊離脂肪酸変換生成物を示すグラフである。
【図4】C18脂肪酸を燃料に変えるための可能性のある化学経路の概要を図解するフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に従う、ステアリン酸の無触媒の脱酸素化と、触媒による脱酸素化の間の差を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に従う、触媒脱酸素化を受けた後のステアリン酸のn−アルカン変換生成物を示すグラフである。
【図7】本発明のその他の実施形態に従う、触媒脱酸素化を受けた後のステアリン酸の総変換生成物を示すグラフである。
【図8】図7のグラフに示される芳香族ピークを表す生成物のMSグラフである。
【図9】本発明の一実施形態に従って実行されたステアリン酸の脱酸素化の反応生成物のGC/MSクロマトグラムである。
【図10】本発明の一実施形態に従うH中のステアリン酸およびオレイン酸の脱酸素化動態を示すグラフである。
【図11】典型的な異性化/ハイドロクラッキングネットワークの概略図である。
【図12】本発明の一実施形態に従う改質プロセスにおける3時間の反応時間後の反応生成物を示すクロマトグラムである。
【図13】本発明のその他の実施形態に従う、改質プロセスの反応生成物を示すGC−MSクロマトグラムである。
【図14】典型的なレギュラー無鉛ガソリンの分布と比較した、本発明の一改質実施形態に従う1時間の水素バッチ処理後に得たガソリン燃料の炭素数分布を示すグラフである。
【図15】本発明の一実施形態に従う、各プロセス段階を示すプロセスフローである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ここで、本発明は、様々な実施形態を参照することにより、さらに特に添付の図に関して、下文においてより詳細に説明される。これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように、提供される。実際に、本発明は多くの異なる形態に具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではない;むしろ、これらの実施形態は、本開示が適用される法的要件を満たすように提供される。本明細書および添付される特許請求の範囲において用いられる、単数形の「a」、「an」、「the」には、文脈で明らかに他に規定されていない限り、複数の指示対象が含まれる。
【0029】
本発明は、バイオマス供給原料の直接変換によるバイオ燃料の製造のためのプロセスを提供する。本明細書において用いられる用語「バイオ燃料」は、非石油バイオマスに由来し、かつ、輸送燃料として用いるための正確な鎖長、鎖コンホメーション、および化合物比の炭化水素の混合物から構成される、組成を意味すると理解される。本明細書において用いられる「輸送燃料」は、内燃機関の燃料、例えば一般に輸送車両(例えば、自動車、飛行機、列車、および重機)に見出されるものとして有用な組成を意味すると理解され、該組成としては、限定されるものではないが、ジェットエンジン燃料、ディーゼルエンジン燃料、またはガソリンエンジン燃料として分類できる組成が挙げられる。
【0030】
本発明のプロセスは、供給原料の柔軟性、高い処理効率、処理副生成物の効果的利用、および石油由来燃料生成物と実質的に同一のバイオ燃料を送達できることにより特徴付けられる。言い換えれば、バイオ燃料は、石油由来燃料と同じ方法で効果的に機能するために必要な、同じ比の化合物のクラスから形成される。本発明のプロセスにおいて、トリグリセリドは加水分解により遊離脂肪酸(FFA)に変換され、多段階プロセスの第1段階ではさらなるプロセス段階で用いるFFAのみを生じるように、グリセロールの副生成物および未反応の水が分離され得る。次に、FFAは、FFAのアルキル末端(tail)基に相当するn−アルカンを生成する触媒プロセスにおいて脱炭素化/脱酸素化され得る。最後に、得られるアルカン(およびアルケン)の混合物を水素異性化/ハイドロクラッキングして、イソアルカン(すなわち分枝アルカン)とn−アルカンの混合物を生成することができる。この混合物は、さらに異性化/芳香族化させて芳香族、例えばトルエンおよびナフタレンなどを形成するか、または環化させてシクロアルカンを形成することができる。
【0031】
本発明は、特に、高遊離脂肪酸含有の油を、ジェット燃料、ディーゼル、およびガソリンを含む、燃料として有用な炭化水素化合物のブレンドへ直接変換できる。供給原料、例えば農作物(例えば、ダイズ油、カノーラ油、およびパーム油)、水産養殖作物(例えば、藻)、エネルギー作物、動物油脂、および廃グリースからの油は、そのプロセスが様々な程度に開発された、エステル交換、脱酸素化、熱分解、および触媒クラッキングを含む様々な化学機構により、液体および気体の炭化水素の組合せに変換することができる。しかし、有用な燃料、例えばガソリン、ディーゼル、またはジェット燃料を製造するためには、既知の化学的プロセスの中から単に選りすぐることはできない。言い換えれば、かかるプロセスが単に存在しているだけでは、有用な燃料を製造するための全体的なプロセスを導くことができない。むしろ、特定の条件下でプロセスの正確な組合せを正確な順序で用いることが必要であり、本発明のプロセスは、一般的な脂質バイオマス供給原料を得てそれを所望の燃料生成物に(その燃料生成物が炭化水素の特定の組合せから形成されたガソリン、ディーゼル、ジェット燃料、またはその他の可燃性燃料のいずれであっても)変換するために有用なプロセス段階の正確な組合せおよび正確な反応パラメーターを認識できるために、一部分において独創的である。
【0032】
大規模な市場浸透を得るためのあらゆる燃料のための、現在の輸送燃料のインフラ構造には莫大な投資がなされているので、その投資は既存のインフラ構造と両立する必要がある。本発明のプロセスに従って生産されるバイオ燃料は、事実上化学的かつ物理的にそれらの相対する石油由来燃料と同一であり、従って燃料市場へのそれらの導入にを継ぎ目のないものにする。これは、実質的な使用のためにエンジンの変更を必要とし、さらに特殊な取り扱いも必要とし得る現在の代替燃料(例えば、ガソリンの代わりのエタノール)よりも非常に有利である。例えば、エタノールは、エタノールの吸湿性および水を吸収する傾向のために、流通地点まで特殊な担体で輸送される必要がある。本発明に従う再利用可能なバイオマスから燃料を提供することは、エタノール、水素、および同種類の代替燃料に必要であるような、新しい流通ネットワークの確立を必要としない。むしろ、本発明に従って製造された燃料は、既存の流通ネットワークに直接導入され、石油由来燃料と混合することができる。
【0033】
本発明に従って製造されたバイオ燃料はまた、注文に応じて製造され、特に、特定の燃料の種類を製造する際に考慮に入れなければならない上記の要素を考慮に入れて望ましい品質を提供することができる。例えば、ジェット燃料(Jet−A、Jet A−I、およびJP−8)は、直鎖および分枝鎖アルカン、芳香族、およびシクロアルカンの混合物を含む中間蒸留留分である。10〜14の炭素鎖長が典型的である。石油由来ジェット燃料は、およそ20体積%の芳香族を含み、これらの種は排気における特定物質の生成に直接寄与するので、理想的なジェット燃料は芳香族含量が低い。しかし、ジェットエンジンの中のエラストマーシールの故に、シールの縮小(それにより燃料漏れが生じる)を防ぐために燃料中に芳香族が必要である。さらにまた、高いエネルギー密度(重量による)および良好な低温流れ特性がジェット燃料に重要である。
【0034】
ディーゼル燃料は、主にC10−C20炭化水素から構成される。ディーゼル燃料は基本的に、燃料の圧縮自己着火の傾向の尺度である、そのセタン指数により特徴付けられる。通常のヘキサデカン(セタン)はセタン指数100と指定され、分枝アルカンおよび芳香族化合物はそれより低いセタン指数を有する。全天候型ディーゼル燃料に必要とされるように低温流れ特性を改良するため、いくらかの分枝アルカンを導入することによりセタン指数のトレードオフが行われる。石油ディーゼルの典型的なセタン指数は50前後である。
【0035】
ガソリンは、主にC−C12アルカン、イソアルカン、および芳香族から構成される。ガソリンは、燃料の圧縮自己着火に抵抗する傾向の尺度である、オクタン価により特徴付けられる(故に高オクタン価燃料は低いセタン指数を有する)。分枝アルカンおよび芳香族は通常の(直鎖)アルカンよりも高いオクタン価を有する。例えば、イソ−オクタン(2,2,4−トリメチルペンタン)のオクタン価は100であるが、n−オクタンのオクタン価は0である。
【0036】
具体的な実施形態では、ジェット燃料は、優勢なイソアルカン組成物を含むJet−A/JP−8燃料の化学反応速度論に合致するよう製造することができ、それは44kJ/kgより大きいエネルギー密度をもたらし、石油由来JP−8よりも少ない煤煙を生じ、JP−8に関して同等または改良された低温粘度を有する。JP−8の化学反応速度代用物の一例を表1に示す。JP−8の物理的特性に合致するジェット燃料は、同様の組成を有する(すなわちn−アルカン、イソ−アルカン、環式、および芳香族の比が同様である)と予測される。
【表1】

さらに、表2は、一実施形態における、米国の軍用規格に従う必要な性能に合致するかまたはそれを上回るJP−8燃料を提供するための、本発明のプロセスの能力を要約する。
【表2】

【0037】
さらなる実施形態では、本発明に従って製造されたバイオ燃料はまた、全てのジェット燃料特性(例えば、エネルギー密度、燃焼性、低温流動性、低揮発性、および力学的特性、例えば、炭素:水素比および火炎伝播速度など)を満たす望ましい含量の芳香族およびシクロアルカンを含む。燃料の化学力学的特性は非常に重要であり、本発明のプロセスは特に、ジェット燃料成分、例えばn−アルカン、イソアルカン、シクロアルカン、およびナフテンなどの最適な分布を導くことのできる、組織内でのジェットエンジン試験を可能にする。
【0038】
本発明のプロセスは、3つの連続する段階を含む。(1)トリグリセリド(脂質バイオマス供給原料中に存在するものなど)の熱加水分解による遊離脂肪酸の生成;(2)段階(1)のFFAの触媒脱酸素化(例えば、脱炭酸)によるn−アルカンの形成;および(3)段階(2)のn−アルカンの改質による望ましい生成物分布の生成。これらのプロセス段階は、図2に提供されるフローチャートに要約される。
【0039】
段階(1)の、トリグリセリド(TG)の遊離脂肪酸への加水分解変換では、トリグリセリドを含有するバイオマス供給原料を水の存在下で加熱して、脂肪酸鎖とグリセロール主鎖間のトリグリセリド分子の結合を切断する。この段階は一般に、結果としてFFAとグリセロール(GL)の生成物混合物をもたらす。このプロセス段階の全体的な反応は式(2)に示される。
TG+3HO → 3FFA+GL (2)
〔式中、TGはトリグリセリドを表し、FFAは遊離脂肪酸を表す。初期加水分解反応は、広範囲の脂質供給原料の適応を可能にする。
【0040】
段階(2)の、遊離脂肪酸のそれらの対応するアルカンとの触媒脱酸素化では、FFAが触媒の存在下で特異的に反応する。下文により詳細に記載されるように、脱酸素化は、脱炭酸または脱カルボニル化により進行させることができる(とはいえ、脱炭酸が一般に主な反応経路である)。脱炭酸プロセスの全体的な反応は式(3)に提供される。
FFA→n−アルカン+CO (3)
このプロセス段階は炭化水素溶媒中で起こり得、本発明は特に、熱力学的効率を最大化するために、製造されたn−アルカンを溶媒として再利用することができることを特徴とする。気相脱酸素化(すなわち無溶媒)を用いてもよい。触媒脱酸素化反応パラメーターは、部分的脱水素化のさらなる利益が得られるように設計することができる。これは、所望の量の不飽和炭化水素(例えば、アルケン)を形成するために特に有用であり得る。
【0041】
段階(3)では、水素異性化/ハイドロクラッキング(HI/HC)および芳香族化によるなど、n−アルカンが改質を受けて、イソアルカン、n−アルカン、芳香族、およびシクロアルカンの所望の混合物を含むバイオ燃料が生成される。改質は、優先的に触媒を用いる連続流攪拌槽反応器で達成することができる。この段階の全体的な反応は式(4)に提供される。
n−アルカン→イソアルカン+n−アルカン (4)
改質段階を、イソアルカン、n−アルカン、芳香族、およびシクロアルカンの適切な混合物を生成するために必要に応じて調節して、所望の燃料生成物において有用な、必要な物理的、化学的、動力学的、および物質相互作用特性を達成することができる。特定の実施形態では、改質段階を調節して大部分がイソアルカンである(例えば、炭化水素混合物の全重量に基づいて約50重量%より多い、約60重量%より多い、約70重量%より多い、または約75重量%より多い)炭化水素の混合物が生成される。
【0042】
本発明は、特に、脂質を正確な鎖長、正確な鎖コンホメーション、および正確な比の炭化水素化合物の組合せに順次変換して、有用なバイオ燃料、例えばバイオガソリン、バイオディーゼル、またはバイオジェット燃料を提供するために有用な、具体的な段階の同定から生じる。同業者らが油を燃料に変換しようと試みたが、かかる以前の試みは本発明の制御された効率および再現性に到達していない。例えば、本発明に従って別々に脱酸素化と改質を行うことにより、別々の段階で用いられる異なる触媒を最適化することが可能であり、その結果具体的な燃料の種類を形成するために必要な増加した収量のC−C14の範囲のイソアルカンが提供される。さらに、触媒脱酸素化を別の段階で行うことにより、改質されて広範囲のバイオ系輸送燃料(ガソリン、ディーゼル、およびジェット燃料を含む)を製造することのできる、酸素処理を行わない炭化水素流を提供することが可能である。
【0043】
本発明は、反応条件を調節することにより(例えば、反応温度を増大させることおよび水素圧を低下させることなど)、プロセスを最適化させて環構造の形成を支持することができる点でさらに有益である。例えば、特定の実施形態では、バイオマス供給原料の変換から生成されたバイオ燃料に石油JP−8の動力学的パラメーターに合致する正確な割合の芳香族およびナフテンが含まれるように、プロセスパラメーターを制御することができる。そのような最適化されたプロセス段階は式(5)に示される。
n−アルカン→イソアルカン+芳香族+ナフテン(5)
その他の実施形態では、生成されたバイオ燃料に標準的なガソリンの動力学的パラメーターに合致する正確な割合のイソアルカンおよび芳香族、特にCイソアルカンが含まれるように、プロセスパラメーターを制御することができる。そのような最適化されたプロセス段階は下の式(6)に示される。
15−17アルカン→Cイソアルカン+芳香族 (6)
【0044】
本発明のプロセスは、さらに、反応副生成物を利用するためにそれを最適化することができることを特徴とする。例えば、上に言及したように、上記式(3)に従って製造されたn−アルカンは、脱酸素化段階の液相実施形態中の炭化水素溶媒として再利用することができる。さらに、上記式(2)に従って製造されたグリセロールを上記反応の熱源として用いることができる。グリセロールの燃焼は、下の式(7)に従い得る。
(OH)+3.5O→3CO+4HO (7)
【0045】
バイオマス供給原料
本発明に従うプロセスは、バイオマスを出発物質として利用し、バイオマスを可燃性の燃料に直接変換する。本明細書において用いられる用語「バイオマス」とは、生存している生物由来物質および最近生存している生物由来物質、または炭素循環に役割を果たすそれらの代謝副生成物を意味する。本発明において用いられるバイオマスは、好ましくは再利用可能な供給源に由来し、さらに、そのようなものであることから、一般的に認識される化石燃料(例えば、原油、天然ガス、および石炭など)は一般に除外される。かかる化石燃料は、本発明におけるバイオマスとして使用されないことが好ましいが、特定の実施形態では、本発明のプロセスで使用されるバイオマスは、化石燃料またはその誘導体として直接認識される少量の割合の化合物を含んでよい。
【0046】
優先的に、本発明において燃料原料として使用されるバイオマスは、脂質バイオマスを含む。用語「脂質」とは、一般に、比較的不水溶性で、一般に非極性有機溶媒に可溶性の化合物をさす。本明細書において用いられる脂質には、脂肪、蝋、油、ならびに関連化合物および誘導化合物が含まれる。より具体的には、脂質には、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、テルペン、リン脂質、脂肪アルコール、ステロール、脂肪酸、および脂肪酸エステルが含まれる。従って、本発明に従う「脂質バイオマス」には、脂質物質含量を有する任意のバイオマスが含まれる。好ましくは、脂質バイオマスは、その材料の含量の大部分、または含量の全てが脂質からなる物質を含む。
【0047】
好ましい実施形態では、本発明で使用される脂質バイオマスは、植物油、動物油脂、および藻脂質からなる群より選択される。とはいえ、一般に、加水分解反応を経て遊離脂肪酸の形成に供されるあらゆる材料が本発明のプロセスで使用され得る。さらに、トリグリセリドの供給源を提供するあらゆる材料を本発明で使用することができる。
【0048】
ダイズ油は豊かな含油作物として多くの注目を集めているが、350を超える含油作物がこれまでに確認され、いずれのそのような植物油、種油、または堅果油も本発明に使用することができる。これらの既存の油料作物に加えて、本発明において有用なその他の脂質バイオマス源には、藻およびその他の水産養殖作物、ならびに戦略的作物(例えばクフェアなど)、細菌作物、および動物油脂が含まれる。このように有用な供給材料が広範囲であることは、あらゆる所与の時間または場所で最も安価で最も容易に入手可能な供給原料の使用を可能にするので有益である。従って、本発明のプロセスは、多様な場所で利用することができ、特定の供給原料の即時の利用可能性に制限されない。
【0049】
本発明に従う使用に対して特に有利なものは、一般に飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸の組合せ、特にC16およびC18カルボン酸を含む動物油脂であり、かかる動物油脂は植物油よりも多くの利点を有する。特に、動物油脂は一般に植物油より安価である。本発明において使用され得る動物油脂の例としては、牛脂(獣脂)、豚脂(ラード)、七面鳥脂、および鶏脂、ならびに任意のその他の植物油または脂質が挙げられる。C16およびC18カルボン酸の大部分を提供する脂質バイオマス源は、ジェット燃料の製造において特に有用であり、それは本発明のプロセスはかかる出発物質を一般にジェット燃料およびその他の灯油型燃料中に存在するC10−14化合物に変換するために特に有用であるためである。同様に、C15−17カルボン酸の大部分を提供するバイオマス源は、ガソリンの製造において特に有用であり、それは本発明のプロセスが、具体的な実施形態において、かかる出発物質を例えば一般にガソリン中に存在するものなどのCの範囲の化合物の大部分に変換するために特に有用であるためである。さらに、本発明のプロセスは廃植物油を燃料原料として有利に活用することができる。
【0050】
また、本発明において脂質バイオマスを燃料原料として使用することにより多様な供給源が可能となり、それにより不足が制限され、地域の影響(天候など)が減少する。さらに、本プロセスは実際に廃棄物を再利用する働きをし得る。本プロセスは未使用材料の使用に限定されない。むしろ、脂質バイオマスは再利用された脂肪、油、およびさらにその他の脂質を含んでよい。例えば、レストランおよびファストフードチェーンで使用される料理用の脂肪およびグリースが、本発明の燃料原料の供給源であってよい。なおさらに、本発明は、大規模食肉生産設備からの動物油脂の処分の代替案を提供する。例えば、タイソン・フーズ株式会社は2006年に同社が1年に23億ポンドの動物油脂を生成すると報告した。さらに、植物油は1年におよそ50億ガロンの量で利用可能である。従って、本発明において燃料原料として用いられる脂質バイオマスは、多様な形態および、本発明の直接変換法によってバイオ燃料を一定供給することのできる供給源をとり得る。
【0051】
油脂の脂肪酸組成は供給源によって決まる。これらは天然産物であるので、幾つかの一般的な油脂の脂肪酸含量を提供する下の表3に示されるように、遭遇する典型的な組成には幅がある。
【表3】

本発明は、それが異なる脂肪酸含量にかかわらず表3に示されるいかなる供給原料の種類の使用にも適合する点で特に有益である。
【0052】
特定の実施形態では、脂質バイオマスには、下に記載される燃料生産プロセスに入る前に1以上のプロセス段階を経験することが有用である。かかるさらなるプロセス段階は、本発明のプロセスに直接含まれてよい(すなわち、本明細書に記載される連続するプロセスの加水分解段階のすぐ上流に挿入することができる)。その他の実施形態では、バイオマスのさらなる加工は、本発明のプロセスとは別々に行われてよい。
【0053】
一実施形態では、特に脂質バイオマスが植物油、例えばダイズ油などを含む場合に、脂質バイオマスをデガミング(degum)することが有用である。植物油中の粘液物質は主にホスファチドの混合物からなり、その量および組成は油料種子の種類および油を得る方法によって決まる。ホスファチドの大部分は水和化(hydratization)によってそれらのミセル溶液から分離することができ、レシチンを得るために用いられる。このプロセスは湿式デガミングと称される。ごく一部のホスファチドは水和化できず(not hydratizable)油の中に残る。これらの「水和化できない(non-hydratizable)ホスファチド」(NHP)の化学的性質は完全に明らかではないが、研究により、それらが50%を超える割合で、ホスファチド酸のカルシウムおよびマグネシウム塩からなることが示されている(Hermann Pardun,Die Pflanzenlecithine [Plant lecithins],Verlag fur chem.Industrie H.Ziolkowsky KG,Augsburg,1988,page 181参照)。従来の技術上のデガミングプロセスの目的は、水和化できないホスファチドを油から可能な最大の程度まで除去することである。
【0054】
デガミングプロセスの例としては、ユニリーバ社の「スーパーデガミングプロセス」および「ユニデガミング」プロセス、Vandemoortele社の「トータルデガミング(「TOP」)プロセス」、Lurgi社の「アルコンプロセス」、ならびにKrupp Maschinentechnik GmbH社の「UFプロセス」が挙げられる。多くの場合、水和化できる(hydratizable)ホスファチドを除去するための伝統的な水性のデガミングは、これらのプロセスに統合されるか、それらの前に行われる。デガミングは、特に単一段階の酸処理(例えば、リン酸またはクエン酸を用いる)および単一段階の熱水処理を含んでよく、その後にデガミング超遠心機(degumming super centrifuge)での水和ガムの連続除去が続く。例えば、引用により本明細書に組み込まれる米国特許第4,698,185号を参照のこと。デガミングはまた、引用により本明細書に組み込まれる米国特許第6,001,640号に記載されるものなどの酵素プロセスにより進行してもよい。
【0055】
脂質バイオマスの加水分解
本発明のプロセスで使用される脂質バイオマスは、最初に加水分解変換プロセスに供されて遊離脂肪酸を形成する。本発明で用いられる脂質バイオマス、および特に動物油脂は、純度および質の点で広範囲にわたって変動し得る。さらにまた、多くの脂肪源は水を含み、それらは脂肪酸、脂肪アルコール、および脂肪酸エステルの混合物である。本発明のプロセスは、脂質バイオマス燃料原料の多様性を考慮に入れ、第1段階の油脂スプリッティングプロセスを用いることによりこの脂肪組成および質の変化に対処して高品質の脂肪酸を生成し、その高品質の脂肪酸は次に下流の段階への主な供給を構成する。この第1段階の油脂スプリッティングプロセスは、本発明の全体的なプロセスを駆動させる燃料源を同時に生成するという付加的利益を有する。下にさらに説明されるように、加水分解段階で生成されるグリセロールは、回収されて可燃性熱源として使用され得る。図2のフローチャートは、この段階からのグリセロールの除去およびグリセロールバーナーへの移動を図解し、グリセロールバーナーは本発明の反応を少なくとも部分的に駆動させるために必要な熱を供給する。
【0056】
油脂スプリッティングのプロセスは、当分野で既に記載され、脂肪酸工業で十分確立されている。その全文が本明細書に組み込まれる、Sonntag,N.O.V.,「Fat Splitting」,J.AOCS 56:A729−A732(1979)を参照のこと。油脂スプリッティグプロセスの例としては、次のものが挙げられる。a)様々な試薬の存在下での脂肪の常圧沸騰を含む、1898年に開発されたトイッチェル法;b)触媒、例えばZnOなどを用いる中圧オートクレーブスプリッティング;c)チューブ型反応器中で油と相互作用する過熱蒸気を用いる、触媒の存在下での低圧スプリッティング;d)連続する高圧無触媒向流スプリッティング;およびe)酵素脂肪スプリッティング。より最近には、研究により、250℃の範囲の温度および5〜20MPaの圧力で未臨界状態の水およびおよそ20分の反応時間を用いる水加水分解による油脂スプリッティングが実証された。引用により本明細書に組み込まれる、Kusdiana,D.,and Saka,S.「Catalytic effect of metal reactor in transesterification of vegetable oil」,J.AOCS 81:103−104(2004)を参照のこと。この臨界前のプロセスは、バッチ様式または連続する反応器のどちらで実行してもよいが、可逆性の加水分解反応を完了させるためには大量の過剰水が一般に必要である。油、例えば菜種油などには、水対油のモル比は最大約217:1であり得る(体積比はおよそ4:1)。水相および脂肪酸は液体形態で行われ、分離することができる。
【0057】
特定の実施形態では、反応塔またはカラムを用いる、連続する高圧無触媒向流スプリッティングプロセスが使用される。この油脂スプリッティングプロセスは、特に高温高圧で遊離グリセロールを水流で連続除去することを特徴とする。このプロセスは、油脂から飽和脂肪酸を大規模生産するために特に効率的であり、かつ安価である。
【0058】
向流スプリッティングは、過剰量の水を使用することなく完全な反応に達することができる点で特に有利である。この結果を達成するためには、反応器中の滞留時間を反応温度で約1時間〜約4時間、約1.5時間〜約3.5時間、約1.5時間〜約3時間、約1.5〜約2.5時間、または約2時間に維持することが有益である。滞留時間の観点から、好ましい温度尺度の下端の反応温度を使用することができる。例えば、特定の実施形態では、向流スプリッティングは、約240℃〜約260℃、約245℃〜約255℃、または約250℃の温度で実行してよい。
【0059】
その他の実施形態では、準バッチ(quasi-batch)様式で加水分解を行うことが可能である。かかる実施形態は、反応器中の滞留時間を大いに減少させることができる点で有益である。好ましくは、かかる実施形態は好ましい温度尺度の上端の反応温度で行われる。例えば、特定の実施形態では、準バッチ加水分解は、約270℃〜約290℃、約275℃〜約285℃、または約280℃の温度で実行してよい。かかる条件下で、反応時間は約1時間未満、約45分未満、または約30分未満減らすことができる。好ましくは、反応時間は、約5分〜約30分、約10分〜約20分、または約10分〜約15分である。
【0060】
準バッチ処理を用いる場合、向流プロセスに必要とされるものより多少大きい水対油の体積比を使用することが有用である。準バッチ処理では、その比は約3:1〜1.5:1、約2.5:1〜約2:1、または約2.3:1のv/v(水:油)であることが有用である。しかし、向流プロセスでは、水対油の比は、好ましくは、約1.5:1未満、より好ましくは約1.25:1未満、さらにより好ましくは約1:1以下のv/v(水:油)である。
【0061】
また、本発明によれば、上記の方法を組み合わせて最適化されたプロセスを提供することも可能である。例えば、反応は、準バッチ処理でより一般に用いられる温度(例えば、約280℃)で、連続する向流プロセスにおいて行われてよい。そのような実施形態では、滞留時間がおよそ約10分〜約20分、好ましくは、約10分〜約30分の連続加工を提供することが可能である。
【0062】
一実施形態では、脂肪は高圧供給ポンプを備えた反応カラムの底から散布リング(sparge ring)により導入される。水はカラムの上端近くに導入され、水の質量流速は、好ましくはカラムの底に導入される脂肪の質量流速の約25%〜約75%の範囲である。より好ましくは、水の流速は脂肪の質量流速の約30%〜約60%または約40%〜約50%である。実際の質量流速は、脂肪の滞留時間がおよそ2〜3時間となるような反応器の体積により決定され得る。
【0063】
加水分解が連続するプロセス(例えば、向流)で進行する場合、反応器は、油および水/グリセリン体積間の界面レベルを検知するためのセンサーを含むことが有益である。例えば、センサーは界面に位置し、界面レベルが動いた場合のインピーダンスの変化を感知するために有用な電気インピーダンスプローブであってよく、そのため、プローブは油/脂肪よりもむしろ水中にある(逆もまた同様)。界面レベルが上昇してプローブが水中にあれば、インピーダンスはずっと低い値に下がる傾向があり、これにより、システムがFFAを保持しながら一層多くの水/グリセリン混合物を反応器から排出させる必要があるという、制御シグナルがもたらされる。これは、特定の実施形態では、2つの圧力解放弁(1つはFFA用であり、もう1つは水/グリセリン混合物用である)により達成され得る。これらの圧力解放弁は、油/脂肪と水の反応物質を連続流入(ポンプ輸送)の間、反応器中の所望の界面レベルを維持するような方法で、界面シグナルセンサーにより制御される連続するオン/オフ弁で提供され得る。これにより、長期間にわたって質量流速の正確な直接制御を必要とせずに、質量流速比の直接制御を維持することが可能になる。
【0064】
脂肪はカラムの底部のホットなグリセロール−水収集区画を通って上昇し、油−水界面を通過して加水分解の起こる油層である連続相に入る。高圧蒸気を直接注入することにより瞬時に反応混合物が所望の温度に加熱される。特定の実施形態では、加水分解は約220℃〜約300℃の温度で行われる。さらなる実施形態では、加水分解は、約230℃〜約290℃、約240℃〜約280℃、または約250℃〜約270℃の温度で行われる。一実施形態では、温度は約260℃まで上昇する。
【0065】
加水分解反応器を加熱することは、少しは有用な方法であり得る。特定の実施形態では、加熱は反応容器の電磁誘導によるものであってよい。かかる実施形態では、反応温度近くに予熱した水を容器の中に注入してよい。具体的な実施形態では、反応容器の中に入るときに蒸気生成を誘導することのできる、加水分解容器の運転圧力よりわずかに高い飽和圧力まで水を予熱することが可能である。具体的な実施形態では、加水分解反応器のプロセス温度を人工的に下げることを避けるため、反応容器に入る供給量の反応生成物も加熱される。例えば、反応物質の供給ライン(特に、加水分解反応器へ入る直前のラインの区画)は、加水分解反応器の絶縁ブランケットの内部を除いて、反応器の外周に巻きついていてよい。
【0066】
反応カラムの圧力は、反応器中の水が急速に気化して蒸気とならないようにするために十分大きいことが好ましい。従って、いずれの所与温度で加水分解が行われている間も、最低圧力は三重点と臨界点との間の水のP−Tのラインを探知する。いずれの所与温度でも、圧力が反応器の制限を超えない限り、圧力はこの最低値より大きくてよい。そのため、加水分解中の反応器の圧力は、水を液相中に維持することができるように蒸気圧よりも大きい圧力で維持されることが好ましい。例えば、反応器の温度が約260℃である場合、水を液体状態に保つために必要とされる圧力はおよそ700PSIA(4.8MPa)である。従って、特定の実施形態では、加水分解中の反応器の圧力は、約0.5MPa〜約20MPa、約1MPa〜約15MPa、約2MPa〜約10MPa、または約4MPa〜約8MPaの範囲に保たれる。
【0067】
本発明のプロセスは、98〜99%の効率で脂肪をスプリットし、脂肪酸の変色はほとんどまたは全くなく、蒸気を効率的に使用する。反応塔の先端から生じる脂肪酸は、脱酸素化プロセスの要件に適うような圧力/温度調節の後、直接に段階2に注入され得る。水とグリセロールの混合物は、反応器の底部から除去することができる。グリセロールを副生成物として生成しうるその他のプロセスがそれを不要な混入物として単に除去するのに対し、本発明のプロセスは、生成されたグリセロールをプロセスの全体的な効率を大いに向上させるために役立つ重要な反応生成物として活用する。生成されたグリセロールの重要性は、下文においてさらに説明される。
【0068】
好ましい実施形態では、脂肪および水の供給量は、スプリッティング塔に注入される前に脱気/脱泡される。酸素の除去は、本発明のプロセスの間の不要な副反応を回避するために特に望ましい。脱泡は、任意の適当な方法に従って行われてよい。例えば、脱泡は反応物質から酸素を除去するために十分な時間、真空を適用することにより達成され得る。脱泡には、液体の全ての層を露出させ、捕捉された気体が表面張力に打ち勝ち液体から抜けることを可能にするように、脱泡する液体を循環させることがさらに含まれてよい。具体的な実施形態、例えば、脂質バイオマスが牛脂などの高度に飽和した物質を含む場合などでは、脱泡は、液体状態を保つためにその物質を予熱した後に行われることが好ましい。脱泡は、加水分解注入ポンプより上流で行われることが好ましい。
【0069】
初期加水分解段階を経て脂質バイオマスを遊離脂肪酸に変換する能力を図3に説明する。一実施形態では、水の存在下で油を約5MPaの圧力で約260℃の温度まで加熱することにより、未使用のカノーラ油がFFAに変換された。FFA変換率は100%であり、有意な変換生成物はオレイン酸(C18)およびパルミチン酸(C16)であった。
【0070】
FFAの触媒脱酸素化
脂質バイオマスの遊離脂肪酸への変換に続いて、FFAは還元プロセスにより直鎖パラフィン(すなわちn−アルカン)に変換される。この段階は、気相中で実行しても(例えば、固定床触媒を使用する)、または液相中で実行してもよい(例えば、触媒スラリー/分散液を用いる攪拌式オートクレーブ反応器を使用する)。
【0071】
還元プロセスは既に行われているが、本発明は、触媒還元プロセスが、本発明のプロセスの最終段階にn−アルカンの一定の流れを提供するために、本発明のプロセスの段階1で生成されたFFAの信頼できる、一貫した脱酸素化をもたらすために必要であることを認識する。従って、本発明に従う還元プロセスは一般にFFAを適切な触媒に接触させることを含む。一実施形態では、FFAは固定床触媒、例えばパラジウム炭素(Pd/C)に通過させることができる。もう1つの実施形態では、FFAは、溶媒を用いる攪拌式オートクレーブ中でPd/Cのスラリーと合してよい。
【0072】
脱酸素化は、一般に酸素の除去をもたらす化学反応に関するとして理解される。本発明において、FFAの脱酸素化は、下の式(8)に示される2つの機構のいずれかに進むことのできる可逆性の反応であり、式中、Rは炭化水素鎖である。
【化1】

Decarboxylation は脱炭酸、Decarbonylationは脱カルボニルを意味する。
【0073】
脱炭酸および脱カルボニル化は、両方ともPd/C触媒で進行するが、脱炭酸が主な反応経路であり、脱炭酸の速度は脱カルボニル化の速度よりも一般に少なくとも1桁早い。脱酸素化反応によるn−アルカンの反応生成物を反応溶媒(下文でより詳細に説明される)として使用し、脱酸素化反応を水素下で行う場合、脱カルボニル化経路は微視的可逆性によって遅くならないので一層有意義である。しかし、注目すべきは、ステアリン酸の脱炭酸は、10% Hatmを含むヘプタデカン溶媒中ではるかに遅くなることである。反応は一定の10% H撒布により反応生成物に向けて推進され、形成されたCOを反応器から取り除く。これは式(9)に図解され、また下文でより詳細に説明される。脱炭酸速度は、このスキームに見られるように平衡限界に起因してヘプタデカン中で遅くなる。COとヘプタデカンの両方が逆の脱カルボニル化反応を最小限に保つ低い濃度に保たれているので、脱カルボニル化経路は溶媒中の変化に影響を受けない。
【化2】

【0074】
本発明によれば、この「段階2」の反応経路は総称的に還元反応または脱酸素化反応と称され得る。両方の用語は、脱炭酸反応と脱カルボニル化反応の両方を包含することを意図する。脱炭酸は(特に好ましい触媒を用いる場合に)主な反応経路であるので、FFAのn−アルカンへの変換に関する考察は脱炭酸反応に関して詳しく説明されうる。しかし、本発明は脱炭酸に限定されると考えられるべきではない。むしろ、脱カルボニル化機構は、特にn−アルカン生成物が反応溶媒として再利用される実施形態において、本発明により完全に包含される。
【0075】
脱炭酸は、高沸点溶媒の存在下で高熱を加えることにより達成することができるが、かかる熱的脱炭酸は、FFAのそれらの対応するn−アルカンへの完全かつ一貫した反応には効果がない。しかし、比較して、本発明に従う触媒脱炭酸は、非常に良好な選択性および100%に迫る変換率を提供する。具体的な実施形態では、触媒脱炭酸による、対応するn−アルカンへの変換率は、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%である。
【0076】
完全な変換を達成する能力は、特に、無触媒脱炭酸に対する触媒脱炭酸の1つの評価の結果を示す図5に示される。具体的には、ステアリン酸は、触媒条件下または非触媒条件下、ドデカンを溶媒として用いる50mLの連続的に攪拌されるオートクレーブ反応器でヘプタデカンに脱炭素化される。両方の試験において、ステアリン酸を、様々な滞留時間で1.5MPaの圧力で300℃に加熱した。第1の試験では、触媒は使用しなかった。第2の試験では、5%Pd/C触媒を使用した。
【0077】
図5に示されるように、上のグラフは、ステアリン酸のヘプタデカンへの変換は低い率で、残っているステアリン酸残量は大きいことを示す。特に、無触媒脱炭酸のグラフは100倍で示されているので、変換グラフは視覚的に有意義である(すなわち、およそ40,000のヘプタデカンの存在量を示す)。対照的に、下のグラフはステアリン酸のヘプタデカンへの変換がほぼ100%であることを示す。触媒された脱炭酸のグラフが1倍で示され、触媒反応におけるヘプタデカンの存在量は4,000,000を上回る(すなわち無触媒反応におけるより100倍大きい変換である)ことに注意されたい。従って、図5は、熱的脱炭酸単独と対照的に、触媒脱炭酸を用いて優れた結果が得られたことを明確に示す。
【0078】
カルボン酸の脱炭酸は、Maierらにより最初に報告され(Chemische Berichte 115:225−229,1982)、それは水素の存在下、担持パラジウムおよびニッケル触媒で気固(異種)触媒作用を用いる。直鎖カルボン酸には、ニッケルよりもパラジウムが好ましい。Maierらにより調査された最も長い直鎖酸はオクタン酸(C)であった。しかし、本発明によれば、それより長い鎖のカルボン酸(例えば、C18化合物、例えばステアリン酸、またはさらに長い炭素化合物)を気相中で首尾よく脱炭酸化することが可能である。かかる気相脱炭酸は、一般に脂質供給原料の蒸発を含む。例えば、ステアリン酸を含む供給原料を用いる場合の一実施形態では、少なくとも約361℃(ステアリン酸の沸点)の温度まで加熱することが必要である。
【0079】
気相触媒脱酸素化は、加水分解段階からのFFAを、触媒チャンバに流体連通している、適した反応容器の中に注入すること、およびFFAを蒸発させるために適した温度まで加熱することにより行うことができる。蒸発したFFAは触媒チャンバの中を移動し、そこで対応するn−アルカンへの変換が約100%で達成される。この生成物は次にn−アルカンの凝縮のための冷却ゾーンの中を進む。特定の実施形態では、FFA蒸発温度まで加熱するより前にこのシステムにHをパージして酸素を除去することが有用であり得る。
【0080】
本発明の一実施形態に従うステアリン酸の気相脱炭酸の結果を図6から図8に示す。具体的には、ステアリン酸を5% Pd/C触媒の存在下で少なくとも361℃の温度まで加熱して気相脱炭酸を達成した。図6に示されるように、望ましい生成物であるn−ヘプタデカンが主な反応生成物として形成された。形成された少量のヘキサデカンおよびペンタデカンは出発物質中に存在する不純物から生じると考えられ、出発物質が本発明の脱炭酸段階でn−アルカンを効果的に形成する能力がさらに示される。
【0081】
もう1つの実施形態では、ステアリン酸をこの場合も5% Pd/C触媒の存在下で少なくとも361℃の温度まで加熱して気相脱炭酸を達成した。図7に示されるように、望ましい生成物であるn−ヘプタデカンがこの場合も形成された。この場合の気相脱炭酸も、クラッキング、環化、および芳香族化をもたらすことが示された。図7の最大ピーク(24.05時に示される)はベンゼン誘導体の群に属し、対応するこのピークの質量分析計(MS)のプロットを図8に示す。77での小さいピークはベンゼンイオンを示し、ベンゼンの分子量は約78ダルトンである。これらのさらなる反応をもたらす能力は、生産に望ましい燃料の種類によって特に有益であり得る。例えば、ジェット燃料は一般にざっと20%の芳香族成分を含むため、かかる反応は特に、ジェット燃料生産用に設計された生成物流を形成するために有用であり得る。これは所望の燃料生成物に達するために本発明の改質段階において必要なさらなる反応の量を低下させ得る。ステアリン酸に加えて、本発明に従う気相脱炭酸は、その他のC18酸、例えばオレイン酸およびリノール酸において効果的であることが示された。
【0082】
液相脱酸素化も本発明によって効果的である。例えば、図9は、50mL攪拌式オートクレーブ反応器を用いて実行されたステアリン酸の脱炭酸の反応生成物のGC/MSクロマトグラムである。ドデカン溶媒中のステアリン酸を約300℃に加熱すると同時に5% Pd/C触媒に接触させた。図9から分かるように、ヘプタデカンが主な反応生成物として形成される。また、図9から分かるように、ドデカン溶媒も反応生成物中に存在する。従って、そのような典型的な溶媒を用いる場合には、本発明のプロセスの段階3に反応生成物を導入するより前に溶媒から反応生成物を単離することが必要である。
【0083】
Snare et al.(Industrial Engineering Chemistry Research 45(16):5708−5715,2006)は、ドデカンを溶媒として用いる(19:1の溶媒対FFAの質量比を必要とする)液相バッチ処理を使用するFFAからのバイオディーゼル生成の代替法としてステアリン酸の脱酸素化を調査した。上記に指摘したように、生成物を回収し、溶媒を除去するためには分離プロセスが必要である。しかし、本発明によれば、ステアリン酸の脱炭酸生成物であるヘプタデカン中のステアリン酸の液相脱炭酸を実行することが可能である。従って、特定の実施形態では、本発明は、一部の反応生成物を溶媒として再利用すると同時に、長鎖FFAのその対応するn−アルカンへの液相触媒脱炭酸を提供する。この反応の生成物を溶媒として用いることにより、別々の溶媒流を加熱する必要性が排除されるので、熱力学的効率が大いに増大する。これは、生成物と溶媒が同じであるためさらなる分離プロセスの必要性を排除するのでさらなる利点である。従って、本発明のプロセスの連続的な性質は、一部の脱炭酸反応流を液相反応中の脱炭酸溶媒として再利用することにより保存される。
【0084】
既に記したように、脱酸素化は可逆性のプロセスであり、従って脱炭酸および/または脱カルボニル化反応の起こる平衡限界が存在するはずである。例えば、再利用されるn−アルカン反応生成物を反応溶媒として用いる場合、脱酸素化は脱炭酸経路および脱カルボニル化経路の両方で遅くなり得る。従って、特定の実施形態では、反応を促進するためにパージ段階を含めることが有益である。例えば、CO(脱炭酸生成物)の除去は、式(8)に示されるように、平衡を反応物質に向けて推進するために有用であり得る。
【0085】
脱炭酸はPd/C触媒での主な脱酸素化経路であるので、水素は一般にこの反応に必要ではない。それでもなお、具体的な実施形態では、水素を反応に導入することが特に有用であり得る。下の表4は、Hの存在下および不在下でPd/C触媒を用いる、飽和および不飽和C18FFAの液相脱炭酸の1つの評価の結果を提供する。表4から分かるように、不飽和FFA、例えばオレイン酸の脱炭酸は、Hの存在下でだけ有意な程度まで進行する。この評価では、脱炭酸は、1.6gの各反応物質および350mgのPd/C触媒を用いて、300℃の温度および15atmの圧力で行われた。最初の5つの試験は23gのドデカン溶媒を用いて行った。ステアリン酸を用いる最後の試験は、23.6gのヘプタデカンを溶媒として用いて行った。従って、本発明は、Hの包含または除外などの脱炭酸反応パラメーターを供給原料組成および所望の最終生成物に応じて最適化することができる点でさらに有益である。さらに、再利用される脱炭酸生成物を脱炭酸溶媒として用いる有益な態様は(表4中の試験6)、FFAのその対応するn−アルカンへの変換に悪影響を及ぼさない。さらに、本発明は、図2に示されるように、この脱炭酸段階で用いられる少なくとも一部のHが、下文に詳細に記載される改質段階から再利用される廃棄物流として提供され得る点でさらに有益である。
【表4】

【0086】
中でのステアリン酸およびオレイン酸の脱酸素化速度論は、図10に示されるように、およそ30分で起こり、かつ本質的に収率100%のn−ヘプタデカンをもたらす、完全なFFA変換に極めて非常に類似する。図10には、異なる反応時間の、5% Pd/C触媒で300℃での10% Hおよびドデカン溶媒中のステアリン酸およびオレイン酸の脱炭酸反応の結果が具体的に示される。オレイン酸の変換(Δ)、オレイン酸のヘプタデカン収率(□)、ステアリン酸のヘプタデカン収率(○)、および1/2触媒でのオレイン酸の結果(◇)が示される。
【0087】
図10に示される結果は、n−ヘプタデカンへの脱炭酸の前にオレイン酸がまず水素化されてステアリン酸となることを示す。これは、下の式(10)に示される。
【化3】

【0088】
燃料を形成することを目的とするその他の既知プロセスは、酸素の除去を達成するために、特に水素処理プロセスにおける、Hの反応物質としての使用に大いに頼る。しかし、本発明はそのように制限されない。むしろ、上記に指摘したように、本プロセスに従う脱酸素化は触媒により達成され、用いられるHの量は、一般に脂質バイオマス供給原料の関数である。例えば、高度に飽和した物質を使用する場合、気相触媒脱酸素化に関して上に記載されるように、主にパージ用材料として用いられる、Hを基本的に非反応性の状態に追いやることができる。低飽和(すなわちよりオレフィン性の)供給原料を使用する場合、さらなるHを用いてn−アルカンの生成を促すことができる。
【0089】
Pd/Cが効率的なFFA脱炭酸触媒として好ましいが、本発明においてその他の触媒の使用は除外されない。むしろ、FFA脱炭酸を促進するために効果的ないずれの触媒を本発明における触媒として用いてもよい。特に、いずれの貴金属を用いてもよい(特に白金およびパラジウム)。さらに、バイメタル触媒も本発明に従って用いてよく、バイメタル触媒は式M−Xを有し、式中、Mは貴金属であり、Xはその他の貴金属および遷移金属を含んでよい相補的金属(complementary metal)である。さらに、炭素以外の担体を本発明に従って用いてよい。炭素に加えて本発明に従う有用な担体の限定されない例としては、ケイ酸塩、ならびに、好ましくは、非酸性であり、かつ実質的にまたは完全に不活性の(すなわち固有の触媒機能をほとんどまたは全く持たない)任意のその他の担体の種類の材料が挙げられる。本発明に従って用いられ得るさらなる触媒の限定されない例としては、Ni、Ni/Mo、Ru、Pd、Pt、Ir、Os、およびRh金属触媒が挙げられる。
【0090】
本発明は、相当な脱炭酸を達成するために400℃を超える温度を必要とする熱的脱炭酸に頼る既知の方法とは特に区別される。有用なレベルの脱炭酸を達成するためにはさらに大きな温度(例えば、500℃を超える)が必要とされ得る。しかし、本発明は、脱酸素化の触媒性から利益を得る。特に、有意に低い反応温度で進行すると同時になお優れた脱酸素化を達成することが可能である(図5を参照して上に示されるとおり)。特定の実施形態では、液相反応中で触媒脱酸素化を実行するために、段階1の加水分解からのFFAは、約325℃までの温度に加熱される。その他の実施形態では、FFAは、適した触媒の存在下で、約200℃〜約320℃、約250℃〜約320℃、約270℃〜約320℃、または約290℃〜約310℃の範囲の温度に加熱される。反応圧力は、約400kPa〜約800kPa、好ましくは約500kPa〜約700kPaの範囲内であってよい。
【0091】
図5に関連して特に説明されるように、触媒脱炭酸は、触媒の不存在下では熱反応の起こらない条件下で300℃の液相中で起こる。さらに、本発明の触媒プロセスにおけるn−アルカンの反応選択性は非常に高い。例えば、特定の実施形態では、触媒脱酸素化は90%より多くの炭化水素反応生成物がn−アルカンであるような方法で起こる。さらなる実施形態では、脱酸素化は92%より多くの、95%より多くの、97%より多くの、または98%より多くの炭化水素反応生成物がn−アルカンであるような方法で起こる。かかる選択性は熱的脱炭酸反応ではみられない。
【0092】
特定の実施形態では、触媒脱酸素化は、脱酸素化が実質的に熱作用単独では進まない温度で実行されると説明することができる。言い換えれば、触媒反応条件は、触媒の不在下、そのプロセスがFFAのそれらのn−アルカン反応生成物への50重量%未満の変換をもたらすような条件である。
【0093】
本発明のプロセスにおいて最大の単一エネルギーコストは、溶媒を反応温度に加熱するコストである。従って、好ましい実施形態では、本発明のプロセスは、反応プロセスにおいて添加された溶媒の使用を最小化または排除するように最適化することができる。特定の一実施形態では、この反応は反応プロセスから再利用される液体のn−アルカン中で(さらなる溶媒を含まずに)進行することができる。そのような実施形態では、触媒は、FFAを含むスラリー/分散液として用いられ得る。さらに、脱炭酸は触媒によって進行し、温度単独に依存しないので、触媒脱炭酸プロセスにおいて用いられる低いプロセス熱を維持するための少ない熱しか必要とされない。
【0094】
本発明に従う触媒脱炭酸の利益は、特に再利用されるn−アルカンを反応溶媒として用いる液相反応中で見出される。上記に指摘したように、伝統的な熱的脱炭酸は、一般に液相中で炭化水素溶媒、例えばドデカンを用いて実行される。そのような反応スキームは、概して、一般に触媒脱酸素化プロセスと組み合わされたものと考えられるものではない。例えば、当業者が単に触媒を熱的脱炭酸の構成に導入しようとするならば、全体的なプロセスはn−アルカン生成物を溶媒ならびに触媒から分離する追加の要件によって妨げられる。しかし、本発明において、これらの問題は克服される。例えば、特定の実施形態では、再利用されるn−アルカン脱炭酸反応生成物である溶媒とともに触媒スラリー/分散液を使用することが可能である。
【0095】
さらなる実施形態では、この反応は、連続する攪拌式オートクレーブ中で反応成分を再利用して実施され得る。さらにまた、気相固定床反応器、ならびに液相スラリー反応器を用いることもできる。当然、これらは反応器の種類の単なる代表であり、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。異種の触媒脱酸素化のための方法の一例は、引用によりその全文が本明細書に組み込まれる、Snare et al.,I.& E.Chem.Res.45(16)5708−5715(2006)に開示される。
【0096】
長鎖アルカンの改質
上記のように、n−アルカンを形成した後、得られる化合物を、製造する燃料の種類の典型的な化合物に改質することができる。例えば、ガソリンは一般にC5−12化合物の混合物であり、灯油は一般にC12−15化合物の混合物である。灯油をベースとするジェット燃料は、n−アルカンの改質によって製造でき、所定の炭素鎖長、鎖コンホメーション、および化合物比を有する化合物の混合物(例えば、表1に記載の混合物)を提供することができる。同様に、ディーゼルおよびガソリンは両方とも、所望の鎖長、鎖コンホメーション、および化合物比の炭化水素化合物の混合物である。これらの所望の組成が分かれば、所望の燃料の種類(すなわちジェットエンジン燃料、ディーゼルエンジン燃料、またはガソリンエンジン燃料のいずれか)とみなすのに必要な鎖長、必要なコンホメーション、および必要な化合物比を有する化合物を形成するための改質反応(群)を提供することが可能である。
【0097】
例えば、既に述べたように、ジェット燃料は、一般にn−アルカン、イソ−アルカン、環系、および芳香族を特定の比で含む。ガソリンエンジン燃料も同様に様々な割合の芳香族、n−アルカン、イソ−アルカン、環系、およびアルケンを含む。ディーゼルエンジン燃料は、一般に、より高い平均分子量とより低い芳香族含量を示す、より単純な構造を有する。燃料組成の基準は周知であり、特に、本発明によれば、既知燃料組成基準に基づき得る、明確な目標組成を満たす特定の燃料を製造することが可能である。
【0098】
本発明に従う改質は、一般に、n−アルカンの炭素鎖長を変更すること、n−アルカンの構造を変更すること(例えば、直鎖から分枝鎖または環構造へと変換すること)、またはn−アルカンの分子内結合を変化させること(例えば、一重結合を二重結合へと変換すること)を通じてn−アルカンを変化させる1以上の反応を包含し得る。例えば、ハイドロクラッキングを用いてアルカンの鎖長を変化させることができ、水素異性化を用いてそのアルカンの構造を変更する(例えば、製造燃料中に指定された含量のシクロアルカンおよびイソアルカンを形成するなど)ことができる。同様に、芳香族化を用いてそのアルカンの分子内結合を変化させて、製造燃料中に指定された含量の芳香族化合物を形成させることができる。特定の実施形態では、改質は、2以上の独立した触媒プロセスを含み、それぞれのプロセスは異なる反応パラメーター(触媒の種類、温度、圧力、または反応物質など)を用いて実行される。独立した改質段階の生産物は、次に、所望の燃料組成を構成するのに必要な化合物ブレンドを得るために一緒にブレンドすることができる。
【0099】
例えば、一実施形態では、上記脱酸素化段階からのn−アルカン流は、改質ステージに入る際に分岐する。n−アルカン流の一部は、水素異性化、ハイドロクラッキング、芳香族化、および環化の1以上を実施する2つ以上の独立した反応器設備に向けられ得る。かかる一実施形態では、各反応器は、所望の反応を実施するために必要とされる必須反応パラメーター(例えば、触媒、反応器温度、および反応器圧力)下で作動する。各改質反応器はn−アルカン流を所望の化合物(群)に改質するものであり、反応生成物は各反応器から回収することができる。各改質反応器からの反応流は、その後、具体的な燃料の種類(例えば、ジェットエンジン燃料、ディーゼルエンジン燃料、またはガソリンエンジン燃料)とみなされるために必要な割合で必要な化合物を含む最終燃料製品が形成され得るように合流させることができる。
【0100】
例えば、一実施形態では(ガソリンエンジン燃料のジェット燃料の製造などでは)、n−アルカン流のおよそ10〜15%を、芳香族を形成するための高温反応器設備に回すことができ、n−アルカン流の残りの部分をHI/HC反応器に向けて、必須鎖長(例えば、ガソリンの場合にはC−C12範囲内)および正確なコンホメーション(例えば、シクロアルカンおよびオレフィン系)の必要な化合物を形成することができる。本明細書に記述したように、HI/HC反応パラメーターは、アルカン、シクロアルカン、およびアルケンの正確な割合を提供するために所望の燃料組成に基づいて変更することができる。
【0101】
だが、その他の実施形態では、ただ1つの改質反応器だけを用いて最終燃料組成を製造することが可能である。例えば、芳香族が必ずしも必要でないディーゼルエンジン燃料などの燃料では、全ての必要な改質は、本明細書に記載されるように、適した反応パラメーターを用いて単一のHI/HC反応器内で実施することができる。
【0102】
なおさらなる実施形態では、所望の最終燃料組成を実現するために2つ以上の改質反応器を連続して使用することが有用である。例えば、一実施形態では、脱酸素化段階からのn−アルカンは、HI/HC反応を行うために触媒反応器へと進めることができる。HI/HC生成物の少なくとも一部分は、次に、第2の触媒反応器に直接進めて、芳香族およびシクロアルカンを生成することができる。そのような反応器組設備は、バイオガソリン製品を製造するための本発明に従うプロセスにおいて特に有用であり得る。
【0103】
前述の内容によって示したように、本発明は、特に、多数の燃料製品を製造するためのその広い適用性により特徴付けられる。従って、連続して実施する際に、使用者が所望の燃料製品を同定した後、その所望の燃料の生産を実現する必要に応じて反応パラメーターを調整することのできる一連のプロセスを認識することによるそのカスタマイズ性のため、本発明は特に有益である。例えば、本明細書に記載されるようにプロセス反応パラメーターは、n−アルカンの、所望の燃料の典型的な炭化水素化合物への改質に有利であるように調整することができる。具体的な燃料の種類と同等と考えるのに必要な炭素鎖長、鎖コンホメーション、および化合物比で化合物を形成する容易性は、一部分、改質プロセスに入るn−アルカンの鎖長に依存する。従って、具体的な燃料の種類を製造するためには、改質プロセスに入るn−アルカンが主に具体的な鎖長のもの(例えば、主にC15−C17n−アルカン)であることが望ましい。本発明によれば、結果として生成されるn−アルカンが主に所望の鎖長範囲内であるように脱酸素化段階をカスタマイズすることが可能である。脱酸素化段階のこのカスタマイズは、所望の長さの炭化水素鎖を既に有するFFAに脱酸素化を実施することにより促進することができる(例えば、C17n−アルカン(ヘプタデカンなど)を製造するためのC18FFA(ステアリン酸など)の使用)。所望のFFAは、所望のFFA(例えば、適当な鎖長の脂肪酸末端(tail)を有するトリグリセリド)を多く含む脂質バイオマスを用いてプロセスを開始することによってもたらすことができる。従って、具体的な燃料を製造するように本発明のプロセス全体をカスタマイズすることができることは明らかである。例えば、バイオガソリンが望ましい場合には、脂質バイオマスを、トリグリセリドを多く含む材料であるように選ぶことができ、これらのトリグリセリドは加水分解を受けてFFAを生成し、これらのFFAは脱酸素化を受けてn−アルカンを生産し、これらのn−アルカンはガソリンエンジン燃料とみなすための基準を満たすために必要な正確な炭素鎖長、鎖コンホメーション、および化合物比の化合物の組合せに改質することができる。同じ考察は、ジェットエンジン燃料またはディーゼルエンジン燃料の必須基準を満たす燃料を製造するためにも行うことができる。
【0104】
特定の実施形態では、本発明のプロセスは、炭化水素化合物を回収する段階を含むと記載され得る。前記回収段階は、所望の燃料製品を構成する化合物の正確な組合せを得るための、本明細書に記載のあらゆる様々な方法を含むことが意図される。例えば、一実施形態では、改質は、イソアルカン、芳香族、およびシクロアルカンを形成するための独立した反応器を使用することを含んでよく、回収段階は各々の独立反応器からイソアルカン、芳香族、およびシクロアルカン(所望によりn−アルカンを含む)を得ること、および所望の燃料とするために全ての改質生成物流を正確なn−アルカン:イソアルカン:芳香族:シクロアルカン比で合わせることを含んでよい。しかし、その他の実施形態では、反応器を連続して使用して改質を実施する場合または改質が単一反応器の使用を含む場合など、回収段階は、所望の燃料であるために既に正確なn−アルカン:イソアルカン:芳香族:シクロアルカン比の炭化水素化合物の単一流を収集することを含むだけでよい。従って、別の実施形態では、回収は、個別生成物流を混合する具体的な段階を必要とするか、または既に最終製品形態である流れを回収することを必要とするだけであり得る。
【0105】
本発明の様々な実施形態では、改質は、所望の最終製品に基づいて選択される触媒の使用を含む。水素処理では担持されたPtが好ましく、脱水素環化(芳香族化)では酸性(Cl修飾)アルミナに担持されたPt−Xバイメタル(X=Ir、Re、Sn)が好ましい。本発明のプロセスの脱酸素化段階からのn−アルカン混合物のHI/HCの所望の程度は、バイオ燃料ターゲット(バイオディーゼル、バイオガソリン、またはバイオジェット燃料)によって決まり得る。バイオディーゼルの場合、燃料の低温流れ特性を改善するために、小程度のHI(すなわち分枝化合物の形成)が望ましい可能性がある。だが、広い分枝はセタン指数を小さくすることから望ましくない。バイオジェット燃料の場合、直鎖C15−17アルカン供給材料の中程度のHI/HCは、平均炭素数を少なくし、燃料の低温流れ特性を改善するために有用である可能性がある。バイオガソリンの場合、多分枝アルカンの大規模ハイドロクラッキングは、高オクタン数の所望のC4−分枝アルカンを得るために有用である可能性がある。しかし、軽質(light)(<C)アルカンに対する過剰クラッキングは回避することが好ましい。
【0106】
金属機能と酸機能の微妙なバランスにより水素処理用触媒の性能が決まる。本発明では、ある範囲のPt金属担持量の非晶質酸化物(例えば、シリカ−アルミナ)、結晶質アルミノケイ酸塩(例えば、ゼオライト)、およびシリコアルミノリン酸塩(例えば、SAPO 11)から製造した触媒を用いることができる。
【0107】
n−アルカンの水素異性化/ハイドロクラッキング(HI/HC)は、一般に、還元段階で製造されたn−アルカンを、所望の化合物を所望の割合で形成するのに適当な条件下で触媒と接触させることを含み、改質プロセスは、特に単官能性または二官能性固体触媒を用いて実施することができる。改質は、特に、所望の最終製品燃料に応じて具体的な化合物の製造に向けてそのプロセスを進めることができるという点において有用である。特に、このプロセスは、具体的な燃料の種類中に一般に存在するイソアルカン、シクロアルカン、および芳香族の所望の混合物を提供するように調節することができる。一般に、これは、次のプロセスパラメーター:触媒組成構造、反応温度、反応圧力、反応器滞留時間、および水素とn−アルカンの割合、を制御することによって達成することができる。例えば、より高い温度と水素圧の低下はいずれも芳香族化に有利である。パラメーター制御およびその効果は下文にさらに十分に詳述する。一般に、ハイドロクラッキングは、より酸性度の高い触媒とより長い滞留時間を用いることが有利である。典型的な反応条件には、約350℃〜約380℃の温度および約1MPa〜約10MPaの圧力が含まれ得る。
【0108】
反応の改質段階は、一般に所望の最終製品および出発物質(脂質バイオマス)の含量に応じて、多様な鎖長の化合物を製造するために用いることができる。既に記したように、動物油脂は、一般にC16およびC18脂肪酸の大部分を含む。従って、上記還元段階から得られるn−アルカンの大部分は同様の炭素鎖長を有する。当然、脂質バイオマスの含量は、特定の組成を有する燃料への改質に特に適しているn−アルカンの生成がもたらされるように、カスタマイズすることができる。一般に、本発明の改質段階へと導入されるn−アルカン混合物はC−C20炭化水素を含み得る。特定の実施形態では、本発明の改質段階へと導入されるn−アルカン混合物はC15−C17炭化水素を含み得る。
【0109】
一実施形態では、改質は、ジェット燃料の形成のために特にカスタマイズされる。そのような実施形態では、改質は、主としてC−C18炭化水素を含むジェット燃料混合物を製造するようにカスタマイズすることができる。好ましくは、その混合物はC10−C14炭化水素、特にC10−C14イソアルカンを含む。さらなる実施形態では、改質段階をカスタマイズして指定の化合物比を実現することができるような炭素鎖長の形成に有利であるようにすることができる。触媒組成および反応器条件は、ハイドロクラッキング生成物(より低分子量の化合物)または水素異性化生成物(より高度に分枝した異性体)、特にC10−C14イソアルカンに有利であるように調整することができる。
【0110】
もう1つの実施形態では、改質は、ガソリンの形成のために特にカスタマイズされる。かかる一実施形態では、主としてC−C11炭化水素を含む化合物の混合物を製造するように改質をカスタマイズすることができる。好ましくは、その混合物はC炭化水素の大部分、特にCイソアルカンを含むように最適化される。
【0111】
単官能性および二官能性触媒を含む、様々な触媒を本発明に従って用いることができる。単官能性触媒は、優先的に貴金属を含んでなり、式M−X(式中、Mは貴金属であり、Xはその他の貴金属を含む相補的金属である)を有するバイメタルを含み得る。好ましい実施形態では、触媒は白金を含む。二官能性触媒は金属機能成分および非金属機能成分を含む。本発明に従う二官能性触媒の金属機能成分は、単官能性触媒に関して上記に記載したように、貴金属(またはバイメタル)を含み得る。本発明に従う二官能性触媒の非金属機能成分は、好ましくは、酸性金属酸化物などの固体酸性物質を含む。特定の実施形態では、二官能性触媒の酸機能部分は、非晶質酸化物(例えば、シリカ−アルミナ)、アルミノケイ酸塩ゼオライト(例えば、γおよびβ)、およびシリコアルミノリン酸塩(例えば、SAPO 11)から選択することができる。当然、前述の物質は例として示しただけであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。むしろ、本明細書に記載されるように、酸性反応部位を提供し、かつ触媒機能を果たすことのできる、その他の固体物質を本発明に従って用いることができうる。
【0112】
化学組成に加えて、本発明に従う触媒は、物理的な構造によっても異なり得る。例えば、本発明に従う二官能性触媒は、離散(discrete)金属機能粒子と別個の離散酸機能粒子として提供することができる。好ましい実施形態では、酸機能成分は、金属機能成分のための担体(例えば、シリカ/アルミナに担持されたPt)を形成する。さらに、本発明に従う単官能性触媒は、金属機能成分単独の離散粒子または非機能担体に担持された離散粒子を含み得る。
【0113】
改質反応は、一般に、上昇させた温度および圧力において実施される。特定の実施形態では、n−アルカンのHI/HC改質は、約600℃まで、約550℃まで、または約525℃までの温度で実施することができる。具体的な実施形態では、改質反応は、約300℃〜約600℃、約325℃〜約550℃、約350℃〜約500℃、約350℃〜約450℃、または約400℃〜約450℃の温度範囲において行われる。改質中の反応器圧力は、一般に、約0.5MPa〜約20MPa、約1MPa〜約15MPa、または約1MPa〜約10MPaの範囲内である。好ましくは、この反応は水素雰囲気中で実施される。脱水素環化などの反応では、触媒不活性化につながる(主に多環式芳香族炭化水素に起因する)コークス蓄積を抑制する必要に応じて最適水素圧を変更することができる。
【0114】
水素異性化/ハイドロクラッキングの選択性は、二官能性HI/HC触媒の金属機能と酸機能のバランスを制御することを通じて本発明に従って制御することができる。特に、二官能性触媒の金属機能部分の含量は、ある範囲の金属担持とともに変動し得る。例えば、二官能性触媒では、金属機能成分は、最大約50重量%の触媒、最大約40重量%、最大約30重量%、最大約20重量%、最大約10重量%、または最大約5重量%の触媒を含み得る。具体的な実施形態では、金属機能成分は、約0.01重量%〜約10重量%の触媒、約0.02重量%〜約9重量%、約0.05重量%〜約8重量%、約0.1重量%〜約7重量%、約0.1重量%〜約6重量%、または約0.1重量%〜約5重量%の触媒を含む。
【0115】
改質効果も、反応温度および圧力を上記範囲内で変化させることによって制御することができる。例えば、より高い反応温度(400〜450℃の範囲内)およびより低い水素圧は、一般に、芳香族を形成するためのアルカンの脱水素環化に有利である。さらにまた、より高い温度およびより高い変換は、一般に、水素異性化よりハイドロクラッキングに有利である。
【0116】
石油由来燃料(特にジェット燃料およびガソリン)は、シクロアルカンおよび芳香族化合物を含有する。結果的に、次世代バイオ燃料の現行エンジンとの完全な適合性を確保するためには、生物再生可能な(bio-renewable)油脂からシクロアルカンおよび芳香族を生産することが必要であり得る。従って、改質反応パラメーターを、アルカンの芳香族への気相脱水素環化(DHC)に有利であるように、さらに制御することができる。n−アルカンの芳香族化および環化は、本発明の特定の実施形態に従って、担持金属触媒(好ましくはPt含有触媒)を用いて達成することができる。高温(例えば約400〜450℃など)はアルカンの芳香族への脱水素環化(DHC)に有用であるが、これはその反応が強く吸熱性であるためである。DHC機構は、触媒組成に応じて、遷移金属だけを必要とするか(単官能性触媒経路)または担体の遷移金属部位および酸部位を必要とする(二官能性触媒経路)。例えば、非酸性K交換Lゼオライトに担持されたPt(単官能性経路)は、単官能性触媒作用(1−6閉環)によるn−ヘキサンからのベンゼン形成に選択性である。1−5閉環から生じるメチルシクロペンタンもPt上で起こり、n−ヘキサンからの1−6閉環生成物と1−5閉環生成物の割合は、非酸性担体の細孔形状を制御することによって制御することができる。
【0117】
さらなる実施形態では、アルカンDHCは、酸性アルミナ担体(Cl修飾担体など)に担持されたPtまたはPtXバイメタル(特に式中、X=Ir、Re、Sn)などの従来の改質触媒を用いて二官能性経路によって実施することができる。例えば、高オクタン無鉛ガソリンを生成するために用いられる従来の石油ナフサ改質触媒は、二官能性経路によってアルカン脱水素環化を触媒する。既に記載されるように、金属触媒部位(例えば、貴金属)は脱水素化/水素化機能を提供し、担体の酸部位への生じるオレフィンの吸着によってアルキルカルベニウムイオンを生成する。より安定した第二級カルベニウムイオンは1−5閉環を受けて、メチルシクロペンタンを生じる。その後の金属触媒および酸触媒反応によってシクロヘキサン、最終的にはベンゼンがもたらされる。これは、本発明に従って、C15−C17アルカン供給原料の代理JP−8燃料への改質を可能にするという点で特に有用である。具体的には、二官能性触媒での、高級アルカン(例えば、石油ナフサ中のC8−化合物など)の脱水素環化は1−6閉環生成物(例えば、アルキル置換ベンゼンなど)を直接生成する。n−トリデカンおよびn−ヘキサデカンをモデル化合物として用いる試験では、水素異性化生成物に加えて、芳香族(トルエン、キシレン、メチルナフタレンおよびジメチルナフタレンなど)も製造することができることを示した。脱水素環化に最適な水素圧は、触媒不活性化につながるコークス(主に多環式芳香族炭化水素)蓄積を抑制する必要性によって決定される。
【0118】
一実施形態では、前の触媒脱酸素化段階において生成されたn−アルカンの水素異性化/ハイドロクラッキングは、酸性金属酸化物に担持された白金からなる二官能性固体触媒を用いて行うことができる。Pt部位は脱水素化/水素化機能を提供し、生じるアルケン(オレフィン)の酸部位への吸着によって第二級カルベニウムイオンが生じる。これらのカルベニウムイオン中間体は、より安定した第三級カルベニウムイオンへの骨格異性化を受けた後にプロトン(H)を放出して、酸部位を再生する。(Pt部位で)生じるアルケンのその後の水素化によって、単分枝、二分枝、および三分枝アルカンを生産する。ハイドロクラッキングは、カルベニウムイオン中間体のβ−分断によって生じる密接に関連したプロセスである。ハイドロクラッキングの程度は、結果としてもたらされる燃料製品に特別な特性を与えるように制御することができる。例えば、燃料の低温流れ特性を改善する必要に応じて平均炭素数を少なくするために、限られた量のアルカン供給材料のクラッキングを実施することができる。典型的な異性化/ハイドロクラッキングネットワークの概略図は図11に示される。
【0119】
Pt部位と酸部位の適当なバランスによって、一次反応生成物は単分枝アルカンである。多分枝アルカンは二次生成物であり、この多分枝種から連続してハイドロクラッキング生成物(最初のn−アルカンに関連した、中分子量種と低分子量種の混合物)が形成される。結果的に、高級n−アルカン変換はハイドロクラッキング生成物に有利である。
【0120】
具体的な一実施形態では、本発明のプロセスの改質段階において有用な触媒は、イオン交換によって製造されたゼオライトY上の1重量%Pt(Pt/Y)を含む。一実施形態では、50mL攪拌式オートクレーブ反応器内での500psig H下で300℃での液体n−ヘプタデカンの反応にかかる触媒を用いた。3時間の反応時間後の反応生成物は、図12に示したクロマトグラムに示される。そのクロマトグラムで明らかなように、主要生成物はC17分枝アルカン(メチル分枝異性体、ジメチル分枝異性体、およびトリメチル分枝異性体を含む)である。またC−C14ハイドロクラッキング生成物も観察される。基礎をなすカルベニウムイオン(β−分断)機構に起因して、C17供給原料からのC16種およびC15種の収量はごくわずかである。気相生成物のGCおよび四重極質量分析では少量のメタン、エタン、プロパン、およびブタンが明らかになった。モルデナイト上の1重量%Pt(Pt/M)触媒を用いた評価では、同様の反応下でより高いハイドロクラッキング生成物収量が示された。
【0121】
特定の実施形態では、本発明に従って、特にC17n−アルカンを含む脱酸素化反応流から、バイオガソリンを生産するために特に有用である触媒および条件を提供することが可能である。一実施形態では、液体n−ヘプタデカンおよびPt触媒を用いて100mLバッチ反応器内において300℃および1000psig Hで評価を実施した。30分後のヘプタデカン変換は本質的に100%であり、95質量%を上回るものが液体生成物へと変換された。図13に示されるように、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)分析では、生成物が分枝アルカンと直鎖アルカンの混合物であることが示された。芳香族もシクロアルカンも検出されなかった。気相生成物は主にC−C炭化水素からなっていた。
【0122】
同じ触媒および条件を用いた1時間のバッチ水素処理後に得られた炭素数分布は、特にシクロアルカンおよび芳香族化合物(C以上)が存在しないとすれば、典型的なレギュラー無鉛ガソリンのものと同様であった。これは図14に示される。この図はまた、漸進的な自然ハイドロクラッキングも示している。30分のバッチ時間では、1時間のバッチ時間と比較して、より高い平均分子量のより多くの、中間留分(灯油またはジェット燃料)範囲の生成物が得られる。
【0123】
エネルギー回収
本発明のプロセスは、できるだけ多くのエネルギー含量の脂質バイオマスを使用可能燃料へと変換することによる効率の最適化に利用可能な複数の選択肢によりさらに特徴付けられる。これは、限定されるものではないが、加水分解プロセスからの余分な蒸気の回収および再利用、3つの化学プロセス全てへの熱交換を伴う加水分解プロセスのグリセロール副生成物の燃焼、ならびに3つの化学プロセス全てへの熱交換による流出燃料製品の内部エネルギーの回収を含む方法によって行われる。
【0124】
エネルギーバランスに関する有用な性能指数は、式(11)(この場合、LHVはより低い熱量(lower heating value)である)において下記に定義するような、エネルギー変換効率である。
エネルギー効率=生産された燃料のLHV/(反応物のLHV+入力エネルギー)
(11)
変換効率の決定には複数の要因を考慮に入れなければならない。本発明のプロセスのエネルギー効率を計算するためにジェット燃料を製造するために本発明の一実施形態に従って用いることができる材料特性の例を下記表5に示している。当然、本発明のプロセスのその他の実施形態(バイオガソリンまたはバイオディーゼルの製造など)でも同様の考察が得られる。
【表5】

【0125】
各プロセス段階を示す、本発明の一実施形態に従う詳細なプロセスフローを図15に示している。本発明のこの実施形態に従って製造される100リットルのバイオJP8(bio−JP8)の生産のためのプロセス(以下に概略を説明するエネルギー保存方法を実施することくなく)についてのエネルギー入出力を下記表6に要約する。
【表6】

表6に示した系に加えられた総エネルギー(63.31kW)は上記式(10)の分母である。分子は、生産されたバイオJP8燃料100リットルに含まれるエネルギー(45.1kW)だけである。式(10)による計算によって、下記のように、いかなるエネルギー保存段階も含めないエネルギー効率が71.2%であることが分かる。従って、これは、全てのエネルギー計算が実際ハードウェア電力消費曲線(ポンプおよびコンプレッサー)、熱伝達有効性値(熱交換器=0.7)、断熱R値(ラインヒーターおよび反応器における熱損失)、ならびに反応器スループット材料損失(段階1ではグリセロール、段階2ではCO、および段階3では軽質炭化水素に基づいていることから、保存エネルギー効率を表している。
【0126】
具体的な実施形態では、本発明のプロセスは、脂質バイオマス燃料原料として用いられる動物油脂のおよそ2.3MJ/kgの総熱入力を必要とする。この熱入力を最小限に抑えるために、一般に、第1のステージで脂肪および水を予熱する際に最終製品からの熱回収が最大となるようにプロセスが設計される。加水分解段階は、特に、このプロセスで使用するエネルギーを回収するように本発明に従って最適化することができる。例えば、脂肪加水分解によって製造された高温グリセロール/水混合物は、燃焼器内で効率的に燃焼させるのに十分な純度のグリセロールを得るために、水のフラッシュ蒸発によって分離することができ、その温水を加水分解プロセスに再利用することができる。理想でないプロセスに起因するエネルギー損失を考慮すると、かかるアプローチでは必須熱入力エネルギーの最大約3分の2を回復させることができる。
【0127】
従って、特定の実施形態では、本発明のプロセスは、加水分解段階で製造されたグリセロールの少なくとも一部分を回収することおよびそのグリセロールをエネルギー源として再利用することを含む。加水分解段階で生産されたグリセロールのエネルギー含量は、本発明のプロセスの3つの段階全てに必要な反応器加熱を提供し、さらに動作中に環境への熱損失を軽減するために反応器に熱を提供するため実質的に十分である。グリセロール副生成物に利用可能な加熱エネルギーの具現化は、特に、本発明の発明者らによって提供される独自の方法および装置によることができる。
【0128】
グリセロール燃焼は、一実施形態では、本発明の発明者らによって提供される独自の方法および装置によって進めることができる。例えば、グリセロール燃焼は、グリセロール燃焼室を備えた断熱バーナー内で実施することができる。好ましくは、グリセロール燃焼室を予熱し、本発明の加水分解段階から回収されたグリセロールを予熱したグリセロール燃焼室に直接導入する。所望により、グリセロールは、グリセロール粘度を低下させるために処理することができる。グリセロールは、グリセロール燃焼室への導入前に霧化することができる。グリセロールの燃焼室への導入と同時に、霧化したグリセロールを空気と合わせ、燃焼させて、熱が発生する。
【0129】
グリセロール燃焼室の予熱は、開始燃料源の燃焼または抵抗加熱の利用などの様々な方法に従って実施することができる。一実施形態では、予熱段階は、非グリセロール燃料源(すなわち開始燃料源)のグリセロール燃焼室内での燃焼を含む。これは、好ましくは、グリセロールの自己着火温度に少なくとも等しい温度まで燃焼室を加熱するために十分な時間の間実施される。所望の温度に達したら、非グリセロール燃料源の導入を中止し、グリセロールと完全に入れ替えることができる。開始燃料源とグリセロールの移行は段階的または別個であり得る。
【0130】
具体的な実施形態では、粘度を低下させるためのグリセロールの処理段階は、グリセロールの粘度を指定の粘度未満に低下させることを含む。好ましくは、グリセロール粘度を約20センチストークス未満に低下させる。具体的な実施形態では、グリセロールの処理段階は、グリセロール源を、例えば少なくとも91℃の温度まで加熱することを含む。もう1つの実施形態では、処理段階は、グリセロールを、優先的には可燃性でもある粘度を低下させる液体(例えば、灯油)と合わせることを含む。
【0131】
さらにもう1つの実施形態では、霧化したグリセロールを空気と組み合わせる段階は、霧化したグリセロールが、定義されたフローパターンと空気混合でグリセロール燃焼室に導入されるように、空気力学的に制限された空気流を提供することを含む。具体的な一実施形態では、上記の空気力学的に制限された空気流は旋回構成要素によって提供される。
【0132】
本発明のプロセスにおいて熱をもたらすためのグリセロール燃焼は、特に、特別に設計されたグリセロール燃焼装置を使用して実施することができる。一実施形態では、この装置は以下を含む。放射対流フィードバック加熱を提供するように形成された断熱グリセロール燃焼室;グリセロールをグリセロール燃焼室へ導入するためのグリセロール入力ライン(ここで、このラインには、グリセロールをこのライン内で少なくとも約91℃の温度に加熱または維持するための1以上の構成要素が含まれる);グリセロールをグリセロール燃焼室へ導入するより前にグリセロールを霧化することのできる、グリセロール入力ラインに取り付けられた噴霧器;ならびに霧化したグリセロール源と空気を組み合わせるための空気流構成要素(ここで、この空気流構成要素には、霧化したグリセロールと組み合わせた場合に所望のフローパターンを提供するため有用な空気力学的制限が含まれる)。
【0133】
上記のもののようなグリセロールバーナーは、本発明においてプロセス反応器設備に組み込むことができ、プロセス蒸気(例えば、およそ400℃)を発生させるために使用することができる。このプロセス蒸気は、その後、流量中の専用の熱交換器や環境への熱損失を軽減するためのジャケット付き反応器に配管することができる。
【0134】
グリセロールの燃焼は、一般に、式(12)に従って進行し、
(OH)+3.5O→3CO+4HO+熱 (12)
燃焼熱はグリセロール1kgあたりおよそ16MJである。従って、グリセロールの燃焼に、グリセロール自体だけでなく、燃焼を維持する量の酸素(多くの場合には周囲空気から供給される)の供給が必要であることは明らかである。しかし、先行技術では、これまで、グリセロールの清浄で効率的な燃焼を実現し、従ってグリセロールを工業プロセスの副流として直接回収し、さらにそのグリセロール副生成物を、熱を生成する燃料源として用いる能力を提供するために、確立し組み合わせなければならない変数の組合せを認識してこなかった。
【0135】
一般に、標準的な燃料オイルバーナーは、材料が高粘度であることに起因してグリセロールを燃やすことは難しい。同様に、比較的高い自己着火温度のグリセロールも標準的なオイルバーナーで燃やす能力を低下させる。グリセロールを燃焼させる、以前の試みでは、関連する問題点が示された。例えば、多くのバーナーは、燃焼を維持するのに十分に高い温度では燃焼せず、それによって、バーナーを詰まらせ、燃焼を自己消化し得る粘着性の残油が形成される。標準的な燃料燃焼装置(灯油ヒーターなど)を使用してグリセロールを燃焼させる試みでは、連続スパーク点火源を用いてグリセロールを燃焼させようとしたときでさえも不成功に終わった。実際、グリセロールは持続炎の存在下でさえも均一かつ効率的に燃焼しない。これは、プロパントーチをグリセロールスプレー内に置くことによって示される。プロパンが供給された火炎のすぐ近くのグリセロールは燃焼するが、グリセロールスプレー全体の不完全燃焼が起こり、プロパン供給トーチの除去後にグリセロールの自燃は起こらない。かかるグリセロール燃焼方法は、グリセロールがその熱分解温度より高くその自己着火温度より低いグリセロール流れ場に局所的変化が存在するため、潜在的に危険である。かかる環境は望ましくない種(アクロレインなど)の形成をもたらし得る。
【0136】
しかし、グリセロール燃焼は、その開示内容が引用により本明細書に組み込まれる、出願者の同時係属米国仮特許出願第60/942,290号により詳細に記載されている、方法および装置によれば可能となる。そのようなものとして、本発明のプロセスにおけるグリセロール燃焼は、適したグリセロール燃焼室を含む装置の提供、グリセロールの可燃性を最大化するよう設計された様式での燃焼室へのグリセロールの導入、および同様にグリセロールの可燃性を最大化するように設計された経路による空気の供給によって可能である。
【0137】
本発明はまた、変換効率を90%まで、あるいはそれ以上に増大させるのに有用であり得るさらなるプロセスも含む。例示的なプロセスとしては、触媒最適化、酵素プロセス、プラズマ処理、およびグリセロールの有用性のより高い生成物(例えば、プロピレングリコール)への改質が挙げられる。
【0138】
特定の実施形態では、本発明のプロセスは連続流プロセスとして実施される。言い換えれば、本発明のプロセスにおける全ての段階は順次実施され、加水分解段階での反応生成物(すなわち遊離脂肪酸)は触媒脱酸素化段階に直接入り、触媒脱酸素化段階での反応生成物(すなわちn−アルカン)は改質段階に直接入る。かかる連続流プロセスは、単一系加圧機能を果たすことができるため、エネルギー効率の改善をもたらす。しかし、プロセス段階を3つの独立したバッチプロセスで行う場合には、3つの独立した圧力サイクルを行わなければならず、エネルギー入力が増加する。
【0139】
本発明のプロセスの改質段階において生成した水素は、上記のように、本発明のプロセスの触媒脱酸素化段階で使用することができる。従って、水素を廃棄する代わりに水素生成物を再循環させることにより、本発明のプロセスのエネルギー効率がさらに高まる。
【0140】
さらに、前述のように、触媒性能の改善によってもエネルギー効率を高めることができる。例えば、本プロセスの改質段階は、特定の含量の軽質炭化水素(LHC、例えば、C−C)の形成をもたらすことができる。かかるLHCは、一般に、ジェット燃料、ディーゼル、およびガソリンなどの輸送燃料には望まれない。本明細書に記載されるような、好ましい触媒の使用によって、LHC含量を減らすことができる。好ましくは、改質段階で使用される触媒は、改質プロセスからの反応生成物の総重量に基づいて、約20重量%未満の生成LHC含量をもたらす。特定の実施形態では、改質段階は、改質プロセスでの反応生成物の総重量に基づいて、約15重量%未満、約12重量%未満、約10重量%未満、約8重量%未満、約5重量%未満、約4重量%未満、約3重量%未満、約2重量%、または約1重量%未満の生成LHC含量をもたらす。
【0141】
本明細書に記載される様々なエネルギー保存段階を組み合わせることにより、本発明のプロセスの総合的なエネルギー効率を著しく高めることが可能である。例えば、下記表7にエネルギー効率を高めるために用いることのできるいくつかのプロセス改善点を要約する。表7は、本発明のプロセス全体に対して86%を上回る効率を実現することの可能な、本発明の一実施形態をさらに示す。
【表7】

【0142】
表7は、表6に関連して上に記載されるように、最適化されないプロセスの実際効率で始まる。しかし、本明細書に記載される様々なエネルギー保存段階の実施を通して、本発明のプロセスの総合的な効率を86%を超過して高めることができることは明らかである。従って、具体的な実施形態では、本発明のプロセスはバイオ燃料の製造に有用であり、この場合、全体的なプロセスは少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、または少なくとも約90%のエネルギー効率を示し、この際、エネルギー効率は式(10)に従って計算される。
【0143】
バイオ燃料特性評価
本発明に従って製造されたバイオ燃料は、精製炭化水素蒸留燃料油と機能等価を示す多数の物理的特性および化学的特性を満たすことが好ましい。特に、揮発性、凝固点、および粘度は、一般に、指定の範囲内である必要がある。重要な燃焼特性には、自己着火、エネルギー含量、および火炎強度(消炎歪速度(extinction strain rate)および予混合層流燃焼速度の両方により特徴付けられる)が含まれる。
【0144】
ジェット燃料の操作上の安全性を確保するために、揮発性は低くなければならない。一実施形態では、揮発性は引火点(試験炎の適用によってサンプル上方の気体の着火が起こる最低温度)によって測定することができる。好ましくは、本発明に従って製造されたジェット燃料は、MIL−DTL−83133Eによって必要とされているように、少なくとも38℃の引火点を示す。引火点は、特に、Pensky−Martensクローズドカップ試験装置(ASTM標準試験法D 93−00 タグ密閉式試験器による引火点)を用いて測定することができる。低揮発性要件に合わせて、本発明のプロセスを実施してアルカン合成中に短アルカン(すなわちおよそ8個未満の炭素)の生成を阻止することができる。
【0145】
高空飛行操作に関連する低温度に起因して、本発明に従って製造されたジェット燃料の凝固点(その温度以下で固体炭化水素結晶が生じる温度として定義される)はせいぜい−47℃であるはずだ。凝固点は、ASTM D 2386 航空燃料の凝固点の試験手順に従う簡易手動法を用いて測定することができる。
【0146】
粘度は、ASTM D 4451 透明および不透明の液体の動粘度と呼ばれる試験手順に従って標準対照毛細管粘度計を用いて測定することができる。好ましくは、本発明に従って製造されたジェット燃料は、−20℃で8.0mm/s以下の粘度を有する。上述のことは、特に、燃料製品のイソアルカン含量を増加させることによって達成することができる。
【0147】
燃料の自己着火は温度と流れ場の両方の関数である。基本的な化学速度論を理解するために、流体力学的歪速度の関数としての着火温度を単純な一次元火炎内で測定する。実際には、燃料を高温窒素中で気化させた後、向流拡散火炎バーナー内に移流させ、加熱空気流に逆行して流す。流体力学的歪速度は燃料と酸化剤の流速に直線的に比例して変化する。気化燃料流は、初め高歪速度で所与の温度の加熱空気流に逆行して流れる。この歪速度では、滞留時間が短すぎて鎖分岐反応は起こらず、燃料は着火しない。流速が低下するにつれて、歪速度は低下し、スカラー散逸速度が低下し、滞留時間が増え、着火が突然起こるまでこれが続く。次に、異なる空気温度で測定を繰り返し、着火曲線を作成する。本発明に従って製造されたバイオ燃料に関して決定した着火曲線を、様々なJP−8系の着火曲線と比較することができる。着火曲線は芳香族含量の強い関数であり、セタン指数と関係があり得る。
【0148】
もう1つの重要な化学速度論パラメーターは消炎時の歪速度である。これは着火歪速度−温度相関に類似しているが、低歪速度において向流配置で火炎着火させ、火炎が全体的に消えるまで歪速度を追加的に増加させる。空気温度の関数としてこの測定を行い、JP−8の結果と比較することができる。
【0149】
重要な3番目の化学速度論パラメーターは層流燃焼速度であり、層流燃焼速度は燃焼ボンベ内で高速度増感カメラ(a high-speed intensified camera)を使用した光学アクセスによって測定することができる。測定すべき4番目の化学的パラメーターは、燃料の煤発生傾向の基本指標である煙点である。これは、発射視点(航空機を追跡し、目標とする敵対者の能力)からだけでなく燃料の芳香族含量の間接的な指標からも重要である。
【0150】
エネルギー含量(単位kJ/kg)は、ASTM D 4809 液体炭化水素燃料の、ボンベ熱量計による燃焼熱法を用いてボンベ熱量計において測定することができる。好ましくは、本発明に従って製造されるジェット燃料は少なくとも約42,800kJ/kgのエネルギー含量を示す。
【0151】
前述の説明において提示した教示の利益を有する、本明細書に記載される本発明の多くの変形例およびその他の実施形態は、これらの発明が属する技術分野の当業者であれば、思いつく。よって、本発明は開示した具体的な実施形態を限定するものではないこと、そして修飾およびその他の実施形態は添付される特許請求の範囲の範囲内に含まれるものであることは理解される。本明細書では具体的な用語が使用されているが、それらの用語は一般的かつ説明的な意味でのみ使用し、限定を目的とするものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質バイオマスの輸送燃料への直接変換のためのプロセスであって、
(A)遊離脂肪酸を含む生成物流を形成し、かつ、グリセロールを含む副生成物流を形成するために、熱加水分解を脂質バイオマスに行う段階と、
(B)n−アルカンを含む生成物流を形成するために、触媒脱酸素化を前記遊離脂肪酸流に行う段階と、
(C)n−アルカン、イソアルカン、芳香族およびシクロアルカンからなる群より選択される炭化水素化合物の混合物を含む生成物流を形成するために、1以上の改質段階を前記n−アルカン流に行う段階と、
を含んでなり、段階(C)の後に、前記生成物流中の前記炭化水素化合物が、前記輸送燃料として有用な全体的な組成を形成するために必要な組合せおよび比であるプロセス。
【請求項2】
前記脂質バイオマスが、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、遊離脂肪酸、およびそれらの組合せからなる群より選択される材料を含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記脂質バイオマスが、動物油脂、植物油、藻脂質、廃グリース、またはそれらの混合物からなる群より選択される材料を含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記脂質バイオマス源が、牛脂、豚脂、七面鳥脂、および鶏脂からなる群より選択される動物油脂を含む請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
1以上の段階が熱の適用を必要とし、前記プロセスが、前記グリセロール流の少なくとも一部を回収し、前記グリセロールをプロセス熱の少なくとも一部を生成するための燃料として用いることをさらに含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記熱加水分解段階が、前記脂質バイオマスを反応カラムの底部に導入すること、前記反応カラムの上端近くに水を導入すること、かつ、反応器中の水が気化して蒸発することを防ぐために充分な圧力下で、前記反応器を約220℃〜約300℃の温度に加熱することを含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記触媒脱酸素化段階が、気相脱酸素化を含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記触媒脱酸素化段階が、固定床触媒の使用を含む請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記固定床触媒が、貴金属を含む請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記固定床触媒が、パラジウムを含む請求項8に記載のプロセス。
【請求項11】
前記触媒脱酸素化段階が、炭化水素溶媒中で実行される液相触媒脱酸素化を含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記液相触媒脱酸素化が、325℃までの温度で実行される請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記触媒脱酸素化段階が、触媒スラリーまたは触媒分散液の使用を含む請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記触媒スラリーまたは触媒分散液中の触媒が、貴金属を含む請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記触媒スラリーまたは触媒分散液中の触媒が、パラジウムを含む請求項13に記載のプロセス。
【請求項16】
前記触媒脱酸素化段階で形成されたn−アルカン流の一部を回収すること、および前記n−アルカン流を、前記液相触媒脱酸素化段階が実行される炭化水素溶媒の少なくとも一部として使用することをさらに含む請求項11に記載のプロセス。
【請求項17】
前記触媒脱酸素化段階が、Hの添加をさらに含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項18】
前記触媒脱酸素化が、脱酸素化が熱作用単独では実質的に進行しない温度で実行される請求項11に記載のプロセス。
【請求項19】
前記1以上の改質段階が、水素異性化、ハイドロクラッキング、脱水素環化、および芳香族化からなる群より選択される請求項1に記載のプロセス。
【請求項20】
前記改質が、固体触媒の使用を含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項21】
前記固体触媒が、金属機能性成分を含む請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記固体触媒が、酸性機能成分をさらに含む請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記改質が、2以上の異なる触媒の使用を含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項24】
段階(C)が、第1の反応器で実行される第1の反応、および少なくとも第2の別個の反応器で実行される少なくとも第2の反応を含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項25】
段階(C)が、前記n−アルカン流を2以上の改質流に分離すること、および前記2以上の改質流を別々に前記第1の反応器および前記少なくとも第2の反応器に導くことをさらに含む請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
前記第1の反応器および前記少なくとも第2の反応器が、第1の改質生成物流が前記第1の反応器で形成されて、該第1の改質生成物流が、第2の改質生成物流の形成される前記少なくとも第2の反応器の中に進むように、一列に配置されている請求項24に記載のプロセス。
【請求項27】
段階(C)が、第1の反応器で実行される第1の反応、第2の別個の反応器で実行される第2の反応、および少なくとも第3の別個の反応器で実行される少なくとも第3の反応を含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項28】
前記生成物流中の前記炭化水素化合物が、ジェットエンジン燃料として有用な全体的な組成を形成するために必要な組合せおよび比である請求項1に記載のプロセス。
【請求項29】
前記生成物流中の前記炭化水素化合物が、ガソリンエンジン燃料として有用な全体的な組成を形成するために必要な組合せおよび比である請求項1に記載のプロセス。
【請求項30】
前記生成物流中の前記炭化水素化合物が、ディーゼルエンジン燃料として有用な全体的な組成を形成するために必要な組合せおよび比である請求項1に記載のプロセス。
【請求項31】
形成された前記全体的な組成が、ジェットエンジン燃料、ガソリンエンジン燃料、およびディーゼルエンジン燃料からなる群より選択される石油由来輸送燃料と実質的に同一である請求項1に記載のプロセス。
【請求項32】
段階(A)〜(C)が、別々に、かつ順次に実行される請求項1に記載のプロセス。
【請求項33】
請求項1に記載のプロセスに従って製造されたバイオジェット燃料。
【請求項34】
請求項1に記載のプロセスに従って製造されたバイオガソリン。
【請求項35】
請求項1に記載のプロセスに従って製造されたバイオディーゼル。
【請求項36】
前記プロセスが、少なくとも約75%の総合エネルギー効率を示し、前記エネルギー効率が、プロセス反応物質のより低い熱量と前記プロセスへの総エネルギー投入量の合計に対する、生成された輸送燃料のより低い熱量として計算される請求項1に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−511750(P2010−511750A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539500(P2009−539500)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/086023
【国際公開番号】WO2008/103204
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(507326836)ノース・キャロライナ・ステイト・ユニヴァーシティ (6)
【Fターム(参考)】